JP4889137B2 - 燃料タンク用アルミ系めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、深絞り等の加工を施しても加工割れが発生せず、また、めっき層のクラック発生を抑制することで、優れた耐食性を維持する燃料タンク用アルミ系めっき鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用燃料タンクは、鋼板をプレス加工して製造されるため、加工性を重視して溶融Pb−Snめっき鋼板が従来から使用されている。溶融Pb−Snめっき鋼板製の燃料タンクは、燃料による内面腐食や塩害等による外面腐食に対しても抵抗力がある。
しかし、近年、環境負荷物質軽減の観点から、Pbを使用しない材料が求められている。そこで、環境負荷物質を含まないAl又はAl−Siめっきを施したアルミめっき鋼板を燃料タンク用素材として使用され始めている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
燃料タンクは、図1に示すような複雑形状に鋼板をプレス加工することにより製造されており、燃料タンク本体1にインレットパイプ2,フュエルパイプ3,フュエルリターンパイプ4,サブタンク5,ドレーンプラグ6等の各種部材が取り付けられる。このときのプレス加工は、伸び,圧縮等が複合された複雑な塑性変形を伴う加工である。溶融めっき時に硬質合金層が生成・成長しやすいアルミ系めっき鋼板では、加工時の応力集中に起因してめっき層にクラックが発生しがちである。発生したクラックが下地鋼に達すると、そこを起点として腐食が進行し、短期間に燃料タンクの穴開きに至る危険が高くなる。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Al−Siめっき層の有効厚み及び表面粗さを管理することにより、深絞り等の加工を施しても加工割れが発生せず、プレス加工時の応力集中を緩和してめっき層のクラック発生を抑制し、加工後にも優れた耐食性が維持される燃料タンク用アルミ系めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の燃料タンク用アルミ系めっき鋼板の製造方法は、その目的を達成するため、溶融めっきされたアルミ系めっき鋼板を表面粗度が調整された圧延ロールによって調質圧延し、鋼板表面に、Si含有量:13質量%以下,層厚5μm以上のAl−Siめっき層を、Al−Fe−Si系合金層を介し、該Al−Siめっき層の表面粗さがRaで0.3〜2.0μmの範囲にあり、かつAl−Fe−Si系合金層を含めためっき層の全厚みtに対する前記Al−Siめっき層の表面最大高さRmaxの比Rmax/tが0.8以下となるように形成することを特徴とする。
【0005】
【作用及び実施の形態】
アルミ系めっき鋼板の表面には、図2で模式的に示すように、下地鋼の上にAl−Fe−Si系合金層を介してAl−Siめっき層が形成されている。また、めっき層は、凹凸のある表面をもち、大きな窪みもある。このようなAl−Siめっき層が形成されためっき鋼板を燃料タンク形状にプレス加工すると、大きな窪みがある部分に応力が集中し、下地鋼に達するクラックが発生しやすい。下地鋼に達したクラックのあるアルミ系めっき鋼板が腐食環境に曝されると、欠陥部を起点とする腐食が進行し、早期に穴開きに至る。
そこで、本発明者等は、クラックの発生状況とAl−Siめっき層の表面形態との関係を調査した。その結果、Al−Siめっき層の表面粗さをRaで0.3〜2.0μmの範囲に調整し、Al−Fe−Si系合金層を含めためっき層の全厚みtに対する前記Al−Siめっき層の表面最大高さRmaxの比Rmax/tを0.8以下に抑えるとき、プレス加工時の応力集中が緩和され、加工用潤滑剤の保持能力が高められ、下地鋼に達するクラックの発生が抑えられることを見出した。
【0006】
通常の溶融アルミめっきラインで製造されるアルミ系めっき鋼板では、平均厚み2〜5μmのAl−Fe−Si系合金層を介して層厚5〜25μmのAl−Siめっき層が形成される。燃料タンク用途に要求される耐食性を満足させるためには、Al−Siめっき層の層厚を若干厚めの6μm以上(好ましくは、8〜16μm)に調整することが必要である。層厚は、たとえば溶融めっき浴から引き上げられためっき原板に付着している溶融めっき金属をガスワイピングする方法等により容易に調整できる。
【0007】
Al−Siめっき層は、Al−Fe−Si系合金層に比較して軟質で展延性に富む。このAl−Siめっき層の層厚を5μm以上とするとき、プレス加工時の塑性変形に追従するAl−Siめっき層のメタルフローが確保され、加工後の製品表面もAl−Siめっき層で覆われる。しかし、一般的にめっき層が厚くなると耐食性は向上するが、溶接性,耐めっき剥離性は低下する。そのため、用途にもよるが、Al−Siめっき層は25μm以下にすることが好ましい。
Al−Siめっき層の表面凹凸は、アルミ系めっき鋼板のプレス成形に使用される潤滑油を保持するミクロプールとして機能する。潤滑油保持機能は、Al−Siめっき層の表面粗さがRa≧0.3μmで顕著になる。しかし、Raで2μmを超える表面粗さでは、Al−Siめっき層の表層凹部に過剰に潤滑油を保持するため、潤滑油の効果が低下してしまう。
【0008】
Al−Siめっき層の表面粗さは、更にめっき層の全厚みtに対する表面最大高さRmaxの比Rmax/tが0.8以下となるように調整することが必要である。比Rmax/tを0.8以下にすることにより、プレス成形時に応力が集中しやすい窪みが浅くなり、その分だけ応力集中が緩和され、下地鋼に達するクラックの生成が抑制される。比Rmax/t≦0.8は展延性のあるAl−Siめっき層の有効厚みが確保されることも意味し、プレス成形後に下地鋼の露出を防止する上でも有効である。Al−Siめっき層表面の凹凸は、溶融めっき後の調質圧延時に圧延ロール表面の凹凸を転写することにより形成されるため、調質圧延ロールの表面粗度によってAl−Siめっき層の表面粗度を調整できる。
【0009】
【実施例】
めっき原板として板厚0.8mmの普通鋼板を使用し、還元焼鈍した後、ライン速度90m/分で浴温660℃,Si:3〜13質量%の溶融アルミめっき浴に導入し、ガスワイピングによって付着量を片面当り20〜60g/m2に調整したアルミめっき鋼板を製造した。溶融めっき後の調質圧延で使用する調質圧延ロールの表面粗度及びめっき層の全厚みtを変えることにより、表面粗さRa及び比Rmax/tが種々異なるAl−Siめっき層をもつアルミ系めっき鋼板を製造した。
【0010】
得られた各アルミ系めっき鋼板から平板状の試験片を切り出し、加工性試験によって加工割れが発生する限界絞り比から加工性を調査した。また、燃料タンク用途を想定した内面腐食試験及び外面腐食試験により、加工後の試験片の耐食性を調査した。
〔加工性試験〕
半径20mm,肩アール5mmのポンチを用い、ブランク径84mmの試験片を平底円筒状に絞り加工し、加工割れが発生する限界絞り比を求めた。
〔内面腐食試験〕
半径20mm,肩アール5mmのポンチを用い、ブランク径84mmの試験片を絞り比2で平底円筒状に絞り加工した後、蟻酸350ppmを含む水を等量のガソリンと混合することにより調製した腐食試験液に浸漬した。1週間ごとに腐食試験液を取り替えながら、試験片を10週間継続して浸漬した。10週間経過した時点で試験片を引き上げ、腐食部の板厚減少率で内面耐食性を評価した。
〔外面腐食試験〕
同じく絞り比2で平底円筒状に絞り加工した試験片に濃度5質量%の塩水を継続噴霧し、噴霧開始から240時間経過した時点で試験片の表面を観察した。試験片の表面に発生した赤錆の面積率で外面耐食性を評価した。
【0011】
表1の調査結果にみられるように、Al−Siめっき層の表面粗さをRa=0.3〜2.0μmの範囲に調整し、比Rmax/tを0.8以下に抑えた本発明例では、何れも良好な加工性を示し、加工後にもAl−Siめっき層で下地鋼が覆われているため内面耐食性及び外面耐食性共に良好であった。また、表面粗さをRa=0.3〜2.0μmの範囲に維持するとき、図3に示すように限界絞り比が高い値を示した。
これに対し、表面粗さRaが本発明で規定した範囲を外れる比較例では、1.7以下の低い限界絞り比を示し、比Rmax/tが本発明で規定した範囲を外れる比較例ではプレス成形によってめっき層が剥離した部分を起点とする腐食が発生した。
【0012】
【0013】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の燃料タンク用アルミ系めっき鋼板は、AlーSiめっき層の表面粗さをRa0.3〜2.0μmの範囲に調整すると共に大きな窪みのある個所での比Rmax/tを0.8以下に規制することにより、潤滑油を保持するミクロプールとして機能させながら、Al−Siめっき層の有効厚みを確保している。これにより、プレス成形時の加工割れが抑制され、めっき層への応力集中が緩和されるため、伸び,圧縮等が複合した塑性変形を伴う燃料タンク形状への加工に際してもめっき層にクラックが生じることなく、アルミ系めっき鋼鈑本来の優れた耐食性が維持される。よって、深絞り等の加工を施しても加工割れが発生せず、また、めっき層のクラック発生を抑制することで腐食が長期にわたって生じない耐食性に優れた燃料タンクが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 自動車用燃料タンクの概略斜視図
【図2】 アルミ系めっき鋼板の断面図
【図3】 めっき層の表面粗さが限界絞り比に及ぼす影響を示したグラフ
Claims (1)
- 溶融めっきされたアルミ系めっき鋼板を表面粗度が調整された圧延ロールによって調質圧延し、鋼板表面に、Si含有量:13質量%以下,層厚5μm以上のAl−Siめっき層を、Al−Fe−Si系合金層を介し、該Al−Siめっき層の表面粗さがRaで0.3〜2.0μmの範囲にあり、かつAl−Fe−Si系合金層を含めためっき層の全厚みtに対する前記Al−Siめっき層の表面最大高さRmaxの比Rmax/tが0.8以下となるように形成することを特徴とする燃料タンク用アルミ系めっき鋼板の製造方法。
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