JP4843969B2 - 耐熱性と耐食性に優れるディスクブレーキ用ステンレス鋼板 - Google Patents
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Description
しかし、このブレーキディスクの小型化、薄肉化は、熱容量の低下を招き、制動時の摩擦熱によるブレーキディスクの温度上昇がより大きくなる。このため、このような小型化、薄肉化傾向に伴い、制動時のブレーキディスク温度が600℃程度まで上昇することが考えられる。このため、従来の材料では、ブレーキディスクが焼戻されて軟化し耐久性が低下するとともに耐食性も低下することが懸念され、耐熱性および耐食性に優れたブレーキディスク用材料が要望されている。
また、特許文献4にはNb、あるいはNbに加えてさらにTi、V、Bを複合して適正量添加することにより、焼戻し軟化を効果的に抑制できるとするディスクブレーキ用ステンレス鋼が提案されている。
また、特許文献6には、C+N量を特定範囲に制限し、オーステナイト形成元素であるMn、Ni、Cuを適量、さらにNbを適量含有し、Zr、Ti、Taのうちの1種又は2種以上を含有して、焼入れのままで所望の硬さを確保でき、焼戻し軟化抵抗を有する、制動発熱軟化抵抗の高いディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼が提案されている。
本発明は、こうした従来技術の問題を有利に解決し、適正焼入れ硬さを確保できるとともに、600℃で2h保持したのちの硬さが、JIS Z 2245で規定されるHRC(ロックウェル硬さCスケール)で32以上を確保でき、耐食性の低下も少ない耐熱性および耐食性に優れたディスクブレーキ用ステンレス鋼板を提案することを目的とする。
(1)mass%で、C:0.02%以上0.10%未満、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:11.5%超15.0%以下、Ni:0.1〜1.0%、Al:0.10%以下、Nb:0.08%超0.6%以下、V:0.02〜0.3%、N:0.03%超0.10%以下を、次(1)〜(3)式
0.03≦{C+N−(13/93)Nb}≦0.10 ………(1)
(5Cr+10Si+15Mo+30Nb+50V−9Ni−5Mn−3Cu−225N−270C)≦45
………(2)
{(14/50)V+(14/90) Nb}<N ………(3)
(ここに、Cr、Si、Mo、Nb、Ni、Mn、Cu、V、N、C:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐熱性および耐食性に優れたディスクブレーキ用ステンレス鋼板。
(2)(1)に記載のディスクブレーキ用ステンレス鋼板を素材として、1000℃以下に加熱し焼入れしてなるディスクブレーキ用ディスク。
C:0.02%以上0.10%未満
Cは、焼入れ後の硬さを決定する元素であり、HRC32〜38の範囲の適正焼入れ硬さを確保するために、本発明では、0.02%以上含有することが望ましい。一方、0.10%以上含有すると、高温で焼戻された際に、粗大なCr炭化物を形成するため、発錆の起点となり、耐食性を低下させるとともに、靭性を低下させる。このため、Cは0.10%未満に限定した。なお、耐食性の観点から、好ましくは0.05%未満である。
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、本発明では0.05%以上含有することが望ましいが、Siはフェライト相を安定化する元素であり、1.0%を超える過剰な含有は焼入れ硬さを低下させ、さらには靭性を低下させる。このため、Siは1.0%以下に限定した。なお、靭性の観点から、好ましくは0.3%以下である。
Mnは、高温でのフェライト相の生成を抑制し、焼入れ性を向上させ、安定した焼入れ硬さを得るために有用な元素であり、1.0%以上含有する。一方、2.5%を超える過剰な含有は、耐食性を低下させる。このため、Mnは1.0〜2.5%の範囲に限定した。なお、焼入れ性の観点から、好ましくは1.5%以上である。
Pは、熱間加工性を低下させる元素であり、できるだけ低減することが望ましいが、過剰な低減は製造コストの高騰を招くため、0.04%を上限とした。なお、製造性の観点からは好ましくは0.02%以下である。
S:0.01%以下
Sは、Pと同様に、熱間加工性を低下させる元素であり、できるだけ低減することが望ましいが、過剰な低減は製造コストの高騰を招くため0.01%を上限とした。なお、製造性の観点からは好ましくは0.005%以下である。
Crは、ステンレス鋼の特徴である耐食性を向上させる有用な元素であり十分な耐食性を確保するためには、11.5%を超える含有を必要とする。一方、15.0%を超える含有は、加工性、靭性を低下させる。このため、Crは11.5%超15.0%以下に限定した。なお、耐食性の観点から好ましくは12.0%以上、靭性の観点から13.5%以下である。
Niは、耐食性を向上させる元素であり、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、Crの拡散速度を低下させ、熱延板の軟化焼鈍に長時間を必要とするようになり、生産性が低下する。このため、本発明ではNiは0.1〜1.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは耐食性の観点から0.3%以上、生産性の観点からは0.8%以下である。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、製鋼上脱酸剤として添加するが、鋼中に過剰に残留させると、加工性、靭性を低下させる。このため、Alは0.10%以下に限定した。なお、好ましくは0.01%未満である。
Nb:0.08%超0.6%以下
Nbは、C、Nと強い結合力を有し、Nb炭化物、Nb窒化物を形成し、焼入れ後600℃付近の温度に保持された際の歪の回復(焼入れ時に導入された歪の回復)を抑制し、焼戻し軟化抵抗を増加させ耐熱性を改善する。このような効果を得るためには、0.08%を超えて含有する必要があるが、0.6%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、Nbは0.08%超0.6%以下の範囲に限定した。なお、好ましくは、耐熱性の観点から0.11%以上、靭性の観点から0.3%未満である。
Vは、600〜700℃で微細な炭化物(VC)、窒化物(VN)を形成し、析出硬化により焼戻し軟化抵抗を増加させ、耐熱性を改善する元素であり、本発明では0.02%以上含有させる必要がある。特にVNの耐熱性改善効果は顕著であり、Vは高Nと組み合わせると、一層大きな効果を発揮する。一方、0.3%を超える含有は、靭性を低下させる。このため、Vは0.02〜0.3%の範囲に限定した。なお、耐熱性の観点から好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.10%以上である。
Nは、Cと同様に、焼入れ後の硬さを決定する元素である。また、固溶Nは耐食性を向上させる効果をもつ。さらに、Nは500〜700℃の温度範囲で微細なCr窒化物を形成し、析出硬化作用により焼戻し軟化抵抗を上昇させ、鋼板(ディスク)の耐熱性を向上させる。また、焼戻し時に析出するCr炭化物は粗大であり、発錆の起点となるが、Cr窒化物は微細であり発錆の起点とならず、焼戻し後の耐食性の低下が少ない。したがって、高N化し、相対的に低C化とした方が同じ焼入れ硬さであっても、耐熱性、耐食性は優れることになる。このような効果を得るためには、Nは0.03%を超えて含有する必要がある。一方、0.10%を超える含有は、靭性の低下を招く。このため、本発明ではNは0.03%超0.10%以下に限定した。なお、耐熱性および耐食性の観点から、好ましくは0.040%以上である。
0.03≦{C+N−(13/93)Nb}≦0.10 ………(1)
(5Cr+10Si+15Mo+30Nb+50V−9Ni−5Mn−3Cu−225N−270C)≦45
………(2)
{(14/50)V+(14/90) Nb}<N ………(3)
(ここで、Cr、Si、Mo、Nb、V、Ni、Mn、Cu、N、C:各合金元素の含有量(mass%))
を満足するように含有する。なお、(2)式の左辺値の計算においては、Mo含有量が0.01%未満、Cu含有量が0.05%未満の場合には、それぞれMo、Cuを零として計算するものとする。
なお、本発明のステンレス鋼板は、熱延鋼板あるいは冷延鋼板のいずれでもよい。
本発明のステンレス鋼板の製造方法は、とくに限定されず、一般に採用されているステンレス鋼板の製造方法がいずれも適用できるが、例えば、つぎのような製造方法とすることが好ましい。
ついで、鋼素材は、好ましくは1100〜1250℃に加熱され、熱間圧延により所定板厚の熱延鋼板とされる。ブレーキディスク用としては板厚3〜8mm程度とすることが好ましい。熱延鋼板は、さらに熱延板焼鈍を施され、さらに必要に応じショットブラスト、酸洗等により脱スケールされ、ブレーキディスク用素材材料とすることが好ましい。この熱延板焼鈍により、熱延鋼板の硬さは、ブレーキディスク用素材として好適な、JIS Z 2245で規定されるHRB(ロックウェル硬さBスケール)で75〜88となり、このままの硬さでブレーキディスク用素材材料として用いることができる。なお、熱延板焼鈍後に、形状矯正のため、レベラーやスキンパスを施してもよい。また、熱延板焼鈍は750℃超900℃以下とすることが好ましい。
なお、ブレーキディスクの厚さが薄い(およそ3mm未満)場合には、上記した熱延鋼板にさらに冷間圧延を施し、必要に応じて焼鈍と、さらに必要に応じ酸洗等の脱スケールを行いブレーキディスク用素材材料とすることができる。
上記したステンレス鋼板を素材材料として、該ステンレス鋼板から所定寸法の円盤を打抜き加工し、ブレーキディスク用素材とする。ついで、このブレーキディスク用素材に、制動時に発生する摩擦熱を逃がす穴をあける、などの加工を施したのち、ブレーキディスク用素材の所定領域、すなわちブレーキパッドが当たる部分である摩擦部に、高周波誘導加熱等により所定の焼入れ加熱温度に加熱したのち冷却する、焼入れ処理を施し、所定領域(摩擦部)を所望の硬さに調整する。なお、本発明のステンレス鋼板であれば、焼入れ加熱温度を通常の焼入れ加熱温度である900〜1000℃の範囲の温度としても、十分適正焼入れ硬さを確保でき、優れた耐熱性と耐食性を兼備できる。
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)焼入れ安定性試験
焼入れ後の試験片(大きさ:t×30×30mm)に、研削により表面のスケールを除去したのち、JIS Z 2245の規定に準拠してロックウェル硬度計で表面硬さHRCを5点測定し、その平均値をその材料の焼入れ硬さとした。焼入れ硬さが、HRCで32〜38の場合、評価として○、HRCで32〜38以外の場合、評価として×とした。
(2)耐熱性試験
焼入れ後の試験片(大きさ:t×30×30mm)に、さらに600℃×2hの焼戻し処理(処理後空冷)を実施した。焼戻し処理を行った試験片に、研削により表面のスケールを除去したのち、JIS Z 2245の規定に準拠してロックウェル硬度計で表面硬さHRCを5点測定し、その平均値を求め、耐熱性を評価した。
以上の焼入れまま、および焼戻し処理後の試験材に、耐食性試験を実施した。試験方法はつぎのとおりとした。
(3)耐食性試験
試験材から、試験片(大きさ:t×70×150mm)を採取し、表面を#320エメリー研磨紙で湿式研磨したのち、複合サイクル腐食試験(CCT:Cyclic Corrosion Test)を実施した。CCT条件は、0.5質量%NaCl水溶液の噴霧(室温35℃)を2.5h、ついで、乾燥(室温60℃)を1.0h、ついで、湿潤(室温50℃、湿度95%)を1.0hを1サイクルとして、4サイクルの試験とした。試験後、試験片表面を目視で観察し、発錆点の数を測定した。発錆点なしを○、1〜4個を△、5個以上を×として評価した。△、○を耐食性に優れたものとして評価した。
Claims (2)
- mass%で、
C:0.02%以上0.10%未満、 Si:1.0%以下、
Mn:1.0〜2.5%、 P:0.04%以下、
S:0.01%以下、 Cr:11.5%超15.0%以下、
Ni:0.1〜1.0%、 Al:0.10%以下、
Nb:0.08%超0.6%以下、 V:0.02〜0.3%、
N:0.03%超0.10%以下
を、下記(1)〜(3)式を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐熱性および耐食性に優れたディスクブレーキ用ステンレス鋼板。
記
0.03≦{C+N−(13/93)Nb}≦0.10 ………(1)
(5Cr+10Si+15Mo+30Nb+50V−9Ni−5Mn−3Cu−225N−270C)≦45
………(2)
{(14/50)V+(14/90) Nb}<N ………(3)
ここに、Cr、Si、Mo、Nb、Ni、Mn、Cu、V、N、C:各元素の含有量(mass%) - 請求項1に記載のディスクブレーキ用ステンレス鋼板を素材として、1000℃以下に加熱し焼入れしてなるブレーキ用ディスク。
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