本発明のコイル内蔵基板について添付図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。図1は本発明のコイル内蔵基板の実施の形態の一例を示す図であり、図1(a)は本発明のコイル内蔵基板の断面図、図1(b)は図1(a)における要部を上面から透視した平面図である。図1(a)は、図1(b)におけるA−A’線の位置で切断した断面図である。これらの図において、1は絶縁層、2はフェライト磁性体層、3は平面コイル導体、4は接地導体層、4aは接地導体層に形成された開口部、5は配線層である。
図1に示す例においては、配線層5として、絶縁層1の外表面にはIC等の半導体チップやチップ部品が搭載される搭載用電極5bおよび外部電気回路と電気的に接続される電極パッド5dが形成され、絶縁層1内には内部配線層5aが形成されている。フェライト磁性体層2の内部には平面コイル導体3が上下に2つ重ねて形成されており、一方の平面コイル導体3の一端部と他方の平面コイル導体3の一端部とがフェライト磁性体層2の内部に形成された貫通導体(図示せず)により接続され、上下の平面コイル導体3それぞれの他端部は貫通導体(図示せず)により配線層5に接続されている。そして、内部配線層5a,搭載用電極5b,電極パッド5dおよび平面コイル導体3は貫通導体5cを介して互いに接続されている。
本発明のコイル内蔵基板は、配線層5が形成された一対の絶縁層1と、この一対の絶縁層1に挟持されたフェライト磁性体層2と、このフェライト磁性体層2内に形成された平面コイル導体3と、絶縁層1の少なくとも一方とフェライト磁性体層2との間に形成された接地導体層4とを有するコイル内蔵基板であって、接地導体層4は平面視で平面コイル導体3と重なる部分に開口部4aを有することを特徴とするものである。
本発明のコイル内蔵基板によれば、接地導体層4の平面視で平面コイル導体3と重なる部分に開口部4aを形成したことから、接地導体層4の平面コイル導体3に対向する部分の面積が小さくなり、平面コイル導体3と接地導体層4との間の容量が小さくなるので、基板厚みを厚くすることなく、コイルのインダクタンスとキャパシタンスによって生じる共振周波数を高くすることができる。その結果として、より高い周波数においても高インダクタンス値を得ることができるので内蔵コイルをより小さくすることができ、小型のコイル内蔵基板を得ることができる。
接地導体層4と平面コイル導体3とが対向しないような開口部4aにするためには、開口部4aの大きさは平面コイル導体3より一回り大きいものがよく、図1(a)に示すような形状の開口部4aの場合であれば、コイル内蔵基板を製造する際の積層の位置ずれを考慮すると、平面コイル導体3の幅に対して0.1mm程度大きい幅の開口部4aを設ければよい。
図1に示す例においては、開口部4aは平面コイル導体3と重なる部分が全て開口した、平面コイル導体3に沿った形状であるが、図2に図1(b)と同様の平面図で示す例におけるような形状としてもよい。すなわち、開口部4aは分割されて複数形成されていることが好ましい。図2に示す例のように開口部4aが分割されて複数形成されている、つまり複数の開口部4aが間隔をあけて配置されているときには、この開口部4a同士の間の接地導体層4が、接地導体層4内における、平面視で平面コイル導体3と交差する方向に電流が流れるための電流経路となるので、開口部4aによる電源インダクタンスの上昇やそれに伴う電源ノイズの増大が抑えられ、コイル内蔵基板に搭載されるICを高周波で安定して動作させることが可能なコイル内蔵基板を得ることができる。
開口部4aは、図1(a)に示した例におけるように平面コイル導体3と重なる部分のみ開口した平面コイル導体3に沿った形状としてもよいが、図3(b)に図1(b)と同様の平面図で示す例におけるような、平面コイル導体3の内周から外周にかけて複数周の導体に重なるような形状としてもよい。特に、平面コイル導体3における隣接する外周の導体と内周の導体との距離が短い場合は、このような形状の開口部4aとすることで、例えば導体ペーストの印刷によって開口部4aを有する接地導体層4を形成するのが容易になるので好ましい。開口部4aをこのような形状とする場合は、接地導体層4の外周部から中央部への電流経路を確保するために、図3(b)に示すように分割されて複数形成することが望ましい。
開口部4aの分割の形態、すなわち電流経路の配置や大きさは、特に制限されるものではない。図2に示した例におけるように、図1(a)に示した例におけるような形状の開口部4aに対して格子状に多数の電流経路を配置してもよいし、放射状に配置してもよいし、より少ない数の幅の広い電流経路を設けてもよい。
複数の開口部4a間の間隔は、開口部4a間の接地導体層4を電源インダクタンスの上昇やそれに伴う電源ノイズの増大が抑えられるような電流経路とするには、0.1mm以上の幅があればよい。
また、図4に図1(b)と同様の平面図で示すように、フェライト磁性体層2は平面視で矩形状に形成され、平面コイル導体3は平面視で最外周がフェライト磁性体層2の形状に沿った形状で形成されており、接地導体層4の開口部4aは平面視で平面コイル導体3の角部と重ならないように配置されていることが好ましい。フェライト磁性体層2は平面視で矩形状に形成され、平面コイル導体3は平面視で最外周がフェライト磁性体層2の形状に沿った形状で形成されていることから、矩形状のコイル内蔵基板を縦横に複数列配置して、いわゆる多数個取り配線基板の形態にして多数のコイル内蔵基板を効率よく容易に作製しようとした場合においても、コイル内蔵基板の外寸を変えずに平面コイル導体3の長さを最大限長く形成することができるため、平面コイル導体3の長さに比例するインダクタンス値を大きいものとすることができる。そして、そのときの平面コイル導体3の角部がフェライト磁性体層2の形状に合わせて直角になり、平面コイル導体3の角部に特に電界が集中することによって発生するノイズが放射されやすくなったとしても、接地導体層4の開口部4aは平面視で平面コイル導体3の角部と重ならないように配置されていることから、平面コイル導体3の角部と接地導体層4とが平面視で重なり、接地導体層4がシールドとして機能することとなるので、放射されたノイズによる配線層5への影響が抑えられ、搭載されるICをより安定して動作させることが可能なコイル内蔵基板を得ることできる。
コイル導体3の角部とは、平面視で最外周がフェライト磁性体層2の形状に沿った形状で形成され、内周も順次外周に沿った形状のコイル導体3において、フェライト磁性体層2の形状に沿ってコイル導体3が屈曲した部分のうち外側の突出した部分である。よって、図4に示す例のように、開口部4aはコイル導体3の屈曲した部分のうち外側と重ならないように配置されていればよい。
開口部4aはコイル導体3の屈曲した部分の内側と外側の両方に重ならないように、例えば、図5に図1(b)と同様の平面図で示す例におけるように、コイル導体3の外周の角部から内周の角部にかけて連続して重ならないように配置してもよい。この場合は、接地導体層4の平面コイル導体3の角部と重なる部分が上記した電流経路も兼ねることができる。
コイル導体3の角部には、コイル導体3が屈曲した部分だけでなく、コイル導体3の両端部が電界の集中し易い直角や鋭角の角を有する形状である場合はその部分も含まれる。開口部4aがこの部分と重ならないようにするには、図4に示す例のように角だけが重ならないようにしてもよいし、図5に示す例のように二つの角を含む端部が重ならないようにしてもよい。
コイル導体3の角部と接地導体層4と重なる領域は、ノイズに対するシールド性の観点からはできるだけ広いほうがよいが、通常は角部(頂点)からコイル導体3の線幅程度の位置まで接地導体層4と重なっていればよい。
また、図6,図7および図8に図1(b)と同様の平面図で示す例におけるように、平面コイル導体3の角部は、曲線状に曲がっている形状または複数の屈曲部を有する形状であることが好ましい。平面コイル導体3の角部の形状が電流の集中しにくい形状となることで平面コイル導体3の角部への電界の集中が低減し、平面コイル導体3の角部から放射されるノイズが低減されることとなるので、コイル内蔵基板に搭載されるICをより安定して動作させることが可能なコイル内蔵基板を得ることができる。また、平面コイル導体3と接地導体層4とが対向する面積が小さくなり平面コイル導体3と接地導体層4との間の容量が小さくなることで、より高周波まで要求されるインダクタンス値が得られるものとなる。
この場合の平面コイル導体3の角部も、平面コイル導体3が屈曲した部分のうち外側の突出した部分であり、図6および図7に示す例のように、平面コイル導体3の屈曲した部分のうち外側の形状が曲線状に曲がっている形状または複数の屈曲部を有する形状であればよい。同様に、平面コイル導体3の角部には、平面コイル導体3の両端部が電界の集中し易い直角や鋭角の角を有する形状である場合はその部分も含まれる。
平面コイル導体3の角部が曲線状に曲がっている形状の場合は、その曲率半径が大きい方が電界が集中しにくくなるのでよい。その曲率半径が小さすぎると電界の集中を低減する効果が小さくなるので、通常は平面コイル導体3の線幅の2分の1程度以上であればよい。曲率半径は平面コイル導体3の線幅の2分の1程度以上であれば一定でなくてもよい。
平面コイル導体3の角部が複数の屈曲部を有する形状の場合は、屈曲部の角度はできるだけ大きい方がよく、いずれかの屈曲部が直角に比してあまり大きくならないようにするのは好ましくない。例えば、図7に示す例のように平面コイル導体3の角部が2つの屈曲部を有する場合は、いずれもその角度を135度程度とするのが好ましい。
平面コイル導体3の角部は、図8に示す例のように、平面コイル導体3が屈曲した部分の内側も同様に曲線状に曲がっている形状または複数の屈曲部を有する形状であってもよく、このような形状とした場合は、平面コイル導体3を流れる電流にとって角部においても屈曲による抵抗が小さくなるので好ましい。
この場合の開口部4aの形状は、平面コイル導体3の角部の形状に合わせて曲線状に曲がっている形状または複数の屈曲部を有する形状としてもよい。
また、図9〜図10は本発明のコイル内蔵基板の実施の形態の他の一例を示す図であり、それぞれの図において(a)は本発明のコイル内蔵基板の断面図、(b)は(a)における要部を上面から透視した平面図である。(a)は、(b)におけるA−A’線の位置で切断した断面図である。これらの図において、6は浮き導体層である。
本例のコイル内蔵基板は、配線層5が形成された一対の絶縁層1と、一対の絶縁層1に挟持されたフェライト磁性体層2と、フェライト磁性体層2内に形成された平面コイル導体3と、絶縁層1の少なくとも一方に、または絶縁層1の少なくとも一方とフェライト磁性体層2との間に形成された接地導体層4とを有するコイル内蔵基板であって、接地導体層4と平面コイル導体3との間に平面視で平面コイル導体3と重なる浮き導体層6が形成されていることを特徴とするものである。
接地導体層4と平面コイル導体3との間に平面視で平面コイル導体3と重なる浮き導体層6を形成したことから、接地導体層4と平面コイル導体3との間に位置する浮き導体層6が、接地導体層4と平面コイル導体3との間の電磁気的結合を妨げることで容量の発生をなくすことができるので、より高周波まで、要求されるインダクタンス値を得ることができる。浮き導体層6および浮き導体層6と接地導体層4との間の絶縁層1(またはフェライト磁性体層2)の厚みの分だけ基板の厚みは厚くなるが、平面コイル導体3と接地導体層4との間のフェライト磁性体層2の厚みを厚くすることで容量を小さくする方法に比較すると、厚みの増加は十分小さい。また、容量削減効果が大きいので、より高い周波数においても高インダクタンス値を得ることができ、その結果として内蔵コイルをより小さくすることができ、平面方向により小型のコイル内蔵基板を得ることができる。
また、平面コイル導体3から放射されるノイズが、浮き導体層6および接地導体層4の2層の導体層でシールドされることとなるので、コイル内蔵基板に搭載されるICをノイズの影響を抑えて、より安定して動作させることが可能なコイル内蔵基板を得ることができる。
浮き導体層6は、例えば接地導体層4,平面コイル導体3,電源等の他の回路配線と電気的に接続されていない導体層である。例えば、接地導体層4と接続されていると、浮き導体層6と平面コイル導体3との間に容量を持つこととなってしまうので、期待される機能を果たさない、意味のないものとなってしまう。
浮き導体層6は、平面視で平面コイル導体3と重なるように形成されればよく、図9に示すように、平面コイル導体3とほぼ同じ形状であれば接地導体層4と平面コイル導体3との電磁気的結合の大部分を妨げることができる。この場合、コイル内蔵基板を製造する際の積層の位置ずれを考慮すると、平面コイル導体3の幅に対して0.1mm程度大きい幅の浮き導体層6を設ければよい。
また、浮き導体層6は、図10に示すように、平面コイル導体3の内周から外周にかけて複数周の導体に重なるような形状として、平面コイル導体3の形成領域より広い範囲に形成してもよい。特に、平面コイル導体3における隣接する外周の導体と内周の導体との距離が短く、これに対応する浮き導体層6の外周の導体と内周の導体との距離がより短くなるような場合は、このような形状の浮き導体層6とすることで、例えば導体ペーストの印刷によって形成するのが容易になり、また積層する際に外周の導体と内周の導体との間に空隙が発生してしまうおそれがないので好ましい。また、外周の導体と内周の導体との間の近傍において、積層位置ずれにより浮き導体層6が平面コイル導体3と重ならなくなってしまうこともない。この場合も、コイル内蔵基板を製造する際の積層の位置ずれを考慮すると、平面コイル導体3の最内周および最外周よりそれぞれ内側および外側に0.1mm程度大きい幅の浮き導体層6を設ければよい。
また、浮き導体層6は、図11に示すように、コイル内蔵基板の平面方向のほぼ全面にわたって接地導体層4と重なるような形状すると、平面コイル導体3に対して垂直方向の電磁気的結合だけでなく、斜め方向の電磁気的結合まで妨げることができるので、接地導体層4と浮き導体層6との電磁気的結合のほぼすべてを妨げることができる。この場合、コイル内蔵基板の側面にまで至るような、全面にわたるような浮き導体層6としてもよいが、図11に示すように、基板の外周より一回り小さいものとするのが好ましい。これは、コイル内蔵基板を製造する際に、各導体層をAgで形成して多数個取りの形態で作製し、表面の導体層にめっき皮膜を被着させた後に分割した場合などは、基板の側面から浮き導体層6が露出してしまうので、雰囲気中の水分等によりAgのマイグレーションが発生してしまう場合があるからである。また、コイル内蔵基板を製造する際のグリーンシート積層時に、導体層より密着性のよいグリーンシート同士を密着させることにより、グリーンシート間の剥離がより発生しにくいようにするためである。このためには、0.1mm程度以上小さくするとよい。
浮き導体層6を形成する場合の接地導体層4は、絶縁層1の少なくとも一方に、または絶縁層1の少なくとも一方とフェライト磁性体層2との間に形成される。例えば、図9および図10に示すように、接地導体層4が絶縁層1とフェライト磁性体層2との間に形成される場合は、浮き導体層6はフェライト磁性体層2内に形成され、図11に示すように接地導体層4が絶縁層1に形成される場合は、浮き導体層6は絶縁層1とフェライト磁性体層2との間に形成される。いずれの場合においても、浮き導体層6と平面コイル導体3との距離は、平面コイル導体3の周囲に発生する磁束の量に応じて設定され、発生した磁束が通過できるような距離(フェライト磁性体層2の厚み)が必要である。この距離は、平面コイル導体3の寸法、平面コイル導体3に流れる電流の周波数や電流値、あるいはフェライト磁性体層2の透磁率により異なるが、例えば、フェライト磁性体層2の透磁率が500の場合は0.1mm以上とすればよい。接地導体層4と浮き導体層6との距離は絶縁性が保たれる距離であればよく、通常は15μm程度以上の厚みがあればよく、グリーンシートの成形性やハンドリング性,絶縁層1やフェライト磁性体層2の材質,コイル内蔵基板に要求される厚み等を考慮して設定される。
絶縁層1は、その表面や内部に形成される配線層5や絶縁層1に挟持されて形成されるフェライト磁性体層2および平面コイル導体3とともに800〜1000℃の温度で同時焼成された絶縁体粉末の焼結体から成るものであり、配線層5のインダクタンスが高くなることを抑制するという観点からは、非磁性フェライトやガラスセラミックス等の非磁性絶縁体が好ましい。絶縁層1は、絶縁体の粉末および有機バインダーを主成分とする絶縁層1用グリーンシートを製作し、この絶縁層1用グリーンシートを必要な配線展開ができるだけの枚数積層した後、800〜1000℃の温度で焼成することにより作製される。
絶縁層1が非磁性フェライトから成る場合は、Zn系フェライトやCu系フェライトを用いればよい。中でも、X−Fe2O4(XはCu,Zn)として示される正スピネル構造の固溶体であるCu−Zn系フェライトが好適である。
Cu−Zn系フェライトの場合であれば、その組成比は焼結体としてFe2O3を50〜70質量%,CuOを5〜20質量%,ZnOを20〜35質量%とすると、1000℃以下の低温で焼結密度5.0g/cm3以上の高密度焼成が可能であり、かつ、焼成後の非磁性フェライト層は低温度域でも非磁性であるので好ましい。Fe2O3はフェライトの主成分であり、その割合が50質量%未満であると磁性が発生する傾向があり、70質量%より多いと焼結密度の低下により機械的強度が低下する傾向がある。CuOは焼結温度の低温化のために重要な要素であり、CuOが低温で液相を形成することにより焼結を促進させる効果を用いて、磁気特性を損なわずに800〜1000℃の低温で焼成することができる。このことからその割合が5質量%未満であると、配線層5と同時に800〜1000℃で焼成を行なうと焼結密度が不十分になり、機械強度が不足する傾向があり、20質量%より多いとキュリー温度が上がり、低温領域で磁性が発生する傾向がある。ZnOは非磁性フェライトを非磁性にするために重要な要素であり、その割合が20質量%未満であると焼結密度の低下により機械的強度が低下する傾向があり、35質量%より多いと磁性が発生する傾向がある。
また、絶縁層1が非磁性フェライトから成る場合は、非磁性フェライトの粉末に軟化点の低いガラスを加えて低温焼成したものであってもよい。このときのガラスとしては、例えばSiO2−B2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1及びM2は同じまたは異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1及びM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(但し、M3はLi,NaまたはKを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(但し、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等を用いることができ、ガラスの軟化点が600℃以下であることがフェライトの焼結を阻害しないうえで望ましい。
絶縁層1がガラスセラミックスから成る場合は、絶縁体粉末は上記のようなガラスの粉末とフィラー粉末との混合物の焼結体から成り、フィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
配線層5は、Cu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金およびAg−Pt合金等の低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなるものであり、絶縁層1用グリーンシートに配線層5用導体ペーストを印刷することにより配線パターンを形成しておき、絶縁層1用グリーンシートと同時焼成することにより形成される。
フェライト磁性体層2は、強磁性フェライトであるNi−Zn系フェライト,Mn−Zn系フェライト,Mg−Zn系フェライト,Ni−Co系フェライト等の磁性フェライト粉末の焼結体であるが、X−Fe2O4(XはCu,Ni,Zn)として示される逆スピネル構造の固溶体であるNi−Zn系フェライトが高周波帯域で十分に高い透磁率を得るのに好ましい。
Ni−Zn系フェライトの場合であれば、その組成比は焼結体としてFe2O3を63〜73質量%,CuOを5〜10質量%,NiOを5〜12質量%,ZnOを10〜23質量%とすると、1000℃以下の低温で焼結密度5.0g/cm3以上の高密度焼成が可能であり、かつ高周波帯域で十分に高い透磁率を得ることができるので好ましい。Fe2O3はフェライトの主成分であり、その割合が63質量%未満であると十分な透磁率が得られない傾向があり、73質量%より多いと焼結密度の低下により機械的強度が低下する傾向がある。CuOは焼結温度の低温化のために重要な要素であり、CuOが低温で液層を形成することにより焼結を促進させる効果を用いて、磁気特性を損なわずに800〜1000℃の低温で焼成することができる。このことからその割合が5質量%未満であると、配線層5や平面コイル導体3と同時に800〜1000℃で焼成を行なうと焼結密度が不十分になり、機械強度が不足する傾向があり、10質量%より多いと磁気特性の低いCuFe2O4の割合が多くなるため磁気特性を損ないやすくなる傾向がある。NiOはフェライト磁性体層2の高周波域における透磁率を確保するために含有させる。NiFe2O4は高周波域まで共振による透磁率の減衰を起こさず、高周波域での透磁率を比較的高い値に維持することができるが、初期透磁率は低いという特性をもつため、5質量%未満であると10MHz乃至それ以上の高周波域での透磁率が低下する傾向があり、12質量%より多いと初期透磁率が低下する傾向にある。ZnOはフェライト磁性体層2の透磁率向上のために重要な要素であり、フェライト組成のうち10質量%未満であると透磁率が低くなり、逆に23質量%より多くても磁気特性が悪くなる傾向がある。
フェライト磁性体層2は、絶縁層1に用いられる絶縁層用グリーンシートと同様の手法で形成されたフェライト磁性体層2用グリーンシートを用いることで作製される。
平面コイル導体3は、配線層5と同様に金属粉末の焼結体であるメタライズ金属層からなるものであり、フェライト磁性体層2用グリーンシートの表面に平面コイル導体2用導体ペーストを印刷することによりコイルパターンを形成し、さらにその上にフェライト磁性体層2用グリーンシートを積層して同時焼成することにより、フェライト磁性体層2に埋設されて形成される。図1(a)や図3(a)に示す例のように平面コイル導体3が上下に2つ重ねて形成される場合は、コイルパターンおよび平面コイル導体3間および平面コイル導体3と配線層5とを接続するための貫通導体となる貫通導体パターンを形成したフェライト磁性体層2用グリーンシートを2枚積層した上にさらにフェライト磁性体層2用グリーンシートを積層すればよい。
平面コイル導体3の作製に用いられる金属粉末は、配線層5と同様のCu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金およびAg−Pt合金等の低抵抗金属の粉末を用いる。例えばコイル内蔵基板に搭載される半導体チップがDC−DCコンバータ用途の電源用であるような場合であれば、平面コイル導体3に高い電流が流せるほど好ましく、平面コイル導体3の導体抵抗が高いと平面コイル導体3が発熱することで半導体チップの動作に影響を与えてしまう場合があるので、上記のような低抵抗金属がよい。
絶縁層1用グリーンシートまたはフェライト磁性体層2用グリーンシートは、絶縁体粉末または磁性フェライト粉末に有機バインダー,有機溶剤,必要に応じて分散剤や可塑剤等を混合してスラリーを得て、これからドクターブレード法,圧延法,カレンダーロール法,押し出し成形法等によってシート状に塗布し、乾燥して成形することにより作製される。
絶縁層1用グリーンシートに用いられる絶縁体粉末は、絶縁層1が非磁性フェライトから成る場合は、Fe2O3とCuOやZnOの粉体を所定の割合で混合して仮焼したものを粉砕し、原料粉末とすることができる。
フェライト磁性体層2用グリーンシートに用いられる強磁性フェライト粉末は、Fe2O3とCuO,ZnO,またはNiOとを予め仮焼することにより作製されたフェライト粉末であり、平均粒径が0.1μm〜0.9μmの範囲で均一であり、粒形状は球形状に近いものが望ましい。これは、平均粒径が0.1μmより小さいと、フェライト磁性体層2用グリーンシートの製作においてフェライト粉末の均一な分散が困難であり、平均粒径が0.9μmより大きいとフェライト磁性体層2用グリーンシートの焼結温度が高くなりやすくなるからである。また、粒径が均一で球状に近いことにより均一な焼結状態を得ることができる。例えばフェライト粉末で部分的に小さい粒径が存在した場合は、その部分のみ結晶粒の成長が低下し、焼結後に得られるフェライト磁性体層2の透磁率が安定しにくい傾向がある。
有機バインダーは、従来よりセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解性や揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。
グリーンシートの有機溶剤は、絶縁体粉末やフェライト粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、トルエン,ケトン類,アルコール類の有機溶媒や水等が挙げられる。これらの中で、トルエン,メチルエチルケトン,イソプロピルアルコール等の蒸発係数の高い溶剤はスラリー塗布後の乾燥工程が短時間で実施できるので好ましい。
グリーンシートを作製するためのスラリーは絶縁体粉末やフェライト粉末100質量部に対して有機バインダーを5〜20質量部、有機溶剤を15〜50質量部加え、ボールミル等の混合手段により混合することにより3〜100cpsの粘度となるように調製される。
内部配線層5a,搭載用電極5bおよび電極パッド5dとなる配線パターンは、絶縁層1用グリーンシートの表面に配線層5用導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の印刷法で所定パターンに印刷して形成される。貫通導体5cとなる配線パターンは、内部配線層5a,搭載用電極5bおよび電極パッド5dとなる配線パターンの形成に先立って絶縁層1用グリーンシートにパンチング加工やレーザ加工等により貫通孔を形成し、この貫通孔に印刷やプレス充填等の埋め込み手段によって配線層5用導体ペーストを充填することで形成される。
平面コイル導体3となるコイルパターンも同様に、フェライト磁性体層2用グリーンシートの表面に平面コイル導体2用導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の印刷法で所定パターンに印刷して形成され、フェライト磁性体層2内の貫通導体となる配線パターンも上記貫通導体5cとなる配線パターンと同様にして形成される。平面コイル導体2用導体ペーストは配線層5用導体ペーストと同じものを用いればよい。
平面コイル導体3となるコイルパターンは、要求されるインダクタンス値やサイズにもよるが、上記のように印刷により形成する場合は線幅および隣接する外周と内周の導体間距離が0.1mm程度以上であれば容易に形成できる。できるだけ小さい面積でコイルの巻き数を多くするためには、線幅0.1〜1mm程度、導体間距離が0.1〜0.2mm程度にすればよい。
配線層5用導体ペーストおよび平面コイル導体2用導体ペーストは、主成分の金属粉末に有機バインダー,有機溶剤,必要に応じて分散剤等を加えてボールミル,三本ロールミル,プラネタリーミキサー等の混練手段により混合および混練することで作製される。
導体ペーストの有機バインダーは、従来より導体ペーストに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系、アルキド系の有機バインダーがより好ましい。
導体ペーストの有機溶剤は、上記した金属粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、テルピネオールやブチルカルビトールアセテートおよびフタル酸等が使用可能である。
内部配線層5a,搭載用電極5bおよび電極パッド5dとなる配線パターンを形成するための配線層5用導体ペーストや平面コイル導体2用導体ペーストは、金属導体粉末100質量部に対して有機バインダーを3〜15質量部、有機溶剤を10〜30質量部加えて混練することにより、印刷により導体ペーストの滲みやかすれ等の不具合が発生せず良好に所定形状のパターン形成ができる程度の粘度となるようにすることが望ましい。
貫通導体5cとなる配線パターンを形成するための導体ペーストは、溶剤量や有機バインダー量により、内部配線層5a,搭載用電極5bおよび電極パッド5dとなる配線パターンを形成するための配線層5用導体ペーストや平面コイル導体2用導体ペーストに対して比較的流動性の低いペースト状に調整し、貫通孔への充填を容易にし、かつ加温硬化するようにするとよい。また、焼結挙動の調整のために金属導体粉末にガラスやセラミックスの粉末を加えた無機成分としてもよい。
絶縁層1を非磁性フェライトで形成する場合には、搭載用電極5bや電極パッド5dのような絶縁層1の外表面に形成される配線層5を形成するための配線層5用導体ペーストには、ZnO,CuO,MgO,CoO,NiO,MnO,FeO等の2価の金属酸化物の粉末を添加することが望ましい。2価の金属酸化物を添加することで、外表面の配線層5を非磁性フェライトを主成分とする絶縁層1に強固に接合させることができる。
コイルパターンが形成されたものを含む所定枚数のフェライト磁性体層2用グリーンシートの上下にそれぞれ配線パターンが形成された所定枚数の絶縁層1用グリーンシートを配置して積層体を作製し、この積層体を焼成することによりコイル内蔵基板は作製される。
接地導体層4は、配線層5と同様にCu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金およびAg−Pt合金等の低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなるものであり、内部配線層5a等の形成に用いる配線層5用導体ペーストを、スクリーン印刷法やグラビア印刷法等により絶縁層1用グリーンシートまたはフェライト磁性体層2用グリーンシートの表面に所定パターン形状に塗布し、これらとともに同時焼成されて形成される。
接地導体層4は、接地導体層4と平面コイル導体3との間に生じる容量値を削減するために、平面視で平面コイル導体3と重なる部分に開口部4aを有している。開口部4aの面積は要求される共振周波数に応じて決定すればよい。また、形状も特に限定されるものではなく、図面に示す例のような四角形以外の多角形や円形等の形状でもよい。
浮き導体層6は、配線層5と同様にCu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金およびAg−Pt合金等の低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなるものであり、内部配線層5a等の形成に用いる配線層5用導体ペーストを、スクリーン印刷法やグラビア印刷法等により絶縁層1用グリーンシートまたはフェライト磁性体層2用グリーンシートの表面に所定パターン形状に塗布し、これらとともに同時焼成されて形成される。
積層体を作製する方法は、積み重ねた絶縁層1用グリーンシートとフェライト磁性体層2用グリーンシートとに熱と圧力とを加えて熱圧着する方法や、有機バインダー,可塑剤,溶剤等からなる密着剤をシート間に塗布して熱圧着する方法等が採用可能である。積層の際の加熱加圧の条件は、用いる有機バインダー等の種類や量により異なるが、概ね30〜100℃、2〜20MPaである。
積層体の焼成は、300〜600℃の温度で脱バインダーした後、800〜1000℃の温度で焼成することにより行なわれる。焼成雰囲気としては、平面コイル導体3やその他の配線がAg等の酸化しにくい材料から成る場合は大気中にて行なわれ、Cu等の酸化しやすい材料から成る場合は、窒素雰囲気が用いられ、脱バインダーしやすいように加湿したものを用いる。
なお、焼成後のコイル内蔵基板の表面形成された搭載用電極5bと電極パッド5dには、半田等による半導体チップやチップ部品、ならびに外部電気回路との接合を強固なものにするために、その表面にニッケル層および金層をめっき法により順次被着するとよい。
なお、本発明は以上の実施の形態の例および以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは差し支えない。
本発明の実施例について以下に詳細に説明する。
本発明の実施例との比較のために、従来構成として実施例1の試料に対して図13に示すような開口部4aを有さない接地導体層とした以外は、実施例1と同様にしてコイル内蔵基板を作製した。
以上の実施例1〜5および比較例について、接地導体層のインダクタンスおよびインダクタンスの共振周波数を評価した結果を図12に示す。インダクタンスの測定は、インピーダンスアナライザー(「HP−4194A」、ヒューレットパッカード社製)を用い、電流電圧法にて18mAの印加電流で測定した。
図12は、周波数を変えてインダクタンス値を測定した結果を示す線図であり、実施例1は一点鎖線で、実施例2は破線で、実施例3は点線で、実施例4は二点鎖線で、実施例5は長破線で、比較例は実線で、その結果をそれぞれ示す。実施例1〜5および比較例の結果において、インダクタンスが極大値を示すときの周波数が共振周波数である。なお、図12において、横軸は周波数(単位:MHz)を、縦軸はインダクタンスL(単位:μH)を示す。
図12に示す結果から、比較例の共振周波数が2.2MHzであるのに対して、接地導体層に開口部を設けた実施例1〜実施例5の共振周波数はそれぞれ、実施例1が6.3MHz、実施例2が4.8MHz、実施例3が5.0MHz、実施例4が5.1MHz、実施例5が7.0MHzであった。このことから、接地導体層が開口部を有さない比較例に対して、接地導体層が開口部を有する実施例1〜4は、開口部により平面コイル導体と接地導体層との間の容量が低減されることにより、いずれの場合もより高い共振周波数を有するものとなったことが分かる。また、接地導体層4と平面コイル導体3との間に浮き導体層6を有する実施例5は、浮き導体層6により平面コイル導体3と接地導体層4との間の容量が大きく低減されることにより、より高い共振周波数を有するものとなったことが分かる。これにより、比較例に対して実施例1〜5のコイル内蔵基板は、より高周波での使用が可能となるので、搭載するICを高周波化することにより内蔵コイルに必要なインダクタンス値を小さくすることができ、より小さいコイルを内蔵したより小さいコイル内蔵基板とすることができることが確認できた。