JP4806300B2 - ソリッドワイヤ - Google Patents
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Description
これらのフェライト系ステンレス鋼に使用する溶接ワイヤとしては、一般的には、17〜19質量%程度のCrを添加し、溶接金属がフェライト単相を呈するようにC、Si、Mnを調整したソリッドワイヤまたはメタル系フラックス入りワイヤが多く実用化されている。また、高温割れを防止すべく、結晶粒微細化のためにNbを適量添加したものも実用化されている。
自動車の排気系部品等に使用されるSUS鋼板は、その薄さによって、アーク溶接時に溶落ちが発生しやすいため、その改善が望まれていることから、使用するワイヤにおいても、耐溶落ち性が必要とされている。
そこで、耐溶落ち性に優れたTIG(Tungsten Inert Gas)溶接法やプラズマ溶接法が用いられているが、これらの溶接法では、能率が悪くコストも高いという問題がある。そのため、溶接能率とコストに優れる消耗電極式ガスシールドアーク溶接法、いわゆるMAG(Metal Active Gas)溶接法やMIG(Metal Inert Gas)溶接法での耐溶落ち性改善が望まれていた。
また、特許文献5のフラックス入りワイヤは、スラグが大量に発生するタイプであり、溶接後にスラグ除去工程が組まれない自動車分野では適用することはできないという問題があった。
X=0.32R1 eq−3.86−Neq、 X≧0 ・・・(1)
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R1 eq=Cr質量%+1.5Si質量%である)
を満足することを特徴とする。
また、Sを所定量含有することで、アーク直下から溶接線後方に形成される溶融池の粘性、表面張力が低下し、アーク力+表面張力による溶融池の押し上げが小さくなることで、溶融池自体の重力が勝り、溶融池がアーク直下に落ち込みやすくなる。これにより、アーク直下での溶融池の深さが大きくなり、溶込み深さが低減する。
これらの作用により、耐溶落ち性が向上する。
その他、所定の元素を所定量含有することで、耐溶落ち性、耐高温酸化性、耐割れ性等が向上する。
X=0.32R1 eq−3.86−Neq、 X≧0 ・・・(1)
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R1 eq=Cr質量%+1.5Si質量%である)
を満足することを特徴とする。
X=0.32R2 eq−3.86−Neq、 X≧0 ・・・(2)
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R2 eq=Cr質量%+1.5Si質量%+0.5(Nb質量%+V質量%)である)
を満足することを特徴とする。
本発明は、ソリッドワイヤの成分を所定範囲に規定することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼用ガスシールド溶接に用いるソリッドワイヤである。
前記ソリッドワイヤは、鋼合金製のワイヤ素線からなるものであり、所定量のSi、Mn、S、Crを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物として、C、P、Niを所定量以下に抑制したものである。
また、このワイヤ素線の表面に、Cuメッキ層を設けてもよい。
図1は、アーク溶接の様子を模式的に示した模式図であり、(a)は、従来のワイヤを用いた場合を示す模式図、(b)は、本発明に係るワイヤを用いた場合を示す模式図である。
また、チップ2/ワイヤ31通電点(主にチップ2先端)からアーク5の発生点までのいわゆる突出し部分Aおよび先端に形成される溶滴4自体の抵抗発熱が低い。
具体的には(1)の電気抵抗増大にはSi、Mn、必要に応じてNb、Vの増大を、(2)の溶融池の表面張力と粘性の低下にはSの増大を図ることで達成した。
以下、ワイヤの成分の限定理由について説明する。
Siは脱酸反応に必要で、かつ突出し部分と溶滴の電気抵抗上昇に効果的である。耐溶落ち性向上に対して最低0.60質量%が必要であるため、Siの含有量は、0.60質量%以上、好ましくは0.80質量%以上とする。一方、1.50質量%を超えると溶滴が大粒化し、スパッタが増加すると共に、延性が低下する。したがって、Siの含有量は、1.50質量%以下、好ましくは1.30質量%以下とする。
Mnもまた脱酸反応に必要な元素であり、かつ突出し部分と溶滴の電気抵抗上昇に効果的である。しかし、マルテンサイトを生成しやすくする元素のため、通常は0.40質量%未満に抑えられているのが一般的である。本発明ではC含有量の低減、Si含有量の増加等によるフェライト相の安定化を図ることによりマルテンサイト生成を抑制しつつ、Mn含有量の増大を図っている。0.40質量%以上で耐溶落ち性向上に有効であるため、Mnの含有量は0.40質量%以上、好ましくは0.75質量%以上、さらに好ましくは、1.00質量%以上とする。一方、2.00質量%を超えると溶滴が大粒化し、スパッタが増加すると共に、延性が低下する。したがって、Mnの含有量は、2.00質量%以下とする。
Sは溶融池の粘性と表面張力を低下させる効果がある。それによってアーク後方からアーク直下に溶湯が流れ込み、深い溶融池を形成する。これによって溶込み深さが低減され、耐溶落ち性が向上する。この溶湯の流れ込みによる耐溶落ち性向上の効果を得るには、最低0.012質量%の含有が必要である。したがって、Sの含有量は、0.012質量%以上、好ましくは0.016質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上とする。さらに、0.050質量%以上とすると、より効果的である。一方、0.100質量%を超えると耐高温割れ性が発生し、また、延性が低下するため、Sの含有量は、0.100質量%以下とする。
Crはステンレス鋼用としての耐食性や耐酸化性を得るために必須な元素である。SUS430等の排気系部品に使われる鋼材と同等の耐食性・耐酸化性とするためにはCr含有量も同等であることが好ましい。16.0質量%以上であれば耐食性・耐酸化性に問題は無いため、Crの含有量は、16.0質量%以上とする。一方20.0質量%を超えると高コスト化し、スパッタが増加すると共に、延性が低下するため、Crの含有量は、20.0質量%以下とする。
Cは耐食性・耐酸化性を低下させ、マルテンサイトを生成させやすくし、また、延性の低下や、割れを発生しやすくするため、極力少ない方が好ましい。上限としては0.07質量%まで許容可能である。好ましくは0.03質量%以下である。下限は設けないが、溶製が困難となるため、現実的には0.001質量%程度が工業的に下限となる。
Pは耐割れ性を劣化させる元素のため、極力低減する。上限としては0.025質量%までであれば実用上問題ないため、これを上限とする。なお、Pは少ないほうが好ましいため、下限は設定しないが0質量%でもよい。
Niはフェライト系ステンレス鋼には不要な元素である。Niが多いほどフェライト層が不安定化し耐高温酸化性が低下するので、Niの含有量は少ない方が好ましい。工業的に0.30質量%以下に抑制してあれば問題ないので、Niの含有量は0.30質量%以下とする。なお、Niは少ないほうが好ましいため、下限は設定しないが0質量%でもよい。
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R1 eq=Cr質量%+1.5Si質量%である)
ここで、NeqはNi当量を表し、R1 eqはCr当量を表す。X≧0の時に形成される溶接金属はフェライト層となる。逆にX<0の場合はマルテンサイト層が析出し、耐腐食性・耐酸化性の低下、熱サイクルに対する疲労性能低下、延性の低下が発生するのでX≧0を必須とする。
<メッキ層のCu:0.18質量%以下>
チップ磨耗の抑制、耐錆性の向上、製造時の伸線性の向上といった目的でCuメッキを施しても良いが、ワイヤ通電点の電気抵抗を低下させ、ワイヤの発熱効果が低下して耐溶落ち性が低下しやすい。したがって、Cuメッキを施す場合、0.18質量%以下であれば許容範囲であるため、メッキ層のCu含有量は、0.18質量%以下とする。
Nは無添加でも問題ないが、少量の添加で焼入れ性を高め、結晶粒を微細化して耐高温割れ性を向上させる。しかし、0.050質量%を超えるとブローホールが発生し、また、延性が低下するため、Nの含有量は、0.050質量%以下とする。また、この効果は0.0040質量%以上で顕著となるため、Nの含有量は、0.0040質量%以上とするのが好ましい。
Nb、Vは無添加でも問題ないが、添加することによりフェライトを安定化し、耐割れ性を向上させると共に、耐腐食性・耐酸化性も向上させることが出来る。しかし、それぞれ1.00質量%を超えると延性が低下するので、Nb、Vの含有量は、それぞれ1.00質量%以下とする。また、この効果はそれぞれ0.05質量%以上で顕著となるため、Nb、Vの含有量は、それぞれ0.05質量%以上とするのが好ましい。
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R2 eq=Cr質量%+1.5Si質量%+0.5(Nb質量%+V質量%))である。
ここで、NeqはNi当量を表し、R2 eqはCr当量を表す。X≧0の時に形成される溶接金属はフェライト層となる。逆にX<0の場合はマルテンサイト層が析出し、耐腐食性・耐酸化性の低下、熱サイクルに対する疲労性能低下、延性の低下が発生するのでX≧0を必須とする。
Al、Tiは無添加でも問題ないが、Nb、Vと同様に添加することにより結晶粒を微細化し、耐割れ性を向上させると共に、耐腐食性・耐酸化性も向上させることが出来る。しかし、それぞれ0.25質量%を超えると延性が低下すると共に、スラグが多く発生して塗装性を低下させるので、Al、Tiの含有量は、それぞれ0.25質量%以下とする。また、この効果はそれぞれ0.05質量%以上で顕著となるため、Al、Tiの含有量は、それぞれ0.05質量%以上とするのが好ましい。
Moは無添加でも問題ないが、添加することにより結晶粒を微細化し、耐割れ性を向上させると共に、耐腐食性・耐酸化性も向上させることが出来る。特に、鋼板がMoを必須添加とするSUS444等に適用する場合は、溶接金属にも必須となるため、この場合は、同程度添加させる。しかし、2.50質量%を超えると延性が低下するので、Moの含有量は、2.50質量%以下とする。また、この効果は0.05質量%以上で顕著となるため、Moの含有量は、0.05質量%以上とするのが好ましい。
K、Na、Liは無添加でも問題ないが、Ar+酸化性ガス(O2、CO2)を用いた溶接においてアーク安定剤として働く。これらの元素が溶滴表面付近にあると電子放出が容易となり、アーク安定化に有効である。アーク不安定時には、アーク長が変化し、アーク力も変動するが、これによって耐溶落ち性が劣化するので、アークはできるだけ安定であることが好ましい。ソリッドワイヤの場合、30ppmを超えて塗布あるいは含有させると、アーク安定効果が飽和し、逆にワイヤ表面の潤滑が損なわれて送給性が低下する。送給性が損なわれた場合、アーク長変動によって耐溶落ち性も低下するので、K、Na、Liの合計は、30ppm以下とする。また、アーク安定剤を塗布あるいは含有させると耐溶落ち性向上に有効となるが、その効果は0.5ppm以上で顕著であるため、K、Na、Liの合計は、0.5ppm以上とするのが好ましい。
先ず、1.2mmφのソリッドワイヤを試作した。ワイヤの成分組成、使用した鋼板(試験板)を表1、2に示す。なお、表1、2において、成分を含有していないものについては「−」で示し、表2において、本発明の構成を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。なお、表1、2において、Solidは、ソリッドワイヤのことである。
耐溶落ち性については、SUS430または一部SUS444の2.0mm厚さのステンレス鋼板を用いて、開先無し、ルートギャップなしの下向I型突合せを速度80cm/minで行った。シールドガスはAr98体積%+O22体積%、溶接機は定電圧インバータ制御機(パルス無し)である。ワイヤ送給速度を変化させて、溶落ちが発生しない限界の最大溶着量を限界溶着量として求めた。限界溶着量が大きい方が耐溶落ち性に優れていると評価した。36g/min以上を良好、それ未満は不合格とした。
耐高温酸化性については、JIS Z3321に従い全溶着金属試験を行い、その溶接金属中央から厚さ1.5mm、幅10mm、長さ40mmの酸化試験片を採取し、大気中で900℃×200時間保持して試験前後の重量を測定した。その酸化増量が少ない方が耐高温酸化性に優れていると判断した。5g/m2以下を良好、それを超えたものは不合格とした。
金属組織状態については、溶接金属のミクロ組織観察により、フェライト単相となっているものを合格、マルテンサイト相が析出しているものはフェライト系マルテンサイト鋼用として不適切と判断した。
JIS Z3155「C型冶具拘束突合せ溶接割れ試験方法」に従い、溶接条件を耐溶落ち性の限界溶着量を求めた時の電流、電圧、溶接速度にて行った。割れが生じたものは不合格、生じないものを合格とした。
アーク安定性については、耐溶落ち性の試験の際に官能にて安定性を評価した。溶滴移行が安定でスパッタが少ない場合やワイヤ送給性が良く、アーク長が乱れない場合は良好とした。溶滴移行が不安定でスパッタが多い場合やワイヤ送給性が悪く、アーク長が乱れる場合は不合格(×)とした。
曲げ性能については、全溶着金属試験の継手から板厚の表側5mmをスライスして切り出し、JIS Z3122「突合せ溶接継手の曲げ試験方法」に従って表曲げ試験を行った。R10mmで180°曲げを行い、割れの有無を確認した。無欠陥を延性良好として合格、割れが生じたものは不合格(×)とした。
X線透過試験にて溶接金属にブローホールが発見された場合、ワイヤ送給性が悪い場合、スラグ量が多く塗装性劣化の懸念が高い場合等を記し、不合格とした。
これらの結果を表3、4に示す。なお、表4において、耐溶落ち性および耐高温酸化性が不合格のものについては、数値に下線を引いて示す。
No.45はSi、Mnの含有量が下限未満のため、突出し部分と溶滴の電気抵抗が不足し、耐溶落ち性が向上しなかった。
No.47はCの含有量が上限を超えるため、また、パラメータXが0未満となっているため、マルテンサイトが生成し、かつ割れが生じた。曲げ試験でも割れが生じ、また、耐高温酸化性も劣っていた。
2 チップ
3、31 ワイヤ
4 溶滴
5 アーク
6 溶融池
Claims (6)
- フェライト系ステンレス鋼用ガスシールド溶接に用いるソリッドワイヤにおいて、
前記ソリッドワイヤが鋼合金製のワイヤ素線からなるものであって、
ワイヤ全質量に対し、Si:0.60〜1.50質量%、Mn:0.40〜2.00質量%、S:0.012〜0.100質量%、Cr:16.0〜20.0質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物のうち、C:0.07質量%以下、P:0.025質量%以下、Ni:0.30質量%以下であり、かつ、下記式(1)
X=0.32R1 eq−3.86−Neq、 X≧0 ・・・(1)
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R1 eq=Cr質量%+1.5Si質量%である)
を満足することを特徴とするソリッドワイヤ。 - フェライト系ステンレス鋼用ガスシールド溶接に用いるソリッドワイヤにおいて、
前記ソリッドワイヤが鋼合金製のワイヤ素線の表面にCuメッキ層を設けたものであって、
ワイヤ全質量に対し、Si:0.60〜1.50質量%、Mn:0.40〜2.00質量%、S:0.012〜0.100質量%、Cr:16.0〜20.0質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物のうち、C:0.07質量%以下、P:0.025質量%以下、Ni:0.30質量%以下であり、前記Cuメッキ層がワイヤ全体組成としてCu:0.18質量%以下であり、かつ、下記式(1)
X=0.32R1 eq−3.86−Neq、 X≧0 ・・・(1)
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R1 eq=Cr質量%+1.5Si質量%である)
を満足することを特徴とするソリッドワイヤ。 - 請求項1または請求項2に記載のソリッドワイヤにおいて、更に、N:0.050質量%以下、Nb:1.00質量%以下、V:1.00質量%以下、Al:0.25質量%以下、Ti:0.25質量%以下、Mo:2.50質量%以下のうち1種以上を含有し、かつ、下記式(2)
X=0.32R2 eq−3.86−Neq、 X≧0 ・・・(2)
(式中、Neq=Ni質量%+30C質量%+0.5Mn質量%、R2 eq=Cr質量%+1.5Si質量%+0.5(Nb質量%+V質量%)である)
を満足することを特徴とするソリッドワイヤ。 - 前記Nが0.0040〜0.050質量%、前記Nbが0.05〜1.00質量%、前記Vが0.05〜1.00質量%、前記Alが0.05〜0.25質量%、前記Tiが0.05〜0.25質量%、前記Moが0.05〜2.50質量%であることを特徴とする請求項3に記載のソリッドワイヤ。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のソリッドワイヤにおいて、
更に、K、Na、Liの1種以上を合計30ppm以下含有することを特徴とするソリッドワイヤ。 - 前記K、Na、Liの1種以上の合計が0.5〜30ppmであることを特徴とする請求項5に記載のソリッドワイヤ。
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