JP4730888B2 - 多孔質電極基材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
従来は、機械強度を強くするために、炭素短繊維と樹脂炭化物とを密に結着させるなどの方法がとられていたが、ガス透過度が小さくなり、燃料電池に組んだ時の性能が落ちてしまうことが多かった。一方、ガス透過度を大きく維持しようとすると機械強度が弱くなり、取り扱い方法に制限があるものとなった。
特許文献2には、安価な多孔質電極基材の製造方法が記載されている。この方法で得られる多孔質電極基材は、ウェブが厚み方向にも配向しているため、厚み方向の導電性やガス透過度は、満足できる値であるが、機械強度が弱く、厚み方向に配向した繊維が電解質膜を突き破ってしまう、一度プレスすると脆くなってしまうなど取り扱いの面で課題があった。
特許文献3には、多孔質炭素基材のひび割れを防止し、機械強度を上げるため、細孔直径10μm以下の細孔容積が0.05〜0.16cc/gである多孔質電極基材が記載されている。しかし、このように10μm以下の細孔が少ないものでは、保水性が小さいため水分管理が難しく、燃料電池の発電が十分に行えないと考えられる。
また、本発明の第3の要旨は、繊維直径が3〜9μmの炭素短繊維とビニロン繊維とからなる、炭素繊維目付8〜20g/m2の炭素繊維紙に樹脂を含浸し、2枚貼り合わせた後、炭素化する多孔質電極基材の製造方法にある。
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであって良いが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましく、特に用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維のみからなることが多孔質炭素電極基材の機械的強度が比較的高くすることができるので好ましい。
炭素短繊維の直径は、3〜9μmであることが、炭素短繊維の生産コスト、分散性、最終多孔質電極基材の平滑性の面から必要である、4μm以上、8μm以下であることが好ましい。
炭素短繊維の繊維長は、後述のバインダーとの結着性や分散性の点からは、2〜12mmが好ましい。
本発明において、「実質的に二次元平面内においてランダムな方向に分散」とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているという意味である。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。
本発明において、樹脂炭化物は、樹脂を炭化してできた、炭素短繊維同士を結着する物質である。樹脂としては、フェノール樹脂など炭素繊維との結着力が強く、炭化時の残存重量が大きいものが好ましいが、特に限定はされない。
この樹脂炭化物は、樹脂の種類や炭素繊維紙への含浸量により、最終的に多孔質電極基材に炭化物として残る割合が異なる。
多孔質電極基材を100質量%とした時に、その中の樹脂炭化物が25〜40質量%であることが好ましく、更に好ましい下限及び上限は、それぞれ28質量%および34質量%である。
炭素短繊維同士を完全に結着し多孔質電極基材の機械的強度を十二分なものに保つためには、樹脂炭化物が25質量%以上必要である。完全に結着されなかった炭素短繊維は、多孔質電極基材から脱落し、電解質膜に刺さり短絡の原因となることがある。一方、多孔質電極基材中の炭素短繊維の比率を高く保ち、樹脂の硬化時の加圧により細孔が樹脂により埋められることがないよう、40質量%以下とすることが有利である。
本発明では、まず、従来の多孔質電極基材と同様に、炭素短繊維同士が不定形の樹脂炭化物で結着されていることが必要である。
本発明では、不定形の樹脂炭化物とともに、機械強度と反応ガス・水分管理を両立させるという観点から、炭素短繊維と炭素短繊維とを架橋するフィラメント状の樹脂炭化物の存在が必要である。
このフィラメント状の樹脂炭化物は、炭素短繊維とは外観が異なり、さらに、フィラメント状の樹脂炭化物を構成する炭素の配向は、炭素短繊維中の炭素の配列が非常によく配向しているのに対して、上述の不定形の樹脂炭化物と同様である。
炭素短繊維と炭素短繊維がフィラメント状の樹脂炭化物で架橋されている様子を図1、2に示す。フィラメント状の樹脂炭化物により、厚みが薄くても機械強度の強い多孔質電極基材となっている。この理由は、あたかもフィラメント状の樹脂炭化物が炭素短繊維と同様の補強効果を果たすためで、多孔質電極基材に含まれる炭素短繊維の比率を減らすことができ、低コストで提供することができる。
同時にフィラメント状の樹脂炭化物が架橋により一部の大きな孔が分割されるため、本発明の多孔質電極基材は、半径5μm以下の細孔を有すると共に、25μm以上の細孔も有するといった、広い細孔径分布を有するものとなる。これにより本発明の多孔質電極基材は、反応ガスや発生水を多孔質電極基材からスムーズに排出する機能と電解質膜が乾いて反応の効率が下がるのを防ぐ保水性をともにもつ。前者の機能は、25μm以上の大きな細孔が果たし、後者の機能は、5μm以下の比較的小さい細孔が果たすからである。このように細孔径の分布範囲が広いと多孔質電極基材に求められている両方の機能を両立させるのに有利である。
本発明の多孔質電極基材は、厚みが150μm以下であることが必要で、好ましくは140μm以下、さらに好ましくは130μm以下である。厚みが150μmより厚い多孔質電極基材も使用されてきたが、今後のセルスタックの低コスト化、コンパクト化の上では好ましくない。貫通方向の電気抵抗も厚みが薄いほど低減できる。
多孔質電極基材は、その厚みが小さいものの方が反応ガスの流速が保持されやすく、セル全体の性能も安定化する。
本発明の特徴は、このような薄い多孔質電極基材であるにもかかわらず、以下に示すように十分な曲げ破断荷重を有することである。本発明の多孔質電極基材は、厚みが150μm以下でも少なくとも一つの方向で曲げ破断荷重が0.06N以上を有する。さらに好ましいものとしては、厚みが130μm以下でも少なくとも一つの方向で曲げ破断荷重が0.06N以上の機械強度を発現する。さらに好ましいものは、少なくとも一つの方向で0.11N以上の曲げ破断荷重を有することである。
本発明における曲げ破断荷重は、JIS規格K−6911に準拠した方法よって求められる値で、曲げの破壊に対する強さを表す。曲げ破断荷重は、歪み速度、支点間距離、試験片幅によって値が変化するが、本発明においては、歪み速度10mm/分、支点間距離2cm、試験片幅1cmの条件下で測定したときの破断荷重を採用する。
多孔質電極基材の連続製造工程もしくはこの多孔質電極基材を用いたMEA(膜―電極接合体)の製造工程において、製品の取り扱いに割れ、裂けなどの問題が起こらないようにする上で上記一方向の曲げ破断荷重が0.06N以上であることが好ましい。
これまでの多孔質電極基材では、その厚みを薄くすると発生ガスを排出できなくなったり、脆くなり、上記の工程での取り扱いに支障をきたすことが多かった。
多孔質電極基材の満足できるガス透過度を維持したまま、その機械強度を向上させる方法としては、炭素短繊維の繊維長を長くする方法も挙げられるが、均一分散性が問題となる可能性があった。
本発明の多孔質電極基材は、炭素繊維の目付(単位面積あたりの重量)が16〜40g/m2であることが必要である。このとき、最も好ましいのは、半分の目付の炭素繊維紙を2枚重ねて上記目付とすることである。炭素短繊維は、導電性材料であると同時に、多孔質電極基材の補強材としての役目も果たしている。
炭素繊維の目付を16g/m2以上とすることにより、多孔質電極基材の強度を十分なものとすることができる。また、40g/m2以下とすることにより、厚みを150μm以下としても過剰に緻密な構造とならない。
また本発明の多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極機材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。特に本発明の多孔質電極基材は、厚みを薄くできるので取り扱いやすいので、連続的に巻かれているものが好ましい。
本発明の多孔質電極基材は、水銀圧入法によって細孔分布を測定したとき、細孔の半径が5μm以下の細孔の単位重量あたりの容積が0.20〜1.00cc/gであることが好ましい。また、細孔の半径が10μm以下の細孔の細孔容積が全細孔容積の15%以上であることが好ましく、さらに好ましくは20%以上である。
燃料電池用多孔質電極基材には、反応気体を反応部(触媒層)に効率よく送り届ける機能だけでなく、反応気体に含まれている水分や発電により発生する水分を効率よく排出する機能が求められている。特に膜厚の薄い電極基材において効率よく水を排出するためには、大量に水分が発生した時に水分を一時的に取り込むための孔として、細孔の半径が5μm以下の細孔の単位重量あたりの容積が0.20cc/g以上、または10μm以下の細孔の細孔容積が全細孔容積の20%以上であること好ましい。炭素短繊維がフィラメント状の樹脂炭化物で架橋されて補強した場合には、小さい細孔が形成されるため、細孔の半径が5μm以下の細孔の単位重量あたりの容積が0.20cc/g以上、細孔の半径が10μm以下の細孔の細孔容積が全細孔容積の15%以上有することが可能となる。または細孔の半径が5μm以下の細孔の単位重量あたりの容積が1.00cc/gより大きい場合は、水分が外部に排出されにくくなるため好ましくない。細孔半径および細孔容積は、測定セル内の圧力およびそのときに注入される水銀体積から算出される。
本発明の多孔質電極基材は、3インチ以下の直径を有する紙管に巻けることが、製造に用いる設備、梱包品のコンパクト化が図れるという点から好ましい。紙管サイズが小さい場合は、持ち運びが容易であるという点でも好ましい。
本発明の多孔質電極基材の製造方法は、たとえば以下の方法による。すなわち、
繊維直径が3〜9μmの炭素短繊維とビニロン繊維とからなる、炭素繊維目付16〜40g/m2の炭素繊維紙に樹脂を含浸したのち、炭素化する多孔質電極基材の製造方法、または、繊維直径が3〜9μmの炭素短繊維とビニロン繊維とからなる、炭素繊維目付8〜20g/m2の炭素繊維紙に樹脂を含浸し、2枚貼り合わせた後、炭素化する多孔質電極基材の製造方法である。
本発明の製造方法では、ビニロン繊維を用いることが必要である。ビニロン繊維とは、ポリビニルアルコール繊維を熱処理やホルムアルデヒドでアセタール化することにより耐熱性、耐水性を高めた繊維である。ビニロン繊維は、炭素化により分解してなくなるが、その周りに付着した樹脂の形状は、そのまま残り、その樹脂がフィラメント状炭化物を形成する。
ビニロン繊維の繊度は、特に限定されないが、0.05〜1.5dtexのものが好ましい。繊度を0.05dtex以上とすることにより、ビニロン繊維一本あたりの樹脂の付着を十分なものとし、炭素化後、多孔質電極基材からフィラメント状樹脂炭化物が剥離することを防ぐことができる。繊度を1.5dtex以下とすることにより、多孔質電極基材表面が粗くなることを防ぎ、燃料電池としたときに多孔質電極基材と周辺部材との接触を良好なものとすることができる。
ビニロン繊維の長さは、特に限定されないが、同時に用いる炭素短繊維と同程度のものが好ましい。バインダーとの結着性や分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
ビニロン繊維は、炭素繊維と一緒に分散することで、炭素繊維の再収束を防止する役割も果たす。そのため、水との親和性にも優れているものが好ましい。
炭素繊維紙中のビニロン繊維の質量比率は、10〜60質量%であることが好ましい。
炭素繊維紙中のビニロン繊維の質量比率を10質量%以上とすることにより、ビニロン繊維由来のフィラメント状炭化物による補強効果が十分となり、一方、60質量%以下であれば、フィラメント状炭化物とその他の炭化物のバランスがよく多孔質電極基材の形態が満足いくものとすることができる。
有機高分子化合物は、炭素繊維紙中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)としてはたらく。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、などを用いることができる。特にポリビニルアルコールは抄紙工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。本発明では、有機高分子化合物を繊維状として用いることも可能である。
炭素繊維紙の抄紙方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐためにもビニロン繊維を上記量、バインダーとして適切な量の有機高分子物質と共に湿式抄紙することが好ましい。
炭素短繊維とビニロン繊維、必要に応じて有機高分子化合物を混合する方法としては、炭素短繊維とともに水中で攪拌分散させる方法と、直接混ぜ込む方法があるが、均一に分散させるためには水中で拡散分散させる方法が好ましい。このように有機高分子化合物を混ぜることにより、炭素繊維紙の強度を保持し、その製造途中で炭素繊維紙から炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。
また、抄紙は連続で行なう方法やバッチ式で行なう方法があるが、本発明において行なう抄紙は、特に目付のコントロールが容易であるという点と生産性および機械的強度の観点から連続抄紙が好ましい。
本発明で樹脂として用いる樹脂組成物は、炭素化後も導電性物質として残存する物質であり、常温において粘着性、あるいは流動性を示すものが好ましい。フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ピッチ等を単体もしくは混合物として用いることができる。フェノール樹脂の好ましいものとして、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂を挙げることができる。
レゾールタイプのフェノール樹脂は、公知の方法によって酸性触媒下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を溶解混入させることもできるが、この場合は硬化剤、例えばヘキサメチレンジアミンを含有した、自己架橋タイプのものが好ましい。
フェノール類としては、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシロール等が用いられる。アルデヒド類としては、例えばホルマリン、パラホルムアルデヒド、フルフラール等が用いられる。また、これらを混合物として用いることができる。これらはフェノール樹脂として市販品を利用することも可能である。
炭素繊維紙に付着する樹脂の樹脂量は、炭素短繊維100質量部に対し、70〜150質量部とすることが好ましい。前述した、水やガスの供給および排出がスムーズに行なわれ、曲げ強度に優れた電極基材を製造するには、多孔質電極基材中の樹脂炭化物の比率が25〜40質量%になるように樹脂を付着しておく必要があるため、70〜150質量部の樹脂を付着させる必要がある。
炭素繊維紙に樹脂を含浸する方法としては、炭素繊維紙に樹脂を含浸させることができればよく、特段の制限はないが、コーターを用いて炭素繊維紙表面に樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip−nip方法、もしくは炭素繊維紙と樹脂フィルムを重ねて、樹脂を炭素繊維紙に転写する方法が、連続的に行なうことができ、生産性および長尺ものも製造できるという点で好ましい。
樹脂を含浸された炭素繊維紙は、そのまま炭素化することも可能である。しかし、炭素化する前に樹脂を硬化することが樹脂の炭素化時の気化を抑制し、多孔質電極基材の強度向上のために好ましい。硬化は、樹脂を含浸された炭素繊維紙を均等に加熱できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。その例としては、樹脂を含浸された炭素繊維紙の上下両面から剛板を重ね、加熱する方法や上下両面から熱風を吹き付ける方法、また連続ベルト装置や連続熱風炉を用いる方法が挙げられる。
硬化された樹脂は、続いて炭素化される。多孔質電極基材の導電性を高めるために、不活性ガス中で炭素化する。炭素化は、炭素繊維紙の全長にわたって連続で行なうことが好ましい。電極基材が長尺であれば、電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後工程のMembrane Electrode Assembly(MEA)製造も連続で行なうことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。
炭素化は、不活性処理雰囲気下にて1000〜3000℃の温度範囲で、炭素繊維紙の全長にわたって連続して焼成処理することが好ましい。本発明の炭素化においては、不活性雰囲気下にて1000〜3000℃の温度範囲で焼成する炭素化処理の前に行われる、300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。
炭素繊維紙に樹脂を付着した後、加熱により、炭素繊維紙表面を平滑にする工程を含んでいることが好ましい。炭素繊維表面を平滑する方法としては、特に限定されないが、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行なう方法がある。中でも連続ベルトプレス装置を用いて行なう方法が、長尺の多孔質電極基材ができるという点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEMBRANE ELECTRODE ASSEMBLY(MEA)製造も連続で行なうことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。表面を平滑にする工程がない場合も良好な強度とガス透過度とをともに有する多孔質電極基材が得られるが、その多孔質電極基材に大きな起伏があるため、セルを組んだとき多孔質電極基材と周辺基材との接触が十分でなく好ましくない。
連続ベルト装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法と液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法があるが、後者の方がより平滑な多孔質電極基材が得られるという点で好ましい。効果的に表面を平滑にするためには、樹脂が最も軟化する温度でプレスし、その後加熱または冷却により樹脂を固定する方法が最もよい。炭素繊維紙に含浸される樹脂の比率が多い場合は、プレス圧が低くても平滑にすることが容易である。このとき必要以上にプレス圧を高くすることは、多孔質電極基材としたときその組織が緻密になりすぎる、激しく変形するなどの問題が生じるのであまり好ましくない。プレス圧が高く緻密になりすぎた場合は、焼成時に発生するガスがうまく排出されず多孔質電極基材の組織を壊してしまうこともある。剛板に挟んで、又、連続ベルト装置で炭素繊維紙に含浸した樹脂の硬化を行う時は、剛板やベルトに樹脂が付着しないようにあらかじめ剥離剤を塗っておくか、炭素繊維紙と剛板やベルトとの間に離型紙を挟んで行なうことが好ましい。
実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。
多孔質電極基材中の炭素繊維紙の抄紙時の長手方向が試験片の長辺になるように、80×10mmのサイズに10枚切り取る。曲げ強度試験装置を用いて、支点間距離を2cmにし、歪み速度10mm/minで荷重をかけていき、試験片が破断したときの荷重を測定した。10枚の試験片の平均値である。
JIS規格P−8117に準拠した方法によって求められる。多孔質電極基材の試験片を3mmφの孔を有するセルに挟み、孔から1.29kPaの圧力で200mLのガスを流し、ガスが透過するのにかかった時間を測定するし、以下の式より算出した。
ガス透過度(m/sec・MPa)
=気体透過量(m3)/気体透過孔面積(m2)/透過時間(sec)/透過圧(MPa)
水銀圧入法により、細孔容積と細孔半径の細孔分布を求め、その50%の細孔容積を示す時の半径を電極基材の平均細孔径とした。なお、用いた水銀ポロシメーターは、Quantachrome社製 Pore Master−60である。
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ7321(ミツトヨ製)を使用し、測定した。このときの測定子の大きさは、直径10mmで測定圧力は1.5kPaで行った。
多孔質電極基材中の炭素繊維紙の抄紙時の長手方向が試験片の長辺になるように、100×20mmのサイズに切り取る。電極基材の片面に2cmの間隔をあけて銅線をのせ、10mA/cm2の電流密度で電流を流した時の抵抗を測定した。
多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、試料を銅板にはさみ、銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cm2の電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
貫通抵抗(Ω・cm2)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm2)
樹脂炭化物の重量比は、得られた多孔質電極基材の目付と使用した炭素短繊維の目付から次式より算出した。
樹脂炭化物重量比(質量%)
=[多孔質電極基材目付(g/m2)−炭素短繊維目付(g/m2)]×100÷多孔質電極基材目付(g/m2)
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維と平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を70:30(質量比)で混合した炭素短繊維を用意した。
ビニロン繊維として、1.1dtex、カット長5mmのビニロン短繊維(ユニチカ株式会社製ユニチカビニロンF)を用意した。
有機高分子化合物として、ポリビニルアルコール(PVA)の短繊維(クラレ株式会社製VPB105−1 カット長3mm)を用意した。
炭素短繊維を湿式短網連続抄紙装置のスラリータンクで水中に均一に分散して単繊維に解繊し、十分に分散したところにPVA短繊維およびビニロン短繊維を炭素短繊維100質量部に対して、それぞれ18質量部、32質量部となるように均一に分散し、ウェブ状にして送り出した。
送り出されたウェブを短網板に通し、ドライヤー乾燥後、目付け20g/m2、長さ100mの炭素繊維紙を得た(各組成の目付けを表1に記載した、以下同じ)。各繊維の分散状態は良好であった。
次にフェノール樹脂(大日本インキ化学株式会社製フェノライトJ−325)を40質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液が付着したローラーに炭素繊維紙を均一に片面ずつ接触させた後、連続的に熱風を吹きかけ乾燥した。32g/m2の樹脂付着炭素繊維紙を得た。これにより炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂を90質量部付着したことになる。
次に、この樹脂付着炭素繊維紙を短網板に接していた面が外側を向くように2枚貼り合せた後、一対のエンドレスベルトを備えた連続式加熱プレス装置(ダブルベルトプレス装置:DBP)を用いて連続的に加熱し、表面が平滑化されたシート(シート厚み:110μm、幅30cm、長さ100m)を得た。
このときの予熱ゾーンでの予熱温度は200℃、予熱時間は5分であり、加熱加圧ゾーンでの温度は250℃、プレス圧力は線圧8.0×104N/mであった。なお、シートがベルトに貼り付かないように2枚の離型紙の間に挟んで通した。
その後、得られたシートを、窒素ガス雰囲気とした、500℃の連続焼成炉中で5分間加熱して、フェノール樹脂の硬化および前炭素化を行った。引き続き、得られたシートを窒素ガス雰囲気中、2000℃の連続焼成炉において5分間加熱し、炭素化して、長さ100mの電極基材を連続的に得、外径3インチの円筒型紙管に巻き取った。
薄膜化されているが、平滑で取り扱いやすく、曲げ強度およびガス透過性に優れた電極基材であった。評価結果を表2、3に示した。また、SEM写真を図1及び図2に、細孔分布を図3に示す。樹脂炭化物が架橋している部分としていない部分が存在するため細孔の分布範囲が広くなり、細孔半径が10μm以下の細孔の細孔容積が全細孔容積の30%を占めた。
炭素短繊維の比率を50/50(質量比)に代えたほかは、実施例1と同様の方法で表面が平滑な多孔質電極基材を得た。評価結果を表2、3に示した。
ビニロン繊維を0.6dtex、カット長5mmのビニロン短繊維(ユニチカ株式会社製ユニチカビニロンF)に代えたほかは、実施例1と同様の方法で表面が平滑な多孔質電極基材を得た。評価結果を表2、3に示した。
ビニロン繊維の目付け量が10g/m2をとなるように添加量を代えたほかは実施例3と同様の方法で表面が平滑な多孔質電極基材を得た。評価結果を表2、3に示した。
炭素短繊維として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維のみを用いるほかは、実施例1と同様の方法で表面が平滑な多孔質電極基材を得た。評価結果を表2、3に示した。
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維のみを用い、ビニロン繊維を添加しないほかは、実施例1と同様にして、15g/m2の炭素繊維紙を得た。この炭素繊維紙に実施例1と同様にして、炭素繊短繊維100質量部に対しフェノール樹脂を100質量部付着して28g/m2の樹脂付着炭素繊維紙を得た。
それ以降は、実施例1と同様の方法で多孔質電極基材を得ようとした。しかし、実施例1と同様の条件では、加熱加圧後、無数のシワが入ったため、予熱温度を200℃から230℃まで上げたところ、シワが消えたのでこの条件を採用し、実施例1と同様の方法で焼成し、多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、脆く、取り扱いにくいものであった。評価結果を表2、3に示す。また、この多孔質電極基材の細孔分布を図3に示す。ピークがシャープであり10μm以下の細孔の細孔容積が全細孔容積の19%しかないため、発生水分の管理がされにくく、セルに組み入れた場合も性能が低いことが予想された。
炭素繊維紙の目付を30g/m2にし、樹脂付着炭素繊維紙の目付を56g/m2にした以外は、比較例1と同様の方法で電極基材を得た。多孔質電極基材は、目付が増えた分強くなったが、脆く取り扱いにくいものとなった。評価結果を表2、3に示す。
Claims (1)
- 実質的に二次元平面内においてランダムな方向に分散した繊維直径が3〜9μmで繊維長が2〜12mmの炭素短繊維同士が不定形の樹脂炭化物で結着され、前記炭素短繊維同士がフィラメント状の樹脂炭化物により架橋された、厚みが150μm以下である多孔質電極基材であって、
前記多孔質電極基材の水銀圧入法によって細孔分布を測定したときの、半径が5μm以下の細孔の単位重量あたりの容積が、0.20〜1.00cc/gであり、且つ半径が10μm以下の細孔の細孔容積が全細孔容積の15%以上である、多孔質電極基材。
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