JP5118899B2 - 高乳酸生産微生物及びその利用 - Google Patents

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本発明は、高い乳酸生産能を備える高乳酸生産微生物、その取得方法等に関する。さらに、本発明は、高乳酸生産能を有する形質転換体の利用等に関する。
植物由来のプラスチック原料として注目されている乳酸は、現状では生産コストが高く低コストの生産技術が求められている。乳酸は、乳酸菌を利用した発酵生産が主流であるが、生産させる乳酸によって培養液中のpHが低下するため、水酸化ナトリウム、アンモニア、炭酸カルシウムなどの中和剤で中和し、乳酸塩として生産している。こうした生産工程では、乳酸がフリーの乳酸として存在するため、乳酸塩を脱塩して乳酸を得るプロセスが必要となり、コスト増大の一因となっている。乳酸生産微生物の耐酸性を向上させて中和操作を行う条件下ではなく中和操作を省略又は簡略化した酸性条件下でのフリーの乳酸の発酵生産が可能になれば、中和及び脱塩のためのプロセスを必要としないため、より低コストでの生産が可能となる。
このような背景から、乳酸に比較的耐性を持つ遺伝子組換えによる乳酸生産性酵母を利用して乳酸を生産させることが試みられている(特許文献1、非特許文献1、2)。一方、酵母の乳酸耐性を向上させる方法として、乳酸生産性酵母の突然変異株を非中和条件下で乳酸発酵させて、酵母内のpHを指標として乳酸耐性株を選抜することが開示されている(非特許文献3)。
特表2002−128286 アダチら、J.Ferment.Bioeng.vol.86,No.3,p284−289、1998 ポロ(Porro)ら、Biotechnol.Prog.vol.11,p294−298、1995 ヴァリ(Valli)ら、Appl.Environ.Microbial.vol.72,No.8,p5492−5499、2006
しかしながら、上記特許文献1及び非特許文献1〜2に開示される技術は、中和操作を行う条件下ではともかく中和操作をしないような酸性条件下では乳酸生産能力が低く、酸性条件下での乳酸生産能の向上困難性を示すに留まっている。また、非特許文献3に開示される技術は、細胞内pHという新たな選抜のための指標を提供して突然変異処理体の選抜する方法に関するものであって、これまでの変異による有用微生物の作製技術と同様のものである。さらに、変異株についての詳細な遺伝子解析などもされておらず、有用な変異に寄与する遺伝子もわかっていない。
したがって、現在までのところ、酸性条件下で高乳酸酸性能を有する乳酸生産微生物を得るには、従来のように変異処理を重ねる必要があり、効率的に有用な乳酸生産微生物を得るのは極めて困難であった。
そこで、本発明は、酸性条件下での乳酸生産能を向上させるのにターゲットとなる遺伝子を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、酸性条件下で高い乳酸生産能を有する微生物及び当該微生物を容易に取得する方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、酸性条件下において高効率で乳酸を製造することができる乳酸の製造方法を提供することを他の一つの目的とする。
本発明者らは、酸性条件下で乳酸生産能が低下する現象を改善するにあたり、こうした酸性条件下における細胞のpH耐性能という細胞レベルの特性でなく、酸性条件下で特異的に乳酸生産に負に作用する遺伝子の存在可能性に着目した。そして、酸性条件下でより低い乳酸生産能を有する親株及びこの親株に由来して酸性条件下でより高い乳酸生産能を有する変異株について中和操作を行わない酸性条件下に乳酸発酵を行って遺伝子発現解析を行い、変異株において特異的に発現が低下している内在性遺伝子を選抜した。さらに、これらの内在性遺伝子が破壊された破壊株に乳酸生産能を付与したところ、同様に乳酸生産能を付与した非破壊株に比較して酸性条件下での乳酸生産能が向上するという知見を得た。本発明は、これらの知見に基づき、酸性条件下の乳酸発酵に負に作用する遺伝子の利用が提供される。
本発明によれば、乳酸生産可能な乳酸生産微生物であって、酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制された、微生物が提供される。前記遺伝子は、酸性条件下の乳酸生産能に関しより低い前記乳酸生産能を有する親株とより高い前記乳酸生産能を有する当該親株の変異株との間で、酸性条件下で乳酸生産したとき前記変異株で特異的に発現量が減少する遺伝子群から選択されてもよい。また、前記遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエのPIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子並びにこれらのホモログから選択される1種又は2種以上である。前記乳酸生産微生物は遺伝子組換え酵母とすることができ、前記酵母はサッカロマイセス属酵母とすることができる。さらに、前記酵母は、サッカロマイセス・セレビシエであって、前記遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエにおけるPIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子から選択されてもよい。
本発明の乳酸生産微生物は、前記内在性遺伝子は遺伝子組換えにより発現が抑制されていてもよい。この態様において、前記内在性遺伝子は遺伝子組換えにより破壊されていることが好ましい。
本発明の乳酸生産微生物は、ピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子のプロモーターの制御下に外来性の乳酸脱水素酵素遺伝子を備えることもできる。
本発明によれば、PIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子並びにこれらのホモログから選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を抑制可能なポリヌクレオチドを備える、乳酸生産微生物における酸性条件下での乳酸生産能向上用のコンストラクトが提供される。このコンストラクトは、酵母用とすることができ、より好ましくは、サッカロマイセス・セレビシエ用である。
本発明によれば、乳酸生産可能な乳酸生産微生物の作製方法であって、以下の工程(a)及び(b)のいずれかを実施する方法が提供される。
(a)酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制された微生物に乳酸生産能を付与する工程
(b)乳酸生産微生物において前記負に作用する1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現を抑制する工程
本発明の乳酸生産微生物の作製方法では、前記乳酸生産微生物は酵母であり、前記負に作用する1種又は2種以上の内在性遺伝子はサッカロマイセス・セレビシエにおけるPIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子並びにこれらのホモログから選択される1種又は2種以上とすることができる。
本発明によれば、乳酸の製造方法であって、上記いずれかに記載の乳酸生産微生物を乳酸生産可能に培養する工程を備える、方法が提供される。本製造方法では、前記乳酸生産微生物としてL−乳酸を優勢的に生産可能な微生物を用いてもよいし、D−乳酸を優勢的に生産可能な微生物を用いてもよい。
本発明によれば、乳酸生産に有用な内在性遺伝子のスクリーニング方法であって、酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する内在性遺伝子候補を選抜する工程と、前記内在性遺伝子候補から選択される1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制された形質転換体の酸性条件下での乳酸生産能に基づいて、前記内在性遺伝子候補から酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する内在性遺伝子を選抜する工程と、を備える、方法が提供される。
前記内在性遺伝子候補の選抜工程は、酸性条件下での乳酸生産能に関しより低い乳酸生産能を有する親株とより高い乳酸生産能を有する当該親株の変異株とを準備し、前記親株及び前記変異株をそれぞれ酸性条件下で乳酸生産したとき前記変異株で特異的に発現量が減少する遺伝子を内在性遺伝子候補として選抜する工程としてもよい。
本発明は、高乳酸生産微生物、その作製方法、乳酸製造方法及び乳酸生産に有用な内在性遺伝子のスクリーニング方法に関する。
本発明の乳酸生産微生物は、酸性条件下の乳酸生産に対して負に作用する1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制されているため、酸性条件において、乳酸生産能に対する負に作用が軽減されている。したがって、本発明の乳酸生産微生物は、酸性条件下、これらの内在性遺伝子の発現が抑制されていない乳酸生産微生物よりも高い乳酸生産能を発揮できる。また、乳酸生産微生物において外来遺伝子の発現を新たに伴うことなく、前記内在性遺伝子の破壊等によりその発現を抑制できる。したがって、宿主微生物の生育能の低下やグルコース消費能の低下といった外来遺伝子の導入数を増やすことに伴う不都合が生じない点において好ましい。
本発明の乳酸生産微生物の作製方法によれば、予め酸性条件下の乳酸生産に対して負に作用する1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制された微生物に乳酸生産能を付与するか、又は、乳酸生産微生物の前記負に作用する1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現を抑制することで、容易に酸性条件下において乳酸生産能が向上した乳酸生産微生物を得ることができる。したがって、親株に対して繰り返し変異処理を行ことなく、効率的に有用な乳酸生産微生物を取得できる。
本発明の乳酸製造方法によれば、上記した乳酸生産微生物を乳酸生産可能に培養する工程を備えるため、酸性条件下において乳酸生産能に対する負の作用が軽減された状態で培養工程を実施できる。このため、酸性条件下においてこうした内在性遺伝子の発現が抑制されていないときよりも高濃度に乳酸を生産することができ、乳酸生産効率を高めることができる。
本発明のスクリーニング方法によれば、酸性条件下での乳酸生産に負に作用する内在性遺伝子候補を選抜し、選抜した1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制された形質転換体の酸性条件下での乳酸生産能に基づいて酸性条件下での乳酸生産に負に作用する内在性遺伝子を選抜することができる。こうした酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用するターゲット遺伝子を特定することで、この遺伝子の発現を抑制するように乳酸生産微生物を作製することができる。したがって、突然変異体の選抜を繰り返し行うことなく容易に酸性条件下において高い乳酸生産能を有し、乳酸の効率的生産が可能な形質転換体を取得できる。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する内在性遺伝子]
本明細書において、「内在性遺伝子」とは、微生物において本来的に備わっている遺伝子であって異種又は外来でない遺伝子をいう。また、本明細書において「酸性条件下」とは、乳酸生産微生物に乳酸生産させるとき、培養開始後の乳酸による低下に対してアルカリによるpHの調整を全くしないときになりゆきで得られるpH条件(以下、単に非中和条件という。)又はpH4.5以下のpH条件をいう。なお、「酸性条件」はpH1.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.5以上である。また、、好ましい上限pHは、培養開始時のpHによっても異なるので特に限定されないが、pH4.5以下であることが好ましく、より好ましくは、4.0以下であり、さらに好ましくは、pH3.5以下である。なお、「酸性条件下」には、これらの下限pH及び上限pHへのアルカリ等によるpH調整を伴っていてもよい。 なお、培地のpHは、培養初期にあっては、培地pHに依存している。したがって、培養初期にあっては中性付近のpHである。「酸性条件」は、通常、乳酸生産微生物による乳酸生産に伴って培地中に形成される。
本明細書において「酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する内在性遺伝子」以下、単に、本内在性遺伝子ともいう。)とは、その遺伝子が発現するとき、酸性条件下での乳酸生産を抑制する方向に作用する内在性遺伝子を意味する。より具体的には、当該内在性遺伝子の発現を抑制するとき、酸性条件下での乳酸生産が抑制前よりも促進される内在性遺伝子である。なお、本明細書において「遺伝子の発現を抑制する」とは、当該遺伝子の破壊、欠損及び変異の導入等によって、結果として、当該遺伝子による機能性タンパク質の産生が減少するか又は機能が低下した変異タンパク質の産生が増大ことを意味している。なお、「破壊」には、いわゆるノックアウトのほか、ノックインの形態も含まれる。また、「欠損」は、当該遺伝子のコード領域及び調節領域における少なくとも一部の欠損を意味する。また、「変異」とは、当該遺伝子のコード領域及び調節領域における1又は2以上の塩基の挿入、置換及び/又は付加を含んでいる。また、機能性タンパク質の産生の現象は、転写抑制、翻訳抑制及び活性が低下した変異タンパク質の産生による現象が含まれる。
当該遺伝子の発現を抑制する酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する内在性遺伝子は、本発明者らが見出すまでその存在が明らかになっていたわけではなく、また、同定されていたわけでもない。また、後述するこれらの遺伝子と乳酸生産との関係が明らかになっていたわけではない。
本内在性遺伝子は、乳酸生産微生物の内在性遺伝子である。すなわち、乳酸生産に用いるようとする微生物の内在性遺伝子である。より具体的には、本内在性遺伝子は、本来的に乳酸生産する乳酸生産微生物又は遺伝子組換えにより乳酸生産能が付与された乳酸生産微生物の宿主の内在性遺伝子である。乳酸生産能を本来的に有する微生物としては、ラクトバチルス等の乳酸菌が挙げられる。また、遺伝子組換えにより乳酸生産能が付与された遺伝子組換え微生物としては、サッカロミセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、クリュイベロマイセス属(Kluyveromyces)、ピチア属(Pichia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)等の酵母が挙げられる。酸性条件下で乳酸生産能を向上することは、既に遺伝子組換えにより中和条件下で高い乳酸生産能を発揮している酵母等の微生物に適用することにより、一層高効率な乳酸生産が可能になる点において好ましい。こうした遺伝子組換え微生物としては、サッカロマイセス・セレビシエ等のサッカロマイセス属を宿主とする遺伝子組換え酵母、カンジダ・ソノレンシス等のカンジダ属、クリュイベロミセス・ラクチス、クリュイベロミセス・サーモトレランス及びクリュイベロミセス・マルシアヌス等のクリュイベロミセス属が挙げられる。
本内在性遺伝子としては、サッカロマイセス・セレビシエにおけるPIG1遺伝子(サッカロマイセスゲノムデータベース(http://www.yeastgenome.org/)、システム名:YLR273C)、YGR110W遺伝子(同データベース、システム名:YGR110W)において及びNRK1遺伝子(同データベース、システム名:YNL129W)が挙げられる。PIG1遺伝子は、プロテインフォスファターゼ制御に関与しているものと推測されているが、その詳細な機能は明らかではなく、酸性条件下での乳酸生産との関係は全く知られていない。また、YGR110W遺伝子は、機能は明らかでなく、酸性条件下での乳酸生産との関係は全く知られていない。NRK遺伝子は、ニコチンアミドリボザイドキナーゼに関与する遺伝子であると推定されているが、酸性条件下での乳酸生産との関係は全く知られていない。
サッカロマイセス・セレビシエ及び当該種以外の微生物におけるこれらの遺伝子のホモログも本内在性遺伝子に含まれる。なお、ホモログは、オーソログ及びパラログを包含している。本明細書において、オーソログとは、共通祖先の遺伝子から種分化によって生じた種間で対応する遺伝子をいい、パラログとは、同種内において種分化でなく遺伝子重複によって生じた遺伝子の組をいい、ホモログとは、オーソログかパラログかに関係なく配列に同一性がある遺伝子をいうものとする。なお、こうしたホモログは、適当なデータベース(BLAST、FASTA、PSI-BLAST、FUNGI-BLAST等)の利用又は上記同定遺伝子の一部又は全部からなるプローブを用いたハイブリダイゼーションに基づいて取得することができる。
[酸性条件下での乳酸生産に対して負に作用する内在性遺伝子のスクリーニング]
本内在性遺伝子は、まず、本内在性遺伝子である可能性のある候補遺伝子(以下、本内在性遺伝子候補という。)を選抜し、これらの本内在性遺伝子候補から、当該遺伝子候補の発現が抑制された乳酸生産微生物の酸性和条件における乳酸生産能に基づいて選抜することができる。以下、本内在性遺伝子のスクリーニング方法について説明する。図1には、本内在性遺伝子のスクリーニング方法のフローの一例を示す。
以下の説明では、本内在性遺伝子候補をまず選抜し、その後、本内在性遺伝子を選抜する場合を例示して説明する。
(本内在性遺伝子候補の選抜工程)
本内在性遺伝子候補は、酸性条件下の乳酸生産能についてより低い前記乳酸生産能を有する親株とより高い前記乳酸生産能を有する当該親株の変異株との間で、酸性条件下で乳酸生産したとき前記変異株で特異的に発現量が減少する遺伝子群から選択することができる。すなわち、本内在性遺伝子候補は、こうした親株と変異株とを準備して、酸性条件下で乳酸生産させたときの遺伝子の発現解析等に基づいて取得することができる。
(本内在性遺伝子選抜工程1:親株及び変異株の準備工程)
本内在性遺伝子のスクリーニングにあたっては、酸性条件下の乳酸生産能についてより低い乳酸生産能を有する親株とより高い乳酸生産能を有する当該親株の変異株とを準備する。親株としては、公知の乳酸生産微生物を用いることができる。乳酸生産微生物は、既に説明したように、こうした遺伝子組換え微生物としては、サッカロマイセス・セレビシエ等のサッカロマイセス属を宿主とする遺伝子組換え体、カンジダ・ソノレンシス等のカンジダ属.の遺伝子組換え体、クリュイベロマイセス・ラクチス、クリュイベロミセス・サーモトレランス及びクリュイベロマイセス・マルシアヌス等のクリュイベロミセス属の遺伝子組換え体が挙げられる。なかでも、工業的な発酵生産に都合のよい酵母に高い乳酸生産能を付与した遺伝子組換え酵母を好ましく用いることができる。高い乳酸生産能を有する遺伝子組換え酵母としては、ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)遺伝子(好ましくはPDC1遺伝子)プロモーターの制御下にウシ等の外来性の乳酸脱水酵素(LDH)遺伝子を備える遺伝子組換え酵母が好ましい。これらの遺伝子組換え酵母に、酸性下で高い乳酸生産能を付与することにより、一層効率的な乳酸生産が可能になるからである。
このように遺伝子組換えにより乳酸を生産する乳酸生産微生物は、特開2001−204468、特開2003−93060、特開2003−334092、特開2003−259878、特開2003−093060、特開2003−259878、特開2005−137306、特開2006−42719、特開2006−20602、特開2006−288318、特開2006−296377、特表2005−528106、特表2006−525025等において既に開示されている。
また、親株としては、光学純度の高い乳酸を製造することのできる乳酸生産微生物を用いることが好ましい。D−乳酸又はL−乳酸を高い純度でかつ酸性条件下で製造することは、製造工程時間及び原料コスト等において得られる効果が大きいからである。なお、D−乳酸又はL−乳酸を優勢的に生産するための乳酸生産微生物は、これらの乳酸のいずれかを産生するのに適した酵素を産生するか、低乳酸ラセマーゼ活性を備えることができる。例えば、本来的に相対的に低い乳酸ラセマーゼ活性を備える微生物を宿主とするものであってもよいし、乳酸ラセマーゼを発現し、乳酸ラセマーゼ活性を有する宿主であっても、乳酸ラセマーゼ遺伝子を欠損及び/又は変異させることによって、乳酸ラセマーゼを不活化及び/又は活性低下させれば、宿主として使用することができる。宿主中の乳酸ラセマーゼ遺伝子を欠損及び/又は変異させるには、従来公知の手法を適用することができるほか、EMSエチルメタンスルフォネート)による変異処理を用いてもよい。また、染色体導入型ベクターを用い、相同組換えを利用して乳酸ラセマーゼ遺伝子を欠損又は変異させることができる。
D−乳酸又はL−乳酸を優勢的に産生する遺伝子組換え体である乳酸生産微生物としては、特表2005−528112、再表2004−104202、特開2005−187643、特開2007−074939において既に開示されている。
また、変異株としては、親株に対して、UV、レーザー、X線、γ線等の各種の線源による照射処理、EMS処理等の各種の突然変異原を用いた人為的な突然変異体を用いることができる。
変異株は、親株よりも酸性条件下での乳酸生産能が高い必要がある。酸性条件下での乳酸生産能が高い変異株は、例えば、以下の項目を「高い乳酸生産能」の指標として用いて選抜することができる。(1)酸性条件下での乳酸生産時の乳酸生産量(培地あたりの乳酸生産量、菌体重量あたりの乳酸生産量又は炭素源重量あたりの乳酸生産量等)が親株よりも高い、(2)酸性条件下での乳酸生産時における菌体増殖が親株よりも高い、(3)酸性条件下での乳酸生産時の培地pHが親株よりも低い。
これらの(1)〜(3)の指標のうち、少なくとも(1)を充足していることが好ましい。より好ましくは、(2)及び/又は(3)を充足する。また、親株として酵母を用いるときには、さらに、(4)酸性条件下で乳酸生産時におけるエタノール生産量が親株よりも低い、ことを指標とすることが好ましい。さらに、酵母の場合には、(5)酸性条件下での乳酸生産時の細胞内pHを指標としてもよい(非特許文献3)。
このような変異株は、1回又は2回以上の同種の変異処理や1種類又は2種類以上の異なる変異処理やこれらの組み合わせた変異処理を経て得ることができる。変異株が有する酸性条件下での乳酸生産能は、親株を超えていればよく、その程度は特に限定されない。また、こうした親株及び変異株の双方を作製する必要はなく、これら双方及び少なくとも一方は既に取得されて入手可能な状態にあるものを利用してもよい。簡易に変異株を得るには、例えば、親株に変異処理を施した上、親株と変異株とをそれぞれ非中和条件下で乳酸発酵させ、上記(1)〜(4)の指標を用いて変異株を選抜する。なお、乳酸発酵は必ずしも非中和条件に限定するものではなく、酸性条件下、すなわち、pH4.5以下(好ましくは、4.0以下、より好ましくは、3.5以下)で乳酸発酵させてもよい。
本発明のスクリーニング方法に用いることのできる変異株としては、酸性条件下での乳酸生産時において親株よりも高い乳酸生産能が確認された変異株のほか、酸性条件下での乳酸生産時に高頻度に変異を生じることにより親株よりも高い乳酸生産能を獲得した変異株となりうる潜在的な変異株を用いることができる。こうした潜在的変異株としては、親株に対してエラープローン頻度の増加を生じさせるDNAポリメラーゼを発現するように遺伝子改変された遺伝子組換え微生物が挙げられる。このような潜在的変異株に用いるのに好ましいエラープローン頻度が増加したDNAポリメラーゼ遺伝子は、特開2007−61024等に開示されている。
(本内在性遺伝子候補選抜工程2:酸性条件下での乳酸生産時における遺伝子発現解析)
本内在性遺伝子候補としては、酸性条件下での乳酸生産時において変異株において親株よりも特異的に発現量が減少する内在性遺伝子が挙げられる。本内在性遺伝子候補を選抜するには、まず、準備した親株と変異株とについて酸性条件下で乳酸生産工程を実施して、それぞれについて乳酸生産工程における遺伝子の発現量を取得し比較する。
本内在性遺伝子候補の選抜のための乳酸生産工程の培養条件は、特に限定しない。用いる乳酸生産微生物が乳酸生産可能な培養条件であればよい。こうした培養条件は、当業者は必要に応じて適宜設定することができる。本内在性遺伝子候補選抜のためのpH条件としては、上記のとおり酸性条件下とすることができる。すなわち、非中和条件としてもよいし、pH1.0以上4.5以下の範囲で適宜設定することもできる。
乳酸生産時の遺伝子発現解析は、公知の方法を採用することができる。例えば、内在性遺伝子候補を網羅的にスクリーニングするには、用いる微生物の発現解析用DNAアレイを入手又は作製して発現解析することができる。また、個別的に又は確認的に内在性遺伝子候補スクリーニングするには、特定遺伝子についてのプライマーやプローブ等を準備して、リアルタイムRT−PCRなどの定量的PCRやDNAアレイによる発現解析を実施することができる。好ましくは、DNAアレイ等により網羅的なスクリーニングを実施して、次ステップとしてRT−PCRなどの定量的PCRによって確認的スクリーニングを行う。
本選抜工程では、上記乳酸生産工程において、変異株において特異的に発現量が減少している内在性遺伝子を本内在性遺伝子候補として選抜する。発現量の減少程度は特に限定しないが、変異株における発現量が親株の60%以下であることが好ましい。より好ましくは、親株発現量の50%以下であり、さらに好ましくは40%以下である。
内在性遺伝子候補の選抜のための発現解析用試料(mRNA)のサンプリングは、乳酸生産工程におけるどのタイミングでも行うことができるが、培養開始から培地中の乳酸濃度及び/又は細胞量が飽和するまでの間又は培地中の糖残量から乳酸生産が終了したと考えられるまでの間のうちの適切なタイミングで行うことが好ましい。より好ましくは、変異株による乳酸濃度が親株における乳酸濃度との差が最も大きくなる前のいずれかのタイミングでサンプリングを実施して発現解析する。こうしたタイミングで変異株において特異的に発現量が減少する遺伝子は、発現量が少ないことで酸性条件下での乳酸生産に寄与している可能性が高いからである。さらに好ましくは、変異株の培地における乳酸濃度が親株の培地における乳酸濃度を上回るまでのいずれかのタイミングである。より早い段階で相対的に発現量が減少する遺伝子は、発現量が少ないことが一層酸性条件下での乳酸生産に寄与していると考えられるからである。また、サンプリングのタイミングは、培地pHが大きく変動(低下)した直後とすることもできる。pHが大きく低下する前後において、本内在性遺伝子が発現することが推定されるからである。
こうした発現解析によって、酸性条件下での乳酸生産工程において特異的に発現量が減少する遺伝子を特定し、これを本内在性遺伝子候補とすることができる。後述する実施例にも示すように、遺伝子組換えによる乳酸生産性のサッカロマイセス・セレビシエについてこうした特徴を示す本内在性遺伝子候補としては、例えば、YGL200C遺伝子、PIG1遺伝子、NRK1遺伝子、YGR110W遺伝子及びBLM3遺伝子の5種類の遺伝子が挙げられる。
なお、予め本内在性遺伝子候補が想定される場合には、候補選抜工程を実施する必要はない。例えば、本明細書に開示されるサッカロマイセス・セレビシエにおける本内在性遺伝子候補である、YGL200C遺伝子、PIG1遺伝子、NRK1遺伝子、YGR110W遺伝子及びBLM3遺伝子の5種類の遺伝子のホモログやオーソログ等を検索等により取得し(選抜し)、これらの遺伝子を本内在性遺伝子候補として、次工程の本内在性遺伝子の選抜工程を直ちに実施してもよい。また、これら本内在性遺伝子候補のホモログ、パラログ及びオーソログなどを本内在性遺伝子候補として直ちに本内在性遺伝子の選抜工程を実施してもよい。さらに、他の情報等により、本内在性遺伝子候補が想定される場合も同様である。
(本内在性遺伝子の選抜工程)
次に、本内在性遺伝子を選抜する工程を実施する。この選抜工程では、本内在性遺伝子候補から選択される1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制された乳酸生産微生物の酸性条件下での乳酸生産能に基づいて1種又は2種以上の本内在性遺伝子を選抜することができる。
この選抜工程は、例えば、図2に示すように、以下のステップで行うことができる。まず、1種又は2種以上の本内在性遺伝子候補の発現が抑制された乳酸生産微生物(以下、選抜対象微生物という。)と、前記1種又は2種以上の内在性遺伝子候補の発現が抑制されていない以外は前記乳酸生産微生物と生物学的に同一であるコントロールの乳酸生産微生物(以下、コントロール微生物)を準備する。
次に、両者を同一の酸性条件下で乳酸生産可能にそれぞれ培養する。さらに、この培養工程において得られる両者の乳酸生産能を比較し、コントロール微生物よりも高い乳酸生産能を示した選抜対象微生物を決定し、当該選抜対象微生物において発現が抑制されている内在性遺伝子を本内在性遺伝子とする。
こうして選抜された本内在性遺伝子は、酸性条件下での乳酸生産工程において発現が抑制されており、かつ、当該遺伝子の発現が抑制されるとき、酸性条件下での乳酸生産能向上に寄与する遺伝子であるといえる。すなわち、本内在性遺伝子は、酸性条件下の乳酸生産に対して負に作用するということができる。
本選抜工程において用いる選抜対象微生物は、2種以上の本内在性遺伝子候補の発現が抑制されていてもよいが、好ましくは1種の本内在性遺伝子候補の発現が抑制されていることが好ましい。単一の本内在性遺伝子候補の発現が抑制されていることにより、本内在性遺伝子候補が本内在性遺伝子であるかどうかを明確に判定できるからである。なお、2種以上の本内在性遺伝子の発現が抑制されることによって初めて酸性条件下での乳酸生産能の向上に寄与できると想定される場合にあっては、2種以上の本内在性遺伝子候補の発現が抑制された選抜対象微生物を準備することが好ましい。
なお、選抜対象微生物及びコントロール微生物のいずれも、こうした遺伝子発現抑制及び/又は乳酸生産能の付与に際しては2倍体微生物及び1倍体微生物のいずれを用いても良いが、作製が容易であることから1倍体微生物を用いることが好ましい。
選抜対象微生物は、候補選抜工程で実施したのと同一属又は同一種の微生物(例えば、候補選抜工程で用いた乳酸生産微生物がサッカロマイセス・セレビシエときはサッカロマイセス・セレビシエとする等)であることが好ましい。候補選抜工程と同一属、好ましくは同種の微生物に対して内在性遺伝子候補の発現を抑制するともに乳酸生産性を付与する遺伝的改変を行うことで選抜対象微生物を準備することができる。
本内在性遺伝子候補の発現抑制の形態及びそのための手法は特に限定しないが、効果確認の明瞭性の観点から好ましくはノックアウトである。乳酸生産能の付与のための外来遺伝子の導入形態は染色体外であっても染色体上であってもよいが、最終的に取得したい乳酸生産微生物の形態等を考慮して決定することができる。
選抜対象微生物は、予め本内在性遺伝子候補が破壊等された微生物に対して乳酸生産能を付与して作製してもよいし、予め乳酸生産能を有する微生物に対して本内在性遺伝子候補を破壊等して作製してもよい。例えば、候補選抜工程で用いた親株において本内在性遺伝子候補を破壊等してもよい。なお、この親株が二倍体の場合には、相同染色上における2つの遺伝子を破壊することが好ましい。また、適当な遺伝子破壊株ライブラリー(1倍体)から、本内在性遺伝子候補が破壊された株を入手し、この破壊株に乳酸生産能を付与するのが、選抜対象微生物を簡易に準備できる点で好ましい。酵母においては、Yeast Knock 0ut Strain Collection(Open Biosystems提供)等などの1倍体又は2倍体の破壊株ライブラリーが使用可能である。
コントロール微生物は、選抜対象微生物において発現が抑制されている本内在性遺伝子候補の発現が抑制されていない以外は生物学的に同一の微生物を用いればよい。例えば、本内在性遺伝子候補の非破壊株(例えば、破壊株ライブラリーにおける親株)に選抜対象微生物と同様にして乳酸生産能を付与することができる。
準備した選抜対象微生物及びコントロール微生物を酸性条件下で乳酸生産可能に培養するが、本選抜工程おいても、特に培養条件は限定しない。本内在性遺伝子を効率的に選抜するには、候補選抜工程で用いたのと同等又は類似の培養条件とすることが好ましい。そのためのpH条件としては、上記のとおり酸性条件下とすることができる。すなわち、非中和条件としてもよいし、pH1.0以上4.5以下の範囲で適宜設定することもできる。
選抜対象微生物及びコントロール微生物の乳酸生産能の比較は、乳酸生産能力を比較するのに適切と思われる指標であれば限定しない。例えば、変異株を取得するのに指標とした前記(1)酸性条件下での乳酸生産時の乳酸生産量、具体的には、培地あたりの乳酸生産量、菌体重量あたりの乳酸生産量又は炭素源重量あたりの乳酸生産量を指標とすることができる。
なお、本選抜工程では、コントロール微生物を用意することは必ずしも必要ではない。予め親株の酸性条件下での乳酸生産能(従来値)がおおよそわかっているか、従来の酸性条件下での乳酸生産能を超えた所定値(目標値)以上の乳酸生産能が要求されている場合には、選抜対象微生物についてのみ酸性条件下での培養工程を実施して、その乳酸生産能が従来値を超えているか又は目標値を達成しているかどうかに基づいて、有効な選抜対象微生物を決定し、これにより本内在性遺伝子を選抜することもできる。
以上説明した本内在性遺伝子の選抜は、親株と変異株(又は潜在的変異株)とを準備するか又はこれらを準備しなくても本内在性遺伝子候補を知得できれば、いずれの乳酸生産微生物についても実施することができる。例えば、遺伝子組換えにより乳酸生産能を獲得した本来的に乳酸生産しない微生物(酵母や真菌など)や、本発明者らにより本内在性遺伝子の存在が確認されたサッカロマイセス属酵母やそのほかの酵母については、PIG1遺伝子、NRK1遺伝子及びYGR110W遺伝子等のホモログを本内在性遺伝子候補として選抜したものとして用いることができる。
後述する実施例においてはサッカロマイセス属酵母であるサッカロマイセス・セレビシエについて、5種類の本内在性遺伝子候補から最終的にPIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子の3種類の遺伝子が本内在性遺伝子として選抜されている。
[乳酸生産微生物]
本発明の乳酸生産微生物は、酸性条件下で乳酸生産可能な乳酸生産微生物であって、1種又は2種以上の本内在性遺伝子の発現が抑制された微生物とすることができる。発現の抑制対象である本内在性遺伝子については、既に述べたスクリーニング方法によって取得できるほか、本内在性遺伝子としてサッカロマイセス・セレビシエにおいて同定された本内在性遺伝子である、PIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子から選択することができる。また、本発明の乳酸生産微生物における本内在性遺伝子としては、これら3種の遺伝子及びこれらのホモログが挙げられる。
本内在性遺伝子の発現が抑制される態様は、特に限定されないで、本内在性遺伝子の破壊、欠損及びの変異の導入等によって、結果として、当該遺伝子による機能性タンパク質の産生が減少又は変異タンパク質の産生が増大するような態様が挙げられる。発現抑制の好ましい態様は、ノックアウトによる破壊又はノックインによる本内在性遺伝子座における新たな遺伝子の挿入である。
本発明の乳酸生産微生物は、本内在性遺伝子の発現抑制が遺伝子組換えによって構築されている遺伝子組換え体であってもよいし、突然変異体であってもよいし、また、天然に存在するものであってもよい。取得容易性の観点からは遺伝子組換え体であることが好ましい。
また、本発明の乳酸生産微生物の有する乳酸生産能は、本来的に当該微生物が保持しているものであってもよいが、異種又は外来の遺伝子による導入により付与されている遺伝子組換え微生物であることが好ましい。遺伝子組換え体乳酸生産微生物において好ましい乳酸生産能の保有形態としては、既に本発明のスクリーニング方法で説明した親株とするのに好ましい乳酸生産微生物における乳酸生産能の保有形態が挙げられる。すなわち、PDC1プロモーターの制御下等においてLDH遺伝子を保有する形態である。また、光学純度の高い乳酸を製造可能なLDH遺伝子や低い乳酸ラセマーゼ活性を備える乳酸ラセマーゼ遺伝子を備えていることも好ましい形態である。
本発明の乳酸生産微生物は、酸性条件でも増殖し乳酸を生産することができる。本乳酸生産微生物が備えることのできる酸性条件下での乳酸生産能における「酸性条件」とは、既に定義したのと同様に定義できる。すなわち、非中和条件下又はpH4.5以下のpH条件をいう。なお、「酸性条件」はpH1.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.5以上である。乳酸生産にあっては、pH1.0以上4.5以下とすることができ、好ましくはpH2.0以上4.0以下であり、より好ましくはpH2.5以上3.5以下である。
また、本乳酸生産微生物が備えることのできる酸性条件下での乳酸生産能は、細胞重量あたりの乳酸生産量又は炭水化物重量あたりの乳酸生産量等で表してもよい。しかしながら、乳酸生産量は、種々の発酵条件によって大きく異なる場合がある。例えば、初発の糖濃度、発酵方法(連続又はバッチ)及び培地栄養素(リッチかプアか)などが挙げられる。本乳酸生産微生物は、組換え等前の親株よりも高い乳酸生産能を有していることが好ましい。
本乳酸生産微生物は、好ましくは、既に説明した親株としての乳酸生産微生物において本内在性遺伝子が遺伝的組換えにより破壊等された形質転換体である。以下、形質転換体としての本乳酸生産微生物の作製方法について説明する。
[酸性条件下で乳酸生産可能な乳酸生産微生物の作製方法]
本発明の乳酸生産微生物の作製方法は、乳酸生産能を有する微生物に対して本内在性遺伝子の発現を抑制するように遺伝子組換えするか、又は本内在性遺伝子の発現が抑制された微生物に乳酸生産能を付与するか、若しくは乳酸生産能も本内在性遺伝子の発現も抑制されていない微生物にこうした遺伝子組換えを逐次的にあるいは同時に施すかである。好ましくは、乳酸生産能を遺伝子組換えにより付与し、より好ましくは乳酸生産能に加えて本内在性遺伝子の発現の抑制も遺伝子組換えにより付与する。
本内在性遺伝子の発現抑制対象である乳酸生産能を有する微生物は、既に本発明のスクリーニング方法で説明した親株とするのに好ましい乳酸生産微生物を用いることができる。また、乳酸生産能の付与対象である本内在性遺伝子の発現が抑制された乳酸生産微生物は、上記親株の宿主において変異処理あるいは遺伝子組換えにより本内在性遺伝子が破壊等された微生物である。こうした微生物は、例えば上記したサッカロマイセス・セレビシエの破壊株ライブラリーから取得することもできる。なお、本内在性遺伝子に対するジーンターゲティングにより、本内在性遺伝子の遺伝子座において、所望のプロモーターの制御下にLDH遺伝子を発現させるようにしてもよい。
乳酸生産能は、例えばPDC1プロモーターなどの制御下にLDH遺伝子を発現可能に連結した発現カセットを含む核酸コンストラクトを各種の遺伝子導入方法によって乳酸生産能付与対象微生物に導入すればよい。遺伝子導入方法は、特に限定されないで、公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法、パーティクルガン法等の公知の遺伝子導入法を適宜選択すればよい。形質転換体としては、適当な選択培地によって形質転換体を選択し、遺伝子の導入の確認できたものを用いればよい。なお、乳酸生産能を新たに付与するための核酸コンストラクトとしては、特開2001−204468、特開2003−93060、特開2003−334092、特開2003−259878、特開2003−093060、特開2003−259878、特開2005−137306、特開2006−42719、特開2006−20602、特開2006−288318、特開2006−296377、特表2005−528106、特表2006−525025等において既に開示されている各種のベクター等を適宜用いることができる。
また、本内在性遺伝子の抑制は、本内在性遺伝子を破壊するか又は変異を導入可能なターゲティング配列を含む核酸コンストラクトを上記各種の遺伝子導入方法を適宜選択して宿主微生物に導入することにより可能である。なお、本内在性遺伝子によってコードされるタンパク質の変異体を別途生産する発現カセットを導入することによっても、本内在性遺伝子の発現を抑制できる場合がある。
なお、発現抑制対象である本内在性遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエにおい本内在性遺伝子であるPIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子並びにこれらのホモログとすることができる。用いる微生物に応じて、これらの本内在性遺伝子から適宜選択して発現抑制対象とすることができる。
(核酸コンストラクト)
本発明の核酸コンストラクトは、酸性条件下での乳酸生産能向上用のコンストラクトであって、PIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子並びにこれらのホモログから選択される遺伝子の発現を抑制可能なヌクレオチド配列を備えることができる。本発明の核酸コンストラクトは、また、本発明のスクリーニング方法に用いる選抜対象微生物を作製するための核酸コンストラクトとして用いることもできる。すなわち、本内在性遺伝子選抜用として用いることもできる。
本発明の核酸コンストラクトは、上記遺伝子の一つの発現を抑制可能なヌクレオチドセグメント、具体的には、結果として当該遺伝子の発現を抑制する挿入、欠失、置換等を導入するターゲティング可能な塩基配列を有するヌクレオチドセグメントを有している。ヌクレオチドセグメントは、これらの遺伝子のタンパク質のコード領域のほか、プロモーター領域などの調節領域についてこうした不活性化を導入するものであってもよい。本内在性遺伝子をターゲティング可能なヌクレオチド配列は、本内在性遺伝子の遺伝子座のいずれかの部位と相同組換え可能な配列を備えることができる。こうしたターゲティングのための塩基配列の選択は、当業者において周知であり、当業者であれば必要に応じて適切な相同組換え用のヌクレオチド配列を適宜選択してターゲティング用コンストラクトを構築することができる。
核酸コンストラクトは、例えばノックアウト型とすることもできるがノックイン型としてもよい。この場合には乳酸生産に寄与する遺伝子を発現可能に導入することが好ましい。
こうした核酸コンストラクトの導入対象である宿主微生物は、特に限定しないが、既に本内在性遺伝子が同定されているため、サッカロマイセス・セレビシエを含むサッカロマイセス属及び酵母を導入対象とすることが好ましい。
核酸コンストラクトは、コンストラクトの形態に応じ、核酸転写調節領域として、プロモーター、ターミネーター他、必要に応じてエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、リボソーム結合配列(SD配列)などのコンポーネントを備えることができる。選択マーカー遺伝子としては、特に限定しないで、薬剤抵抗性遺伝子、栄養要求性遺伝子などを始めとする公知の各種選択マーカー遺伝子を利用できる。こうした核酸コンストラクトは、通常、DNAの形態を採ることができるが、修飾塩基等人工的な修飾が施されていてもよい。
これらの核酸コンストラクトにおける各種のコンポーネントは、PCR法等従来公知の手法により取得することができ、こうした核酸コンストラクトは適当なプラスミドベクター等に保持される。用いる遺伝子導入法に応じ、必要時に制限酵素等により切り出されてコンストラクト自体が用いられる。コンポーネントの取得及びコンストラクトの構築操作は従来公知の手法に従って行うことができる。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual second edition(Maniatis et al.,Cold Spring Harbor Laboratory press.1989)に従うことができる。
なお、核酸コンストラクトは、DNAそれ自体のほか、プラスミド(DNA)、ウイルス(DNA)バクテリオファージ(DNA)、人工染色体(YAC、PAC、BAC等)を、外来遺伝子の導入形態(染色体外あるいは染色体内)や宿主細胞の種類に応じて選択してベクターとしての形態をとることができる。
[乳酸の製造方法]
本発明の乳酸の製造方法は、本発明の乳酸生産微生物を酸性条件下で乳酸生産可能に培養する工程を備えることができる。本発明の乳酸製造方法によれば、酸性条件下で乳酸生産に負に作用する本内在性遺伝子の発現が抑制されているため、酸性条件下においても効率的な乳酸生産を行うことができる。
本製造方法においては、D−乳酸又はL−乳酸を優勢的に生産可能である本発明の乳酸生産微生物を用いることがこの好ましい。酸性であるため、光学純度の高いL−乳酸又はD−乳酸をフリーの乳酸が高濃度の状態で製造することができ、このために回収も容易である。したがって、光学純度の高い乳酸を極めて高効率で製造することができる。
本発明における培養方法としては、特に限定しないで、従来公知の培養方法を利用できる。例えば、回分培養、半回分培養、連続培養等のいずれかあるいはこれらを組み合わせて実施することができる。また、酸素供給方式や攪拌方式も、用いる乳酸生産微生物の種類に応じて選択することができる。サッカロマイセス・セレビシエなどの酵母の場合には、通常、振とう培養または通気攪拌培養等の好気条件下、25〜35℃程度とし、12〜80時間程度行うことができる。また、培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
培養工程は、酸性条件下で行うことができる。本培養工程における酸性条件としては、既に定義したとおりの酸性条件とすることができる。すなわち、非中和条件としてもよいし、pH1.0以上4.5以下の範囲で適宜設定することもできる。
このほか、培地は、微生物が資化可能な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも使用することができる。炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いることができる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物の他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等を用いることができる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどを用いることができる。
培養工程後、培地から乳酸を分離する工程を実施することにより、乳酸を得ることができる。本培養工程では、酸性条件下で培養しているため、培地中の乳酸はフリーの乳酸の形態で多く含まれることになる。このため、その後の脱塩工程を回避又は簡素化でき、フリーの乳酸を効率的に取得することができる。なお、本明細書において、培地とは、培養上清の他、培養細胞あるいは菌体、細胞若しくは菌体の破砕物を包含している。
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することができる。
(DNAマイクロアレイ解析による乳酸生産向上に関与する内在性遺伝子候補の選抜)
特願2002−362891に開示される乳酸生産性酵母(T165−25−2B、LDH6コピー株)を親株とし、この親株に数回のEMS変異を施し、全くアルカリによるpH調整を行わない非中和条件下で乳酸生産能力が向上したEMS突然変異株(以下、単に変異株という。)を選抜した。
変異処理を行っていない親株と取得した上記変異株とを全くpH調整を行わない非中和条件下で乳酸発酵を行った。発酵は以下の培養条件で行った。発酵は約60時間で終了した。変異株の培地では、10時間〜20時間あたりから親株の培地中の乳酸濃度を上回った。一方、培地pH及び培地中のエタノール濃度は10時間〜20時間あたりから親株より下回った。なお、培地のOD600nmは発酵時間を通じておおよそ同程度であった。

初発菌体量:PCV=0.5%
発酵温度:32℃
培養液:15%YPD 500ml
kLa:0.005(200rpm、0.4ml/分)
発酵開始10時間後にそれぞれの培地から菌体を回収し、これからRNAを調製した。RNAの調製には、Rneasy Mini キット(キアゲン社製)を用いた。調整したRNAから、Low RNA Input Linear Amp Kit Plus(アジレント社製)を利用して、DNAマイクロアレイ解析に必要な相補鎖RNAを合成した。こうして調製したRNAを、Yeast Oligo Microarray Kit(アジレント社製)のDNAマイクロアレイにハイブリダイズさせ、洗浄後、DNAマイクロアレイスキャナ(アジレント社製)にて、スキャニングして蛍光強度を測定し遺伝子発現比を求めた。なお、これらの工程における一連の操作方法は、アジレント社製の付属のプロトコールに従った。
親株と変異株とのDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析の結果、上記発酵条件による発酵開始10時間後の時点で、親株の半分以下に発現量が減少していた遺伝子が32遺伝子あることがわかった。
(定量的PCRによる乳酸生産向上に関与する内在性遺伝子候補の選抜)
実施例1におけるDNAマイクロアレイ解析によって選抜した発現減少量の大きい5種類の内在性遺伝子候補(YJL200C、PIG1、NRK1、YGR110W、BLM3)について、定量的PCR法にて遺伝子発現変動の再確認を実施した。実施例1で用いた特願2002−362891にて開示した変異処理を行っていない上記親株と同様に実施例1にて用いた変異株式会社とを実施例1と同様の非中和条件下で乳酸発酵を行い、発酵開始10時間後の菌体を採取し、実施例1と同様にしてRNAを調製した。得られたRNAを用いてOne Step SYBER RT−PCR Kit(タカラバイオ社製)に従ってcDNAを調製した。詳細な操作方法は、付属のプロトコールに従った。
定量的PCRにて発現解析を行う5種類の内在性遺伝子候補のそれぞれについて、プライマー設計ソフトPrimer Express Ver.2.0(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、オリゴヌクレオチドプライマーを設計し、オペロンバイオテクノロジ社に合成を依頼し、以下の配列のオリゴヌクレオチドプライマーを得た。
YGL200C遺伝子の発現確認用プライマー
YJL200C-F; 5'-AATGATGCTAGGTACTGATTCCCATA-3’ (26mer)(配列番号1)
YJL200C-R; 5'-CCAACCCCGATGGCAATAG-3' (19mer)(配列番号2)
PIGl遺伝子の発現確認用プライマー
PIGl-F; 5'-AAAGAAAAGAGGAGCGACCAGTAG-3' (24mer)(配列番号3)
PIGl-R; 5'-TCCGCCTTTATGGTTGCAA-3’ (l9mer)(配列番号4)
NRK1遺伝子の発現確認用プライマー
NRKl-F; 5'-CCAGAAAAGGATACCAGACTTTGG-3’ (24mer)(配列番号5)
NRKl-R; 5'-AGATTCATACACAAATTCGTCGAAAT-3’ (26mer)(配列番号6)
YGRll0W遺伝子の発現確認用プライマー
YGR110W-F; 5'-TGTTGTTGATGATGAGGGCAAT-3' (22mer)(配列番号7)
YGRll0W-R; 5'-AGCCTCAGGCACTGAGGTTTT-3' (21mer)(配列番号8)
BLM3遺伝子の発現確認用プライマー
BLM3-F; 5'-CCCCAGCAGGCGTGTCT-3' (l7mer)(配列番号9)
BLM3-R; 5'-GAGGCGGTTTCCATTTTTCA-3' (20mer)(配列番号10)
調製したRNA及び上記プライマー及びOne Step RT−PCR Kit(タカラバイオ社製)を混合した後、定量的PCR解析装置ABI Prizm 7000(アプライドバイオシステムズ社製)によって発現解析を行った。遺伝子断片量4fM、20fM、100fMを同様にセットしてこれをコントロールとして発現量の測定を行った。詳細は付属のプロトコールに従った。
5種類の本内在性遺伝子候補のそれぞれの親株における遺伝子発現を1とした場合の変異株での発現の相対比を図3に示す。いずれの遺伝子についても、親株よりも変異株式会社において遺伝子発現量の低下を確認することができた。
(組換えベクターの構築)
本実施例においては、実施例4で使用するための遺伝子組換えベクターを構築した。以下、図4に従って本実施例におけるベクターの構築について説明する。なお、エタノール沈殿処理、制限酵素処理の一連操作の詳細なマニュアルはMolecular Cloning A Laboratory Manual second edition(Maniatis et al.,Cold Spring Harbor Laboratory press.1989)に従った。また、反応に使用した一連の酵素類は、特に限定しない限り、すべて宝酒造社製のものを用いた。
一般的なDNAサブクローニング法に従って、プレベクターpHPH−LDHKCBベクターを構築した。特開2001−204468に記載のpBTrp−PDC1P−LDHKBベクターを制限酵素Pst I処理して、T4 DNA Poymerase反応により、切断末端を平滑末端化した。続いて、制限酵素Cla Iによる生成物を、電気泳動(Gel Mate2000 東洋紡株式会社製)し、TaKaRa RECOCHIP(タカラバイオ社製)を用いてベクター部分をアガロースゲルより回収し、ベクター用断片とした(図4上部左側参照)。続いて、同様の操作によりインサート用断片を回収した。具体的には、ハイグロマイシン遺伝子が酵母内で発現できるように構築したpBHPH−PTベクターを制限酵素Spe Iで処理した後、T4 DNA Polymeraseにより平滑末端化したのち、制限酵素Cla Iで処理し、生成物を電気泳動及びTaKaRa RECOCHIPを用いてインサート用断片を回収した(図4上段右側参照)。
このようにして取得したベクター用断片及びインサート用断片を、T4 DNA Ligaseによって連結した。連結反応には、LigaFast Rapid DNA Ligation System(プロメガ社)を用い、詳細は付属のプロトコールに従った。
次にLigation反応を行った溶液を用いてコンピテント細胞の形質転換を行った。コンピテント細胞は大腸菌JM109株(東洋紡社)を用い、詳細は付属のプロトコールに従って行った。得られた培養液は抗生物質アンピシリン100μg/mlを含有したLBプレート下でコロニー選抜を行い、各コロニーを用いたコロニーPCRを行うことで、目的のベクターであるかどうかを確認した。PCR反応のプライマーは、以下の合成DNA(キアゲン社製)を用い、反応条件は、96℃5分の処理の後、96℃で30秒、55℃で30秒、72℃で60秒のサイクルで合計25サイクル反応させて、72℃で5分の後、4℃で終了とした。反応液に色素を添加後、電気泳動にて増幅断片の有無を確認した。
PCR反応に使用した各プライマーは、合成オリゴヌクレオチド (オペロンバイオテクノロジ社製)を使用し、プライマー配列は以下の通りとした。
TDH3P-F; 5'-AGCGTTGAATGTTAGCGTCAAC-3' (22mer)(配列番号11)
CYClT-R; 5'-ACATGCGTACACGCGTTTGTAC-3' (22mer)(配列番号12)
構築したぺクターの塩基配列を決定した。LB培養液にて37℃、18時間培養した上記プラスミドを含む大腸菌を集菌し、アルカリ抽出法によってプラスミドDNAを調製した。これを、GFX DNA Purification Kit(アマシャムファルマシアバイオテック社製)にてカラム精製した。次に、分光光度計Ultro spec3000(アマシャムファーマバイオテック社製)にてDNA濃度を測定し、DNA塩基配列キットBigDye Cycle Sequence Ready Reaction Kit(PE アプライドバイオシステムズ社製)にしたがって、シークエンス反応を行った。さらに、反応試料を塩基配列解析装置ABI PRIZM 310 Genetic Analyzer(PE アプライドバイオシステムズ社製)にセットし、構築ベクターの塩基配列を決定した。なお、機器の使用方法の詳細は本装置付属のマニュアルに従った。最終的に構築した染色体導入型プラスミドベクターのマップを図5に示す。
(各種遺伝子破壊株への乳酸生産遺伝子(LDH遺伝子)導入株の作製)
Yeast Knockout Strain Collection(Open Biosystems社製)より、実施例1及び2において選抜した5種類の遺伝子がそれぞれ破壊された遺伝子破壊株を取得した。これらの株をYPD培養液5mlで、30℃で対数増殖期(OD660nm=0.8)まで培養した。これにFrozen−EZ Yeast Transformation IIキット(ZYMO RESEARCH社製)を用いてコンピテントセルを作製した。キット添付のプロトコールに従い、このコンピテントセルに上述の実施例3にて構築した染色体導入型ベクターを制限酵素SacI/ApaIで処理し、遺伝子導入した。この形質転換試料を洗浄後、100μlの滅菌水に溶解させてハイグロマイシン選抜培地にプレーティングし、それぞれについて30°C静置培養下で形質転換体の選抜を行った。
得られたそれぞれのコロニーを新たなハイグロマイシン選抜培地で再度単離し、生育能を安定に保持している株を形質転換候補株とした。次に、これらの候補株をYPD培養液2mlで一晩培養し、これにゲノムDNA調製キット、GenとるくんTM−酵母用−(タカラバイオ社製)を用いてゲノムDNAを調製した。調整した各ゲノムDNAを鋳型にPCR解析を行い、導入遺伝子の有無が確認できたものを形質転換株とした。
PCR反応には、増幅酵素として、EX−TaqDNA polymerase(タカラバイオ社製)を使用した。既に調製した各形質転換酵母のゲノムDAN50ng、プライマー50pmolを2種類、10×酵素反応用バッファー5μl、10×dNTP mix溶液5μl、EX−Taq 1.0ユニットを加えた合計で50μlの反応溶液を、PCR増幅装置Gene Amp PCR System 9700(PE Applied Biosystems社製)によってDNA増幅した。PCR増幅装置の反応条件は、96℃2分の熱処理後、90℃で30秒、53℃で30秒、72℃で60秒のサイクルを合計25サイクル繰り返し、最後に4℃とした。本反応試料5μlを1%TBEアガロースゲル(0.5μg/ml)のエチジウムブロマイド含有)にて電気泳動し、本ゲルを254nmの紫外線照射装置(フナコシ株式会社製)にてDNAのバンドを検出し、遺伝子増幅の確認を行った。
PCR反応に使用した各プライマーは、合成オリゴヌクレオチド(オペロンバイオテクノロジ社製)を使用し、プライマー配列は以下の通りとした。
LDH-F; 5'-ATGGCTACTTTGAAAGATC-3' (19mer)(配列番号13)
LDH-R; 5'-TTATTAAAATTGCAATTCTTTTTG-3' (24mer)(配列番号14)
構築した各種形質転換酵母を下記のよぅに名付けた。それぞれの遺伝子型は以下の通りである。
Δygl200c−LDH;MATα,ygl200c::kanMX,pdc1::Ppdc1−bovine L−LDH
Δpig1−LDH;MATα,pig1::kanMX,pdc1::Ppdc1−bovine L−LDH
Δnrk1−LDH;MATα,nrk1::kanMX,pdc1::Ppdc1−bovine L−LDH
Δygr110w−LDH;MATα,ygr110w::kanMX,pdc1::Ppdc1−bovine L−LDH
Δblm3−LDH;MATα,blm3::kanMX,pdc1::Ppdc1−bovine L−LDH
(酸性条件下での発酵試験による乳酸生産への影響:本内在性遺伝子の選抜)
実施例4で作製した5種類の形質転換株についてL−乳酸生産量を測定して遺伝子破壊と乳酸生産との相関関係を検証した。
得られた各形質転換酵母をYPD液体培地5mlに植菌し、30℃、130rpmにて一晩、振とう培養を行い、OD660nm=1.2のもの初発菌体とした。このうちの1mlをグルコース最終濃度が100g/literになるように調性したYPD培養液にそれぞれ植菌した。この菌液を30℃、72時間、全く中和を行わない非中和条件下で静置培養を行った。
72時間経過後の発酵液を採取し、発酵液中に含まれるL−乳酸生産量、エタノール生産量及びグルコース残存量を測定した。これらの測定には多機能バイオセンサBF−4装置(王子計測機器株式会社製)を用いた。操作の詳細は付属のマニュアルに従った。本発酵試験を独立して3回行い、その平均値についての結果を図6に示す。また、72時間経過後の発酵液につきpHを測定した。これらのpHも併せて図6に示す。
図6に示すように、遺伝子を破壊していない親株においては、38.0g/lのL−乳酸が生産されていたのに対し、PIG1遺伝子、NRK1遺伝子及びYGR110W遺伝子破壊酵母での場合、それぞれ、49.6g/l(130%)、41.6g/l(110%)及び47.2g/l(124%)の乳酸生産能の向上が認められた。以上のことから、5種類の内在性遺伝子候補のうち、これら3種類の遺伝子は、酸性条件下での乳酸生産に負に作用する遺伝子、すなわち、発現が抑制されることで酸性条件下での乳酸生産を向上させることのできる遺伝子であることがわかった。
また、図6に示すように、乳酸生産量の多かった変異株である、PIG1遺伝子、NRK1遺伝子及びYGR110W遺伝子破壊酵母による発酵液はいずれも低いpH(pH2.5以上3.0以下)を示していた。このことから、これらの遺伝子は、その発現抑制により、乳酸生産に対する負の作用が解除し、低pHに関わらず高い乳酸生産能を発揮させることができる遺伝子であることがわかった。
配列番号1〜14:プライマー
本内在性遺伝子のスクリーニング工程の一例を示す図である。 本内在性遺伝子の選抜工程の一例を示す図である。 実施例2における5種類の本内在性遺伝子候補のそれぞれの親株における遺伝子発現を1とした場合の変異株での発現の相対比を示す図である。 染色体導入型ベクターの構築例を示す図である。 実施例3で作製した染色体導入型プラスミドベクターのマップを示す図である。 実施例5における発酵試験の結果を示す図である。

Claims (11)

  1. 乳酸生産酵母であって、
    PIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制されている酵母
  2. 遺伝子組換え酵母である、請求項に記載の酵母。
  3. サッカロマイセス属酵母である、請求項1又は2に記載の酵母。
  4. 前記内在性遺伝子は遺伝子組換えにより発現が抑制されている、請求項1〜3のいずれかに記載の酵母。
  5. 前記内在性遺伝子は遺伝子組換えにより破壊されている、請求項に記載の酵母。
  6. ピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子のプロモーターの制御下に外来性の乳酸脱水素酵素遺伝子を備える、請求項1〜5のいずれかに記載の酵母。
  7. PIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を抑制可能なポリヌクレオチドを備える、乳酸生産酵母における酸性条件下での乳酸生産能向上用のコンストラクト。
  8. 乳酸生産酵母の作製方法であって、
    以下の工程(a)及び(b)のいずれかを実施する方法。
    (a)PIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現が抑制された酵母に乳酸生産能を付与する工程
    (b)乳酸生産酵母においてPIG1遺伝子、YGR110W遺伝子及びNRK1遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の内在性遺伝子の発現を抑制する工程
  9. 乳酸の製造方法であって、
    請求項1〜6のいずれかに記載の乳酸生産酵母を乳酸生産可能に培養する工程を備える、方法。
  10. 前記乳酸生産酵母は、L−乳酸を優勢的に生産可能な微生物である、請求項9に記載の方法。
  11. 前記乳酸生産酵母は、D−乳酸を優勢的に生産可能な微生物である、請求項9に記載の方法。
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