(第1の実施形態)
以下、図1〜図6を参照して、本発明に係るエンジントルク制御装置及びその調整方法を具体化した第1の実施形態について説明する。なお、本実施形態に係るエンジントルク制御装置も、前述した一般的なエンジントルク制御装置と同様、EGR装置を備えるエンジン制御システムに組み込まれて、エンジンの出力トルクを制御するために用いられるものである。ここでは一例として、特にこの装置が、4輪自動車用エンジンとしてのレシプロ式エンジン(内燃機関)を対象にしてエンジン制御を行うシステム(エンジン制御システム)に組み込まれた場合について説明する。
はじめに、図1を参照して、本実施形態に係るエンジン制御システムの概略構成について説明する。なお、本実施形態のエンジンとしては、多気筒(例えば4気筒)エンジンを想定している。ただし、この図1においては、説明の便宜上、1つのシリンダ(気筒)のみを図示している。
同図1に示されるように、このエンジン制御システムは、コモンレール式の燃料噴射装置を備えたレシプロ式ディーゼルエンジン10を制御対象として、該エンジン10を制御するための各種センサ及びECU(電子制御ユニット)80等を有して構築されている。
ここで制御対象とされるエンジン10は、基本的には、シリンダブロック11に形成されたシリンダ(気筒)12(便宜上1つのみ図示)内にピストン13が収容されて構成されており、このピストン13の往復動により、図示しない出力軸としてのクランク軸が回転するようになっている。
シリンダブロック11には、冷却水路14と、この水路14を流れる冷却水の温度を検出する冷却水温センサ14aとが設けられており、その冷却水によりエンジン10が冷却されている。また、シリンダブロック11の上端面にはシリンダヘッド15が固定されており、そのシリンダヘッド15とピストン13頂面との間には燃焼室16が形成されている。
シリンダヘッド15には、燃焼室16に開口する吸気ポート17(吸気口)と排気ポート18(排気口)とが形成されている。そして、これら吸気ポート17及び排気ポート18が、それぞれ図示しないカム(詳しくはクランク軸と連動するカム軸に取り付けられたカム)によって駆動される吸気弁21と排気弁22とにより開閉されるようになっている。さらに、これら各ポートを通じてシリンダ12内の燃焼室16と車外(外気)との連通を可能とすべく、吸気ポート17には外気(新気)を吸入するための吸気管(吸気マニホールド)23が接続され、排気ポート18には、燃焼ガス(排気)を排出するための排気管(排気マニホールド)24が接続されている。
エンジン10の吸気系を構成する吸気管23には、吸気管23最上流部のエアクリーナ31を通じて空気中の異物が除去されつつ新気が吸入され、エアクリーナ31の下流側には、その新気の量(新気量)を電気信号として検出するエアフロメータ32(例えばホットワイヤ式エアフロメータ)が設けられている。そして、このエアフロメータ32の下流側には、吸入空気を冷却するインタークーラ33が設けられている。さらにこのインタークーラ33の下流側には、DCモータ等のアクチュエータによって電子的に開度調節される電子制御式のスロットル弁34と、このスロットル弁34の開度や動き(開度変動)を検出するためのスロットル開度センサ34aとが設けられている。
他方、エンジン10の排気系を構成する排気管24には、排気浄化を行うための排気後処理システムとして、排気中のPMを捕集するためのDPF(Diesel Particulate Filter)38と、排気中のNOxを浄化するためのNOx吸蔵還元型の触媒39(以下、NO
x触媒39という)とが設けられている。本実施形態では、DPF38が排気管24の上流側に、NOx触媒39が排気管24の下流側にそれぞれ設けられている。
このうちDPF38は、排気中のPM(Particulate Matter、粒子状物質)を捕集する連続再生式のPM除去用フィルタであり、例えばトルク生成のためのメインの燃料噴射後のポスト噴射等で捕集PMを繰り返し燃焼除去する(再生処理に相当)ことにより継続的に使用することができる。また、同DPF38は、図示しない白金系の酸化触媒を担持しており、PM成分の1つである可溶性有機成分(SOF)と共に、HCやCOを除去することができるようになっている。
他方、NOx触媒39は、例えばアルカリ土類系材料(吸蔵材)と白金とからなり、排気の雰囲気が空燃比リーン(理論空燃比よりも燃料比率の低い空燃比)の時には排気中のNOxを吸蔵し、空燃比がリッチ(理論空燃比よりも燃料比率の高い空燃比)になった時には排気中のHCやCOといった還元成分により吸蔵NOxを還元除去する特性を有している。そして、このNOx触媒39によりNOxの吸蔵・還元(放出)を繰り返すことで、排気中のNOxを浄化し、NOx排出量の削減を図ることが可能になる。また、本実施形態では、定期的に燃料の過剰供給(いわゆるリッチパージ)を行うことで、NOx触媒39における空燃比を一時的にリッチにし、同NOx触媒39に吸蔵されたNOx(吸蔵NOx)を還元除去している。こうすることで、同触媒39の浄化能力(排気浄化能力)は定期的に再生され、継続的に使用することができるようになる。
また、排気管24においてDPF38の上流側(又は下流側でも可)には、排気温度を検出するための排気温度センサ38aが設けられている。また一方、NOx触媒39の上流側及び下流側には、それぞれA/Fセンサ39a,39bが設けられている。これらA/Fセンサ39a,39bは共に、時々の排気中酸素濃度に応じた酸素濃度検出信号を出力する酸素濃度センサであり、この酸素濃度検出信号に基づいて空燃比の算出が逐次行われる。そして、これらA/Fセンサ39a,39bのセンサ出力としての酸素濃度検出信号は、酸素濃度に応じてリニアに変化するように調整される。なお、これら排気温度センサ38a及びA/Fセンサ39a,39bは、上記DPF38やNOx触媒39の再生処理において特に重要な役割を果たし、主にその再生処理の開始・終了タイミング等の検出に用いられる。
また一方、シリンダ12内において燃焼室16には、同燃焼室16内での燃焼に供される燃料(軽油)を噴射供給する電磁駆動式(ピエゾ駆動式でも可)の燃料噴射弁としてのインジェクタ27が、さらに設けられている。なお、ここでは便宜上、1つのシリンダ(シリンダ12)に設けられたインジェクタ27のみを図示しているが、こうしたインジェクタは、エンジン10の各シリンダに対して設けられている。そして、それらエンジン10の各インジェクタが、高圧燃料配管41を介して蓄圧配管としてのコモンレール42に接続されている。このコモンレール42は、燃料ポンプ43から高圧燃料が逐次供給されることにより、噴射圧力に相当する高圧燃料をコモンレール42内に蓄えている。そして、同コモンレール42には、コモンレール42内の燃料圧(コモンレール圧)を検出するための燃料圧センサ44が設けられており、各インジェクタにより噴射供給される燃料の元圧を随時監視することができるようになっている。
エンジン10においては、これらインジェクタの開弁駆動により各シリンダに対して所要の量の燃料が随時噴射供給されている。すなわち、同エンジン10の運転時には、吸気弁21の開動作により吸入空気が吸気管23からシリンダ12の燃焼室16内へ導入され、これがインジェクタ27から噴射供給された燃料と混ざり、混合気の状態でシリンダ12内のピストン13により圧縮されて着火(自己着火)、燃焼し、排気弁22の開動作により燃焼後の排気が排気管24へ排出されることになる。なお、このエンジン10は、4ストロークエンジンである。すなわち、このエンジン10では、吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で逐次実行される。
さらに、このシステムにおいて、吸気管23と排気管24との間にはターボチャージャ50が配設されている。このターボチャージャ50は、吸気管23の中途(エアフロメータ32とインタークーラ33との間)に設けられた吸気コンプレッサ51と、排気管24の中途(排気温度センサ38aの上流側)に設けられた排気タービン52とを有し、これらコンプレッサ51及びタービン52がシャフト53にて連結されている。すなわち、排気管24を流れる排気によって排気タービン52が回転し、その回転力がシャフト53を介して吸気コンプレッサ51へ伝達され、この吸気コンプレッサ51により、吸気管23内を流れる空気が圧縮されて過給が行われる。そしてこの過給により、各シリンダに対する吸入空気の充填効率が高められるとともに、その際、過給された空気が上記インタークーラ33にて冷却されることで、各シリンダに対する充填効率はさらに高められることになる。
またさらに、排気の一部をEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスとして吸気系に
再循環(還流)させるEGR装置60も、同じく吸気管23と排気管24との間に配設されている。このEGR装置60は、基本的には、吸排気ポート付近で吸気管23と排気管24とを連通するように設けられたEGR配管61と、吸気管23のスロットル弁34下流側にあってEGR配管61の通路面積、ひいてはEGR量(再循環量)をバルブ開度により調節可能とする電磁弁等からなるEGR弁62と、EGR配管61内を通過するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ63とによって構成されている。そして、吸気管23とEGR配管61との連結部付近、すなわちその上流側及び下流側には、吸気温度を検出して電気信号として出力する吸気温センサ35と、吸気圧力を検出して電気信号として出力する吸気圧センサ36とがそれぞれ設けられている。このEGR装置60では、こうした構成に基づき、EGR配管61を通じて排気の一部を吸気系に再循環することにより燃焼温度を下げてNOxの発生を低減している。なお、EGR弁62が全閉された状態では、EGR配管61が遮断され、EGR量は「0」となる。
また、図示しない車両には、上記各センサのほかにもさらに、車両制御のための各種のセンサが設けられている。例えば、エンジン10の出力軸であるクランク軸の外周側には、そのクランク軸の位置(回転角度位置)と共にそのクランク軸の回転速度(エンジン回転速度)等を検出可能とすべく所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)クランク角信号を出力するクランク角センサ71が設けられている。また、運転者により踏込み操作されるアクセルペダルには、そのアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出してそれを電気信号に変換して出力するアクセルセンサ72等が設けられている。
こうしたシステムの中で電子制御ユニットとして主体的にエンジン制御を行う部分がECU80、すなわち本実施形態のエンジントルク制御装置である。このECU80は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、上記各種センサの検出信号に基づいてエンジン10の運転状態やユーザ(運転者)の要求を把握し、それに応じて上記インジェクタ27等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジン10に係る各種の制御を行っている。また、このECU80に搭載されるマイクロコンピュータは、基本的には、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM(Random Access Memory)、プログラムメモリとしてのROM(読み出し専用記憶装置)、データ保存用メモリとしてのEEPROM(電気的に書換可能な不揮発性メモリ)やバックアップRAM(車載バッテリ等のバックアップ電源により給電されているRAM)、さらにはA/D変換器やクロック発生回路等の信号処理装置、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート等といった各種の演算装置、記憶装置、信号処理装置、及び通信装置等によって構成されている。そして、ROMには、当該トルク制御に係るプログラムをはじめとするエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、エンジン10の設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
本実施形態では、このECU80が、随時入力される各種のセンサ出力(検出信号)に基づいてエンジン制御量を算出するとともに、そのエンジン制御量に基づき、上記エンジン10での燃焼を通じて生成されるエンジントルク(出力トルク)を制御するようになっている。すなわち、このECU80は、例えばその時々のエンジン運転状態に応じた噴射時期にて、運転者のアクセルペダル操作量に応じた燃料噴射量(エンジン制御量)を算出し、その燃料噴射量による燃料噴射を指示する噴射制御信号を上記インジェクタ27へ出力する。そしてこれにより、同インジェクタ27の駆動量(例えば開弁時間)に基づいて、上記エンジン10の出力トルクが目標値へ制御されることになる。なお、前述したように、ディーゼルエンジンは自己着火による燃焼を行っており、エンジン10の吸気通路に設けられた吸気絞り弁(スロットル弁34)は、通常一定開度(例えば全開状態)に保持される。このため、同エンジン10における燃焼制御としては燃料噴射量のコントロールが主となっている。
次に、図2〜図4を参照して、本実施形態のエンジントルク制御装置(ECU80)によるトルク制御について説明する。なお、これら各図は、それぞれ該トルク制御の処理手順を示すフローチャートである。これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU80でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定クランク角ごとに又は所定時間周期(例えば1燃焼周期)で逐次実行される。そして、これら各図の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU80に搭載されたRAMやEEPROM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
このトルク制御に際しては、図2の処理で該トルク制御に係る実行条件の成否が判定され、その実行条件が成立する場合にのみ、図3及び図4に示す一連の処理としてトルク制御の初期設定(トルク制御初期設定1)及びその制御内容(トルク制御1)が実行されることになる。はじめに、図2を参照して、トルク制御に係る実行条件の成否判定について説明する。
同図2に示すように、この実行条件の成否判定に際しては、まずステップS11で、所定のリッチ空燃比(理論空燃比よりもリッチ側の空燃比)から所定のリーン空燃比(理論空燃比よりもリーン側の空燃比)への2値的な空燃比切替を伴う運転モード(予め登録された運転モード)の切替がなされたか否かを判断する。詳しくは、例えばNOx触媒39の再生処理(上述のリッチパージ)が実行されて処理完了に至ったか否かを判断する。すなわち、定常運転時に最大リーン(スロットル弁34全開)に制御されていた空燃比は、同NOx触媒39の再生処理の実行にあたり一時的に所定のリッチ空燃比に制御され、同再生処理の完了後に再び最大リーン(所定のリーン空燃比)へ戻されることになる。そして、この再生処理の完了時に、ステップS11にて再生処理が完了した旨判断されることになる。ただし、同再生処理が完了してから所定の時間が経過すると、再びこのステップS11では上記再生処理が完了していない旨判断されるようになる。
そして、このステップS11において、上記運転モードの切替がなされた旨判断された場合、すなわちNOx触媒39の再生処理が完了した旨判断された場合には、実行条件が成立しているとして、続くステップS111にて、運転モード切替フラグF1に「1」を設定(運転モード切替フラグF1=1)した後、この図2の一連の処理を終了する。他方、ステップS11において、上記運転モードの切替がなされていない旨判断された場合には、実行条件が成立していないとして、ステップS112にて、運転モード切替フラグF1に「0」を設定(運転モード切替フラグF1=0)した後、この図2の一連の処理を終了する。
一方、図3の処理(トルク制御初期設定1)では、上記実行条件が成立するまで繰り返し最初のステップS21で、その実行条件の成否、すなわち運転モード切替フラグF1に「1」が設定されているか否かが判断されている。そして、上記図2の一連の処理により運転モード切替フラグF1に「1」が設定されると、このステップS21にて同フラグF1に「1」が設定されている旨判断され、次のステップS22へ進むようになる。
ステップS22では、初期設定の完了の有無を示すトルク制御実行フラグF2に「0」が設定されているか否かを判断する。そして、このステップS22で、同フラグF2に「0」が設定されている旨判断された場合には、初期設定が完了していないとして、次のステップS23へ進む。
ステップS23では、その時のエンジン運転状態(例えばエンジン回転速度)及び要求トルク(運転者や他のシステムからその時に出力するように要求されるエンジントルクの大きさ)を取得する。なお、エンジン回転速度は、例えばクランク角センサ71等のセンサ出力に基づいて検出する。また、要求トルクは、例えばアクセルセンサ72により検出されるアクセルペダル操作量等に基づいて算出する。
そして続くステップS24で、その取得したエンジン回転速度及び要求トルクに基づいて、スロットル弁34及びEGR弁62の各開度の目標値を設定し、各目標値(目標開度)へ上記スロットル弁34及びEGR弁62を駆動する。なお、上記各開度の目標値は、例えば予め実験等により適合値の書き込まれた所定のマップ(数式でも可)を用いて取得する。このマップとしては、定常運転時に使用しているマップ(例えばROM等に記憶)を流用することができる。
次に、ステップS25では、先のステップS23にて取得したエンジン回転速度及び要求トルクに基づいて、当該トルク可変制御(燃料量減少制御)の処理期間に相当する噴射量徐変回数Nを取得する。なお、この噴射量徐変回数Nも、例えば予め実験等により適合値の書き込まれた所定のマップ(例えばROM等に記憶、数式でも可)を用いて取得する。
続くステップS26では、上記ステップS25で取得した噴射量徐変回数Nをカウンタnにセットする。そして、このカウンタnのセットをもってトルク制御に際しての初期設定が完了したとして、続くステップS27で、上記トルク制御実行フラグF2に「1」を設定する。すなわちこれにより、上記ステップS22にて、同フラグF2に「1」が設定されている旨判断されるようになり、もってこの図3におけるステップS23以降の初期設定処理が行われなくなる。
また一方、図4の処理(トルク制御1)では、上記トルク制御実行フラグF2に「1」が設定されるまで繰り返し最初のステップS31で、同フラグF2に「1」が設定されているか否かが判断されている。そして、上記図3のステップS27の処理によりトルク制御実行フラグF2に「1」が設定されると、このステップS31にて同フラグF2に「1」が設定されている旨判断され、次のステップS32へ進むようになる。
ステップS32では、当該トルク制御の中止を促す中止命令が出されていないか否かを判断する。そして、このステップS32で、中止命令が出されていない旨判断された場合には、次のステップS33へ進む。なお、上記中止命令は、例えば所定のフェイルセーフ条件(例えば動作指令とエンジン状態との不整合を示す条件など)を満足した場合に割り込み処理として行われるものである。
ステップS33では、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度)及び要求トルクを取得する。そして続くステップS34で、その取得したエンジン回転速度及び要求トルクに基づいて、1燃焼サイクル(720°CA)あたりに上記インジェクタ27により噴射供給すべき燃料噴射量の指令値(目標噴射量)を算出する。詳しくは、例えば予め実験等によりエンジン回転速度ごと及び要求トルクごとに燃料噴射量の適合値が書き込まれた所定のマップ(例えばROM等に記憶、数式でも可)を用いて算出する。すなわちこれにより、例えば単段噴射の場合にはその噴射量が、あるいは多段噴射の噴射パターンの場合にはそれら噴射のうちトルク生成に係る噴射の総噴射量が算出され、その算出噴射量に基づいて上記インジェクタ27に対する指令値(駆動時間)が設定されることになる。
続くステップS35では、カウンタnをディクリメントする(n=n−1)。次いで、ステップS36で、カウンタnが「0」になった(n=0)か否か、すなわちトルク制御が終了したか否かを判定する。そうして、同ステップS36で上記「n=0」が成立しない間は、繰り返し上記ステップS33及びS34の内容のトルク制御が実行されることになる。
他方、同ステップS36で上記カウンタnが「0」になった(n=0)旨判断された場合には、続くステップS37で、上記トルク制御実行フラグF2に「0」を設定する。そしてこれにより、先のステップS31で、同フラグF2に「1」が設定されていない旨判断されるようになり、ステップS32以降の処理が行われなくなる。なお、先のステップS32で中止命令が出されている旨判断された場合には、たとえ当該トルク制御が途中であっても、続くステップS37で上記トルク制御実行フラグF2に「0」が設定され、ステップS32以降の処理が行われなくなる。そしてこの中止時は、必要に応じて、例えば警告灯の点灯等といったフェイル時用の所定処理(フェイル対策)を行うことが好ましい。
次に、図5及び図6を参照して、本実施形態に係るエンジントルク制御装置(ECU80)の動作態様について説明する。ここでは、上記図3及び図4に示した処理(トルク制御)を行わない装置を比較例に用い、この比較例の動作態様を図5に、本実施形態の動作態様を図6にそれぞれ示して、両者を対比しつつ説明を行う。なお、図5及び図6において、(a)は1燃焼サイクルあたりの燃料噴射量、(b)はEGR装置60により吸気管23(吸気通路)へ再循環される排気中の再循環HC(未燃燃料)量、(c)は吸入空気量に相関する吸入空気中の酸素量(吸気酸素量)、(d)はエンジン10の出力軸であるクランク軸に出力されるトルク(出力トルク)の各推移をそれぞれ示すタイミングチャートである。
図5及び図6に示すように、これらの例では、NOx触媒39の再生処理(リッチパージ)がタイミングt0まで実行されており、タイミングt0で、その処理が完了する。すなわち、このタイミングt0で、リッチ空燃比からリーン空燃比への2値的な運転モードの切替がなされ、図2のステップS11において運転モードの切替がなされた旨判断される。具体的には、この運転モードの切替(タイミングt0)に際しては、燃料噴射量を減少させる(インジェクタ27の駆動時間を短くする、図5(a)及び図6(a))とともに、新気量(酸素供給量)を増加させる(スロットル弁34の開度を大きくする、図5(c)及び図6(c))。そして比較例では、この運転モードの切替により、その運転モード切替の直後に上記EGR配管61を通じて排気中の未燃燃料(HC)が吸気管23へ回り込み(図5(b)中の領域R1)、吸気中の燃料量の上昇、ひいてはトルク上昇(図5(d)中の領域R1a)が生じることになる。
図6(b)中の領域R1に示すように、本実施形態の装置でも、上記比較例と同様、運転モード切替の直後において吸気管23への未燃燃料(HC)の回り込みが生じている。ただし、本実施形態の装置では、EGR装置60により再循環される時々の再循環HC量に応じてその再循環HC量によるトルク変動分を相殺するように、エンジン10の出力トルクを可変制御している。詳しくは、例えば先の図4のステップS34で用いられるマップの作成に際して、実験等により、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度)ごと及び要求トルクごとに、上記運転モード切替(空燃比切替)の直後における未燃燃料(HC)の回り込みパターン(再循環HC量の推移)を求め、この再循環HC量の推移に合わせてその各タイミングに対応するトルク上昇分を相殺するような燃料噴射量パターン(時々の燃料噴射量)を設定する(書き込む)。そして、同ステップS34にて、こうして作成されたマップに基づいて燃料噴射量を可変制御する。すなわち、図6(a)に示すように、リッチパージ用に増大された燃料噴射量を、運転モード切替時(タイミングt0)に定常運転用の燃料噴射量L11に戻し、その直後に燃料噴射量L12まで減少させる。そして、図3のステップS26にてセットされた噴射量徐変回数Nに相関する時間(徐変時間)をかけて(図4のステップS35にて計時)、その燃料噴射量を徐々に燃料噴射量L11まで戻すようにする。こうすることで、図6(d)に示すように、同ステップS34の処理により減少制御されたトルク減少分で、上述のトルク上昇分(図5(d)中の領域R1a)が相殺されるようになり、ひいては上記運転モード切替時におけるトルク変動(トルクショック)が抑制されるようになる。
以上説明したように、本実施形態に係るエンジントルク制御装置及びその調整方法によれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)シリンダ12内での燃焼を通じて生成したトルクにより出力軸(クランク軸)を回転させるエンジン10(内燃機関)と、同エンジン10の排気管24(排気通路)を流れる排気の一部を同エンジン10の吸気管23(吸気通路)へ再循環させるEGR装置60(EGR手段)と、を備えるエンジン制御システムに適用されるエンジントルク制御装置(エンジン制御用ECU80)として、エンジン10のシリンダ12内へ供給される空気と燃料との割合を示す空燃比がよりリーン側の空燃比へ変更される際に、選択的且つ限定的にその空燃比変更タイミングt0(図6)直後の所定期間において、上記インジェクタ27による燃料噴射量(トルクパラメータ)を、EGR装置60により再循環される時々の再循環HC量(再循環未燃燃料量)に応じてその再循環HC量によるトルク変動分を相殺するように可変制御するプログラム(トルク可変手段、図4のステップS33〜S36)を備える構成とした。こうした構成であれば、図4のステップS33〜S36の処理を通じて、瞬時トルクと目標値(適合トルク)とのずれ(トルク変動分)を逐次補正することが可能になり、ひいてはその時々のトルク(瞬時トルク)を適正なトルクに制御することができるようになる。すなわちこれにより、EGR装置60を備えるエンジン制御システムにあって空燃比をよりリーン側の空燃比へ変更する際にも、高い運転性(ドライバビリティ)が維持されることになる。
(2)登録された運転モード(リッチパージ)の終了(完了)に基づいて、空燃比変更タイミングt0を検出するプログラム(図2のステップS11)を備える構成とした。これにより、空燃比変更タイミングt0をより的確に検出することが可能になる。
(3)エンジン10の空燃比が、理論空燃比よりもリッチ側の所定空燃比であるリッチ空燃比(リッチパージ用の空燃比)から理論空燃比よりもリーン側の所定空燃比であるリーン空燃比(定常運転用の空燃比)へ2値的に切り替えられる際に、上述のトルク可変制御(図4のステップS33〜S36)を行うようにした。こうした構成であれば、特にトルク変動(本実施形態ではトルク上昇)の生じ易いリッチ空燃比からリーン空燃比への切替時について、そのトルク変動を的確に抑制することが可能になる。
(4)図4のステップS33〜S36において、エンジン10での燃焼に供される燃料量(燃料噴射量)を減少させることにより、燃焼を通じて生成される図示トルクの可変制御を行うようにした。これにより、トルク制御が容易且つ的確に行われるようになる。
(5)図4のステップS33〜S36において、燃料噴射量を、空燃比変更タイミングt0(図6)直後にいったんエンジン定常運転時の値(燃料噴射量L11)よりもトルク減少側の値(燃料噴射量L11よりも小さい燃料噴射量L12)へ制御した後、所定の時間(噴射量徐変回数Nに相関)をかけてエンジン定常運転時の値(燃料噴射量L11)へ変化させるようにした。これにより、再循環HC量によるトルク変動(トルク上昇)をより的確に相殺することができるようになる。
(6)所定のマップにより、上記運転モード切替(空燃比切替)の直後における再循環HC量の推移に合わせてその各タイミングに対応するトルク上昇分を相殺するように燃料噴射量を制御するようにした。これにより、再循環HC量によるトルク変動(トルク上昇)をより的確に相殺することができるようになる。
(7)適用対象とするエンジン制御システムを動作させて、空燃比がよりリーン側の空燃比へ変更されるタイミングの直後の所定期間(噴射量徐変回数Nに相関)について、EGR装置60により再循環される再循環HC量の推移(HCの回り込みパターン)を求め、その再循環HC量の推移を、本実施形態のエンジントルク制御装置(ECU80)へ設定する(詳しくはマップとしてROMに読み出し可能に格納する)ようにした。こうすることで、再循環HC量の増減パターン(ひいては同再循環HC量によるトルク増減パターン)とエンジン出力による瞬時トルクの増減パターンとを一致させて両者を相殺することが容易になる。
(第2の実施形態)
次に、本発明に係るエンジントルク制御装置を具体化した第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態の装置も、基本的には、先の第1の実施形態の装置と同様、図1に示すようなエンジン制御システムに適用される。ただし、本実施形態の装置では、ECU80に搭載されたプログラムの構成が一部異なる。ここでは主に、上記第1の実施形態の装置との相違点について説明する。
以下、図7〜図10を主に参照して、本実施形態に係るトルク制御について説明する。
図7及び図8は、このトルク制御の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態におけるトルク制御に際しても、図2の処理で該トルク制御に係る実行条件の成否が判定され、この図2の処理で実行条件が成立する旨判定された場合にのみ、図7及び図8に示す一連の処理としてトルク制御の初期設定(トルク制御初期設定2)及びその制御内容(トルク制御2)が実行される。なお、これら図7及び図8の一連の処理も、基本的には、ECU80でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定クランク角ごとに又は所定時間周期(例えば1燃焼周期)で逐次実行される。また、これら各図の処理において用いられる各種パラメータの値も、例えばECU80に搭載されたRAMやEEPROM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。ここでは、前述した図2の処理についてはその説明を省略し、図7及び図8の処理について、特に本実施形態に新しい部分を主に詳述する。
同図7に示すように、この図7の処理(トルク制御初期設定2)でも、上記実行条件が成立するまで繰り返し最初のステップS41で、その実行条件の成否、すなわち運転モード切替フラグF1に「1」が設定されているか否かが判断されている。そして、上記図2の一連の処理により運転モード切替フラグF1に「1」が設定されると、このステップS41にて同フラグF1に「1」が設定されている旨判断され、続くステップS42〜S45へ進むようになる。なお、ステップS42〜S44の処理は、前述した図3のステップS22〜S24の処理と同様の処理である。
続くステップS45では、トルク制御に際しての初期設定が完了したとして、上記トルク制御実行フラグF2に「1」を設定する。すなわちこれにより、ステップS42にて、同フラグF2に「1」が設定されている旨判断されるようになり、もってこの図7におけるステップS43以降の初期設定処理が行われなくなる。
また一方、図8の処理(トルク制御2)では、上記トルク制御実行フラグF2に「1」が設定されるまで繰り返し最初のステップS51で、同フラグF2に「1」が設定されているか否かが判断されている。そして、上記図7のステップS45の処理によりトルク制御実行フラグF2に「1」が設定されると、このステップS51にて同フラグF2に「1」が設定されている旨判断され、続くステップS52,S53へ進むようになる。なお、ステップS52の処理は、前述した図4のステップS32の処理と同様の処理である。
ステップS53では、先の図7のステップS44でのEGR弁62の駆動により吸気中へ混入するようになった未燃HC量(吸気未燃HC量)を推定する。詳しくは、図9に示すような構成に基づいて、同吸気未燃HC量の推定が行われる。以下、図9を参照して、この吸気未燃HC量の推定について詳述する。なお、同図9は、上記ECU80の、特に吸気未燃HC量の推定に係る部分を機能別にブロック化して示したブロック図である。これら各ブロックは、基本的には、プログラム(例えばROM等に記憶)により実現される。
同図9に示されるように、この推定処理に際しては、所定のマップM1により排気中のHC濃度(基本排気HC濃度)を推定する。なお、このマップM1には、例えば予め実験等によりエンジン回転速度ごと及び要求トルクごとに排気中HC濃度の推定値が書き込まれている。
そして、排気HC濃度算出部B1(例えば所定の数式等に基づき演算を行う部分)により、上記マップM1により推定された基本排気HC濃度について、所定の環境要因(例えばエンジン10の冷却水温、燃料性状(セタン価)、吸気温度など)に係る補正演算を行う。これにより、排気中のHC濃度(排気HC濃度)が得られることになる。
一方、EGR率算出部B2では、新気量(エアフロメータ32にて検出)、吸気温度(吸気温センサ35にて検出)、吸気圧力(吸気圧センサ36にて検出)、燃料噴射量、及びエンジン回転速度等に基づいて、EGR率(排気全体に対して燃焼室16に戻されるEGRガスの占める割合)及びEGRガス量を算出する。なお、このEGR率算出部B2は、例えば所定の物理モデル(EGRモデル)に基づいてプログラム化されたものである。
そして、吸気未燃HC量算出部B3(例えば所定の数式等に基づき演算を行う部分)では、上記EGR率算出部B2により算出されたEGR率及びEGRガス量と、上記排気HC濃度算出部B1により算出された排気HC濃度と、さらに新気量とエンジン回転速度とに基づいて、その時の吸気中に含まれる未燃HC量である吸気未燃HC量(図7のステップS44でのEGR弁62の駆動により吸気中へ混入するようになった未燃HC量)を算出する。詳しくは、EGR率及びEGRガス量が大きいほど、また排気HC濃度が大きいほど、ここで算出される吸気未燃HC量はより大きな値として算出されることになる。
本実施形態では、図8のステップS53において、上記のような処理態様で、吸気未燃HC量(再循環HC量)を推定している。そして、続くステップS54において、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度)及び要求トルクを取得する。さらに、続くステップS55において、これらエンジン回転速度、要求トルク、再循環HC量に基づいて、燃焼室16に対する燃料の目標噴射時期(指令値)を算出する。詳しくは、例えば予め実験等により、エンジン回転速度ごと、要求トルクごと、及び再循環HC量ごとに目標噴射時期の適合値が書き込まれた所定のマップ(例えばROM等に記憶、数式でも可)を用いて算出する。
そして、続くステップS56では、先のステップS53で推定された再循環HC量と所定の判定値A1(例えば固定値、ただし可変値でも可)とを比較して、「再循環HC量≦判定値A1」になったか否か、すなわち再循環HC量が十分小さくなったか否かを判定する。これにより、同ステップS56で上記「再循環HC量≦判定値A1」が成立しない間は、繰り返し上記ステップS53〜S55の内容のトルク制御が実行されることになる。
他方、同ステップS56で上記「再循環HC量≦判定値A1」が成立した旨判断された場合には、トルク制御が終了したとして、続くステップS57で、上記トルク制御実行フラグF2に「0」を設定する。そしてこれにより、先のステップS51で、同フラグF2に「1」が設定されていない旨判断されるようになり、ステップS52以降の処理が行われなくなる。
次に、図10を参照して、本実施形態に係るエンジントルク制御装置(ECU80)の動作態様について説明する。なお、この図10において、(a)は、着火時期(噴射時期に相関)の推移を示すタイミングチャートであり、(b)〜(e)は、先の図6(a)〜(d)に対応したタイミングチャートである。
同図10に示すように、本実施形態の装置では、運転モード切替(図2の処理で判定)が行われたタイミング(タイミングt0)の直後において、上述のトルク制御(図8)を行うことにより、前述した未燃燃料(HC)の回り込み(図10(c)中の領域R1)によるトルク上昇を抑制するようにしている。すなわち、当該エンジン10での燃焼に係る燃料着火時期を遅らせることで、そのトルク上昇分を相殺している。詳しくは、例えば先の図8のステップS55で、予め実験等により作成されたマップ(適合マップ)を用いて、時々の未燃燃料(HC)の回り込みパターン(ステップS53にて推定される再循環HC量の推移)に基づき、その各タイミングに対応するトルク上昇分を相殺するような燃料噴射時期パターン(時々の燃料噴射時期)を算出する。そして、こうして算出された燃料噴射時期に応じて上記インジェクタ27の開弁タイミングを可変制御することで、エンジン10での燃焼に係る燃料着火時期を制御する。すなわち、図10(a)に示すように、リッチパージ用に進角制御された着火時期を、運転モード切替時(タイミングt0)に定常運転用の着火時期L21に戻し、その直後に着火時期L22まで遅角させる。そして、先の図8のステップS56にて再循環HC量が十分小さくなった(判定値A1よりも小さくなった)旨判定されるまで燃料着火時期を徐々に進角側へ移行しつつ同燃料着火時期の遅角制御を継続する。こうすることで、図10(d)に示すように、同ステップS55の処理により減少制御されたトルク減少分で、上述のトルク上昇分が相殺されるようになり、ひいては上記運転モード切替時におけるトルク変動(トルクショック)が抑制されるようになる。
以上説明したように、本実施形態に係るエンジントルク制御装置によれば、第1の実施形態による前記(1)〜(3)、(5)、及び(6)の効果と同様の効果もしくはそれに準じた効果に加え、さらに次のような効果も得られるようになる。
(8)図8のステップS53〜S55において、エンジン10での燃焼に係る燃料着火時期を遅らせる(実際には燃料噴射時期をより遅角側に可変制御する)ことにより、燃焼を通じて生成される図示トルクの可変制御を行うようにした。これにより、トルク制御が容易且つ的確に行われるようになる。
(9)エンジン10の運転状態に基づいて、EGR装置60により再循環される時々の再循環未燃燃料量を推定するプログラム(再循環量取得手段、図9)を備える構成とした。そして、図8のステップS55においては、図9に示したプログラムにより推定された再循環HC量に基づいて、燃料噴射時期(トルクパラメータ)の制御目標値を決定するようにした。こうした構成であれば、再循環HC量の増減パターン(ひいては同再循環HC量によるトルク増減パターン)とエンジン出力による瞬時トルクの増減パターンとを一致させて両者を相殺することが容易になる。
(10)図9に示すように、上記EGR装置60により再循環される時々の再循環未燃燃料量を推定するプログラムを、EGR装置60のEGR率を求める部分(EGR率算出部B2)と、エンジン10の排気中のHC量(排気HC濃度)を求める部分(マップM1及び排気HC濃度算出部B1)と、を含んで構成されるものとすることが有効である。こうした構成にすることで、再循環HC量を高い精度で推定することが容易になる。
(第3の実施形態)
次に、本発明に係るエンジントルク制御装置を具体化した第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態の装置も、基本的には、先の第1の実施形態の装置と同様、図1に示すようなエンジン制御システムに適用される。ただし、本実施形態の装置では、ECU80に搭載されたプログラムの構成が一部異なる。ここでは主に、上記第1及び第2の実施形態の装置との相違点について説明する。
以下、図11〜図13を主に参照して、本実施形態に係るトルク制御について説明する。
図11及び図12は、このトルク制御の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態におけるトルク制御に際しても、図2の処理で該トルク制御に係る実行条件の成否が判定され、この図2の処理で実行条件が成立する旨判定された場合にのみ、図11及び図12に示す一連の処理としてトルク制御の初期設定(トルク制御初期設定3)及びその制御内容(トルク制御3)が実行される。また、これら図11及び図12の一連の処理も、基本的には、ECU80でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定クランク角ごとに又は所定時間周期(例えば1燃焼周期)で逐次実行される。そして、これら各図の処理において用いられる各種パラメータの値も、例えばECU80に搭載されたRAMやEEPROM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。ここでは、前述した図2の処理についてはその説明を省略し、図11及び図12の処理について、特に本実施形態に新しい部分を主に詳述する。
同図11に示すように、この図11の処理(トルク制御初期設定3)でも、上記実行条件が成立するまで繰り返し最初のステップS61で、その実行条件の成否、すなわち運転モード切替フラグF1に「1」が設定されているか否かが判断されている。そして、上記図2の一連の処理により運転モード切替フラグF1に「1」が設定されると、このステップS61にて同フラグF1に「1」が設定されている旨判断され、続くステップS62〜S65へ進むようになる。なお、ステップS62及びS63の処理は、前述した図3のステップS22及びS23の処理と同様の処理である。
ステップS64では、先のステップS63で取得したエンジン回転速度及び要求トルクに基づいて、1燃焼サイクル(720°CA)あたりに上記インジェクタ27により噴射供給すべき燃料噴射量の指令値(目標噴射量)を算出し、設定する。詳しくは、例えば予め実験等によりエンジン回転速度ごと及び要求トルクごとに燃料噴射量の適合値が書き込まれた所定のマップ等(数式でも可)を用いて算出する。そして、その算出した目標噴射量に基づいて燃料噴射量に係る指令値を設定し、上記インジェクタ27に対してその指令値(駆動時間)を出力する。
続くステップS65では、トルク制御に際しての初期設定が完了したとして、上記トルク制御実行フラグF2に「1」を設定する。すなわちこれにより、ステップS62にて、同フラグF2に「1」が設定されている旨判断されるようになり、もってこの図11におけるステップS63以降の初期設定処理が行われなくなる。
また一方、図12の処理(トルク制御3)では、上記トルク制御実行フラグF2に「1」が設定されるまで繰り返し最初のステップS71で、同フラグF2に「1」が設定されているか否かが判断されている。そして、上記図12のステップS73の処理によりトルク制御実行フラグF2に「1」が設定されると、このステップS71にて同フラグF2に「1」が設定されている旨判断され、続くステップS72〜S74へ進むようになる。なお、ステップS72,S73の処理は、前述した図8のステップS52,S53の処理と同様の処理である。
ステップS74では、先のステップS73で推定された再循環HC量と所定の判定値A2(例えば固定値、ただし可変値でも可)とを比較して、「再循環HC量≦判定値A2」になったか否か、すなわち再循環HC量が十分小さくなったか否かを判定する。そして、このステップS74において、上記「再循環HC量≦判定値A2」なる関係式が成立した旨判断されるまで、繰り返しステップS71〜S74の処理が実行されることになる。
そして、同ステップS74で上記「再循環HC量≦判定値A2」が成立した旨判断された場合には、続くステップS75で、その時のエンジン運転状態(例えばエンジン回転速度)及び要求トルクを取得する。そして続くステップS76で、その取得したエンジン回転速度及び要求トルクに基づいて、スロットル弁34及びEGR弁62の各開度の目標値を設定し、各目標値(目標開度)へ上記スロットル弁34及びEGR弁62を駆動する。なお、上記各開度の目標値は、例えば予め実験等により適合値の書き込まれた所定のマップ(数式でも可)を用いて取得する。このマップとしては、定常運転時に使用しているマップを流用することができる。
このステップS76の処理をもって、当該トルク制御は完了する。したがって、続くステップS77では、上記トルク制御実行フラグF2に「0」を設定する。そしてこれにより、先のステップS71で、同フラグF2に「1」が設定されていない旨判断されるようになり、ステップS72以降の処理が行われなくなる。
次に、図13を参照して、本実施形態に係るエンジントルク制御装置(ECU80)の動作態様について説明する。なお、この図13(a)〜(d)は、先の図6(a)〜(d)に対応したタイミングチャートである。
同図13に示すように、本実施形態の装置では、運転モード切替(図2の処理で判定)が行われたタイミング(タイミングt0)の直後において、上述のトルク制御(図12)を行うことにより、前述した未燃燃料(HC)の回り込み(図13(b)中の領域R1)によるトルク上昇を抑制するようにしている。すなわち、燃料量減少処理(図11のステップS64)の実行後、所定の開始タイミング(タイミングt1)になった時に、酸素量増加処理(図12のステップS76)を開始することで、そのトルク上昇を抑制している。詳しくは、先の図12のステップS74にて、上記運転モード切替時(タイミングt0)から、判定値A2に相当する遅延時間(期間t0〜t1)が経過するまで、酸素量増加処理を遅延させる。すなわち、図13(a)に示すように、リッチパージ用に増大された燃料噴射量を、運転モード切替時(タイミングt0)に定常運転用の燃料噴射量に戻す。そして、図13のステップS74にて、判定値A2(図13(b))に相関する時間(遅延時間)だけ待機した後、タイミングt1で、続くステップS76の処理としてスロットル弁34及びEGR弁62を駆動する。これにより、吸気酸素量(大きくは新気量に相関)も定常運転用の酸素量に戻ることになる。
こうすることで、図13(d)に示すように、運転モード切替直後の期間t0〜t1においては、エンジン10(シリンダ12内)が酸素不足(酸欠)状態になる。このため、同期間t0〜t1においては、空燃比切替時に回り込んだ(再循環された)HCが、換言すれば空燃比切替前におけるリッチ空燃比時の残存燃料が、燃焼に使用されないまま排出されることになる。すなわちこれにより、上述のHCが吸気中へ再循環されることに起因するトルク上昇(図5(d)中の領域R1a)が抑制されるようになり、ひいては上記運転モード切替時におけるトルク変動(トルクショック)が抑制されるようになる。
以上説明したように、本実施形態に係るエンジントルク制御装置によれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(11)燃料量を減少させるとともに酸素量を増加させることで、エンジン10の空燃比を、リッチパージ用空燃比(第1の空燃比)からよりリーン側の定常運転用空燃比(第2の空燃比)へ2値的に切り替えるプログラム(空燃比変更手段、図11のステップS64及び図12のステップS76)を備える。こうしたエンジントルク制御装置(ECU80)として、上記空燃比の切替に際して、図11のステップS64にて燃料量減少処理の実行(図13のタイミングt0)後、所定の開始タイミング(図13のタイミングt1)になった時に、図12のステップS76にて酸素量増加処理を開始するようにした。これにより、空燃比切替直後の燃料量増加に伴うトルク変動(本実施形態ではトルク上昇)が抑制され、ひいてはこのトルク変動に起因した前述の運転性(ドライバビリティ)の悪化が抑制されるようになる。
(12)EGR装置60により再循環される時々の再循環HC量を取得するプログラム(再循環量取得手段、図12のステップS73)と、その取得された再循環HC量が十分小さくなったことに基づいて、上記酸素量増加処理の開始タイミング(図13のタイミングt1)を設定するプログラム(開始タイミング設定手段、図12のステップS74)と、を備える構成とした。これにより、上記酸素量増加処理の開始タイミングを適切なタイミングに設定することが、すなわち例えばリッチ側空燃比(第1の空燃比)時の残存燃料をちょうど全て排出しきった直後のタイミングに設定することなどが容易になる。
(13)図11のステップS64及び図12のステップS76の処理により、理論空燃比よりもリッチ側の所定空燃比であるリッチ空燃比(リッチパージ用の空燃比)から理論空燃比よりもリーン側の所定空燃比であるリーン空燃比(定常運転用の空燃比)へ2値的に空燃比を切り替えるようにした。こうした構成であれば、特にトルク変動(本実施形態ではトルク上昇)の生じ易いリッチ空燃比からリーン空燃比への切替時について、そのトルク変動を的確に抑制することが可能になる。
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第1の実施形態の構成について、図9に例示したような再循環HC量を取得するプログラムを設けるように構成してもよい。また一方、上記第2及び第3の実施形態の構成において、こうしたプログラムの代わりに上記第1の実施形態に準ずるマップを用いるようにしてもよい。
・再循環HC量を取得する構成は、図9に例示したプログラムに限られず、用途等に応じて適宜に変更可能である。例えば吸気ポートにHCセンサを設けて、直接的にHC量を検出するように構成してもよい。
・上記第1及び第2の実施形態では、燃料噴射量や燃料噴射時期により、上述のトルク可変制御(図4、図8の処理)を行うようにした。しかしこれらに限られず、エンジン10の出力トルク(軸トルク)を増減させるトルクパラメータであれば、他のパラメータを用いることもできる。すなわち、図示トルクを増減させるパラメータにも限られず、例えばエンジンの出力軸(クランク軸)に作用する負荷量等を増減させるパラメータ等も用いることができる。
・上記各実施形態において、EGR装置60により排気の一部が吸気通路へ再循環され得る再循環状態(例えばEGR弁62が全閉ではない状態)にあるか否かを判断するプログラム(EGR判断手段)を備える構成として、このプログラムにより再循環状態にある旨判断された場合にのみ、上述のトルク可変制御(図4、図8、図12の処理)を行うようにしてもよい。これにより、不必要な制御が少なくなり、トルク制御の簡素化が図られるようになる。
・上記各実施形態では、登録された運転モードの終了に基づいて、空燃比変更タイミングt0を検出するプログラム(図2のステップS11)を備える構成とした。しかしこれに限られず、このプログラムに代えて、例えば登録された運転モードの開始に基づいて空燃比変更タイミングt0を検出するプログラムを備える構成としてもよい。また、例えば酸素濃度センサ(A/FセンサやO2センサ)を用いて空燃比の変化を直接的に検出することにより、そのセンサ出力に基づいて上記空燃比変更タイミングt0を検出するプログラムを用いる(代用する)ようにしてもよい。また、空燃比制御に係るアクチュエータ(例えばインジェクタ27や、スロットル弁34、EGR弁62等)への指令タイミングに基づいて上記空燃比変更タイミングt0を検出するように構成してもよい。要は、上記空燃比変更タイミングt0の検出態様は任意である。
・上記各実施形態では、エンジン10の空燃比が、リッチ空燃比(理論空燃比よりもリッチ側の空燃比)からリーン空燃比(理論空燃比よりもリーン側の空燃比)へ2値的に切り替えられる際に、上述のトルク可変制御(図4、図8、図12の処理)を行うようにした。しかしこれに限られず、当該エンジントルク制御装置の用途等によっては、例えばリッチ空燃比の中で所定のリッチ空燃比からよりリーンなリッチ空燃比へ空燃比を2値的に変更する際に、あるいはリーン空燃比の中で所定のリーン空燃比からよりリーンなリーン空燃比へ空燃比を2値的に変更する際に、上述のトルク可変制御(図4、図8、図12の処理)を行う構成とすることも有効である。
・上記各実施形態においては、要求トルクを算出するようにしたが、これを算出しない構成とすることもできる。例えば要求トルクに代えてアクセルペダル操作量をそのまま用いるように構成することなどが可能である。
・要は、空燃比がよりリーン側の空燃比へ制御される際にエンジン10の出力トルクを制御して、EGR装置60(EGR手段)により排気中のHC(未燃燃料)が吸気中へ再循環されることに起因するトルク変動を抑制又は相殺するプログラム(トルク制御手段)を備えるエンジントルク制御装置であれば、上記(1)及び(11)の効果に準ずるような効果を得ることはできる。
・上記各実施形態及び変形例では、各種のソフトウェア(プログラム)を用いることを想定したが、専用回路等のハードウェアで同様の機能を実現するようにしてもよい。
・上記各実施形態及び変形例では、一例としてディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について言及したが、火花点火式のガソリンエンジン(直噴エンジンも含む)についても、基本的には同様に本発明を適用することができる。