図1は、本発明が適用された車両用自動変速機(以下、自動変速機という)10の構成を説明する骨子図である。また、図2は、自動変速機10の複数のギヤ段(変速段)を成立させる際の係合装置(係合要素)の作動の組み合わせを説明する作動図表(係合作動表)である。この自動変速機10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース32内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に備え、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン26と第1変速部14との間で自動変速機10に備えられる流体式伝動装置としてのトルクコンバータ28のタービン軸である。出力軸24は出力回転部材に相当するものであり、例えば図示しない差動歯車装置(終減速機)や一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪を回転駆動する。トルクコンバータ28は、エンジン26によって回転駆動されてそのエンジン26の動力を流体を介して入力軸22に伝達すると共に、エンジン26の動力を流体を介することなく入力軸22に直接伝達するロックアップ機構としてのロックアップクラッチ30を備えている。なお、この自動変速機10は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備え、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1によって3つの回転要素が構成されている。キャリヤCA1は入力軸22に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にトランスミッションケース32に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、入力軸22に対して減速回転させられて、回転を第2変速部20へ伝達する。本実施例では、入力軸22の回転をそのままの速度で第2変速部20へ伝達する経路が、予め定められた一定の変速比(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、第1中間出力経路PA1には、入力軸22から第1遊星歯車装置12を経ることなく第2変速部20へ回転を伝達する第1経路PA1aと、入力軸22から第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1を経て第2変速部20へ回転を伝達する第2経路PA1bとがある。また、入力軸22からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、およびリングギヤR1を経て第2変速部20へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きい変速比(>1.0)で入力軸22の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のキャリヤCA2および第3遊星歯車装置のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。この第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置16のピニオンギヤP2が第3遊星歯車装置18の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース32に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の第2経路PA1b)に選択的に連結されている。第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース32に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の第1経路PA1a)に選択的に連結されている。第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されている。なお、第2回転要素RM2とトランスミッションケース32との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
図2に戻り、この係合作動表は、自動変速機10の各ギヤ段を成立させる際のクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。このように、自動変速機10においては、3組の遊星歯車装置12、16、18を備え、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2を選択的に係合することにより変速比が異なる複数のギヤ段例えば前進8段の多段変速が達成される。特に、第2ブレーキB2と並列に一方向クラッチF1が設けられていることから、第1ギヤ段(1st )を成立させる際に、第2ブレーキB2はエンジンブレーキ時には係合させられる一方、駆動時には解放させられる。
また、各ギヤ段毎に異なる変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。また、クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBと表す)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置(以下、係合装置という)である。
図3は、クラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータやロックアップクラッチ30の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLUに関する回路図であって、油圧制御装置の一部を構成する油圧制御回路50を示す図である。
図3において、クラッチC1、C2、およびブレーキB1の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)34、36、42には、油圧供給装置46から出力されたDレンジ圧(前進レンジ圧、前進油圧)PDがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL5により調圧されて直接的に供給され、クラッチC3およびC4の各油圧アクチュエータ38、40には、油圧供給装置46から出力されたライン油圧PL1がそれぞれリニアソレノイドバルブSL3、SL4により調圧されて直接的に供給されるようになっている。
また、第2ブレーキB2の油圧アクチュエータ44には、油圧供給装置46から出力されたDレンジ圧PD或いはリバース圧(後進油圧)PRが第2ブレーキ制御回路90を介して供給されるようになっている。この第2ブレーキ制御回路90には、油圧供給装置46から出力されたモジュレータ油圧PMを元圧とするリニアソレノイドバルブSLUの出力油圧である制御圧PSLUが切換回路100を介して供給されるようになっている。また、切換回路100を介して第2ブレーキ制御回路90に供給される制御圧PSLUが第2ブレーキB2の係合トルクを発生させるための所定圧以上となった場合に所定の信号例えばON信号SWONを電子制御装置160(図4参照)に出力する油圧スイッチ48が第2ブレーキ制御回路90の入力側に設けられている。
第2ブレーキ制御回路90は、Dレンジ圧PDを元圧として制御圧PSLUに応じて第2ブレーキB2の係合圧PB2を出力する第2ブレーキコントロール弁と、その第2ブレーキコントロール弁からの油圧PB2およびリバース圧PRのうち何れか供給された油圧を第2ブレーキB2に出力するシャトル弁とを備え、制御圧PSLUが供給されたときには係合圧PB2を第2ブレーキB2に出力し、或いはリバース圧PRが供給された場合にはそのリバース圧PRを第2ブレーキB2に出力する。
トルクコンバータ28内のロックアップクラッチ30は、良く知られているように、係合油路を介して供給される係合側油室104内の油圧PONと解放油路106を介して供給される解放側油室108内の油圧POFFとの差圧ΔP(=PON−POFF)によりフロントカバー110に摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである。そして、トルクコンバータ28の運転条件としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ30が解放される所謂ロックアップオフ、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ30が半係合される所謂スリップ状態、および差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ30が完全係合される所謂ロックアップオンの3条件に大別される。また、ロックアップクラッチ30のスリップ状態においては、差圧ΔPが零とされることによりロックアップクラッチ30のトルク分担がなくなって、トルクコンバータ28は、ロックアップオフと同等の運転条件とされる。
切換回路100は、ロックアップクラッチ30を解放側状態すなわちロックアップオフと係合側状態すなわち解放状態を含むスリップ状態乃至ロックアップオンとで切り換える為のロックアップリレー弁と、このロックアップリレー弁によりロックアップクラッチ30が係合側状態とされているときに差圧ΔPを調整してロックアップクラッチ30の作動状態を解放状態を含むスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換えるロックアップコントロール弁とを備えている。このように構成された切換回路100により、係合側油室104および解放側油室108への作動油圧の供給状態が切り換えられてロックアップクラッチ30の作動状態が切り換えられ、或いは第2ブレーキB2へ作動油圧が供給されてその第2ブレーキB2の係合圧が制御される。
油圧供給装置46は、エンジン26によって回転駆動される機械式のオイルポンプ52(図1参照)から吐出される油圧を第1ライン圧PL1に調圧するリリーフ型の第1ライン圧調圧弁(プライマリレギュレータバルブ)82と、第1ライン圧調圧弁82によるライン油圧PL1の調圧のために第1ライン圧調圧弁82から排出( リリーフ)される油圧を元圧として第2ライン圧PL2を調圧するリリーフ型の第2ライン圧調圧弁( セカンダリレギュレータバルブ)84と、エンジン負荷等に応じた大きさの第1ライン油圧PL1および第2ライン油圧PL2に調圧されるために第1ライン圧調圧弁82および第2ライン圧調圧弁84へ信号圧PSLTを供給するリニアソレノイドバルブSLTと、ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータ油圧PMを一定値に調圧するモジュレータバルブ86と、およびケーブルやリンクなどを介して機械的に連結されるシフトレバー72の操作に伴い機械的に作動させられて油路が切り換えられることにより入力されたライン油圧PL1をシフトレバー72が「D」ポジション或いは「S」ポジションへ操作されたときにはDレンジ圧PDとして出力し或いは「R」ポジションへ操作されたときにはリバース圧PRとして出力するマニュアルバルブ88とを備えており、ライン油圧PL1、PL2、モジュレータ油圧PM、Dレンジ圧PD、およびリバース圧PRを供給する。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLUは、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置160により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ34〜44の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の係合圧が制御される。そして、自動変速機10は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように5速→4速のダウンシフトでは、クラッチC2が解放されると共にクラッチC4が係合され、変速ショックを抑制するようにクラッチC2の解放過渡油圧とクラッチC4の係合過渡油圧とが適切に制御される。このように、自動変速機10の係合装置(クラッチC、ブレーキB)がリニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLUにより各々制御されるので、係合装置の作動の応答性が向上される。或いはまた、その係合装置の係合/解放作動の為の油圧回路が簡素化される。
また、リニアソレノイドバルブSLUは、切換回路100による油路の切換えによって、クラッチCおよびブレーキBのうち所定の油圧式摩擦係合装置としての第2ブレーキB2の係合圧とロックアップクラッチ30のトルク容量とを択一的に制御する単一(兼用)のソレノイドバルブである。第2ブレーキB2はエンジンブレーキ時にのみ係合される油圧式摩擦係合装置であり、例えばエンジンブレーキ時(特に低速走行中のエンジンブレーキ時)にはエンジンストールが生じないようにロックアップクラッチ30はロックアップオンさせないことから、第2ブレーキB2の係合圧とロックアップクラッチ30のトルク容量とを同時に制御する必要がないので、それらの制御に単一(兼用)のソレノイドバルブSLUが用いられる。
図4は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置160は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン26の出力制御や自動変速機10の変速制御やロックアップクラッチ30のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や自動変速機10およびロックアップクラッチ30の油圧制御用等に分けて構成される。
図4において、アクセルペダル54の操作量Accを検出するためのアクセル操作量センサ56、エンジン26の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン26の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TAを検出するための吸入空気温度センサ62、電子スロットル弁の開度θTHを検出するためのスロットル弁開度センサ64、車速V(出力軸24の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ66、エンジン26の冷却水温TWを検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72がどのレバーポジション(操作位置)PSHに位置しているかを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路50内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ78、車両の加速度(減速度)Gを検出するための加速度センサ80などが設けられており、それらのセンサやスイッチなどから、アクセル操作量Acc、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA、スロットル弁開度θTH、車速V(=出力軸回転速度NOUT)、エンジン冷却水温TW、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT(=入力軸回転速度NIN)、AT油温TOIL、車両の加速度(減速度)G、油圧スイッチ48からのON信号SWONなどを表す信号が電子制御装置160に供給される。
また、クラッチCやブレーキBの係合/解放状態の切換えおよび係合/解放時の過渡油圧などを制御する為のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLUの励磁/非励磁や電流制御信号、ロックアップリレー弁の油路を切り換える為のON−OFFソレノイドバルブSLの励磁/非励磁信号、ロックアップクラッチ30のトルク容量例えば差圧ΔPを制御する為のリニアソレノイドバルブSLUの電流制御信号などが電子制御装置160から供給される。
シフトレバー72は例えば運転席の近傍に配設され、図5に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機10内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力軸24の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の第1速乃至第8速の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で自動変速モードを成立させて第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションは変速可能な高速側のギヤ段が異なる複数の変速レンジ或いは異なる複数のギヤ段を切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
この「S」ポジションにおいては、シフトレバー72の操作毎に変速範囲或いはギヤ段をアップ側にシフトさせるための「+」ポジション、シフトレバー72の操作毎に変速範囲或いはギヤ段をダウン側にシフトさせるための「−」ポジションが備えられている。例えば、「S」ポジションにおいては、「D」レンジ、「7」レンジ、・・・・、「2」レンジ、「L」レンジの何れかがシフトレバー72の「+」ポジション或いは「−」ポジションへの操作に応じて変更される。また、「S」ポジションにおける「L」レンジは第1ギヤ段「1st」にて第2ブレーキB2を係合させて一層エンジンブレーキ効果が得られるためのエンジンブレーキレンジでもある。
上記「P」乃至「S」ポジションに示す各シフトポジションにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、自動変速機10内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする動力伝達遮断ポジション(位置)であって、車両を走行させないときに選択される非走行ポジション(位置)である。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「S」ポジションは、自動変速機10内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする動力伝達可能ポジション(位置)であって、車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
図6は、電子制御装置160による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、ライン圧制御手段162は、基本的には、アクセル開度或いはスロットル開度に応じた大きさの信号圧PSLTをリニアソレノイドバルブSLTから第1ライン圧調圧弁82および第2ライン圧調圧弁84へ供給し、エンジン負荷等に応じた第1ライン油圧PL1および第2ライン油圧PL2を基本値としてそれぞれ発生させる。
他の制御手段164は、後述の作動油の温度上昇促進のための低油温時ライン圧上昇制御とは異なる理由でライン油圧を上昇させる他の制御を実行するものであり、たとえば、シフトレバー72のN→Dシフト時の応答性を高めるためにN→Dシフト操作が行われると、所定期間だけ第1ライン油圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御や、エンジン26のアイドル回転速度NIDLが高いときは、そのエンジン26のアイドル回転速度NIDLに応じて第1ライン圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御を実行する。
低油温判定手段166は、AT油温センサ78により検出された自動変速機10内の作動油の温度TOILが予め設定された所定の判定値T1以下であるか否かを判定する。この判定値T1は、たとえば0℃或いはそれ以下に設定された値である。シフトポジション判定手段168は、シフトレバー72のシフト操作装置が車両走行可能な走行ポジションすなわちPポジション、Nポジション以外のポジションに操作されているか否かを、レバーポジションセンサ74からのレバーポジション(操作位置)PSHを示す信号に基づいて、或いは入力軸回転速度NIN(=タービン回転速度NT) に基づいて判定する。車両停止判定手段170は、車両が停止しているか否かを、車速センサ66からの車速V(出力軸24の回転速度NOUTに対応)を示す信号に基づいて、或いは入力軸回転速度NIN(=タービン回転速度NT) に基づいて判定する。
低油温時ライン圧上昇制御手段172は、上記低油温判定手段166により自動変速機10内の作動油の温度TOILが所定の判定値T1以下であると判定され、上記シフトポジション判定手段168により車両のシフトレバー72のシフト操作装置が車両走行可能な走行ポジションに操作されていると判定され、且つ、上記車両停止判定手段170により車両が停止していると判定された低油温時ライン圧上昇条件成立の場合は、作動油の温度TOILの暖気が完了し且つライン圧上昇を伴う他の制御が実行されていないときに用いられる通常の値よりも十分に暖気促進機能が得られるように高く設定したライン圧指令値A(kPa)をライン圧制御手段162に与えることにより、その低油温時ライン圧上昇条件不成立の場合に比較して第1ライン圧PL1をそのライン圧指令値A或いはそれ以上の値( この場合は下限指令値となる) に上昇させる。
他制御必要圧判定手段174は、上記低油温時ライン圧上昇制御手段172による低油温時ライン圧上昇制御とは異なるライン圧上昇を伴う他の制御、たとえばシフトレバー72のN→Dシフト時の応答性を高めるためにN→Dシフト操作が行われると、所定期間だけ第1ライン油圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御や、エンジン26のアイドル回転速度NIDLが高いときは、そのエンジン26のアイドル回転速度NIDLに応じて第1ライン圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御に必要とされる所定のライン圧上昇値B(kPa)が前記低油温時ライン圧A(kPa)以上であるか否かを判定する。
前記低油温時ライン圧上昇制御手段172は、上記他制御必要圧判定手段174により、低油温時ライン圧上昇条件成立時において前記他の制御のための所定の上昇値B(kPa)が低油温時ライン圧A(kPa)以上である場合は、その低油温時ライン圧Aとするための低油温時ライン圧制御を実行しない。
図7は、電子制御装置160の制御作動の要部すなわち低油温時ライン圧上昇制御ルーチンによる制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、前記低油温判定手段166に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、AT油温センサ78により検出された自動変速機10内の作動油の温度TOILがたとえば0℃程度に予め設定された所定の判定値T1以下であるか否かが判断される。このS1の判断が肯定される場合は、前記シフトポジション判定手段168および車両停止判定手段170に対応するS2において、タービン回転速度センサ76により検出された自動変速機10の入力軸回転速度NIN(=タービン回転速度NT) が予め設定された判定値N1よりも小さいか否かが判断される。この判定値N1は零に近い値たとえば5〜10rpmに設定されている。上記自動変速機10の入力軸回転速度NINがその判定値N1よりも小さい場合は、車両が停止状態であり且つシフトレバー72が走行ポジションに位置していることを示している。シフトレバー72が走行ポジションに位置していると、自動変速機10内の動力伝達経路が成立して、入力軸回転速度NINは自動変速機10の変速比を出力軸回転速度NOUTに掛けた値となるので、車両停止状態でなければS2の判定が否定されるとともに、シフトレバー72がPポジションやNポジションである場合も、自動変速機10内のクラッチC1およびC2が解放されて入力軸回転速度NINが=アイドル回転速度となるので、S2の判定が否定される。
上記S2の判断が肯定された場合は、前記他制御必要圧判定手段174に対応するS3において、低油温時ライン圧上昇制御手段172による低油温時ライン圧上昇制御とは異なるライン圧上昇を伴う他の制御、たとえばシフトレバー72のN→Dシフト時の応答性を高めるためにN→Dシフト操作が行われると、所定期間だけ第1ライン油圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御や、エンジン26のアイドル回転速度NIDLが高いときは、そのエンジン26のアイドル回転速度NIDLに応じて第1ライン圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御に必要とされる所定のライン圧上昇値B(kPa)が前記低油温時ライン圧A(kPa)以下であるか否かが判定される。
上記S1、S2、S3の判断が共に肯定された場合、すなわち、自動変速機10内の作動油の温度TOILが所定の判定値T1以下であり、車両のシフトレバー72のシフト操作装置が車両走行可能な走行ポジションに操作されており、車両が停止しているという低油温時ライン圧上昇条件が成立するとともに、低油温時ライン圧上昇制御手段172による低油温時ライン圧上昇制御とは異なるライン圧上昇を伴う他の制御に必要とされる所定のライン圧上昇値B(kPa)が前記低油温時ライン圧A(kPa)以下である場合は、前記低油温時ライン圧上昇制御手段172に対応するS4において、作動油の温度TOILの暖気が完了し且つライン圧上昇を伴う他の制御が実行されていないときに用いられる通常の値よりも十分に暖気促進機能が得られるように高く設定したライン圧指令値A(kPa)がライン圧制御手段162に与えられることにより、その低油温時ライン圧上昇条件不成立の場合に比較して第1ライン圧PL1がそのライン圧指令値A或いはそれ以上の値( この場合は下限指令値となる) に上昇させられる。
しかし、上記S1、S2、S3の判断のいずれか1つが否定された場合は、前記他の制御手段164に対応するS5において、作動油の温度上昇促進のための低油温時ライン圧上昇制御とは異なる理由でライン油圧を上昇させる他の制御、たとえば、シフトレバー72のN→Dシフト時の応答性を高めるためにN→Dシフト操作が行われると、所定期間だけ第1ライン油圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御や、エンジン26のアイドル回転速度NIDLが高いときは、そのエンジン26のアイドル回転速度NIDLに応じて第1ライン圧PL1および第2ライン圧PL2を上昇させる制御などが実行される。
上述のように、本実施例の車両用自動変速機10の油圧制御装置によれば、低油温判定手段166により作動油の温度TOILが所定値T1以下であると判定され、シフトポジション判定手段168により車両のシフトレバー72が走行ポジションに操作されていると判定され、且つ、車両停止判定手段170により車両が停止していると判定された低油温時ライン圧上昇条件成立の場合において、低油温時ライン圧上昇制御手段172により、低油温時ライン圧上昇条件不成立の場合に比較して第1ライン圧PL1が上昇させられるので、その第1ライン圧PL1の上昇によって作動油に対して与えられる仕事量が増加させられてその作動油の温度上昇が積極的に促進される。しかも、車両停止時のみにライン圧が上昇させられるので、車両走行時の動力性能が損なわれることがない。
また、本実施例の車両用自動変速機10の油圧制御装置によれば、低油温時ライン圧上昇制御手段172は、前記低油温時ライン圧上昇条件成立の場合は、その低油温時ライン圧上昇条件不成立の場合よりも高くなるように予め設定された低油温時ライン圧Aとなるように第1ライン圧PL1を上昇制御するので、その低油温時ライン圧Aとなるように第1ライン圧PL1が上昇させられることにより、作動油に対して与えられる仕事量が増加させられてその作動油の温度上昇が積極的に促進される。
また、本実施例の車両用自動変速機10の油圧制御装置によれば、前記低油温時ライン圧上昇制御手段172は、前記低油温時ライン圧上昇条件成立時において、前記低油温時ライン圧上昇制御手段172よる低油温時ライン圧上昇制御とは異なる他の制御のための所定の上昇値Bがその低油温時ライン圧上昇制御のライン圧A以上である場合は、その低油温時ライン圧上昇制御を実行しないので、重ねてライン圧上昇制御が実行されることが回避される。
また、本実施例の車両用自動変速機10の油圧制御装置によれば、(a) 自動変速機10の入力軸回転速度を検出する入力軸回転速度センサが備えられ、(b) 前記車両停止判定手段170は、入力軸回転速度NINが予め設定された回転速度判定値N1よりも小さい場合に、前記車両が停止していると判定し、(c) 前記シフトポジション判定手段168は、その入力軸回転速度センサにより検出された入力軸回転速度NINが予め設定された回転速度判定値N1を下回る場合に、シフトレバー72が走行ポジションに操作されていると判定することから、車両が停止していることおよび走行ポジションに操作されていることが、自動変速機10の入力軸回転速度NINに基づいて一挙に判定される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の油圧制御回路50において、第1ライン圧PL1を制御する第1ライン圧調圧弁82および第2ライン圧PL2を制御する第2ライン圧調圧弁84が設けられていたが、いずれか一方が設けられた油圧制御回路50であってもよい。
また、前述の実施例の車両では、有段式の自動変速機10が設けられていたが、変速比が無段階に変化させられる無段変速機であってもよい。
また、前述の実施例の車両では、トルクコンバータ28が設けられていたが、それに替えてフルードカップリングが設けられていてもよい。
また、前述の実施例の車両では、原動機として、エンジン26が設けられていたが、エンジンおよび電動機、或いは電動機が設けられていてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。