以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による油圧制御装置が適用された自動変速機制御装置10を示している。自動変速機制御装置10は、自動変速機11とともに車両に搭載され、当該自動変速機11を制御する。図1に示す自動変速機11は、いわゆる多段自動変速機と呼ばれるものであって、複数の歯車を使用して力を伝え段階的に変速比を変化させるものである。
自動変速機11には、自動変速機制御装置10から供給される作動油の油圧に応じて作動する摩擦要素としてのクラッチ12が設けられている。なお、クラッチ12は複数設けられるものであるが、説明の便宜上、図1では、クラッチ12を一つだけ示している。
クラッチ12は、自動変速機制御装置10からピストン室13に導入される作動油の油圧によりクラッチピストン15が作動することで、クラッチ板14が係合または解放されるものである。ここで、ピストン室13へ導入される作動油(導入油)の油圧が所定の閾圧以上となるときには、クラッチ板14が係合し、ピストン室13への導入油の油圧が閾圧未満となるときにはクラッチ板14が解放されるようになっている。以上より自動変速機11では、各クラッチ12におけるクラッチ板14の係合、解放の組み合わせが変化することにより、レンジならびに変速比が変化する。
自動変速機制御装置10は、油圧制御部20、および変速機制御ユニット(Transmission Control Unit:TCU)60を備えている。なお、油圧制御部20は、各クラッチ12に一つずつ対応するようにして設けられるものであるが、説明の便宜上、図1では、油圧制御部20を一つだけ示している。TCU60は、複数の油圧制御部20と電気的に接続されるものであるが、説明の便宜上、図1では、一つの油圧制御部20とのみ電気的に接続した状態を示している。
油圧制御部20は、ピストン室13への導入油の油圧を制御するものである。油圧制御部20は、調圧部21および電磁駆動部40より構成されている。調圧部21は、電磁駆動部40により駆動されるものであって、導入油の油圧(出力油圧)を調整する。調圧部21は、流路50を介してオイルポンプ54と接続され、流路51を介してクラッチ12のピストン室13と接続されている。また、調圧部21は、流路52を介してオイルパン55に接続されている。
オイルポンプ54は、オイルパン55に蓄積されている作動油を吸引、加圧し、所定の油圧に調整された状態で調圧部21に向けて吐出する。この所定の油圧をライン圧と呼ぶ。ライン圧は、ピストン室13に供給される作動油の基本となる油圧である。
流路50から入力された作動油は、調圧部21にて油圧が調整され、出力油圧として流路51を通ってピストン室13に供給される。調圧部21にて油圧を調整する際に発生する余剰油は、流路52を通ってオイルパン55に戻される。
電磁駆動部40は、調圧部21における油圧の調圧動作を制御するものである。電磁駆動部40は、TCU60から指令値としての指令電流を受けることにより、その電流値に応じた磁気吸引力を発生する。調圧部21は、電磁駆動部40が発生する磁気吸引力によって制御される。
TCU60は、マイクロコンピュータや駆動回路などから構成されるものである。図1に示すように、TCU60には、自動変速機11を制御する上で必要となる各種運転情報を取得するためのスロットル開度センサ61、エンジン回転数センサ62、トルクコンバータのタービンの回転数を検出するタービン回転数センサ63、現在のレンジを検出するレンジセンサ64、車速センサ65、および油圧制御部20に供給される作動油の油温を検出する油温センサ66などが接続されている。本実施形態では、油温センサ66は、図1に示すように、流路50を流れる作動油の油温を検出している。
油温センサ66が設けられる位置は、流路50に限らず、オイルパン55に設けても良いし、流路51に設けても良い。最も好ましい位置は、調圧部21における作動油の油温が極力正確に検出することができる位置である。
TCU60内に設けられるマイクロコンピュータは、メモリ60aに記憶された種々の制御プログラムを実行することにより、入力された都度の運転情報に基づいて電磁駆動部40に供給する指令電流値を算出する。そして、駆動回路は、算出された指令電流値に応じた指令電流を電磁駆動部40に供給する。
次に、油圧制御部20について図2を用いて説明する。
電磁駆動部40は、ステータ41、プランジャ44、およびコイル45などから構成されている。ステータ41は鉄などの磁性材により筒状に形成されおり、収容部42および吸引部43を有している。
収容部42は、プランジャ44を内周側に収容している。吸引部43は、収容部42よりも調圧部21側に設けられており、プランジャ44を吸引する磁気吸引力をプランジャ44との間に発生する。プランジャ44は、鉄などの磁性材により柱状に形成されおり、収容部42内に同心的に配置されステータ41の軸方向に往復移動可能となっている。
コイル45は、収容部42の外周側に巻装されている。コイル45は、図示しない部分においてその巻端をターミナル46に接続している。TCU60からの指令電流は、ターミナル46を通じてコイル45に供給される。コイル45に指令電流が供給されると、ステータ41およびプランジャ44を通過する、指令電流の電流値に応じた磁束が発生し、吸引部43とプランジャ44との間に磁気吸引力が働く。磁気吸引力の発生により、プランジャ44はシャフト47とともに調圧部21側に移動する。
ここで、図3にコイル45に供給する指令電流の電流値ごとのプランジャ44のストロークと磁気吸引力との関係を示す。図3において、プランジャストロークとは、収容部42におけるプランジャ44の位置を示しており、S0の位置は、プランジャ44が最も右端に位置している状態を示し、Seの位置は、プランジャ44が最も左端に位置している状態(プランジャ44と吸引部43とが接触した状態)を示している。
図3に示すように、磁気吸引力は、指令電流の電流値が大きいほど、プランジャ44の位置にかかわらず増大する。また、同じ電流値であっても吸引部43とプランジャ44との距離によって多少変化する。
図2に示すように、調圧部21は、スリーブ22、スプール30およびコイルスプリング34などから構成されている、いわゆるスプール弁である。スリーブ22は、筒状に形成され、ステータ41と同軸上に配置されている。スリーブ22はスプール30を内周側に収容している。スリーブ22は、それを径方向に貫通する複数の流体ポートとしての入力ポート23、出力ポート24、排出ポート25、およびフィードバックポート26を形成している。
入力ポート23には、流路50が接続され、オイルポンプ54からライン圧に調整された作動油が入力される。出力ポート24は、入力ポート23よりも電磁駆動部40から遠い側に設けられ、流路51と接続している。出力ポート24は、出力油圧に調整された作動油をピストン室13に向けて出力する。
排出ポート25は、出力ポート24よりも電磁駆動部40から遠い側に設けられ、入力ポート23に入力された作動油を出力油圧に調整する際に発生する余剰油をオイルパン55に向けて排出する。
フィードバックポート26は、入力ポート23と電磁駆動部40との間に設けられ、流路51から分岐した流路53と接続している。フィードバックポート26には、出力ポート24から出力された作動油の一部が入力される。このポート26に入力される作動油の油圧は、出力油圧とほぼ同じである。
スプール30は、串形に形成されており、スリーブ22内に同心的に配置され、軸方向に往復移動可能となっている。スプール30は、シャフト47と当接する一端部側から他端部側に向かってフィードバックランド31、入力ランド32および排出ランド33を有している。
図2に示すように、排出ランド33とスリーブ22との間には、コイルスプリング34が設けられている。コイルスプリング34は、常にスプール30を電磁駆動部40側に付勢する。これにより、電磁駆動部40に磁気吸引力が発生していない状態では、プランジャ44は、シャフト47とともに、収容部42の右端に配置される。プランジャ44は、図3に示すところのプランジャストロークのS0の位置に配置される。
フィードバックランド31は、スリーブ22がフィードバックポート26、電磁駆動部40間に形成する第一支持部27により摺動可能に支持されている。入力ランド32は、スリーブ22が入力ポート23、排出ポート25間に形成する第二支持部28および第一支持部27により摺動可能に支持されている。排出ランド33は、スリーブ22が排出ポート25よりも電磁駆動部40から遠い側に形成する第三支持部29および第二支持部28により摺動可能に支持されている。
出力ポート24から出力される作動油の出力油圧は、第二支持部28による入力ランド32の軸方向の支持長さAと、第二支持部28による排出ランド33の軸方向の支持長さBとに応じて変化する。
具体的には、支持長さAが短くなるほど、入力ランド32と入力ポート23を介して入力ランド32および排出ランド33間に形成される空間への作動油の流入量が増大する。このとき、支持長さBは長くなるため、その空間から排出ランド33と第二支持部28にて形成される摺動クリアランスを介して排出ポート25より排出される作動油の量が減少する。このため、出力ポート24より出力される出力油圧が増大する。また、逆の原理により、支持長さAが長く、支持長さBが短くなるほど出力ポート24より出力される出力油圧は減少する。
次に、スプール30に発生する推力について、図2から図5を用いて説明する。図4は、スプール30の位置とスプール30に働く各推力(Ffb、Fsp、Fsp−Ffb)との関係を示している。図4中、スプールストロークとは、スリーブ22に対するスプール30の位置を示している。図4中、S0の位置は、スプール30が最も右端に位置している状態を示している。図4中、Seの位置は、プランジャ44が吸引部43に当接しているときのスプール30の状態を示している。
出力ポート24から出力された作動油の出力油圧は、フィードバックポート26に入力されてフィードバックランド31、入力ランド32に作用する。入力ランド32は、フィードバックランド31に比べ受圧面積が大きい。このため、スプール30には、フィードバックポート26に入力された油圧により、入力ランド32およびフィードバックランド31の受圧面積差に応じた電磁駆動部40とは反対側の方向(図2中、左方向)の推力Ffbが発生する(図2および図4を参照)。
また、スプール30の他端部とスリーブ22との間には、スプール30を電磁駆動部40側に付勢するコイルスプリング34が設けられている。これにより、スプール30には、コイルスプリング34のバネ定数Kに応じた電磁駆動部40方向(図2中、右方向)の推力Fspが発生する(図2および図4参照)。
図4に示すように、スプールストローク全域において、推力Fspは推力Ffbよりも常に大きいため、推力Fspから推力Ffbを差し引いた値は、常に正となる。スプール30には、コイルスプリング34およびフィードバックポート26に入力される油圧により電磁駆動部40側の方向の推力が発生する。
電磁駆動部40は、上述の推力Fspと推力Ffbとの合成推力に対向する推力Fmgをスプール30に発生させる。この推力Fmgは、図3にて説明した磁気吸引力と同じ値となる。推力Fmgは、電磁駆動部40のコイル45に供給する指令電流値に応じて変化させることができる。これにより、スプール30を任意のスプールストロークに維持することができる。
図5は、図3に示す電磁駆動部40の磁気吸引力特性と図4に示す各推力との関係を重ね合わせたものである。上述の説明により、スプール30のスプールストローク位置は、推力Fsp−推力Ffbと推力Fmgとが交差する場所となる。具体的には、コイル45に0.6Aの電流を供給したときのスプール30のストロークは、S2となる。コイル45に供給する電流値を大きくすることにより、推力Fmgは増大する。このため、推力Fspと推力Ffbとの合力との交点も左側に移動する。その結果、スプール30のストロークの位置が左に移動する。本実施形態では、調圧制御範囲をスプールストロークS1からS3の範囲としている。この範囲内で、出力ポート24から出力される出力油圧は調圧される。
次に、自動変速機制御装置10の作動について、図6を用いて説明する。
TCU60は、図示しないスイッチセンサによってイグニッションスイッチがオン操作されると、図6に示す変速制御処理をスタートする。
図6に示すように、ステップS10(以下、単に「S10」という。他のステップについても同様とする。)では、TCU60は、油温センサ66からの信号により現時点での作動油の油温を検出する。
S20では、TCU60は、各種センサ61、62、63、64、および65より、スロットル開度TVO、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、レンジ信号Rng、および車速Vspに基づき変速段の切替えが必要か否かを判断するとともに、切替えが必要であれば変速種(例えば、2速から3速へのシフトアップ、3速から2速へのシフトダウン)を決定する。変速段の切替えが必要であれば、S30に移行し、S20にて決定した変速種に応じた変速を開始する。変速段の切替えが不必要であれば、変速段の切替えが必要となるまでこの処理を繰り返し実行する。
S30では、TCU60は、S20にて決定された変速種にしたがい、その変速種に該当するクラッチ12のピストン室13に供給する作動油の目標出力油圧を算出する。S40では、TCU60は、S10にて検出した作動油の油温に応じた指令電流−出力油圧マップにより、S30にて算出した目標出力油圧となる目標指令電流値を算出する。そして、S50では、TCU60は、その指令電流値をTCU60に内蔵されている駆動回路から該当する油圧制御部20の電磁駆動部40に向けて出力する。
指令電流が供給された油圧制御部20は、上述した原理で作動し、出力ポート24から指令電流値に応じた出力油圧をクラッチ12のピストン室13に向けて出力する。クラッチ12は、油圧制御部20からの出力油圧を受け、クラッチ板14の係合動作を開始する。
S60では、TCU60は、クラッチ12の係合動作に伴い変化するギア比を算出する。ギア比はタービン回転数Ntおよび車速Vspの信号に基づき算出される。そして、S70では、TCU60は、S60にて算出したギア比がS20にて決定した変速種に応じたギア比となっている否かを判定する。具体的には、変速種が2速から3速へのシフトアップであった場合を例に説明すると、タービン回転数Ntおよび車速Vspの信号に基づき算出されるギア比が3速に相当するギア比となっているか否かを判定する。ギア比が変速種に応じたギア比となっていれば変速が終了していると判断し、S80に移行する。変速が終了していなければ、S30に戻り、再び目標出力油圧を算出し、S40〜S60までの処理を再び実行する。
S80では、TCU60は、変速の終了処理を実行する。変速終了処理とは、例えば、変速する際に該当するクラッチ12のピストン室13の油圧を増大させる場合においては、ピストン室13の油圧を最大油圧とすべく油圧制御部20を操作する。ピストン室13の油圧を減少させる場合においては、ピストン室13の油圧を最小油圧とすべく油圧制御部20を操作する。S80での処理が終了すると、処理は再びS10に戻る。
ここで、油圧制御部20が出力油圧を制御する際の調圧部21における作動油の状態について説明する。
図7は、図2の油圧制御部20における調圧部21を模式的に示している。図7(a)は、スプール30のストロークが小さい状態(比較的右側に位置している状態)、すなわち比較的出力油圧が高い状態を示し、図7(b)は、スプール30のストロークが大きい状態(比較的左側に位置している状態)、すなわち比較的出力油圧が低い状態を示している。
図7(a)に示すように、入力ランド32と第二支持部28との支持長さAは短く、排出ランド33と第二支持部28との支持長さBは、支持長さAと比べて長くなっている。この状態では、破線Aで囲まれた領域における作動油の流れは、所謂オリフィス流れとなっている。これに対し、破線Bで囲まれた領域における作動油の流れは、所謂チョーク流れとなっている。
これに対し、図7(b)に示すように、支持長さAは支持長さBよりも長くなる。このため、図7(b)では、図7(a)とは異なり、破線Aで囲まれた領域における作動油の流れは、チョーク流れとなり、破線Bで囲まれた領域における作動油の流れはオリフィス流れとなる。このようにして、スプール30のストロークが変化することにより、各領域における作動油流れの状況が変化する。
ここで、オリフィス流れおよびチョーク流れと、作動油の油温との関係について説明する。ここでいう、オリフィス流れとは、そこを流れる作動油がオリフィスを流れるような振る舞いをする流れ方をいい、チョーク流れとは、そこを流れる作動油がチョークを流れるような振る舞いをする流れ方をいう。
オリフィス流れでは、作動油の粘度の影響を受け難い。一方、チョーク流れでは、作動油の粘度の影響を受け易い。チョーク流れにおいては、作動油の油温が低下し粘度が高くなるほど流量が減少する。
次に、作動油の油温が変化することによる出力油圧の特性の変化を、図7および図8を用いて説明する。図8は、作動油の油温が低下した場合(油温80℃→−30℃)のスプールストロークに対するスプールに発生する各推力の関係を示している。なお、図8は、図5に相当する図面であって、調圧制御範囲のみを取出し、説明する上で理解が容易となるように模式的に示したものである。図8中の破線で示す推力Ffb、Fsp−Ffbは、油温が80℃の状態を示し、実線で示す推力Ffb、Fsp−Ffbは、油温−30℃の状態を示している。図8(a)は、図7(a)に図示する状態に対応するものであり、図8(b)は、図7(b)に図示する状態に対応するものである。
図7(a)に示す状態では、入力ポート23側の作動油の流れはオリフィス流れの傾向が強く、排出ポート25側の作動油の流れはチョーク流れの傾向が強い。反対に、図7(b)に示す状態では、入力ポート23側の作動油の流れはチョーク流れの傾向が強く、排出ポート25側の作動油の流れはオリフィス流れの傾向が強い。
このため、図8(a)、(b)に示すように、推力Ffbは、油温が低下すると、スプール30が比較的右側に寄ればよるほど、推力Ffbは高くなる傾向となり、スプール30が比較的左側に寄ればよるほど、推力Ffbは低くなる傾向となる。それに伴い、推力Fsp−Ffbの値は、スプール30が右側に寄ればよるほど低くなり、左側に寄ればよるほど高くなる。
図8(a)に示すように、油温のみが変化した場合、スプール30は、油圧の自動調整機能により、推力Fsp−Ffb(実線)と電磁駆動部40の吸引部43における磁気吸引力による推力Fmg(LOW)とが交差する位置、つまり入力ポート23を閉じる方向(左側)に移動する。
しかしながら、調圧部21には油圧の自動調整機能が働くものの、油温−30℃における推力Ffb(−30℃)を見ると、推力Ffb(80℃)よりも若干高くなっている。これは、スプールストロークが右側に位置している状態(出力油圧を比較的高く調圧している状態)では、油温が低下すると、出力油圧が高くなる傾向にあることを意味している。この傾向は、スプール30のストローク位置が右側に寄ればよるほど、また油温が低下すればするほど顕著となる。
一方、図8(b)に示すように、油温のみが変化した場合、スプール30は、油圧の自動調整機能により、推力Fsp−Ffb(実線)と推力Fmg(HI)とが交差する位置、つまり排出ポート25を閉じる方向(右側)に移動する。
しかしながら、調圧部21には図8(a)と同様に油圧の自動調整機能が働くものの、油温−30℃における推力Fb(−30℃)を見ると、推力Ffb(80℃)よりも若干低くなっている。これは、スプールストロークが左側に位置している状態(出力油圧を比較的低く調圧している状態)では、油温が低下すると、出力油圧が低くなる傾向にあることを意味している。この傾向は、スプール30のストローク位置が左側に寄ればよるほど、また油温が低下するほど顕著となる。
上述した傾向は、図8(a)、(b)から分かるように、スプールストローク位置の中間部で反転している。これは、スプール30が左側から右側に向かって進む場合、入力ポート23、排出ポート25におけるオリフィス流れ、チョーク流れの傾向がこの部分で反転するからである。
これとは反対に、油温が80℃よりも上昇すると、出力油圧の傾向は反対となる。具体的には、スプールストロークが右側に位置している状態では、出力油圧は低くなる傾向にあり、スプールストロークが左側に位置している状態では、出力油圧は高くなる傾向にある。
上述した傾向は、調圧部21を構成するスリーブ22およびスプール30の形状(諸元値)によっても変化する。例えば、スプール30の入力ランド32および排出ランド33の外周壁とスリーブ22の内周壁とによって形成されるクリアランス量Cや、入力ランド32および排出ランド33における支持長さAおよび支持長さBとを足し合わせたラップ量Lにより変化する。また、この傾向は、コイルスプリング34のバネ定数Kによっても変化する。
図7(a)に示すように、クリアランス量Cは、入力ランド32または排出ランド33の外径をd1、スリーブ22の内周壁の内径をd2とすると、(d2−d1)により求められる。また、ラップ量Lは、第二支持部28における入力ポート23の排出ポート25側の内壁から排出ポート25の入力ポート23側の内壁まで距離L2から、入力ランド32の排出ランド33側の側面からこの側面と対向する排出ランド33の側面までの距離L1を差し引くことにより求められる。
図9は、クリアランス量C、ラップ量L、またはバネ定数Kの変化にともなう作動油の油温と出力油圧との関係(温度特性)を示している。図9に示す実線は、基準の諸元値(クリアランス量C、ラップ量L、バネ定数Kのノミナル値)における油温に対する出力油圧(ノミナル値温度特性)の変化を示している。
図9中の破線で示すように、油温80℃を基準として見た場合、クリアランス量Cまたはラップ量Lを基準の諸元値よりも増大させると、出力油圧を比較的高く調圧する状態では、基準油温よりも低温側の出力油圧の増大傾向は、基準の諸元値における出力油圧の増大傾向よりもさらに強くなる。出力油圧を比較的低く調圧する状態では、基準油温よりも低温側の出力油圧の減少傾向は、基準の諸元値における出力油圧の減少傾向よりもさらに強くなる。
また、出力油圧を比較的高く調圧する状態では、基準油温よりも高温側の出力油圧の減少傾向は、基準の諸元値における減少傾向よりもさらに強くなる。出力油圧を比較的低く調圧する状態では、基準油温よりも高温側の出力油圧の増大傾向は、基準の諸元値における出力油圧の増大傾向よりもさらに強くなる(図中の破線を参照)。
クリアランス量Cまたはラップ量Lを基準の諸元値よりも減少させた場合の温度特性は、図9中の一点鎖線に示すように、上述した温度特性(破線)とは反対の傾向となる。
また、これらの出力油圧の増大・減少の傾向は、コイルスプリング34のバネ定数Kによっても変化する。出力油圧を比較的高く調圧する状態では、バネ定数Kを基準の諸元値よりも増大させた場合、破線で示すような傾向となり、バネ定数Kを基準の諸元値よりも減少させた場合、一点鎖線で示すような傾向となる。出力油圧を比較的低く調圧する状態では、バネ定数Kを増大させた場合、破線で示すような傾向となり、バネ定数Kを減少させた場合、一点鎖線で示す傾向となる。以下、これら諸元値の変化による出力油圧の増大・減少の傾向を示す数値を温度特性傾向値という。
上述した、作動油の油温や、クリアランス量C、ラップ量Lまたはバネ定数Kが変化することによる温度特性傾向値は、実験、シュレーションなどによって求められるマップ、近似式、または実験式などの形態としてTCU60などに格納され、指令電流−出力油圧マップを作成する際に使用される。
次に、クラッチ12のピストン室13の油圧を制御する際に使用する作動油の油温ごとの指令電流−出力油圧マップ(図6中のステップS40参照)を作成する手順を、図10から図18を用いて説明する。
指令電流−出力油圧マップ(以下、単に油圧特性マップと呼ぶ)は、図10に示す手順で作成される。S110では、油温ごとの油圧特性マップを作成するために必要な油圧制御部20の諸元値、ノミナル値温度特性(図9中の実線を参照)、温度特性傾向値(図9中の破線または一点鎖線を参照)、基準油温における基準の油圧特性マップ(基準油圧特性マップ)、および基準油温における実測した油圧特性マップ(実測油圧特性マップ)をTCU60のメモリ60aに格納する。
そして、S120では、TCU60は、メモリ60aに格納された各種データに基づき油温ごとの油圧特性マップを作成する。作成された油温ごとの油圧特性マップは、TCU60のメモリ60aに格納される。
次に、S110にてTCU60のメモリ60aに格納する各種データについて説明する。まず、図11に基づき、油圧制御部20の諸元値のTCU60への格納について説明する。
S210では、油圧制御部20の一部である調圧部21を所定の加工方法(切削など)により加工する。そして、S220では、加工された調圧部21の部品の寸法および調圧部21に設けるコイルスプリング34のバネ定数Kを測定する。
本実施形態では、調圧部21の部品の寸法測定項目は、スプール30の入力ランド32または排出ランド33の外径d1、スリーブ22の内周壁の内径d2、入力ランド32から排出ランド33までの距離L1、および入力ポート23から排出ポート25までの距離L2である(図7(a)を参照)。
S230では、S220で得られた調圧部21の部品の寸法およびコイルスプリング34のバネ定数Kより、諸元値としてクリアランス量C(=d2−d1)、ラップ量L(=L2−L1)、およびバネ定数Kを算出する。
その後、S240では、図12に示すように、上記諸元値に関する情報を記憶したQRコード70を該当する油圧制御部20に設置する。QRコード70は、縦方向および横方向に情報を有するいわゆる二次元コードの一種である。QRコード70は、単位面積当たりの情報量(情報密度)がバーコードよりも大きいため、コード自体の面積を小さくすることができる。このため、どのようなタイプの油圧制御部20であっても設置することが可能となる。なお、このQRコード70が特許請求の範囲に記載の記憶手段に相当する。
情報を記憶する媒体は、その情報を記憶することができればQRコード70に限らない。例えば、バーコードのような一次元タイプのコードであっても良いし、マイクロチップのようなものであっても良い。
S250では、油圧制御部20を自動変速機11に搭載する際、QRコード70から情報を読み取り、諸元値をTCU60に格納する。図12は、情報を読み取り、TCU60のメモリ60aに格納させる装置を示している。
具体的には、図12に示すように、油圧制御部20に設けられたQRコード70をQRコードスキャナ80により読み込む。読み込んだ情報は、一旦、パーソナルコンピュータ81に取り込まれる。そして、パーソナルコンピュータ81は、取り込んだ情報をTCU60にて処理可能なデータに変換し、TCU60に出力する。このようにして、諸元値に関する情報がTCU60のメモリ60aに格納される。
次に、図13に基づき、基準温度における油圧特性マップのTCU60への格納について説明する。
S310では、図14に示す測定装置に自動変速機制御装置10を設置する。この測定装置は、設置された自動変速機制御装置10内を流通する作動油の油温が常に80℃(基準温度)となるように構成されている。80℃は、車両の通常運転時の自動変速機制御装置10内の作動油の油温である。
S320では、油温を80℃に保った状態で、実際に油圧制御部20を作動させて、この油温における指令電流ごとの出力油圧を測定し、実測油圧特性マップを作成する。S330では、TCU60のメモリ60aにこの油温における実測油圧特性マップを格納する。
そして、この他、メモリ60aには、80℃におけるノミナル値温度特性(図9中の実線を参照)や、温度特性傾向値(図9中の破線または一点鎖線を参照)が格納される。
次に、図15に基づき、図6の制御フローにて使用する油温ごとの油圧特性マップの作成手順について説明する。
S410では、TCU60はメモリ60aに格納されている実測油圧特性マップおよび基準油圧特性マップを読み出す。そして、図16に示すように、これらのマップの差より、補正量を算出する。図16中の破線は、基準油圧特性マップを示している。図16中の黒丸は、80℃における実測値を示している。実測点と、実測点との間の補正量は、図16に示すように、実測点同士を結んだ実線と基準油圧特性マップとの差により算出される。
S420では、TCU60はメモリ60aに格納されているノミナル値温度特性を読み出す(図9を参照)。そして、図17に示すように、S410にて算出した80℃における補正量に基づいてノミナル値温度特性をオフセットする。図17中の破線は、各指令電流におけるノミナル値温度特性を示している。図17では、指令電流が比較的大きい状態のノミナル値温度特性、および指令電流が比較的小さい状態のノミナル値温度特性の二つのみを示している。これらの指令電流間の温度特性は、説明の都合上省略している。図17中の実線は、該当する指令電流における補正量によってノミナル値温度特性がオフセットされた後の状態を示している。
S430では、TCU60はメモリ60aに格納されている諸元値を読み出す。そして、S440では、TCU60はその諸元値に応じて定められている温度特性傾向値(図9中の破線または一点鎖線を参照)をメモリ60aより読み出し、その温度特性傾向値を使用して、S420にてオフセットしたノミナル値温度特性を修正する(図17に示す長破線を参照)。図17に示す状態は、クリアランス量C、ラップ量L、またはバネ定数Kのいずれかがノミナル値よりも大きい場合を示している。
S450では、TCU60は、S440にて修正したノミナル値温度特性に基づき、図18に示すような、油温ごとの油圧特性マップを作成する。図18に示す油温ごとの油圧特性マップが作成された後、そのマップをメモリ60aに格納し、このフローを終了する。
以上説明した第1実施形態によれば、調圧部21の諸元値が、油温が変化したときの調圧部21内における作動油の流量変化の要因となることを突き止め、その流量変化の要因を加味して油圧特性マップを作成しているため、オンライン学習が困難である出現頻度の少ない油温であっても精度の高い油圧特性マップを作成することができる。その結果、この制度の高い油圧特性マップを使用して油温ごとの目標指令電流を算出し、その指令電流に応じて油圧制御部20を制御するため、自動変速機11のクラッチ12の油圧制御の制御精度が高まる。ひいては、自動変速機11の変速ショックを全温度領域で低減することができる。また、第1実施形態によれば、実測にて得られた油圧特性マップは80℃の一つだけであり、残りの温度領域は上記諸元値に基づいて算出しているため、油圧特性マップの実測作業を極力省くことができ、自動変速機制御装置10の製造コストの増大を抑制することができる。これらのことから、第1実施形態によれば、製造コストを抑えつつ、油圧制御精度を高くすることができる。
また、第1実施形態では、実測にて得られた80℃における油圧特性マップ(実測油圧特性マップ)を基準とし、調圧部21の諸元値に基づいて図18に示すような、各油温における油圧特性マップを作成している。これによれば、ある油温の油圧特性マップは、実測にて得ているため、この油温における制御精度は非常に高いものとなる。
また、他の油温における油圧特性マップは、この実測油圧特性マップを基準として求められているため、80℃付近の油圧特性マップの精度は比較的高いものとなる。
さらに、第1実施形態では、その基準となる実測油圧特性マップの油温は、80℃に設定されている。この油温は車両の通常運転時の自動変速機11内における作動油の油温であるため、出現頻度が非常に高い。このため、自動変速機11の油圧制御の大半をこの実測油圧特性マップまたはその付近の油圧特性マップにて行えるため、80℃付近における自動変速機11の変速ショックを極力減少させることができる。
第1実施形態では、上述したように油圧制御部20内の作動油の流量が、油温の変化によって変化する要因となるクリアランス量C、ラップ量L、およびコイルスプリング34のバネ定数Kを諸元値として採用しているため、精度の高い油圧特性マップを作成することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と実質的に同一構成部分に同一符号を付し、説明を省略する。ここでは、第2実施形態の特徴的な部分についてのみ説明する。
第2実施形態では、第1実施形態の多段の自動変速機11を無段自動変速機に代えた例を示している。自動変速機制御装置110については第1実施形態と同じである。図19に示す自動変速機111は、無段自動変速機と呼ばれるものであって、摩擦で力を伝え連続的に変速比を変化させるものである。エンジン100は、トルクコンバータ112、前後進切替機構113を介して自動変速機111に連結されている。
自動変速機111は、前後進切替機構113の出力軸に連結されている主軸114とそれに平行配置されている副軸115とを有している。主軸114には、可動円錐盤116aおよび固定円錐盤116bよりなり、可動円錐盤116a側に油圧シリンダ116cを備えたプーリ間隔可変のプライマリプーリ116が設けられている。副軸115には、可動円錐盤117aおよび固定円錐盤117bよりなり、可動円錐盤117a側に油圧シリンダ117cを備えたセカンダリプーリ117が設けられている。また、両プーリ116、117には駆動ベルト118が巻き付けられている。
自動変速機制御装置110からそれぞれのシリンダ116c、117cに導入される作動油の油圧により、両可動円錐盤116a、117aと両固定円錐盤116b、117bとの間隔が調整される。これにより、両プーリ116、117に対する駆動ベルト118の巻き付け径が変更され、変速比が変化する。両可動円錐盤116a、117aと両固定円錐盤116b、117bとの間隔は導入される作動油の油圧に応じて無段階に変化させることができる。
両シリンダ116c、117cには、それぞれ油圧制御部20が接続されている。なお、図19には、セカンダリプーリ117側の油圧制御部20のみしか図示していない。また、油圧制御部20を制御するプライマリプーリ116側にも図19に示す油圧制御部20と同様の油圧制御部が接続されている。油圧制御部20にて油圧シリンダ117cに導入する作動油の油圧を制御することにより所望の変速比を得ることができる。
油圧制御部20の構成および油圧制御部20から出力される作動油の油圧の制御の過程については、第1実施形態と同様である。このため、この実施形態においても、第1実施形態の作用効果と同様の作用効果を奏する。また、油圧制御部20にて制御された作動油を無段自動変速機である自動変速機111に供給することにより、全温度領域でプライマリ、セカンダリプーリ116、117のプーリ間隔を精度よく制御することができる。その結果、駆動ベルト118の滑りを抑制しつつ、燃費の悪化を抑制することができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第1実施形態と実質的に同一構成部分に同一符号を付し、説明を省略する。ここでは、第3実施形態の特徴的な部分についてのみ説明する。
図20に示すように、自動変速機制御装置210は、ピストン室13へ導入される作動油の油圧を制御する油圧制御部220および油圧制御部220へ導入される作動油の一部の油圧を所定の圧力に調整するモジュレータ弁221を備える。
油圧制御部220は、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250から構成されている。ブリードリニア弁230は、モジュレータ弁221にて調整された作動油の油圧をコントロール弁250の駆動源となる信号圧に調整してコントロール弁250に向けて出力する。
次にブリードリニア弁230およびコントロール弁250の構造について、図20および図21を用いて説明する。
図20および図21に示すように、ブリードリニア弁230は、電磁駆動部231およびポペット弁部240から構成されている。
電磁駆動部231は、ステータ232、プランジャ235およびコイル236などから構成されている。ステータ232は鉄などの磁性材により筒状に形成されており、収容部233および吸引部234を有している。
収容部233は、プランジャ235を内周側に収容している。吸引部234は、収容部233よりもポペット弁部240側に設けられており、プランジャ235を吸引する磁気吸引力をプランジャ235との間に発生する。プランジャ235は、鉄などの磁性材により柱状に形成されており、収容部233内に同心的に配置されステータ232の軸方向に往復移動可能となっている。プランジャ235の吸引部234とは反対側には、プランジャ235をポペット弁部240側に付勢するコイルスプリング237が設けられている。
コイル236は、収容部233外周側に巻装されている。コイル236は、図示しない部分においてその巻端を図示しないターミナルに接続している。TCU60からの指令電流は、ターミナルを通じてコイル236に供給される。コイル236に指令電流が供給されると、ステータ232およびプランジャ235を通過する、指令電流の電流値に応じた磁束が発生し、吸引部234とプランジャ235との間に磁気吸引力が働く。コイルスプリング237の付勢力は、ごく小さく設定されており、磁気吸引力の発生により、プランジャ235はポペット弁部240側に吸引される。
弁ボデー241には、モジュレータ弁221にて所定の油圧に調整された作動油を導入する入力ポート242、入力ポート242より入力された油圧を信号圧に調整しコントロール弁250に向けて出力する出力ポート243、油圧を信号圧に調整する際に発生する余剰油をオイルパン55に向けて排出する排出ポート244および各ポート242、243、244を互いに連通する連通路245が形成されている。
連通路245は、主通路と主通路から分岐する分岐通路から構成されており、主通路の両端に入力ポート242および排出ポート244が形成され、分岐通路の端部に出力ポート243が形成されている。また、入力ポート242と分岐点との間には、オリフィス246が形成されている。
弁ボデー241は、排出ポート244の周囲に形成される弁座247に離着座可能な弁体249を往復移動可能に収容する収容部248を有する。図21に示すように、弁体249は、プランジャ235と連接されており、面接触にて弁座247に着座する構造となっている。弁体249には、出力ポート243の圧力が右方向に加わる。
出力ポート243から出力される信号圧は、オリフィス246における流路面積、および弁体249のリフト時に弁体249と弁座247との間に形成される流路面積の大小関係を調整することにより調整される。具体的には、信号圧は、コイル236に供給する指令電流の大きさを変化させて弁体249への磁気吸引力とスプリング237の付勢力と受圧力の釣り合いにより調整される。
図20および図21に示すように、コントロール弁250は、スリーブ251、スプール270およびコイルスプリング274から構成されている、いわゆるスプール弁である。スリーブ251は、筒状に形成されている。スリーブ251はスプール270を内周側に収容している。スリーブ251は、それを径方向に貫通する複数の流体ポートとしての入力ポート252、出力ポート253、信号圧入力ポート254、排出ポート255、およびフィードバックポート256を形成している。
図20および図21に示すように、入力ポート252には、流路280が接続され、オイルポンプ54からライン圧に調整された作動油が入力される。出力ポート253は、入力ポート252よりも図中左側に設けられ、流路281と接続している。出力ポート253は、出力油圧に調整された作動油をピストン室13に向けて出力する。
排出ポート255は、出力ポート253よりもさらに図中左側に設けられ、流路282と接続している。排出ポート255は、入力ポート252に入力された作動油を出力油圧に調整する際に発生する余剰油をオイルパン55に向けて排出する。
信号圧入力ポート254は、排出ポート255よりもさらに図中左側に設けられ、流路283と接続している。信号圧入力ポート254には、ブリードリニア弁230が出力する所定の信号圧に調整された作動油が入力される。
フィードバックポート256は、入力ポート252よりも図中右側に設けられ、流路281から分岐した流路284と接続している。フィードバックポート256には、出力ポート253から出力された作動油の一部が入力される。このポート256に入力される作動油の油圧は、出力油圧をほぼ同じである。
スプール270は、串形に形成されており、スリーブ251内に同心的に配置され、軸方向に往復移動可能になっている。スプール270は、図中右側からフィードバックランド271、入力ランド272および排出ランド273を有している。フィードバックランド271の外径は他のランド272、273の外径と比較して小さい。入力ランド272および排出ランド273の外径は、ほぼ同じである。図21に示すように、フィードバックランド271の右側にはスプール270を排出ランド273側に付勢するコイルスプリング274が収容されている。
フィードバックランド271は、スリーブ251が形成する第一支持部257により摺動可能に支持されている。入力ランド272は、スリーブ251がフィードバックポート256、入力ポート252間に形成する第二支持部258、および入力ポート252、出力ポート253間に形成する第三支持部259により摺動可能に支持されている。排出ランド273は、スリーブ251が出力ポート253、排出ポート255間に形成する第四支持部260、および排出ポート255、信号圧入力ポート254間に形成する第五支持部261により摺動可能に支持されている。
このコントロール弁250においても、第1実施形態の調圧部21と同様に、出力ポート253から出力される作動油の出力油圧は、第三支持部259による入力ランド272の軸方向の支持長さAと、第四支持部260による排出ランド273の軸方向の支持長さBとに応じて変化する。
具体的には、支持長さAが短くなるほど、入力ランド272と入力ポート252とを介して入力ランド272および排出ランド273間に形成される空間への作動油の流入量が増大する。このとき、支持長さBは長くなるため、その空間から排出ランド273と第四支持部260にて形成される摺動クリアランスを介して排出ポート255より排出される作動油の量が減少する。このため、出力ポート253より出力される出力油圧が増大する。また、逆の原理により、支持長さAが長く、支持長さBが短くなるほど出力ポート253より出力される出力油圧は減少する。
スプール270の位置は、スプール270に発生する推力によって決定される。これにより、上述した支持長さA、Bが決定され出力油圧が調整される。スプール270には、信号圧入力ポート254から入力された信号圧が排出ランド273の端面に作用することによる排出ランド273の端面の受圧面積および信号圧に応じた図中右方向の推力Fsg、フィードバックポート256から入力された出力油圧がフィードバックランド271の端面に作用することによるフィードバックランド271の端面の受圧面積および出力油圧に応じた図中左方向の推力Ffbおよびコイルスプリング274の付勢力に応じた図中左方向の推力Fspが発生する。
スプール270は、推力Fsgが推力Ffbと推力Fspとの合力と釣り合う位置に移動する。出力油圧は、このスプール270の位置に応じた支持長さA、Bとの関係により調整される。スプール270は、推力Fsg、つまり信号圧を調整することによりスリーブ251内での位置が決定される。
本実施形態においては、ブリードリニア弁230における弁ボデー241、オリフィス246、弁体249、コイルスプリング237、およびコントロール弁250が特許請求の範囲に記載の調圧部に相当し、また、ステータ232、プランジャ235およびコイル236が特許請求の範囲に記載の電磁駆動部に相当する。
次に、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250内での作動油の流れ、およびブリードリニア弁230およびコントロール弁250の温度特性について、図21から図23を用いて説明する。図22および図23は、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250における、第1実施形態の図9に相当する温度特性図である。
図21に示すように、ブリードリニア弁230では、入力ポート242から入力された作動油は、オリフィス246を通り、その後は、一部の作動油は出力ポート243から出力され、他の作動油は排出ポート244の弁座247と弁体249との間に形成される流路より排出される。
オリフィス246における作動油の流れは、オリフィス流れの傾向が強い。これに対し、弁座247と弁体249との間に形成される流路における作動油の流れは、チョーク流れの傾向が強い。これは、出力ポート243から出力される信号圧を調整する場合、弁体249のリフト量は非常に小さい上に、弁体249は、弁座247との密閉性および耐久性を確保するため弁座247に対して面接触するように形成されているからである。このオリフィス246におけるオリフィス流れと弁座247と弁体249との間に形成される流路におけるチョーク流れの関係は、信号圧を調整する全域で入れ替わることがない。
ただし、図21に示すように、オリフィス246の内径d1およびオリフィス246の流路長L1の比率d1/L1で表現されるオリフィス度O、弁体249の外径d3から排出ポート244のポート径d2を差し引いたシール長SL、コイルスプリング237のバネ定数K1の設定によっては、オリフィス流れ、チョーク流れの傾向の強弱は変化する。ここでいう、オリフィス度Oとは作動油の流れがいかにオリフィス流れに近いのかを表す指標である。オリフィス度Oの数値が高ければオリフィス流れの傾向が強く、数値が低ければチョーク流れの傾向が強くなる。
このため、図22に示すように、ブリードリニア弁230における温度特性は、図中の実線に示すように、油温が低下するほど信号圧は増大する傾向となる。なお、図中の実線は、コイル236に供給する指令電流の大きさを変化させた場合のオリフィス度O、シール長SLおよびバネ定数K1が基準の諸元値(オリフィス度O、シール長SL、バネ定数K1のノミナル値)における油温に対する信号圧(ノミナル値温度特性)の変化を示している。
図22中の一点鎖線に示すように、油温80℃を基準として見た場合、オリフィス度O、シール長SL、またはバネ定数K1を基準の諸元値よりも増大させると、基準油温よりも低温側の信号圧の増大傾向は、基準の諸元値における信号圧の増大傾向よりもさらに強くなる。基準油温よりも高温側の信号圧の減少傾向は、基準の諸元値における信号圧の減少傾向よりもさらに強くなる。
一方、破線に示すように、オリフィス度O、シール長SL、またはバネ定数K1を基準の諸元値よりも減少させると、基準油温よりも低温側の信号圧の増大傾向は、基準の諸元値における信号圧の増大傾向よりも弱くなる。基準油温よりも高温側の信号圧の減少傾向は、基準の諸元値における信号圧の減少傾向よりも弱くなる。
図21に示すように、コントロール弁250における作動油の流れは第1実施形態の調圧部21における作動油の流れに類似している。スプール270における支持長さAが支持長さBよりも比較的短い場合、つまり出力油圧を比較的高く調圧する場合では、入力ポート252側の作動油の流れはオリフィス流れの傾向が強く、排出ポート255側の作動油の流れはチョーク流れの傾向が強い。反対に、出力油圧を比較的低く調圧する場合では、入力ポート252側の作動油の流れはチョーク流れの傾向が強く、排出ポート255側の作動油の流れはオリフィス流れの傾向が強い。
このため、図23に示すように、コントロール弁250における温度特性は、図中の実線に示すように、出力油圧を比較的高く調圧する状態では、油温が低下するほど出力油圧は増大する傾向となり、出力油圧を比較的低く調圧する状態では、出力油圧は減少する傾向となる(図9参照)。
また、このコントロール弁250においても、第1実施形態の調圧部21と同様に、スリーブ251の内周壁の内径d5から入力ランド272または排出ランド273の外径d4を差し引いたクリアランス量C、入力ポート252の排出ポート255側の内壁から排出ポート255の入力ポート252側の内壁までの距離L3から、入力ランド272の排出ランド273側の側面からこの側面と対向する排出ランド273の側面までの距離L2を差し引いたラップ量L、またはコイルスプリング274のバネ定数K2によって出力油圧の増大・減少傾向が変化する(図21参照)。図23に示す実線は、基準の諸元値(クリアランス量C、ラップ量L、バネ定数K2のノミナル値)における油温に対する出力油圧(ノミナル値温度特性)の変化を示している。
図23中の破線に示すように、油温80℃を基準として見た場合、クリアランス量C、ラップ量L、またはバネ定数K2を基準の諸元値よりも増大させると、出力油圧を比較的高く調圧する状態では、基準油温よりも低温側の出力油圧の増大傾向は、基準の諸元値における出力油圧の増大傾向よりもさらに強くなる。出力油圧を比較的低く調圧する状態では、基準油温よりも低温側の出力油圧の減少傾向は、基準の諸元値における出力油圧の減少傾向よりもさらに強くなる。
また、出力油圧を比較的高く調圧する状態では、基準油温よりも高温側の出力油圧の減少傾向は、基準の諸元値における減少傾向よりもさらに強くなる。出力油圧を比較的低く調圧する状態では、基準油温よりも高温側の出力油圧の増大傾向は、基準の諸元値における出力油圧の増大傾向よりもさらに強くなる(図中の破線を参照)。
クリアランス量C、ラップ量L、またはバネ定数K2を基準の諸元値よりも減少させた場合の温度特性は、図23中の一点鎖線に示すように、上述した温度特性(破線)とは反対の傾向となる。
図22および図23に示した各諸元値の変化による信号圧または出力油圧の増大・減少の傾向である温度特性傾向値は、第1実施形態と同様、実験、シミュレーションなどによって求められるマップ、近似式、または実験式などの形態としてTCU60などに格納され、作動油の油温ごとの指令電流−信号圧マップ、信号圧−出力油圧マップを作成する際に使用される。
次に、クラッチ12のピストン室13の油圧を制御する際に使用する作動油の油温ごとの指令電流−信号圧マップおよび信号圧−出力油圧マップを作成する手順を、図24から図27、図12、図14、図16および図17を用いて説明する。
指令電流−信号圧マップおよび信号圧−出力油圧マップは、図24に示す手順で作成される。S510では、上述したブリードリニア弁230およびコントロール弁250の諸元値、両弁230、250のノミナル値温度特性(図22、23中の実線を参照)、両弁230、250の温度特性傾向値(図22、23中の破線または一点鎖線を参照)、両弁230、250の基準油温における基準の油圧特性マップ(基準油圧特性マップ)、および両弁230、250の基準油温における実測した油圧特性マップ(実側油圧特性マップ)をTCU60のメモリ60aに格納する。そして、S520では、TCU60は、S510にてメモリ60aに格納された各種データに基づき油温ごとの油圧特性マップを作成する。
基準油圧特性マップおよび実側油圧特性マップは、それぞれの弁230、250に対して設定または計測されるものである。実測油圧特性マップについては、具体的には、図14に示すような測定装置にて実測し実測油圧特性マップを作成する。
次に、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250の諸元値のTCU60への格納について図25を用いて説明する。
S610では、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250の部品を所定の加工方法(切削など)により加工する。そして、S620では、加工された両弁230、250の部品の寸法および両弁230、250に設けるコイルスプリング237、274のバネ定数K1、K2を測定する。
本実施形態では、ブリードリニア弁230の寸法測定項目は、オリフィス246の内径d1、オリフィス246の流路長L1、排出ポート244のポート径d2、および弁体249の外径d3である。コントロール弁250の寸法測定項目は、スプール270の入力ランド272または排出ランド273の外径d4、スリーブ251の内周壁の内径d5、入力ランド272から排出ランド273までの距離L2、および入力ポート252から排出ポート255までの距離L3である。
S630では、S620で得られた両弁230、250の部品の寸法およびコイルスプリング237、274のバネ定数K1、K2より、諸元値としてのオリフィス度O(=d1/L1)、シール長SL、バネ定数K1、クリアランス量C(=d5−d4)、ラップ量L(=L3−L2)、およびバネ定数K2を算出する。
その後、S640では、図12に示すように、上記各弁230、250の諸元値に関する情報を記憶したQRコード70a、70bを該当するブリードリニア弁230およびコントロール弁250に設置する。
S650では、図12に示すように、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250を自動変速機211に搭載する際、QRコード70a、70bから情報を読み取り、諸元値をTCU60のメモリ60aに格納する。
次に、図26に基づき、図6の変速制御処理にて使用する両弁230、250における油温ごとの油圧特性マップの作成手順について説明する。
S710では、TCU60はメモリ60aに格納されている両弁230、250の実測油圧特性マップおよび基準油圧特性マップを読み出す。これらのマップの差より、補正量を算出する(図16を参照)。
S720では、TCU60はメモリ60aに格納されている両弁230、250のノミナル値温度特性を読み出す(図22、23を参照)。そして、図17と同様の手法で、S710にて算出した80℃における補正量に基づいてノミナル値温度特性をオフセットする。
S730では、TCU60はメモリ60aに格納されている諸元値を読み出す。そして、S740では、その諸元値に応じて定められている各弁230、250の温度特性傾向値(図22、23中の破線または一点鎖線を参照)をメモリ60aより読み出し、それらの温度特性傾向値を使用して、S720にてオフセットしたノミナル値温度特性を修正する。
S750では、TCU60は、S740にて修正したノミナル値温度特性に基づき、図27(a)に示すようなブリードリニア弁230における油温ごとの油圧特性マップ、および図27(b)に示すようなコントロール弁250における油温ごとの油圧特性マップを作成する。
TCU60は、図6に示す変速制御処理を実行する際、ブリードリニア弁230の電磁駆動部231へ出力する指令電流の電流値を、図27(a)および(b)に示す両弁230、250の油温ごとの油圧特性マップを使用して算出する。
この実施形態においても、このようにして、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250の油温ごとの油圧特性マップを作成することにより、製造コストの増大を抑えつつ、精度の高い油圧特性マップを作成することができ、油圧制御精度を高くすることができる。
なお、この実施形態では、ブリードリニア弁230およびコントロール弁250の油温ごとの油圧特性マップを作成しているが、両油圧特性マップに基づいて、油温ごとのブリードリニア弁230の電磁駆動部231に供給する指令電流に対するコントロール弁250の出力油圧の油圧特性マップを作成し、そのマップに基づいて自動変速機制御装置210における油圧制御を行ってもよい。
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第3実施形態と実質的に同一構成部分に同一符号を付し、説明を省略する。ここでは、第4実施形態の特徴的な部分についてのみ説明する。
第4実施形態では、図28に示すように、第3実施形態の多段の自動変速機211を無段自動変速機としての自動変速機111に代えている。この自動変速機111を制御する自動変速機制御装置210は、第3実施形態のものと同じものである。また、この自動変速機111は、第2実施形態における自動変速機111と同じものである。
この実施形態によっても、作成されるブリードリニア弁230およびコントロール弁250の油温ごとの油圧特性マップは精度の高い油圧特性マップを作成することができ、自動変速機制御装置210の油圧制御精度を高くすることができる。
10 自動変速機制御装置、11 自動変速機、12 クラッチ、13 ピストン室、14 クラッチ板、15 クラッチピストン、20 油圧制御部、21 調圧部、22 スリーブ、23 入力ポート、24 出力ポート、25 排出ポート、26 フィードバックポート、27 第一支持部、28 第二支持部、29 第三支持部、30 スプール、31 フィードバックランド、32 入力ランド、33 排出ランド、34 コイルスプリング、40 電磁駆動部、41 ステータ、43 吸引部、44 プランジャ、45 コイル、54 オイルポンプ、55 オイルパン、60 変速機制御ユニット(TCU)、60aメモリ、66 油温センサ、70 QRコード