以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によって本発明が限定されるものではない。
本実施形態は、車両に搭載される電源(車載電源)の電圧低下を判定する電圧判定手段と、前記制御装置が動作可能な電圧を発生させることが可能な電圧発生手段と、車載電源の電圧が所定の閾値よりも低下した場合には、車載電源に代えて電圧発生手段の出力を前記制御装置に供給する切替手段とを備える点に特徴がある。
図1は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を示す概略図である。本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1は、エンジン102を動力発生手段とする車両100に搭載される。電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2、ステアリングシャフト3、第1ユニバーサルジョイント4A、ステアリングジョイント5、第2ユニバーサルジョイント4B、ステアリングギヤ入力シャフト6及びステアリングギヤ7、電動パワーステアリング装置の制御装置(以下EPS(Electric Power Steering)制御装置という)50を含んで構成される。そして、ステアリングシャフト3、第1ユニバーサルジョイント4A、ステアリングジョイント5、第2ユニバーサルジョイント4B、ステアリングギヤ入力シャフト6及びステアリングギヤ7が、ステアリング機構1Cを構成する。電動パワーステアリング装置1は、電動機9によってステアリング機構1Cへ補助操舵力を付与することにより、運転者によるステアリングホイール2の操作を補助する。
電動パワーステアリング装置1は、運転者によってステアリングホイール2に入力される操舵トルクが、入力軸3Iと出力軸3Eとを有するステアリングシャフト3に伝達される。このステアリングシャフト3は、ステアリング機構1Cのケーシングに回転自在に支持される。そして、ステアリングシャフト3は、入力軸3Iの一端がステアリングホイール2に連結され、他端は操舵トルク検出手段としてのトルクセンサ40を介して出力軸3Eの一端に連結される。ステアリングホイール2に入力される操舵トルクは、まずステアリングシャフト3の入力軸3Iへ伝達され、トルクセンサ40を介して出力軸3Eへ伝達される。
ステアリングシャフト3の出力軸3Eに伝達された操舵トルクは、第1ユニバーサルジョイント4Aを介してステアリングジョイント5に伝達され、さらに、第2ユニバーサルジョイント4Bを介してステアリングギヤ入力シャフト6に伝達される。ステアリングギヤ入力シャフト6に伝達された操舵トルクは、ステアリングギヤ7を介してタイロッド8に伝達され、車両100の転舵輪、すなわち左側前輪101l及び右側前輪101rを操舵する。ここで、ステアリングギヤ7は、ステアリングギヤ入力シャフト6に連結されたピニオンギヤ7pと、このピニオンギヤ7pにかみ合うラックギヤ7rとを有する、いわゆるラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオンギヤ7pの回転運動を、ラックギヤ7rで直進運動に変換する。
ステアリングシャフト3の出力軸3Eには、減速ギヤ10が取り付けられており、電動機9の発生する出力は、減速ギヤ10を介することによって増幅されて、出力軸3Eへ伝達される。これによって、電動パワーステアリング装置1のステアリングシャフト3を介して、ステアリング機構1Cへ補助操舵力が付与される。
ステアリングシャフト3の入力軸3Iに取り付けられるトルクセンサ40は、ステアリングホイール2を介して入力軸3Iに伝達された操舵トルクを検出するものである。トルクセンサ40は、例えば、ステアリングシャフト3の入力軸3Iと出力軸3Eとの間に介在させたトーションバーによって、運転者によって入力される操舵トルクを捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位をポテンショメータで検出するように構成される。
トルクセンサ40から出力される電圧値は、図1に示すように、トルク検出値TとしてEPS制御装置50に入力される。このEPS制御装置50には、トルク検出値Tの他に、車速センサ41で検出した車両100の速度の検出値(以下車速検出値という)v、及び電動機9の電流値、すなわち電動機9に流れて電動機9を駆動する電流(電動機駆動電流の値、以下駆動電流値という)Imが入力される。そして、EPS制御装置50は、トルク検出値T及び車速検出値vに応じた補助操舵力を電動機9に発生させるために必要な、電動機9へ供給する電流の値(以下電流指令値という)I_cを演算する。EPS制御装置50は、演算した電流指令値I_cと駆動電流値Imとの差分が0になるように、駆動電流値Imをフィードバック制御する。ここで、補助操舵力は、減速ギヤ10を介して出力軸3Eに伝達される電動機9の力である。次に、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1を制御するEPS制御装置50の構成を説明する。
図2は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置を制御するEPS制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。EPS制御装置50は、バス51、不揮発性メモリ52、A/D(Analog/Digital)コンバータ53、入力インターフェース54、クロック発生回路55、CPU(Central Processing Unit)56、ROM(Read Only Memory)57、RAM(Random Access Memory)58、ロジックIC(Integrated Circuit)59、電動機駆動制御手段であるプリドライバ60、電動機駆動回路61、電動機相電流検出回路62、63、全電流検出回路64、RD(Resolver Digital)コンバータ65、入力部リレー66、電動機用リレー67、68を含んで構成される。
また、EPS制御装置50は、電圧判定手段である電圧判定回路30と、切替手段である切替回路31と、例えば鉛蓄電池等の車載電源11の出力を所定の電圧に変換してCPU56やロジックIC59等へ供給する定電圧電源(レギュレータ)32と、電圧発生手段及び昇圧手段である昇圧回路33とを備える。定電圧電源32は、直流電源である車載電源11の電圧(例えば12V)を、CPU56やロジックIC59が動作可能な電圧、例えば直流の5Vに変換する機能を有する。昇圧回路33は、直流電源である車載電源11の電圧、例えば直流の12Vを、プリドライバ60が電動機駆動回路61を動作させるために必要な電圧、例えば直流の36Vに昇圧する機能を有する。
バス51は、A/Dコンバータ53、入力インターフェース54、クロック発生回路55、CPU56、ROM57、RAM58、ロジックIC59等の間でデータの送受信を行うためのものである。A/Dコンバータ53は、トルクセンサ40から出力されたトルク検出値T、電動機相電流検出回路62、63から検出される駆動電流値、RDコンバータ65からのモータ回転角信号、電動機9の端子間電圧を、ディジタル信号に変換するためのものである。
入力インターフェース54は、車速センサ41からの車速検出値vをディジタル信号に変換する。ROM57は、電動機9の制御プログラム、PWM(Pulse Width Modulation)の演算プログラム、フェールセーフプログラム等を記憶するためのメモリとして使用される。また、RAM58は、前記のプログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。不揮発性メモリ52は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリ等により構成され、EPS制御装置50の通電が停止された後においても、記憶した内容を保持することができる。
プリドライバ60は、CPU56で演算された、電動機9に発生させるトルクを表す信号、すなわち電流指令値を、パルス幅変調されたデューティ指令値W、V、U、Wb、Vb、Ubに変換するためのものである。ここで、デューティ指令値W、V、Uは正相の三相信号を表し、デューティ指令値Wb、Vb、Ubは逆相の三相信号を表す。構成される電動機駆動回路61には、図1に示すように、車両100が搭載する車載電源11が接続されており、電動機9を駆動するために車載電源11の出力が供給される。電動機駆動回路61は、W、V、Uの三相電流を発生させるための3つのインバータ回路より構成されており、各インバータ回路は、電源電圧側のスイッチングトランジスタ61Aと、接地電位側のスイッチングトランジスタ61Bとを有している。
電源電圧側のスイッチングトランジスタ61Aのゲートには正相のデューティ指令値W、V、Uが入力され、接地電位側のスイッチングトランジスタ61Bには逆相のデューティ指令値Wb、Vb、Ubが入力されている。すなわち、電源電圧側、接地電位側のスイッチングトランジスタ61A、61Bは相補接続されており、交互にオン、オフ動作を繰り返すことにより、トルク検出値T、車速検出値v、駆動電流値のフィードバック電流値等に基づいてCPU56が演算したパルス幅の電動機駆動電流Iu、Iv、Iwを生成する。
なお、電源電圧側のスイッチングトランジスタ61Aと接地電位側のスイッチングトランジスタ61Bとが同時にオンにならないように、デッドタイム、すなわち両者がオフになる時間が、正相のデューティ指令値W、V、Uのオンの時間と、逆相のデューティ指令値Wb、Vb、Ubのオンの時間との前後に設けられている。このように、デッドタイムを設けることにより、電源電圧側、接地電位側のスイッチングトランジスタ61A、61Bの短絡を回避することができる。RDコンバータ65は、励磁電流をレゾルバ42に与えるとともに、レゾルバ42からの出力信号を回転角信号としてA/Dコンバータ53に出力する。
プリドライバ60が電動機駆動回路61を駆動するために、昇圧回路33は、車載電源11の出力電圧(例えば12V)を、例えば2倍〜3倍に昇圧してプリドライバ60へ供給する。本実施形態において、昇圧回路33は、例えば、いわゆるチャージポンプ回路を用いている。チャージポンプ回路は、コンデンサを利用した昇圧方式であり、例えば、プリドライバ60に外付けでコンデンサを取り付けることで簡易に構成できるので、EPS制御装置50への組み込みが容易になる。なお、昇圧回路33は、チャージポンプ回路に限定されるものではなく、例えば、コイルを利用したものやトランスを利用したもの等を用いることができる。
電動機相電流検出回路62、63は、電動機駆動電流の値、すなわち駆動電流値を検出する電流検出回路であり、例えば、抵抗のような電流−電圧変換素子を含んで構成される。電動機相電流検出回路62、63は、電動機駆動電流Iu、Iwを検出し、電動機駆動電流Iu、Iwに応じた電圧を出力する。電動機相電流検出回路62、63の出力した電圧はA/Dコンバータ53に入力され、ここでディジタル信号に変換されてCPU56に取り込まれる。そして、CPU56内で、電動機相電流検出回路62、63の出力した電圧の値が電流値に変換されて、駆動電流値が求められる。
全電流検出回路64は、電動機駆動回路61の接地電位端子側に設けられている。全電流検出回路64は、電動機駆動回路61を流れる全電流の値を検出する電流検出回路であり、例えば、抵抗のような電流−電圧変換素子を含んで構成される。全電流検出回路64は、電動機駆動回路61を流れる全電流Iaを検出し、全電流Iaに応じた電圧を出力する。全電流検出回路64の出力した電圧はA/Dコンバータ53に入力され、ここでディジタル信号に変換されてCPU56に取り込まれる。そして、CPU56内で、全電流検出回路64の出力した電圧の値が電流値に変換されて、全電流値が求められる。
電動機用リレー67、68は、電動機駆動回路61と電動機9との間に設けられており、入力部リレー66は、車載電源11と電動機駆動回路61との間に設けられる。電動機用リレー67、68及び入力部リレー66は、CPU56からの指令で開閉する。また、車載電源11とEPS制御装置50との間にはイグニッションスイッチ(以下IGSという)69が設けられており、IGS69のON、OFFにより車載電源11の出力をEPS制御装置50へ供給又は遮断する。IGS69は、入力部リレー66と並列に配置される。
図1に示す車両100のエンジン102を始動する場合、車両100の運転者によってIGS69がONにされる。すると、車載電源11の出力がEPS制御装置50へ供給されて、EPS制御装置50は動作を開始する。EPS制御装置50のCPU56やロジックIC59等が安定して動作するようになったら、CPU56は入力部リレー66をONにする。エンジン102を停止する場合、車両100の運転者によってIGS69がOFFにされる。この場合、IGS69から供給される車載電源11の出力は遮断されるが、CPU56やロジックIC59等を停止する際の処理が終了するまで、入力部リレー66はONのまま維持される。CPU56やロジックIC59等を停止する際の処理が終了したら、CPU56は入力部リレー66をOFFにして、車載電源11からEPS制御装置50への通電を遮断する。
車両100の運転中、すなわち、IGS69がONになっている状態において、電動機9によって図1に示すステアリング機構1Cに対して補助操舵力を付与する場合、CPU56は、電動機用リレー67及び68を閉じて電動機駆動回路61と電動機9とを接続する。また、電動機相電流検出回路62、63から過電流を検出した場合等に補助操舵力の付与を停止する場合、CPU56は、電動機用リレー67及び68を開いて、電動機9へ流れる電流を遮断する。
車載電源11の電圧が低下することにより、定電圧電源32の出力電圧が低下して、CPU56やロジックIC59等の動作電圧が確保できない場合がある。このような場合には、CPU56やロジックIC59等が停止して、電動パワーステアリング装置1の機能が停止するおそれがある。本実施形態では、EPS制御装置バックアップ手段により、車載電源11の電圧が低下した場合におけるEPS制御装置50の動作停止を回避する。ここで、EPS制御装置バックアップ手段は、EPS制御装置50の電圧判定回路30と切替回路31とを含んで構成される。
EPS制御装置50の電圧判定回路30が、CPU56やロジックIC59等の動作電圧が確保できない程度まで車載電源11の電圧が低下していると判定した場合には、切替回路31が、車載電源11の出力に代えて、プリドライバ60の昇圧回路33の出力を定電圧電源32へ供給する。昇圧回路33は、車載電源11の電圧を、例えば2倍〜3倍程度に昇圧する機能を有するため、車載電源11の電圧が低下した場合であっても、CPU56やロジックIC59等の動作電圧が確保できる。その結果、車載電源11の電圧が低下した場合であっても、CPU56やロジックIC59等の動作を継続させて、EPS制御装置50の動作を維持することができる。
図3は、EPS制御装置バックアップ手段のハードウェア構成例を示す説明図である。EPS制御装置バックアップ手段は、電圧判定回路30及び切替回路31を含んで構成される。電圧判定回路30は、コンパレータ(比較器)30Cを備えている。コンパレータ30Cには、定電圧電源32の出力電圧(レギュレータ電圧)VCCと車載電源11の出力電圧VBATとが入力される。そして、コンパレータ30Cは、両者の大きさを比較し、その結果に応じた信号を出力する。ここで、通常VCC=5V前後であり、VBAT=12V前後である。
本実施形態において、電圧判定回路30内の比較回路は、それぞれVBAT、VCCの抵抗分圧回路で構成されており、ある閾値(VBAT_c)を境にコンパレータ30Cの出力が[H]になるように設定されている。すなわち、車載電源11の出力電圧VBATが、CPU56やロジックIC59等の動作電圧が確保できない程度まで低下しているか否かを判定するための閾値(車載電源電圧閾値)VBAT_cとして、定電圧電源32の出力電圧VCCを用いる。なお、車載電源電圧閾値VBAT_cは、定電圧電源32の出力電圧VCCに限定されるものではなく、定電圧電源32の出力電圧VCC+αとしてもよい。
EPS制御装置バックアップ手段を構成する切替回路31は、PNP型の第1トランジスタ31TR1と、NPN型の第2トランジスタ31TR2を備える。第1トランジスタ31TR1及び第2トランジスタ31TR2は、スイッチング素子として機能する。第1トランジスタ31TR1のエミッタEには昇圧回路33の出力が入力され、コレクタCは定電圧電源32に入力され、ベースBは第2トランジスタ31TR2のコレクタCと接続される。第2トランジスタ31TR2のベースBにはコンパレータ30Cの出力が入力され、エミッタEは接地される。
VBAT≧VBAT_cである場合、コンパレータ30CからはLow信号が出力される。これによって、第2トランジスタ31TR2のベース−エミッタ間に電流は流れないので、コレクタ−エミッタ間に電流は流れない。この状態においては、第1トランジスタ31TR1のエミッタ−コレクタ間に電流は流れないので、車載電源11の出力が定電圧電源32へ入力される。
車載電源11の電圧が低下してVBAT<VCCになった場合、コンパレータ30CからはHigh信号が出力される。これによって、第2トランジスタ31TR2のベース−エミッタ間に電流が流れる結果、コレクタ−エミッタ間に電流が流れる。第2トランジスタ31TR2のコレクタ−エミッタ間に電流が流れると、第1トランジスタ31TR1のエミッタ−ベース間に電流が流れるので、第1トランジスタ31TR1のエミッタ−コレクタ間に電流が流れる。
これによって、車載電源11の出力電圧VBATが、CPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下した場合には、昇圧回路33の出力が、第1トランジスタ31TR1のエミッタ、コレクタを通って定電圧電源32へ供給される。その結果、CPU56やロジックIC59等の動作電圧が確保できるので、車載電源11の電圧が低下した場合であっても、CPU56やロジックIC59等の動作を継続することができる。なお、昇圧回路33の出力電圧を、例えばアッテネータで調整してもよい。このようにすれば、定電圧電源32の許容電圧が制限されている場合でも、安全に昇圧回路33の出力を定電圧電源32へ供給することができる。
なお、切替回路31はこの例に限定されるものではなく、例えば、リレーを用いて構成してもよい。また、EPS制御装置バックアップ手段の構成は、上記例に限定されるものではない。例えば、上記構成においては、電圧判定回路30をハードウェアとして構成したが、電圧判定回路30の機能をソフトウェアで実現するように構成し、CPU56によって前記ソフトウェアを処理することによって、電圧判定回路30の機能を実現してもよい。
図4は、車載電源の電圧が低下した場合における本実施形態に係るパワーステアリング装置の制御手順を示すフローチャートである。図5は、車載電源の電圧が低下した場合における本実施形態に係るパワーステアリング装置の動作を示すタイミングチャートである。図6は、車載電源の電圧が低下した場合における従来例によるパワーステアリング装置の動作を示すタイミングチャートである。
EPS制御装置50の電圧判定回路30は、車載電源11の出力電圧VBATを取得する(ステップS101)。そして、VBATと予め設定した車載電源電圧閾値VBAT_cとを比較する(ステップS102)。比較の結果、VBAT≧VBAT_cである場合(ステップS102:No)、車載電源11の電圧は、CPU56やロジックIC59等を動作させることができると判定される。この場合、電圧判定回路30は、Low信号を出力するので、車載電源11の出力が定電圧電源32へ入力される。
図5に示すように、車載電源11の電圧が低下して、時間t=t1においてVBAT<VBAT_cとなった場合(ステップS102:Yes)、車載電源11の電圧は、CPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下していると判断できる。この場合、電圧判定回路30は、High信号を出力する。これによって、上述したように、昇圧回路33の出力が定電圧電源32へ入力されるので、CPU56やロジックIC59等を動作させるための電源が、車載電源11から昇圧回路33へ切り替えられる(ステップS103)。その結果、CPU56やロジックIC59等の動作電圧が確保できるので、車載電源11の電圧が低下した場合であっても、CPU56やロジックIC59等の動作を継続して、EPS制御装置50の動作を確保することができる。
次に、電圧判定回路30は、車載電源11の出力電圧VBATを取得して、VBATとVBAT_cとを比較する(ステップS104)。VBAT<VBAT_cである場合(ステップS104:No)、車載電源11の電圧は、まだCPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下している状態であると判定できる(図5のt=t1〜t2)。この場合、電圧判定回路30はHigh信号を出力する。これによって、昇圧回路33の出力によってCPU56やロジックIC59等の動作を継続することができるので(ステップS105)、EPS制御装置50の動作を確保することができる。
VBAT≧VBAT_cである場合(ステップS104:Yes)、車載電源11の電圧は、CPU56やロジックIC59等を動作させることができる程度まで回復したと判定できる(図5のt=t2以降)。この場合、電圧判定回路30はLow信号を出力する。すると、昇圧回路33の出力に代わって車載電源11の出力が定電圧電源32へ入力される(ステップS106)。これによって、車載電源11の電圧が回復した場合には、車載電源11によってCPU56やロジックIC59等を動作させ、EPS制御装置50の動作を継続させる。
従来の電動パワーステアリング装置では、図6に示すように、車載電源11の電圧が、CPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下すると(図6のt=t1〜t2)、図6に示すように、定電圧電源32の出力する電圧は0に低下してしまい、CPU56やロジックIC59等の動作が停止してしまうことがある。t=t2になると、車載電源11の電圧は、CPU56やロジックIC59等を動作させることができる程度まで回復し、定電圧電源32の出力する電圧はVCCになるので、CPU56やロジックIC59等は動作を開始する。
しかし、t=t1において、CPU56やロジックIC59等に供給される車載電源11の出力は遮断されるので、CPU56やロジックIC59等の発振安定時間の確保や初期設定等が必要になる。このため、CPU56やロジックIC59等が動作を開始しても、実際に電動パワーステアリング装置1を制御できるようになるためには、ある程度の時間を要する(図6ではt=t3)。そして、CPU56やロジックIC59等は、t=t3から電動機9によってステアリング機構1Cへ補助操舵力を付与するが、操舵トルクTiの急激な低下を抑制するため、電動機駆動電流Imを徐変させ、電動機9が発生する補助操舵力を徐々に増加させる。そして、t=t4でCPU56やロジックIC59等の動作が停止する前の状態に復帰する。
図5のt=t1に示すように、車載電源11の電圧が、CPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下すると、電動機駆動電流Imは0になるので、ステアリング機構1Cへ付与される補助操舵力が0になる。これによって、運転者によってステアリングホイール2に入力される操舵トルクTiが増加する(ハンドルキックバック大)。本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1では、車載電源11の電圧が、CPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下した場合であっても、昇圧回路33の出力が定電圧電源32へ入力される。
その結果、図5に示すように、定電圧電源32の出力電圧は、車載電源11の電圧が所定の閾値VBAT_cよりも低下している間(図5のt=t1〜t2)も、CPU56やロジックIC59等の動作に必要な電圧VCCを維持することができる。これによって、車載電源11の電圧が所定の閾値VBAT_cよりも低下している間であっても、CPU56やロジックIC59等は動作を継続できる。したがって、例えば、操舵トルクTiの過大な増加を抑制する制御を実行することにより、運転者に与える操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。また、CPU56やロジックIC59等の動作を継続できるので、CPU56やロジックIC59等を再起動する際における発振安定時間の確保や初期設定等に要する時間は不要になる。その結果、従来のパワーステアリング装置と比較して、より短い時間で、車載電源11の電圧が所定の閾値VBAT_cよりも低下する前の状態に操舵トルクTiを戻すことができる(ハンドルキックバック小、図5のt=t3)。
図7は、車載電源の電圧が低下した場合における本実施形態に係るパワーステアリング装置の他の制御手順を示すフローチャートである。図8は、車載電源の電圧が低下した場合における本実施形態に係るパワーステアリング装置の動作を示すタイミングチャートである。このパワーステアリング装置の制御手順は、図4のフローチャートを用いて説明したパワーステアリング装置の制御手順とほぼ同様であるが、車載電源11の電圧が所定の閾値VBAT_cよりも低下しているときに、補助操舵力が0になることによってステアリングホイール2が急激に戻ることを抑制する制御(ステアリング戻り抑制制御)を介入させる点が異なる。
このパワーステアリング装置の制御を実行するにあたり、EPS制御装置50の電圧判定回路30は、車載電源11の出力電圧VBATを取得する(ステップS201)。そして、VBATと予め設定した車載電源電圧閾値VBAT_cとを比較する(ステップS202)。比較の結果、VBAT≧VBAT_cである場合(ステップS202:No)、車載電源11の電圧は、CPU56やロジックIC59等を動作させることができると判定される。この場合、電圧判定回路30は、Low信号を出力するので、車載電源11の出力が定電圧電源32へ入力される。
図8に示すように、車載電源11の電圧が低下して、時間t=t1においてVBAT<VBAT_cとなった場合(ステップS202:Yes)、車載電源11の電圧は、CPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下していると判断できる。この場合、電圧判定回路30は、High信号を出力する。これによって、上述したように、昇圧回路33の出力が定電圧電源32へ入力されるので、CPU56やロジックIC59等を動作させるための電源が、車載電源11から昇圧回路33へ切り替えられる(ステップS203)。その結果、CPU56やロジックIC59等の動作電圧が確保できるので、車載電源11の電圧が低下した場合であっても、CPU56やロジックIC59等の動作を継続することができる。
次に、CPU56は、ステアリング戻り抑制制御フラグFを1に設定し(ステップS204、図8のt=t1)、ステアリング戻り抑制制御を実行する(ステップS205)。電動機9によってステアリング機構1Cへ補助操舵力を付与しているときに電動機駆動電流Im=0になると(図8のt=t1)、補助操舵力が0になるため、ステアリングホイール2への操舵トルクTiは大きくなり、ステアリングホイール2の戻りが発生する場合がある。
これを抑制するため、このパワーステアリング装置の制御では、例えば、CPU56が電動機駆動回路61の接地電位側のスイッチングトランジスタ61BをONにすることによって電動機9を電磁的に制動する。これによって、ステアリングホイール2への操舵トルクTiの増加を抑制できるとともに、ステアリングホイール2の戻りを抑制できるので、安全性が向上する。
次に、電圧判定回路30は、車載電源11の出力電圧VBATを取得して、VBATとVBAT_cとを比較する(ステップS206)。VBAT<VBAT_cである場合(ステップS206:No)、車載電源11の電圧は、まだCPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下している状態であると判定できる(図8のt=t1〜t2)。この場合、電圧判定回路30はHigh信号を出力する。これによって、昇圧回路33の出力によってCPU56やロジックIC59等を駆動する状態が継続するので(ステップS207)、CPU56やロジックIC59等の動作を継続することができる。また、ステアリング戻り抑制制御も継続されるので、ステアリングホイール2への操舵トルクTiの増加を抑制できるとともに、ステアリングホイール2の戻りを抑制できる。
VBAT≧VBAT_cである場合(ステップS206:Yes)、車載電源11の電圧は、CPU56やロジックIC59等を動作させることができる程度まで回復したと判定できる(図8のt=t2以降)。この場合、電圧判定回路30はLow信号を出力する。これによって、昇圧回路33の出力に代わって車載電源11の出力が定電圧電源32へ入力される(ステップS208)。これによって、車載電源11によって、CPU56やロジックIC59等を動作させる。その後、CPU56は、ステアリング戻り抑制制御フラグFを0に設定する(ステップS209)。
このパワーステアリング装置の制御では、CPU56やロジックIC59等を動作させることができない程度まで低下している場合であっても、昇圧回路33によってCPU56やロジックIC59等の動作を継続することができる。したがって、CPU56やロジックIC59等により、ステアリング戻り抑制制御を実行する。これによって、ステアリングホイール2への操舵トルクTiの増加(ハンドルキックバック)を抑制して、ステアリングホイール2の戻りを抑制できる。その結果、車載電源11の電圧が所定の閾値VBAT_cよりも低下する前の状態に操舵トルクTiを戻す際の戻し量を低減して、操舵トルクTiの戻し時間をより短縮することができる。
以上、本実施形態では、EPS制御装置を動作させるための車載電源の電圧が所定の閾値よりも低下した場合には、この車載電源に代えて、EPS制御装置のプリドライバが備える昇圧回路の出力をEPS制御装置に供給する。これによって、EPS制御装置の動作が停止する程度までEPS制御装置を動作させるための車載電源の電圧が低下した場合でも、EPS制御装置の動作を継続して、EPS制御装置の停止を回避できる。
特に、近年においては、カーナビゲーションシステム、エアーコンディショナー、オーディオ、ブレーキロック防止制御、電子制御式ブレーキ等、車載の電装機器が増加し、車載電源の負荷が大きくなる傾向にある。このような状況においては、車載電源の電圧低下が発生しやすくなるが、本実施形態によれば、車載電源の電圧低下が発生した場合でも、EPS制御装置の停止を回避できるので、電装機器の増加した近年の車両に対しては、特に有効である。
また、本実施形態では、EPS制御装置のプリドライバを動作させるための昇圧回路を利用して、車載電源の代わりにEPS制御装置を駆動する。これによって、電圧判定回路及び切替回路を追加するのみで、EPS制御装置のバックアップ手段を構成することができる。その結果、部品増加を最小限に抑え、低コストにEPS制御装置のバックアップ手段を構成することができる。また、EPS制御装置のバックアップ手段の配置スペースも確保しやすくなるため、EPS制御装置の寸法増加を抑制できる。
また、本実施形態では、車載電源の電圧が所定の閾値よりも低下した場合に、EPS制御装置を動作させる電源を昇圧回路に切り替える。これによって、常に昇圧回路の出力でEPS制御装置を駆動する場合と比較して、昇圧回路の容量増加を抑制することができる。また、EPS制御装置を動作させるための電圧を発生させる定電圧電源回路に対して、必要な場合にのみ昇圧回路の出力が供給されるので、定電圧電源回路の容量増加も抑制することができる。