上記特許文献1では、衝突部位または衝突角度の一方を考慮するのみであるため、衝突による自車両に対する影響度合(傷害の度合。以下、傷害度と呼ぶ。)を正確に判断することが困難である。衝突部位が同じであっても傷害度は必ずしも同じであるとは限らず、また、衝突角度が同じであっても傷害度は必ずしも同じであるとは限らないからである。上記特許文献1では、傷害度を正確に判断することができないので、衝突を軽減または回避するために(傷害度の観点から見た場合において)最適なブレーキ制御を行うことができない場合があった。
それ故、本発明の目的は、衝突を軽減または回避するためにより的確なブレーキ制御を行うことが可能な衝突軽減装置を提供することである。
上記課題を解決すべく、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明は、自車両が他車両と衝突すると推定された場合にブレーキ制御を行うことによって衝突を軽減または回避する衝突軽減装置である。衝突軽減装置は、衝突部位推定部と、衝突角度推定部と、突抜部位推定部と、制御部とを備えている。衝突部位推定部は、他車両が衝突すると予想される自車両の位置である衝突部位を推定する。衝突角度推定部は、自車両に対して他車両が衝突する衝突角度を推定する。突抜部位推定部は、他車両が自車両を突き抜けた場合における突抜部位を衝突部位および衝突角度から推定する。制御部は、ブレーキ制御の内容を衝突部位および突抜部位に基づいて決定する。
第2の発明においては、突抜部位推定部は、衝突部位から衝突角度によって決められる方向に延ばした直線が自車両を突き抜ける位置を突抜部位として推定してもよい。
第3の発明においては、制御部は、ブレーキ制御の内容を、衝突部位から突抜部位までの距離を少なくとも用いて決定してもよい。
第4の発明においては、制御部は、ブレーキ制御を開始するタイミングを、距離が長いほど早くなるように決定してもよい。
第5の発明においては、制御部は、ブレーキ制御の内容を、衝突部位と突抜部位との組み合わせを少なくとも用いて決定してもよい。
第6の発明においては、制御部は、衝突部位および突抜部位が自車両のキャビンの位置である場合、ブレーキ制御を開始するタイミングを、衝突部位および突抜部位の少なくとも一方が自車両のキャビンよりも前の位置である場合よりも早くなるように決定してもよい。
第7の発明においては、制御部は、衝突部位および突抜部位の少なくとも一方が自車両のキャビンよりも後側の位置であることを少なくとも条件として、衝突までにブレーキ制御を行わないように制御してもよい。
第8の発明においては、制御部は、条件が満たされた場合、衝突後にブレーキ制御を行うようにタイミングを決定する。
第9の発明においては、制御部は、衝突部位から突抜部位までの距離が予め定められた所定距離よりも短いことをさらなる条件として用いてもよい。
第10の発明においては、衝突軽減装置は、他車両に衝突した場合における自車両の傷害の度合である傷害度を、衝突部位および突抜部位に基づいて算出する傷害度算出部をさらに備えていてもよい。このとき、制御部は、ブレーキ制御を開始するタイミングを傷害度に基づいて決定する。
第11の発明においては、制御部は、ブレーキ制御を開始するタイミングを衝突部位および突抜部位に基づいて決定してもよい。また、第12の発明においては、制御部は、自車両と他車両とが衝突するまでの衝突時間に関する閾値を衝突部位および突抜部位に基づいて算出してもよい。このとき、衝突軽減装置は、衝突時間を所定時間間隔で繰り返し算出する衝突時間算出部と、閾値よりも衝突時間が小さくなった場合、ブレーキ制御を開始する制御実行部とをさらに備えている。
第13の発明においては、制御部は、ブレーキ制御を行うか否かを衝突部位および突抜部位に基づいて決定してもよい。また、第14の発明においては、制御部は、ブレーキ制御による減速度合を衝突部位および突抜部位に基づいて決定してもよい。
第1の発明によれば、衝突軽減装置は、衝突部位および衝突角度から突抜部位を推定し、衝突部位および突抜部位に基づいてブレーキ制御の内容を決定する。すなわち、第1の発明によれば、衝突部位に加えて突抜部位をも考慮してブレーキ制御の内容を決定するので、自車両の傷害度をより精度良く判別してブレーキ制御の内容を決定ことができる。これによって、ブレーキ制御の内容をより適切に決定することができる。
第2の発明によれば、衝突軽減装置は、衝突部位と衝突角度から突抜部位を正確に算出することができる。
第3の発明によれば、ブレーキ制御の内容は、衝突部位から突抜部位までの距離(突抜距離)を用いて決定される。さらに、第4の発明によれば、上記ブレーキ制御の内容として、ブレーキタイミングが、突抜距離が長いほど早くなるように決定される。ここで、突抜距離は、自車両と他車両とが衝突した場合における傷害度を評価する上で重要な指標であり、具体的には突抜距離が長いほど傷害度が大きくなると考えられる。したがって、第3および第4の発明によれば、突抜距離に基づいてブレーキ制御の内容(ブレーキタイミング)を決定することによって、傷害度を精度良く判別してブレーキ制御の内容を決定することができる。
第5の発明によれば、ブレーキ制御の内容は、衝突部位と突抜部位との組み合わせを用いて決定される。ここで、当該組み合わせは、自車両と他車両とが衝突した場合における傷害度を評価する上で重要な指標であり、衝突部位と突抜部位がどこに位置するかによって傷害度は変化すると考えられる。したがって、第5の発明によれば、上記組み合わせに基づいてブレーキ制御の内容を決定することによって、傷害度を精度良く判別してブレーキ制御の内容を決定することができる。
また、第6の発明によれば、衝突部位および突抜部位が自車両のキャビンの位置である場合には、衝突部位および突抜部位の少なくとも一方が自車両のキャビンよりも前の位置である場合よりもブレーキタイミングを早くするように決定するので、傷害度を精度良く判別してブレーキタイミングを決定することができる。
第7の発明によれば、衝突部位および突抜部位の少なくとも一方がキャビンよりも後側である場合には、自車両と他車両との衝突までにはブレーキ制御が行われない。ここで、上記の場合にブレーキ制御を行うと、衝突部位および突抜部位が自車両のキャビンの位置に変化してしまう結果、かえって傷害度が大きくなってしまうおそれがある。つまり、第7の発明によれば、ブレーキ制御を行うことにより傷害度が増大してしまうことを防止することができる。さらに、第8の発明によれば、上記の場合に衝突後にブレーキ制御を行うことによって、衝突後の2次被害を防止することができる。
また、第9の発明によれば、衝突部位と突抜部位との組み合わせに加えて上記突抜距離を考慮してブレーキタイミングを決定するので、傷害度をより精度良く判別してブレーキタイミングを決定することができる。
第10の発明によれば、衝突部位および突抜部位に基づいて傷害度を実際に算出し、算出された傷害度に基づいてブレーキタイミングを決定することによって、傷害度を考慮したブレーキタイミングを容易に決定することができる。
第11の発明によれば、衝突部位および突抜部位に基づいてブレーキタイミングが変化するので、適切なタイミングでブレーキ制御を開始することができる。
第12の発明によれば、衝突時間に関する閾値を衝突部位および突抜部位に基づいて決定する。これによれば、衝突時間を用いてブレーキ制御を行うか否かを判別する場合においても、衝突部位および突抜部位を考慮してブレーキタイミングを決定することができる。
第13の発明によれば、衝突部位および突抜部位に基づいてブレーキ制御を行うか否かが変化するので、ブレーキ制御の要否を適切に判断することができる。
第14の発明によれば、衝突部位および突抜部位に基づいてブレーキ制御による減速度合が変化するので、適切な減速度合でブレーキ制御を行うことができる。
以下、本発明の一実施形態に係る衝突軽減装置について説明する。図1は、本実施形態に係る衝突軽減装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、衝突軽減装置は、レーダ1、レーダECU(Electronic Control Unit)2、操舵角センサ3、ヨーレートセンサ4、車輪速センサ5、制御ECU6、およびブレーキECU7を備えている。図1に示す衝突軽減装置は、車両に搭載され、自車両が障害物(他車両)と衝突するか否かを推定し、衝突すると推定された場合にブレーキ制御を行うことによって衝突を軽減または回避するものである。
(衝突軽減装置の各部の構成)
以下、衝突軽減装置を構成する各部について説明する。レーダ1は、典型的にはミリ波レーダであり、自車両周囲に存在する障害物を検出する。すなわち、レーダ1は電磁波(ミリ波)を送信(放射)し、障害物に反射した反射波を受信する。レーダ1は、受信結果を示す信号(レーダ信号)をレーダECU2に出力する。なお、レーダ1は、自車両の側方から接近してくる他車両を検知することができるように、自車両の前端または後端の斜め方向や、自車両の側面に取り付けられることが好ましい。本実施形態においては、レーダ1は、自車両の前端の中央、左端および右端と、後端の中央、左端および右端という6箇所に取り付けられる。なお、他の実施形態においては、レーダ1の取り付け個数はいくつでもよく、取り付け位置はどのような位置であってもよい。
レーダECU2は、CPUおよびメモリ等からなる情報処理装置であり、上記レーダ信号に基づいて他車両を検出する。具体的には、レーダECU2は、レーダ信号に基づいて自車両の周囲における他車両の有無を判定し、自車両の周囲に他車両が存在する場合、他車両の位置および速度を算出する。なお、他車両の位置は、電磁波の送信から受信までの時間に基づいて算出される、自車両から他車両までの距離と、受信した電磁波の角度に基づいて算出される、他車両の方向とから算出することができる。他車両の速度は、送信波と受信波との周波数変化から算出することができる。レーダECU2によって算出された他車両情報(他車両の位置および速度)は、制御ECU6に出力される。レーダECU2は、レーダ信号の受信、ならびに、他車両情報の算出および出力の動作を、所定時間間隔で繰り返し実行する。
操舵角センサ3、ヨーレートセンサ4、および、車輪速センサ5は、自車両と他車両とが衝突するか否かを判定するために用いられる、自車両に関する情報を検出するためのセンサである。操舵角センサ3は、ステアリングホイールの操舵角を検出する。検出された操舵角の情報は制御ECU6に出力される。ヨーレートセンサ4は、自車両に作用するヨーレートを検出する。検出されたヨーレートの情報は制御ECU6へ出力される。車輪速センサ5は、各車輪の車輪速を検出する。検出された車輪速の情報(具体的には車輪パルスの信号)は、制御ECU6に出力される。
制御ECU6は、CPUおよびメモリ等からなる情報処理装置であり、入力される各種情報(他車両情報、操舵角、ヨーレート、および車輪速の情報)に基づいて車両のブレーキの制御を行う。具体的には、制御ECU6は、自車両が他車両と衝突するか否かを上記各種情報を用いて予測し、衝突すると予測された場合にブレーキ制御を行う。また、制御ECU6は、衝突すると予測された場合に、衝突による(自車両の)傷害の度合(傷害度と呼ぶ)を上記各種情報に基づいて判別し、ブレーキ制御を行うタイミング(ブレーキタイミングと呼ぶ)を傷害度に応じて変化させる。傷害度を判別する処理およびブレーキタイミングを決定する処理の詳細については後述する。
なお、制御ECU6は、ブレーキ制御の他、衝突すると予測された場合に、自車両に設けられるエアバッグの作動を制御したり、運転者に対して警告を行ったり、ステアリングの制御を行ったりする処理を行ってもよい。
ブレーキECU7は、CPUおよびメモリ等からなる情報処理装置であり、制御ECU6からの制御信号に従って各車輪のブレーキ力を制御する。例えば、ブレーキECU7は、目標となるブレーキ力を示す制御信号を制御ECU6から入力した場合、当該目標となるブレーキ力となるように各車輪のホイールシリンダの油圧を調節する制御を行う。
(衝突軽減装置の動作概要)
次に、図2を参照して、図1に示す衝突軽減装置の動作の概要について説明する。本実施形態において、衝突軽減装置は、上記傷害度を判別するために、自車両の衝突部位および突抜部位を上記各種情報に基づいて算出する。衝突部位は、他車両が衝突すると予想される自車両の位置である(図2に示す点P参照)。また、突抜部位とは、衝突した他車両が自車両を突き抜けたとした場合における突き抜け位置である(図2に示す点Q参照)。
図2は、傷害度が異なる3つの衝突状態の例と、各衝突状態の場合におけるブレーキタイミングとの関係を示す図である。図2において、状態(a)は、衝突部位および突抜部位が自車両11のキャビンよりも前側の位置にある状態であり、状態(b)は、衝突部位および突抜部位が自車両11のキャビンの位置にある状態であり、状態(c)は、衝突部位および突抜部位が自車両11のキャビンよりも後側にある状態である。
状態(b)では、衝突部位および突抜部位がともに自車両11のキャビンの位置にあることから、他車両12が自車両11のキャビンに直撃するような衝突となるので、傷害度は大きいと判別することができる。これに対して、状態(a)では、衝突部位および突抜部位がともに自車両11のキャビンよりも前側の位置にあることから、他車両12は自車両11のキャビンに直接衝突するわけではない。したがって、状態(a)における傷害度は状態(b)に比べると比較的小さいと判別することができる。一方、状態(c)では、衝突部位および突抜部位がともに自車両11のキャビンよりも後側の位置にあることから、他車両12は自車両11のキャビンに直接衝突するわけではない。したがって、状態(a)と同様、状態(c)における傷害度は状態(b)に比べると比較的小さいと判別することができる。また、状態(c)では、衝突部位から突抜部位までの距離(突抜距離と呼ぶ)が状態(a)に比べて短いので、状態(c)における傷害度は状態(a)に比べると比較的小さいと判別することができる。以上より、各状態(a)−(c)における傷害度は、状態(b)における傷害度が最も大きく、状態(a)における傷害度が中程度であり、状態(c)における傷害度が最も小さいと判別することができる。このように、衝突部位および突抜部位を用いて、他車両との衝突した場合における自車両の傷害度を判別することができる。
本実施形態において、衝突軽減装置は、上記ブレーキタイミングを傷害度に応じて変化させる。すなわち、図2に示されるように、傷害度が比較的大きいと判断される状態(b)においては、ブレーキタイミングを比較的早めに設定し、傷害度が比較的小さいと判断される状態(c)においては、ブレーキタイミングを比較的遅めに設定し、傷害度が中程度であると判断される状態(a)においては、ブレーキタイミングを中程度に設定する。このように、本衝突軽減装置は、傷害度を考慮することによって、より的確なブレーキ制御を行うことを可能とするものである。
なお、本実施形態においては、衝突軽減装置は、図2に示す状態(c)において、ブレーキタイミングを衝突後の時点に設定する。衝突前にブレーキ制御を行わない理由は、状態(c)において衝突前にブレーキ制御を行うと、例えば自車両11のキャビンに他車両12が衝突してしまう場合のように、傷害度がより大きくなってしまう可能性があるからである。また、衝突後にブレーキ制御を行うとする理由は、他車両12と衝突した自車両11がさらに他の車両に衝突する2次被害を防止するためである。なお、他の実施形態においては、状態(c)の場合には単に(衝突後においても)ブレーキ制御を行わないようにしてもよい。
(衝突軽減装置の動作詳細)
次に、図3〜図8を参照して、図1に示す衝突軽減装置の動作の詳細について説明する。図3は、図1に示す衝突軽減装置の処理の流れを示すフローチャートである。図3に示すフローチャートにおける処理は、例えばイグニッションスイッチがオンである場合や、自車両が走行している場合に実行される。
図3においては、まずステップS1において、制御ECU6は、ブレーキタイミング決定処理を実行する。ブレーキタイミング決定処理は、自車両と他車両との衝突を回避するためにブレーキ制御を開始するタイミング(ブレーキタイミング)を決定する処理である。ここで、本実施形態においては、制御ECU6は、自車両が他車両と衝突する(可能性が高い)か否かを判定するために、衝突時間(TTC(Time To Collision))を用いる。衝突時間とは、現在から、自車両が他車両に衝突するまでの時間を表すパラメータである。制御ECU6は、衝突時間を算出し(後述するステップS2)、衝突時間が閾値を超えたか否かによって、自車両が他車両と衝突するか否かを判定する(後述するステップS3)。そして、自車両が他車両と衝突すると判定された場合に、ブレーキ制御が実行される(後述するステップS4)。したがって、閾値が大きい場合には、比較的早いタイミングで、自車両と他車両とが衝突すると判定され、比較的早いタイミングでブレーキ制御が開始されることになる。一方、閾値が小さい場合には、比較的遅いタイミングで、自車両と他車両とが衝突すると判定され、比較的遅いタイミングでブレーキ制御が開始されることになる。このように、上記衝突時間を用いて衝突を判断する場合には、上記閾値を変更することによってブレーキタイミングを変更することが可能である。本実施形態においては、制御ECU6は、ブレーキタイミング決定処理において上記閾値を決定することによって、ブレーキタイミングを決定する。以下、ブレーキタイミング決定処理の詳細を説明する。
図4は、図3に示すブレーキタイミング決定処理(ステップS1)の詳細な処理の流れを示すフローチャートである。図4においては、まずステップS11において、制御ECU6は、上述した他車両情報をレーダECU2から取得する。続くステップS12において、制御ECU6は、操舵角の情報を操舵角センサ3から取得する。続くステップS13において、制御ECU6は、ヨーレートの情報をヨーレートセンサ4から取得する。
ステップS13の次のステップS14において、制御ECU6は、自車両のカーブ半径を算出する。カーブ半径は、自車両がカーブしている場合における自車両の軌道の半径であり、ステップS12およびS13で取得される操舵角およびヨーレートに基づいて算出される。ステップS14の次にステップS15の処理が実行される。
ステップS15において、制御ECU6は、車輪速の情報を車輪速センサ5から取得する。続くステップS16において、制御ECU6は、ステップS15で取得した車輪速に基づいて自車両の速度を算出する。
ステップS16の次のステップS17において、制御ECU6は、他車両がこれから通ると予測される軌道を算出する。他車両の予測軌道は、ステップS11で取得された他車両情報に基づいて算出される。続くステップS18において、制御ECU6は、自車両がこれから通ると予測される軌道を算出する。自車両の予測軌道は、ステップS14で算出されたカーブ半径に基づいて算出される。以上のステップS17およびS18で推定された自車両および他車両の軌道に基づいて、自車両に対して他車両が衝突する角度(衝突角度)を算出することができる。すなわち、ステップS19において、制御ECU6は、自車両および他車両の軌道に基づいて衝突角度を推定する。本実施形態においては、ステップS19を実行する制御ECU6が、請求項に記載の衝突角度推定部に相当する。ステップS19の次にステップS20の処理が実行される。
なお、自車両および他車両の軌道を用いて、または、自車両および他車両の軌道と自車速および他車速とを用いて、自車両と他車両とが衝突する(衝突する可能性がある)か否かを判定することが可能である。したがって、他の実施形態においては、制御ECU6は、ステップS19の前に、自車両と他車両とが衝突するか否かを判定し、衝突すると判定される場合にのみ、ステップS19〜S23の処理を実行するようにしてもよい。また、衝突すると判定される場合にのみ、後述するステップS2〜S4の処理を実行するようにしてもよい。
ステップS20において、制御ECU6は、衝突部位を推定する。衝突部位は、上記自車両および他車両の軌道と、ステップS16で算出される自車速と、ステップS11で取得される他車両情報(具体的には、他車速の情報)とに基づいて推定することができる。本実施形態においては、ステップS20を実行する制御ECU6が、請求項に記載の衝突部位推定部に相当する。ステップS20の次にステップS21の処理が実行される。
ステップS21において、制御ECU6は、突抜部位を推定する。突抜部位は、ステップS19で得られた衝突角度と、ステップS20で得られた衝突部位と、上述した自車速および他車速とに基づいて推定することができる。本実施形態においては、ステップS21を実行する制御ECU6が、請求項に記載の突抜部位推定部に相当する。以下、図5および図6を参照して、突抜部位の算出方法の一例を説明する。
図5および図6は、突抜部位の算出方法を説明するための図である。本実施形態では、自車両11の各部の位置(水平面上における位置)を表すために、図5および図6に示すxy座標系を用いる。xy座標系は、自車両11の車幅方向(左右方向)をx軸とし、自車両11の直進方向(前後方向)をy軸とする。ここでは、自車両11の右方向がx軸正方向であり、自車両11の前方向がy軸正方向である。また、xy座標系の原点は、自車両11の前端の中心の位置である。なお、自車両11の大きさは既知であるので、自車両11の左端のx座標値DLおよび自車両11の右端のx座標値DR、ならびに、自車両11の後端のy座標値Lは既知の値である。
本実施形態において、突抜部位Qは、衝突部位Pから衝突角度εによって決められる方向に延ばした直線が自車両を突き抜ける位置として算出される。以下、図5(a)に示すように、衝突部位Pが左側面である場合を例として、突抜部位の算出方法を説明する。図5(a)は、自車両11における衝突部位および突抜部位を示す図である。図5(b)は、自車速および他車速を表すベクトルを示す図である。なお、図5(b)において、上記衝突角度εは、自車速を表すベクトルV0と、他車速を表すベクトルV1とによって決まり、具体的には、−V0とV1とのなす角度である。
図5において、衝突部位Pと突抜部位Qとを結ぶ線分を斜辺とし、残りの2辺がx軸およびy軸とそれぞれ平行となる直角三角形を考える。この直角三角形と、図5(b)に示す直角三角形ABCとは相似になるので、衝突部位P=(CPx,CPy)とすると、突抜部位Q=(CQx,CQy)は次の式(1)で表すことができる。
(CQx−CPx):(CQy−CPy)=V1sinε:V0+V1cosε…(1)
さらに、突抜部位のx座標値CQxは既知(=DR)であるので、未知数CQyは、上式(1)を変形した次式(2)より算出することができる。
CQy=CPy−{(CQx−CPx)・(V0+V1cosε)/V1sinε} …(2)
なお、上式(2)において、左辺の変数CPy,CQx,CPx,V0,V1,およびεは既知であるので、上式(2)によって突抜部位のy座標値CQyを算出することができる。
なお、図6に示すように、自車両11の前面に衝突部位P1が位置し、自車両の側面に突抜部位Q1が位置する場合には、図5に比べて衝突部位の座標が変わるだけであるので、上式(2)を用いて突抜部位を算出することができる。
また、図6に示すように、自車両の側面に衝突部位P2が位置し、自車両の後面に突抜部位Q2が位置する場合には、上式(2)で算出した座標値は、突抜部位Q2ではなく位置Q2’の位置を示すことになる。したがって、この場合(具体的には、上式(2)で算出したCQyが自車両11の後端のy座標値Lよりも小さい場合)には、次の方法で衝突部位Q2を算出すればよい。すなわち、突抜部位Q2のy座標値は既知(=L)であることから、衝突部位P2のy座標値から突抜部位Q2のy座標値を引いた差分と、突抜部位Q2のy座標値から上式(2)で算出された位置Q2’のy座標値を引いた差分との比がわかる。この比が、衝突部位P2のx座標値から突抜部位Q2のx座標値を引いた差分と、突抜部位Q2のx座標値から位置Q2’のx座標値を引いた差分との比と等しくなることを用いて、突抜部位Q2のx座標値を算出すればよい。なお、図6では、自車両の側面に衝突部位が位置し、自車両の後面に突抜部位が位置する場合を説明したが、自車両の前面に衝突部位が位置し、自車両の後面に突抜部位が位置する場合も(図6に示す衝突部位P2および突抜部位Q2の場合に比べて衝突部位の座標が変わるだけであるので)上記と同様に突抜部位を算出することができる。
なお、以上においては、自車両11の左側に衝突部位が位置し、自車両11の右側に突抜部位が位置する場合を説明したが、自車両11の右側に衝突部位が位置し、自車両11の左側に突抜部位が位置する場合も上記と同様に衝突部位を算出することができる。
図4の説明に戻り、ステップS21で突抜部位が算出された後、ステップS22の処理が実行される。ステップS22においては、衝突部位および突抜部位に基づいて傷害度が算出される。本実施形態においては、ステップS22を実行する制御ECU6が、請求項に記載の傷害度算出部に相当する。ここで、本実施形態においては、傷害度は、衝突部位および突抜部位の組み合わせと、衝突部位から突抜部位までの突抜距離とに基づいて算出される。以下、図7を参照して、傷害度の算出方法の一例について説明する。
図7は、衝突部位および突抜部位の組み合わせと、傷害度との対応関係を示す図である。本実施形態では、図7に示されるように、自車両11を3つの領域A1〜A3に分割する。前部領域A1は自車両11のキャビンよりも前側の領域である。キャビン領域A2は自車両11のキャビン内の領域である。後部領域A3は自車両11のキャビンよりも後側の領域である。制御ECU6は、衝突部位および突抜部位の組み合わせ、すなわち、衝突部位および突抜部位が各領域A1〜A3のうちでそれぞれどの領域に含まれるかによって、傷害度を判別する。本実施形態では、制御ECU6は、衝突部位および突抜部位の両方がキャビン領域A2内である場合(図7に示す衝突部位P5および突抜部位Q5の組み合わせ)、傷害度のレベルを「大」と判別する。また、衝突部位および突抜部位の少なくとも一方が前部領域A1内である場合(図7に示す衝突部位P4および突抜部位Q4の組み合わせ)、傷害度のレベルを「中」と判別する。そして、衝突部位および突抜部位の少なくとも一方が後部領域A3内である場合、傷害度のレベルを「中」または「小」と判別する。ここで、傷害度のレベルは、突抜距離が長いほど高くなるように決定される。具体的には、突抜距離が当該所定距離以上である場合(図7に示す衝突部位P6および突抜部位Q6の組み合わせ)、傷害度のレベルは「中」と判別され、上記突抜距離が予め定められた所定距離よりも短い場合(図7に示す衝突部位P7および突抜部位Q7の組み合わせ)、傷害度のレベルは「小」と判別される。以上のようにして、衝突部位および突抜部位の組み合わせと、衝突部位から突抜部位までの突抜距離とを用いることによって、傷害度を判別することができる。
なお、本実施形態においては、衝突部位および突抜部位の組み合わせと、衝突部位から突抜部位までの突抜距離とを用いて傷害度を算出したが、他の実施形態においては、当該組み合わせと突抜距離とのいずれか一方のみを用いて傷害度を算出してもよい。例えば、上記組み合わせのみを用いて、衝突部位および突抜部位がキャビン領域A2に位置している場合に傷害度を「大」とし、衝突部位および突抜部位の少なくとも一方が前部領域A1に位置している場合に傷害度を「中」とし、それ以外の場合に傷害度を「小」として決定してもよい。また、例えば、突抜距離を用いて、突抜距離が長いほど傷害度が大きくなるようにしてもよい。また、本実施形態においては、傷害度を「大」、「中」、「小」という3段階のレベルで表したが、他の実施形態においては、傷害度を数値で表してもよい。
図4の説明に戻り、ステップS22で傷害度が算出された後、ステップS23の処理が実行される。ステップS23において、制御ECU6は、傷害度に基づいてブレーキタイミングを決定する。本実施形態においては、ステップS23を実行する制御ECU6が、請求項に記載の制御部に相当する。具体的には、制御ECU6は、傷害度に基づいて上記衝突時間に関する閾値を算出する。本実施形態においては、制御ECU6は、傷害度と閾値とを関連付けた情報(テーブル等)を予め記憶しておき、当該情報を参照して、傷害度から閾値を決定する。図8は、傷害度と閾値との対応関係を示す図である。図8においては、傷害度「大」に対して“0.9”の閾値が関連付けられ、傷害度「中」に対して“0.6”の閾値が関連付けられ、傷害度「小」に対して“−0.1”の閾値が関連付けられている。制御ECU6は、図8に示す対応関係に基づいて閾値を決定する。以上のステップS23の終了後、制御ECU6は図4に示すブレーキタイミング決定処理を終了する。
図3の説明に戻り、ステップS1のブレーキタイミング決定処理の次にステップS2の処理が実行される。ステップS2において、制御ECU6は、衝突時間を算出する。本実施形態においては、ステップS2を実行する制御ECU6が、請求項に記載の衝突時間算出部に相当する。衝突時間は、例えば、自車両と他車両との距離、および、自車両と他車両との相対速度から算出される。なお、自車両と他車両との距離は、他車両情報に含まれる他車両の位置から算出することができる。また、相対速度は、上述した自車速および他車速から算出することができる。ステップS2の次にステップS3の処理が実行される。
ステップS3において、制御ECU6は、ブレーキ制御を開始するか否かを判定する。ステップS3の判定は、ステップS1で決定された閾値と、ステップS2で算出された衝突時間とを用いて行われる。すなわち、衝突時間が閾値以下となる場合、ブレーキ制御を開始すると判定され、衝突時間が閾値よりも大きい場合、ブレーキ制御を開始しないと判定される。また、閾値が負の値に決定されている場合には、衝突が検知されてから閾値の絶対値の時間が経過した後、ブレーキ制御を開始すると判定される。ステップS3の判定結果が肯定である場合、ステップS4の処理が実行される。一方、ステップS3の判定結果が否定である場合、ステップS1の処理が再度実行される。なお、ステップS1〜S3の処理ループは、所定時間に1回の割合で繰り返し実行される。
ステップS4において、制御ECU6は、ブレーキ制御を開始する。本実施形態においては、ステップS4を実行する制御ECU6が、請求項に記載の制御実行部に相当する。具体的には、制御ECU6は、ブレーキECU7に対してブレーキ制御を行う旨の指示を行う。なお、この指示は、目標となるブレーキ力を指示するものであってもよいし、単にブレーキをかける旨を指示するものであってもよい。具体的には、傷害度が「大」である場合、可能であれば衝突を回避するように、少なくとも傷害度がより小さくなるように、ブレーキ制御が行われる。換言すれば、衝突部位と突抜部位とを結ぶ直線が、可能であれば自車両にかからないように、少なくとも自車両のキャビン領域A2にかからないようにブレーキ制御が行われる。また、傷害度が「中」である場合には、他車両との衝突を回避するように、すなわち、衝突部位と突抜部位とを結ぶ直線が自車両にかからないようにブレーキ制御が行われる。また、本実施形態においては、傷害度が「小」である場合には、上記閾値が負の値(−0.1)に決定されることから、衝突前にはブレーキ制御が行われず、衝突後にブレーキ制御が行われる。これは、傷害度が「小」である場合(衝突部位および突抜部位が後部領域A3である場合)にブレーキ制御を行うと、突抜距離がより長くなってしまったり、衝突部位および突抜部位がキャビン領域や前部領域A1にかかってしまったりする結果、かえって傷害度が大きくなってしまうおそれがあるからである。また、衝突後にブレーキ制御を行う理由は、他車両と衝突した自車両がさらに他の車両に衝突する2次被害を防止するためである。
以上のように、ステップS4の処理によってブレーキ制御が開始されるので、自車両が他車両と衝突する(可能性がある)と判断される場合であっても、衝突を軽減または回避することができる。また、衝突による2次被害を防止することもできる。なお、ステップS4でブレーキ制御が開始された後、ステップS1の処理が再度実行される。このとき、ステップS4でブレーキ制御が開始された後で実行されるステップS3の判定処理において判定結果が否定となる場合には、制御ECU6はブレーキ制御を中止するようにしてもよい。また、他の実施形態においては、ステップS4において、ブレーキ制御だけでなく、ステアリングの制御が行われてもよいし、エアバックの作動や運転者に対する警告を行うようにしてもよい。
以上のように、本実施形態によれば、衝突軽減装置は、衝突部位だけでなく、突抜部位をも考慮して傷害度を算出することによって、傷害度をより精度良く算出することができる。さらに、この傷害度を用いてブレーキタイミングを決定するので、ブレーキタイミングをより適切なタイミングに決定することができる。
また、制御ECU6は、衝突部位および突抜部位を推定し、推定結果に基づいて傷害度を算出する。そして、傷害度に応じてブレーキタイミングを決定する。例えば、衝突部位および突抜部位が自車両のキャビン領域A2となる場合には、制御ECU6は、傷害度を「大」と推定し、閾値を“0.9”に設定する。その結果、衝突時間が0.9[秒]以下となった時点でブレーキ制御が開始される。また、衝突部位および突抜部位が自車両の前部領域A1となる場合には、制御ECU6は、傷害度を「中」と推定し、閾値を“0.6”に設定する。その結果、衝突時間が0.6[秒]以下となった時点でブレーキ制御が開始される。このように、本実施形態によれば、傷害度が大きい場合ほど早くなるようにブレーキタイミングを決定することができるので、傷害度に応じてブレーキタイミングを適切に決定することができる。さらに本実施形態では、衝突部位および突抜部位が自車両の後部領域A3となり、かつ、突抜距離が所定距離よりも短い場合には、制御ECU6は、傷害度を「小」と推定し、閾値を“−0.1”に設定する。その結果、衝突してから0.1秒後となった時点でブレーキ制御が開始される。これによって、ブレーキ制御によって傷害度がかえって大きくなることを防止するとともに、衝突による2次被害を防止することができる。
なお、上記実施形態では、衝突部位および突抜部位から傷害度を算出し、傷害度からブレーキタイミング(上記閾値)を決定するようにしたが、他の実施形態においては、衝突部位および突抜部位からブレーキタイミングを直接決定するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、衝突部位および突抜部位の組み合わせと、突抜距離とに基づいて傷害度を算出したが、傷害度は、衝突部位および突抜部位から算出されるものであれば上記実施形態に限るものではない。例えば、他の実施形態においては、自車両に対して他車両が衝突した場合に当該他車両が自車両と交差する面積を衝突部位および突抜部位から推定し、当該面積に応じて傷害度を決定するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、衝突部位および突抜部位(傷害度)からブレーキタイミングを決定するようにしたが、本発明においては、ブレーキ制御に関する制御内容を衝突部位および突抜部位に基づいて決定するようにすればよい。例えば、他の実施形態においては、制御ECU6は、ブレーキ制御を行うか否かを前記衝突部位および前記突抜部位に基づいて決定するようにしてもよい。具体的には、例えば上記実施形態における傷害度のレベルが「小」の場合には、ブレーキ制御を行わず、傷害度レベルが「大」または「中」の場合には、ブレーキ制御を行うようにしてもよい。また、例えば、制御ECU6は、ブレーキ制御による減速度合(ブレーキの強弱)を衝突部位および突抜部位に基づいて決定するようにしてもよい。具体的には、例えば上記実施形態における傷害度のレベルが「大」、「中」、および「小」の場合で、ブレーキの強さを変更するようにしてもよい。これによって、車両の減速度合を衝突部位および突抜部位に応じて変化させることができる。