以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、同一または類似の機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
(第1の参考例)
図1(a),(b)は、第1の参考例に係るCMP用スラリーを概略的に示す図である。図1(a),(b)に示すCMP用スラリー7は、分散媒25と、分散媒25中に分散した研磨粒子18と、分散媒25中に溶解或いは分散した添加剤22とを含有している。なお、本参考例において、添加剤22は任意成分である。
分散媒25は、例えば、水のような極性溶媒である。また、研磨粒子18は、所定の波長の光を照射することにより光触媒作用を呈するものである。なお、ここで、「光触媒作用」を呈することは、光照射により研磨粒子18の酸化力及び/または還元力が変化することや、光照射により研磨粒子18の親水性が変化することなどを含意していることとする。例えば、光照射により研磨粒子18の親水性が高まる場合、図1(a)に示すように研磨粒子18が凝集して二次粒子20を形成したスラリー7に光を照射すると、極性溶媒のような分散媒25中では図1(b)に示すように研磨粒子18の分散度が向上する。
図2(a),(b)は、図1(a),(b)に示すスラリーを用いたCMPの一例を概略的に示す断面図である。なお、ここでは、埋め込み金属配線を形成することとする。また、図2(a),(b)では、研磨パッドや分散媒25や添加剤22は省略している。
埋め込み金属配線は、例えば、以下の方法により形成することができる。まず、シリコン基板のような半導体基板(或いは半導体ウエハ)23上にシリコン酸化膜のような層間絶縁膜24を形成し、続いて、層間絶縁膜24に溝を形成する。次に、層間絶縁膜24上に、銅のような金属を主成分とした導電膜(金属膜)26を、層間絶縁膜24に設けた溝を埋め込むように成膜する。以上のようにして、図2(a)に示すように、被研磨部として金属膜26を備えた被研磨基板2を得る。その後、図1(a),(b)に示すスラリー7を用いて金属膜26をCMP処理に供する。このCMP処理は、金属膜26のうち、層間絶縁膜24に設けた溝内に位置した部分のみが残り、他の部分が除去されるように行う。これにより、図2(b)に示すように、埋め込み金属配線26を得る。なお、これと同様の方法により、プラグを埋め込み形成することや、配線とプラグとを同時に埋め込み形成することも可能である。
上記のCMP処理は、スラリー7中の成分と金属層26の表面との間の化学反応と、スラリー7中の研磨粒子18による金属層26の表面からの反応生成物などの物理的な除去とを利用している。そのため、研磨の最中にスラリー7に適宜光を照射することにより、研磨粒子18の研磨力及び/またはスラリー7の酸化力のような反応性を制御することができ、したがって、所望のCMP性能を実現することができる。
例えば、上記のCMP処理で使用するスラリー7の研磨粒子18が光照射によりその分散度を変化させるものである場合、CMP処理の際に金属膜26上のスラリー7に照射する光の強さに応じて、研磨粒子18が形成する二次粒子20の粒子径を制御することができる。すなわち、CMP処理の際に金属膜26上のスラリー7に照射する光の強さに応じて、所望の研磨精度及び所望の研磨速度を実現することができる。また、上記のCMP処理で使用するスラリー7の研磨粒子18が光照射によりその酸化力を変化させるものである場合、研磨粒子18を照射光の強さに応じて酸化力を制御可能な酸化剤としても利用可能となる。したがって、この場合も、CMP処理の際に金属膜26上のスラリー7に照射する光の強さに応じて、所望の研磨精度及び所望の研磨速度を実現することができる。
本参考例において、被研磨部である金属層26は、上記の通り金属を主成分としている。そのような金属としては、例えば、アルミニウム、銅、タングステン、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、及びバナジウムなどの金属;それら金属の少なくとも1種を主成分として含有している合金;それら金属の少なくとも1種を主成分として含有している窒化物;それら金属の少なくとも1種を主成分として含有している硼化物;それら金属の少なくとも1種を主成分として含有している酸化物;それら金属の少なくとも1種を主成分として含有し且つ窒素、硼素、及び酸素の少なくとも2種をさらに含有した金属化合物を挙げることができる。金属層26は、単層構造を有していてもよく、或いは、積層構造を有していてもよい。
本参考例において、スラリー7の研磨粒子18が光照射によりその分散度を変化させるものである場合、研磨粒子18は光照射によりその分散度を高めるものであってもよい。また、スラリー7の研磨粒子18が光照射によりその酸化力を変化させるものである場合、研磨粒子18は光照射によりその酸化力を高めるものであってもよい。さらに、スラリー7の研磨粒子18が光照射によりその分散度及び酸化力の双方を変化させるものである場合、研磨粒子18が光照射によりその分散度及び酸化力の双方を高めるものであってもよい。
上述した光触媒作用を呈する研磨粒子18としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化ニオブ、セレン化カドミウム、及び硫化カドミウムの何れかを含有した粒子を挙げることができる。
上記スラリー7は、添加剤22として酸化剤を含有することができる。そのような酸化剤としては、例えば、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、リン酸、硝酸、及び硝酸アンモニウムセリウムなどのように標準電極電位が−3.0V乃至+3.0Vであるものを挙げることができる。また、スラリー7が酸化剤を含有する場合、通常、その含量は0.1重量%乃至5.0重量%とする。
また、研磨粒子18が光照射により酸化力を発現する場合、スラリー7は添加剤22として酸化剤を含有していなくてもよい。但し、研磨粒子18の酸化力をより有効に利用するためには、使用する研磨粒子18の種類に応じ、硝酸や燐酸や塩酸や硫酸のような無機酸などのpH調整剤を用いてスラリー7のpHを適宜調節することが望ましい。
研磨粒子18の一次粒子径Aは、5nm乃至1000nmの範囲内で分布していることが好ましく、5nm乃至20nmの範囲内で分布していることがより好ましい。また、研磨粒子18の二次粒子径Bは100nm乃至1000nmの範囲内で分布していることが好ましい。これについては、図3を参照しながら説明する。
図3は、研磨粒子の粒径とその沈降速度との関係を示すグラフである。図中、横軸は研磨粒子18の一次粒子径A及び二次粒子径Bを示し、縦軸は一次粒子としての研磨粒子18の沈降速度及び研磨粒子18の凝集体である二次粒子20の沈降速度を示している。
図3に示すように、酸化チタンなどからなる研磨粒子18やその二次粒子20の粒子径が約1000nmを超えると、その沈降速度が著しく速くなる。研磨粒子18或いはその二次粒子20の沈降速度が速い場合、それらを分散状態に維持することが困難となる。すなわち、研磨粒子18或いはその二次粒子20が沈降して沈殿物を生じるおそれがある。沈殿物を構成する研磨粒子18同士は強く相互作用するため、再び分散媒25中に分散させることは殆ど不可能である。このような沈殿物の生成は、研磨粒子18やその二次粒子20の粒子径を1000nm以下とすることにより抑制することができる。
また、図3に示すように、研磨粒子18の一次粒子径Aが約5nm未満になると、その沈降速度が著しく速くなる。これは、研磨粒子18の一次粒子径Aが約5nm未満になると、それら粒子18のブラウン運動が激しくなるためである。すなわち、研磨粒子18のブラウン運動が激しくなると、それらが互いに衝突する確率が高くなり、互いに結合する確率も高くなる。このような理由から、研磨粒子18の一次粒子径Aが約5nm未満になると、その沈降速度が著しく速くなり、したがって、沈殿物を生じ易くなる。
なお、多くの場合、スラリー7中で、研磨粒子18の一部は一次粒子として存在し、残りは凝集して二次粒子20として存在している。そのため、このような場合、研磨粒子18の一次粒子径及び二次粒子径の双方を上記範囲内とするには、研磨粒子18の一次粒子径は5nm乃至100nmの範囲内で分布していることが好ましく、5nm乃至20nmの範囲内で分布していることがより好ましい。研磨粒子18の一次粒子径がこのような範囲内で分布している場合、研磨粒子18の二次粒子径を例えば100nm乃至1000nmの範囲内で分布させることができる。
上述した研磨粒子18の一次粒子径の分布は、例えば、研磨粒子18のTEM像を観察することにより調べることができる。また、同様に、研磨粒子18の二次粒子径の分布も、例えば、研磨粒子18のTEM像を観察することにより、或いは、ストークス法などの原理を利用した粒子径測定法により調べることができる。
以上説明したように、本参考例では、光照射により研磨粒子18の酸化力及び/または還元力が変化すること、及び/または、光照射により研磨粒子18の親水性が変化することのような研磨粒子18の光触媒作用を利用している。理論に束縛されることを望む訳ではないが、このような光触媒作用は以下の原理に基づいているものと考えられる。研磨粒子18が酸化チタン粒子であり且つ分散媒25として純水を用いた場合を例に説明する。
光照射による研磨粒子18の親水性の変化は、以下の原理で生じるものと考えられる。すなわち、酸化チタン粒子18に紫外線を照射すると、それを構成しているチタン原子の位置に正孔が生じる。チタン原子の位置に生じた正孔は、酸化チタン粒子18を構成している酸素原子から電子を奪う。これにより、酸素原子は酸化される。酸化チタン粒子18に紫外線を照射している間、その表面に位置した酸素原子の少なくとも一部は電子を奪われた状態にあり、そこに分散媒25を構成している水分子が吸着される。酸化チタン粒子18の水分子が吸着した表面は親水性のドメインとして機能する。このような原理で、紫外線照射により酸化チタン粒子18の親水性が高まると考えられる。
他方、光照射による研磨粒子18の酸化力の変化は、以下の原理で生じるものと考えられる。紫外線照射により酸化チタン粒子18の表面に生じた正孔の一部は、酸化チタン粒子18が金属層26と接触しているか或いは極めて近傍に位置している場合には、金属層26を構成している金属原子から電子を奪う。また、紫外線照射により酸化チタン粒子18の表面に生じた正孔の他の一部は、分散媒25を構成している水に含まれるヒドロキシイオンから電子を奪い、それにより生じたヒドロキシラジカルは金属層26を構成している金属原子から電子を奪う。なお、電子を奪われた銅原子のような金属原子は速やかにCuOxのような酸化物を生成する。このように、研磨粒子18の酸化力は紫外線照射により生じる正孔によってもたらされるので、酸化チタン粒子18に照射する紫外線の強さを変化させることにより、研磨粒子18の酸化力を変化させることができる。
このような研磨粒子18の光触媒作用を利用すると、様々な方法でCMPを行うことが可能となる。例えば、CMPの間中、スラリー7に照射する光の強さを一定としてもよい。或いは、CMPの間に、スラリー7に照射する光の強さを変化させてもよい。後者の場合、例えば、CMPの初期ではスラリー7に光を照射せずにCMPを終了する間際にスラリー7に光を照射するか、或いは、CMPの初期ではスラリー7に弱い光を照射してCMPを終了する間際にスラリー7に照射する光の強さを高めてもよい。このような方法によると、CMPの初期では高い研磨速度で研磨を行うことができ、CMPを終了する間際には高精度な研磨を行うことができる。したがって、研磨速度をより高速化すること、及び、ディッシングやエロージョン並びにスクラッチが発生するのをより効果的に抑制することができる。
研磨粒子18として酸化チタンを含んだ粒子を使用する場合、その酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型、及びブルッカイト型の何れの結晶構造を有する酸化チタンを使用してもよい。但し、それらの中でも、アナターゼ型酸化チタンを使用することが好ましい。これについては、図4(a)乃至(c)及び図5を参照しながら説明する。
図4(a)乃至(c)は、それぞれ、アナターゼ型、ルチル型、及びブルッカイト型酸化チタンの結晶構造を示す図である。また、図5は、酸化チタンのエネルギーバンドを示す図である。なお、図4(a)乃至(c)において、参照番号27はチタン原子を示し、参照番号28は酸素原子を示している。
天然の酸化チタンの結晶構造としては、図4(a)乃至(c)に示すアナターゼ型、ルチル型、及びブルッカイト型が知られている。これらのうち、工業用として利用されているものは、主に、図4(a)に示すアナターゼ型酸化チタンと、図4(b)に示すルチル型酸化チタンである。図4(c)に示すブルッカイト型酸化チタンについては、現在、実用化に向けた研究が進められている。
上述した酸化チタンの光触媒としての能力は、アナターゼ型とルチル型とブルッカイト型との間で異なっている。例えば、アナターゼ型酸化チタンは、ルチル型酸化チタンよりも高い光触媒活性を示す。これは、図5に示すように、それらの間でエネルギーバンドが異なっていることに由来している。
酸化チタン18は、価電子帯と伝導帯との間のエネルギー差であるバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を吸収することによって、伝導帯に電子を及び価電子帯に正孔をそれぞれ生じる。図3に示すように、アナターゼ型酸化チタンのバンドギャップは約3.2eVであり、ルチル型酸化チタンのバンドギャップは約3.0eVである。アナターゼ型酸化チタン及びルチル型酸化チタンは、それぞれのバンドギャップの値から明らかなように、何れもほぼ紫外線のみを吸収する。但し、ルチル型酸化チタンは、紫外線より僅かに可視光線に近い波長域の光も吸収することができる。
このように、より広い波長域の光を吸収できるルチル型酸化チタンの方が、アナターゼ型酸化チタンよりも光触媒としての能力が高いと思われる。ところが、実際には、アナターゼ型酸化チタンの方がルチル型酸化チタンよりも高い光触媒活性を示す。これは、以下の理由による。
図5に示すように、アナターゼ型酸化チタン及びルチル型酸化チタンの価電子帯のエネルギー準位は何れも非常に深い位置にある。したがって、それら酸化チタンが光を吸収することによって生じる正孔は、何れも十分な酸化力を有している。具体的には、図5に示すように、それら酸化チタンの正孔の酸化力は、酸化剤として一般的な過酸化水素の酸化力よりも極めて強い。
他方、アナターゼ型及びルチル型酸化チタンの伝導帯のエネルギー準位は、図5に示すように、何れも水素(H+,H2)の酸化還元電位に近い。そのため、それら酸化チタンは、いずれも還元力が比較的弱い。しかしながら、アナターゼ型酸化チタンの伝導帯のエネルギー準位は、ルチル型酸化チタンの伝導帯のエネルギー準位よりも、さらに負の位置にある。そのため、アナターゼ型酸化チタンの還元力は、ルチル型酸化チタンの還元力よりも強い。このような理由から、アナターゼ型酸化チタンの方が、ルチル型酸化チタンよりも高い光触媒活性を示すと考えられている。
また、図4(c)に示すブルッカイト型酸化チタンについては、光触媒活性がかなり高いことが分かっている。また、そのバンドギャップが約3.2eVであるということも分かっている。したがって、研磨粒子18として、ブルッカイト型酸化チタンを含むものを使用した場合でも、アナターゼ型の酸化チタンを含む物を使用した場合と同等の光触媒作用が得られる可能性がある。
なお、酸化チタンを含む研磨粒子18は、波長域が200nm乃至400nmである紫外線のうち波長が約380nm以下の紫外線を吸収することにより光触媒作用を発揮する。また、酸化チタンを含む研磨粒子18の光触媒作用は、照射する紫外線の波長が短くなるのに伴って強くなる。
次に、上述したスラリー7を使用可能なCMP装置について説明する。
図6は、図1(a),(b)に示すスラリーを使用可能なCMP装置の一例を概略的に示す図である。このCMP装置1は筐体19を備えており、筐体19は、基板保持具であるヘッド(或いはキャリア)3と、研磨治具であるターンテーブル6と、スラリー供給装置8とを収容している。
ヘッド3は、ヘッド駆動装置11に回転可能に取り付けられており、被研磨基板2をその被研磨面の裏面側から着脱可能に保持している。ターンテーブル6は、ヘッド3と対向するようにテーブル駆動装置15に回転可能に取り付けられており、ヘッド3との対向面に研磨部材である研磨パッド(或いは、研磨布)5を着脱可能に保持している。スラリー供給装置8は、その供給ノズル8aから研磨パッド5上にスラリー7を供給するように構成されている。なお、ヘッド駆動装置11とテーブル駆動装置15とは駆動機構を構成している。
ヘッド駆動装置11及びテーブル駆動装置15はそれぞれヘッド用センサ12及びテーブル用センサ16を内蔵している。ヘッド用センサ12は、ヘッド3に加わる荷重(ヘッド3の回転軸トルク及び/または軸方向荷重)やヘッド3の回転速度などのようなヘッド3の駆動状態を検知する。また、テーブル用センサ16は、研磨の際に摩擦力などに起因してテーブル6に加わる荷重(テーブル6の回転軸トルク)やテーブル6の回転速度などのようなターンテーブル6の駆動状態を検知する。センサ12及び16は、それぞれ、A/Dコンバータ13及び17を介して制御装置14に電気的に接続されている。
制御装置14は、スラリー供給装置8、ヘッド駆動装置11、及びテーブル駆動装置15に電気的に接続されている。制御装置14は、例えば、センサ12及び16からの信号と予め設定されているプログラムとに基づいて、ヘッド3に加える荷重、ヘッド3の回転数、テーブル6の回転数、及びスラリー7の供給量や供給頻度などを適宜制御する。
このCMP装置1は、紫外線ランプのような光照射装置10をさらに備えている。光照射装置10は、研磨パッド5上のスラリー7に、研磨粒子18の光触媒作用を誘起し得る光,例えば紫外線,を照射する。光照射装置10は制御装置14に電気的に接続されており、光照射装置10のON/OFFや光照射装置10が放射する光の強さや光照射装置10が放射する光のスペクトルなどは制御装置14によって制御され得る。例えば、制御装置14は、上記光の照射/非照射を、ヘッド3やターンテーブル6の回転軸トルクなどに応じて切り換えるように構成されていてもよい。
なお、このCMP装置1において、筐体19は、研磨中にスラリー7が外部に飛び散ることや、スラリー7中に大気中の粉塵や埃が混入することなどを防止する役割を果たす。加えて、筐体19は、CMP装置1の外部の光線がスラリー7に不所望な光触媒作用を誘起することやスラリー7が変質することなどを防止するように構成されていることが好ましい。すなわち、筐体19は、スラリー7の光触媒作用を誘起する光に対して遮光性であることが好ましい。
このCMP装置1を用いると、例えば、以下に説明する方法でCMPを行うことができる。
図7は、図6に示すCMP装置1を用いたCMPの際に観測され得る、研磨時間とテーブル6に加わる荷重との関係の一例を示すグラフである。図中、横軸は研磨時間を示し、縦軸はテーブル用センサ16が検出するトルクをセンサ16からの出力電流値として示している。
被研磨基板2の研磨状態は、ターンテーブル6の回転速度の設定値と実測値との間のずれ、及び/または、ターンテーブル6の回転軸トルクなどから推定することができる。同様に、被研磨基板2の研磨状態は、ヘッド3の回転速度の設定値と実測値との間のずれ、及び/または、ヘッド3の回転軸トルクなどから推定することができる。例えば、ヘッド3やターンテーブル6の実際の回転速度が設定値と等しくなるように制御を行った場合、図7に示すように、テーブル駆動装置15のモータ電流値(或いは、テーブル電流値)は研磨の進行に応じて変化する。したがって、図2(a)に示す金属層26を平坦化する場合には、テーブル電流値を監視することにより、図2(b)に示すように絶縁膜24の上面が露出した時点,すなわちジャストポリッシュ,などを知ることができる。なお、研磨が完了したか否かも、テーブル電流値を監視することなどにより推定することができる。
このように、研磨の進行状態はテーブル電流値を監視することなどにより推定することができる。したがって、例えば、ジャストポリッシュに達するまで光照射装置10による光照射を行わず、ジャストポリッシュの時点で研磨パッド5上のスラリー7への光照射装置10による光照射を開始することができる。光照射装置10を用いた光照射によりスラリー7中の研磨粒子18の分散度が高まる場合、研磨速度は照射時に比べて非照射時においてより高く、研磨精度は非照射時に比べて照射時においてより高い。そのため、上記のように光の照射/非照射を切り替えれば、ディッシングやエロージョンやスクラッチなどの発生を抑制すること及び研磨時間を短縮することの双方を高い水準で実現することが可能となる。
図8は、そのような方法を採用した場合に実現され得るCMP性能の一例を示す図である。図中、丸印は、研磨粒子としてチタニア粒子を用い且つ上記のようにCMPの際に光の照射/非照射を切り替えた場合に得られたデータを示している。また、四角印及び三角印は、研磨粒子としてアルミナ粒子或いはシリカ粒子のみを用いた場合に得られたデータを示しており、より詳細には、前者は研磨粒子が粗大な二次粒子を形成した場合のデータを示し、後者は研磨粒子が二次粒子を実質的に形成しなかった場合のデータを示している。図8では、研磨速度については、研磨時間がより短い場合により大きな数字が与えられている。また、図8では、スクラッチ密度については、スクラッチがより低密度に発生した場合により大きな数字が与えられている。さらに、図8では、平坦性については、ディッシングやエロージョンの程度がより小さい場合により大きな数字が与えられている。
図8に示すように、研磨粒子がアルミナ粒子或いはシリカ粒子である場合、CMPの最中にそれら研磨粒子の分散度を変化させることができない。そのため、研磨粒子が粗大な二次粒子を形成している場合には、研磨速度は極めて高いが、スクラッチが極めて多く発生し、平坦性も極めて低い。また、研磨粒子の分散度が高い場合には、スクラッチ発生頻度は極めて低く、また平坦性も極めて高いが、研磨速度は極めて低い。
これに対し、研磨粒子としてチタニア粒子を用いた場合、CMPの最中に光の照射/非照射を切り替えることにより、研磨粒子の分散度や酸化力を変化させることができる。そのため、上記のようにCMPの際に光の照射/非照射を切り替えた場合には、研磨速度を極めて高く、またスクラッチ発生頻度も極めて低く、さらには平坦性も極めて高くすることができる。したがって、高研磨速度、高平坦性、低エロージョン、低欠陥密度(スクラッチフリー)を同時に実現することが可能となる。
(第2の参考例)
第2の参考例は、CMPの際の光照射方法が異なること以外は、第1の参考例と同様である。
図9(a),(b)は、第2の参考例に係るCMPの一例を概略的に示す断面図である。なお、ここでは、第1の参考例で図1(a),(b)などを参照して説明したCMP用スラリー7を使用して埋め込み金属配線を形成することとする。また、図9(a),(b)では、研磨パッドや分散媒25や添加剤22は省略している。
本参考例では、例えば、以下の方法により埋め込み金属配線を形成する。まず、第1の参考例で説明したのと同様の方法により、図9(a)に示す被研磨基板2を得る。次に、第1の参考例で使用したのと同様のスラリー7を用いて金属膜26をCMP処理に供する。このCMP処理の間、被研磨基板2に対し、その被研磨面の裏面側からスラリー7の光触媒作用を誘起し得る紫外線のような光を照射し続ける。
CMPの初期では、図9(a)に示すように、被研磨面の裏面に照射した光は、金属層26で反射されるため、研磨パッドと基板2との間に介在したスラリー7まで到達しない。そのため、研磨粒子18が光照射により分散度が高まるものである場合は、比較的速い速度で研磨が進行する。
研磨がほぼジャストポリッシュにまで進行すると、図9(b)に示すように、被研磨面の裏面に照射した光の多くが、研磨パッドと基板2との間に介在したスラリー7まで到達可能となる。そのため、研磨粒子18の分散度が高まる。その結果、研磨速度が低下し、より高精度な研磨が行われる。
このように、第2の参考例では、金属層26が光の照射/非照射を制御するシャッタ或いはスイッチとしての役割を果たす。そのため、照射/非照射を電気的に制御する必要がない。なお、研磨の初期では光を照射せず、研磨開始からの経過時間やテーブル電流値などに基づいて、アンダーポリッシュの間の何れかの時点で光照射を開始してもよい。
また、第2の参考例では、上記の通り、研磨パッドと基板2との間に介在したスラリー7に光を照射する。そのため、基板2の面内で研磨粒子18の分散度や酸化力などを、より均一化すること及び/またはより高めることができる。
上述したCMPには、例えば、図6に示すCMP装置1を部分的に変更したものを利用することができる。
図10は、第2の参考例で利用可能なCMP装置のヘッドを概略的に示す断面図である。このヘッド31の内部には吸引室32が設けられている。吸引室32は通気路34を介して図示しない吸引装置及び圧力調整バルブなどに接続されている。また、ヘッド31には、吸引孔36が設けられた弾性体からなるウエハチャック用の膜(バッキングフィルム)35が、吸引室32の開口部を塞ぐように取り付けられている。図10に示すヘッド31では、このような構成により、基板2を吸引保持可能としている。
このヘッド31は、さらに、吸引室32の内部に、紫外線ランプのような光照射装置33を備えている。光照射装置33は、実線矢印で示すように、膜35に設けられた吸引孔36を介して基板2側に向けて光を放射可能である。
図6に示すCMP装置1で、ヘッド3の代わりに上述したヘッド31を使用することにより、図9(a),(b)を参照して説明したCMPを実施することができる。なお、ヘッド3の代わりに上述したヘッド31を使用する場合、CMP装置1は光照射装置10を備えていなくてもよい。また、ヘッド31の光照射装置33は、制御装置14と電気的に接続してもよく、或いは、接続しなくてもよい。
(第3の参考例)
第1及び第2の参考例では、主として、研磨粒子18の光触媒作用として光照射による分散度変化を主に利用し、CMPの間に研磨粒子18の光触媒作用の大きさを変化させることについて説明した。これに対し、第3の参考例では、研磨粒子18の光触媒作用として光照射により発現する酸化力を主に利用してCMPを行う。
図11(a),(b)は、第3の参考例に係るCMPの一例を概略的に示す断面図である。なお、ここでは、第1の参考例で図1(a),(b)などを参照して説明したCMP用スラリー7を使用して埋め込み金属配線を形成することとする。また、図11(a),(b)では、研磨パッドや分散媒25や添加剤22は省略している。
本参考例では、例えば、以下の方法により埋め込み金属配線を形成する。まず、第1の参考例で説明したのと同様の方法により被研磨基板2を得る。次に、第1の参考例で使用したのと同様のスラリー7を用いて、図11(a),(b)に示すように金属膜26をCMP処理に供する。このCMPの間、研磨パッド上に供給したスラリー7に対し、その光触媒作用を誘起し得る紫外線のような光を照射し続ける。
研磨粒子18が光照射によりその分散度や酸化力を高める場合、光を照射している間、研磨粒子18は高い分散度を維持し続ける。そのため、研磨粒子18が大きな二次粒子を形成することはない。したがって、光を照射している間、研磨粒子18の研磨力は比較的低いままである。この場合、第1及び第2の参考例で説明したように、研磨速度は著しく低下すると考えられる。
しかしながら、スラリー7に照射する光の強さが十分に強く且つ研磨粒子18と被研磨面とを十分に接触させることができれば、研磨粒子18を酸化剤として利用可能となる。そのため、スラリー7が金属層26の表面を酸化する能力は著しく向上する。これは、金属に比べて研磨し易い脆弱な酸化物43の生成が促進されることを意味する。そのため、研磨粒子18の機械的研磨力が低くても、十分な研磨速度を実現することができる。
また、CMPの間、研磨粒子18が大きな二次粒子を形成することはないので、ディッシングやエロージョンを抑制することや、スクラッチの発生を抑制することができる。
しかも、研磨粒子18による金属層26の表面の酸化は、主として、研磨粒子18と金属層26とが接触した状態で生じ、研磨粒子18と金属層26とが離間している場合には殆ど生じない。そのため、高い平坦性を実現することが可能となる。これについては、図12及び図13を参照しながら説明する。
図12は、図11(a)に示す状態と図11(b)に示す状態との間の状態を示す断面図である。なお、図12では、図11(a),(b)と同様に分散媒25や添加剤22は省略しているが、研磨パッド5は描いている。
図12に示すように、CMPの際、研磨パッド5は被研磨面の溝に沿って変形する。そのため、溝の内壁や底面までも研磨される。しかしながら、上記の通り、研磨粒子18による金属層26の表面の酸化は、研磨粒子18と金属層26とが離間している場合には殆ど生じない。研磨パッド5は溝の内壁や底面に研磨粒子18を強く押し付けるほど変形することはないので、溝の内壁や底面では金属層26の上面に比べて酸化膜43が形成され難い。すなわち、溝の内壁や底面は研磨され難い状態に維持される。そのため、溝の内壁や底面が研磨されるのを抑制し、金属層26の上面を選択的に研磨することができる。したがって、高い平坦性を実現することが可能となる。
図13は、埋め込み配線の幅と平坦性との関係を示すグラフである。図中、横軸は配線26の幅を示し、縦軸は被研磨基板2の被研磨面における溝の深さを示している。なお、図13に示すデータは、以下の条件のもとで得られたものである。すなわち、CMP用スラリー7としては、一次粒子径が20nm程度のアナターゼ型酸化チタン粒子18を約3重量%の濃度で含んだスラリーを使用した。また、研磨布(研磨パッド)としてはIC1000/Suba400を使用した。CMPに際しては、500Wの水銀灯を点灯し続け、荷重を約2.9N/m2(300gf/cm2)、ヘッド3の回転数を約100rpm、ターンテーブルの回転数を約100rpm、スラリー流量を200cc/minとした。このような条件下で、銅の埋め込み配線(Cuダマシン配線)26を形成した。
図13に示すように、本参考例に係る方法によると、ジャストポリッシュの時点で高い平坦性を実現可能である。しかも、ジャストポリッシュからさらに60%研磨したオーバーポリッシュの時点でも高い平坦性は維持されている。このように、本参考例によると、高い平坦性を実現するうえで研磨停止のタイミングを高精度に制御する必要がない。
研磨粒子18と金属層26とが離間している場合に研磨粒子18による金属層26の表面酸化が殆ど生じないことは、半導体装置の製造プロセスの様々な工程で有用である。
図14(a)は、第3の参考例に係るCMPの他の例を概略的に示す断面図である。また、図14(b)は、従来技術に係るCMPの例を概略的に示す断面図である。なお、図14(a),(b)に示す構造は、多層配線を含んでいる。すなわち、Si基板のような半導体基板23上には層間絶縁膜24aが形成され、絶縁膜24aには溝が設けられている。この溝はCuなどの金属を主成分とした金属層26aで埋め込まれており、この金属層26aは下層配線を構成している。金属層26aの底面と側壁と上面とには、TaN層のようなバリア層30aが設けられている。絶縁膜24a上には層間絶縁膜24bが形成され、層間絶縁膜24bにはビアホール及び溝が設けられている。これらビアホール及び溝はCuなどの金属を主成分とした金属層26bで埋め込まれており、この金属層26bは上層配線とビアプラグとを構成している。金属層26bのプラグを構成した部分の側面及び上層配線を構成した部分の底面と側壁とには、例えばCVD法により形成したWN層のようなバリア層30bが設けられている。なお、ここで、WN層とは窒化タングステンを主成分とした層を意味する。
ところで、上述した上層配線及びビアプラグは、ビアホール及び溝を設けた絶縁膜24bの表面にCVD法などによりWN層のようなバリア層30bを形成し、その後、ビアホール及び溝をCu層のような金属層26bで埋め込み、さらに、CMP法により絶縁膜24bの上面が露出するまで研磨することにより得られる。WNなどのようにバリア層30bに用いられる材料は、Cuのように金属層26bに用いられる材料に比べ、有機酸のような酸化剤でエッチングされ易い。そのため、上記CMPの際、従来技術では、図14(b)に示すように、バリア層30bの金属層26bと絶縁膜24bとの間に介在した部分がエッチングされ、金属層26bの剥離を生じ易くなる。
本参考例に係る方法では、上述のように、研磨粒子18と金属層26bとが離間している場合に研磨粒子18による金属層26bの表面酸化が殆ど生じない。研磨粒子18は酸化剤に比べると遥かに大きいので、金属層26bと絶縁膜24bとの間に侵入し難い。そのため、上層配線及びビアプラグを形成するためのCMPの際に本参考例に係る方法を利用すれば、図14(a)に示すように、バリア層30bの金属層26bと絶縁膜24bとの間に介在した部分がエッチングされるのを抑制することができる。したがって、金属層26bの剥離を生じ難くすることが可能となる。
上記の通り、本参考例では、研磨粒子18に光を照射することにより得られる高い酸化力を利用している。研磨粒子18が光照射によりその酸化力を変化させる原理については、第1の参考例で簡単に説明したが、ここでは研磨粒子18が酸化チタン粒子である場合を例としてより詳細に説明する。
図15は、酸化チタンのエネルギーバンドを示す図である。
酸化チタンはn型半導体の一種である。そのため、スラリー7中では、酸化チタン粒子18の表面から水25と酸22とを含んだ電解液へと電子が移動する。これにより、図15に示すように、酸化チタン粒子18の表面では、そのエネルギーバンドがΔVだけ上昇する。すなわち、平衡状態におけるスラリー7中の酸化チタン粒子18の表面近傍には、下記等式:
ΔV=2πn0/κ・L2
で示されるΔVの大きさのバンド曲がり(Schottoky barrier)が生じる。なお、上記等式において、n0はドナー準位の濃度、κは誘電率、Lは障壁高さをそれぞれ示している。
第1の参考例で説明したように、アナターゼ型の酸化チタンに約3.2eV以上のエネルギーを有する紫外線を照射すると、図中、白抜き矢印で示すように、価電子帯から伝導帯に向けて電子が励起される。すると、酸化チタンの価電子帯には、励起された電子と同数の正孔が生じる。正孔は、バンド曲がりに沿って電位がより低い側に向ってドリフトする。また、励起された電子は、バンド曲がりに沿って電位がより高い側に向ってドリフトする。なお、この際、酸化チタン粒子18の表面では、以下の反応式:
OH- + h+ → ・OH
で示される化学反応が起こっている。
この反応式に示すように、ヒドロキシイオン(OH-)が正孔によって酸化され、酸化力の極めて強いヒドロキシラジカル(・OH)が発生する。光照射により酸化チタンの酸化力が増大するのは、一般に、上記の原理に基づいているものと考えられている。
上述した酸化チタン粒子18の酸化力は、以下に説明するように、その一次粒子径と相関している。上記の通り、酸化チタン粒子18に光を照射することにより発生した正孔は粒子表面に向けて移動する。ところが、ΔVはL2に比例するため、酸化チタン粒子18の一次粒子径が約5nm未満になると、ΔVが非常に小さくなる。そのため、正孔が粒子表面まで移動するのに十分なドライビングフォースが得られなくなる。また、酸化チタン粒子18の一次粒子径が約100nmを超えると、正孔が粒子表面に到達するまでの時間が長くなり、電子と再結合する確率が高くなる。そのため、この場合、酸化チタン粒子18の表面に到達し得る正孔が少なくなる。したがって、酸化チタン粒子18を酸化剤として利用する場合、酸化チタン粒子18の一次粒子径は、約5nm乃至約100nmの範囲内で分布していることが好ましい。
また、上述のように、研磨粒子18を酸化剤として利用するうえでは、スラリー7に照射する光の強さが十分に強いことが必要である。これについては、図16を参照しながら説明する。
図16は、スラリーに照射する光の強さと研磨速度との関係を示すグラフである。図中、横軸は、照射光強度を示し、縦軸は研磨速度を示している。なお、図16に示すデータは、図13に関連して説明したのとほぼ同様の条件でCMP法により銅の埋め込み配線(Cuダマシン配線)26を形成した場合に得られたものである。
図16に示すように、紫外線の照射光強度が高いほど、研磨速度が高くなった。また、Cu−CMPの際にスラリー7に紫外線を照射しなかった場合、Cu層26の研磨速度は約45nm/minであった。これに対し、Cu−CMPの際にスラリー7に30Wの蛍光燈を用いて紫外線を照射し続けた場合、Cu層26の研磨速度は約450nm/minであった。すなわち、研磨速度を約10倍にまで向上させることができた。さらに、Cu−CMPの際にスラリー7に紫外線をより多く含む500Wの水銀ランプを用いて紫外線を照射し続けた場合、Cu層26の研磨速度は約750nm/minであった。
なお、図16には、Cu層のCMPに関するデータに加え、Al層のCMPに関するデータ及びSiO2層に関するデータも示している。これらデータから明らかなように、被研磨層がAl層やSiO2層である場合に比べ、被研磨層がCu層である場合に最も高い研磨速度を実現することができた。
図17(a),(b)は、それぞれ、研磨粒子としてアルミナ粒子及びシリカ粒子を使用した場合に得られた、スラリーに照射する光の強さと研磨速度との関係を示すグラフである。図中、横軸は、照射光強度を示し、縦軸は研磨速度を示している。なお、図17(a),(b)に示すデータは、研磨粒子としてアルミナ粒子及びシリカ粒子を使用したこと以外は図16に関連して説明したのと同様の条件でCMPを行った場合に得られたものである。
図17(a)に示すように、研磨粒子18としてアルミナ粒子を使用した場合、紫外線照射により研磨速度を高める効果は殆ど得られなかった。また、図17(b)に示すように、研磨粒子18としてシリカ粒子を使用した場合も同様に、紫外線照射により研磨速度を高める効果は殆ど得られなかった。これは、アルミナ及びシリカは共に絶縁体であり、紫外線のエネルギーに比べてそれらのバンドギャップが大きいためである。
上述のように、研磨粒子18を酸化剤として利用する場合、研磨速度はスラリー7に照射する光の強さと相関している。しかしながら、研磨粒子18を酸化剤として利用する場合、研磨速度に影響を与えるのはスラリー7に照射する光の強さだけではない。例えば、スラリー7中の研磨粒子18の濃度や、スラリー7のpHなども研磨速度に影響を与える。
図18は、スラリー7中の研磨粒子18の濃度と研磨速度との関係を示すグラフである。図中、横軸はスラリー7中の研磨粒子18の濃度を示し、縦軸は研磨速度を示している。また、図18に示すデータは、スラリー7中の研磨粒子18の濃度を除いて図13に関連して説明したのとほぼ同様の条件で得られたものである。
図18に示すように、スラリー7中の研磨粒子18の濃度が約0.1重量%乃至約10重量%の範囲内では、研磨粒子18の濃度を高めるほど、より高い研磨速度が得られている。特に、スラリー7中の研磨粒子18の濃度が約1重量%以上の場合に、300nm/min程度以上の研磨速度を実現することができた。
図19は、スラリー7のpHと研磨速度との関係を示すグラフである。図中、横軸はスラリー7のpHを示し、縦軸は研磨速度を示している。また、図19に示すデータは、スラリー7のpHを除いて図13に関連して説明したのとほぼ同様の条件で得られたものである。
図19に示すように、スラリー7のpHを8程度以下とした場合、pHが低いほど、より高い研磨速度が得られている。特に、スラリー7のpHが酸化チタン粒子18の等電点である約5以下の場合には、600nm/min程度以上の研磨速度を実現することができた。なお、スラリー7のpHを約7よりも高めた場合、研磨速度は著しく低い。これは、そのようなpHのもとでは、Cu層26の表面に研磨され難いCu(OH)x膜が形成されるためである。
研磨速度はターンテーブル6の回転数にも依存する。ターンテーブル6の回転数は、一般的なCMPでも研磨速度に影響を与えるが、本参考例に係る方法では研磨速度に与える影響が極めて大きい。これは、本参考例では、研磨粒子18を酸化剤として利用しているためである。換言すれば、光照射した研磨粒子18を速やかに被研磨面に供給しないと、光照射によって生じた正孔が金属の酸化に利用されずに電子と再結合してしまうためである。
図40は、ターンテーブルの回転数と研磨速度との関係を示すグラフである。図中、横軸はターンテーブル6の回転数を示し、縦軸は研磨速度を示している。また、図40に示すデータは、ターンテーブル6の回転数を除いて図13に関連して説明したのとほぼ同様の条件で得られたものである。
図40に示すように、ターンテーブル6の回転数が60rpm乃至140rpmの範囲内にある場合、300nm/min以上の高い研磨速度が得られた。また、ターンテーブル6の回転数が80rpm乃至120rpmの範囲内にある場合、600nm/min以上の高い研磨速度が得られた。このようにターンテーブル6の回転数を上記下限値以上とすることにより高い研磨速度が得られたのは、上記の通り、より多くの正孔を電子と再結合させずに金属の酸化に利用することができたためである。また、ターンテーブル6の回転数が上記の上限値よりも高い場合に研磨速度が低い理由は、被研磨面に供給されるスラリー7の量が過剰な遠心力により減少するためである。
研磨速度は、使用する研磨パッド5の種類にも大きく依存する。
図41は、研磨パッドの種類と研磨速度との関係を示すグラフである。図中、「Cなし」は、研磨パッド5として、導電性成分を含有していないIC1000/Suba400を使用し、図13に関連して説明したのとほぼ同様の条件で銅の埋め込み配線を形成した場合に得られたデータを示している。また、図中、「Cあり」は、研磨パッド5として、カーボンを含有しているPolitexを使用したこと以外は図13に関連して説明したのとほぼ同様の条件で銅の埋め込み配線を形成した場合に得られたデータを示している。
図41に示すように、導電性成分を含有していない研磨パッド5を使用した場合、1μm/min程度の研磨速度を実現することができた。これに対し、導電性成分を含有した研磨パッド5を使用した場合、研磨速度は50nm/min程度であった。このように使用する研磨パッド5の種類に応じて研磨速度が著しく異なるのは、研磨パッド中にカーボンのような導電性成分が含まれている場合、研磨粒子18に光を照射することにより発生した正孔は導電性成分中の自由電子と再結合し得るためである。このような再結合に起因した研磨速度の低下は、研磨パッド5として、カーボンのような導電性成分の濃度が3重量%以下のものを使用することにより十分に抑制することができ、カーボンのような導電性成分を含有していないものを使用することによりほぼ完全に防止することができる。
(第4の参考例)
第3の参考例で説明したように研磨粒子18を酸化剤として利用する場合、メタル残りが発生することがある。これについて、図20(a),(b)を参照しながら説明する。
図20(a),(b)は、第3の参考例に係る方法でCMPを行った場合に生じ得るメタル残りを概略的に示す断面図である。なお、図20(a),(b)において、図示はされていないが、Cu層26の底面と側面とには図14(a),(b)に関連して説明したのと同様のWN層のようなバリア層が形成されている。
先に説明したように、酸化チタン粒子18は、光照射により、その分散度及び酸化力を向上させる。そのため、研磨パッド上に供給されたスラリー7中で酸化チタン粒子18の分散度は高いと考えられる。しかしながら、第3の参考例で説明した方法では、図20(a)に示すように、研磨パッドと被研磨基板との間に介在したスラリー7中で酸化チタン粒子18は必ずしも均一に分布している訳ではない。そのため、Cu層26の研磨が不均一に進行することがある。
Cu層26の研磨が不均一に進行すると、Cu層26の表面に凹部と凸部とが生じる。凸部の上面の面積が狭い場合には、凸部の上面と研磨パッドとの間に酸化チタン粒子18は介在し難く、したがって、凸部の上面は酸化され難い。すなわち、凸部の上面には、凹部の底面に比べ、CuOx膜43が形成され難い。そのため、図20(b)に示すように、絶縁膜24の上面にCu層26が島状に残ることがある。
このような島状に残留したCu層26の高さや径は、最大で500nm程度になることがある。それゆえ、そのような島状残留部を生じた場合、隣り合う配線間で電気的短絡を生じるおそれがある。
本参考例では、スラリー7にノニオン界面活性剤をさらに添加すること以外は第3の参考例で説明したのと同様の方法により研磨を行う。スラリー7がノニオン界面活性剤を含有している場合、研磨粒子18をより均一に分散させることができる。そのため、第3の参考例で説明した効果が得られるのに加え、金属層26の研磨を均一に進行させることができ、したがって、島状残留部の発生を抑制することができる。
図21は、スラリー中へのノニオン界面活性剤の添加が島状残留部の発生を抑制する効果の一例を示すグラフである。なお、図21に示すデータは、以下の条件のもとで得られたものである。すなわち、CMP用スラリー7としては、一次粒子径が20nm程度のアナターゼ型酸化チタン粒子18を約3重量%の濃度で含んだスラリーを使用した。また、研磨布(研磨パッド)としてはIC1000/Suba400を使用した。CMPに際しては、500Wの水銀灯を点灯し続け、荷重を約300gf/cm2、ヘッド3の回転数を約100rpm、ターンテーブルの回転数を約100rpmとし、スラリー流量を200cc/minとした。このような条件下で、幅が40μmのCu配線26を10μmの間隔で形成した。
図21では、スラリー7にノニオン界面活性剤を添加しなかった場合に得られたデータ(「NSなし」)と、スラリー7にノニオン界面活性剤としてアセチレンジオール(親水疎水バランスHLB=18)を0.1重量%の濃度で添加した場合に得られたデータ(「NSあり」)とを示している。また、図中、縦軸は、所定のエリアを観察した場合に認められた島状残留部の数を示している。
図21に示すように、スラリー7にノニオン界面活性剤を添加しなかった場合、60個の島状残留部を生じた。これに対し、スラリー7にノニオン界面活性剤を添加した場合、島状残留部の数は7個にまで減少した。
このように、上記スラリー7にノニオン界面活性剤を添加することにより、島状残留部の発生を抑制することができる。そのため、配線間で電気的短絡が生じるのを抑制し、製造歩留まりを大幅に向上させることができる。
図22は、スラリー中へのノニオン界面活性剤の添加が製造歩留まりを向上させる効果の一例を示すグラフである。図22では、島状残留部に起因した電気的短絡に関する配線歩留まり(「ショート」)と、図14(a),(b)を参照して説明した配線の剥離に関する配線歩留まり(「オープン」)とを示している。また、図22において、「NSなし」及び「NSあり」は図21に関連して説明したスラリー7を用い、図21に関連して説明したのとほぼ同じ条件のもとでCu配線26を形成した場合に得られたデータを示している。さらに、図22において、「従来技術」は、研磨粒子としてアルミナ或いはシリカ粒子を含有し且つ酸化剤を含有したスラリーを用い、図21に関連して説明したのとほぼ同じ条件のもとでCu配線26を形成した場合に得られたデータを示している。図22に示すように、酸化チタン粒子18とノニオン界面活性剤とを組み合わせた場合、配線間の電気的短絡及び配線の剥離の双方を抑制することができる。
上記の通り、酸化チタン粒子18とノニオン界面活性剤とを組み合わせた場合、歩留まりを向上させることができる。しかも、この場合、高い研磨速度を実現することができる。このような効果は、ノニオン界面活性剤を添加した場合に特有である。すなわち、スラリー7にアニオン界面活性剤或いはカチオン界面活性剤を添加しても、ノニオン界面活性剤を添加した場合ほどの効果は得られない。
図23は、スラリーの組成と研磨速度との関係を示すグラフである。図23に示すデータは、何れも、一次粒子径が20nm程度のアナターゼ型酸化チタン粒子18を約3重量%の濃度で含んだスラリーを使用し、図21に関連して説明したのとほぼ同じ条件のもとでCu配線26を形成した場合に得られたデータを示している。具体的には、「Sなし」はそのスラリーに界面活性剤を添加しなかった場合に得られたデータを示している。「AS1」及び「AS2」はそのスラリーにドデシルベンゼンスルホン酸系及びポリカルボン酸系のアニオン界面活性剤をそれぞれ添加した場合に得られたデータを示している。「CS」は上記スラリーにアンモニウムクロライド系のカチオン界面活性剤を添加した場合に得られたデータを示している。「NS1」は上記スラリーにノニオン界面活性剤としてアセチレンジオールを添加した場合に得られたデータを示している。「NS2」は上記スラリーにフッ素系のノニオン界面活性剤を添加した場合に得られたデータを示している。
図23に示すように、スラリー7にアニオン界面活性剤を添加した場合、界面活性剤を添加しない場合に比べ、研磨速度が低下した。また、スラリー7にアニオン界面活性剤を添加した場合、酸化チタン粒子18の凝集を生じ、それらの分散度が著しく低下した。これは、正電荷を帯びた酸化チタン粒子18に負電荷を帯びたアニオン界面活性剤が吸着し、酸化チタンの酸化力を低下させたためであると考えられる。
また、図23に示すように、スラリー7にカチオン界面活性剤を添加した場合、界面活性剤を添加しない場合に比べて研磨速度が低下し、実用的な研磨速度は得られなかった。これは、カチオン界面活性剤が酸化銅層に吸着し、酸化銅が研磨し難い材料へと変質したためであると考えられる。
本参考例において、ノニオン界面活性剤としては、例えば、アセチレンジオール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、シュガーエステル、ソルビタンエステル、グリセリンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、及びそれらの少なくとも1種を含んだ混合物などを使用することができる。また、本参考例において、ノニオン界面活性剤として、その分子内にフルオロアルキル基を含んだフッ素系のノニオン界面活性剤を使用してもよい。
本参考例において、スラリー7中のノニオン界面活性剤の濃度は0.001重量%乃至0.5重量%の範囲内にあることが好ましい。スラリー7中のノニオン界面活性剤の濃度が0.001重量%未満である場合、研磨粒子18を均一に分散させる効果が顕著には現れない。また、スラリー7中のノニオン界面活性剤の濃度が0.5重量%を超えると、研磨粒子18の光触媒作用が低減して研磨速度が低下することがある。
なお、本参考例において、スラリー7は、酸化剤は含有しない。しかしながら、研磨粒子18を酸化剤として利用するため、図19を参照して説明したように、スラリー7のpHを7以下とすることが好ましい。スラリー7のpHは、例えば、硝酸や燐酸や塩酸や硫酸のような無機酸をpH調整剤として添加することにより調節することができる。
(第5の参考例)
第3の参考例で説明したように研磨粒子18を酸化剤として利用する場合、パターン密度が研磨速度に影響を与える。これについて、図24を参照しながら説明する。
図24は、第3の参考例に係る方法でCMPを行った場合に生じ得る研磨速度のパターン密度依存性を説明する断面図である。なお、図24において、参照番号30はWN層のようなバリア層を示している。
パターン密度が低い部分51では、研磨粒子18は研磨パッド5とCu層26との間を比較的自由に動くことができる。そのため、パターン密度が低い部分51では、常に十分な密度で研磨粒子18が存在し得る。しかしながら、パターン密度が高い部分52では、研磨粒子18がCu層26の凸部上から凹部内へと入り込む確率が高い。凹部内に入り込んだ研磨粒子18は凸部上に戻ることは困難であるため、その結果、凸部上では研磨粒子18の密度が低下する。そのため、パターン密度が高い部分52では、パターン密度が低い部分51に比べて研磨速度が極端に遅くなる。
図25は、第5の参考例に係るCMPを概略的に示す断面図である。本参考例では、スラリー7に樹脂粒子41をさらに添加すること以外は第3の参考例で説明したのと同様の方法により研磨を行う。樹脂粒子41が研磨粒子18及び研磨パッド5の双方に付着し易い場合、図25に示すように、研磨粒子18がCu層26の凹部内に入り込むのを抑制することができる。したがって、第5の参考例によると、第3の参考例で説明した効果が得られるのに加え、パターン密度が高い部分52の研磨速度を高めることができる。
樹脂粒子41の材料としては、例えば、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びそれらの少なくとも1種を含んだ混合物などを使用することができる。
研磨粒子18に付着し易い樹脂粒子41としては、例えば、研磨粒子18の帯電極性とは逆極性に帯電したものを使用することができる。例えば、研磨粒子18として正電荷を帯びた酸化チタン粒子を使用する場合は、分子内に負電荷を帯びた官能基(例えば、COO-基など)を含んだ樹脂粒子や、シリカで表面処理した樹脂粒子などを使用することができる。また、研磨粒子18に付着し易い樹脂粒子41として、メカノフュージョン現象により研磨粒子18や研磨パッド5に付着し得る樹脂粒子を用いてもよい。なお、通常、研磨パッド5は有機材料でつくられているので、樹脂粒子41は強く付着し得る。
樹脂粒子41の一次粒子径は5nm乃至1000nmの範囲内で分布していることが好ましい。樹脂粒子41の一次粒子径が5nm未満の場合、樹脂粒子41が研磨粒子18を研磨パッド5に固定する効果が小さい。また、樹脂粒子41の一次粒子径が1000nmを超えると、樹脂粒子41を均一に分散させることが困難となる。
スラリー7中の樹脂粒子41の濃度は0.1重量%乃至3.0重量%の範囲内にあることが好ましい。スラリー7中の樹脂粒子41の濃度が0.1重量%未満である場合、樹脂粒子41が研磨粒子18を研磨パッド5に固定する効果が小さい。また、スラリー7中の樹脂粒子41の濃度が3.0重量%を超えると、樹脂粒子41が研磨粒子18の研磨力や酸化力を低下させることがある。
図26は、スラリー中への樹脂粒子の添加が研磨速度を高める効果の一例を示すグラフである。なお、図26に示すデータは、以下の条件のもとで得られたものである。すなわち、CMP用スラリー7としては、一次粒子径が20nm程度のアナターゼ型酸化チタン粒子18を約3重量%の濃度で含み、表面にCOO-基を有する一次粒子径が200nm程度のPMMA(ポリメチルメタクリレート)粒子41を約0.5重量%の濃度で含み、pHを約3に調節したスラリーを使用した。また、研磨布(研磨パッド)としてはIC1000/Suba400を使用した。CMPに際しては、500Wの水銀灯を点灯し続け、荷重を約300gf/cm2、ヘッド3の回転数を約100rpm、ターンテーブルの回転数を約100rpmとし、スラリー流量を200cc/minとした。このような条件下で、Cu配線26を形成した。
図26では、パターン密度が低い部分における研磨速度のデータ(「blanket」)と、パターン密度が高い部分における研磨速度のデータ(「pattern」)とが示されている。また、図26において、「樹脂なし」は樹脂粒子41を含有していないスラリーを用いた場合に得られたデータを示し、「樹脂あり」は樹脂粒子41を含有したスラリーを用いた場合に得られたデータを示している。図26に示すように、スラリー7に樹脂粒子41を添加することにより、パターン密度が低い部分における研磨速度及びパターン密度が高い部分における研磨速度の双方を高めることができた。特に、スラリー7に樹脂粒子41を添加した場合、パターン密度が高い部分における研磨速度を大幅に高めることができた。
(第6の参考例)
第5の参考例では、スラリー7に樹脂粒子41を添加することにより研磨速度を高めた。第6の参考例では、スラリー7に研磨粒子18の帯電極性と同極性に帯電した無機粒子を添加して研磨速度を高める。
図27は、第6の参考例に係るCMPを概略的に示す断面図である。本参考例では、スラリー7に無機粒子42をさらに添加すること以外は第3の参考例で説明したのと同様の方法により研磨を行う。スラリー7に研磨粒子18の帯電極性と同極性に帯電した無機粒子42を添加した場合、スラリー7の機械的研磨力が向上する。したがって、第6の参考例によると、第3の参考例で説明した効果が得られるのに加え、研磨速度を高めることができる。
なお、研磨粒子18の帯電極性と無機粒子42の帯電極性とが異なっている場合、研磨速度を高めることは困難である。例えば、酸化チタン粒子18は正電荷を帯びており、アルミナ粒子42も正電荷を帯びている。そのため、酸化チタン粒子18とアルミナ粒子42との静電気力による凝集は生じ難い。したがって、酸化チタン粒子18の酸化力を低下させることなくスラリー7の機械的研磨力を高めることができる。これに対し、酸化チタン粒子18とシリカ粒子のように負電荷を帯びている無機粒子とを組み合わせた場合、それら粒子同士で凝集してしまう。そのため、酸化チタン粒子18の酸化力が低下し、研磨速度は逆に低下することとなる。
本参考例において、研磨粒子18として酸化チタン粒子を使用し且つ無機粒子42としてアルミナ粒子を使用する場合、スラリー7を調製する際に、酸化チタン粒子18とアルミナ粒子42とは粉体状態で混合しないことが望ましい。すなわち、酸化チタン粒子18の分散液とアルミナ粒子42の分散液とを混合するか、酸化チタン粒子18及びアルミナ粒子42の一方の分散液中に他方を添加することが望ましい。酸化チタン粒子18とアルミナ粒子42とを粉体状態で混合すると、酸化チタン粒子18とアルミナ粒子42とが一体化されて複合粒子を生じることがある。そのような複合粒子を生じると、酸化チタンの表面積が減少し、その酸化力が著しく低下する。
アルミナ粒子42の一次粒子径は5nm乃至100nmの範囲内で分布していることが好ましい。アルミナ粒子42の一次粒子径が5nm未満の場合、機械的研磨力が高まる効果が小さい。また、アルミナ粒子42の一次粒子径が100nmを超えると、スクラッチが発生し易くなる。
スラリー7中のアルミナ粒子42の濃度は0.1重量%乃至3.0重量%の範囲内にあることが好ましい。スラリー7中のアルミナ粒子42の濃度が0.1重量%未満である場合、機械的研磨力が高まる効果が現れない。また、スラリー7中のアルミナ粒子42の濃度が3.0重量%を超えると、アルミナ粒子42が研磨粒子18の研磨力や酸化力を低下させることがある。
図28は、スラリー中への無機粒子の添加が研磨速度を高める効果の一例を示すグラフである。なお、図28に示すデータは、以下の条件のもとで得られたものである。すなわち、CMP用スラリー7としては、一次粒子径が20nm程度のアナターゼ型酸化チタン粒子18を約3重量%の濃度で含み、一次粒子径が50nm程度のγアルミナ粒子42を約0.5重量%の濃度で含み、pHを約3に調節したスラリー7を使用した。また、研磨布(研磨パッド)としてはIC1000/Suba400を使用した。CMPに際しては、500Wの水銀灯を点灯し続け、荷重を約300gf/cm2、ヘッド3の回転数を約100rpm、ターンテーブルの回転数を約100rpmとし、スラリー流量を200cc/minとした。このような条件下で、Cu配線26を形成した。
図28において、「アルミナなし」はアルミナ粒子21を含有していないスラリーを用いた場合に得られたデータを示し、「アルミナあり」はアルミナ粒子42を含有したスラリーを用いた場合に得られたデータを示している。また、「シリカあり」はアルミナ粒子42の代わりにシリカ粒子を含有したスラリーを用いた場合に得られたデータを示している。
図28に示すように、スラリー7にシリカ粒子を添加した場合、パターン密度が低い部分における研磨速度及びパターン密度が高い部分における研磨速度の双方が大幅に低下し、実用的な研磨速度は得られなかった。これに対し、スラリー7にアルミナ粒子42を添加した場合、パターン密度が低い部分における研磨速度及びパターン密度が高い部分における研磨速度の双方を高めることができた。特に、スラリー7にアルミナ粒子42を添加した場合、パターン密度が高い部分における研磨速度を大幅に高めることができた。
(第7の参考例)
上述した第1乃至第6の参考例では、研磨粒子18として主に酸化チタン粒子を使用した場合について説明した。第7の参考例では、窒素及び/または硫黄をドープした酸化チタン粒子を研磨粒子18として使用する。
上記の通り、酸化チタンの光触媒作用は主として波長が380nm以下の紫外領域の光を照射することにより発現する。そのため、CMP装置には、水銀灯やブラックライトなどの紫外線照射装置を設ける必要がある。しかも、紫外線は人体に悪影響を与えるおそれがある。
しかしながら、酸化チタン粒子18に紫外線の代わりに可視光線を使用した場合、光触媒作用を十分に発現させることができない。そのため、この場合、実用的な研磨速度を得ることができない。したがって、研磨粒子18は、より長い波長の光を照射した場合でも光触媒作用を十分に発現し得るものであることが望まれる。
図29(a)は酸化チタンのエネルギーバンドを示す図であり、図29(b)は窒素をドープした酸化チタンのエネルギーバンドを示す図であり、図29(c)はアルミナまたはシリカのエネルギーバンドを示す図である。図29(a)に示すように、酸化チタンのバンドギャップは3.2eVであり、紫外域の光を吸収することにより光触媒作用を発現する。これに対し、酸化チタンに窒素をドープした場合、図29(b)に示すように、酸化チタンの価電子帯と伝導帯との間に新たなエネルギー準位が形成される。そのため、実効的なバンドギャップをより小さくすることができる。したがって、紫外線よりも低エネルギーの可視光線でも光触媒作用を発現させることが可能となる。なお、図29(c)に示すように、アルミナやシリカのバンドギャップは8eVよりも大きい。そのため、それらに紫外域の光を照射しても光触媒作用は発現しない。
図30は、研磨粒子18に照射した光の波長と光励起により生じた正孔の数との関係を示すグラフである。図中、横軸は研磨粒子18に照射した光の波長を示し、縦軸は光照射により研磨粒子18に生じた正孔の数を示している。なお、研磨粒子18の酸化力は生じた正孔の数にほぼ比例している。
図30に示すように、研磨粒子18の材料が酸化チタンである場合、紫外線を照射すれば十分な数の正孔を生じさせることができるものの、可視光線を照射しても十分な数の正孔を生じさせることはできない。これに対し、窒素をドープした酸化チタンを研磨粒子18の材料として使用すると、紫外線を照射した場合だけでなく、可視光線を照射した場合にも十分な数の正孔を生じさせることが可能となる。そのため、本参考例によると、可視光線を照射した場合にも十分な酸化力を得ることができる。したがって、本参考例によると、窒素をドープした酸化チタンを研磨粒子18の材料として使用すること以外は第1乃至第6の参考例に記載したのと同様の方法でCMPを行った場合、照射光として紫外線を利用したときだけでなく可視光線を利用したときにも、それら参考例で説明した効果を得ることができる。
本参考例において、研磨粒子18の材料として、窒素をドープした酸化チタンの代わりに硫黄をドープした酸化チタンを使用してもよい。或いは、研磨粒子18の材料として、窒素をドープした酸化チタンの代わりに窒素及び硫黄の双方をドープした酸化チタンを使用してもよい。これらの場合も、研磨粒子18の材料として窒素をドープした酸化チタンを使用した場合と同様の効果を得ることができる。
本参考例において、酸化チタン中の窒素及び/または硫黄の濃度は、10原子%以下であることが好ましく、2原子%以下であることがより好ましい。窒素及び/または硫黄の濃度が過剰に高いと、研磨粒子18の光触媒としての能力が低下することがある。また、本参考例において、酸化チタン中の窒素及び/または硫黄の濃度は、0.05原子%以上であることが好ましく、0.1原子%以上であることがより好ましい。窒素及び/または硫黄の濃度が低いと、可視光線を照射することにより十分な光触媒作用を発現させることが困難となることがある。
本参考例において、スラリー7のpHは約3乃至約5の範囲内にあることが好ましい。スラリー7のpHが7程度である場合、研磨粒子18のゼータ電位がゼロ(等電点)に近づくため、凝集し易くなる。また、スラリー7がアルカリ性である場合、被研磨金属面に研磨し難い金属水酸化物が形成され、研磨速度が低下することがある。さらに、pHが約3未満である場合、被研磨金属面がウェットエッチングされて不所望な溶解を生ずることがある。
本参考例において、窒素をドープした酸化チタン粒子18、硫黄をドープした酸化チタン粒子18、及び、窒素及び硫黄の双方をドープした酸化チタン粒子18は、様々な方法で得ることができる。例えば、ゾル−ゲル法や化学反応法を利用して得ることができる。
(第8の参考例)
酸化チタンに紫外線を照射することにより生じる電子と正孔とは再結合し易い。通常、それらの寿命は100nsec程度である。このような正孔の短い寿命は酸化チタン粒子18の酸化力を制限し、研磨速度を律速することがある。
第8の参考例では、電荷分離物質を担持した酸化チタン粒子を研磨粒子18として使用する。そのような研磨粒子18を使用した場合、酸化チタンに光を照射することにより生じる電子と正孔との再結合を抑制することができる。例えば、電荷分離物質としてニッケルを担持した酸化チタン粒子を研磨粒子18として使用した場合には、光照射により生じた電子はニッケル上で下記反応式:
2H+ + 2e- → H2
に示す還元反応を生じ得る。
そのため、光照射により生じた電子はニッケルに向けて移動し、正孔と電子とが再結合する確率が低下する。
図31は、研磨粒子18に照射した光の波長と研磨粒子18中の正孔の数との関係を示すグラフである。図中、横軸は研磨粒子18に照射した光の波長を示し、縦軸は光照射時における研磨粒子18中の正孔の数を示している。
図31に示すように、ニッケルのような電荷分離材料を担持した酸化チタン粒子18を使用した場合、酸化チタン粒子18を使用した場合に比べて、紫外線照射時における研磨粒子18中の正孔の数を高めることができる。そのため、より高い酸化力を得ることができる。したがって、本参考例によると、電荷分離材料を担持した酸化チタン粒子18を使用すること以外は第1乃至第6の参考例に記載したのと同様の方法でCMPを行った場合、それら参考例で説明した効果が得られるのに加え、より高い研磨速度を実現することが可能となる。
本参考例では、電荷分離物質として、ニッケル、銅、銀、金、ニオブ、及びそれらの混合物の何れかを使用する。鉛やバナジウムやクロムなどは、毒性が強いため、危険であり、また、環境問題を引き起こす原因になる。特に、酸化バナジウムは猛毒であり、使用に際して危険を伴う。これに対し、ニッケルや銅や銀や金やニオブは毒性が低く、取り扱いも容易である。
本参考例において、酸化チタン表面の電荷分離物質で被覆された面積である被覆率は、90%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。この被覆率が過剰に高いと、研磨粒子18の光触媒としての能力が低下することがある。また、本参考例において、上記被覆率は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。上記被覆率が低いと、正孔と電子とが再結合する確率を顕著に低下させることができない。
第9の参考例では、第7及び第8の参考例で説明した技術の組み合わせを利用する。すなわち、電荷分離材料を担持し且つ窒素及び/または硫黄をドープした酸化チタン粒子を研磨粒子18として使用する。
図32は、研磨粒子18に照射した光の波長と研磨粒子18中の正孔の数との関係を示すグラフである。図中、横軸は研磨粒子18に照射した光の波長を示し、縦軸は光照射時における研磨粒子18中の正孔の数を示している。
図32に示すように、例えば、ニッケルのような電荷分離材料を担持し且つ窒素をドープした酸化チタン粒子18を使用した場合、酸化チタン粒子18を使用した場合に比べて、紫外線照射時だけでなく、可視光線照射時にも研磨粒子18中の正孔の数を高めることができる。したがって、可視光線照射時にも、より高い酸化力を得ることができ、より高い研磨速度を実現することが可能となる。すなわち、第7及び第8の参考例で説明した効果の双方を得ることができる。なお、本参考例では、電荷分離物質として、例えば、ニッケル、銅、銀、金、白金、ニオブ、及びそれらの混合物の何れかを使用することができる。
図33は、研磨粒子18の種類と研磨速度との関係を示すグラフである。図33に示すデータは、図14(a)に示す構造を以下の条件のもとで形成した場合に得られたものである。すなわち、CMP用スラリー7としては、研磨粒子18を約3重量%の濃度で含み且つpHを約3としたスラリーを使用した。また、研磨布(研磨パッド)としてはIC1000/Suba400を使用した。CMPに際しては、500Wの水銀灯を点灯し続け、荷重を約300gf/cm2、ヘッド3の回転数を約100rpm、ターンテーブルの回転数を約100rpmとし、スラリー流量を200cc/minとした。このような条件下で、幅が42.50μmのCu配線26を7.5μmの間隔で形成した。
なお、図33において、「Al2O3」、「SiO2」、「TiO2」は、それぞれ、研磨粒子18として酸化アルミニウム粒子、酸化珪素粒子、酸化チタン粒子を使用した場合に得られたデータを示している。「TiON」は、研磨粒子18として、窒素をドープした酸化チタン粒子を使用した場合に得られたデータを示している。「Ni/TiO2」は、研磨粒子18として、Niを担持した酸化チタン粒子を使用した場合に得られたデータを示している。「Ni/TiON」は、研磨粒子18として、窒素をドープし且つNiを担持した酸化チタン粒子を使用した場合に得られたデータを示している。
図33に示すように、研磨粒子18として酸化チタン粒子を使用した場合、水銀灯(500W)を照射し続けながらCMPを行ったときには実用的な研磨速度が得られるものの、蛍光灯(30W)を照射し続けながらCMPを行ったときに実用的な研磨速度を得ることはできなかった。これに対し、研磨粒子18として窒素をドープした酸化チタン粒子を使用した場合、水銀灯を照射し続けながらCMPを行ったときにはより高い研磨速度が得られ、蛍光灯を照射し続けながらCMPを行ったときにも実用的な研磨速度を得ることができた。また、研磨粒子18としてNiを担持した酸化チタン粒子を使用した場合、水銀灯を照射し続けながらCMPを行ったときにはより高い研磨速度を得ることができた。さらに、研磨粒子18として窒素をドープし且つNiを担持した酸化チタン粒子を使用した場合、水銀灯を照射し続けながらCMPを行ったときには極めて高い研磨速度が得られ、蛍光灯を照射し続けながらCMPを行ったときにも非常に高い研磨速度を得ることができた。
なお、酸化チタン粒子を研磨粒子18として使用したスラリー7にCu膜を浸漬して、ウェットエッチングを行った。その結果、光照射時及び遮光時の双方で、エッチングレートは1nm/min以下であった。また、図33に示すように、酸化チタン粒子を研磨粒子18として使用した場合、遮光時の研磨速度は光照射時の研磨速度に比べて著しく低い。これら結果から、酸化チタン粒子を研磨粒子18として使用した上記のCMPでは、分散媒25中に溶解したpH調整剤などによるウェットエッチングは銅の除去に殆ど寄与しておらず、銅の除去は、主として、酸化チタン粒子18による銅の酸化とそれにより生じた銅の酸化チタン粒子18による機械的研磨とによって進行することが確認された。
また、研磨粒子18として、酸化チタン粒子を使用した場合、窒素をドープした酸化チタン粒子を使用した場合、研磨粒子18としてNiを担持した酸化チタン粒子を使用した場合、研磨粒子18として窒素をドープし且つNiを担持した酸化チタン粒子を使用した場合の何れにおいても、ジャストポリッシュからさらに60%研磨したオーバーポリッシュの時点で、ディッシングやエロージョンは60nm以下であった。すなわち、良好な平坦性を実現することができた。
(第10の参考例)
次に、第10の参考例について説明する。第1乃至第9の参考例では、研磨粒子18の光触媒作用をCMPの最中に利用した。これに対し、第10の参考例では、研磨粒子18の光触媒作用をCMP用スラリー7の保管時に利用する。
先に説明したように、CMP用スラリーを使用せずに保管しておくと、研磨粒子が凝集して巨大な粗大粒子を生じ、最終的には沈殿する。本参考例では、研磨粒子18として分散度が光照射により向上するもの,例えば酸化チタン粒子,を使用し、スラリー7を保管している間、スラリー7に上記光を連続的に照射する。これにより、研磨粒子18の良好な分散状態を維持することができる。なお、研磨粒子18の良好な分散状態(例えば、研磨粒子18の沈殿を生じない程度の分散状態)を維持可能であれば、スラリー7に上記光を連続的に照射する代わりに、上記光を断続的に照射してもよい。また、スラリー7に照射する光の強さは、研磨粒子18の良好な分散状態を維持することが可能であれば特に制限はない。
図34は、CMP用スラリーの保管日数とスラリー中の粗大粒子数との関係を示すグラフである。図中、横軸は保管日数を示し、縦軸は粗大粒子数を示している。また、図中、実線は研磨粒子18として酸化チタン粒子を使用し且つ保管時にスラリー7に紫外線を照射し続けた場合に得られたデータを示し、破線は保管時にスラリー7に光を照射しなかった場合に得られたデータを示している。
図34に示すように、スラリー7に光を照射しなかった場合、スラリー中の粗大粒子数は時間の経過とともに増加した。それに対し、スラリー7に紫外線を照射し続けた場合、経過時間に拘らず、粗大粒子数はほぼ一定であった。
また、研磨粒子18として酸化チタン粒子のように光照射により酸化力や還元力が誘起されるものを使用したCMP用スラリー7を使用せずに保管しておくと、光照射により誘起される酸化力や還元力が低下することがある。これに対しても、スラリー7を保管している間、スラリー7に光を連続的或いは断続的に照射することが有効である。
図35は、CMP用スラリーの保管日数と研磨速度との関係を示すグラフである。図中、横軸は保管日数を示し、縦軸は研磨速度を示している。また、図中、実線は研磨粒子18として酸化チタン粒子を使用し且つ保管時にスラリー7に紫外線を照射し続けた場合に得られたデータを示し、破線は保管時にスラリー7に光を照射しなかった場合に得られたデータを示している。
図35に示すように、スラリー7に光を照射しなかった場合、研磨速度は保管開始からの経過日数に応じて低下した。それに対し、スラリー7に紫外線を照射し続けた場合、経過日数に拘らず、研磨速度はほぼ一定であった。
このように、本参考例によると、研磨粒子18の凝集などに起因したスラリー7の劣化を抑制することができる。また、紫外線を連続的に照射し続けた状態でスラリー7を長期保存しても、分散度や酸化力が高い状態に維持されること以外の光化学反応は起こり難い。しかも、例え、それら以外の光化学反応が起こったとしても、そのような光化学反応がスラリー7に与える影響は極めて小さい。したがって、本参考例によると、CMP用スラリーの寿命を大幅に長くすることが可能となる。
(第11の参考例)
次に、第11の参考例について説明する。第11の参考例では、研磨粒子18の光触媒作用をCMP用スラリー7をCMPに使用した後に利用する。
上述のように、使用後のCMP用スラリー7の廃液中には、自然環境中では分解され難い有機物などが多量に含まれていることがある。本参考例では、使用後のスラリー7に研磨粒子18の酸化力或いは還元力を誘起し得る光を照射して、スラリー7中の有機物などを分解する。このような分解処理を行えば、使用後のスラリー7を自然環境へと廃棄したとしても環境に負荷を与えることがない。すなわち、薬液などを使用した化学処理が不要となる。
なお、太陽光は様々な波長の光を含んでいるので、研磨粒子18の酸化力或いは還元力を誘起し得る。したがって、スラリー7中の有機物などを分解するのに太陽光を利用してもよい。例えば、使用後のスラリー7に上記分解処理を施さずに太陽光が到達し得る自然環境中へと廃棄したとしても、使用後のスラリー7中に含まれる有機物などを分解することができる。また、スラリー7を太陽光が到達し得る自然環境中へと廃棄した場合には、自然環境を浄化することもできる。例えば、環境汚染物質として代表的なテトラクロロエチレンは、酸化チタンの光触媒作用により、以下の反応式:
C2H2Cl4 + 4H2O → 2CO2 + 4HCl + 6H+
で示すように分解することができる。
このように、第11の参考例によると、使用後のCMP用スラリー7を自然環境に対して殆ど無害な状態にすることに加え、使用後のCMP用スラリー7を自然環境の浄化に利用することが可能となる。
(第12の参考例)
第11の参考例では使用後のスラリー7を自然環境の浄化に利用した。これに対し、第12の参考例では、使用後のスラリー7をCMPに再利用する。
図36は、第12の参考例に係るCMP用スラリーの再利用システムを概略的に示す図である。図36に示す再利用システム61は、スラリー7をCMP装置1に供給するスラリー供給装置62と、CMP装置1で使用したスラリー7を回収するスラリー回収装置63と、スラリー回収装置63が回収したスラリー7から削りカス70を除去するフィルタ64と、フィルタ64により削りカス70を除去したスラリー7をスラリー供給装置62へと供給する再生スラリー供給装置65と、光照射装置66a乃至66cとを含んでいる。なお、ここで使用するCMP装置1は、例えば、図6や図10を参照して説明したCMP装置1のように光照射装置10及び/または33を内蔵し得る。
CMP装置のランニングコストの多くは、研磨パッドのコストとスラリーのコストとが占めている。したがって、コストの観点からは、使用後のスラリーを再利用する技術が重要である。しかしながら、従来のスラリーは再利用が困難である。これは、従来のスラリーで酸化剤として使用している過硫酸アンモニウムや硝酸鉄や有機酸などが金属と化合物を形成することや、CMPに伴って生じる削りカスと研磨粒子とが粗大粒子を形成するため再生可能な研磨粒子が少なくなることなどに起因している。
本参考例では、酸化チタン粒子のように光照射により分散度や酸化力が高まる研磨粒子18を酸化剤として利用し、別途、酸化剤は添加しない。そのため、不所望な金属化合物の生成を抑制することができる。また、酸化チタン粒子18の酸化剤としての能力は、その光触媒としての能力の1つであるので、繰り返し利用することができる。しかも、削りカスと研磨粒子18とが粗大粒子を形成したとしても光照射によりそれらを離散させることができるため、研磨粒子18と削りカスとの分離が容易である。したがって、本参考例によると、より多くの研磨粒子をより容易に回収することができる。
(第13の参考例)
図37は、第13の参考例に係るCMP用スラリーの再利用システムを概略的に示す図である。図37に示す再利用システム61は、スラリー7をCMP装置1に供給するスラリー供給装置62と、CMP装置1で使用したスラリー7を回収するスラリー回収装置63と、スラリー回収装置63が回収したスラリー7中の削りカス70を溶解処理する溶解処理装置67と、溶解処理装置67で処理したスラリー7中の研磨粒子18を遮光することにより凝集させる凝集装置68と、凝集装置68で処理したスラリー7中の凝集した研磨粒子18を分散媒25などから分離するフィルタ64と、フィルタ64が回収した研磨粒子18と新たな分散媒25などとを混合してスラリー7を再生するとともに再生したスラリー7をスラリー供給装置62へと供給する再生スラリー供給装置65と、光照射装置66a乃至66dとを含んでいる。なお、ここで使用するCMP装置1は、例えば、図6や図10を参照して説明したCMP装置1のように光照射装置10及び/または33を内蔵し得る。
本参考例では、第12の参考例とは異なり、スラリー7中の削りカス70はフィルタリングにより除去するのではなく溶解処理により除去する。そのため、本参考例では、第12の参考例で説明した効果が得られるのに加え、再生したスラリー7中に削りカス70が混入することや、削りカス70だけでなく研磨粒子18までもがフィルタリングされて研磨粒子18の回収効率が低下することを防止可能である。また、本参考例では、研磨粒子18以外は再利用しないので、再生したスラリー7は新たなスラリー7と同等の研磨能力を有する。さらに、本参考例では、(例えば粒子径が100μm程度の二次粒子を生じるように)研磨粒子18を凝集させて分散媒25などから分離するので、研磨粒子18を高い効率で回収可能である。
本参考例において、溶解処理装置67での削りカス70の溶解処理は、例えば、スラリー回収装置63から供給されるスラリー7と濃度を6mol/L程度とした硝酸水溶液とを混合することにより行うことができる。なお、この場合、削りカス70,例えば酸化銅,は、以下の反応式:
CuO + 2HNO3 → Cu(NO)3 + H2O
で示すように溶解する。
また、溶解処理装置67での削りカス70を溶解処理は、例えば、スラリー回収装置63から供給されるスラリー7と濃度を6mol/L程度とした塩酸水溶液とを混合することにより行うことができる。なお、この場合、削りカス70,例えば酸化銅,は、以下の反応式:
CuO + 2HCl → CuCl2 + H2O
で示すように溶解する。
第12及び第13の参考例において、スラリー7は界面活性剤などのように有機酸以外の有機成分を含有することができる。但し、第12及び第13の参考例では、スラリー7が界面活性剤を含有していない場合であっても、光照射装置66a乃至66cや光照射装置10及び/または33を点灯し続けるか或いは断続的に点灯することにより、研磨粒子18を良好な分散状態に維持することができる。しかも、スラリー7が有機物を含有していない場合、有機成分の変質を生じることがないため、再生スラリーに新たな有機成分を添加する必要がない。したがって、ランニングコストを低減する観点では、スラリー7は有機成分を含有していないことが好ましい。なお、スラリー7に有機酸などの有機成分を添加しない場合、pH調整剤として無機酸を使用することによりスラリー7のpHを調節することができる。したがって、スラリー7は、例えば、水のような分散媒25、酸化チタン粒子のような研磨粒子18、及び無機酸のみで構成することができる。
また、第12及び第13の参考例では、第1乃至第9の参考例で説明したスラリー7を使用することができる。但し、第4及び第5の参考例で説明したスラリー7は有機成分を含有しているので、第1乃至第3及び第6乃至第9の参考例で説明したスラリー7を使用することが好ましい。
以上説明した各参考例に係る技術は互いに組み合わせることができる。例えば、第7乃至第9の参考例の何れかで説明した研磨粒子18を第5または第6の参考例で説明したスラリー7で使用することができる。また、第4の参考例で説明したスラリー7に、第5の参考例で説明した樹脂粒子及び第6の参考例で説明した無機粒子の少なくとも一方を加えることができる。なお、第4の参考例において、スラリー7に、第5の参考例で説明した樹脂粒子を加えた例は、本発明の実施形態に相当する。さらに、第1乃至第3の参考例で説明した研磨粒子18と、第7の参考例で説明した研磨粒子と、第8の参考例で説明した研磨粒子18との少なくとも2種を互いに混合して使用することもできる。
このように、ここでは、例えば、以下の技術が提供される。
すなわち、第1態様によると、分散媒と、前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子と、前記分散媒中に溶解したノニオン界面活性剤とを含有した化学的機械的研磨用スラリーが提供される。
第2態様によると、分散媒と、前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子と、前記分散媒中に分散した樹脂粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーが提供される。
第3態様によると、分散媒と、前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子と、前記分散媒中に分散したアルミナ粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーが提供される。
第4態様によると、分散媒と、前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有し、前記研磨粒子は、チタンと、酸素と、ニッケル、銅、銀、金、及びニオブからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを含有した化学的機械的研磨用スラリー。
第5態様によると、分散媒と、前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有し、前記研磨粒子は、チタンと、酸素と、窒素及び硫黄の少なくとも一方の元素とを含有した化学的機械的研磨用スラリーが提供される。
第6態様によると、前記研磨粒子は、酸化チタン、酸化スズ、酸化ニオブ、セレン化カドミウム、及び硫化カドミウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有した第1乃至第3態様の何れかに係るスラリーが提供される。
第7態様によると、前記研磨粒子は可視光線照射により前記光触媒作用を呈する第5態様に係るスラリーが提供される。
第8態様によると、前記研磨粒子は紫外線照射により前記光触媒作用を呈する第1乃至第7態様の何れかに係るスラリーが提供される。
第9態様によると、前記研磨粒子の酸化力は前記光照射により高まる第1乃至第8態様の何れかに係るスラリーが提供される。
第10態様によると、前記研磨粒子の親水性は前記光照射により高まる第1乃至第9態様の何れかに係るスラリーが提供される。
第11態様によると、前記研磨粒子はアナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタンを含有した第1乃至第10態様の何れかに係るスラリーが提供される。
第12態様によると、前記研磨粒子の一次粒子径は5nm乃至1000nmの範囲内で分布しており、前記研磨粒子の二次粒子径は100nm乃至1000nmの範囲内で分布している第1乃至第11態様の何れかに係るスラリーが提供される。
第13態様によると、前記研磨粒子の一次粒子径は5nm乃至20nmの範囲内で分布している第12態様に係るスラリーが提供される。
第14態様によると、第1乃至第13態様の何れかに係るスラリーを用いて被研磨基板の被研磨部に化学的機械的研磨処理を施す際に、前記スラリーに向けて光を照射することを含んだ半導体装置の製造方法が提供される。
第15態様によると、研磨部材と被研磨基板とを相対移動させることにより前記被研磨基板の被研磨部を化学的機械的研磨する半導体装置の製造方法であって、前記研磨部材と前記被研磨基板との間に分散媒と前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーを供給すること、及び、前記研磨部材と前記被研磨基板との間に介在した前記スラリーに光を照射することを含んだ半導体装置の製造方法が提供される。
第16態様によると、前記化学的機械的研磨処理の間に前記光の強度及び前記光のスペクトルの少なくとも一方を変化させる第14または第15態様に係る方法が提供される。
第17態様によると、前記被研磨基板を保持した基板保持具に加わる荷重及び前記研磨部材を保持した研磨治具に加わる荷重の少なくとも一方の大きさに応じて前記光の強度及び前記光のスペクトルの少なくとも一方を変化させる第16態様に係る方法が提供される。
第18態様によると、前記光を前記被研磨基板の前記被研磨部とは反対側から照射する第14乃至第17態様の何れかに係る方法が提供される。
第19態様によると、前記被研磨部は金属を主成分とした層を含んだ第14乃至第18態様の何れかに係る方法が提供される。
第20態様によると、前記金属を主成分とした層は、金属、合金、金属窒化物、金属硼化物、金属酸化物、及び、窒素と硼素と酸素との少なくとも2種を含有した金属化合物からなる群より選択される材料を含有し、前記材料はその構成元素としてアルミニウム、銅、タングステン、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、及びバナジウムからなる群より選択される金属元素を含んだ第19態様に係る方法が提供される。
第21態様によると、半導体基板上に凹部が設けられた絶縁膜を形成することと、前記絶縁膜上に窒化タングステンを含んだバリア層を形成して前記凹部の底面及び側壁を被覆することと、前記バリア層上に銅を含んだ金属層を形成して前記凹部を埋め込むことと、前記金属層を化学的機械的研磨することとを含み、前記化学的機械的研磨は、分散媒と前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーを研磨部材上に供給すること、前記研磨部材上に供給した前記スラリーに前記光を照射すること、及び、前記光を照射した前記スラリーを前記研磨部材と前記金属表面との間に介在させながら前記研磨部材と前記半導体基板とを相対移動させることを含んだ半導体装置の製造方法が提供される。
第22態様によると、前記化学的機械的研磨に使用する研磨部材を60rpm乃至140rpmの範囲内の回転数で回転させながら前記化学的機械的研磨を行う第14乃至第21態様の何れかに係る方法が提供される。
第23態様によると、前記化学的機械的研磨に使用する研磨部材は3重量%以下の導電性成分濃度を有している第14乃至第22態様の何れかに係る方法が提供される。
第24態様によると、前記化学的機械的研磨の後に前記化学的機械的研磨に使用した前記スラリーに光を照射することをさらに含んだ第17乃至第23態様の何れかに係る方法が提供される。
第25態様によると、分散媒と前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーを用いて被研磨基板に化学的機械的研磨処理を施し、その後、前記化学的機械的研磨処理に使用した前記スラリーに向けて光を照射する半導体装置の製造方法が提供される。
第26態様によると、分散媒と前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーを用いて被研磨基板の被研磨部を化学的機械的研磨することと、前記化学的機械的研磨に使用した前記スラリーから前記化学的機械的研磨に伴って生じる削りカスを除去して前記化学的機械的研磨に利用可能な再生スラリーを生成することとを含んだ半導体装置の製造方法が提供される。
第27態様によると、分散媒と前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーを用いて被研磨基板の被研磨部を化学的機械的研磨することと、前記化学的機械的研磨に伴って生じ且つ前記化学的機械的研磨に使用した前記スラリーに含まれる削りカスを溶解させることと、前記削りカスを溶解させた前記スラリーから前記研磨粒子を回収することと、前記回収した研磨粒子を用いて前記化学的機械的研磨に利用可能な再生スラリーを生成することとを含んだ半導体装置の製造方法が提供される。
第28態様によると、被研磨基板を保持可能な基板保持具と、研磨部材を保持可能な研磨治具と、前記基板保持具に保持された前記被研磨基板と前記研磨治具に保持された前記研磨部材とを対向させながら前記基板保持具を前記研磨治具に対して相対移動させる駆動機構と、前記研磨治具に保持された前記研磨部材の前記基板保持具に保持された前記被研磨基板に対向した面に化学的機械的研磨用スラリーを供給可能なスラリー供給装置と、前記研磨部材の前記被研磨基板に対向した面に供給した前記スラリーに光を照射する光照射装置とを具備した半導体装置の製造装置が提供される。
第29態様によると、前記光照射装置は、前記被研磨基板の前記研磨部材に対向した面の裏面に前記光を放射し且つ前記被研磨基板の前記裏面に放射された光の少なくとも一部が前記被研磨基板を透過して前記被研磨基板と前記研磨部材との間に介在した前記スラリーを照射するように構成された第28態様に係る装置が提供される。
第30態様によると、前記光照射装置が放射する前記光の強度及び/またはスペクトルは可変である第29または第30態様に係る装置が提供される。
第31態様によると、前記光照射装置は前記光として紫外線を照射可能である第28乃至第30態様の何れかに係る装置が提供される。
第32態様によると、分散媒と前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有した化学的機械的研磨用スラリーを保管している間に前記スラリーに前記光を連続的に或いは断続的に照射する化学的機械的研磨用スラリーの取り扱い方法が提供される。
第33態様によると、分散媒と前記分散媒中に分散し且つ光照射により光触媒作用を呈する研磨粒子とを含有し、前記研磨粒子の酸化力は前記光照射により高まる化学的機械的研磨用スラリーを自然環境中に放出し、前記自然環境中に放出した前記スラリーへの前記光照射により前記自然環境及び前記スラリーの少なくとも一方を浄化する化学的機械的研磨用スラリーの取り扱い方法が提供される。
第34態様によると、前記光は紫外線である第32または第33態様に係る方法が提供される。
第35態様によると、前記光は紫外線を含む太陽光線である第34態様に係る方法が提供される。
1…CMP装置、2…被研磨基板、3…ヘッド、5…研磨パッド、6…ターンテーブル、7…CMP用スラリー、8…スラリー供給装置、8a…供給ノズル、10…光照射装置、11…ヘッド駆動装置、12…ヘッド用センサ、13…A/Dコンバータ、14…制御装置、15…テーブル駆動装置、16…テーブル用センサ、17…A/Dコンバータ、18…研磨粒子、19…筐体、20…二次粒子、22…添加剤、23…半導体基板、24,24a,24b…絶縁膜、25…分散媒、26,26a,26b…金属膜、27…チタン原子、28…酸素原子、30,30a,30b…バリア層、31…ヘッド、32…吸引室、33…光照射装置、34…通気路、35…バッキングフィルム、36…吸引孔、41…樹脂粒子、42…無機粒子、43…酸化膜、61…再利用システム、62…スラリー供給装置、63…スラリー回収装置、64…フィルタ、65…再生スラリー供給装置、66a乃至66d…光照射装置、67…溶解処理装置、68…凝集装置、70…削りカス、108…ディッシング、109…スクラッチ。