ここで、機関始動時に潤滑油温度が相対的に高い状態を高油温始動時とし、機関始動時に潤滑油温度が相対的に低い状態を低油温始動時としたとき、高油温始動時と低油温始動時との間ではクランクシャフトの回転抵抗が互いに異なる。このため、高油温始動時の機関回転速度の上昇速度と低油温始動時の機関回転速度の上昇速度とを比較したとき、前者は後者よりも大きくなる。また、バルブタイミングの進角速度も高油温始動時の方が低油温始動時よりも大きくなる。
他方、機関始動時の低回転速度時には、実圧縮比が大きくなるにつれて燃焼にともなうトルクショックが生じやすくなる。
このため、機関回転速度の上昇速度及びバルブタイミングの進角速度が大きい高油温始動時には、低油温始動時と比較して機関始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きなものとなりやすく、このことに起因してトルクショックの発生する頻度が高い。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することのできる内燃機関の始動制御装置を提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
なお、本欄(課題を解決するための手段)において、「高油温始動時」は機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときを示し、「低油温始動時」は機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも低いときを示す。
また、各請求項に記載の「潤滑の温度」及び「潤滑油の温度の指標となる温度」には、それぞれ次のものが含まれる。すなわち「潤滑油の温度」には、潤滑油の温度をセンシングするセンサの出力に基づいて得られる温度、及び潤滑油の温度と相関を有するパラメータに基づいて推定される温度の双方が含まれる。同パラメータとしては、前回の機関始動動作の開始から機関停止するまでの燃料噴射量の積算値、前回の機関始動動作の開始から機関停止するまでの吸入空気量の積算値、及び今回の機関始動時における内燃機関の冷却水の温度の少なくとも1つを採用することができる。「潤滑油の温度の指標となる温度」には、潤滑油の温度との相関が高い物質の温度が含まれる。同相関が高い温度としては、内燃機関の冷却水の温度、及び内燃機関の本体の温度の少なくとも1つを採用することができる。
(1)請求項1に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、内燃機関の潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときの機関回転速度の上昇速度を上昇速度Aとし、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときの機関回転速度の上昇速度を上昇速度Bとして、前記上昇速度Aを前記上昇速度Bよりも小さくする始動時回転速度制御を行うことを要旨としている。
この発明では、上昇速度Aを上昇速度Bよりも小さくする始動時回転速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時回転速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(2)請求項2に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、内燃機関の潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、機関始動時の機関回転速度の上昇速度を調整する制御を始動時回転速度制御とし、同始動時回転速度制御が行われたときの機関回転速度の上昇速度を上昇速度Aとし、同始動時回転速度制御が行われないときの機関回転速度の上昇速度を上昇速度Bとして、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときには前記上昇速度Aが前記上昇速度Bよりも小さくなるように前記始動時回転速度制御を行うことを要旨としている。
この発明では、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時回転速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時回転速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(3)請求項3に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度として、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときには、機関回転速度の上昇速度が予め設定された判定速度を超えないように機関回転速度の上昇速度を調整する始動時回転速度制御を行い、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときには、前記始動時回転速度制御を行わないことを要旨としている。
この発明では、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時回転速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時回転速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(4)請求項4に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度として、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いとき、且つ機関回転速度の上昇速度が予め設定された判定速度よりも大きいときには、機関回転速度の上昇速度を低下させる始動時回転速度制御を行い、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときには、前記始動時回転速度制御を行わないことを要旨としている。
この発明では、機関始動時の機関回転速度の上昇速度が判定速度よりも大きいとき且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時回転速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時回転速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の始動制御装置において、前記始動時回転速度制御では、クランクシャフトにトルクを付与するモータを制御することにより機関回転速度の上昇速度を調整することを要旨としている。
この発明では、クランクシャフトにトルクを付与するモータを制御することにより機関回転速度の上昇速度を調整するため、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなることをより好適に抑制することができる。
(6)請求項6に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、内燃機関の潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときの前記可変動弁機構の進角速度を進角速度Aとし、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときの前記可変動弁機構の進角速度を進角速度Bとして、前記進角速度Aを前記進角速度Bよりも小さくする始動時進角速度制御を行うことを要旨としている。
この発明では、進角速度Aを前記進角速度Bよりも小さくする始動時進角速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時進角速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(7)請求項7に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、内燃機関の潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、機関始動時の前記可変動弁機構の進角速度を調整する制御を始動時進角速度制御とし、同始動時進角速度制御が行われたときの前記可変動弁機構の進角速度を進角速度Aとし、同始動時進角速度制御が行われないときの前記可変動弁機構の進角速度を進角速度Bとして、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときには前記進角速度Aが前記進角速度Bよりも小さくなるように前記始動時進角速度制御を行うことを要旨としている。
この発明では、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時進角速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時進角速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(8)請求項8に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度として、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときには、前記可変動弁機構の進角速度が予め設定された判定速度を超えないように前記可変動弁機構の進角速度を調整する始動時進角速度制御を行い、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときには、前記始動時進角速度制御を行わないことを要旨としている。
この発明では、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時進角速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時回転速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(9)請求項9に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度として、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いとき、且つ前記可変動弁機構の進角速度が予め設定された判定速度よりも大きいときには、前記可変動弁機構の進角速度を低下させる始動時進角速度制御を行い、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときには、前記始動時進角速度制御を行わないことを要旨としている。
この発明では、機関始動時の可変動弁機構の進角速度が予め設定された判定速度よりも大きいとき且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時進角速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時進角速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(10)請求項10に記載の発明は、請求項6〜9のいずれか一項に記載の内燃機関の始動制御装置において、前記始動時進角速度制御では、カムシャフトのトルクの変動幅を調整することにより前記可変動弁機構の進角速度を調整することを要旨としている。
高油温始動時の進角速度はカムシャフトのトルク変動に応じて異なる。上記発明では、カムシャフトのトルクの変動幅を制御することにより可変動弁機構の進角速度を調整するため、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなることをより好適に抑制することができる。
(11)請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の内燃機関の始動制御装置において、前記始動時進角速度制御では、クランクシャフトにトルクを付与するモータを制御することによりカムシャフトのトルクの変動幅を調整することを要旨としている。
この発明では、クランクシャフトにトルクを付与するモータを制御することによりカムシャフトのトルクの変動幅を調整するため、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなることをより好適に抑制することができる。
(12)請求項12に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関についてその始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときの実圧縮比の増加速度を増加速度Aとし、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときの実圧縮比の増加速度を増加速度Bとして、クランクシャフトにトルクを付与するモータの制御により前記増加速度Aを前記増加速度Bよりも小さくする始動時増加速度制御を行うことを要旨としている。
この発明では、クランクシャフトにトルクを付与するモータの制御により増加速度Aを増加速度Bよりも小さくする始動時増加速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時増加速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(13)請求項13に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、クランクシャフトにトルクを付与するモータの制御により実圧縮比の増加速度を調整する制御を始動時増加速度制御とし、同始動時増加速度制御が行われたときの実圧縮比の増加速度を増加速度Aとし、同始動時増加速度制御が行われないときの実圧縮比の増加速度を増加速度Bとして、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも高いときには、前記増加速度Aが前記増加速度Bよりも小さくなるように前記始動時増加速度制御を行うことを要旨としている。
この発明では、増加速度Aが増加速度Bよりも小さくなるように始動時増加速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度の上昇にともなう実圧縮比の増加速度は、始動時増加速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(14)請求項14に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、クランクシャフトにトルクを付与するモータの制御により実圧縮比の増加速度を調整する制御を始動時増加速度制御として、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときには、実圧縮比の増加速度が予め設定された判定速度を超えないように前記始動時増加速度制御を行い、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときには、前記始動時増加速度制御を行わないことを要旨としている。
この発明では、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時増加速度制御を行うため、高油温始動時の実圧縮比の増加速度は始動時増加速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(15)請求項15に記載の発明は、吸気弁のバルブタイミングを変更する油圧式の可変動弁機構を含む内燃機関について、その始動態様を制御する内燃機関の始動制御装置において、潤滑油の温度またはその指標となる温度を潤滑油温度とし、クランクシャフトにトルクを付与するモータの制御により実圧縮比の増加速度を調整する制御を始動時増加速度制御として、機関始動時且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いとき、且つ実圧縮比の増加速度が予め設定された判定速度よりも大きいときには、実圧縮比の増加速度が低下するように前記始動時増加速度制御を行い、機関始動時且つ潤滑油温度が前記所定温度よりも低いときには、前記始動時増加速度制御を行わないことを要旨としている。
この発明では、機関始動時の可変動弁機構の実圧縮比の増加速度が予め設定された判定速度よりも大きいとき且つ潤滑油温度が所定温度よりも高いときに始動時増加速度制御を行うため、高油温始動時の実圧縮比の増加速度は始動時増加速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、潤滑油温度が高い機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(16)請求項16に記載の発明は、請求項5または11〜15のいずれか一項に記載の内燃機関の始動制御装置において、前記モータの制御パターンとして予め設定された複数の制御パターンのなかから使用する制御パターンを機関運転状態に基づいて選択して前記モータの制御を行うことを要旨としている。
高油温始動時のカムシャフトのトルク変動にともなう実圧縮比の増加速度は機関運転状態に応じて異なる。上記発明では、機関運転状態に基づいてモータの制御パターンを選択するため、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比が過度に大きくなることをより好適に抑制することができる。
(17)請求項17に記載の発明は、請求項1〜16のいずれか一項に記載の内燃機関の始動制御装置において、前記可変動弁機構は、クランクシャフトに同期して回転する第1回転体と、カムシャフトに同期して回転する第2回転体と、これら回転体を互いに係合して吸気弁のバルブタイミングを最遅角よりも進角側にある特定角に固定する固定機構とを含むことを要旨としている。
固定機構を含む内燃機関においては、バルブタイミングが固定機構により特定角に固定されているとき、バルブタイミングの進角にともなう実圧縮比の増加分が減少することはない。このため、固定機構を含まない内燃機関と比較すると実圧縮比が過度に大きいことに起因するトルクショックの発生頻度はより高くなる。上記発明によれば、固定機構を含む内燃機関において請求項1〜16のいずれかに記載の発明の構成を備えているため、固定機構によりバルブタイミングを特定角に固定して始動性の向上を図ることと、実圧縮比が過度に大きいことに起因するトルクショックの発生を抑制することとを両立することができる。
(第1実施形態)
図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。なお、この実施形態では、ハイブリッド車両に搭載された内燃機関の始動制御装置として本発明を具体化した一例を示している。
図1に示されるようにハイブリッド車両には、混合気の燃焼にともない発生する動力により車輪を駆動する内燃機関1と、電力を蓄えるバッテリ62と、バッテリ62の直流電流を交流電流に変換して各種の電動装置に供給するインバータ63と、バッテリ62から供給される電力により車輪を駆動するモータジェネレータ61と、これら装置を統括的に制御する制御装置100とが設けられている。
内燃機関1には、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12及びオイルパン13を含む機関本体10と、シリンダヘッド12に設けられた動弁系の各要素を含む可変動弁装置20と、機関本体10等に潤滑油を供給する潤滑装置50とが設けられている。
可変動弁装置20は、燃焼室14を開閉する吸気バルブ21及び排気バルブ23と、これらバルブを押し下げる吸気カムシャフト22及び排気カムシャフト24と、クランクシャフト15の回転位相に対する吸気カムシャフト22の回転位相(以下、「吸気バルブタイミングVT」)を変更するバルブタイミング可変機構30とを含めて構成されている。
潤滑装置50は、オイルパン13の潤滑油を吐出するオイルポンプ52と、オイルポンプ52から吐出された潤滑油を内燃機関1の各部位に供給する油路51と、バルブタイミング可変機構30への潤滑油の供給態様を制御するオイルコントロールバルブ53とを含めて構成されている。
制御装置100は、内燃機関1を制御するための各種の演算処理等を行う電子制御装置101と、クランクポジションセンサ102及びカムポジションセンサ103及び冷却水温度センサ104をはじめとする各種のセンサとを含めて構成されている。
クランクポジションセンサ102は、クランクシャフト15の回転角度(以下、「クランク角度CA」)に応じた信号を電子制御装置101に出力する。カムポジションセンサ103は、吸気カムシャフト22の回転角度(以下、「吸気カム角度DA」)に応じた信号を電子制御装置101に出力する。冷却水温度センサ104は、シリンダヘッド12の冷却水出口付近に設けられて冷却水の温度(以下、「冷却水温度TW」)に応じた信号を電子制御装置101に出力する。
電子制御装置101は、各種の制御に用いるためのパラメータとして次のものを算出する。すなわち、クランクポジションセンサ102からの出力信号に基づいてクランク角度CAに相当する演算値を算出する。また、クランク角度CAの演算値に基づいてクランクシャフト15の回転速度(以下、「機関回転速度NE」)に相当する演算値を算出する。また、カムポジションセンサ103からの出力信号に基づいて吸気カム角度DAに相当する演算値を算出する。また、冷却水温度センサ104からの出力信号に基づいて冷却水温度TWに相当する演算値を算出する。また、冷却水温度TWの演算値に基づいて潤滑油の温度(以下、「潤滑油温度TL」)に相当する演算値を算出する。また、クランク角度CA及び吸気カム角度DAに基づいて、吸気バルブタイミングVTに相当する演算値を算出する。
電子制御装置101により行われる制御としては、車両始動時の内燃機関1及びモータジェネレータ61の動作態様を制御する車両始動制御、及び車両始動後に内燃機関1の停止及び始動を制御する始動停止制御、及び吸気バルブタイミングVTを変更するバルブタイミング制御等が挙げられる。
車両始動制御では、車両のイグニッションスイッチをオフからオンに切り換える操作が行われたことに基づいて、内燃機関1及びモータジェネレータ61を含めて構成されるハイブリッドシステムを起動する。また、イグニッションスイッチをオンからオフに切り換える操作が行われたことに基づいてハイブリッドシステムを停止する。ハイブリッドシステムを起動したとき、内燃機関1の暖機運転を開始するためにモータジェネレータ61によるクランキングを開始する。ハイブリッドシステムを停止する要求があるとき、バルブタイミング制御をはじめとして内燃機関1の停止時に行う所定の制御が完了した後にハイブリッドシステムを停止する。
始動停止制御では、ハイブリッドシステムの起動後且つ内燃機関1が停止している状態において内燃機関1の運転を開始するための条件が成立したとき、モータジェネレータ61による内燃機関1のクランキングを開始する。また、ハイブリッドシステムの起動後且つ内燃機関1が運転している状態において内燃機関1の運転を停止するための条件が成立したとき、バルブタイミング制御をはじめとして内燃機関1の停止時に行う所定の制御が完了した後に内燃機関1の運転を停止する。
バルブタイミング制御では、内燃機関1の運転中に機関運転状態及び車両走行状態に基づいて吸気バルブタイミングVTを最進角VTmaxから最遅角VTminまでの間で変更する。また、内燃機関1の停止時には吸気バルブタイミングVTを最遅角VTminに変更する。
図2を参照して、バルブタイミング可変機構30の構成について説明する。なお図2(a)は、ハウジング本体32から図2(b)に示されるカバー34を取り外した状態での同可変機構30の平面構造を示す。また同図において、矢印RAは吸気カムシャフト22及びスプロケット33の回転方向(以下、「回転方向RA」)を示す。
図2(a)に示されるように、バルブタイミング可変機構30は、クランクシャフト15に同期して回転するハウジングロータ31と、吸気カムシャフト22の端部に固定されることにより同シャフト15に同期して回転するベーンロータ35とを含めて構成されている。
ハウジングロータ31は、タイミングチェーン(図示略)を介してクランクシャフト15と連結されることにより同シャフト15に同期して回転するスプロケット33と、このスプロケット33の内側に組み付けられてこれと一体をなす態様で回転するハウジング本体32と、この本体32に取り付けられるカバー34とにより構成されている。
ハウジング本体32には、ベーンロータ35が収容されている。また、径方向においてベーンロータ35に向けて突出する3つの区画壁31Aが設けられている。ベーンロータ35には、ハウジング本体32に向けて突出し、区画壁31Aの間にある3つのベーン収容室37をそれぞれ進角室38及び遅角室39に区画する3つのベーン36が設けられている。
進角室38は、1つのベーン収容室37内においてベーン36よりも吸気カムシャフト22の回転方向RAの後方側に位置するものであり、潤滑装置50のオイルコントロールバルブ53によるバルブタイミング可変機構30についての潤滑油の給排状態に応じて容積が変化する。遅角室39は、1つのベーン収容室37内においてベーン36よりも吸気カムシャフト22の回転方向RAの前方側に位置するものであり、進角室38と同じく潤滑装置50によるバルブタイミング可変機構30についての潤滑油の給排状態に応じて容積が変化する。
バルブタイミング可変機構30は、上記の構成に基づいてハウジングロータ31に対するベーンロータ35の相対的な回転位相(以下、「回転位相P」)を変更することにより、吸気バルブタイミングVTを変更する。同可変機構30による吸気バルブタイミングVTの変更は具体的には以下のように行われる。
進角室38への潤滑油の供給及び遅角室39からの潤滑油の排出により、ベーンロータ35がハウジングロータ31に対して進角側すなわち吸気カムシャフト22の回転方向RAに回転するとき、吸気バルブタイミングVTは進角側に変化する。ベーンロータ35がハウジングロータ31に対して限界まで進角側に回転したとき、すなわちベーンロータ35の回転位相Pが回転方向RAにおいて最も前方側の位相(以下、「最進角位相PMAX」)にあるとき、吸気バルブタイミングVTは最進角VTmaxに設定される。なお、最進角位相PMAXとしては、ベーン36が遅角室39側の区画壁31Aに突き当てられる位置、あるいはベーン36が遅角室39側の区画壁31A付近にある位置が設定される。
進角室38からの潤滑油の排出及び遅角室39への潤滑油の供給により、ベーンロータ35がハウジングロータ31に対して遅角側すなわち吸気カムシャフト22の回転方向RAの後方側に回転するとき、吸気バルブタイミングVTは遅角側に変化する。ベーンロータ35がハウジングロータ31に対して制御上の限界まで遅角側に回転したとき、すなわちベーンロータ35の回転位相Pが回転方向RAにおいても最も後方側の位相(以下、「最遅角位相PMIN」)にあるとき、吸気バルブタイミングVTは最遅角VTminに設定される。なお、最遅角位相PMINとしては、ベーン36が進角室38側の区画壁31Aに突き当てられる位置、あるいはベーン36が進角室38側の区画壁31A付近にある位置が設定される。
進角室38及び遅角室39のそれぞれと潤滑装置50との間における潤滑油の流通が遮断されることにより、すなわち進角室38及び遅角室39のそれぞれに潤滑油が保持されることにより、ハウジングロータ31とベーンロータ35との相対的な回転が不能とされるとき、吸気バルブタイミングVTはそのときのタイミングに維持される。
バルブタイミング可変機構30には、吸気バルブタイミングVTを最進角VTmaxと最遅角VTminとの間にある特定のタイミング(以下、「中間角VTmdl」)に固定する中間ロック機構40が設けられている。中間角VTmdlとしては、機関始動に適した吸気バルブタイミングVTが設定されている。機関始動において、吸気バルブタイミングVTを中間角VTmdlに設定した場合と、これよりも遅角側の吸気バルブタイミングVTに設定した場合とを比較したとき、前者の方がより高い始動性が確保されるようになる。
中間ロック機構40は、潤滑装置50からの潤滑油の供給に基づいて動作するものであり、進角室38及び遅角室39の油圧にかかわらずハウジングロータ31に対するベーンロータ35の回転を規制する。そして、回転位相Pが中間角VTmdlに対応する回転位相(以下、「中間角位相PMDL」)にあるときに、ハウジングロータ31とベーンロータ35とを互いに固定して吸気バルブタイミングVTを中間角VTmdlに保持する。
具体的には、図2(b)に示されるように、ベーン36に設けられて同ベーン36に対して移動するロックピン42と、同じくベーン36に設けられて潤滑装置50により潤滑油が給排されるロック室44と、また同じくベーン36に設けられてロックピン42を一方向に押すロックばね43と、ハウジングロータ31に設けられたロック穴41とにより構成されている。またハウジングロータ31には、ロック穴41からこれよりも遅角側の所定位置までにわたりロックピン42の周方向の軌跡に沿う態でロック溝41Aが形成されている。このロック溝41Aの深さは、ロック穴41の深さよりも小さく設定されている。
ロックピン42は、ロック室44の潤滑油の力とロックばね43の力との関係に基づいて、ベーン36から突出する方向(以下、「突出方向Z2」)とベーン36に引込む方向(以下、「収容方向Z1」)との間で動作する。ロック室44の油圧は、ロックピン42に対して収容方向Z1に作用する。ロックばね43の力は、ロックピン42に対して突出方向Z2に作用する。
中間ロック機構40は次のように動作する。
潤滑装置50によりロック室44から潤滑油が排出されてロック室44が潤滑油により満たされないとき、ロックばね43による突出方向Z2の力がロック室44の潤滑油による収容方向Z1の力を上回るようになる。これにより、ロックピン42に対しては突出方向Z2の力が作用するようになる。そして、回転位相Pが中間角位相PMDLにある状態、すなわちロックピン42とロック穴41との周方向の位置が一致している状態のもとで、ロックピン42に対して突出方向Z2の力が作用するとき、ロックピン42がベーン36から突出してロック穴41にはめ込まれる。これにより、ロックピン42とロック穴41との係合を通じてハウジングロータ31とベーンロータ35とが互いに固定されるため、回転位相Pは中間角位相PMDLに保持される。
一方、潤滑装置50によりロック室44に対して潤滑油が供給されてロック室44が潤滑油により満たされているとき、ロック室44の潤滑油による収容方向Z1の力がロックばね43による突出方向Z2の力を上回るようになる。これにより、ロックピン42に対しては収容方向Z1の力が作用するようになる。そしてロックピン42がロック穴41にはめ込まれた状態のもとで、ロックピン42に対して収容方向Z1の力が作用するとき、ロックピン42がロック穴41から離脱してベーン36内に収容される。これにより、ハウジングロータ31とベーンロータ35との固定が解除されてこれらの相対的な回転が許容される。
図3を参照して、機関停止時及び機関始動時のバルブタイミング可変機構30の動作態様について説明する。なお図3は、図2(a)のDA−DA線に沿う断面構造の一部を平面上に展開したものを示している。
内燃機関1の運転停止要求が検出されたとき、バルブタイミング制御により吸気バルブタイミングVTが最遅角VTminに向けて変更される。図3(a)に示されるように、ハウジングロータ31に対するベーンロータ35の回転位相Pが最遅角位相PMINに変更されて吸気バルブタイミングVTが最遅角VTminに設定された後、内燃機関1の運転が停止される。
図3(a)に示されるように、内燃機関1の始動動作が開始される直前のとき、ハウジングロータ31に対するベーンロータ35の回転位相Pが最遅角位相PMINにある。また、ロック室44の油圧が抜けているため、ロックピン42はベーン36に対して突出方向Z2に移動しようとする状態にある。
図3(b)に示されるように、内燃機関1の始動動作が開始された後において、吸気カムシャフト22のトルク変動にともないハウジングロータ31に対するベーンロータ35の回転位相Pが進角側に変化したとき、ロックピン42がベーン36から突出してロック溝41Aに突き当てられる。
図3(c)に示されるように、ロックピン42がロック溝41Aに突き当てられた状態からベーンロータ35の回転位相Pがさらに進角側に変化して中間角位相PMDLに到達したとき、ロックピン42がロック穴41に嵌め込まれる。これにより、ハウジングロータ31とベーンロータ35との相対的な回転が不能にされるとともに、吸気バルブタイミングVTが中間角VTmdlに固定される。
このように、内燃機関1の始動動作が開始された直後は吸気バルブタイミングVTが最遅角VTminにあることにより、始動動作が開始された直後の実圧縮比Eが過度に大きくなることが抑制される。また、始動動作が開始された後に吸気バルブタイミングVTが中間角VTmdlに固定されることにより、環境温度が著しく低い状況においても内燃機関1の良好な始動性が確保される。
図4を参照して、潤滑油温度TLが基準温度TLXよりも大きい機関始動時(以下、「高油温始動時」)、及び潤滑油温度TLが基準温度TLX以下の機関始動時(以下、「低油温始動時」)の機関回転速度NE及び実圧縮比Eの変化態様について説明する。
図4(a)に、内燃機関1の始動時の機関回転速度NEの変化態様を示す。
内燃機関1の高油温始動時には、曲線NHにて示されるように機関回転速度NEが変化する。また低油温始動時には、曲線NLにて示されるように機関回転速度NEが変化する。すなわち、高油温始動時のクランクシャフト15の回転抵抗は低油温始動時のクランクシャフト15の回転抵抗よりも小さいため、モータジェネレータ61のクランキングトルクが同一の条件のもとで高油温始動時の機関回転速度NEの上昇速度は低油温始動時の機関回転速度NEの上昇速度よりも大きくなる。
図4(b)に、バルブタイミング可変機構30及びこれを駆動するための機構が設けられていない点を除いては内燃機関1と同一の構造を有する内燃機関を仮想機関として、内燃機関1及び仮想機関のそれぞれにおける高油温始動時及び低油温始動時の実圧縮比Eの変化態様を示す。なお以降では、点火プラグの点火により混合気を燃焼させることが可能となる実圧縮比Eのうち最も小さいものを「燃焼限界圧縮比EX」として示す。
仮想機関の低油温始動時には、図中の曲線LAにて示されるように実圧縮比Eが変化する。すなわち実圧縮比Eは、時刻t11にて機関始動動作が開始されてから機関回転速度NEの上昇にともない次第に増加し、時刻t11から所定期間SAが経過した時刻t15のときに燃焼限界圧縮比E1に到達する。
内燃機関1の低油温始動時には、図中の曲線LBにて示されるように実圧縮比Eが変化する。すなわち実圧縮比Eは、時刻t11にて機関始動動作が開始されてから機関回転速度NEの上昇にともない次第に増加し、時刻t11から所定期間SAよりも短い所定期間SBが経過した時刻t14のときに燃焼限界圧縮比E1に到達する。また、時刻t11から時刻t14までの期間において、バルブタイミング可変機構30による吸気バルブタイミングVTの進角量に応じた分だけ実圧縮比Eが仮想機関の低油温始動時の実圧縮比Eよりも大きくなる。
仮想機関の高油温始動時には、図中の曲線HAにて示されるように実圧縮比Eが変化する。すなわち実圧縮比Eは、時刻t11にて機関始動動作が開始されてから機関回転速度NEの上昇にともない次第に増加し、機関回転速度NEの上昇速度が仮想機関の低油温始動時によりも大きいことにより、時刻t11から所定期間SAよりも短い所定期間SCが経過した時刻t13のときに燃焼限界圧縮比E1に到達する。
内燃機関1の高油温始動時には、図中の曲線HBにて示されるように実圧縮比Eが変化する。すなわち実圧縮比Eは、時刻t11にて機関始動動作が開始されてから機関回転速度NEの上昇にともない次第に増加し、機関回転速度NEの上昇速度が内燃機関1の低油温始動時によりも大きいことにより、時刻t11から所定期間SBよりも短い所定期間SDが経過した時刻t12のときに燃焼限界圧縮比E1に到達する。また、時刻t11から時刻t12までの期間において、バルブタイミング可変機構30による吸気バルブタイミングVTの進角量に応じた分だけ実圧縮比Eが仮想機関の低油温始動時の実圧縮比Eよりも大きくなる。
このように、内燃機関1の高油温始動時には内燃機関1の低油温始動時よりも機関回転速度NEの上昇速度が大きいことに起因して実圧縮比Eの増加速度が大きくなる。また、内燃機関1の高油温始動時には仮想機関の高油温始動時よりも吸気バルブタイミングVTの進角量が大きいことに起因して実圧縮比Eの増加速度が大きくなる。
他方、内燃機関1の始動時には低回転速度時に実圧縮比Eが過度に大きいとき、すなわち機関回転速度NEが基準回転速度NEX未満のときに実圧縮比Eが燃焼限界圧縮比E1を超えたとき、実圧縮比Eが大きいことに起因して燃焼にともなうトルクショックが発生しやすくなる。
このため、実圧縮比Eの増加速度が大きい内燃機関1の高油温始動時には、内燃機関1の低油温始動時及び仮想機関の高油温始動時及び仮想機関の低油温始動時に比べて、実圧縮比Eが過度に大きいことに起因するトルクショックが生じやすい。
そこで電子制御装置101は、内燃機関1の高油温始動時にバルブタイミング可変機構30の進角速度を小さくして実圧縮比Eの増加速度を小さくするための始動時進角速度制御を行うことにより、高油温始動時のトルクショックの発生を抑制するようにしている。この始動時進角速度制御では、当該制御を実行しないときと比較して吸気カムシャフト22のトルクの変動幅が小さくなるようにモータジェネレータ61のクランキングトルクを制御する。このモータジェネレータ61のトルク制御が行われることにより、内燃機関1の高油温始動時において吸気カムシャフト22のトルク変動幅は同トルク制御が行われないときよりも小さくなる。
機関始動時の吸気バルブタイミングVTの進角速度は、基本的には吸気カムシャフト22のトルク変動幅の影響を受けて変化するため、上記のようにトルク変動幅が小さくされることにより吸気バルブタイミングVTの進角速度も小さくなる。
これにより、内燃機関1の高油温始動時において機関回転速度NEの上昇及び吸気バルブタイミングVTの進角にともない増加する実圧縮比Eのうち、吸気バルブタイミングVTの進角にともなう増加分が小さくなるため、始動時進角速度制御が行われない高油温始動時と比較してトルクショックの発生が抑制されるようになる。なお進角速度は、ハウジングロータ31とベーンロータ35との進角方向についての相対的な回転位相の変化速度、すなわち単位時間あたりの吸気バルブタイミングVTの進角量を示している。
図5を参照して、始動時進角速度制御の具体的な処理手順を定めた「始動時トルク制御処理」の内容について説明する。なお同処理は、ハイブリッドシステムの起動中において電子制御装置101により所定の演算周期毎に繰り返し行われる。
電子制御装置101は、「始動時トルク制御処理」として以下の各処理を行う。
ステップS11において、イグニッションスイッチのオフからオンへの切り換え操作が行われていない旨判定したとき、所定の演算周期が経過した後にステップS11の判定を再び行う。
ステップS11において、イグニッションスイッチのオフからのオンへの切り換え操作が行われた旨判定したとき、次のステップS12において冷却水温度TWの演算値を取得する。
ステップS13では、最後に内燃機関1の運転が停止されてから今回のハイブリッドシステムの起動が行われるまでの期間(以下、「間欠期間SX」)、及びステップS12で取得した冷却水温度TWの演算値に基づいて、潤滑油温度TLの演算値を算出する。すなわち、間欠期間SX及び冷却水温度TWに基づいて内燃機関1の始動動作が開始されるときの潤滑油温度TLを推定する。
ステップS14では、潤滑油温度TLの演算値に基づいてモータジェネレータ61のトルク制御パターンを選択する。トルク制御パターンとしては、潤滑油温度TLが基準温度TLXよりも大きいとき(高油温始動時)に対応した高油温時パターンと、潤滑油温度TLが基準温度TLX以下のとき(低油温始動時)に対応した低油温時パターンとが予め設定されている。高油温時パターンには、潤滑油温度TL及び機関運転状態に応じてさらに複数の制御パターンが含まれている。
低油温時パターンでは、モータジェネレータ61のクランキングトルクを一定に維持して内燃機関1のクランキングを行う。高油温時パターンでは、吸気カムシャフト22のトルクの変動幅が所定の変動幅よりも小さくなるようにモータジェネレータ61のクランキングトルクを低油温時パターンとは異なるものに設定して内燃機関1のクランキングを行う。なお、ここでの所定の変動幅とは、吸気バルブタイミングVTの進角速度がトルクショックをまねく大きさに到達しない範囲の変動幅を示す。
トルク変動幅を所定の変動幅よりも小さくするために必要となるクランキングトルクの大きさは、潤滑油温度TL等に応じて異なる。このため、複数の高油温時パターンのそれぞれにより設定されるクランキングトルクには、低油温時パターンのクランキングトルクよりも大きいもの及び小さいものの双方が含まれる。
当該「始動時トルク制御処理」においては、トルク変動幅を所定の変動幅よりも小さくするために必要となるクランキングトルクの大きさを試験等の実施により予め把握し、これに基づいて複数の高油温時パターンを設定している。
以上詳述したように、本実施形態によれば以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、高油温始動時に始動時進角速度制御を行うため、高油温始動時の機関回転速度NEの上昇にともなう実圧縮比Eの増加速度は、始動時進角速度制御が行われない場合よりも小さくなる。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比Eが過度に大きくなる状況が生じにくくなるため、高油温始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(2)本実施形態では、吸気カムシャフト22のトルクの変動幅を調整することによりバルブタイミング可変機構30の進角速度を調整している。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比Eが過度に大きくなることをより好適に抑制することができる。
(3)本実施形態の始動時進角速度制御では、クランクシャフト15にトルクを付与するモータジェネレータ61を制御することにより吸気カムシャフト22のトルクの変動幅を調整している。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比Eが過度に大きくなることをより好適に抑制することができる。
(4)本実施形態では、機関運転状態に基づいてモータジェネレータ61の制御パターンを予め設定された複数の制御パターンのなかから選択している。これにより、高油温始動時の低回転速度時に実圧縮比Eが過度に大きくなることをより好適に抑制することができる。
(5)中間ロック機構40を含む内燃機関1においては、吸気バルブタイミングVTが中間ロック機構40により中間角VTmdlに固定されているとき、吸気バルブタイミングVTの進角にともなう実圧縮比Eの増加分が減少することはない。このため、中間ロック機構40を含まない内燃機関と比較すると実圧縮比Eが過度に大きいことに起因するトルクショックの発生頻度はより高くなる。
本実施形態では、そのような内燃機関1において始動時進角速度制御を行うため、中間ロック機構40により吸気バルブタイミングVTを中間角VTmdlに固定して始動性の向上を図ることと、実圧縮比Eが過度に大きいことに起因するトルクショックの発生を抑制することとを両立することができる。
(6)モータジェネレータ61のクランキングトルクは、一般のスタータモータのクランキングトルクよりも大きい。このため、内燃機関1の始動時の機関回転速度NEの上昇速度は、スタータモータを備える内燃機関の始動時の機関回転速度NEの上昇速度よりも大きくなる。すなわち、ハイブリッド車両の内燃機関1は始動時の低回転時に実圧縮比Eがより大きなものになりやすい。本実施形態では、始動時進角速度制御を行うため、ハイブリッド車両の機関始動時にトルクショックが生じることを抑制することができる。
(7)本実施形態では、潤滑油温度TLが基準温度TLXよりも高いときのみ、始動時進角速度制御を行うようにしている。これにより、潤滑油温度TLが著しく低くなる極冷間の環境にあるときの機関始動時に同制御により進角速度が小さくされることがないため、極冷間の環境にあるときの内燃機関1の始動性の低下を抑制することができる。
(第2実施形態)
図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態の内燃機関1は、第1実施形態の始動制御の内容の一部を変更したものとして構成されている。以下にこの変更された部分についての詳細を示す。なお、その他の点については第1実施形態と同様の構成が採用されているため、共通する構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
第1実施形態では、高油温始動時にトルクショックを抑制するため、バルブタイミング可変機構30の進角速度を小さくすることにより高油温始動時の実圧縮比Eの増加速度を小さくする始動時進角速度制御を行うようにしている。
これに対して本実施形態では、高油温始動時にトルクショックを抑制するための制御として、高油温始動時の機関回転速度NEの上昇速度を低油温始動時の機関回転速度NEの上昇速度よりも小さくすることにより高油温始動時の実圧縮比Eの増加速度を小さくする始動時回転速度制御を行う。
始動時回転速度制御の詳細について説明する。
電子制御装置101は、始動時回転速度制御の具体的な処理手順を定めた「始動時トルク制御処理」として以下の各処理を行う。なお、この「始動時トルク制御処理」は、第1実施形態の「始動時トルク制御処理」のステップS14以降の内容を下記のステップS24〜S26に変更したものに相当する。これらステップS24〜26以外の処理としては、第1実施形態の「始動時トルク制御処理」の各ステップと同じものが行われる。
ステップS24において、潤滑油温度TLが基準温度TLXよりも大きい旨判定したとき、次のステップS25でモータジェネレータ61のクランキングトルクを低油温始動時のクランキングトルクよりも大きいトルクに設定する。すなわち、高油温始動時のクランキングトルクの指令値を低油温始動時のクランキングトルクの指令値よりも大きいものに設定した状態にてモータジェネレータ61によるクランキングを行う。
ステップS24において、潤滑油温度TLが基準温度TLX未満の旨判定したとき、次のステップS26でモータジェネレータ61のクランキングトルクを低油温始動時のクランキングトルクに設定する。すなわち、低油温始動時のクランキングトルクの指令値を高油温始動時のクランキングトルクの指令値よりも小さいものに設定した状態にてモータジェネレータ61によるクランキングを行う。
本実施形態によれば、第1実施形態の(1)の効果、すなわち高油温始動時においてトルクショックが生じることを抑制することができる旨の効果、及び同実施形態の(2)、(3)及び(5)〜(7)の効果を奏することができる。
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記各実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示す態様をもって実施することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
・上記第1実施形態の始動時進角速度制御の内容を以下の(A1)〜(A3)のいずれかに変更することもできる。
(A1)高油温始動時のバルブタイミング可変機構30の進角速度が低油温始動時のバルブタイミング可変機構30の進角速度よりも小さくなるようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。
(A2)高油温始動時には、バルブタイミング可変機構30の進角速度が予め設定された判定速度を超えないようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。一方、低油温始動時には始動時進角速度制御を行わない。
(A3)高油温始動時且つバルブタイミング可変機構30の進角速度が予め設定された判定速度よりも大きいとき、バルブタイミング可変機構30の進角速度が低下するようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。一方、低油温始動時には始動時進角速度制御を行わない。
・上記第1実施形態の始動時進角速度制御に代えて、例えば以下の(B1)〜(B4)の始動時増加速度制御を行うこともできる。なお、同制御においては実圧縮比Eの測定値または推定値に基づいてモータジェネレータ61のトルク制御が行われる。
(B1)始動時増加速度制御が行われたときの実圧縮比Eの増加速度を増加速度Aとし、同始動時増加速度制御が行われないときの実圧縮比Eの増加速度を増加速度Bとして、高油温始動時には増加速度Aが増加速度Bよりも小さくなるようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。
(B2)高油温始動時の実圧縮比Eの増加速度が低油温始動時の実圧縮比Eの増加速度よりも小さくなるようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。
(B3)高油温始動時には、実圧縮比Eの増加速度が予め設定された判定速度を超えないようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。一方、低油温始動時には始動時増加速度制御を行わない。
(B4)高油温始動時且つ実圧縮比Eの増加速度が予め設定された判定速度よりも大きいとき、実圧縮比Eの増加速度が低下するようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。一方、低油温始動時には始動時増加速度制御を行わない。
・上記第1実施形態では、高油温始動時には予め設定された複数の高油温時パターンのなかから1つのトルク制御パターンを選択したが、高油温始動時のトルク制御パターンを1つにすることもできる。
・上記第1実施形態では、高油温始動時の吸気カムシャフト22のトルク変動幅が所定の変動幅よりも小さくなるように複数の高油温時パターンの内容を設定したが、同複数の高油温時パターンの内容を次のように変更することもできる。すなわち、高油温始動時の吸気カムシャフト22のトルク変動幅が低油温始動時の吸気カムシャフト22のトルク変動幅よりも小さくなるように複数の高油温時パターンの内容を設定することもできる。
・上記第1実施形態では、潤滑油温度TLに基づいて高油温始動時である旨判定したときには、モータジェネレータ61のトルク制御パターンとして高油温時パターンを選択してバルブタイミング可変機構30の進角速度を低下させるようにしたが、これを次のように変更することもできる。すなわち、高油温始動時及び低油温始動時のいずれであるかの判定と、冷却水温度センサ104に異常が生じているか否かの判定とを併せて行い、高油温始動時である旨判定し且つ冷却水温度センサ104に異常が生じている旨判定したとき、モータジェネレータ61のトルク制御パターンとして高油温時パターンを選択することを禁止する。そして、トルク制御パターンとして低油温時パターンを選択してモータジェネレータ61によるクランキングを行う。
ここで例示した始動時進角速度制御によれば、高油温始動時にバルブタイミング可変機構30の進角速度を低下させるためのトルク制御を行う場合と、高油温始動時にバルブタイミング可変機構30の進角速度を低下させるためのトルク制御を行わない場合とが含まれる。そして、トルク制御を行う場合の進角速度はトルク制御を行わない場合の進角速度よりも小さなものとなるため、実圧縮比Eの増加速度もトルク制御を行う場合の方がトルク制御を行わない場合よりも小さくなる。
・上記第2実施形態の始動時回転速度制御の内容を以下の(C1)〜(C3)のいずれかに変更することもできる。
(C1)始動時回転速度制御が行われたときの機関回転速度NEの上昇速度を上昇速度Aとし、同始動時回転速度制御が行われないときの機関回転速度NEの上昇速度を上昇速度Bとして、高油温始動時には上昇速度Aが上昇速度Bよりも小さくなるようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。
(C2)高油温始動時には、機関回転速度NEの上昇速度が予め設定された判定速度を超えないようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。一方、低油温始動時には始動時回転速度制御を行わない。
(C3)高油温始動時且つ機関回転速度NEの上昇速度が予め設定された判定速度よりも大きいとき、機関回転速度NEの上昇速度が低下するようにモータジェネレータ61のトルク制御を行う。一方、低油温始動時には始動時回転速度制御を行わない。
・上記第2実施形態では、潤滑油温度TLに基づいて高油温始動時である旨判定したときには、モータジェネレータ61のクランキングトルクを低油温始動時のクランキングトルクよりも大きいトルクに設定して機関回転速度NEの上昇速度を低下させるようにしたが、これを次のように変更することもできる。すなわち、高油温始動時及び低油温始動時のいずれであるかの判定と、冷却水温度センサ104に異常が生じているか否かの判定とを併せて行う。高油温始動時である旨判定し且つ冷却水温度センサ104に異常が生じている旨判定したときには、モータジェネレータ61のクランキングトルクを低油温始動時のクランキングトルクよりも大きいトルクに設定することを禁止する。そして、クランキングトルクとして低油温時トルクを設定してモータジェネレータ61によるクランキングを行う。
ここで例示した始動時回転速度制御によれば、高油温始動時に機関回転速度NEの上昇速度を低下させるためのトルク制御を行う場合と、高油温始動時に機関回転速度NEの上昇速度を低下させるためのトルク制御を行わない場合とが含まれる。そして、トルク制御を行う場合の機関回転速度NEの上昇速度はトルク制御を行わない場合の機関回転速度NEの上昇速度よりも小さなものとなるため、これにより実圧縮比Eの増加速度もトルク制御を行う場合の方がトルク制御を行わない場合よりも小さくなる。
・上記各実施形態では、冷却水温度TW及び間欠期間SXに基づいて潤滑油温度TLを推定するようにしたが、センサにより潤滑油温度TLを計測することもできる。
・上記各実施形態では、冷却水温度TW及び間欠期間SXに基づいて潤滑油温度TLを推定するようにしたが、潤滑油温度TLの推定に用いるパラメータはこれに限られるものではない。例えば、冷却水温度TW及び間欠期間SXに代えてまたはこれらパラメータに加えて、前回の内燃機関1の始動動作が開始されてから運転が停止されるまでの燃料噴射量の積算値を採用することもできる。また、冷却水温度TW及び間欠期間SXに代えてまたはこれらパラメータに加えて、前回の内燃機関1の始動動作が開始されてから運転が停止されるまでの吸入空気量の積算値を採用することもできる。
・上記各実施形態では、潤滑油温度TLの推定値に基づいて高油温始動時か否かの判定を行うようにしたが、潤滑油温度TLの推定値に代えて、潤滑油温度TLの指標となる温度を採用することもできる。この指標となる温度としては、潤滑油温度TLとの相関が高い物質の温度を採用することができる。具体的には、冷却水温度TW及び機関本体10の温度の少なくとも1つを採用することができる。
・上記各実施形態の「始動トルク制御処理」では、イグニッションスイッチのオフからのオンへの切り換え操作が行われたことを条件にモータジェネレータ61のトルク制御を行うようにしたが、同制御の実行条件は各実施形態で例示した条件に限られるものではない。例えば上記の条件とは別に、ハイブリッドシステムの起動後且つ内燃機関1が停止している状態において内燃機関1の運転を開始するための条件が成立したことに基づいて、モータジェネレータ61のトルク制御を行うこともできる。この構成によれば、イグニッションスイッチの操作に基づく内燃機関1の始動時に限らず、始動停止制御による内燃機関1の高油温始動時についてもトルクショックが生じることを抑制することができる。
・上記各実施形態では、中間ロック機構40を含めて構成されるバルブタイミング可変機構30を備える内燃機関1に対して本発明を適用したが、中間ロック機構40を含まないバルブタイミング可変機構30を備える内燃機関1に対して本発明を適用することもできる。すなわち、油圧式のバルブタイミング可変機構を備える内燃機関であればいずれの内燃機関に対しても本発明を適用することができる。
・上記各実施形態では、バッテリ62及び内燃機関1を走行用の動力源として搭載したハイブリッド車両に適用したが、内燃機関のみを走行用の動力源として搭載した車両にも本発明を適用することができる。