以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ここに、図1は、複合機1の外観構成を示す斜視図である。図2は、プリンタ部2の主要構成を示す部分拡大断面図である。図3は、プリンタ部2の主要構成を示す平面図であり、主としてプリンタ部2の略中央から装置背面側の構成が示されている。図4は、差動伝達機構110を模式化したモデル図である。図5は、差動ギヤ111Aの概略構成を模式的に示す模式図である。図6は、モータドライバ100によるモータ駆動制御の概略構成を模式的に示すブロック図である。なお、図6では、電気的な信号の流れが破線で示されており、駆動力が伝達される流れが太い実線で示されている。図7は、キャリッジ38、搬送ローラ87、第1モータ71及び第2モータ72の速度特性(速度の変移)を示すグラフ図である。図8は、本発明の実施形態の変形例であるモータ駆動制御の概略構成を模式的に示すブロック図である。なお、図7では、搬送ローラ87の速度変移が破線61で示されており、キャリッジ38の速度変移が破線62で示されている。また、第1モータ71の回転軸74の回転速度の変移が実線63で示されており、第2モータ72の回転軸75の回転速度の変移が点線64で示されている。
[複合機1]
複合機1は、プリンタ部2とスキャナ部3とを一体的に備えた多機能装置(MFP:Multi Function Product)であり、プリント機能、スキャン機能、コピー機能、ファクシミリ機能等を有する。複合機1のうちプリンタ部2が、本発明に係るインクジェット方式の画像記録装置に相当する。したがって、プリント機能以外の機能は任意のものであり、例えば、スキャナ部3が省略されたプリント機能のみを有するプリンタとして本発明に係る画像記録装置が実施されてもよい。
図1に示されるように、複合機1は概ね直方体に形成されている。複合機1の下部がプリンタ部2であり、上部がスキャナ部3である。
複合機1のプリンタ部2は、主にコンピュータ等の外部情報機器と接続されて、該コンピュータ等から送信された画像データや文書データを含む印刷データに基づいて、記録用紙に画像や文書を記録する。プリンタ部2は、正面に開口9が形成されている。給紙トレイ20及び排紙トレイ21は、開口9の内側に上下2段に設けられている。給紙トレイ20に収容された記録用紙がプリンタ部2の内部へ給送されて、その記録用紙に所望の画像が記録されると、その後、画像記録済みの記録用紙が排紙トレイ21へ排出される。
スキャナ部3は、所謂フラットベッドスキャナとして構成されている。複合機1の天板としての原稿カバー30がスキャナ部3の上部に開閉自在に設けられている。原稿カバー30の下側に、図示しないプラテンガラス及びイメージセンサが設けられている。プラテンガラスに載置された原稿の画像がイメージセンサによって読み取られる。なお、本発明を実現するうえでスキャナ部3は関係しないため、ここでは、スキャナ部3の詳細な説明を省略する。
図1に示されるように、複合機1の正面上部には、プリンタ部2やスキャナ部3を操作するための操作パネル4が設けられている。操作パネル4は、各種操作ボタンや液晶表示部から構成されている。複合機1は、操作パネル4からの操作指示に基づいて動作する。複合機1が外部のコンピュータに接続されている場合には、該コンピュータからプリンタドライバ又はスキャナドライバを介して送信される指示に基づいても複合機1が動作する。
[プリンタ部2]
以下、複合機1の内部構成、特にプリンタ部2の構成について説明する。
図2に示されるように、複合機1の底側に給紙トレイ20が設けられている。給紙トレイ20の上側に給紙ローラ25が設けられている。給紙ローラ25は、一端が基軸29に回動可能に軸支された給紙アーム26の先端に回転可能に軸支されている。給紙アーム26には、基軸29から入力された回転駆動力を給紙ローラ25に伝達するギヤ駆動機構27が設けられている。プリンタ部2の内部には、第1モータ71及び第2モータ72(図6参照、本発明の第1モータ及び第2モータの一例)が配設されている。これら各モータ71,72は、正逆転方向への駆動が可能に構成されている。各モータ71,72の回転駆動力は、後述する差動伝達機構110(図4参照)、基軸29、及びギヤ駆動機構27を介して給紙ローラ25に伝達される。これにより、給紙ローラ25が回転駆動される。なお、これらのモータ71,72は、給紙ローラ25のみならず、後述するように、搬送ローラ87(本発明の第2被駆動体、搬送ローラの一例)及びキャリッジ38(本発明の第1被駆動体、キャリッジの一例)を駆動させるための駆動源としても用いられる。
給紙トレイ20の奥側に傾斜板22が設けられている。給紙ローラ25が給紙トレイ20上の記録用紙に圧接された状態で、給紙ローラ25が回転されると、給紙ローラ25のローラ面と記録用紙との間の摩擦力により、最上位置の記録用紙が傾斜板22側へ送り出される。記録用紙は、その先端が傾斜板22に当接して上方へ案内される。傾斜板22から用紙搬送路23が延出されている。具体的には、用紙搬送路23は、傾斜板22から上方へ向けられ、そして、複合機1の正面側へ曲げられてから、複合機1の背面側から正面側へと延ばされて、画像記録ユニット24の下部を通って、排紙トレイ21まで延設されている。したがって、給紙トレイ20に収容された記録用紙は、用紙搬送路23により下方から上方へUターンするように案内されて画像記録ユニット24に至り、画像記録ユニット24により画像記録が行われた後、排紙トレイ21に排出される。
図2に示されるように、用紙搬送路23には、画像記録ユニット24が配置されている。画像記録ユニット24は、インクジェット方式の記録ヘッド39(本発明の記録ヘッドの一例)と、この記録ヘッド39を搭載するキャリッジ38とを備えている。キャリッジ38は、記録用紙の搬送方向と直交する主走査方向(図2の紙面に垂直な方向)へ移動可能に支持されている。
記録ヘッド39は、キャリッジ38の底面に配置されており、記録ヘッド39のノズルがキャリッジ38の下面に露出されている。複合機1の内部に配置されたインクカートリッジ(不図示)から各色のインクが記録ヘッド39へ供給される。キャリッジ38が往復して移動される間に、記録ヘッド39のノズルから各色インクが微小なインク滴として選択的に吐出される。これにより、プラテン42上を搬送される記録用紙に画像記録が行われる。
図3に示されるように、用紙搬送路23の上側において一対のガイドレール43,44が配置されている。これらガイドレール43,44は、記録用紙の搬送方向(図3の上側から下側方向)に所定距離を隔てられて対向しており、且つ記録用紙の搬送方向と直交する主走査方向(図3の左右方向)に延設されている。ガイドレール43,44は、プリンタ部2の筐体内に設けられ、プリンタ部2を構成する各部材を支持するフレームの一部を構成している。キャリッジ38は、ガイドレール43,44を跨ぐようにして上記主走査方向に摺動可能に載置されている。
ガイドレール43は、記録用紙の搬送方向上流側に配設されている。このガイドレール43は、用紙搬送路23の幅方向(図3の左右方向)の長さがキャリッジ38の往復動範囲より長い平板状のものである。また、ガイドレール44は、記録用紙の搬送方向下流側に配設されている。このガイドレール44は、用紙搬送路23の幅方向の長さがガイドレール43とほぼ同じ長さの平板状のものである。キャリッジ38の搬送方向上流側の端部がガイドレール43に載置され、キャリッジ38の搬送方向下流側の端部がガイドレール44に載置されており、キャリッジ38は、各ガイドレール43,44の長手方向に摺動されるようになっている。
ガイドレール44の搬送方向上流側の縁部45は、上方へ向かって略直角に曲折されている。ガイドレール43,44に担持されたキャリッジ38は、縁部45をローラ対等の狭持部材により摺動可能に狭持している。これにより、キャリッジ38は、記録用紙の搬送方向に対して位置決めされ、且つ、記録用紙の搬送方向と直交する方向に摺動することができる。つまり、キャリッジ38は、ガイドレール43,44上に摺動自在に担持され、ガイドレール44の縁部45を基準として、記録用紙の搬送方向と直交する方向に往復動する。
ガイドレール44の上面には、図3に示されるように、ベルト駆動機構46が配設されている。ベルト駆動機構46は、駆動プーリ47と、従動プーリ48と、無端環状のベルト49とを有している。本実施形態では、説明の便宜上、ベルト駆動機構46の速度伝達比p、つまり、ベルト駆動機構46の出力を入力で除算した値が「1」に設定されているものとする。なお、言うまでもなく、速度伝達比pは、要求されるキャリッジ38の動作や速度に応じて任意の値に適宜変更可能である。
駆動プーリ47及び従動プーリ48は、用紙搬送路23の幅方向の両端付近にそれぞれ設けられている。駆動プーリ47と従動プーリ48との間に、無端環状のベルト49が張架されている。第1モータ71及び第2モータ72(図6参照)の回転駆動力は、後述する差動伝達機構110(図4参照)を介して駆動プーリ47の軸に伝達される。これにより、駆動プーリ47が回転駆動される。駆動プーリ47の回転によってベルト49が周運動する。なお、ベルト49は無端環状のもののほか、有端のベルトの両端部をキャリッジ38に固着するものも採用され得る。
キャリッジ38は、その底面側においてベルト49に連結されている。したがって、ベルト49の周運動に基づいて、キャリッジ38が縁部45を基準としてガイドレール43,44上を移動する。このようなキャリッジ38に記録ヘッド39が搭載されて、記録ヘッド39が、用紙搬送路23の幅方向を主走査方向として往復動される。
図3に示されるように、ガイドレール44には、エンコーダストリップ50が配設されている。エンコーダストリップ50は、透明な樹脂からなる帯状のものである。エンコーダストリップ50には、遮光部と透光部とが等ピッチで配置されたパターンが記されている。ガイドレール44の幅方向(キャリッジ38の移動方向)の両端には、その上面から起立するように一対の支持用リブ33,34が形成されている。エンコーダストリップ50は、その両端部が支持用リブ33,34に係止されて、縁部45に沿って架設されている。なお、エンコーダストリップ50はバネなどによって張力が付与されている。
キャリッジ38の上面において、エンコーダストリップ50に対応する位置には、透過型センサである光学センサ35(本発明の第1置情報取得手段の一例)が設けられている。光学センサ35の発光素子と受光素子との間にエンコーダストリップ50が挿入されている。エンコーダストリップ50と光学センサ35とによって、キャリッジ38の位置を検出するためのリニアエンコーダが構成される。本実施形態では、エンコーダストリップ50のパターンを光学センサ35が読み取ることにより、キャリッジ38の位置情報を示す検出信号が得られる。この検出信号は、後述するモータドライバ100(本発明の制御手段の一例、図6参照)に入力されて、第1モータ71及び第2モータ72(図6参照)の駆動制御に用いられる。
図2及び図3に示されるように、用紙搬送路23の下側には、記録ヘッド39と対向してプラテン42が配設されている。プラテン42は、キャリッジ38の移動範囲のうち、記録用紙が通過する中央部分に渡って配設されている。プラテン42の幅は、搬送可能な記録用紙の最大幅より十分に大きいものであり、記録用紙の両端は常にプラテン42の上を通過する。
図3に示されるように、記録用紙が通過しない範囲、すなわち記録ヘッド39による画像記録領域の外側には、メンテナンス機構51が配設されている。具体的には、メンテナンス機構51は、図3においてプラテン42の右端部に配置されている。メンテナンス機構51は、記録ヘッド39のノズル内のインクの乾燥を防止したり、ノズルから気泡や異物を吸引除去するものである。本実施形態では、画像記録を行わない場合は、キャリッジ38はメンテナンス機構51上において、画像記録指示が入力されるまで待機している。
図2に示されるように、画像記録ユニット24の上流側には、搬送ローラ87とピンチローラ88とを有する一対の搬送ローラ対89が設けられている。画像記録ユニット24の下流側には、排紙ローラ90と該排紙ローラ90の上方に設けられた拍車91とを有する一対の排出ローラ対92が設けられている。搬送ローラ87の軸に、複数のギヤからなるギヤ駆動機構85(図6参照)が連結されている。本実施形態では、説明の便宜上、ギヤ駆動機構85の回転速度伝達比(ギヤ比)q、つまり、ギヤ駆動機構85の出力を入力で除算した値が「1」に設定されているものとする。なお、言うまでもなく、回転速度伝達比qは、要求される搬送ローラ87の動作や回転速度に応じて任意の値に適宜変更可能である。
第1モータ71及び第2モータ72(図4及び図6参照)の回転駆動力は、後述する差動伝達機構110(図4参照)及びギヤ駆動機構85を介して搬送ローラ87の軸に伝達される。これにより、搬送ローラ87が所定の回転速度で回転されて、記録用紙が用紙搬送路23中を搬送される。搬送ローラ87と排紙ローラ90とはギヤなどの伝達機構により連結されており、該伝達機構を介して搬送ローラ87から駆動力が排紙ローラ90に伝達される。これにより、搬送ローラ87と排紙ローラ90とが同期駆動される。なお、搬送ローラ87によって記録用紙が間欠的に搬送されている間は、給紙ローラ25と差動伝達機構110とが切り離されており、給紙ローラ25は回転駆動されない。
用紙搬送路23を搬送されている記録用紙は、搬送ローラ対89によってプラテン42上へ搬送される。そして、プラテン42上で画像が記録された記録済みの記録用紙は、排出ローラ対92によって排紙トレイ21へ搬送される。
搬送ローラ87の回転軸にエンコーダディスク52が設けられている。エンコーダディスク52の周縁には、遮光部と透光部とが等ピッチで交互に配置されたパターンが記されている。エンコーダディスク52の周縁に対応する位置に光学センサ83(本発明の第2位置情報取得手段の一例、図6参照)が配設されている。光学センサ83の発光素子と受光素子との間にエンコーダディスク52の周縁が挿入されている。エンコーダディスク52と光学センサ83とによって、搬送ローラ87の回転位置を検出するためのロータリーエンコーダが構成される。本実施形態では、搬送ローラ87とともに回転するエンコーダディスク52のパターンは、光学センサ83によって読み取られる。エンコーダディスク52のパターンを光学センサ83が読み取ることにより、搬送ローラ87の回転位置情報を示す検出信号が得られる。この検出信号は、後述するモータドライバ100(図6参照)に入力されて、第1モータ71及び第2モータ72(図4及び図6参照)の駆動制御に用いられる。
本実施形態では、複合機1に画像記録指示が入力されて、記録用紙における記録領域の先端が記録ヘッド39の下方に到達すると、搬送ローラ87が所定の改行幅で間欠的に回転駆動されて、記録用紙が同じ幅で間欠的に搬送される。具体的には、図7に示される搬送ローラ87の速度特性(破線61参照)によれば、所定の間隔で搬送ローラ87の回転と停止とが繰り返される。詳細には、搬送ローラ87は、区間t1で停止され、区間t2で加速駆動され、区間t3から区間t4に渡って定速駆動され、区間t5で減速駆動され、区間t6で再び停止される。そして、区間t7から区間t11、及びそれ以降の区間においては、区間t1から区間t6と同じ動作が繰り返される。
一方、キャリッジ38は、待機位置から移動を開始して、プラテン42上を往復移動する。具体的には、図7に示されるキャリッジ38の速度特性(破線62参照)によれば、一方向への移動とその逆方向への移動とが繰り返される。詳細には、キャリッジ38は、区間t1において一方向へ定速駆動している状態から、区間t2から区間t3に渡って減速駆動され、区間t3の終盤で停止する。そして、区間t4で逆方向へ加速駆動されて、区間t4から区間t5に渡って逆方向へ移動される。そして、区間t6で逆方向の定速駆動が行われる。そして、区間t7から区間t8に渡って再び減速駆動されて、区間t8の終盤で再び停止する。そして、区間t9で一方向へ加速駆動されて、区間t9から区間t10に渡って逆方向へ移動される。そして、区間t11で一方向の定速駆動が行われる。以降、この動作が繰り返されることにより、キャリッジ38はプラテン42上を往復移動する。
本実施形態では、図7の破線61及び破線62に示されるように、キャリッジ38の移動速度が低下しているとき、若しくは停止しているときに、搬送ローラ87が定速駆動されている。また、搬送ローラ87の回転速度が低下しているとき、若しくは停止しているときに、キャリッジ38が定速駆動される。つまり、搬送ローラ87とキャリッジ38とは概ね交互に駆動される。
[差動伝達機構110]
プリンタ部2には、第1モータ71及び第2モータ72それぞれの回転駆動力を搬送ローラ87やキャリッジ38などに伝達するための差動伝達機構110(本発明の駆動力伝達装置の一例)が設けられている。図4に示されるように、差動伝達機構110は、差動ギヤ111A(本発明の第1差動装置の一例)と、差動ギヤ111B(本発明の第2差動装置の一例)と、第1伝達部130と、第2伝達部135とを有する。
差動ギヤ111Aは、図5に示されるように、入力軸114A(本発明の第1入力軸の一例)と、入力軸115A(本発明の第2入力軸の一例)とを有する。入力軸114Aと入力軸115Aとは、同軸上に配置されている。また、差動ギヤ111Aは、一つの出力軸117A(本発明の第1出力軸の一例)を有する。出力軸117Aは、入力軸114A,115Aと直交する方向に延びている。
差動ギヤ111Aは、互いに対向して配置された2つのピニオンギヤ119A,120Aを有する。これらのピニオンギヤ119A,120Aは傘歯車である。ピニオンギヤ119A,120Aは、それぞれ、同ピッチで同数の歯を有している。ピニオンギヤ119Aには、入力軸114Aが一体となって連結されている。また、ピニオンギヤ120Aには、入力軸115Aが一体となって連結されている。
入力軸114Aには、リンクギヤ121Aが設けられている。リンクギヤ121Aは、ピニオンギヤ119Aと回転軸が一致するように配置されている。本実施形態では、リンクギヤ121Aは、入力軸114Aに回転可能に軸支されている。リンクギヤ121Aは傘歯車として構成されている。リンクギヤ121Aと噛合可能なように、ピニオンギヤ122Aが配置されている。このピニオンギヤ122Aは、傘歯車であり、リンクギヤ121Aの回転数を2倍に増速するものである。つまり、リンクギヤ121Aからピニオンギヤ122Aへの回転速度伝達比(ギヤ比)は「2」である。ピニオンギヤ122Aに、出力軸117Aが一体となって連結されている。本実施形態では、説明の便宜上、ピニオンギヤ122Aがリンクギヤ121Aの回転数を2倍に増速するものとしたが、リンクギヤ121A及びピニオンギヤ122Aが同じ歯数であってもよい。要するに、出力軸117Aの回転出力として要求される回転速度に応じて、リンクギヤ121A及びピニオンギヤ122Aの歯数やピッチを定めればよい。なお、以下の説明では、「ギヤ列に回転を入力する入力ギヤ」から「ギヤ列から回転を出力する出力ギヤ」へ回転が伝わるときに奇数個のギヤを介して回転が伝わる場合には、出力ギヤは入力ギヤと同方向に回転すると定義し、入力ギヤから出力ギヤに至る回転速度伝達比を正で表すことにする。同様に入力ギヤから出力ギヤへ回転が伝わるときに偶数個のギヤを介して回転が伝わる場合と、入力ギヤと出力ギヤが直接かみ合って回転が伝わる場合(0個のギヤを介して回転が伝わる場合)には、入力ギヤと出力ギヤは逆方向に回転すると定義し、入力ギヤから出力ギヤに至る回転速度伝達比を負で表すことにする。
リンクギヤ121Aの一方の側面にアーム123Aが取り付けられている。アーム123Aには、入力軸114A,115Aと直交する方向に延出された軸124Aが固定されている。アーム123A及び軸124A、及びリンクギヤ121Aは、リンクギヤ121Aの回転軸周りを一体となって回転する。
軸124Aに2つのピニオンギヤ125A,126Aが回転可能に軸支されている。ピニオンギヤ125Aは、軸124Aの一方端側でピニオンギヤ119A,120Aそれぞれと噛み合わされている。また、ピニオンギヤ126Aは、軸124Aの他方端側でピニオンギヤ119A,120Aそれぞれと噛み合わされている。なお、機構上は、ピニオンギヤ125A若しくはピニオンギヤ126Aのいずれか一方が設けられていれば十分であるが、平衡を確保するために、2つのピニオンギヤ125A,126Aがピニオンギヤ119A,120Aに噛み合わされている。なお、ピニオンギヤ119A,120Aとピニオンギヤ125Aとの間の回転速度伝達比は、ピニオンギヤ119A,120Aとピニオンギヤ126Aとの間の回転速度伝達比と一致している必要があるが、その回転速度伝達比自体は差動ギヤ111A全体の伝達比には影響しないため、1でなくてもかまわない。仮に、軸124Aを固定してピニオンギヤ125Aを回転させると、ピニオンギヤ119A及びピニオンギヤ120Aが同ピッチで同数の歯を有しているため、入力軸114Aと入力軸115Aは同じ回転速度で逆向きに回転することが明らかである。すなわち軸124A及びアーム123Aに対しては、ピニオンギヤ119A及びピニオンギヤ120Aは常に同じ回転速度で逆向きに回転することがわかる。さて、ここで、入力軸114Aが回転速度V1で回転し、入力軸115Aが入力軸114Aと同じ向きに回転速度V2で回転するとする。この運動を、入力軸114Aの周りを入力軸114Aと同じ向きに、回転速度(V1+V2)/2で回転している観察者から観察すると、入力軸114Aは観察者に対し相対的に回転速度V1−(V1+V2)/2=(V1−V2)/2で回転し、入力軸115Aは観察者に対し相対的に回転速度V2−(V1+V2)/2=−(V1−V2)/2で回転していることになる。入力軸114Aと入力軸115Aは観察者に対して同じ回転速度で逆向きに回転していることになるから、観察者は軸124A及びアーム123Aと共に回転していることになる。この関係が恒等的に成り立つのであるから、入力軸114Aが回転速度V1で回転し、入力軸115Aが入力軸114Aと同じ向きに回転速度V2で回転するとき、軸124A及びアーム123A、及びリンクギヤ121Aは回転速度(V1+V2)/2で回転する。このことからピニオンギヤ119Aからリンクギヤ121Aまでの回転速度伝達比は「1/2」であり、ピニオンギヤ120Aからリンクギヤ121Aまでの回転速度伝達比も「1/2」である。つまり、リンクギヤ121Aの回転速度には、ピニオンギヤ119Aの回転速度の1/2と、ピニオンギヤ120Aの回転速度の1/2との和が現れるのである。このことから、リンクギヤ121Aの回転速度を各入力軸114A,115Aから入力される回転速度ごとに分けて考えると、ピニオンギヤ119Aの回転速度がピニオンギヤ119Aからリンクギヤ121Aまで伝達される回転速度伝達比は、「1/2」であり、ピニオンギヤ120Aの回転速度がピニオンギヤ120Aからリンクギヤ121Aまで伝達される回転速度伝達比も「1/2」であるといえる。先述のようにリンクギヤ121Aからピニオンギヤ122Aまでの回転速度伝達比は「2」であるから、ピニオンギヤ119Aからピニオンギヤ122Aまでの回転速度伝達比(本発明の伝達比a2に相当)は「1」であり、ピニオンギヤ120Aからピニオンギヤ122Aまでの回転速度伝達比(本発明の伝達比b2に相当)も「1」である。
したがって、このように構成された差動ギヤ111Aでは、入力軸114A及び入力軸115Aそれぞれが所定の回転速度で回転されると、出力軸117Aは、入力軸114Aの回転速度と入力軸115Aの回転速度との加算値に比例する回転速度で回転することになる。具体的には、ピニオンギヤ119A、ピニオンギヤ120A、リンクギヤ121A及びピニオンギヤ122Aが上述したように構成されているため、例えば、入力軸114Aが回転速度V1で回転され、入力軸115Aが入力軸114Aと同じ向きに回転速度V2で回転されると、出力軸117Aは、回転速度(V1+V2)で回転することになる。
差動ギヤ111Bは、図4に示されるように、入力軸114B(本発明の第3入力軸の一例)と、入力軸115B(本発明の第4入力軸の一例)と、1つの出力軸117B(本発明の第2出力軸の一例)とを有する。この差動ギヤ111Bは、差動ギヤ111Aと同じ構成を有するものであり、ピニオンギヤ119A,120Aと同じ形状のピニオンギヤ119B,120Bと、アーム123Aと同じ形状のアーム123Bと、軸124Aと同じ形状の軸124Bと、ピニオンギヤ125A,126Aと同じ形状のピニオンギヤ125B,126Bとを有する。また、リングギヤ121Aと同じ形状のリンクギヤ121Bと、ピニオンギヤ122Aと同じ形状のピニオンギヤ122Bとを有している。したがって、差動ギヤ111Aの入出力特性は、差動ギヤ111Bの入出力特性と一致する。つまり、ピニオンギヤ119Bからピニオンギヤ122Bまでの回転速度伝達比(本発明の伝達比c2に相当)は「1」であり、ピニオンギヤ120Bからピニオンギヤ122Bまでの回転速度伝達比(本発明の伝達比d2に相当)も「1」である。差動ギヤ111Bの各構成要素については、差動ギヤ111Aの構成と共通であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
本実施形態では、図4に示されるように、差動ギヤ111Aと差動ギヤ111Bとが横並びに配置されている。差動ギヤ111Aの出力軸117Aには、ベルト駆動機構46(伝達比p=1)を介してキャリッジ38が連結されている(図6参照)。一方、差動ギヤ111Bの出力軸117Bには、ギヤ駆動機構85(伝達比q=1)を介して搬送ローラ87が連結されている(図6参照)。
[第1伝達部130]
差動ギヤ111Aの入力軸114Aと差動ギヤ111Bの入力軸114Bに第1伝達部130が設けられている。第1伝達部130は、3つのギヤ131,132,133を有する。これら各ギヤ131,132,133は略円盤状の平歯車として構成されている。ギヤ131は、入力軸114Aに一体に取り付けられている。ギヤ132は、入力軸114Bに一体に取り付けられている。ギヤ133は、ギヤ131及びギヤ132の双方に噛み合わされている。このギヤ133に、第1モータ71の回転軸74(本発明の第1回転軸の一例)が一体に連結されている。つまり、差動ギヤ111Aの入力軸114Aは、第1伝達部130のギヤ131及びギヤ133を介して第1モータ71の回転軸74に連結されている。したがって、第1モータ71の回転駆動力は、ギヤ133及びギヤ131を順次介して入力軸114Aに伝達される。このようなギヤ131及びギヤ133と、上述の差動ギヤ111Aのピニオンギヤ122Aとを含む伝達機構が、本発明の第1伝達手段に相当する。
また、差動ギヤ111Bの入力軸114Bは、第1伝達部130のギヤ132及びギヤ133を介して第1モータ71の回転軸74に連結されている。したがって、第1モータ71の回転駆動力は、ギヤ133及びギヤ132を順に介して入力軸114Bに伝達される。このようなギヤ132及びギヤ133と、上述の差動ギヤ111Bピニオンギヤ122Bとを含む伝達機構が、本発明の第3伝達手段に相当する。
このように、第1モータ71の回転軸74と各入力軸114A,114Bとが第1伝達部130によって連結されているため、各入力軸114A,114Bそれぞれに、第1モータ71の回転方向とは逆方向の回転駆動力が伝達される。したがって、例えば、図4に示されるように、第1モータ71が矢印53の方向へ回転されると、各入力軸114A,114Bが矢印54の方向へ回転される。
本実施形態では、第1伝達部130が有する3つのギヤ131,132,133は全て同じ構成であり、それぞれ、同ピッチで同数の歯を有している。したがって、回転軸74からギヤ133及びギヤ131を経て入力軸114Aに至るまでの回転速度伝達比(ギヤ比)、つまり、入力軸114Aの回転速度を回転軸74の回転速度(第1モータ71の回転速度)で除した値は「1」である。そのため、第1モータ71が或る回転速度で回転すると、入力軸114Aは第1モータ71と同じ回転速度で回転する。ただし、回転軸74と入力軸114Aとの間に2つのギヤ(ギヤ133及びギヤ131)が介在しているため、入力軸114Aは第1モータ71の回転方向とは逆の方向に回転することになる。ここで、以下の説明では、説明を簡便にするため、第1モータ71の回転方向及び入力軸114Aの回転方向が異なることを示す負の符号「−」を上記回転速度伝達比に付して表すこととし、回転方向が同じ場合は特に符号を付さない。したがって、以下の説明では、回転軸74からギヤ133及びギヤ131を経て入力軸114Aに至るまでの回転速度伝達比を「−1」と表す。なお、この回転速度伝達比は、本発明の伝達比a1に相当する。
また、回転軸74からギヤ133及びギヤ132を経て入力軸114Bに至るまでの回転速度伝達比(ギヤ比)、つまり、入力軸114Bの回転速度を回転軸74の回転速度(第1モータ71の回転速度)で除した値も「1」である。そのため、第1モータ71が或る回転速度で回転すると、入力軸114Bは第1モータ71と同じ回転速度で回転する。ただし、回転軸74と入力軸114Bとの間に2つのギヤ(ギヤ133及びギヤ132)が介在しているため、入力軸114Bは第1モータ71の回転方向とは逆の方向に回転することになる。したがって、以下の説明では、回転軸74からギヤ133及びギヤ132を経て入力軸114Bに至るまでの回転速度伝達比を「−1」と表す。なお、この回転速度伝達比は、本発明の伝達比c1に相当する。
[第2伝達部135]
差動ギヤ111Aの入力軸115Aと差動ギヤ111Bの入力軸115Bに第2伝達部135が設けられている。第2伝達部135は、3つのギヤ136,137,138を有する。これらは略円盤状の平歯車として構成されている。ギヤ136は、入力軸115Aに一体に取り付けられている。ギヤ137は、入力軸115Bに一体に取り付けられている。ギヤ136とギヤ137とは、互いに噛み合わされている。ギヤ138は、ギヤ136に噛み合わされている。このギヤ138に、第2モータ72の回転軸75(本発明の第2回転軸の一例)が一体に連結されている。つまり、入力軸115Aは、第2伝達部135のギヤ136,138を介して第2モータ72の回転軸75に連結されている。したがって、第2モータ72の回転駆動力は、ギヤ138,136を順次介して入力軸115Aに伝達される。このようなギヤ136,138と、上述の差動ギヤ111Aのピニオンギヤ122Aとを含む伝達機構が、本発明の第2伝達手段に相当する。
また、差動ギヤ111Bの入力軸115Bは、第2伝達部135のギヤ137,136,138を介して第2モータ72の回転軸75に連結されている。したがって、第2モータ72の回転駆動力は、ギヤ138,136,137を順次介して入力軸115Bに伝達される。このようなギヤ136,137,138と、上述の差動ギヤ111Bのピニオンギヤ122Bとを含む伝達機構が、本発明の第4伝達手段に相当する。
このように、第2モータ72の回転軸75と各入力軸115A,115Bとが第2伝達部135によって連結されているため、入力軸115Aに、第2モータ72の回転方向とは逆方向の回転駆動力が伝達され、入力軸115Bに、第2モータ72の回転方向と同方向の回転駆動力が伝達される。したがって、例えば、図4に示されるように、第2モータ72が矢印56の方向へ回転されると、入力軸115Aは矢印56とは逆の矢印55の方向(入力軸114A,114Bと同じ方向)へ回転される。一方、入力軸115Bは、第2モータ72の回転方向と同じ矢印55の方向(入力軸114A,114Bとは逆の方向)へ回転される。
本実施形態では、第2伝達部135が有する3つのギヤ136,137,138は全て同じ構成であり、それぞれ、同ピッチで同数の歯を有している。したがって、回転軸75からギヤ138及びギヤ136を経て入力軸115Aに至るまでの回転速度伝達比(ギヤ比)、つまり、入力軸115Aの回転速度を回転軸75の回転速度(第2モータ72の回転速度)で除した値は「1」である。そのため、第2モータ72が或る回転速度で回転すると、入力軸115Aは第2モータ72と同じ回転速度で回転する。ただし、回転軸75と入力軸115Aとの間に2つのギヤ(ギヤ138及びギヤ136)が介在しているため、入力軸115Aは第2モータ72の回転方向とは逆の方向に回転することになる。ここで、以下の説明では、説明を簡便にするため、第2モータ72の回転方向及び入力軸115Aの回転方向が異なることを示す負の符号「−」を上記回転速度伝達比に付して表すこととし、回転方向が同じ場合は特に符号を付さない。したがって、以下の説明では、回転軸75からギヤ138及びギヤ136を経て入力軸115Aに至るまでの回転速度伝達比を「−1」と表す。なお、この回転速度伝達比は、本発明の伝達比b1に相当する。
また、回転軸75からギヤ138、ギヤ136及びギヤ137を順次経て入力軸115Bに至るまでの回転速度伝達比(ギヤ比)、つまり、入力軸115Bの回転速度を回転軸75の回転速度(第2モータ72の回転速度)で除した値も「1」である。そのため、第2モータ72が或る回転速度で回転すると、入力軸115Bは第2モータ72と同じ回転速度で回転する。なお、回転軸75と入力軸115Bとの間に3つのギヤ(ギヤ138,136,137)が介在しているため、入力軸115Bは第2モータ72の回転方向と同じ方向に回転することになる。したがって、以下の説明では、回転軸75からギヤ138、ギヤ136及びギヤ137を経て入力軸115Bに至るまでの回転速度伝達比を「1」と表す。なお、この回転速度伝達比は、本発明の伝達比d1に相当する。
本実施形態では、上述したように、リンクギヤ121Aからピニオンギヤ122Aへの回転速度伝達比が「2」であり、回転軸74から入力軸114Aまでの回転速度伝達比が「−1」であるため、回転軸74から入力軸114A、差動ギヤ111Aの内部(ピニオンギヤ122A等)を経て出力軸117Aに至る伝達機構の回転速度伝達比を「a」とすると、この回転速度伝達比「a」は、「−1」となる。また、回転軸75から入力軸115Aまでの回転速度伝達比が「−1」であるため、回転軸75から入力軸115A、差動ギヤ111Aの内部(ピニオンギヤ122A等)を経て出力軸117Aに至る伝達機構の回転速度伝達比を「b」とすると、この速度伝達比「b」は「−1」となる。
また、リンクギヤ121Bからピニオンギヤ122Bへの回転速度伝達比が「2」であり、回転軸74から入力軸114Bまでの回転速度伝達比が「−1」であるため、回転軸74から入力軸114B、差動ギヤ111Bの内部(ピニオンギヤ122B等)を経て出力軸117Bに至る伝達機構の回転速度伝達比を「c」とすると、この速度伝達比「c」は、「−1」となる。また、回転軸75から入力軸115Bまでの回転速度伝達比が「1」であるため、回転軸75から入力軸115B、差動ギヤ111Bの内部(ピニオンギヤ122B等)を経て出力軸117Bに至る伝達機構の回転速度伝達比を「d」とすると、この回転速度伝達比「d」は「1」となる。
このように、構成された差動伝達機構110においては、図4に示されるように、第1モータ71の回転軸74が矢印53の方向へ回転速度Xで回転され、第2モータ72の回転軸75が矢印56の方向へ回転速度Yで回転されると、出力軸117Aの回転速度u、及び出力軸117Bの回転速度vは、上記回転速度伝達比a乃至dを用いて、下記の式(1)のように表すことができる。なお、式(1)中の記号Aは、上記回転速度伝達比a乃至dを2×2の行列で表したものである。この行列Aは、detA=ad−bc=−2であり、detA≠0の条件を満たしている。したがって、当該行列Aは、逆行列A−1が存在する。
[モータドライバ100]
プリンタ部2には、制御手段の一例であるモータドライバ(以下「ドライバ」と略称する)100(図6参照)が設けられている。ドライバ100は、第1モータ71及び第2モータ72それぞれの回転速度を独立に制御する。ドライバ100は、主として、目標速度生成部103と、駆動量変換部105と、駆動量変換部106と、演算部102と、駆動電流変換部104とを備える。
演算部102は、例えば、CPUや、ROM、RAMなどを主要とするマイクロコンピュータとして構成されている。
ROMには、第1モータ71及び第2モータ72の駆動制御に用いるプログラムや、光学センサ35,83から出力された検出信号の解析に用いるプログラムなどが格納されている。
RAMは、CPUが上記プログラムを実行する際に用いる各種データを一時的に格納する記憶領域又は演算処理を行うための作業領域として使用される。例えば、光学センサ35,83から出力された検出信号や、この検出信号から求められた位置情報などがRAMに格納される。
目標速度生成部103は、キャリッジ38の目標速度U、及び搬送ローラ87の目標速度Vを生成する。これらの目標速度U,Vは、横軸を時間、縦軸を速度として予め定められた目標速度特性(目標速度プロファイル)に基づいて生成される。この目標速度特性は、目標速度生成部103内の図示しない内部メモリに格納されている。本実施形態では、目標速度U,Vでキャリッジ38及び搬送ローラ87を駆動させるときの第1モータ71の目標速度をXとし、同様に第2モータ72の目標速度をYとすると、目標速度生成部103は、上記回転速度伝達比a,bを用いて目標速度X及び目標速度Yの一次式で表される目標速度U(=aX+bY)と、上記回転速度伝達比c,dを用いて目標速度X及び目標速度Yの一次式で表される目標速度V(=cX+dY)とを生成する。この目標速度U,Vは、上記式(1)の行列Aを用いて、下記の式(2)のように表される。目標速度生成部103で生成された目標速度U,Vは、駆動量変換部105に出力される。
駆動量変換部105に、目標速度生成部103で生成されたキャリッジ38の目標速度Uと搬送ローラ87の目標速度Vが入力される。この駆動量変換部105では、入力された目標速度の組(U,V)、つまり入力された目標速度を要素とするベクトル(U,V)に対して行列Aの逆行列A−1を乗じる処理が行われる。これにより、目標速度U,Vが速度X,Yに変換される。変換後の速度X,Yは、演算部102に出力される。なお、かかる変換処理は、逆行列A−1を用いて、下記の式(3)のように表される。
駆動量変換部106に、光学センサ35と光学センサ83とが接続されている。駆動量変換部106に、光学センサ35及び光学センサ83それぞれから出力された検出信号が入力される。駆動量変換部106では、光学センサ35からの検出信号に基づいて、キャリッジ38の移動位置(本発明の位置情報に相当)が求められる。具体的には、検出信号に含まれているパルスの数がカウントされ、そのカウント値に応じた距離が所定の基準位置(例えば待機位置)からの離間距離(移動位置)として算出される。これにより、上記基準位置を基準とするキャリッジ38の位置情報が求められる。更に、キャリッジ38の位置情報とカウント時間とから、キャリッジ38の実際の移動速度U’が求められる。また、駆動量変換部106では、光学センサ83からの検出信号に基づいて、搬送ローラ87の回転位置(本発明の位置情報に相当)が求められる。具体的には、検出信号に含まれているパルスの数がカウントされ、そのカウント値に応じた回転角が回転位置情報として算出される。更に、搬送ローラ87の回転角とカウント時間とから、搬送ローラ87の実際の回転速度V’が求められる。この駆動量変換部106では、求められた速度の組(U’,V’)、つまり、求められた速度を要素とするベクトル(U’,V’)に対して行列Aの逆行列A−1を乗じる処理が行われる。これにより、速度U’,V’が速度X’,Y’に変換される。変換後の速度X’,Y’は、演算部102に出力される。
演算部102では、駆動電流変換部104から第1モータ71及び第2モータ72に出力される駆動電流を決定するための信号SX,SYを生成する。この生成処理は、例えば、上記ROMに格納されたプログラムにしたがった演算処理やデータ処理を行うことによって実現される。従来の制御システムでは、目標速度U,V、及び速度U’,V’が直接演算部102に入力されて、これらの速度偏差に基づいてモータの駆動電流が決定されていた。しかしながら、本実施形態では、当該演算部102において、入力された速度Xと速度X’との偏差に応じた信号SXと、速度Yと速度Y’との偏差に応じた信号SYとが生成される。上記信号SXには、第1モータ71を回転速度Xで回転させるのに必要な駆動電流値を示す情報が含まれており、上記信号SYには、第2モータ72を回転速度Yで回転させるのに必要な駆動電流値を示す情報が含まれている。これらの信号SX,SYは、駆動電流変換部104に出力される。
なお、本実施形態では、ROM内のプログラムにしたがった演算処理やデータ処理が行われることによって、上記信号SX,SYを生成することとしたが、例えば、コンデンサやトランジスタなどの電子部品でロジック回路が構成されたASICなどで上記CPUにより実行される演算処理や、駆動量変換部105,106で実行される処理などを実現してもかまわない。
演算部102には、駆動電流変換部104が接続されている。演算部102で生成された信号SX,SYは、駆動電流変換部104に入力される。駆動電流変換部104には、図示しない電源から所定電圧(例えば、直流24V)の電力が供給されている。この駆動電流変換部104では、信号SXに応じた駆動電流IXが生成され、信号SYに応じた駆動電流IYが生成される。図6に示されるように、駆動電流IXは、第1モータ71に供給され、駆動電流IYは、第2モータ72に供給される。
駆動電流IXを受けた第1モータ71は、理想的には、駆動電流IXに応じた回転速度Xで回転される。同様に、駆動電流IYを受けた第2モータ72は、理想的には、駆動電流IYに応じた回転速度Yで回転される。しかしながら、実際は、摩擦抵抗が一定でないことや、モータ軸の偏心などの影響を受けるため、実際の回転速度は目標とする速度と一致せず、第1モータ71は回転速度Xと一致しない回転速度X’で回転し、第2モータ72は回転速度Yと一致しない回転速度Y’で回転する。
第1モータ71が回転速度X’で回転し、第2モータ72が回転速度Y’で回転すると、差動ギヤ111Aの出力軸117Aは、上記式(1)より、回転速度u’=aX’+bY’で回転する。つまり、出力軸117Aの回転速度は、第1モータ72の回転速度X’のa倍と第2モータ72の回転速度Y’のb倍との和となる。なお、本実施形態では、回転速度伝達比aが「−1」、回転速度伝達比bが「−1」であるため、出力軸117Aは、回転速度u’=−X’−Y’で回転する。このとき、キャリッジ38は、回転速度u’にベルト駆動機構46の伝達比pを乗じた移動速度U’=p(aX’+bY’)で移動することになる。なお、本実施形態では、伝達比pは「1」であるため、キャリッジ38は、移動速度U’=−X’−Y’で移動することになる。
一方、第1モータ71が回転速度X’で回転し、第2モータ72が回転速度Y’で回転すると、差動ギヤ111Bの出力軸117Bは、上記式(1)より、回転速度v’=cX’+dY’で回転する。つまり、出力軸117Bの回転速度は、第1モータ72の回転速度X’のc倍と第2モータ72の回転速度Y’のd倍との和となる。なお、本実施形態では、回転速度伝達比cが「−1」、回転速度伝達比dが「1」であるため、出力軸117Bは、回転速度v’=−X’+Y’で回転する。このとき、搬送ローラ87は、回転速度v’にギヤ駆動機構85の伝達比qを乗じた回転速度V’=q(cX’+dY’)で回転することになる。なお、本実施形態では、伝達比qは「1」であるため、搬送ローラ87は、回転速度V’=−X’+Y’で回転することになる。
本実施形態では、第1モータ71及び第2モータ72が駆動電流IX,IYで駆動制御されることにより、キャリッジ38の移動速度は、図7の破線62のように時間tと共に変移し、搬送ローラ87の回転速度は、図7の破線61のように時間tと共に変移する。ただし、実際は、摩擦抵抗が一定でないことやモータ軸の偏心の影響を受けるため、キャリッジ38は上述した移動速度U’で移動し、搬送ローラ87は上述した回転速度V’で回転する。ただし、キャリッジ38及び搬送ローラ87の実際の速度は、光学センサ35,83によって検出され、その検出結果がドライバ100にフィードバックされる。そのため、キャリッジ38及び搬送ローラ87は、常に、理想速度に近い速度に維持される
[回転速度X’及び回転速度Y’の変移]
上述の如く構成された差動伝達機構110に第1モータ71及び第2モータ72を連結し、更に、第1モータ71及び第2モータ72をドライバ100でフィードバック制御することによって、第1モータ71の回転速度X’は、図7の実線63に示されるように時間tと共に変移し、第2モータ72の回転速度Y’は、図7の点線64に示されるように時間tと共に変移する。つまり、上記駆動電流IX,IYで第1モータ71及び第2モータ72が駆動制御されることにより、図7の実線63及び点線64の如く回転速度X’及び回転速度Y’が変移する。これにより、図7の破線61,62に示されるようにキャリッジ38及び搬送ローラ87を駆動させることができる。以下、図7を参照して、回転速度X’及び回転速度Y’の変移について詳細に説明する。なお、以下においては、説明を簡便にするため、第1モータ71及び第2モータ72は、同容量、且つ同サイズのモータであるものとする。また、回転速度伝達比a乃至d、伝達比p,q、及びピニオンギヤ122A,122Bのギヤ比として、上述した具体的数値を代入して説明する。
区間t1は、キャリッジ38の定速駆動領域であり、搬送ローラ87の停止領域でもある。区間t1では、第1モータ71は駆動電流IXで回転駆動され、第2モータ72は駆動電流IYで回転駆動されて、概ね同じ回転速度X’t1(=Y’t1)で同じ回転方向に回転される。このとき、差動ギヤ111Aでは、入力軸114Aと入力軸115Aとが概ね同じ回転速度で同じ回転方向に回転されるため、出力軸117Aは、入力軸114Aの回転速度と入力軸115Aの回転速度とを加算した回転速度(−X’t1−Y’t1)=−2X’t1で回転する。一方、差動ギヤ111Bでは、入力軸114Bと入力軸115Bとが同じ回転速度で逆方向に回転されるため、出力軸117Bは回転しない(−X’t1−(−Y’t1)=0)。したがって、キャリッジ38は、一定速度(−2X’t1)で移動され、搬送ローラ87は停止状態を保つ。
区間t2は、キャリッジ38の減速駆動領域であり、搬送ローラ87の加速駆動領域でもある。駆動電流IXは、区間t2では、区間t1と同じ大きさである。この駆動電流IXが第1モータ71に供給されるため、第1モータ71は、区間t1と同じ回転速度X’t2(=X’t1)で回転される。また、区間t2では、駆動電流IYが低下され、第2モータ72の回転速度Y’t2は徐々に低下する。このとき、差動ギヤ111Aでは、入力軸114Aと入力軸115Aとが同じ回転方向であるが、第2モータ72の減速により入力軸115Aの回転速度が低下したため、出力軸117Aの回転速度は次第に低下する。これにより、キャリッジ38の移動速度は徐々に減速する。キャリッジ38が減速する際に、所定速度で移動していたキャリッジ38が有する運動エネルギーは、ベルト駆動機構46を介して出力軸117Aを回転させる外力となって該出力軸117Aに作用する。この際に出力軸117Aを回転させる上記外力は、差動ギヤ11Aを介して入力軸114A,115Aへ伝達されて、更に第1伝達部130及び第2伝達部135から差動ギヤ111Bの出力軸117B、ギヤ駆動機構85に伝達されて、搬送ローラ87を増速させる駆動力として利用される。つまり、キャリッジ38が減速する際に、その運動エネルギーは無駄に消費されずに、搬送ローラ87を増速させるエネルギーとして転用される。
一方、差動ギヤ111Bでは、第2モータ72の減速により入力軸115Bの回転速度が低下したことによって、その減速分は出力軸117Bを回転させる力として該出力軸117Bに作用する。また、上述したように、キャリッジ38の運動エネルギーが転用されて、出力軸117Bを回転させる力となって該出力軸117Bに作用する。これにより、出力軸117Bが回転し始めて、搬送ローラ87の回転が開始する。
区間t3及び区間t4は、キャリッジ38が減速、停止、加速する領域であり、搬送ローラ87の定速駆動領域でもある。区間t3では、駆動電流IXが低下されるため、第1モータ71の回転速度X’t3が徐々に低下する。第1モータ71の回転速度X’t3の低下は区間t4の中盤まで継続され、その後、第1モータ71が一時停止される。そして、直ぐに、区間t4において、逆電流IX(<0)が第1モータ71に供給されて、第1モータ71が逆回転方向へ増速される。一方、駆動電流IYは、区間t3において更に低下されて、第2モータ72が一時停止される。その後、直ぐに逆電流IY(<0)が第2モータ72に供給されて、区間t3から区間t4に渡って逆電流IY(<0)が第2モータ72に供給される。これにより、第2モータ72が逆回転方向へ増速される。
本実施形態では、区間t3において、搬送ローラ87の加速が終了して定速駆動が行われる。一方、キャリッジ38は徐々に減速されて、区間t4ではその移動方向が反転される。区間t3及び区間t4において、搬送ローラ87の定速駆動中は、各モータ71,72に供給される逆電流IX(<0),IY(<0)が、出力軸117Aの回転速度を低下させて出力軸117Aの回転方向を反転させるために用いられる。つまり、キャリッジ38の移動方向を反転させるために用いられる。この区間t3,t4では、2つのモータ71,72それぞれのトルクが出力軸117Aからキャリッジ38に伝達される。
区間t5は、キャリッジ38の逆方向への加速駆動領域であり、搬送ローラ87の減速駆動領域でもある。区間t5では、逆電流IX(<0)が更に大きくなり、第1モータ71の回転速度X’t5は徐々に増す。一方、逆電流IY(<0)は一定となり、第2モータ72は一定速度Y’t5で回転駆動される。このとき、差動ギヤ111Bでは、入力軸114Bと入力軸115Bとが逆方向に回転されるが、各軸の回転速度差が徐々に小さくなる。そのため、出力軸117Bは、次第に回転速度が低下する。つまり、搬送ローラ87が徐々に減速する。搬送ローラ87が減速する際に、所定速度で回転していた搬送ローラ87が有する運動エネルギーはギヤ駆動機構885を介して出力軸117Bを回転させる外力となって該出力軸117Bに作用する。この際に出力軸117Bを回転させる上記外力は、差動ギヤ111Bを介して入力軸114B,115Bへ伝達され、更に第1伝達部130及び第2伝達部135から差動ギヤ111Aの出力軸117A、ベルト駆動機構46に伝達されて、キャリッジ38を増速させる駆動力として利用される。
一方、差動ギヤ111Aでは、入力軸114Aと入力軸115Aとが同じ回転方向に回転されるが、入力軸115Aの回転が加速駆動から定速駆動になったため、出力軸117Aの回転速度が第1モータ71によって増速される。また、上述したように、搬送ローラ87の運動エネルギーが転用されて、出力軸117Aを回転させる外力となって該出力軸117Aに作用するため、当該外力によって出力軸117Aの回転が増速される。つまり、搬送ローラ87は、上記第1モータ71及び上記外力によって加速される。
区間t6は、キャリッジ38の逆方向の加速が終了して定速駆動される領域であり、搬送ローラ87の減速が終了して停止される領域でもある。区間t6では、逆電流IX(<0),IY(<0)は共に一定となり、各モータ71,72は共に一定速度X’t6(=Y’t6)で逆方向へ回転駆動される。このとき、差動ギヤ111Aでは、入力軸114Aと入力軸115Aとが同じ回転速度で同じ回転方向に回転されるため、出力軸117Aは、入力軸114Aと入力軸115Aとを加算した回転速度(−X’t6−Y’t6)=−2X’t6で回転する。一方、差動ギヤ111Bでは、入力軸114Bと入力軸115Bとが同じ回転速度で逆方向に回転されるため、出力軸117Bは回転しなくなる(−X’t6−(−Y’t6)=0)。したがって、キャリッジ38は、一定速度(−2X’t6)で逆方向へ移動され、搬送ローラ87は停止状態を保つ。
区間t7から区間t10においては、上述した区間t2から区間t5とは逆の順序で各モータ71,72を駆動制御することにより、キャリッジ38の減速駆動、一時停止、加速駆動が行われ、搬送ローラ87の加速駆動、定速駆動、減速駆動が行われる。そして、区間t6においては、区間t1におけるモータ制御とは逆の制御を各モータ71,72に対して行うことによって、キャリッジ38の定速駆動、及び搬送ローラ87の一時停止が行われる。
[作用効果]
このように、差動伝達機構110に第1モータ71及び第2モータ72を連結し、更に、第1モータ71及び第2モータ72をドライバ100でフィードバック制御することによって、例えば、搬送ローラ87が停止している間でも、双方のモータ71,72それぞれの回転駆動力をキャリッジ38を移動させるために用いることができる。また、搬送ローラ87の停止中は、2つのモータ71,72それぞれのトルクをキャリッジ38に作用させることが可能となる。そのため、モータ容量の小さいモータを用いた場合でも、キャリッジ38を円滑に駆動させることができる。つまり、キャリッジ38が高負荷のときに搬送ローラ87が低負荷という状態で第1モータ71及び第2モータ72が駆動されると、第1モータ71及び第2モータ72それぞれの駆動力がキャリッジ38及び搬送ローラ87各被駆動体それぞれに最適に分配することができる。
また、キャリッジ38及び搬送ローラ87の駆動制御中は、キャリッジ38又は搬送ローラ87のいずれか一方が低速で駆動しているときでも、各モータ71,72は常に比較的高速で回転しているため、キャリッジ38又は搬送ローラ87の低速駆動時において比較的大きなトルクを得ることができる。また、キャリッジ38若しくは搬送ローラ87のいずれか一方が停止している場合でも、第1モータ71及び第2モータ72の双方の駆動トルクが他方の被駆動体に付与されるため、大きなトルクを必要とする立ち上がり時にも本発明は好適である。
また、従来機構のように、キャリッジ38の伝達機構と搬送ローラ87の伝達機構とが完全に独立している場合は、キャリッジ38及び搬送ローラ87それぞれの減速時にキャリッジ38及び搬送ローラ87それぞれが有する運動エネルギーは熱などに変換されて無駄に消費されていた、本発明の差動駆動機構110においては、キャリッジ38が減速する際に、その運動エネルギーが搬送ローラ87の駆動力として転用され、搬送ローラ87が減速する際に、その運動エネルギーがキャリッジ38の駆動力として転用される。そのため、差動駆動機構110においてエネルギーを有効に利用することが可能となる。また、従来に比べて、減速時の電力消費量を抑制することができる。
なお、上述の実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。例えば、上述の実施形態では、搬送ローラ87とキャリッジ38とが概ね交互に駆動されるという対称性を考慮して、差動伝達機構110において、回転速度伝達比aを「−1」、bを「−1」、cを「−1」、dを「1」としているが、回転速度伝達比a乃至dは設計要素であり、ad−bc≠0の条件を満たしていれば、回転速度伝達比a乃至dは、要求されるキャリッジ38や搬送ローラ87の動作や速度に応じて任意の値に適宜変更可能である。なお、一般には、出力軸117Aの回転速度u、及び出力軸vの回転速度が、下記の式(4)を満足するよう、回転速度伝達比a乃至dが設定されていればよい。
また、上述した実施形態では、光学センサ35でキャリッジ38の位置情報を検出し、光学センサ83で搬送ローラ87の位置情報を検出し、それらの検出結果をドライバ100へフィードバックして第1モータ71及び第2モータ72を制御することとしたが、例えば、図8の変形例に示されるように、第1モータ71及び第2モータ72それぞれの回転速度を測定(取得)するための光学センサ107(本発明の第1回転情報取得手段の一例)及び光学センサ108(本発明の第2回転情報取得手段の一例)を設け、光学センサ107によって測定された回転速度X’(本発明の回転情報に相当)をドライバ100の演算部102にフィードバックし、光学センサ108によって測定された回転速度Y’(本発明の回転情報の相当)をドライバ100の演算部102にフィードバックする構成を採用することも可能である。この場合、第1モータ71及び第2モータ72の実際の回転速度が直接演算部102に入力されるので、駆動量変換部106は不要である。なお、演算部102での処理等については、上述の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
また、上述した実施形態では、プリンタ部2におけるキャリッジ38及び搬送ローラ87の駆動に用いられる第1モータ71及び第2モータ72に本発明を適用した例について説明したが、本発明は、各モータ71,72で駆動制御される2つの被駆動体のうち、一方の被駆動体の負荷が大きいときに他方の被駆動体の負荷が小さくなるといった駆動機構全般に適用可能である。したがって、例えば、二足歩行ロボットにおいて、各脚部が2つのモータで駆動されている場合に、一方の脚部が前進方向へ駆動され、他方の脚部でロボットの自重を支持する二足歩行機構においても本発明を適用することが可能である。
また、本発明は、少なくとも2つのモータ、各モータによって駆動される少なくとも2つの被駆動体を有する機構に適用することが可能であり、上記した二足歩行ロボット以外にも、脚部を3つ以上有する複数足歩行ロボットを3つ以上のモータ及び3つ以上の差動ギヤを用いて駆動させる機構にも適用することが可能である。ここで、N個(Nは3以上)のモータそれぞれから駆動力が入力されるN個の入力軸を有し、且つ、N個の出力軸を有する差動駆動機構おいて、各出力軸の回転速度を要素とするベクトルをベクトルUNとし、各モータの回転速度を要素とするベクトルをベクトルXNとすると、ベクトルUN及びベクトルXNは、各モータの回転軸から各出力軸に至る伝達比を示すN×Nの行列Aを用いて下記の式(5)のように表すことができる。ただし、この行列Aは、detA≠0を満たしている。
上記式(5)を満足するように差動駆動機構を構成することにより、入力軸及び出力軸それぞれを3個以上有する機構においても、上述した実施形態と同様の効果が奏される。