JP5191450B2 - コルチゾール測定方法及びコルチゾールセンサチップ - Google Patents
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なかでも、HPLC、LC/MS及びELISAは、高感度な分析が行えるために分析機関や医療機関等で広く使用されている。しかし、これらの方法は装置が大型であるうえ、複雑な測定手法を必要とするという問題がある。
電気化学イムノアッセイでは、測定対象物質に対する一次抗体、酵素を標識した抗体(以下、「二次抗体」という。)、酵素を標識した標準物質(以下、「酵素標識抗原」という。)、酵素の基質等を用いる。このとき、酵素の基質が酸化還元物質であるか、酵素反応の生成物が酸化還元物質であれば、その酸化還元反応を電気化学的に検出することにより、測定対象物質の濃度を測定できる。
競合法は、電極に固定化した一次抗体に、測定対象物質と酵素標識抗原を添加して競合的に抗原抗体反応を行わせ、さらに酵素の基質である酸化還元物質を添加することで、酵素反応による生成物を電気化学的に検出する方法である。
非特許文献1においては、競合法とキャピラリー電気泳動イムノアッセイを利用したコルチゾールの測定方法が示されている。
非特許文献2においては、サンドイッチ法を利用した4−アミノフェノールの測定方法が示されている。
以上のように、小型の装置を用いた簡便な測定方法で、血中や唾液中のコルチゾール濃度を高感度に測定することは困難である。
[1]一対のくし型電極を具備し、その少なくとも一方のくし型電極にコルチゾール抗体が固定化されたコルチゾールセンサチップを用いた、試料溶液中のコルチゾール濃度の測定方法であって、前記一対のくし型電極上の同じ位置に、測定対象物質であるコルチゾールを含む試料溶液と、ペルオキシダーゼをコルチゾールに標識した酵素標識抗原を含む標識抗原含有溶液を滴下し、前記コルチゾールと前記酵素標識抗原とを前記コルチゾール抗体に競合的に結合させる競合反応工程と、前記一対のくし型電極上の前記位置に、前記ペルオキシダーゼにより酸化される酸化還元物質を含む基質含有溶液をさらに滴下し、前記コルチゾール抗体が固定化されたくし型電極に前記酸化還元物質の酸化電位を印加して、該酸化電位を印加したくし型電極表面における前記酸化還元物質の酸化により生じる酸化電流を測定する電流測定工程と、を有するコルチゾール測定方法。
[2]前記一対のくし型電極の一方のくし型電極のみに前記コルチゾール抗体が固定化されており、該コルチゾール抗体が固定化されたくし型電極に前記酸化還元物質の酸化電位を印加し、他方のくし型電極に前記酸化還元物質の還元電位を印加する、前記[1]に記載のコルチゾール測定方法。
[3]滴下する前記酸化還元物質の量が、滴下する前記酵素標識抗原のペルオキシダーゼにより1分間で全て酸化される量である、前記[1]又は[2]に記載のコルチゾール測定方法。
[4]前記ペルオキシダーゼの酵素活性をP(units/mg)、前記ペルオキシダーゼの分子量をQ、前記酸化還元物質のモル数をX、前記酵素標識抗原のモル数をYとしたとき、X<P×(Q×10−3)×Yを満たす、前記[3]に記載のコルチゾール測定方法。
[5]前記[2]に記載のコルチゾール測定方法に用いるコルチゾールセンサチップであって、一対のくし型電極を具備し、その一方のくし型電極のみにコルチゾール抗体が固定化されたコルチゾールセンサチップ。
また、本発明は、前記コルチゾール測定方法に用いるコルチゾールセンサチップを提供する。
本発明のコルチゾールセンサチップは、本発明のコルチゾール濃度を測定するコルチゾール測定方法に用いるセンサチップである。以下、本発明のコルチゾールセンサチップの実施形態の一例を示して詳細に説明する。
本実施形態のコルチゾールセンサチップ10(以下、「センサチップ10」という。)は、図1に示すように、基板11と、基板11上に形成された一対のくし型電極12、13と、参照電極14と、対向電極15とを有している。
基板11の形状は矩形である。ただし、基板11の形状は、基板11上に各電極を形成でき、それら電極上に試料溶液等を滴下してコルチゾール濃度を測定できる形状であれば特に限定されない。基板11の大きさも特に限定されず、コルチゾール濃度の測定が可能な大きさであればよい。
くし型電極12、13は、公知の電極を用いることができ、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、塩化銀、白金、クロム、ニッケル、鉄、炭素からなる電極が挙げられる。
くし型電極12の平行する電極部分の幅d1、間隔d2は、大きな電流が得られるため小さければ小さいほど好ましいが、従来のフォトリソグラフィー技術で作製が可能という点で、0.1〜10μmであることが好ましい。
くし型電極13は、くし型電極12に対応する形状であればよく、前記幅及び間隔が同程度のものが好ましい。
単分子膜21は、ジスルフィド化合物を吸着させることにより電極表面上で自己組織化した単分子膜である。具体的には、10−カルボキシジスルフィド(10−CDD)、7−カルボキシヘプチルジスルフィド(7−CHD)、5−カルボキシペンチルジスルフィド(5−CPD)、4,4’−ジチオブタン酸(DDA)等からなる単分子膜が挙げられる。
例えば、くし型電極12上に10−CDDからなる単分子膜21を形成し、架橋分子22である2,4−ジニトロフェニルアミンを結合させた後、コルチゾール抗体23を反応させることで、くし型電極12上にコルチゾール抗体23を固定化できる。
また、くし型電極12上に10−CDDからなる単分子膜21を形成し、架橋分子22であるN−ヒドロキシスクシイミド及びベンゾフェノン誘導体を結合させた後、光照射によりコルチゾール抗体23を反応させることで、くし型電極12上にコルチゾール抗体23を固定化できる。
ただし、くし型電極12上へのコルチゾール抗体の固定化は、前述の方法には限定されず、公知の固定化方法を適宜使用できる。
まず、電気ビーム(EB)描画により、基板11上に各電極の溝になる部分を描画し、ネガレジストを行って現像により溝部分が残るようにする。そして、金を蒸着し、リフトオフにより各電極を形成する。次に、UVフォトリソグラフィー(ポジレジスト)、エッチングによりそれら電極を所望の形状に整えることで所望の形状の電極を形成することができる。
また、対向電極15は特に限定されず、例えば、白金電極、カーボン電極が挙げられる。
参照電極14及び対向電極15の形状は特に限定されず、例えば平板状の電極が挙げられる。
センサチップ10を用いたコルチゾール濃度測定に利用できる装置としては、例えば、市販の電気化学アナライザー(商品名:ALS600C、ビーエーエス株式会社)が挙げられる。
以下、本発明のコルチゾール測定方法の実施形態の一例として、前述のセンサチップ10を用いたコルチゾール濃度の測定方法について説明する。
本実施形態のコルチゾール測定方法は、測定対象物質であるコルチゾールを含む試料溶液と、ペルオキシダーゼ酵素をコルチゾールに標識した酵素標識抗原を含む標識抗原含有溶液をくし型電極12、13上の同じ位置に滴下する競合反応工程と、くし型電極12、13上の前記位置に、前記ペルオキシダーゼ酵素に酸化される酸化還元物質を含む基質含有溶液をさらに滴下し、コルチゾール抗体23が固定化されたくし型電極12に前記酸化還元物質の酸化電位を印加して、該酸化電位を印加したくし型電極表面での前記酸化還元物質の酸化により生じた酸化電流を測定する電流測定工程と、を有する。
試料溶液と標識抗原含有溶液は、試料溶液中のコルチゾールと標識抗原含有溶液中の酵素標識抗原とを競合させることができれば、別々に滴下してもよく、予め混合した後に滴下してもよい。
酸化還元物質は、酵素標識抗原のペルオキシダーゼ酵素の基質である。具体的には、HRPの場合は、例えば、テトラメチルベンジジン(TMB)、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸(ABTS)が挙げられる。
XをaYより小さい値に設定すれば、酵素標識抗原の量は、その全てがコルチゾール抗体23と結合したときに、該酵素標識抗原のペルオキシダーゼ酵素が全ての酸化還元物質を酸化できる量となる。試料溶液中のコルチゾール濃度がゼロの場合には、酵素標識抗原のみがコルチゾール抗体23と結合してくし型電極12表面がペルオキシダーゼ酵素で覆われるので、酸化還元物質は全て該酵素により酸化され、酸化電位を印加したくし型電極では酸化が起きず酸化電流は検出されない。そのため、測定できる濃度範囲が広くなり、コルチゾールが低濃度であっても高感度に濃度を測定できる。
例えば、HRPの酵素活性Pは50units/mg、分子量Qは44,000g/molであるので、a=2200である。そのため、酸化還元物質は、そのモル数XがX<2200×Yを満たすように滴下すればよい。
酸化電位は、電極表面上で酸化還元物質が酸化されるのに充分な電位であって、かつ電極の劣化あるいは他の物質の反応により酸化電流の測定に悪影響を及ぼすようなことがない範囲であればよい。例えば、酸化還元物質がTMBでその酸化還元電位が200mVの場合、400〜600mVとすることが好ましい。
一方、試料溶液中のコルチゾール濃度が低い場合、コルチゾール抗体に結合するコルチゾールの数が少なくなり、それに応じてコルチゾール抗体に結合する酵素標識抗原の数が多くなる。そのため、酵素標識抗原のペルオキシダーゼ酵素によって酸化される酸化還元物質の数は多くなり、酸化電位を印加したくし型電極で酸化される酸化還元物質の数が少なくなる。したがって、試料溶液中のコルチゾールが少ないほど得られる酸化電流は小さくなる。
このように、本実施形態のコルチゾール測定では、試料溶液中のコルチゾール濃度に依存した酸化電流を検出される。そのため、既知濃度のコルチゾールを含む溶液を用いて予め検量線を作成しておく等の方法を用いることにより、高感度なコルチゾール濃度の測定が可能である。
これにより、酸化電位を印加したくし型電極12で酸化された酸化還元物質は、拡散により還元電位を印加したくし型電極13に到達し、該くし型電極13で還元される。くし型電極13で還元された酸化還元物質は、拡散により再度くし型電極12に到達して酸化される。そのため、前記形態で測定を行うことで繰り返し酸化還元反応を起こさせることができるようになり、さらに高感度なコルチゾール濃度測定が可能となる。
尚、本発明のコルチゾール測定方法は、センサチップ10及び装置1を用いる方法には限定されない。例えば、一対のくし型電極の両方の電極にコルチゾール抗体がそれぞれ固定化されたセンサチップを用いてもよい。この場合には、酸化電位は、両方のくし型電極に印加してもよく、いずれか一方のみに印加してもよい。
本実施例では、コルチゾールセンサチップを用い、電気化学イムノアッセイを利用してコルチゾールを検出した。
[実施例1]
図1に例示したセンサチップ10を作成した。基板11である縦D1が12mm、横D2が20mmのガラス基板上に、電気ビーム(EB)描画により各電極の溝になる部分を描画し、ネガレジストを行って現像により溝部分を残し、金属蒸着、リフトオフにより各電極を形成し、さらにUVフォトリソグラフィー(ポジレジスト)、エッチングによりそれら電極を所望の形状に整えることで、くし型電極12、13、参照電極14及び対向電極15を有するセンサチップ10を得た。くし型電極12、13の幅d1は10μm、間隔d2は5μmとした。また、各電極は、参照電極14は銀/塩化銀、それ以外は金で形成した。
得られたセンサチップ10の各電極と、市販の電気化学アナライザー(商品名:ALS600C、ビーエーエス株式会社)とを4本の電気ケーブルにより接続して測定に用いた。
酵素標識抗原としては、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)を標識したコルチゾールを用いた。また、酸化還元物質としては、テトラメチルベンジン(TMB)を用いた。
コルチゾール抗体23を固定化したくし型電極12とくし型電極13上に、コルチゾール濃度が0nMの試料溶液(10μL)と、100ng/mLのHRP標識コルチゾールを含む標識抗原含有溶液(10μL)を滴下し、1時間静置した。
酸化還元物質であるTMBの使用量は、次のように決定した。
酸化還元物質のモル数(X)と、コルチゾール抗体と結合する酵素標識抗原のモル数(Y)の関係式X<P×(Q×10−3)×Yにおいて、HRPの酵素活性Pは50units/mg、HRPの分子量Qは44,000g/molである。また、TMBを含む基質含有溶液の滴下体積は10μLとした。このとき、a=2200、Y=2.3×10−14molであり、X<5.0×10−11となる。また、コンチゾール濃度が10nMの試料溶液の測定に少なくとも必要なTMBの量は、滴下する基質含有溶液の体積を10μLとしたときにはX>10−14molである。
そこで、滴下する基質含有溶液中のTMBの濃度は1μMとした。
これは、試料溶液中にコルチゾールが存在しないために、くし型電極12上に固定化されたコルチゾール抗体23には全て酵素標識抗原が結合しており、さらに滴下した基質含有溶液中のTMBの量XがaYよりも小さいために、TMBが全て該酵素標識抗原のペルオキシダーゼ酵素により酸化され、くし型電極12上で酸化が生じなかったためである。
その結果、試料溶液のコルチゾール濃度が増加するにつれて測定される酸化電流が増加し、100nMのときに測定された酸化電流は20nAであった。また、該酸化電流の測定による試料溶液中のコルチゾールの検出限界は10nMであった。
このように、実施例1では、小型の装置を用い、酸化還元物質の拡散を利用した簡便な測定により、低濃度のコルチゾールを高感度で検出できることが確認された。
コルチゾール抗体23が固定化されたくし型電極12に、参照電極に対して400mVの電位を印加し、コルチゾール抗体が固定化されていないもう一方のくし型電極13に、参照電極に対して0mVの電位を印加した以外は、実施例1と同様にしてくし型電極12で得られる電流を測定した。すなわち、実施例2では、酸化還元反応がつり合うレドックスサイクルを利用した測定を行った。
その結果、コルチゾール濃度が増加するにしたがってくし型電極12で得られる酸化電流が増加し、コルチゾール濃度が0nM、100nMのとき、電流はそれぞれ0nA、100nAであり、実施例1に比べて感度が5倍に増大した。すなわち、コルチゾール濃度の検出限界は2nMであった。
唾液中のコルチゾール濃度は平常時で約5nMと極めて低濃度であるが、この結果から、本発明の方法であれば極めて高い感度で生体中のコルチゾール濃度が測定可能であることが確認された。
酸化還元物質として、TMBの代わりに2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸(ABTS)を用いた以外は、実施例1と同様にして酸化電流の測定を行った。
その結果、コルチゾール濃度が増加するにしたがってくし型電極12で得られた電流が増加し、コルチゾール濃度が0nM、100nMのとき、電流はそれぞれ0nA、20nAであった。
このように、TMB以外の酸化還元物質を用いても、極めて高感度で生体中のコルチゾール濃度が測定可能であることが確認された。
Claims (5)
- 一対のくし型電極を具備し、その少なくとも一方のくし型電極にコルチゾール抗体が固定化されたコルチゾールセンサチップを用いた、試料溶液中のコルチゾール濃度の測定方法であって、
前記一対のくし型電極上の同じ位置に、測定対象物質であるコルチゾールを含む試料溶液と、ペルオキシダーゼをコルチゾールに標識した酵素標識抗原を含む標識抗原含有溶液を滴下し、前記コルチゾールと前記酵素標識抗原とを前記コルチゾール抗体に競合的に結合させる競合反応工程と、
前記一対のくし型電極上の前記位置に、前記ペルオキシダーゼにより酸化される酸化還元物質を含む基質含有溶液をさらに滴下し、前記コルチゾール抗体が固定化されたくし型電極に前記酸化還元物質の酸化電位を印加して、該酸化電位を印加したくし型電極表面における前記酸化還元物質の酸化により生じる酸化電流を測定する電流測定工程と、
を有するコルチゾール測定方法。 - 前記一対のくし型電極の一方のくし型電極のみに前記コルチゾール抗体が固定化されており、該コルチゾール抗体が固定化されたくし型電極に前記酸化還元物質の酸化電位を印加し、他方のくし型電極に前記酸化還元物質の還元電位を印加する、請求項1に記載のコルチゾール測定方法。
- 滴下する前記酸化還元物質の量が、滴下する前記酵素標識抗原のペルオキシダーゼにより1分間で全て酸化される量である、請求項1又は2に記載のコルチゾール測定方法。
- 前記ペルオキシダーゼの酵素活性をP(units/mg)、前記ペルオキシダーゼの分子量をQ、前記酸化還元物質のモル数をX、前記酵素標識抗原のモル数をYとしたとき、X<P×(Q×10−3)×Yを満たす、請求項3に記載のコルチゾール測定方法。
- 請求項2に記載のコルチゾール測定方法に用いるコルチゾールセンサチップであって、
一対のくし型電極を具備し、その一方のくし型電極のみにコルチゾール抗体が固定化されたコルチゾールセンサチップ。
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