JP4985086B2 - 脆性亀裂伝播停止特性に優れた高張力厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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鋼No.A(質量%で、0.13%C−0.25%Si−1.57%Mn―0.013%P−0.003%S―0.032%Al−0.001%Nb)、鋼No.B(質量%、0.12%C−0.36%Si−1.49%Mn―0.014%P−0.004%S−1.21%Al−0.001%Nb)、鋼No.C(0.050%C−0.36%Si−1.46%Mn―0.013%P−0.003%S−1.00%Al−0.045%Nb)、の3種の鋼素材をそれぞれ1300℃に加熱した後、該各鋼素材に、圧延終了温度を690〜900℃の範囲の温度とする熱間圧延を施し、該熱間圧延を終了した後、空冷し、板厚13mmの厚鋼板とした。得られた厚鋼板の板厚中央部から板面に平行に試験片を採取し、X線回折を用いて、(100)面からのX線回折強度を測定し、ランダム試験片に対する回折強度の比、ランダム強度比(単に強度比ともいう)を算出し、その厚鋼板における、板面に平行な(100)面の集積度とした。得られた(100)面強度比を、圧延終了温度との関係で図1に示す。なお、強度比が高いほど、集合組織が発達していることを意味している。
さらに、本発明者らの検討によれば、板厚方向の各位置で異なる集合組織、すなわち、表層部における圧延面に平行な面での(100)面強度比が2.0以上、板厚1/4部における圧延面に平行な面での(110)面強度比が1.5以上、板厚中央部における圧延面に平行な面での(100)面強度比が2.0以上である集合組織、を発達させることにより、板厚方向の脆性亀裂伝播停止特性が顕著に向上することを知見した。なお、本発明者らの検討によれば、上記した組成の鋼素材に、(α+γ)二相温度域である850〜950℃の温度範囲の累積圧下率を50%以上、圧延終了温度を850〜950℃の温度範囲とし、あるいはさらに1パス当たりの圧下率を5%以上とする熱間圧延を施すことにより、上記した集合組織を形成できるという知見を得ている。
(1)質量%で、C:0.001〜0.25%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.08〜3.0%、Nb:0.005〜0.1%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、表層部における圧延面に平行な面での(100)面強度比が2.0以上、板厚1/4部における圧延面に平行な面での(110)面強度比が1.5以上、板厚中央部における圧延面に平行な面での(100)面強度比が2.0以上である集合組織を有することを特徴とする脆性亀裂伝播停止特性に優れた高張力厚鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、V:0.5%以下、Ti:0.05%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高張力厚鋼板。
(3)質量%で、C:0.001〜0.25%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.08〜3.0%、Nb:0.005〜0.1%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、加熱温度を1000〜1350℃とし、850〜950℃の温度範囲の累積圧下率を50%以上、圧延終了温度を850〜950℃の温度範囲とする熱間圧延を施し、該熱間圧延後、放冷することを特徴とする、優れた脆性亀裂伝播停止特性を有する高張力厚鋼板の製造方法。
(4)(3)において、前記熱間圧延が、850〜950℃の温度範囲における、1パス当たりの圧下率を5%以上とする圧延であることを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
(5)(3)または(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、V:0.5%以下、Ti:0.05%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
(6)(3)ないし(5)のいずれかにおいて、前記熱間圧延後の放冷に代えて、前記熱間圧延後、1℃/s以上の平均冷却速度で700〜100℃の温度域まで加速冷却することを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
(7)(3)ないし(6)のいずれかにおいて、前記放冷後または前記加速冷却後に、さらに焼戻処理を施すことを特徴とする高張力厚鋼板の製造方法。
C:0.001〜0.25%
Cは、強度を増加させる作用を有する元素であり、構造用鋼として必要な母材強度を確保するために有用な元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上の含有を必要とする。一方、0.25%を超える含有は、母材および溶接部の靭性を低下させる。このため、Cは0.001〜0.25%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.010〜0.18%である。
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、このような効果は、0.05%以上の含有で認められる。またさらに、Siは、Ar1変態点およびAr3変態点を上昇させる作用を有する元素で、本発明ではAlと同様に有効な元素の一つであり、このような効果は、0.05%以上の含有で顕著となる。なお、変態点を有効に上昇させるために、0.2%以上とすることが好ましい。一方、2.0%を超える含有は、母材靭性を低下させる。このため、Siは0.05〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.2〜1.5%である。
Mnは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、構造用鋼として所望の母材強度を確保するために有用な元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、Ar1変態点およびAr3変態点を低下させ、(α+γ)二相温度域を低温化する。このため、Mnは0.1〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.5〜1.6%である。
Pは、鋼中では不可避的不純物として存在する元素であり、0.03%を超えて多量に含有すると、板厚中心部の母材靭性および溶接部靭性、とりわけ脆性亀裂伝播停止特性を低下させるため、本発明ではPは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.025%以下である。
Sは、鋼中では硫化物として存在する元素であり、0.03%を超えて多量に含有すると、板厚中心部の母材および溶接部の靭性、とりわけ脆性亀裂伝播停止特性を低下させるため,本発明ではSは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは、0.025%以下である。
Al:0.08〜3.0%
Alは、変態点を上昇させ、(α+γ)二相温度領域を高温側へ拡大させる作用を有する元素で、本発明においては、生産性を阻害することなく高温で二相域圧延を行うために重要な元素の一つである。また、Alは、熱間での変形抵抗を低減する作用を有する元素であり、所望の1パス当たりの圧下率を確保することが容易となるとともに、生産性を飛躍的に向上させることが可能となる。このような効果を得るためには0.08%以上の含有を必要とする。一方、3.0%を超える多量の含有は、必要以上に(α+γ)二相温度領域を高温まで拡大させるうえ、母材の脆化を招く傾向が増大するとともに、材料コストが高騰し経済的にも不利となる。このようなことから、Alは0.08〜3.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.1〜1.8%、より好ましくは0.2超え1.8%以下、さらに好ましくは0.5〜1.5%である。
Nb:0.005〜0.1%
Nbは、二相温度領域で加工された加工αの回復、再結晶を抑制し、脆性亀裂伝播停止特性を向上させる集合組織の発達を促す作用を有する元素であり、本発明において、Al、Siと同様に重要な元素の一つである。このような効果を確保するためには、0.005%以上のNbを含有する必要がある。一方、0.1%を超える含有は、Nb化合物が多量に析出し、母材および溶接部が析出硬化し、靭性が低下する。このため、Nbは0.005〜0.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.010〜0.070%である。
Cu、Ni、Cr、Mo、V、Ti、Bはいずれも、強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
NiおよびCrは、焼入れ性を増加させる元素であり、冷却後の第2相の分率や硬さの増加を介して、強度を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果は、Ni:0.05%以上、Cr:0.05%以上の含有で顕著となるが、高価なNiを2.0%を超えて多量に含有すると、材料コストの高騰を招き、経済的に不利となる。また、Crを2.0%を超えて多量に含有すると、溶接部靭性が低下する。このため、Niは2.0%以下、Crは2.0%以下にそれぞれ限定することが好ましい。
Vは、フェライト中にV(C,N)として析出し、析出強化を介して強度増加に寄与する元素であり、このような効果は0.005%以上の含有で顕著となる。一方、0.5%を超える含有は、溶接部の靭性を低下させる。このため、Vは0.5%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、N:0.010%以下、O:0.005%以下が許容できる。
加熱温度:1000〜1350℃
熱間圧延のための加熱処理では、鋼素材の中心まで十分に均熱し、変形抵抗を低くするため、加熱温度を、少なくとも1000℃以上とする。加熱温度が1000℃未満では、均熱が不十分で変形抵抗が高く、圧延負荷が過大となりやすい。一方、加熱温度を1350℃を超える高温とすると、組織が粗大化して厚鋼板の母材靭性が低下する。このため、鋼素材の加熱温度は1000〜1350℃の範囲の温度に限定した。なお、好ましくは1050〜1300℃である。
850〜950℃の累積圧下率:50%以上
本発明では、850〜950℃の累積圧下率が50%以上の圧延を施す。上記した組成の、本発明で使用する鋼素材であれば、850〜950℃の温度域は(α+γ)二相温度領域であり、この温度領域での累積圧下率が50%以上の圧延を施すことにより、脆性亀裂伝播停止特性を向上させる集合組織が発達する。この温度領域における累積圧下率が50%未満では、脆性亀裂伝播停止特性を向上させる集合組織の発達が不十分となり、脆性亀裂伝播停止特性の向上が得られないうえ、厚鋼板の母材靭性も低下する。この温度領域での累積圧下率の上限はとくに限定する必要はないが、累積圧下率が95%を超えると、加工αの再結晶が生じ易くなり、脆性亀裂伝播停止特性を向上させる集合組織が軽減される。このようなことから、850〜950℃の累積圧下率は95%以下とすることが好ましい。
圧延終了温度が、850℃未満では、圧延途中で待機する必要があり、熱間圧延時の生産性が阻害される。また、圧延終了温度が950℃を超える高温では、加工αの回復再結晶が促進され、所望の集合組織の発達が抑制されるため、優れた脆性亀裂伝播停止特性を確保することができなくなる。このようなことから、熱間圧延の圧延終了温度は850〜950℃の範囲に限定した。
放冷に代えて、1℃/s以上の平均冷却速度で700〜100℃の温度域まで加速冷却してもよい。熱間圧延終了後に、上記した条件で加速冷却を施すことにより、所望の強度増加を図ることが容易となる。加速冷却の冷却速度が、1℃/s未満では、第一相であるフェライト相に加えて、硬質な第二相の生成量が不十分となり、所望の強度増加が図れなくなる。また、加速冷却を700℃を超える温度で停止すると、硬質な第二相の生成量が不十分となり、所望の強度増加が図れなくなる。また、加速冷却を100℃未満まで行っても、母材材質への影響は少ない。このようなことから、熱間圧延終了後の加速冷却条件は、1℃/s以上の平均冷却速度で、700〜100℃の温度域まで冷却する条件とすることが好ましい。なお、冷却速度は、厚鋼板表面における速度とし、冷却開始温度から冷却停止温度までの平均とする。
得られた厚鋼板から、試験片を採取し、集合組織、引張特性、靭性、脆性亀裂伝播停止特性について調査した。調査方法は次のとおりとした。
(1)集合組織
得られた厚鋼板の板厚中央部、板厚1/4部、表層部から板面(圧延面)に平行に試験片を採取し、X線回折を用いて、板厚中央部および表層部については、(100)面からの回折強度を、板厚1/4部については(110)面からの回折強度をそれぞれ測定し、ランダム試験片に対する回折強度の比、ランダム強度比(単に強度比ともいう)を算出し、その厚鋼板の板厚中央部、表層部における、板面(圧延面)に平行な(100)面の集積度、または板厚1/4部における、板面(圧延面)に平行な(110)面の集積度とした。なお、表層部とは、厚鋼板の外表面から板厚方向に0.5mm内側の位置をいう。
(2)引張特性
得られた厚鋼板の板厚中央部から、圧延時の幅方向が引張方向となるようにJIS 4号試験片(平行部:14mmφ)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、降伏強さYS、引張強さTSを求めた。
(3)靭性
得られた厚鋼板の板厚中央部から、圧延幅方向(C方向)に、Vノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。
(4)脆性亀裂伝播停止特性
脆性亀裂伝播停止特性は、NRL落重試験を実施して求めた。NRL落重試験は、得られた厚鋼板からNRL落重試験片(試験片:厚さ19mm×幅50mm×長さ130mm)を、試験片長手方向が厚鋼板の圧延方向に一致するように採取し、ASTM E208の規定に準拠して行い、NDT温度を求めた。
得られた結果を表3に示す。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.001〜0.25%、 Si:0.05〜2.0%、
Mn:0.1〜2.0%、 P:0.03%以下、
S:0.03%以下、 Al:0.08〜3.0%、
Nb:0.005〜0.1%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、表層部における圧延面に平行な面での(100)面強度比が2.0以上、板厚1/4部における圧延面に平行な面での(110)面強度比が1.5以上、板厚中央部における圧延面に平行な面での(100)面強度比が2.0以上である集合組織を有することを特徴とする脆性亀裂伝播停止特性に優れた高張力厚鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、V:0.5%以下、Ti:0.05%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高張力厚鋼板。
- 質量%で、
C:0.001〜0.25%、 Si:0.05〜2.0%、
Mn:0.1〜2.0%、 P:0.03%以下、
S:0.03%以下、 Al:0.08〜3.0%、
Nb:0.005〜0.1%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、加熱温度を1000〜1350℃とし、850〜950℃の温度範囲の累積圧下率を50%以上、圧延終了温度を850〜950℃の温度範囲とする熱間圧延を施し、該熱間圧延後、放冷することを特徴とする、優れた脆性亀裂伝播停止特性を有する高張力厚鋼板の製造方法。 - 前記熱間圧延が、850〜950℃の温度範囲における、1パス当たりの圧下率を5%以上とする圧延であることを特徴とする請求項3に記載の高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:2.0%以下、V:0.5%以下、Ti:0.05%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項3または4に記載の高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記熱間圧延後の放冷に代えて、前記熱間圧延後、1℃/s以上の平均冷却速度で700〜100℃の温度域まで加速冷却することを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記放冷後または前記加速冷却後に、さらに焼戻処理を施すことを特徴とする請求項3ないし6のいずれかに記載の高張力厚鋼板の製造方法。
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