即ち、本発明の目的は、車体に対する統合ユニットの搭載姿勢が基準姿勢から傾いた可能性がある場合において適切な処置を行うことができる車両の運動制御装置を提供することある。
本発明に係る車両の運動制御装置は、車両の運動を制御するためのアクチュエータ(モータ、電磁弁等)を搭載した制御ユニット、車両の挙動を表す信号(ヨーレイト等)を出力する車両挙動センサ、及び、前記車両挙動センサの出力信号に基づいて車両の運動を制御するために前記アクチュエータを制御するコントローラが一体化されてなる統合ユニットを備えている。
この運動制御装置は、車両の車体に対する統合ユニットの搭載姿勢が基準姿勢から所定の程度よりも大きく傾いた可能性があることを示す信号である傾き信号を発生する傾き検出センサと、前記統合ユニットの搭載姿勢の異常発生を車両の運転者に知らしめるための(前記運動制御装置に関する警告を行う)警告を行う警告装置とを搭載した車両に適用される。
この運動制御装置の特徴は、前記コントローラが、前記傾き検出センサが前記傾き信号を発生した場合において前記車両の運動制御のための前記アクチュエータの制御を禁止するとともに前記警告を前記警告装置に実行させる「制御禁止・警告処理」を行う制御禁止・警告手段を備えたことにある。
これによれば、車体に対する統合ユニットの搭載姿勢(即ち、車両挙動センサの搭載姿勢)が基準姿勢から傾いた可能性がある場合、車両の運動制御の実行が禁止される。これにより、車両の運動制御が不適切に実行される事態の発生が防止される。加えて、統合ユニットの搭載姿勢の異常発生を運転者に知らしめるための警告がなされる。これにより、運転者に対して統合ユニットの搭載姿勢の調整に係わる修理(具体的には、統合ユニットを車体に固定するためのフレーム、パネル等の歪みを除去する修理等)を促すことができる。
ここにおいて、前記傾き検出センサは、例えば、車体に対する統合ユニットの搭載姿勢(或いは、統合ユニットの搭載姿勢の基準姿勢からの傾き)を直接検出できるセンサであってもよいし、車両の衝突を検出する衝突検出センサであってもよい。衝突検出センサとしては、例えば、エアバックの展開制御用に車両に搭載されている加速度センサ、及び/又は音響センサ、車両の衝突被害軽減システムに搭載されている加速度センサ、及び/又は音響センサが使用され得る。
前記傾き検出センサとして前記衝突検出センサが使用される場合、前記傾き信号として前記車両の衝突の程度が所定の程度よりも大きいことを示す信号が使用される。これは、車両の衝突の程度が大きいほど車体に対する統合ユニットの搭載姿勢が傾く程度が大きいという事実に基づく。
複数の衝突検出センサが車両の複数個所にそれぞれ搭載されている場合(各衝突検出センサの統合ユニットからの距離が異なる場合)においては、前記制御禁止・警告手段は、前記複数の衝突検出センサのうち最も前記統合ユニットに近い位置に搭載されているものが前記傾き信号を発生した場合、前記制御禁止・警告処理を行うように構成されることが好適である。
複数の衝突検出センサが搭載されている場合、そのうちで最も統合ユニットに近い位置に搭載されているものの出力が、車両の衝突により車体に対する統合ユニットの搭載姿勢が傾く程度を最も精度良く表す値となり得る。従って、上記構成によれば、「傾き信号」(即ち、車両の衝突の程度が所定の程度よりも大きいことを示す信号)の発生が適切なタイミングで検出され得るから、上記「制御禁止・警告処理」が適切なタイミングでなされ得る。
衝突検出センサが使用される場合、前記傾き信号として、車両の衝突の程度がエアバック、及び/又は前記車両の衝突被害軽減システムの制御の開始に対応する程度よりも低い所定の程度よりも大きいことを示す信号が使用されることが好適である。
これによれば、エアバックを展開させる必要等がなく、且つ、車体に対する統合ユニットの搭載姿勢が基準姿勢から傾いた可能性のある程度の衝突が発生した場合、運転者はその後において、統合ユニットの搭載姿勢の調整に係わる修理を行うために車両を運転して同車両をディーラー等へ移動させることが可能となる。
上記本発明に係る運動制御装置においては、前記車両は、情報を記憶可能な記憶手段を前記車体の中央部に搭載していて、前記記憶手段は、前記傾き検出センサが前記傾き信号を発生した場合、前記傾き信号が発生したという情報である傾き情報を記憶するように構成されていて、前記制御禁止・警告手段は、前記記憶手段に前記傾き情報が記憶されている限りにおいて前記制御禁止・警告処理を継続するように構成されることが好適である。
ここにおいて、前記記憶手段は、例えば、バックアップRAM、EPROM等、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するものが好ましい。
また、前記車体の中央部とは、例えば、クラスタパネル部、インストゥルメントパネル部、センターフロアパネル(トンネル)部等、車両の重心から所定の範囲内の部分(重心近傍の部分)であって、車両の衝突による衝撃が伝達され難く車両の衝突が発生してもその部分に搭載されている部品、機器等が交換され難い部分である。エアバック制御用のコントローラは、車体のセンターフロアパネル部等に搭載される場合が多い。従って、前記記憶手段の好ましい一例としては、エアバック制御用のコントローラ内のバックアップRAM、EPROM等が挙げられる。
上記「制御禁止・警告処理」は、統合ユニットの搭載姿勢の調整に係わる修理が完了するまで継続的に実行されるべきである。このため、例えば、傾き検出センサによる「傾き信号」が検出された場合、統合ユニットのコントローラ内(具体的には、バックアップRAM等)に前記「傾き情報」(傾き信号が発生したという情報)を記憶し、上記修理の完了時においてコントローラ内の「傾き情報」が消去されるまでの間(即ち、コントローラ内の「傾き情報」が記憶されている限りにおいて)、上記「制御禁止・警告処理」を継続する構成が考えられる。
傾き検出センサによる「傾き信号」が検出されたことは、車両の衝突等により統合ユニットそのもの(従って、統合ユニット内のコントローラそのもの)に比較的大きな衝撃が伝達されたことを意味する。この場合、統合ユニットの搭載姿勢の調整に係わる修理が行われる代わりに統合ユニットのコントローラそのものが新品のコントローラと交換される場合も想定され得る。
この場合、統合ユニットの搭載姿勢(即ち、車両挙動センサの搭載姿勢)が基準姿勢から傾いた状態になお維持されることになる。加えて、新品のコントローラは、上記「傾き情報」が記憶されていない。従って、以降、車両を走行させても上記「制御禁止・警告処理」が実行されず、この結果、車両挙動を精度良く表す値と異なる値を出力する車両挙動センサの出力に基づいて上記車両の運動制御が不適切に実行される事態が発生し得る。
これに対し、上記構成によれば、衝突が発生しても搭載されている部品、機器等が交換され難い前記車体の中央部に搭載された前記「記憶手段」に「傾き情報」が記憶される。従って、統合ユニットのコントローラが新品と交換された後であって統合ユニットの搭載姿勢(即ち、車両挙動センサの搭載姿勢)が基準姿勢から傾いた状態になお維持されている場合であっても、上記「制御禁止・警告処理」が継続され得る。この結果、上述した車両の運動制御が不適切に実行される事態の発生が防止され得る。
前記記憶手段に前記傾き情報が記憶される場合、前記記憶手段は、前記車両の外部機器からの特定コマンドによってのみ前記傾き情報が消去されるように構成されることが好適である。これによれば、何らかの原因により「傾き情報」が誤って消去される可能性を低くすることができるから、上述した車両の運動制御が不適切に実行される事態の発生を更に確実に防止することができる。
ここにおいて、前記「車両の外部機器からの特定コマンド」とは、例えば、ディーラー等が使用するダイアグユニット(ダイアグテスタ)から出力される特定のコマンド(信号)等である。
上記本発明に係る運動制御装置においては、前記車両は、前記車両の挙動を表す信号を出力する第2の車両挙動センサであって前記統合ユニット内に一体化されている前記車両挙動センサとは別のものを前記車体の中央部に搭載可能に構成されていて、前記コントローラは、前記第2の車両挙動センサの出力を入力する入力部を備えるとともに、同第2の車両挙動センサの出力に基づいて前記車両の運動を制御するために前記アクチュエータを制御可能に構成されることが好適である。ここにおいて、前記「車体の中央部」とは、上記と同義であり、例えば、クラスタパネル部、インストゥルメントパネル部、センターフロアパネル(トンネル)部等、車両の重心近傍である。
上記構成は、統合ユニットの搭載姿勢の調整に係わる修理(具体的には、統合ユニットを車体に固定するためのフレーム、パネル等の歪みを除去する修理等)が困難、或いは不可能な場合を想定したものである。上記構成によれば、第2の車両挙動センサが上記「車体の中央部」に搭載され得る。上記「車体の中央部」は、車両の衝突による衝撃が伝達され難い部分であるから、車両の衝突が発生しても第2の車両挙動センサを車体に固定するためのフレーム、パネル等の歪みが発生し難い。換言すれば、車両の衝突が発生しても第2の車両挙動センサの搭載姿勢が基準姿勢(設計上の正常な搭載姿勢)から傾く可能性が低い。
従って、車両の衝突等により統合ユニットの搭載姿勢が基準姿勢から傾いた場合であって統合ユニットの搭載姿勢の調整に係わる修理が困難、或いは不可能な場合、第2の車両挙動センサを上記「車体の中央部」に搭載することで、統合ユニットの搭載姿勢が基準姿勢から傾いたままであっても、統合ユニット内の車両挙動センサに代えて第2の車両挙動センサの出力に基づいて車両の運動制御を適切に実行することができる。
また、前記衝突検出センサは、前記統合ユニットとは別に前記車両に搭載されていても、前記統合ユニットに搭載されていてもよい。前記衝突検出センサが前記統合ユニットに搭載されている場合、前記衝突検出センサとして、前記車両の挙動を表す信号としての前記車両の加減速度を表す信号を出力する前記車両挙動センサが使用(兼用)されてもよい。
以下、本発明による車両の運動制御装置の各実施形態について図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この運動制御装置10は、運転者によるブレーキ操作に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部30と、制御ユニット40(ハイドロリックユニット。以下、単に「HU40」と称呼する。)及びブレーキコントローラ50が一体化されてなる統合ユニットIUと、を含んで構成されている。
この統合ユニットIUは、車両の車体(具体的には、エンジンルーム内の右側の所定のフレーム・パネル等)に固定されている。係る統合ユニットIUを車体に固定するためのフレーム・パネルが設計上の正常な形状にある場合、車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢は、基準姿勢(設計上の正常な姿勢。設計上の公差の範囲内の姿勢)に一致するようになっている。
ブレーキ液圧発生部30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの作動により応動するバキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、図示しないエンジンの吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
マスタシリンダMCは、第1ポート、及び第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ圧Pmを第1ポートから発生するようになっているとともに、同第1マスタシリンダ圧Pmと略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じた第2マスタシリンダ圧Pmを第2ポートから発生するようになっている。
これらマスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びバキュームブースタVBは、ブレーキペダルBPの操作力に応じた第1マスタシリンダ圧Pm及び第2マスタシリンダ圧Pmをそれぞれ発生するようになっている。
HU40は、その概略構成を表す図2に示すように、車輪RR,FL,FR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWrr,Wfl,Wfr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なRRブレーキ液圧調整部41,FLブレーキ液圧調整部42,FRブレーキ液圧調整部43,RLブレーキ液圧調整部44と、還流ブレーキ液供給部45とを含んで構成されている。
上記マスタシリンダMCの第1ポートは、車輪RR,FLに係わる系統に属し、同第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部41及びFLブレーキ液圧調整部42の上流部との間には、常開電磁開閉弁PC1が介装されている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートは、車輪FR,RLに係わる系統に属し、同第2ポートと、FRブレーキ液圧調整部43及びRLブレーキ液圧調整部44の上流部との間には、常開電磁開閉弁PC2が介装されている。
RRブレーキ液圧調整部41は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUrrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDrrとから構成されている。増圧弁PUrrは、RRブレーキ液圧調整部41の上流部とホイールシリンダWrrとを連通、或いは遮断できるようになっている。減圧弁PDrrは、ホイールシリンダWrrとリザーバRS1とを連通、或いは遮断できるようになっている。この結果、増圧弁PUrr、及び減圧弁PDrrを制御することでホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧Pwrr)が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
加えて、増圧弁PUrrにはブレーキ液のホイールシリンダWrr側からRRブレーキ液圧調整部41の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されていて、これにより、操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダ圧Pwrrが迅速に減圧されるようになっている。
同様に、FLブレーキ液圧調整部42,FRブレーキ液圧調整部43、RLブレーキ液圧調整部44は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUfr及び減圧弁PDfr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されていて、これらの増圧弁及び減圧弁が制御されることにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWfr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧Pwfl,Pwfr,Pwrl)をそれぞれ増圧、保持、減圧できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUfr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
加えて、常開電磁開閉弁PC1には、ブレーキ液の、マスタシリンダMCの第1ポートから、RRブレーキ液圧調整部41及びFLブレーキ液圧調整部42の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されている。これにより、常開電磁開閉弁PC1が閉状態にある場合であっても、ブレーキペダルBPの操作により第1マスタシリンダ圧PmがRRブレーキ液圧調整部41及びFLブレーキ液圧調整部42の上流部の圧力よりも高い圧力になったとき、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、第1マスタシリンダ圧Pm)そのものがホイールシリンダWrr,Wflに供給され得るようになっている。また、常開電磁開閉弁PC2にも、上記チェック弁CV5と同様の機能を達成し得るチェック弁CV6が並列に配設されている。
還流ブレーキ液供給部45は、直流モータMTと、同モータMTにより同時に駆動される2つの液圧ポンプ(ギヤポンプ)HP1,HP2と、常閉電磁開閉弁PC3,PC4とを含んでいる。常閉電磁開閉弁PC3は、マスタシリンダMCの第1ポートとリザーバRS1との間に介装され、常閉電磁開閉弁PC4は、マスタシリンダMCの第2ポートとリザーバRS2との間に介装されている。
液圧ポンプHP1は、減圧弁PDrr,PDflから還流されてきたリザーバRS1内のブレーキ液、或いは、常閉電磁開閉弁PC3が開状態にある場合においてマスタシリンダMCの第1ポートからのブレーキ液をチェック弁CV7を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV8を介してRRブレーキ液圧調整部41及びFLブレーキ液圧調整部42の上流部に供給するようになっている。
同様に、液圧ポンプHP2は、減圧弁PDfr,PDrlから還流されてきたリザーバRS2内のブレーキ液、或いは、常閉電磁開閉弁PC4が開状態にある場合においてマスタシリンダMCの第2ポートからのブレーキ液をチェック弁CV9を介して汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV10を介してFRブレーキ液圧調整部43及びRLブレーキ液圧調整部44の上流部に供給するようになっている。
以上、説明した構成により、HU40には、マスタシリンダMCの第1、第2ポートに接続するための2本の配管、並びに、ホイールシリンダW**に接続するための4本の配管(即ち、合計6本の配管)が接続されている。HU40は、右後輪RRと左前輪FLとに係わる系統と、左後輪RLと右前輪FRとに係わる系統の2系統の液圧回路から構成されている。HU40は、全ての電磁弁が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ圧Pm)をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、ホイールシリンダW**は、左前輪用ホイールシリンダWfl, 右前輪用ホイールシリンダWfr, 左後輪用ホイールシリンダWrl, 右後輪用ホイールシリンダWrrを包括的に示している。
他方、この状態において、常開電磁開閉弁PC1,PC2を励磁して閉状態に、常閉電磁開閉弁PC3,PC4を励磁して開状態に制御するとともに、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)を駆動することで、HU40は、マスタシリンダ圧Pmよりも高いブレーキ液圧をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。
加えて、HU40は、増圧弁PU**、及び減圧弁PD**を制御することでホイールシリンダ圧Pw**を個別に調整できるようになっている。即ち、HU40は、運転者によるブレーキペダルBPの操作にかかわらず、各車輪に付与される制動力を車輪毎に個別に調整できるようになっている。
再び、図1を参照すると、ブレーキコントローラ50は、CPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶した図示しないROM、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納する図示しないRAM、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM52、及びADコンバータを含むインターフェース等からなるマイクロコンピュータである。
ブレーキコントローラ50は、統合ユニットIUと別体の車輪速度センサ61**及びステアリング角度センサ62と所定のハーネス、コネクタ等を介してCAN通信可能に接続されている。また、ブレーキコントローラ50は、統合ユニットIU(具体的には、ブレーキコントローラ50のケース内)に内蔵されたヨーレイトセンサ63、ロールレイトセンサ64、及びピッチレイトセンサ65とハーネス、コネクタ等を用いることなく電気的に直接接続されている。加えて、ブレーキコントローラ50は、インストゥルメントパネルに固定された前記警告装置としての警告ランプ66とも接続されている。
車輪速度センサ61**は、車輪速度VW**を表す信号を出力するようになっている。ステアリング角度センサ62はステアリングホイールの角度を検出し、ステアリング角度θsを表す信号を出力するようになっている。ヨーレイトセンサ63は、車両のヨーレイトを検出し、ヨーレイトYrateを示す信号を出力するようになっている。ロールレイトセンサ64は、車両のロールレイトを検出し、ロールレイトRrateを示す信号を出力するようになっている。ピッチレイトセンサ65は、車両のピッチレイトを検出し、ピッチレイトPrateを示す信号を出力するようになっている。
ヨーレイトセンサ63、ロールレイトセンサ64、及びピッチレイトセンサ65は、車両挙動センサに相当する。即ち、車両挙動センサとしては、一般に、ヨーレイトセンサ、ロールレイトセンサ、ピッチレイトセンサ、前後加速度センサ、横加速度センサ、上下加速度センサの6つが考えられるところ、本例は、それらの代表としてヨーレイトセンサ63、ロールレイトセンサ64、及びピッチレイトセンサ65が使用された例である。
車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が上述した基準姿勢にある場合、車両挙動センサ63,64,65の車体に対する搭載姿勢も基準姿勢(設計上の正常な姿勢。設計上の公差の範囲内の姿勢)に一致するようになっている。
即ち、車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が上記基準姿勢にある場合、車両挙動センサ63,64,65の出力Yrate,Rrate,Prateは車両挙動を精度良く表す値となる。一方、統合ユニットIUを車体に固定するためのフレーム・パネルが車両の衝突等により歪んだ場合など車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が上記基準姿勢から傾いた場合、車両挙動センサ63,64,65の出力Yrate,Rrate,Prateは車両挙動を精度良く表す値とならなくなる。
この車両は、運転席エアバックAB1、助手席エアバックAB2、右サイドエアバックAB3、及び左サイドエアバックAB4を展開制御するためにエアバックコントローラ70を搭載している。エアバックコントローラ70は、センターフロアパネル(トンネル)の車両重心近傍(前記車体の中央部に対応する)に固定されている。エアバックコントローラ70も、ブレーキコントローラ50と同様、CPU71、図示しないROM、図示しないRAM、バックアップRAM72(前記記憶手段に相当する。)、及びADコンバータを含むインターフェース等からなるマイクロコンピュータである。エアバックコントローラ70は、ブレーキコントローラ50とCAN通信可能に接続されている。
エアバックコントローラ70は、エアバックコントローラ70内に内蔵された衝突検出用の加速度センサ81cenと電気的に直接接続されている。加えて、エアバックコントローラ70は、車輪**の近傍にそれぞれ配置された衝突検出用の加速度センサ81**(サテライトセンサ)とCAN通信可能に接続されている。
加速度センサ81cen,81fr,81fl,81rr,81rlは、それぞれの位置での加速度を検出し加速度Gcen,Gfr,Gfl,Grr,Grlを示す信号をそれぞれ出力するようになっている。衝突検出用の加速度センサ81cen,81fr,81fl,81rr,81rlのうちで加速度センサ81frが統合ユニットIUに最も近い位置に搭載されている。
従って、加速度センサ81frの出力は、車両の衝突により統合ユニットIUを車体に固定するためのフレーム・パネルに加わった衝撃の程度(従って、同フレーム・パネルの歪みの程度)を最も精度良く表す値となる。換言すれば、加速度センサ81frの出力は、車両の衝突により車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から傾く程度を最も精度良く表す値となる。本例では、加速度センサ81frが前記傾き検出センサに相当する。
エアバックコントローラ70(のCPU71)は、加速度センサ81cen,81fr,81fl,81rr,81rlからの信号に基づいて、運転席エアバックAB1、助手席エアバックAB2、右サイドエアバックAB3、及び左サイドエアバックAB4に展開信号を送出するようになっている。
ブレーキコントローラ50(のCPU51)は、エアバックコントローラ70からの信号に基づいて警告ランプ66に点灯信号を送出するようになっている。また、ブレーキコントローラ50は、センサ61〜65からの信号に基づいてHU40の各電磁弁及びモータに駆動信号を送出するようになっている。これにより、HU40は、ブレーキコントローラ50からの指示により、周知の車両安定化制御(具体的には、アンダーステア・オーバーステア抑制制御。以下、「ESC制御」と称呼する。)を達成できるようになっている。
具体的には、ブレーキコントローラ50は、車両が「アンダーステア状態」、又は「オーバーステア状態」にあると判定している場合、HU40を制御して所定の車輪に所定のブレーキ液圧を付与する。加えて、ブレーキコントローラ50は、図示しないエンジンの出力(具体的には、スロットル弁開度)をアクセル操作量に応じた値から所定量だけ低下させるエンジン出力低減制御を実行する。これにより、車両の姿勢が制御されて、車両の旋回トレース性能、又は旋回における安定性が維持され得る。係るESC制御は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。
また、ブレーキコントローラ50とエアバックコントローラ70との間のCAN通信に使用される信号線の途中には車両診断用のダイアグユニットを接続するためのコネクタS1が接続されている。この結果、ブレーキコントローラ50は、コネクタS1に接続されているダイアグユニットから送信される信号をモニタできるようになっている。
加えて、ブレーキコントローラ50は、コネクタS2ともCAN通信可能に接続されている。この車両は、センターフロアパネル(トンネル)の車両重心近傍(即ち、エアバックコントローラ70の近傍。前記車体の中央部に対応する。)にて、統合ユニットIU内に内蔵されている車両挙動センサ63,64,65と同じ型番の第2の車両挙動センサ(即ち、ヨーレイトセンサ、ロールレイトセンサ、及びピッチレイトセンサ)を、同第2の車両挙動センサの搭載姿勢が上述した基準姿勢と一致する状態で搭載・固定できるようになっている。
コネクタS2は、このように搭載された第2の車両挙動センサに接続するためのものであり、コネクタS2に第2の車両挙動センサが接続されている場合、ブレーキコントローラ50は、上記車両挙動センサ63,64,65の出力に代えて同第2の車両挙動センサからの信号に基づいて上述したESC制御を実行できるようになっている。
(実際の作動)
以下、本発明による車両の運動制御装置(以下、「本装置」とも称呼する。)による実際の作動について、エアバックコントローラ70のCPU71が実行するエアバックコントローラ用ルーチンをフローチャートにより示した図3、及びブレーキコントローラ50のCPU51が実行するブレーキコントローラ用ルーチンをフローチャートにより示した図4を参照しながら説明する。
先ずは、車両が衝突しておらず、上記第2の車両挙動センサがコネクタS2に接続されておらず、且つ、エアバックコントローラ70のバックアップRAM72内に記憶されているフラグTILT1の値が「0」である場合について説明する。フラグTILT1は、その値が「1」のとき前記「制御禁止・警告処理」が実行されている状態を示し、その値が「0」のとき前記「制御禁止・警告処理」が実行されていない状態を示す。本例では、「制御禁止・警告処理」は、上述したESC制御を禁止するとともに警告ランプ66を点灯させる処理に対応する。
エアバックコントローラ70のCPU71は、図3のルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ300から処理を開始してステップ305に進み、エアバック展開条件が成立したか否かを判定する。エアバック展開条件は、例えば、加速度センサ81cen,81fr,81fl,81rr,81rlから得られる加速度Gcen,Gfr,Gfl,Grr,Grlのうちの少なくとも一つが対応する展開基準値を超えた場合等に成立する。
現時点では、車両が衝突していないから各加速度は対応する展開基準値を超えていない。従って、CPU71はステップ305にて「No」と判定してステップ310に進み、バックアップRAM72内に記憶されているフラグTILT1の値が「0」であるか否かを判定し、ここでは「Yes」と判定してステップ315に進み、加速度センサ81frから得られる加速度Gfrが上記対応する展開基準値よりも小さいしきい値Gthを超えたか否かを判定する。
ここで、加速度センサ81frから得られる加速度Gfrが上記しきい値Gthを超えたことは、前記「車両の衝突の程度が所定の程度よりも大きいことを示す信号」、即ち、前記「車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から所定の程度よりも大きく傾いた可能性があることを示す信号」である「傾き信号」が発生したことに対応している。
現時点では、車両が衝突していないから加速度Gfrはしきい値Gth以下である。従って、CPU71はステップ315にて「No」と判定してステップ395に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理(ステップ305、310、315、395)は、車両が衝突してステップ305、或いは315の条件が成立するまでの間、繰り返し実行される。
一方、ブレーキコントローラ50のCPU51は、図4のルーチンを所定時間(例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ400から処理を開始してステップ405に進み、エアバックコントローラ70のバックアップRAM72内のフラグTILT1の値をCAN通信を通して取得する。
続いて、CPU51はステップ410に進んで、フラグTILT1の値が「0」であるか否かを判定する。上述のごとく、現時点ではフラグTILT1の値は「0」であるから、CPU51はステップ410にて「Yes」と判定してステップ415に進み、コネクタS2に上記第2の車両挙動センサが接続されているかを判定する。
現時点では、上述したように、上記第2の車両挙動センサがコネクタS2に接続されていない。従って、CPU51はステップ415にて「No」と判定してステップ420に進み、統合ユニットIUに内蔵されている車両挙動センサ63,64,65からヨーレイトYrate、ロールレイトRrate、及びピッチレイトPrateを取得する。
次いで、CPU51はステップ425に進み、ESC制御条件が成立しているか否かを、上記取得したヨーレイトYrate、ロールレイトRrate、及びピッチレイトPrate、並びに、車輪速度センサ61**及びステアリング角度センサ62から得られる車輪速度Vw**、及びステアリング角度θsに基づいて判定する。具体的には、上述したように、車両が「アンダーステア状態」、又は「オーバーステア状態」にあると判定している場合、ESC制御条件が成立していると判定する。
ESC制御条件が成立していない場合、CPU51はステップ495に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、ESC制御条件が成立している場合、CPU51はステップ430に進んで、上記センサ61〜65の出力に基づいてHU40の電磁弁、モータに駆動信号を送出する。これにより、ESC制御が実行される。
このように、バックアップRAM72内のフラグTILT1の値が「0」である場合、ESC制御が実行され得、且つ、警告ランプ66は点灯しない。以上、車両が衝突しておらず、上記第2の車両挙動センサがコネクタS2に接続されておらず、且つ、フラグTILT1の値が「0」である場合(以下、「基準状態」とも称呼する。)について説明した。
次に、この基準状態にて、上述したエアバック展開条件が成立する程度に車両が強く衝突した場合について説明する。この場合、図3のルーチンを繰り返し実行しているエアバックコントローラ70のCPU71は、衝突直後において、ステップ305に進んだとき「Yes」と判定してステップ320に進んで、加速度センサ81cen,81fr,81fl,81rr,81rlから得られた加速度Gcen,Gfr,Gfl,Grr,Grlに基づいてエアバックAB1−AB4の中から展開すべきエアバックを特定する。
続いて、CPU71はステップ325に進んで特定されたエアバックの図示しないインフレータに展開指示信号を送出する。これにより、特定されたエアバックが展開されて、車両の衝突に起因する衝撃から乗員が保護され得る。なお、本例では、エアバックが展開した場合、その後において車両が再走行不能となると想定されている。
次に、上記基準状態にて、上述したエアバック展開条件が成立するほど強くなく、且つ、ステップ315の条件が成立する程度に車両が衝突した場合について説明する。この場合、上述した「車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から所定の程度よりも大きく傾いた可能性がある場合」に相当する。なお、本例では、係る程度の衝突が発生した場合、その後において車両が再走行可能であると想定されている。
この場合、図3のルーチンを繰り返し実行しているエアバックコントローラ70のCPU71は、衝突直後において、ステップ305に進んだとき「No」と判定し、ステップ310にて「Yes」と判定し、ステップ315にて「Yes」と判定してステップ330に進んで、バックアップRAM72内のフラグTILT1の値を「0」から「1」に変更する。ここで、フラグTILT1の値が「1」であることは、前記傾き情報が前記記憶手段に記憶されていることに対応する。
このとき、図4のルーチンを繰り返し実行しているブレーキコントローラ50のCPU51は、ステップ410に進んだとき「No」と判定してステップ435に進み、フラグTILT1の値が「0」から「1」に変更されたか否かを判定する。
現時点はフラグTILT1の値が「0」から「1」に変更された直後であるから、CPU51はステップ435にて「Yes」と判定してステップ440に進み、警告ランプ66へ点灯指示信号を送出し、続くステップ445にてブレーキコントローラ50のバックアップRAM52内に記憶されているフラグTILT2の値を「1」に設定した後、ステップ495に進む。
これにより、以降、消灯指示があるまでは、警告ランプ66は点灯し続ける。加えて、以降、バックアップRAM72のフラグTILT1の値が「1」に維持される限りにおいてステップ425、430の処理が実行され得ないからESC制御が実行されなくなる。即ち、上記「制御禁止・警告処理」が実行される。
なお、バックアップRAM52内に記憶されているフラグTILT2の値を「1」に設定するのは、車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から所定の程度よりも大きく傾いた可能性があるほどブレーキコントローラ50に比較的強い衝撃が加わった事実が過去にあったという履歴を残すためである。
以降、CPU51はステップ410、435にて何れも「No」と判定してステップ450に進み、コネクタS1からフラグTILT1の値のクリア指示信号があるか否かを繰り返しモニタし続ける。フラグTILT1の値のクリア指示信号とは、コネクタS1に接続されているダイアグユニットから送信される、フラグTILT1の値を「0」とする指示を行う信号であり、前記外部機器からの特定コマンドに対応する。
同様に、図3のルーチンを実行するエアバックコントローラ70のCPU71は、ステップ305、310にて何れも「No」と判定してステップ335に進み、ブレーキコントローラ50のCPU51からフラグTILT1の値のクリア指示があるか否かを繰り返しモニタし続ける。
即ち、コネクタS1にダイアグユニットが接続されて、ダイアグユニットからフラグTILT1の値のクリア指示信号が送出されない限り(従って、前記「傾き情報」が前記記憶手段に記憶されている限り)において、上記「制御禁止・警告処理」が継続される。
これにより、警告ランプ66が点灯し続けていることで、車両の運転者は、車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から所定の程度よりも大きく傾いた可能性があること(即ち、統合ユニットIUの搭載姿勢の異常発生)を知り得る。この結果、車両の運転者は、統合ユニットIUの搭載姿勢の調整に係わる修理を行うために車両をディーラー等へ移動させることを促される。
このようにして、車両がディーラー等に持ち込まれた場合、ディーラー等の作業者は、統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢と一致している否かを確認し、一致していない場合、統合ユニットIUの搭載姿勢の調整に係わる修理を行う。具体的には、統合ユニットIUを車体に固定するためのフレーム、パネル等の歪みを除去する修理等が行われる。また、必要があれば、ブレーキコントローラ50のみ、或いは統合ユニットIU全体も交換される。
係る修理等を経て、統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢と一致したことを確認すると、ディーラー等の作業者は、ダイアグユニットをコネクタS1に接続して、ダイアグユニットから上記「フラグTILT1の値のクリア指示信号」が送出されるようにダイアグユニットを操作する。なお、ダイアグユニットは、係る「フラグTILT1の値のクリア指示信号」の送出前に、ダイアグユニットのディスプレー上、或いは音声にて、統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢と一致したことを再度確認する旨の指示がなされるように構成されていることが好ましい。
このようにして、コネクタS1を経てダイアグユニットから上記「フラグTILT1の値のクリア指示信号」が送出されると、図4のルーチンを繰り返し実行しているブレーキコントローラ50のCPU51はステップ450に進んだとき「Yes」と判定してステップ455に進み、警告ランプ66の消灯指示信号を送出し、続くステップ460にてバックアップRAM52内のフラグTILT2の値を「1」から「0」に変更し、続くステップ465にてエアバックコントローラ70のCPU71に対してフラグTILT1の値のクリア指示の信号を送信する。これにより、警告ランプ66は消灯する。
このとき、図3のルーチンを繰り返し実行しているエアバックコントローラ70のCPU71は、ステップ335に進んだとき「Yes」と判定してステップ340に進み、バックアップRAM72内のフラグTILT1の値を「1」から「0」に変更する(即ち、前記傾き情報を消去する)。
これにより、図4のルーチンを繰り返し実行しているブレーキコントローラ50のCPU51は、ステップ410に進んだとき再び「Yes」と判定してステップ415以降の処理を行うようになる。即ち、ステップ425、430の処理が実行され、ESC制御が再び実行され得るようになる。
このように、コネクタS1を経てダイアグユニットから上記「フラグTILT1の値のクリア指示信号」が送出されると(従って、フラグTILT1の値が「0」になると)、ESC制御が実行され得るようになるとともに警告ランプ66が消灯する。換言すれば、上記「制御禁止・警告処理」が実行されなくなって、車両が上述した基準状態に戻る。
以上、ディーラー等において、統合ユニットIUの搭載姿勢の調整に係わる修理により統合ユニットIUの搭載姿勢を基準姿勢と一致させることができた場合について説明した。しかしながら、車両の状況によっては、統合ユニットIUの搭載姿勢を基準姿勢と一致させる修理が困難、或いは不可能な場合も想定され得る。
このような場合、ディーラー等の作業者は、車両挙動センサ63,64,65の出力を除いた統合ユニットIUの他の機能が全て正常であることを条件に、車両挙動センサ63,64,65と同じ型番の第2の車両挙動センサ(即ち、ヨーレイトセンサ、ロールレイトセンサ、及びピッチレイトセンサ)をコネクタS2に接続し、且つ、同第2の車両挙動センサを上述したセンターフロアパネル(トンネル)の車両重心近傍に搭載・固定することができる。
センターフロアパネル(トンネル)の車両重心近傍は、車両の衝突による衝撃が伝達され難いから、車両が衝突しても、センターフロアパネル(トンネル)における第2の車両挙動センサを固定する部分には歪みが発生し難い。従って、この場合、第2の車両挙動センサは、その搭載姿勢が上記基準姿勢と一致する状態で車体に搭載され得る。即ち、第2の車両挙動センサの出力は、車両の挙動を精度良く表す値となり得る。
そして、ディーラー等の作業者は、第2の車両挙動センサの搭載姿勢が基準姿勢と一致していることを確認すると、上述したダイアグユニットをコネクタS1に接続して、ダイアグユニットから上記「フラグTILT1の値のクリア指示信号」が送出されるようにダイアグユニットを操作する。この結果、上述のごとく、バックアップRAM72内のフラグTILT1の値が「1」から「0」に変更される。
このように、コネクタS2に第2の車両挙動センサが接続された場合、図4のルーチンを繰り返し実行しているブレーキコントローラ50のCPU51は、ステップ415に進んだとき、「Yes」と判定してステップ470に進むようになり、車両挙動センサ63,64,65に代えてコネクタS2に接続されている第2の車両挙動センサから、ヨーレイトYrate、ロールレイトRrate、及びピッチレイトPrateを取得するようになる。これにより、統合ユニットIUの搭載姿勢が上記基準姿勢から傾いたままであっても、上記第2の車両挙動センサの出力に基づいてESC制御が適切に実行され得る。
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置では、HU40とコントローラ50とが一体化されてなる統合ユニットIUに車両挙動センサ63,64,65が一体的に配設されている。この運動制御装置は、統合ユニットIUの近傍に搭載されているエアバック展開制御用の加速度センサ81fr(サテライトセンサ)により検出される加速度Gfrがしきい値Gthを超えた場合、「車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から所定の程度よりも大きく傾いた可能性がある」と判定して(即ち、「傾き信号が発生した」と判定して)、ESC制御の実行を禁止し、且つ、統合ユニットIUの搭載姿勢の異常発生を車両の運転者に知らしめるために警告ランプ66を点灯する(即ち、「制御禁止・警告処理」を実行する)。
これにより、車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢(即ち、車両挙動センサ63,64,65の搭載姿勢)が基準姿勢から傾いた可能性がある場合、ESC制御の実行が禁止される。これにより、車両挙動を精度良く表す値とならない可能性のある車両挙動センサ63,64,65の出力に基づいてESC制御が不適切に実行される事態の発生が防止される。加えて、警告ランプ66の点灯により、運転者に対して統合ユニットIUの搭載姿勢の調整に係わる修理(具体的には、統合ユニットIUを車体に固定するためのフレーム、パネル等の歪みを除去する修理等)を促すことができる。
また、「制御禁止・警告処理」が実行される場合、衝突が発生しても搭載されている部品、機器等が交換され難い車体の中央部に搭載されたエアバックコントローラ70のバックアップRAM72内に「傾き情報」(フラグTILT1=1)が記憶される。加えて、ディーラー等の作業者により上記修理の完了時に「傾き情報」が消去されるまで(即ち、フラグTILT1=1である限りにおいて)「制御禁止・警告処理」が継続される。従って、統合ユニットIUの搭載姿勢の調整に係わる修理が完了するまでESC制御が確実に禁止され得、この結果、統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から傾いた状態のまま上述した車両の運動制御が不適切に実行される事態の発生が確実に防止され得る。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る車両の運動制御装置について説明する。図5は、この第2実施形態に係る運動制御装置を搭載した車両の概略構成を示している。図5から理解できるように、第2実施形態は、「傾き検出センサ」として使用されるエアバック展開制御用の加速度センサ81frが統合ユニットIUに内蔵されている点においてのみ、加速度センサ81frが統合ユニットIUとは別に車両に搭載されている前記第1実施形態と異なる。
このように、「傾き検出センサ」として機能する加速度センサ(衝突検出センサ)が統合ユニットIUに内蔵されている場合も、そのセンサの出力は、車両の衝突により統合ユニットIUを車体に固定するためのフレーム・パネルに加わった衝撃の程度(従って、同フレーム・パネルの歪みの程度)を精度良く表す値となる。即ち、第2実施形態における加速度センサ81frの出力も、車両の衝突により車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から傾く程度を精度良く表す値となり、第2実施形態も、前記第1実施形態と同様の作用・効果を奏し得る。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る車両の運動制御装置について説明する。図6は、この第3実施形態に係る運動制御装置を搭載した車両の概略構成を示している。第3実施形態は、統合ユニットIU内に車両挙動センサとしての加速度センサ67が内蔵されている点、及び「傾き検出センサ」としてこの加速度センサ67が使用(兼用)される点において、「傾き検出センサ」としてエアバック展開制御用の加速度センサ81frが使用される前記第1、第2実施形態と異なる。
統合ユニットIU内に内蔵された加速度センサ67の出力も、第2実施形態における加速度センサ81frの出力と同様、車両の衝突により車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢が基準姿勢から傾く程度を精度良く表す値となる。
加速度センサ67は、統合ユニットIUの搭載位置での加速度を検出し加速度Giuを示す信号を出力するようになっている。この加速度センサ67は、車両安定化制御(例えば、上記ESC制御等)の行うための加速度センサであるから、加速度センサ81frに比して検出可能な加速度の範囲(上限値)が小さい。
このため、加速度Giuの上限値Glimは、加速度センサ81frから得られる加速度Gfrについての上述したしきい値Gthよりも小さい。加速度センサ67により検出されるべき実際の加速度がしきい値Gthよりも大きい場合、加速度Giuは上限値Glimに維持される。従って、加速度センサ67を利用して「加速度がしきい値Gthを超えたこと」を直接検出することはできない。換言すれば、加速度センサ67を利用して「傾き信号」が発生したと直接判定することはできない。このため、第3実施形態では、以下のようにして「傾き信号」が発生したと判定する。
図7に示すように、衝突等の発生により統合ユニットIUの搭載位置での実際の加速度が増大してしきい値Gthを超えるような場合、実際の加速度が上限値Glimを超えている間、加速度Giuは上限値Glimに維持される。以下、この期間を「期間Tlim」と称呼する(図7を参照)。加えて、車体に対する統合ユニットIUの搭載姿勢(即ち、加速度センサ67の搭載姿勢)が基準姿勢から傾く場合、加速度センサ67から得られる加速度Giuの時間平均値(以下、「ゼロ点」と称呼する。)がずれる。
以上のことから、第3実施形態では、上記期間Tlimが所定期間以上であって、且つ、期間Tlimの前のゼロ点Gave1と期間Tlimの後のゼロ点Gave2との差ΔGave(図7を参照)が所定値以上である場合、「傾き信号」が発生したと判定する。この結果、上記「制御禁止・警告処理」が実行される。これにより、第3実施形態も、前記第1、第2実施形態と同様の作用・効果を奏し得る。
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1、第2実施形態においては、車両挙動センサとして、ヨーレイトセンサ、ロールレイトセンサ、ピッチレイトセンサの3つのセンサが使用されているが、車両挙動センサとして、これら3つのセンサの任意の1つ、或いは任意の2つが使用されてもよいし、これら3つのセンサに代えて、或いは加えて、前後加速度センサ、横加速度センサ、上下加速度センサが使用されてもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、「制御禁止・警告処理」を行うために使用される前記傾き検出センサとしてエアバック展開制御用の加速度センサが使用されているが、前記傾き検出センサとしてエアバック展開制御用の音響センサが使用されてもよい。
更には、前記傾き検出センサとして、車両の衝突被害軽減システムに搭載されている加速度センサ、及び/又は音響センサが使用されてもよい。「衝突被害軽減システム」とは、プリ・クラッシュ・セーフティ・システムとも呼ばれ、例えば、衝突時にシートベルトを巻き上げるシステム、衝突時にヘッドレストを前方へ移動するシステム等である。
また、上記各実施形態においては、エアバックが展開した場合にはその後において車両が再走行不能になるとの想定のもと、エアバック展開条件が成立した場合においては「制御禁止・警告処理」が実行されないように構成されているが、エアバック展開条件が成立した場合であっても「制御禁止・警告処理」が実行されるように構成してもよい。
また、上記各実施形態においては、前記「傾き情報」(フラグTILT=1)を前記「車体の中央部」に対応するエアバックコントローラ70のバックアップRAM72内に記憶するように構成されているが、前記「車体の中央部」としてのインストゥルメントパネル部、クラスタパネル部等の記憶手段に前記「傾き情報」を記憶するように構成してもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、「フラグTILT1の値のクリア指示信号」が送出されると、ブレーキコントローラ50のバックアップRAM52内のフラグTILT2の値を「1」から「0」に変更するように構成されているが、「フラグTILT1の値のクリア指示信号」が送出されても、バックアップRAM52内のフラグTILT2の値を「1」に維持するように構成してもよい(即ち、図4のステップ460を削除してもよい)。
また、上記第1、第2実施形態においては、加速度センサ81frにより検出される加速度Gfrがしきい値Gthを超えた場合(即ち、前記「傾き信号」が発生した場合)、エアバックコントローラ70のCPU71が直接バックアップRAM72内のフラグTILT1の値を「1」に設定するように構成されているが、前記傾き信号が発生した場合、前記傾き信号が発生したことを受信したブレーキコントローラ50のCPU51がエアバックコントローラ70のCPU71に対してフラグTILT1の値を「1」に設定するように指示するよう構成してもよい。
加えて、統合ユニットを車体に組み付けた後における車体に対する車両挙動センサの搭載姿勢の基準姿勢からのずれ量を取得し、取得したずれ量を用いて車両挙動センサ出力を補正し(ゼロ点補正し)、補正された車両挙動センサ出力に基づいて車両の運動制御を実行するように構成される場合も考えられる(例えば、特願2004−374051号を参照)。このような場合、車両挙動センサの搭載姿勢の基準姿勢からのずれ量が所定の程度よりも大きい場合、上記車両挙動センサ出力の補正を行うことに代えて「車両挙動センサの搭載姿勢の基準姿勢からのずれ量が所定の程度よりも大きい」ことを車両の運転者に知らしめるために警告を行うように構成することが好ましい。
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧発生部、40…ハイドロリックユニット、50…ブレーキコントローラ、51…CPU、52…バックアップRAM、63…ヨーレイトセンサ、64…ロールレイトセンサ、65…ピッチレイトセンサ、70…エアバックコントローラ、71CPU、72…バックアップRAM、81cen,81fr,81fl,81rr,81rl…加速度センサ、67…加速度センサ