以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載したハイブリッド車のパワートレーンについて説明する。なお、本実施の形態に係る制御装置は、たとえば、ECU(Electronic Control Unit)1000がROM(Read Only Memory)1002に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
図1に示すように、パワートレーン90は、エンジン100と、MG(Motor Generator)(1)200と、これらエンジン100とMG(1)200との間でトルクを合成もしくは分配する動力分割機構300と、MG(2)400と、変速機500とを主体として構成されている。
エンジン100は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、たとえば、マイクロコンピュータを主体とするECU1000によって行なわれる。
MG(1)200は、一例として三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを生じるように構成される。インバータ210を介してバッテリなどの蓄電装置700に接続されている。インバータ210を制御することにより、MG(1)200の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。その制御は、ECU1000によって行なわれる。なお、MG(1)200のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
動力分割機構300は、外歯歯車であるサンギヤ(S)310と、そのサンギヤ(S)310に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ(R)320と、これらサンギヤ(S)310とリングギヤ(R)320とに噛合しているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤ(C)330とを三つの回転要素として差動作用を生じる公知の歯車機構である。エンジン100の出力軸がダンパ110を介して第1の回転要素であるキャリヤ(C)330に連結されている。言い換えれば、キャリヤ(C)330が入力要素となっている。
これに対して第2の回転要素であるサンギヤ(S)310にMG(1)200のロータ(図示せず)が連結されている。したがってサンギヤ(S)310がいわゆる反力要素となっており、また第3の回転要素であるリングギヤ(R)320が出力要素となっている。そして、そのリングギヤ(R)320が、駆動輪(図示せず)に連結された出力軸600に連結されている。
図2に、動力分割機構300の共線図を示す。図2に示すように、キャリヤ(C)330に入力されるエンジン100の出力するトルクに対して、MG(1)200による反力トルクをサンギヤ(S)310に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素となっているリングギヤ(R)320に現れる。その場合、MG(1)200のロータがそのトルクによって回転し、MG(1)200は発電機として機能する。また、リングギヤ(R)320の回転数(出力回転数)を一定とした場合、MG(1)200の回転数を大小に変化させることにより、エンジン100の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン100の回転数をたとえば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、MG(1)200を制御することによって行なうことができる。その制御は、ECU1000によって行なわれる。
走行中にエンジン100を停止させていれば、MG(1)200が逆回転しており、その状態からMG(1)200を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、キャリヤ(C)330に連結されているエンジン100にこれを正回転させる方向のトルクが作用し、MG(1)200によってエンジン100を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる。その場合、出力軸600にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって走行のための駆動トルクは、MG(2)400の出力するトルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン100の始動を円滑に行なうことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
図1に戻って、MG(2)400は、一例として三相交流回転電機であって、電動機としての機能と発電機としての機能とを生じるように構成される。インバータ410を介してバッテリなどの蓄電装置700接続されている。インバータ410を制御することにより、力行および回生ならびにそれぞれの場合におけるトルクを制御するように構成されている。なお、MG(2)400のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
変速機500は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。それぞれ外歯歯車である第1サンギヤ(S1)510と第2サンギヤ(S2)520とが設けられており、その第1サンギヤ(S1)510に第1のピニオン531が噛合するとともに、その第1のピニオン531が第2のピニオン532に噛合し、その第2のピニオン532が各サンギヤ510,520と同心円上に配置されたリングギヤ(R)540に噛合している。
なお、各ピニオン531,532は、キャリヤ(C)550によって自転かつ公転自在に保持されている。また、第2サンギヤ(S2)520が第2のピニオン532に噛合している。したがって第1サンギヤ(S1)510とリングギヤ(R)540とは、各ピニオン531,532と共にダブルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成し、また第2サンギヤ(S2)520とリングギヤ(R)540とは、第2のピニオン532と共にシングルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成している。
さらに、変速機500には、第1サンギヤ(S1)510を選択的に固定するB1ブレーキ561と、リングギヤ(R)540を選択的に固定するB2ブレーキ562とが設けられている。これらのブレーキ561,562は摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合要素であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキ561,562は、油圧による係合力に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。さらに、第2サンギヤ(S2)520に前述したMG(2)400が連結される。キャリヤ(C)550が出力軸600に連結される。
したがって、上記の変速機500は、第2サンギヤ(S2)520がいわゆる入力要素であり、またキャリヤ(C)550が出力要素となっており、B1ブレーキ561を係合させることにより変速比が“1”より大きい高速段が設定される。B1ブレーキ561に替えてB2ブレーキ562を係合させることにより、高速段より変速比の大きい低速段が設定される。
この各変速段の間での変速は、車速や要求駆動力(もしくはアクセル開度)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。
図3に、変速機500の共線図を示す。図3に示すように、B2ブレーキ562によってリングギヤ(R)540を固定すれば、低速段Lが設定され、MG(2)400の出力したトルクが変速比に応じて増幅されて出力軸600に付加される。これに対してB1ブレーキ561によって第1サンギヤ(S1)510を固定すれば、低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も“1”より大きいので、MG(2)400の出力したトルクがその変速比に応じて増大させられて出力軸600に付加される。
なお、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、出力軸600に付加されるトルクは、MG(2)400の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキ561,562でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、出力軸600に付加されるトルクは、MG(2)400の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
このハイブリッド車には、図4に示すように、前述した各ブレーキ561,562に対して油圧を給排してその係合・解放の制御を行なう油圧制御装置800が設けられている。
この油圧制御装置800は、機械式オイルポンプ810と電動オイルポンプ820と、これらのオイルポンプ810,820で発生させた油圧をライン圧に調圧(調整)するとともに、そのライン圧を元圧として調圧した油圧を各ブレーキ561,562に対して給排し、かつ適宜の箇所に潤滑のためのオイルを供給する油圧回路830とを備えている。
機械式オイルポンプ810は、エンジン100によって駆動されて油圧を発生するポンプであって、たとえばダンパ110の出力側に同軸上に配置され、エンジン100からトルクを受けて動作するようになっている。これに対して電動オイルポンプ820は、モータ(図示せず)によって駆動されるポンプであって、ケーシング(図示せず)の外部などの適宜の箇所に取り付けられ、バッテリなどの蓄電装置から電力を受けて動作し、油圧を発生するようになっている。電動オイルポンプ820は、所望の油圧を発生するように、ECU1000により制御される。たとえば、電動オイルポンプ820の回転数等がフィードバック制御される。
油圧回路830は、複数のソレノイドバルブや切換バルブあるいは調圧バルブ(それぞれ図示せず)を備え、調圧や油圧の給排を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、ECU1000により行なわれる。油圧回路内を流通する作動油の温度(以下、油温とも記載する)は、油温センサ1010により検出され、検出結果を表す信号がECU1000に送信される。
なお、各オイルポンプ810,820の吐出側には、それぞれのオイルポンプ810,820の吐出圧で開き、これとは反対方向には閉じる逆止弁812,822が設けられ、かつ油圧回路830に対してこれらのオイルポンプ810,820は互いに並列に接続されている。
ライン圧を調圧するソレノイドバルブ832は、吐出量を増大させてライン圧を第1油圧P(1)まで高くする高圧状態と、これとは反対に吐出量を第2油圧P(2)まで減じてライン圧を低くする低圧状態の二つの状態にライン圧を制御する。
上述したパワートレーン90は、エンジン100とMG(2)400との二つの動力源を備えているので、これらを有効に利用して低燃費で排ガス量の少ない運転がおこなわれる。またエンジン100を駆動する場合であっても、MG(1)200によって最適燃費となるようにエンジン100の回転数が制御される。さらに、コースト時には車両の有する慣性エネルギーが電力として回生される。そして、MG(2)400を駆動してトルクアシストする場合、車速が遅い状態では変速機500を低速段Lに設定して出力軸600に付加するトルクを大きくし、車速が増大した状態では、変速機500を高速段Hに設定してMG(2)400の回転数を相対的に低下させて損失を低減し、効率の良いトルクアシストが実行される。
上述したハイブリッド車は、エンジン100の動力による走行、エンジン100とMG(2)400とを使用した走行、MG(2)400のみを使用した走行のいずれもが可能である。これらの走行形態は、アクセル開度などの駆動要求量、エンジン回転数、変速機の500の入力軸回転数NI、出力軸回転数NO(車速)、シフトレバー(図示せず)の位置(シフトポジション)などに基づいて判断され、選択される。
図1に示すように、アクセル開度センサ1020によりアクセル開度が検出される。エンジン回転数センサ1030によりエンジン回転数が検出される。入力軸回転数センサ1040により、変速機500の入力軸回転数NIが検出される。出力軸回転数センサ1050により、変速機500の出力軸回転数(出力軸600の回転数)NOが検出される。この出力軸回転数NOから車速が算出される。シフトポジションセンサ1060によりシフトポジションが検出される。
図5を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現するようにしてもよく、ソフトウェアにより実現するようにしてもよい。
ECU1000は、油圧制御部1100と、検出部1102と、待機圧補正部1104と、トルク増大部1106と、時間補正部1108とを含む。油圧制御部1100は、低速段Lから高速段Hへアップシフトする際、図6に示すように、B2ブレーキ562を係合状態から解放状態にし、B1ブレーキ561を解放状態から係合状態にするように、各ブレーキに供給される油圧を制御する。
アップシフト時にB1ブレーキ561に供給される油圧は、図6に示すように、変速開始(変速指令の出力)後、予め定められた時間ΔT(1)が経過した時間T(1)において、一旦増大される。
その後、予め定められた時間ΔT(2)が経過した時間T(2)において、アップ待機圧P(HU)で保持される。変速開始前の油圧よりも大きく、かつイナーシャ相を開始させるために十分な値が、アップ待機圧P(HU)に定められる。アップ待機圧P(HU)において油圧を保持した状態で、イナーシャ相が時間T(3)において開始すると、油圧が漸増(予め定められた増大率で増大)される。
アップシフト時にB2ブレーキ562に供給される油圧は、図6に示すように、変速開始(変速指令の出力)とともに、ドレン待機圧P(HD)まで低下される。その後、時間T(4)において、アップシフト時にB2ブレーキ562に供給される油圧は、予め定められた低下率で漸減され始める。アップシフト時にB2ブレーキ562に供給される油圧は、B2ブレーキ562が解放状態になるまで漸減される。
検出部1102は、図7に示すように、変速中の変速機500の入力軸回転数NIが、変速前のギヤ段(ギヤ比)を出力軸回転数NOに乗じて算出される同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)を計測する。たとえば、アップシフトのイナーシャ相が開始するまでに入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間が計測される。
待機圧補正部1104は、変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)に応じて、ドレン待機圧P(HD)を補正する。たとえば、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が、実験などにより予め定められた目標時間ΔT(T)より長いと、これらの差に応じてドレン待機圧P(HD)が大きくなるように補正される。入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が、目標時間ΔT(T)より短いと、これらの差に応じてドレン待機圧P(HD)が小さくなるように補正される。なお、ドレン待機圧P(HD)を補正する方法はこれに限らない。
トルク増大部1106は、アップシフトを開始してから(変速指令が出力されてから)時間ΔT(UP)が経過すると、図8において斜線で示すように、アップシフトのトルク相中に、パワートレーン90の出力トルクが増大するように、エンジン100、MG(1)200およびMG(2)400のうちの少なくともいずれか一つの駆動源を制御する。すなわち、パワートレーン90の出力トルクが補償される。
時間補正部1108は、アップシフトを開始してから(変速指令が出力されてから)パワートレーン90の出力トルクの増大を開始するまでの時間ΔT(UP)を、ドレン待機圧P(HD)、すなわち変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)に応じて補正する。
時間ΔT(UP)は、ドレン待機圧P(HD)が増加すると、ドレン待機圧P(HD)の増加分に予め定められた係数を乗じて算出される時間だけ長くなるように補正される。すなわち、変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が長い場合は短い場合と比較して、パワートレーン90の出力トルクの増大を開始するタイミングがより遅くなるように補正される。
一方、ドレン待機圧P(HD)が減少した場合であっても、時間ΔT(UP)は補正されない。すなわち、時間ΔT(UP)は、長くなるようにのみ補正され、短くなるようには補正されない。
図9を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000が、実行するプログラムの制御構造(その1)について説明する。
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU1000は、変速機500の変速を行なうか否かを判断する。変速を行なうか否かは、たとえばアクセル開度と車速とをパラメータにもつ変速線図に基づいて判断される。変速を行なう場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS100に戻される。
S102にて、ECU1000は、アップシフトを行なうか否かを判断する。アップシフトを行なう場合(S102にてYES)、処理はS104に移される。もしそうでないと(S102にてNO)、この処理は終了する。
S104にて、ECU1000は、アップシフトを開始する。S106にて、ECU1000は、B2ブレーキ562を係合状態から解放状態にし、B1ブレーキ561を解放状態から係合状態にするように、各ブレーキに供給される油圧を制御する。
図10を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000が実行するプログラムの制御構造(その2)について説明する。
S110にて、ECU1000は、アップシフトを開始したか否かを判断する。アップシフトの開始はECU1000自体が判断するため、アップシフトを開始したか否かはECU1000の内部で判断される。アップシフトを開始すると(S110にてYES)、処理はS112に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS110に戻される。
S112にて、ECU1000は、アップシフトを開始してから時間ΔT(UP)が経過したか否かを判断する。時間ΔT(UP)が経過すると(S112にてYES)、処理はS114に移される。もしそうでないと(S112にてNO)、処理はS112に戻される。
S114にて、ECU1000は、パワートレーン90の出力トルクが増大するように、エンジン100、MG(1)200およびMG(2)400のうちの少なくともいずれか一つの駆動源を制御する。
図11を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000が実行するプログラムの制御構造(その3)について説明する。
S200にて、ECU1000は、アップシフトを開始したか否かを判断する。アップシフトを開始するか否かは、ECU1000自体が決定しているため、アップシフトを開始したか否かはECU1000の内部で判断される。アップシフトを開始すると(S200にてYES)、処理はS202に移される。もしそうでないと(S200にてNO)、処理はS200に戻される。
S202にて、ECU1000は、変速中の変速機500の入力軸回転数NIが、変速前のギヤ段(ギヤ比)を出力軸回転数NOに乗じて算出される同期回転数よりも大きくなったか否かを判断する。たとえば、イナーシャ相が開始する前において、変速中の変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなったか否かが判断される。
変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなると(S202にてYES)、処理はS204に移される。もしそうでないと(S202にてNO)、処理はS210に移される。
S204にて、ECU1000は、変速中の変速機500の入力軸回転数NIが、変速前のギヤ段(ギヤ比)を出力軸回転数NOに乗じて算出される同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)を計測(検出)する。
S206にて、ECU1000は、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が、実験などにより予め定められた目標時間ΔT(T)より長いか否かを判断する。入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が目標時間ΔT(T)より長いと(S206にて7YES)、処理はS208に移される。もしそうでないと(S206にてNO)、処理はS210に移される。
S208にて、ECU1000は、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)と目標時間ΔT(T)との差に応じてドレン待機圧P(HD)が大きくなるように補正する。
S210にて、ECU1000は、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)と目標時間ΔT(T)との差に応じてドレン待機圧P(HD)が小さくなるように補正する。
図12を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000が実行するプログラムの制御構造(その4)について説明する。
ステップ(以下、ステップをSと略す)300にて、ECU1000は、ドレン待機圧P(HD)が現在までの最大値より増加したか否かを判断する。すなわち、ECU1000は、アップシフトのイナーシャ相が開始するまでに、変速中の変速機500の入力軸回転数NIが、変速前のギヤ段(ギヤ比)を出力軸回転数NOに乗じて算出される同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が増加したか否かを判断する。
ドレン待機圧P(HD)が現在までの最大値より増加すると(S300にてYES)、処理はS302に移される。もしそうでないと(S300にてNO)、この処理は終了する。
S302にて、ECU1000は、アップシフトを開始してから(変速指令が出力されてから)パワートレーン90の出力トルクの増大を開始するまでの時間ΔT(UP)が、ドレン待機圧P(HD)の増加分に予め定められた係数を乗じて算出される時間だけ長くなるように補正する。すなわち、変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が長い場合は短い場合と比較して、パワートレーン90の出力トルクの増大を開始するタイミングがより遅くなるように補正される。
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU1000の動作について説明する。
変速を行なう場合であって(S100にてYES)、かつアップシフトを行なう場合(S102にてYES)、アップシフトが開始される(S104)。アップシフトが開始されると、B2ブレーキ562を係合状態から解放状態にし、B1ブレーキ561を解放状態から係合状態にするように、各ブレーキに供給される油圧が制御される(S106)。
また、アップシフトが開始されると(S110にてYES)、アップシフトを開始してから時間ΔT(UP)が経過したか否かが判断される(S112)。時間ΔT(UP)が経過すると(S112にてYES)、パワートレーン90の出力トルクが増大するように、エンジン100、MG(1)200およびMG(2)400のうちの少なくともいずれか一つの駆動源が制御される(S114)。これにより、トルク相中における出力トルクの低下量を小さくすることができる。
ところで、変速機500における変速が、常に良好な状態で行なわれるとは限らない。たとえば、B1ブレーキ561もしくはB2ブレーキ562の係合力が小さいと、変速中において変速機500の入力軸回転数NIが吹き上がる。そこで、変速中の変速機500の入力軸回転数NIの大きさに応じて、B2ブレーキ562のドレン待機圧P(HD)が補正される。
アップシフトが開始され(S200にてYES)、変速中の変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなると(S202にてYES)、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が計測される(S204)。
入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が、実験などにより予め定められた目標時間ΔT(T)より長いと、B1ブレーキ561およびB2ブレーキ562のうちの少なくともいずれか一方の係合力が不十分であるといえる。
したがって、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が目標時間ΔT(T)より長いと(S206にてYES)、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)と目標時間ΔT(T)との差に応じてドレン待機圧P(HD)が大きくなるように補正される(S208)。
一方、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくならない場合(S202にてNO)、もしくは、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が目標時間ΔT(T)以下である場合、B1ブレーキ561およびB2ブレーキ562係合力が十分であるか、もしくは過大であるといえる。
これらの場合、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)と目標時間ΔT(T)との差に応じてドレン待機圧P(HD)が小さくなるように補正される(S210)。
ところで、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が目標時間ΔT(T)より長い場合、すなわち、B1ブレーキ561およびB2ブレーキ562のうちの少なくともいずれか一方の係合力が不十分である場合には、B2ブレーキ562のドレン待機圧P(HD)のみが大きくされる。
そのため、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が目標時間ΔT(T)より長くなった原因が、経年劣化によりB1ブレーキ561の係合力が低下したことであっても、B1ブレーキ561の係合力は低下したままになる。
したがって、変速の進行が遅れ、図13において一点鎖線で示すように、トルク相が開始するタイミングが遅れる。この場合において、アップシフトを開始してからパワートレーン90の出力トルクの増大を開始するまでの時間ΔT(UP)が一定であると、トルク相が開始する前において出力トルクが増大され、ショックが発生し得る。
そこで、ドレン待機圧P(HD)が現在までの最大値より増加すると(S300にてYES)、アップシフトを開始してからパワートレーン90の出力トルクの増大を開始するまでの時間ΔT(UP)が、ドレン待機圧P(HD)の増加分に予め定められた係数を乗じて算出される時間だけ長くなるように補正される(S302)。
すなわち、変速機500の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が長い場合は短い場合と比較して、パワートレーン90の出力トルクの増大を開始するタイミングがより遅くなるように補正される。これにより、トルク相が開始するタイミングと出力トルクを増大するタイミングとのずれを小さくすることができる。そのため、トルク相の開始前にパワートレーン90の出力トルクが増大されないようにすることができる。その結果、変速時に発生し得るショックを低減することができる。
ところで、通常、トルク相が開始するタイミングは、アップシフトにより解放状態から係合状態にされる摩擦係合要素、すなわちB1ブレーキ561の係合力により依存する。したがって、たとえば、B2ブレーキ562の係合力が大きいために、入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が目標時間ΔT(T)以下となっても、トルク相が開始するタイミングは早くならない。また、通常、B1ブレーキ561の係合力は経年劣化により小さくなり、トルク相が開始するタイミングは遅れる傾向にある。そのため、アップシフトを開始してからパワートレーン90の出力トルクの増大を開始するまでの時間ΔT(UP)は、長くなるようにのみ補正され、短くなるようには補正されない。
以上のように、本実施の形態に係る制御装置であるECUによれば、変速中(特にアップシフト中)に変速機の入力軸回転数NIが同期回転数よりも大きくなる時間ΔT(NI)が長い場合は短い場合と比較して、パワートレーンの出力トルクの増大を開始するタイミングがより遅くなるように補正される。これにより、トルク相の開始前にパワートレーンの出力トルクが増大されないようにすることができる。そのため、変速時に発生し得るショックを低減することができる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
90 パワートレーン、100 エンジン、200 MG(1)、300 動力分割機構、400 MG(2)、500 変速機、561 B1ブレーキ、562 B2ブレーキ、600 出力軸、700 蓄電装置、800 油圧制御装置、810 機械式オイルポンプ、820 電動オイルポンプ、830 油圧回路、1000 ECU、1002 ROM、1010 油温センサ、1020 アクセル開度センサ、1030 エンジン回転数センサ、1040 入力軸回転数センサ、1050 出力軸回転数センサ、1060 シフトポジションセンサ、1100 油圧制御部、1102 検出部、1104 待機圧補正部、1106 トルク増大部、1108 時間補正部。