JP5077648B2 - 硬質被覆層が難削材の高速切削加工ですぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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(a)下部層が、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有し、かつ、2〜20μmの平均層厚を有するAl2O3層(以下、α型Al2O3層で示す)、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を化学蒸着形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の一般鋼や普通鋳鉄などの切削加工に用いられることは良く知られるところである。
(a)上記の従来被覆サーメット工具の硬質被覆層としてのα型Al2O3層(以下、従来α型Al2O3層という)は、一般に、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2〜4%、CO2:4〜8%、HCl:1〜3%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で蒸着形成されるが、α型Al2O3層を、同じく通常の化学蒸着装置にて、例えば、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:4〜8%、HCl:3〜5%、H2S:0.25〜0.6%、H2:残り、
反応雰囲気温度:920〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で蒸着形成すると、この結果形成されたα型Al2O3層(以下、改質α型Al2O3層という)は、α型Al2O3層自身のもつすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、上記の従来α型Al2O3層に比して、一段とすぐれた高温強度を具備するようになること。
反応ガス組成:容量%で、WF6:0.5〜5%、C6H6:0.5〜10%、H2:10〜35%、Ar:残り、
反応雰囲気温度:500〜900℃、
反応雰囲気圧力:5〜15kPa、
の条件で蒸着形成されるが、WC層を、同じく通常の化学蒸着装置にて、例えば、
反応ガス組成:容量%で、WF6:0.04〜0.4%、CH3CN:0.06〜0.6%、NH3:0.1〜1%、H2:40〜80%、Ar:残り、
反応雰囲気温度:980〜1100℃、
反応雰囲気圧力:5〜30kPa、
の高温条件で蒸着形成すると、この結果形成されたWC層(以下、改質WC層という)には、すぐれた密着性を有すると共に、上記硬質被覆層形成時の高温環境下においても隣接層の構成成分が拡散侵入できない性質があり、したがって、これを前記工具基体と硬質被覆層の下部層との間に下地介在層として存在させると、前記工具基体および下部層の両方と強固に密着接合すると共に、特に硬質被覆層形成時の高温環境下できわめて高い活性を発揮する成分、すなわち前記工具基体の結合相形成成分であるCoやNi、さらにCrおよびVなどの成分の硬質被覆層中への拡散侵入が阻止され、前記硬質被覆層は、これ本来の具備する特性、すなわちすぐれた高温硬さを保持することになり、この結果切削加工に際して、すぐれた耐摩耗性を満足に発揮するようになること。
以上(a)〜(d)の研究結果を得たのである。
(a)下部層が、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、2〜20μmの平均層厚を有するα型Al2O3層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を化学蒸着形成してなる、被覆サーメット工具において、
(1)上記工具基体と下部層の間に下地介在層として、0.1〜2μmの平均層厚を有する改質WC層、
を化学蒸着形成すると共に、
(2)上記上部層としてのα型Al2O3層を、同じく化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記結晶粒の各結晶面のそれぞれの法線が前記表面研磨面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、結晶粒の構成結晶面である(0001)面および{10−10}面を選び出し、さらに、選び出した(0001)面および{10−10}面において、それぞれ隣接する結晶粒相互の界面(結晶粒界面単位)における(0001)面の法線同士および{10−10}面の法線同士の交わる角度を求めた場合に、前記(0001)面の法線同士および{10−10}面の法線同士の交わる角度が15度以下の結晶粒界面単位が全結晶粒界面単位の45〜70%の割合を占める結晶粒界面配列を示す改質α型Al2O3層、
で構成してなる、特に難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)改質WC層(下地介在層)
改質WC層は、上記の通り、工具基体および下部層のTi化合物層と強固に密着接合して、前記工具基体に対する硬質被覆層の密着性向上に寄与するほか、特に前記工具基体における活性度の高い結合相構成成分の硬質被覆層への拡散侵入を阻止して、前記硬質被覆層が本来具備するすぐれた高温硬さが損なわれないようにする作用を有するが、その平均層厚が0.1μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方前記作用は2μmまでの平均層厚で十分であることから、その平均層厚を0.1〜2μmと定めた。
Ti化合物層は、基本的には上部層である改質α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、改質WC層および改質α型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上にも寄与する作用を有するが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう難削材の高速切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
上記の通り、結晶粒界面配列において、それぞれ隣接する結晶粒相互の界面(結晶粒界面単位)における(0001)面の法線同士および{10−10}面の法線同士の交わる角度が15度以下の結晶粒界面単位が全結晶粒界面単位の45〜70%の割合を占める場合に、結晶粒界面強度が一段と向上するようになることは多くの試験結果に基づいて明らかになったものであり、したがって、それぞれの法線同士の交わる角度の上限を例えば16度とした場合や、それぞれの法線同士の交わる角度が15度以下の結晶粒界面単位の占める割合が45%未満の場合には所望のすぐれた結晶粒界面強度を確保することはできず、前記の条件を満足した場合に改質α型Al2O3層は、α型Al2O3自身のもつすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を具備するようになるものである。
また、その平均層厚が2μm未満では、上記の特性を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、特に難削材の高速切削加工ではチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜20μmと定めた。
(a)まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される目標層厚の改質WC層およびTi化合物層を硬質被覆層の下地介在層および下部層として蒸着形成し、
(b)ついで、反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%の範囲内の所定量、CO2:6%、HCl:4%、H2S:0.25〜0.6の範囲内の所定量%、H2:残り、
反応雰囲気温度:960℃、
反応雰囲気圧力:8kPa、
の条件で同じく表4に示される目標層厚で、同じく上部層として改質α型Al2O3層を蒸着形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:2〜4%の範囲内の所定量、CO2:6%、HCl:2%、H2S:0.05〜0.2%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:1030℃、
反応雰囲気圧力:8kPa、
の条件で、表5に示される通りの目標層厚で形成し、かつ、下地介在層である改質WC層の形成を行なわない以外は同一の条件で、従来被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
すなわち、上記の本発明被覆サーメット工具1〜13の改質α型Al2O3層および従来被覆サーメット工具1〜13の従来α型Al2O3層について、それぞれの表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記表面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記結晶粒の各結晶面のそれぞれの法線が前記表面研磨面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、結晶粒の構成結晶面である(0001)面および{10−10}面を選び出し、さらに、選び出した(0001)面および{10−10}面において、それぞれ隣接する結晶粒相互の界面(結晶粒界面単位)における(0001)面の法線同士および{10−10}面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および{10−10}面の法線同士の交わる角度が15度以下の結晶粒界面単位が全結晶粒界面単位に占める割合(以下、交差角15度以下の結晶粒界面単位の割合という)を算出し、表4,5にそれぞれ示した。
被削材:JIS・SUS430の丸棒、
切削速度:275m/min.、
切り込み:2.5mm、
送り:0.1mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Aという)でのステンレス鋼の乾式連続高速切削試験(通常の切削速度150m/min.)、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:310m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Bという)での軟鋼の乾式断続高速切削試験(通常の切削速度は
200m/min.)、さらに、
被削材:JIS・SMn443の丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.1mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Cという)での高マンガン鋼の乾式連続高速切削試験(通常の切削速度は180m/min.)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有し、かつ2〜20μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を化学蒸着形成してなる、表面被覆サーメット製切削工具において、
(1)上記工具基体と下部層の間に下地介在層として、0.1〜2μmの平均層厚を有する改質炭化タングステン層、
を化学蒸着形成すると共に、
(2)上記上部層としての酸化アルミニウム層を、同じく化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡と電子後方散乱回折像装置を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記結晶粒の各結晶面のそれぞれの法線が前記表面研磨面の法線と交わる角度を測定し、この測定結果から、結晶粒の構成結晶面である(0001)面および{10−10}面を選び出し、さらに、選び出した(0001)面および{10−10}面において、それぞれ隣接する結晶粒相互の界面(結晶粒界面単位)における(0001)面の法線同士および{10−10}面の法線同士の交わる角度を求めた場合に、前記(0001)面の法線同士および{10−10}面の法線同士の交わる角度が15度以下の結晶粒界面単位が全結晶粒界面単位の45〜70%の割合を占める結晶粒界面配列を示す改質酸化アルミニウム層、で構成したことを特徴とする、硬質被覆層が難削材の高速切削加工ですぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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