以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、インクジェットプリンタ101は、搬送ユニット20と、搬送ユニット20によって搬送された用紙Pに、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインク滴をそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッド1と、ガイド31と、ニップローラ32、33と、分配機構34と、4つの乾燥ステージ41a〜41dと、排出機構43と、4つの排出トレイ55a〜55dと、制御装置16とを有している。なお、本実施形態において、副走査方向とは搬送ユニット20で用紙Pを搬送するときの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向である。
搬送ユニット20は、2つのベルトローラ6、7と、両ローラ6、7間に架け渡されるように巻回されたエンドレスの搬送ベルト8と、搬送ベルト8のループ内において4つのインクジェットヘッド1と対向するように配置されたプラテン19とを有している。ベルトローラ6は、駆動ローラであって、図示しない搬送モータから駆動力が与えられることで回転する。ベルトローラ7は、従動ローラであって、ベルトローラ6の回転により搬送ベルト8が走行するのに伴って回転する。搬送ベルト8の外周面に載置された用紙Pは、図1右方へと搬送される。
4つのインクジェットヘッド1は、それぞれ主走査方向に沿って延在し、副走査方向には互いに平行に配置されている。すなわち、インクジェットプリンタ101は、主走査方向にインク滴が吐出される複数の吐出口が配列されたライン式のカラーインクジェットプリンタである。各インクジェットヘッド1の下面は、インク滴が吐出される複数の吐出口108が配列された吐出面となっている(図3参照)。
プラテン19は、搬送ベルト8の上側ループの内周面と接触するように配置されており、搬送ベルト8の内周側からこれを支持している。これにより、搬送ベルト8の上側ループの外周面とインクジェットヘッド1の吐出面とが対向しつつ平行になり、且つ、画像形成に適した所定間隔の隙間が形成されている。搬送ベルト8によって搬送されてきた用紙Pが4つのインクジェットヘッド1のすぐ下方を通過する際に、各インクジェットヘッド1から用紙Pの上面に向けて各色のインク滴が順に吐出され、用紙P上に所望のカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは、搬送ユニット20によってさらに図1右方に搬送され、ガイド31に到達する。
ガイド31は、搬送ユニット20によって搬送されている画像が形成された用紙Pを、分配機構34に案内する。ニップローラ32、33は、ガイド31に案内されている用紙Pを挟持しつつ駆動することによって、当該用紙Pに搬送力を与えている。
分配機構34は、ガイド31によって案内された画像が形成された用紙Pを、4つの乾燥ステージ41a〜41dのいずれかに選択的に供給する。
乾燥ステージ41a〜41dは、画像が形成された用紙Pを乾燥させるため当該用紙Pを保持する。分配機構34によって分配された用紙Pは、供給先の乾燥ステージ41a〜41dに対応するニップローラ42a〜42dによって図1左方に搬送され、乾燥ステージ41a〜41dに到達する。乾燥ステージ41a〜41dは、用紙Pが載置される保持領域を有している。用紙Pはこの保持領域に静電吸着によって印刷面を下側の開放空間に向けて保持される。これにより、用紙Pが乾燥するときに湾曲するのを防止する。インクジェットプリンタ101内においては、乾燥ステージ41a〜41dの保持領域上を空気が流動して、保持領域上に保持された用紙Pの乾燥が促進されるように、各機構部が配置されている。また、場合によっては乾燥用のヒータ等が設置される。
排出機構43は、乾燥ステージ41a〜41dに対応する4つのニップローラ43a〜43d及び選択機構45を有している。排出機構43は、乾燥ステージ41a〜41dと、用紙Pを排出トレイ55a〜55dにそれぞれ案内するガイド51a〜51dのいずれかとが接続されるように選択機構45を動作させつつ、ニップローラ43a〜43d、及び排出トレイ55a〜55dの上流に設けられたニップローラ52a〜52dを選択的に駆動することによって、乾燥ステージ41a〜41dのいずれかに保持された用紙Pを、排出トレイ55a〜55dのいずれかに排出する。
4つの排出トレイ55a〜55dは、乾燥ステージ41a〜41dの図1左方において、図1上下方向に配列されている。
図2〜図4を参照しつつ、インクジェットヘッド1について詳細に説明する。図3では説明の都合上、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室110、アパーチャ112及び吐出口108を実線で描いている。
インクジェットヘッド1は、図2に示すように、流路ユニット9の上面に台形の平面形状を有する8つのアクチュエータユニット21(UNIT1〜UNIT8)が固定された積層体である。流路ユニット9は、ステンレス鋼からなる複数の金属製のプレートを互いに位置合わせした積層体である。図3に示すように、流路ユニット9内には、図示しないインクタンクからインクが供給されるマニホールド流路105から副マニホールド流路105a、そして副マニホールド流路105aの出口から圧力室110を経て吐出口108に至る多数の個別インク流路が形成されている。なお、吐出口108は、インク吐出面において、主走査方向に関して主走査方向解像度である600dpiの間隔で配列されている。図示しないインクタンクから供給されたインクは、マニホールド流路105から副マニホールド流路105aに分配される。副マニホールド流路105a内のインクは、各個別インク流路に流れ込み、圧力室110を介して吐出口108に至る。
本実施形態では、流路ユニット9の長手方向に等間隔に並ぶ圧力室110の列が、幅方向に互いに平行に16列配列されている。各圧力室列に含まれる圧力室110の数は、後述のアクチュエータユニット21の外形形状(台形形状)に対応して、その長辺側(下底側)から短辺側(上底側)に向かって次第に少なくなるように配置されている。吐出口108も、これに対応した配置がされている。
次に、アクチュエータユニット21について説明する。アクチュエータユニット21は、各圧力室110に対応した複数のアクチュエータを含んでおり、圧力室110内のインクに選択的に吐出エネルギーを付与する機能を有する。図4に示すように、アクチュエータユニット21は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる3枚の圧電シート141〜143から構成されている。また、最上層の圧電シート141の上面における圧力室110に対向する位置には、個別電極135が形成されている。最上層の圧電シート141とその下側の圧電シート142との間にはシート全面に形成された共通電極134が介在している。
共通電極134は、すべての圧力室110に対応する領域において等しくグランド電位が付与されている。個別電極135に接続されたランド部136に、制御装置16からの駆動電圧が選択的に供給されることによって、当該個別電極135と共通電極134との間に電圧が印加される。
アクチュエータユニット21は、個別電極135と圧力室110とで挟まれた部分が、個別のアクチュエータとして働く。圧力室110から離れた圧電シート141が活性部を含む層とし、圧力室110に近い2枚の圧電シート142、143が自発的に変形しない非活性層である。アクチュエータユニット21は、いわゆるユニモフルタイプのアクチュエータである。アクチュエータユニット21には、個別のアクチュエータが、少なくとも圧力室110の数だけ作り込まれている。
ここで、アクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。圧電シート141はその厚み方向に分極されている。個別電極135を共通電極134と異なる駆動電位にして圧電シート141に対してその分極方向に電界を印加すると、圧電シート141における電界印加部分が活性部として働き、圧電効果により歪む。分極方向と電界の印加方向とが同じであれば、活性部は分極方向に直交する方向(平面方向)に縮む。このとき、圧電シート142、143には、電界による自発的歪みが生じない。これにより、圧電シート141の電界印加部分と圧電シート142、143との間で平面方向への歪みに差が生じる。圧電シート141〜143は圧力室110を区画するプレートの上面に固定されているため、圧電シート141〜143全体が圧力室110側へ凸になるように変形(ユニモルフ変形)し、圧力室110内のインクに圧力(吐出エネルギー)が付与され、吐出口108からインク滴が吐出される。
次に、図5を参照しつつ、制御装置16について詳細に説明する。制御装置16は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。制御装置16を構成する各機能部は、これらハードウェアとEEPROM内のソフトウェアとが協働して構築されている。図5に示すように、制御装置16は、画像データ記憶部71と、搬送制御部76と、停止期間算出部77と、ヘッド制御部72と、8個の印加電圧計測部74と、指令値算出部73と、指令値補正部75とを有している。
画像データ記憶部71は、印刷すべき一連の画像に係る画像データを記憶する。画像データは、上位のコンピュータからの印刷指令と共に印刷ジョブとして送信される。
搬送制御部76は、用紙Pが搬送経路に沿って搬送されるように、搬送ユニット20、分配機構34及び排出機構43を制御する。
停止期間算出部77は、画像データ記憶部71に記憶された画像データに基づいて用紙Pへの印刷が開始されたときから画像データに係る一連の画像の印刷が完了されるまでの期間において、インクジェットヘッド1がインク滴を吐出しない停止期間を算出する。この停止期間には、例えば、用紙Pがインクジェットヘッド1と対向しない領域を搬送されている期間、4つ全ての乾燥ステージ41a〜41dにおいて用紙Pを乾燥させている期間、吐出回復処理(パージなど)を実行している時間などが含まれる。
ヘッド制御部72は、インクジェットヘッド1からのインク滴の吐出を制御する。ヘッド制御部72は、32個の電圧印加回路81と、テーブル記憶部83と、電圧指令値出力部82とを有している。電圧印加回路81は、各インクジェットヘッド1の8個のアクチュエータユニット21(UNIT1〜UNIT8)に対応しており、対応するアクチュエータユニット21に印加電圧を出力する。なお、図5においては、1つのインクジェットヘッド1についてのみ描かれているが、他の3つのインクジェットヘッド1についても同様である。印加電圧は、アクチュエータユニット21の共通電極134と個別電極135との間に印加される電圧であり、グランド電位を0Vとしたときの駆動電圧に対応している。また、電圧印加回路81は、電圧指令値出力部82から出力された指令値が設定される電圧設定部81aを有している。電圧印加回路81は、電圧設定部81aに設定された指令値により、出力する印加電圧を変化させる。電圧印加回路81は、周辺雰囲気の温度や湿度、又は、電圧印加回路81を構成する素子の特性により、同一の指令値に基づいて出力する印加電圧の値が変動する。このため、後述するように、各電圧印加回路81の特性に応じた指令値が決定されている。
テーブル記憶部83は、インクジェットヘッド1毎に、指令値テーブル、出力テーブル、及び、正規化テーブルを記憶している。さらに、テーブル記憶部83は、優先度決定テーブルを記憶している。指令値テーブルは、各インクジェットヘッド1に対応する各電圧印加回路81について、所望の印加電圧(例えば、20V)を出力させる指令値を示している(図6(a)参照)。出力テーブルは、各インクジェットヘッド1に対応する各電圧印加回路81について、上限電圧である23V及び下限電圧である12Vを出力させる指令値のそれぞれに基づいて実際に出力された印加電圧を示している(図6(b)参照)。正規化テーブルは、出力テーブルに係る印加電圧の値を、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて最大値を1、最小値を0で正規化した値を示している(図6(d)参照)。優先度決定テーブルは、各インクジェットヘッド1について前回補正処理(後述)を行った補正時実行時刻を示している(図7(c)参照)。
電圧指令値出力部82は、テーブル記憶部83に記憶された指令値テーブルに基づいて、所望の印加電圧を出力させる指令値を電圧印加回路81の電圧設定部81aに出力する。
印加電圧計測部74は、電圧印加回路81がアクチュエータユニット21に実際に出力している印加電圧を計測する。なお、印加電圧計測部74は、印加電圧を6回実測した平均値を計測値として出力する。また、8個の印加電圧計測部74は、図示しないマルチプレクサを介して4つのインクジェットヘッド1に係る8個のアクチュエータユニット21にそれぞれ接続されており、インクジェットヘッド1単位で8つのアクチュエータユニット21に出力される印加電圧を同時に計測する。
指令値算出部73は、インクジェットプリンタ101の初回起動時に、全ての電圧印加回路81が出力する印加電圧を印加電圧計測部74に計測させることによって、テーブル記憶部83に記憶された指令値テーブルを構築するテーブル構築処理を行う。テーブル構築処理が開始されると、指令値算出部73は、図6(b)に示すように、全ての電圧印加回路81について、上限電圧である23V及び下限電圧である12Vを出力させる指令値に基づいて、アクチュエータユニット21(UNIT1〜UNIT8×4)に実際に出力した印加電圧を、印加電圧計測部74によってそれぞれ計測させる。指令値算出部73は、計測結果から出力テーブルを構築してテーブル記憶部83に記憶させる。
次に、指令値算出部73は、構築した出力テーブルから指令値テーブルを構築する。図6(c)に示すように、指令値をy、実際の印加電圧をxとしたとき、y=ax+bと仮定する。指令値算出部73は、各電圧印加回路81について、出力テーブルに係る上限電圧(23V)の指令値及び当該指令値に基づいて出力した印加電圧と、下限電圧(12V)の指令値及び当該指令値に基づいて出力した印加電圧とから、上記パラメータa、bを算出し、上式を用いて所望の印加電圧を出力するときの指令値を算出する。指令値算出部73は、算出結果から指令値テーブルを構築してテーブル記憶部83に記憶させる。
さらに、指令値算出部73は、図6(d)に示すように、出力テーブルに係る印加電圧の値を、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて正規化した正規化テーブルを構築してテーブル記憶部83に記憶させる。なお、図6(d)においては、UNIT1〜UNIT7に出力された印加電圧を、最大値を1、最小値を0で正規化した例が示されている。この正規化された値は、各電圧印加回路81の印加電圧出力特性に関する相対的な個体差を示している。以上で、テーブル構築処理が完了する。
指令値補正部75は、停止期間算出部77が算出した停止期間において、インクジェットヘッド1単位で、テーブル記憶部83に記憶された指令値テーブルの指令値を補正する補正処理を行う。指令値補正部75は、停止期間において補正処理を行うことが可能なインクジェットヘッド1の数(インクジェットヘッド1に関する指令値テーブルの数)を算出する。具体的には、停止期間における時間を、1つの指令値テーブルを補正するのに必要な時間で除したときの商を算出結果とする。指令値補正部75は、テーブル記憶部83に記憶された優先度決定テーブル(図7(c)参照)を参照し、補正実行時刻の古い順から優先的に、算出した数のインクジェットヘッド1を補正対象として決定する。なお、指令値補正部75は、前回の補正処理から所定の最大時間が経過していれば、強制補正フラグをONにして(図9及び図10参照)、全てのインクジェットヘッド1を補正対象に決定する。
補正処理について、図7を参照しつつ説明する。なお、以下の説明は、補正対象となった1つのインクジェットヘッド1に対応する補正テーブルに係る補正処理に関するものであり、2以上のインクジェットヘッド1に関して補正処理を行う場合は、後述の処理を繰り返すことになる。補正処理が開始されると、指令値補正部75は、図7(a)に示すように、テーブル記憶部83に記憶された出力テーブルから(図6(b)参照)、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて、最高及び最低の印加電圧を出力する電圧印加回路81を代表電圧印加回路に決定する。図7(a)の例においては、上限電圧において最高の印加電圧が出力されたアクチュエータユニット21がUNIT5であり、最低の印加電圧が出力されたアクチュエータユニット21がUNIT6である。したがって、上限電圧については、UNIT5及びUNIT6に対応する電圧印加回路81を代表電圧印加回路に決定する。また、下限電圧において最高の印加電圧が出力されたアクチュエータユニット21がUNIT5であり、最低の印加電圧が出力されたアクチュエータユニット21がUNIT4である。したがって、下限電圧については、UNIT4及びUNIT5に対応する電圧印加回路81を代表電圧印加回路に決定する(図7(a)中斜線部)。
次に、指令値補正部75は、決定した上限電圧に係る2つの代表電圧印加回路が、上限電圧の指令値に基づいて出力する印加電圧を印加電圧計測部74によって計測すると共に、決定した下限電圧に係る2つの代表電圧印加回路が、下限電圧の指令値に基づいて印加電圧を印加電圧計測部74によって計測する。
そして、指令値補正部75は、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて、代表電圧印加回路が出力した印加電圧と、先に指令値算出部73が構築した正規化テーブルとから、代表電圧印加回路を除く他の電圧印加回路81が、上限電圧及び下限電圧の各指令値に基づいて出力する印加電圧を予測する。例えば、図7(b)の例によると、指令値補正部75は、上限電圧について、最高の印加電圧に係る代表電圧印加回路が出力した印加電圧の計測値が23.3V(正規化値1)、最低の印加電圧に係る代表電圧印加回路が出力した印加電圧の計測値が22.1V(正規化値0)であるため、正規化値が0.25の電圧印加回路81(UNIT1に対応)は、上限電圧の指令値に対して、22.1+(23.3−22.1)×0.25=22.4Vの印加電圧を出力することが予測される。指令値補正部75は、代表電圧印加回路以外の全ての電圧印加回路81について、上限電圧及び下限電圧の指令値に基づいて出力する印加電圧を予測し、その予測結果から出力テーブルを補正する。出力テーブル及び正規化テーブルから上述の式を用いて各指令値を算出し、算出結果から指令値テーブルを補正する。
さらに、指令値補正部75は、図7(c)に示すように、補正処理を行った時刻(図7(c)の場合、時刻T2)を、優先度決定テーブルに係る補正対象となったインクジェットヘッド1(図7(c)の場合、インクジェットヘッド(K))に対応する補正時刻としてテーブル記憶部83に記憶させる。以上で補正処理が完了する。
上述の補正処理は、基本的には印刷処理が停止する停止期間内において行われるが、強制補正フラグがONになっている場合、すなわち、前回の補正処理から所定の最大時間が経過した後に行われる場合には、停止期間に係わらず、印刷処理より優先的に行われる。
なお、指令値算出部73は、指令値テーブルを補正するときに、代表電圧印加回路について、指令値算出部73が新たに算出した指令値同士の大小関係と、テーブル記憶部83に先に記憶された指令値テーブルに係る指令値同士の大小関係とが一致しなければ、補正異常があったと判断し、補正処理を中断する。補正異常により補正処理が中断されると、指令値算出部73が補正対象としたインクジェットヘッド1に関する全ての電圧印加回路81について印加電圧計測することにより、上述のテーブル構築処理を行う。なお、補正異常の判断は、代表電圧印加回路について、印加電圧計測部74が計測した印加電圧同士の大小関係と、テーブル記憶部83に先に記憶された出力テーブルに係る印加電圧同士の大小関係とを比較して判断してもよい。これにより、補間計算の前提条件が崩れた状態で補正処理に係る補間計算を行うことが防止され、指令値が大きくずれるのを防止することができる。
次に、図8を参照しつつ、制御装置16の動作手順について説明する。図8に示すように、インクジェットプリンタ101に電源が投入されると、全てのアクチュエータユニット21について電圧印加回路81が出力する印加電圧を印加電圧計測部74に計測させることによって、テーブル記憶部83に記憶された指令値テーブルを構築する上述のテーブル構築処理(S101)を行うと共に、指令値補正部75が、テーブル記憶部83に記憶された優先度決定テーブルの内容を現在の時刻に置き換えて初期化する(S102)。そして、上位のコンピュータからの印刷ジョブが受信されるまで待機する(S103:NO)。印刷ジョブが受信されれば(S103:YES)、制御装置16が、印刷処理を開始した後(S104)、受信した印刷ジョブに係る印刷が完了するまで、補正処理(S105)を繰り返し実行する(S106)。ここで、印刷処理は、画像データ記憶部71に記憶された画像データに基づいて用紙Pへの印刷が開始されたときから、画像データに係る一連の画像の印刷が完了して全ての用紙Pが排出トレイ55a〜55dに排出されるまでの処理であり、この印刷処理が完了しときに印刷ジョブに係る印刷が完了したと判断する。
図9に示すように、補正処理が開始されると、指令値補正部75が、印刷が停止しているか否かを判断する(S201)。ここで、印刷が停止しているときとは、例えば、用紙Pがインクジェットヘッド1と対向しない領域を搬送されているとき、4つ全ての乾燥ステージ41a〜41dにおいて用紙Pが乾燥され、用紙への記録が中断しているときを含む。印刷が停止していなければ(S201:NO)、補正処理を終了して、図8のフローチャートに戻り、印刷処理を継続する。印刷が停止していれば(S201:YES)、テーブル記憶部83に記憶された優先度決定テーブルの内容を参照して、前回の補正実行時刻、すなわち、優先度決定テーブルにおける最も新しい補正実行時刻から最大経過時間が経過しているか否かを判断する(S202)。例えば、図7(c)の場合、最も新しい時刻T2から最大経過時間が経過しているか否かを判断する。
最大経過時間が経過していなければ(S202:NO)、停止期間算出部77が、印刷処理が完了されるまでの期間において、インクジェットヘッド1によるインク滴の吐出が再開されるまでの時間である停止期間を算出する(S203)。具体的には、用紙Pがインクジェットヘッド1と対向しない領域を搬送されているときには、当該用紙Pがインクジェットヘッド1と対向する領域まで搬送される期間を、4つ全ての乾燥ステージ41a〜41dにおいて用紙Pを乾燥させているときには、乾燥ステージ41a〜41dのうち、最も早く用紙Pの乾燥が完了すると共に乾燥が完了した用紙Pが排出トレイ55a〜55dに排出され、次に記録する用紙Pがインクジェットヘッド1と対向する領域まで搬送される期間を算出する。指令値補正部75は、算出された停止期間において補正処理を行うことができるインクジェットヘッド1の数を算出する(S204)。指令値補正部75は、算出した補正処理を行うことができるインクジェットヘッド1の数が0であれば(S205:YES)、図8のフローチャートに戻り、算出した補正処理を行うことができるインクジェットヘッド1の数が1以上であれば(S205:NO)、補正実行(S206)を行った後に、図8のフローチャートに戻る。一方、最大経過時間が経過していれば(S202:YES)、強制補正フラグをONにして(S207)、補正実行(S206)を行い、図8のフローチャートに戻る。
図10に示すように、補正が実行されると、強制補正フラグがONになっているか否かを判断する(S301)。強制補正フラグがONになっていなければ(S301:NO)、指令値補正部75が、テーブル記憶部83に記憶された優先度決定テーブルを参照し、補正実行時刻の古い順から優先的に、先に算出した補正処理を行うことができるインクジェットヘッド1の数だけ、補正対象となるインクジェットヘッド1を決定する(S302)。そして、指令値補正部75は、決定した補正対象となるインクジェットヘッド1に関して、上述の補正処理により、当該インクジェットヘッド1に対応する指令値テーブル、出力テーブル及び正規化テーブルを補正する(S303)。指令値補正部75は、補正が完了した後に、現在の時刻を補正実行時刻として優先度決定テーブルを更新し(S304)、図9のフローチャートに戻る。
一方、強制補正フラグがONになっていれば(S301:YES)、指令値補正部75が、4つ全てのインクジェットヘッド1を補正対象として決定する(S305)。強制補正フラグがONになっているときは、印刷処理より補正処理を優先するため、指令値補正部75は、印刷処理を一時的に停止させた後に(S306)、全てのインクジェットヘッド1に関して、上述の補正処理により、当該インクジェットヘッド1に対応する指令値テーブル、出力テーブル及び正規化テーブルを補正する(S303)。さらに、指令値補正部75は、補正が完了した後に、現在の時刻を補正実行時刻として優先度決定テーブルを更新し(S304)、図9のフローチャートに戻る。
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ101によると、用紙Pに対する印刷が開始されてから印刷が完了するまでの期間内で、かつ、インクジェットヘッドヘッド1が用紙Pへの印刷を停止している停止期間において指令値テーブルを補正するため、印刷完了後に全ての指令値テーブルを補正する必要性を少なくして、印刷に係るスループットが低下するのを抑制できる。また、印刷の合間に指令値テーブルの補正を行うので、印刷品質が低下するのを抑制することができる。
また、停止期間が十分に長ければ、全てのインクジェットヘッド1に関する指令値テーブルを補正することができるため、印刷品質が低下するのを確実に抑制することができる。
さらに、停止期間が短くても、一部のインクジェットヘッド1に関する指令値テーブルを補正することができるため、補正頻度が高くなり、印刷品質が低下するのを抑制することができる。
加えて、補正処理においては、インクジェットヘッド1単位で指令値テーブルの補正が行われるため、1つのインクジェットヘッド1に係る8つのアクチュエータユニット21間でインク滴の吐出特性が変化するのを抑制することで、印刷される画像のすじ等が発生して印刷品質が低下するのを抑制することができる。
また、8個の印加電圧計測部74が、図示しないマルチプレクサを介して4つのインクジェットヘッド1に係るアクチュエータユニット21にそれぞれ接続されており、インクジェットヘッド1単位で8つのアクチュエータユニット21に出力される印加電圧を同時に計測するため、印加電圧の計測を素早く完了することができる。また、印加電圧計測部74の数を低減して低コスト化を図ることができる。
さらに、補正実行時刻が古いインクジェットヘッド1に関する指令値テーブルが優先的に補正されるため、各指令値の補正頻度が均一化され、印刷品質が低下するのをさらに抑制することができる。
加えて、指令値補正部75が、補正処理において、代表電圧印加回路が出力する印加電圧のみを計測し、代表電圧印加回路以外の電圧印加回路81が出力する印加電圧を、代表印加回路に係る計測結果と正規化テーブルとから補間計算により予測し、その予測結果に基づいて出力テーブルを補正すると共に、各電圧印加回路に係る指令値を算出するため、電圧印加回路81が出力する印加電圧の実測回数を低減することができる。これにより、所望の印加電圧を出力させる指令値を素早く補正することができる。
また、指令値補正部75が、補正処理において、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて、最高及び最低の印加電圧を出力する電圧印加回路81を代表電圧印加回路に決定するため、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて、電圧印加回路81が出力する印加電圧を補間計算によって予測するときに、補間計算に係る誤差を小さくすることができる。
さらに、指令値補正部75が、前回の補正処理から所定の最大時間が経過していれば、印刷処理を停止して、全てのインクジェットヘッド1に関する指令値テーブルを補正するため、経時変化によって印加電圧が大きくずれるのを防止して、印刷品質が低下するのを確実に抑制することができる。
<変形例>
上述の実施形態では、指令値補正部75が、インクジェットヘッド1単位で補正処理を行う構成であるが、2以上のインクジェットヘッド1単位で補正処理を行ってもよいし、インクジェットヘッド1とは無関係に選択された、1又は複数のアクチュエータユニット21単位で、対応する電圧印加回路81に関する指令値の補正処理を行ってもよい。
例えば、図11に示すように、4つの印加電圧計測部74のそれぞれが、図示しないマルチプレクサを介して対応するインクジェットヘッド1の8つのアクチュエータユニット21(UNIT1〜UNIT8)に接続されており、補正処理において、4つの印加電圧計測部74が、副走査方向に配列された4つのアクチュエータユニット21に出力される印加電圧を同時に計測すると共に、当該アクチュエータユニット21に印加電圧を出力する印加電圧出力回路81に関する指令値を補正してもよい。これによると、インクジェットヘッド1間におけるインク滴の着弾精度を均一化することができるため、印刷品質を向上させることができる。また、補正処理に係る印加電圧の計測を素早く行うことができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。上述の実施形態では、8個の印加電圧計測部74が、図示しないマルチプレクサを介して4つのインクジェットヘッド1に係るアクチュエータユニット21にそれぞれ接続される構成であるが、全てのアクチュエータユニット21に対して個別の印加電圧計測部74が接続される構成であってもよい。これによると、印加電圧計測部74の数が削減できる。
上述の実施形態においては、上限電圧及び下限電圧の指令値に基づいて代表電圧印加回路が出力する印加電圧を計測し、代表電圧印加回路以外の電圧印加回路81が出力する印加電圧を、代表印加回路に係る計測結果と正規化テーブルとから補間計算により予測し、その予測結果に基づいて出力テーブルを補正すると共に、出力テーブルに基づいて各電圧印加回路に係る所望の印加電圧の指令値を算出する構成であるが、所望の印加電圧の指令値に基づいて電圧印加回路81が出力する印加電圧を示す出力テーブルを準備し、当該出力テーブルから決定された代表印加回路に係る計測結果、及び、当該出力テーブル(又は正規化テーブル)に基づいて、各電圧印加回路81に所望の印加電圧を出力させる指令値を補間計算により直接算出する構成であってもよい。また、このような補完計算を行うことなく、全ての電圧印加回路81が出力する印加電圧を実測し、実測結果に基づいて全ての指令値を補正する構成であってもよい。
さらに、上述の実施形態では、指令値補正部75が、補正処理において、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて、最高及び最低の印加電圧を出力する電圧印加回路81を代表電圧印加回路に決定する構成であるが、互いに異なる印加電圧を出力する電圧印加回路81であれば、最高及び最低の印加電圧を出力する電圧印加回路81以外の電圧印加回路81を代表電圧印加回路に決定してもよい。また、上限電圧及び下限電圧のそれぞれについて、3以上の電圧印加回路81を代表電圧印加回路に決定する構成であってもよい。
加えて、上述の実施形態では、補正実行時刻が古いインクジェットヘッド1に関する指令値テーブルを優先的に補正する構成であるが、補正に関する優先順位は任意のものであってよい。
上述の実施形態では、電圧印加回路81がユニモルフタイプのアクチュエータユニット21に印加電圧を出力する構成であるが、電圧印加回路81が印加電圧を出力するアクチュエータユニットは、バイモルフタイプのアクチュエータであってもよいし、サーマル式等、他の方式で吐出エネルギー付与するアクチュエータであってもよい。つまりアクチュエータは電力を変位に変換する機構(素子)に限定されるものではない。
本発明は、インク以外の液体を吐出する記録装置にも適用可能である。さらに、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。