本発明は、電磁式のアクチュエータを含んで構成される車両用サスペンションシステムに関する。
近年では、車両用のサスペンションシステムとして、電磁モータの力に依拠してばね上部とばね下部とに対してそれらが接近・離間する方向の力を発生させる電磁式のアクチュエータを含んで構成される電磁式サスペンションシステムが検討されており、例えば、下記特許文献に記載のシステムが存在する。この電磁式サスペンションシステムは、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づく振動減衰特性を容易に実現できる等の利点から、高性能なシステムとして期待されている。
特開2007−203933号公報
路面の凸所や凹所を車輪が通過する際には、路面によるばね下部への入力やサスペンションスプリングの弾性力等によって、ばね下部が勢いよく動作させられ、例えばストッパによりばね上部とばね下部との接近離間動作が停止させられる場合の衝撃が比較的大きなものとなる。上記特許文献1に記載されているシステムでは、そのストッパ当たりする際の衝撃を緩和する目的で、ばね上部とばね下部との間の距離が、それらの接近離間動作が停止させられた場合のそれらの間の距離に近づいた場合、平たく言えば、ストッパクリアランスが小さくなった場合に、アクチュエータの制御を、通常の制御から、その衝撃を緩和する制御に変更するようにされている。ところが、ストッパクリアランスが小さくなってから制御を変更したのでは、その変更時点からばね上部とばね下部との接近離間動作が停止させられるまでの時間は比較的短いため、その衝撃を充分に緩和できるとは言い難く、システムの実用性という点において充分とは言い難い。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いサスペンションシステムを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明のサスペンションシステムは、アクチュエータがばね上部とばね下部との一方に支持スプリングを介して連結され、路面の凸所を通過する際のばね下部の動作に伴う支持スプリングの変形量が設定値以上となった場合に、定められた制御規則に従ったアクチュエータ力を発生させる制御に代えて、あるいは、その制御に加えて、アクチュエータが有するばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの接近動作に対して専ら抵抗力となるように、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとを離間させる方向のアクチュエータ力を発生させる制御を実行可能に構成されたことを特徴とする。
ばね上部とばね下部とが勢いよく接近あるいは離間させられるような場合には、上記支持スプリングの変形量は比較的大きいと考えられる。つまり、本発明のシステムによれば、支持スプリングの変形量に基づいて、そのような場合にばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力を発生させ、例えば、ばね上部とばね下部との接近離間動作がストッパにより停止させられないようにすること、あるいは、それらの相対動作が停止させられる場合であってもその停止の際の衝撃を効果的に緩和することが可能である。そのような利点を有することで、本発明のサスペンションシステムは実用性の高いものとなる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項と(2)項の一部を合わせるとともにスプリング変形量依拠抵抗発生制御に関する限定を加えたものが請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(6)項が請求項4に、(8)項ないし(10)項の各々が請求項5にないし請求項7の各々に、それぞれ相当する。
(1)(a)ばね上部に連結されるばね上部側ユニットと、(b)ばね下部に連結され、ばね上部とばね下部との接近離間動作に伴って前記ばね上部側ユニットと相対動作するばね下部側ユニットと、(c)それらばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に応じて動作する電磁モータとを含んで構成され、その電磁モータが発生させる力に依拠して前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの相対動作に対する力であるアクチュエータ力を発生させる電磁式のアクチュエータと、
前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの一方を、その一方が連結されるばね上部とばね下部との一方に弾性的に支持させるための支持スプリングを含んで構成され、それら一方どうしを連結する連結機構と、
前記アクチュエータが発生させるアクチュエータ力を制御する制御装置であって、アクチュエータ力を定められた制御規則に従って制御する標準制御を実行するとともに、前記支持スプリングの変形量が設定値以上となった場合に、前記標準制御に代えて、あるいは、前記標準制御に加えて、前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力となるアクチュエータ力を発生させる制御であるスプリング変形量依拠抵抗発生制御を実行可能に構成された制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステム。
電磁式のアクチュエータを有するサスペンションシステムにおいては、例えば、荒れた路面や連続的な凹凸のある路面を走行するような場合の高周波振動を吸収することを目的として、アクチュエータに対してスプリングを直列的に設けたシステムが検討されており、本項に記載のシステムは、このように構成されたものを前提としている。そのような構成とされたシステムにおいては、ばね上部とばね下部とが接近離間動作する場合、アクチュエータが有するばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作が伴うことになるが、アクチュエータに直列的に設けられた支持スプリングの変形も伴うことになる。そして、ばね上部とばね下部とが勢いよく接近あるいは離間する場合、つまり、ばね下部が勢いよく上方あるいは下方に動作させられる場合には、支持スプリングの弾性変形の程度、例えば、支持スプリングの変形量が大きくなると考えられる。本項の態様は、支持スプリングの変形量が比較的大きくなった場合に、アクチュエータに、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力となるアクチュエータ力を発生させるように構成されている。
例えば、路面の凸所あるいは凹所、つまり、路面が急に高くなる箇所あるいは急に低くなる箇所を車輪が通過する場合を考える。そのような場合には、路面によるばね下部への入力によってばね下部が勢いよく上方に、あるいは、サスペンションスプリングの弾性力等によってばね下部が勢いよく下方に動作させられることになる。その場合には、例えばストッパによりばね上部とばね下部との接近離間動作が停止させられる際の衝撃が比較的大きく、車両の乗員は比較的大きな衝撃を感じることとなる。また、車輪が路面の凸所あるいは凹所に差し掛かってからストッパにより接近離間動作が停止させられるまでの時間は比較的短い。そのため、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対して抵抗力を発生させるタイミングは、路面の凸所あるいは凹所を車輪が通過する際において、できる限り早い段階であることが望ましい。本項の態様によれば、支持スプリングの変形量に基づいて、例えば、ばね下部が勢いよく動作させられていることを推定し、車輪が凸所,凹所を通過する際の比較的早い段階から、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力を発生させることができる。そのことにより、例えば、ばね上部とばね下部との接近離間動作が停止させられないようにすること、あるいは、接近離間動作が停止させられる場合であってもその停止の際の衝撃を効果的に緩和することができることから、本項に記載のシステムによれば、車両の乗り心地の悪化を抑制あるいは防止することが可能である。
アクチュエータが発生させるアクチュエータ力は、モータを流れる電流である通電電流に概ね比例すると考えることができ、一般的に、アクチュエータ力の制御は、そのモータの通電電流を制御することによって行われる。上記のスプリング変形量依拠抵抗発生制御においては、通電電流を制御することによって2つのユニットの相対動作に対する抵抗力を発生させる態様に限定されず、モータが有する複数の通電端子を導通させることで、2つのユニットの相対動作に対する抵抗力を発生させる態様を採用することも可能である。
なお、本項に記載の「支持スプリングの変形量」は、中立位置等の基準位置にある状態からの変形量のみを意味するのではなく、ある設定された時間内の変形量をも意味する。したがって、本項の態様は、スプリング変形量依拠抵抗制御を実行するか否かを、支持スプリングの基準状態からの変形量に基づいて決定する態様、支持スプリングの変化速度に基づいて決定する態様、それら両者に基づいて決定する態様とすることが可能である。
本項に記載の「アクチュエータ」は、それの具体的な構造が限定されるものではなく、既に検討されている各種の電磁式アクチュエータを広く採用することが可能である。そのアクチュエータは、ばね上部とばね下部との接近離間動作に対して、単に抵抗力のみを発生可能なものに限定されず、例えば、ばね上部とばね下部とを積極的に相対動作させる力、つまり推進力や、外部からの入力に対してばね上部とばね下部とを相対動作させないようにする力、つまり維持力をも発生可能なものとされてもよい。つまり、種々のアクチュエータ力を利用し、本項に記載の「制御装置」は、ばね上振動に対する減衰力を発生させるいわゆるスカイフックダンパ理論に基づいた制御や、車体のロールやピッチの抑制を目的とした車体の姿勢変化を抑制する制御等を実行するように構成できる。また、アクチュエータが有する「電磁モータ」も、その型式等は特に限定されず、ブラシレスDCモータを始めとして種々の型式のモータを採用可能であり、また、動作に関して言えば、回転モータであっても、リニアモータであってもよい。
なお、本明細書において「連結」という文言は、直接的に接続されることのみを意味するものではなく、何らかの部品,部材,ユニット等を介し、間接的に接続されることをも意味する。例えば、ばね上部側ユニット,ばね下部側ユニットがばね上部,ばね下部と連結されるとは、それらが直接的に連結される場合の他、それらの間に弾性体,ダンパ等を介して連結されるような場合も含まれる。
ちなみに、本項にいう「ばね上部」は、簡単に言えば、サスペンションシステムによって懸架される車体の一部であり、具体的には例えば、ショックアブソーバ,サスペンションスプリング等が取り付けられるマウント部等を含んで構成される。また、「ばね下部」は、簡単に言えば、車体に対して車輪とともに相対動作する車両の構成要素を広く意味し、具体的には例えば、サスペンションアーム,アクスルキャリア等を含んで構成される。
(2)前記制御装置が、
ばね上部とばね下部との接近離間動作の動作量である接近離間動作量と前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作の動作量であるユニット相対動作量との差である動作量差と、ばね上部の加速度とばね下部の加速度との少なくとも一方とに基づいて、前記支持スプリングの変形量を推定するスプリング変形量推定部を有する(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
アクチュエータは、ばね上部側ユニットがばね上部に、ばね下部側ユニットがばね下部に、それぞれ連結され、そのいずれか一方の連結が支持スプリングを介して連結される。したがって、ばね上部とばね下部との接近離間動作量と、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作量との差である動作量差が、支持スプリングの変形量に、原則的には一致するはずである。一方で、アクチュエータと連結機構との車両への取付けは、それらアクチュエータと連結機構とが一体化されたものをばね上部とばね下部とに取付けるようにされることが多く、その一体化されたもののばね上部への取付部と、ばね下部への取付部との少なくとも一方に、後に詳しく説明する防振ゴム等の弾性部材等を介在させることが多い。上記取付部が、そのような弾性部材を有するようなシステムである場合には、動作量差とスプリングの変形量とは、厳密には一致しない。
また、支持スプリングが弾性変形可能な範囲は、前述したように、支持スプリングが振幅の小さな高周波振動を吸収するために設けられることから、比較的小さく設定されることが多い。つまり、支持スプリングの変形量を上記動作量差から推定する場合には、上述した取付部等の弾性部材の変形量の影響が比較的大きいのである。例えば、車体や車輪から入力される何らかの力が大きい場合には、その入力とその入力に対してアクチュエータが発生させる力とによって、上記取付部等の弾性部材の変形量も大きいと考えられ、動作量差とスプリングの変形量との差も大きいと考えられるのである。つまり、先に述べた路面の凸所,凹所を車輪が通過してばね下部が勢いよく動作させられるような場合には、アクチュエータは、ばね下部の動作に対する抵抗力を発生させることになるため、動作量差とスプリングの変形量との差はある程度大きくなると考えられる。
そして、ばね上部の上下方向の加速度であるばね上加速度,ばね下部の上下方向の加速度であるばね下加速度に基づけば、例えば、車体や車輪に作用している力を推定して、動作量差とスプリングの変形量との差を推定することが可能である。つまり、本項に記載の態様は、例えば、接近離間動作量とユニット相対動作量との差である動作量差を、ばね上加速度とばね下加速度との少なくとも一方に基づいて補正し、その補正を行った値を、支持スプリングの変形量とするような構成とすることができる。本項の態様によれば、動作量差に加えて、ばね上加速度とばね下加速度と少なくとも一方をも考慮することから、支持スプリングの変形量の推定が適切なものとなる。
(3)当該車両用サスペンションシステムが、
前記ばね上部とばね下部との一方と前記連結機構との間と、ばね上部とばね下部との他方とその他方に連結される前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの他方との間とのいずれかに介在させられた弾性部材を備え、
前記スプリング変形量推定部が、ばね上部の加速度とばね下部の加速度との少なくとも一方に基づいて前記弾性部材の変形量を推定するとともに、その弾性部材の変形量と前記動作量差とに基づいて、前記支持スプリングの変形量を推定するように構成された(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
(4)当該車両用サスペンションシステムが、
前記ばね上部とばね下部との一方と前記連結機構との間に介在させられた第1弾性部材と、ばね上部とばね下部との他方とその他方に連結される前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの他方との間に介在させられた第2弾性部材とを備え、
前記スプリング変形量推定部が、ばね上部の加速度とばね下部の加速度とに基づいて前記第1弾性部材および前記第2弾性部材の変形量を推定するとともに、それら第1弾性部材および第2弾性部材の変形量と前記動作量差とに基づいて、前記支持スプリングの変形量を推定するように構成された(3)項に記載の車両用サスペンションシステム。
上記2つの項に記載の態様は、支持スプリングの変形量を推定する手法を具体化した態様である。上記2つの項の態様のシステムは、アクチュエータのばね上部あるいはばね下部への取付部と、連結機構のばね上部あるいはばね下部への取付部との少なくとも一方に弾性部材を備えている。そのため、上記2つの項の態様においては、接近離間動作量が、ユニット相対動作量,支持スプリングの変形量,弾性部材の変形量を足し合わせたものであると考えられる。したがって、支持スプリングの変形量は、動作量差から、さらに弾性部材の変形量を差し引いたものであると考えられる。
路面の凸所,凹所を車輪が通過してばね下部が勢いよく動作させられるような場合には、アクチュエータ力はばね下部の動作に対する抵抗力が主体となることから、上記2つの項の態様は、例えば、ばね下部の動作の勢いがよいほど、つまり、ばね下加速度やばね下部のばね上部に対する加速度が大きいほど、弾性部材の変形量が大きいと推定するように構成することができる。また、例えば、ばね上加速度,ばね下加速度から、ばね上部とばね下部とを接近離間動作させる力を推定し、その力が大きいほど、弾性部材の変形量が大きいと推定するように構成することもできる。
(5)当該車両用サスペンションシステムが、
ばね上部とばね下部との接近離間動作の動作量である接近離間動作量を検出する接近離間動作量センサと、前記電磁モータの動作量であるモータ動作量を検出するモータ動作量センサとを備え、
前記スプリング変形量推定部が、前記接近離間動作量センサによって検出された接近離間動作量と前記モータ動作量センサの検出値から推定されるユニット相対動作量との差を、前記動作量差とするように構成された(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、スプリング変形量推定部による動作量差の推定手法を具体化した態様である。アクチュエータは、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作とモータの動作とが相互に対応する構造であるため、ユニット相対動作量とモータの動作量とは対応するため、モータ動作量センサの検出値からユニット相対動作量を推定できる。そして、それら接近離間動作量センサおよびモータ動作量センサは、サスペンションシステムによって行われるアクチュエータ等の通常の制御に必要とされるセンサであるため、本項の態様によれば、余計にセンサを設ける必要がなく、システムが複雑化することを防止することが可能である。
(6)前記スプリング変形量依拠抵抗発生制御が、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作の速度に応じた大きさの抵抗力となるアクチュエータ力を発生させる制御である(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、2つのユニットの相対動作の速度(以下、「ユニット相対動作速度」という場合がある)の大きさが大きくなるほど、大きな抵抗力となるアクチュエータ力を発生させる態様である。本項の態様によれば、適切な大きさの抵抗力を発生させることが可能である。本項の態様は、例えば、アクチュエータ力を、ユニット相対動作速度の大きさに比例する大きさとする態様とすることができる。なお、システムがモータ動作量センサを備える場合には、先に述べたように、ユニット相対動作速度とモータの動作速度とが対応することから、モータの動作速度に応じた大きさの抵抗力となるようにアクチュエータ力を発生させる態様とすることが可能である。
(7)前記標準制御が、少なくともばね上部の動作に対するその動作の速度に応じた大きさの抵抗力となるアクチュエータ力を発生させる制御である(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、標準制御に限定を加えた態様であり、振動減衰を目的とした制御、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づく制御を実行可能とされた態様である。一般的に、ばね上部とばね下部とは、サスペンションスプリングによって弾性的に連結される場合が多い。その場合、路面の凸所あるいは凹所によってばね下部が動作させられた後、サスペンションスプリングの弾性力によってばね上部も動作させられることになる。上記のスカイフックダンパ理論に基づく制御により発生させられるアクチュエータ力は、ばね上部の動作に対する抵抗力であるが、そのばね下部の動作を助長する力となってしまう場合がある。したがって、スカイフックダンパ理論に基づく制御を標準制御として実行している場合には、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力を発生させるスプリング変形量依拠抵抗発生制御が特に有効である。
(8)当該車両用サスペンションシステムが、ばね上部とばね下部とのバウンド方向とリバウンド方向との少なくとも一方における接近離間動作を停止させる接近離間動作ストッパ機構を備えた(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の「接近離間動作ストッパ機構」は、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作は許容しつつ、ばね上部とばね下部との接近離間動作を停止させる構造のものである。その接近離間動作ストッパ機構は、例えば、アクチュエータと連結機構との一方の構成要素のうちばね上部に相対動作不能に設けられた部分と、アクチュエータと連結機構との他方の構成要素のうちばね下部に相対動作不能に設けられた部分とを当接させて、接近離間動作を停止させる構造であってもよく、ばね下部の構成要素であるサスペンションアーム等と、ばね上部である車体の一部とを当接させて、接近離間動作を停止させる構造であってもよい。前述したように、路面の凸所あるいは凹所によりばね下部が勢いよく動作させられて、接近離間動作ストッパ機構が機能する場合、その際の衝撃は、比較的大きくなる。しかし、接近離間動作ストッパ機構を有するシステムにおいては、スプリング変形量依拠抵抗発生制御によって、接近離間動作ストッパ機構が機能しないようにする、つまり、ストッパ当たりしないようにすること、あるいは、ストッパ当たりする場合であってもその際の衝撃を効果的に緩和することが可能である。
(9)前記アクチュエータが、
前記ばね上部側ユニットの一部と前記ばね下部側ユニットの一部とを互いに当接させて、前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとのバウンド方向とリバウンド方向との少なくとも一方における相対動作を停止させるユニット相対動作ストッパ機構を有する(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の「ユニット相対動作ストッパ機構」は、ばね上部とばね下部との接近離間動作は許容しつつ、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作を停止させる構造のものである。ばね上部とばね下部との一方とアクチュエータとが支持スプリングを介して連結された構成のシステムにおいて、前述の接近離間動作ストッパ機構を備える場合、接近離間動作ストッパ機構によりばね上部とばね下部との接近離間動作が停止させられた場合であっても、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作が許容されるように構成される。例えば、ばね下部が勢いよく動作させられて接近離間動作ストッパ機構が機能した場合、支持スプリングが比較的大きな変形量となっているため、その支持スプリングの弾性力によって、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとが相対動作させられることになる。そして、ユニット相対動作ストッパ機構が機能することになれば、車両の乗員が再び比較的大きな衝撃を感じることになる。ところが、スプリング変形量依拠抵抗発生制御によれば、ユニット相対動作ストッパ機構が機能しないようにすること、あるいは、機能した場合であってもその際の衝撃を効果的に緩和することが可能である。
(10)前記アクチュエータが、
雄ねじ部と雌ねじ部とを含んで構成され、それらの一方が前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に、それらの他方が前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に設けられ、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に伴ってそれら雄ねじ部と雌ねじ部とが相対回転する構造のねじ機構を有し、
前記電磁モータがその相対回転に対する力を発生させる構造とされた(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、電磁式のアクチュエータを、ねじ機構を採用したものに限定した態様であり、電磁モータの回転力を、アクチュエータが有するばね上部側のユニットとばね下部側のユニットとの相対動作に対する力に容易に変換することが可能となる。なお、本項の態様においては、ばね上部側ユニット,ばね下部側ユニットのいずれに雄ねじ部を設け、いずれに雌ねじ部を設けるかは、任意である。さらに、雄ねじを回転可能とし、雌ねじ部を回転不能とするような構成としてもよく、逆に、雄ねじ部を回転不能とし、雌ねじ部を回転可能とするような構成としてもよい。
ばね下部が勢いよく動作させられると、雄ねじ部と雌ねじ部とが高速で相対移動することになり、雄ねじ部あるいは雌ねじ部を含んで構成される回転可能とされた部分が、高速で回転することになる。そして、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作を停止させるストッパ機構を備える場合には、それらの相対動作が停止させられた際に、回転可能とされた部分が有する慣性トルクによって、雄ねじ部と雌ねじ部との間には大きな力が作用してしまうことにもなりかねない。その場合でも、スプリング変形量依拠抵抗発生制御により、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作が停止させられる際の衝撃を緩和することによって、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する力を緩和することが可能である。したがって、ねじ機構を有するアクチュエータを備えたシステムである場合には、スプリング変形量依拠抵抗発生制御が特に有効である。
(11)前記連結機構が、
前記支持スプリングと並設され、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方と前記ばね上部とばね下部との一方との相対動作に対する減衰力を発生させるダンパを含んで構成された(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、連結機構によって連結されているばね上部とばね下部との一方とアクチュエータとの相対振動を、ダンパにより効果的に減衰させることができる。そのため、本項の態様によれば、例えば、ダンパの減衰係数の適切化等によって、ばね下共振周波数およびその近傍の周波数の振動のばね下部からばね上部への伝達が効果的に抑制されたサスペンションシステムとすることも可能である。
(12)前記連結機構が、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方としての前記ばね下部側ユニットと、前記ばね上部とばね下部との一方としてのばね下部とを連結するものである(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、ばね下部とばね下部側ユニットとの間に連結機構を配置したものであり、本項の態様によれば、ばね下部から入力されてアクチュエータに伝達される衝撃や振動を効果的に吸収することができ、アクチュエータの保護という観点において有利なサスペンションシステムが実現する。
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。また、〔発明の態様〕の各項の説明における技術的事項を利用して、下記の実施例の変形例を構成することも可能である。
<サスペンションシステムの構成>
図1に、請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、前後左右の車輪12の各々に対応する独立懸架式の4つのサスペンション装置を備えており、それらサスペンション装置の各々は、サスペンションスプリングとショックアブソーバとが一体化されたスプリング・アブソーバAssy20を有している。車輪12,スプリング・アブソーバAssy20は総称であり、4つの車輪のいずれに対応するものであるかを明確にする必要のある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字として、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪の各々に対応するものにFL,FR,RL,RRを付す場合がある。
スプリング・アブソーバAssy20は、図2に示すように、車輪12を保持してばね下部の一部分を構成するサスペンションロアアーム22と、車体に設けられてばね上部の一部分を構成するマウント部24との間に、それらを連結するようにして配設されている。スプリング・アブソーバAssy20は、大きくは、電磁式のアクチュエータ30と、そのアクチュエータ30とロアアーム22とを連結するための連結機構32と、サスペンションスプリングとしてのエアスプリング34とに区分することができ、それらを構成要素として含んで構成されており、それらが一体化されたものとなっている。
アクチュエータ30は、ねじ溝が形成された雄ねじ部としてのねじロッド42と、ベアリングボールを保持してねじロッド42と螺合する雌ねじ部としてのナット44とを含んで構成されるボールねじ機構と、回転型の電磁モータ46(以下、単に「モータ46」という場合がある)と、そのモータ46を収容するケーシング48とを備えている。そのケーシング48が、ねじロッド42を回転可能に保持するとともに、外周部において防振ゴム50を有するアッパサポート52を介してマウント部24に連結されている。モータ46は、中空とされたモータ軸54を有しており、そのモータ軸54には、それの内側を貫通して上端部においてねじロッド42が固定されている。つまり、モータ46は、ねじロッド42に回転力を付与するものとなっている。
また、アクチュエータ30は、上記ねじロッド42を挿通させた状態で上端部がケーシング48に固定されたアウタチューブ60と、そのアウタチューブ60に嵌め入れられてアウタチューブ60の下端部から下方に突出する段付状のインナチューブ62とを含んで構成されている。インナチューブ62の上端部は径が大きくされており、その上端部の内側には、上記ナット44が、ねじロッド42と螺合させられた状態で保持されている。アウタチューブ60には、その内壁面にアクチュエータ30の軸線の延びる方向(以下、「軸線方向」という場合がある)に延びるようにして1対のガイド溝64が設けられている。それらのガイド溝64の各々には、インナチューブ62の上端部に付設された1対のキー66の各々が嵌まるようにされており、それらガイド溝64およびキー66によって、アウタチューブ60とインナチューブ62とが、相対回転不能な状態での軸線方向の相対移動が可能とされている。そして、インナチューブ62は、それの下端部において連結機構32に連結される。
連結機構32は、液圧式のダンパ70を有している。そのダンパ70は、詳しい構造は省略するが、ツインチューブ式の液圧式ショックアブソーバに類似する構造のものである。そのダンパ70は、作動液を収容するハウジング72と、そのハウジング72にそれの内部において液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン74と、そのピストン74に下端部が連結されてハウジング72の上方から延び出すピストンロッド76とを含んで構成されている。ハウジング72は、それの下端部に設けられた防振ゴム78を有するブシュ80を介してロアアーム22に連結され、ピストンロッド76が、ハウジング72の上方から延び出した上端部において、インナチューブ62の下端部に連結される構造とされている。そのような構造により、インナチューブ62は、ダンパ70を介して、ロアアーム22に連結されているのである。
ダンパ70のハウジング72には、それの外周部に環状の下部リテーナ90が固定されて設けられている。その下部リテーナ90には、インナチューブ62,アウタチューブ60の下部およびダンパ70の上部を収容するカーバーチューブ92が、それの下端部において固定されている。また、インナチューブ62とピストンロッド76との連結部には浮動部材94が固定されている。その浮動部材94は、それと下部リテーナ90との間に配設された圧縮コイルスプリング96と、浮動部材94とカバーチューブ92の内部に形成された環状の突出部98(上部リテーナとして機能する)との間に配設された圧縮コイルスプリング100とによって挟持されている。
エアスプリング34は、マウント部24に固定されたチャンバシェル120と、エアピストン筒として機能するカバーチューブ92と、それらを接続するダイヤフラム124とを含んで構成されている。チャンバシェル120は、それの蓋部126が、防振ゴム128を有するスプリングサポート130を介してアクチュエータ30のケーシング48に連結されている。ダイヤフラム124は、一端部がチャンバシェル120の下端部に固定され、他端部がカバーチューブ92の上端部に固定されており、それらチャンバシェル120とカバーチューブ92とダイヤフラム124とによって圧力室132が区画形成されている。その圧力室132には、流体としての圧縮エアが封入されている。このような構造から、エアスプリング34の圧縮エアの圧力によって、ロアアーム22とマウント部24、つまり、車輪と車体とを相互に弾性的に支持しているのである。ちなみに、前述した圧縮コイルスプリング96,100を1つのばねと仮定した場合におけるばね定数が、エアスプリング34のばね定数よりも大きく設定されている。
上述のような構造から、アクチュエータ30は、ねじロッド42,モータ46,ケーシング48,アウタチューブ60等を含んでマウント部24に連結されるばね上部側ユニットと、ナット44,インナチューブ62,浮動部材94等を含んでロアアーム22に連結されるばね下部側ユニットとを有する構造のものとなっている。また、アクチュエータ30は、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとが、相対回転不能、かつ、ばね上部とばね上部との接近離間動作に伴って軸線方向に相対移動可能な構造とされている。そして、上記連結機構32は、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方としてのばね下部側ユニットと、そのばね下部側ユニットと連結されるばね上部とばね下部との一方としてのばね下部との間に配設され、それらを連結するものとされており、2つの圧縮コイルスプリング96,100が、支持スプリングとして機能するものとなっている(以下、「支持スプリング96,100」という場合がある)。スプリング・アブソーバAssy20は、連結機構32とばね下部との間に、第1弾性部材としての防振ゴム78(以下「第1防振ゴム78」という場合がある)が、アクチュエータ30とばね上部との間に、第2弾性部材としての防振ゴム50(以下「第2防振ゴム50」という場合がある)が介在させられている。
アクチュエータ30は、ばね上部とばね下部とが接近離間動作する場合に、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとが軸線方向に相対移動可能、つまり、ねじロッド42とナット44とが軸線方向に相対移動可能とされ、その相対移動に伴って、ねじロッド42がナット44に対して回転する。それによって、モータ軸54も回転する。モータ46は、ねじロッド42に回転トルクを付与可能とされ、この回転トルクによって、ねじロッド42とナット44との相対回転に対して、その相対回転を阻止する方向の抵抗力を発生させることが可能である。この抵抗力を、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対移動に対する減衰力、ひいては、ばね上部とばね下部との接近離間動作に対する減衰力として作用させることで、アクチュエータ30は、いわゆるショックアブソーバとして機能するものとなっている。また、アクチュエータ30は、ばね上部とばね下部との相対動作に対する推進力をも発生させることが可能とされており、いわゆるスカイフックダンパ理論,擬似的なグランドフック理論等に基づく制御を実行することが可能とされている。さらに、モータ46の回転トルクによって、ばね上部とばね下部との間の距離(以下、「ばね上ばね下間距離」という場合がある)を任意の距離に維持することが可能であり、車両旋回時の車体のロール,車両加減速時の車体のピッチ等を効果的に抑制することや、車両の高さいわゆる車高を調整すること等が可能とされている。
アクチュエータ30の振動減衰機能に着目すれば、アクチュエータ30は、5Hz以下の比較的周波数の低い振動に対しては動作が円滑に追従し、そのような低周波振動に対しては、効果的な振動減衰が可能である。しかし、10Hzを超えるような周波数の高い振動に対しては、自身の追従性から、効果的な振動減衰が難しい。本スプリング・アブソーバAssy20では、上述した連結機構32によって、アクチュエータ30とロアアーム22が連結されており、その連結機構32によって、10Hzを超えるような高周波振動であっても、その高周波振動のばね下部からばね上部への伝達が、効果的に抑制されることになる。
なお、スプリング・アブソーバAssy20は、車両が静止し、かつ、アクチュエータ力が発生していない状態においては、伸縮するアクチュエータ30の長さは、ばね上ばね下間距離に対応した長さとなる。しかし、スプリング・アブソーバAssy20は、アクチュエータ30が連結機構32を介してばね下部へ連結される構造であることから、アクチュエータ30がばね上部とばね下部との間に力を作用させている場合においては、アクチュエータ力の作用によって支持スプリング96,100の弾性変形量が変化し、その変化によって、アクチュエータ30は、必ずしもばね上ばね下間距離に完全に対応した長さとはなならないのである。つまり、ばね下部からの振動入力、車体のロール,ピッチ等に対してアクチュエータ30が力を発生させた場合、時点時点では、ばね上ばね下間距離とアクチュエータ30の長さとは、必ずしも対応しないことになる。言い換えれば、ばね上部とばね下部との接近離間動作の動作量すなわち接近離間動作量と、アクチュエータ30のばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作の量であるユニット相対動作量との間には、何某かの差つまり動作量差が生じるのである。
スプリング・アブソーバAssy20は、複数のストッパ機構をも有している。具体的には、マウント部24とロアアーム22との接近離間動作を停止させるストッパ機構である接近離間動作ストッパ機構を有しており、その接近離間動作ストッパ機構は、バウンド方向の動作に対して、カバーチューブ92の上端部が、緩衝ゴム140を介してアクチュエータ30のケーシング48に当接するように構成され、リバウンド方向の動作に対して、アウタチューブ60の下端部に固定された環状プレート142が、緩衝ゴム144を介してカバーチューブ92の下端部に当接するように構成されている。
また、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作を停止させるストッパ機構であるユニット相対動作ストッパ機構を有している。そのユニット相対動作ストッパ機構は、バウンド方向の動作に対して、ねじロッド42の下端部が、緩衝ゴム146を介して、浮動部材94に当接するように構成され、リバウンド方向の動作に対して、アウタチューブ60の内底面が、緩衝ゴム148を介して、インナチューブ62の段付状に形成された箇所に当接するように構成されている。
さらに、ダンパ70におけるハウジング72とピストン74との相対移動、つまり、ばね下部側ユニットとロアアーム22との相対移動を停止させるストッパ機構である連結機構ストッパ機構を有している。その連結機構ストッパ機構は、バウンド方向の動作に対して、ハウジング72の上面が、緩衝ゴム150を介して浮動部材94に当接するように構成され、リバウンド方向の動作に対して、ピストン74の上面が、ピストン74の上面に設けられた緩衝ゴム152を介して、ハウジング72の上部側の内部と当接するように構成されている。
サスペンションシステム10は、図1に示すように、各スプリング・アブソーバAssy20が有するエアスプリング34に対して流体としてのエア(空気)を流入・流出させるための流体流入・流出装置、詳しく言えば、エアスプリング34の圧力室132に接続されて、その圧力室132にエアを供給し、圧力室132からエアを排出するエア給排装置160を備えている。詳しい説明は省略するが、本サスペンションシステム10は、エア給排装置160によって、各エアスプリング34の圧力室132内のエア量を調整することが可能とされており、エア量の調整によって、各エアスプリング34のばね長を変更し、各車輪12についてのばね上ばね下間距離を変化させることが可能とされている。具体的に言えば、圧力室132のエア量を増加させてばね上ばね下間距離を増大させ、エア量を減少させてばね上ばね下間距離を減少させることが可能とされている。つまり、本システム10は、いわゆる車高調整が可能とされているのである。
本サスペンションシステム10は、制御装置としてのサスペンション電子制御ユニット200(以下、「ECU200」という場合がある)によって、スプリング・アブソーバAssy20の作動、つまり、アクチュエータ30およびエアスプリング34の制御が行われる。サスペンションECU200は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたものである。そのサスペンションECU200には、エア給排装置160の駆動回路としてのドライバ202と、各アクチュエータ30が有するモータ46に対応して設けられて、そのモータ46を制御する駆動回路としてのインバータ204とが接続されている。サスペンションECU200は、ドライバ202を制御することによってエアスプリング34を制御し、4つのインバータ204を制御することによってアクチュエータ30が発生させるアクチュエータ力を制御する。それらドライバ202およびインバータ204は、コンバータ[CONV]206を介してバッテリ[BAT]208に接続されており、エア給排装置160が有する各制御弁,ポンプモータ等、および、各アクチュエータ30のモータ46には、そのコンバータ206とバッテリ208とを含んで構成される電源から電力が供給される。
車両には、イグニッションスイッチ[I/G]220,車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)を検出するための車速センサ[v]222,各車輪12についてのばね上ばね下間距離を検出する接近離間動作量センサとしての4つのハイトセンサ[h]224,車高変更指示のために運転者によって操作される車高変更スイッチ[HSw]226,ステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ[δ]228,車体に実際に発生する前後加速度である実前後加速度を検出する前後加速度センサ[Gx]230,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ[Gy]232,各車輪12に対応する車体の各マウント部24の縦加速度(上下加速度)を検出する4つのばね上縦加速度センサ[Gzs]234,各車輪12の縦加速度を検出する4つのばね下縦加速度センサ[Gzg]236,アクセルスロットルの開度を検出するスロットルセンサ[Sr]238,ブレーキのマスタシリンダ圧を検出するブレーキ圧センサ[Br]240等が設けられており、それらはECU200のコンピュータに接続されている。ECU200は、それらのスイッチ,センサからの信号に基づいて、スプリング・アブソーバAssy20の作動の制御を行うものとされている。ちなみに、[ ]の文字は、上記スイッチ,センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。また、ECU200のコンピュータが備えるROMには、アクチュエータ30の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。
図3に示すように、各アクチュエータ30のモータ46は、コイルがスター結線(Y結線)された3相DCブラシレスモータであり、上述したインバータ204によって制御される。インバータ204は、図3に示すような一般的なものであり、電源のhigh側(高電位側)のスイッチング素子と、low側(低電位側)のスイッチング素子とからなるスイッチング素子対を、モータ46の3つの相であるU相,V相,W相に対応して3対有するものである。つまり、6つのスイッチング素子HUS,HVS,HWS,LUS,LVS,LWSを備えている。また、インバータ204が有するスイッチング素子制御回路250には、モータ46に設けられてモータ46の回転角を検出するモータ動作量センサとしてのレゾルバ[θ]252と、実際にモータ46を流れる通電電流を測定する通電電流センサ[I]254とが接続されている。そのスイッチング素子制御回路250は、そのレゾルバ252によりモータ回転角を判断し、そのモータ回転角に基づいてスイッチング素子を開閉作動させる。インバータ204は、いわゆる正弦波駆動によってモータ46を駆動するのであり、モータ46の3つの相の各々に流れる電流が、それぞれが正弦波状に変化し、その位相差が電気角で120°ずつ異なるように、スイッチング素子が制御される。また、インバータ204は、モータ46に生じた起電力に依拠して発電された電力である発電電力を電源に回生可能な構造とされており、モータ46は、供給電流に依存したモータ力だけでなく、起電力に依存したモータ力を発生可能となっている。つまり、インバータ204は、電源からの供給電流であるか、起電力に依拠して生じた発電電流であるかに拘わらず、モータ46を流れる電流、つまり、モータ46の通電電流を調整して、モータ力を制御する構造とされている。なお、通電電流は、各インバータ204がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって調整される。
<サスペンションシステムの基本的な制御>
i)アクチュエータの標準制御の概要
本サスペンションシステム10では、4つのスプリング・アブソーバAssy20が有するアクチュエータ30の各々を独立して制御することが可能となっている。それらスプリング・アブソーバAssy20の各々において、アクチュエータ30のアクチュエータ力が独立して制御されて、アクチュエータ力を定められた制御規則に従って制御する標準制御が実行される。詳しく言えば、車体および車輪12の振動、つまり、ばね上振動およびばね下振動を減衰するための制御(以下、「振動減衰制御」という場合がある),車両の旋回に起因する車体のロールを抑制するための制御(以下、「ロール抑制制御」という場合がある),車両の加減速に起因する車体のピッチを抑制するための制御(以下、「ピッチ抑制制御」という場合がある)が、並行して実行される制御である。上記振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御は、各制御ごとのアクチュエータ力の成分である振動減衰成分,ロール抑制成分,ピッチ抑制成分を合計して目標アクチュエータ力が決定され、アクチュエータ30がその目標アクチュエータ力を発生させるように制御されることで、総合的に実行される。なお、以下の説明において、アクチュエータ力およびそれの成分は、ばね上部とばね下部とを接近させる方向(バウンド方向)の力に対応するものが正の値,ばね上部とばね下部とを離間させる方向(リバウンド方向)の力に対応するものが負の値となるものとして扱うこととする。
ii)振動減衰制御
振動減衰制御では、車体および車輪12の振動を減衰するためにその振動の速度に応じた大きさのアクチュエータ力を発生させるべく、アクチュエータ力の振動減衰成分FVが決定される。つまり、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づいた制御と、擬似的なグランドフックダンパ理論に基づいた制御との両者を総合して行う制御である。具体的には、車体のマウント部24に設けられたばね上縦加速度センサ234によって検出されるばね上縦加速度から得られる車体のマウント部24の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね上絶対速度Vsと、ロアアーム22に設けられたばね下縦加速度センサ236によって検出されるばね下縦加速度から得られる車輪12の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね下絶対速度Vgとに基づいて、次式に従って、振動減衰成分FVが演算される。
FV=Cs・Vs−Cg・Vg
ここで、Csは、車体のマウント部24の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発生させるためのゲインであり、Cgは、車輪12の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発生させるためのゲインである。つまり、Cs,Cgは、いわゆるばね上,ばね下絶対振動に対する減衰係数と考えることができる。
iii)ロール抑制制御
車両の旋回時においては、その旋回に起因するロールモーメントによって、旋回内輪側のばね上部とばね下部とが離間させられるとともに、旋回外輪側のばね上部とばね下部とが接近させられる。ロール抑制制御では、その旋回内輪側の離間および旋回外輪側の接近を抑制すべく、旋回内輪側のアクチュエータ30にバウンド方向のアクチュエータ力を、旋回外輪側のアクチュエータ30にリバウンド方向のアクチュエータ力を、それぞれ、ロール抑制力として発生させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車速vとに基づいて推定された推定横加速度Gycと、横加速度センサ232によって実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定される。
Gy*=K1・Gyc+K2・Gyr (K1,K2:ゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制成分FRが、次式に従って決定される。
FR=K3・Gy* (K3:ゲイン)
iv)ピッチ抑制制御
車両の制動時等の減速時において車体のノーズダイブが生じる場合には、そのノーズダイブを生じさせるピッチモーメントによって、前輪側のばね上部とばね下部とが接近させられるとともに、後輪側のばね上部とばね下部とが離間させられる。また、車両の加速時において車体のスクワットが生じる場合には、そのスクワットを生じさせるピッチモーメントによって、前輪側のばね上部とばね下部とが離間させられるとともに、後輪側のばね上部とばね下部とが接近させられる。ピッチ抑制制御では、それらの場合のばね上ばね下間距離の変動を抑制すべく、アクチュエータ力をピッチ抑制力として発生させる。具体的には、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度として、前後加速度センサ230によって実測された実前後加速度Gxが採用され、その実前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制成分FPが、次式に従って決定される。
FP=K4・Gx (K4:ゲイン)
なお、ピッチ抑制制御は、スロットルセンサ238によって検出されるスロットルの開度、あるいは、ブレーキ圧センサ240によって検出されるマスタシリンダ圧が、設定された閾値を超えることをトリガとして実行される。
v)目標アクチュエータ力とモータの作動制御
アクチュエータ30の制御は、それが発生させるべきアクチュエータ力である目標アクチュエータ力に基づいて行われる。詳しく言えば、上述のようにして、アクチュエータ力の振動減衰成分FV,ロール抑制成分FR,ピッチ抑制成分FPが決定されると、それらに基づき、次式に従って制御目標値である目標アクチュエータ力F*が決定される。
F*=FV+FR+FP
そして、上述のように決定された目標アクチュエータ力F*を発生させるためのモータ46の作動制御が、インバータ204によって行われる。詳しく言えば、上述のように決定された目標アクチュエータ力F*に基づいて、目標となるデューティ比が決定され、そのデューティ比に基づいた指令がインバータ204に送信される。インバータ204は、その適切なデューティ比の下、インバータ204の備えるスイッチング素子の開閉が制御されて、目標アクチュエータ力F*を発生させるようにモータ46を作動させる。
<スプリング変形量依拠抵抗発生制御>
i)スプリング変形量依拠抵抗発生制御の意義
次に、本システム10において上記標準制御が実行されている状態で、路面の凸所あるいは凹所を車輪が通過する場合、つまり、路面が急に高くなる箇所,急に低くなる箇所を車輪が通過する場合を考える。例えば、路面が急に高くなる箇所では、ばね下部が勢いよく上方に動作させられて、ばね上部とばね下部とが接近する、つまり、スプリング・アブソーバAssy20が収縮することになる。そして、スプリング・アブソーバAssy20がバウンド側のストロークエンドに達した際、つまり、接近離間動作ストッパ機構によってバウンド方向の接近離間動作が停止させられた場合の衝撃は、比較的大きなものとなり、車両の乗員が感じる衝撃も大きい。
また、ばね下部が勢いよく上方に動作させられる場合、アクチュエータ30および連結機構32においては、アクチュエータ30がばね下部の動作に対して抵抗力を発生させることになるため、支持スプリング96,100の弾性変形量が変化しつつ、ばね下部側ユニットが上方に動作させられることになる。それにより、まず、ばね下部とばね下部側ユニットとが接近し、ダンパ70のハウジング72の上面が、緩衝ゴム150を介して浮動部材94に当接する状態、つまり、連結機構32がバウンド側のストロークエンドに達した状態となる。次いで、その状態において、ばね下部とばね下部側ユニットとが一体的に上方に動作させられ、ばね下部側ユニットがばね上部側ユニットに対して勢いよく上方に移動することになる。そして、上述したように接近離間動作ストッパ機構が機能するのであるが、その後、支持スプリング96,100が弾性変形させられているため、その支持スプリング96,100の弾性力によって、ばね下部側ユニットがばね上部側ユニットに対してさらに上方に動作させられることになる。そして、さらに、浮動部材94とねじロッド42の下端部とが、緩衝ゴム146を介して当接する、つまり、ユニット相対動作ストッパ機構によってアクチュエータ30がバウンド側のストロークエンドに達することになり、車両の乗員が再び衝撃を感じることになるのである。
さらに、ばね下部側ユニットが勢いよく上方に動作させられると、ねじロッド40とナット42とが高速で相対移動することになるが、ユニット相対動作ストッパ機構によりアクチュエータ30がストロークエンドに達してねじロッドとナット42との相対移動が停止させられた際に、それらねじロッド40とナット42との間には大きな力が作用することになる。詳しく言えば、ねじ機構に作用する力は、図4に実線で示すように、ばね下部が上方に勢いよく動作させられた場合、ばね下部側ユニットの一部であるナット42が軸線方向に高速で移動するのに対し、ねじロッド40,モータ軸54を含んで構成される部分の回転がイナーシャによって追従できず、ねじ機構に作用する力は大きくなる(図におけるプラス側の力)。そして、ばね上部とばね下部との接近する動作が停止させられた後、支持スプリング96,100の弾性力によって、ばね下部側ユニットが上方に動作させられ、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作が停止させられることになる。2つのユニットの相対動作が停止させられると、ねじ機構に作用する力が反転し、ねじロッド40,モータ軸54を含んで構成される回転可能な部分が有する慣性トルクによって、ねじ機構には大きな負荷がかかることになるのである(図におけるマイナス側の力)。そのことにより、例えば、ベアリングボールによる圧痕が生じる虞等がある。
さらにまた、ばね下部の上方への動作に伴って、ばね上部が上方に動作させられると、先に述べたスカイフックダンパ理論に基づく制御によって発生させるアクチュエータ力が、ばね上部とばね下部とをバウンド方向に動作させる力となり、ばね下部の上方への動作を助長する場合がある。そこで、本サスペンションシステム10においては、支持スプリング96,100の中立位置からの弾性変形量が設定値以上となり、接近離間動作ストッパ機構が機能する虞がある場合に、上記標準制御に代えて、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力となるアクチュエータ力を発生させる支持スプリング変形量依拠抵抗発生制御(以下、単に「抵抗発生制御」という場合がある)を実行可能とされている。ちなみに、以下の説明において、支持スプリングの弾性変形量,接近離間動作量,ユニット相対動作量は、中立位置からリバウンド方向の変化量に対応するものが正の値,バウンド方向の変化量に対応するものが負の値となるものとして扱うこととする。
先にも説明したように、路面の凸所あるいは凹所を車輪が通過してばね下部が勢いよく動作させられると、支持スプリング96,100の弾性変形量が変化しつつ、ばね下部側ユニットが上方に動作させられることになる。その場合には、ばね下部の動作の勢いがよいほど、支持スプリング96,100の弾性変形量が大きくなり、さらには、支持スプリング96,100の弾性変形可能な範囲の限界に達することになる。つまり、支持スプリング96,100の弾性変形量が設定値以上となる場合には、ばね下部が勢いよく動作させられており、ばね上部とばね下部との相対動作が停止させられる虞があると考えられる。したがって、支持スプリング変形量依拠抵抗発生制御によれば、路面の凸所,凹所を車輪が通過する際において、比較的早い段階から、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力を発生させることができるため、接近離間動作ストッパがストッパ当たりしないようにすること、あるいは、ストッパ当たりした際の衝撃を緩和することが可能である。また、ユニット相対動作ストッパがストッパ当たりしないようにすること、あるいは、ストッパ当たりした際の衝撃を緩和することが可能である。以上のことから、本システム10によれば、車両の乗員が感じる衝撃を抑制して、車両の乗り心地を向上させるとともに、ねじ機構に作用する力を低減して、システムの信頼性を向上させることが可能となるのである
ii)支持スプリングの弾性変形量の推定
スプリング・アブソーバAssy20は、アクチュエータ30のばね上部側ユニットがばね上部へ、ばね下部側ユニットが連結機構32を介してばね下部へ連結される構造であることから、先に説明した接近離間動作量とユニット相対動作量との差である動作量差が、支持スプリング96,100の弾性変形量(ダンパ70のストローク量でもある)に、原則的には一致すると考えられる。図5は、スプリング・アブソーバAssy20をモデル化した図である。連結機構32は、先に説明したように、高周波振動を減衰させることを目的としたものであり、上述したストッパによりダンパ70のストローク範囲が比較的小さく設定されており、支持スプリング96,100の弾性変形可能な範囲も比較的小さい。そして、スプリング・アブソーバAssy20は、アクチュエータ30のばね上部側ユニットとばね上部とが、防振ゴム50によって弾性的に連結されるとともに、連結機構32とばね下部とが、防振ゴム78によって弾性的に連結されるため、本システム10においては、それら防振ゴム50,78の弾性変形量をも考慮して、支持スプリングの弾性変形量が推定されるようになっている。
まず、本システム10においては、アクチュエータ30のユニット相対動作量x1は、モータ46の回転角θに対応するため、レゾルバ252の検出値からユニット相対動作量x1が推定され、その推定されたユニット相対動作量x1と、ハイトセンサ224の検出値から得られる接近離間動作量x2とから、動作量差Δx(=x2−x1)が求められる。次いで、防振ゴム78の弾性変形量x3-1、および、防振ゴム50の弾性変形量x3-2が、ばね上縦加速度センサ234によって検出されるばね上縦加速度Gzsと、ばね下縦加速度センサ236によって検出されるばね下縦加速度Gzgとに基づいて推定される。詳しく言えば、まず、ばね上縦加速度Gzsからばね上部に作用する力を、ばね下縦加速度Gzgからばね下部に作用する力を、それぞれ求め、それらを足し合わせて、ばね上部とばね下部とを接近離間動作させる力であるばね上ばね下作用力fを、次式に従って算出する。
f=M2・Gzg−M1・Gzs
その算出されたばね上ばね下作用力fに基づいて、防振ゴム78の弾性変形量と防振ゴム50の弾性変形量とを合わせた防振ゴム変形量x3が推定されるようになっている。具体的には、ECU200が有するROMには、図6に示すばね上ばね下作用力fに対する防振ゴム変形量x3のマップデータが格納されており、そのマップデータを参照して防振ゴム変形量x3が決定される。そして、その決定された防振ゴム変形量x3を、動作量差Δxから差し引いて、支持スプリングの弾性変形量x4(以下、「支持スプリング変形量x4」という場合がある)が、求められるのである。
iii)目標アクチュエータ力の決定
上記のように推定された支持スプリング変形量x4が閾値xT以上となった場合に、前述の標準制御に代えて、支持スプリング変形量依拠抵抗発生制御が実行される。その抵抗発生制御では、アクチュエータ力が、専らばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力となるように、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作の速度、つまり、モータ46の回転角速度ωに比例する大きさの抵抗力を発生させる。つまり、目標アクチュエータ力F*が、次式に従って決定される。
F*=−K5・ω (K5:ゲイン)
そして、先に説明した標準制御と同様に、目標アクチュエータ力F*に基づいて、目標となるデューティ比が決定され、そのデューティ比に基づいた指令がインバータ204に送信される。なお、支持スプリング変形量x4が、閾値xTより小さい状態が一定時間t0継続した場合に、抵抗発生制御から標準制御に戻されるようになっている。
<制御プログラム>
前述のようなアクチュエータ30の制御は、図7にフローチャートを示すアクチュエータ制御プログラムが、イグニッションスイッチ220がON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec〜数十msec)をおいてECU200により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。なお、アクチュエータ制御プログラムは、4つの車輪12にそれぞれ設けられたスプリング・アブソーバAssy20のアクチュエータ30の各々に対して実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ30に対してのプログラムによる処理について説明する。
アクチュエータ制御プログラムによる処理では、標準制御と支持スプリング変形量依拠抵抗発生制御とのうちいずれの制御を実行しているかを示す実行制御フラグFLが採用されており、そのフラグFLのフラグ値は、標準制御が実行されている場合に、0に、抵抗発生制御が実行されている場合に、1にされるようになっている。このプログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す、他のステップも同様である)において、ハイトセンサ242およびレゾルバ252の検出値から接近離間動作量x2,ユニット相対動作量x1,ばね上縦加速度Gzs,ばね下縦加速度Gzgが取得される。次いで、S2において、ばね上縦加速度Gzsおよびばね下縦加速度Gzgから、ばね上ばね下作用力fが算出され、図6に示すマップデータを参照して、ばね上ばね下作用力fに応じた防振ゴム変形量x3が推定される。そして、S3において、支持スプリング変形量x4が、式x4=x2−x1−x3により算出される。
上記のように支持スプリング変形量x4が推定されれば、S4において、支持スプリング変形量の大きさ|x4|が閾値xT以上か否かが判定され、S5において、実行制御フラグFLのフラグ値が確認される。スプリング変形量の大きさ|x4|が閾値xTより小さく、かつ、フラグ値が0である場合には、標準制御が実行される。その場合には、S9で、振動減衰制御を行うための減衰力成分FVが、S10で、ロール抑制制御を行うためのロール抑制成分FRが、S11で、ピッチ抑制制御を行うためのピッチ抑制成分FPが、それぞれ、先に説明したような方法によって決定される。そして、S12において、それらの成分FV,FR,FPが合計されて目標アクチュエータ力F*が決定される。次いで、S13において、その目標アクチュエータ力F*に基づいて、モータ46の制御を行うためのデューティ比が決定され、そのデューティ比に基づいた指令がインバータ204に送信される。この処理により、各アクチュエータ30のモータ46の作動が制御されることで、各アクチュエータ30は、必要とされるアクチュエータ力を発生させることになる。
また、S4において、支持スプリング変形量の大きさ|x4|が閾値xT以上であると判定された場合には、S14において、実行制御フラグFLのフラグ値が1とされ、S15以下の支持スプリング依拠抵抗発生制御が実行される。まず、S15において、今回と前回のプログラム実行時におけるレゾルバ252の検出値に基づいて、モータ回転角速度ωが演算され、S16において、目標アクチュエータ力F*が、式F*=−K5・ωに従って求められる。つまり、アクチュエータ力がばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力として発生させられることになる。
抵抗発生制御は、支持スプリング変形量の大きさ|x4|が閾値xTより小さくなった後も、その状態が一定時間t0継続する間、実行されるようになっている。つまり、S4において、支持スプリング変形量の大きさ|x4|が閾値xTより小さいと判定され、S5において、実行制御フラグFLのフラグ値が1である場合には、S6以下の処理によって、支持スプリング変形量の大きさ|x4|が閾値xTより小さい状態が一定時間t0継続したか否かが判定される。まず、S6において、タイムカウンタがカウントアップされる。このカウンタは、設定時間t0経過したか否かを判定するためのものであり、S7において、このカウンタのカウント値Cが、設定時間t0に相当するカウンタ閾値C0と比較される。なお、このカウンタ値Cは、S4において支持スプリング変形量の大きさ|x4|が閾値xT以上であると判定された場合に、S14においてリセットされる。S7において、カウント値Cがカウンタ閾値C0に達していない場合には、S15以下の処理が実行され、抵抗発生制御が継続して実行される。また、カウント値Cがカウンタ閾値C0に達した場合には、S8において、実行制御フラグFLのフラグ値が0とされる。そして、S9以下の標準制御が実行される。
<制御装置の機能構成>
本サスペンションシステム10の制御装置であるECU200は、アクチュエータ制御プログラムの実行により、上述したような種々の処理を実行する。この種々の処理の実行によって、ECU200は、図8に示すような機能部を有していると考えることができる。基本的な機能部として、ECU200は、上記アクチュエータ制御プログラムにおけるS9〜S12に従った処理を実行して、標準制御における目標アクチュエータ力を決定する機能部、つまり、標準制御実行部300を有している。そして、この標準制御実行部300は、S9の処理を実行して車体および車輪12の振動を減衰させるためのアクチュエータ力の成分を決定する振動減衰制御部302と、S10の処理を実行して車体のロールを抑制するためのアクチュエータ力の成分を決定するロール抑制制御部304と、S11の処理を実行して車体のピッチを抑制するためのアクチュエータ力の成分を決定するピッチ抑制制御部306とを有している。
また、ECU200は、支持スプリング変形量が設定値以上となった場合に、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力となるように目標アクチュエータ力を決定する機能部として、支持スプリング変形量依拠抵抗発生制御実行部310を有しており、その支持スプリング変形量依拠抵抗発生制御実行部310は、プログラムのS15,16の処理を実行する部分が相当する。さらに、ECU200は、支持スプリングの変形量に基づいて、2つの制御のいずれを実行するかを決定する処理、つまり、プログラムのS1〜S8の処理を実行する機能部として、実行制御決定部312を有している。なお、その実行制御決定部312は、支持スプリングの変形量を、接近離間動作量とユニット相対動作量との差である動作量差,ばね上縦加速度,ばね下縦加速度に基づいて推定する処理、つまり、プログラムのS1〜S3の処理を実行する機能部として、支持スプリング変形量推定部314を含んで構成されるものとなっている。
<変形例>
上記実施例のシステムにおいては、支持スプリングの変形量を推定する際に、ばね上加速度とばね下加速度との両者に基づいて、支持スプリングの変形量が推定されていたが、ばね上加速度とばね下加速度との一方、あるいは、ばね上部とばね下部との相対加速度に基づいて、支持スプリングの変形量が推定されるように構成されてもよい。具体的には、ばね下加速度,ばね下部のばね上部に対する加速度が大きくなるほど、支持スプリングの変形量が大きくなると推定するように構成されてもよいのである。また、上記実施例のシステムにおけるスプリング変形量依拠抵抗発生制御は、制御目標値を決定してその制御目標値に従って駆動回路を制御するように構成されていたが、モータの各相の通電端子間を導通させることでばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対動作に対する抵抗力を発生させるように構成されてもよい。
請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
図1に示すスプリング・アブソーバAssyを示す正面断面図である。
図2の電磁モータを駆動する駆動回路であるインバータの回路図である。
路面の凸所を車輪が通過する場合における接近離間動作量,接近離間動作速度,ねじ機構に作用する力の時間的変化を示す図である。
図1に示すスプリング・アブソーバAssyをモデル化した図である。
ばね上加速度およびばね下加速度に基づいて推定されたばね上部とばね下部とを接近離間動作させる力と、第1弾性部材および第2弾性部材の変形量との関係を示す図である。
図1に示すサスペンション電子制御ユニットによって実行されるアクチュエータ制御プログラムを表すフローチャートである。
図1に示すサスペンション電子制御ユニットの機能に関するブロック図である。
符号の説明
10:車両用サスペンションシステム 20:スプリング・アブソーバAssy 22:ロアアーム(ばね下部) 24:マウント部(ばね上部) 30:アクチュエータ 32:連結機構 34:エアスプリング 42:ねじロッド(雄ねじ部) 44:ナット(雌ねじ部) 46:電磁モータ 50:防振ゴム(第2弾性部材) 70:液圧式ダンパ 78:防振ゴム(第1弾性部材) 96、100:圧縮コイルスプリング(支持スプリング) 140,144:緩衝ゴム(接近離間動作ストッパ機構) 146,148:緩衝ゴム(ユニット相対動作ストッパ機構) 200:サスペンション電子制御ユニット(制御装置) 224:ハイトセンサ(接近離間動作量センサ) 234:ばね上縦加速度センサ 236:ばね下縦加速度センサ 252:レゾルバ[θ](モータ動作量センサ) 300:標準制御実行部 302:振動減衰制御部 304:ロール抑制制御部 306:ピッチ抑制制御部 310:支持スプリング依拠抵抗発生制御実行部 312:実行制御決定部 314:支持スプリング変形量推定部