JP5246597B2 - ダイヤモンド被覆工具 - Google Patents
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Description
例えば、工具基体表面に、ダイヤモンドの結晶成長の起点となる核付着工程およびダイヤモンドを結晶成長させる結晶成長工程とを繰り返し行うことにより、結晶粒径が2μm以下の微細なダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具が知られており、そして、この被覆工具はダイヤモンド皮膜の凹凸が低減されることから、例えば、Al合金の切削加工で、すぐれた面精度を得られることが知られている。
また、従来被覆工具を、軟質で溶着性の高いAl合金等の高速切削に用いた場合には、切削時の高熱発生により、溶着性の高い被削材(Al合金)の切粉が、工具切刃へ溶着することにより、シャープな切刃を維持することが困難になるばかりか、欠損が生じやすくなるという問題点があった。
この結果、CFRP、Al合金等の高速切削加工に用いた場合、ダイヤモンド被覆工具の寿命は短く、しかも、被削材のバリ発生のために仕上げ面精度が粗くなり、寸法精度も劣るという問題点があった。
即ち、図1には、本発明のダイヤモンド被覆工具の側断面の概略図を示すが、図1において、工具基体1の表面に、例えば、マイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、アークプラズマCVD法等のダイヤモンド気相合成法によって、所定条件で所定層厚の無配向ダイヤモンド皮膜2を形成し、ついで、成膜条件を変更し、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド結晶粒のマトリックス中に平均面積割合で30〜80%分散分布するように、しかも、ダイヤモンド皮膜の厚さ方向に沿って、表面側に向かうほど、配向ダイヤモンド結晶粒の結晶粒径および面積割合が小さな値となるように膜を構成し、さらに、上記ダイヤモンド皮膜の(110)面または(111)面が、傾斜角度数分布グラフの0〜10度の傾斜角区分で30〜60%の度数を占めるような配向ダイヤモンド皮膜で構成した場合には、このダイヤモンド被覆工具は、切削初期の切削抵抗が小さく、シャープな切刃を維持しつつ、バリの発生が少なく、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮するようになることを見出したのである。
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体表面に10〜30μmの膜厚のダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具において、
(a)上記ダイヤモンド皮膜は、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド結晶粒のマトリックス中に平均面積割合で30〜80%分散分布する膜構造からなり、
(b)上記配向ダイヤモンド結晶粒は、ダイヤモンド皮膜の厚さ方向に沿ってみた場合に、その結晶粒径及び面積割合が表面側に向かうほど小さな値となり、
(c)上記ダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面について、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すダイヤモンド皮膜である、
ことを特徴とするダイヤモンド被覆工具。」
に特徴を有するものである。
例えば、通常の熱フィラメント法による化学蒸着装置を用い、
フィラメント温度 1900〜2200℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 700〜850℃、
反応圧力 0.67〜6.7kPa、
反応ガス CH4:3〜8vol%,H2:残、
という条件の化学蒸着で成膜するが、この無配向ダイヤモンド皮膜は、それ自体が高硬度特性を備えるとともに、無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布する配向ダイヤモンド結晶粒が粗大化するのを抑制する作用を有する。
(110)面配向ダイヤモンドは、
フィラメント温度 2200〜2400℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 750〜900℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa、
反応ガス CH4:0.5〜3vol%,H2:残、
(111)面配向ダイヤモンドは、
フィラメント温度 2400〜2600℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 900〜1050℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa、
反応ガス CH4:2〜6vol%,H2:残、
という条件の化学蒸着で形成することができる。
ただ、本発明では、所定結晶粒径の配向ダイヤモンド結晶粒を、所定面積割合で無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布させるために、その成膜条件を、上記配向ダイヤモンドの成膜条件に加え、反応ガスとして、N2:4.0〜15vol%を使用すると効果的である。
例えば、本発明で規定する(110)面配向ダイヤモンド結晶粒を蒸着成膜するための一具体例は以下のとおりである。
蒸着初期(ダイヤモンド皮膜の膜厚0〜5μm)には、
フィラメント温度 2000〜2300 ℃、
フィラメント−基板間隔 5〜20 mm、
基板温度 800〜1000 ℃、
反応圧力 1.33〜6.67 kPa、
反応ガス CH4:1〜5vol%,N2:0〜1vol%,H2:残、
という条件で蒸着し、工具基体近傍(工具基体表面から、5μmの領域。以下、基体側領域という)に、基体側領域結晶粒径0.5〜2μmかつ基体側領域面積割合60〜80%で配向ダイヤモンド結晶粒が分散分布するダイヤモンド皮膜を形成し、
蒸着中期(ダイヤモンド皮膜の膜厚2〜10μm)には、
フィラメント温度 1900〜2200 ℃、
フィラメント−基板間隔 5〜20 mm、
基板温度 750〜900 ℃、
反応圧力 1.33〜3.99 kPa、
反応ガス CH4:3〜10vol%,N2:0〜2vol%,H2:残、
という条件で蒸着し、工具基体近傍(工具基体表面から、3〜8μmの領域。以下、中央部領域という)に、中央部領域結晶粒径0.3〜1μmかつ中央部領域面積割合40〜70%で配向ダイヤモンド結晶粒が分散分布するダイヤモンド皮膜を形成し、
蒸着後期(ダイヤモンド皮膜の膜厚2〜10μm)には、
フィラメント温度 1900〜2100 ℃、
フィラメント−基板間隔 5〜20 mm、
基板温度 700〜900 ℃、
反応圧力 0.6〜2.67 kPa、
反応ガス CH4:5〜10vol%,N2:0〜2vol%,H2:残、
という条件で蒸着し、ダイヤモンド皮膜表面近傍(皮膜表面から、5μmまでの領域。以下、表面側領域という)に、表面側領域結晶粒径0.1〜0.5μmかつ表面側領域面積割合30〜50%で配向ダイヤモンド結晶粒が分散分布するダイヤモンド皮膜を形成する。
上記条件で蒸着形成した配向ダイヤモンド結晶粒の結晶粒径は、1.5(μm)≧基体側領域結晶粒径(μm)>中央部領域結晶粒径(μm)>表面側領域結晶粒径(μm)≧0.2(μm)であって、また、同じく上記条件で蒸着形成した配向ダイヤモンド結晶粒の面積割合についても、80%≧基体側領域面積割合(%)>中央部領域面積割合(%)>表面側領域面積割合(%)≧30%となっており、“ダイヤモンド皮膜の厚さ方向に沿ってみた場合に、その結晶粒径及び面積割合が表面側に向かうほど小さな値となり”という本発明で規定する要件を満足している。
即ち、(111)面配向ダイヤモンド結晶粒を蒸着形成する際に、主として、反応圧力、N2ガス量を調整することによって、1.5(μm)≧基体側領域結晶粒径(μm)>中央部領域結晶粒径(μm)>表面側領域結晶粒径(μm)≧0.2(μm)を満足する(111)面配向ダイヤモンド結晶粒の結晶粒径分布を形成することが可能であり、また、同時に、(111)面配向ダイヤモンド結晶粒の密度について、80%≧基体側領域面積割合(%)>中央部領域面積割合(%)>表面側領域面積割合(%)≧30%とすることが可能である。
そして、上記(110)面、(111)面への配向を示す配向ダイヤモンド結晶粒は、無配向ダイヤモンド結晶粒に比して、すぐれた高硬度と高強度を相兼ね備えている。
したがって、この発明のダイヤモンド被覆工具を、CFRP、Al合金等の高速切削加工に用いた場合であっても、初期切削抵抗が小さく、シャープな切刃を維持したまま、バリを発生することもなく、すぐれた仕上げ面精度を確保することができ、さらに、すぐれた耐欠損性および耐摩耗性を長期の使用に亘って発揮するものである。
ここでは、ダイヤモンド被覆工具を、エンドミル、ドリルに適用した場合について述べるが、本発明はこれに限定されるものではなく、各種の切削工具に適用することが可能である。
(a)まず、
フィラメント温度 2000℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 800℃、
反応圧力 2.66kPa、
反応ガス CH4:4.5vol%,H2:残、
という条件で蒸着し、工具基体の表面に、無配向ダイヤモンド皮膜を成膜し、
(b)ついで、成膜条件を変更し、上記配向ダイヤモンド皮膜の表面に、
フィラメント温度 2300℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 850℃、
反応圧力 2.0kPa、
反応ガス CH4:1.5vol%,N2:0.5vol%,H2:残、
という条件で、配向ダイヤモンド結晶粒を形成し、
(c)上記(a)、(b)の成膜工程を繰り返し行い、さらに、成膜の進行とともに、(b)の成膜工程における反応ガス成分であるN2の含有割合を2vol%までに次第に増加させていくことにより、
(d)表2に示される平均結晶粒径、平均面積割合の配向ダイヤモンド結晶粒が無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布し、かつ、同じく表2に示されるようにダイヤモンド皮膜の厚さ方向に沿って、表面側に向かうほど、配向ダイヤモンド結晶粒の結晶粒径及び面積割合が小さくなるように分散分布した目標膜厚のダイヤモンド皮膜を成膜することにより、本発明のダイヤモンド被覆エンドミル(以下、本発明エンドミルという)1〜4をそれぞれ製造した。
(e)まず、
フィラメント温度 2000℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 800℃、
反応圧力 2.66kPa、
反応ガス CH4:4.5vol%,H2:残、
という条件で蒸着し、工具基体の表面に、無配向ダイヤモンド皮膜を成膜し、
(f)ついで、成膜条件を変更し、上記配向ダイヤモンド皮膜の表面に、
フィラメント温度 2500℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 950℃、
反応圧力 2.0kPa、
反応ガス CH4:3.5vol%,N2:1.0vol%,H2:残、
という条件で、配向ダイヤモンド結晶粒を形成し、
(g)上記(e)、(f)の成膜工程を繰り返し行い、さらに、成膜の進行とともに、(f)の成膜工程における反応ガス成分であるN2の含有割合を2vol%までに次第に増加させていくことにより、
(h)表2に示される平均結晶粒径、平均面積割合の配向ダイヤモンド結晶粒が無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布し、かつ、同じく表2に示されるようにダイヤモンド皮膜の厚さ方向に沿って、表面側に向かうほど、配向ダイヤモンド結晶粒の結晶粒径及び面積割合が小さくなるように分散分布した目標膜厚のダイヤモンド皮膜を成膜することにより、本発明のダイヤモンド被覆エンドミル(以下、本発明エンドミルという)5〜8をそれぞれ製造した。
図3には、一例として、本発明エンドミル3の配向ダイヤモンド結晶粒の(110)面についての傾斜角度数分布グラフを示すが、本発明エンドミル1〜4のダイヤモンド皮膜の(110)面の傾斜角度数分布グラフは、いずれもほぼ同様な傾斜角度数分布グラフを示し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占めた。
図4には、一例として、本発明エンドミル6の配向ダイヤモンド結晶粒の(111)面についての傾斜角度数分布グラフを示すが、本発明エンドミル5〜8のダイヤモンド皮膜の(111)面の傾斜角度数分布グラフは、いずれもほぼ同様な傾斜角度数分布グラフを示しし、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占めた。
さらに、表2には、本発明エンドミル1〜8のダイヤモンド皮膜について、同様の処理によって算出したダイヤモンド皮膜の層厚方向の各位置(基体側、中央部、表面側)における配向ダイヤモンド結晶粒の面積割合(面積%)を、また、ダイヤモンド皮膜全体としての配向ダイヤモンド結晶粒の平均面積割合(面積%)を示した。
本発明エンドミル1、2、5、6および比較エンドミル1、2、5、6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:5mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 240 m/min.、
切断加工:(5 mm)、
テーブル送り: 1500 mm/分、
エアブロー、
の条件(切削条件A)での上記CFRPの乾式高速切断加工試験、
本発明エンドミル3、4、7、8および比較エンドミル3、4、7、8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、JIS・ADC12の板材、
切削速度: 420 m/min.、
溝深さ(切り込み):径方向(ae)2.5mm,軸方向(ap)8mm、
テーブル送り: 1200 mm/分、
エアーブロー、
の条件(切削条件B)での上記Al合金の乾式高速側面切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの切削加工試験でも切刃部に欠損が発生するまでの切削溝長、あるいは、被削材にバリが発生するまでの切削溝長を測定した。
これらの測定結果を表4にそれぞれ示した。
さらに、表5には、本発明ドリル1〜8のダイヤモンド皮膜について、同様の処理によって算出した、ダイヤモンド皮膜の層厚方向の各位置(基体側、中央部、表面側)における配向ダイヤモンド結晶粒の面積割合を、また、ダイヤモンド皮膜全体としての配向ダイヤモンド結晶粒の平均面積割合を示した。
本発明ドリル1〜4および比較ドリル1〜4については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:8mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 180 m/min.、
送り: 0.06 mm/rev、
貫通穴:(8 mm)、
の条件(切削条件C)での上記CFRPの乾式高速穴あけ切削加工試験、
本発明ドリル5〜8および比較ドリル5〜8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:15mmの、JIS・ADC12の板材
切削速度: 220 m/min.、
送り: 0.09 mm/rev、
貫通穴:(15 mm)、
の条件(切削条件D)での上記Al合金の乾式高速穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの乾式高速穴あけ切削加工試験でも、切刃部に欠陥が発生するまで、あるいは、被削材にバリが発生するまでの穴あけ加工数を測定した。
この測定結果を表7にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体表面に10〜30μmの膜厚のダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具において、
(a)上記ダイヤモンド皮膜は、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド結晶粒のマトリックス中に平均面積割合で30〜80%分散分布する膜構造からなり、
(b)上記配向ダイヤモンド結晶粒は、ダイヤモンド皮膜の厚さ方向に沿ってみた場合に、その結晶粒径及び面積割合が表面側に向かうほど小さな値となり、
(c)上記ダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面について、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すダイヤモンド皮膜である、
ことを特徴とするダイヤモンド被覆工具。
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