発明の詳細な説明
本発明は、単離モノクローナル抗体、特に、高いアフィニティーでSDF−1に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体に関する。ある態様において、本発明の抗体は、特徴的な重鎖および軽鎖生殖細胞系列配列および/または特徴的なアミノ酸配列からなるCDR領域のような特徴的な構造特性に由来する。本発明は、単離抗体、そのような抗体の製造方法、そのような抗体からなる免疫抱合体および二価分子ならびに本発明の抗体、免疫抱合体もしくは二価分子を含む薬理学的組成物を提供する。また、本発明はSDF−1検出のような抗体の使用方法や、例えば、乳癌、B細胞性腫瘍および浸潤性腫瘍を含むCXCR4および/またはSDF−1を発現する腫瘍のように、SDF−1発現に関連する疾患の治療方法に関する。さらに、本発明は、リウマチ性関節炎(RA)および変形性関節炎(OA)のような自己免疫疾患の治療あるいは移植拒絶反応の治療における抗体の使用方法に関する。また、さらに、本発明は、増殖性の糖尿病性網膜症の治療における抗体の使用方法に関する。
本発明がより容易に理解されるために、用語を最初に定義する。更なる定義は、詳細な説明を通じて説明する。
「幹細胞由来因子−1」および「SDF−1」という用語は、同じ意味で使用され、その変異体、異性体およびヒトSDF−1の種相同体を含む。従って、ここに開示されるヒト抗体は、SDF−1の異性体のいずれかに交差してもよい。さらに、ここに開示されたヒト抗体は、場合により、ヒト以外の種由来のSDF−1に交差してもよい。ある態様においては、抗体は、一つ以上のヒトSDF−1に完全に特異的であり、種あるいはその他のタイプの非ヒト交差反応を呈さなくてもよい。典型的なヒトSDF−1α、βおよびγアイソフォームの完全なアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号NP_954637(配列番号:44)、NP_000600(配列番号:45)およびNP_001029058(配列番号:46)をそれぞれ有する。
用語“免疫応答”とは、例えば、リンパ球、抗原提示細胞、食細胞、顆粒球および前記細胞または肝臓によって産生された可溶性巨大分子(抗体、サイトカインおよび補体を含む)の作用を称し、その結果、病原体感染、細胞もしくは病原体に侵された組織、癌性細胞、または自己免疫若しくは病原性炎症の場合には正常ヒト細胞もしくは組織の選択的傷害、その破壊もしくは人体からの撲滅が起こる。
“シグナル伝達経路”とは、細胞のある部分から細胞の別の部分への信号伝達において役割を果たしている様々なシグナル伝達分子間の生化学的関係を称している。本文では、“細胞表面レセプター”という文言には、例えば、細胞の形質膜を横断して信号を受けとり、この信号を伝達できる分子および分子の複合体が含まれるものとして使用する。本発明の“細胞表面レセプター”の場合には、SDF−1受容体がある。
用語“抗体”は、本文では、全長抗体およびそのいかなる抗原結合断片(すなわち、“抗原結合部分”)またはその一重鎖を含むものとして使用する。“抗体”は、ジスルフィド結合で連結された少なくとも2個の重鎖(H)と2個の軽鎖(L)を含む糖タンパク質またはその抗原結合部分を称する。各重鎖は、重鎖可変領域(本文においてVHと略す。)と重鎖定常領域とから構成されている。重鎖定常領域は、3個のドメインCH1、CH2およびCH3から構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本文においてVLと略す。)と軽鎖定常領域から構成されている。軽鎖定常領域は、1個のドメインCLで構成されている。VHおよびVL領域は、さらに、相補性決定領域(CDR)と称される変異性の高い領域に小分割され、それらには、フレームワーク領域(FR)と称され、より保存性の高い領域が散在している。各VHおよびVLは、3個のCDRと4個のFRで構成され、下記の順序、すなわち、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端へ配置されている。当該重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含んでいる。抗体の定常領域は、イムノグロブリンの宿主組織または因子への結合を媒介でき、それらには、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および旧来の補体系の第1成分(C1q)が含まれる。
ここで用いられる抗体の“抗原結合部分”(または、単に“抗体部分”)という用語は、本文において、特異的に抗原(例えば、SDF−1)に結合する能力を保持する抗体の1個以上の断片を称するものとして使用する。抗体の抗原結合機能が全長抗体の断片によって行われることが明らかとなっている。抗体の“抗原結合部分”という用語に含まれる結合断片の例として、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインから構成される1価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域中ジスルフィド架橋で結合した2個のFab断片を含む2価の断片であるF(ab´)2断片、(iii)ヒンジ領域の部分を持つ本来的FabであるFab′断片(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul ed.,3.sup.rd ed.1993参照)、(iv)VHおよびCH1ドメインから構成されるFd断片、(v)抗体のシングルアームのVLおよびVHドメインで構成されるFv断片、(vi)VHドメインから構成されるdAb断片(Wardら、(1989)Nature 341:544−546)、(vii)単離相補性決定領域(CDR)および(viii)単一可変ドメインと二つの定常領域を含む重鎖可変領域であるナノボディを含む。さらに、Fv断片の2個のドメインであるVLおよびVHは別々の遺伝子によりコードされているが、それらは、組み換え技術を用いてそれらを単一タンパク質鎖として作製できる合成リンカーにより連結でき、この鎖中では、VLおよびVH領域が対となって1価の分子を形成する(単一鎖のFv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242:423−426;およびHustonら、(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883参照)。このような単一鎖の抗体も、抗体の“抗原結合部分”という用語に含まれる。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を用いて得られ、当該断片について、未改変抗体の場合と同様に有用性を求めてスクリーニングされる。
ここでは、“単離抗体”とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を称する(例えば、SDF−1に特異的に結合するが、SDF−1以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)ものとして使用される。しかし、SDF−1に特異的に結合する単離抗体は、他の種由来のSDF−1のような他の抗原に対する交差反応性を有することもある。さらに、単離抗体は、実質的に他の細胞性物質および/または化学物質を含まない。ここでの“モノクローナル抗体”または“モノクローナル抗体組成物”という用語は、単一分子組成物の抗体分子の調製物を称するものとして使用する。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一結合特異性と親和性を示す。ここでの“ヒト抗体”という用語とは、フレームワークとCDR領域の両方ともにヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を含むものとして使用する。さらに、もし抗体が定常領域を含むならば、この定常領域もヒト生殖細胞系列イムノグロブリン配列に由来する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列イムノグロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロにおけるランダムまたは部位特異的変異誘発またはインビボにおける体細胞変異により導入される変異)も含むものとする。しかし、ここでは、“ヒト抗体”という用語は、マウスのような別の哺乳種の生殖細胞系列に由来するCDR配列をヒトフレームワーク配列上に融合させた抗体も含むことを意図していない。
“ヒトモノクローナル抗体”という用語は、単一結合特異性を示す抗体を称し、フレームワークおよびCDR領域の両者ともにヒト生殖細胞系列イムノグロブイン配列に由来する可変領域を有している。1つの態様において、ヒトモノクローナル抗体は、例えば、形質転換マウスのような形質転換非ヒト動物から得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生され、かかる形質転換マウスは、不死化細胞に融合されたヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する。
ここでの“組み換えヒト抗体”という用語、(a)ヒトイムノグロブイン遺伝子のために形質転換またはトランス染色体されている動物(例えば、マウス)またはそれらから調製したハイブリドーマから単離された抗体(以下にさらに記述する。)、(b)ヒト抗体発現のために形質転換された宿主細胞、例えば、トランスフェクトーマから単離された抗体、(c)組み換え、組み合わせヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、および(d)ヒトイムノグロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含む他の全ての手段によって調製、発現、創製または単離された抗体のように、組み換え手段によって調製、発現、創製または単離された全てのヒト抗体を含む。このような組み換えヒト抗体は、フレームワークおよびCDR配列がヒト生殖細胞系列イムノグロブリン配列に由来している可変領域を有している。しかし、ある態様においては、このような組み換えヒト抗体はインビトロ変異誘発処理(または、ヒトIg配列のために形質転換動物を使用する際には、インビボ体細胞変異誘発処理)に供することができ、したがって、組み換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列VHおよびVL配列に由来し、それに関連しているものの、インビボでヒト抗体生殖細胞系列レパートリ内部に天然には存在しないであろう配列である。
ここでの“アイソタイプ”とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)を称するものとして使用する。
“抗原認識抗体”および“抗原特異的抗体”という用語は、ここで、用語“抗原に特異的に結合する抗体”と相互に使用する。
“ヒト抗体誘導体”という用語とは、ヒト抗体と別の物質または抗体との複合物のようなヒト抗体の全ての修飾形状を称する。
“ヒト化抗体”という用語は、マウスのような別の哺乳種の生殖細胞系列に由来するCDR配列をヒトフレームワーク配列上に移植した抗体を称する。追加のフレームワーク領域改変も、ヒトフレームワーク配列内部で行うことができる。
“キメラ抗体”という用語は、可変領域配列が1種に由来し、定常領域配列が別の種に由来する抗体を称し、例えば、可変領域配列がマウス抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体である。
ここでは、“ヒトPD−1に特異的に結合する”抗体とは、ヒトSDF−1に対して、KDが1×10−7M以下、さらに好適には、KDが5×10−8M以下で結合し、さらに好適には、KDが3×10−8M以下で結合し、さらに好適には、KDが1×10−8M以下で結合する抗体を称するものとして使用する。
ここで、タンパク質または細胞に“実質的に結合しない”とは、そのタンパク質または細胞に結合しないかもしくは高いアフィニティーで結合しないこと、例えば、KDが1×10−6M以上、さらに好適には1×10−5M以上、さらに好適には1×10−4M以上、さらに好適には1×10−3M以上、なお、さらに好適には1×10−2M以上でタンパク質または細胞に結合することを意味する。
“Kassoc”または“Ka”という用語は、ここでは、特定抗体−抗原相互作用の結合速度を称し、一方、用語“Kdis”または“Kd”は、ここでは、特定抗体−抗原相互作用の解離速度と称する。本文では、用語“KD”は、当該解離速度と称するが、それは、“Ka”に対する“Kd”の比率(すなわち、Kd/Ka)から算出され、モル濃度(M)で表わされる。抗体のKD値は、当該技術で確立した手法により決定できる。抗体のKD決定のための好適な方法は、表面プラズマ共鳴を用いることによって、好適にはBiacore(登録商標)システムのようなバイオセンサーシステムを用いることによる。
本文では、IgG抗体についての用語“高親和性”とは、標的抗原に対するKDが1×10−7M以下、好適には5×10−8M以下、さらに好適には1×10−8M以下、なおさらに好適には5×10−9M以下、なおさらに好適には1×10−9M以下のKDを有する抗体を称するものとして使用する。しかし、“高親和性”結合は、他の抗体アイソタイプに対しては変動する。例えば、IgMアイソタイプに対する“高親和性”結合は、KDが10−6M以下、さらに好適には10−7M以下、さらに好適には10−8M以下のKDを有する抗体を称する。
ここでは、“被験者”という用語は、全てのヒトまたは非ヒト動物を含む。用語“非ヒト動物”とは、非ヒト霊長、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生、爬虫等のような哺乳および非哺乳のような全ての脊椎動物を含む。
本発明の様々な点について、以下のサブセクションにおいて、さらに詳述する。
抗SDF−1抗体
本発明の抗体は、抗体の特定の機能的特徴または性質によって特徴づけられる。例えば、当該抗体は、ヒトSDF−1に特異的に結合する。好適には、本発明の抗体はSDF−1に対し、例えば、KDが1×10−7以下の高親和性で結合する。本発明の抗SDF−1抗体は、好適には下記の性質を1個以上示す;
(i)KDが1×10−7M以下でヒトSDF−1に結合する;
(ii)免疫沈降アッセイにより、天然型ヒトSDF−1に結合する;
(iii)CEM細胞へのSDF−1の結合を阻害する;
(iv)CEM細胞でのSDF−1によるカルシウム流入を阻害する;
(v)CEM細胞でのSDF−1による遊走を阻害する;あるいは
(vi)HuVEC細胞での毛細血管形成を阻害する。
好適には、当該抗体は、ヒトSDF−1に対して、KDが5×10−8M以下で結合し、ヒトSDF−1に対してKDが2×10−8M以下で結合し、ヒトSDF−1に対してKDが5×10−9M以下で結合し、ヒトSDF−1に対してKDが4×10−9M以下で結合し、ヒトSDF−1に対してKDが3×10−9M以下で結合し、ヒトSDF−1に対してKDが2×10−9M以下またはヒトSDF−1に対してKDが1×10−9M以下で結合する。
当該抗体は、SDF−1に存在する抗原エピトープに結合し、そのエピトープは他のタンパク質には存在しない。当該抗体は、典型的にSDF−1に結合し、他のタンパク質には結合しないか、他のタンパク質に対して、KDが1×10−6以上、より好適には1×10−5以上、より好適には1×10−4以上、より好適には1×10−3以上、なおさら好適には、1×10−2以上のような低アフィニティーで結合する。
SDF−1抗体の結合能を評価するための標準的アッセイが当該技術で公知であり、例えば、ELISA、ウェスタンブロット、RIAおよびフローサイトメトリーを含む。適切なアッセイは実施例で詳述する。当該抗体の結合動態(例えば、結合親和性)もまた、Biacore(登録商標)システム分析のような当該技術で公知の標準的アッセイによって評価できる。。
モノクローナル抗体 1D3,1H2,1C6および2A5
当該発明の好ましい抗体は、実施例1および2に記載されたものとして、単離、構造決定されたヒトモノクローナル抗体1D3,1H2,1C6および2A5である。1D3,1H2,1C6および2A5のVHアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:1、2、3および4で示される。1D3,1H2,1C6および2A5のVLアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:5、6、7および8で示される。
これらの抗体がそれぞれSDF−1に結合できるとすると、このVHおよびVL配列を“混合して適合させ”、本発明の他の抗SDF−1結合分子を作製できる。このような“混合して適合させた”抗体のSDF−1結合は、上記で記述し、実施例でも記述する結合アッセイ(例えば、ELISA)によって試験できる。好適には、VHおよびVL鎖を混合適合させ、特定のVH/VL対由来のVH配列を構造的に類似のVH配列で置き換える。同様に、特定のVH/VL対由来のVL配列を構造的に類似のVL配列で置き換える。
したがって、一面において、本発明は、
(a)配列番号:1、2、3および4から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
(b)配列番号:5、6、7および8から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含み、
抗体が、SDF−1、好適には、ヒトSDF−1に特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
好ましい態様として、本発明の抗体は、さらに一以上の以下の特徴を有する。
(i)KDが1×10−7M以下でヒトSDF−1に結合する;
(ii)免疫沈降アッセイにより、天然型ヒトSDF−1に結合する;
(iii)CEM細胞へのSDF−1の結合を阻害する;
(iv)CEM細胞でのSDF−1によるカルシウム流入を阻害する;
(v)CEM細胞でのSDF−1による遊走を阻害する;あるいは
(vi)HuVEC細胞での毛細血管形成を阻害する。
好適な重鎖および軽鎖組み合わせには:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
(b)配列番号:5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むか、または
(a)配列番号:2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
(b)配列番号:6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むか、または
(a)配列番号:3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
(b)配列番号:7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むか、または
(a)配列番号:4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および
(b)配列番号:8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
別の面において、当該発明は、1D3、1H2、1C6および2A5またはその組み合わせの重鎖および軽鎖CDR1、CDR2、CDR3を含む抗体を提供する。1D3、1H2、1C6および2A5のVH CDR1のアミノ酸配列は、配列番号:9、10、11および12で表わされる。1D3、1H2、1C6および2A5のVH CDR2のアミノ酸配列は、配列番号:13、14、15および16で表わされる。1D3、1H2、1C6および2A5のVH CDR3のアミノ酸配列は、配列番号:17、18、19および20で表わされる。1D3、1H2、1C6および2A5のVk CDR1のアミノ酸配列は、配列番号:21、22、23および24で表わされる。1D3、1H2、1C6および2A5のVk CDR2のアミノ酸配列は、配列番号:25、26、27および28で表わされる。1D3、1H2、1C6および2A5のVk CDR3のアミノ酸配列は、配列番号:29、30、31および32で表わされる。当該CDR領域は、Kabatシステム(Kabat,E.A.ら,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版、米国保健・保健省、NIH発行、第91−3242号)を用いて描いた。
これらの抗体のそれぞれがSDF−1に結合できることおよび抗原結合特異性が主にCDR1、CDR2およびCDR3領域によって提供されるならば、VH CDR1、CDR2およびCDR3配列とVk CDR1、CDR2およびCDR3配列を“混合して適合させ”(すなわち、各抗体はVH CDR1、CDR2およびCDR3とVK CDR1、CDR2およびCDR3を含まなければならないが、異なる抗体由来のCDRを混合適合させることができる)、本発明の他の抗SDF−1結合分子を作製できる。このような“混合適合させた”抗体のSDF−1結合は、上記に記述し、実施例でも記述した結合アッセイ(例えば、ELISA、ビアコア(登録商標)分析)によって試験できる。好適には、VH CDR配列を混合適合させ、特定のVH配列由来のCDR1、CDR2および/またはCDR3は構造的に類似のCDR配列で置き換える。同様にVKCDR配列を混合適合させ、特定のVK配列由来のCDR1、CDR2および/またはCDR3は構造的に類似のCDR配列で置き換える。新規のVHおよびVL配列をモノクロナール抗体1D3、1H2、1C6および2A5についてここで開示したCDR配列由来の構造的に類似の配列で、1個以上のVHおよび/またはVLCDR領域を置き換えることによって作製できることは当業者には明らかであろう。
したがって、別の態様において、本発明は、さらに:
(a)配列番号:9、10、11、および12から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1;
(b)配列番号:13、14、15および16から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2;
(c)配列番号:17、18、19および20から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3;
(d)配列番号:21、22、23および24から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1;
(e)配列番号:25、26、27および28から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2;
(f)配列番号:29、30、31および32から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3を含み、抗体がSDF−1に、好適にはヒトSDF−1に特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
好適な態様において、当該抗体は
(a)配列番号:9を含む重鎖可変領域CDR1、
(b)配列番号:13を含む重鎖可変領域CDR2、
(c)配列番号:17を含む重鎖可変領域CDR3、
(d)配列番号:21を含む軽鎖可変領域CDR1、
(e)配列番号:25を含む軽鎖可変領域CDR2および
(f)配列番号:29を含む軽鎖可変領域CDR3を含む。
別の好適な態様において、当該抗体は
(a)配列番号:10を含む重鎖可変領域CDR1、
(b)配列番号:14を含む重鎖可変領域CDR2、
(c)配列番号:18を含む重鎖可変領域CDR3、
(d)配列番号:22を含む軽鎖可変領域CDR1、
(e)配列番号:26を含む軽鎖可変領域CDR2および
(f)配列番号:30を含む軽鎖可変領域CDR3を含む。
さらに別の好適な態様において、当該抗体は
(a)配列番号:11を含む重鎖可変領域CDR1、
(b)配列番号:15を含む重鎖可変領域CDR2、
(c)配列番号:19を含む重鎖可変領域CDR3、
(d)配列番号:23を含む軽鎖可変領域CDR1、
(e)配列番号:27を含む軽鎖可変領域CDR2および
(f)配列番号:31を含む軽鎖可変領域CDR3を含む。
さらに別の好適な態様において、当該抗体は
(a)配列番号:12を含む重鎖可変領域CDR1、
(b)配列番号:16を含む重鎖可変領域CDR2、
(c)配列番号:20を含む重鎖可変領域CDR3、
(d)配列番号:24を含む軽鎖可変領域CDR1、
(e)配列番号:28を含む軽鎖可変領域CDR2および
(f)配列番号:32を含む軽鎖可変領域CDR3を含む。
CDR1および/またはCDR2ドメインとは独立に、CD3ドメインは単独で、同種抗原に対する抗体の結合特異性を決定することができ、複数の抗体が共通のCDR3配列に基づき、同じ結合特異性を持って生成されることが予測される。例えば、Klimka et al.,British J.of Cancer 83(2):252−260 (2000)(マウス抗CD30抗体Ki−4の重鎖可変ドメインCDR3を使用したヒト化抗CD30抗体の作製を記載している。);Beiboer et al.,J. Mol.Biol. 296:833−849 (2000)(親マウスMOC−31抗EGP−2抗体の重鎖CDR3配列のみを使用した組み換え上皮グリコプロテイン−2(EGP−2)抗体を記載している。);Rader et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95:8910−8915(1998)(マウス抗インテグリンαvβ3抗体LM609の重鎖および軽鎖を使用したヒト化抗インテグリンαvβ3抗体パネルであって、その各メンバー抗体はCDR3ドメインの外側の遠位配列からなり、親のマウス抗体と同等あるいはそれ以上の高いアフィニティーで親マウス抗体と同じエピトープに結合することができることが記載されている。);Barbas et al.,J.Am.Chem.Soc.116:2161−2162(1994)(CDR3ドメインが抗原結合に対して最も重要であることを開示している。);Barbas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:2529−2533(1995)(ヒト胎盤DNAに対する3つのFab(SI−1、SI−40およびSI−32)の重鎖CDR3配列を、抗破傷風トキソイドFabの重鎖に、その重鎖CDR3を入れ替えることによってグラフティングすることを記載し、CDR3ドメインのみで結合特異性を与えることを証明している。);およびDitzel et al.,J.Immunol. 157:739−749 (1996)(親多特異性Fab LNA3の重鎖CDR3のみを単一特異的なIgG破傷風トキソイド結合Fab p313抗体の重鎖に移すグラフティング研究により、親Fabの結合特異性が十分に維持されることが記載されている。)参照。それら各引例は、全体として、参考文献としてここに含まれる。
従って、本発明は、SDF−1に特異的に結合することができるヒトあるいは非ヒト動物由来のモノクローナル抗体からの一以上の重鎖および/または軽鎖CDR3ドメインからなるモノクローナル抗体を提供する。ある側面において、本発明はSDF−1に特異的に結合し、マウスまたはラットのような非ヒト抗体からの一以上の重鎖および/または軽鎖CDR3ドメインからなるモノクローナル抗体を提供する。いくつかの態様において、非ヒト抗体の一以上の重鎖および/または軽鎖CDR3ドメインからなる本発明抗体は、(a)同じエピトープへの結合に競合することができ;(b)機能的特性を維持し;(c)同じエピトープに結合し;および/または(d)対応する親非ヒト抗体と同様の結合活性を持つ。
他の側面において、本発明は、例えば、非ヒト動物から得られ、SDF−1に特異的に結合することができるヒト抗体からの一以上の重鎖および/または軽鎖CDR3ドメインからなるモノクローナル抗体を提供する。他の側面において、本発明は、例えば、非ヒト動物から得られ、SDF−1に特異的に結合することができる一次ヒト抗体からの一以上の重鎖および/または軽鎖CDR3ドメインからなるモノクローナル抗体を提供し、その一次ヒト抗体からのCDR3ドメインを、SDF−1に特異的に結合できないヒト抗体のCDR3ドメインに置換し、SDF−1に特異的に結合できる二次ヒト抗体を生成する。いくつかの態様において、一次ヒト抗体からの一以上の重鎖および/または軽鎖CDR3ドメインからなる本発明抗体は、(a)同じエピトープへの結合に競合することができ;(b)機能的特性を維持し;(c)同じエピトープに結合し;および/または(d)対応する親一次ヒト抗体と同様の結合活性を持つ。好ましい態様として、一次ヒト抗体は1D3,1H2、1C6または2A5である。
特定の生殖細胞系列配列を有する抗体
ある態様において、本発明の抗体は、特定の生殖細胞系列重鎖イムノグロブリン遺伝子由来の重鎖可変領域および/または特定の生殖細胞系列軽鎖イムノグロブリン遺伝子由来の軽鎖可変領域を含む。例えば、好適な態様において、本発明は、ヒトVH1−24遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域からなり、SDF−1に特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。別の好適な態様において、本発明は、ヒトVH3−7遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域からなり、SDF−1に特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。別の好適な態様において、本発明は、ヒトVKL18遺伝子の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域からなり、SDF−1に特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。さらに、別の好適な態様において、本発明は、
(a)ヒトVH1−24または3−7遺伝子(この遺伝子は、それぞれ配列番号:41または42に記載のアミノ酸配列をコードする)の産物であるかまたはそれに由来する重鎖可変領域を含み、
(b)ヒトVKL18遺伝子(この遺伝子は、それぞれ配列番号:43に記載のアミノ酸配列をコードする)の産物であるかまたはそれに由来する軽鎖可変領域を含み、
(c)SDF−1、好ましくはヒトSDF−1に特異的に結合する単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
VH1−24およびVKL18のVHおよびVKをそれぞれ有する抗体の例としては、1D3および1H2である。VH3−7とVKL18のVHおよびVKをそれぞれ有する抗体の例は1C6および2A5である。
好適な態様において、本発明の抗体は、さらに一以上の以下の特徴を有する。
(i)KDが1×10−7M以下でヒトSDF−1に結合する;
(ii)免疫沈降アッセイにより、天然型ヒトSDF−1に結合する;
(iii)CEM細胞へのSDF−1の結合を阻害する;
(iv)CEM細胞でのSDF−1によるカルシウム流入を阻害する;
(v)CEM細胞でのSDF−1による遊走を阻害する;あるいは
(vi)HuVEC細胞での毛細血管形成を阻害する。
ここでは、ヒト抗体は、この抗体の可変領域がヒト生殖細胞系列イムノグロブリン遺伝子を用いるシステムから得られるならば、特定の生殖細胞系列配列の“産物”であるかまたは“それに由来する”重鎖または軽鎖可変領域を含む。このようなシステムには、ヒトイムノグロブイン遺伝子を有する形質転換マウスを問題の抗原で免疫するかまたはファージディスプレイヒトイムノグロブリン遺伝子ライブラリーを問題の抗原でスクリーニングすることを含む。ヒト生殖細胞系列イムノグロブイン配列の“産物”であるかまたは“それに由来する”ヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列をヒト生殖細胞系列イムノグロブリンのアミノ酸配列と比較し、配列上ヒト抗体配列に最も近い(即ち最大同一性%)ヒト生殖細胞系列イムノグロブリン配列を選択することによって、そのものとして同定できる。特定のヒト生殖細胞系列イムノグロブイン配列の“産物”であるかまたは“それに由来する”ヒト抗体は、例えば、天然の体細胞変異または意図的な部位特異的変異導入によって、生殖細胞系列配列と比較して相違するアミノ酸を含有していてもよい。しかし、選択されたヒト抗体は、典型的には、アミノ酸配列上、ヒト生殖細胞系列イムノグロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であり、他の種の生殖細胞系列イムノグロブインアミノ酸配列(例えば、マウス生殖細胞系列配列)と比較した際、ヒトのものであるとしてヒト抗体を特定するアミノ酸残基を含んでいる。ある場合には、ヒト抗体は、アミノ酸配列上、ヒト生殖細胞系列イムノグロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも95%同一または少なくとも96%、97%、98%または99%同一であることもある。典型的には、特定のヒト生殖細胞系列配列に由来するヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列イムノグロブイン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と10個以下のアミノ酸の相違を示す。ある場合には、当該ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列イムノグロブイン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と5個以下、または4、3、2もしくは1個以下のアミノ酸の相違を示す。
相同抗体
さらに別の態様において、本発明の抗体は、ここに記載の好適な抗体のアミノ酸配列に相同のアミノ酸配列を含む重鎖および軽鎖可変領域を含み、ここで、当該抗体は、本発明の抗SDF−1抗体の望ましい機能的性質を保持している。
例えば、本発明は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域からなる単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部位を提供し、
(a)当該重鎖可変領域は、配列番号:1、2、3および4からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列からなり、
(b)当該軽鎖可変領域は、配列番号:5、6、7および8からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも80%のアミノ酸配列からなり、
(c)当該抗体は、KDが1×10−7M以下でヒトSDF−1に結合し、
(d)当該抗体は、免疫沈降アッセイによって天然型ヒトSDF−1に結合する。
様々な態様において、当該抗体は、例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体であってもよい。
好ましい態様において、本発明の抗体は、さらに、一以上の以下の特徴を有する。
(i)CEM細胞に対するSDF−1結合を阻害し、
(ii)CEM細胞におけるSDF−1誘導性のカルシウム流入を阻害し、
(iii)CEM細胞のSDF−1誘導性遊走を阻害し、
(iv)HuVEC細胞における毛細血管形成を阻害する。
他の態様において、VHおよび/またはVLアミノ酸配列は、上述の配列に対して85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%相同であってもよい。上述の配列のVHおよびVL領域に対して、高い(すなわち、80%以上)相同性を有するVHおよびVL領域を有する抗体は、配列番号:33、34、35、36、37、38、39および40をコードする核酸分子の変異誘発性(例えば、部位特異的またはPCR媒介性変異誘発性)によって得ることができ、その後、機能(すなわち、上記(c)から(d)に記載の機能や上記(i)−(iv)に記載の機能)保持については、ここに記載した機能的アッセイを用いて、コードされた改変抗体を試験する。
ここで述べたように、2つのアミノ酸配列間の相同性%は、その2つの同一性%と同じである。2つの配列間の同一性%は、その2つの配列を最適に配列させるために導入される必要のあるギャップ数および各ギャップの長さを考慮して、当該配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわち、相同性%=#同一位置の数/#総位置数×100)。配列比較と2つの配列の同一性%の決定は、下記の非限定的な事例に述べたように、数学的アルゴリズムを用いて達成できる。
2個のアミノ酸配列の同一性%は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に取り入れたE.MeyersとW.Miller(Comput.Appl.Biosci.、4:11−17(1988))のアルゴリズムを用いて、PAM120重み残基表、12のギャップ長ペナルティと4のギャップペナルティを用いて決定できる。さらに、2つのアミノ酸配列の同一性%は、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)においてGAPプログラムに取り入れたNeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol.48:444−453(1970))アルゴリズムを用いて、Blossum62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、そして、16、14、12、10、8、6または4のギャップ重みおよび1、2、3、4、5または6の長さ重みを用いて決定できる。
さらに、またはこれとは別に、本発明のタンパク質配列は、公表されたデータベースに対してサーチを行うための“クエリー配列”としてさらに用い、例えば、関連配列の同定のために使用することができる。このようなサーチは、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403−10のXBLASTプログラム(ヴァージョン2.0)を用いて実行できる。BLASTタンパク質サーチは、XBLASTプログラム、スコア=50、ワードレングス=3を用いて実行して、本発明の抗体分子に相同のアミノ酸配列を得ることができる。比較目的のためギャップ付きのアラインメントを得るため、Gapped BLASTを、Altschulら(1997)、Nucleic Acids Res.25(17):3389−3402に記載のように用いることができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを用いる際、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用できる。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照)。
保存的修飾を有する抗体
ある態様において、本発明の抗体は、CDR1、CDR2およびCDR3配列を含む重鎖可変領域とCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含み、ここで、これらのCDR配列の1つ以上は、ここに記載の好適な抗体に基づく特定のアミノ酸配列(例えば、1D3、1H2、1C6または2A5)またはその保存的修飾体を含み、かつ、当該抗体は、本発明の抗SDF−1抗体の望ましい機能的性質を保持している。したがって、本発明は、CDR1、CDR2およびCDR3配列を含む重鎖可変領域とCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含み、
(a)重鎖可変領域CDR3配列は、配列番号:17、18、19および20のアミノ酸配列およびその保存的修飾体から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含み、
(b)軽鎖可変領域CDR3配列は、配列番号:29、30、31および32のアミノ酸配列およびその保存的修飾体から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含み、
(c)抗体が、KD1×10−7M以下でヒトSDF−1に結合し、および
(d)抗体が、免疫沈降アッセイにおいて天然型ヒトSDF−1に結合する、単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
好ましい態様において、本発明の抗体は、さらに、一以上の以下の特徴を有する。
(i)CEM細胞に対するSDF−1結合を阻害し、
(ii)CEM細胞におけるSDF−1誘導性のカルシウム流入を阻害し、
(iii)CEM細胞のSDF−1誘導性遊走を阻害し、
(iv)HuVEC細胞における毛細血管形成を阻害する。
好適な態様において、当該重鎖可変領域CDR2配列は、配列番号:13、14、15および16のアミノ酸配列およびその保存的修飾体から構成される群から選択されたアミノ酸配列からなり、当該軽鎖可変領域CDR2配列は、配列番号:25、26、27および28のアミノ酸配列およびその保存的修飾体から構成される群から選択されたアミノ酸配列からなる。別の好適な態様において、当該重鎖可変領域CDR1配列は、配列番号:9、10、11および12のアミノ酸配列およびその保存的修飾体から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含み;当該軽鎖可変領域CDR1配列は、配列番号:21、22、23および24のアミノ酸配列およびその保存的修飾体から構成される群から選択されたアミノ酸配列を含む。
様々な態様において、当該抗体は、例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体であってもよい。
ここでは、“保存配列修飾”とは、当該アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意な影響を及ぼさないかまたは改変しないアミノ酸修飾を称するものとして使用する。このような保存的修飾には、アミノ酸置換、付加および欠失を含む。修飾は、本発明の抗体に、部位特異的変異およびPCR媒介性変異のような当該技術で公知の標準的手法により導入できる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基を類似の側鎖を有するアミノ酸で置き換えることをいう。類似側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは、当該技術で定義されている。そのようなファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非電荷極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が含まれる。したがって、本発明の抗体のCDR領域内部の1つ以上のアミノ酸残基は、同一側鎖ファミリーを他のアミノ酸残基で置き換えることができ、その改変抗体は、本文に述べた機能的アッセイを用いて保持機能(すなわち、上記の(c)から(d)に述べた機能と上記の(i)から(iv)に述べた機能)について試験できる。
配列番号:9、10、11または12の重鎖CDR1配列は、1、2、3、4、5あるいはそれ以上のアミノ酸置換、付加または欠損のような一以上の保存的配列修飾からなってもよく、配列番号:21、22、23または24の軽鎖CDR1配列は、1、2、3、4、5あるいはそれ以上のアミノ酸置換、付加または欠損のような一以上の保存的配列修飾からなってもよく、配列番号:13、14、15または16の重鎖CDR2配列は、1、2、3、4、5あるいはそれ以上のアミノ酸置換、付加または欠損のような一以上の保存的配列修飾からなってもよく、配列番号:25、26、27または28の軽鎖CDR2配列は、1、2、3、4、5あるいはそれ以上のアミノ酸置換、付加または欠損のような一以上の保存的配列修飾からなってもよく、配列番号:17、18、19または20の重鎖CDR3配列は、1、2、3、4、5あるいはそれ以上のアミノ酸置換、付加または欠損のような一以上の保存的配列修飾からなってもよく、配列番号:29、30、31または32の軽鎖CDR3配列は、1、2、3、4、5あるいはそれ以上のアミノ酸置換、付加または欠損のような一以上の保存的配列修飾からなってもよい。
本発明の抗SDF−1抗体と同一エピトープに結合する抗体
別の態様において、本発明は、本発明のSDF−1モノクローナル抗体のいずれかと同一のヒトSDF−1上のエピトープに結合する抗体(すなわち、本発明のモノクローナル抗体のいずれかとSDF−1結合を交差競合する能力を有する抗体)を提供する。好適な態様において、交差競合研究の参考抗体は、モノクローナル抗体1D3(それぞれ配列番号:1および5に示したようなVHおよびVLを有する)、またはモノクローナル抗体1H2(それぞれ配列番号:2および6に示したようなVHおよびVLを有する)、またはモノクローナル抗体1C6(それぞれ配列番号:3および7に示したようなVHおよびVLを有する)、またはモノクローナル抗体2A5(それぞれ配列番号:4および8に示したようなVHおよびVLを有する)であってもよい。このような交差競合性抗体は、標準的なSDF−1結合アッセイにおいて1D3、1H2、1C6または2A5と交差競合する能力に基づいて同定できる。例えば、BIAcore(商標登録)分析、ELISAアッセイまたはフローサイトメトリーを用いて、本発明の抗体との交差競合を明らかにすることもできる。ヒトSDF−1に対する、例えば、1D3、1H2、1C6または2A5の結合を阻害する試験抗体の能力は、試験抗体がヒトSDF−1に対する結合を1D3、1H2、1C6または2A5と競合でき、従って、1D3、1H2、1C6または2A5と同一のヒトSDF−1上エピトープに結合することを明らかにする。好適な態様において、1D3、1H2、1C6または2A5と同一のヒトPD−1上エピトープに結合する抗体は、ヒトモノクローナル抗体である。このようなヒトモノクローナル抗体は、実施例に記載のようにして調製して単離できる。
工学的に作製かつ修飾された抗体
本発明の抗体は、修飾抗体を工学的に作製するための出発物質として、ここに開示した1つ以上のVHおよび/またはVL配列を有する抗体を用いて調製でき、ここで、当該修飾抗体は、当該出発抗体と同じ改変された性質を有することがある。抗体は、1つ以上の可変領域(すなわち、VHおよび/またはVL)内部、例えば、1つ以上のCDR領域内部および/または1つ以上のフレームワーク領域内部の1つ以上の残基を修飾することによって工学的に作製できる。さらに、またはこれとは別に、抗体は、例えば、抗体のエフェクター機能を改変するために定常領域内部の残基を修飾することによって工学的に作製できる。
ある態様において、CDRグラフトは、抗体の可変領域を設計するのに使用される。抗体は、主に6個の重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)に局在するアミノ酸残基を介して標的抗原と相互作用する。このため、CDR内部のアミノ酸配列は、CDR外部の配列よりもそれぞれの抗体間でより多様性が高い。CDR配列はほとんどの抗原抗体相互作用に関与しているので、異なる性質を有する異なる抗体由来のフレームワーク配列に移植された特定の天然抗体由来CDR配列を含む発現ベクターを構築することによって、この特定の天然抗体の性質を模倣する組み換え抗体を発現させることが可能である(例えば、Riechmann、L.ら(1998)Nature 332:323−327、Jones,P.ら(1986)Nature 321:522−525、Queen,C.ら(1989)Proc.Natl.Acad.See.USA 86:10029−10033、Winterの米国特許5,225、539およびQueenらの米国特許5,530,101,5,585,089,5,693,762および6,180,370を参照)。
したがって、本発明の別の態様は、それぞれ配列番号:9、10、11および12、配列番号:13、14、15および16、および配列番号:17、18、19および20から構成される群から選択したアミノ酸配列を含むCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む重鎖可変領域ならびにそれぞれ配列番号:21、22、23および24、配列番号:25、26、27および28および配列番号:29、30、31および32から構成される群から選択したアミノ酸配列を含むCDR1、CDR2およびCDR3を含む配列軽鎖可変領域を含む単離モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。したがって、上記抗体は、モノクローナル抗体1D3、1H2、1C6または2A5のVHおよびVLCDR配列を含むが、これらの抗体と異なるフレームワーク配列も含むでもよい。
このようなフレームワーク配列は、公表されたDNAデータベースまたは生殖細胞系列抗体遺伝子配列を含む公表された文献から得ることができる。例えば、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子についての生殖細胞系列DNA配列は、“VBase”ヒト生殖細胞系列配列データベース(インターネットでwww.mrc−cpe.cam.ac.uk/vbaseから入手可能)ならびにKabat,E.ら(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、米国健康およびヒトサービス部、NIH Publication 91−3242、Tomlinson,I.M.ら(1992)“The Repertoire of Human Germline VH Sequences Reveals about Fifty Groups of VH Segments with Different Hypervariable Loops”、J.Mol.Biol.227:776−798;およびCox,J.P.L.ら(1994)“A Directory of Human Germ−line VH Segments Reveals a Strong Bias in their Usage”,Eur.J.Immunol.24:827−836;それらのそれぞれの内容は、本文で参考として引用している。別の例として、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子の生殖細胞系列DNA配列は、GenBankデータベース中で同定できる。例えば、HCo7 HuMAbマウス中で認められる下記の重鎖生殖細胞系列配列は、1−69(NG_0010109、NT_024637およびBC070333)、3−33(NG_0010109およびNT_024637)および3−7(NG_0010109およびNT_024637)の付属GenBank登録番号で入手可能である。別の例として、HCo12 HuMAbマウス中で見られる下記の重鎖生殖細胞系列配列は、1−69(NG_0010109、NT_024637およびBC070333)、5−51(NG_0010109およびNT_024637)、4−34(NG_0010109およびNT_024637)、3−30.3(AJ556644)および3−23(AJ406678)の付属GenBank登録番号で入手可能である。
抗体タンパク質配列は、当業者によく知られているギャップBLASTと呼ばれる配列類似検索法(Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Research 25:3389−3402)の一つを使用して、コンパイルされたタンパク質配列データベースに対して比較される。BLASTは、抗体配列とデータベース配列間の統計的に優位なアラインメントが配列された文字の高スコアの区分ペア(HSP)を含んでいるような発見的アルゴリズムである。スコアが延長またはトリミングによって改善できない区分ペアは、ヒットと呼ばれる。主に、VBASEオリジン(http://vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk/vbase1/list2.php)の塩基配列は翻訳され、両端を含むFR1からFR3フレームワーク領域間の領域は保持される。データベースの配列は98残基の平均長を有する。タンパク質の全長に渡って厳格に一致する重複配列が分離される。デフォルト、低頻度フィルターを除く標準パラメーターをオフとし、BLOSUM62の置換行列を伴うプログラムblastpを使用したタンパク質BLASTサーチは、配列マッチが上位5番目までとなるようフィルターする。塩基配列はすべての6フレームで翻訳され、データベース配列の適合区分中にストップコドンがないフレームは可能性のあるヒットと判断される。順次、これはBLASTプログラムtblastxを使用して確認され、同プログラムはすべての6フレームで抗体配列を翻訳し、すべての6フレームで動的に翻訳されたVBASE塩基配列に対して、それら配列を比較する。
同一とは、全長配列で、抗体配列とタンパク質データベース間での実際のアミノ酸一致である。陽性(同一+代替的一致)は同一でなく、BLOSUM62置換行列によって誘導された代替アミノ酸である。抗体配列が同じ同一性で2つのデータベース配列に一致する場合には、最も陽性であるヒットが一致配列ヒットであると決定される。
本発明の抗体における使用に好適なフレームワーク配列は、本発明の選択抗体によって使用されたフレームワーク配列に構造的に類似するものであり、例えば、本発明の好適なモノクローナル抗体において用いられたVH1−24フレームワーク配列(配列番号:41)および/またはVH3−7フレームワーク配列(配列番号:42)および/またはVKL18フレームワーク配列(配列番号:43)に類似である。VH CDR1、CDR2およびCDR3配列およびVK CDR1、CDR2およびCDR3配列は、フレームワーク配列が由来する生殖細胞系列イムノグロブリン遺伝子に認められるものと同一の配列を有するフレームワーク領域に移植でき、または当該CDR配列は、当該生殖細胞系列配列と比較して1つ以上の変異を含むフレームワーク領域に移植できる。例えば、ある場合において、フレームワーク領域内部の残基を変異させ、当該抗体の抗原結合能力を保持するかまたは増強することが有益であることが見出されている(例えば、Queenらの米国特許5,530,101;5,585,089;5,693,762および6,180、,370を参照)。
別のタイプの可変領域の修飾としては、VHおよび/またはVK CDR1、CDR2および/またはCDR3領域内部のアミノ酸残基を変異させ、それによって問題の抗体の1つ以上の結合性質を改善させることである。部位特異的変異またはPCR媒介性変異を実施して変異を導入でき、抗体結合または問題の他の機能的性質に及ぼす効果を、ここに記載し、実施例で提示されるインビトロまたはインビボアッセイで評価できる。好適には、(上記したような)保存的修飾を導入する。当該変異は、アミノ酸置換、付加または欠失であるが、好適には置換である。さらに、典型的には、CDR領域内の1個以下、2個以下、3個以下、4個以下または5個以下の残基を改変する。
したがって、別の態様において、本開示は、(a)配列番号:9、10、11および12から構成される群から選択されたアミノ酸配列または配列番号9、10、11および12と比較して1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含むVH CDR1領域、(b)配列番号:13、14、15および16から構成される群から選択されたアミノ酸配列または配列番号:13、14、15および16と比較して1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含むVH CDR2領域、(c)配列番号:17、18、19および20から構成される群から選択されたアミノ酸配列または配列番号:17、18、19および20と比較して1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含むVH CDR3領域、(d)配列番号:21、22、23および24から構成される群から選択されたアミノ酸配列または配列番号:21、22、23および24と比較して1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含むVK CDR1領域、(e)配列番号:25、26、27および28から構成される群から選択されたアミノ酸配列または配列番号:25、26、27および28と比較して1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含むVK CDR2領域;および(f)配列番号:29、30、31および32から構成される群から選択されたアミノ酸配列または配列番号:29、30、31および32と比較して1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含むVK CDR3領域を含む重鎖可変領域を含む単離抗SDF−1モノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
工学的に作製された本発明の抗体には、例えば、抗体の性質を改良するためにVHおよび/またはVK内部のフレームワーク残基に修飾を行ったものを含む。典型的には、このようなフレームワーク修飾は、抗体の免疫原性を減ずるために行われる。例えば、ひとつの手法は、生殖細胞系列配列に対応する1個以上のフレームワーク残基を“バック変異”させる。さらに詳細には、体細胞変異を受けた抗体は、抗体が由来する生殖細胞系列配列と異なるフレームワーク残基を含むことができる。このような残基は、抗体が由来する生殖細胞系列配列に対して抗体フレームワーク配列を比較することによって識別できる。
別の例にあるように、例えば、2A5について、VHのアミノ酸残基#1(FR1内部)はグルタミン(配列番号:4)であるが、一方、対応するVH3−7生殖細胞系列配列におけるこの残基はグルタミン酸(配列番号:42)である。フレームワーク領域配列をそれらの生殖細胞系列配置に戻すため、例えば、2A5のVHのFR1中の残基#1は、グルタミンからグルタミン酸に“バック変異”させることができる。そのような“バック変異”抗体は、本発明に伴うものでもある。
別の例にあるように、例えば、2A5について、VHのアミノ酸残基#6(FR1内部)はグルタミン(配列番号4)であるが、一方、対応するVH3−7生殖細胞系列配列におけるこの残基はグルタミン酸(配列番号42)である。フレームワーク領域配列をそれらの生殖細胞系列配置に戻すため、例えば、2A5のVHのFR1中の残基#6は、グルタミンからグルタミン酸に“バック変異”させることができる。そのような“バック変異”抗体は、本発明に伴うものでもある。
例えば、下記の表1は、重鎖親生殖細胞系列配列と異なる抗SDF−1抗体1D3、1H2、1C6および2A5のフレームワーク領域中におけるアミノ酸変化数を示している。フレームワーク領域配列中の1個以上のアミノ酸残基をそれらの生殖細胞系列配置に戻すため、体細胞変異を、例えば、部位特異的変異誘発またはPCR媒介性変異誘発によって、生殖細胞系列配列に“バック変異”させることができる。
例えば、下記の表2は、軽鎖親生殖細胞系列配列と異なる抗SDF−1抗体1D3、1H2、1C6および2A5のフレームワーク領域中におけるアミノ酸変化数を示している。フレームワーク領域配列中の1個以上のアミノ酸残基をそれらの生殖細胞系列配置に戻すため、体細胞変異を、例えば、部位特異的変異誘発またはPCR媒介性変異誘発によって、生殖細胞系列配列に“バック変異”させることができる。
親生殖細胞系列V
H1−24(配列番号:41)配列に対する1D3および1H2のV
H領域の配置を図6に示す。親生殖細胞系列V
H3−7(配列番号:42)配列に対する1C6および2A5のV
H領域の配置を図7に示す。親生殖細胞系列V
kL18(配列番号:43)配列に対する1D3および1H2のV
k領域の配置を図7に示す。親生殖細胞系列V
kL18(配列番号:43)配列に対する1C6および2A5のV
k領域の配置を図8に示す
別のタイプのフレームワーク修飾は、当該フレームワーク領域内部またはさらに1個以上のCDR領域内部の1個以上の残基を変異させ、T細胞エピトープを除去し、それによって抗体の潜在的免疫原性を低下させることも包含する。この手法は“脱免疫”とも称され、さらに詳細には、Carrらによる米国特許公報20030153043に記載されている。
フレームワークまたはCDR領域内部に作製された修飾に加えて、またはそれとは別に、本発明の抗体を工学的に処理し、そのFc領域内部に修飾を行い、典型的には、血清半減期、補体固定、Fcレセプター結合および/または抗原依存性細胞傷害性のような1個以上の抗体の機能的特徴を改変する。さらに、本発明の抗体は、化学的に修飾でき(例えば、1個以上の化学成分を当該抗体に付加できる)、または修飾してそのグリコシル化を改変させ、また、抗体の1個以上の機能的特徴を改変させることもできる。これらのそれぞれの態様を、さらに下記で詳細に説明する。Fc領域中の残基数は、KabatのEUインデックスの数字である。
一つの態様において、ヒンジ領域中のシステイン残基数を、例えば、増加させるかまたは低下させるなど改変させるように、CH1のヒンジ領域を修飾する。この手法は、さらにBodmerらの米国特許5,677,425に記載されている。CH1のヒンジ領域中のシステイン残基数を改変し、例えば、軽鎖および重鎖の集合を促進させるかまたは抗体安定性を増すかあるいは減じる。
別の態様において、抗体の生物学的半減期を短くするため、抗体のFcヒンジ領域を変異させる。さらに詳細には、抗体が天然のFcヒンジドメインSpA結合に比較して不完全なブドウ球菌タンパク質A(SpA)結合を持つように、1個以上のアミノ酸変異をFcヒンジ断片のCH2−CH3ドメイン界面領域に導入する。この手法は、さらにWardらの米国特許6,165,745に詳細に記載されている。
別の態様において、当該抗体を修飾して、その生物学的半減期を長くする。様々な手法が可能である。例えば、1個以上の下記の変異:Wardの米国特許6,277,375に記載のようなT252L、T254S、T256Fを導入できる。これとは別に、Prestaらの米国特許5,869,046および6,121,022に記載されているとおり、生物学的半減期を長くするため、CH1またはCL領域内部で抗体を改変し、IgGのFc領域のCH2ドメインの2個のループから取ったサルベージレセプター結合エピトープを含ませる。
さらに他の態様において、Fc領域を、少なくとも1個のアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基で置換することによって改変し、抗体のエフェクター機能を改変する。例えば、アミノ酸残基234、235、236、237、297、318、320および322から選択した1個以上のアミノ酸を、抗体がエフェクターリガンドに対して改変された親和性を有するが、親抗体の抗原結合能は保持するように、異なるアミノ酸残基で置き換えることができる。親和性を改変したエフェクターリガンドは、例えば、Fcレセプターまたは補体のC1成分であってもよい。この手法は、さらに両者ともにWinterらの米国特許5,624,821および5,648,260に詳細に記載されている。
別の態様において、アミノ酸残基329、331および322から選択した1個以上のアミノ酸を、抗体が改変されたC1q結合および/または低下若しくは停止した補体依存性細胞傷害性(CDC)を有するように異なるアミノ酸残基で置き換えることができる。この手法は、さらに詳細に、Idusogieらの米国特許6,194,551に記載されている。
別の例において、アミノ酸位置231および239内部の1個以上のアミノ酸残基を改変し、それによって抗体の補体固定能力を改変する。この手法は、さらに詳細に、BodmerらのPCT公報WO94/29351に記載されている。
さらに別の例において、Fc領域を修飾して、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介する抗体の能力を増加させるかおよび/または下記の238、239、248、249、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、293、294、295、296、298、301、303、305、307、309、312、315、320、322、324、326、327、329、330、331、333、334、335、337、338、340、360、373、376、378、382、388、389、398、414、416、419、430、434、435、437、438または439の位置にある1個以上のアミノ酸を修飾することによって、Fcγレセプターに対する抗体の親和性を増加させる。この手法は、Prestaにより、PCT公報WO00/42072にさらに説明されている。さらに、ヒトIgG1上のFcγRI、FcγRII、FcγRIIIおよびFcRnに対する結合部位はマップに示されており、改良された結合を有する改変体も記載されている(Shields,R.L.ら(2001)J.Biol.Chem. 276:6591−6604を参照)。256、290、298、333、334および339の位置における特異的変異がFcγRIIIに対する結合を改善することが示されている。さらに、下記のT256A/S298A、S298A/E333A、S298A/K224AおよびS298A/E333A/K334Aの組み合わせ変異体がFcγRIII結合を改善することが示されている。
さらに別の態様において、抗体をグリコシル化修飾する。例えば、非グリコシル化抗体を作製できる(すなわち、当該抗体はグリコシル化を欠いている)。グリコシル化改変は、例えば、抗原に対する抗体の親和性を高めることができる。このような炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内部の1個以上のグリコシル化部位を改変することによって達成できる。例えば、1個以上のアミノ酸置換を作製し、その結果、1個以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位を消失させ、それによってその部位でのグリコシル化を消失させる。このような非グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を高めることができる。このような手法は、さらに詳細に、Coらによる米国特許5,714,350および6,350,861に記載されている。
さらにまたはこれとは別に、フコシル残基量が少ない低フコシル化抗体または二分性GlcNac構造が増加した抗体のような改変されたタイプのグリコシル化を有する抗体を作製できる。このような改変グリコシル化パターンは、抗体のADCC能力を高めることが明らかになっている。このような炭水化物修飾は、例えば、改変グリコシル化機構を有する宿主細胞中で抗体を発現させることによって達成できる。改変グリコシル化機構を有する細胞は先行技術で説明されており、本発明の組み換え抗体を発現させる宿主細胞として使用し、それによって改変グリコシル化を有する抗体を産生させる。例えば、細胞株Ms704、Ms705およびMs709は、フコシルトランスフェラーゼ遺伝子FUT8α(1,6)フコシルトランスフェラーゼを欠失しており、MS704、Ms705およびMs709細胞株で発現した抗体がそれら炭水化物上にフコースを欠失している。Ms704、Ms705およびMs709のFUT8−/−細胞株は、2つのリプレイスメントベクター(Yamaneらによる米国特許公報20040110704およびYamane−Ohnukiら(2004)Biotechnol Bioeng 87:614−22を参照)を用いて、CHO/DG44細胞中でFUT8遺伝子を標的破壊することによって作製した。別の例として、HanaiらによるEP1,176,195は、機能的に破壊されたFUT8遺伝子を有する細胞株を記載しおり、その遺伝子はフコシルトランスフェラーゼをコードしており、このような細胞株中で発現した抗体は、α 1,6結合関連酵素の減少または消失によって低フコシル化を示している。Hanaiらは、抗体のFc領域に結合するかまたはその酵素活性を有していないN−アセチルグルコサミンにフコースを付加する酵素活性が低い細胞株、例えば、ラット骨髄細胞株YB2/0(ATCC CRL1662)についても述べている。PrestaによるPCT公報WO03/035835には、フコースをAsn(297)結合炭水化物に結合させる能力が低下しており、その結果、その宿主細胞中で発現した抗体のフコシル化が低下することになる様々なCHO細胞やLec13細胞について記載されている(同様に、Shields,R.L.(2002)J.Biol.Chem.277:26733−26740を参照)。UmanaらによるPCT公報WO99/54342は、糖タンパク質修飾グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)を発現するように工学的に作製した細胞株を記載しており、この工学的に作製した細胞株中で発現した抗体は二分性GlcNac構造の増加を示し、その結果、抗体のADCC活性が増加することになる(同様に、Umanaら(1999)Nat.Biotech. 17:176−180参照)。これとは別に、抗体のフコース残基は、フコシダーゼ酵素を用いて切断除去することができる。例えば、フコシダーゼ α−L−フコシダーゼは、抗体からフコシル残基を除去する(Tarentino,A.L.ら(1975)Biochem. 14:5516−23)。
本発明で検討した抗体の別の修飾は、PEG化である。抗体をPEG化し、例えば、抗体の生物学的(例えば、血清中)半減期を長くすることができる。抗体をPEG化するため、通常、抗体またはその断片を、PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体のようなポリエチレングリコール(PEG)と、1個以上のPEG基が抗体または抗体断片に結合するようになる条件化で反応させる。好適には、PEG化は、反応性PEG分子(または類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応により、実施する。ここでは、用語“ポリエチレングリコール”とは、モノ(C1−C10)アルコキシ−またはアリルオキシ−ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール−マレイミドのような他のタンパク質を誘導体化するために用いるいかなる形状のPEGをも含むものとする。ある態様において、PEG化される抗体は非グリコシレーションされた抗体である。タンパク質PEG化方法は、当該技術により公知であり、本発明の抗体にも適用できる。例えば、NishimuraらによるEP0154316およびIshikawaらによるEP0401384が参照できる。
抗体の物理的特徴
本発明の抗体は、抗SDF−1抗体の様々な物理的特徴によってさらに特徴付けすることができる。それら物理的特徴に基づく抗体の検出および/または相違するクラスを分類するために様々なアッセイが使用される。
いくつかの態様において、本発明の抗体は、軽鎖または重鎖可変領域何れかにおける一以上のグリコシル化部位を含んでいてもよい。可変領域における一以上のグリコシル化部位の存在は、抗体の抗原性の増加、変化する抗原結合による抗体のpKの変化をもたらすかもしれない(Marshall et al (1972) Annu Rev Biochem 41:673−702; Gala FA and Morrison SL (2004) J Immunol 172:5489−94; Wallick et al (1988) J Exp Med 168:1099−109; Spiro RG (2002) Glycobiology 12:43R−56R; Parekh et al (1985) Nature 316:452−7; Mimura et al. (2000) Mol Immunol 37:697−706)。グリコシル化は、N−X−S/T配列を含むモチーフで起こることが知られている。可変領域におけるグリコシル化は、グリコブロットアッセイで試験でき、同アッセイは、抗体を分解してFabを産生させ、過ヨウ素酸酸化とシック塩基形成を測定するアッセイでグリコシル化を試験する方法である。あるいは、可変領域のグリコシル化は、Dionex光クロマトグラフィー(Dionex−LC)で試験することができ、同法は、Fabからサッカライドを分解してモノサッカライドを生成させ、個々のサッカライド量を分析する方法である。いくつかの例において、可変領域グリコシル化を含まない抗SDF−1抗体を有することは好ましい。これは、可変領域におけるグリコシル化モチーフを含まない抗体を選択する、あるいは先行技術でよく知られている標準的技術でグリコシル化モチーフ内の残基を変異させることのいずれかによって達成できる。
好ましい態様として、本発明の抗体はアスパラギン異性化部位を含まない。脱アミドあるいはイソアスパラギン酸効果は、N−GまたはD−G配列でそれぞれ生じるかもしれない。脱アミドあるいはイソアスパラギン酸効果は、イソアスパラギン酸を生成させ、主鎖よりもむしろC末端側鎖にねじれ構造を生じさせることによって抗体の安定性を減少させる。イソアスパラギン酸の生成は、イソ−クワントアッセイで分析することができ、同法は逆相HPLCを用いて、イソアスパラギン酸を試験することができる。
それぞれの抗体には、特異的な等電点(pI)があるが、一般的には、6から9.5のpH範囲内となる。IgG1抗体のpIは、典型的には、7〜9.5のpH範囲内であり、IgG4抗体のpIは、典型的には、6〜8のpH範囲内である。この範囲外のpIを持つ抗体もあるかもしれない。一般的にはその効果は不明であるが、一般的な範囲外のpIを持つ抗体はインビボ下ではホールディングされず、不安定であるかもしれないと推測される。等電点は、キャピラリー等電点電気泳動アッセイで試験することができ、同法では、pH勾配を作り、精度を上げるためにレーザー集束を用いられる(Janini et al (2002) Electrophoresis 23:1605−11; Ma et al. (2001) Chromatographia 53:S75−89; Hunt et al (1998) J Chromatogr A 800:355−67)。いくつかの例において、通常の範囲内のpI値を持つ抗SDF−1抗体を有することは好ましい。これは、通常の範囲内のpIをもつ抗体を選択する、あるいは先行技術でよく知られている標準的技術で荷電表面残基を変異させることのいずれかによって達成できる
それぞれの抗体は、熱安定性の指標である融解温度を持つ(Krishnamurthy R and Manning MC (2002) Curr Pharm Biotechnol 3:361−71)。高い熱安定性は、インビボでのより強い全般的な抗体の安定性を示す。抗体の融解点は、示差走査熱量測定のような技術で測定することができる(Chen et al (2003) Pharm Res 20:1952−60;Ghirlando et al (1999) Immunol Lett 68:47−52)。TM1は、初期アンフォールディング温度を示す。TM2は 完全アンフォールディング温度を示す。一般的に、本発明の抗体のTM1は、60℃より高く、好ましくは65℃より高く、さらにより好ましくは70℃よりも高いことが好ましい。あるいは、抗体の熱安定性は、円偏光二色性法で測定できる(Murray et al. (2002) J. Chromatogr Sci 40:343−9)。
好ましい態様として、抗体は、急速に劣化しないものが選択される。抗SDF−1抗体の断片化は、先行技術においてよく理解されているように、キャピラリー電気泳導法(CE)やMALDI−MSで分析することができる(Alexander AJ and Hughes DE (1995) Anal Chem 67:3626−32)。
別の好ましい態様において、抗体は、最小の凝集効果を持つものが選択される。凝集は、望ましくない免疫反応を誘発および/または変動もしくは好ましくない薬理学的動態特性を誘導するかもしれない。一般的に、抗体は25%以下、好ましくは20%以下、さらにより好ましくは15%以下、さらにより好ましくは10%以下、さらにより好ましくは5%以下の凝集が許容される。凝集は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および単量体、二量体、三量体または多量体を同定する光散乱を含むいくつかのよく周知の技術により測定できる。
抗体の工学的処理方法
上記したように、ここに開示したVHおよびVK配列を有する抗SDF−1抗体を用いて、VHおよび/またはVK配列またはそれに結合した定常領域を修飾することによって、新しい抗SDF−1抗体を作製できる。したがって、本発明の別の面において、本発明の抗SDF−1抗体の構造的特徴、例えば、1D3、1H2、1C6または2A5を用いて、ヒトSDF−1に対する結合のような本発明の抗体の少なくとも一つの機能的特徴を保持する構造的に関連した抗SDF−1抗体を作製できる。例えば、1D3、1H2、1C6または2A5またはその変異体の1個以上のCDR領域を公知のフレームワーク領域および/または他のCDRと組み換えで組み合わせて、付加的な組み換え工学で作製された本発明の抗SDF−1抗体を上述のように作製できる。他の修飾タイプには、前章で述べたものが含まれる。工学的方法の出発物質は、ここで提供した1個以上のVHおよび/またはVK配列またはその1個以上のCDR領域である。工学的抗体を作製するために、VHおよび/またはVK配列の1個以上またはその1個以上のCDR領域を有する抗体を実際に調製(すなわち、タンパク質として発現させる)する必要はない。むしろ、配列に含まれる情報を出発物質として用いて、当初の配列に由来する“第二世代”配列を作製し、次に、この“第二世代”配列をタンパク質として調製し発現させる。
したがって、別の態様において、本発明は、
(a)(i)配列番号:9、10、11および12から構成される群から選択したCDR1配列、配列番号:13、14、15および16から構成される群から選択したCDR2配列および/または配列番号:17、18、19および20から構成される群から選択したCDR3配列を含む重鎖可変領域抗体配列、および/または(ii)配列番号:21、22、23および24から構成される群から選択したCDR1配列、配列番号:25、26、27および28から構成される群から選択したCDR2配列、および/または配列番号:29、30、31および32から構成される群から選択したCDR3配列を含む軽鎖可変領域抗体配列を提供すること、
(b)重鎖可変領域抗体配列および/または軽鎖可変領域抗体配列内部の少なくとも1個のアミノ酸残基を改変し、少なくとも1個の改変抗体配列を作製すること;および
(c)当該改変抗体配列をタンパク質として発現させることを含む抗SDF−1抗体を調製する方法を提供する。
標準的な分子生物学的技術を用いて、改変抗体配列を調製および発現できる。
好適には、改変抗体配列によってコードされた抗体は、ここに記載した抗SDF−1抗体の機能的特徴の一つ、一部または全てを保持するものであり、その機能的特徴には下記が含まれるが、それらに限定されない。
(a)KDが1×10−7M以下でヒトSDF−1に結合する;
(b)免疫沈降アッセイにより、天然型ヒトSDF−1に結合する;
(c)CEM細胞へのSDF−1の結合を阻害する;
(d)CEM細胞でのSDF−1によるカルシウム流入を阻害する;
(e)CEM細胞でのSDF−1による遊走を阻害する;あるいは
(f)HuVEC細胞での毛細血管形成を阻害する。
改変抗体の機能的特徴は、先行技術で利用可能でおよび/またはここに記載した標準的アッセイ、例えば、実施例に記載されたもの(例えば、フローサイトメトリー、結合アッセイ)を用いて評価できる。
本発明の抗体を工学的に作製する方法のある態様において、抗SDF−1抗体コード配列の全体または一部に沿ってランダムにまたは選択的に変異を導入でき、生成した修飾抗SDF−1抗体について、ここに記載したような結合活性および/または他の機能的特徴をスクリーニングできる。変異方法は先行技術に記載されている。例えば、ShortのPCT公報WO02/092780は、飽和突然変異法、合成ライゲーション連結法またはそれらの組み合わせを用いて抗体変異を作製し、スクリーニングする方法を記載している。これとは別に、LazarらによるPCT公報WO03/074679は、抗体の物理化学的性質を最適化するため、コンピュータによりスクリーニングする方法を用いる方法を記載している。
本発明の抗体をコードする核酸分子
本発明の別の面は、本発明の抗体をコードする核酸分子に関する。核酸は、細胞全体に、細胞溶解物にまたは部分精製もしくは実質的に純粋な形状で存在できる。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsCl結合、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動およびその他当該技術の周知の方法を含む標準的技術によって、例えば、他の細胞性核酸またはタンパク質のような他の細胞性成分または他の夾雑物から精製して取り出す際に“単離される”かまたは“実質的に純粋にされる”。F.Ausubelら(1987)Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience, New Yorkを参照。本発明の核酸は、例えば、DNAまたはRNAであってもよく、イントロン配列を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。好適な態様において、当該核酸はcDNA分子である。
本発明の核酸は、標準的な分子生物学的技術を用いて得ることができる。ハイブリドーマ(例えば、さらに下記で説明するようなヒトイムノグロブリン遺伝子を有する形質転換マウスから調製したハイブリドーマ)発現抗体の場合には、ハイブリドーマ作製抗体の軽鎖および重鎖をコードするcDNAは、標準的PCR増幅法またはcDNAクローニング技術によって得ることができる。イムノグロブリン遺伝子ライブラリーから(例えば、ファージディスプレイ技術を用いて)得られた抗体の場合には、抗体をコードする核酸をライブラリーから回収できる。
本発明の好適な核酸分子は、1D3、1H2、1C6または2A5モノクローナル抗体のVHおよびVL配列をコードするものである。1D3、1H2、1C6または2A5のVH配列をコードするDNA配列は、それぞれ配列番号:33、34、35および36で示される。1D3、1H2、1C6または2A5のVL配列をコードするDNA配列は、それぞれ配列番号:37、38、39および40に示されている。
本発明の他の好ましい核酸は、配列番号:33、34、35、36、37、38、39および40で示される配列の一つに対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性のような、少なくとも80%の配列同一性を持つ核酸であり、同核酸は本発明の抗体もしくはその抗原結合部分をコードする。
二つの核酸配列間の同一性%は、ギャップの数やそれぞれのギャップの長さを考慮に入れてヌクレオチドが同一である配列中の位置の数であり、二つの配列が最適に配置されるよう導入される必要がある。配列の比較と二つの配列間の同一性%の決定は、MeyersとMillerのアルゴリズムもしくは前記のAltschulのXBLASTプログラムのような数学的アルゴリズムで達成できる。
また、さらに、本発明の好ましい核酸は、配列番号:33、34、35、36、37、38、39および40で示される核酸配列の一以上のCDRコード部分からなる。この態様において、その核酸は、1D3、1H2、1C6または2A5の重鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3または1D3、1H2、1C6または2A5の軽鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3をコードしていてもよい。
配列番号:33、34、35、36、37、38、39および40のそのようなCDRコード部位と、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%のような少なくとも80%の配列同一性をもつ核酸も、本発明の核酸として好ましい。そのような核酸は、非CDRコード領域および/またはCDRコード領域における配列番号:33、34、35、36、37、38、39および40に対応する部位と異なっていてもよい。その相違がCDRコード領域にあるとき、その核酸によってコードされる核酸CDR領域は、典型的には、1D3、1H2、1C6または2A5の対応するCDR配列と比較して、ここに定義される一以上の保存的配列の修飾を含む。
VHおよびVL部分をコードするDNA断片が一旦得られると、これらのDNA断片は、さらに、標準的な組み換えDNA技術によって処理され、例えば、可変領域遺伝子を全長抗体鎖遺伝子、Fab断片遺伝子またはscFv遺伝子に変換できる。これらの操作において、VLまたはVHをコードするDNA断片は、抗体定常領域または可動性リンカーのような別のタンパク質をコードする別のDNA断片に適切に作用するように連結させる。ここで使われる用語「適切に作用するように連結する」とは、2つのDNA断片が、この2つのDNA断片でコードされるアミノ酸配列がインフレームの状態で結合することを意味する。
VH領域をコードする単離DNAは、重鎖定常領域(CH1、CH2およびCH3)をコードする別のDNA分子にVHをコードするDNAを適切に作用するように連結されることによって全長重鎖遺伝子に変換できる。ヒト重鎖定常領域遺伝子の配列は、当該技術において公知であり(例えば、Kabat、E.A.ら(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版、米国保健・保健省、NIH発行、第91−3242号を参照)、これらの領域を含むDNA断片は、標準的PCR増幅法で得られる。重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgMまたはIgD定常領域であってもよいが、最も好適には、IgG1またはIgG4定常領域である。Fab断片重鎖遺伝子について、VHをコードするDNAは、重鎖CH1定常領域のみをコードする別のDNA分子に適切に作用するように連結できる。
VL領域をコードする単離DNAは、軽鎖定常領域CLをコードする別のDNA分子にVLをコードするDNAを適切に作用するように連結されることによって、全長軽鎖遺伝子(ならびにFab軽鎖遺伝子)に変換できる。ヒト軽鎖定常領域遺伝子の配列は、当該技術において公知であり(例えば、Kabat,E.A.ら(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版、米国保健・保健省、NIH発行、第91−3242号を参照)、これらの領域を網羅するDNA断片は、標準的PCR増幅法によって得ることができる。好ましい態様において、軽鎖定常領域は、κまたはλ定常領域である。
scFv遺伝子を作製のため、VHおよびVLをコードするDNA断片は、例えば、アミノ酸配列(Gly4−Ser)3(配列番号:51)をコードする可動性リンカーをコードする別の断片に適切に作用するように連結させ、VHおよびVL配列を連続的な一重鎖タンパク質として発現できるようにし、VLおよびVH領域はこの可動性リンカーで結合されている(例えば、Birdら(1988)Science 242:423−426、Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci. USA 85、5879−5883;McCaffertyら、(1990)Nature 348:552−554参照)。
本発明のモノクローナル抗体作製
本発明のモノクローナル抗体(mAbs)は、例えば、KohlerとMilstein(1975)Nature 256:495の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術のような従来のモノクローナル抗体方法を含む様々な手法によって作製できる。体細胞ハイブリダイゼーション操作が好適であるが、原則的には、モノクローナル抗体作製のための他の技術として、例えば、Bリンパ細胞のウイルス性または癌性形質転換を用いることができる。
ハイブリドーマ調製のための好適な動物はマウスである。マウスにおけるハイブリドーマ産生は、非常に確立された操作である。免疫化プロトコールおよび免疫した融合用脾臓細胞単離のための技術は、当該技術において公知である。融合パートナー(例えば、マウス骨髄細胞)および融合操作も公知である。
本発明のキメラまたはヒト化抗体は、上記のように調製した非ヒトモノクローナル抗体配列に基づき調製できる。重鎖および軽鎖イムノグロブリンをコードするDNAは、標準的な生物学的技術を用いて、問題の非ヒトハイブリドーマから得ることができ、非マウス(例えば、ヒト)イムノグロブリン配列を含むよう工学的に作製できる。例えば、キメラ抗体を作製するため、当該技術において公知の方法を用いて、マウス可変領域をヒト定常領域に連結させることができる(例えば、Cabillyらの米国特許4,816,567)。ヒト化抗体を作製するため、当該技術において公知の方法を用いて、マウスCDR領域をヒトフレームワークに挿入できる(例えば、Winterの米国特許5,225,539および米国特許5,530,101、Queenらの米国特許5,585,089および6,180,370を参照)。
好適な態様において、本発明の抗体は、ヒトモノクローナル抗体である。SDF−1に対して作製されたヒトモノクローナル抗体は、マウス系よりはむしろヒト免疫系部分を含む形質転換またはトランス染色体マウスを用いて産生させることができる。これらの形質転換およびトランス染色体マウスには、ここで、HuMAbマウスおよびKMマウス(商標)とそれぞれ称したマウスが含まれ、本文で“ヒトIgマウス”と総称する。
HuMAb Mouse(登録商標)(Medarex社)は、内因性μおよびκ鎖座(例えば、Lonbergら(1994)Nature 368(6474):856−859)を不活性化する標的変異とともに、非再配置ヒト重鎖(μおよびκ)およびκ軽鎖イムノグロブリン配列をコードするヒトイムノグロブリン遺伝子ミニ遺伝子座を含む。したがって、当該マウスは、マウスIgMまたはκ発現低下を示し、免疫化に応答して、導入したヒト重鎖および軽鎖トランスジーンがクラススイッチングと体細胞変異を受け、高親和性のヒトIgGκモノクローナルを産生する(Lonberg、N.ら(1994)同上;Lonberg、N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101中でレビュー、Loberg,N.およびHuszar,D.(1995)Intern.Rev.Immunol. 13:65−93およびHarding,F.およびLonberg,N.(1995)Ann.N.Y.Acad.Sci. 764:536−546)。HuMab Mouse(登録商標)の調製とその使用およびこのようなマウスが有するゲノム修飾は、さらに、Tailor,L.(1992)Nucleic Acids Research 20:3287−6295、Chen,J.ら(1993)International Immunology 5:647−656、Tuaillonら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:3720−3724、Choiら(1993)Nature Genetics 4:117−123、Chen,J.ら(1993)EMBO J. 12:821−830、Tuaillonら(1994)J.Immunol. 152:2912−2920、Taylor,L.ら(1994)International Immunology 6:579−591、およびFishwild,D.ら(1996)Nature Biotechnology 14:845−851に記載されており、それらの全ての内容は、ここに、特に断ってその全文を参考として引用している。さらに、米国特許5,545,806、5,569,825、5,625,126、5,633,425、5,789,650、5,877,397、5,661,016、5,814,318、5,874,299および5,770,429を参照、全てLonbergとKayによる、Suraniらの米国特許5,545,807、LonbergおよびKayのPCT公報WO92/03918、WO93/12227、WO 94/25585、WO97/13852、WO98/24884およびWO99/45962、およびKormanらのPCT公報WO01/14424を参照。
別の態様において、本発明のヒト抗体は、ヒト重鎖トランスジーンとヒト軽鎖トランス染色体を有するマウスのようなトランスジーンおよびトランス染色体上にヒトイムノグロブリン配列を有するマウスを用いて作製できる。本文でこのようなマウスを“KMマウス(商標)”と称し、IshidaらのPCT公報WO02/43478に詳細に記載されている。
またさらに、ヒトイムノグロブリン遺伝子を発現する別の形質転換動物システムは公知技術により利用可能であり、本発明の抗SDF−1抗体を作製するために使用できる。例えば、ゼノマウス(Xenomouse)(Abgenix社)と称されている別の形質転換系も用いることができ、このようなマウスは、例えば、Kucherlapatiらの米国特許5,939,598、6,075,181、6,114,598、6,150,584および6,162,963に記載されている。
さらに、ヒトイムノグロブリン遺伝子を発現する別の形質転換動物システムは公知技術により利用可能であり、本発明の抗SDF−1抗体を作製するために使用できる。例えば、“Tcマウス”と称されているヒト重鎖トランス染色体とヒト軽鎖トランス染色体を両者ともに有するマウスも使用でき、このようなマウスは、Tomizukaら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:722−727に記載されている。さらに、ヒト重鎖および軽鎖トランス染色体を有するウシも先行技術において記載されており(Kuroiwaら(2002)Nature Biotechnology 20:889−894)、本発明の抗SDF−1抗体の作製に使用できる。
本発明のヒトモノクローナル抗体は、ヒトイムノグロブリン遺伝子ライブラリースクリーニングのためのファージディスプレイ方法を用いて調製できる。ヒト抗体単離のためのこのようなファージディスプレイ方法は公知技術において確立されている。例えば、Ladnerらの米国特許5,223,409、5,403、,484および5,571,698、Dowerらの米国特許5,427,908および5,580,717、McCaffertyらの米国特許5,969,108および6,172,197、およびGriffithsらの米国特許5,885,793、6,521,404、6,544,731、6,555,313、6,582,915および6,593,081を参照。
本発明のヒトモノクローナル抗体は、免疫によりヒト抗体応答が起こるように、ヒト免疫細胞を再構築したSCIDマウスを用いて調製できる。このようなマウスは、例えば、Wilsonらの米国特許5,476,996および5,698,767に記載されている。
ヒトIgマウスの免疫
ヒトIgマウスを用いて本発明のヒト抗体を作製する場合、Lonberg,N.ら(1994)Nature 368(6474);856−859、Fishwild,D.ら(1996)Nature Biotechnology 14:845−851およびPCT公報WO98/24884およびWO01/14424に記載されているようにして、精製または高含量のSDF−1抗原および/または組み換えSDF−1もしくはSDF−1発現細胞またはSDF−1融合タンパク質により、このようなマウスを免疫できる。好適には、6−16週齢の当該マウスに対して最初の注入を行う。例えば、SDF−1抗原の精製または組み換え調製物(5−50μg)を用いて、腹腔中でヒトIgマウスに免疫できる。
SDF−1に対する全長ヒトモノクローナル抗体を作製するための詳細な操作を下記の実施例1に述べている。様々な抗原による累積的な経験により、完全フロイントアジュバントの抗原で最初に腹腔内(IP)免疫し、次に2週おきに不完全フロイントアジュバントの抗原でIP免疫(最大6まで)した時、形質転換マウスが応答することが明らかにされている。しかし、フロイント以外のアジュバントも有効であることがわかる。さらに、アジュバントの非存在下において全細胞が極めて免疫原性が高いことがわかっている。この免疫応答を、眼窩後方出血により得られた血漿サンプルを免疫化プロトコール過程でモニターできる。血漿は、ELISA(下記で述べたように)によりスクリーニングでき、十分な抗SDF−1ヒトイムノグロブリン力価を有するマウスを融合に使用できる。マウスを、屠殺3日前に抗原を静注することでブーストし、脾臓を取り出した。各免疫には2−3回の融合を実施する必要がある。通常、6〜24匹のマウスを各抗原で免疫する。通常、HCo7およびHCo12株の両者を使用する。さらに、HCo7およびHCo12トランスジーンの両者を、2つの異なるヒト重鎖導入遺伝子(HCo7/HCo12)を有する1匹のマウスで作製できる。これとは別に、またはこれに加えて、KM Mouse(登録商標)系統を、実施例1に記載のようにして使用できる。
ファージ−ディスプレイ コンビナトリアル ライブラリーの作製とスクリーニング
抗体可変領域の初期cDNAライブラリーは、SDF−1で免疫されたHuMAb mouse(登録商標)またはKM mouse(登録商標)のいずれかからの脾臓で構築された。その後、抗体可変領域はファージ発現ベクターにクローン化された。ファージの選別は、ビオチン化SDF−1とともに、Omniclonal(登録商標)ファージ選別法(バイオサイト社,サンディエゴ,カリフォルニア)で行い、ナノモル結合活性(KM脾臓)またはサブナノモル結合活性(HuMAb脾臓)を持つ可変領域断片のスクリーニングを行った。問題の可変領域断片は、Fab発現ベクターに再クローン化され、そのFabは結合活性および機能アッセイについて再試験される。プライマーをコードする可変領域のN末端部位は、それぞれの可変領域の生殖細胞系列配列に戻し突然変異された。その後、抗体全体は、標準的な分子生物学的技術で、高親和性抗SDF−1 Fabから作製された。
ヒトモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
本発明のヒトモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ作製のため、免疫したマウス由来の脾臓および/またはリンパ節細胞を単離し、マウス骨髄細胞株のような適切な不死化細胞株に融合できる。得られたハイブリドーマについて、抗原特異的抗体の産生をスクリーニングできる。例えば、免疫したマウス由来の脾臓リンパ球の単細胞懸濁物を、50%PEGにより、6分の1数のP3X63−Ag8.653非分泌マウス骨髄細胞(ATCC、CRL1580)に融合できる。これとは別に、免疫したマウス由来の脾臓リンパ球の単細胞懸濁物を、サイトパルス大型チェンバー細胞融合エレクトロポレータ(Cyto Pulse Sciences,Inc.,Glen Burnie,MD)を用いて、電場に基づく電気融合法により融合させることができる。細胞は、約2×105個で平底マイクロタイタープレートに播種し、20% 胎児クローン血清、18% “653”調製培地、5% オリゲン(IGEN)、4mM L−グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、5mM HEPES、0.055mM 2−メルカプトメタノール、50単位/mL ペニシリン、50mg/mL ストレプトマイシン、50mg/mL ゲンタマイシンおよび1xHAT(Sigma;HATを注入24時間後に添加する)を含む選択培地中で2週間インキュベーションする。約2週後、細胞をHATをHTに置き換えた培地中で培養する。次に、それぞれのウェルをヒトモノクローナルIgMおよびIgG抗体のELISAでスクリーニングする。いったん広範なハイブリドーマ増殖が起こると、培地は、通常、10−14日後に観察できる。抗体分泌ハイブリドーマを再播種し、再度スクリーニングし、もしヒトIgGがまだ陽性であるならば、モノクローナル抗体を少なくとも2回限定希釈によってサブクローニングする。次に、安定なサブクローンをインビトロで培養し、少量の抗体を組織培地に産生させ、特性解析する。
ヒトモノクローナル抗体を精製するため、選択したハイブリドーマを2リットルのスピナーフラスコ中で増殖させ、モノクローナル抗体を精製できる。上清をろ過し、濃縮して、プロテインA−セファロース(Pharmacia,Piscataway、N.J.)によるアフィニティクロマトグラフィーを行う。溶出したIgGをゲル電気泳動と高速液体クロマトグラフィーでチェックし、純度を確認できる。緩衝液をPBSに交換し、濃度は1.43吸光係数を用いてOD280で決定できる。モノクローナル抗体を等量に分け、−80℃で保存できる。
モノクローナル抗体産生トランスフェクトーマの作製
また、本発明の抗体は、例えば、当該技術において周知の組み換えDNA技術と遺伝子トランスフェクション技術を組み合わせて、宿主細胞中で産生させることができる(例えば、Morrison,S.(1985)Science 229:1202)。
例えば、抗体またはその抗体断片発現のため、部分または全長軽鎖および重鎖をコードするDNAは、標準的な分子生物学的技術(例えば、PCR増幅または問題の抗体を発現するハイブリドーマを用いたcDNAクローニング)により得られ、このDNAを、遺伝子が適切に作用するように転写および翻訳調節配列に連結されるように発現ベクター中に挿入できる。この本文において、用語“適切に作用するように連結する”とは、ベクター内部の転写および翻訳調節配列が抗体遺伝子の転写と翻訳を制御するというそれらの目的機能を果たすようにベクターに連結されることを意図している。発現ベクターと発現調節配列は、使用した発現宿主細胞に適合するように選択する。抗体軽鎖遺伝子および抗体重鎖遺伝子を別々のベクターに挿入できるが、さらに典型的には、両者の遺伝子ともに同一発現ベクターに挿入する。抗体遺伝子は、標準的方法(例えば、抗体遺伝子断片上の相補性制限部位とベクターとのライゲーション、または制限部位が全く存在しないならば、平滑末端ライゲーション)によって発現ベクター中に挿入される。ここに述べた抗体の軽鎖および重鎖可変領域を用いて、VHセグメントがベクター内部のCHセグメントに作用可能なように連結され、VKセグメントはベクター内部のCLセグメントに作用可能なように連結されるよう、それらを所望のアイソタイプの重鎖定常および軽鎖定常領域をすでにコードしている発現ベクター中に挿入することによって、いかなる抗体のアイソタイプの全長抗体遺伝子をも創製できる。さらにまたはこれとは別に、組み換え発現ベクターは、宿主細胞から抗体鎖の分泌を促進するシグナルペプチドをコードできる。当該抗体鎖遺伝子は、シグナルペプチドがインフレームで抗体鎖遺伝子のアミノ末端に連結されるようにベクター中にクローニングできる。当該シグナルペプチドは、イムノグロブリンシグナルペプチドまたは非相同シグナルペプチド(すなわち、非イムノグロブリンタンパク質由来のシグナルペプチド)であってもよい。
抗体鎖遺伝子に加えて、本発明の組み換え発現ベクターは、宿主細胞中において抗体鎖遺伝子の発現を調節できる制御配列を有している。用語“制御配列”とは、抗体鎖遺伝子の転写または翻訳を調節するプロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含む。このような制御配列は、例えば、Goeddel(Gene Expression Technology. Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、CA(1990))に記載されている。当業者は、制御配列の選択を含む発現ベクターの設計が形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベル等のような因子に依存することを理解できる。哺乳類宿主細胞発現のための好適な制御配列には、サイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP)およびパピローマに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサーのような、哺乳類細胞におけるタンパク質高発現を指示するウイルスエレメントを含む。これとは別に、ユビキチンプロモーターまたはβ−グロビンプロモーターのような非ウイルス制御配列も使用できる。さらに、制御エレメントは、SRαプロモーターシステムのような異なる起源由来の配列で構成され、それらはSV40アーリープロモーターおよびヒトT細胞白血病ウイルス1型の長い末端繰り返し由来の配列を含む(Takebe,Y.ら(1988)Mol.Cell.Biol. 8:466−472)。
抗体鎖遺伝子および制御配列に加えて、本発明の組み換え発現ベクターは、宿主細胞中におけるベクターの複製を制御する配列(例えば、複製開始点)および選択マーカー遺伝子のような付加的配列も有することができる。当該選択マーカー遺伝子は、ベクターを導入した宿主細胞の選択を促進する(例えば、すべてAxelらの米国特許4,399,216、4,634,665および5,179,017を参照)。例えば、典型的には、選択マーカー遺伝子は、ベクターを導入した宿主細胞上でG418、ハイグロマイシンまたはメトトレキセートのような薬物に対する耐性を付与する。好適な選択マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキセート選択/増幅とともにdhfr−宿主細胞中で使用するため)およびneo遺伝子(G418選択用)を含む。
軽鎖および重鎖発現のため、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターは、標準的な技術により宿主細胞に導入できる。用語“トランスフェクション”の様々な形態は、外来性DNAを原核生物または真核生物宿主細胞に導入するために一般的に用いた広範囲の技術を包含することを意図しており、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE−デキストラントランスフェクション等である。本発明の抗体を原核生物または真核生物の宿主細胞のいずれにも発現させることは理論的には可能であるが、そのような真核細胞、特に、哺乳類細胞が原核生物に比べて、適切に折りたたまれ、免疫学的に活性のある抗体を集合させ分泌させやすいため、真核細胞での抗体の発現、さらにもっとも好適には哺乳類宿主細胞での抗体の発現が最も好適である。抗体遺伝子の原核生物における発現は高収率の活性抗体産生には無効であると報告されている(Boss,M.A.およびWood、C.R.(1985)Immunology Today 6:12−13)。
本発明の組み換え抗体発現のために好適な哺乳類宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)(例えば、UrlaubおよびChasin(1980)Proc.Natl.Acad.Sci. USA 77:4216−4220に記載されているDHFR選択可能マーカーとともに使用した、R.J.KaufmanおよびP.A.Sharp(1982)Mol.Biol.159:601−621に記載されているようなdhfr−CHO細胞を含む)、NSO骨髄細胞、COS細胞およびSP2細胞が含まれる。特に、NSO骨髄細胞とともに使用する場合には、別の好適な発現システムは、WO87/04462、WO89/01036およびEP338,841に開示されたGS遺伝子発現システムである。抗体遺伝子をコードする組み換え発現ベクターを哺乳類宿主細胞中に導入する時、宿主細胞中で抗体を発現させるまたはさらに好適には宿主細胞を増殖させる培地中に抗体を分泌させるだけの十分な時間宿主細胞を培養することによって抗体は産生される。抗体は標準的なタンパク質精製方法を用いて培地から回収できる。
抗原への抗体結合の特性解析
本発明の抗体は、例えば、標準的ELISAによってSDF−1への結合を試験できる。簡単に述べると、マイクロタイタープレートをPBS中0.25μg/mLの精製SDF−1でコートし、次に、PBS中5%のウシ血清アルブミンでブロックする。抗体希釈物(例えば、SDF−1免疫マウス由来の血漿の希釈物)を各ウェルに添加し、37℃で1−2時間インキュベーションする。プレートをPBS/Tweenで洗浄し、次に、アルカリホスファターゼ結合第2試薬(例えば、ヒト抗体用には、ヤギ抗ヒトIgG Fc−特異的ポリクローナル試薬)とともに37℃で1時間、インキュベーションする。洗浄後、プレートをpNPP基質(1mg/mL)で発色させ、OD406−650で分析する。好適には、最大力価を示したマウスを融合用に用いる。
上記したようなELISAアッセイも同様に用いて、SDF−1抗原と陽性反応を示すハイブリドーマをスクリーニングする。SDF−1に高親和力で結合するハイブリドーマをサブクローニングし、さらに特性解析する。各ハイブリドーマから親細胞の反応性を保持するクローンを1個(ELISAにより)選択し、抗体精製のために5−10個のバイアル細胞バンクを作成し、−140℃で保存する。
抗SDF−1抗体精製のため、選択したハイブリドーマを2リットルのスピナーフラスコ中で増殖させることができ、モノクローナル抗体を精製する。上清をろ過し濃縮した後、プロテインA−セファロース(Pharmacia,Piscataway、N.J.)によるアフィニティクロマトグラフィーを行う。溶出したIgGをゲル電気泳動と高速液体クロマトグラフィーでチェックし、純度を確認できる。緩衝液をPBSに交換し、濃度は1.43吸光係数を用いてOD280で決定できる。モノクローナル抗体を一定分量に分け、−80℃で保存できる。
選択された抗SDF−1モノクローナル抗体が独自のエピトープに結合するかどうかを決定するため、各抗体を市販の試薬(Pierce,Rockford、IL)を用いてビオチン化できる。非標識モノクローナル抗体とビオチン化モノクローナル抗体を用いた競合実験を、上記のSDF−1塗布ELISAプレートを用いて実施できる。ビオチン化mAb結合は、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼプローブにより検出できる。
精製した抗体のアイソタイプを決定するため、アイソタイプELISAは特定アイソタイプの抗体に特異的な試薬を用いて実施できる。例えば、ヒトモノクローナル抗体のアイソタイプ決定のため、マイクロタイタープレートウェルを1μg/mLの抗ヒトイムノグロブリンで一晩4℃でコートできる。1%BSAでブロックした後、1μg/mL以下の試験モノクローナル抗体または精製アイソタイプコントロールを室温で1〜2時間プレートと反応させる。次に、当該ウェルをヒトIgG1またはヒトIgM特異的アルカリホスファターゼ結合プローブと反応させる。プレートを上記のようにして発色・分析する。
さらに、抗SDF−1ヒトIgGは、ウェスタンブロッティングによりSDF−1抗原との反応性を試験できる。簡単に述べると、SDF−1を調製し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動に供することができる。電気泳動後、分離した抗原をニトロセルロース膜に移し、10%ウシ胎児血清でブロックし、試験すべきモノクローナル抗体により調べることができる。ヒトIgG結合は、抗ヒトIgGアルカリホスファターゼを用いて検出し、BCIP/NBT基質錠剤(Sigma Chem.Co.,St.Louis,Mo.)により発色させることができる。
本発明の抗体の結合特性は、SDF−1発現細胞への抗体の結合をモニターすること、例えば、フローサイトメトリーによっても決定できる。典型的には、CHO細胞株のような細胞株は、細胞膜結合型SDF−1をコードする発現ベクターでトランスフェクションできる。そのトランスフェクトされたタンパク質は、好ましくはN末端にmyc−タグのようなタグを含み、抗体によって、そのタグを検出できる。本発明の抗体のSDF−1への結合性は、抗体とトランスフェクト細胞をインキュベートし、結合抗体を検出することによって決定できる。トランスフェクト蛋白上のタグへの抗体の結合は陽性コントロールとして用いることができる。
さらに、本発明の抗体のSDF−1に対する特異性は、SDF−1への結合が決定されたのと同じ方法で、他のタンパク質に結合するかどうかを決定することによって調べることができる。
免疫複合物
別の面において、本発明は、サイトトキシン、薬物(例えば、免疫抑制剤)または放射性トキシンのような治療分子に複合させた抗SDF−1抗体またはその断片を特徴とする。ここでは、このような複合物を“免疫複合物”と称する。1個以上のサイトトキシンを含む免疫複合物は、“イムノトキシン”と称される。サイトトキシン、すなわち、細胞傷害性物質には、細胞に有害な(例えば、死滅させる)いかなる物質も含まれる。例として、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、エチジウムブロマイド、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジハイドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD,、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシンおよびそのアナログまたはホモログを含む。また、治療薬には、例えば、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキセート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシルデカルバジン)、アルカリ化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパクロラムブチル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロソスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC,、およびシス−ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(旧ダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(旧アクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアンスラマイシン(AMC))、および有糸***剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が含まれる。
本発明の抗体に複合できる治療薬サイトトキシンの他の好適な例として、デュオカルマイシン、カリケアマイシン、マイタンシンおよびオーリスタチンならびにそれらの誘導体が含まれる。カリケアマイシン抗体複合物の例は市販されている(Mylotarg(登録商標);Wyeth−Ayerst)。
サイトトキシンは、先行技術であるリンカー技術を用いて本発明の抗体に結合できる。サイトトキシンを抗体に結合するために用いたリンカータイプの例として、ヒドラゾン、チオエーテル、エステル、ジスルフィドおよびペプチド含有リンカーが含まれるが、これらに限定されない。リンカーは、例えば、リソソームコンパートメント内部の低pHによる切断を受けやすいか、カテプシン(例えば、カテプシンB、C、D)のような癌組織中に主に発現するプロテアーゼのような、プロテアーゼによる切断を受けやすいものが選択される。
サイトトキシンのタイプ、リンカーおよび抗体に治療物質を結合する方法をさらに検討するためには、Saito,G.ら(2003)Adv.Drug Deliv.Rev. 55:199−215、Trail,P.A.ら(2003)Cancer Immunol.Immunother. 52:328−337、Payne,G.(2003)Cancer Cell 3:207−212、Allen、T.M.(2002)Nat.Rev.Cancer 2:750−763、Pastan,I.およびKreitman,R.J.(2002)Curr.Opin.Investig.Drugs 3:1089−1091、Senter,P.D.およびSpringer,C.J.(2001)Adv.Drug Deliv.Rev. 53:247−264も参照できる。
また、本発明の抗体は放射性同位元素に結合させ、放射性免疫複合物とも称される細胞傷害性放射性薬物を作製できる。診断または治療に使用するための抗体結合放射性同位元素の例として、ヨード131、インジウム111、イットリウム90およびルテチウム177が含まれるが、これらに限定されない。放射免疫複合物を調製する方法は先行技術で確立されている。放射免疫複合物の例は市販されており、Zevalin(登録商標)(IDEC Pharmaceuticals)およびBexxar(登録商標)(Corixa Pharmaceuticals)が含まれ、類似の方法を用いて本発明の抗体を用いて放射免疫複合物を調製できる。
ある生物応答を修飾するために、本発明の抗体複合物を用いることができるが、薬物分子は、旧来の化学的治療薬剤に限定されるとみなされない。例えば、薬物分子は所望の生物活性を有するタンパク質またはポリペプチドであってもよい。このようなタンパク質には、アブリン、リシンA、シュードモナス菌体外毒素またはジフテリアトキシンのような、例えば、酵素的に活性の毒物またはその活性断片、腫瘍壊死因子またはインターフェロン−γのようなタンパク質、または、例えば、リンホカイン、インターロイキン−1(“IL−1”)、インターロイキン−2(“IL−2”)、インターロイキン−6(“IL−6”)、顆粒マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(“G−CSF”)または他の増殖因子のような生物学的応答調節物質が含まれる。
このような治療分子を抗体に結合するための技術は、周知で、例えば、Arnonら“Monoclonal Antibodies For Immunotargeting OF Drugs In Cancer Therapy”、in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeldら(編著)、pp.243−56(Alan R.Liss,Inc.1985)、Hellstromら、“Antibodies For Drug Delivery”、 in Controlled Drug Delivery(第2版)、Robinsonら(編著)、pp.623−53(Marcel Dekker、Inc.1987)、Thorpe, “Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A review“,in Monoclonal Antibodies ‘84:Biological And Clinical Applications,Pincheraら(編著)、pp.475−506(1985)、”Analysis、Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy“、in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy,Baldwinら(編著)、pp.303−16(Academic Press1985)、and Thorpeら、”The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody−Toxin Conjugates“、Immunol.Rev.、62:119−58(1982)を参照できる。
二重特異性分子
別の面において、本発明は、本発明の抗SDF−1抗体またはその断片を含む二重特異性分子を特徴とする。本発明の抗体またはその抗原結合部分は誘導体化することができ、または、例えば、別のペプチドまたはタンパク質(例えば、別の抗体またはレセプターに対するリガンド)のような別の機能分子に連結することによって、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を作製できる。本発明の抗体は、実際に、誘導体化することもできあるいは1つ以上の他の機能分子に連結することによって、2つ以上の異なる結合部位および/または標的分子に結合する多重特異性分子を作製することができる。このような多重特異性分子も、本文中、用語“二重特異性分子”に含まれるものとする。本発明の二重特異性分子を作製するため、二重特異性分子ができるように本発明の抗体を別の抗体、抗体断片、ペプチドまたは結合模倣物のような1つ以上の結合分子に機能的に(例えば、化学的カップリング、遺伝的融合、非共有結合またはその他で)連結することができる。
したがって、本発明には、SDF−1に対する少なくとも1つの第一の結合特異性と第二の標的エピトープに対する第二の結合特異性を含む二重特異性分子を含む。本発明の特定の態様において、第2標的エピトープは、例えば、ヒトFcγRI(CD64)またはヒトFcαレセプター(CD89)のようなFcレセプターである。したがって、本発明は、FcγRIまたはFcαRを発現するエフェクター細胞(例えば、単球、マクロファージまたは多形核細胞(PMNs))およびSDF−1を発現している標的細胞の両者に結合できる二重特異性分子を含む。これらの二重特異性分子は、SDF−1発現細胞をエフェクター細胞の標的とし、SDF−1発現細胞の食作用、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、サイトカイン放出またはスーパーオキサイドアニオン産生のようなFcレセプターを介したエフェクター細胞活性を惹起する。
二重特異性分子が多重特異的である本発明の態様において、さらに、当該分子は、抗Fc結合特異性と抗SDF−1結合特異性の他に、第三の結合特異性を含むことができる。一つの態様において、第三の結合特異性は抗増強因子(EF)部分であり、例えば、細胞傷害活性に関与し、それによって標的細胞に対する免疫応答を増強する表面タンパク質に結合する分子である。“抗増強因子部分”とは、例えば、抗原またはレセプターのようなある分子に結合し、その結果、Fcレセプターまたは標的細胞抗原の結合決定基の効果を増強する抗体、抗体の機能的断片またはリガンドであってもよい。“抗増強因子部分”は、Fcレセプターまたは標的細胞抗原に結合できる。これとは別に、抗増強因子部分は、第1および第2結合特異性が結合する物質とは異なる物質に結合してもよい。例えば、抗増強因子部分は、細胞傷害性T細胞(例えば、CD2、CD3、CD8、CD28、CD4、CD40、ICAM−1または標的細胞に対する免疫応答を増強するような他の免疫細胞を介して)に結合することができる。
一つの態様において、本発明の二重特異性分子は、結合特異性として、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvまたは一重鎖Fvを含む少なくとも一つの抗体またはその抗体の断片からなる。また、本抗体は、軽鎖もしくは重鎖ダイマー、Fvのようなその最小断片もしくはその内容を本文で断って参考として引用しているLadnerらの米国特許4,946,778に記載の一本鎖構築物であってもよい。
一つの態様において、Fcγレセプターに対する結合特異性はモノクローナル抗体によって提供され、その結合は、ヒトイムノグロブリンG(IgG)によって阻害されない。本文中、用語“IgGレセプター”は、第1染色体上に位置する8個のγ鎖遺伝子のいずれかを示す。これらの遺伝子は、総計12個の膜貫通型または可溶化型レセプターのアイソフォームをコードし、それらは、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)の3種のFcγクラスに分けられる。一つの好適な態様としては、当該Fcγレセプターはヒト高親和性FCγRIである。ヒトFcγRIは72kDaの分子であり、IgG単量体に対して高親和性を示す(108−109M−1)。
好適な抗Fcγモノクローナル抗体の作製と特異性解析には、FangerらのPCT公報WO88/00052および米国特許4,954,617に記載されているが、これらの開示は全て本文で参考文献として引用している。これらの抗体は、レセプターのFcγ結合部位から離れた部位で、FcγRI、FcγRIIまたはFcγRIIIのエピトープに結合し、従って、それらの結合が生理学的レベルのIgGによっては実質的に阻害されない。本発明で有用な特異的抗FcγRI抗体は、mAb22、mAb32、mAb44、mAb62およびmAb197である。mAb32産生ハイブリドーマは、アメリカンタイプカルチャーコレクションからATCC 寄託番号HB9469として入手可能である。他の態様において、抗Fcγレセプター抗体は、モノクローナル抗体22のヒト型抗体である(H22)。H22抗体の産生と特異性解析は、Graziano,R.F.らの(1995)J.Immunol. 155(10):4996−5002およびPCT公報WO94/10332に記載されている。H22抗体産生細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクションにHA022CL1として寄託され、寄託番号CRL11177を有している。
さらに、他の好適な態様において、Fcレセプターに対する結合特異性は、例えば、Fc−αレセプター(FcαRI(CD89))のようなヒトIgAレセプターに結合する抗体によって付与され、その結合は、好適には、ヒトイムノグロブリンA(IgA)によって阻害されない。用語“IgAレセプター”は、第19染色体に位置する1個のα−遺伝子(FcαRI)の遺伝子産物を含むことを意味する。この遺伝子は、55〜110kDaの数個のオルタナティブスプライシングされた膜貫通型アイソフォームをコードすることが知られている。FcαRI(CD89)は、単球/マクロファージ、好酸球性および好中球性顆粒球上で構成的に発現されるが、非エフェクター細胞群上では発現しない。FcαRIは、IgA1およびIgA2の両者に対して中程度の親和性(約5×107M−1)を有しており、G−CSFまたはGM−CSFのようなサイトカインにさらされて増加する(Morton,H.C.ら(1996)Critical Reviews in Immunology 16:423−440)。4個のFcαRI特異的モノクローナル抗体はA3、A59、A62およびA77として同定されており、それらはIgAリガンド結合ドメインの外側でFcαRIを結合することが記載されている(Monteiro,R.C.ら(1992)J.Immunol. 148:1764)。
FcαRIおよびFcγRIは、本発明の二重特異性分子として用いる場合、好適なトリガーレセプターであり、その理由としては、それらが、(1)主に、例えば、単球、PMN、マクロファージおよび樹状細胞のような免疫エフェクター細胞で発現されること、(2)高レベルで発現すること(例えば、5,000−100,000/細胞)、(3)細胞傷害活性の媒介するもの(例えば、ADCC、食作用)、(4)自己抗原を含むそれらを標的化した抗原の抗原提示増強を介することが挙げられる。
ヒトモノクローナル抗体が好適であるが、本発明の二重特異性分子で使用できる他の抗体は、マウス、キメラおよびヒト化モノクローナル抗体である。
本発明の二重特異性分子は、例えば、抗FcRおよび抗SDF−1結合特異部分のような構成要素となる結合特異部分を当業者における公知の方法を用いて結合することによって調製できる。例えば、二重特異性分子の各結合特異部分を別々に作製し、その後互いに連結できる。その結合特異部分がタンパク質またはペプチドである時、様々なカップリングまたは架橋剤を共有結合に使用できる。架橋剤の例として、プロテインA、カルボジイミド、N−サクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5´−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−サクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)およびスルホスクインイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)(例えば、Karpovskyら(1984)J.Exp.Med. 160:1686、Liu,MAら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:8648を参照)が含まれる。他の方法には、Paulus(1985)Behring Ins.Mitt. No.78、118−132、Brennanら(1985)Science 229:81−83、およびGlennieら(1987)J.Immunol. 139:2367−2375に記載のものが含まれる。好適な結合剤は、SATAおよびスルホ−SMCCであり、両者ともにPierce Chemical Co.(Rockford、IL)から入手可能である。
結合特異部分が抗体である時、それらは、2個の重鎖C末端ヒンジ領域のスルフィドリル結合により結合できる。特に好適な態様において、結合させる前にヒンジ領域を奇数の、好適には1つのスルフィドリル残基を含むように修飾する。
あるいは、両結合特異部分を同一ベクター中でコードでき、同一宿主細胞中で発現させ構築できる。この方法は、二重特異性分子がmAb×mAb、mAb×Fab、Fab×F(ab’)2またはリガンド×Fab融合タンパク質である場合に特に有効である。本発明の二重特異性分子は、一重鎖抗体および結合決定基を含む一重鎖分子であるか、または2個の結合決定基を含む一重鎖二重特異性分子であってもよい。二重特異性分子は、少なくとも2個の一重鎖分子を含むこともできる。二重特異性分子の調製方法は、例えば、米国特許5,260,203、5,455,030、4,881,175、5,132,405、5,091,513、5,476,786、5,013,653、5,258,498、5,482,858に記載されており、そのすべてがここに引例として明確に含まれている。
二重特異性分子のそれらの特異的標的への結合は、例えば、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、FACS分析、バイオアッセイ(例えば、増殖阻害)またはウェスタンブロットアッセイにより確認できる。これらのそれぞれのアッセイは、一般に、特に問題となっているタンパク質−抗体複合体の存在を問題の複合体に特異的な標識試薬(例えば、抗体)を用いて検出する。例えば、FcR−抗体複合体は、例えば、抗体−FcR複合体を認識して特異的に結合する酵素結合抗体または抗体断片を用いて検出できる。あるいは、当該複合体は、様々な他のイムノアッセイのいずれかを用いて検出できる。例えば、抗体を放射性標識し、ラジオイムノアッセイ(RIA)で使用できる(例えば、本文で参考として引用したWeintraub,B.、Principles of Radioimmunoassays,Seventh Training Course on Radioligand Assay Techniques, The Endocrine Society,March、1986を参照)。放射性同位元素は、γカウンターまたはシンチレーションカウンターを用いてまたはオートラジオグラフィーのような手段により検出できる。
薬剤組成物
別の側面において、本発明は、例えば、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を1種またはその組み合わせを含有し、薬学的に許容できる担体とともに処方された医薬組成物を提供する。このような組成物は、本発明の(例えば、2種以上の異なる)抗体、または免疫複合物または二重特異性分子を1個、またはその組み合わせを含んでいてもよい。例えば、本発明の医薬組成物は、標的抗原上の異なるエピトープに結合するかまたは補完的活性を有する抗体(または免疫複合物または二重特異性抗体)の組み合わせを含むことができる。
本発明の医薬組成物は、併用療法、すなわち他の物質と組み合わせて投与することもできる。例えば、併用療法は、その他の抗炎症剤または免疫抑制剤と少なくとも1つ組み合わせた本発明の抗SDF−1抗体を含んでいてもよい。併用療法で使用できる治療物質の例として、本発明の抗体使用についての下記章においてより詳細に説明されている。
本文中、“薬学的に許容できる担体”には、いかなる溶媒、分散剤、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張および吸収遅延物質等が全て含まれ、それらは生理的に両立できる。好適には、当該担体は、(例えば、注入または点滴による)静注、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または上皮投与に適している。投与経路に応じて、活性化合物、すなわち、抗体、免疫複合物または二重特異性分子は、化合物を不活性化する可能性のある酸の作用や他の自然条件から化合物を保護する物質で被覆することもできる。
本発明の医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容できる塩を含むことができる。“薬学的に許容できる塩”とは、親化合物が目的とする生物活性を保持するが、目的としない毒性効果を全く示さない塩を称する(例えば、Berges,S.M.ら(1977)J.Pharma.Sci. 66:1−19を参照)。このような塩の例として、酸付加塩および塩基付加塩を含む。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、燐等のような無毒性の無機酸由来ならびに脂肪族モノ−およびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸等のような無毒性の有機酸に由来するものが含まれる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のようなアルカリ土金属ならびにN,N’−ジベンチルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等のような無毒の有機アミン由来のものが含まれる。
また、本発明の薬剤組成物は薬学的に許容できる抗酸化剤を含むことができる。薬学的に許容できる抗酸化剤の例として、(1)アスコルビン酸、システインハイドロクロライド、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性抗酸化剤、(2)アスコルビルパルミテート、ブチル化ハイドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ハイドロキシトルエン(BHT)、レシチン、プロピルガレート、α−トコフェロール等のような油溶性抗酸化剤、および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤が含まれる。
本発明の薬剤組成物に使用できる適切な水性および非水性担体の例として、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、およびその適切な混合物、オリーブオイルのような植物油およびエチルオレイン酸のような注射可能な有機エステルが含まれる。適切な流動性は、レシチンのような被覆物質を使用すること、分散体の場合必要な粒子径を保持することおよび界面活性剤を使用することによって保持することができる。
これらの組成物は、保存剤、湿潤化剤、乳化剤および分散剤のようなアジュバントも含むことができる。微生物存在の防止は、殺菌操作、同上のように、および、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等のような様々な抗菌剤および抗真菌剤を包含させることによって確保できる。糖、塩化ナトリウム等のような等張化剤を当該組成物に含ませることも望ましい。さらに、注射製剤の吸収性を持続させることは、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅らせる物質を包含させることによって実現することができる。
薬学的に許容できる担体には、無菌の注射用溶液または分散体を即時調製するための無菌水溶液または分散体および無菌粉末が含まれる。このような媒体および物質を薬学的に活性の物質のために使用することが当該技術において知られている。これまで従来の媒体または物質が当該活性化合物と両立できなかったので、本発明の薬剤組成物中でそれを使用することを検討している。補助的な活性化合物もまた、当該組成物中に組み込むことができる。
治療用組成物は、通常、製造および保存条件下では無菌かつ安定でなければならない。当該組成物は、溶液、ミクロエマルジョン、リポゾームまたはその他高濃度の薬物に適した、しつらえた構造体として製剤化できる。当該担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)およびその適切な混合物を含む溶媒または分散媒体であってもよい。適切な流動性は、レシチンのようなコーティング剤を使用すること、分散体の場合必要な粒子径を保持することおよび界面活性剤を使用することによって保持できる。多くの場合、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールのようなポリアルコールまたは塩化ナトリウムのような等張化剤を当該組成物に含有させることが望ましい。モノステアリン酸アルミニウム塩およびゼラチンのような吸収を遅らせる物質をその組成物に包含させることによって、注射用組成物の吸収を持続させることができる。
無菌の注射用溶液は、必要量の活性化合物を、上記に述べた成分の一つまたはそれらの組み合わせとともに適切な溶媒中に組み込み、必要に応じて無菌的精密ろ過をすることにより調製できる。一般的に、分散体は、基本的分散媒体と上記に述べたものの中から必要な他の成分を含む無菌媒体中に活性化合物を組み込むことによって調製する。無菌の注射用溶液調製のための無菌粉末の場合、好適な調製方法は真空乾燥および凍結乾燥(凍結乾燥)であり、活性成分に事前に無菌ろ過した溶液からのあらゆる所望の追加成分を加えた粉末を産生できる。
一単位投与形態を作製するために担体物質と組み合わせられる活性成分の量は、治療すべき対象と特定の投与様式に応じて変わる。一単位投与形態を作製するために担体物質と組み合わせられる活性成分の量は、一般的に、治療効果をもたらす組成物量である。一般的に、この量は、100%のうち、薬学的に許容できる担体との配合中、活性成分の約0.01%〜約99%、好適には約0.1%〜約70%、さらに好適には約1%〜約30%の範囲である。
用法・用量は、目的とする最適な応答(例えば、治療応答)をもたらすように調整される。例えば、単回のボーラスで投与することができるか、数回に投与量を分けて時間をかけて投与することもでき、または治療状況の緊急性に応じて投与量を減ずるかまたは増量することもできる。特に、投与の容易性および投与量の均一性のため、非経口組成物を単位投与形態として製剤化するのが好都合である。本文中、一単位投与形態とは、治療対象に対する単位投与として適した物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要な薬剤担体と関連させて所望の治療効果をもたらすよう計算され、あらかじめ決定された量の活性化合物を含む。本発明の単位投与形態の仕様は、(a)活性化合物の独自の特異性と目的とする特定の治療効果、および(b)個人への治療感受性のため、そのような活性化合物を調剤する技術に固有の限界により規定されかつ直接それらに依存する。
抗体投与のための当該投与量は、約0.0001〜100mg/kg、さらに一般的には0.01〜5mg/kg患者体重の範囲である。例えば、投与量は、約0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重または10mg/kg体重であるかまたは1〜10mg/kgの範囲である。典型的な治療方法には、例えば、週1回投与、2週間おきに1回投与、3週おきに1回投与、4週おきに1回投与、月1回投与、3ヶ月おきに1回投与または3〜6ヶ月おきに1回投与を伴う。本発明の抗SDF−1抗体の好適な用法・用量は、静注投与により、1mg/kg体重または3mg/kg体重であり、当該抗体は、下記の投与スケジュール、すなわち、(i)投与6回を4週おきに、次に3週おき、(ii)3週おき、(iii)3mg/kg体重を1回、次に3週おきに1mg/kg体重の一つを用いて投与される。
ある方法では、異なる結合特異性を有する2種以上のモノクローナル抗体を同時に投与し、この場合、投与した各抗体の投与量は、例示した範囲内に入る。通常、抗体は複数回投与される。単回投与の間隔は、例えば、毎週、毎月、3カ月おきまたは1年おきとすることができる。また、患者の標的抗原に対する抗体の血中レベルを測定することによって示唆されるように、不定期とすることもできる。血漿中の抗体濃度を約1〜1000μg/mLとなるように調整する方法や、約25〜300μg/mLとなるように調整する方法もある。
あるいは、抗体は徐放性製剤として投与することもでき、この場合、投与頻度を少なくすることが必要となる。投与量と頻度は、患者における抗体の半減期に依存して変わる。一般的に、ヒト抗体の半減期が最も長く、次に、ヒト化抗体、キメラ抗体、非ヒト抗体が続く。投与量と投与頻度は、治療が予防なのか治療なのかにより変わる。予防的用途においては、比較的低用量が比較的頻度が低く、長期にわたり投与される。寿命のある限り治療を受けることになる患者もいる。治療的用途では、疾患進行を遅らせるかまたは停止させるまで、好ましくは、患者が部分的または完全に疾患症状の改善を示すまで、比較的高用量を比較的短期間に必要とすることがある。その後、患者には予防的方法で投与される。
本発明の医薬組成物中における活性成分の実際の投与レベルを変化させることで、毒性を起こすことなしに、特定の患者、組成物および投与様式に対して目的とする治療応答を得る有効な活性成分量を決めることができる。選択した投与量は、本発明で使用した特定組成物、そのエステル、その塩若しくはそのアミドの活性、投与経路、投与時間、使用した特定化合物の***速度、治療期間、他の薬物、化合物および/または使用した特定組成物と併用使用した物質、治療患者の年齢、性別、体重、状態、全般的健康および既往歴および医療技術において周知の因子を含む様々な薬物動態因子に左右される。
本発明の抗SDF−1抗体の“治療有効投与量”は、疾患症状の重篤度の低下、疾患に由来する症状が消失する期間の頻度と期間の増加、または疾患に罹患したことによる不全または障害の予防につながるものである。例えば、SDF−1陽性癌の治療のための“治療有効投与量”は、未処理被験者に比較して、好適には少なくとも約20%、さらに好適には少なくとも約40%、はるかに好適には約60%、さらに好適には約80%まで細胞増殖すなわち腫瘍増殖を阻害する。化合物の腫瘍増殖阻害能は、ヒト腫瘍における有効性を予測できる動物モデル系で評価できる。これとは別に、このような組成物の特性は、当業者に公知のアッセイによって化合物の細胞増殖阻害活性、例えば、インビトロにおける阻害を調べることによって評価することができる。治療化合物の治療有効投与量は、腫瘍の大きさを減じるか、またはそうでなければ、被験者の症状を改善させる。当業者は、被験者の大きさ、被験者の症状の重篤度、および特定組成物または選択した投与経路のような要素に基づき量を決定することができる。
本発明の組成物は、当該技術で公知の1つ以上の様々な方法を用いて、1種以上の投与経路にて投与することもできる。当業者には明らかであろうが、投与経路および/または様式は目的とする結果に応じて変わる。本発明の抗体の好適な投与経路は、例えば、注射または輸液によって、静脈内、筋肉内、皮膚内、腹腔内、皮下、脊髄投与または他の非経口投与経路を含む。本文中、用語“非経口投与”とは、腸および局所投与以外の投与様式を意味し、通常は注射であるが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腹腔内、被膜内、眼窩内、心臓内、皮膚内、腹腔内、経気管的、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注入および点滴が含まれるが、これらに限定されない。
あるいは、本発明の抗体は、局所、上皮もしくは粘膜のような非経口投与経路、例えば、鼻腔内、口腔内、膣内、直腸内、舌下または局所的に投与できる。
活性化合物は、インプラント、経皮パッチおよびミクロカプセル包含デリバリシステムを含む徐放性製剤のような、迅速放出に対して当該化合物を保護する担体とともに調製できる。エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステルおよびポリ乳酸といった生分解性、生体適合性ポリマーも使用できる。このような製剤の調製方法は多くが特許を得ているかあるいは当業者に一般に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson編著,Marcel Dekker、Inc.、New York、1978参照。
治療用組成物は、当該技術において公知の医療用具により投与できる。例えば、好適な態様において、本発明の治療組成物は、米国特許5,399,163、5,383,851、5,312,335、5,064,413、4,941,880、4,790,824または4,596,556に開示された用具のような針のない皮下注入用具により投与できる。本発明で有用な公知のインプラントおよびモジュールの例として、制御された速度で医薬を投薬するためのインプラント可能なミクロインフィージョンポンプを開示した米国特許4,487,603、皮膚から医薬を投与するための治療用具を開示した米国特許4,486,194、精密な点滴速度で医薬を運搬するための医薬インヒュージョンポンプを開示した米国特許4,447,233、連続的薬物運搬のための可変フローインプラント可能な点滴装置を開示した米国特許4,447,224、複数チャンバーコンパートメントを有する浸透圧ドラッグデリバリシステムを開示した米国特許4,439,196および浸透圧ドラッグデリバリシステムを開示した米国特許4,475,196が含まれる。これらの特許は参考として本文に組み込まれている。他にも多くのインプラント、デリバリシステムおよびモジュールが当業者に公知である。
ある態様において、本発明のヒトモノクローナル抗体を製剤化して、インビボにおける適切な分布を確保することができる。例えば、血液−脳関門(BBB)バリアは、多くの高親和性化合物を排除する。本発明の治療化合物がBBBを(もし望むならば)確実に通過できるようにするため、それらを、例えば、リポソーム中に処方することができる。リポゾーム製造方法については、例えば、米国特許4,522,811;5,374,548;および5,399,331を参照できる。当該リポソームは、特定細胞または臓器に選択的に運搬される一種以上の分子を含むことができ、それによって標的ドラッグデリバリを増強できる(例えば、V.VRanade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照)。典型的な分子の例として、葉酸またはビオチン(例えば、Lowらによる米国特許5,416,016を参照)、マンノシド(Umezawaら(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun. 153:1038)、抗体(P.G.Bloemanら(1995)FEBS Lett.357:140、M.Owaisら(1995)Antimicrob. Agents Chemother.39:180)、界面活性剤プロテインAレセプター(Briscoeら(1995)Am.J.Physiol. 1233:134)、p120(Schreierら(1994)J.Biol.Chem. 269:9090)が含まれ、また、K.Keinanenn;M.L.Laukkanen(1994)FEBS Lett. 346:123、J.J.Killion;I.J.Fidler(1994)Immunomethods 4:273を参照することができる。
用途および方法
抗体、特に、本発明のヒト抗体、抗体組成物および方法は、SDF−1介在疾患の診断および治療に関連する、様々なインビトロおとびインビボ診断および治療的用途を含む。例えば、これら分子は、例えば、様々な疾患を治療、予防および診断するために、培養細胞にはインビトロもしくはエキソビボで、またはヒト患者に対しては、例えば、インビボで投与することができる。本文中、用語“患者”とは、ヒトおよび非ヒト動物を含むものとする。非ヒト動物には、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類等のような、哺乳類および非哺乳類である全脊椎動物類が含まれる。好適な被験者には、SDF−1活性により介在される疾患を持つヒト患者が含まれる。当該方法は、異常なSDF−1発現に関連する疾患を有するヒト患者治療に特に適している。SDF−1に対する抗体を別の物質とともに投与するときには、それらは順番にまたは同時に投与できる。
本発明の抗体のSDF−1に対する特異的結合によって、本発明の抗体は、細胞表面に発現するSDF−1を特異的に検出するのに使用され、さらには免疫学的アフィニティー精製を介してSDF−1を精製するのに使用できる。
乳癌浸潤は、局所リンパ節、骨髄、肺および肝臓において異なるパターンで起こる。CXCR4の発現は、初期および浸潤性のヒト乳癌細胞において高いが、通常の***組織では検出できない(Muller et al. (2001) Nature 410:50−6)。SDF−1は、非小細胞性肺癌の浸潤においての役割も示唆されており、その癌細胞はSDF−1に応答して遊走する(Phillips et al. (2003) Am J Respir Crit Care Med 167:1676−86)。SDF−1は、乳癌細胞や、肺および肝臓抽出物において高レベルのF−アクチン重合や仮足形成を誘導すると考えられており、これはインビトロでの乳癌細胞の指向性遊走を促す。この乳癌細胞の遊走は、CXCR4またはCCL21に対する抗体によって阻害されることが、以前示されている。SDF−1は、肝内胆管癌(ICC)での役割もあることが示されている(Ohira et al. (2006) Am J Pathol 168:1155−68)。さらに、SDF−1とCXCR4の相互作用の阻害は、幹細胞の動因に関連することが分っており、例えば、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫(Fricker et al. (2006) 文献の冒頭において公開された; Fruehauf and Seeger (2005) Future Oncol 1:375−83)のような他の様々な癌の治療に有用である。
好ましくは、本発明の抗体によってその増殖が阻害される癌には、典型的には、免疫療法に応答する浸潤性腫瘍および癌が含まれる。治療可能な癌は特に限定されないが、乳癌、多発性骨髄腫、リンパ腫(例えば、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫、リンパ球性リンパ腫、中枢神経原発リンパ腫、T細胞リンパ腫)が含まれる。本発明の方法により治療されるその他の癌の例として、メラノーマ(例えば、
転移性悪性メラノーマ)、腎癌(例えば、腎細胞癌)、脳腫瘍、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性もしくは急性白血病、鼻咽頭癌、前立腺癌、大腸癌、肺癌、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、進行期悪性黒色腫もしくは眼内悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、睾丸癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、頸癌、膣癌、外陰癌、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎皮質癌、軟部腫瘍、尿道癌、陰茎癌、小児固形癌、膀胱癌、腎臓もしくは尿管癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、腫瘍の血管新生、脊髄腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、扁平上皮癌、扁平上皮癌、アスベストによって誘発される癌、例えば、中皮腫を含む環境誘発性癌およびそれらの組合せが含まれる。
さらに、本発明のヒト抗体、抗体組成物および方法は、例えば、乳癌、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、明細胞RCCのような腎細胞癌(RCC)、グリア芽腫、乳癌、脳腫瘍、鼻咽頭癌、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、バーキットリンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、皮膚T細胞性リンパ腫、結節性小付着細胞リンパ腫、リンパ性白血病、末梢性T細胞リンパ腫、レンネルトリンパ腫、免疫芽球性リンパ腫、成人T細胞白血病リンパ種(ATLL)、成人T細胞白血病(T−ALL)、中心芽球/胚中心細胞型(cb/cc)濾胞性リンパ腫、B細胞のびまん性大細胞型リンパ腫、血管免疫芽球性(AILD)様T細胞性リンパ腫、HIV関連体腔性リンパ腫、胎児性癌、鼻咽腔の未分化癌(例えば、シュミンケ腫瘍)、キャッスルマン病、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症およびその他のB細胞リンパ腫に挙げられる、SDF−1発現腫瘍細胞の存在により特徴付けられる疾患のような腫瘍性疾患の患者の治療に使用できる。
従って、ある態様において、本発明は、抗SDF−1抗体またはその抗原結合部位の治療的有効量を患者に投与することからなる、患者の癌細胞の成長を阻害する方法を提供する。好ましくは、その抗体は、ヒト抗SDF−1抗体(ここに記載されているヒト抗ヒトSDF−1抗体のいずれか)である。さらに、またはこれとは別に、その抗体はキメラまたはヒト化抗SDF−1抗体であってもよい。
SDF−1は、リウマチ関節炎(RA)および変形性関節症(OA)の滑膜部位の、血管内膜を含む過形成内膜ならびに細胞外マトリックスおよび血管周囲内膜でも検出されている(Pablos et al.(2003) J Immunol 170:2147−52)。OAおよびRA線維芽細胞様滑膜細胞のノーザンブロット解析によって、炎症性サイトカイン、血管新生因子あるいは低酸素によって誘導されないSDF−1発現が検出される。内皮細胞からのヘパラン硫酸分子の遊離は、それら細胞でのSDF−1免疫染色を除去するため、SDF−1は内皮細胞表面に蓄積すると考えられる。RA滑膜中のSDF−1の産生増加は、内皮細胞のヘパリチナーゼ応答因子の蓄積を誘導し、SDF−1が慢性炎症に関連する血管新生に関与していると考えられる。SDF−1は、喘息患者の気管支粘膜の血管新生を誘導することも示されており、SDF−1受容体であるCXCR−4の阻害は、アレルギー性肺炎症、アレルギー性気道疾患、気道過敏性および過敏性型肺肉芽腫形成を軽減させる(Hoshino et al. (2003) Eur Respir J 21:804−9; Lukacs et al. (2002) Am J Pathol 160:1353−60; Gonzalo et al. (2000) J Immunol 165:499−508; Hu et al. (2006) Am J Pathol 169:424−32)。
本発明のヒト抗体、抗体組成物および方法それ自体、例えば、リウマチ関節炎(RA)、骨関節症(OA)、実験的自己免疫性脳脊髄炎、喘息およびアレルギー性肺炎症、アレルギー性気道疾患、気道過敏性および過敏性型肺肉芽腫形成のようなアレルギー性炎症のようなSDF−1の存在によって特徴付けられる疾患である自己免疫疾患患者の治療に使用することができる。また、本発明の抗体が使用できる自己免疫疾患には、全身性エリテマトーデス、インシュリン依存性糖尿病(IDDM)、炎症性大腸炎(IBD)(クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病を含む)、多発性硬化症(MS)、乾癬、自己免疫性甲状腺炎および糸球体腎炎が含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明の抗体は移植片拒絶の治療に使用することができる。
従って、ある態様において、本発明は、抗SDF−1抗体またはその抗原結合部位の治療的有効投与量を患者に投与することからなる自己免疫疾患患者の治療方法を提供する。好ましくは、抗体はヒト抗SDF−1抗体(ここに記載されているヒト抗ヒトSDF−1抗体のいずれかのような)である。さらに、またはこれとは別に、その抗体はキメラもしくはヒト化抗SDF−1抗体であってもかまわない。
増殖性の糖尿病性網膜症患者では、SDF−1濃度が硝子体において有意に増加しており、症状の重傷度に相関していることが示されている(Butler et al. (2005) J Clin Invest 115:86−93)。トリアムシノロンによる患者の治療は、硝子体におけるSDF−1レベルを減少させ、疾患を著しく改善し、SDF−1と血管内皮増殖因子(VEGF)レベルを減少させ、びまん性黄斑浮腫を減退させ、血管新生の活性化を抑制する(Brooks et al. (2004) Arch Ophthalmol 122:1801−7)。増殖性の糖尿病性網膜症のマウス動物モデルでは、患者のSDF−1レベルに対応したレベルでは、マウスに対して網膜症を誘導し、SDF−1に対する阻害抗体の硝子体内注射は網膜の血管新生を阻害した。SDF−1とCXCR4の両発現は、加齢性黄斑変性症の眼球において認められている(Bhutto et al. (2006) Br J Ophthalmol 90:906−10)。
従って、ある態様において、本発明は、抗SDF−1抗体またはその抗原結合部位の治療的有効量を患者に投与することからなる、増殖性の糖尿病性網膜症、類嚢胞黄斑浮腫または加齢性黄斑変性症の患者の治療法を提供する。好ましくは、抗体はヒト抗SDF−1抗体(例えば、ここに記載されているヒト抗ヒトSDF−1抗体のいずれか)である。さらに、またはこれとは別に、その抗体はキメラまたはヒト化抗SDF−1抗体であってもよい。
CD45+、コラーゲンI+、CXCR4+線維細胞の循環プールは肺繊維症を含む繊維症部位に輸送されることが示されている。抗SDF−1抗体による治療は、CD45+、コラーゲンI+、CXCR4+線維細胞の肺内への補充を阻害し、肺繊維症を減退させることが示されている(Phillips et al. (2004) J Clin Invest 114:438−46)。
従って、ある態様において、本発明は、抗SDF−1抗体またはその抗原結合部位の治療的有効量を患者に投与することからなる、肺繊維症のような繊維症の患者の治療法を提供する。好ましくは、その抗体はヒト抗SDF−1抗体(例えば、ここに記載されているヒト抗ヒトSDF−1抗体のいずれか)である。さらに、またはこれとは別に、その抗体はキメラまたはヒト化抗SDF−1抗体であってもよい。
CXCR4へのSDF−1の結合は、虚血誘導性血管新生や冠微小血管梗塞を含む虚血事象においての役割も示されている(Mieno et al. (2006) Ann Thorac Surg 82:657−63)。従って、ある態様において、本発明は、抗SDF−1抗体またはその抗原結合部位の治療的有効量を患者に投与することからなる、虚血、虚血誘導性血管新生あるいは冠微小血管梗塞の患者の治療法を提供する。好ましくは、その抗体はヒト抗SDF−1抗体(例えば、ここに記載されているヒト抗ヒトSDF−1抗体のいずれか)である。さらに、またはこれとは別に、その抗体はキメラまたはヒト化抗SDF−1抗体であってもよい。
ある態様において、本発明の抗体(例えば、ヒトモノクローナル抗体、多価特異的、二価特異的分子および組成物)は、ある疾患の症状と関連するSDF−1レベルあるいはその表面膜上にSDF−1を持つ細胞のレベルを検出するのに使用できる。あるいは、抗体は、ある疾患の症状の阻害あるいは改善に関連し、それゆえにその疾患のメディエーターとして関係するSDF−1機能を阻害あるいはブロックするのに使用できる。これは、抗体とSDF−1が複合体を形成できる条件下で、抗SDF−1抗体とサンプルおよび対照サンプルを接触させることによって実施できる。抗体とSDF−1との間で形成されるいずれの複合体も検出でき、サンプルと対照において比較される。
別の態様において、本発明の抗体(例えば、ヒト抗体、多価特異的および二価特異的分子ならびに組成物)は、まず、インビトロの治療的あるいは診断的使用に関連する結合活性で試験できる。例えば、本発明の組成物は、下記実施例に記載のフローサイトメトリーで試験できる。
本発明の抗体(例えば、ヒト抗体、多価特異的および二価特異的分子、免疫抱合体ならびに組成物)は、SDF−1関連疾患の治療および診断に追加的に使用される。例えば、ヒトモノクローナル抗体、多価特異的および二価特異的分子および免疫抱合体は、以下の一以上のインビボあるいはインビトロの生物学的活性:SDF−1発現細胞の増殖を阻害および/または死滅させること、ヒトエフェクター細胞の存在下で、SDF−1発現細胞の食菌作用あるいはADCCを仲介すること、またはSDF−1リガンドのSDF−1に対する結合を阻害することを引き出すために使用できる。
特別な態様において、抗体は(例えば、ヒト抗体、多価特異的および二価特異的分子ならびに組成物)様々なSDF−1関連疾患を治療、予防あるいは診断するためにインビボで使用される。SDF−1関連疾患の例として、とりわけ、乳癌、リウマチ関節炎、骨関節症、増殖性糖尿病性網膜症、自己免疫疾患、癌、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、バーキットリンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)、多発性骨髄腫、皮膚T細胞性リンパ腫、結節性小付着細胞リンパ腫、リンパ性白血病、末梢性T細胞リンパ腫、レンネルトリンパ腫、免疫芽球性リンパ腫、成人T細胞白血病リンパ種(ATLL)、成人T細胞白血病(T−ALL)、中心芽球/胚中心細胞型(cb/cc)濾胞性リンパ腫、B細胞のびまん性大細胞型リンパ腫、血管免疫芽球性(AILD)様T細胞性リンパ腫、HIV関連体腔性リンパ腫、胎児性癌、鼻咽腔の未分化癌(例えば、シュミンケ腫瘍)、キャッスルマン病、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症およびその他のB細胞リンパ腫が含まれる。
本発明の抗体組成物(例えば、ヒト抗体、多価特異的および二価特異的分子ならびに免疫抱合体)のインビボあるいはインビトロでの適切な投与経路は、従来技術としてよく知られており、当業者によって選択できる。例えば、抗体組成物は、注射(例えば静脈あるいは皮下)に投与できる。使用の本分子の適切な用量は、患者の年齢および体重、抗体組成物の濃度および/または剤型に依存する。
先にも述べたように、本発明のヒト抗SDF−1抗体は、細胞毒性物質、放射性毒性物質または免疫抑制物質のような一種以上の他の治療物質とともに共投与できる。抗体は、当該物質に(免疫複合体として)連結させることができ、または、当該物質とは別々に投与できる。後者の場合(別々の投与の場合)、抗体は当該物質の前、後または同時に投与できるか、または、例えば、放射線のような抗癌療法のような他の公知の療法とともに共投与できる。このような治療物質には、特に、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シスプラチンブレオマイシン硫酸塩、カルムスチン、クロラムブシル、デカルバチンおよびシクロホスファマイドヒドロキシウレアのような抗腫瘍物質が含まれるが、それらはそれ自体、患者にとって有毒であるかまたは準毒性であるレベルでのみ有効である。シスプラチンは、100mg/投与で4週間間隔に静注し、アドリアマイシンは、60〜75mg/mL投与として21日間間隔に静注する。本発明のヒト抗SDF−1抗体またはその抗原結合部分の化学療法剤との共投与は、異なるメカニズムで作用する二種の抗癌剤を提供し、それらはヒト腫瘍細胞に対して細胞毒性効果をもたらす。このような共投与は、薬物耐性の進展または抗体に反応しなくなるという腫瘍細胞の抗原性の変化に起因する問題を解決できる。
標的特異的なエフェクター細胞、例えば、本発明の組成物(例えば、ヒト抗体、多価特異的および二価特異的分子)に関連するエフェクター細胞も治療剤として使用できる。ターゲッティングのためのエフェクター細胞は、マクロファージ、好中球または単球のようなヒトリンパ球である。他の細胞として、好酸球、ナチュラルキラー細胞および他のIgGあるいはIgA受容体を持つ細胞が含まれる。必要ならば、エフェクター細胞は処方される被験者から得ることができる。標的特異的エフェクター細胞は、生理学的に許容しうる溶液中での細胞懸濁として投与することができる。投与される細胞数は、108〜109オーダーであり、治療目的に応じて変更される。一般的に、その量は、標的細胞、例えば、SDF−1発現癌細胞に局在させ、例えば、食作用のように細胞を死滅させるのに十分であろう。投与ルートも変更され得る。
標的特異的エフェクター細胞での治療は、標的細胞の他の分離技術と組み合わせて実施できる。例えば、本発明の組成物(例えば、ヒト抗体、多価特異的および二価特異的分子)あるいはそれら組成物を備えるエフェクター細胞での抗癌治療は、化学療法と組み合わせて使用できる。さらに、併用免疫療法は、異なる2つの細胞傷害性エフェクターを癌細胞拒絶に向けさせるために使用できる。例えば、抗FcγRIまたは抗CD3に結合した抗SDF−1抗体は、IgG−またはIgA受容体特異的結合剤との組み合わせで使用できる。
本発明の二価特異的および多価特異的分子は、例えば、細胞表面の受容体を覆い、排除することによるエフェクター細胞のFcγRあるいはFcγRレベルの調節にも使用できる。抗Fc受容体の混合物はこの目的にも使用できる。
補体に結合するIgG1、−2、−3またはIgMの部分のような補体結合部位を持つ本発明の組成物(例えば、ヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体、多価特異的および二価特異的分子ならびに免疫抱合体)は、補体の存在下においても使用できる。ある態様において、本発明の結合剤の標的細胞と適切なエフェクター細胞からなる細胞集団のエキソビボ処置は、補体あるいは補体含有血清の添加によって補強される。本発明の結合剤でコートされた標的細胞の食作用は、補体タンパク質の結合によって改善できる。また、別の態様において、本発明の組成物(例えば、ヒト抗体、多価特異的および二価特異的分子)でコートされた標的細胞も補体によって溶解される。さらに、別の態様において、本発明の組成物は補体を活性化しない。
本発明の組成物(例えば、ヒト、ヒト化もしくはキメラ抗体、多価特異的および二価特異的分子ならびに免疫抱合体)は、補体とともに投与され得る。ある態様において、本開示は、ヒト抗体、多価特異的または二価特異的分子および血清もしくは補体からなる組成物を提供する。補体がヒト抗体や多価特異的または二価特異的分子の近傍に位置しているとき、このような組成物は有利である。あるいは、本発明のヒト抗体、多価特異的または二価特異的分子および補体または血清は、別々に投与されてもよい。
本発明の範囲には、本発明の抗体組成物(例えば、ヒト抗体、二重特異性若しくは多重特異性分子または免疫複合物)と使用説明書を含むキットも含まれる。当該キットは、さらに、免疫抑制剤、細胞毒性物質、放射性毒性物質のような一以上の付加的試薬または一以上の本発明の付加的ヒト抗体(例えば、第1ヒト抗体と異なるSDF−1抗原エピトープに結合する相補性活性を有するヒト抗体)を含むことができる。
従って、本発明の抗体組成物で治療される患者には、さらに、ヒト抗体の治療的効果を促進しもしくは増強する細胞毒性もしくは放射毒性物質のような別の治療剤を(本発明のヒト抗体投与前、投与時あるいは投与後)追加的に投与できる。
他の態様において、例えば、患者へのサイトカインの投与のように、患者は、FcγまたはFcγ受容体の発現もしくは活性を、例えば促進あるいは阻害する調節物質で追加的に治療できる。多価特異的分子での処置の間に投与される好ましいサイトカインとしては、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターフェロン−γ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。
本発明の補体(例えば、ヒト抗体、二重特異性および多重特異性分子)は、FcγRまたはSDF−1を発現する標的細胞を、例えば、標識するために使用することもできる。そのような使用において、結合剤は検出分子に結合できる。従って、本発明は、FcγRのようなFc受容体またはSDF−1をエキソビボまたはインビボで発現する細胞を局限する方法を提供する。その検出標識として、例えば、放射性同位体、蛍光物質、酵素または酵素共役因子が挙げられる。
特別な態様において、本発明は、抗体もしくはその部分とSDF−1とが複合体を形成できるような条件下で、サンプルおよび対照サンプルをSDF−1と特異的に結合するヒトモノクローナル抗体もしくはその抗原結合部位と接触させることからなる、サンプル中のSDF−1抗原の存在を検出あるいはSDF−1抗原量を測定する方法を提供する。複合体の形成が検出できると、対照サンプルに対するサンプル間の複合体形成の相違は、サンプル中のSDF−1抗原の存在を示すものとなる。
さらに、別の態様において、本発明の免疫抱合体は、抗体に対する化合物の結合によって、SDF−1細胞表面受容体を持つ細胞に化合物(例えば、治療剤、標識、細胞毒素、放射性毒素、免疫抑制剤など)をダーゲットするのに使用できる。例えば、抗SDF−1抗体は、米国特許番号6,281,354および6,548,530、米国特許公開番号20030050331、20030064984および20040087497に記載され、WO03/022806で公開される毒性化合物のいずれかに結合することができる。従って、本発明は、SDF−1発現細胞(例えば、放射性同位体、蛍光化合物、酵素、酵素共役分子のような検出標識)のエキソビボもしくはインビボでの局在を検出する方法も提供する。あるいは、免疫抱合体は、SDF−1に対する細胞毒素または放射性毒素のターゲッティングによって、SDF−1細胞表面受容体を持つ細胞を死滅させるのに使用できる。
2006年8月11日に出願された米国特許出願番号60/837004の内容は、そのまま参照されることによって、ここに明確に含まれている。
さらに、本発明は、以下の実施例によって例証されるが、これは更なる限定として構成されるものでない。この出願において引用される、すべての図、参考文献、特許および公開特許出願の内容は、参照されることによってここに明確に含まれている。
実施例1:SDF−1に対するヒトモノクローナル抗体の製造
抗体は、安定的に遺伝子組み換えされたマウスシステムで完全ヒト抗体を製造するUltiMAb Human Antibody Development System(登録商標)と、カスタム抗体ライブラリーを製造し、抗体重鎖および軽鎖のコンビナトリアルライブラリーから選択することを可能とするOmniclonal(登録商標)ファージティスプレイシステムの組合せからなる、Trans−PhageSM技術で製造した。
遺伝子組み換えHuMab Mouse(登録商標)およびKM Mouse(登録商標)
SDF−1に対する完全ヒトモノクローナル抗体を、それぞれがヒト抗体遺伝子を発現する遺伝子組み換えHuMab Mouse(登録商標)のHCo7系と遺伝子組み換えトランス染色体マウスのKM系を用いて調製した。これらのマウス系のそれぞれにおいて、内因性マウスκ軽鎖遺伝子を、Chenら(1993)EMBO J. 12:811−820に記載のようにホモ接合により破壊し、内因性マウス重鎖遺伝子は、PCT公報WO01/09187の実施例1に記載のようにホモ接合により破壊した。これらのマウス系のそれぞれは、Fishwildら(1996)Nature Biotechnology 14:845−851に記載されているように、ヒトκ軽鎖導入遺伝子KCo5を有している。HCo7系は、米国特許5,545,806、5,625,825、および5,545,807に記載されているように、HCo7ヒト重鎖導入遺伝子を有している。KM Mouse(登録商標)系は、PCT公報WO02/43478に記載されているように、SC20トランス染色体を含んでいる。
HuMabおよびKMの免疫
SDF−1に対する完全ヒトモノクローナル抗体を産生するため、HuMab Mouse(登録商標)およびKM Mouse(登録商標)のマウスを、精製組み換えSDF−1α(Peptrotech;Rocky Hill,NJ)で免疫した。ヒトアイソフォームSDF−1α、SDF−1βおよびSDF−1γは、その細胞外ドメインが同じなので、交互に使用できる。HuMab Mouse(登録商標)の一般的免疫スキームは、Lonberg、N.ら(1994)Nature 368(6474):856−859;Fishwild,D.ら(1996)Nature Biotechnology 14:845−851およびPCT公報WO98/24884に記載されている。当該マウスは、最初の抗原注入時に6−16週齢であった。SDF−1α精製組み換え調製物(5〜50μg)を用いて、HuMab Mouse(登録商標)およびKM Mouse(登録商標)をそれぞれ免疫するのに使用した。
遺伝子組み換えマウスは、完全フロイントアジュバントまたはRibiアジュバント中の抗原で、腹腔内(IP)、皮下(Sc)あるいは足蹠(FP)のいずれかに2回免疫し、次に不完全フロイントアジュバントまたはRibiアジュバント中の抗原で(総計11回まで)、IP、ScあるいはFPに3〜21日間免疫した。免疫応答は眼窩後方出血によりモニタリングした。血漿は、ELISA(下記に説明)によりスクリーニングし、抗SDF−1ヒトイムノグロブリンの十分な力価をもつマウスを融合に用いた。屠殺3および2日前にマウスに抗原を静注によりブーストし、脾臓を除去した。
抗SDF−1抗体産生HuMab Mouse(登録商標)またはKM Mouse(登録商標)の選択
SDF−1に結合する抗体を産生するHuMab Mouse(登録商標)またはKM Mouse(登録商標)を選択するため、免疫マウス由来の血清をFishwild,D.ら(1996)に記載のようにELISAによって試験した。簡単に述べると、マイクロタイタープレートに、PBS中1〜2μg/mLで精製組み換えSDF−1をコートし、50μL/ウェルを4℃で一晩インキュベーションし、次に、200μL/ウェルのPBS/Tween(0.05%)中の5%ウニワトリ血清によりブロックした。SDF−1免疫マウス由来の血清希釈物を各ウェルに添加し、室温で1〜2時間インキュベーションした。このプレートをPBS/Tweenで洗浄した後、西洋わさびパーオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗ヒトIgG Fcポリクローナル抗体とともに室温で1時間インキュベーションした。洗浄後、プレートをABTS基質(Sigma,A−1888,0.22mg/mL)で発色させ、分光光度計によりOD415−495で分析した。最大力価の抗SDF−1抗体を産生したマウスを抗体製造に使用した。
ファージ−ディスプレイ コンビナトリアル ライブラリーの作製およびスクリーニング
抗体可変領域の初回cDNAライブラリーを、SDF−1で免疫したHuMab Mouse(登録商標)またはKM Mouse(登録商標)のいずれかの脾臓で構築した。次に、抗体可変領域はファージ発現ベクターにクローニングした。ファージ選択は、ビオチン化SDF−1を用いたOmniclonal(登録商標)ファージ選択法(Biosite Inc,San Diego,CA)で実施し、ナノモルアフィニティー(KM脾臓)あるいはナノモル以下のアフィニティー(HuMab脾臓)をもつ可変領域断片をスクリーニングした。問題の可変領域断片は、Fab発現ベクターに再クローニングされ、そのFabの結合アフィニティーおよび機能アフィニティーについて再試験した。プライマーをコードする可変領域のN末端部位は、各可変領域についての生殖細胞系列配列に対して戻し変異させた。抗体全体は、高アフィニティーの抗SDF−1 Fabから標準的な分子生物学的技術により作製した。
SDF−1に対するヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの産生
代替法として、標準的プロトコールによるPEGまたはCyto Pulse大型チェンバー細胞融合エレクトポレータ(Cyto Pulse Sciences,Inc.,Glen Burnie,MD)を用いる電場に基づくエレクトロフュージョンを用いて、HuMab Mouse(登録商標)またはKM Mouse(登録商標)から単離したマウス脾臓細胞を、マウス骨髄細胞株にPEGで融合させた。次に、生成したハイブリドーマを抗原結合抗体の産生でスクリーニングした。免疫マウスからの脾臓細胞の単細胞懸濁物を、50%PEG(Sigma)により、その4分の1数のSP2/0非分泌性マウス骨髄細胞(ATCC、CRL1581)に融合させた。細胞を、約1×105/ウェルで平底マイクロタイタープレートに接種し、10%ウシ胎児血清、10%P388D1(ATCC,CRL TIB−63)調製培地、DMEM(Mediatech,CRL 10013、高グルコース、L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを有する)中3〜5%オリゲン(IGEN)及び5mM HEPES、0.055mM 2−メルカプトエタノール、50mg/mL ゲンタマイシンおよび1×HAT(Sigma、CRL P−7185)を含む選択培地中で約2週間インキュベーションした。1〜2週後、HATからHTに置き換えた培地中で、細胞を培養した。次に、ヒト抗SDF−1モノクローナルIgG抗体について、それぞれのウェルをELISA(上記で記載)でスクリーニングした。いったん強いハイブリドーマ増殖が起こった場合、培地を通常10〜14日後にモニタリングした。抗体分泌ハイブリドーマを再度接種し、再度スクリーニングし、もしヒトIgGがまだ陽性であれば、抗SDF−1モノクローナル抗体を少なくとも2回、限定希釈によってサブクローニングした。次に、安定なサブクローンをインビトロで培養し、少量の抗体を組織培地に産生させ、さらに特性解析した。
KM Mouse(登録商標)から生成されたハイブリドーマクローン1D3および1H2と、HuMab Mouse(登録商標)から生成された1C6および2A5を選択し、さらに分析した。
実施例2:ヒトモノクローナル抗体1D3、1H2、1C6および2A5の構造特性解析
1D3、1H2、1C6および2A5の重鎖および軽鎖可変領域をコードするcDNA配列を、標準的PCR技術を用いて1D3、1H2、1C6および2A5ハイブリドーマからそれぞれ得て、標準的DNA配列決定技術を用いて配列決定した。
1D3の重鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図1Aおよび配列番号:33および1にそれぞれ示した。
1D3の軽鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図1Bおよび配列番号:37および5にそれぞれ示した。
1D3重鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン重鎖配列と比較し、1D3重鎖がヒト生殖細胞系列VH1−24由来のVH部分、ヒト生殖細胞系列6−19由来のD部分、およびヒト生殖細胞系列JH6b由来のJH部分を利用することを明らかにした。1D3 VH配列の生殖細胞VH1−24配列への配列比較を図5に示した。さらに1D3 VH配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図1Aおよび5ならびにそれぞれ配列番号:9、13および17に示した重鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
1D3軽鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン軽鎖配列と比較し、1D3軽鎖がヒト生殖細胞系列VKL18由来のVL部分およびヒト生殖細胞系列JK4由来のJK部分を利用することを明らかにした。1D3 VL配列の生殖細胞VKL18配列への配列比較を図7に示した。さらに1D3 VL配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図1Bおよび7ならびにそれぞれ配列番号:21、25および29に示した軽鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
1H2の重鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図2Aおよび配列番号:34および2にそれぞれ示した。
1H2の軽鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図2Bおよび配列番号:38および6にそれぞれ示した。
1H2重鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン重鎖配列と比較し、1H2重鎖がヒト生殖細胞系列VH1−24由来のVH部分、ヒト生殖細胞系列6−19由来のD部分、およびヒト生殖細胞系列JH6b由来のJH部分を利用することを明らかにした。1H2 VH配列の生殖細胞VH1−24配列への配列比較を図5に示した。さらに1H2 VH配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図2Aおよび5ならびにそれぞれ配列番号:10、14および18に示した重鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
1H2軽鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン軽鎖配列と比較し、1H2軽鎖がヒト生殖細胞系列VKL18由来のVL部分およびヒト生殖細胞系列JK4由来のJK部分を利用することを明らかにした。1H2 VL配列の生殖細胞VKL18配列への配列比較を図7に示した。さらに1H2 VL配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図2Bおよび7ならびにそれぞれ配列番号22、26および30に示した軽鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
1C6の重鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図3Aおよび配列番号:35および3にそれぞれ示した。
1C6の軽鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図3Bおよび配列番号:39および7にそれぞれ示した。
1C6重鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン重鎖配列と比較し、1C6重鎖がヒト生殖細胞系列VH3−7由来のVH部分、ヒト生殖細胞系列7−27由来のD部分およびヒト生殖細胞系列JH6b由来のJH部分を利用することを明らかにした。1C6 VH配列の生殖細胞VH3−7配列への配列比較を図6に示した。さらに、1C6 VH配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図3Aおよび6ならびにそれぞれ配列番号:11、15および19に示した重鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
1C6軽鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン軽鎖配列と比較し、1C6軽鎖がヒト生殖細胞系列VKL18由来のVL部分およびヒト生殖細胞系列JK1由来のJK部分を利用することを明らかにした。1C6 VL配列の生殖細胞VKL18配列への配列比較を図8に示した。さらに1C6 VL配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図3Bおよび8ならびにそれぞれ配列番号:23、27および31に示した軽鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
2A5の重鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図4Aおよび配列番号:36および4にそれぞれ示した。
2A5の軽鎖可変領域のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図4Bおよび配列番号:40および8にそれぞれ示した。
2A5重鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン重鎖配列と比較し、2A5重鎖がヒト生殖細胞系列VH3−7由来のVH部分、ヒト生殖細胞系列7−27由来のD部分、およびヒト生殖細胞系列JH6b由来のJH部分を利用することを明らかにした。2A5 VH配列の生殖細胞VH3−7配列への配列比較を図6に示した。さらに2A5 VH配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図4Aおよび6ならびにそれぞれ配列番号:12、16および20に示した重鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
2A5軽鎖イムノグロブリン配列を公知のヒト生殖細胞系列イムノグロブリン軽鎖配列と比較し、2A5軽鎖がヒト生殖細胞系列VKL18由来のVL部分およびヒト生殖細胞系列JK1由来のJK部分を利用することを明らかにした。2A5 VL配列の生殖細胞VKL18配列への配列比較を図8に示した。さらに2A5 VL配列をCDR領域決定のKabatシステムを用いて分析し、図4Bおよび8ならびにそれぞれ配列番号:24、28および32に示した軽鎖CDR1、CDR2およびCD3領域を図示した。
実施例3:抗SDF−1ヒトモノクローナル抗体の結合特性および結合動態の特性解析
この実施例では、抗SDF−1抗体の結合特性および結合動態をビアコア分析およびウエスタン・イムノブロットアッセイにより調べた。
結合親和性と動態
抗SDF−1抗体を、ビアコア分析(Biacore AB、Uppsala、Sweden)によって親和性と結合動態について特性解析した。精製抗SDF−1抗体を、1級アミンによりCM5チップ(カルボキシメチルデキストラン塗布チップ)に標準的アミンカップリング化学およびビアコアが提供しているキットを用いて共有結合させた。結合は、濃度40、30、20、10および5nMでかつフロー速度75μL/分でPBS緩衝液(pH7.4)中にSDF−1(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を流すことによって測定した。SDF−1は、二量体集団を最大化する希釈ののち、すぐにインジェクトした。抗原抗体会合動態は2分間追跡し、解離動態は8分間追跡した。会合および解離曲線は、BIA評価ソフトウェア(Biacore AB)を用いて、1:1ラングミュア結合モデルに適合した。決定したK
D、k
onおよびk
off値を表3に示した。
SDF−1の免疫沈降およびウエスタンブロット
免疫沈降およびそれに続くウエスタンブロット解析によって、抗SDF−1抗体を天然SDF−1への結合で特徴づけした。
4.5×108個の血小板の調製を行い、90−95%コンフルエントの状態のCHO−SDF、CHO−SおよびMCF7細胞の細胞をT75フラスコで調製した。その細胞を冷PBSで2回洗浄した。その細胞を1.5mlの溶解緩衝液(Roche Immunoprecipitation Kit,Cat#1719394)で溶解して、氷上で、five 1−second burstsで超音波処理して破壊した。その混合物を10分間、12000×gで遠心分離し、その上清を回収した。タンパク質濃度は、Micro BCA タンパク質アッセイキット(PIERCE,Cat#23235)で決定した。その混合液に50μLプロテインGアガロースを添加して事前除去し、3時間2−8℃下でインキュベートした。5μgの抗SDF−1抗体2A5またはアイソタイプコントロール抗体を500μgの血小板およびCHO−SDF、CHO−SおよびMCF7細胞溶解物の一つに添加し、ロッキングプラットフォーム上、2−8℃下で1時間インキュベートした。ビーズを12,000×g、1分間の遠心分離で沈殿させた。次にビーズは洗浄緩衝液(Roche Immunoprecipitation Kit,Cat#1719394)で6回洗浄した。ウエスタン解析については、各サンプルに60μlのLDSローディング緩衝液(Invitrogen,Cat#NP0007)を添加し、3分間100℃で熱処理し、タンパク質を変性させた。標準的なウエスタンブロット技術を使用して、3μg/ml 2A5マウスキメラ抗体で、室温下、1時間ブロットした。その結果、抗SDF−1抗体は、SDF−1の分子量に一致する約8KDaのバンドに結合することが示された。
実施例4:SDF−1のオリゴマー状態の同定のためのビアコアおよび蛍光分光的手法
SDF−1のオリゴマー状態は、蛍光異方性および蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)実験で決定した。両実験は、Spex Fluorolog 3.2装置(Spex,Edison,NJ)で実施した。
蛍光異方性実験では、蛍光標識したSDF−1を使用した。実験は、494nmでの励起および514nmでの発光をモニターして、5nm帯域通過にセットされたスリットで実施した。これら実験において、12.5μM SDF−1溶液を50nMに希釈して、経時的に異方性を測定した。これら実験は、PBS、PBSおよび1mM 塩化カルシウム中で実施した。異方性は、分子複合体の全重量および形態の機能であり、塩化カルシウムがない場合減少し、1mM 塩化カルシウム添加で定常状態となる。
FRET実験には、ダンシル標識SDF−1およびフルオレセイン標識SDF−1を使用した。これら実験は、335nmでの励起および520nmでの発光で行い、分光計スリットは5nmにセットした。これら実験においては、12.5μM SDF−1溶液を50nMに希釈し、FRETシグナルは経時的に測定された。これら実験はPBSおよびPBS+1mM 塩化カルシウム中で実施した。その結果を図9に示す。図9Aは、異方性測定に基づき、希釈後の経時的なSDF−1二量体の消失における1mM 塩化カルシウムの効果を示す。図9Bは、FRET測定に基づき、希釈後の経時的なSDF−1二量体の消失における1mM 塩化カルシウムの効果を示す。蛍光異方性法およびFRET実験は、1mM 塩化カルシウム添加PBS緩衝液中でなく、PBS緩衝液への希釈後の経時的なSDF−1二量化の消失を示している。
実施例5:示差走査熱量測定による抗SDF−1モノクローナル抗体の熱安定性
抗SDF−1モノクローナル抗体の熱安定性を、抗体の融解温度の熱量分析で決定した。
融解温度(T
m)の熱量測定は、オートサンプラー(MicroCal LLC,Northampton,MA,USA)と組み合わせたVP−キャピラリーDSC走査示差熱量計プラットフォームで実施した。サンプルセル容量は0.144mLである。変性データは1℃/分の速度で、30から95℃に、2.0μM濃度のサンプルを熱処理することによって得られた。タンパク質サンプルはpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中にある。同じ緩衝液を、比較によるモル熱容量取得のための参照セルで使用した。観察されたサーモグラムは、非2段階モデルに基づいて、ソフトウェアOrigin v7.0を使用して、解析データをベースライン修正および正規化された。そのデータを表4に示した。抗SDF−1抗体2A5は、示差走査熱量測定によって、1C6、1H2および1D3に比べより安定である。
実施例6:化学変性下での物理的安定化方法
抗SDF−1モノクローナル抗体の安定性を、蛍光分光法により化学変性の中間点を測定して比較した。
化学変性の蛍光測定は、Micromaxプレートリーダー(SPEX,Edison,NJ)にインストールされているSPEX Fluorolog 3.22で実施した。その測定は、16種の異なる濃度の塩酸クアニジウムPBS緩衝液に平衡化するため、抗体サンプルを24時間放置して行った。測定は、黒色、低容量、非吸着性表面384ウェルプレート中で行い、1ウェル当り12μL中に1μMの抗体を必要とした。蛍光は、280nmで励起され、300から400nm間の発光スペクトルで測定した。走査速度は、nm当り1秒で、スリットは5nm通過幅で設定した。緩衝液ブランクはPBSを使用し、データから自動的に差し引かれた。データは、GraphPad Prism ソフトウェアを使用して、2状態変性モデルに適用した。そのデータを表5に示した。
実施例7:質量分析法およびビアコアによる天然および合成ペプチドに基づくエピトープ・マッピング法
ケモカインの分子エピトープの質量分光学的配列同定には、二つのアプローチ:エピトープ抽出およびエピトープ除去がある。エピトープ抽出では、まず、ケモカインを酵素消化し、その後、ペプチド断片を抗ケモカイン抗体結合POROS樹脂と混合し、結合剤で確認した。一方、エピトープ除去では、その消化はケモカインが抗体に結合している間、イン・サイチュで実施する。
質量分析法によるモノクローナル抗体に結合する合成ペプチドの研究方法
非結合剤を洗い除いた後、抗体樹脂にまだ結合しているペプチドを含むエピトープは、直接、ともにMALDI−MS分析あるいは抗体から溶出分離させ、ESI−MS解析した。
いくつかのペプチド断片パターンが全ケモカイン配列を網羅するよう、様々なプロテアーゼを使用して生成した。様々な重複はあるが、還元および天然型の両ケモカインペプチドをエピトープ結合試験に付した。エピトープ領域の近くを厳格に切断するためには、多数の酵素の組合せあるいはシリーズが必要とされるかもしれない。
抗体に結合するものとして質量分析法で同定されているペプチドはケモカインの三次元構造上に同定されて、X線結晶解析によって決定され、公共ドメイン()上で利用できる。この手順によって、例えば、抗体によって認識される中核エピトープに対してかなり末端であれば、偽陽性として質量分析法によって同定されるアミノ酸の長さを短くすることができる。従って、マッピングされたエピトープに基づいて、合成ペプチドのためのアミノ酸配列を設計することができる。エピトープ(機能的エピトープ)中の重要な残基をさらに同定するために、重要な位置をアラニンに置換したペプチドをその合成のために設計することもできる。そのような合成ペプチドに結合する抗体はビアコアおよび/または質量分析機で試験した。
http://www.rcsb.org
ビアコアによるモノクローナル抗体に結合する合成ペプチドの研究方法
抗体をビアコアCM5チップに共有結合させた。ペプチドは、10μg/mLの濃度で、pH7.0の20mM酢酸アンモニウムに用時調製した。そのようなペプチドを、15分間、10μL/分の流速で抗体表面上に流した。
アイソタイプコントロールに対するペプチドの結合は、ブランクシグナルとして使用した。このアプローチに基づいて、天然の抗原配列とアラニン置換を持つペプチドで、抗体に結合するものを同定した。
二つの分子エピトープは、mAbZおよびmAbBと呼ばれるハイブリドーマによって産生されるhuMAbの異なる二つの集団から同定された。各2つの抗体グループは、単体または二量体SDF−1αのいずれに対しても選択的に結合する。抗SDF−1抗体1D3および1H2はmAbBグループ抗体である。抗SDF−1抗体1C6および2A5は、mAbZグループ抗体である。mAbZグループは2つのエピトープペプチドを認識し、一つは受容体結合部位としても知られるN末端領域アミノ酸残基7−19の近く、一方は、37−50残基間の第三ベータシート上である。mAbBグループは、SDF−1α二量体接触面であるヘパリン結合部位をブロックする。ビアコアデータからの推測により、mAbBは、ヘパリンも結合する第一および第二単体の24〜30残基間の二量体接触面に優位に結合する。mAbZとの結合エピトープに関係する一つの重要な残基Arg8も、質量分析的アッセイで同定された。
実施例8:以下の条件が変更された場合のSDF−1多量化状態およびmAb結合の変化を測定するビアコアおよび蛍光分光的手法
単体SDF−1への抗SDF−1モノクローナル抗体の結合を測定するために、CM5チップに低密度で共有結合させたSDF−1を用いたビアコア実験を行った。1C6および2A5については、PBS緩衝液(pH7.4)中、50、40、30、20および10nM濃度のSDF−1(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を流し、その結合を測定した。1D3および1H2については、PBS緩衝液(pH7.4)中、500、400、300、200および100nM濃度のSDF−1(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を流し、その結合を測定した。表6にそのデータを示す。1C6および2A5は、単体SDF−1に対して、より高い結合活性を示した。
モノクローナル抗体への結合について、SDF−1希釈の効果を、抗CH1チップ上に抗体を捕獲することによって測定し、希釈から2分後の経時的はSDF−1結合応答を測定した。それら実験は、PSB(pH7.4)中の1D3および1C6モノクローナル抗体を使用して行い、SDF−1は12.5μMから100nMに希釈した。
SDF−1への抗SDF−1モノクローナル抗体の結合に対するpH、Ca2+およびEDTAの効果を決定するために、ビアコア解析を行った。抗SDF−1モノクローナル抗体は、CM5チップ(ビアコア)に共有結合させ、各緩衝液中で100nM SDF−1をチップ全体にわたって流し、希釈から2分間の経時的な結合相の応答を測定した。使用した緩衝液は、HBS−BP(ビアコア)、HBS−P(EDTA欠如)、PBS、PBS+1mM 塩化カルシウムおよび酢酸ナトリウム pH5.5+150mM 塩化ナトリウムである。
ヘパリン硫酸へのSDF−1の結合阻害は、ストレプトアビジンチップ(Biacore,Uppsala,Sweden)上でビオチン化ヘパリン硫酸塩(Sigma)を捕獲することによって決定し、過剰量のモノクローナル抗体(1H2および2A5)の存在下および非存在下でのSDF−1結合を測定した。実験はPBS中で行った。
実施例9:125I−SDF−1αの細胞への結合を阻害することにより測定される機能的活性
CEM細胞へのSDF−1結合阻害についての抗SDF−1抗体の比較は、標準的な放射標識リガンド結合アッセイで行った。抗SDF−1α抗体は、40nMから2pMの濃度範囲で、1:3で系列希釈した。抗体は、2000Ci/mmolの特異的活性を持つ100pM 125I−SDF−1(アマシャムカタログ#IM314−25UCI)存在下でCEM細胞に添加した。同じアイソタイプの無関係な抗体をネガティブコントロールとして使用した。放射標識リガンドに結合し得る全量は、抗体の非存在下で、125I−SDF−1をCEM細胞に結合させることによって決定した。放射標識リガンドの非特異的結合は、1μM 非標識SDF−1(Peprotech カタログ#300−28A)の存在下、125I−SDF−1を結合させることによって決定した。その結果を図10に示す。
実施例10:抗SDF−1抗体はCEM細胞でのSDF−1誘導カルシウム流入を阻害する。
CEM細胞を蛍光カルシウム染色、Calcium3(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)によって標識した。抗SDF−1抗体は、濃度範囲が100nMから1pMとなるように1:3で系列希釈して滴下して、Flexstation machine(Molecular Devices)に導入する前に、50nM SDF−1α(Peprotech,Rocky Hill,NJ)と混合した。ネガティブコントロールとして、同じアイソタイプの無関係の抗体を使用した。その後、細胞をSDF−1α/抗体混合物で刺激した。最大となるカルシウム流入シグナルを達成するため、抗体非存在下での細胞を(0.1%BSAまたはHBS含有ハンクス緩衝生理食塩水で調製した)SDF−1αで刺激した。ベースラインを決定するため、細胞は0.1%BSA含有HBSで刺激した。SDF−1α刺激によるカルシウム放出は、経時的なカルシウム依存性蛍光で測定した。その結果生じた蛍光トレースの曲線下の領域は、カルシウム流入の指標として報告される。抗SDF−1抗体によるカルシウム流入の阻害を図11に表す。データをプロットし、EC50は、GraphPad Prismソフトウェアおよび非線形曲線適合、シグモイド用量反応式を使用して計算した。
実施例11:抗SDF−1抗体はCEM細胞のSDF−1誘導遊走を阻害する。
CEM細胞をPerkin ElmerのBATDA試薬で標識した。100nMから1pMの濃度範囲となるよう、抗SDF−1抗体の1:3系列希釈を滴下し、5nM SDF−1α(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を混合した。ネガティブコントロールとして、同じアイソタイプの無関係な抗体を使用した。抗体の存在あるいは非存在下で組み換えヒトSDF−1αを、1ウェル当り直径5.7mmフィルターを備える96ウェルNeuroprobe遊走プレートの下方チャンバーに5nMで添加した。各ウェルは5μm細孔を有する。標識されたCEM細胞は、1ウェル当り50万個の濃度でフィルター上に導入した。遊走プレートを37℃下、2.5時間インキュベートした。遊走細胞は、プレートの下方チャンバーに捕らえられ、溶解後、Perkin Elmerによるユーロピウム検出溶液で検出した。化学発光シグナルは、Fusion装置に記録される。抗SDF−1抗体によるSDF−1α誘導性遊走の阻害を図12に示す。
実施例12:抗SDF−1抗体を使用した抗体誘発関節炎の治療
マウス・コラーゲン誘発関節炎(CIA)は、ヒトのリウマチ関節炎の実験的スクリーニングモデルとして広く使用されている。このモデルマウスは、タイプIIコラーゲンで免疫され、タイプIIコラーゲン分子の特異的領域に対する抗体の産生を誘導する。疾患の発症は徐々に生じ、6週間が典型的なCIAモデルでの最短期間である。さらに最近では、タイプIIコラーゲンの4つの自己抗原エピトープが同定され、それらエピトープに対して生成される4つのモノクローナル抗体カクテルを関節炎誘導に使用した。抗コラーゲン抗体投与3日後のLPS注入は、疾患の急速な発症を誘発した。この抗体誘発モデルでは、疾患の発症は急激であり、全研究が2週間以内に完了できる。この抗体誘発モデルは、滑膜や関節腔への炎症細胞広範な浸潤、パンヌス形成、骨および関節組織の顕著な破壊といった典型的なCIAモデルで認められるのと同様の特徴を示す。故に、このモデルは、典型的なモデルよりもより短期間で、同様の方法によって抗炎症物質の効果を評価するのに使用できる。
この実験では、6〜8週例のBalb/cマウスを使用した。0日目に、4mgの抗コラーゲン抗体カクテル(Arthrogen)をマウスに注射し、2日目に25μg LPSを注射した。1、4、7および10日に、抗SDF−1抗体、アイソタイプコントロール抗体、PBSまたはコルチコステロイド、デキサメタゾンを、抗体については15mg/kg、デキサメタゾンについては0.3mg/kgを処置した。この試験で試験された抗SDF−1抗体は、クローン1H2、2A5および1C6である。関節炎の発症は、3、5、8、10、12および15日目に、0〜4段階の臨床的観察(発赤および腫脹)でスコア付けされた。重傷度スコアは、正常はゼロ、足首もしくは手首の明瞭な発赤もしくは軽度の腫脹または一つの指趾の腫脹は1、一以上の指趾の発赤および腫脹は2、脚全体、中足部、踝関節および/または腕節の発赤および腫脹は3、複数の関節を含んだ前脚の炎症、腫脹あるいは奇形は4である。重傷度スコアは、各動物に全スコア16として、すべての4つの脚について評価した。すべての4つの脚の腫脹(脚の厚さ)は、3、5、8、10、12および15日での高精度カリパスで測定した。
血清調製物中の血液検体は、2回:処置開始前および検死前にすべてのマウスから回収した。15日目に動物を解剖し、2つの後ろ足を足首の上約0.5cmのところで切断し、組織分析のために10%ホルマリン中性緩衝液で保存した。
その結果を図13−1から13−3に示した。図13−1は、各マウスについて、平均スコア(A)および平均の脚幅(B)を示している。図13−2は、15日目の平均スコア(C)および平均脚(厚)(D)を示している。図13−3は平均病理スコア(E)および24日目の平均病理スコア(F)を示している。2A5(黒塗上向三角)を処置したマウスは、アイソタイプコントロール(灰色下向三角)で処置したマウスほど優位に重症とならなかった。アイソタイプコントロールグループの疾患の重症度と脚の炎症は、ポジティブコントロールであるデキサメタゾン(大四角)と同程度であった。しかしながら、1H2グループおよび1C6グループは、抗体処置により何れの効果も示さず、アイソタイプコントロールと同等であった。そのような知見の有意さを推定するための統計解析により、Z2A5グループの効果はP値0.0006で有意であり、一方、B1H2グループの効果は有意でなかった(P=0.346)。
実施例13:マウス空気嚢モデルにおける抗SDF−1抗体の効果
抗SDF−1抗体の効果を試験するため、空気嚢モデルを開発した。このインビボモデルでは、多種類の細胞がSDF−1に応答して遊走し、その空気嚢は細胞遊走のためのインビボ微小環境を提供する。主に、マウスを麻酔し、滅菌空気を注射することによって空気嚢を作製した。試験日に、空気嚢に抗SDF−1抗体の存在あるいは非存在下で組み換えヒトSDF−1αを注射した。抗体の効果を評価した。この実施例では、抗SDF−1抗体2A5、1C6、1D3および1H2を試験した。
8〜12週例(CRL)の雌C57BL/6マウスをイソフルランで麻酔し、マウスの背中の皮下に5mLの滅菌空気を注射することによって空気嚢を形成した。3日後、さらに3mLの滅菌空気を注射した。7日目に、PBSあるいはSDF−1αのみ(200ng PeproTech)、SDF−1α+ヒトIgG4アイソタイプコントロールもしくはSDF−1α+50μgもしくは100μg抗SDF−1抗体1mLを注射した。各試験群には5匹のマウスを使用した。4時間後、マウスをCO2で窒息死させ、嚢を2mLのPBS/5mM EDTAで洗浄し、続いて、さらに3mLのPBS/5mMEDTAで2回洗浄した。浸出物を室温下500×gで5分間遠心分離した。細胞を血球計で計測し、リンパ球下位集団の血球百分率をcytospin法で実施し、Kwik−Diff染色キットで染色した(Thermo Electron Corporation,Waltham,MA)。
その結果を図14に示す。400ngのSDF−1αで、空気嚢への白血球の遊走が誘導され、典型的に白血球の全細胞数がPBS投与空気嚢の場合に比べて2〜3倍増加している。抗SDF−1抗体を100μg/mL濃度で投与した場合、PBSのみで認められたレベルまで細胞遊走は完全に阻害された(図14A)。アイソタイプコントロール抗体は全く効果を示さなかった。図14Bで、遊走した好中球(Neu)または単球/リンパ球(その他)の割合を測定した。好中球に代表される遊走細胞の大半は、抗SDF−1抗体で阻害される。同様に、単球およびリンパ球も阻害される。この抗体濃度で、試験した抗体の阻害活性に違いは認められなかった。
次の試験で、遊走を誘導するのに使用されたSDF−1の濃度を200ngに低減させ、抗体濃度を100μg/mLと50μg/mLの低いレベルで試験した。2A5および1C6は50μgと100μgで、好中球、リンパ球および単球の遊走を阻害した(図15)。好中球、リンパ球および単球の数は、PBSレベルまで完全に低下した。この濃度での力価は二つの抗体で同程度であった。100μgのアイソタイプコントロールには効果はなかった。
結局、抗SDF−1抗体、2A5、1C6、1H2および1D3はインビボでの細胞遊走の有望な阻害剤である。
実施例14:蛍光微量アッセイ技術FMAT試験
この実施例において、HuVEC細胞存在下でのSDF−1に対する抗SDF−1抗体結合を試験した。HuVEC細胞はSDF−1が結合するグリコサミノグリカン(GAG)を含む。
HuVEC(ヒト臍帯血管内皮細胞,Cambrex,P/N CC−2519)細胞は、96ウェル黒色、透明底、不透明プレート上ウェル当り200μL培地中で、ウェル当り1×104細胞播種して、37℃、CO2下で一晩培養した。慎重に細胞上清を取り除いて下さい。抗原と抗体を4×濃度で希釈して下さい。50μLアッセイ緩衝液(PBS+0.5%FBS)、50μL rh SDF−1α(Peprotech,P/N 300−28A)、50μL抗体および50μL 1:3000希釈Alexa Fluor 647ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(Invitrogen,P/N 21445)またはヤギ抗マウスIgG(H+L)(Invitrogen,P/N 21235)を添加してください。ホイルでプレートを覆い、室温下で2時間培養して下さい。Applied Biosystems FMAT 8200で測定してください。その結果を図16に示す。この実験により、抗SDF−1抗体1C6および2A5が、GAG−結合SDF−1に、抗SDF−1抗体1D3および1H2よりもより結合することが示され、これは抗体1D3および1H2がGAG結合部位が重複するエピトープ領域に結合することを提案するものである。
実施例15:非CXCR4発現細胞上のGAGへの125I−SDF−1α結合の阻害
この実施例において、SDF−1αの非特異的グリコサミノグリカン(GAG)への結合阻害について、抗SDF−1抗体を用いて試験した。
ATCC(cat# CRL−1730)からのHuVEC細胞に対するSDF−1結合阻害における抗SDF−1抗体の比較を、標準的な放射標識リガンド結合アッセイで実施した。抗SDF−1抗体を、10nMから0.5pMの濃度範囲となるよう、1:3で系列希釈した。その抗体を2000Ci/mmolの特異的活性をもつ100pM 125I−SDF−1α(Amersham catalog # IM314−25UCI)の存在下、HuVEC細胞に添加した。ネガティブコントロールとして、同じアイソタイプの無関係な抗体を使用した。放射標識リガンドが結合し得る全量を、抗体の非存在下、HuVEC細胞に125I−SDF−1αを結合させることで決定した。放射標識リガンドの非特異的結合は、1μMの非標識組み換えヒトSDF−1α(Peprotech cataolog # 300−28A)の存在下、125I−SDF−1αを結合させることにより決定した。HuVEC細胞はCXCR4を発現しないので、おそらくSDF−1αのそれら細胞への非特異的結合はGAGを介したものである。その結果を図17に示す。
実施例16:抗SDF−1抗体は、HuVECによる毛細血管形成を阻害する。
この実施例において、HuVEC細胞間の毛細血管形成の結合ポイントにおける抗SDF−1抗体の効果を試験した。
マトリゲルをRPMIと1:1で希釈し、96ウェルプレートのウェルに広げ、37℃下、30分間重合させた。80%コンフルエントのHuVEC(Cambrex cat.#CC−2519)をトリプシンで消化し、0.5%FBS含RPMIに1×106細胞/mLで懸濁した。抗体を最終濃度3μg/mLとなるようHuVECと混合し、室温下、30分間インキュベートした。ネガティブコントロールとして、同じアイソタイプの無関係は抗体あるいは培地を使用した。血管形成阻害のポジティブコントロールとして、マウス抗ヒトαVβ3(CD51/CD61)抗体(R&D Systems cat# MAB3050)を使用した。抗体の存在あるいは非存在下、HuVECをマトリゲルコートウェル上に広げ、37℃下、18時間インキュベートした。
培地またはアイソタイプコントロールで培養したHuVECは毛細血管を形成し、細胞当り3〜5ポイントの結合あるいは分岐点でプレートを横断する結合細胞を出現させた。抗SDF−1抗体または抗αVβ3抗体のいずれかとともに培養したHuVECは毛細血管を形成しなかった。細胞は分離しているように見え、分岐点がほとんどないか全くない。抗SDF−1抗体1H2では分岐点がほとんどなかったが、一方、2A5は数パーセントの細胞でいくつかの分岐点を生成した。
以下に配列表の配列リストのまとめを示す。