しかしながら、特許文献1に提案された車両用操舵装置においても、転舵角センサに異常が生じた場合には、転舵角中立位置を検出することができないため、上述したセンサ出力値の補正を行うことができない。従って、操舵角センサにより検出される中立位置と実際の転舵輪の中立位置とにずれが生じるおそれがある。操舵角の中立位置と転舵輪の中立位置とにずれが生じると、操舵ハンドルの中立位置への復元力(バネ反力トルク成分)が適切に働かなくなる。つまり、中立位置のずれ分だけ、操舵ハンドルを直進方向からずらす方向にトルクが発生する。例えば、転舵輪が直進方向に向いている場合であっても、操舵角センサ値が中立位置からずれた値をとると、そのずれ分だけ操舵反力トルクが働きハンドル操作が取られてしまう。このため、運転者に違和感を与える。
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、操舵角センサにより検出した操舵角と実際の転舵輪の転舵角との対応関係がずれた場合に運転者に与える違和感を低減することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両を操舵するために運転者によって操作される操舵ハンドルと、上記操舵ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段と、転舵輪の転舵角を検出する転舵角検出手段と、上記操舵角検出手段により検出される操舵角と目標転舵角との対応関係を記憶する対応関係記憶手段と、上記記憶された対応関係にしたがって、上記転舵角検出手段により検出される転舵角が、上記操舵角検出手段により検出された操舵角に対応した目標転舵角となるように転舵輪を転舵する転舵輪転舵手段と、上記操舵ハンドルの操舵に対して反力トルクを付与するための反力アクチュエータと、上記操舵角検出手段により検出された操舵角に応じて設定され上記操舵ハンドルを中立位置に戻す力となるバネ反力トルク成分と、上記バネ反力成分とは異なる他の反力トルク成分とを合算して目標操舵反力トルクを算出し、上記算出された目標操舵反力トルクが上記操舵ハンドルの操舵に対して付与されるように上記反力アクチュエータの駆動を制御する操舵反力制御手段とを備えたステアリングバイワイヤ方式の操舵装置において、上記操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じているか否かを判断する関係ずれ検出手段と、上記関係ずれが検出されている場合、上記操舵反力制御手段が上記目標操舵反力トルクを算出するときに用いる上記バネ反力トルク成分を減少させるバネ反力成分低減手段と、上記関係ずれが検出されている場合、上記操舵反力制御手段が上記目標操舵反力トルクを算出するときに用いる上記他の反力トルク成分の大きさを増加させる他反力成分増加手段とを備えたことにある。
本発明においては、操舵反力制御手段が、操舵ハンドルを中立位置に戻す力となるバネ反力トルク成分と他の反力トルク成分とを合算して目標操舵反力トルクを算出し、この目標操舵反力トルクが操舵ハンドルの操舵に対して付与されるように反力アクチュエータの駆動を制御する。一方、転舵制御手段は、対応関係記憶手段に記憶された対応関係にしたがって、操舵角検出手段により検出された操舵角に対応した目標転舵角を算出し、転舵角検出手段により検出される転舵角が目標転舵角となるように転舵アクチュエータの駆動を制御する。こうしたステアリングバイワイヤ方式の操舵装置においては、例えば、転舵角検出手段が故障した場合には、検出された操舵角と実際の転舵角との対応関係が、対応関係記憶手段に記憶された対応関係とずれることがある。この場合には、操舵ハンドルの中立位置への復元力(バネ反力トルク成分)が適切に働かなくなる。
そこで、本発明においては、操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じているか否かを関係ずれ検出手段により判断する。つまり、対応関係記憶手段に記憶された本来の対応関係に対して、実際の対応関係がずれているか否かを判断する。そして、対応関係にずれが検出されている場合には、バネ反力成分低減手段が目標操舵反力トルクを算出するときに用いるバネ反力トルク成分の大きさを減少させる。従って、転舵角検出手段が故障した場合であっても、不適切な反力トルク成分が操舵ハンドルに働かなくなり、操舵操作における違和感を低減することができる。しかも、バネ反力トルク成分の大きさを演算上で減少させるものであるため、機械的な構成の追加も不要で、簡単に実施することができる。また、他反力成分増加手段が他の反力トルク成分(バネ反力トルク成分とは異なる反力トルク成分)の大きさを増加させる。従って、バネ反力トルク成分の減少分を他の反力トルク成分の増加で補うことができ、目標操舵反力トルクの急変を抑制することができる。
尚、「バネ反力トルク成分を減少させる」とは、バネ反力トルク成分をゼロにすることも含まれるものである。
他の反力トルク成分としては、操舵角の大きさに関係しない反力トルク成分が好ましく、例えば、ステアリング機構の摩擦抵抗を模擬的に与える摩擦反力トルク成分、操舵ハンドルの回動操作に伴い発生する粘性抵抗を模擬的に与える粘性反力トルク成分など挙げられる。そして、他反力成分増加手段は、それらの少なくとも1つを増加させるようにすればよい。
本発明の他の特徴は、上記転舵角検出手段に異常が生じているか否かを判断する異常検出手段を備え、上記関係ずれ検出手段は、上記転舵角検出手段に異常が検出されているときに、上記操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じているか否かを判断することにある。
例えば、転舵角検出手段として、基準位置に対する相対角度を検出する相対角センサを用いた場合、その基準位置が正しい位置からずれた場合には、操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じてしまう。そこで、この発明においては、異常検出手段により転舵角検出手段に異常が生じているか否かを判断し、転舵角検出手段に異常が検出されているときに、関係ずれ検出手段を作動させる。従って、適切なタイミングで関係ずれ検出手段を作動させることができる。
本発明の他の特徴は、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、車両の走行速度を検出する車速検出手段と、上記操舵角検出手段により検出された操舵角と上記車速検出手段により検出された車速とを少なくともパラメータとして、車両の理論ヨーレートを算出する理論ヨーレート算出手段とを備えるとともに、上記関係ずれ検出手段は、上記検出した検出ヨーレートと上記理論ヨーレートとの比較に基づいて、上記操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じているか否かを判断することにある。
この発明においては、操舵角と車速とから理論ヨーレート算出手段により理論ヨーレートを算出する一方で、実際の車両のヨーレートをヨーレート検出手段により検出する。操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じていない場合には、理論ヨーレートと検出ヨーレートとの偏差は少ないはずである。そこで、関係ずれ検出手段は、この理論ヨーレートと検出ヨーレートとの比較に基づいて、操舵角と転舵角との対応関係のずれの有無を判断する。例えば、理論ヨーレートと検出ヨーレートとの偏差を算出し、この偏差の絶対値が所定値より大きいときに関係ずれが生じていると判断する。従って、操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係のずれを簡単に検出することができる。
本発明の他の特徴は、上記関係ずれ検出手段は、上記反力アクチュエータを駆動するために流す駆動電流の大きさと、上記転舵アクチュエータを駆動するために流す駆動電流の大きさとの関係から、上記操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じているか否かを判断することにある。
例えば、転舵輪が直進方向を向いて走行しているときには、転舵アクチュエータの駆動電流はゼロを含む非常に小さな値となる。このとき、操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じていない場合であれば、操舵角も中立位置あるいはそれに極めて近い位置となるため、反力アクチュエータの駆動電流の大きさもゼロを含む小さな値となるはずである。そこで本発明においては、反力アクチュエータの駆動電流の大きさと転舵アクチュエータの駆動電流の大きさとの関係から、操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じているか否かを判断する。従って、対応関係のずれ検出を簡単に行うことができる。
尚、駆動電流の大きさ判断にあたっては、実際に各アクチュエータに流れる電流の大きさを検出することは勿論、各アクチュエータに流す目標電流値の大きさを使って判断してもよい。
本発明の他の特徴は、車両の走行速度を検出する車速検出手段を備え、上記関係ずれ検出手段は、上記車速検出手段により検出された車速が基準速度より大きく、かつ、上記転舵アクチュエータを駆動するために流す駆動電流の大きさが基準電流値より小さく、かつ、上記反力アクチュエータを駆動するために流す駆動電流の大きさが基準電流値より大きい場合に、上記操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じていると判断することにある。
この発明においては、車速が基準速度より大きく、かつ転舵アクチュエータを駆動する駆動電流の大きさが基準電流値より小さいとき、つまり、車両がほぼ直進方向を向いて走行しているときに、操舵角検出手段により検出される操舵角と実際の転舵角との対応関係にずれが生じているか否かを判断する。この場合、正常であれば反力アクチュエータに流れる駆動電流の大きさは、小さな値となるはずである。従って、反力アクチュエータに流れる駆動電流の大きさが基準電流値より大きい場合には対応関係にずれが生じていると判断することができる。そこで、本発明においては、反力アクチュエータに流す駆動電流の大きさで対応関係のずれの有無を判断する。この結果、対応関係のずれ検出を簡単に行うことができる。
尚、転舵アクチュエータの駆動電流を大きさを比較する基準電流値と、反力アクチュエータの駆動電流値の大きさを比較する基準電流値とは別々に設定されるもので同じ値に限定するものではない。
以下、本発明の2つの実施形態に係る車両の操舵装置について図面を用いて説明する。まず、第1実施形態の車両の操舵装置について説明する。図1は、第1実施形態に係る車両の操舵装置のシステム構成を概略的に示している。
この車両の操舵装置は、運転者によって操舵操作される操舵操作装置10と、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を運転者の操舵操作に応じて転舵する転舵装置20とを機械的に分離して備えたステアバイワイヤ方式を採用している。操舵操作装置10は、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下端には減速機構を内蔵した反力発生用の操舵反力用電動モータ13が組み付けられている。操舵反力用電動モータ13は、操舵ハンドル11の操舵操作に対して反力を付与するもので、本発明の反力アクチュエータに相当する。
転舵装置20は、車両の左右方向に延びて配置された転舵軸21を備えている。この転舵軸21の両端部には、タイロッド22a,22bおよびナックルアーム23a,23bを介して、左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、転舵軸21の軸線方向の変位により左右に転舵される。転舵軸21の外周上には、図示しないハウジングに組み付けられた転舵用電動モータ24が設けられている。転舵用電動モータ24の回転は、それぞれねじ送り機構26により減速されるとともに転舵軸21の軸線方向の変位に変換される。この転舵用電動モータ24が本発明の転舵アクチュエータに相当する。
次に、操舵反力用電動モータ13、転舵用電動モータ24の回転を制御する電気制御装置30について説明する。電気制御装置30は、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ33、ヨーレートセンサ34を備えている。操舵角センサ31は、操舵入力軸12に組み付けられて、操舵ハンドル11の基準点からの回転角を検出して操舵角θを表す信号を出力する。以下、この操舵角センサ31により検出される操舵角θを実操舵角θと呼ぶ。実操舵角θは、基準点を中立位置「0」とし、左方向の角度を正の値で表し、右方向の角度を負の値で表す。
転舵角センサ32は、転舵軸21の基準点からの軸線方向の変位量を検出して左右前輪FW1,FW2の転舵角δを表す信号を出力する。この転舵角センサ32は、転舵用電動モータ24のロータの基準位置に対する回転角度を検出する相対角センサと、基準位置を与えるための絶対角センサとからなる。転舵用電動モータ24のロータの回転角度は、転舵軸21の軸線方向の移動量、つまり、転舵角θの変化量に対応した値をとる。従って、転舵角センサ32は、転舵軸21の位置を検出する絶対角センサと、基準位置からの回転角度を検出する相対角センサとにより操舵角θを検出する。本実施形態においては、相対角センサとして転舵用電動モータ24のロータの回転角を検出する2つのレゾルバセンサを備え、絶対角センサとしてエンコーダを備える。
相対角センサとしてのレゾルバセンサは、転舵用電動モータ24の回転角度を高精度に検出できるため転舵制御時に使用される。また、絶対角センサとしてのエンコーダは、分解能がレゾルバセンサに比べて粗いため転舵制御時においては使用されず、イグニッションスイッチ(図示略)がオンされたときに行われる初期診断時にその検出値(絶対角)が読み込まれてレゾルバセンサの基準位置設定に利用される。
以下、この転舵角センサ32により検出される転舵角δを実転舵角δと呼ぶ。実転舵角δは、基準点を中立位置「0」とし、左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵に対応した転舵軸21の変位を正の値で表し、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵に対応した転舵軸21の変位を負の値で表す。
車速センサ33は、車両の走行速度である車速Vを表す車速信号を出力する。ヨーレートセンサ34は、車両のヨーレートを検出して、検出したヨーレートに応じた信号を出力する。以下、この検出されたヨーレートを実ヨーレートγと呼ぶ。この実ヨーレートγも、左方向加速度を正の値で表し、右方向加速度を負の値で表す。
また、電気制御装置30は、互いに接続された操舵反力用電子制御ユニット(以下、操舵反力用ECUという)35、転舵用電子制御ユニット(以下、転舵用ECUという)36を備えている。操舵反力用ECU35には、操舵角センサ31が接続されている。また、転舵用ECU36には、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ33、ヨーレートセンサ34が接続されている。
この操舵反力用ECU35、転舵用ECU36は、それぞれCPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とする。操舵反力用ECU35は、ROMに記憶した図4に示す操舵反力制御プログラムを実行して、駆動回路37を介して操舵反力用電動モータ13を駆動制御する。転舵用ECU36は、ROMに記憶した図2に示す転舵角制御プログラムを実行して、駆動回路38を介して転舵用電動モータ24を駆動制御する。
駆動回路37,38は、ECU35,36によりそれぞれ制御されて、電動モータ13,24に通電する。これらの駆動回路37,38内には、電動モータ13,24に流れる駆動電流をそれぞれ検出する電流センサ37a,38aがそれぞれ設けられていて、電流センサ37a,38aによって検出された駆動電流値信号はECU35,36にそれぞれ供給される。
次に、転舵用ECU36により実施される操舵角制御について説明する。図2は、転舵用ECU36のROM内に記憶された転舵角制御プログラムを表す。転舵用ECU36は、イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により初期診断処理を行った後、このプログラムで表される転舵角制御ルーチンを開始する。この転舵角制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返される。
本制御ルーチンが起動すると、転舵用ECU36は、ステップS11において、操舵角センサ31、転舵角センサ32によって検出された実操舵角θ、実転舵角δを読み込む。続いて、ステップS12において、ROM内に予め記憶された目標転舵角テーブルを参照して、実操舵角θに対応する目標転舵角δ*を計算する。この目標転舵角テーブルは、操舵ハンドル11の操舵角θと目標転舵角δ*との対応関係を設定したもので、図3に示すように、操舵角θの増加に従って増加する目標転舵角δ*を記憶している。この目標転舵角テーブルを記憶した転舵用ECU36のROMが、本発明の対応関係記憶手段に相当する。
ステップS12においては、実操舵角θを目標転舵角テーブルの操舵角θに代入して、その実操舵角θに対応する目標転舵角δ*を求める。なお、目標転舵角テーブルを用いるのに代えて、操舵角θと目標転舵角δ*との対応関係を予め定めた関数をROM内に記憶しておいて、その関数を用いて実操舵角θに対応する目標転舵角δ*を計算するようにしてもよい。
続いて、転舵用ECU36は、ステップS13に処理を進め、目標転舵角δ*から実転舵角δを減算した差分値(δ*−δ)に比例した目標駆動電流値を演算し、目標駆動電流値に応じた制御信号(例えば、PWM制御信号)を駆動回路38に出力することで目標駆動電流を転舵用電動モータ24に流す。この通電制御は、例えば、電流センサ38aによって検出された駆動電流をフィードバックすることにより行う。これにより、転舵用電動モータ24は、差分値(δ*−δ)が「0」となるように駆動制御され、その回転により、ねじ送り機構26を介して転舵軸21を軸線方向に駆動する。そして、転舵軸21の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*に転舵される。その結果、左右前輪FW1,FW2は、操舵ハンドル11の回動操作に応じて転舵され、車両は左右に旋回される。こうして、転舵用ECU36は、ステップS13の処理を実行すると本転舵角制御ルーチンを一旦終了する。そして、所定の短い周期で本転舵角制御ルーチンを繰り返す。
次に、操舵反力用ECU35により実施される操舵反力制御について説明する。図4は、操舵反力用ECU35のROM内に記憶された操舵反力制御プログラムを表す。操舵反力用ECU35は、イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により初期診断処理を行った後、このプログラムで表される操舵反力制御ルーチンを開始する。この操舵反力制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返される。
本制御ルーチンが起動すると、まず、ステップS21において、操舵角センサ31により検出されている実操舵角θを読み込む。次に、ステップS22において、中立位置ずれが生じているか否かを判断する。このステップS22にて判断する中立位置ずれ検出については、本制御ルーチンと並行して転舵用ECU36により実行される中立位置ずれ検出制御ルーチン(図8参照)の検出結果を読み込むことにより行われる。中立位置ずれ検出制御ルーチンについては後述する。
ステップS22の判断において、「NO」、つまり、中立位置ずれが検出されていない場合は、その処理をステップS23に進めて、バネ反力トルク成分Taを算出する。このバネ反力トルク成分Taは、操舵ハンドル11に付与する操舵反力トルクのうち操舵ハンドル11を中立位置に戻そうとするトルク成分であり、バネ反力トルクテーブルを参照して算出される。このバネ反力トルクテーブルは、図5に示すように、操舵ハンドル11の操舵角θとバネ反力トルク成分Taとの対応関係を転舵用ECU36のROM内に記憶したものである。このテーブルから分かるように、バネ反力トルク成分Taは、操舵角θの増加に従って増加するように設定されている。
ステップS23においては、操舵角センサ31にて検出された実操舵角θをバネ反力トルクテーブルの操舵角θに代入して、その実操舵角θに対応する目標バネ反力トルク成分Taを求める。尚、バネ反力トルクテーブルを用いるのに代えて、操舵角θとバネ反力トルク成分Taとの対応関係を定めた関数をROMに記憶しておいて、その関数を用いて操舵角θに対応する目標バネ反力トルク成分Taを計算するようにしてもよい。
続いて、操舵反力用ECU35は、ステップS24において、摩擦反力トルク成分Tbを算出する。この摩擦反力トルク成分Tbは、操舵ハンドル11に付与する操舵反力トルクのうち、ステアリング機構の摩擦抵抗を模擬的に与えるトルク成分である。摩擦反力トルク成分Tbは、操舵角θを時間で微分した操舵角速度ω(=dθ/dt)の大きさに依存するとともにヒステリシス特性を有して計算されるため、操舵角速度ωと摩擦反力トルク成分Tbとの対応関係を記憶した図6に示す摩擦反力トルクテーブルを用いて計算される。この摩擦反力トルクテーブルは、操舵反力用ECU35のROM内に記憶されている。
操舵角速度ωは、本制御ルーチンが所定の短い周期で繰り返し実行されることから、操舵角センサ31にて検出された実操舵角θの単位時間当たりの変化量を計算することで求められる。ステップS24においては、この算出した実操舵角速度ωを摩擦反力トルクテーブルの操舵角速度ωに代入して、その実操舵角速度ωに対応する目標摩擦反力トルク成分Tbを求める。尚、摩擦反力トルクテーブルを用いるのに代えて、操舵角速度ωと摩擦反力トルク成分Tbとの対応関係を定めた関数をROMに記憶しておいて、その関数を用いて操舵角速度ωに対応する目標摩擦反力トルク成分Tbを計算するようにしてもよい。
続いて、操舵反力用ECU35は、ステップS25において、粘性反力トルク成分Tcを算出する。この粘性反力トルク成分Tcは、操舵ハンドル11に付与する操舵反力トルクのうち、操舵ハンドル11の回動操作に伴い発生する粘性抵抗を模擬的に与えるトルク成分である。粘性反力トルク成分Tcは、操舵角速度ωを時間で微分した操舵角加速度dω/dtに比例して計算されるため、操舵角加速度dω/dtと粘性反力トルク成分Tcとの対応関係を記憶した図7に示す粘性反力トルクテーブルを用いて計算される。この粘性反力トルクテーブルも、操舵反力用ECU35のROM内に記憶されている。
ステップS25においては、実操舵角速度ωの単位時間当たりの変化量を計算して求めた実操舵角加速度dω/dtを粘性反力トルクテーブルの操舵角加速度dω/dtに代入して、その実操舵角加速度dω/dtに対応する目標粘性反力トルク成分Tcを求める。尚、粘性反力トルクテーブルを用いるのに代えて、操舵角加速度dω/dtと粘性反力トルク成分Tcとの対応関係を定めた関数をROMに記憶しておいて、その関数を用いて操舵角加速度dω/dtに対応する目標粘性反力トルク成分Tcを計算するようにしてもよい。
次に、操舵反力用ECU35は、ステップS26において、目標操舵反力トルクT*を算出する。目標操舵反力トルクT*は、ステップS23〜S25にて算出したバネ反力トルク成分Taと摩擦反力トルク成分Tbと粘性反力トルク成分Tcとを合算して求められる。尚、本実施形態においては、この3つのトルク成分Ta,Tb,Tcから目標操舵反力トルクT*を算出するが、他のトルク成分をも加味するようにしてもよい。例えば、左右前輪FW1,FW2と路面との間の摩擦に起因して操舵ハンドル11に入力されるセルフアライメントトルクを模擬的に与えるセルフアライメントトルク成分を加算するようにしてもよい。この場合、セルフアライメントトルク成分は、ヨーレートセンサ34によって検出された実ヨーレートγに比例するように設定することができる。
こうして目標操舵反力トルクT*が算出されると、操舵反力用ECU35は、ステップS27において、目標操舵反力トルクT*に応じた制御信号(例えば、PWM制御信号)を駆動回路37に出力することで、目標操舵反力トルクT*に応じた駆動電流を操舵反力用電動モータ13に流す。この通電制御は、例えば、電流センサ37aによって検出された駆動電流をフィードバックすることにより行う。そして、この操舵反力制御ルーチンを一旦終了する。
この操舵反力制御ルーチンは所定の短い周期で繰り返されるため、逐次計算した目標操舵反力トルクT*に等しい操舵反力が操舵入力軸12を介して操舵ハンドル11に付与される。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して適切な反力トルクが付与され、運転者は、この操舵反力を感じながら操舵ハンドル11を快適に回動操作できる。
ところで、操舵角センサ31により検出される実操舵角θと左右前輪FW1,FW2の実際の転舵角との対応関係がずれている場合には、操舵ハンドル11の中立位置への復元力(バネ反力トルク成分Ta)が適切に働かなくなる。つまり、中立位置のずれ分だけ、操舵ハンドル11を直進方向からずらす方向にトルクが発生してしまう。例えば、左右前輪FW1,FW2が直進方向に向いている場合であっても、操舵角センサ31により検出される実操舵角θが中立位置からずれた値をとると、そのずれ分だけバネ反力トルクが働きハンドル操作が取られてしまう。このため、運転者に違和感を与える。
そこで、ステップS22において、中立位置ずれが検出されている場合には、次の2つの処理(S28,S29)を加える。ステップS28においては、バネ反力トルク成分Taの大きさ(絶対値)が、通常時(中立位置ずれが検出されていないとき)に比べて小さくなるように補正係数K1(<1)を設定する。本実施形態においては、バネ反力トルク成分Taがゼロとなるように補正係数K1をゼロ(K1=0)に設定する。
この補正係数K1は、ステップS23におけるバネ反力トルク成分Taの算出時に乗じられる。つまり、バネ反力トルクテーブルを参照して求められたバネ反力トルク成分Taに補正係数K1を乗じて最終的な目標バネ反力トルク成分Taが算出される。従って、この場合、バネ反力トルク成分Taはカットされることとなる。尚、バネ反力トルク成分Taをゼロにせずに、通常時よりも小さくなるように補正係数K1を設定してもよい(0<K1<1)。
次のステップS29においては、摩擦反力トルク成分Tb、粘性反力トルク成分Tcの大きさ(絶対値)が、通常時に比べて大きくなるように補正係数K2(>1)を設定する。この補正係数K2は、ステップS24,25における摩擦反力トルク成分Tb、粘性反力トルク成分Tcの算出時に乗じられる。つまり、摩擦反力トルクテーブル、粘性反力トルクテーブルを参照して求められた摩擦反力トルク成分Tb、粘性反力トルク成分Tcに補正係数K2を乗じて最終的な目標摩擦反力トルク成分Tb、目標粘性反力トルク成分Tcが算出される。従って、摩擦反力トルク成分Tb、粘性反力トルク成分Tcは通常時に比べて大きくなる。
尚、この場合、摩擦反力トルク成分Tbと粘性反力トルク成分Tcとを別々の補正係数を乗じるようにしてもよいし、何れか一方のトルク成分に対してのみ補正係数を乗じるようにしてもよい。また、補正係数は、バネ反力トルク成分Taを減じた大きさに対応して可変してもよい。例えば、バネ反力トルク成分Taの低減量が大きいほど、他のトルク成分を増大するように調整する調整手段を設けてもよい。
こうして、ステップS28,S29において、各トルク成分の補正係数K1,K2が設定されると、上述したステップS23からのトルク成分の算出処理が行われる。従って、実操舵角θの中立位置と左右前輪FW1,FW2の中立位置とがずれている場合には、操舵角θに応じて設定されるバネ反力トルク成分がカットされるため、操舵ハンドル11の中立位置への復元力がなくなり、車両の直進に対してずらす方向に操舵反力トルクが働かなくなる。また、このバネ反力トルク成分をカットしたぶん、摩擦反力トルク成分Tbと粘性反力トルク成分Tcとを増大しているため、それらを合算した目標操舵反力トルクT*の大きさが急変しない。これらの結果、運転者に対する違和感を低減することができる。
次に、転舵用ECU36により実施される中立位置ずれ検出制御について説明する。図8は、転舵用ECU36のROM内に記憶された中立位置ずれ検出制御プログラムを表す。転舵用ECU36は、イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により初期診断処理を行った後、このプログラムで表される中立位置ずれ検出制御ルーチンを開始する。この中立位置ずれ検出制御ルーチンは所定の短い周期で繰り返される。尚、転舵用ECU36は、上述した転舵角制御ルーチンと並行してこの中立位置ずれ検出制御ルーチンを実行する。
本制御ルーチンが起動すると、転舵用ECU36は、まず、ステップS31において、転舵角センサ32に異常が生じているか否かを判断する。転舵角センサ32が故障している場合には、実操舵角θと左右前輪FW1,FW2の実際の転舵角との対応関係がずれるおそれがある。そこで、本制御ルーチンでは、まず、転舵角センサ32の異常の有無を判断する。ここでは、転舵角センサ32を構成する2つの相対角センサと絶対角センサの異常の有無が判断される。
例えば、断線、短絡等により各センサの出力信号の電圧値や波形が正常範囲から外れている場合や、2つの相対角センサの出力が相違する場合に異常ありと判断する。また、イグニッションスイッチがオンしたときに行う初期診断時において絶対角が読み込めなかった場合にも異常ありと判断する。そして、転舵用ECU36は、転舵角センサ32を構成する3つのセンサすべてにおいて異常が検出されない場合には、「NO」と判定して本制御ルーチンを一旦終了する。一方、3つのセンサのうち1つでも異常があれば「YES」と判定して、その処理をステップS32に進める。
転舵用ECU36は、ステップS31において転舵角センサ32に異常が生じていると判定した場合には、次のステップS32において、転舵角が不明か否かを判断する。つまり、3つのセンサのうち異常が検出されていないセンサに基づいても転舵角が不明か否かを判断する。ステップS32の判断が「NO」、つまり、転舵角が検出できる状態であれば、本制御ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS32において、「YES」、つまり、転舵角が不明である場合には、転舵用ECU36は、その処理をステップS33に進める。例えば、初期診断時において絶対角が読み込めなかった場合にも転舵角が不明であると判断される。
このステップS33においては、操舵角センサ31により検出される実操舵角θと、車速センサ33により検出される車速Vと、ヨーレートセンサ34により検出される実ヨーレートγを読み込む。続いて、ステップS34において、実操舵角θと車速Vとから車両の理論ヨーレートγ0を算出する。理論ヨーレートγ0は、実操舵角θ、車速Vで車両走行した場合に演算上で推定される車両のヨーレート値であり、例えば、
γ0=f(θ,V)
とした関数にて算出される。あるいは、実操舵角θ、車速Vから理論ヨーレートγ0を導き出す変換テーブルを用いて算出するようにしてもよい。
続いて、転舵用ECU36は、ステップS35において、ヨーレートセンサ34により検出された実ヨーレートγと演算上の理論ヨーレートγ0との偏差Δγ(=|γ−γ0|)が基準値Aより大きいか否かを判断する。偏差Δγが基準値Aより大きい場合には(S35:YES)、中立位置ずれが生じていると判定して、ステップS36に処理を進めて、「中立位置ずれ有り」を表す検出信号を操舵反力用ECU35に出力する。この検出信号は、上述した操舵反力制御ルーチンのステップS22において読み込まれる信号となる。一方、偏差Δγが基準値A以下であれば、本制御ルーチンを一旦抜ける。
転舵用ECU36は、本制御ルーチンを所定の短い周期で繰り返し実行する。操舵角センサ31により検出される実操舵角θの中立位置と、実際の左右前輪FW1,FW2の中立位置とのずれは、車両走行中における実ヨーレートγと理論ヨーレートγ0との偏差として現れる。そこで本実施形態においては、転舵角検出が不能となっているときに、このヨーレートの偏差Δγを繰り返し算出し、その偏差Δγが基準値Aを超えたときに、中立位置の関係ずれが生じていると判断する。従って、中立位置の関係ずれを簡単に検出することができる。
本制御ルーチンは、所定の周期で繰り返されるが、一旦、中立位置の関係ずれが検出されて「中立位置ずれ有り」を表す検出信号を出力した後は、次のイグニッションスイッチがオンされて起動するまで停止状態におかれる。この場合、「中立位置ずれ有り」を表す検出信号はオン保持される。従って、操舵反力制御ルーチンのステップS22においては、「中立位置ずれ有り」との判定が継続されることとなり、バネ反力トルク成分Taのカット、および、摩擦反力トルク成分Tb、粘性反力トルク成分Tbの増大補正が継続される。尚、例えば、中立位置を適正に戻す制御を並行して行い、中立位置ずれが解消されたと判断した場合に、「中立位置ずれ有り」を表す検出信号の出力を停止(オフ)して、本制御ルーチンを再開するようにしてもよい。
以上説明した第1実施形態の車両の操舵装置によれば、実操舵角θと実際の左右前輪FW1,FW2の転舵角との対応関係がずれた場合に、バネ反力トルク成分を低減(カット)するため、車両の直進走行を妨げる方向への操舵反力トルクが働かなくなる。また、バネ反力トルク成分の低減と同時に、摩擦反力トルク成分Tbと粘性反力トルク成分Tcとを増大しているため、それらを合算した目標操舵反力トルクT*の大きさが急変しない。従って、中立位置ずれによる操舵操作の違和感を低減することができる。しかも、バネ反力トルク成分Taの大きさを演算上で減少させるものであるため、機械的な構成の追加も不要で、簡単に実施することができる。
また、中立位置ずれ有無の判断処理は、実ヨーレートγと理論ヨーレートγ0との偏差Δγに基づいて演算により行うため簡単に行うことができる。しかも、転舵角センサ32の異常により転舵角が不明になったときに行い、それ以外では行わないようにしているため、ヨーレート偏差Δγを算出する演算負担が低減されている。
次に、第2実施形態にかかる車両の操舵装置について説明する。この第2実施形態は、第1実施形態における中立位置ずれ検出ルーチンを変更したもので、他の構成については第1実施形態同一である。従って、第1実施形態と相違する中立位置ずれ検出ルーチンについてのみ説明する。図9は、第2実施形態としての転舵用ECU36のROM内に記憶された中立位置ずれ検出プログラムを表す。転舵用ECU36は、イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により初期診断処理を行った後、このプログラムで表される中立位置ずれ検出制御ルーチンを開始する。この中立位置ずれ検出制御ルーチンは所定の短い周期で繰り返される。
本制御ルーチンが起動すると、転舵用ECU36は、まずステップS41において、転舵角センサ32に異常が生じているか否かを判断し、異常が検出されない場合には本制御ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS41において、転舵角センサ32に異常が生じていると判定された場合には、次のステップS42において、転舵角が不明か否かを判断し、転舵角が検出できる状態であれば本制御ルーチンを一旦終了する。このステップS41,S42の判断処理は、第1実施形態におけるステップS31,S32のものと同一である。
ステップS42において、「YES」、つまり、転舵角が不明である場合には、転舵用ECU36は、その処理をステップS43に進める。このステップS43においては、車速センサ33により検出された車速Vと、電流センサ37aにより検出された操舵反力用電動モータ13に流れる電流値(以下、反力モータ電流i1と呼ぶ)と、電流センサ38aにより検出された転舵用電動モータ24に流れる電流値(以下、転舵モータ電流i2と呼ぶ)とを読み込む。この場合、反力モータ電流i1については、電流センサ37aから直接読み込んでも良いし、操舵反力用ECU35を経由して読み込んでも良い。また、実際に電流センサ37a,38aにて検出された電流値を用いるのではなく、制御上における目標電流値(操舵反力用電動モータ13に流す目標駆動電流値、転舵用電動モータ24に流す目標駆動電流値)を用いてもよい。
続いて、転舵用ECU36は、ステップS44において、車速センサ33により検出された車速Vが基準車速Vrefより大きいか否かを判断する。車速Vが基準車速Vref以下の場合(S44:NO)には、中立位置のずれを判定するための判定条件を満たしていないため、本制御ルーチンを一旦終了する。この場合、後述するタイマの計時か開始されている状況であれば、ステップS50において、そのタイマ値tをゼロクリアする。
ステップS44において、車速Vが基準速度Vrefより大きいと判断された場合には、続いて、ステップS45の判断処理を行う。このステップS45においては、電流センサ38aにより検出された転舵モータ電流i2の大きさ(回転方向を問わない絶対値)が基準電流値i2refより小さいか否かを判断する。転舵モータ電流i2の大きさが基準電流値i2ref以上の場合(S45:NO)には、中立位置のずれを判定するための判定条件を満たしていないため、本制御ルーチンを一旦終了する。この場合も、タイマの計時か開始されている状況であれば、ステップS50において、そのタイマ値tをゼロクリアする。
ステップS45において、転舵モータ電流i2の大きさが基準電流値i2refより小さいと判断された場合には、続いて、ステップS46の判断処理を行う。このステップS46においては、電流センサ37aにより検出された反力モータ電流i1の大きさ(回転方向を問わない絶対値)が基準電流値i1refより大きいか否かを判断する。反力モータ電流i1の大きさが基準電流値i1ref以下の場合(S46:NO)には、本制御ルーチンを一旦終了する。この場合も、タイマの計時か開始されている状況であれば、ステップS50において、そのタイマ値tをゼロクリアする。
ステップS46において、反力モータ電流i1の大きさが基準電流値i1refより大きいと判断された場合には、中立位置ずれのおそれがあるため、その継続状態をタイマの計時により判断する。つまり、ステップS47において、タイマ値tを値1だけインクリメントし、ステップS48において、そのインクリメントされたタイマ値tが基準時間trefを越えたか否かを判断する。このタイマ値tは、本制御ルーチンの起動時においてはゼロクリアされている。
ステップS48において、タイマ値tが基準時間trefを越えていなければ、本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返される。そして、この基準時間trefが経過しないうちに、車速Vが基準車速Vref以下になったり(S44:NO)、転舵モータ電流i2の大きさが基準電流値i2ref以上となったり(S45:NO)、反力モータ電流i1の大きさが基準電流値i1ref以下となった(S46:NO)場合には、タイマ値tをゼロクリアする(S50)。
こうした判断処理が繰り返されて、ステップS44〜S46の3つの条件が成立している連続時間が基準時間trefを超えると、ステップS49において、中立位置ずれが生じていると判断して、「中立位置ずれ有り」を表す検出信号を操舵反力用ECU35に出力する。この検出信号は、上述した操舵反力制御ルーチンのステップS22において読み込まれる信号となる。
転舵用ECU36は、「中立位置ずれ有り」を表す検出信号を操舵反力用ECU35に出力すると、第1実施形態と同様に、その検出信号の出力状態を維持して本制御ルーチンの実行を終了する。従って、以後、例えば車速Vが基準速度Vrefを下回っても、「中立位置ずれ有り」の判定出力が継続されることとなる。尚、例えば、中立位置を適正に戻す制御を並行して行い、中立位置ずれが解消されたと判断した場合に、「中立位置ずれ有り」を表す検出信号の出力を停止(オフ)して、本制御ルーチンを再開するようにしてもよい。
ここで、第2実施形態における中立位置ずれの判定原理について説明する。
左右前輪FW1,FW2が直進方向を向いて走行しているときには、転舵用電動モータ24の駆動電流は非常に小さな値となる。このとき、操舵角センサ31により検出される実操舵角θと実際の左右前輪FW1,FW2の転舵角との対応関係にずれが生じていない場合であれば、実操舵角θも中立位置あるいはそれに極めて近い位置となるため、操舵反力用電動モータ13の駆動電流の大きさも小さな値となるはずである。
そこで第2実施形態においては、車速Vが基準速度Vrefより大きく、かつ転舵モータ電流i2の大きさが基準電流値i2refより小さいとき、つまり、車両がほぼ直進方向を向いて走行しているときに、反力モータ電流i1の大きさに基づいて中立位置ずれを判断する。このとき、反力モータ電流i1の大きさが基準電流値i1refより大きい場合には、中立位置ずれ有りと判定できる。従って、中立位置ずれを簡単に検出することができる。また、基準時間trefの継続を確認してから判定するため、ハンドル操作中における一時的な条件一致による誤判定が防止され判定精度が高い。
以上、本実施形態の車両の操舵装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
また、本実施形態においては、転舵用ECU36にて中立位置ずれの検出を行っているが、操舵反力用ECU35にてその検出(図8、図9に示す中立位置ずれ検出ルーチン)を行ってもよい。その場合には、操舵反力用ECU35に車速センサ33、ヨーレートセンサ34を接続して、それらの検出信号を入力するようにする。
また、本実施形態においては、バネ反力トルク成分Ta以外の反力トルク成分として摩擦反力トルク成分Tbと粘性反力トルク成分Tcとを用いているが、何れか一方の反力トルク成分だけを用いてもよく、また、セルフアライメントトルク成分など別の反力トルク成分を用いるようにしてもよい。
10…操舵操作装置、11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…操舵反力用電動モータ、20…転舵装置、21…転舵軸、24…転舵用電動モータ、30…電気制御装置、31…操舵角センサ、32…転舵角センサ、33…車速センサ、34…ヨーレートセンサ、37a,38a…電流センサ、35…操舵反力用ECU、36…転舵用ECU、FW1,FW2…左右前輪、T*…目標操舵反力トルク、Ta…バネ反力トルク成分、Tb…摩擦反力トルク成分、Tc…粘性反力トルク成分、V…車速、γ…実ヨーレート、γ0…理論ヨーレート、δ…実転舵角、θ…実操舵角、i1…反力モータ電流、i2…転舵モータ電流。