JP5082649B2 - 製造安定性に優れた高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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したがって本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、伸びフランジ性などの優れたプレス成形性を有するとともに、強度の冷却速度依存性が小さく、優れた製造安定性を有する高強度冷延鋼板およびその製造方法を提供することにある。
[1]C:0.03〜0.12mass%、Si:0.1〜0.6mass%、Mn:1.5〜3.0mass%、P:0.10mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.01〜0.1mass%、N:0.005mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼板組織(但し、鋼板表面から深さ20μmまでの領域の組織を除く)が焼戻しマルテンサイト単相組織であり、引張強さが980MPa以上であることを特徴とする製造安定性に優れた高強度冷延鋼板。
[2]上記[1]の高強度冷延鋼板において、B:0.0005〜0.005mass%をさらに含有することを特徴とする製造安定性に優れた高強度冷延鋼板。
なお、本発明において、「製造安定性に優れた」とは、連続焼鈍工程においてAe3変態点以上900℃以下の温度域に加熱保持した後の、200℃までの平均冷却速度が300℃/秒で製造した場合と1000℃/秒で製造した場合の強度差が、50MPa以下であることを意味する。
C:0.03〜0.12mass%
Cは、強度確保のために重要な元素の一つであり、本発明では引張り強さを980MPa以上とするために、0.03mass%以上の含有を必要とする。一方、0.12mass%を超える含有は、溶接性を著しく劣化させる。このためCは0.03〜0.12mass%、好ましくは0.04〜0.10mass%とする。
Si:0.1〜0.6mass%
Siは、本発明で最も重要な元素であり、連続焼鈍においてマルテンサイト変態後室温まで冷却する間の鉄炭化物の析出を抑制し、強度の冷却速度依存性を低減する効果を有する。このような効果は0.1mass%以上の添加で得ることができ、200℃までの平均冷却速度が300℃/秒以上の範囲において、300℃/秒で製造した場合と1000℃/秒で製造した場合の強度差を50MPa以下とすることができる。一方、0.6mass%を超えるSiの添加は、鋼板の化成処理性を劣化させるだけでなく、冷却中のフェライト変態が促進されて、焼戻しマルテンサイト単相組織を得ることが困難となり、Mn,Cr,Moなどのフェライト変態を遅延する元素を多量に添加する必要が生じる。このためSiは0.1〜0.6mass%、好ましくは0.2〜0.5mass%とする。
Mnは、オーステナイトを安定化し、フェライト変態を遅延させる元素であり、Mnを適量添加することで、連続焼鈍後の冷却時のフェライト生成を抑制し、焼戻しマルテンサイト単相組織を安定して得ることができる。このような効果を得るためには1.5mass%以上の添加が必要である。一方、3.0mass%を超えるMnの添加は加工性を劣化させる。このためMnは1.5〜3.0mass%、好ましくは1.6〜2.5mass%とする。
P:0.10mass%以下
Pは、鋼を強化する作用があり、鋼板の強度レベルに応じて添加してもよいが、0.10mass%を超えて添加すると溶接性が劣化する。このためPは0.10mass%以下とする。また、より優れた溶接性が要求される場合には、0.05mass%以下とすることが好ましい。
Sは、鋼板中で介在物として存在し、伸びフランジ性を劣化させる。そのため、Sはできるだけ低減するのが好ましく、伸びフランジ性への悪影響を排除するためには、0.01mass%以下とする必要がある。また、より優れた伸びフランジ性が要求される場合には、0.005mass%以下とすることが好ましい。
Al:0.01〜0.1mass%
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、鋼の組織微細化のためにも添加が望ましい元素である。また、適正範囲のAlを添加したアルミキルド鋼の方が、Alを添加しない従来のリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。このためAlの下限は0.01mass%とする。一方、Al含有量が多くなると表面性状の悪化につながるため、上限は0.1mass%とする。
Nは、本発明では不純物として取り扱う。Nが0.005mass%を超えると強度バラツキの原因となるため、0.005mass%以下とする。
本発明の鋼板は、上記の成分組成で目的とする特性が得られるが、所望の特性に応じて以下の元素を含有することができる。
B:0.0005〜0.005mass%
Bは、フェライト変態を遅延させる元素であり、Bを適量添加することで、連続焼鈍の冷却時のフェライト生成を抑制し、焼戻しマルテンサイト単相組織を安定して得ることができる。このような効果を得るためには0.0005mass%以上の添加が必要である。一方、0.005mass%を超えるBの添加は上記した効果が飽和するだけでなく、熱間圧延の変形抵抗が大きくなり、製造が困難となる。このためBは0.0005〜0.005mass%とする。
Bを添加する場合には、Ti,Nbを適量添加することが好ましい。Bが上記効果を発揮するためには、固溶状態である必要があり、BがNと結合してBNとなると、その効果は減少してしまう。その際、Ti,Nbを添加することで、NはTi,Nbと優先的に結合し、BNの形成を抑制することができる。このような効果は、Ti,Nbをそれぞれ0.005mass%以上添加することで得ることができるが、0.05mass%を超える添加は加工性の劣化をもたらす。よって、Ti,Nbはそれぞれ、0.005〜0.05mass%とする。
上記以外の残部はFe及び不可避的不純物とする。不可避的不純物としては、例えば、Sb、Sn、Zn、Coなどが挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01mass%以下、Sn:0.1mass%以下、Zn:0.01mass%以下、Co:0.1mass%以下の範囲である。また、本発明では、Cr、Mo、V、Ni、Cu、Mg、Ca、Zr、REMを通常の鋼組成の範囲内で含有しても、その効果は失われない。
ここで、焼戻しマルテンサイトとは、マルテンサイトを200℃以下の低温で焼戻した組織であり、ラス状フェライトとラス内およびラス境界に析出した微細板状鉄炭化物からなる。同じくラス状フェライトと微細板状鉄炭化物からなる組織として下部ベイナイトが知られるが、下部ベイナイトに生成する鉄炭化物は、同一ラス内において長手が一方向に揃っているという特徴があり、ランダムである焼戻しマルテンサイトとは、透過電子顕微鏡で観察することで区別できる。また、焼戻しマルテンサイト単相とは、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、X線回折法で組織を定量測定し、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトが合計で1%以上含まれないことを意味する。
本発明の鋼板は、高い引張強さが要求される自動車骨格部材、補強部材、および自動車シート骨格部材などへの適用を意図しているので、このような用途を考慮して引張強さを980MPa以上とする。
この製造方法では、上述した成分組成に調整された溶鋼からスラブを製造し、このスラブに対して、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍を順次施し、冷延鋼板を製造する。
使用するスラブは、成分のマクロ偏析が少ないなどの面では連続鋳造法で製造されたものが好ましいが、造塊−分塊圧延法や薄スラブ鋳造法で製造されたものでもよい。
熱間圧延の方式としては、鋳造されたスラブを一旦常温まで冷却し、その後加熱炉にて再加熱して圧延する方式のほか、鋳造されたスラブを常温まで冷却することなく、温片のままで加熱炉にて再加熱した後、圧延する方式、鋳造されたスラブを保熱した後に直ちに圧延する方式、鋳造されたスラブをそのまま圧延する直送圧延・直接圧延方式、などいずれの方式でもよい。
鋳造後常温まで冷却されたスラブを再加熱する場合、スラブ加熱温度は1000℃以上とするのが好ましい。上限は特に限定されないが、1300℃を超えると酸化重量の増加に伴うスケールロスが増大することなどから、1300℃以下とすることが好ましい。また、常温まで冷却することなく、温片のままで加熱炉にて再加熱する場合も、スラブ加熱温度は1000℃以上とするのが好ましい。
この熱間圧延では、圧延荷重を低減するために仕上圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
次いで、得られた冷延鋼板に連続焼鈍を施す。この連続焼鈍工程では、鋼板をAe3点以上900℃以下の温度域に加熱保持する。加熱保持温度がAe3点未満では、オーステナイト単相組織とならず、冷却−焼戻し後に焼戻しマルテンサイト単相組織を得ることができない。一方、加熱保持温度が900℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化するため、鋼板の曲げ性、靭性が劣化してしまう。なお、保持時間は、鋼板の均一性の観点からAe3点以上となる時間が60秒以上であることが好ましい。さらに好ましくは120秒以上である。
なお、連続焼鈍後、形状矯正、表面粗度などの調整のために、伸び率5%以下の調質圧延を施してもよい。
また、本発明の高強度冷延鋼板には、焼鈍後、酸洗処理やNiなどの成分を5〜500mg/m2程度付着する処理などを施して、化成処理性、溶接性、耐食性、耐かじり性などの改善を行ってもよい。
得られた冷延鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な断面について、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過電子顕微鏡を用いて微細組織を観察し、組織の種類の同定を行い、焼戻しマルテンサイト相の体積率を求めた。ここで、鋼板表面から深さ20μmまでの領域は鋼板特性(強度、穴拡げ率)への影響が小さいことから、鋼板表面から深さ20μmまでの領域を除いた部分について、組織の同定を行った(なお、鋼板表面から深さ20μmまでの領域は、いずれの鋼も焼戻しマルテンサイト相の体積率が20〜100%であり、残部がフェライト相からなる組織であった)。構成相の種類、焼戻しマルテンサイト体積率を表2に示す。
得られた冷延鋼板から、圧延方向に直交する方向を引張方向としてJIS5号引張試験片を採取し、JIS−Z−2241の規定に準拠して引張試験を行った。また、鉄鋼連盟規格(JFST1001−1996)に準拠して、穴拡げ率を測定した。引張試験により得られた、降伏強度(YS/MPa)、引張強度(TS/MPa)、伸び(El/%)および200℃までの平均冷却速度が300℃/秒で製造した場合と1000℃/秒で製造した場合の強度差(ΔTS/MPa)、穴拡げ率(λ/%)などを表2に示す。
穴拡げ性については、λ≧70%で良好であり、製造安定性については、ΔTS:50MPa以下を良好(○)、ΔTS:50MPa超を不良(×)とした。
Claims (3)
- C:0.03〜0.12mass%、Si:0.1〜0.6mass%、Mn:1.5〜3.0mass%、P:0.10mass%以下、S:0.01mass%以下、Al:0.01〜0.1mass%、N:0.005mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼板組織(但し、鋼板表面から深さ20μmまでの領域の組織を除く)が焼戻しマルテンサイト単相組織であり、引張強さが980MPa以上であることを特徴とする製造安定性に優れた高強度冷延鋼板。
- B:0.0005〜0.005mass%をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の製造安定性に優れた高強度冷延鋼板。
- 請求項1または2に記載の成分組成を有するスラブに、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍を順次施す冷延鋼板の製造方法であって、
前記連続焼鈍では、鋼板をAe3変態点以上900℃以下の温度域に加熱保持した後、300℃/秒以上の平均冷却速度で200℃以下まで急冷し、次いで200℃以下で焼戻すことを特徴とする製造安定性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
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