JP4941980B2 - 酸化タングステンナノシート、および、その製造方法 - Google Patents

酸化タングステンナノシート、および、その製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、酸化タングステンナノシート、その製造方法およびそれを用いたフォトクロミック素子に関し、より詳細には、シート平面方向にバルクサイズを有することが可能な酸化タングステンナノシート、その製造方法およびそれを用いたフォトクロミック素子に関する。
従来、粘土鉱物、および、硫化物、酸化物、水酸化物などの様々な組成・構造を有する層状化合物を単層剥離させることによって、ナノレベルまで薄片化された2次元シート状物質が多く合成されている。これらナノシートは、二次元のバルクサイズと一次元のナノサイズに起因した特異な物性を示すことがある。近年、ナノシートが巨大な磁気光学効果、高い誘電性等を発現することが報告され、極薄の機能性材料としてデバイス分野を含め産業界から大きな注目を浴びている。また、ナノシートは静電荷を帯びているため、自己組織化交互吸着法やLangmuir−Blodgett法、再凝集法などを用いることによって、薄膜材料からバルク材料まで様々な形態の材料を構築できるという優れた材料成形性を有し、幅広い材料分野に応用できる可能性を秘めている。
ナノシート群の中でも酸化物系ナノシートは機能性の発現および合成・取り扱いの簡便さからとりわけ工業的利用価値が高い。酸化チタン、酸化ニオブ、酸化マンガン、酸化タンタルナノシートは、アルカリ層状酸化物を出発物質として合成する手法がすでに確立されているが、半導体やエレクトロクロミック材料、脱硫・脱硝触媒など広範囲な工業的用途を有する酸化タングステンナノシートについては同手法が確立されていなかった。これまで酸化タングステンナノシートを合成する手法として、WOを水和させヘキシルアミンと共に水溶液中で超音波処理する方法(例えば、特許文献1を参照)、および、BiからBiを酸溶出させ、テトラブチルアンモニウムイオンを加えナノシート化する方法(例えば、非特許文献1を参照)の2つが報告されている。
しかしながら、特許文献1は、層状化合物のホスト層が単層状態にまでバラバラになったことを示す根拠に乏しく、非特許文献1は、単層シートのみを取り出すことが困難な上に、再現性に乏しいといった問題点があった。その上、両手法とも超音波処理またはBi溶出といったサイズダウンを引き起こす処理を通すため、大きな横サイズを有するナノシートを合成することが困難である。
したがって、シート平面方向にバルクサイズ、シート断面方向にはナノサイズの酸化タングステンナノシートが得られれば望ましい。また、そのような酸化タングステンナノシートのさらなる利用が望まれる。
特開2005−220001号公報 Chem. Commun., 2002, 706
以上より、本発明の目的は、シート断面方向にナノサイズを有し、シート平面方向にバルクサイズを有することが可能な酸化タングステンナノシート、その製造方法、および、それを用いた素子を提供することである。
発明1の酸化タングステンナノシートは、パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物が単層剥離されたホスト層であり、前記層状タングステン酸化物は、一般式Cs0.5+x0.91+y・nHO(0≦x≦0.04、0≦y≦0.03、0≦n≦0.6)で表され、前記ホスト層は、2Dパイロクロア構造を有し、前記ホスト層は、前記層状タングステン酸化物中に含有されるCs イオンのうち最大2/3のCsイオンを含有することを特徴とする。また、発明2は、発明1の酸化タングステンナノシートにおいて、前記2Dパイロクロア構造は、金属−酸素八面体からなる六員環構造が、前記酸化タングステンナノシートのシート平面方向と、前記シート平面方向に直交するシート断面方向とにそれぞれ規則的に配列した構造であることを特徴とする。
発明3は、発明1の酸化タングステンナノシートにおいて、前記酸化タングステンナノシート中のWとOとのモル比は、関係0.91+y:3(0≦y≦0.03)を満たすことを特徴とする。
発明4は、発明1の酸化タングステンナノシートにおいて、前記酸化タングステンナノシートのシート断面の厚さは3nm以下であることを特徴とする。
発明5は、発明1の酸化タングステンナノシートにおいて、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記yおよびnが、それぞれ、0.06667および0であり、Cs6+z1136(0≦z≦0.31)であることを特徴とする。
発明6は、発明1の酸化タングステンナノシートにおいて、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記x、yおよびnが、それぞれ、0.03125、0.0275および0であり、Cs8.51548であることを特徴とする
明7は、酸化タングステンナノシートを製造する方法であって、パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物を酸処理する酸処理ステップと、前記酸処理された層状タングステン酸化物と、カチオン性の剥離促進剤とを混合する混合ステップとからなり、前記層状タングステン酸化物は、一般式Cs0.5+x0.91+y・nHO(0≦x≦0.04、0≦y≦0.03、0≦n≦0.6)で表され、前記酸処理ステップは、6規定を超える濃度の酸を用い、室温で少なくとも24時間酸処理し、前記混合ステップは、前記酸処理された層状タングステン酸化物中のプロトンと、前記剥離促進剤とのモル比(剥離促進剤/H)が1〜2となるように混合されることを特徴とする。
明8は、発明7の方法において、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記yおよびnが、それぞれ、0.06667および0であり、Cs6+z1136(0≦z≦0.31)であることを特徴とする。
明9は、発明7の方法において、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記x、yおよびnが、それぞれ、0.03125、0.0275および0であり、Cs8.51548であることを特徴とする。
発明10は、発明7の方法において、前記酸処理ステップは、塩酸、硫酸、硝酸、および、炭酸からなる群から選択される酸を用いることを特徴とする。
発明11は、発明10の方法において、前記酸処理ステップを少なくとも1回行うことを特徴とする。
発明12は、発明7の方法において、前記剥離促進剤は、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、n−プロピルアミン、n−エチルアミン、および、エタノールアミンからなる群から選択されることを特徴とする。
発明13は、発明7の方法において、前記混合ステップは、室温で10日間以上振盪させることを特徴とする。
発明14は、フォトクロミック素子であって、発明1〜6のいずれか1項の酸化タングステンナノシートを用いたことを特徴とする。
本発明による酸化タングステンナノシートは、2Dパイロクロア構造を有する。このような酸化タングステンナノシートは、シート断面方向にナノサイズを有し、シート平面方向にはバルクサイズまで有することができる。シート平面方向にバルクサイズを有する酸化タングステンナノシートの場合、取り扱いが簡便であるだけでなく、製膜性、塗布性に優れており、薄膜材料、コーティング材として利用可能である。シート平面方向にサブミクロン/ミクロンサイズを有する酸化タングステンナノシートの場合、比表面積の大きな材料を構築することが可能である。酸化タングステンナノシートにおける2Dパイロクロア構造は、オープンチャネルとして機能し得るので、各種分子の吸着を利用したセンター、触媒として有用である。さらに、また、本発明による酸化タングステンナノシートは、酸化タングステン固有のフォトクロミック特性、エレクトロクロミック特性、誘電性を兼ね備える。
本発明による酸化タングステナノシートの製造方法によれば、パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物を酸処理する酸処理ステップと、酸処理された層状タングステン酸化物と、カチオン性の剥離促進剤とを混合させる混合ステップとからなる。上記層状タングステン酸化物に酸処理することにより、層間に水素イオンまたはオキソニウムイオンを導入し、固体酸性を持たせることができる。次いで、酸処理された層状タングステン酸化物とカチオン性の剥離促進剤とを混合させることにより、層間に導入された水素イオンまたはオキソニウムイオンと剥離促進剤とが反応し、層状タングステン酸化物は単層に剥離され、上述の酸化タングステンナノシートが得られる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。同様の要素には同様の参照符号を付し、説明が重複するのを避ける。
図1は、本発明による酸化タングステンナノシートの模式図である。
本発明による酸化タングステンナノシート100は、二次元のシート状である。詳細には、酸化タングステンナノシート100は、二次元パイロクロア構造(以降では単に2Dパイロクロア構造と称する)を有する。2Dパイロクロア構造とは、詳細には、図1の拡大図として示されるように、金属−酸素八面体からなる六員環構造(またはホールともいう)110が、酸化タングステンナノシート100のシート平面方向Aに規則的に配列するとともに、六員環構造110が酸化タングステンナノシート100のシート断面方向Dにも規則的に配列する。シート平面方向Aへの六員環構造110の規則的配列数に制限はない。一方、シート断面方向Dへの六員環構造110の規則的配列数は、2または3(層)程度である。なお、本明細書において六員環構造110が「規則的に配列する」とは、図3(B)および図3(C)に示されるように一定方向に所定の間隔で配列し、結晶構造が維持された状態を意図する。ただし、シート断面方向Dへの六員環構造110の規則的配列数が1の場合における「規則的に配列する」とは、六員環構造110がシート断面方向Dにおいて、シート平面方向Aに平行な方向に一定間隔で配列している状態を意図する。
このような六員環構造110の規則的配列により、本発明の酸化タングステンナノシート100は、シート平面方向Aにサブミクロンオーダから数ミリオーダのサイズ(すなわち、バルクサイズ)を有し、シート断面方向Dに最大3nmのサイズを有することになる。なお、シート平面方向Aのサイズは、図2を参照して、後述するように、出発原料のサイズに起因しており、出発原料に数ミリオーダのサイズを用いれば、得られる酸化タングステンナノシート100もまた数ミリオーダとなる。
本発明による酸化タングステンナノシート100におけるタングステン(W)と酸素(O)とのモル比は、関係0.91+y:3(0≦y≦0.03)を満たす。WとOとのモル比が、上記関係からはずれると、上述の2Dパイロクロア構造が維持されなくなり、ナノシートが得られない場合がある。
次に、上述の酸化タングステンナノシート100の製造方法について説明する。
図2は、酸化タングステンナノシートの製造のフローチャートを示す。
図3は、例示的な層状タングステン酸化物の模式図を示す。
ステップS210:パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物を酸処理する。パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物310とは、図3(A)に示されるように、ホスト層320が積層した層状化合物である。詳細には、パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物310は、金属−酸素八面体の六員環構造が規則的に配列したホスト層320を有し、一般式Cs0.5+x0.91+y・nHO(0≦x≦0.04、0≦y≦0.03、0≦n≦0.6)で表される。なお、六員環構造110は、ホスト層320において積層方向および層平面方向のいずれにも規則的に配列しており、ホスト層320が最終的に目的とする酸化タングステンナノシート100(図1)となり得る。したがって、酸化タングステンナノシートのシート平面方向のサイズは、用いる層状タングステン酸化物310の結晶サイズに依存する。バルクサイズの結晶を用いれば、シート平面方向にバルクサイズを有する酸化タングステンナノシートが得られ得る。
具体的な層状タングステン酸化物310として、図3(B)に示すCs6+z1136(0≦z≦0.31)および図3(C)に示すCs8.51548が挙げられる。Cs6+z1136は、上記一般式においてy=0.06667(便宜上、y=11/(36/3)−0.91において小数点以下第6位を四捨五入していることに留意されたい)およびn=0の場合に相当し、Cs8.51548は、x=0.03125、y=0.0275およびn=0の場合に相当する。
Cs6+z1136は、その積層方向cに六員環構造110を2層有するホスト層320からなり、Cs8.51548は、その積層方向cに六員環構造110を3層有するホスト層320からなる。ホスト層320が有する六員環構造110の層数により、目的とする酸化タングステンナノシートのシート厚を制御することができる。すなわち、よりシート厚の薄い酸化タングステンナノシートを得たい場合には、出発原料として積層方向の六員環構造110の層数がより少ないホスト層320からなる層状タングステン酸化物(例えば、Cs6+z1136(図3(B)))を用いればよいし、よりシート厚の厚い酸化タングステンナノシートを得たい場合には、出発原料として積層方向の六員環構造110の層数がより多いホスト層320からなる層状タングステン酸化物(例えば、Cs8.51548(図3(C)))を用いればよい。また、このシート厚の制御は、原子レベル(ナノオーダ)で可能である。
再度、図2を参照する。ステップS210の酸処理によって、図3を参照して説明した層状タングステン酸化物310と酸とを反応させ、水素イオン含有物質に変換(イオン交換)する。具体的には、ホスト層320間に水素イオンまたはオキソニウムイオンを導入する。この結果、層状タングステン酸化物310は固体酸性を発現する。このような酸処理に用いられる酸は、塩酸、硫酸、硝酸、および、炭酸からなる群から選択される。また、6規定を超える酸が用いられる。6規定以下の場合、イオン交換が進行しない場合がある。イオン交換が十分に進行しないと、酸処理後の層状タングステン酸化物310のホスト層320間に位置するアルカリ金属イオンの量が多くなり、後述する剥離反応が生じにくくなる恐れがある。
酸処理は、層状タングステン酸化物310を、室温(10℃〜30℃)、少なくとも24時間反応させるプロシージャを少なくとも1回行えばよい。複数回繰り返すことにより、層状タングステン酸化物310のホスト層320間に十分に水素イオンまたはオキソニウムイオンを導入することができる。24時間未満の場合、イオン交換が十分起きない場合がある。より好ましくは、コストおよび製造日数を考慮すれば、12規定の酸(例えば、塩酸)を用いて(溶液)/(固体)=100cm/gの固溶比で上記プロシージャが2回行われる。
ステップS220:酸処理された層状タングステン酸化物(以降では単に水素イオン交換体と呼ぶ)と、カチオン性の剥離促進剤とを混合する。これにより、層状タングステン酸化物310の各ホスト層320が剥離、分散したコロイド溶液を得ることができる。
カチオン性の剥離促進剤は、テトラブチルアンモニウムイオン(TBA)、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、n−プロピルアミン、n−エチルアミン、および、エタノールアミンからなる群から選択される。剥離促進剤は、収率の観点からTBAが好ましい。
混合は、水素イオン交換体中のプロトンと、剥離促進剤とのモル比(剥離促進剤/プロトン)が0.5〜5となるように混合される。モル比が0.5未満または5を超えると、剥離が十分に進行しない場合がある。より好ましくは、上記モル比は1〜2である。この範囲であれば、極めて高い収率で酸化タングステンナノシート100を得ることができる。なお、剥離の進行の程度は、目視にて確認できる。剥離が進行すると乳白色の溶液となる。
混合は、室温(10℃〜30℃)で行われる。単に混合するだけで、水素イオン交換体は剥離されるが、混合に加えて振盪させてもよい。これにより、酸化タングステンナノシートの収率を上げることができる。例えば、10日以上振盪すれば、実質的に100%の収率で酸化タングステンナノシート100を得ることができる。しかしながら、振盪の日数および/または程度は、得られる酸化タングステンナノシート100のシート平面方向のサイズに影響するため、目的とする酸化タングステンナノシート100のシート平面方向のサイズに応じて振盪の日数を調整することが望ましい。また、混合条件(振盪・温度)により、剥離量が変化するため、沈殿物が生成する場合があるが、溶液を遠心分離することによって除去することができる。
このようにして、層状タングステン酸化物310のホスト層320が単層剥離された、酸化タングステンナノシート100を含むコロイド溶液を得ることができる。得られたコロイド溶液の液相のpHまたは電解質濃度を制御することによって、あるいは、加熱または凍結乾燥することによって酸化タングステンナノシートを再凝集させることができる。このような再凝集させた酸化タングステンナノシートは、高比表面積を有する微粒子として使用することができる。再凝集する際に、アルカリイオンまたは有機分子を共存させることによって様々なカチオン種を挟み込んだ層状化合物を再構築してもよい。このような高い加工性・成形性は様々な形態が要求される触媒等のバルク材料を誘導するのに有利である。また、ポリカチオンなどの有機高分子、複合水酸化物の剥離から得られた無機高分子などとの静電的自己組織化反応を利用することによって、コンポジット材料を誘導してもよい。さらには、様々な基板上(例えば、Si、SiO、ITO、Al、Ni等)にレイヤーバイレイヤーで製膜することも可能である。例えば、SiO基板上に有機カチオンと共にレイヤーバイレイヤーで交互積層させ表面を覆えば、酸化タングステンナノシートの光吸収ピークを示す薄膜材料を任意の厚みと吸光度とで構築することが可能である。これにより、極薄のフォトクロミック、エレクトロクロミック材料、素子への応用も期待できる。
また、本発明による酸化タングステンナノシートは、約3.6eVのバンドギャップを有するため、光触媒反応による有機成分の分解・除去、水分解、光誘起親水性、太陽電池等の機能性を利用した粉末・薄膜材料として用いることができる。
さらに、本発明による酸化タングステンナノシートは、三酸化タングステン(WO)と同様にフォトクロミック反応を生じる。プロトンなどのカチオン種が吸着する酸化タングステン系のフォトクロミック材料では、表面積を増やす観点からこれまでアモルファス化またはナノ粒子化が試みられてきた。しかしながら、本発明による酸化タングステンナノシートは、二次元のシート状であるため、革新的なフォトクロミック材料になる可能性がある。具体的には、本発明による酸化タングステンナノシートを、サングラス、スマートガラス、車のリアガラス、サイドウインドゥなどへの極薄調光コーティング膜として適用してもよい。また、酸化チタン等の半導体的性質を有するナノ材料と複合化すれば、ナノスケールのエネルギー貯蔵型光触媒として機能することが期待される。
出発物質である層状タングステン酸化物310は、他の層状タングステン酸化物とは大きく異なり、耐酸・アルカリ性に優れており化学的安定性がとりわけ高い。本発明による酸化タングステンナノシートもまた、層状タングステン酸化物310の性質を反映しており、耐酸・アルカリ性に優れる。また、層状タングステン酸化物310は、電気化学的インターカレーション反応を起こすことが知られており、本発明による酸化タングステンナノシートも同様の性質が期待される。特に、酸化タングステンナノシート内のセシウムイオンを電気化学的あるいはイオン交換によって他のアルカリイオン、例えばリチウムイオンと交換することでリチウムイオン交換型ナノシートになり得る。さらに、このリチウムイオン交換型ナノシートは、シート平面方向およびシート断面方向に六員環構造110を有していることから、リチウムイオン伝導性に優れることが予期され、リチウムイオン二次電池などの電極材料のコーティング材として優れた特性を発揮することが期待される。
本発明による酸化タングステンナノシート100は、ホスト層320の六員環構造110を高い結晶性のまま保持し得る。六員環構造110のホールの直径は、酸素のイオン半径を考慮すれば3Å程度である。これは、一般的なゼオライトと同程度であるため、ホール中のアルカリイオンを取り除くことができれば、水や特定の分子の吸着材として機能する可能性が高い。特に、ゼオライトとは異なり光機能性を発現することから、吸着と光機能性とを組み合わせた新たな材料への応用が期待される。
本発明による酸化タングステンナノシートは、単分散したコロイド溶液として得ることができる。このようなコロイド溶液を金属、貴金属等を含む錯体またはナノ粒子と混合させ、加熱や乾燥から光化学的、電気化学的または酸・塩基等の様々な手法で、酸化タングステンナノシート上に金属・貴金属を吸着させることができる。このように酸化タングステンナノシートを高活性光触媒や燃料電池用電極に適用することができる。
次に、実施例を述べるが、本発明は実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
[参考例1]
出発原料の層状タングステン酸化物としてCs1136を次の手順で合成した。WOとCsCOとを11:4の比で混合し、900℃で5時間焼成後、室温まで急冷した。水洗によって回収した焼成物の粉末X線回折測定(Rigaku Rint 2000)を行い、Cs1136が単相で得られたことを確認した。結果を図4(A)に示し後述する。
次に、合成した粉末試料(Cs1136)を塩酸水溶液で酸処理した(図2のステップS210)。このとき、塩酸水溶液/粉末試料=100cm/gの割合で酸処理した。酸処理は、12規定の塩酸水溶液を用い、24時間反応させるプロシージャを1回行った。酸処理後の生成物の粉末X線回折測定を行い、酸処理によるイオン交換の進行を確認した。結果を図4(D)に示し、後述する。酸処理後の生成物にICP発光分析(Varian Spectr AA−20)および原子吸光分析(Jarrell Ash IRIS advantage)を行い、元素量を測定した。結果を後述する。
[参考例2]
参考例1において、酸処理プロシージャを2回繰り返し行った以外は、参考例1と同様であるため説明を省略する。参考例1と同様に、酸処理後の生成物の粉末X線回折測定を行い、酸処理によるイオン交換の進行を確認した。結果を図4(E)に示し、後述する。酸処理後の生成物にICP発光分析および原子吸光分析を行い、元素量を測定した。結果を後述する。
[参考例3]
参考例1において、酸処理プロシージャを3回繰り返し行った以外は、参考例1と同様であるため説明を省略する。参考例1と同様に、酸処理後の生成物の粉末X線回折測定を行い、酸処理によるイオン交換の進行を確認した。結果を図4(F)に示し、後述する。酸処理後の生成物にICP発光分析および原子吸光分析を行い、元素量を測定した。結果を後述する。
[比較例1]
参考例1において、1規定の塩酸水溶液を用いた以外は、参考例1と同様であるため説明を省略する。参考例1と同様に、酸処理後の生成物の粉末X線回折測定を行い、酸処理によるイオン交換の進行を確認した。結果を図4(B)に示し、後述する。
[比較例2]
参考例1において、6規定の塩酸水溶液を用いた以外は、参考例1と同様であるため説明を省略する。参考例1と同様に、酸処理後の生成物の粉末X線回折測定を行い、酸処理によるイオン交換の進行を確認した。結果を図4(C)に示し、後述する。
以上の参考例1〜3および比較例1〜2の実験条件を表1にまとめる。
図4は、参考例1〜3および比較例1〜2のXRDパターンを示す図である。
参考例1で合成した層状タングステン酸化物のXRDパターン(図4の(A))は、Cs1136単相のXRDパターン(六方晶系)に一致することを確認した。その回折ピークから格子定数を算出した結果、a=0.7260(2)nm、c=11.083(3)nmであることが分かった。
比較例1のXRDパターン(図4(B))は、図4(A)のXRDパターンと同一であった。このことから、1規定の塩酸処理では、イオン交換が行われないことがわかった。比較例2のXRDパターン(図4(C))は、図4(A)のXRDパターンと異なる回折ピークを一部示したが、依然として図4(A)のXRDパターンが優先的であった。6規定の塩酸処理では、イオン交換がわずかながら生じているものの、十分ではないことが分かった。このことから、酸処理では6規定を超える酸が好ましいことが示された。
参考例1のXRDパターン(図4(D))は、図4(A)のXRDパターンの大部分が消失した、異なる回折ピークを示した。同様に参考例2のXRDパターン(図4(E))および参考例3のXRDパターン(図4(F))も、図4(A)のXRDパターンと異なる回折ピークを示し、図4(D)と類似の回折パターンであった。このことから、12規定の塩酸処理により、層状タングステン酸化物(ここではCs1136)はすべて水素イオン交換体になったことが分かった。特に、12規定の酸を用いて酸処理プロシージャを2回以上酸処理することにより、層状タングステン酸化物を確実に水素イオン交換体に変換できるが、経済的、時間的な効率からプロシージャ回数は2回で十分である。
参考例3のXRDパターン(図4(F))に、図4(A)のXRDパターン同様に指数付けをし、格子定数を算出した。結果、a=0.7254(2)nm、c=12.038(3)nmであった。酸処理によって、c軸が約1nm増加しているが、a軸には実質的な変化はなかった。このことから、酸処理によって、Cs1136のホスト層の構造が崩壊することなく、ホスト層間に位置するCsがプロトン(H)またはオキソニウムイオン(H)とイオン交換され、層間距離が大きくなったことが示される。
参考例1〜参考例3で得られた酸処理後の生成物(水素イオン交換体)にICP発光分析および原子吸光分析を行い、CsとWとのモル比を求めたところ、いずれも、層状タングステン酸化物(Cs1136)中のCsの量が約2/3になっていることが分かった。層状タングステン酸化物(Cs1136)中の一部のCsが残存しているのは、ホスト層間に位置するCsが優先的にイオン交換されるが、ホスト層内に位置するCsイオンをイオン交換することは困難であるためである。しかしながら、本願発明者らは、最終的に目的とする酸化タングステンナノシートを得るためには、層状タングステン酸化物のホスト層間のCsをイオン交換すれば事足りることを見出した。
参考例2で得られた酸処理後の生成物を水洗、風乾し、固体残留物を回収した。X線回折および化学分析により回収した固体物質が、水素イオン交換体(HCs1136・6HO)であることを確認した(図示せず)。
水素イオン交換体0.4gと、カチオン性の剥離促進剤としてテトラブチルアンモニウム水酸化物水溶液(TBAOH)100cmとを混合した(図2のステップS220)。このとき、水素イオン交換体中のプロトンと、TBAOH中のTBAとのモル比(TBA/H)が1.0となるように混合した。混合は、室温で10日間以上振盪(180rpm)させて行った。混合・振盪後、乳白色のコロイド溶液が得られたことを目視にて確認した。なお、図示しないが、水素イオン交換体中のプロトンと、TBAOH中のTBAとのモル比(TBA/H)を0.1〜10まで変化させたところ、モル比が0.1〜0.5(0.5は含まない)および5〜10(5は含まない)においては、白色沈殿物とほぼ透明な上澄み溶液とであり、剥離が進行しなかったことを確認した。また、上記モル比が0.5〜5(0.5および5を含む)において不透明なコロイド溶液が確認され、特に、上記モル比が1〜2(1および2を含む)において、乳白色のコロイド溶液が得られることを目視にて確認した。このことから、モル比が0.5〜5の範囲であれば、剥離が進行し、モル比が1〜2の範囲であれば、より効果的に剥離が進行することが分かった。
得られたコロイド溶液を超純水(比抵抗値;18MΩcm)で希釈し、それぞれ、0.5、1.0、2.0、4.0および10(×10−6mol/dm)の異なる濃度に調整した。その後、各濃度のコロイド溶液についてUV−VIS吸収スペクトル(HITACHI U−4100)を測定し、モル吸光係数およびバンドギャップを求めた。結果を図5に示し後述する。
さらに、得られたコロイド溶液の一部を10000rpmの回転数で30分間遠心分離を行い、糊状のゾルを得た。糊状のゾルを相対湿度95%下でX線回折測定を行った。結果を図6に示し後述する。
次いで、表面を洗浄したSi基板を塩化ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:pH9、2.5g/dm、NaCl0.5mol含有、20分浸漬)水溶液100cmに浸し、Si基板表面をポリカチオンで被覆した。上記コロイド溶液を超純水(比抵抗値;18MΩcm)で1/25に希釈し、ポリカチオンを被覆したSi基板を浸した。得られた薄膜試料を、原子間力顕微鏡AFM(Seiko Instruments SPA400)を用いて表面観察、および、放射光面内回折測定をした。結果をそれぞれ図7および図8に示し後述する。
図5は、実施例の各濃度のコロイド溶液の紫外−可視吸収スペクトルを示す図である。
図5から、各濃度のコロイド溶液の紫外−可視吸収スペクトルは、いずれも、262nmに強い吸収ピークを示した。図5の挿入図は、各濃度のコロイド溶液の紫外−可視吸収スペクトルのピークトップ(262nm)の値を、濃度を横軸に、吸光度を縦軸にプロットしたものである。挿入図に示される挙動は、Lambert−Beer則に従っていることから、得られたコロイド溶液は、層状タングステン酸化物が単層剥離した酸化タングステンナノシートの単分散溶液であることが示される。挿入図のプロットを近似した直線の傾きからCs1136 2−のモル吸光係数を求めたところ、1.7×10mol−1dmcm−1と大きな値を持つことが分かった。このことは、半導体的性質を利用した光機能性材料開発に有利である。
また、各紫外−可視吸収スペクトルを、吸収光子のエネルギーの0.5乗を縦軸としてプロットすると(図示せず)直線となり、約3.6eVの間接遷移に基づくバンドギャップを有することが分かった。この値は、従来知られている半導体的性質を有するナノシートのそれと比較して、小さく、太陽光を利用した材料開発に極めて有利である。また、約3.6eVのバンドギャップは、光触媒反応による有機成分の分解・除去、水分解、光誘起親水性、太陽電池等の機能性を利用した粉末・薄膜材料に有利である。
図6は、実施例で得たゾルのX線回折パターンを示す図である。
図6には、層状タングステン酸化物(ここではCs1136)の単一ホスト層のシート法線方向に散乱ベクトルを持つ構造因子の2乗のシミュレーションパターン(破線)を合わせて示す。図6の挿入図に示されるように、0°〜70°にわたる広い2θ領域で干渉縞が観測された。この干渉縞のパターンは、2Dパイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物のホスト層が、単層剥離によって層法線方向に回折周期を失い、ホスト層一枚一枚にまでバラバラになったことを示唆する。また、シミュレーションパターンとも良好な一致をしており、このことからもホスト層一枚一枚まで単層剥離されたことが示唆される。
図7は、実施例のSi基板上に形成された薄膜のAFM像(A)およびその断面プロファイル(B)を示す図である。
図7(A)から、Si基板上に、シート平面方向のサイズが200nm〜400nm程度の二次元シート状の酸化タングステンナノシートが得られたことが分かった。酸化タングステンナノシートのいくつかは、六方晶系の結晶に特徴的な形態をしていることが確認できた。また、図7(B)からその酸化タングステンナノシートのシート断面方向の厚さが約2nmであることが分かった。この厚さは、Cs1136のホスト層一層分に酸素のファンデルワールス半径を考慮した結晶学的な厚さ1.83nmに相当し、Cs1136が単層剥離されていること、ならびに、得られた酸化タングステンナノシートが、シート断面方向に六員環構造110(図1)を2層分有していることが示された。このように、層状タングステン酸化物が単層剥離された酸化タングステンナノシートは、負の正電荷を持つため、ポリカチオンで被覆されたSi基板上に、容易にレイヤーバイレイヤー自己組織化反応によって吸着させることができることが分かった。このことは、本発明による酸化タングステンナノシートが、製膜性・塗布性に富んであり、各種薄膜材料、コーティング材として有効であることを強く示唆する。
図8は、実施例のSi基板上に形成された薄膜の放射光面内回折パターンを示す図である。
図8から、1/d=1.5nm−1〜11nm−1の間に14本の回折ピークが観察された。これらの回折ピークは、出発物質であるCs1136のホスト層と同様の二次元六方格子で指数付けされた。このことは、得られた厚さ2nmの酸化タングステンナノシートが、Cs1136のホスト層と同一の二次元面内骨格(すなわち、シート平面方向に六員環構造110(図1))を形成していることを示唆している。回折パターンの指数を用いた最小二乗法による解析の結果、酸化タングステンナノシートの二次元六方格子長aは、a=0.72695(3)nmとなった。この値は、図4(A)を参照して説明したCs1136の格子長a=0.7260(2)nmに良好な一致を示した。
以上、図7および図8から、得られた酸化タングステンナノシートは、シート平面方向およびシート断面方向のいずれにも六員環構造110(図1)を有した、2Dパイロクロア構造を有する酸化タングステンナノシートであることが分かった。
出発原料の層状タングステン酸化物としてCs1136を次の手順で合成した。WOとCsCOとを11:4の比で混合し、900℃で5時間焼成後、20℃/分の降温速度で冷却した。この結果、センチメートルサイズの焼成物が余剰なCsCOと共に得られた。得られた焼成物を観察した。観察結果を図9に示す。水洗によって余剰なCsCOを除去し、回収した焼成物の粉末X線回折測定を行い、Cs1136単結晶が単相で得られたことを確認した。
次いで、焼成物を50μm〜400μmの範囲の粒度に粉砕した。参考例2と同様に、粉砕した粉末試料(Cs1136)を塩酸水溶液で酸処理した(図2のステップS210)。このとき、塩酸水溶液/粉末試料=100cm/gの割合で酸処理した。酸処理は、12規定の塩酸水溶液を用い、24時間反応させるプロシージャを2回行った。
実施例と同様に、酸処理後の生成物を水洗、風乾し、固体残留物を回収した。X線回折および化学分析により回収した固体物質が、水素イオン交換体(HCs1136・6HO)であることを確認した(図示せず)。
水素イオン交換体0.4gと、カチオン性の剥離促進剤としてテトラブチルアンモニウム水酸化物水溶液(TBAOH)100cmとを混合した(図2のステップS220)。このとき、水素イオン交換体中のプロトンと、TBAOH中のTBAとのモル比(TBA/H)が1.0となるように混合した。混合は、室温で1日2、3回緩やかな振盪を10日間行った。混合・振盪後、乳白色のゾル溶液が得られたことを目視にて確認した。
実施例と同様に、表面を洗浄したSi基板を塩化ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:pH9、2.5g/dm、NaCl0.5mol含有20分浸漬)水溶液100cmに浸し、Si基板表面をポリカチオンで被覆した。上記ゾル溶液を超純水(比抵抗値;18MΩcm)で1/25に希釈し、攪拌しながらポリカチオンを被覆したSi基板を浸した。得られた薄膜試料を、AFMを用いて表面観察した。観察結果を図10に示し詳述する。
図9は、実施例のCs1136単結晶の観察写真を示す図である。
図9から1cm〜1.5cmサイズの単結晶が示される。良質な単結晶が得られたことを確認した。また、この単結晶は、参考例1〜3および実施例1で用いたCs1136粉末に比べて約2000〜3000倍のサイズを有する。
図10は、実施例のSi基板上に形成された薄膜のAFM像(A)およびその断面プロファイル(B)を示す図である。
図10(A)から、Si基板上に、シート平面方向のサイズが50μmの二次元シート状の酸化タングステンナノシートが得られたことが分かった。シート平面方向の大きさは、図7(A)を参照して説明した酸化タングステンナノシートの約100〜200倍であった。このことから、出発原料として用いる層状タングステン酸化物のサイズ、および/または、図2のステップS220における混合・振盪の条件を変更することによって、シート平面方向にバルクサイズを有する酸化タングステンナノシートを得ることができることが示された。また、図10(B)からその酸化タングステンナノシートのシート断面方向の厚さは、実施例と同様に約2nmであることが分かった。この厚さは、Cs1136のホスト層一層分に酸素のファンデルワールス半径を考慮した結晶学的な厚さ1.83nmに相当し、Cs1136が単層剥離されていること、ならびに、得られた酸化タングステンナノシートが、シート断面方向に六員環構造110(図1)を2層分有していることが示された。このことから、出発原料として用いる層状タングステン酸化物のサイズ、および、図2のステップS220における混合・振盪の条件を変更しても、得られる酸化タングステンナノシートのシート断面方向の厚さには影響がないことが示された。
参考例2で得たコロイド溶液を、超純水(比抵抗値;18MΩcm)を用いて1/55に希釈した。次いで、希釈したコロイド溶液を5.5cm光路長のセル(図示せず)に封入後、脱酸素し、暗所に1日保持した。これを初期状態としてUV−VIS吸収スペクトル測定を行った。次に、Xeランプを用いて光(紫外線)照射(500nm以下積分強度22mW)を90分間行い、再度UV−VIS吸収スペクトル測定を行った。その後、セルを大気開放後、再び暗所に2時間保管し、再度UV−VIS吸収スペクトル測定を行った。これらの結果を図11に示す。
図11は、実施例のコロイド溶液の紫外−可視吸収スペクトルの紫外線照射依存性を示す図である。
紫外線照射により、500〜800nmの広い可視光領域において吸光度の増加が見られた。暗所にて2時間経過後、500〜800nmの可視光領域において増大した吸光度は、減少し、初期状態のスペクトルにほぼ一致することが明らかになった。このことは、本発明の酸化タングステンナノシートは、他のタングステン酸化物同様、フォトクロミックかつエレクトロクロミック材料であることを示しており、フォトクロミック素子およびエレクトロクロミック素子に適用可能であることが示唆される。
本発明によれば、金属−酸素八面体の6員環からなるホールが規則的に配列した2Dパイロクロア構造を有するホスト層が累積した層状タングステン酸化物を単層剥離することによって、製膜性・塗布性に富んだ2Dパイロクロア構造の酸化タングステンナノシートを得ることができる。酸化タングステンナノシートは、その特異な形態を活かし触媒から各種薄膜材料、コーティング材など様々な分野へ利用されることが期待される。
タングステンは地球上に偏在する元素として知られており、タングステンを利用する材料開発においては、今後益々リサイクル化が進められると共に、少ない量で高機能化することが重要な研究課題となっている。特に、タングステン系酸化物は工場や発電所などの排煙中のNO分解用の触媒や、石油化学・石油精製で用いる脱硫・脱硝触媒として現在も幅広く普及しており、工業的利用価値が非常に高い。本発明による酸化タングステンナノシートは、WOの六員環構造をシート平面方向およびシート断面方向に有しており、これらがオープンチャンネルとして利用することが可能となれば、水素、水、分子等の吸着を利用したセンサーや触媒作用にとって大きな利点となることが期待される。また、酸化タングステンナノシート内にアルカリイオンを導入しイオン伝導性を付与すれば、リチウムイオン二次電池などの電極材料のコーティング材として優れた特性を発揮することが予想される。
さらには、他の酸化タングステン同様に、本発明によって得られた2Dパイロクロア構造を有する酸化タングステンナノシートもまたフォトクロミックかつエレクトロクロミック材料である。通常のバルクの酸化タングステンに比べ、ナノシートは薄く大面積を有していることから極少量での発色が予期される。前述の自己組織化反応法などによって材料成形性・塗布性に富んでいることから、高効率、低コストのフォトクロミック・エレクトロクロミック材料が開発され、サングラス、スマートガラスや車のリアガラス、サイドウインドゥなど同成分を用いた調光材料の普及が促進されることが期待される。
本発明による酸化タングステンナノシートの模式図 酸化タングステンナノシートの製造のフローチャート 例示的な層状タングステン酸化物の模式図 参考例1〜3および比較例1〜2のXRDパターンを示す図 実施例の各濃度のコロイド溶液の紫外−可視吸収スペクトルを示す図 実施例で得たゾルのX線回折パターンを示す図 実施例のSi基板上に形成された薄膜のAFM像(A)およびその断面プロファイル(B)を示す図 実施例のSi基板上に形成された薄膜の放射光面内回折パターンを示す図 実施例のCs1136単結晶の観察写真を示す図 実施例のSi基板上に形成された薄膜のAFM像(A)およびその断面プロファイル(B)を示す図 実施例のコロイド溶液の紫外−可視吸収スペクトルの紫外線照射依存性を示す図
100 酸化タングステンナノシート
110 六員環構造
310 層状タングステン酸化物
320 ホスト層

Claims (14)

  1. 酸化タングステンナノシートであって、
    パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物が単層剥離されたホスト層であり、
    前記層状タングステン酸化物は、一般式Cs0.5+x0.91+y・nHO(0≦x≦0.04、0≦y≦0.03、0≦n≦0.6)で表され、
    前記ホスト層は、2Dパイロクロア構造を有し、
    前記ホスト層は、前記層状タングステン酸化物中に含有されるCs イオンのうち最大2/3のCsイオンを含有することを特徴とする酸化タングステンナノシート。
  2. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記2Dパイロクロア構造は、金属−酸素八面体からなる六員環構造が、前記酸化タングステンナノシートのシート平面方向と、前記シート平面方向に直交するシート断面方向とにそれぞれ規則的に配列した構造であることを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  3. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記酸化タングステンナノシート中のWとOとのモル比は、関係0.91+y:3(0≦y≦0.03)を満たすことを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  4. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記酸化タングステンナノシートのシート断面の厚さは3nm以下であることを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  5. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記yおよびnが、それぞれ、0.06667および0であり、Cs6+z1136(0≦z≦0.31)であることを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  6. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記x、yおよびnが、それぞれ、0.03125、0.0275および0であり、Cs8.51548であることを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  7. 酸化タングステンナノシートを製造する方法であって、
    パイロクロア構造を有する層状タングステン酸化物を酸処理する酸処理ステップと、
    前記酸処理された層状タングステン酸化物と、カチオン性の剥離促進剤とを混合する混合ステップと
    からなり、
    前記層状タングステン酸化物は、一般式Cs0.5+x0.91+y・nHO(0≦x≦0.04、0≦y≦0.03、0≦n≦0.6)で表され、
    前記酸処理ステップは、6規定を超える濃度の酸を用い、室温で少なくとも24時間酸処理し、
    前記混合ステップは、前記酸処理された層状タングステン酸化物中のプロトンと、前記剥離促進剤とのモル比(剥離促進剤/H)が1〜2となるように混合されることを特徴とする、方法。
  8. 請求項7に記載の方法において、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記yおよびnが、それぞれ、0.06667および0であり、Cs6+z1136(0≦z≦0.31)であることを特徴とする、方法。
  9. 請求項7に記載の方法において、前記層状タングステン酸化物は、前記一般式において前記x、yおよびnが、それぞれ、0.03125、0.0275および0であり、Cs8.51548であることを特徴とする、方法。
  10. 請求項7に記載の方法において、前記酸処理ステップは、塩酸、硫酸、硝酸、および、炭酸からなる群から選択される酸を用いることを特徴とする、方法。
  11. 請求項10に記載の方法において、前記酸処理ステップを少なくとも1回行うことを特徴とする、方法。
  12. 請求項7に記載の方法において、前記剥離促進剤は、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、n−プロピルアミン、n−エチルアミン、および、エタノールアミンからなる群から選択されることを特徴とする、方法。
  13. 請求項7に記載の方法において、前記混合ステップは、室温で10日間以上振盪させることを特徴とする、方法。
  14. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化タングステンナノシートを用いたことを特徴とする、フォトクロミック素子。
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