以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
(高分子電解質)
まず、好適な実施形態の高分子電解質膜を構成する好適な高分子電解質について説明する。高分子電解質は、イオン性官能基を有するイオン性セグメント及びイオン性官能基を実質的に有しない非イオン性セグメントを含む高分子化合物を含有するものである。
このような高分子電解質としては、上記構造を有するものであれば特に制限なく適用できる。例えば、イオン性官能基をプロトン伝導性基として有する高分子電解質の代表例としては、下記(A)〜(D)が挙げられる。
(A)脂肪族炭化水素からなる主鎖を有する炭化水素系高分子化合物に、イオン性官能基を導入した高分子電解質、
(B)芳香環を含む主鎖を有する芳香族系高分子化合物に、イオン性官能基を導入した芳香族系高分子電解質、
(C)脂肪族炭化水素とシロキサン基、フォスファゼン基などの無機の単位構造からなる主鎖を有する重合体に、イオン性官能基を導入した炭化水素系高分子電解質、
(D)上記(A)〜(C)におけるイオン性官能基導入前の高分子化合物が有している繰り返し単位が適宜組み合わせされた共重合体に、イオン性官能基を導入した高分子電解質等が挙げられる。
これらのなかでも、耐熱性やリサイクルの容易さといった観点から、高分子電解質としては、上記(B)のような芳香族系高分子電解質が好ましい。好適な芳香族系高分子電解質としては、高分子鎖の主鎖に芳香族環を有し、且つ、側鎖及び/又は主鎖にイオン性官能基を有している高分子化合物が挙げられる。この芳香族系高分子電解質は、溶媒に可溶なものが好適である。これらは、公知の溶液キャスト法により容易に膜化することが可能である。
芳香族系高分子電解質におけるイオン性官能基は、高分子の主鎖を構成している芳香族環に直接置換していてもよく、主鎖を構成している芳香族環に連結基を介して結合していてもよく、これらの両方であってもよい。
ここで、芳香環を含む主鎖を有する芳香族系高分子化合物には、例えば、ポリアリーレンのように芳香環同士が連結された主鎖を有するものや、芳香環が2価の基を介して連結された主鎖を有するものがある。後者の主鎖における2価の基としては、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基、アミド基、エステル基、炭酸エステル基、炭素数1〜4程度のアルキレン基、炭素数2〜4程度のアルケニル基、炭素数2〜4程度のアルキニル基等が挙げられる。なかでも、オキシ基、チオキシ基、スルホニル基又はカルボニル基が好ましい。
また、芳香族系高分子化合物における主鎖に含まれる芳香環としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセンジイル基、フルオレンジイル基、ビフェニリレン基等の2価の芳香族基、ピリジンジイル基、フランジイル基、チオフェニレン基、イミダゾリル基、インドールジイル基、キノキサリンジイル基等の2価の芳香族複素環基等が挙げられる。
このような芳香族系高分子電解質としては、下記一般式(1)に示す構造単位を含むものが好適である。
[式中、Ar
1は、芳香環に直接結合したイオン性官能基を置換基として少なくとも有する2価の芳香族基を示し、X
1は、直接結合、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基又はスルホニル基を示す。]
上記一般式(1)におけるAr1としては、上記で例示した2価の芳香族基が好ましく、特にフェニレン基、ビフェニレン基、ナフタレンジイル基が好ましい。この2価の芳香族基は、上記のイオン性官能基以外に置換基を有していてもよい。置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数2〜20のアシル基、ハロゲノ基、ニトロ基等が挙げられる。
また、イオン性官能基とは、高分子電解質膜を形成した場合に、イオン伝導、特にプロトン伝導を生じさせることができる官能基であり、イオン交換基が代表的である。このイオン交換基は、カチオン交換基(酸性基)とアニオン交換基(塩基性基)のどちらでもよいが、高いプロトン伝導性を得る観点からは、カチオン交換基が好ましい。
カチオン交換基としては、−SO3H、−COOH、−PO(OH)2、−POH(OH)、−SO2NHSO2−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等が例示できる。一方、アニオン交換基としては、−NH2、−NHR、−NRR´、−NRR´R´´+、−NH3 +等(R、R´及びR´´は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を示す)等が例示できる。これらのイオン交換基は、その一部又は全部が対イオンとの塩を形成していてもよい。
一般式(1)で表される構造を有する芳香族系高分子化合物の代表例としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン等の重合体にそれぞれイオン性官能基が導入されたものや、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール(例えば、特開平9−110982号公報)、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)(例えば、J. Appl. Polym. Sci., 18, 1969 (1974))等が挙げられる。
高分子電解質を構成する高分子化合物は、イオン性官能基を有するセグメント(以下、「イオン性セグメント」と略す)と、イオン性官能基を実質的に有しないセグメント(非イオン性セグメント)との両方を有する。ここで、「セグメント」とは、高分子化合物において一定の物理化学的性質を有する構成単位を意味しており、例えば、主な構成要素が同じ繰り返し単位によって構成されている構成単位である。ブロック共重合体と呼ばれる高分子化合物におけるブロックがこのようなセグメントの代表例である。他に、交互共重合体やランダム共重合体(例えば、特開平11−116679号公報)中の一つの繰り返し単位もこのようなセグメントと見なすことができる。
なかでも、高分子電解質を構成する高分子化合物が、上記のブロック共重合体、すなわち、イオン性セグメント及び非イオン性セグメントを有するブロック共重合体であると、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとがそれぞれ膜中でドメインを形成することによって、イオン性セグメントを多く含む相と非イオン性セグメントを多く含む相とに相分離された膜を構成し易いことから好ましい。なお、このようなブロック共重合体は、イオン性セグメント及び非イオン性セグメントに加えて、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとを連結するような構成単位等が挙げられる。
ブロック共重合体の具体的な例としては、特開2001−250567号公報に記載のスルホン化された芳香族ポリマーセグメントを有するブロック共重合体、特開2003−31232号公報、特開2004−359925号公報、特開2005−232439号公報、特開2003−113136号公報等に記載の、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンを主鎖構造としており、且つスルホン酸基を含むセグメントを有しているブロック共重合体が挙げられる。
以下、高分子電解質として好適な、イオン性セグメント及び非イオン性セグメントを有するブロック共重合体の好適な例について詳細に説明する。
まず、イオン性セグメントとしては、上記一般式(1)で表される構造単位が複数連結された構造を含むセグメントが好ましい。なお、このようなセグメント中には、イオン性官能基を有しない構造単位、例えば、上記一般式(1)においてAr
1としてイオン性官能基を有しない2価の芳香族基を有する構造単位が一部に含まれていてもよい。この場合、イオン性セグメントに該当する目安としては、1つの構造単位当たりに平均して0.5個以上のイオン性官能基を有することが挙げられる。イオン性セグメントとしては、例えば、下記一般式(2)で表される構造を有するセグメントが挙げられる。
[式中、Ar
11は、芳香環に直接結合したイオン性官能基を置換基として少なくとも有する2価の芳香族基を示し、X
11は、直接結合、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基又はスルホニル基を示す。dは2以上の整数である。]
式中のAr11としては、上述したAr1と同様のものが例示できる。このAr11における2価の芳香族基のイオン性官能基以外の置換基としては、具体的には、以下のものが例示できる。すなわち、まず、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基等の炭素数1〜20のアルキル基や、これらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換した基が挙げられる。これらの基は、その総炭素数が1〜20となるものであると好ましい。
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基や、これらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換した基が挙げられる。これらの基は、その総炭素数が1〜20であると好ましい。
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基等のアリール基や、これらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換した基が挙げられる。これらの基は、その総炭素数が6〜20であると好ましい。
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントラセニルオキシ基、ビフェニルオキシ基等のアリールオキシ基や、これらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換した基が挙げられる。これらの基も、その総炭素数が6〜20であると好ましい。
炭素数2〜20のアシル基としては、例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基、アセチル基、プロピオニル基等のアシル基等が挙げられ、置換基を有していてもよい。置換基としては、フッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。これらの基も、その総炭素数が2〜20であると好ましい。
一般式(2)中のdは、括弧内の構造の繰り返し単位数を示す2以上の整数であり、このイオン性セグメントの重合度を表す数である。dは、5以上の整数であると好ましく、5〜1000の範囲の整数であるとより好ましく、10〜1000の整数であると更に好ましく、20〜500の整数であると一層好ましい。このdが5以上であると、このようなイオン性セグメントを含む高分子電解質によるプロトン伝導性が良好となるため、好ましい。一方、dの値が1000以下であると、プロトン伝導性を十分に確保しながら当該セグメントの製造を容易化できるため、好ましい。
上記一般式(2)で表されるセグメントの好適な具体例としては、下記一般式(3a)又は(3b)で表されるセグメントが挙げられる。
[式中、X
12は、直接結合、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基又はスルホニル基を示し、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基を示し、J
1はイオン性官能基を示し、p及びqはそれぞれ独立に1又は2であり、dは2以上の整数である。]
このようなイオン性セグメントを含むブロック共重合体からなる高分子電解質は、高度のプロトン伝導性を有しながら、さらに吸水寸法安定性にも優れ、膜強度の点でも特に優れる高分子電解質膜を形成できるものとなる。式(3a)及び(3b)中のR1は、上記の置換基を表すが、なかでも、水素原子が好ましい。つまり、式(3a)及び(3b)中の芳香族基としては、それぞれ、フェニレン基又はナフタレンジイル基であってイオン性官能基以外の置換基を有しないものが特に好適である。
上記一般式(3a)で表されるセグメントとしては、例えば、イオン性官能基としてスルホン酸基を有するもので例示すると、下記の3a−1〜3a−12から選ばれる構造単位を含むセグメントが挙げられる。これらのセグメントは、例えば、特開2004−190002号公報等に準拠して製造することができる。
また、上記一般式(3b)で表されるセグメントの具体例としては、イオン性官能基としてスルホン酸基を有するもので例示すると、下記の3b−1〜3b−12から選ばれる構造単位を含むセグメントが挙げられる。
さらに、イオン性セグメントとしては、上記一般式(3a)で表されるセグメントを構成する構造単位と、上記一般式(3b)で表されるセグメントを構成する構造単位とを組み合わせて有するセグメントでもよい。このようなセグメントは、これらが合計でd個連結してなるものが好ましい。
イオン性官能基としては、上述の如く、カチオン交換基が好ましく、なかでも、−COOH、−SO3H、−PO(OH)2又は−SO2NHSO2で表される基等が好ましく、イオン性セグメント中にこれらを併せ持つ官能基であってもよい。これらのなかでも、特に強酸基であるスルホン酸基(−SO3H)をイオン性官能基として含むことが好ましい。
一方、非イオン性セグメントは、イオン性官能基を実質的に有しないセグメントである。ここで、イオン性官能基を実質的に有しないセグメントとは、イオン伝導性を発現し得ないセグメントを意味する。したがって、当該セグメントによってイオン伝導性が発現されない程度であれば、イオン官能性基を含む構造単位が含まれていてもよい。非イオン性セグメントとしては、一つの構造単位当たりに、平均してイオン性官能基が0.1個以下であるものが好ましく、0.05個以下であるものがより好ましく、0個(すなわち、イオン性官能基が皆無)のものが特に好ましい。
非イオン性セグメントとしては、具体的には、下記一般式(5)で表される構造を有するセグメントが好ましい。
[式中、Ar
22は、イオン性官能基を有しない2価の芳香族基を示し、X
22は、直接結合、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基又はスルホニル基を示す。eは2以上の整数である。]
ここで、一般式(5)における芳香族基であるAr22は、イオン性官能基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基が挙げられる。これらの基の具体例としては、上記一般式(2)におけるAr11の置換基と同様のものが挙げられる。なお、上述した非イオン性セグメントの定義が満たされる範囲であれば、一般式(5)で表される構造中には、Ar22がイオン性官能基を有しているような構造単位が含まれていてもよい。
また、eは括弧内の構造の繰り返し単位数を示す2以上の整数であり、このイオン性セグメントの重合度を表す数である。このeは5以上の整数であると好ましく、5〜1000の整数であるとより好ましく、10〜1000の整数であると更に好ましく、20〜500の整数であると一層好ましい。eの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質膜として、優れた膜強度を有するものが得られる傾向にある。一方、eの値が1000以下であれば、当該セグメントの製造がより容易となる傾向にある。
非イオン性セグメントとしては、具体的には、下記一般式(6)で表されるセグメントが好適である。
[式中、a、b及びcはそれぞれ独立に0又は1であり、zは正の整数である。Ar
2、Ar
3、Ar
4及びAr
5はそれぞれ独立に2価の芳香族基であり、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基又は炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。X及びX´はそれぞれ独立に直接結合又は2価の基を示し、Y及びY´はそれぞれ独立にオキシ基又はチオキシ基を示す。]
ここで、zは括弧内の構造の繰り返し数を示す2以上の整数であり、当該セグメントの重合度を表す数である。このzは5以上の整数であると好ましく、5〜1000の整数がより好ましく、10〜1000の整数が更に好ましく、20〜500の整数が一層好ましい。zの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質膜として膜強度に優れるものが得られ易くなる傾向にある。一方、zの値が1000以下であれば、当該セグメントの製造がより容易となる傾向にある。この一般式(6)で表される構造中にも、上記一般式(5)の場合と同様、上述した非イオン性セグメントの定義が満たされる範囲で、Ar2、Ar3、Ar4やAr5がイオン性官能基を有しているような構造単位が含まれていてもよい。
このような一般式(6)で表されるセグメントの好適な代表例としては、下記の構造を有するものが例示できる。
以上、高分子電解質を構成する高分子化合物の好適な例について説明したが、この高分子化合物は、優れたイオン伝導性を発現する観点からは、そのイオン交換容量(高分子化合物の単位重量あたりのイオン性官能基の当量数)が、0.5〜4meq/gであると好ましく、1.0〜3.0meq/gであるとより好ましい。
(高分子電解質膜の製造方法)
次に、好適な実施形態に係る高分子電解質膜の製造方法を説明する。高分子電解質膜は、イオン性官能基を有するセグメント及びイオン性官能基を実質的に有しない非イオン性セグメントを有する高分子化合物からなる高分子電解質を含有する溶液を、所定の基材上に塗布する工程(塗布工程)と、この塗布された溶液から溶媒を蒸発させる工程(蒸発工程)とを経て製造することができる。この高分子電解質としては、上述した実施形態のものを特に制限なく適用でき、上記式(1)で表されるイオン性セグメント及び上記式(5)で表される非イオン性セグメントを有するブロック共重合体を含む高分子化合物を用いた場合に、本方法によって後述するような好適な高分子電解質膜が得られ易くなる傾向にある。
塗布工程における高分子電解質を含む溶液の基材上への塗布は、例えば、キャスト法、ディップ法、グレードコート法、スピンコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、インクジェット法等により行うことができる。
高分子電解質を含む溶液に用いる溶媒としては、高分子電解質を溶解可能なものであり、しかも、後述する蒸発工程における蒸発時間内の除去が可能なものが好ましい。好適な溶媒は、高分子電解質の構造等によって適宜選択される。
このような溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
上述のように、高分子電解質の分子構造によって最適な溶媒は異なるが、例えば、上記式(3a)又は(3b)で表されるイオン性セグメントと、上記式(6)で表される非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体を含む高分子電解質の場合、主成分としてN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒を含む溶媒が好ましく、ジメチルスルホキシドが特に好ましい。これらの溶媒を用いることで、溶媒の乾燥時間を好適な範囲に調整し易くなる。
溶液中の高分子電解質の濃度は、高分子電解質の分子量にもよるが、5〜40重量%であると好ましく、5〜30重量%であるとより好ましい。この濃度が5重量%以上であると、実用的な膜厚の高分子電解質膜が得られ易くなる傾向にある。また、40重量%以下であると、高分子電解質の溶液の溶液粘度が低くなり、より平滑な表面を有する高分子電解質膜が得られる傾向にある。
なお、高分子電解質の溶液中には、通常の高分子化合物に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で更に加えてもよい。
また、塗布工程において溶液の塗布膜を支持する基材としては、高分子電解質の溶液によって膨潤や溶解されることがなく、しかも、製膜後に得られる膜の剥離が可能なものが好ましい。例えば、基材としては、金属、金属酸化物、樹脂フィルム等が挙げられる。ただし、基材による高分子電解質膜の最表面の組成分布への影響を考慮すると、基材としては、金属又は金属酸化物からなる表面を有するものが好適である。
基材の表面又は全部を構成する金属としては、アルミニウム、クロム、ニッケル、鉄、金、銀、銅、白金、スズ、パラジウム、タンタル、亜鉛、チタン、シリコン又はこれらを主成分とする合金が挙げられる。これらのなかでも、汎用性、コスト等の観点からアルミニウムが好ましい。また、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、ガラス等が挙げられる。なかでも、コスト、汎用性等の観点から、酸化アルミニウム又はガラスが好ましい。
また、塗布工程に用いる基材の表面が汚染されていると、良好な高分子電解質膜が得られ難くなり、本発明による効果が十分に得られなくなる場合がある。そこで、このような表面の汚染を避けるため、必要に応じて基材の表面が洗浄されていることが好ましい。基材表面の洗浄の方法は、基材の材質に応じて適宜選択することができる。また、上述した金属又は金属酸化物の薄膜が蒸着によって形成された表面を有する基材も、清浄な表面を有していることから好ましい。この場合、蒸着の方法は、公知の方法から適宜選択される。
蒸発工程においては、溶媒の蒸発が開始してから完了するまでの時間(以下、「蒸発時間」という)を60分以下とする。この蒸発時間は、基材に塗布した溶液、又は、この溶液から形成された高分子電解質膜中で、溶媒の蒸発が開始してから、高分子電解質の濃度変化が実質的に生じなくなるまでの時間である。高分子電解質の濃度変化の測定は、例えば、蒸発工程中に定期的に溶液又は形成された高分子電解質膜の一部を抜き取り、その濃度を測定することによって行うことができる。
より具体的には、この蒸発時間は、例えば、蒸発工程中に、基材に塗布された溶液又はこれから形成された高分子電解質膜における一定面積の部分で質量変化が実質的に生じている時間とすることができる。この場合、質量変化が生じているかどうかは、蒸発工程中に上記の溶液又は高分子電解質膜の一定面積の部分を定期的に抜き取り、その質量を測定することによって確認することができる。
実際には、蒸発時間は、例えば、基材上に溶液が塗布・形成された時点を溶媒の蒸発が開始した時点とし、高分子電解質の濃度変化又は質量変化が実質的に生じなくなった時点及び蒸発工程が終了した時点のいずれか早い方を溶媒の蒸発が完了した時点とし、この蒸発開始から完了までの時間であるとみなしてもよい。なお、「高分子電解質の濃度変化が実質的に生じない」とは、所定時間の前後で高分子電解質の濃度の差分(変化量)が検出できない(0.1質量%未満)ことを意味する。同様に、「高分子電解質の質量変化が実質的に生じない」とは、所定時間の前後で高分子電解質の質量の差分(変化量)が検出できない(0.1質量%未満)ことを意味する。
蒸発工程における蒸発時間は、55分以下であると好ましく、40分以下であるとより好ましい。なお、蒸発時間の下限は、10秒とすることが好ましい。このような蒸発時間とすることによって、高分子電解質膜の製造時間を短縮できるほか、後述するような好適な構成を有する高分子電解質膜が得られ易くなる傾向にある。蒸発時間は、蒸発工程における温度、圧力、通風条件等の条件を適宜設定することによって調整することができる。
また、蒸発工程における温度は、溶媒の凝固点の温度以上であって溶媒の沸点よりも50℃高い温度以下の温度とすることが好ましい。蒸発工程の温度条件がこれ以下であると、溶媒の蒸発が極めて生じ難くなる。一方、この温度を超えると、均一な膜の形成が困難となる傾向にある。したがって、温度は、このような好適な温度範囲から、上述した蒸発時間が得られるように設定することが好ましい。
良好な構成を有する高分子電解質膜をより確実に得る観点からは、蒸発工程における温度の上限は、溶媒の沸点よりも10℃低い温度とすることが好ましく、溶媒の沸点よりも30℃低い温度とすることがより好ましい。また、下限は、20℃とすることが好ましい。例えば、溶媒がジメチルスルホキシドである場合は、蒸発工程の温度は、30〜150℃とすることが好ましく、40〜120℃とすることがより好ましく、40〜110℃とすることが更に好ましく、50〜100℃とすることが特に好ましい。
(高分子電解質膜)
本実施形態の高分子電解質膜は、上述した実施形態の製造方法によって好適に得ることができる。このような高分子電解質膜は、高分子電解質から構成される膜であり、イオン性セグメントを多く含む相(ミクロドメイン)と、非イオン性セグメントを多く含む相(ミクロドメイン)とを含むミクロ相分離構造を有している。
高分子電解質膜の厚みは、特に制限されないが、5〜200μmが好ましく、8〜60μmがより好ましく、15〜50μmが更に好ましい。5μmより厚いと、実用に耐える強度を有する高分子電解質膜となり易い。また、200μmより薄いことで、膜抵抗が十分に低減され、燃料電池等に応用した場合に出力を向上させ易くなる。高分子電解質膜の膜厚は、製造時に用いる高分子電解質の溶液の濃度や、基材上への塗布厚さを変えることによって制御することができる。
好適な実施形態の高分子電解質膜は、その表面領域においてイオン性セグメントが以下のような特定の分布状態を有している。すなわち、高分子電解質膜は、表面領域において、表面側から内部側に向かうイオン性セグメントの量の変化が、実質的な単調減少となっている。以下、イオン性セグメントの量の変化の好適な測定方法について具体的に説明する。
高分子電解質膜におけるイオン性セグメントの量は、当該膜の組成をX線光電子分光(XPS)で測定することにより得られる、イオン性セグメントに由来する信号の強度によって好適に表される。ここで、イオン性セグメントに由来する信号とは、イオン性セグメントを特徴付ける化学構造に由来する信号であり、例えば、イオン性セグメント中のイオン性官能基に由来する信号が好ましい。
また、表面側から内部側へのイオン性セグメントの量の変化は、高分子電解質膜におけるイオン性セグメントの量と非イオン性セグメントの量との相対的な変化によって把握することが好ましい。具体的には、XPS測定により、イオン性セグメントに由来する信号とともに、非イオン性セグメントに由来する信号を測定し、これらの強度を比較する。非イオン性セグメントに由来する信号とは、イオン性セグメントの場合と同様、非イオン性セグメントに特徴的な化学構造に由来する信号である。
ここで、各セグメントに由来する信号は、通常、セグメント中の化学構造に対応して複数観測されるが、上述した相対的な変化の測定には、この複数の信号の中から特定の信号を任意に選択して用いることができる。なお、イオン性セグメントの量の変化を正確に把握する観点から、一つの高分子電解質膜の同一面に対する一連の測定においては、各セグメントについて同じ信号を用いる。また、同様の観点から、特定の信号としては一つの信号のみを選択することが好ましい。
イオン性セグメントの量の変化は、XPSによるイオン性セグメントに由来する信号の強度をA、非イオン性セグメントに由来する信号の強度をBとしたときの、A/(A+B)で表される値によって好適に追跡することができる。この値が、表面側から内部側に向かって実質的に単調減少していれば、イオン性セグメントの量が表面側から内部側に向かって実質的に単調減少していると判断することができる。
信号強度としては、測定により得られた信号強度(光電子の総カウント数又は単位時間当たりのカウント数)をそのまま用いてもよく、これに装置、解析ソフト等に付属する感度係数等の定数をかけたものを用いてもよい。誤差の影響をできるだけ小さくして、A/(A+B)の値の変化を正確に求める観点からは、AとBの信号強度の差が極端に大きくならないように、各セグメントに由来する特定の信号を選択することが好ましい。
イオン性セグメントの量の変化をより正確に把握する観点からは、イオン性又は非イオン性セグメントに由来する特定の信号として、それぞれ以下のようなものを選択することが特に好ましい。すなわち、イオン性セグメントに由来する信号から選ばれる特定の信号としては、主な非イオン性セグメントからは観測されない信号を選択することが好ましい。一方、非イオン性セグメントに由来する信号から選ばれる特定の信号としては、主なイオン性セグメントからは観測されない信号を選択することが好ましい。これらにより、イオン性セグメント及び非イオン性セグメントに由来する信号のうちの少なくとも一方は、他方の主なセグメントには由来しない信号となるため、この一方の信号の強度は、実質的に当該信号に表されたセグメントの量のみを反映することになる。
上述した表面側から内部側に向かう信号強度の測定は、高分子電解質膜をその表面から内部方向に少しずつ除去しながら、この除去の過程における各時点での表面をXPSで測定することにより行うことができる。この場合、高分子電解質の除去は、C60イオンを用いたスパッタリングにより行うことが好ましい。C60イオンによるスパッタリングを所定時間行う工程と、このスパッタリング後の表面のXPS測定を行う工程とを繰り返し実施することで、表面側から内部側への各信号の強度を測定することが可能となる。
ここで、C60イオンを用いたスパッタリングは、表面分析に通常用いられるアルゴン等の希ガスイオンを用いたスパッタリングと比較して、スパッタリングによるダメージを小さくすることができる手法である。そのため、C60イオンを用いたスパッタリングは、本実施形態における高分子電解質膜のような有機材料等のダメージを受け易い試料に対して好適である(Surface and Interface Analysis, 2004, 36,p.280-282、 Journal of Surface Analysis, 2005, 12, p.178等参照)。
XPS測定を行う際の測定面積は、高分子電解質膜におけるミクロ相分離の大きさに対して充分に大きな測定面積とすることが好ましい。こうすれば、ミクロ相分離した高分子電解質膜におけるイオン性セグメントや非イオン性セグメント中の化学構造の量をより正確に測定することが可能となる。例えば、ミクロ相分離の大きさが数nm〜数十nm程度である場合は、測定領域の直径が1μm以上10mm以下であると好ましく、10μm以上1mm以下であるとより好ましい。この場合、測定領域の直径が10mmを超えると、測定結果が高分子電解質膜の凹凸やスパッタリングの深さムラ等の影響を受け易くなったり、測定領域内のイオン性セグメントや非イオン性セグメントに属する化学構造の濃度分布が平均化されて正確な分布が測定できなくなったりする場合がある。一方、測定領域の直径が1μmより小さいと、測定結果がこの測定領域中の一部のミクロ相分離形状に大きく影響されて、全体の相の分布を適切に測定できなくなるおそれがある。
C60イオンを用いたスパッタリングを行う場合、表面側から内部側へのA/(A+B)の値の変化は、スパッタリング開始からの経過時間tと、各tの時点での表面のXPS測定で得られるA/(A+B)の値との関係により示される。XPS測定は、スパッタリングの開始時点から所定の時間が経過するごとに行われるが、このXPS測定の間隔Δtは、必ずしも測定を通して一定でなくてもよい。
ここで、tやΔtの単位としては、時間を示す通常の単位である時間、分、秒等のほか、
SiO2換算Xnmのように表記することもできる。これは、同じ方法を用いてSiO2の除去を行った場合に、Xnmの厚さを除去するのに必要となる時間を意味する。なお、各時点での表面の当初表面からの距離(深さ)を表記する際にも、SiO2換算Xnmと表記することができる。これは、SiO2換算Xnmの時間だけスパッタリングを行った場合に得られる表面の、当初の表面からの深さを意味する。このSiO2換算による深さは、実際の深さと通常比例関係となる。この場合の比例定数は高分子電解質膜の種類によって異なるが、通常、実際の深さはSiO2換算深さXnmの2〜20倍程度となる。
XPS測定の間隔であるΔtは、高分子電解質膜のミクロ相分離の大きさによって適切な時間に設定することが好ましい。このΔtは、高分子電解質膜におけるイオン性セグメントや非イオン性セグメントに属する化学構造の分布を詳しく測定する観点からは小さい方がよいが、小さくしすぎると、スパッタリングを停止する回数が増え、スパッタリング速度が不安定となりやすい傾向にある。これらの観点から、Δtは、SiO2換算0.1nm以上0.5nm以下とすることが好ましい。
また、高分子電解質膜では、特に最表面付近のイオン性セグメントや非イオン性セグメントの分布が特に重要であるため、特に表面に近い領域ではより小さいΔtを設定することが好ましい。例えば、SiO2換算2nmまでの深さの範囲では、ΔtはSiO2換算0.1nm以上0.3nm以下とすることが好ましい。なお、十分に安定なスパッタリング速度を担保する観点からは、Δtは少なくとも10秒以上に設定することが望ましい。
スパッタリング時間tが長すぎると、高分子電解質膜表面のダメージや、C60に由来する炭素成分による影響等が大きくなる場合があり、正確なXPS測定が困難となるおそれがある。したがって、このような不都合を避けるために、tの上限は高分子電解質膜に合わせて適切に設定することが望ましい。
また、C60イオンによるスパッタリングは、一分あたりにSiO2換算0.5nm以上2nm以下の除去が生じるような速度で行うことが好ましく、一分あたりにSiO2換算1nm程度の除去が生じる速度で行うことがより好ましい。こうすれば、十分に安定なスパッタリング速度が得られるほか、試料へのダメージも十分に低減することが可能となる。
イオン性セグメントに由来する信号及び非イオン性セグメントに由来する信号は、上述のように、XPSのスペクトルから各セグメントについて任意の信号を選ぶことにより得ることができる。また、これらの信号の強度は、各スペクトルの積分値を用い、適宜、波形解析によりピーク分離を行うことにより得ることができる。なお、上記のようにC60スパッタリングを行う場合は、C60イオンの照射に伴ってこれに由来する炭素組成の増加が見られることがあることから、C1sのC−C及びC−H結合のピークは除外することが好ましい。
上記のように測定されたスパッタリング時間tと各tにおけるA/(A+B)の値との関係が、高分子電解質膜における表面から内部側へのイオン性セグメントの量の変化を表すことになる。そして、好適な実施形態の高分子電解質は、その表面領域において、tに対してA/(A+B)が実質的に単調減少しているものである。
ここで、単調減少とは、一般に次のように定義される。すなわち、x1<x2ならばf(x1)≧f(x2)が満たされる場合が単調減少に該当する(例えば、岩波数学辞典第3版(日本数学会編集、岩波書店)参照)。ただし、本実施形態の高分子電解質膜においては、f(t)=A/(A+B)は実質的に単調減少してさえいればよく、このような定義を満たさない場合が含まれていてもよい。
この本発明における「実質的な単調減少」には、以下のような条件を満たす場合が該当する。すなわち、まず、スパッタリング時間tにおけるA/(A+B)の値を、f(t)=A/(A+B)と表した場合、XPS測定を行うスパッタリング時間t1,t2,…,tnでは、ぞれぞれ、f(t1),f(t2),…,f(tn)が得られる。ここで、t1は、スパッタリングの開始時点を意味する。したがって、f(t1)は、高分子電解質膜の最表面(スパッタリング開始時点の表面)でのA/(A+B)となる。
そして、スパッタリングの開始からm回(4回を超える多数回)の測定を行ったとすると、1回目から任意のn回目までの測定で得られるt1,t2,…,tnとf(t1),f(t2),…,f(tn)との間の相関係数を、n=2〜mの間で全て求めた場合、nを4以上としたときに得られる全ての相関係数が負となる場合が、tに対してA/(A+B)が「実質的に単調減少」していると認められる。つまり、換言すれば、A/(A+B)の値の「実質的な単調減少」には、スパッタリングの開始時点である1回目から、任意のn回目までの測定で得られるtとA/(A+B)で表される値との相関係数を求めたとき、nが4以上である場合に得られる全ての相関係数が負となる場合が該当する。
上述した相関係数とは、統計学的な数値であり、一般にデータの点数が多いほど信頼性が高い。この相関係数は下記数式(1)で定義され、xとyの直線関係に対するあてはまりが良いことを意味する(例えば、統計学入門(東京大学教養学部統計学教室編、東京大学出版会)参照)。また、この相関係数の正負はx及びyによる回帰直線の傾きと一致する。
この相関係数を求める場合、XPSによる測定間隔であるΔtは一定である方が好ましいが、本実施形態の高分子電解質膜では、特に表面に近い領域の分布が重要であることから、Δtは、表面に近い領域とこれよりも内側の領域とで変えてもよい。例えば、SiO2換算2nm以上の深さ位置でのΔtが、SiO2換算2nm以下の深さ位置でのΔtと比較して、1倍以上3倍以下であってもよい。こうすれば、特に表面に近い領域の分布が詳細に確認できるようになるほか、測定時間を適切に短縮することができるようにもなる。
以上のように、本実施形態の高分子電解質膜は、表面領域において、表面側から内部側に向かうイオン性セグメントの量の変化が、実質的な単調減少となっている。そして、このような表面領域のイオン性セグメントの分布を有することによって、膜厚方向に優れたプロトン伝導性を発揮することができる。
なお、表面領域とは、上述の通り、高分子電解質の表面からSiO2換算の深さで表して4nmまでの深さ領域であると好ましく、6nmまでの深さ領域であるとより好ましく、10nmまでの深さ領域であるとさらに好ましい。また、高分子電解質膜は、少なくとも一方の面が上述したイオン性セグメントの分布を有していればよいが、両面がこのような分布を有していると、特に優れた膜厚方向のプロトン伝導性が得られるため、好ましい。
また、本発明の高分子電解質膜は、上述したようにイオン性セグメントを多く含む相と、非イオン性セグメントを多く含む相とに相分離したものであって、その表面領域に、非イオン性セグメントの濃度が全体の平均よりも実質的に高い層状部分を有しないものであると好適である。
これは、高分子電解質膜の表面領域が、膜の厚さ方向に任意の複数の層によって構成されているとみなした場合に、この層のいずれもが、当該高分子電解質膜の全体における非イオン性セグメントの濃度の平均値よりも、非イオン性セグメントの濃度が低くなっていることを意味する。このような条件を満たす表面領域を有する高分子電解質膜では、表面領域において、厚さ方向のイオン伝導が非イオン性セグメントによって極端に阻害されることが少なくなる。そのため、この高分子電解質膜によれば、優れた厚さ方向のイオン伝導性を得ることが可能となる。
(高分子電解質膜のプロトン伝導性の評価方法)
高分子電解質膜は、その表面領域において上記のようなイオン性セグメントの分布状態を有することにより、膜厚方向に優れたプロトン伝導性を有するようになる。したがって、このような表面領域のイオン性セグメントの分布状態を確認すれば、未知の高分子電解質膜の膜厚方向のプロトン伝導性の評価を行うこともできる。
特に、C60スパッタリングを行い、スパッタリング時間tと上記A/(A+B)で表される値との関係によりイオン性セグメントの分布を確認する方法は、プロトン伝導性の評価を正確に行うことができることから好適である。
このような評価においては、まず、C60イオンを用いたスパッタリングを表面から深さ方向に行い、このスパッタリングの経過時間tにおけるその時点での表面のXPS測定を行う。それから、この結果に基づき、XPS測定を行った各tの時点でのイオン性セグメントに由来する信号の強度A、及び、前記非イオン性セグメントに由来する信号の強度Bを求め、A/(A+B)で表される値を算出する(ステップ1)。
続いて、スパッタリングの経過時間tに対する、A/(A+B)で表される値の変化が、実質的な単調減少であるか否かを判定する(ステップ2)。
そして、ステップ2において、tに対するA/(A+B)で表される値の変化が単調減少であった場合は、その高分子電解質膜は、膜厚方向のプロトン伝導性に優れていると評価することができる。一方、単調減少ではなく、増加していたり、増減の両方を含む大きな変化を生じていたりした場合は、膜厚方向のプロトン伝導性が不十分であると評価することができる。
ここで、単調減少であるか否かの判定は、上述したように、tとA/(A+B)との相関係数に基づいて行うことができる。すなわち、まず、第1のステップにおいては、スパッタリングの開始から、SiO2換算0.1nm以上0.5nm以下の時間が経過するごとにA/(A+B)の測定を行う。
次いで、第2のステップにおいて、任意のn回目までの測定で得られるtとA/(A+B)で表される値との相関係数を求め、nが4以上である場合に得られる全ての相関係数の正負を判定する。かかる判定の結果、4回目以降の測定で得られる全ての相関係数が負であった場合、tに対してA/(A+B)が実質的に単調減少していると認めることができる。そして、このような傾向を示す高分子電解質膜は、膜厚方向に優れたプロトン伝導性を有していると評価することができる。一方、4回目以降の測定で得られる相関係数の全てが負ではなかった場合は、膜厚方向のプロトン伝導性が不十分であると評価することができる。
これらの評価における、XPS測定面積、スパッタリング速度、t、Δt等の条件としては、いずれも上述した「高分子電解質膜」の実施形態で述べたのと同様の条件を採用することができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[高分子電解質の製造]
(合成例1)
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、ジメチルスルホキシド(DMSO)600ml、トルエン200mL、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム26.5g(106.3mmol)、末端クロロ型である下記化学式(7)のポリエーテルスルホン(住友化学製スミカエクセルPES5200P)10.0g、及び、2,2’−ビピリジル43.8g(280.2mmol)を入れて攪拌した。
次に、この溶液を150℃まで昇温させ、トルエンを加熱留去して系内の水分を共沸脱水した後、60℃に冷却した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)73.4g(266.9mmol)を加えた後、80℃に昇温させて、同温度で5時間攪拌した。この溶液を放冷した後、得られた反応液を大量の6mol/Lの塩酸に注ぐことによって高分子化合物を析出させ、これを濾別した。その後、得られた高分子化合物に対し、6mol/L塩酸による洗浄及びろ過操作を数回繰り返した後、濾液が中性になるまで水洗を行った。そして、高分子化合物を減圧乾燥することにより、目的とする高分子電解質である、下記化学式(8)で表されるポリアリーレン系ブロック共重合体16.3gを得た。このブロック共重合体のイオン交換容量は2.3[meq/g]であった。
なお、式(7)及び(8)中、d及びzは、上述の如く、それぞれのセグメントの重合度を示す数であり、「block」の表記は、この表記によって結ばれている構造(セグメント)同士がブロック共重合していることを意味する(以下同様)。
[高分子電解質膜の製造]
(実施例1)
合成例1で得られたポリアリーレン系ブロック共重合体を、10wt%の濃度となるようにDMSOに溶解させて、高分子電解質溶液を調整した。この高分子電解質溶液をアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に流延塗布した後、この塗布膜から、常圧下、60〜100℃の温度範囲において、20分間で溶媒を蒸発させて除去し、これにより膜を乾燥させた。その後、塩酸処理及びイオン交換水での洗浄を経て、ポリアリーレン系ブロック共重合体を含む高分子電解質膜を作製した。なお、以下、この高分子電解質膜における基材に接触していなかった面を第一面とし、基材に接触していた面を第二面であると定義する。
(比較例1)
高分子電解質溶液をPET基材上に直接流延塗布したこと以外は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製した。
[高分子電解質膜の相分離構造の確認]
実施例1及び比較例1の高分子電解質膜を、15%のヨウ化カリウム及び5%のヨウ素を含む染色用水溶液に、室温で30分浸した後、あらかじめ予備硬化させておいたエポキシ樹脂によって包埋し、ここからミクロトームにより厚さ60nmの切片を切り出した。このようにして得られた切片を、Cuメッシュ上に採取し、透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H9000NAR)により観察したところ、染色による濃淡が見られた。ヨウ化カリウムによると、イオン性官能基を多く含む相が染色されて濃くなることから、この結果より、実施例1及び比較例1の高分子電解質膜の両方が、イオン性セグメントを多く含む相と、非イオン性セグメントを多く含む相とに相分離していることが確認された。
[高分子電解質膜の表面領域の構造の評価]
実施例1及び比較例1の高分子電解質膜の表面領域の構造について、以下に示す方法で評価を行った。すなわち、まず、高分子電解質膜の表面から内部方向に、C60スパッタリングを行うとともに、このスパッタリング開始から一定時間が経過するごとにその時点での表面に対し、Quantera SXM(アルバックファイ社イメージングXPS)を用いたXPS測定を行った。
これにより、スパッタリング開始からの経過時間である各スパッタリング時間tでのS2pスペクトルをそれぞれ取得した。それから、これらのスペクトルの波形解析を行い、スルホン酸由来の信号とスルホン由来の信号とに波形分離し、これに基づいて前者の信号の強度(A)と後者の信号の強度(B)とを得た。そして、各スパッタリング時間tにおけるA/(A+B)の値を得た。なお、このような測定は、高分子電解質膜の第一面と第二面との両方について行った。
ここで、XPSにおいては、X線として単色化AlKα線(1486.6eV、X線スポット100μm)を用い、また、測定時の帯電補正のために、中和電子銃1eV、アルゴンイオン銃7eVを使用した。さらに、測定は、試料法線方向より25°方向からX線を入射し、試料法線方向より20°方向で光電子を検出することにより行った。なお、波形解析に用いたピーク位置は、イオン性セグメント及び非イオン性セグメントのうちの一方のみを含む高分子膜を標準試料として測定を行い、これを波形解析して得られた値とした。
また、C60スパッタリングは、C60イオン銃(PHI06−C60、アルバックファイ社)を用い、試料法線方向に対して70°の方向から行った。加速電圧は10kV、スパッタリング速度はSiO2をスパッタリングする場合で1nm/分であった。また、スパッタリングの最初の2分は0.2分毎にXPS測定を行い、2分から6分の間は0.4分毎に測定を行った。XPS測定を行ったときのスパッタリング時間tを、t1、t2…tnのように定義する。
さらに、スペクトルの解析はMultiPakV6.1A(アルバックファイ社)を用いて行った。スペクトルの結合エネルギーはC1sのC−C、C−H結合を284.6eVとして較正した。そして、イオン性セグメント及び非イオン性セグメントのうちの一方のみを含む高分子膜を標準試料として測定を行い、得られたピーク位置を用いてS2pスペクトルの波形解析を行った。なお、スパッタリングによって、163.6eVに還元された硫黄成分が観測されるようになったが、これは波形解析の時に分離して除外した。
このようなXPS測定の結果、実施例1及び比較例1の高分子電解質膜のそれぞれについて、図1のような、スパッタリング時間tに対するA/(A+B)の値の変化を表すグラフに示される結果を得た。図1中、黒塗り及び白抜きの四角形のプロットが、実施例1の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示し、黒塗り及び白抜きの三角形のプロットが、比較例1の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示している。
図1より、実施例1の高分子電解質膜では、その表面領域(表面からSiO2換算0〜6nm)において、A/(A+B)の値が実質的に単調減少していることが確認された。
一方、比較例1の高分子電解質膜では、第2面において、スパッタリング時間tが0.6分までの範囲で、A/(A+B)の増加が見られた。また、tが0〜2分の範囲で、A/(A+B)の単調ではない変化が見られた。
また、上記で得られた結果に基づき、実施例1及び比較例1の高分子電解質膜のそれぞれについて、f(t)=A/(A+B)として、スパッタリング時間tn(n≧4)におけるt1、t2、…tnと、f(t1)、f(t2)、…f(tn)との相関係数を全て算出した。その結果、図2のような、スパッタリング時間tに対する相関係数の変化を表すグラフに示される結果が得られた。図2中、黒塗り及び白抜きの四角形のプロットが、実施例1の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示し、黒塗り及び白抜きの三角形のプロットが、比較例1の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示している。
図2に示されるように、実施例1の高分子電解質膜によれば、測定した全範囲において相関係数が負となることが確認された。一方、比較例2の高分子電解質膜では、第二面においてスパッタリング時間が1.4分以下の範囲で相関係数が正となった。また、第一面において、スパッタリング時間4分程度に相関係数が正となる範囲があった。
[膜抵抗の測定]
実施例1及び比較例1の高分子電解質膜の膜厚方向の膜抵抗を、以下に示す方法にしたがってそれぞれ測定した。得られた結果を、各高分子電解質膜の膜厚及びイオン交換容量とともに表1に示す。
すなわち、まず、1cm2の開口部を有するシリコンゴム(厚さ200μm)の片面にカーボン電極を貼った測定用セルを2つ準備し、これらをカーボン電極同士が対向するように配置した。それから、測定用セルに直接インピーダンス測定装置の端子を接続した。
次いで、この2つの測定用セルの間に、高分子電解質膜を挟み、測定温度23℃で2つの測定用セル間の抵抗値を測定した。続いて、高分子電解質膜を取り除いた状態で再度抵抗値を測定した。
そして、高分子電解質膜を有する状態で得られた抵抗値と、高分子電解質膜を有しない状態で得られた抵抗値とを比較し、これらの抵抗値の差に基づいて高分子電解質膜の膜厚方向の膜抵抗を算出した。なお、測定は、高分子電解質膜の両側に1mol/Lの希硫酸を接触させた状態で行った。
表1より、実施例1の高分子電解質膜は、比較例1に比して、膜厚方向の膜抵抗が小さく、膜厚方向に優れたプロトン伝導性を有することが確認された。
[高分子電解質の製造]
(合成例2)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、内温70℃に調整した。これに、2,2’−ビピリジン2.15gを加え、同温度で10分攪拌してニッケル含有溶液を調整した。
また、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)1.49gとポリエーテルスルホン(住友化学製スミカエクセルPES5200P)0.50gとをジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調製した。次いで、これに上記のニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加えた後、6mol/L塩酸60mLを加え、これを1時間攪拌した。そして、析出した固体を濾過により分離し、乾燥して、灰白色のポリアリーレン1.62gを得た。
得られたポリアリーレン0.23gを、臭化リチウム・1水和物0.16gとN−メチル−2−ピロリドン8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。さらに、反応混合物を、6mol/L塩酸80mLに注ぎ込み、1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離した。そして、分離した固体を乾燥して、下記一般式(9)で示されるポリアリーレン系ブロック共重合体0.06gを得た。このブロック共重合体のイオン交換容量は2.4meq/gであった。
[高分子電解質膜の製造]
(実施例2)
合成例2で得られたポリアリーレン系ブロック共重合体を、10wt%の濃度となるようにDMSOに溶解させて、高分子電解質溶液を調整した。この高分子電解質溶液をシリコン基材上に流延塗布した。それから、この塗布膜から、常圧下、80℃、60分間で溶媒を蒸発させて除去し、これにより膜を乾燥させた。その後、塩酸処理及びイオン交換水での洗浄を経て、ポリアリーレン系ブロック共重合体を含む高分子電解質膜を作製した。
(比較例2)
高分子電解質溶液をPET基材上に直接流延塗布したこと以外は、実施例2と同様にして高分子電解質膜を作製した。
(比較例3)
溶媒を蒸発させた時間を90分としたこと以外は比較例2と同様にして高分子電解質膜を作製した。
[高分子電解質膜の相分離構造の確認]
実施例2、比較例2及び比較例3の高分子電解質膜を、上述した方法と同様の手順で透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H9000NAR)により観察して、高分子電解質膜の相分離構造を確認した。その結果、実施例2、比較例2及び比較例3の高分子電解質膜は、いずれもイオン性セグメントを多く含む相と、非イオン性セグメントを多く含む相とに相分離していることが確認された。
[高分子電解質膜の表面領域の構造の評価]
実施例2、比較例2及び比較例3の高分子電解質膜の表面領域の構造について、中和電子銃4eV、アルゴンイオン銃3eVを使用したこと、及び、スパッタリング時間6分まで0.2分毎にXPS測定を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で評価した。このときのスパッタリング速度は、SiO2をスパッタリングする場合で1.3nm/分であった。なお、上記と同様に、163.6eV付近のピークは波形解析で分離して除外した。
このようなXPS測定の結果、実施例2、比較例2及び比較例3の高分子電解質膜のそれぞれについて、図3及び4に示すようなスパッタリング時間tに対するA/(A+B)の値の変化を表すグラフに示される結果を得た。図3中、黒塗り及び白抜きの四角形のプロットが、実施例2の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示し、黒塗り及び白抜きの三角形のプロットが、比較例2の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示し、図4中、黒塗り及び白抜きの丸のプロットが、比較例3の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示している。
図3より、実施例2の高分子電解質膜では、第二面の表面領域(表面からSiO2換算0〜7.8nm)において、A/(A+B)の値が実質的に単調減少していることが確認された。
一方、比較例3の高分子電解質膜では、第二面において、スパッタリング時間tが約1分までの範囲で、A/(A+B)の増加が明確に確認された。
また、上記で得られた結果に基づき、実施例2、比較例2及び比較例3の高分子電解質膜のそれぞれについて、f(t)=A/(A+B)として、スパッタリング時間tn(n≧4)におけるt1、t2、…tnと、f(t1)、f(t2)、…f(tn)との相関係数を全て算出した。その結果、図5のような、スパッタリング時間tに対する相関係数の変化を表すグラフに示される結果が得られた。図5中、黒塗り及び白抜きの四角形のプロットが、実施例2の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示し、黒塗り及び白抜きの三角形のプロットが、比較例2の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示し、黒塗り及び白抜きの丸のプロットが、比較例3の高分子電解質膜の第一面及び第二面をそれぞれ示している。
図5に示されるように、実施例2の高分子電解質膜では、第二面において測定した全範囲で相関係数が負になった。一方、第一面においてはスパッタリング時間が1.2分以下の範囲で相関係数が正となった。
これに対し、比較例2の高分子電解質膜では、第一面においてはスパッタリング時間が1.2分程度に相関係数が正となる範囲があり、第二面においてはスパッタリング時間が2分以下で相関係数が正となった。
さらに、比較例3の高分子電解質膜では、第一面においてスパッタリング時間が2.4分程度に相関係数が正となる範囲があり、第二面においては測定した全範囲で相関係数が正となった。
[膜抵抗の測定]
実施例1と同様にして実施例2、比較例2及び比較例3の高分子電解質膜の膜厚方向の膜抵抗を測定した。得られた結果を、各高分子電解質膜の膜厚及びイオン交換容量とともに表2に示す。
表2より、実施例2の高分子電解質膜は、比較例2及び比較例3に比して、膜厚方向の膜抵抗が小さく、膜厚方向に優れたプロトン伝導性を有することが確認された。