JP4817542B2 - フッ素化ビニルエーテルの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食塩電解用隔膜や燃料電池用隔膜として有用なフッ素系イオン交換膜の原料モノマーであるフッ素化ビニルエーテルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
苛性ソーダや塩素を製造する食塩電解ではイオン交換膜法が広く採用されており、その隔膜であるイオン交換膜としては、電流効率が優れていることからパーフルオロスルホン酸ポリマーとパーフルオロカルボン酸ポリマーの積層タイプの膜が主として用いられている。また近年、電解質として固体高分子隔膜を用いた燃料電池が、小型軽量化が可能であり、かつ比較的低温でも高い出力密度が得られることから注目され、特に自動車用途に向けた開発が加速されている。ここでも現在、実用化に向けた検討としては固体電解質膜としてパーフルオロスルホン酸ポリマーが採用されている。
【0003】
どちらの用途においても用いられているパーフルオロスルホン酸ポリマーとしては下記式(4):
【化4】
(式中、m=0〜1、n=1〜5の整数である。)
の構造のものが一般的である。これらのポリマーは、下記式(5):
【化5】
(式中、m、nは上記式(4)と同じ。)
で表されるフッ素化ビニルエーテルモノマーとテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体を製膜した後、加水分解反応を施すことによって得られる。
【0004】
このフッ素化ビニルエーテルモノマーについては、それぞれの構造に応じた種々の製造方法が提案されている。特により一般的に用いられているm=1、即ち上記式(2)のモノマーに限定すると、最も有用な製造方法は上記式(1)の酸フルオリドを熱分解して製造する方法である。例えば特開昭47−365号公報(n=2)や特開昭56−90054号公報(n=3)には235〜240℃に加熱した炭酸ナトリウム粉末中に、上記式(1)の酸フルオリドをフィードし、熱分解して生成したビニルエーテルモノマーを冷却捕集する方法が開示されている。さらには上記式(1)の酸フルオリド(n=2)を炭酸ナトリウムと反応させて酸フルオリドをカルボン酸のナトリウム塩に変換した後、このナトリウム塩を加熱して熱分解させ、ビニルエーテルモノマーを得る方法も知られている(特公昭41−7949号公報)。
【0005】
これらの熱分解を経由する方法は簡便で且つ比較的好収率を与える製造法ではあるが、まず特開昭47−365号公報や特開昭56−90054号公報の方法では一般に原料の酸フルオリドの沸点が反応温度よりも低いため、炭酸塩との接触効率が悪く、転化率を上げにくい欠点があった。その上、炭酸ナトリウムを用いた熱分解の場合、SO2 F基が高温の炭酸ナトリウムと反応してしまうため、収率が上がりにくい欠点があった。一方、特公昭41−7949号公報の方法のように一旦、ナトリウム塩に変換してから熱分解を行う場合においては副反応が多く、収率はやはり上がりにくいものであった。
従って上記式(1)の酸フルオリドを熱分解して上記式(2)のフッ素化ビニルエーテルを製造する方法は収率の点で課題の残るものであった。またこれらの熱分解において、一般には炭酸ナトリウムと炭酸カリウムとではその反応性は同等と考えられており、実際に比較検討されたことはなく、炭酸カリウムを用いた熱分解反応は報告されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点を解消するものであり、上記式(1)の酸フルオリドから上記式(2)のフッ素化ビニルエーテルを高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の条件を設定することで高転化率と同時に反応収率を特異的に高められることを見出し、本発明をなすに至った。即ち本発明は、
1.下記式(1):
【化6】
(式中、nは1〜5の整数である。)
で表される酸フルオライドを、カリウムを含むアルカリに反応させて、下記式(3):
【化7】
(式中、nは上記式(1)と同じ。)
で表されるカリウム塩に変換してから、無溶媒で上記式(3)で表わされるカリウム塩を熱分解して下記式(2):
【化8】
(式中、nは上記式(1)と同じ。)
で表されるフッ素化ビニルエーテルを製造することを特徴とするフッ素化ビニルエーテルの製造方法、
2.前記一般式(3)で表わされるカリウム塩を固体状態で保って、熱分解を行うことを特徴とする上記1に記載のフッ素化ビニルエーテルの製造方法、
3.溶媒中で0〜80℃、又は無溶媒中で80〜120℃で、前記式(1)で表される酸フルオライドをカリウムを含むアルカリとで反応させることを特徴とする上記1又は2に記載のフッ素化ビニルエーテルの製造方法、
4.熱分解を120〜300℃で行うことを特徴とする上記1〜3のいずれか一つに記載のフッ素化ビニルエーテルの製造方法、
である。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、上記式(1)の酸フルオリドから上記式(2)のフッ素化ビニルエーテルを製造する方法について、その反応条件を新規に特定したもので、高転化率を達成すると同時に反応収率を特異的に高めたものである。
本発明の製造方法において重要なポイントは、上記式(1)の酸フルオリドをまずは上記式(3)のカリウム塩に変換する点にある。従来方法で行われていたように、上記式(1)の酸フルオリドをナトリウム塩にした場合、上記式(3)に相当するナトリウム塩が室温または熱分解前の温度で溶融しやすく、その際、副反応物が生成することで目的物の収率を引き下げていることがわかった。しかしながら本発明者らはこれを上記式(3)のようにカリウム塩にすることで熱分解温度においてもカルボン酸塩が固体状態を保ち、この固体状態で熱分解させることにより良好な目的物の収率を得ることができることを見出した。このような高収率の理由は明らかではないが、ひとつの可能性として分子間で起こり得る副反応を抑制し、従って目的物の収率を高められたと考えられる。
【0009】
上記式(1)の酸フルオリドを上記式(3)のカリウム塩に変換する方法としては、溶媒中または無溶媒でカリウムを含むアルカリと反応させればよい。カリウムを含むアルカリとは、具体的には炭酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられるが、カリウムの対イオン成分がガスとして除けるので炭酸カリウムが好ましい。炭酸カリウムとしては、顆粒状のもの、粉末状のもの、微粉状のもの、比表面積を高めた顆粒状のものあるいはその粉末状のもの、微粉状のもののいずれを用いることもできる。また使用前によく乾燥しておくことが好ましい。アルカリとの反応で溶媒を用いる場合、一般には極性溶媒が用いられる。具体的には水または、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は反応後に除去する必要があるが、除去が容易な沸点100℃以下の溶媒が好ましい。また熱分解時にプロトン性溶媒が残存するとトリフルオロビニル基の代わりにプロトン化されたCF3 CHF−基が生成することがあるので、溶媒としては非プロトン性溶媒が好ましい。これらの条件を満たす溶媒としては、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル等が挙げられる。アルカリとの反応で溶媒を用いる場合、副反応を抑制するために反応温度は0〜80℃の範囲が好ましく、20〜60℃の範囲がさらに好ましい。一方、アルカリとの反応を無溶媒で行う場合、例えば炭酸カリウムとの反応を無溶媒で行う場合、反応温度は50〜150℃が好ましく、80〜120℃がさらに好ましい。
【0010】
カリウム塩に変換するときに用いられるアルカリの量は、一般には完全にカリウム塩に変換するために必要な当量を用いる。
上記のように、上記式(3)のカリウム塩は熱分解温度まで固体状態を保つことが重要である。しかしながら、上記式(1)の酸フルオリドに不純物が含まれると融点降下や、不純物への溶解により上記式(3)のカリウム塩が液化する場合があり、その場合には副反応により収率が低下する。従って本発明の製造方法において、なるべく用いる上記式(1)の酸フルオリドの純度が高い方が、高収率になり易いので好ましく、このような不純物の影響を実質的に排除するためには上記式(1)の酸フルオリドの純度は80重量%以上が好ましく、さらに好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは95重量%以上である。
本発明の製造方法において、上記式(1)(従って上記式(2)、(3)についても同様)におけるnは1〜5の整数であるが、上記式(1)の酸フロオリドの製造が比較的容易であることからnは2または3が好ましく、本発明の方法の効果がより顕著にあらわれるのでnは2が最も好ましい。
【0011】
上記式(3)のカリウム塩は熱分解温度以上に加熱することで脱炭酸反応し、上記式(2)のビニルエーテルを生成する。この熱分解そのものは、溶媒中でも無溶媒でも進行するが、収率を高めるためには無溶媒で行う必要がある。この場合、無溶媒とは実質的に溶媒成分を含まないことを指し、上記式(3)のカリウム塩を生成する際に用いられる溶媒等の溶媒成分が、該カリウム塩に対して5重量%以内、好ましくは3重量%で含まれていても差し支えない。加熱温度は脱炭酸反応が進行する温度であれば差し支えないが、一般には120〜300℃、好ましくは150〜250℃で行われる。熱分解中は生成したビニルエーテルが系内に滞留しないようにすることが望ましく、熱分解温度がビニルエーテルの常圧での沸点以上である場合には、ビニルエーテルを速やかにコンデンサーに導き、捕集することが好ましい。また熱分解温度が沸点以下の場合でも系内を減圧にする、不活性ガスをフローする等の方法によりビニルエーテルを系内から除去することが好ましい。
【0012】
本発明の方法で製造されたフッ素化ビニルエーテルは、高収率である上に高転化率なので未反応酸フルオリドをほとんど含まず、また副反応も少ないので高純度で得られる。従って、反応後の精製が極めて容易であるという特徴を有する。
以上のように本発明の製造方法は、食塩電解用イオン交換膜や燃料電池用隔膜の原料として用いられているフッ素化ビニルエーテルを高収率で製造でき、極めて有用である。また本発明の方法で製造されたビニルエーテルは、その純度が高く、後工程としての精製が容易であるという特徴を有する。
【0013】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
200mlの三口フラスコに、上記式(1)においてn=2の化合物51.2gと20mlのエチレングリコールジメチルエーテルを入れておき、60℃に加熱しながら14.5gの炭酸カリウムを少量ずつ加えた。さらに60℃で30分間攪拌を続けた後、溶媒を減圧で留去し、KFを含む固体状のカリウム塩を得た。19F−NMRから求められた転化率は96%であった。フラスコに蒸留ヘッドとコンデンサーを付け、そのまま常圧で220℃まで加熱し、液の生成が収まるまで220℃で加熱を続けた。その間、カリウム塩は固体状態を維持していた。回収された液体42.9gをガスクロマトグラフィーで分析したところ、上記式(2)においてn=2のビニルエーテルが84重量%含まれていた(収率81%)。
【0014】
【実施例2】
200mlの三口フラスコに13.8gの炭酸カリウムと20mlのエチレングリコールジメチルエーテルを入れておき、攪拌しながら40℃で実施例1と同じ上記式(1)の酸フルオリド51.2gを滴下した。さらに1時間反応を続けた後、溶媒を減圧で留去し、KFを含む固体状のカリウム塩を得た。19F−NMRから求められた転化率は93%であった。実施例1と同様に220℃で熱分解を行い、回収された液体40.3gをガスクロマトグラフィーで分析したところ、上記式(2)においてn=2のビニルエーテルが91重量%含まれていた(収率82%)。
【実施例3】
エチレングリコールジメチルエーテルの代わりにアセトニトリルを用いた以外、実施例2と同じ方法で反応を行った。19F−NMRから求められたカリウム塩の転化率は96%であった。実施例1と同様に220℃で熱分解を行い、回収された液体40.3gをガスクロマトグラフィーで分析したところ、上記式(2)においてn=2のビニルエーテルが92重量%含まれていた(収率83%)。
【0015】
【比較例1】
炭酸カリウムの代わりに10.6gの炭酸ナトリウムを用いた以外、実施例2と同様に反応を行った。溶媒を留去して得られたナトリウム塩は粘稠な液体であり、19F−NMRから求められた転化率は99%であった。熱分解は200℃で進行し、得られた液体41.2gをガスクロマトグラフィーで分析したところ、上記式(2)においてn=2のビニルエーテルが70重量%含まれていた(収率65%)。
【比較例2】
200mlの三口フラスコに10.6gの炭酸ナトリウムを入れておき、220℃に加熱した。この中に、実施例1と同じ上記式(1)の酸フルオリド51.2gを少量ずつ滴下した。生成物はコンデンサーで捕集し、得られた48.4gの液体をガスクロマトグラフィーで分析したところ、上記式(2)においてn=2のビニルエーテルが20重量%(収率22%、選択率70%)、未反応の酸フルオリドが72重量%(回収率68%)含まれていた。
【0016】
【発明の効果】
本発明の製造方法は、食塩電解用イオン交換膜や燃料電池用隔膜の原料として用いられているフッ素化ビニルエーテルを高収率で製造でき、極めて有用である。また本発明の方法で製造されたビニルエーテルは、その純度が高く、後工程としての精製が容易であるという特徴を有する。
Claims (4)
- 前記一般式(3)で表わされるカリウム塩を固体状態で保って、熱分解を行うことを特徴とする請求項1に記載のフッ素化ビニルエーテルの製造方法。
- 溶媒中で0〜80℃、又は無溶媒中で80〜120℃で、前記式(1)で表される酸フルオライドをカリウムを含むアルカリとで反応させることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素化ビニルエーテルの製造方法。
- 熱分解を120〜300℃で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のフッ素化ビニルエーテルの製造方法。
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