JP4865141B2 - マニュアルブレーキ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車体に固着するベースにブレーキレバーの基部を揺動可能に枢支し、該ブレーキレバーの先端部に力を加え、該基部が変位することでブレーキケーブルを引いて制動をかけるようにしたマニュアルブレーキ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば足踏み式のパーキングブレーキ等のマニュアルブレーキ装置としては、車体に固着するベースにブレーキレバーの基部を揺動可能に枢支し、その先端部を操作者の近傍に延ばし、この先端部に力を加え、このブレーキレバーの揺動に従いブレーキケーブルを引いて制動をかけるようにしたものが知られている。
【0003】
そして、この種のマニュアルブレーキ装置は、通常ブレーキレバーの基端に直接ブレーキケーブルを連結し、制動方向に揺動したブレーキレバーの戻りを阻止するロック機構により制動状態を保持する構成であり、制動解除のためのリリース機構を備えたものが一般的であった。
【0004】
すなわち、従来のマニュアルブレーキ装置としては、ブレーキレバーの基端に外歯ラチェットプレートを固設し、このラチェットプレートに係合する爪部材をベースに揺動自在に取付け、前記ラチェットプレートを係合方向に付勢するスプリング等を設けるとともに、前記ラチェットプレートを係合解除方向に押すリリースレバーと、このリリースレバーを作動させるためのリリースケーブル及び操作具等を配設してなるものがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来のマニュアルブレーキ装置では、リリースケーブルや操作具等のリリース機構を別体に設けなければならず、構造が複雑になるとともに車両において前記操作具等を配設するスペースも余分に必要になるという問題があった。また、制動解除操作時における爪部材の係合解除方向への揺動は、ラチェットプレートに係合した状態のままで行われることになるから、爪部材の爪が制動解除の度にラチェットプレートの歯と擦れ合うことになり、爪部材の磨耗が激しいので耐久性を確保するために厚くしたり高価な材質としなければならず、重くなったりコスト高になるという問題があった。さらに、制動解除時には、爪部材がラチェットプレートから外れた瞬間にブレーキレバーが全くフリーになり、リターンスプリング等の復元力によりブレーキレバーが急激に非制動保持位置に戻ることになり、振動や衝撃音が発生するので対策が必要になるという問題もあった。
【0006】
そこで、リリース機構を設けることなく制動解除ができ、制動解除時に部材の摩耗や衝撃音が生じ難いマニュアルブレーキ装置が提案されている。
【0007】
すなわち、爪部材に長溝を形成し、その長溝にベースの枢軸を相対移動可能に嵌合し、その枢軸により、爪部材が第1位置と第2位置とに案内移動可能になり、ブレーキレバーを踏み込むと、爪部材が第1位置にあってラチェットプレートの歯に次々に係合していき、ブレーキレバーへの力を緩めると、ラチェットプレートが踏込前の状態に戻ろうとして、爪部材を第1位置から第2位置に移動し、第1位置と第2位置との間の中間位置で爪部材の付勢方向が係合方向から非係合方向に切り替わるが、ラチェットプレートの爪部材に対する摩擦力が大きいことから、爪部材がラチェットプレートに係合した状態を維持し、ロック機構が制動状態になる。
【0008】
ロック機構の制動状態でブレーキレバーを再び足で踏むと、ラチェットプレートの爪部材に対する摩擦力が減少し、爪部材がラチェットプレートから外れて、ブレーキレバーが揺動し、ロック機構が制動解除状態になるものである。
【0009】
しかしながら、このようなリリース機構を持たないマニュアルブレーキ装置では、ベースの枢軸の軸径より爪部材の長溝が幅広に形成されているため、爪部材が第1位置から第2位置に移動する途中で、移動する方向とは直交する方向に変位し、特に、爪部材の付勢方向が係合方向から非係合方向に切り替わる中立位置の近傍で、爪部材がその直交する方向に変位すると、中立位置が一定せず、爪部材が不安定な動きをするようになる。
【0010】
爪部材や枢軸の部品精度や組付精度の許容誤差を大きくするに応じて、爪部材が不安定な動きをする傾向が大きくなり、爪部材が不安定な状態にあるとき、踏み込んでいたブレーキレバーへの力を緩めると、爪部材の付勢方向が非係合方向に切り替わらないで、付勢方向が係合方向のままで、爪部材がラチェットプレートに係合し、ロック機構が制動状態になる。この制動状態において、ブレーキレバーを再び踏み込んでも、爪部材がラチェットプレートに係合したままで、外れず、ロック機構を制動解除不能になる不具合が発生する。
【0011】
このような不具合が発生しないように、爪部材や枢軸の部品精度や組付精度の許容誤差を小さくするとともに、爪部材等の品質検査を厳しくすることで対処しているが、部品精度等の許容誤差を小さくしていくと、コストが高くなるという問題点があった。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、リリース機構を設けることなく制動解除ができ、コストを低減することのできるマニュアルブレーキ装置を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1]車体に固着するベース(10)にブレーキレバー(20)の基部(22)を揺動可能に枢支し、該ブレーキレバー(20)の先端部に力を加え、該基部(22)が変位することでブレーキケーブル(C)を引いて制動をかけるようにしたマニュアルブレーキ装置において、
前記ブレーキレバー(20)の基部(22)に固設され、周縁に歯部(26)が形成されたラチェットプレート(25)と、該ラチェットプレート(25)の歯部(26)に爪端(35)が係脱する爪部材(30)と、当該爪部材(30)を付勢する付勢部材(40)と、前記爪部材(30)の支持手段とでロック機構を構成し、
前記支持手段は、前記歯部(26)に係合する方向に付勢される第1位置と前記歯部(26)から離脱する方向に付勢される第2位置とに前記爪部材(30)を移動可能に支持し、
前記爪部材(30)および支持手段の一方は長溝(32)を有し、
前記爪部材(30)および支持手段の他方は前記長溝(32)に相対移動可能に嵌合する支持ピン(31)を有し、
前記付勢部材(40)は、前記第2位置では、前記爪部材(30)の爪端(35)が前記ラチェットプレート(25)の歯部(26)から離間する方向に前記爪部材(30)を付勢する一方、第1位置では前記爪部材(30)の爪端(35)が噛合する方向に前記爪部材(30)を付勢するよう配設されたものであり、
前記ラチェットプレート(25)の歯部(26)と前記爪部材(30)の爪端(35)とが噛み合った状態での前記付勢部材(40)が付勢力Fで前記爪部材(30)を付勢する方向の作用線と、前記歯部(26)と前記爪端(35)との接点(b)にかかる前記付勢部材(40)の付勢力の成分方向との成す角度をθ1とし、前記歯部(26)と爪端(35)との接点における共通接線に対して直交する方向と、前記付勢力の成分方向との成す角度をθ2とし、前記付勢部材(40)の力点から前記支持ピン(31)の中心までの距離をL1とし、前記支持ピン(31)の中心から前記歯部(26)と爪端(35)との接点までの距離をL2とし、前記歯部(26)と爪端(35)との接点における摩擦係数をμとしたときに、前記ラチェットプレート(25)と爪部材(30)と付勢部材(40)と支持ピン(31)とは、前記爪部材(30)が前記第1位置と前記第2位置との間の中立位置から前記第2位置に移動する間に、次の不等式が成立するものであり、
(L1/L2)Fsinθ1・cosθ2≦Fcosθ1・sinθ2+μFcosθ1・cosθ2
前記爪部材(30)は、前記第1位置から前記第2位置に移動する間であって、前記爪部材(30)の付勢される方向が切り換わる少なくとも前記中立位置で、前記爪部材(30)の移動する方向に対して略直交する方向への振れが前記支持手段により抑えられるものであることを特徴とするマニュアルブレーキ装置。
【0016】
[2]前記長溝(32)の側縁は、前記歯部(26)の形成される前記ブレーキレバー(20)の基部(22)の周縁に沿う円周方向に対して、前記歯部(26)の方へ徐々に近接または離間するように形成されていることを特徴とする[1]に記載のマニュアルブレーキ装置。
【0017】
[3]前記長溝(32)の側縁は、前記歯部(26)の形成される前記ブレーキレバー(20)の基部(22)の周縁に沿う円周の接線方向に対して、前記歯部(26)の方または前記歯部(26)の方とは反対の方向に所定角度(θ3)傾斜して形成されていることを特徴とする[1]に記載のマニュアルブレーキ装置。
【0018】
[4]前記長溝(32)の側縁は、前記少なくとも中立位置で前記支持ピン(31)が前記長溝(32)の側縁に当接するように、前記歯部(26)の形成される前記ブレーキレバー(20)の基部(22)の周縁に沿う円周の接線方向に対して、前記歯部(26)の方または前記歯部(26)の方とは反対の方向に所定角度(θ3)傾斜して形成されていることを特徴とする[1]に記載のマニュアルブレーキ装置。
【0019】
次に前記各項に記載された発明の作用を説明する。
ブレーキレバー(20)の先端部に力を加えるとベース(10)に対してブレーキレバー(20)の基部(22)が揺動し、基部(22)が変位することでブレーキケーブル(C)が引かれて制動がかけられる。すなわち、ブレーキレバー(20)の基部(22)が変位すると、基部(22)に固設されていて周縁に歯部(26)が形成されたラチェットプレート(25)も変位し、ラチェットプレート(25)の歯部(26)に弾撥的に押し付けられている爪部材(30)の爪端(35)が歯部(26)を乗り越えて移動する。
【0020】
爪部材(30)の爪端(35)が歯部(26)を乗り越えて移動するとき、爪部材(30)は第1位置にあって、爪部材(30)は歯部(26)に係合する方向に付勢されている。
【0021】
所望の位置でブレーキレバー(20)の先端部に力を加えるのをやめると、制動反力により引かれているブレーキケーブル(C)がブレーキレバー(20)の基部(22)を引いて揺動させようとするが、ブレーキレバー(20)の基部(22)はわずかに揺動するのみで、爪部材(30)の爪端(35)が歯部(26)に噛合してそれ以上揺動するのを抑え、ロック機構により制動状態が保たれる。
【0022】
前記制動反力によりブレーキレバー(20)の基部(22)がわずかに揺動すると、ブレーキレバー(20)側の歯部(26)が爪部材(30)を第1位置から第2位置に移動させる。爪部材(30)の第1位置から第2位置に移動する間である中立位置で、爪部材(30)の付勢される方向が切り換わり、当該中立位置から第2位置までの間において、爪部材(30)は歯部(26)から離脱する方向に付勢され、爪部材(30)の爪端(35)が歯部(26)から離脱しようとするが、爪部材(30)の爪端(35)は、ブレーキレバー(20)の歯部(26)から受ける摩擦抵抗力により、制動状態では歯部(26)から離脱不能となっている。
【0023】
制動状態からブレーキレバー(20)の先端部に一度力を加えると、爪部材(30)の爪端(35)がブレーキレバー(20)の歯部(26)から離れることにより、摩擦抵抗力が消失し、付勢力により、爪部材(30)の爪端(35)がラチェットプレート(25)の歯部(26)から外れてブレーキレバー(20)を戻せる制動解除可能となり、ブレーキレバー(20)から力を抜くと、制動反力によりブレーキレバー(20)が戻り制動解除することができる。
【0024】
ラチェットプレート(25)と爪部材(30)と付勢部材(40)と支持ピン(31)とは、前記不等式が成立するように構成されているので、爪部材(30)が中立位置から第2位置(制動保持位置)まで移動する間において、爪部材(30)が回動することがない。また、爪部材(30)が第1位置から第2位置に移動するとき、その移動する方向に対して略直交する方向へ爪部材(30)が多少振れると、爪部材(30)の付勢される方向が変化する場合がある。本発明では、爪部材(30)の移動する方向に対して直交する方向への爪部材(30)の振れを抑えるようにして、爪部材(30)の付勢される方向の切り換わる中立位置を一定にし、中立位置を通過すれば爪部材(30)の付勢方向が歯部(26)から離脱する方向に確実に切り換わるようにしている。それにより、制動解除操作時に、爪部材(30)の爪端(35)がブレーキレバー(20)の歯部(26)から離れると、方向の切り換えられた付勢力により爪部材(30)の爪端(35)がブレーキレバー(20)の歯部(26)から確実に外れて、適正に制動解除できる。
【0025】
爪部材(30)が第1位置から第2位置に移動するときに、少なくとも中立位置で爪部材(30)の振れを抑えるには、中立位置において爪部材(30)の振れを例えば支持手段で抑えるようにすればよい。それにより、中立位置において爪部材(30)は移動する方向に対して略直交する方向へ振れず、爪部材(30)の付勢される方向が中立位置で確実に切り換わることになる。
【0026】
支持手段としては、例えば、長溝(32)に支持ピン(31)を嵌合させた構成である。すなわち、爪部材(30)または支持手段の一方に長溝(32)を設け、爪部材(30)または支持手段の他方に支持ピン(31)を設けるようにしている。このような構成においては、少なくとも中立位置において、支持ピン(31)と長溝(32)との相対的な振れを相互に拘束し合うようになる。
【0027】
中立位置に限らず第1位置から第2位置までの間、爪部材(30)の振れを抑えるには、支持ピン(31)を長溝(32)の側縁に例えば当接させながら移動させればよく、それには、支持ピン(31)が長溝(32)の側縁から離れないで、長溝(32)の側縁に当接していくように、支持ピン(31)の当接する方の長溝(32)の側縁が、歯部(26)の形成されるブレーキレバー(20)の基部(22)の周縁に沿う円周方向に対して、歯部(26)の方へ徐々に近接または離間するように形成すればよい。
【0028】
例えば、爪部材(30)に長溝(32)を設ける一方、支持手段に支持ピン(31)を設けたものでは、支持ピン(31)の当接する方の長溝(32)の側縁(歯部(26)に近い方の側縁)は、前記円周方向に対して歯部(26)から徐々に離間するように形成される。
【0029】
一方、例えば、爪部材(30)に支持ピン(31)を設ける一方、支持手段に長溝(32)を設けたものでは、支持ピン(31)の当接する方の長溝(32)の側縁(歯部(26)に遠い方の側縁)は、前記円周方向に対して歯部(26)に近接するように形成される。
【0030】
このように、長溝(32)の側縁を円周方向に対して歯部(26)から徐々に離間させたり、近接させたりして形成した結果、支持ピン(31)が長溝(32)の側縁に当接しながら第1位置から第2位置に移動するようになれば、爪部材(30)が第1位置から第2位置の間、前記直交する方向に振れずに移動するようになり、中立位置において、爪部材(30)の付勢される方向が確実に切り換わるようになる。
【0031】
また、少なくとも中立位置で、爪部材(30)の振れを抑えるには、長溝(32)の側縁をブレーキレバー(20)の基部(22)の周縁に沿う円周の接線方向に対して所定角度(θ3)傾斜させればよい。この所定角度(θ3)にはブレーキレバー(20)や爪部材(30)の形や配置に応じて一定の範囲があり、その一定の範囲の中の最適な角度が設定されている。
【0032】
すなわち、傾斜させた所定角度(θ3)が一定の範囲の中の最小角度に満たないと、爪部材(30)の抑えが不十分になり、爪部材(30)が振れて、中立位置での付勢力の切り換えが確実に行われないおそれがあり、反対に、所定角度(θ3)が一定の範囲の中の最大角度を超えると、爪部材(30)が第1位置から第2位置に円滑に移動しないおそれがある。しかしながら、長溝(32)の側縁の所定角度(θ3)が一定の範囲内にあれば、爪部材(30)は振れることなく円滑に第1位置から第2位置に移動する。
【0033】
前述したように、長溝(32)の側縁を所定角度(θ3)傾斜させて形成しているが、この所定角度(θ3)を大きくすれば、長溝(32)内を相対移動する支持ピン(31)の距離に対して、爪部材(30)の回動角度が大きくなる。すなわち、ブレーキレバー(20)の戻り角度が小さくても、支持ピン(31)が長溝(32)内を十分に相対移動して、爪部材(30)が第1位置から第2位置に移動することになり、ブレーキレバー(20)の戻り角度が小さくなり、ブレーキレバー(20)の戻り時の制動力の低下を抑えることができる。
また、長溝(32)の側縁の所定角度(θ3)によっては、中立位置に限らず第1位置から第2位置までの間、爪部材(30)の振れを抑えることができる。このときの所定角度(θ3)にもブレーキレバー(20)や爪部材(30)の形や配置に応じて一定の範囲がある。
中立位置に限らず第1位置から第2位置までの間、爪部材(30)の振れを抑えるには、中立位置ばかりでなく、第1位置から第2位置までの間、支持ピン(31)が長溝(32)の側縁に当接するように、所定角度(θ3)を設定すればよい。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、図1〜図7を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
本実施の形態におけるマニュアルブレーキ装置は足踏み式であり、車体に固着するベース10にブレーキレバー20の基部22が枢軸21により揺動可能に枢支されている。
図1および図2に示すように、基部22には連結具C1を介してブレーキケーブルCが連結され、ブレーキレバー20の図示省略した先端部には足踏みパッド部が設けられており、この足踏みパッド部に力を加え、基部22が変位することでブレーキケーブルCが引かれて制動がかけられるものである。
【0035】
ブレーキレバー20の基部22の端縁にはラチェットプレート25が固設されている。ラチェットプレート25の周縁には枢軸21を中心にして円周方向に歯形を成す歯部26が複数形成されており、歯部26を臨んで爪部材30が配設されている。爪部材30はラチェットプレート25の歯部26に係脱する爪端35を有している。
【0036】
ラチェットプレート25と爪部材30とで、歯部26に係合する方向に付勢される図3および図4に示す第1位置と図6に示す歯部26から離脱する方向に付勢される第2位置とに爪部材30を移動可能な、かつ、爪部材30の第1位置から第2位置に移動する間であって、爪部材30の付勢される方向が切り換わる少なくとも中立位置(図5に示す位置)で、爪部材30の移動する方向に対して略直交する方向への爪部材30の振れを抑えるようなロック機構が構成されている。
【0037】
爪部材30は、ベース10に固設された支持手段である支持ピン31に中央部に穿設された長溝32を嵌合させて支持されており、支持ピン31が長溝32の一端から他端に当接しながら相対的に移動することで、爪部材30が第1位置と第2位置とに移動可能に支持されるとともに、支持ピン31回りに揺動可能に支持されている。
【0038】
図3および図4に示す爪部材30の第1位置は、ブレーキレバー20の制動動作中のいわば動作位置であり、図6に示す爪部材30の第2位置は、ラチェットプレート25の歯部26に噛合して制動力が加わったときに前記第1位置から移動する制動保持位置である。
【0039】
支持ピン31の尾端を臨んでコイルばねである付勢部材40が配設されており、付勢部材40は、第2位置(制動保持位置)では、爪部材30の爪端35が前記ラチェットプレート25の歯部26から離間する方向に爪部材30を付勢する一方、第1位置(動作位置)では爪部材30の爪端35が噛合する方向に爪部材30を付勢するよう配設されている。
【0040】
すなわち、付勢部材40はコイル部41と開脚方向に付勢された脚部42,43を有し、脚部42の係合端42aはベース10に係合し、脚部43の係合端43aは爪部材30の尾端の切欠33に係合している。
【0041】
そして、図3および図4でわかるように第1位置(動作位置)では係合端42a,43aを結んだ作用線dが支持ピン31に対して爪端35と同じ側にあり、図6でわかるように第2位置(制動保持位置)では係合端42a,43aを結んだ作用線dが支持ピン31に対して爪端35と反対側になるよう配設されている。
【0042】
爪部材30は、第1位置(動作位置)において、ブレーキレバー20を踏み込んでいくとき付勢部材40の付勢力によりラチェットプレート25の歯部26に爪端35が弾撥的に係合していき、踏み込みを止めてブレーキレバー20が非制動状態に戻ろうとするとき爪端35がブレーキレバー30の歯部26に押されることで第1位置(動作位置)から第2位置(爪端35が歯部26に係合した状態を維持する制動保持位置)に変位し、制動状態にあるブレーキレバー20を再び踏み込んだとき、爪端35が歯部26から離間して付勢部材40の付勢力により歯部26から外れブレーキレバー20を制動解除状態にする非制動保持位置に揺動し、ブレーキレバー20が制動解除状態に戻ると非制動保持位置から第1位置(動作位置)に変位するよう配されている。
【0043】
爪部材30は、第1位置から第2位置に移動するとき少なくとも図5に示す中立位置で支持ピン31が長溝32の両側縁32a,32bの一方(歯部26に近い側の側縁32a)に当接するものである。中立位置に限らず、第1位置から第2位置までの間、支持ピン31が長溝32の両側縁32a,32bの一方に当接するようにしてもよい。
【0044】
少なくとも中立位置で、支持ピン31を長溝32の両側縁32a,32bの一方に当接させるべく、長溝32の側縁32aは、歯部26の形成されるブレーキレバー20の基部の周縁に沿う円周方向に対して、歯部26から徐々に離間するように形成されている。より具体的には、長溝32の側縁32aは、前記円周の接線方向に対して、歯部26の方とは反対の方向に所定角度(例えば図5において示すθ3)傾斜して形成されている。この所定角度θ3は、ブレーキレバー20や爪部材30の形や配置に応じて一定の範囲がある。
第1位置から第2位置までの間、支持ピン31を長溝32の両側縁32a,32bの一方に当接させる際にも、同じく、長溝32の側縁32aは、前記円周の接線方向に対して、歯部26の方とは反対の方向に所定角度(ただし、前記少なくとも中立位置で当接する場合の前記所定角度θ3とは必ずしも一致しない。)傾斜して形成されている。
【0045】
次に作用を説明する。
ブレーキレバー20の先端部の足踏みパッド部に力を加えるとベース10に対してブレーキレバー20の基部22が揺動し、基部22が変位することで連結具C1によりブレーキケーブルCが引かれて制動がかけられる。
【0046】
すなわち、ブレーキレバー20が制動解除状態にあり、爪部材30が動作位置にある状態からブレーキレバー20の先端部の足踏みパッド部を踏み込むとブレーキレバー20は図1において時計方向に回動し、基部22が変位する。それに従い、基部22に固設されていて周縁に歯部26が形成されたラチェットプレート25も変位し、ラチェットプレート25の歯部26に弾撥的に押し付けられている爪部材30の爪端35が、図3および図4に示すように歯部26を乗り越えて移動する。
【0047】
所望の位置でブレーキレバー20の先端部の足踏みパッド部に力を加えるのをやめて開放すると、制動反力により引かれているブレーキケーブルCがブレーキレバー20の基部22を引いて反時計方向に揺動させようとするが、爪部材30の爪端35が歯部26に噛合してそれを抑え、ロック機構により制動状態が保たれる。
【0048】
ブレーキレバー20を図1において時計方向に回動させる制動動作中に爪部材30は図3および図4に示すように動作位置に位置していて付勢部材40により爪端35が噛合する方向に付勢されており、この状態でブレーキレバー20の先端部の足踏みパッド部に力を加えると、ブレーキレバー20の基部22が変位し、ラチェットプレート25の歯部26に弾撥的に押し付けられている爪部材30の爪端35が歯部26を乗り越えて移動する。
【0049】
そして、制動がかかった所望の位置でブレーキレバー20の先端部の足踏みパッド部に加えた力を抜いて開放すると、制動反力でブレーキレバー20が逆方向に回動しようとするが、前述したように、爪部材30の爪端35が歯部26に噛合してそれを抑え、ロック機構により制動状態が保たれる。このとき、爪部材30に制動反力が加わる。
【0050】
爪部材30に制動反力が加わったときに、爪部材30は図3に示す第1位置(動作位置)から図6に示す第2位置(制動保持位置)に移動する。
【0051】
爪部材30が第2位置(制動保持位置)に移動すると、第1位置から第2位置に移動する間の中立位置で、付勢部材40の付勢方向が確実に切り換わり、付勢部材40は今度は爪端35がラチェットプレート25の歯部26から外れる方向(離間する方向)に爪部材30を付勢するようになる。また、制動反力が加わっていて爪端35が強くラチェットプレート25の歯部26に噛合して押し付けられているので、摩擦力により爪部材30は爪端35がラチェットプレート25の歯部26に噛合して移動を抑えた状態を維持する。
【0052】
前述したように、踏込みパッド部に加えていた力を抜くと、制動反力によりブレーキレバー20の歯部26が爪部材30の歯端35を押して、爪部材30は第1位置から第2位置に移動する。爪部材30が第1位置から第2位置に移動するとき、制動反力の成分により、爪部材30の長溝32の側縁32aが支持ピン31の中心に向かって(図7において左方向へ)押すようになり、それにより、爪部材30が長溝32の側縁32aを支持ピン31に当接させながら移動する。
【0053】
また、前述したように、制動がかかった所望の位置でブレーキレバー20の先端部の足踏みパッド部に加えた力を抜いて開放すれば、ロック機構により制動状態が保たれ、爪部材30に制動反力が加わり、歯部26からの摩擦力により爪部材30は爪端35がラチェットプレート25の歯部26に噛合して移動を抑えた状態を維持する。
【0054】
しかしながら、爪部材30が第1位置から第2位置に移動する間の中立位置を過ぎたあたりで、ブレーキレバー20を停止させるように足踏みパッド部に力を再び加えるとき、制動反力が爪部材30の爪端35とラチェットプレート25の歯部26との間に加わらなくなり、歯部26からの摩擦力が大きく減少し、付勢部材40の付勢力により爪部材30が回動し、爪端35がラチェットプレート25の歯部26から外れようとするが、歯部26からの摩擦力は減少するが最低限以上を維持し、爪部材30は回動しない。
【0055】
より詳しくは、図7に基づいて説明することができる。
すなわち、図7において、作用線dの方向と、爪部材30の爪端35と歯部26との接点bにかかる付勢部材40の付勢力の成分方向との成す角度をθ1とする。また、前記接点bにおける共通接線に対して直交する方向と、前記付勢力の成分方向との成す角度をθ2とする。さらに、付勢部材40の力点(付勢部材40の脚部43の係合端43a)と支持ピン31の中心(爪部材30の回動中心)までの距離をL1とする。さらに、支持ピン31の中心から前記接点bまでの距離をL2とする。さらに、前記接点bにおける摩擦係数をμとすると、爪部材30が中立位置から第2位置(制動保持位置)まで移動する間において、爪部材30が回動しないためには、以下の式が成立すればよい。
【0056】
(L1/L2)Fsinθ1・cosθ2≦Fcosθ1sinθ2+μFcosθ1cosθ2 …(1)
また、(1)式は以下のように書き換えることができる。
L1/L2≦tanθ2/tanθ1+μ/tanθ1 …(2)
(2)式から、角度θ2が小さいと、(tanθ2/tanθ1)の値が小さくなるので、(L1/L2)の値をより小さく設定する必要があることが判る。
仮に、角度θ2=0とすると、tanθ2/tanθ1=0であるから、(2)式は以下のようになる。
【0057】
L1/L2≦μ/tanθ1 …(3)
このとき、μ=0.2、θ1=20°であるとすると、L1/L2≦0.55となり、L1/L2が0.55以下であれば、爪部材30は回動することはない。逆にいえば、L1/L2≦0.55(所定値)を満たすように、爪部材30の長溝32の側縁32aを形成すれば、爪部材30は回動することはない。
【0058】
なお、爪部材30が中立位置から第2位置(制動保持位置)まで移動する間において、支持ピン31が爪部材30の長溝32の側縁32aに当接しながら相対移動するので、爪部材が移動方向に対して直交する方向に振れないことは前述した通りであるが、支持ピン31の中心(爪部材30の回動中心)は歯部26側に寄らず、L1/L2の値は大きくならず、L1/L2≦0.55(所定値)を満たし、爪部材30は回動することはない。
【0059】
次に、ブレーキレバー20が制動状態にあるとき、ブレーキレバー20の先端部の足踏みパッド部に一度力を加えると、制動反力が爪部材30の爪端35とラチェットプレート25の歯部26との間に加わらなくなるので、付勢部材40の付勢力により爪部材30が回動し、爪端35がラチェットプレート25の歯部26から外れてブレーキレバー20を戻せる制動解除可能となる。爪部材30が回動しブレーキレバー20の制動解除状態になると、爪部材30の被当接部38がストッパ29に当接し、爪部材30はストッパ29に当接した状態を維持するとともに、制動反力によりブレーキレバー20が戻り、制動解除することができる。また、ブレーキレバー20が制動解除状態に戻ると、爪部材30の被当接部38がブレーキレバー20の舌片状の当接部28に押されて、第1位置(動作位置)に戻る。爪部材30は第1位置に戻ったときに、ストッパ29に当接する。
【0060】
このように、前記実施の形態のマニュアルブレーキ装置によれば、爪部材30の長溝32の側縁32aをブレーキレバー20の基部22の周縁に沿う円周の接線方向(爪部材30の爪端35が歯部26に噛合する位置での接線方向)に対して所定角度θ3傾斜させて形成しているが、この所定角度θ3をつけることで、傾斜角度をつけない場合に比して、長溝32内を相対移動する支持ピン31の距離に対する爪部材30の回動角度が大きくなる。
【0061】
すなわち、ブレーキレバー20の戻り角度が小さくても、支持ピン31が長溝32内を十分に相対移動して、爪部材30が第1位置から第2位置に移動することになり、ブレーキレバー20の戻り角度が小さくなり、ブレーキレバー20の戻り時の制動力の低下を抑えることができる。
【0062】
なお、前記実施の形態においては、爪部材30の長溝32の側縁32aをブレーキレバー20の基部22の周縁に沿う円周の接線方向に対して所定角度θ3傾斜させて形成しているが、これに限らず、爪部材30の長溝32の側縁32aを前記円周の接線方向に対して歯部26の方へ徐々に近接または、歯部26の方とは反対の方向へ徐々に離間するように形成してもよい。
また、支持部材を支持ピン31とし、爪部材30に長溝32に設けたが、逆の態様であってもよい。すなわち、爪部材30に支持ピン31を設け、ベース10に長溝を設けるようにしても良い。
【0063】
このとき、ベース10に設けられた長溝の両側縁の一方(歯部26に遠い方の側縁)は、歯部26の形成されるブレーキレバー20の基部22の周縁に沿う円周の接線方向に対して、歯部26の方に徐々に近接するように形成し、あるいは、その接線方向に対して、歯部26の方向に所定角度傾斜して形成すればよい。
さらに、前記実施の形態では、少なくとも中立位置で爪部材30の振れを抑えるロック機構や支持手段として、長溝32の側縁が、少なくとも中立位置で支持ピン31がその長溝32の側縁に当接するように形成されて成るものを示したが、これに限らず、中立位置で爪部材30の振れが抑えられればよい。
さらに、前記実施の形態では、本発明を足踏み式のパーキングブレーキに適用したものを示したが、手動操作式のパーキングブレーキに適用してもよいことはいうまでもない。
【0064】
【発明の効果】
本発明のマニュアルブレーキ装置によれば、爪部材が第1位置から第2位置に移動するとき、第1位置と第2位置との間の少なくとも中立位置で、爪部材の移動する方向に対して直交する方向への爪部材の振れを抑えるようにしたので、爪部材が中立位置を通過すれば、爪部材の付勢方向が歯部から離脱する方向に確実に切り換わるようになり、爪部材などの部品精度等の許容誤差を小さくしないで済み、コスト低減が図れる効果がある。
【0065】
また、少なくとも中立位置で支持ピンが長溝の側縁に当接するように、長溝の側縁をブレーキレバーの基部の周縁に沿う円周の接線方向に対して所定角度傾斜させて形成したので、同じく、少なくとも中立位置で、爪部材の移動する方向に対して直交する方向への爪部材の振れが抑えられ、爪部材が中立位置を通過すれば、爪部材の付勢方向が歯部から離脱する方向に確実に切り換わるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態であるマニュアルブレーキ装置の要部を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるマニュアルブレーキ装置の正面図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるマニュアルブレーキ装置の動作説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるマニュアルブレーキ装置の動作説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態であるマニュアルブレーキ装置の動作説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態であるマニュアルブレーキ装置の動作説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態であるマニュアルブレーキ装置の動作説明図である。
【符号の説明】
C…ブレーキケーブル
C1…連結具
10…ベース
20…ブレーキレバー
21…枢軸
22…基部
25…ラチェットプレート
26…歯部
28…当接部
30…爪部材
31…支持ピン
32…長溝
32a,32b…側縁
33…切欠
35…爪端
38…被当接部
40…付勢部材
41…コイル部
42,43…脚部
42a…係合端
43a…係合端
Claims (4)
- 車体に固着するベースにブレーキレバーの基部を揺動可能に枢支し、該ブレーキレバーの先端部に力を加え、該基部が変位することでブレーキケーブルを引いて制動をかけるようにしたマニュアルブレーキ装置において、
前記ブレーキレバーの基部に固設され、周縁に歯部が形成されたラチェットプレートと、該ラチェットプレートの歯部に爪端が係脱する爪部材と、当該爪部材を付勢する付勢部材と、前記爪部材の支持手段とでロック機構を構成し、
前記支持手段は、前記歯部に係合する方向に付勢される第1位置と前記歯部から離脱する方向に付勢される第2位置とに前記爪部材を移動可能に支持し、
前記爪部材および支持手段の一方は長溝を有し、
前記爪部材および支持手段の他方は前記長溝に相対移動可能に嵌合する支持ピンを有し、
前記付勢部材は、前記第2位置では、前記爪部材の爪端が前記ラチェットプレートの歯部から離間する方向に前記爪部材を付勢する一方、第1位置では前記爪部材の爪端が噛合する方向に前記爪部材を付勢するよう配設されたものであり、
前記ラチェットプレートの歯部と前記爪部材の爪端とが噛み合った状態での前記付勢部材が付勢力Fで前記爪部材を付勢する方向の作用線と、前記歯部と前記爪端との接点にかかる前記付勢部材の付勢力の成分方向との成す角度をθ1とし、前記歯部と爪端との接点における共通接線に対して直交する方向と、前記付勢力の成分方向との成す角度をθ2とし、前記付勢部材の力点から前記支持ピンの中心までの距離をL1とし、前記支持ピンの中心から前記歯部と爪端との接点までの距離をL2とし、前記歯部と爪端との接点における摩擦係数をμとしたときに、前記ラチェットプレートと爪部材と付勢部材と支持ピンとは、前記爪部材が前記第1位置と前記第2位置との間の中立位置から前記第2位置に移動する間に、次の不等式が成立するものであり、
(L1/L2)Fsinθ1・cosθ2≦Fcosθ1・sinθ2+μFcosθ1・cosθ2
前記爪部材は、前記第1位置から前記第2位置に移動する間であって、前記爪部材の付勢される方向が切り換わる少なくとも前記中立位置で、前記爪部材の移動する方向に対して略直交する方向への振れが前記支持手段により抑えられるものであることを特徴とするマニュアルブレーキ装置。 - 前記長溝の側縁は、前記歯部の形成される前記ブレーキレバーの基部の周縁に沿う円周方向に対して、前記歯部の方へ徐々に近接または離間するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマニュアルブレーキ装置。
- 前記長溝の側縁は、前記歯部の形成される前記ブレーキレバーの基部の周縁に沿う円周の接線方向に対して、前記歯部の方または前記歯部の方とは反対の方向に所定角度傾斜して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマニュアルブレーキ装置。
- 前記長溝の側縁は、前記少なくとも中立位置で前記支持ピンが前記長溝の側縁に当接するように、前記歯部の形成される前記ブレーキレバーの基部の周縁に沿う円周の接線方向に対して、前記歯部の方または前記歯部の方とは反対の方向に所定角度傾斜して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマニュアルブレーキ装置。
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