JP4864226B2 - 含フッ素化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、含フッ素化合物の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、フッ素ゴムなどを製造するための共重合モノマーであるCF3OCF2CF2CF2OCF=CF2の合成の出発原料となるCF3OCF2CF2COORf (フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)の製造方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
CF3OCF2CF2COORf(フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)は、耐寒性に優れたフッ素ゴムなどの製造に供される共重合モノマーであるCF3OCF2CF2CF2OCF=CF2を合成する際の出発原料となる。この化合物に対応する含水素化合物、CH3OCH2CH2COORは、工業的に入手できる。そうした含水素化合物から上記CF3OCF2CF2COORfを製造するには、そのすべての水素をフッ素に置換しなければならない。
【0003】
すべての水素原子をフッ素原子に置換した誘導体の生成を可能とする完全フッ素化法は、フッ素系材料分野に様々なフルオロ化合物を提供する有用な技術であり、従来から開発が進められてきた。この完全フッ素化技術におけるフッ素化反応とは、炭化水素化合物等をフッ素ガスで骨格構造を壊さないようにフッ素化することを意味する共通概念である。現実にはある種の構造を含む化合物を完全フッ素化すると、予期せぬ分解、重合などの反応を伴うことがある。その場合、水素原子がすべてフッ素原子で置換された完全フッ素化物を実質的に単離できる収率で合成することは困難である。たとえば、エーテル結合を有する不完全フッ素化物(水素原子がすべてフッ素原子で置換されていない)は分解しやすいため、出発物質の骨格構造をとどめながら完全フッ素化物の収率をあげることは容易ではない。
【0004】
完全フッ素化技術として、特許第2945693号公報には、水素含有化合物をクロロフルオロカーボン媒体等の中でフッ素ガスにより完全フッ素化する方法が開示されている。しかし、該公報にはエーテル結合を含有するカルボン酸エステルを完全フッ素化する方法については記載されていない。
また、特許第3042703号公報には、エーテル結合およびエステル結合をともに含有するポリエーテル炭化水素化合物をクロロフルオロカーボン媒体等の中でフッ素ガスにより完全フッ素化する方法が開示されている。この場合でも、エーテル結合に近接し、しかもエステル結合により活性化されるメチル基を有する化合物についての完全フッ素化の記載は見当たらない。
【0005】
一般にエーテル結合のほかにエステル結合をも含有するポリエーテル炭化水素化合物では、エステル結合により連鎖的にフッ素化が促進されるため、反応熱の除去は容易ではない。また、エーテル結合を持つ不完全フッ素化物は分解しやすいことから、上記化合物のパーフルオロ置換体(完全フッ素化物)が、出発物質の原形をとどめるとともに、かつ高収率をあげることは困難である。その理由は、次のとおりである。エーテル結合に隣接するメチレン基部分はフッ素化を受けやすい。また、メチル基はフッ素ガスによるフッ素化がメチレン基、-CH2-に比べて起きにくいため、不安定なCH3-O-CF2-結合を生成しやすく、このような不完全フッ素化物の分解の結果として収率の低下を招く。
【0006】
たとえば、メチル3-メトキシプロピオネートCH3OCH2CH2COOCH3を出発物質としてフッ素ガスによる完全フッ素化を行った場合、次式に示される副反応が生じて、最終的にパーフルオロ置換体(完全フッ素化物)の収率が極めて低くなる可能性が高い。
【0007】
【化1】
【0008】
また、CH3CH2O-CH2CH2COO-の場合には、
【0009】
【化2】
【0010】
のように比較的安定な中間体/部分フッ化物を与えるものと推定される。
さらにCH3OCH2CH2COOCH3を電解フッ素化によりCF3OCF2CF2COOCF3、CF3OCF2CF2COFにする合成例はJ.Appl.Chem.USSR(Engl.Transl),48, 742-744(1975)に記載があるが、その収率はたかだか14%であり、とても工業的に実用性のある製法とは言い難い。
【0011】
以上のことから工業的に入手可能なCH3OCH2CH2COORのフッ素ガスによる完全フッ素化は、推定されるフッ素化の優先位置が存在すること、ならびにCH3-O-CF2CH2の親電子的(electrophilic)な攻撃に弱い結合の酸分解反応も生じ得ることからこれまで実用的な方法とはなりえなかった。このような物質の完全フッ素化物を高収率で製造できる方法が実現されれば、フッ素ゴムの合成原料である共重合モノマーのCF3OCF2CF2CF2OCF=CF2の製造コストの大幅削減が可能となり、さらに新規な含フッ素化合物の開発にもつながるものと待望されている。
【0012】
そこで、本発明者らは、かかる状況に鑑みて鋭意研究を進めたところ、CH3OCF2CH2COOCH3の-CF2CH2-部分のFをより非イオン的にすること、具体的には-CF2CF2-基を出発原料に導入すれば、とくに問題となる分解的なフッ素化反応を防止できることを着想するに至り、本発明を完成したものである。
【0013】
【発明の目的】
本発明の目的は、フッ素ガスによる完全フッ素化反応で工業的に実用性のある収率で目的とするCF3OCF2CF2COORf(フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)、CF3OCF2CF2COFを合成することにある。
【0014】
【発明の概要】
本発明による含フッ素化合物の製造方法は、CH3OCF2CF2COOR(Rは炭素数1〜5のアルキル基を表す)を、クロロフルオロカーボン中でフッ素ガスにより完全フッ素化することにより、CF3OCF2CF2COORf(フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)を合成することを特徴としている。
【0015】
とくに前記基RがCH3であり、前記フッ素置換基RfがCF3である場合に好適である。
本発明による前記の含フッ素化合物の製造方法において、前記フッ素ガスとして、酸素及び酸素化合物を実質的に含まない高純度のフッ素ガスを用いて行われることを特徴としている。
【0016】
前記フッ素ガスは、-50℃から0℃の範囲に冷却し、前記完全フッ素化の反応系に導入して反応を行うことが望ましい。
また、前記フッ素ガスが不活性ガスにより5〜50vol%に希釈して前記完全フッ素化の反応系に導入することが望ましい。
さらに、前記フッ素ガスを5vol%から50vol%に濃度を徐々に増加させながら前記完全フッ素化の反応系に導入することを特徴としている。
【0017】
本発明による含フッ素化合物の製造方法において、前記完全フッ素化を、-50℃から20℃に反応系の温度を徐々に昇温させながら行うことを特徴としている。
また、前記フッ素化をフッ化水素捕捉剤の存在下に行うことを特徴としている。
前記フッ化水素捕捉剤はアルカリ金属フッ化物であることが好ましい。
【0018】
本発明による前記の含フッ素化合物の製造方法において、 前記完全フッ素化は、材質として
銅、銀およびニッケルからなる群より選択された1種以上の金属またはそれらの合金またはフッ素樹脂からなる容器と継ぎ手部分、および
フッ素樹脂、パーフルオロエラストマー、フッ素グリースまたはフッ素オイルを使用したシール部分と
から構成されてなる反応器内で行われることを特徴としている。
【0019】
本発明の製造方法によると、フッ素化の際、不安定な不完全フッ化物を生じやすいエーテル結合を含有するカルボン酸エステルについても実用的な収率で、その完全フッ素化が可能となる。
【0020】
【発明の具体的説明】
本発明による含フッ素化合物の製造方法は、CH3OCF2CF2COOR(Rは炭素数1〜5のアルキル基を表す)を、クロロフルオロカーボン中でフッ素ガスにより完全フッ素化することにより、CF3OCF2CF2COORf(フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)を合成する方法である。
【0021】
以下、本発明を、原料物質、溶媒、完全フッ素化反応、反応温度、フッ化水素捕捉剤、反応器の順に詳細に説明する。
なお、本明細書では「完全フッ素化」とは、水素含有化合物のすべての水素原子をフッ素原子に置換することをいう。これに対して、フッ素原子による置換が一部の水素原子にとどまるフッ素化を「部分フッ素化」という。
【0022】
また「完全フッ素化物」とは、水素原子がすべてフッ素原子で置換された化合物をいい、「パーフルオロ置換体」ともいう。
さらに、「不完全フッ素化物」とは、水素原子がすべてフッ素原子で置換されていない化合物をいい、また「部分フッ素化物」ともいう。
CF3OCF2CF2COORf(フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)を合成する際、たとえば工業的に入手可能なCH3OCH2CH2COOCH3を出発物質として完全フッ素化を行った場合には、フッ素化の進展によりCH3-O-CF2CH2のような親電子的攻撃に弱い結合が生起することによる副反応が生じて、最終的にその完全フッ素化物、すなわちパーフルオロ置換体は、著しい収率の低下となる可能性が高い。
【0023】
このような収率低下をもたらす分解的な部分フッ素化反応を防止するための解決方法として、CH3OCF2CH2COOCH3の-CF2CH2-部分のFをより非イオン的にすることが考えられる。具体的には本発明による製造方法は、-CF2CF2-基を有する化合物を出発原料とし、フッ素ガスによる完全フッ素化置換反応を温和な条件下で行っている。たとえば、メチル3−メトキシ−2,2,3,3−テトラフルオロプロピオネート(MMTFP)の場合では、パーフルオロ(メチル3−メトキシプロピオネート)(PFMMP)をほぼ純粋な形でしかも高収率で得ることができる。
【0024】
【化3】
【0025】
他方、特定のあるいは特殊な完全フッ素化物を得る目的のもと、直接フッ素化反応における種々の問題点を克服するためのさまざまな付加的な手段が提案されている。それら(またはその一部)は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜採用することができる。たとえば、フッ素ガスの不活性ガスによる希釈、低温の採用、反応熱の効率的な除去、低濃度化、部分的なフッ素化物の採用、HFスカベンジャーの使用など、およびこれらの組み合わせは、Lagowらの米国特許第4,523,039号、AdcockらのJ. Am. Chem. Soc.,103, 6937(1981)に記載されている。これらの提案の意義、詳細は、上記文献の他に、特許第2945693号公報、特許第3042703号公報なども参照されるべきである。
製造原料
・アルキル3-メトキシ-2,2,3,3-テトラフルオロプロピオネート(CH3OCF2CF2COOR)
式CH3OCF2CF2COOR中のRは炭素数1〜5のアルキル基を表す。たとえば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルの各基が含まれ、これらの基は直鎖でも分岐鎖であってもよい。たとえば、基Rがメチル基であるCH3OCF2CF2COOCH3は、工業的な原料であるCF2=CF2と(CH3O)2C=Oとにより高収率で合成される化合物である(米国特許第2988537号)。高価なフッ素ガスを使うよりも工業的に大量に生産できるCF2=CF2と(CH3O)2C=Oを出発とすることの方が価格的にもはるかに有利である。実際、製品の主要コストは、直接フッ素化反応に使用されるフッ素ガスの量に連動しているからである。
・フッ素ガス(F2)
本発明の製造方法において、フッ素ガスは酸素および酸素化合物を実質的に含まない高純度のフッ素ガスを使用することが好ましい。その理由は、フッ素ガス中に混在する酸素がF2Oなどの酸化剤を生成し、この酸化剤がCH3OCF2CF2COORの酸化的分解反応を誘起するからである。この不都合な酸化的分解反応を防止するためにはフッ素ガス(F2)の純度を上げることが必要であり、フロロカルボニル化合物の存在しない程度まで高純度化されたフッ素ガスを用いることが望ましい。
【0026】
F2中の不純物は、それと電極のカーボンとの反応により生成する-COF化合物をIRによりモニターすることにより管理できる。
フッ素ガスは、フッ素化のためには不活性ガスにより5〜50vol%、好ましくは10〜25vol%の濃度範囲に希釈されたものを使用することが望ましい。とくに1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC‐113)といった類のフッ素置換用の溶媒を使用する場合には重要である。該溶媒およびフッ素中に可燃性混合物を生じないようにフッ素濃度をより低く保つことが求められるためである。さらに、フッ素化反応をよりよく制御し、反応器からの副生物のフッ化水素の除去を促進する見地からも、不活性ガスにより希釈したフッ素ガスの使用は有利であろう。
【0027】
そのための不活性ガスとして、たとえば窒素、ヘリウム、アルゴン、CF4またはSF6などが好適である。純粋なフッ素ガスもまた使用できるが、上記のように安全性とフッ素ガス自体が高価であることを考慮すると、とくにその利点は見出されない。
反応媒体
本発明の製造方法において、不活性な反応媒体として使用するための好適な液体は、出発物質のための溶媒または分散剤として機能するとともに、本発明の方法による反応温度において、フッ素に対して不活性な媒体が望ましい。このための媒体として、クロロフルオロカーボン、パーフルオロアルカン、パーフルオロエーテル、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロアルカンスルホニルフルオライドなどの完全ハロゲン置換された液体が例示される。この中でも、とくにクロロフルオロカーボンは、原料物質の溶解または分散作用に優れ、反応生成物からの分離が容易である等の理由から好ましい。
【0028】
クロロフルオロカーボン溶媒としては、飽和の炭素数2〜8のものが好ましく、環状でも直鎖状でも分岐があってもよく、エーテル結合を含有してもよく、水素や塩素を含まなくてもよい。
たとえば、テトラフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン、1,2-ジクロロテトラフルオロエタン、1,2-ジクロロヘキサフルオロプロパン、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン、1,2-ジクロロトリフロロエチルトリフロロメチルエーテル、1,2-ジクロロトリフロロエチルペンタフロロエチルエーテル、n-またはイソ-ヘプタフルオロプロピル-1,2-ジクロロトリフロロエチルエーテル、テトラフルオロエチルヘプタフルオロプロピルエーテル、ペンタフルオロエチルヘプタフルオロプロピルエーテル、パーフルオロシクロブテン、パーフルオロ(メチルシクロプロペン)、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー油、パーフルオロポリエーテル油などが用いられる。もっともこれらのみに限定されるものではない。またこれらの媒体は、単独で、または2種以上を組合わせて使用してもよい。この中で、本発明では、大部分の反応に有益な溶媒である1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンがとくに好適である。
完全フッ素化反応
本発明の完全フッ素化方法は、冷却装置(冷却ジャケット,内部冷却コイル)、ガス供給ライン、撹拌羽根、還流コンデンサーを装備した反応器で、「バッチ式」の方法で実施することができる。あるいは「半連続式」の方法も、そのための反応器および周辺装置の設計により実施可能となる。いずれの場合にも原料物質であるCH3OCF2CF2COOR は、炭化水素化合物をフッ素化させるように、反応中にフッ素ガスと同時に導入する方法を採ってもよい。しかしながら、より好ましくはフッ素ガスに対する反応性が炭化水素化合物よりも低いことから、原料物質であるCH3OCF2CF2COORをむしろ最初に溶媒とともに仕込み、フッ素ガスを導入させる方法によって収率良く目的生成物が得られる。その際、原料物質であるCH3OCF2CF2COORの濃度は任意に選ぶことができる。収率、バッチ効率の観点からすれば、原料物質であるCH3OCF2CF2COORの濃度は、出発物質の全量において約10重量%〜50重量%の範囲が好ましく、約10重量%〜20重量%がより好ましい。
【0029】
本発明の製造方法は、パーフルオロ置換体をほぼ純粋な形でしかも高収率で得るために、フッ化水素捕捉剤の存在下、高純度の冷却フッ素ガスを段階的に濃度を上げつつ反応器に導入し、しかも反応温度を段階的に昇温させながらフッ素化を行う方式として確立された。
フッ素ガス(F2)は、水素含有化合物の水素原子のすべてを置換するのに必要な化学量論的過剰量、たとえば約15 mol%〜40mol%またはそれ以上の過剰量で、反応器にマイクロキャピラリーなどを通じて連続的に泡立てて導入するのがよい。その際のフッ素ガス濃度は、反応の初期には5vol%〜15 vol %から開始し、フッ素化の進行に伴って15 vol %〜30 vol %へと上昇させ、その後完全フッ素化を30 vol %〜50 vol %で行うことが望ましい。このように段階的にフッ素ガス濃度を増しつつ導入することは、上記のようにフッ素ガスを不活性ガスで希釈することと相俟って、フッ素化置換反応をなるべく温和な条件下で進行させて副反応の発生を抑制する目的からは意義があることである。
【0030】
フッ素ガスによるフッ素化反応は気液不均一反応であり、時としてNaFまたはKFなどの存在下での固・気・液相反応である。その観点からは激しく攪拌を行なうことにより気泡を小さく、充分に分散させること、ならびにマイクロキャピラリーなどで小さな気泡にして反応させることは、一層有利である。液温は通常反応温度と定義されるが、実際の反応の場はフッ素ガス気泡の中であり、その温度は液相よりもはるかに高いものであることが判明した。そのために導入するフッ素ガスを予め充分に冷却して反応させることは、反応原料であるCH3OCF2CF2COORの望まない分解を抑制する目的から有効である。かかる理由から、フッ素ガスを導入前に好ましくは-50℃〜0℃、より好ましくは-30℃〜-10℃に冷却してから反応器に導入してフッ素化反応を行うことが望ましい。
【0031】
なお、上記反応は大気圧下で都合よく行うことができる。
フッ素ガス中にO2やH2OなどといったF2と反応してオキシフルオライト、-OFを生成するような物質がある場合、F2はフッ素化を行うだけでなくoxyfluorinationを行い、次式に示すように期待せぬカルボニル基の導入や分解反応を伴うと考えられる。
【0032】
【化4】
【0033】
同様な観点から反応系の不活性ガス置換、脱水、禁水が反応収率のポイントであることも判明している。またF2ガス中のO2、F2Oの除去も同様な理由から収率の向上に寄与する。反応系の不活性ガスによる置換は、使用されるフッ素ガス中に酸素混入を回避する狙いから行われ、反応開始前に、一般に反応器などを含む反応系を不活性ガス、たとえば窒素ガスで30分間ほどフラッシュ洗浄して空気を追い出すことによってもよい。脱水、禁水はフッ素置換すべき水素含有化合物、フッ素置換媒体、フッ素ガス、フッ化水素捕集剤などに関して図られるべきである。
反応温度
フッ素化反応の反応温度は、フッ素置換反応が生じるのに充分高い温度であるが、該水素含有化合物の***、副反応などの発生を防止するのに充分に低い温度になるように反応器温度を適宜調節することが望まれる。とりわけ分子内にエーテル結合およびエステル結合を含む水素含有化合物については、その骨格が必ずしも完全フッ素化に対して安定でなく、低収率しか期待できないと考えられてきた。このため完全フッ素化の置換反応を行う際、比較的低温の領域に維持する温度制御が不可欠である。
【0034】
そのためには、上記CF3OCF2CF2COORf(置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)を製造するためのフッ素化反応は、反応温度を、-50℃から20℃に反応系を段階的に昇温させながら行うことが必要であると考えられる。たとえば、反応の初期には-50℃〜-20℃から開始し、充分に冷却したフッ素ガスを仕込みながら段階的に反応温度を0℃〜10℃へと徐々に昇温し、その後完全フッ素化を10℃〜20℃で行うがごとく、反応系を段階的に昇温させながら行うことが好ましい。昇温の時間間隔は、反応系および反応条件などに依存するが、収率、効率をも考慮して最適の設定となるようにする。具体的には、全反応時間にもよるが、たとえば0.5℃〜1.5℃/時間の割合で昇温するのが望ましいといえる。
【0035】
反応中の温度の制御は、冷却ジャケット、冷却コイルなどの冷却系の使用、激しい撹拌、充分な量の液状媒体による熱の消散により達成される。
フッ化水素(HF)捕捉剤
上記完全フッ素化は、副生するフッ化水素(HF)を捕捉する物質の存在下に行うことが望ましい。フッ化水素は、収率低下をもたらす化合物の骨格鎖の***、または再配列を防止する見地から反応系より速やかに除去されねばならない。さらに詳しく述べると、本発明の出発化合物については、フッ素置換反応の際、その仮想的ラジカル中間体を含むフッ素化中間体が異常な不安定さを示す。このため、通常用いられるフッ素ガスによる直接フッ素化で使われる手段、たとえばHFスカベンジャーを用いるか、あるいはHFを希釈ガスの気流に乗せて系外に除去するといった酸性物質(HF)の除去方法を採用することは、収率の向上に有効であるといえる。本発明による製造方法では、反応温度を上記のように低温領域で行うことから、フッ化水素自体の揮発による速やかな除去は期待できない。よって、本製造方法においては、原料物質とともに フッ化水素(HF)捕捉剤を反応媒体に仕込むのがよい。
【0036】
HF捕捉剤として、たとえばアルカリ金属フッ化物、LiF、NaF、KF、CsF、RbFなどを用いることができるが、とくに微粉化したものが好ましい。アルカリ金属フッ化物は酸性アルカリ金属フッ化物となり実質的にHFとしての働きを示さない。したがって、HF捕捉剤としてアルカリ金属フッ化物が好適である。フッ化水素捕捉剤の添加量は、置換しうる水素のモル量に対し1.0倍〜1.5倍のモル量が適当である。
反応器
上記フッ素化を行うために反応器および継ぎ手の材質は、銅、銀、ニッケルが好適であり、銅合金、銀合金、ニッケル合金や銀をメッキした銅、銀をメッキしたニッケルなども用いることができ、PTFE、FEP、PFA、EFA、MFAなどのフッ素樹脂も用いることができる。また、シール部分にはフッ素樹脂、フッ素グリース、フッ素オイルを補助的に用いることが好ましい。
【0037】
反応器は、温度制御のための冷却ジャケット、内部冷却コイル、フッ素ガス導入のためのマイクロキャピラリー、ならびにフッ素ガスを分散するための攪拌機を装備することが好ましい。さらに望ましくは分散改良のための邪魔板を保有し、揮発物、反応媒質、反応物、原料を回収するための凝縮器、受器、場合によってはそれを反応器に戻すための移送ラインを具備することがより好ましい。
【0038】
反応器、攪拌機、凝縮器、冷却管などは、銅、銀、ニッケルなどの金属で作られることが好ましく、とくに銅や銀は熱伝導が良好であることより反応熱の速やかな除去が可能となる点からより好ましい。銅やニッケルは価格的にも実用的である。さらに上記の3金属は耐食性や熱伝導の観点ばかりでなく、表面のフッ化物、過フッ化物の働きによる制御された(すなわち、マイルドな)フッ素化反応の推進にも効果を発揮する。
【0039】
【実施例】
次に、実施例によりさらに本発明を具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。以下の実施例などで、特に指定がない限り、%は重量%を示す。
【0040】
【実施例1】
CF3OCF2CF2COOCF3を合成する目的で、冷却ジャケット、内部冷却コイル、攪拌羽根、環流コンデンサー付きの全銅製反応器(300ml容)に脱水した1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)200g、CH3OCF2CF2COOCH3 50g(0.26mol) および乾燥し粉砕したNaF 78gを仕込んだ。
【0041】
内容物を激しく攪拌している上記銅製反応器を−30℃に冷却し、ここに冷却コイルを通して−10℃に冷却したF2/N2の混合希釈ガスを導入した。混合希釈ガスは、F2ガスを20ml/min、N2ガスを180ml/minの流量にて、F2濃度が10vol%になるように調整してからマイクロキャピラリーを通して反応器内に導入した。その後、反応温度を5時間ごとに5℃の割合で上昇させ、F2/N2の混合希釈ガスの導入時点から20時間後に、F2ガスの流量を40ml/minに上げるとともにN2ガス流量を160ml/minに下げ、混合ガス中のF2濃度を20vol%に上げて反応を行った。
【0042】
40時間後、F2ガスの導入をやめ、N2ガスのみを流して残留するF2、HFを系外に排出した。生成物が空気に触れて加水分解しないようにN2ガス圧でブリッジフィルターを用いて濾過し、NaFに吸着した成分をCFC-113 30mlで二回洗浄して回収した。
濾液を蒸留することにより反応媒体のCFC-113から分離した混合物58.9g(目的生成物:水素含有物=92:8)を銅製還流コンデンサー付きの反応器(100ml容)に入れた。内容物を激しく攪拌している銅製反応器を20℃に加温し、F2/N2の混合希釈ガスを反応器内に導入した。混合希釈ガスはF2ガスを20ml/min、N2ガスを30ml/minの流量にしてF2濃度40vol%に上げてマイクロキャピラリーを通して導入し、残存しているC-H結合を完全にフッ素化した。2時間後、F2の導入をやめ、N2のみを流して残留するF2、HFを系外に排出した。得られた最終化合物は重量にして58.2gであり、分析により純度99%以上のCF3OCF2CF2COOCF3であった(収率74.2%)。
【0043】
【化5】
【0044】
【実施例2】
攪拌機付きガラス製反応器(300ml容)にジグライム150gおよびKF 1.0gを入れ、内温を50℃に保ち、実施例1で得た反応物50gを徐々に滴下させた。反応の進行とともに発泡が認められ、還流コンデンサーにて還流がみられた。還流物は分析により未反応の原料と目的生成物のCF3OCF2CF2COFとの混合物であることが判明した。反応が進むにつれて還流物中の未反応原料の割合が減少していった。未反応原料がなくなったところで反応を終え、還流物および溶媒中の目的物を回収した。次に回収した反応物を蒸留により精製した。得られた最終化合物は重量にして24.6gであり、分析によりCF3OCF2CF2COFであることがわかった(収率63.2%)。
【0045】
【化6】
【0046】
【比較例1】
(CH3OCH2CH2COOCH3を用いる合成例)
出発原料として、実施例1におけるCH3OCF2CF2COOCH3の代わりにCH3OCH2CH2COOCH3 20g(0.17mol)、脱水した1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(CFC-113)180gおよび乾燥し粉砕したNaF85.7gを反応器に仕込んだ。実施例1と同様にして反応を行ったが、分解や副反応のために目的生成物は得られなかった。
【0047】
【比較例2】
実施例1での反応器を用いて、そこに200gのCFC-113とNaF42.7gとをあらかじめ仕込み、これらを激しく撹拌している中へ10g (0.085mol)のCH3OCH2CH2COOCH3 を40gのCFC-113 にて希釈した混合物を2g/hrの速度にて加え、それと同時にF2が15ml/min、N2は60ml/minの流量からなる混合希釈ガスを、マイクロキャピラリーを通して導入した。反応中は、反応温度を-30℃に保った。原料の導入終了後、完全にフッ素化を行うために反応温度を20℃、F2が20ml/min、N2が30ml/minである流量にして5時間反応を行い。蒸留によりCFC-113を分離し、純度99%以上の目的生成物を8.1g得た。その収率は32%であった。
【0048】
【実施例3】
(F2を冷却しないで導入するMTFPM出発原料の合成例)
実施例1で混合希釈ガスF2/N2を冷却しないで室温のまま反応系に導入した以外は、実施例1と同様の手順にて反応を行った。得られた化合物は51.0g、収率65.0%であった。
【0049】
【実施例4】
(ステンレス製反応器を用いる合成例)
実施例1で使用した銅製反応器の代わりにステンレス製反応器を用いた以外は、実施例1と同様にしてフッ素化反応を行った。得られた化合物は54.2g、収率69.2%であった。
【0050】
【発明の効果】
実施例1に見られるように、本発明の製造方法に基づき、部分的にフッ素化されているCH3OCF2CF2COOCH3を出発物質として使用しフッ素置換を行うと、所望する高純度の完全フッ素化物であるCF3OCF2CF2COOCF3を74%の高収率で得ることができた。これに対して、比較例1に見られるように、出発物質として部分フッ素化のない水素含有化合物であるCH3OCH2CH2COOCH3を使用すると、フッ素化部分反応による骨格鎖の切断、断片化を招き、目的の完全フッ素化物を得られなかった。しかしながら、その原料物質を少量ずつ、フッ素ガスの導入と同時に反応系に加える場合、比較例2に示されるように、その原料とフッ素ガスとの反応性が低く、副反応も抑制される傾向にあった。
【0051】
以上を総合すると、本発明の製造方法によりエーテル結合を含有するカルボン酸エステル、たとえばCH3OCF2CF2COOR (Rは炭素数1〜5のアルキル基を表す)を原料としてCFC-113などの溶媒中にてフッ素ガスによりフッ素化することより、原料の副反応、分解を抑えることができる。その結果、工業的に実用性のある収率ならびにバッチ当たりの効率にて、完全フッ素化物であるCF3OCF2CF2COORf(フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)をほぼ純粋な形で得ることができる。
【0052】
本発明の製造方法により、パーフルオロ(メチル3−メトキシプロピオネート)(PFMMP)を始めとするパーフルオロ置換体、CF3OCF2CF2COORf (フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)は、フッ素ガスの効率的な使用と簡便な操作とで得ることができ、製造コストの大幅な低減が可能となる。とくにPFMMPは、フッ素ゴムの合成原料である共重合モノマーのCF3OCF2CF2CF2OCF=CF2の合成出発物質でもあるため、そのコスト削減の波及効果は極めて大きいと考えられる。
Claims (8)
- CH3OCF2CF2COOR(Rは炭素数1〜5のアルキル基を表す)を、クロロフルオロカーボン中でフッ素ガスにより完全フッ素化することにより、CF3OCF2CF2COORf(フッ素置換基Rfは炭素数1〜5の基を表す)を合成するに際し、
前記フッ素ガスを5vol%から50vol%に濃度を徐々に増加させながら前記完全フッ素化の反応系に導入することと、
前記完全フッ素化を、-50℃から20℃に反応系の温度を徐々に昇温させながら行うことを特徴とする、含フッ素化合物の製造方法。 - 前記RがCH3であり、前記フッ素置換基RfがCF3であることを特徴とする、請求項1に記載の含フッ素化合物の製造方法。
- 前記フッ素ガスが、酸素および酸素化合物を実質的に含まない高純度のフッ素ガスであることを特徴とする、請求項1に記載の含フッ素化合物の製造方法。
- 前記フッ素ガスを-50℃から0℃の範囲に冷却し、前記完全フッ素化の反応系に導入して反応を行うことを特徴とする、請求項1に記載の含フッ素化合物の製造方法。
- 前記フッ素ガスを不活性ガスにより5〜50vol%に希釈して前記完全フッ素化の反応系に導入することを特徴とする、請求項1または2に記載の含フッ素化合物の製造方法。
- 前記完全フッ素化をフッ化水素捕捉剤の存在下に行うことを特徴とする、請求項1に記載の含フッ素化合物の製造方法。
- 前記フッ化水素捕捉剤がアルカリ金属フッ化物である、請求項6に記載の含フッ素化合物の製造方法。
- 前記完全フッ素化は、材質として銅、銀およびニッケルからなる群より選択された1種以上の金属またはそれらの合金またはフッ素樹脂からなる容器と継ぎ手部分、およびフッ素樹脂、パーフルオロエラストマー、フッ素グリースまたはフッ素オイルを使用したシール部分から構成されてなる反応器内で行われることを特徴とする、請求項1に記載の含フッ素化合物の製造方法。
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