このように、上記特許文献1に記載のベローズ式ポンプを用いることによっても、流体(例えば半導体製造プロセスで使用される薬液)の移送を行うことは可能になる。しかしながら、こうしたポンプでは、吐出時に外側から流体の圧力を受けることによってベローズの伸縮部分が内側へ不自然に撓み、比較的強度の乏しいところへ局所的に応力が集中することによって、残留変形等による劣化が生じ、ポンプの寿命を低下させる要因となっていた。
本発明は、このような点に鑑みて発明されたものであり、吐出時の流路加圧に伴ってベローズ外側から大きな圧力を受けた場合であれ、ベローズに生じる劣化や破損を抑制するような、高耐久性を備えたベローズ式ポンプを提供することを主たる目的とするものである。
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下では、理解を容易にするため、発明の実施の形態において対応する構成例を括弧書き等で適宜示すが、本発明は、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
手段1.ベローズ(ベローズ11)の伸縮性を利用して該ベローズ内側の容積を可変とし、この容積変化により前記ベローズ外側に設けられた流路(流路12a)に対する圧力を変化させつつ、前記流路、並びに、該流路の所定の箇所に設けられた吸入ポート(吸入ポート14a)および吐出ポート(吐出ポート14b)を通じて、流体の吸入および吐出を行うベローズ式ポンプにおいて、前記ベローズの内側には、前記ベローズの伸縮部分(伸縮部分11a)について前記ベローズ内側への変形を規制する規制部材(規制部材16)が、その伸縮部分に当接または近接するように配設されてなる、ことを特徴とするベローズ式ポンプ。
上記のような規制部材を、ベローズの内壁(特にその伸縮部分)に当接または近接させて配設することによって、該ベローズの内側への変形は、この規制部材によって規制されるようになる。すなわち、このような構成によれば、吐出時の流路加圧に伴ってベローズ外側から大きな圧力を受けた場合であれ、上記ベローズ(特にその伸縮部分)の変形は上記規制部材によって的確に食い止められ、前述したような、ベローズの局所的な異常変形に起因した劣化や亀裂破損などは好適に抑制されることになる。なお、上記規制部材は、ベローズに当接(接触)させて配設してもよいが、好ましくは、ポンピング時にベローズの伸縮を妨げないように、ベローズと規制部材との間に、所定のクリアランス(例えば1mm)を設けることが望ましい。
手段2.前記ベローズは、フッ素系樹脂からなる、手段1に記載のベローズ式ポンプ。
一般に、フッ素系樹脂(例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂等の4フッ化エチレン樹脂)は、薬液に対する耐性に優れている。したがって、フッ素系樹脂からなるベローズを用いれば、薬液をポンピングすることも容易に可能となる。しかしながら、このフッ素系樹脂は、局所的に集中する応力に対しては機械的な強度を十分持たず、本発明に係るポンプのように繰り返し動作を伴う用途にあっては、繰り返し疲労の影響も大きく、しかも一般にベローズが薄肉であることも相まって、前述のように、吐出時の流路加圧に伴いベローズ外側から大きな圧力を受け続けた場合には、ベローズの寿命を大幅に損ねることにもなりかねない。手段2は、このような点に鑑みて発明されたものであり、この発明によれば、先の規制部材を通じて局所的な応力集中が緩和され、長期間にわたって前記ベローズの性能を高く維持することが可能になる。
手段3.前記規制部材の、少なくともベローズ側表面が、フッ素系樹脂からなる、手段1または2に記載のベローズ式ポンプ。
一般に、フッ素系樹脂(例えばPTFE樹脂等の4フッ化エチレン樹脂)は、摺動性にも優れている。このため、高いポンプ特性を得る上では、上記構成のように、ポンピング(吸入および吐出)過程において、ベローズ内壁との接触が多くなるとみられる規制部材の表面(少なくともベローズ側表面)に、こうしたフッ素系樹脂を設けることが有効である。こうすることで、前記規制部材を十分近接させた(あるいは、規制部材をベローズに接触させた)場合であれ、前記ベローズを滑らかに伸縮運動(ポンピング動作)させることができるようになる。なおこの際、規制部材全体をフッ素系樹脂で形成してもよく、また、安価で剛性・加工性の高い材料(例えば鉄、アルミニウム、ステンレス等)を母材として用いて、この母材の表面のみを、フッ素系樹脂によりコーティングするようにしてもよい。
手段4.前記規制部材は、収縮状態だけでなく伸張状態においても、前記伸縮部分の全体にわたって、前記ベローズ内側への変形を規制するように配設されてなる、手段1〜3のいずれか一つに記載のベローズ式ポンプ。
前記規制部材をこのように配設すれば、前記ベローズの伸張部分についても、同規制部材を通じて的確に、局所的な応力集中に起因した劣化等が防止されるようになり、上述したベローズの長寿命化がより確実に図られるようになる。
手段5.前記ベローズには、収縮時に前記規制部材の一部を収容しておくための収容空間(収容空間11e)が形成されてなり、前記規制部材は、前記ベローズの伸張および収縮に応じて、この収容空間を出入りする、手段4に記載のベローズ式ポンプ。
ところで、前記規制部材はベローズ内側の限られたスペースに配設される。このため、その配設の際には、スペースを有効に活用しながら、適切に配設されることが望ましい。この点、上記構成のように、前記ベローズに対して収容空間を設けるようにすれば、前記規制部材のうち、収縮時には必要のない部分、すなわち伸張時(吐出時)に伸縮部分が伸びた分(伸張部分)の異常変形を防ぐための部分を、必要なとき(伸張時)にだけ該収容空間から出し、必要のないとき(収縮時)には該収容空間に収容しておくことが可能になる。したがって、手段4の構成において、ベローズ式ポンプとして簡素な構成を維持する上では、このような構成が特に有効である。
手段6.前記ベローズは、伸縮に伴う運動の方向を一定の方向に定めるような軸(ピストンロッド18)を有し、この軸が前記規制部材にガイドされながら往復運動することによって、前記流路の容積が可変とされる、手段1〜5のいずれか一つに記載のベローズ式ポンプ。
通常、ベローズの伸縮方向に対して垂直となる方向から力が加わると、前述した局所的な異常変形に起因してベローズに残留変形や亀裂破損などが発生し易くなる。したがって、ベローズの運動方向は伸縮方向と常に一致していることが望ましい。この点、上記構成においては、ベローズに軸(ピストンロッド)を設けることによって、その運動方向(往復運動の方向)を一定にしている。このため、前述からの残留変形等は、好適に防止されるようになる。しかもここでは、この軸のガイド(位置決め)として、先の規制部材を用いるようにしているため、その構成も、簡素に維持されることになる。なおこの際、安定したガイドを実現するためには、上記軸の二点以上を支持することが望ましい。
手段7.前記ベローズの収縮および伸張は、それぞれ同ベローズ内における気体(例えばエア)の給排に基づいて行われる、手段1〜6のいずれか一つに記載のベローズ式ポンプ。
ポンピング用のベローズを伸縮させるために電動モータ等の機械駆動系を用いた機械駆動式ベローズポンプ(例えば特許文献1参照)では、例えば半導体製造プロセスで使用される薬液などをポンピングする場合において、薬液に晒された部分が腐食で破損(あるいは劣化)することが懸念される。この点、上記構成によれば、機械駆動系によらずエア等によって前記ベローズの伸縮が行われるようになるため、そうした腐食に対する耐性を高めることができるようになる。
手段8.前記規制部材の先端部分は、少なくとも前記ベローズ側の表面がテーパ状に加工されてなる手段1〜7のいずれか一つに記載のベローズ式ポンプ。
前述したように、手段1〜7のいずれか一つに記載のベローズ式ポンプにおいては、前記規制部材がベローズの伸縮部分に当接または近接するように配設されることにより、ベローズの局所的な異常変形が抑制される。しかし、こうした規制部材がベローズの近くに配設されることで、ポンピング時、ベローズが伸縮した際には、両者が干渉して円滑なポンピング動作が妨げられることが懸念されるようになる。この点、手段8の構成では、特に干渉(引っ掛かり)の懸念される規制部材の先端部分がテーパ状に加工されることにより、それら規制部材とベローズとの干渉が好適に抑制されるようになる。このため、ポンピング過程におけるベローズの伸縮運動はスムーズになり、ひいては高いポンプ特性が得られるようになる。
[第1の実施形態]
以下、本発明に係るベローズ式ポンプを具体化した第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、ここでは用途の一例として半導体製造プロセスで使用される薬液の移送を行う場合について説明する。
はじめに、図1および図2を参照して、このポンプの構造について説明する。なお、図1は、収縮状態におけるポンプの断面図、図2は、図1のZ−Z線に沿った略式断面図である。
同図1に示されるように、このポンプ10は、大きくは、ポンピング用ベローズ11等が、当該ポンプ10のハウジング12内においてそれぞれベース13に組み付けられて構成されている。そして、ベース13には、通気孔13aおよび給排ポート13bが形成されている。
ハウジング12は、円筒状をなし、ベース13に対して、適宜、図示しないボルト等により組み付けられている。そして、これらハウジング12およびベース13の間には、図示しない逆止弁(配管途中に配設)を備えた吸入ポート14aおよび吐出ポート14bが配設されている。
ハウジング12の内側には、ハウジング12よりも一回り小さい円筒状のベローズ11が配設されている。このベローズ11は、基本的には、蛇腹状をなして伸縮可能とされる伸縮部分11aと、伸縮部分11aの一端に一体形成されて当該ベローズ11の先端部分をなすヘッド部分11bと、伸縮部分11aの他端につば状に張り出すように一体形成されたフランジ部11cとによって構成されている。そして、このベローズ11は、適宜のシール部材15a,15b(例えば取付け溝に嵌着されたパッキン)により、上記ポート14a,14bおよびベース13との間がそれぞれシールされた状態で、例えばフランジ部11cの嵌め込みにより上記ベース13に組み付けられている。
ベローズ11の内側には、ベローズ11よりも一回り小さい円筒状の胴体部分を有する規制部材16が、所定のクリアランス(隙間)をもって、ベローズ11の伸縮部分11aに近接する態様で配設されている。この規制部材16は、基本的には、胴体部分である円筒の外側へ突出する円環突起状の先端部分16aと、その胴体部分を主に形成する薄肉円筒状の壁部16bと、その胴体部分の内側へ突出する円環突起状のガイド部16cと、壁部16bからつば状に張り出したフランジ部16dとによって構成されている。そして、この規制部材16は、フランジ部16dにおいて、適宜のシール部材15c(例えば取付け溝に嵌着されたパッキン)によりベース13との間がシールされた状態で、複数本のねじ13c(便宜上1本のみ図示)によってベース13に締結、固定されている。
ベローズ11の外側には、同ベローズ11の外壁および上記ハウジング12の内壁により、気密性の高い流路12aが区画形成されており、ベローズ11の頂面側(ヘッド部分11b側)には、その流路12aの一部として、ヘッド部分11bに面したポンプ室12bが形成されている。
より具体的には、上記ベローズ11は、移送対象の薬液に対する耐性(耐薬品性)に優れた材料、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂からなって、基本的には、力の加減に応じて伸縮部分11aが伸縮するとともに、この伸縮に基づいて先端のヘッド部分11bが、ベローズ11の伸縮方向(より詳しくは伸縮部分11aの伸縮方向)へ往復運動するようになっている。そして、このベローズ11は、上記ヘッド部分11bの略中心に、ねじ孔(螺旋溝面)11dを有し、このねじ孔11dは、継ぎ手17の一端と螺着されている。さらに、この継ぎ手17の他端が、ピストンロッド18(軸)のロッド部18aに形成されたねじ孔18b(ねじ孔11dよりも小径のねじ孔)と螺着されることによって、これらベローズ11とピストンロッド18とが、ベローズ11の内側で機械的に連結されている。
ピストンロッド18は、棒状(詳しくは円柱状)に形成されたロッド部18aの一端に上記ねじ孔18bを有し、その他端には、ロッド部18aの径が拡径されるかたちで、ピストン部18cが形成されている。さらに、このピストン部18cの周縁部には、L字状(階段状)に縮径されるかたちで、肩部18dが形成され、その壁面により、ピストン部18cのばね取付端18eに取り付けられた円環状のばね19(例えばコイルばね)のガイドが形成されている。
一方、規制部材16は、例えばステンレスからなる母材の表面(外壁)が、フッ素系樹脂によりコーティング(例えばメッキ)されて形成されている。具体的には、例えばステンレスからなる母材の表面に対して、無電解メッキにより、Ni−P−PTFEをメッキすることによって形成される。そして、このようにベローズ11内壁との接触面に摺動性の高いフッ素系樹脂が設けられることによって、ポンピング(吸入および吐出)過程におけるベローズ11の伸縮運動がスムーズになり、ひいては高いポンプ特性が得られるようになる。
詳しくは、図2に示すように、この規制部材16は、ベローズ11の断面(円形)と相似の関係にある断面形状(より径の小さい円形)を有し、ポンピング時にベローズ11の伸縮を妨げない程度(例えば1mm)のクリアランスdをもって、その外壁がベローズ11の伸縮部分11aに近接するように配設されている。このため、この実施形態に係るポンプにおいては、ベローズ11がポンピング動作して、吐出時の流路加圧に伴ってベローズ11外側から大きな圧力を受けた場合であれ、ベローズ11の内側への変形(クリアランスd以上の変形)は、この規制部材16によって規制されることになり、ひいては前述したような、ベローズ11の局所的な異常変形に起因した劣化や亀裂破損等は好適に抑制されるようになる。そして、ポンピング中に、規制部材16の表面(ベローズ側表面)にベローズ11内壁が接触したとしても、上述の表面処理(フッ素系樹脂のメッキ)が施されていることで、しかもベローズ11も摺動性に優れるフッ素系樹脂で形成されていることにより、その接触面で高い摺動性が得られ、接触によるポンプ特性の低下は抑えられることになる。
また、図1に示されるように、上記ベローズ11のヘッド部分11bには、中央のねじ孔11dを囲繞するようにして、収縮時に規制部材16の一部を収容しておくための収容空間11eが、円環状の溝として形成されている。また、上記規制部材16の先端側(ベース13とは反対側)には、先端部分16aが、上記収容空間11eの溝に対応して円環突起状に形成されている。そうして、収縮時(図1の状態)においては、先端部分16aが収容空間11eに収容されることにより、この収容される分だけ、先端部分16aがベローズ11の伸縮部分11aよりも伸縮方向へ長くなる(オーバーラップする)ようになっている。このような構成のもと、この実施形態においては、収容空間11eについて上記規制部材16の出し入れが行われることで、伸張時(吐出時)に伸縮部分11aが伸びた分(伸張部分)についても、先端部分16aによりベローズ11の変形が規制されることになり、すなわち伸縮部分11aの全体にわたって、上述のベローズ11内側への変形が規制されることになる。また、上記収容空間11eの溝および先端部分16aの内径側壁面は、共にベローズ11の伸縮方向に沿って形成され、これら収容空間11eの溝と先端部分16aとの係合に基づき、上記伸縮方向へのガイドが形成されている。そして、規制部材16の先端部分16aには、規制部材16が収容空間11eを出入りする際の干渉(引っ掛かり)を防ぐため、その片面(ベローズ側壁面)にテーパ状の加工(斜面加工)が施されている。
また、この規制部材16は、円環突起状のガイド部16c(ロッド18の挿入孔も兼ねる)でピストンロッド18を支持しながら、薄肉円筒状の壁部16bによって、このロッド18を内包している。詳しくは、ガイド部16cに設けられたシール部材15d(例えば取付け溝に嵌着された円環状のリップパッキン)により、ガイド部16cとロッド部18aとの間は、摺動可能にシールされている。そして、同ガイド部16cにさらに設けられた摺動部材15e(例えば取付け溝に嵌着された摺動性に優れる低摩擦リング)により、ロッド部18aは、ベローズ11の伸縮方向に往復動可能なように支持されて(ガイドされて)いる。さらに、このロッド部18aだけでなく、ピストン部18cにおいても、ピストンロッド18はガイドされている。すなわち、このピストン部18cに設けられた摺動部材15f(例えば取付け溝に嵌着された摺動性に優れる低摩擦リング)が、上記規制部材16の内壁面に接触する(接触しながら面上を移動する)ようなかたちで、ロッド18の運動方向がベローズ11の伸縮方向にガイドされるようになっている。
このポンプ10では、ロッド部18aおよびピストン部18cの二点(上記収容空間11eの溝によるガイドも含めると三点)でロッド18をガイドし、ベローズ11の伸縮に伴う運動(ヘッド部分11bの往復運動)の方向を同ベローズ11の伸縮方向に定めることにより、ベローズ11の運動方向が伸縮方向と常に一致するようにしている。このため、同ベローズ11に対して、伸縮方向に対して垂直となる方向から力が加わったときにおいても、残留変形や亀裂等の原因となる不自然な変形は、このピストンロッド18を通じて的確に抑制されるようになる。しかも、このポンプ10では、そのガイド(位置決め)を別途設けることなく、ヘッド部分11bや規制部材16でそのガイド(ロッド18の位置決め)を形成しているため、簡素な構成が保たれている。
またここで、規制部材16の、ばね取付端18eに対向する部分には、円環状の溝が形成され、この溝にばね取付端16eが形成されている。そして、この溝の壁面(内径側はガイド部16cの外壁に相当)が、上記肩部18dの壁面およびその外側の規制部材16(特に壁部16b)の内壁と共に、ばね取付端18eからばね取付端16eにわたって取付けられた円環螺旋状のばね19のガイドを形成している。そして、このばね19の反発力(伸張力)により、ピストンロッド18に対し、基本的には常時、同ロッド18をベース13側へ押し付けるような圧力、すなわちベローズ11を収縮させるような圧力が加えられている。
また上述のとおり、上記ベース13には、通気孔13aおよび給排ポート13bが形成されており、通気孔13aにより、気密性の高いロッド18のピストン部18c底面側(ベース13側)を、積極的に大気圧(またはそれに準ずる圧力)にすべく開放して、上記ベローズ11共々、ピストンロッド18が円滑に往復運動するようにしている。また、この実施形態に係るポンプ10では、ベローズ11の駆動に電動モータ等の機械駆動系を用いておらず、ベローズ11の伸縮は、上記給排ポート13bを通じて、ベローズ11に対し、圧縮気体(例えばコンプレッサによる圧縮エア)が給排されることに基づいて行うようになっている。
次に、図3(a)および(b)を参照して、このポンプ10の動作について説明する。なお、これら図3(a)および(b)は、それぞれセット状態(収縮状態)および動作状態(伸張状態)におけるポンプ10の様子を示す断面図である。
上記のように、このポンプ10のポンピング動作、すなわち上記ベローズ11の伸縮運動は、給排ポート13bを通じて同ベローズ11に対し、気体が給排されることに基づいて行われる。そして、この伸縮運動によって、上記流路12a(特にポンプ室12b)の容積が可変とされることに基づき、該流路12a、並びに、同流路12aに設けられた吸入ポート14aおよび吐出ポート14bを通じて、薬液(流体)の移送(吸入および吐出)が行われることになる。
すなわち、薬液の吸入を行う場合には、給排ポート13bを通じて排気を行うことによって、ベローズ11内にあって規制部材16の外側にあたる部分(シール部材15dによって気密された部分)を減圧する(実行中の加圧をやめる)。そうすると、この圧力変化により、ばね19の反発力に抗う力が弱まり、図3(a)に示すように、ベローズ11が収縮し(ピストンロッド18はベース13側へ移動、ベローズ11内側の容積は減少)、規制部材16の一部(先端部分16a)がヘッド部分11bに設けられた収容空間11eに収容されることになる。そして、この収縮に伴い、ベローズ11外側の流路12a(特にポンプ室12b)の容積は増大し、ひいては同流路12a内の圧力が減少することによって、上記吸入ポート14aより薬液が吸入されることになる。
他方、薬液の吐出を行う場合には、給排ポート13bを通じて給気を行うことによって、上記ベローズ11内にあって規制部材16の外側にあたる部分(シール部材15dによって気密された部分)を加圧する(圧縮エアを供給する)。そうすると、この圧力変化により、ばね19の反発力に抗って、図3(b)に示すように、ベローズ11が伸張し(ピストンロッド18はベース13から離間、ベローズ11内側の容積は増大)、収容空間11eに収容されていた規制部材16の一部(先端部分16a)が、同空間11eから出て、伸張部分を含めた伸縮部分11aの全体にわたって、上記ベローズ11内側へのクリアランスd(図2)以上の変形を規制するようになる。そして、この伸張に伴い、ベローズ11外側の流路12a(特にポンプ室12b)の容積は減少し、ひいては同流路内の圧力が増大することによって、上記吐出ポート14bより薬液が吐出されることになる。すなわち、この実施形態においては、この吐出時に、流路12aの加圧に伴ってベローズ11外側から大きな圧力を受けたしても、規制部材16によりベローズ11の内側への変形は規制され、同ベローズ11(特にその伸縮部分11a)の変形は上記規制部材16によって的確に食い止められるようになる。すなわち、このポンプ10では、前述したような、ベローズ11の局所的な異常変形に起因した残留変形や亀裂破損などは好適に抑制(あるいは防止)されることになる。
以上、このポンプ10による薬液の吸入態様および吐出態様について説明した。すなわち、このポンプ10では、上記セット状態(収縮状態)と動作状態(伸張状態)とを交互に繰り返しながら、薬液の移送を行う。そして、このように繰り返し動作を伴う用途にあっても、この実施形態では、上記規制部材16が設けられていることによって、ポンプの長寿命化が図られることになる。また、この実施形態では、ベローズ11の収縮および伸張を、薬液の腐食に弱くなりがちな機械駆動系によらず、それぞれ同ベローズ11内における気体の給排に基づいて行っているため、薬液に対して強い腐食耐性が得られることになる。
[第2の実施形態]
次に、本発明に係るベローズ式ポンプを具体化した第2の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
以下、図4および図5を参照して、この実施形態に係るポンプ20の構造および動作について説明する。なお、これら各図(それぞれ図1および図3に対応する断面図)に示されるように、この実施形態に係るポンプ20も、基本的には、第1の実施形態のポンプ10に準ずる構造を有している。したがって、同図4においては、先の図1中に示した要素と同一の要素に各々同一の符号を付して示し、重複する説明についてはこれを割愛する。すなわちここでは主に、本実施形態と上記第1の実施形態との相違点について詳述する。
同図4に示されるように、このポンプ20には、先の第1の実施形態のポンプ10においては設けられていた収容空間11e(図1)が設けられていない。そして、これに対応して、規制部材16の先端部分16aは短く、そしてヘッド部分11bの底面(ベース13側端面)は、略平坦な面となっている。ただし、本実施形態においても、継ぎ手17による段差でヘッド部分11bの内側表面に小さな空間は形成される。このため、基本的には先の第1の実施形態と同様、規制部材16先端の円環状の突起、すなわち先端部分16aが、ポンピング用ベローズ11の伸縮に対応して、この空間を出入りするようになっている。そして、同先端部分16aのベローズ11側表面がテーパ状に加工されることによって、ベローズ11との干渉が抑制されていることも、第1の実施形態と同様である。
このように、本実施形態では収容空間11eを無くしたことにより、ベローズ11のヘッド部分11bが、簡素(単純)な構造を保ち、ポンプ全体の構成としても、上記第1の実施形態と比べて、よりコンパクトな構成となっている。ただし、規制部材16は、ベローズ11収縮時の伸縮部分11aの全体にわたって近接するにとどまり、吐出時に伸縮部分11aが伸びた分(伸張部分)については、上述のベローズ11内側への変形を規制していない。
図5(a)および(b)は、このポンプ20の動作態様(セット状態および動作状態)を示す断面図である。
同図5(a)および(b)に示されるように、ポンピング動作も、前述した第1の実施形態のポンプ動作に準じた動作となる。ただし、図5(b)に示されるように、吐出時、ベローズ11の伸縮部分11aが伸びた分(伸張部分)については、上述のベローズ11内側への変形(クリアランス以上の変形)は規制されない。しかしながら、この場合にあっても、少なくともそれ以外の部分については、確実に異常変形が防止されることになり、前述の残留変形や亀裂破損などが抑制されることによって、ポンプの長寿命化が図られることになる。
このように、この実施形態によれば、先の第1の実施形態と比べて幾らか効果は薄れるものの、前述したポンプ長寿命化に係る効果は確実に奏され、さらにポンプ全体としての簡素化(構造の単純化)が図られ、製造も容易になる。
[他の実施形態]
・上記各実施形態では、ベローズ11の収縮および伸張を、それぞれ同ベローズ11内における気体の給排に基づいて行うようにした。しかしながらこれに限らず、腐食性の弱い流体を移送する場合や、あるいは腐食性の強い流体を移送する場合においても何らかの対策を施して腐食等について特に問題が生じないときには、前述した特許文献1に記載のポンプと同様に、電動モータ等の機械駆動系を用いてベローズ11の伸縮を行うようにしてもよい。こうした機械駆動系によれば、送りねじ(ボールねじ)等によりベローズ伸縮量の精密な制御が可能となるため、高精度な定量吐出を必要とする用途にあっては、このような機械駆動式ベローズポンプが有効である。
・上記各実施形態では、変形防止の対象となるベローズ11内壁の全体にわたって近接するような円筒状の規制部材16を採用することとしたが、これに限定されることなく、例えば図6(図2に対応する略式断面図)に示すように、複数に分割された板片(規制部材16)を、上記ベローズ11の内壁に即して円筒状に配設するようにした場合も、少なくとも上記各実施形態に準ずる効果は得ることができる。さらには、これら板片を、応力の集中する部分に選択的に設けるようにしてもよい。要は、この規制部材16が、上記ベローズ11の内壁に当接または近接するように設けられていれば、前述したベローズ内側への変形を規制することはできるようになる。なお、ベローズ11の伸縮を気体の給排に基づいて行う構成において、上記規制部材16を複数に分割された板片として設ける場合(例えば図6の場合)には、エア漏れ防止のために通気孔13aを塞ぐなど、上記各実施の形態の構造を適宜に変更する必要がある。
・上記各実施形態では、ベローズ11と規制部材16との間に、所定のクリアランス(例えば1mm)を設けるようにしたが、このクリアランスの設定は必須ではなく、ベローズ11のポンピング動作に許容を超える支障が出ない場合には、規制部材16をベローズ11に当接(接触)させて配設することもできる。
・上記各実施形態では、吸入ポートおよび吐出ポートとして逆止弁を用いるようにしたが、これに限定されることなく、例えば通常の弁を用い、ベローズ11のポンピング動作に応じてこれらポートを交互に開放(他方は閉鎖)するようにしてもよい。
・上記規制部材16の材質は任意である。例えば母材としては、上記ステンレス以外にも、鉄やアルミニウムなどが有効である。また、摺動性を得るために母材表面にコーティング(例えばメッキ)するフッ素系樹脂としても、PTFE(Ni−P−PTFE)以外のフッ素系樹脂を採用するようにしてもよい。さらには、規制部材16全体をフッ素系樹脂で形成するようにしてもよい。要は、規制部材16の、少なくともベローズ11側表面に、フッ素系樹脂が設けられていさえすれば、規制部材16を近接させた場合であれ、ベローズ11を滑らかに伸縮運動させることができる。また、十分な摺動性が得られる場合、あるいは摺動性を要しない場合には、規制部材16の表面に、こうしたフッ素系樹脂を用いる必要もない。
・この発明は、フッ素系樹脂からなるベローズを採用した場合に適用して特に有益であるが、これは必須の構成ではなく、他の材料(例えば適宜の金属や合金)からなるベローズを採用した場合であっても、基本的には、上記各実施形態と同様の形態をもって適用することができる。
・さらに、発明の適用対象とするポンプのポンピング方式も、ポンピング用のベローズ内側の容積変化により、ベローズ外側に設けられた流路に対する圧力を変化させ、この流路を通じて流体の吸入および吐出を行うものであれば、本発明は、基本的に、上記各実施形態と同様の形態をもって適用することができる。
10、20…ポンプ、11…ベローズ、11a…伸縮部分、11b…ヘッド部分、11c…フランジ部、11d…ねじ孔、11e…収容空間、12…ハウジング、12a…流路、12b…ポンプ室、13…ベース、13a…通気孔、13b…給排ポート、13c…ねじ、14a…吸入ポート、14b…吐出ポート、15a〜15d…シール部材、15e、15f…摺動部材、16…規制部材、16a…先端部分、16b…壁部、16c…ガイド部、16d…フランジ部、16e…ばね取付端、17…継ぎ手、18…ピストンロッド、18a…ロッド部、18b…ねじ孔、18c…ピストン部、18d…肩部、18e…ばね取付端、19…ばね。