JP4879696B2 - 高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents

高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ Download PDF

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Description

本発明は、建設機械および産業機械などの用途に適用される引張強度さTSが950〜1400MPa級程度の超高張力鋼板をガスシールドアーク溶接する際に用いられる溶接ワイヤであって、特に引張強さTSが1200MPa以上で、降伏強度YPが1000MPa以上、かつ、靭性が−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーvE-40で27J以上である溶接金属が得られる、高強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
近年、建設機械および産業機械などの構造物の大型化や軽量化の要求が多くなるにともない、使用される鋼板の高張力化が進み、最近では引張強さTSが780MPa級以上の高張力鋼が一般的に使用されるようになり、今後は引張強さTSが950MPa以上、さらには引張強さTSが1200MPa以上の超高張力鋼の使用も増えてくると考えられる。
また、鋼構造用鋼板の強度として、引張強さTSと同様に降伏応力YPの向上も要求され、引張強さTSが950MPa以上の高張力鋼板に対して、降伏応力YPは850MPa以上、引張強さTSが1200MPa以上の超高張力鋼では、降伏応力YPで1100MPa以上であることが望まれている。
このような引張強さTSと降伏強さが共に高い高張力鋼板を溶接して鋼構造物を製造する場合には、高張力鋼板と同様に溶接継手部、特に溶接金属の引張強さTS及び降伏応力YPの向上が要求される。通常の溶接継手においては溶接金属の強度が母材よりも高い、オーバーマッチングに設計されることが多いため、溶接金属の強度は、鋼板の引張強さと同等以上に高強度化する必要がある。
また、鋼構造物は、高強度化と同時に低温靱性が要求される用途に適用されることが多い。引張強度が950MPa級以上の高張力鋼板を用いて溶接継手を作製する場合には、溶接金属の靭性は低下し、高強度・高靱性の溶接金属を得ることは困難となる。また、高強度の鋼板、溶接金属では溶接金属中の含有水素による低温割れの発生が懸念される。一般に溶接金属の低温割れや靭性の観点からは、溶接金属中の水素量を低減でき、かつ、高強度・高靱性の溶接継手を得ることができる、MIG溶接、MAG溶接(Ar+CO2溶接あるいはCO2溶接)、TIG溶接などのガスシールドアーク溶接が好ましい。これらの中で、TIG溶接は特に溶接金属の靱性を向上させるためには好適であるが、MIG溶接、MAG溶接に比べて溶接施工効率は劣るため、実用的にはMIG溶接、MAG溶接により、溶接部の低温割れの発生を抑制しつつ、高強度・高靱性の溶接継手を効率的に作製できることが要望されている。
引張強度が780〜900MPa級の高張力厚鋼板をガスシールドアーク溶接する際に、高強度、高靱性の溶接継手を達成するための手段は従来から検討されている。
例えば、板厚が50mm以上、引張強度が900MPa以上の厚肉高張力鋼板をガスシールドアーク溶接する際に、溶接金属の引張強さを鋼板の引張強さの0.95倍以下にし、継手部断面における溶接金属の表面幅と裏面幅を板厚の0.45倍未満とし、かつ溶接金属の断面積と板厚の2乗の比を0.4未満とすることにより、引張強さTSが1070MPaの鋼板に対して、引張強さTSが988MPaで、20℃でのシャルピー吸収エネルギー(vE-20)が74Jの溶接金属を形成する靱性・靭性に優れた溶接継手を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は板厚が50mm以上、引張強さが900MPa以上の高強度鋼板を溶接する際に、靱性低下の原因となるマルテンサイトとベイナイトの混合組織を抑制するために溶接金属の引張強さを鋼板の引張強さより低く(アンダーマッチング)し、かつ継手強度を確保するために溶接金属(溶接ビード)の幅および断面積を板厚との関係から制限するものである。しかし、この方法では溶接条件を制約するため、溶接施工効率が低下するとともに、引張強さTSが1100MPa以上の溶接金属を有する靭性に優れた溶接継手を達成することは困難である。
一方、溶接条件の制約に寄らずに、溶接ワイヤの成分設計により溶接金属の強度及び靭性を向上させる方法も検討されており、例えば、C、Si、Mn、P、S、Al、Ti、Ni及びMgを所定量含有し、さらに、Mo、W、Nb、V及びTaのうちの1種または2種以上を所定量含有し、かつ炭素当量(Ceq.)及びNb当量(Nbeq.)を所定範囲内に制御することにより、引張強さTSが950〜1500MPa、降伏応力YSが900〜1400MPa、靭性がシャルピー吸収エネルギーvE-40で40〜127Jの溶接金属が得られる、ソリッドワイヤが提案されている(例えば特許文献2、参照)。このワイヤは、強度と靭性を共に維持する効果が大きいNiを比較的多く含有させ、焼入れ成分性を確保した条件で、Mo、W、Nb、V、Taの1種または2種以上の析出元素を添加し、溶接金属中に炭窒化物を析出させることで、マルテンサイト主体組織中の可動転位密度の移動をピン止めし、残留オーステナイトの生成を抑制することにより、溶接金属の引張強さTS、降伏応力YS、靭性vE-40を共に向上させるものである。
このソリッドワイヤによれば、溶接金属の引張強さTS、降伏応力YSおよび靭性vE-40を共に向上することができる。しかし、ワイヤ製造に用いる素材の強度が高くなり、さらに、伸線時の加工硬化も加わって、伸線工程における断線発生の頻度が増加するため、この対策として、所定の径に伸線する毎に素材の軟質化のための焼鈍処理を行う必要がある。しかし、この焼鈍処理工程はワイヤ製造時の生産性や製造コストを低下させる原因となるため、ワイヤ製造の生産性を向上するために焼鈍処理工程などの素材の軟化処理を省略できることが好ましい。
一般にフラックス入りワイヤは鋼製外皮の鋼材成分を大きく変えずに、鋼製外皮内に充填されるフラックス中に金属または合金を多く含有させることができるため、ソリッドワイヤに比べてワイヤの生産性を低下させずにワイヤ中に焼入れ元素を多く含有させることができる。
しかし、フラックス入りワイヤのフラックス中に金属または合金の粉末状態で焼入れ元素を多量に含有させる場合には、ソリッドワイヤには問題にならない以下のフラックス入りワイヤ特有の技術的課題がある。つまり、フラックス入りワイヤを製造する場合には、ソリッドワイヤにはない、フラックス配合、造粒工程が必要になる。この際、フラックス中に金属または合金の粉末状態で焼入れ元素を多量に配合した場合には、金属または合金の微粉粒子表面が酸化し、または、金属または合金の粉末表面に酸素分子または原子で吸着し、これらの原因でソリッドワイヤに比べてワイヤ中の酸素含有量が増加しやすくなる。また、フラックス配合、造粒工程では、金属または合金の粉末中に大気中の水分を吸湿するため、ソリッドワイヤでは問題とならない水素の含有量の増加が顕著となる。
フラックス入りワイヤ中の酸素含有量の増加は、特に溶接金属の降伏応力YPが1000MPa以上、引張強さTSが1200MPa以上となるような高強度の溶接金属の場合には、溶接金属の延性特性を低下させ、実用上問題となる加工性の低下や組成変形能の劣化につながるだけでなく、溶接継手における脆性破壊特性の大幅な劣化も招く可能性が高くなる。
また、フラックス入りワイヤ中の水素含有量の増加は、低温割れ感受性が極めて大きくなる、降伏応力YPが1000MPa以上、引張強さTSが1200MPa以上の場合には、溶接時の溶接金属中の拡散性水素の増加により、溶接金属の低温割れを顕著に発生させる原因となる。
以上のとおり、最近、高強度ワイヤの技術開発により、特許文献2に示すような引張強さTSが950MPa以上、降伏応力YSが900MPa以上で、靭性vE-40が良好な溶接金属が得られるソリッドワイヤは実現されつつある。しかし、フラックス入りワイヤでは、上記のようなワイヤ中の酸素および水素の含有量の増加に起因する、溶接金属の低温割れや、靭性及び延性低下などの技術的課題があるため、これらの問題を防止しつつ、従来のソリッドワイヤと同等以上の引張強さTS、降伏応力YS、靭性vE-40を発揮できる、フラックス入りワイヤはまだ実現できていないのが現状である。
特開2001−1148号公報 特開2006−110581号公報
上記背景技術に鑑み、本発明は、引張強さTSが950MPa級以上の高張力鋼板をMIG溶接、MAG溶接(Ar+CO溶接あるいはCO溶接)等に用いられるガスシールドアーク溶接用ワイヤとして、ソリッドワイヤに比べて生産性に優れたフラックスワイヤであって、引張強さが1200MPa以上、降伏強度が1000MPa以上、−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーが27J以上の溶接金属を達成でき、かつ溶接金属のy型溶接割れ試験における低温割れ停止温度が150℃以下の耐低温割れ性を実現できる、フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
本発明は、上記技術的課題を解決するものであり、その発明の要件は下記の通りである。
(1)鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤにおいて、
前記鋼製外皮およびフラックス中に、金属または合金として、ワイヤ全質量に対する質量%の合計で、
C:0.08〜0.3%、
Si:0.2〜2%、
Mn:0.5〜2.5%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.002〜0.3%、
Ti:0.005〜0.3%、
Ni:0.5〜11%、
Mg:0.012〜0.5%、
を含み、かつ、下記(1)式で示される炭素当量(Ceq.)が0.7〜2%、下記(2)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)が0.2〜0.6%であり、さらに、
Mo:0.1〜4%、
W:0.1〜3%、
Nb:0.005〜0.1%、
V:0.005〜0.5%、および、
Ta:0.005〜0.5%、
のうちの1種または2種以上を含有し、かつ、下記(3)式で示されるNb当量(Nbeq.)が0.05〜0.5%であり、かつ、前記フラックス中に含有するスラグ形成剤およびアーク安定剤の含有量の合計を、ワイヤ全質量に対する質量%で、20%以下に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、かつ前記鋼製外皮はシームレスパイプであることを特徴とする高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
Ceq.=[C%]+[Mn%]/6+[Si%]/24+[Ni%]/40+[Mo%]/4+[W%]/8 ・・・(1)
Aleq.=[Al%]+[Mg%]+[Ti%]/10%+([Si%]+[Mn%])/30 ・・・(2)
Nbeq.=[Nb%]+[V%]/5+[Mo%]/20+[W%]/10+[Ta%]/5 ・・・(3)
ただし、上記[C%]、[Mn%]、[Si%]、[Ni%]、[Mo%]、[W%]、[Al%]、[Mg%]、[Ti%]、[Nb%]、[V%]および[Ta%]はそれぞれワイヤ中の鋼製外皮およびフラックス中に含有するC、Mn、Si、Ni、Mo、W、Al、Mg、Ti、Nb、VおよびTaのワイヤ全質量に対する質量%の合計を示す。
(2)前記鋼製外皮およびフラックス中に、金属または合金として、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%の合計で、
Cu:0.01〜1.5%、
Cr:0.01〜2%、
Co:0.01〜6%、および、
B:0.001〜0.015%、
のうちの1種または2種以上を含有し、かつ下記(4)式で示される炭素当量(Ceq.)が0.7〜2%であることを特徴とする前記(1)に記載の高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
Ceq.=[C%]+[Mn%]/6+[Si%]/24+[Ni%]/40+[Cr%]/5+[Mo%]/4+[W%]/8 ・・・(4)
ただし、上記[C%]、[Mn%]、[Si%]、[Ni%]、[Cr%]、[Mo%]および[W%]はそれぞれワイヤ中の鋼製外皮およびフラックス中に含有するC、Mn、Si、Ni、Cr、MoおよびWのワイヤ全質量に対する質量%の合計を示す。
(3)質量%で、
Ca:0.0002〜0.01%、および、
REM:0.0002〜0.01%
のうちの1種または2種を含有し、かつ下記(5)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)が0.2〜0.6%であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
Aleq.=[Al%]+[Mg%]+[Ca%]+[REM%]/5+[Ti%]/10%+([Si%]+[Mn%])/30 ・・・(5)
ただし、上記[Al%]、[Mg%]、[Ca%]、[REM%]、[Ti]、[Si]および[Mn]はそれぞれワイヤ中の鋼製外皮およびフラックス中に含有するAl、Mg、Ca、REM、Ti、SiおよびMnのワイヤ全質量に対する質量%の合計を示す。
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載のフラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮中に前記フラックスを充填した後、伸線途中または伸線後、600〜1100℃の加熱温度で焼鈍処理をしたものであることを特徴とする高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
本発明によれば、引張強度が950MPa級以上の高張力鋼板におけるMIG溶接、MAG溶接(Ar+CO2溶接あるいはCO2溶接)等に用いられるガスシールドアーク溶接用ワイヤとして、ソリッドワイヤに比べて生産性に優れたフラックスワイヤであって、引張強さTSが1200MPa以上で、降伏強度YPが1000MPa以上で、かつ、−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーvE-40が27J以上の溶接金属を達成でき、かつ、かつ溶接金属のy型溶接割れ試験における低温割れ停止温度が150℃以下の耐低温割れを実現できる、フラックス入りワイヤを提供することが可能であり、産業上の効果は極めて大きい。
以下に本発明の実施の形態について説明をする。
溶接金属は基本的に凝固まま組織であり、鋼板のように熱間圧延等による細粒化工程や組織全体の焼戻し処理工程により組織制御することができず、明確な降伏現象を示さないため、引張強さの上昇に比例して降伏応力を高めることが困難である。
引張強さTSが1200MPa以上の溶接金属は、合金元素の添加により焼入れ性を高めてマルテンサイト単相の硬質組織とすることで実現できる。しかし、溶接金属中のマルテンサイト主体組織の生成に起因して、降伏応力YPと靭性vE-40を低下させる原因となる可動転位密度が増加し、また、靭性vE-40を低下させる原因となる溶接金属中の残留オーステナイトの生成する。このため、従来の引張強さTSが1200MPa以上の溶接金属では、降伏強度YPが1000MPa以上で、かつ−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験による吸収エネルギーvE-40が27J以上の溶接金属を実現することはできなかった。
この高強度の溶接金属の組織に起因した技術的課題に対して、本発明者らは、強度と靭性を確保するために有効なNiと、強度の確保に有効なその他の焼入れ元素を所定量添加し、さらに、析出物形成元素で、かつフェライト生成元素であるMo、W、Nb、V、及び、Taの1種以上を選択的に添加し、炭窒化物の析出により可動転位密度の移動をピン止めし、かつ残留オーステナイトの生成を抑制し、溶接金属の引張強さTSを維持しつつ、降伏強度YPと靭性vE-40を向上させることが可能なソリッドワイヤを開発した(特許文献2、参照)。本発明も、これらのワイヤ成分設計上の技術思想を利用する。
このソリッドワイヤによれば、高張力鋼板のガスシールドアーク溶接の際に、引張強さTSが1200MPa以上、降伏応力YPが1000MPa以上で、かつ−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験による吸収エネルギーvE-40が27J以上の溶接金属を得ることが可能となるが、ワイヤの生産性の点で以下の問題があった。
つまり、上記成分組成のソリッドワイヤを製造する場合には、素材中に含有する多量の合金元素に起因して素材強度が高くなり、さらに、伸線時の加工硬化も加わって、冷間での伸線工程において断線の発生頻度が増加しやすくなる。このため、冷間での伸線を良好に行うためには、素材を軟質化するための焼鈍処理を繰り返し行う必要があり、ワイヤ生産性の低下や製造コストの増大を招く原因となる。
そこで、本発明者らは、上記技術思想の基に成分設計した高強度ソリッドワイヤの製造上の問題点に鑑みて、フラックス入りワイヤを採用し、その鋼製外皮中の焼入性元素を高めずに、焼入性元素は外皮内に充填されるフラックス中に金属または合金として多く含有させることで、ソリッドワイヤに比べてワイヤの生産性を向上させることを前提し、このワイヤの設計上の検討を行った。
その結果、フラックス入りワイヤの鋼製外皮内に充填するフラックスとして、焼入れ元素を金属または合金の粉末状態で多量に含有させる場合には、ソリッドワイヤでは問題とならない、以下に示すような酸素含有量及び水素含有量の増加に起因する、溶接金属の靭性及び延性の低下や、低温割れの発生の新たな問題が生じることを確認した。
つまり、フラックス入りワイヤを製造する場合には、ソリッドワイヤにはない、フラックス配合、造粒工程が必要となる。この際、引張強さTSが1200MPa以上の溶接金属を達成するために必要となる焼入れ元素を、フラックス中に金属または合金の粉末状態で多量に配合した場合には、金属または合金の微粉粒子表面に酸化物を形成し、または、金属または合金の粉末中に酸素分子または原子で吸着することにより、ソリッドワイヤに比べてワイヤ中の酸素含有量が増加しやすくなる。
また、フラックス配合、造粒工程、さらに、ワイヤ製造後の保管期間に、金属または合金の粉末が大気中の水分を吸湿するため、ソリッドワイヤに比べてワイヤ中の水素含有量の増加が顕著となる。
本発明者らは、特に引張強さTSが1200MPa以上の溶接金属では、靭性及び延性の許容範囲が狭く、また、低温割れ感受性が極めて大きくなるため、溶接時に溶接金属中の酸素量が増加すると靭性及び延性は大きく低下し、拡散性水素が増加すると低温割れの発生を招くことを確認している。
本発明は、このワイヤ中の酸素及び拡散性水素に関する技術的課題に対して、フラックス入りワイヤの鋼製外皮をシームレスパイプとし、鋼製外皮からフラックス中への大気中の酸素、水分の侵入を防止するとともに、ワイヤ中に脱酸元素であるSi、Mn、Al、Ti、Mgを適正量含有させ、かつ上記(2)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)を所定範囲にすることにより、溶接時の溶接金属中の酸素及び拡散性水素に起因する溶接金属の靭性及び延性の低下や、低温割れの発生を防止することを技術思想とする。
なお、本発明の目的とする高強度鋼用の溶接金属においては、溶接金属の合金元素量および硬さが鋼材の熱影響部や母材よりも高くなるため、低温割れが生じる場合は鋼材側ではなく、溶接金属で生じる。そのため、溶接金属の低温割れ感受性は、y型溶接割れ試験における割れ停止温度により相対的に比較評価することができる。
以下に、本発明のフラックス入りワイヤの特徴とする技術要件の限定理由について説明する。
先ず、フラックス入りワイヤを構成する鋼製外皮およびフラックス中に金属または合金として含有する成分およびその含有量の限定理由について説明する。
なお、以下に示す各成分の含有量は、鋼製外皮およびフラックスをそれぞれ成分分析して測定された鋼製外皮中の成分含有量およびフラックス中の成分含有量と、フラックスの充填率(ワイヤ全質量に対するフラックス全質量の質量%)を基に、下記(6)式により求めることができる。
ワイヤ中の成分iの含有量の合計(質量%)=鋼製外皮中の成分iの含有量(質量%)×(1−充填率)+フラックス中の成分iの含有量(質量%)×充填率・・・(6)
なお、上記フラックス全質量は、金属または合金として添加する元素の他に、スラグ形成剤およびアーク安定剤を含んだフラックス中の成分含有量の合計量を意味する。また、フラックス中の成分含有量とは、フラックス全質量に対する、溶接金属組成に寄与する金属、合金中の元素量の割合を意味する。
また、上記の計算方法を用いず、フラックス入りワイヤ製造工程で、伸線したフラックス入りワイヤから採取し、成分分析により測定することでも上記各成分の含有量を測定することができる。
また、以下の説明において、「%」は特に説明がない限り、「質量%」を意味し、各成分の含有量は、上記で説明した、ワイヤ全質量に対する鋼製外皮およびフラックス中の各成分の質量%の合計となる成分含有量を意味するものとする。
(C:0.08〜0.3%)
Cは、強度を向上させる元素であり、溶接金属の降伏強度を1000MPa以上とするためには、溶接ワイヤ中に0.08%以上含有させる必要がある。
溶接ワイヤ中のC含有量は多いほど溶接金属中のC含有量も増加し、溶接金属の強度を高める上で好ましいが、靱性の劣化が著しくなる。また、溶接金属の高温割れ、低温割れともに感受性が著しく高まる。靱性と耐割れ性を確保するためには溶接ワイヤのC含有量の上限を0.3%とする必要がある。
これらの理由から、本発明においては溶接ワイヤ中のC含有量は0.08〜0.3%とする。
(Si:0.2〜2%)
Siは、脱酸元素であり、溶接金属のO量を低減して清浄度を高めるために必要である。そのためには溶接ワイヤ中の含有量で最低限0.2%以上必要である。ただし、溶接ワイヤ中の含有量が2%を超えて過剰になると、溶接金属の靱性を著しく劣化させるため、本発明においては溶接ワイヤ中のSi含有量は0.2〜2%とする。
(Mn:0.5〜2.5%)
Mnは、焼入性を確保して強度を高めるために必須の元素である。強度向上効果を確実に発揮するためには、0.5%以上溶接ワイヤに含有させる必要がある。一方、溶接ワイヤに2.5%以上含有させると、残留オーステナイトが過剰に生成して降伏強度が含有量の割に向上しない上、粒界脆化感受性が増加して溶接金属の靱性劣化、耐溶接割れ性劣化の可能性が高くなるため、本発明においては、溶接ワイヤ中のMn含有量は0.5〜2.5%に限定する。
(P:0.02%以下)
Pは不純物元素であり、靱性を阻害するため極力低減する必要があるが、溶接ワイヤ中の含有量が0.02%以下では靱性への悪影響が許容できるため、本発明では溶接ワイヤ中のP含有量は0.02%以下とする。
(S:0.01%以下)
Sも不純物元素であり、溶接金属中に過大に存在すると靱性と延性とをともに劣化させるため、極力低減することが好ましい。溶接ワイヤ中の含有量が0.01%以下では靱性、延性への悪影響が許容できるため、本発明では溶接ワイヤ中のS含有量は0.01%以下とする。降伏強度が1100MPa以上となるような、特に高強度の溶接金属においては、Sの延性、靭性への悪影響がより顕著に表れるため、溶接ワイヤ中の含有量を0.005%以下にする方がより好ましい。
(Al:0.002〜0.3%)
Alは脱酸元素であり、Siと同様、溶接金属中のO低減、清浄度向上に効果があり、本発明のフラックス入りワイヤにおいて溶接金属中のO量を許容範囲内とするためには必須の元素である。効果を発揮するためには溶接ワイヤ中に0.002%以上含有させる必要がある。一方、溶接ワイヤ中に0.3%を超えて過剰に含有させると、溶接金属中に粗大な酸化物を形成して、この粗大酸化物が靱性を著しく劣化させるため、好ましくない。
従って、本発明においては、溶接ワイヤ中のAl含有量を0.002〜0.3%とする。
(Ti:0.005〜0.3%)
TiもAlと同様、脱酸元素として有効であり、本発明のフラックス入りワイヤにおいて溶接金属中のO量を許容範囲内とするためには必須の元素である。さらに、固溶Nを固定して固溶Nの靱性への悪影響を緩和できるため、また、さらにはTiNを形成して多層盛溶接において再加熱される領域で加熱オーステナイト粒径を微細化するため、靭性向上にも有効である。これら効果を発揮させるためには、0.005%以上溶接ワイヤ中に含有させる必要がある。ただし、溶接ワイヤ中の含有量が0.3%を超えて過剰になると、粗大な酸化物の形成に起因した靱性劣化、過度な析出強化による靱性劣化が生じる可能性が大となる。
このため、本発明においては、溶接ワイヤ中のTi含有量を0.005〜0.3%とする。
(Ni:0.5〜11%)
Niは固溶靱化により組織、成分によらず靱性を向上できる唯一の元素であり、特に、降伏強度が1000MPa以上の高強度の溶接金属で靱性を高めるには必須の元素である。固溶靱化効果を確実に発揮するためには溶接ワイヤ中に0.5%以上含有させる必要がある。Ni含有量が多いほど靱性を向上する上で有利であるが、溶接ワイヤ中の含有量が11%を超えると、該効果が飽和するのと、残留オーステナイトが過剰に生成して降伏強度が含有量の割に向上しない上、溶接ワイヤの製造コストが過大となるため、好ましくない。そのため、本発明においては、溶接ワイヤ中のNi含有量を0.5〜11%に限定する。
(Mg:0.012〜0.5%)
Mgは強脱酸元素であり、Si、Mn、AlおよびTiと複合添加し、溶接金属中のO量を低減し、溶接金属の延性及び靭性を向上させるために必須な元素であり、この効果を発揮するためには溶接ワイヤ中に0.012%以上含有させる必要がある。
また、Mgは、AlやCaなどの強脱酸元素に比べて、溶接金属中で微細酸化物を均一に分散させることができるため、Mgを比較的多く含有させても、粗大酸化物の形成による溶接金属の靭性の低下はない。しかし、溶接ワイヤ中のMg含有量が0.5%を超えると、溶接金属中での粗大酸化物の形成による靭性低下が無視できなくなり、また、溶接中のアークの安定性が劣化し、ビード形状を悪化させる原因にもなる。このため、本発明においては、溶接ワイヤ中のMg含有量を0.012〜0.5%に限定する。
また、本発明では、Mgによる微細酸化物の均一分散による作用を利用し、溶接金属の靭性を向上するために、好ましくは、Mgを0.02〜0.5%含有させた上で、Al、Tiなどのその他の脱酸元素を補完的に用いることが好ましい。
本発明では、以上の成分に加えて、Mo、W、Nb、V、および、Taの1種または2種以上を以下の含有量の範囲で選択的に添加する必要がある。これらの元素は何れもフェライト安定化元素で、かつ析出強化元素である点で共通の作用を有し、溶接金属中で炭窒化物を析出し、マルテンサイト主体組織の可動転位密度の移動をピン止めすることにより降伏強度と靭性を向上させ、かつ残留オーステナイトの生成を抑制することにより靭性を向上させるために非常に有効な元素である。
(Mo:0.1〜4%)
Moは、焼入性向上元素であるが、かつ、フェライト安定化元素であるために残留オーステナイト低減に有効であり、また、微細炭化物を形成して、析出強化により降伏強度確保に有効である。これらの効果を発揮するためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても最低限0.1%必要である。一方、4%を超えて溶接ワイヤ中に含有させると、粗大な析出物が生じて溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明においては、溶接ワイヤ中にMoを含有させる場合の含有量は0.1〜4%とする。
(W:0.1〜3%)
Wも、Moとほぼ同様、焼入性向上元素であるが、かつ、フェライト安定化元素であるために残留オーステナイト低減に有効であり、また、微細炭化物を形成して、析出強化により降伏強度確保に有効である。これらの効果を発揮するためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても最低限0.1%必要である。一方、3%を超えて溶接ワイヤ中に含有させると、靭性劣化が著しくなるため、本発明においては、溶接ワイヤ中にWを含有させる場合の含有量は0.1〜3%とする。
(Nb:0.005〜0.1%)
Nbもフェライト安定化元素であり、残留オーステナイト低減に有効であり、また、微細炭化物を形成して、析出強化により降伏強度確保に有効である。これらの効果を発揮するためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても最低限0.005%必要である。一方、0.1%を超えて溶接ワイヤ中に含有させると、溶接金属中に過剰に含有され、粗大な析出物を形成して靭性を劣化させるため好ましくない。そのため、本発明においては、溶接ワイヤ中にNbを含有させる場合の含有量は0.005〜0.1%とする。
(V:0.005〜0.5%)
Vもフェライト安定化元素であり、残留オーステナイト低減に有効であり、また、微細炭化物を形成して、析出強化により降伏強度確保に有効である。これらの効果を発揮するためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても最低限0.005%必要である。一方、0.5%を超えて溶接ワイヤ中に含有させると、溶接金属中に過剰に含有され、粗大な析出物を形成して靭性を劣化させるため好ましくない。そのため、本発明においては、溶接ワイヤ中にVを含有させる場合の含有量は0.005〜0.5%とする。
(Ta:0.005〜0.5%)
Taもフェライト安定化元素であり、残留オーステナイト低減に有効であり、また、微細炭化物を形成して、析出強化により降伏強度確保に有効である。これらの効果を発揮するためには、他の同様の効果を有する元素との複合効果を考慮しても最低限0.005%必要である。一方、0.5%を超えて溶接ワイヤ中に含有させると、溶接金属中に過剰に含有され、粗大な析出物を形成して靭性を劣化させるため好ましくない。そのため、本発明においては、溶接ワイヤ中にTaを含有させる場合の含有量は0.005〜0.5%とする。
本発明では、目的とする溶接金属の引張強さTS(1200MPa以上)、降伏強度YP(1000MPa以上)、靭性(−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーvE-40で27J以上)を達成するために、以上の成分をそれぞれの含有量の規定範囲内で添加する際に、上記(1)式で示される溶接金属の焼入性を示す炭素当量(Ceq.)、上記(2)式で示される脱酸元素による脱酸効果の指標であるAl当量(Aleq.)、および、上記(3)式で示される析出物による降伏応力向上効果の指標であるNb当量(Nbeq.)を合わせて限定する必要がある。
(炭素当量(Ceq.):0.7〜2%)
溶接金属において、引張強さTSを1200MPa以上で、かつ降伏強度を1000MPa以上に向上するためには、溶接金属の焼入性を確保して溶接金属の変態組織を基本的にはマルテンサイト単相組織とする必要がある。わずかなベイナイト組織の生成は許容されるが、マルテンサイトの割合が90%以上のマルテンサイト主体組織とする必要がある。
そのためには溶接ワイヤ中のそれぞれの元素の上記含有量の範囲内に限定した上で、さらに、溶接ワイヤの焼入れ成分である、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Wの含有量に基づき、上記(2)式で示される焼入性の指標としての炭素当量(Ceq.)を0.7%以上とする必要がある。該炭素当量が大きいほど安定した焼入性が確保できるが、2%を超えて過剰になると、引張強度の上昇は飽和する上、残留オーステナイトの生成等により降伏強度は逆に減少する場合もあり、また靭性も劣化するため好ましくない。
以上の理由により、本発明においては、溶接ワイヤの炭素当量(Ceq.)を0.7〜2%に限定する。
(脱酸元素当量(Aleq.):0.2〜0.6%)
上記(2)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)は溶接金属における脱酸の効果をAl当量で表した実験データに基づく指標である。本発明の目的とする、引張強度が1200MPa以上、かつ降伏強度が1000MPa以上の高強度溶接金属において、溶接金属中のO量に起因する延性や靭性を劣化させずに、−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーvE-40で27J以上の靭性を確保するためには、溶接金属中のO量を一定以下に抑制する必要がある。
図1に、Ceq.:0.8〜0.85%、Nbeq.:0.1〜0.2%、Aleq.:0.06〜0.96の範囲にある外径1.2mmのフラックス入りワイヤを用いて、表1に示す板厚16mmの鋼板S2を、入熱1.7kJ/mmでAr+20%COのガスシールドアーク溶接を行った場合の、フラックス入りワイヤのAleq.と溶接金属の靭性vE-40との関係を示す。
なお、溶接金属は、降伏強度YPが1080〜1150MPaのマルテンサイト主体組織からなる溶接金属組織であった。
フラックス入りワイヤ中に含有する、Al、Mg、Ti、Si、Mgの脱酸元素は、各元素によって脱酸力が異なり、また、脱酸により生成した酸化物のサイズや分散度も違いがあるが、図1に示すように、マルテンサイト組織主体の高強度溶接金属の靭性vE-40は、(2)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)に大きく影響し、Aleq.が0.2〜0.6%のときに−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーvE-40が27J以上の良好な靭性が安定して得られることが判る。ワイヤ中のAleq.が0.2%未満の場合には、溶接金属中の脱酸効果および酸化物の均一微細分散の微細効果は十分発揮できず、十分な靭性向上が達成できない。一方、ワイヤ中のAleq.が0.6%を超えると、脱酸効果が飽和する上、粗大酸化物を形成して靭性にも悪影響を及ぼすため、靭性が低下するため好ましくない。
これらの理由から、本発明は、Si、Mn、Al、Ti、Mgの脱酸元素をワイヤ中に添加する場合には、上述したそれぞれの脱酸元素の含有範囲内で、かつ、Aleq.が0.2〜06%の範囲となるように調整して添加する必要がある。
(Nb当量(Nbeq.):0.05〜0.5%)
Mo、W、Nb、V、および、Taの析出元素による降伏強度向上効果は、溶接金属中に析出した炭窒化物が応力付加時に移動する転位の抵抗になる効果と、マルテンサイト変態時に導入された可動転位上に析出して転位を固着する効果によるものと考えられる。
これらの元素により、引張強度が1200MPa以上のマルテンサイト単相ないしは主体組織からなる溶接金属における降伏強度を1000MPa以上とするためには、上記(3)式で示されるNb当量を0.05%以上とする必要がある。Nb当量が0.05%未満であると、Mo、W、Nb、V、Taの各々の含有量が本発明で規定する範囲を満足していても、降伏強度向上の効果が十分に得られない。
一方、Nb当量が0.5%超では、析出物が粗大化し、溶接金属の靭性が大きく劣化するため好ましくない。
これらの理由から、本発明においては、溶接ワイヤ組成のNb当量を0.05〜0.5%に限定する。
(フラックス中のスラグ形成剤及びアーク安定剤の含有量の合計≦20%)
フラックス中のスラグ形成剤及びアーク安定剤の含有量の合計が、ワイヤ全質量に対する質量%で20%を超えると、溶接時にスラグ量が過度に増加し、溶接作業性が阻害される。
また、スラグ形成剤及びアーク安定剤は金属酸化物であり、スラグ形成剤及びアーク安定剤の増加により、溶接金属中のO量も増加する傾向があるため、溶接金属の靭性および延性の低下を抑制する点から好ましくない。
これらの理由から、本発明では、フラックス中のスラグ形成剤及びアーク安定剤の含有量の合計を、ワイヤ全質量に対する質量%で20%以下に制限する。
なお、スラグ形成剤とは、溶接ビード形状を良好に維持する作用を有する、TiO2、SiO2、ZrO2、Al23、MnO、FeO、CaO等を意味し、また、アーク安定剤とは、溶接時のアーク安定性を高める作用を有するNa2O、K2O等を意味するが、これ以外でも同様の効果を有する酸化物、化合物の含有を妨げるものではない。
以上が本発明の溶接ワイヤの基本成分元素及び制限すべき不純物の含有量の限定理由であるが、本発明の目的とする溶接金属の基本特性を阻害しない範囲内で、特定の機械的性質の調整のために、必要に応じて、さらに、Cu、Cr、Co、および、Bのうちの1種または2種以上を以下の含有量の範囲で溶接ワイヤ中に含有させることができる。
(Cu:0.01〜1.5%)
Cuは溶接ワイヤがメッキされて使用される場合には不可避的にワイヤ及び溶接金属に含有される。Cuは強度向上には有効な元素であり、効果を発揮させるためには0.01%以上含有させる必要がある。ただし、過剰に含有されると、溶接金属の靭性の劣化や耐高温割れ性の劣化を招くため好ましくない。メッキとして含有される場合、あるいは強度向上のために意図的に含有する場合とも、溶接金属の靭性の劣化や耐高温割れ性の劣化を生じない上限として、本発明においては、ワイヤのCu含有量の上限は1.5%とする。なお、Cuについてはその含有量は外皮自体やフラックス中に含有されている分に加えて、ワイヤ表面のメッキ分も含む。
(Cr:0.01〜2%)
Crは、焼入性を高めることにより高強度化に有効元素である。そのために溶接ワイヤ中に含有させる場合は0.01%以上必要である。一方、2%を超えて過剰に含有させると、ベイナイトやマルテンサイトを不均一に硬化させ、靱性を著しく劣化させるため、本発明においては、溶接ワイヤ中の含有量の上限を2%とする。
(Co:0.01〜6%)
Coは、ベイナイト〜マルテンサイト組織において、極端に変態点が低下することを抑制することで、強度の調整、残留オーステナイトの生成抑制を介した降伏強度の確保に有効な元素である。該効果を確実に発揮するためには溶接ワイヤ中に0.01%以上含有させる必要がある。一方、6%を超えて含有させても効果が飽和し、製造コストが過大となるため、本発明においては、溶接ワイヤにCoを含有させる場合はその範囲を0.01〜6%とする。
(B:0.001〜0.015%)
Bは、溶接金属中に適正量含有させると、固溶Nと結びついてBNを形成して、固溶Nの靭性に対する悪影響を減じる効果があり、また、焼入性を高めて強度向上に寄与し得る元素である。これらの効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のB含有量は0.001%以上必要である。一方、溶接ワイヤ中のB含有量が0.015%超になると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBNやFe23(C、B)6等のB化合物を形成して靭性を逆に劣化させるため、好ましくない。そこで、本発明においては、溶接ワイヤにBを含有させる場合は、0.001〜0.015%に限定する。
なお、溶接ワイヤ中に上述の基本成分に加えて、上記のCu、Cr、CoおよびBの1種または2種以上を含有させる場合は、上記(4)式で示される焼入性指標の炭素当量Ceqが0.7未満では、溶接金像の引張強さTSが1200MPa以上とするための焼入性が十分に確保できず、炭素当量Ceqが2%を超えると、降伏応力YPおよび靭性が劣化するため好ましくない。このため、上記(4)式で示される炭素当量Ceqを0.7〜2%に限定するのがこのましい。
本発明では、上記成分に加えて、さらに、溶接金属の延性、靭性を調整する目的で、必要に応じて、Ca、および、REMのうちの1種または2種を以下の範囲内でワイヤ中に含有させることができる。
(Ca:0.0002〜0.01%、REM:0.0002〜0.01%)
Ca、REMはいずれも硫化物の構造を変化させ、また溶接金属中での硫化物、酸化物のサイズを微細化して延性及び靭性向上に有効である。その効果を発揮するための下限の含有量は、いずれも0.0002%である。一方、過剰に含有すると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性、靭性の劣化を招くため、また、溶接ビード形状の劣化、溶接性の劣化の可能性も生じるため、上限をいずれも0.01%とする。
溶接ワイヤ中に上記成分に加えて、上記のCa、および、REMの1種または2種を含有させる場合は、上記(5)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)が0.02未満では、溶接金属中のO量の低減による延性および靭性の向上効果が少なくなる。一方、Aleq.が0.6%を超えると、溶接作業性やビード形状を悪化させる可能性が生じるため好ましくない。
このため、上記のCa、および、REMの1種または2種を含有させる場合は、上記(5)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)を0.02〜0.6%に限定するのが好ましい。
本発明においては、上記基本成分、および、選択成分は、鋼製外皮およびフラックス中に含有させ、フラックス中に含有する場合には、Mgを除いて酸化物の形態で添加すると歩留まりが低くなるため、金属または合金の形態で添加するのが好ましい。ただし、Mgについては、酸化物でも純金属、合金と同等の効果を有するため、酸化物で含有させても構わない。
また、充填物の密度を一定以上に保つために、嵩増しのためにFe粉を含有させることもワイヤ全体としての化学組成が本発明を満足する限りは問題ない。
以上が本発明のフラックス入りワイヤの成分組成に関する限定理由であるが、本発明では、ワイヤ中の酸素含有量及び水素含有量を低減し、溶接金属の強靭及び延性の向上、さらに、溶接金属の低温割れを抑制するために、フラックス入りワイヤを構成する鋼製外皮をシームレスパイプとする必要がある。
鋼製外皮をシームレスパイプとすることにより、ワイヤ保管時の鋼製外皮からフラックスへの大気中の酸素及び水素の侵入を抑制することができる。特に、大気中の水分は外皮のシーム部からフラックス中に侵入しやすく、鋼製外皮のシーム部をかしめ等の機械的締結により接合した外皮では、水分等の水素源の侵入を防止することはできず、溶接時の溶接金属の低温割れの発生原因となる。これらの理由から、本発明では、フラックス入りワイヤを構成する鋼製外皮をシームレスパイプとする。
なお、本発明における「シームレス」とは、継ぎ目を有さない継ぎ目無しパイプの他に、シーム部に間隙がないような溶接により接合したシーム部を有するパイプも含まれる。
また、鋼製外皮の鋼種は、本発明の目的とするワイヤ伸線性を良好に維持し、生産性を向上できるものであれば、特に限定する必要はなく、合金元素が少ない軟鋼のような一般鋼でも良い。
上記ワイヤ成分および鋼製外皮の規定により、本発明のフラックス入りワイヤは、同じ成分組成のソリッドワイヤと同等以上の溶接金属の耐低温割れ性が得られる。
つまり、本発明のフラックス入りワイヤを用いて、引張強度が950MPa級の25mm厚鋼板をガスシールドアーク溶接し、降伏強度が1000MPa〜1100MPaの溶接金属を形成した場合には、JIS Z3158y形溶接割れ試験における割れ停止温度が100℃以下の耐低温割れ性を達成できる。また、本発明のフラックス入りワイヤを用いて、引張強度が1200MPa級の25mm厚鋼板をガスシールドアーク溶接し、降伏強度が1100MPa〜1200MPaの溶接金属を形成した場合には、JIS Z3158y形溶接割れ試験における割れ停止温度が150℃以下の耐低温割れ性を達成できる。
(焼鈍処理)
ただし、より確実に、耐低温割れ停止特性を確保することを目的として、製造工程で水素減を低減するために、最終線径よりも大きな径を有するフラックス入り原線ワイヤから冷間成形により所望の線径にする製造工程において、鋼製外皮中にフラックスを充填した後の伸線途中あるいは伸線工程完了後に、加熱温度が600〜1100℃の焼鈍を少なくとも1回施すことができる。
焼鈍温度の下限を600℃とするのは、600℃未満では脱水素効果が十分でないためであり、上限を1100℃とするのは、1100℃超では、外皮に不要な酸化が生じたり、内部のフラックスも酸化されて、ワイヤとしてのO量が増加し、そのため、溶接金属のO量が多くなって、靭性や延性を阻害する恐れがあるためである。
焼鈍は、例えば、パイプ状の外皮中にフラックスを添加したり、U字成形した外皮材にフラックスを充填した後、パイプ状に成形し、シーム部を溶接した段階の原線状態であっても、該原線を複数回ダイスに通して最終径とする冷間成形のダイス間の工程でも、あるいは、最終線径に加工が終了した段階でも効果は変わらない。
また、種々の段階で複数回焼鈍を行えば、その分、水素低減に有効となる。また、冷間成形中に鋼製外皮が硬化するため、これを軟化させて以降の冷間成形を用意せしめる軟化焼鈍と兼ねることも特に問題はない。焼鈍雰囲気は、焼鈍中での水素、酸素の進入、酸化を防ぐことが好ましく、その目的からは、真空、または、不活性ガス雰囲気が好ましい。
また、フラックス入りワイヤ中の酸素含有量の増加を抑制する点から、ワイヤを成形する際の温度を上記焼鈍温度の上限と同様に1100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは冷間〜温間成形が望ましい。
本発明のフラックス入りワイヤを製造する場合には、上記焼鈍処理条件、成形温度以外の製造条件について、何ら制約するものではなく、通常の製造条件で、本発明の目的とする効果を発揮することが可能である。
本発明のワイヤは、ガスシールドアーク溶接全般、すなわち、TIG、MIG、MAG、さらにはCO2溶接全般に効果を発揮することができる。鋼板板厚が25mm以上、溶接入熱が10kJ/mm以下までは鋼材による希釈があっても効果が損なわれるものではなく、引張強度が950MPa以上の強度レベルを有する鋼材であればその組成如何によらず本発明が目的とする溶接金属特性を達成できる。さらに薄手、大入熱となって鋼材からの希釈が無視できない場合でも、鋼材組成として、C:0.06〜0.2%、Si≦1%、Mn:0.3〜2.5%、P≦0.02%、S≦0.1%、Al:0.005〜0.2%、Cu≦1%、Ni≦10%、Cr≦1.5%、Mo:0.1〜3%、Nb≦0.1%、V≦0.5%、Ti≦0.2%、B≦0.005%、及び、その他合金元素の合計が1%以下であれば、本発明の溶接金属特性に許容できない悪影響を及ぼすことはない。
フラックスの充填率(ワイヤ全体に対する充填物全体の質量比)はワイヤ全体の組成が本発明を満足していれば特に制限をするものではないが、ワイヤの製造性を確保する観点からは、0.3以下とすることが好ましい。
本発明の効果を実施例によりさらに詳細に説明する。
表1に示す、化学組成、製造方法、板厚の異なる3種類の鋼板と表4−1にワイヤの状態および焼鈍条件を、表4−2に化学組成を示す溶接ワイヤを用いて溶接を行い、溶接金属特性、耐低温割れ性を調査した。
Figure 0004879696
表1の鋼板はいずれも降伏強度が1100MPa以上の強度を有しているが、本発明の溶接ワイヤの効果は表1の鋼板の化学組成や強度レベルに限定されるものではない。
溶接はいずれもシールドガスがAr+20%CO2のMAG溶接とし、溶接金属特性評価用の継手作製には、開先角度45°、ルートギャップ7mmのV開先で、入熱は0.8〜1.7kJ/mmの多層盛溶接を用いた。予熱・パス間温度は150℃とした。y形溶接割れ試験はJIS Z3158のy形溶接割れ試験方法に準拠して実施し、板厚25mmの鋼板を用いて、溶接入熱1.7kJ/mmで種々の予熱温度で試験を行い、割れ停止温度を求めた。なお、溶接に際しては実使用を想定して、フラックス入りワイヤの吸湿等による耐水素割れ特性の経時変化を考慮するため、ワイヤ製造後、開封して大気中に約6ヶ月保管したものを溶接に供した。ただし、保管中にワイヤ表面に生じたさびは除去した。
表4−1及び4−2のフラックス入りワイヤは、表2に化学組成を示す鋼製外皮と、表3に各元素の含有量を示すフラックスとを種々組み合わせて製造した。鋼製外皮は板厚3mmのものを用い、U字形に加工して、フラックスを所要量添加した後、断面を円形に加工しつつシーム溶接を行ってシームレスワイヤとした。ただし、一部は比較例として、かしめによる機械締結でワイヤとした場合もある。フラックスの充填率はフラックス添加量と初期ワイヤ径との組み合わせで調整した。ただし、必要に応じて嵩増しのために、Fe分を適宜添加した。溶接後のワイヤは冷間引き抜き加工により1.2mmないしは1.4mmの最終ワイヤ径とした。大半については水素源低減あるいは/及び加工硬化したワイヤの軟化を目的として冷間引き抜き加工の途中あるいは/及び加工終了後に焼鈍を施したが、一部は比較のため、焼鈍を施さなかったワイヤもある。ワイヤの一部は表面にメッキしたものもあるが、大半はCuメッキは施していない。表4−2中のCu含有量はメッキからか、外皮からか、フラックスに含有されているかは区別せずに全体の全体の含有量で示している。なお、表3のフラックス組成にはスラグ形成剤、アーク安定剤の添加割合、種類も示すが、スラグ形成剤、アーク安定剤は本発明において、溶接金属の特性や、水素割れ特性に影響を及ぼさないものである。従って、本発明は、表3のスラグ形成剤、アーク安定剤の割合や種類に何ら限定されるものではない。
表4−1及び4−2のうち、ワイヤ番号YA1〜5、8、10、13〜14は本発明の要件を満足しているフラックス入りワイヤであり、ワイヤ番号YB1〜YB15は本発明の要件を満足していないフラックス入りワイヤである。
Figure 0004879696
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Figure 0004879696
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表5は溶接継手における溶接金属特性を、また、表6はy形溶接割れ試験結果を、各々溶接継手の作製条件とともに示している。溶接金属の引張特性は鋼板板厚中心部、溶接金属幅方向中央から溶接ビード長手方向に平行に採取した丸棒引張試験片により測定し、靱性は、鋼板板厚中心部、溶接金属幅方向中央がノッチ位置となるように溶接ビード長手方向に直角に採取した標準サイズの2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を用いて評価した。
Figure 0004879696
表5に示す溶接金属の機械的性質あるいは/及び表6に示すy形溶接割れ試験における割れ停止温度から明らかなように、本発明を満足しているワイヤ番号YA1〜5、8、10、13〜14のワイヤにより溶接した場合には、溶接した段階で溶接金属に高温割れや低温割れ等の溶接欠陥は生じていないのはもちろん、溶接金属の強度は降伏強度で1000MPa以上、引張強度で1250MPa以上となっており、合わせて靭性は2mmVノッチシャルピー衝撃試験の−40℃における吸収エネルギーで27Jより十分高くなっており(継手番号WA1〜5、8、10、13〜14)、かつ、y形割れ試験における割れ停止温度は125℃以下であり、同程度の溶接金属強度レベルを達成できるソリッドワイヤの停止温度が150℃程度であることと比較して十分遜色のない耐低温割れ特性となっている(試験番号WYA1〜5、8、10、13〜14)。
Figure 0004879696
一方、本発明の要件を満足していないワイヤ番号YB1〜YB15のワイヤの場合には、ワイヤ製造性、継手健全性、溶接金属特性、耐低温割れ性等の少なくとも一つが本発明のワイヤに比べて大幅に劣っており、安全性を必要とする構造物を溶接し、溶接金属の降伏強度が1100MPa以上となる溶接ワイヤとしては好ましくないことは明白である。
すなわち、ワイヤ番号YB1及びYB2は、ワイヤがかしめにより製造されているため、保管中の吸湿等により拡散性水素量が本発明に比べて高くなっており、y形割れ試験の停止温度が250℃と高く(試験記号WYB1、WYB2)、そのため、150℃で予熱した継手では溶接後に低温割れが生じ、継手の健全性が損なわれており、好ましくない。
ワイヤ番号YB3は、炭素当量(Ceq.)が過小であるため、溶接金属の降伏強度が1000MPaに達していない。また、Al当量も若干不足気味であるため、溶接金属中の酸素含有量が高めとなり、靱性が劣る(継手記号WB3)。
ワイヤ番号YB4は、ワイヤ中に析出強化により降伏強度を高めるNb当量式に含まれる元素が何ら含有されていないため、降伏強度が1000MPaに達しておらず、本発明に比べて劣る(継手記号WB4)。
ワイヤ番号YB5は、Ceq.、Aleq.、Nbeq.がいずれも本発明の下限を下回っているため、継手WB5の溶接金属は降伏強度も不十分であり、かつ、靱性も劣っており、本発明との差は明らかである。
ワイヤ番号YB6は、ワイヤのCeq.が過大であるため、先ず、ワイヤ製造に当たって、変形抵抗が多いために、冷間引き抜き中に断線が生じ製造性に難がある。次に、継手を作製した段階では、高温割れ、低温割れがともに生じて、継手健全性に劣る。溶接金属の靱性も著しく劣化し(継手番号WB6)、さらには、y形溶接割れ試験でも、割れ停止温度が目標の150℃を超えて175℃になっており(試験番号WYB7)、好ましくない。
ワイヤ番号YB7は、ワイヤ中のMgが過大で、かつ、その結果としてAleq.も過大であるため、溶接金属に粗大な酸化物を形成して靱性の劣化が著しい(継手WB7)。
ワイヤ番号YB8は、ワイヤのNbeq.が過大であるため、ワイヤ製造中に断線が生じ製造性に難がある。また、溶接金属の靱性も大幅に劣化しており(継手番号WB8)、好ましくない。
ワイヤ番号YB9は、ワイヤのMg含有量が過小であるため、溶接金属の酸素量が低減せず、靱性の劣化が著しい(継手番号WB9)。
ワイヤ番号YB10は、ワイヤのC含有量が過小であるため、Ceq.は本発明を満足しているものの、強度が降伏強度、引張強度とも本発明に比べて大幅に低く、本発明の目的としている降伏強度≧1000MPaを達成できない(継手番号WB10)。
ワイヤ番号YB11は、ワイヤの化学組成において、Aleq.が過小であるため、溶接金属の酸素量が低減せず、靱性の劣化が著しい(継手番号WB11)。
ワイヤ番号YB12は、ワイヤの化学組成において、Nbeq.が過小であるため、溶接金属の降伏強度が引っ張り強度の割に低めとなり、1000MPaを下回っている(継手番号WB12)。
ワイヤ番号YB13は、ワイヤのC含有量が過大であるため、強度は十分高いが、ワイヤ製造に当たって、変形抵抗が多いために、冷間引き抜き中に断線が生じ製造性に難がある。加えて溶接金属の靱性が極めて低く(継手番号WB13)、低温割れ停止温度が200℃と高いために(試験記号WYB13)、継手作製段階で溶接金属に低温割れも生じて好ましくない。
ワイヤ番号YB14は、ワイヤのNi含有量が過小であるため、溶接金属の靱性が十分確保されない(継手番号WB14)。
ワイヤ番号YB15は、Aleq.は本発明範囲内ではあるが、AlとTiの個々の含有量が過大であるため、Al、Tiを含有する粗大な酸化物が溶接金属中に形成されるため、溶接金属の靱性劣化が大きく、好ましくない(継手番号WB15)。
以上の実施例から、本発明によれば、引張強度が950MPa級以上の高張力鋼板におけるMIG溶接、MAG溶接(Ar+CO2溶接あるいはCO2溶接)等のガスシールドアーク溶接に用いる、製造性に優れ、溶接金属の降伏強度が1000MPa以上、−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーが27J以上で、かつ、y型溶接割れ試験における低温割れ停止温度が同程度の強度レベルのソリッドワイヤなみの150℃以下である、耐低温割れ性がソリッドワイヤなみのフラックス入りワイヤを得られることは、明白である。
フラックス入りワイヤの脱酸元素当量Aleq.と溶接金属の靭性vE-40との関係を示す図である。

Claims (4)

  1. 鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤにおいて、
    前記鋼製外皮およびフラックス中に、金属または合金として、ワイヤ全質量に対する質量%の合計で、
    C:0.08〜0.3%、
    Si:0.2〜2%、
    Mn:0.5〜2.5%、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.002〜0.3%、
    Ti:0.005〜0.3%、
    Ni:0.5〜11%、
    Mg:0.012〜0.5%
    を含み、かつ、下記(1)式で示される炭素当量(Ceq.)が0.7〜2%、下記(2)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)が0.2〜0.6%であり、さらに、
    Mo:0.1〜4%、
    W:0.1〜3%、
    Nb:0.005〜0.1%、
    V:0.005〜0.5%、および、
    Ta:0.005〜0.5%
    のうちの1種または2種以上を含有し、かつ、下記(3)式で示されるNb当量(Nbeq.)が0.05〜0.5%であり、
    かつ、前記フラックス中に含有するスラグ形成剤およびアーク安定剤の含有量の合計を、ワイヤ全質量に対する質量%で、20%以下に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、
    かつ前記鋼製外皮はシームレスパイプであることを特徴とする高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    Ceq.=[C%]+[Mn%]/6+[Si%]/24+[Ni%]/40+[Mo%]/4+[W%]/8 ・・・(1)
    Aleq.=[Al%]+[Mg%]+[Ti%]/10%+([Si%]+[Mn%])/30 ・・・(2)
    Nbeq.=[Nb%]+[V%]/5+[Mo%]/20+[W%]/10+[Ta%]/5 ・・・(3)
    ただし、上記[C%]、[Mn%]、[Si%]、[Ni%]、[Mo%]、[W%]、[Al%]、[Mg%]、[Ti%]、[Nb%]、[V%]および[Ta%]はそれぞれワイヤ中の鋼製外皮およびフラックス中に含有するC、Mn、Si、Ni、Mo、W、Al、Mg、Ti、Nb、VおよびTaのワイヤ全質量に対する質量%の合計を示す。
  2. 前記鋼製外皮およびフラックス中に、金属または合金として、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%の合計で、
    Cu:0.01〜1.5%、
    Cr:0.01〜2%、
    Co:0.01〜6%、および、
    B:0.001〜0.015%
    のうちの1種または2種以上を含有し、かつ下記(4)式で示される炭素当量(Ceq.)が0.7〜2%であることを特徴とする請求項1に記載の高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    Ceq.=[C%]+[Mn%]/6+[Si%]/24+[Ni%]/40+[Cr%]/5+[Mo%]/4+[W%]/8 ・・・(4)
    ただし、上記[C%]、[Mn%]、[Si%]、[Ni%]、[Cr%]、[Mo%]および[W%]はそれぞれワイヤ中の鋼製外皮およびフラックス中に含有するC、Mn、Si、Ni、Cr、MoおよびWのワイヤ全質量に対する質量%の合計を示す。
  3. 質量%で、
    Ca:0.0002〜0.01%、および、
    REM:0.0002〜0.01%
    のうちの1種または2種を含有し、かつ下記(5)式で示される脱酸元素当量(Aleq.)が0.2〜0.6%であることを特徴とする請求項1または2に記載の高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    Aleq.=[Al%]+[Mg%]+[Ca%]+[REM%]/5+[Ti%]/10%+([Si]+[Mn])/30 ・・・(5)
    ただし、上記[Al%]、[Mg%]、[Ca%]、[REM%]、[Ti]、[Si]および[Mn]はそれぞれワイヤ中の鋼製外皮およびフラックス中に含有するAl、Mg、Ca、REM、Ti、SiおよびMnのワイヤ全質量に対する質量%の合計を示す。
  4. 前記請求項1〜3の何れかに記載のフラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮中に前記フラックスを充填した後、伸線途中または伸線後、600〜1100℃の加熱温度で焼鈍処理をしたものであることを特徴とする高降伏強度高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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