JP5017211B2 - 炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、並びにそれを用いた炭素繊維前駆体アクリル繊維束及びその製造方法 - Google Patents

炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、並びにそれを用いた炭素繊維前駆体アクリル繊維束及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、炭素繊維の製造過程において、炭素繊維前駆体アクリル繊維束(以下、単に前駆体繊維束とも表記する)を耐炎化繊維束に転換する耐炎化工程で、単繊維間に融着が発生することを防止する目的で用いられる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物(以下、単に油剤組成物とも表記する)に関する。加えて、前記油剤組成物が付与された炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法に関する。
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度及び比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツ及び航空・宇宙用途に加え、自動車や土木、建築、圧力容器、風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつある。さらに、従来より利用されているスポーツや航空・宇宙用途においても、より高強度化や高弾性率化の要請が高い。
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル系炭素繊維束の製造方法としては、アクリル繊維束を200〜400℃の酸素存在雰囲気下で加熱処理することにより耐炎化繊維束に転換し、引き続いて1000℃以上の不活性雰囲気下で炭素化して炭素繊維束を得る方法が知られている。この方法で得られた炭素繊維束は、優れた機械的物性により、特に複合材料用の強化繊維として工業的に広く利用されている。
しかし、炭素繊維束の製造方法において、主に前駆体繊維束を耐炎化繊維束に転換する耐炎化工程で、単繊維間に融着が発生し、耐炎化工程及びそれに続く炭素化工程(以下、耐炎化工程と炭素化工程を総合して焼成工程とも表記する)において、毛羽や束切れといった工程障害が発生する場合がある。この融着を回避するためには、アクリル繊維束に付着させる油剤の選択が重要であることが知られており、多くの油剤組成物が検討されてきた。
さらに、先述のような昨今のスポーツや航空・宇宙用途における炭素繊維の高性能化への要望に応えるためには、各製造工程において、張力を高く、あるいは高い延伸倍率に設定することがよく行われるが、その際、単繊維同士の融着が発生し易くなり、安定的に生産するためには妥協的な延伸倍率で操業せざるを得ないというのが現状である。
従来、耐熱性の高いシリコーン油剤をアクリロニトリル系前駆体繊維束に付与する技術が多数提案され、工業的に広く適用されている。例えば、特定のアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーンを混合した油剤は、空気中及び窒素中での加熱時の減量が少なく、融着防止効果が高いことが開示されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、これらの変性シリコーン油剤は、紡糸工程において前駆体繊維束を乾燥する工程において、加熱ロール上で変性シリコーンオイルの粘性により繊維がロールに取られたり、温度によって架橋反応が起こり樹脂化し、工程障害となる問題があった。さらに、耐炎化工程において単繊維間に介在して耐炎化反応に必須となる酸素の供給を妨げ、その結果、耐炎化反応の進行度むら、いわゆる焼成むらの発生が誘起され、さらにはこれが原因となって、続く炭化工程において糸切れや毛羽発生などの問題を引き起こしやすく、生産性向上の大きな障害となることが多いという問題を有していた。
上記の問題に対し、シリコーン油剤の硬化挙動を特定することにより改善する技術が開示されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、この技術では、シリコーンが単繊維同士を拘束することで接着剤のようにはたらき、焼成むらを起こすことがあったため、高い延伸倍率で焼成するについては限界があった。さらに、硬化したシリコーン油剤が焼成工程で各ガイドや溝状のロールに堆積し、繊維束が巻き付くなどの問題があった。
また、有機化合物やシリコーン化合物からなる粒子を用いることで単繊維間に隙間を設けて単繊維間融着を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、微粒子が脱落して製造工程を汚染し、その汚染物と繊維の擦過による毛羽発生や微粒子が繊維に強く押しつけられることによる傷の生成があり、高い延伸倍率で焼成するについては限界があった。
さらに近年、150℃における動粘度が15000cSt以上である液体を必須成分とする液状微粒子を含む油剤によって、前駆体繊維束の製造工程において単繊維間融着を抑制するとともに、それに続く耐炎化工程において炭素繊維前駆体を傷つけることなく単繊維をばらけさせることが可能となるために単繊維間に酸素が均一に供給され、焼成むらを高効率で抑制させることができる技術が開示されている(特許文献4)。しかし、この油剤組成物は、極めて高粘度であるため、油剤の安定性が悪いという問題がある上に、紡糸工程の加熱乾燥ロールにおいてロール上に高粘性な油剤組成物が析出し、ロールに繊維束が取られる障害が発生し、操業性が著しく低下する問題があった。
特公平3−40152号公報 特開2001−172880号公報 特開平9−41226号公報 特開2007−39866号公報
以上のように従来技術では、そもそもの油剤の目的である各工程での単繊維間の融着防止と、工業的に必要不可欠である操業安定性、昨今の要求に応える炭素繊維束の高性能化の全てを兼ね備えた油剤組成物は得られない。
本発明の目的は、元来の炭素繊維前駆体用油剤の役割である焼成工程での単繊維間の融着を防止する効果を維持しつつ、前駆体繊維束の紡糸工程の操業安定性が高く、かつ得られる炭素繊維束の機械的特性を向上することができる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を提供することにある。さらに、その油剤組成物を付着させたことにより、工程通過性が向上し、生産性を高めることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維束及びその製造方法を提供することにある。
本発明は上記の問題を解決する手段として、次のように、シアノ基を有するポリオルガノシロキサンを油剤組成物の成分として用いることにより、融着防止の効果を保持し、工程通過性が良好で、高品位な炭素繊維束が得られることを可能にした炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を提供するものである。また、その油剤組成物を付与した前駆体繊維束とその製造方法を提供するものである。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、シアノ基を有するポリオルガノシロキサンを含有することを特徴とする。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物において、前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサンが、下記式(1)で示される構造を有することが好ましい。
Figure 0005017211
(式(1)において、R1〜R7は、それぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基である。A1及びA2は、それぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基、水酸基又は下記式(2)で示されるシアノ変性基である。Xは、炭素数1〜4の炭化水素基又は下記式(2)で示されるシアノ変性基である。ただし、A1,A2及びXのうち少なくとも1つは、下記式(2)で示されるシアノ変性基である。mは0〜1000であり、nは0〜700であり、m+n=10〜1000である。)
Figure 0005017211
(式(2)において、R8は、炭素数1〜10の炭化水素基である。)
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物において、前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサンは、前記式(1)におけるR1〜R7,A1及びA2がいずれもメチル基であり、前記式(1)におけるXが前記式(2)においてR8が炭素数3のシアノプロピル基である側鎖シアノ変性ポリジメチルシロキサンであることがより好ましい。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサン50〜90質量%と、非イオン系乳化剤10〜50質量%とを含有することが好ましい。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサン20〜60質量%と、非イオン系乳化剤10〜30質量%と、下記式(3)又は下記式(4)で示されるエステル化合物20〜70質量%とを含有することが好ましい。
Figure 0005017211
(式(3)において、R9〜R11は、それぞれ独立して炭素数8〜16の炭化水素基である。)
Figure 0005017211
(式(4)において、R12〜R15は、それぞれ独立して炭素数8〜16の炭化水素基である。)
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、さらに、酸化防止剤を1〜5質量%含有することが好ましい。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、上記の油剤組成物が、アクリル繊維束に付着していることを特徴とする。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、前記油剤組成物がミセルを形成している水系乳化溶液(以下、エマルションとも表記する)を水膨潤状態にあるアクリル繊維束に付与する工程と、前記水系乳化溶液が付与されたアクリル繊維束を乾燥緻密化する工程とを有することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法により好適に製造できる。
本発明によれば、炭素繊維束製造工程における単繊維間の融着を効果的に抑えることができ、かつ、紡糸工程において油剤付与後の乾燥ロールに付着した油剤組成物が変質することがなく操業安定性が良好で、さらに、従来品に比べて良好な機械的物性を発現する炭素繊維束を得ることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物が得られる。また、その油剤組成物を付与してなる炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法が得られる。
本発明者らは、元来の炭素繊維前駆体用油剤の役割である焼成工程での単繊維間の融着を防止する効果を維持しつつ、前駆体繊維束の紡糸工程の操業安定性が高く、かつ得られる炭素繊維束の機械的特性を向上することができる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を鋭意探索した結果、シアノ基を有するポリオルガノシロキサンを用いることにより、優れた融着防止効果、操業安定性、炭素繊維束の機械的特性の全てを兼ね備える油剤組成物を見出すに至った。すなわち、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物は、炭素繊維束製造工程の操業性と製品の品質を同時に向上できることを可能にしたものである。
油剤組成物を付着させる前のアクリル繊維束としては、公知技術により紡糸されたアクリル繊維束を用いることができる。
好ましいアクリル繊維束の具体例としては、アクリロニトリル系重合体を紡糸して得られるアクリル繊維束が挙げられる。
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし、これを重合して得られる重合体である。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルのみから得られるホモポリマーだけでなく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体も用いたアクリロニトリル系共重合体であっても差し支えない。
アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリル単位の含有量は、96.0〜98.5質量%であることが、焼成工程での繊維束の熱融着防止、共重合体の耐熱性、紡糸原液の安定性及び炭素繊維束にした時の品質の観点でより好ましい。アクリロニトリル単位を96質量%以上とすることで、炭素繊維束に転換する際の焼成工程で前駆体繊維束の熱融着を招くことなく、炭素繊維束の優れた品質及び性能を維持できる。また、共重合体自体の耐熱性が低くなることもなく、前駆体繊維束を紡糸する際、前駆体繊維束の乾燥あるいは加熱ローラーや加圧水蒸気による延伸のような工程において、単繊維間の接着を回避できる。一方、アクリロニトリル単位を98.5質量%以下とすることで、溶剤への溶解性が低下することもなく、紡糸原液の安定性を維持できるとともに共重合体の析出凝固性が高くならず、前駆体繊維束の安定した製造が可能となる。
アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリル以外の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができる。耐炎化反応を促進する作用を有する、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体、又はこれらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、アクリルアミド等の単量体から選択すると、耐炎化を促進できるので好ましい。アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体がより好ましい。アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体単位の含有量は1.5〜4.0質量%が好ましい。他の単量体は、1種でも2種以上でもよい。
紡糸の際には、アクリロニトリル系重合体を溶剤に溶解して、紡糸原液とする。このときの溶剤には、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機化合物水溶液等、公知のものから適宜選択して使用することができる。生産性向上の観点から、凝固速度が速いジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又はジメチルホルムアミドが好ましく、ジメチルアセトアミドがより好ましい。
またこの際、緻密な凝固糸を得るためには、紡糸原液の重合体濃度がある程度以上になるように紡糸原液を調製することが好ましい。具体的には、紡糸原液中の重合体濃度が、好ましくは17質量%以上、より好ましくは19質量%以上である。さらに、紡糸原液は適正な粘度・流動性を必要とし、重合体濃度は25質量%を超えない範囲が好ましい。
紡糸方法は、紡糸原液を直接凝固浴中に紡出する湿式紡糸法、空気中で凝固する乾式紡糸法、及び一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させる乾湿式紡糸法など公知の紡糸方法を適宜採用できるが、より高い性能を有する炭素繊維束を得るには湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法が好ましい。
湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法による紡糸賦形は、紡糸原液を円形断面の孔を有するノズルより凝固浴中に紡出することで行うことができる。凝固浴としては、紡糸原液に用いられる溶剤を含む水溶液を用いるのが溶剤回収の容易さの観点から好ましい。
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、水溶液中の溶剤濃度は、ボイドがなく緻密な構造を形成させ高性能な炭素繊維束を得られ、かつ延伸性が確保でき生産性に優れる等の理由から、50〜85質量%が好ましい。凝固浴の温度は10〜60℃が好ましい。
重合体を溶剤に溶解し紡糸原液として凝固浴中に吐出して繊維化した後に、凝固糸を凝固浴中又は延伸浴中で延伸する浴中延伸を行うことができる。又は、一部空中延伸した後に浴中延伸してもよく、延伸の前後又は延伸と同時に水洗を行って水膨潤状態にあるアクリル繊維束を得ることができる。浴中延伸は通常50〜98℃の水浴中で1回又は2回以上の多段に分割するなどして行い、空中延伸と浴中延伸の合計倍率が5〜15倍に延伸するのが得られる炭素繊維束の性能の点から好ましい。
油剤組成物は、シアノ基を有するポリオルガノシロキサンを含有してなる。シアノ基を有するポリオルガノシロキサンは、1種でも2種以上でもよい。
シアノ基を有するポリオルガノシロキサンは、下記式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
Figure 0005017211
(式(1)において、R1〜R7は、それぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基である。A1及びA2は、それぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基、水酸基又は下記式(2)で示されるシアノ変性基である。Xは、炭素数1〜4の炭化水素基又は下記式(2)で示されるシアノ変性基である。ただし、A1,A2及びXのうち少なくとも1つは、下記式(2)で示されるシアノ変性基である。mは0〜1000であり、nは0〜700であり、m+n=10〜1000である。)
Figure 0005017211
(式(2)において、R8は、炭素数1〜10の炭化水素基である。)
1〜R7,A1及びA2として選択可能な炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、又はt−ブチル基である。R1〜R7,A1及びA2は、全て同じでもよく、異なる基を含んでいてもよい。R8は、炭素数が2〜5の炭化水素基が好ましい。式(2)で示されるシアノ変性基の具体例としては、シアノエチル、シアノプロピル、シアノブチル、シアノペンチルが挙げられる。
シアノ基を有するポリオルガノシロキサンは、式(1)におけるR1〜R7,A1及びA2がいずれもメチル基であり、式(1)におけるXが式(2)においてR8が炭素数3のシアノプロピル基である側鎖シアノ変性ポリジメチルシロキサンであることがより好ましい。
また、式(1)のm及びnに関しては、mが0〜1000、nが0〜700、m+n=10〜1000であり、好ましくはm+n=100〜800、より好ましくはm+n=300〜600である。m及びnの値は上記の範囲であれば特に制限はないが、式(1)のXが式(2)で示されるシアノ変性基である場合、そのXを含む構造単位数nは1〜700であることが好ましく、より好ましくは50〜500である。m+nが10より小さい場合は、熱安定性が低下し、耐炎化工程における融着を完全に防止することが難しくなる。また、m+nが1000より大きい場合は粘性が高く、紡糸工程においてその粘性により搬送ロールに巻き付くトラブルが起きやすくなる傾向にある。
油剤組成物は、さらに、非イオン系乳化剤を含有することが好ましい。油剤組成物が非イオン系乳化剤を含有することで、油剤組成物のエマルションを安定して形成することができる。非イオン系乳化剤は、1種でも2種以上でもよい。非イオン系乳化剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪族エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物などのポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤やグリセロールの脂肪族エステル、ペンタエリストールの脂肪族エステル、ソルビトールの脂肪族エステル、ソルビタンの脂肪族エステル、ショ糖の脂肪族エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミドなどの多価アルコール型非イオン性界面活性剤が挙げられる。好ましくは、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物であり、中でもポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドのブロック共重合体がより好ましい。
油剤組成物は、シアノ基を有するポリオルガノシロキサン50〜90質量%と、非イオン系乳化剤10〜50質量%とを含有することが好ましく、シアノ基を有するポリオルガノシロキサン70〜90質量%と、非イオン系乳化剤10〜30質量%とを含有することがより好ましい。油剤組成物中のシアノ基を有するポリオルガノシロキサンが50質量%より少ないと、その耐熱性を有効に利用できなくなる場合があり、90質量%より多いと、必然的に乳化剤の量が少なくなり、エマルションの安定性が悪くなる場合がある。油剤組成物中の非イオン系乳化剤が10質量%より少ないと乳化が困難な場合がある上、エマルションの安定性が悪くなる場合があり、50質量%より多いと必然的にシアノ基を有するポリオルガノシロキサンの量が少なくなり、油剤の耐熱性が低下する場合がある。
油剤組成物は、さらに、下記式(3)又は下記式(4)で示されるエステル化合物を含有することが好ましい。油剤組成物が下記式(3)又は下記式(4)で示されるエステル化合物を含有することで、油剤組成物の熱的安定性、エマルションの安定性、工程通過性が向上する。式(3)又は式(4)で示されるエステル化合物は、1種でも2種以上でもよい。
Figure 0005017211
(式(3)において、R9〜R11は、それぞれ独立して炭素数8〜16の炭化水素基である。)
Figure 0005017211
(式(4)において、R12〜R15は、それぞれ独立して炭素数8〜16の炭化水素基である。)
式(3)におけるR9〜R11は、それぞれ独立して炭素数が10〜13の炭化水素基が好ましく、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基が挙げられる。式(3)におけるR9〜R11は、全て同じでもよく、異なる基を含んでいてもよい。式(3)で示されるエステル化合物の具体例としては、トリオクチルトリメリテート、トリノニルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、トリウンデシルトリメリテート、トリドデシルトリメリテート、トリトリデシルトリメリテート、トリテトラデシルトリメリテート、トリペンタデシルトリメリテート、トリヘキサデシルトリメリテートが挙げられる。式(3)で示されるエステル化合物としては、トリドデシルトリメリテートが好ましい。
式(4)におけるR12〜R15は、それぞれ独立して炭素数が8〜12の炭化水素基が好ましく、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。式(4)におけるR12〜R15は、全て同じでもよく、異なる基を含んでいてもよい。式(4)で示されるエステル化合物の具体例としては、テトラオクチルピロメリテート、テトラノニルピロメリテート、テトラデシルピロメリテート、テトラウンデシルピロメリテート、テトラドデシルピロメリテート、テトラトリデシルピロメリテート、テトラテトラデシルピロメリテート、テトラペンタデシルピロメリテート、テトラヘキサデシルピロメリテートが挙げられる。式(4)で示されるエステル化合物としては、テトラデシルピロメリテートが好ましい。
油剤組成物は、シアノ基を有するポリオルガノシロキサン20〜60質量%と、非イオン系乳化剤10〜30質量%と、式(3)又は式(4)で示されるエステル化合物20〜70質量%とを含有することが好ましい。この油剤組成物における3成分のバランスは重要であり、上記範囲を外れると、熱的安定性、エマルションの安定性、工程通過性が低下する場合がある。
油剤組成物は、さらに、酸化防止剤を含有することができる。この含有量は、1〜5質量%の範囲が好ましく、1〜3質量%の範囲がより好ましい。
酸化防止剤としては公知の様々な物質を用いることができるが、好ましくはフェノール系又は硫黄系の酸化防止剤である。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−ブチリデンビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリエチレングリコールビス〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等が挙げられる。硫黄系の酸化防止剤の具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート等が挙げられる。酸化防止剤は、単独で用いても、複数の混合物として用いても差し支えない。
また、酸化防止剤としては、式(3)又は式(4)で示されるエステル化合物に溶解するものがより好ましい。これは、酸化防止剤がより作用して欲しい油剤構成成分はエステル化合物であること、油剤中に酸化防止剤を均一に混合させる方法として、エステル化合物に予め溶解させておくと都合がいいことが主な理由である。
油剤組成物は、その特性向上のために、帯電防止剤を含有することは差し支えない。帯電防止剤としては、公知の物質を用いることができる。帯電防止剤はイオン型と非イオン型に大別され、イオン型としてはアニオン系、カチオン系及び両性系があり、非イオン型ではポリエチレングリコール型及び多価アルコール型がある。帯電防止の観点からイオン型が好ましく、中でも脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸リン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、高級アルコールエチレンオキシド付加物ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルなどが好ましく用いられる。帯電防止剤は、単独で用いても、複数の混合物として用いても差し支えない。
さらに、油剤組成物をアクリル繊維束に付着させる設備や使用環境によって、工程の安定性や油剤組成物の安定性、付着特性を向上させるために、消泡剤、防腐剤、抗菌剤、浸透剤などの添加物を、油剤組成物に適宜配合することは差し支えない。
本発明においては、シアノ基を有するポリオルガノシロキサン、及び必要に応じて非イオン系乳化剤、エステル化合物、酸化防止剤を配合した油剤組成物を、水膨潤状態にあるアクリル繊維束に付着させる処理をする。通常、油剤組成物が水中に分散された水系乳化溶液を、水膨潤状態にあるアクリル繊維束に付与する処理をする。
油剤組成物のエマルションの調製方法に関しては、例えば、シアノ基を有するポリオルガノシロキサンに非イオン系乳化剤を混合し攪拌しながらエステル化合物を添加攪拌したものに水を加えることで、油剤組成物が水に分散したエマルションが得られる。酸化防止剤及び/又は帯電防止剤を含有させる場合は、酸化防止剤及び/又は帯電防止剤を予めエステル化合物に溶解しておくことが好ましい。各成分の混合又は水中分散は、プロペラ攪拌、ホモミキサー、ホモジナイザー等を使って行うことができる。特に、高粘度のアミノ変性シリコーンを用いる場合には、150MPa以上に加圧可能な超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
油剤組成物のアクリル繊維束への付与は、前述の浴中延伸後の水膨潤状態にあるアクリル繊維束に、油剤組成物のエマルションを付与することにより行うことができる。浴中延伸の後に洗浄を行う場合は、浴中延伸及び洗浄を行った後に得られる水膨潤状態にある繊維束に、油剤組成物のエマルションを付与することもできる。
油剤組成物を水膨潤状態にあるアクリル繊維束に付与する方法としては、油剤組成物が水中に分散したエマルションに、イオン交換水を加えて所定の濃度に希釈して油剤処理液とした後、水膨潤状態にあるアクリル繊維束に付着させる手法を用いることができる。
油剤処理液を水膨潤状態にあるアクリル繊維束に付着させる方法としては、ローラーの下部を油剤処理液に浸漬させ、そのローラーの上部にアクリル繊維束を接触させるローラー付着法、ポンプで一定量の油剤処理液をガイドから吐出し、そのガイド表面にアクリル繊維束を接触させるガイド付着法、ノズルから一定量の油剤処理液をアクリル繊維束に噴射するスプレー付着法、油剤処理液の中にアクリル繊維束を浸漬した後にローラー等で絞って余分な油剤処理液を除去するディップ付着法等の公知の方法を用いることができる。
均一付着の観点から、好ましくは、アクリル繊維束に十分に油剤処理液を浸透させ、余分な処理液を除去するディップ付着法である。より均一に付着するためには油剤付与工程を2つ以上の多段にし、繰り返し付与することも有効である。
アクリル繊維束に対する油剤組成物の付着量は、後述する乾燥緻密化された後のアクリル繊維束の乾燥繊維質量に対して0.1〜2質量%であることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることがさらに好ましい。油剤組成物の付着量が0.1質量%より低い場合、油剤の本来の機能を十分に発現させることが困難になる場合がある。一方、油剤組成物の付着量が2質量%より高い場合、余分に付着した油剤組成物が、焼成工程において高分子化して単繊維間の接着の誘因となる場合がある。
特に、油剤組成物がアクリル繊維束の乾燥繊維質量に対して0.1〜2質量%付着している前駆体繊維束を製造するにあたっては、油剤組成物が平均粒子径0.01μm以上0.5μm以下のミセルを形成している水系乳化溶液を調製することが好ましい。こうすることで、アクリル繊維束の表面に均一に油剤組成物を付与することが可能となる。なお、水系乳化溶液に存在するミセルの平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(商品名:LA−910、株式会社堀場製作所製)を用いて測定することができる。
油剤組成物が付着した前駆体繊維束は、続く乾燥工程で乾燥緻密化される。乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超えた温度で行う必要があるが、実質的には含水状態から乾燥状態によって異なることもあり、温度は100〜200℃程度の加熱ローラーによる方法が好ましい。このとき加熱ローラーの個数は、1個でも複数個でもよい。
乾燥後、続いて加圧水蒸気延伸を行うことが、得られる前駆体繊維束の緻密性や配向度をさらに高めることができることから好ましい。加圧水蒸気延伸とは、加圧水蒸気雰囲気中で延伸を行う方法であって、高倍率の延伸が可能であることから、より高速で安定な紡糸が行えると同時に、得られる前駆体繊維束の緻密性や配向度向上にも寄与する。
加圧水蒸気延伸においては、加圧水蒸気延伸装置直前の加熱ローラーの温度を120〜190℃、加圧水蒸気延伸における水蒸気圧力の変動率を0.5%以下に制御することが重要である。このように制御することにより、前駆体繊維束になされる延伸倍率の変動及びそれによって発生するトウ繊度の変動を抑制することができる。加熱ローラーの温度が120℃未満では前駆体繊維束の温度が十分に上がらず延伸性が低下する場合がある。
加圧水蒸気延伸における水蒸気の圧力は、加熱ローラーによる延伸の抑制や加圧水蒸気延伸法の特徴が明確に現れるようにするため、200kPa(ゲージ圧、以下同じ。)以上が好ましい。この水蒸気圧は、処理時間との兼ね合いで適宜調節することが好ましいが、高圧にすると水蒸気の漏れが増大したりする場合があるので、工業的には600kPa程度以下が好ましい。
乾燥緻密化を完了した前駆体繊維束は、室温のロールを通し、常温の状態まで冷却した後にワインダーでボビンに巻き取られる。あるいは、ケンスに振込まれて収納され、焼成工程に移される。
以上のように製造した本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、紡糸工程、焼成工程での融着が抑制でき、かつ工程通過性が良好な上、品質および物性の優れた炭素繊維束を製造することができる。このような炭素繊維前駆体アクリル繊維束により得られる炭素繊維束は、様々な構造材料に用いられる繊維強化樹脂複合材料に用いる強化繊維として好適である。
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、並びにその油剤組成物を付与した前駆体繊維束及びその製造方法は、これらによって限定されるものではない。なお、前駆体繊維束の油剤付着量、油剤組成物の耐熱性、操業安定性、炭素繊維束のストランド強度は、以下の方法により評価した。
[油剤付着量]
前駆体繊維束を105℃で1時間乾燥させた後、90℃のメチルエチルケトンに8時間浸漬して付着した油剤組成物を溶媒抽出した。油剤付着量は、この抽出前後の前駆体繊維束の質量を精秤することで、この差から求めた。
[耐熱性]
アルミシャーレ(直径45mm、深さ10mm)に、油剤組成物を30質量%の濃度でイオン交換水に分散させた油剤原体2.0gを精秤し、105℃で1時間予備乾燥後、空気中250℃で5時間加熱した。一定時間毎に観察を行い(目視)、ゲルが発生し始めるまでの時間(ゲル開始時間)と、5時間経過後のゲル化した部位の割合(ゲル化度)を評価した。ゲルが発生し始めるまでの時間が長く、かつゲル化度が小さいほど、耐熱性に優れていて、油剤組成物付与後の乾燥工程や耐炎化工程での工程通過性が良いこと、即ちゲル化したシリコーン系油剤により誘発される毛羽、糸切れが少ないことを意味する。
[操業安定性]
前駆体繊維束を24時間連続して製造した時に、搬送ロールへ単糸が巻き付き、除去した頻度により、操業性の評価をした。評価基準は次の通りとした。
○:除去回数(回/24時間)≦1
×:除去回数(回/24時間)>1
[ストランド強度]
JIS−R−7608に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値を評価の対象とした。
[実施例1]
油剤組成物のエマルションを次の方法で調製した。式(1)におけるR1〜R7,A1及びA2がいずれもメチル基であり、式(1)におけるXが式(2)においてR8が炭素数3のシアノプロピル基であるポリシアノプロピルメチルシロキサン(Gelest, Inc.製、商品名:YMS−T31)と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王株式会社製、商品名:エマルゲン707)とを90:10(ポリシアノプロピルメチルシロキサン:ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の質量比で混合したものに、油剤組成物の濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え、ホモミキサーで乳化した。この状態では油剤組成物のミセルの平均粒子径が2μm程度であるため、さらに高圧ホモジナイザーによって平均粒子径が0.18μmとなるまで分散した。得られた油剤組成物のエマルションを油剤原液として以下の工程で用いた。
油剤組成物の耐熱性の評価結果を表1に示した。今回の試験条件ではゲル化は確認されなかった。
上記の油剤原液を用いて、油剤組成物をアクリル繊維束に付与した。油剤組成物を付着させるアクリル繊維束は、次の方法で調製した。アクリロニトリル系共重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=96/3/1(質量比))をジメチルアセトアミドに溶解した紡糸原液を調製し、ジメチルアセトアミド水溶液を満たした凝固浴中に孔径(直径)40μm、孔数3000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸とした。凝固糸は、水洗槽中で脱溶媒するとともに3倍に延伸して、水膨潤状態にあるアクリル繊維束とした。
上記の水膨潤状態にあるアクリル繊維束を、上記の油剤原液をイオン交換水で希釈した処理液が入った油剤処理槽に導き、かかる油剤組成物を付着させた後、表面温度180℃のロールにて乾燥した後に、圧力0.2MPaの水蒸気中で5倍延伸を施した。ここで得られた前駆体繊維束の油剤付着量、紡糸工程における操業安定性の評価結果を表1に合わせて示した。
油剤付着は適正な量であることが確認された。また、操業安定性も良好であり、連続操業にあたり何ら問題がなかった。
この前駆体繊維束を、220〜260℃の温度勾配を有する耐炎化炉に通し、さらに窒素雰囲気中で400〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維束とした。ここで得られた炭素繊維束のストランド強度(CF強度)を表1に示した。CF強度は高く良好であった。
[実施例2〜6]
油剤組成物を構成する各成分の種類と含有率を変え、実施例1と同様の手法で実施例2〜6を実施した。各実施例における油剤組成物中の各成分の割合(質量百分率)を表1に合わせて示した。
表1中のシアノ変性シリコーンA,Bの詳細を以下に記す。なお、いずれも、式(1)におけるR1〜R7,A1及びA2がいずれもメチル基であり、式(1)におけるXが式(2)においてR8が炭素数3のシアノプロピル基であるポリシアノプロピルメチルシロキサンンである。
シアノ変性シリコーンA:25℃における動粘度が1000mm2/sであるポリシアノプロピルメチルシロキサン(Gelest, Inc.製、商品名:YMS−T31)
シアノ変性シリコーンB:25℃における動粘度が4000mm2/sであるポリシアノプロピルメチルシロキサン(United Chemical Technologies,Inc.社製、商品名:#PS906)
表1中のエステル化合物A,Bの詳細を以下に記す。
エステル化合物A:式(3)においてR9〜R11がいずれも炭素数10のデシル基であるトリデシルトリメリテート(トリメリット酸とデシルアルコールの脱水縮合物)
エステル化合物B:式(4)においてR12〜R15がいずれも炭素数8のオクチル基であるテトラオクチルピロメリテート(ピロメリット酸とオクタノールの脱水縮合物)
実施例2〜6の各評価結果を表1に合わせて示した。
いずれの実施例においても、油剤組成物の耐熱性の評価試験でゲル化することはなく、熱的に安定な油剤組成物であることが確認された。操業安定性は24時間の連続操業においても搬送ロールへ単糸が巻き付くことはなく良好であった。またCF強度は高く良好であった。
CF強度においては、シアノ変性シリコーンの含有量が90質量%の実施例1及び2が良好であった。また、シアノ変性シリコーンの含有量を低くして乳化剤を増やした場合(実施例3)、シアノ変性シリコーンの含有量を低くしてエステル化合物を含有させた場合(実施例4〜6)においても、十分なCF強度が得られることが確認された。
[比較例1〜6]
油剤組成物を構成する各成分の種類と含有率を変え、実施例1と同様の手法で比較例1〜6を実施した。各比較例における油剤組成物中の各成分の割合(質量百分率)を表1に合わせて示した。
表1中のアミノ変性シリコーンA,Bの詳細を以下に記す。
アミノ変性シリコーンA:25℃における動粘度が1100mm2/sであるアミノ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:KF−8002)
アミノ変性シリコーンB:25℃における動粘度が4000mm2/sであるアミノ変性ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名:FZ−3785)
比較例1〜6の各評価結果を表1に合わせて示した。
アミノ変性シリコーン含有率の高い比較例1、2及び6では、各実施例と比較して同等のCF強度が得られたが、アミノ変性シリコーンの含有量を低くした比較例3〜5では、CF強度が低く、十分ではなかった。
また、いずれの比較例においても、油剤組成物の耐熱性の評価試験で5時間以内にゲル化が開始しており、操業安定性も悪かった。操業安定性が悪かった原因は、ゲル化開始時間が早く、5時間後のゲル化率が高いことから、ゲル化した油剤組成物により前駆体繊維束が搬送ローラーに取られたためと思われる。この結果から、比較例1〜6の油剤組成物を用いて連続生産した場合、ローラーへの巻き付き糸の除去などの危険を伴う作業が増える他、安定した生産は困難であると判断される。
Figure 0005017211
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物を用いることにより、焼成工程での単繊維間の接着を効果的に抑制し、油剤組成物がゲル化することに起因する操業性の低下を抑制でき、さらに、機械的強度の高い炭素繊維束を得ることができる。すなわち、本発明により炭素繊維束の高性能化と操業安定性とをともに向上させることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得ることができる。
この炭素繊維前駆体アクリル繊維束から得られた炭素繊維束は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもでき、本発明で得られた炭素繊維束を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、さらには構造材料として自動車や航空宇宙用途、また各種ガス貯蔵タンク用途などに好適に用いることができ、有用である。

Claims (8)

  1. シアノ基を有するポリオルガノシロキサンを含有することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
  2. 前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサンが、下記式(1)で示される構造を有することを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
    Figure 0005017211
    (式(1)において、R1〜R7は、それぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基である。A1及びA2は、それぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基、水酸基又は下記式(2)で示されるシアノ変性基である。Xは、炭素数1〜4の炭化水素基又は下記式(2)で示されるシアノ変性基である。ただし、A1,A2及びXのうち少なくとも1つは、下記式(2)で示されるシアノ変性基である。mは0〜1000であり、nは0〜700であり、m+n=10〜1000である。)
    Figure 0005017211
    (式(2)において、R8は、炭素数1〜10の炭化水素基である。)
  3. 前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサンが、前記式(1)におけるR1〜R7,A1及びA2がいずれもメチル基であり、前記式(1)におけるXが前記式(2)においてR8が炭素数3のシアノプロピル基である側鎖シアノ変性ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項2に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
  4. 前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサン50〜90質量%と、非イオン系乳化剤10〜50質量%とを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
  5. 前記シアノ基を有するポリオルガノシロキサン20〜60質量%と、非イオン系乳化剤10〜30質量%と、下記式(3)又は下記式(4)で示されるエステル化合物20〜70質量%とを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
    Figure 0005017211
    (式(3)において、R9〜R11は、それぞれ独立して炭素数8〜16の炭化水素基である。)
    Figure 0005017211
    (式(4)において、R12〜R15は、それぞれ独立して炭素数8〜16の炭化水素基である。)
  6. さらに、酸化防止剤を1〜5質量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物が、アクリル繊維束に付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
  8. 請求項7に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法であって、前記油剤組成物がミセルを形成している水系乳化溶液を水膨潤状態にあるアクリル繊維束に付与する工程と、前記水系乳化溶液が付与されたアクリル繊維束を乾燥緻密化する工程とを有することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法。
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