本発明による内燃機関の高圧燃料ポンプ制御装置の一つの実施形態を、図を参照して説明する。
図1は、本発明による高圧燃料ポンプ制御装置が適用される筒内噴射エンジン507の全体構成を示している。
筒内噴射エンジン507は、多気筒エンジン、例えば、4気筒エンジンであり、ピストン507a,シリンダブロック507b等によって気筒数の燃焼室507cを形成している。
各燃焼室507cには、空気が、エアクリーナ502の入口部より、空気流量計(エアフロセンサ)503,吸気流量を制御する電制スロットル弁505aが収容されたスロットルボディ505,コレクタ506を通り、各燃焼室507cに接続されている吸気管501によって分配供給される。
エアフロセンサ503は吸気流量を表す信号をエンジン制御装置(コントロールユニット)515に出力する。
スロットルボディ505には電制スロットル弁505aの開度を検出するスロットルセンサ504が取り付けられている。スロットルセンサ504はスロットル開度を表す信号をコントロールユニット515に出力する。
ガソリン等の燃料は、燃料タンク50から供給されて電動式の燃料ポンプ(低圧燃料ポンプ)51によって一次加圧され、燃圧レギュレータ52により一定の圧力(例えば、3kg/cm2)に調圧され、更に、高圧燃料ポンプ1によって高い圧力(例えば、50kg/cm2)に2次加圧される。高圧燃料ポンプ1は、カム駆動式のものであり、排気弁526のカム軸526aに設けられたポンプ駆動カム100により駆動される。
2次加圧された高圧燃料は、コモンレール53に供給され、各燃焼室507c毎に設けられている燃料噴射弁54から燃焼室507c内に直接噴射される。コモンレール53は、所要の内容積を備えており、高圧燃料の蓄圧室をなす。
燃焼室507cに噴射された燃料は、吸入空気とで混合気を形成し、点火コイル522で高電圧化された点火信号により点火プラグ508によって着火される。
エンジン507のクランク軸507dにはクランク角センサ(以下、ポジションセンサと呼ぶ)516が取り付けられている。ポジションセンサ516は、クランク軸507dの回転位置を表す信号(クランク角センサ信号CRANK=ポジションセンサ信号)をコントロールユニット515に出力する。コントロールユニット515はポジションセンサ516の出力信号により、エンジン回転数を算出する。
排気弁526のカム軸526aにはカム角センサ(以下、フェーズセンサと呼ぶ)511が取り付けられている。フェーズセンサ511は、カム軸526aの回転位置を表す角度信号(カム角センサ信号CAM=フェーズセンサ信号)をコントロールユニット515に出力する。
排気弁526のカム軸526aには高圧燃料ポンプ1のポンプ駆動カム100が設けられているから、フェーズセンサ511が出力するカム軸526aの回転位置を表す角度信号は、高圧燃料ポンプ1のポンプ駆動カム100の回転位置を表す角度信号としても取り扱われる。
シリンダブロック507bには水温センサ517が取り付けられている。水温センサ517は、エンジン507の冷却水温度を表す水温信号をコントロールユニット515に出力する。
高圧燃料ポンプ1を備えたエンジン燃料系の全体構成と、高圧燃料ポンプ1の詳細を、図2,図3を参照して説明する。
高圧燃料ポンプ1は、低圧燃料ポンプ51によって一次加圧された燃料を更に加圧して高圧燃料をコモンレール53に圧送するものである。高圧燃料ポンプ1は、燃料吸入通路10,燃料吐出通路11,加圧室12,プランジャ2を有する。加圧室12は、加圧部材であるプランジャ2の往復動により容積を変化する。燃料吐出通路11には下流側の高圧燃料を加圧室12に逆流させないために逆止弁構造の吐出弁6が設けられている。燃料吸入通路10には、燃料の吸入を制御するポンプ吸入弁として、電磁弁8が設けられている。
電磁弁8は、弁体5と、弁体5を閉弁方向に付勢する閉弁ばね92と、ソレノイド200と、アンカ91を構成部品として有し、ソレノイド200に電流が流れると、電磁力によりアンカ91を図中右側に引き寄せ、アンカ91と一体に形成された弁体5を閉弁ばね92のばね力に抗して図中右側に移動させて開弁させる。ソレノイド200に電流が流れないと、弁体5が閉弁ばね92のばね力によって図中左側に移動し、閉弁する。このように、電磁弁8は、ソレノイド200に駆動電流を流さない状態で閉弁する構造の弁であるため、ノーマルクローズ型の電磁弁と称する。
弁体5は、ポンプ吸入圧を開弁方向に及ぼされ、ポンプ吸入行程時には、ソレノイド200に対する通電の有無に拘らず、閉弁ばね92のばね力に抗して開弁する。
プランジャ2は、エンジン507の排気弁526のカム軸526aの回転に伴って回転するポンプ駆動カム100に圧接されたリフタ3によって往復駆動され、加圧室12の容積を変化させている。プランジャ2が下降して加圧室12の容積が拡大し、電磁弁8が開弁すると、燃料吸入通路10から加圧室12に燃料が流入する。プランジャ2が下降する行程を吸入行程と云う。プランジャ2が上昇し、電磁弁8が閉弁すると、加圧室12内の燃料は、昇圧され、吐出弁6を通過してコモンレール53へ圧送される。プランジャ2が上昇する行程を圧縮行程と云う。
コモンレール53には、エンジン507の気筒数にあわせた個数の燃料噴射弁(以下、インジェクタと呼ぶ)54と、圧力調整弁(以下リリーフ弁と呼ぶ)55と、燃圧センサ(圧力検出手段)56が取り付けられている。リリーフ弁55は、コモンレール53内の燃料の圧力が所定値を超えた場合に開弁し、燃料を低圧側に戻すことにより圧力を調整する圧力調整弁であり、配管系破損を防止する。インジェクタ54は、エンジン507の気筒数にあわせて装着されており、コントロールユニット515から与えられる駆動電流に応じて燃料を噴射する。燃圧センサ56は、コモンレール53内の燃料圧力を計測し、取得した圧力データをコントロールユニット515に出力する。
コントロールユニット515は、図4に示されているように、MPU603,EP−ROM602,RAM604及びA/D変換器を含むI/OLSI601等で構成されたマイクロコンピュータ式のものであり、ソフトウェア処理により、高圧燃料ポンプ制御装置を具現化する。
コントロールユニット515は、エアフロセンサ503,スロットルセンサ504,ポジションセンサ516,フェーズセンサ511,水温センサ517,燃圧センサ56,アクセルペダル99の踏み込み量を検出するアクセルセンサ520,イグニションスイッチ519等の各種のセンサ,スイッチ類からの信号を入力として取り込み、これら各種センサ,スイッチ類から得られるエンジン状態量(例えば、クランク回転角,スロットル開度,エンジン回転数,燃料圧力等)に基づいて所定の演算処理を実行し、この演算結果として算定された各種の制御信号を、高圧燃料ポンプ1のソレノイド200,燃料噴射弁54,点火コイル522に出力し、高圧燃料ポンプ1の燃料吐出量制御,燃料噴射弁54の燃料噴射量制御及び点火時期制御を実行する。
つぎに、高圧燃料ポンプ1の動作を、図5に示されている動作タイミングチャートを参照して説明する。なお、ポンプ駆動カム100で駆動するプランジャ2の実際のストローク(実位置)は、図6に示すような曲線になるが、上死点と下死点の位置を分かり易くするために、以下、プランジャ2のストロークを直線的に表すこととする。
圧縮行程中に、高圧燃料ポンプ1の電磁弁8が閉じれば(区間A)、吸入行程中に加圧室12に吸入された燃料は加圧され、コモンレール53側へ吐出される。これに対し、圧縮行程中に電磁弁8が開弁していれば(区間B)、その間、燃料は燃料吸入通路10側へ押し戻され、加圧室12内の燃料はコモンレール53側へは吐出されない。このように、高圧燃料ポンプ1の燃料吐出は電磁弁8の開閉によって操作される。電磁弁8の開閉はコントロールユニット515によって制御される。
吸入行程中は、加圧室12の圧力が吸入通路10の圧力よりも低くなり、その圧力差によって弁体5が開弁し、燃料が加圧室12に吸入される。このとき、閉弁ばね92は弁体5を閉弁方向に付勢するが、圧力差による開弁力の方が大きくなるように設定されているため、弁体5は開弁する。ここで、ソレノイド200に駆動電流が流れていれば、磁気吸引力が開弁方向へ作用し、弁体5は更に開弁しやすくなる。
一方、圧縮行程中は、加圧室12の圧力のほうが燃料吸入通路10の圧力よりも高くなるため、弁体5を開弁させる差圧は発生しない。この状態下で、ソレノイド200に駆動電流が流れていなければ、弁体5は、閉弁ばね92のばね力などにより、弁体5は閉弁する。これに対し、ソレノイド200に駆動電流が流れ、十分な磁気吸引力が発生していれば、磁気吸引力により弁体5は開弁方向に付勢される。
よって、吸入行程中の時点T1にて電磁弁8のソレノイド200に駆動電流を与え始め、圧縮行程中も与え続けると、弁体5は開弁保持される。その間、加圧室12内の燃料は燃料吸入通路10に逆流するため、燃料はコモンレール53へ圧送されない。そして、圧縮行程中のあるタイミング、例えば、時点T2にてソレノイド200に駆動電流を与えるのを止めると、これにより閉弁応答時間Tdが経過した時点T3にて弁体5が閉弁し、これに以降の圧縮行程中、加圧室12内の燃料が加圧され、加圧された燃料が燃料吐出通路11側へ吐出される。
したがって、駆動電流を与えるのを止めるタイミングが早いと、加圧される燃料の容量が大きく、駆動電流を与えるのを止めるタイミングが遅いと、加圧される燃料の容量が小さくなる。よって、コントロールユニット515は、駆動電流制御によって弁体5が閉じるタイミング(通電OFFタイミング)を制御することにより、高圧燃料ポンプ1の吐出流量を制御することができる。
さらに、燃圧センサ56の信号に基づき、コントロールユニット515によって適切な通電OFFタイミングを演算し、ソレノイド200をコントロールすることにより、コモンレール53の圧力を目標値にフィードバック補償制御させることができる。
なお、ここでは、コントロールユニット515がソレノイド制御信号としてソレノイド200に対して出力する電気的信号のうち、ソレノイド200に駆動電流が流れる信号が電気的駆動信号ONであり、ソレノイド200に駆動電流が流れない信号が電気的駆動信号OFFである。
図7は、本発明による高圧燃料ポンプ制御装置を含むコントロールユニット515のMPU603が実施する高圧燃料ポンプ1の制御ブロックの一つの実施形態を示している。
本実施形態の高圧燃料ポンプ制御装置は、燃圧センサ56からの信号をフィルタ処理して実燃圧を出力する燃圧入力処理手段701と、エンジン回転数とエンジン負荷からその動作点に最適な目標燃圧を算出する目標燃圧算出手段702と、高圧燃料ポンプ1の吐出流量を制御するための位相パラメータ(通電開始角度STANG,通電終了角度OFFANG)を演算するポンプ制御角度算出手段703と、ポンプ駆動信号(電磁弁駆動信号=ソレノイド制御信号)のパラメータ(初期通電時間,Duty比)を演算するポンプ制御DUTY算出手段704と、筒内噴射エンジン507の状態を判定してポンプ制御モードを遷移させるポンプ状態遷移判定手段705と、上述の各算出手段703,704,判定手段705より入力するパラメータ等から生成される電流をソレノイド200に与えるソレノイド駆動手段706から構成される。
ポンプ制御角度算出手段703は、図8に示されているように、通電開始角度STANGを算出する通電開始角度算出手段801と、通電終了角度OFFANGを算出する通電終了角度算出手段802を有する。高圧燃料ポンプ1は、通電終了角度OFFANGを変化させることにより吐出量を制御される。
通電開始角度算出手段801は、図9に示されているように、エンジン回転数と電磁弁8の電源であるバッテリ550のバッテリ電圧(電源電圧)を入力としたマップ901から基本通電開始角度STANGMAPを演算し、ポンプ駆動カム軸(排気弁526のカム軸526a)の可変バルブタイミング機構による位相差EXCAMADV分を補正することにより通電開始角度STANGを演算する。
可変バルブタイミング機構による位相差の補正は、動作角0位置に対して進角側に動作する場合は、減算をし、遅角側に動作する可変バルブタイミング機構であれば、加算する。本実施形態では、遅角側に動作する可変バルブタイミング機構を前提とする。以下、ポンプ制御位相パラメータにおいて、可変バルブタイミング機構による位相差補正が必要な部分は同様の考え方である。
通電開始角度算出手段801による基本通電開始角度STANGMAPの設定について、図10に示されているタイムチャートを参照して説明する。基本通電開始角度STANGMAPは、可変バルブタイミング機構による位相差が0のときには、通電開始角度STANGと等しい。高圧燃料ポンプ1の電磁弁8はノーマルクローズ式であるため、ポンププランジャ(プランジャ2)下死点までに電磁弁8を開弁することが可能となる力が働いていなければ、電磁弁8は閉弁し、高圧燃料ポンプ1は全吐出となる。
このため、通電開始角度STANGを正確に制御しなければ、意図しない昇圧状態が発生する。また、画一的にポンププランジャ(プランジャ2)上死点からソレノイド200に対して通電を開始した場合には、必要以上の電磁吸引力発生時間を与える可能性があり、ソレノイド200の消費電力増大,発熱量増加に繋がる。
電磁弁8が開弁することが可能となる力は、エンジン回転数に比例して大きくなり、閉弁方向に働くポンプ内流体力に打ち勝つ力である。ソレノイド200に発生する力は電流に比例するので、電磁弁8が開弁するためには、ポンププランジャ下死点までにソレノイド200に一定値以上の電流が流れている必要がある。ソレノイド200の電流が一定値(電磁弁開弁可能力発生電流値)まで到達する時間は、ソレノイド200の電源であるバッテリ550のバッテリ電圧(電源電圧)に依存し、前記一定値(電磁弁開弁可能力発生電流値)はエンジン回転数に依存するので、エンジン回転数とバッテリ電圧を入力としたマップ901から過不足のない基本通電開始角度STANGMAPを演算する。
加えて、ポンプ駆動カム100には組付け時の位相ばらつきがある。このため、高圧燃料ポンプ1が最進角側のばらつきを持つ場合でも、ポンププランジャ下死点(次期吐出行程開始)までにソレノイド200に一定値以上の電流が流れるように設定することにより、カム組付けがばらつきを持つ場合でも、意図しない昇圧状態を回避する。ばらつきを考慮する設定方法としては、基本通電開始角度STANGMAPにばらつき分込みで設定する方法と、基本通電開始角度STANGMAPを中央値に設定し、別に演算したカムばらつき補正値を基本通電開始角度STANGMAPの演算値に対して加減算する方法がある。
このように、エンジン回転数,バッテリ電圧,ポンプ駆動カム軸の可変バルブタイミング機構による位相差,ポンプ駆動カム100の組付ばらつきを考慮して通電開始角度STANGが最適設定されることにより、ポンププランジャ(プランジャ2)上死点からソレノイド200に対して通電を画一的に開始するのでなくて、高圧燃料ポンプ1の吸入行程の途中、つまり、ポンププランジャ上死点後、次期吐出行程開始前に、ソレノイド200に通電が行われて電磁弁8が開弁状態を維持するから、ソレノイド200の消費電力,発熱量を最小限に抑えて、意図しない昇圧状態が発生することが回避される。
なお、通電開始角度STANGは、電磁弁8,バッテリ550の仕様等によるが、ポンプカム上死点後から次期下死点前40deg(エンジンクランク軸角換算)の間の角度に設定されることが好ましい。
通電終了角度算出手段802は、図11に示されているように、基本角度マップ1101と、燃圧F/B(フィードバック)制御演算部1102と、閉弁遅れマップ1103と、強制OFFタイミングマップ1104と、出力終了角度算出部105を有する。
通電終了角度算出手段802は、インジェクタ54による噴射量(要求燃料噴射量)とエンジン回転数を入力とした基本角度マップ1101より通電終了の基本角度BASANGを演算する。基本角度BASANGは、定常運転状態における要求吐出量を吐出に対応する閉弁角度を設定する。
基本角度BASANGの設定について、図12に示されているグラフを参照して説明する。図12は、電磁弁8の閉弁タイミングに対する高圧燃料ポンプ1の吐出量を表したグラフである。
高圧燃料ポンプ1は、電磁弁8の閉弁タイミングがポンププランジャ上死点に近づくほど吐出量を減少する。高圧燃料ポンプ1の吐出量は、エンジン回転数に応じて吐出効率が異なるため、エンジン回転数によって変化する。よって、基本角度BASANGはエンジン回転数により変化する。
このことに対して、インジェクタ54による噴射量とエンジン回転数を入力とした基本角度マップ1101より基本角度BASANGを求めることにより、制御応答性を高めることが可能となる。インジェクタ54による噴射量は、吸入空気量と目標空燃比から求めることにより、アクセル開度から求めるよりも、精度よく求めることが可能である。
燃圧F/B制御演算部1102は、目標燃圧と燃圧センサ56により計測された実燃圧との偏差より演算されたPI制御によるF/B分(FBGAIN)を基本角度BASANGに加算し、基準角度REFANGを演算する。基準角度REFANGは、可変バルブタイミング動作がないと仮定した場合のカム基準角度(基準REF)からの電磁弁8を閉弁したい角度を示している。
出力終了角度算出部105は、基準角度REFANGに、基準角度REFANGとエンジン回転数を入力とした閉弁遅れマップ1103より演算した閉弁遅れPUMDLYと、可変バルブタイミング動作角を加減算することにより、通電終了角度OFFANGを算出する。ここで、閉弁遅れPUMDLYの設定に、基準角度REFANGとエンジン回転数を用いるのは、閉弁タイミングと回転数によって高圧燃料ポンプ1内に発生する流体力が異なるためである。
出力終了角度算出部105により算出される通電終了角度OFFANGは、出力強制終了角度CPOFFANGを上限値に持つ。出力強制終了角度CPOFFANGは、電気的駆動信号のON状態出力の終了タイミングを高圧燃料ポンプ1の圧縮行程中の所定位相に制限するものであり、エンジン回転数とバッテリ電圧を入力とした強制OFFタイミングマップ1104より求めた値に、可変バルブタイミング動作角を加算した値に設定される。
出力強制終了角度CPOFFANGの設定について、図13に示されているタイムチャートを参照して説明する。出力強制終了角度CPOFFANGの目的は、通電を止めた場合においても無吐出になる角度領域は通電を止め、消費電力の低減・ソレノイド200の発熱防止を図る目的である。
図13に示されているように、ポンププランジャ上死点以前に駆動信号を停止(OFF)しても、閉弁遅れがあるため、ポンププランジャ上死点付近まで開弁し続け、高圧燃料ポンプ1は無吐出運転となる。出力強制終了角度CPOFFANGは、ポンプ無吐出運転を要求される燃料カット時にも使用され、この角度でソレノイド200への通電を終了する。このことにより、燃料カット時に、ソレノイド200へポンプ圧縮行程の全行程期間に亘って全通電制御することよって無吐出運転状態を作ることよりも、消費電力が低減し、ソレノイド200の発熱防止も図られる。
なお、通電終了角度OFFANGは、電磁弁8,バッテリ550の仕様等によるが、ポンプカム下死点後50deg(エンジンクランク軸角換算)から次期上死点前の間の角度に設定されることが好ましい。
つぎに、ポンプ状態遷移判定手段705の一実施形態を、図14に示されている状態遷移図を参照して説明する。本実施形態では、制御ブロックは、A制御ブロック1402,B制御ブロック1403,フィードバック制御(以下F/B制御と記す)ブロック1404,燃料カット中制御(以下F/C中制御と記す)ブロック1405,全吐出制御ブロック1406から構成される。
A制御ブロック1402によるA制御は、デフォルト制御であり、もし始動時においてエンジンが回転中である場合、高圧燃料ポンプ1は無通電制御による全吐出を実施する。
B制御ブロック1403によるB制御は、コモンレール53内の燃圧が高い場合において基準REFの認識前の過剰昇圧防止を目的として、等間隔通電制御により、吐出阻止する。
F/B制御ブロック1404によるF/B制御は、コモンレール53内の燃圧が目標燃圧となるようにフィードバック補償制御することを目的としている。
F/C中ブロック1405によるF/C中制御は、燃料カット時におけるコモンレール53内の燃圧の昇圧防止を目的として、圧送を停止する。
全吐出制御ブロック1406による全吐出制御は、F/B制御中に全吐出要求が発生した場合、即通電を停止し、無通電による全吐出状態とし、昇圧応答性向上・ソレノイド200による消費電力の低減を目的としている。
つぎに、本実施形態におけるポンプ状態遷移について説明する。まず、イグニッションスイッチ519がOFFからONになり、コントロールユニット515のMPU603がリセット状態になると、デフォルト設定で、A制御ブロック1402により無通電制御状態になり、ポンプ状態変数:PUMPMD=0とし、ソレノイド200に対する通電は行われない。
次に、イグニッションスイッチ519によってスタータ(図示省略)がONになり、エンジン507がクランキング状態となってクランク角信号CRANKを検出し、コモンレール53内の燃圧が高い場合には、条件1(各条件内容詳細は後述)が成立してB制御ブロック1403による等間隔通電制御(五月雨制御)状態に遷移し、ポンプ状態変数:PUMPMD=1とする。
ここで、B制御ブロック1403は、クランク角センサ信号CRANKのパルスは検出しているものの、基準REFであるプランジャ2のストロークの認識は行われておらず、未だクランク角センサ信号CRANKとカム角センサ信号CAMとのプランジャ位相が確定されていない状態である。すなわち、高圧燃料ポンプ1のプランジャ2が下死点位置に来るタイミングを認識できない状態である。
そして、クランキング状態が初期から中期に入り、クランク角センサ信号CRANKとカム角センサ信号CAMとのプランジャ位相が確定し、位相制御の基準点となる信号(以下、基準REFと呼ぶ)を生成可能な運転状態になると、条件3が成立してF/B制御ブロック1404に遷移する。
F/B制御ブロック1404では、ポンプ状態変数:PUMPMD=2とすると共に、燃圧入力処理手段701で算出された実燃圧が、目標燃圧算出手段702で算出された目標燃圧となるように、フィードバック補償によるソレノイド制御信号を出力する。
図15に基準REFの生成方法の一例を示す。クランク角センサ信号CRANKには歯欠け部分が存在する。エンジン始動時から初回歯欠け認識時のクランク角センサ信号CRANKを基準REFとし、以後、一定角度毎にクランク角センサ値から基準REFを生成する。歯欠け認識はクランク角センサ信号の入力間隔より判定する。
なお、プランジャ位相が確定せず、基準REFを生成できない場合等には、条件2が成立し、A制御ブロック1402によるA制御に遷移する。また、スタータスイッチ520がONになり、エンジン507がクランキング状態となって、コモンレール53内の燃圧が低い場合には、クランク角センサ信号CRANKとカム角センサ信号CAMとのプランジャ位相が確定し、基準REFが生成できるまでA制御を実施することにより、コモンレール53内の燃圧の昇圧を促進し、条件4が成立後、F/B制御ブロック1404によるF/B制御に遷移する。
以降、エンジンストールが発生しない限り、F/B制御ブロック1404によるF/B制御が継続する。しかし、F/B制御中において、車両の減速等による燃料カットが生ずる場合には、インジェクタ54による燃料噴射は行われず、コモンレール53からの燃料量の減少がないので、条件5が成立してF/C中制御ブロック1405によるF/C中制御に遷移し、ポンプ状態変数:PUMPMD=3とし、高圧燃料ポンプ1からコモンレール53への燃料圧送が止まる。なお、F/C中制御下で、燃料カットの終了により条件6が成立すると、F/B制御ブロック1404によるF/B制御に遷移し、F/B制御ブロック1404による通常のフィードバック制御に戻る。
F/B制御中に昇圧を必要とし全吐出要求が発生した場合には、条件8が成立して全吐出制御ブロック1406による全吐出制御に遷移し、ポンプ状態変数:PUMPMD=4とし、ソレノイド200への通電を実施しない。全吐出制御下で、全吐出要求の終了により条件9が成立すると、F/B制御ブロック1404によるF/B制御に遷移し、F/B制御ブロック1404による通常のフィードバック制御に戻る。
なお、F/B制御、またはF/C中制御中に、エンスト(エンジンストール)が生じると、条件7が成立し、A制御ブロック1402によるA制御に遷移する。
高圧ポンプ電源(リレー)をOFFにする際の制御フローを、図16を参照して説明する。高圧ポンプ電源がOFFの場合、コントロールユニット515からポンプ駆動信号を出力しても、ソレノイド200には電流が流れない。
ノーマルクローズ式ポンプ(高圧燃料ポンプ1)の電源をイグニションスイッチ519と連動させた場合、エンジン回転中にイグニションスイッチ519がOFFされると、エンジン回転が停止するまで全吐出をし、意図しない昇圧が発生する。このことを回避するため、高圧燃料ポンプ1の電源をイグニションスイッチ519とは別系統とし、エンジン停止認識後(ステップ3202)に、高圧燃料ポンプ1の電源をOFFする(ステップ3203)。
F/B制御中におけるソレノイド200への通電制御について、図17に示されているタイムチャートを参照して説明する。
通電開始角度STANGから通電終了角度OFFANGまでオープン電流制御デューティを出力する。オープン電流制御デューティは、初期通電時間TPUMONと初期通電後のデューティ比PUMDTYにより構成される。つまり、最初に初期通電時間TPUMONに亘って連続した通電信号(ON信号)を出力し、その後にデューティ信号を出力する。初期通電時間TPUMONおよび初期通電後のデューティ比PUMDTYは、ポンプ制御DUTY算出手段704(図7参照)によって演算する。
ポンプ制御DUTY算出手段704の詳細を、図18を参照して説明する。
ポンプ制御DUTY算出手段704は、初期通電時間TPUMONを、エンジン回転数とバッテリ電圧を入力とする初期通電時間マップ3001を用いて設定する。初期通電時間TPUMONは、電磁弁開弁可能電流値に到達させる目的があり、エンジン回転数に応じて高圧燃料ポンプ1内に発生する流体力が異なることから、エンジン回転数とバッテリ電圧による初期通電時間マップ3001から演算する。
バッテリ電圧一定時におけるエンジン回転数に対する初期通電時間TPUMONは、図19に示されているように、高回転時ほど、ポンプ圧縮行程時の閉弁方向の流体力が大きく、これに応じて電磁弁開弁可能電流値が大きいことに対応して、高回転時ほど初期通電時間TPUMONが長く設定される。
なお、初期通電時間TPUMONを別設定可能とし、ポンプ駆動カム100の組付ばらつき等を考慮することによって、後半のデューティ制御ON時間と比較してON時間を長時間とすることにより、ポンプ圧縮行程時における確実な開弁を実現することができる。
また、エンジン回転数またはバッテリ電圧の最悪条件を考慮することにより、初期通電時間TPUMONを設定するマップを、エンジン回転数またはバッテリ電圧を入力とするテーブルにすることも可能である。
ポンプ制御DUTY算出手段704は、デューティ比PUMDTYを、エンジン回転数とバッテリ電圧をDuty比マップ3002を用いて設定する。電磁弁駆動信号の後半部分をデューティ比PUMDTYによるデューティ比信号にする目的は、ソレノイド200の発熱量を低減することに加えて、ソレノイド200に流れる電流値の上限値を抑えることにより、通電OFF時の電流減衰を早める目的がある。電流減衰を早めることにより、閉弁応答時間を短縮することが可能となり、吐出精度を高めると共に、高回転までの運転が可能となる。
デューティ比PUMDTYは、エンジン回転数に応じて高圧燃料ポンプ1内に発生する流体力が異なることから、バッテリ電圧とエンジン回転数によるDuty比マップ3002から演算する。高回転時の方が、ポンプ圧縮行程時の閉弁方向の流体力が大きいことから、デューティ比信号のON時間割合を大きくし、電流値を高く保つことにより、意図しない閉弁を防止する。
コントロールユニット515による燃圧制御に対するソレノイド制御信号の通電開始角度STANG及び通電終了角度OFFANGの演算およびその演算に用いられる各パラメータについて、図20を参照して説明する。
CRANK信号とCAM信号に基づいて生成される基準REFと、プランジャ2のストロークからソレノイド制御信号の通電開始角度STANG及び通電終了角度OFFANGが設定される。
通電開始角度STANGは、図9を用いて説明したように、エンジン回転数とバッテリ電圧を入力としたマップ値にポンプ駆動カム軸の可変バルブタイミング機構による位相差を補正することにより演算する。
通電終了角度OFFANGは、式(1)により求めることができる。
OFFANG=REFANG+EXCAMADV−PUMDLY …(1)
但し、REFANG:基準角度,EXCAMADV:カム作動角,PUMDLY:ポンプ遅れ角度である。カム作動角EXCAMADVは可変バルブタイミングの動作角に相当する。
基準角度REFANGは、式(2)より求めることができる。
REFANG=BASANG+FBGAIN …(2)
但し、BASANG:基本角度,FBGAIN:フィードバック分である。
基本角度BASANGは、エンジン507の運転状態に基づいて基本角度マップ1101(図11参照)によって演算される。
つぎに、状態遷移判定手段705におけるエンジン507の状態遷移判定(図14における条件1〜9)処理について、図21〜図29のフローチャートを参照して説明する。
なお、各状態遷移判定処理は、割込みルーチンとして、所定時間毎、例えば10ms周期で実行される。
(A制御→B制御)
図21は、図14における条件1によるA制御からB制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ1702では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込む、A制御中であるか否かを判定する。A制御中である場合にはステップ1703に進み、B制御許可条件の成立有無を判定する。
B制御許可の考え方は、基準REFが認識されてなく位相制御ができない運転状態で、かつ目標燃圧よりもコモンレール53内の圧力が高いので昇圧したくない場面である。クランク角条件は、始動時のクランキング状態になったことを判定するための条件である。
A制御中でない場合、あるいはB制御許可条件が成立していない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。これに対し、B制御許可条件が成立している場合には、ステップ1704に進み、B制御を許可して本ルーチンを終了する。
(B制御→A制御)
図22は、図14における条件2によるB制御からA制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ1802では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことによりB制御中であるか否かを判定する。B制御中である場合には、ステップ1803に進み、A制御許可条件の成立有無を判定する。
B制御中におけるA制御許可の考え方は、B制御実施中であるが、基準REFを一定時間経過しても生成できないので中止する、または昇圧要求が発生したので終了する場面である。
B制御中でない場合、あるいはA制御許可条件が成立していない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。これに対し、A制御許可条件が成立している場合には、ステップ1804に進み、A制御を許可して本ルーチンを終了する。
(B制御→F/B制御)
図23は、図14における条件3によるB制御からF/B制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ1902では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことによりB制御中であるか否かを判定する。B制御中である場合には、ステップ1903に進み、基準REFの生成の有無を判定する。
基準REFが生成している場合、F/B制御が可能となることから、ステップ1904に進み、F/B制御を許可して本ルーチンを終了する。なお、B制御中でない場合、あるいは基準REFが生成されていない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。
(A制御→F/B制御)
図24は、図14における条件4によるA制御からF/B制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ2002では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことによりA制御中であるか否かを判定する。A制御中である場合には、ステップ2003に進み、F/B制御許可条件の成立有無を判定する。
A制御中におけるF/B制御許可の考え方は、基準REFが生成されており、かつ目標燃圧とコモンレール53内の燃圧が収束しつつある場面である。基準REFが生成されている場合においても、目標燃圧と比較してコモンレール53内の燃圧が大幅に低い場合にはA制御を継続した方が昇圧を促進することが可能となるため、F/B制御を許可しない。
A制御中でない場合、あるいはF/B制御許可条件が成立していない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。これに対し、F/B制御許可条件が成立している場合には、ステップ2004に進み、F/B制御を許可して本ルーチンを終了する。
図30は、A制御→B制御→F/B制御へ遷移する際のタイムチャートであり、図31は、A制御からF/B制御へ遷移する際のタイムチャートである。図30のタイムチャートと図31のタイムチャートは、コモンレール53内の燃圧が目標燃圧以上の場合は、クランキング直後から通電を開始し、コモンレール53内の燃圧が目標燃圧より低い場合は、目標燃圧に近づいてから通電を開始することを示している。このことにより、始動時において最適な燃圧挙動を実現することが可能となり、始動時排出ガス性能が向上する。
(F/B制御→F/C中制御)
図25は、図14における条件5によるF/B制御からF/C中制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ2102では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことにより、F/B制御中であるか否かを判定する。F/B制御中である場合には、ステップ2103に進み、F/C中制御許可条件の成立有無を判定する。
F/C中制御許可条件は全気筒F/C中であることであり、F/C中制御許可条件の成立している場合には、ステップ2104に進み、F/C中制御を許可して本ルーチンを終了する。なお、F/B制御中ない場合、あるいはF/C中制御許可条件が成立していない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。
(F/C中制御→F/B制御)
図26は、図14における条件6によるF/C中制御からF/B制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ2202では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことにより、F/C中制御中であるか否かを判定する。F/C中制御中である場合には、ステップ2203に進み、F/B制御許可条件の成立有無を判定する。
ここでのF/B制御許可条件は全気筒が燃料カット中でないことであり、全気筒燃料カットが終了していてF/B制御許可条件成立している場合には、ステップ2204に進み、F/B制御を許可して本ルーチンを終了する。なお、F/C中制御中でない場合、あるいはF/B制御許可条件が成立していない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。
(F/C中制御,F/B制御→A制御)
図27は、図14における条件7によるF/C中制御またはF/B制御からA制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ2302では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことにより、F/B制御中であるか否かを判定、あるいはF/C中制御中であるか否かを判定する。F/B制御中あるいはF/C中制御中である場合には、ステップ2303に進み、A制御許可条件の成立有無を判定する。
ここでのA制御許可条件は、エンスト状態であるかであり、A制御許可条件の成立している場合には、ポンプ制御を終了するため、ステップ2304に進み、A制御を許可して本ルーチンを終了する。なお、F/B制御中,F/C中制御中のいずれでもない場合、あるいはA制御許可条件の成立していない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。
(F/B制御→全吐出制御)
図28は、図14における条件8によるF/B制御から全吐出制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ2402では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことにより、F/B制御中であるか否かを判定する。F/B制御中である場合には、ステップ2403に進み、全吐出要求中であるかを全吐出要求フラグ#FPUMALLを読み込むことにより判定する。
全吐出要求中である場合には、ステップ2404に進み、全吐出制御を許可して本ルーチンを終了する。なお、F/B制御中でない場合、あるいは全吐出要求中でない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。
つぎに、全吐出要求フラグ#FPUMALLの設定について、図32に示されているフローチャートを用いて説明する。全吐出要求フラグ#FPUMALLの考え方は、高圧燃料ポンプ1の全吐出に近い吐出量がコントロールユニット515から要求された場合、フラグを立てることである。
図32に示されている全吐出要求フラグ設定ルーチンも、割込み処理であり、例えば、10ms周期で呼び出される。まず、ステップ3402では、REFANG=MNREF#となるか判定する。ここで、REFANGは、可変バルブタイミング動作がないと仮定した場合の、基準REFからの電磁弁8を閉弁したい角度を示しており、MNREF#は可変バルブタイミング動作がない場合の基準REFからプランジャ下死点までの角度を示している(図20参照)。
よって、REFANGとMNREF#が等しい場合は、プランジャ下死点で電磁弁8を閉弁要求していることになるので、全吐出要求を示している。
REFANG=MNREF#となる場合には、ステップ3403に進み、全吐出要求フラグ#FPUMALL=1とし、本ルーチンを終了する。これに対し、REFANG=MNREF#でない場合には、ステップ3404に進み、全吐出要求フラグ#FPUMALL=0として本ルーチンを終了する。
図33は、F/B制御から全吐出制御に遷移した場合のタイムチャートである。基準REFから通電開始角度STANG後に通電を開始している場合、全吐出要求フラグ#FPUMALL=1となった時点で、通電を強制的に終了する。通電を強制的に終了することにより、高圧燃料ポンプ1は吐出を開始し、エンジンコントロールユニット515の吐出増量要求を即座に実行するので、昇圧応答性が向上する。
また、基準REFから通電開始角度STANG以前に全吐出要求フラグ#FPUMALL=1となっている場合には、通電を開始しない。このことにより、確実な全吐出を可能とすると共に、ソレノイド200における消費電力・発熱量を低減することができる。
(全吐出制御→F/B制御)
図29は、図14における条件9による全吐出制御からF/B制御への遷移判定処理のフローチャートである。まず、ステップ2502では、ポンプ状態変数:PUMPMDを読み込むことにより、全吐出制御中であるか否かを判定する。全吐出制御中である場合には、ステップ2503に進み、全吐出要求有無を判定する。
全吐出要求がなく、全吐出要求が終了している場合には、ステップ2504に進み、F/B制御を許可して本ルーチンを終了する。なお、全吐出制御中でない場合、あるいは全吐出要求が終了していない場合には、直ちに本ルーチンを終了する。
上述した各制御状態におけるソレノイド200に対する通電信号の例を、図34に示す。
(1)A制御または全吐出制御中は、ソレノイド200に通電を実施しない。
(2)B制御中は、B制御許可時から初回基準REFまでオープン電流制御デューティを出力する。
(3)F/B制御中は、通電開始角度STANGから通電終了角度OFFANGまでオープン電流制御デューティを出力する。
(4)F/C中制御中は、通電開始角度STANGから強制通電終了角度CPOFFANGまでオープン電流制御デューティを出力する。
以上のように、本実施形態は、上記の構成によって次の機能を奏するものである。
シリンダ507bに備えられたインジェクタ54と、インジェクタ54に燃料を圧送するノーマルクローズ式吸入弁を備えた高圧燃料ポンプ1と、コモンレール53と、燃圧センサ56とを有する筒内噴射エンジン507の高圧燃料ポンプ制御装置において、高圧燃料ポンプ1に備えられたソレノイド200の発熱量を低減し、かつ制御可能範囲が広い駆動信号を提供している。
加えて、ソレノイド200の発熱量を低減し、かつ制御応答性の高いタイミングでON・OFFタイミングすることを可能とすることにより、燃料システムの安定化,燃焼の安定化及び排出ガス性能の改善を図ることができる。
本実施形態の効果の一例を、図35を参照して述べる。図35は本実施形態の場合と従来技術においてポンプ吐出量を0にした場合のタイムチャートである。
従来技術では、ポンプ吐出量を0にする場合には、ポンプ電磁弁に全通電を実施する。
これに対し、本実施形態では、オープン電流制御を適切なタイミングのみ実施しているので、ポンプ吐出量0を実現しながら、電流消費量を低減し、ソレノイド200の発熱を抑制している。
また、開弁可能力発生電流値の近傍で電流値を制御しているので、通電OFF時の閉弁遅れ時間を短縮することが可能となり、高回転時まで安定して吐出量を制御することができる。前記より燃料システムを安定化し、燃焼の安定化及び排出ガス性能の改善を図ることができる。
本実施形態による高圧燃料ポンプ制御装置の効果は、以下のように要約できる。
(1)エンジン回転数,バッテリ電圧,ポンプ駆動カム100の組付ばらつき、可変バルブタイミング動作角等を考慮して通電開始角度STANGが最適設定されることにより、ポンププランジャ上死点からソレノイド200に対して通電を画一的に開始するのでなくて、高圧燃料ポンプ1の吸入行程の途中、つまり、ポンププランジャ上死点後、次期吐出行程開始前に、電気的駆動信号のON状態出力が開始され、ソレノイド200に通電が行われて電磁弁8が開弁状態を維持するから、ソレノイド200の消費電力,発熱量を最小限に抑えて、意図しない昇圧状態が発生することが回避される。
(2)インジェクタ54による噴射量とエンジン回転数に応じて通電終了角度OFFANG、つまり、電気的駆動信号のON状態出力の終了位相が最適設定されることにより、制御応答性を高めることが可能となる。
(3)ポンプ無吐出運転を要求される燃料カット時には、エンジン回転数,バッテリ電圧,可変バルブタイミング動作角等に応じて設定された出力強制終了角度CPOFFANGでソレノイド200への通電を終了することにより、電気的駆動信号のON状態出力の終了タイミングがポンプの圧縮行程中の所定位相(制限位相)に設定され、燃料カット時に、ソレノイド200へポンプ圧縮行程の全行程期間に亘って全通電制御することよって無吐出運転状態を作ることよりも、消費電力が低減し、ソレノイド200の発熱防止も図られる。
(4)フィードバック補償制御時には、電気的駆動信号のON状態出力として、最初に電源電圧,エンジン回転数等に応じて所定時間(初期通電時間TPUMON)連続した通電信号を出力することにより、ソレノイド電流値を早期に確実に電磁弁開弁可能電流値に到達させることができ、その後にデューティ比PUMDTYによるデューティ信号を出力することにより、ソレノイド200の発熱量を低減することに加えて、ソレノイド200に流れる電流値の上限値を抑えることによって通電OFF時の電流減衰を早めることができ、閉弁応答時間を短縮することが可能となる。これにより、吐出精度を高めると共に、高回転までの運転が可能となる。
(5)クランク角度とポンプ駆動カム角度との位相が確定するまでは、無通電制御による全吐出制御を行うことにより、エンジン始動後にコモンレール53内の燃圧の昇圧が促進される。そして、コモンレール53内の燃圧が所定値より高い場合には、無通電制御による全吐出制御を停止することにより、基準REFの認識前のコモンレール53内の燃圧の過剰昇圧を防止できる。
(6)高圧燃料ポンプ1の電源をイグニションスイッチ519とは別系統とし、エンジン停止認識後に、高圧燃料ポンプ1の電源をOFFするから、エンジン回転中にイグニションスイッチ519がOFFされてエンジン回転が停止するまで全吐出が行われることにより意図しない昇圧を回避できる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱することなく設計において種々の変更ができるものである。