以下、本発明による車両の運動制御装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、操舵輪であり且つ駆動輪である前2輪(左前輪FL及び右前輪FR)と、非操舵輪であり且つ非駆動輪(従動輪)である後2輪(左後輪RL及び右後輪RR)を備えた2輪操舵・前輪駆動方式の4輪車両である。
この車両の運動制御装置10は、操舵輪FL,FRを転舵するための前輪転舵機構部20と、駆動力を発生するとともに駆動力を駆動輪FL,FRに伝達する駆動力伝達機構部30と、各車輪にブレーキ液圧によるブレーキ力を発生させるためのブレーキ液圧制御装置40と、各種センサから構成されるセンサ部50と、電子制御装置60とを含んで構成されている。
前輪転舵機構部20は、ステアリング21と、ステアリング21と一体的に回動可能なコラム22と、同コラム22に連結された転舵アクチュエータ23と、転舵アクチュエータ23により車体左右方向に移動させられるタイロッドを含むとともにタイロッドの移動により操舵輪FL,FRを転舵可能なリンクを含んだリンク機構部24とから構成されている。これにより、ステアリング21が中立位置(基準位置)から回転することで操舵輪FL,FRの転舵角が車両が直進する基準角度から変更されるようになっている。
転舵アクチュエータ23は、所謂公知の電動式パワーステアリング装置を含んで構成されていて、ステアリング21、即ちコラム22の回転トルクに応じてタイロッドを移動させる助成力を発生し、この助成力によりタイロッドを車体左右方向へ変位させるものである。なお、かかる転舵アクチュエータ23の構成及び作動は周知であるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
駆動力伝達機構部30は、駆動力を発生するエンジン31と、エンジン31の吸気管31a内に配置されるとともに吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁THの開度を制御するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ32と、エンジン31の図示しない吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを含む燃料噴射装置33と、エンジン31の出力軸に接続されたトランスミッション34と、トランスミッション34から伝達される駆動力を適宜分配し、同分配された駆動力をそれぞれ前2輪FR,FLに伝達するディファレンシャルギヤ35を含んで構成されている。
ブレーキ液圧制御装置40は、その概略構成を表す図2に示すように、高圧発生部41と、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部42と、車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部43,FLブレーキ液圧調整部44,RRブレーキ液圧調整部45,RLブレーキ液圧調整部46とを含んで構成されている。
高圧発生部41は、電動モータMと、電動モータMにより駆動されるとともにリザーバRS内のブレーキ液を昇圧する液圧ポンプHPと、液圧ポンプHPの吐出側にチェック弁CVHを介して接続されるとともに液圧ポンプHPにより昇圧されたブレーキ液を貯留するアキュムレータAccとを含んで構成されている。
電動モータMは、アキュムレータAcc内の液圧が所定の下限値を下回ったとき駆動され、アキュムレータAcc内の液圧が所定の上限値を上回ったとき停止されるようになっており、これにより、アキュムレータAcc内の液圧は常時所定の範囲内の高圧に維持されるようになっている。
また、アキュムレータAccとリザーバRSとの間にリリーフ弁RVが配設されていて、アキュムレータAcc内の液圧が前記高圧より異常に高い圧力になったときにアキュムレータAcc内のブレーキ液がリザーバRSに戻されるようになっている。これにより、高圧発生部41の液圧回路が保護されるようになっている。
ブレーキ液圧発生部42は、ブレーキペダルBPの作動により応動するハイドロブースタHBと、ハイドロブースタHBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。ハイドロブースタHBは、液圧高圧発生部41から供給される前記高圧を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
マスタシリンダMCは、前記助勢された操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生するようになっている。また、ハイドロブースタHBは、マスタシリンダ液圧を入力することによりマスタシリンダ液圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じたレギュレータ液圧を発生するようになっている。これらマスタシリンダMC及びハイドロブースタHBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びハイドロブースタHBは、ブレーキペダルBPの操作力に応じたマスタシリンダ液圧及びレギュレータ液圧をそれぞれ発生するようになっている。
マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43及びFLブレーキ液圧調整部44の上流側との間には、3ポート2位置切換型の電磁弁である制御弁SA1が介装されている。同様に、ハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部45及びRLブレーキ液圧調整部46の上流側との間には、3ポート2位置切換型の電磁弁である制御弁SA2が介装されている。また、高圧発生部41と制御弁SA1との間、並びに高圧発生部41と制御弁SA2との間には、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である切換弁STRが介装されている。
制御弁SA1は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部との連通を遮断して切換弁STRとFRブレーキ液圧調整部43及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部とを連通するようになっている。
制御弁SA2は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部45及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部45及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部との連通を遮断して切換弁STRとRRブレーキ液圧調整部45及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部とを連通するようになっている。
これにより、FRブレーキ液圧調整部43及びFLブレーキ液圧調整部44の上流部には、制御弁SA1が第1の位置にあるときマスタシリンダ液圧が供給されるとともに、制御弁SA1が第2の位置にあり且つ切換弁STRが第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき高圧発生部41が発生する高圧が供給されるようになっている。
同様に、RRブレーキ液圧調整部45及びRLブレーキ液圧調整部46の上流部には、制御弁SA2が第1の位置にあるときレギュレータ液圧が供給されるとともに、制御弁SA2が第2の位置にあり且つ切換弁STRが第2の位置にあるとき高圧発生部41が発生する高圧が供給されるようになっている。
FRブレーキ液圧調整部43は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されていて、増圧弁PUfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときFRブレーキ液圧調整部43の上流部とホイールシリンダWfrとを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときFRブレーキ液圧調整部43の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断するようになっている。減圧弁PDfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとの連通を遮断するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとを連通するようになっている。
これにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は、増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrが共に第1の位置にあるときホイールシリンダWfr内にFRブレーキ液圧調整部43の上流部の液圧が供給されることにより増圧され、増圧弁PUfrが第2の位置にあり且つ減圧弁PDfrが第1の位置にあるときFRブレーキ液圧調整部43の上流部の液圧に拘わらずその時点の液圧に保持されるとともに、増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrが共に第2の位置にあるときホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRSに戻されることにより減圧されるようになっている。
また、増圧弁PUfrにはブレーキ液のホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部43の上流部への1方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されていて、これにより、制御弁SA1が第1の位置にある状態で操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
同様に、FLブレーキ液圧調整部44、RRブレーキ液圧調整部45及びRLブレーキ液圧調整部46は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUrr及び減圧弁PDrr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されていて、これらの増圧弁及び減圧弁の位置が制御されることにより、ホイールシリンダWfl、ホイールシリンダWrr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧をそれぞれ増圧、保持、減圧できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUrr及びPUrlにも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
また、制御弁SA1にはブレーキ液の上流側から下流側への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されていて、制御弁SA1が第2の位置にあってマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部43及びFLブレーキ液圧調整部44との連通が遮断されている状態にあるときに、ブレーキペダルBPを操作することによりホイールシリンダWfr,Wfl内のブレーキ液圧が増圧され得るようになっている。また、制御弁SA2にも、上記チェック弁CV5と同様の機能を達成し得るチェック弁CV6が並列に配設されている。
以上、説明した構成により、ブレーキ液圧制御装置40は、全ての電磁弁が第1の位置にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を各ホイールシリンダに供給できるようになっている。また、この状態において、例えば、増圧弁PUrr及び減圧弁PDrrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧のみを所定量だけ減圧することができるようになっている。
また、ブレーキ液圧制御装置40は、ブレーキペダルBPが操作されていない状態(開放されている状態)において、例えば、制御弁SA1,切換弁STR及び増圧弁PUflを共に第2の位置に切換るとともに増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWfl内のブレーキ液圧を保持した状態で高圧発生部41が発生する高圧を利用してホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧のみを所定量だけ増圧することもできるようになっている。このようにして、ブレーキ液圧制御装置40は、ブレーキペダルBPの操作に拘わらず、各車輪のホイールシリンダ内のブレーキ液圧をそれぞれ独立して制御し、車輪毎に独立して所定のブレーキ力を付与することができるようになっている。
再び図1を参照すると、センサ部50は、車輪FR,FL,RR,RLの回転速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力する電磁ピックアップ式の車輪速度センサ51fr,51fl,51rr,51rlと、ステアリング21の中立位置からの回転角度を検出し、ステアリング角度θs(deg)を示す信号を出力するステアリング角度センサ52と、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出し、アクセルペダルAPの操作量Accpを示す信号を出力するアクセル開度センサ53と、車両に働く実際の加速度の車体左右方向の成分である過大ロール角発生傾向指標値としての実横加速度を検出し、実横加速度Gy(m/s2)を示す信号を出力する指標値取得手段としての横加速度センサ54と、運転者によりブレーキペダルBPが操作されているか否かを検出し、ブレーキ操作の有無を示す信号を出力するブレーキスイッチ55と、車輪FR,FL,RR,RLのそれぞれの近傍における車体の特定部位(車輪部)の路面からの高さを検出し、車輪部の車高Hfr,Hfl,Hrr,Hrlを示す信号をそれぞれ出力する車高センサ56fr,56fl,56rr,56rlとから構成されている。
ステアリング角度θsは、ステアリング21が中立位置にあるときに「0」となり、中立位置からステアリング21を(運転者から見て)反時計周りの方向へ回転させたときに正の値、同中立位置から同ステアリング21を時計周りの方向へ回転させたときに負の値となるように設定されている。また、実横加速度Gyは、車両が(車両上方から見て)反時計まわりの方向へ旋回しているときに正の値、車両が(車両上方から見て)時計まわりの方向へ旋回しているときに負の値となるように設定されている。
電子制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM62、CPU61が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM63、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM64、及びADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース65は、前記センサ51〜56と接続され、CPU61にセンサ51〜56からの信号を供給するとともに、CPU61の指示に応じてブレーキ液圧制御装置40の各電磁弁及びモータM、スロットル弁アクチュエータ32、及び燃料噴射装置33に駆動信号を送出するようになっている。
これにより、スロットル弁アクチュエータ32は、スロットル弁THの開度がアクセルペダルAPの操作量Accpに応じた開度になるようにスロットル弁THを駆動するとともに、燃料噴射装置33は、エンジン31の図示しない燃焼室内に吸入された空気量である筒内吸入空気量に対して所定の目標空燃比(理論空燃比)を得るために必要な量の燃料を噴射するようになっている。
(本発明による車両の運動制御の概要)
本発明による車両の運動制御装置10は、車両の運動モデルから導かれる理論式である下記(1)式に基づいて目標横加速度Gyt(m/s2)を算出する。この目標横加速度Gytは、ステアリング角度θsが正の値のときに正の値となり、ステアリング角度θsが負の値のときに負の値となるように設定される。なお、この理論式は、ステアリング角度及び車体速度が共に一定である状態で車両が旋回するとき(定常円旋回時)に車両に働く横加速度の理論値を算出する式である。
Gyt=(Vso2・θs)/(n・L)・(1/(1+Kh・Vso2)) ・・・(1)
上記(1)式において、Vsoは後述するように算出される推定車体速度(m/s)である。また、nは操舵輪FL,FRの転舵角度の変化量に対するステアリング21の回転角度の変化量の割合であるギヤ比(一定値)であり、Lは車体により決定される一定値である車両のホイールベース(m)であり、Khは車体により決定される一定値であるスタビリティファクタ(s2/m2)である。
また、本装置は、下記(2)式に基づいて、上述したように計算した目標横加速度Gytの絶対値と横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの絶対値との偏差である横加速度偏差ΔGy(m/s2)を算出する。
ΔGy=|Gyt|-|Gy| ・・・(2)
<アンダーステア抑制制御>
この横加速度偏差ΔGyの値が正の値であることは、実際の旋回半径が目標横加速度Gytが車両に発生していると仮定したときの旋回半径よりも大きくなる状態(以下、「アンダーステア状態」と称呼する。)にあることを意味する。従って、本装置は、横加速度偏差ΔGyの値が正の所定値ΔGy1以上となる場合、車両がアンダーステア状態にあると判定し、アンダーステア状態を抑制するためのアンダーステア抑制制御(以下、「US抑制制御」とも云うこともある。)を実行する。
具体的には、本装置は、旋回方向内側の後輪にのみ上記横加速度偏差ΔGyの値に応じた所定のブレーキ力を発生させて車両に対して旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントを強制的に発生させる。これにより、実横加速度Gyの絶対値が大きくなり、実横加速度Gyが目標横加速度Gytに近づくように制御される。
<オーバーステア抑制制御>
これに対し、横加速度偏差ΔGyの値が負の値であることは、実際の旋回半径が目標横加速度Gytが同車両に発生していると仮定したときの旋回半径よりも小さくなる状態(以下、「オーバーステア状態」と称呼する。)にあることを意味する。従って、本装置は、横加速度偏差ΔGyの値が負の所定値(−ΔGy1)以下となる場合、車両がオーバーステア状態にあると判定し、オーバーステア状態を抑制するためのオーバーステア抑制制御(以下、「OS抑制制御」とも云うこともある。)を実行する。
具体的には、本装置は、旋回方向外側の前輪にのみ上記横加速度偏差ΔGyの値に応じた所定のブレーキ力を発生させて車両に対して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを強制的に発生させる。これにより、実横加速度Gyの絶対値が小さくなり、実横加速度Gyが目標横加速度Gytに近づくように制御される。
このようにして、本装置は、アンダーステア抑制制御又はオーバーステア抑制制御を実行することにより、実横加速度Gyが上記(1)式に従って計算される目標横加速度Gytに近づく方向に車両に対してヨーイングモーメントを発生させる。
<横転防止制御>
本装置は、横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの絶対値|Gy|(車両に過大なロール角が発生する傾向の程度)が横転防止制御開始基準値Gyth(本例では、後述する第1基準値Gy1と等しい値)以上であるとき、車両に過大なロール角が発生する傾向があると判定し、実横加速度の絶対値|Gy|に応じて発生するロール角の増大を抑制する(小さくする)ための横転防止制御を実行する。なお、この横転防止制御が実行されるとき(即ち、実横加速度の絶対値|Gy|が横転防止制御開始基準値Gyth以上であるとき)、前述したアンダーステア抑制制御及びオーバーステア抑制制御は実行されない。換言すれば、横転防止制御は、アンダーステア抑制制御及びオーバーステア抑制制御に優先して実行されるようになっている。
以下、図3を参照しながら、横転防止制御についてより具体的に説明する。図3は、車両が(車両上方から見て)反時計まわりの方向へ旋回している間に横転防止制御が実行される場合において同横転防止制御により車輪に付与されるブレーキ力の一例を示した図である。
図3に示すように、本装置は、実横加速度の絶対値|Gy|が横転防止制御開始基準値Gyth(=第1基準値Gy1)以上になると、先ず、図3(a)に示すように、旋回方向内側の前輪(図3において左前輪FL)にのみ実横加速度の絶対値|Gy|に応じたブレーキ力(内側前輪制動力)を発生させる。この第1基準値Gy1は第1所定の程度に相当する。
この内側前輪制動力は、実横加速度の絶対値|Gy|が第1基準値Gy1から第1基準値Gy1よりも大きい第2基準値Gy2までの間にある場合、実横加速度の絶対値|Gy|の増加に従って「0」から或る値まで所定の勾配をもって増加するとともに、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2から第2基準値Gy2よりも大きい第3基準値Gy3までの間にある場合、実横加速度の絶対値|Gy|の増加に従って前記或る値から「0」まで所定の勾配をもって減少するように設定される。この第2基準値Gy2は第2所定の程度に相当し、第3基準値Gy3は第3所定の程度に相当する。
この内側前輪制動力の付与により、車体における旋回方向内側の前側部に上述した車高低減力が発生せしめられる。この結果、車体における旋回方向内側の前側部の高さの増大が抑制されるから車体に発生するロール角の増大が抑制される。加えて、この内側前輪制動力は、減速状態において荷重が増大する前輪に働く制動力であるから、内側前輪制動力の付与により、車両に旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが効果的に発生し得、この結果、旋回トレース性能が良好に維持され得る。
更には、この車両は前輪駆動方式の車両である。従って、内側前輪制動力が付与された状態でディファレンシャルギヤ35(図1を参照)にエンジン31からの駆動力が伝達されると、ディファレンシャルギヤ35の作用により、旋回方向における外側の前輪(図3において右前輪FR)への駆動力の配分が大きくなる。このことは、車両に発生する旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが増大せしめられることを意味する。従って、駆動状態において内側前輪制動力が付与される場合、係るディファレンシャルギヤ35の作用によっても旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが更に一層効果的に発生し得、この結果、旋回トレース性能が更に一層良好に維持され得る。
このように、実横加速度の絶対値|Gy|が第1基準値Gy1以上となることで上記内側前輪制動力が付与されてもなお実横加速度の絶対値|Gy|が増大して第2基準値Gy2以上になると、本装置は、図3(b)に示すように、旋回方向内側の後輪(図3において左後輪RL)に実横加速度の絶対値|Gy|に応じたブレーキ力(内側後輪制動力)を発生させる。
この内側後輪制動力は、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2から増加するに従い、「0」から上限値frに到達するまで所定の勾配をもって増加するとともに、上限値frに到達した後は実横加速度の絶対値|Gy|が増加しても上限値frで一定になるように設定される。この内側後輪制動力の付与により、車体における旋回方向内側の後側部に前述した車高低減力が発生せしめられる。この結果、車体における旋回方向内側の後側部の高さの増大が抑制されるから車体に発生するロール角の増大が抑制される。また、この内側後輪制動力の付与により、車両に旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが発生するから旋回トレース性能も良好に維持され得る。
このように、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2以上となることで上記内側後輪制動力が付与されてもなお実横加速度の絶対値|Gy|が増大して第3基準値Gy3以上になると、本装置は、図3(c)に示すように、旋回方向外側の前輪(図3において右前輪FR)にも実横加速度の絶対値|Gy|に応じた所定のブレーキ力(外側車輪制動力)を発生させる。
この外側車輪制動力は、実横加速度の絶対値|Gy|が第3基準値Gy3から増加するに従い、「0」から上限値ffに到達するまで所定の勾配をもって増加するとともに、上限値ffに到達した後は実横加速度の絶対値|Gy|が増加しても上限値ffで一定になるように設定される。この外側車輪制動力の付与により、車両に対して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントが強制的に発生せしめられ、この結果、実横加速度の絶対値|Gy|が小さくなって車体に発生するロール角の増大が抑制される。
以上のように、過大ロール角発生傾向指標値としての実横加速度の絶対値|Gy|が横転防止制御開始基準値Gyth(=第1基準値Gy1)以上になった場合において、本装置は、実横加速度の絶対値|Gy|が第1基準値Gy1以上第2基準値Gy2以下である段階(比較的早期の段階)では内側前輪制動力のみを実横加速度の絶対値|Gy|に応じて発生させ、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2以上第3基準値Gy3以下である段階では内側前輪制動力に加えて内側後輪制動力を実横加速度の絶対値|Gy|に応じて発生させ、実横加速度の絶対値|Gy|が第3基準値Gy3以上である段階になると内側後輪制動力に加えて外側車輪制動力を実横加速度の絶対値|Gy|に応じて発生させる(この段階では、内側前輪制動力は発生させない)。
このようにして、本装置は、US抑制制御、OS抑制制御、及び横転防止制御(以下、これらを併せて「旋回時安定性制御」と総称する。)を実行して車両の安定性が確保されるように各車輪に所定の制動力を付与する。また、旋回時安定性制御を実行する際に、後述するアンチスキッド制御、前後制動力配分制御、及びトラクション制御のうちのいずれか1つも併せて実行する必要があるとき、本装置は、同いずれか1つの制御を実行するために各車輪に付与すべきブレーキ力をも考慮して各車輪に付与すべきブレーキ力を最終的に決定する。以上が、本発明による車両の運動制御の概要である。
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明による車両の運動制御装置10の実際の作動について、電子制御装置60のCPU61が実行するルーチンをフローチャートにより示した図4〜図9を参照しながら説明する。なお、変数・フラグ・符号等の末尾に付された「**」は、変数・フラグ・符号等が何れの車輪に関するものであるかを示すために変数・フラグ・符号等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、車輪速度Vw**は、左前輪速度Vwfl,
右前輪速度Vwfr, 左後輪速度Vwrl, 右後輪速度Vwrrを包括的に示している。
CPU61は、図4に示した車輪速度Vw**等の計算を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ400から処理を開始し、ステップ405に進んで各車輪の車輪速度(タイヤの外周の速度)Vw**(m/s)をそれぞれ算出する。具体的には、CPU61は車輪速度センサ51**が出力する信号の周波数に基づいて車輪速度Vw**をそれぞれ算出する。
次いで、CPU61はステップ410に進み、推定車体速度Vsoを、車輪速度Vw**のうちの最大値と等しい値に設定する。なお、推定車体速度Vsoを、車輪速度Vw**の平均値と等しい値に設定してもよい。
次に、CPU61はステップ415に進み、ステップ410にて算出した推定車体速度Vsoの値と、ステップ405にて算出した各車輪の車輪速度Vw**の値と、ステップ415内に記載した式とに基づいて各車輪の実際のスリップ率Sa**を算出する。この実際のスリップ率Sa**は、後述するように、各車輪に付与すべきブレーキ力を計算する際に使用される。
次に、CPU61はステップ420に進んで、下記(3)式に基づいて推定車体速度Vsoの時間微分値である推定車体加速度DVsoを算出する。下記(3)式において、Vso1は前回の本ルーチン実行時にステップ410にて算出した前回の推定車体速度であり、Δtは本ルーチンの演算周期に相当する上記所定時間である。
DVso=(Vso-Vso1)/Δt ・・・(3)
次いで、CPU61はステップ425に進み、横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの値が「0」以上であるか否かを判定し、実横加速度Gyの値が「0」以上である場合にはステップ425にて「Yes」と判定してステップ430に進み、旋回方向表示フラグLの値を「1」に設定してからステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。また、ステップ425の判定において実横加速度Gyの値が負の値である場合、CPU61はステップ425にて「No」と判定してステップ435に進み、旋回方向表示フラグLの値を「0」に設定してからステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ここで、旋回方向表示フラグLは、その値が「1」のとき車両が(車両上方から見て)反時計周りの方向へ旋回していることを示し、その値が「0」のとき車両が(車両上方から見て)時計周りの方向へ旋回していることを示す。従って、旋回方向表示フラグLの値により車両の旋回方向が特定される。
次に、横加速度偏差の算出について説明すると、CPU61は図5に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、ステアリング角度センサ52が検出するステアリング角度θsの値と、図4のステップ410にて算出した推定車体速度Vsoの値と、上記(1)式の右辺に対応するステップ505内に記載した式とに基づいて目標横加速度Gytを算出する。
次に、CPU61はステップ510に進んで、ステップ505にて算出した目標横加速度Gytの値と、横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの値と、上記(2)式の右辺に対応するステップ510内に記載した式とに基づいて横加速度偏差ΔGyを算出する。そして、CPU61はステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
次に、上述のOS−US抑制制御のみを実行する際に各車輪に付与すべきブレーキ力を決定するために必要となる各車輪の目標スリップ率の算出について説明すると、CPU61は図6に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの絶対値|Gy|が前記横転防止制御開始基準値Gyth(=第1基準値Gy1)よりも小さいか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合が、横転防止制御が優先的に実行される場合に相当する。
いま、実横加速度の絶対値|Gy|が横転防止制御開始基準値Gythよりも小さいものとして説明を続けると、CPU61はステップ605にて「Yes」と判定してステップ610に進み、図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの絶対値と、ステップ610内に記載したテーブルとに基づいてOS−US抑制制御により車両に発生させるべきヨーイングモーメントの大きさに応じた制御量Gouを算出する。
ステップ610内に記載したテーブルに示すように、制御量Gouは、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値ΔGy1以下のときには「0」になるように設定され、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値ΔGy1以上であって値ΔGy2以下のときには横加速度偏差ΔGyの絶対値が値ΔGy1から値ΔGy2まで増加するに従い「0」から上限値G1まで線形的に増加するように設定され、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値ΔGy2以上のときには上限値G1に維持されるように設定される。換言すれば、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値ΔGy1以下のときにはOS−US抑制制御が実行されない一方で、横加速度偏差ΔGyの絶対値が値ΔGy1以上のときにはステップ610内に記載したテーブルに基づき、制御量Gouが横加速度偏差ΔGyの絶対値に応じて決定される。
次に、CPU61はステップ615に進み、図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの値が「0」以上であるか否かを判定する。ここで、横加速度偏差ΔGyの値が「0」以上である場合(実際には、横加速度偏差ΔGyの値が値ΔGy1以上である場合)には、CPU61は先に説明したように車両がアンダーステア状態にあると判定し、上記アンダーステア抑制制御を実行する際の各車輪の目標スリップ率を計算するためステップ620以降に進む。
CPU61はステップ620に進むと、旋回方向表示フラグLの値が「1」であるか否かを判定するとともに、ステップ620にて「Yes」と判定する場合(即ち、車両が同車両上方から見て反時計周りの方向へ旋回している場合)、ステップ625に進んで、左後輪RLの目標スリップ率Strlを係数Kbに前記制御量Gouを乗じた値に設定するとともに、その他の車輪FL,FR,RRの目標スリップ率Stfl,Stfr,Strrを総て「0」に設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が同車両上方から見て反時計周りの方向へ旋回している場合において、旋回方向内側の後輪に対応する左後輪RLにのみ、旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値|ΔGy|に応じた目標スリップ率が設定される。
一方、ステップ620の判定において旋回方向表示フラグLが「0」であるとき、CPU61はステップ620にて「No」と判定してステップ630に進んで、右後輪RRの目標スリップ率Strrを前記係数Kbに前記制御量Gouを乗じた値に設定するとともに、その他の車輪FL,FR,RLの目標スリップ率Stfl,Stfr,Strlを総て「0」に設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が同車両上方から見て時計周りの方向へ旋回している場合において、旋回方向内側の後輪に対応する右後輪RRにのみ、旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値|ΔGy|に応じた目標スリップ率が設定される。
他方、ステップ615の判定において、横加速度偏差ΔGyの値が負の値である場合(実際には、横加速度偏差ΔGyの値が値(−ΔGy1)以下である場合)には、CPU61は先に説明したように車両がオーバーステア状態にあると判定し、上記オーバーステア抑制制御を実行する際の各車輪の目標スリップ率を計算するためステップ635以降に進む。
ステップ635〜ステップ645の処理は前述したステップ620〜ステップ630の処理にそれぞれ相当する処理であり、CPU61は、ステップ640に進む場合(即ち、車両が同車両上方から見て反時計まわりの方向へ旋回している場合)、右前輪FRの目標スリップ率Stfrを前記係数Kfに前記制御量Gouを乗じた値に設定するとともに、その他の車輪FL,RL,RRの目標スリップ率Stfl,Strl,Strrを総て「0」に設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が同車両上方から見て反時計周りの方向へ旋回している場合において、旋回方向外側の前輪に対応する右前輪FRにのみ、旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値|ΔGy|に応じた目標スリップ率が設定される。
また、CPU61は、ステップ645に進む場合(即ち、車両が同車両上方から見て時計周りの方向へ旋回している場合)、左前輪FLの目標スリップ率Stflを前記係数Kfに前記制御量Gouを乗じた値に設定するとともに、その他の車輪FR,RL,RRの目標スリップ率Stfr,Strl,Strrを総て「0」に設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が同車両上方から見て時計周りの方向へ旋回している場合において、旋回方向外側の前輪に対応する左前輪FLにのみ、旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントを発生させるための横加速度偏差ΔGyの絶対値|ΔGy|に応じた目標スリップ率が設定される。以上のようにして、OS−US抑制制御のみを実行する際に各車輪に付与すべきブレーキ力を決定するために必要となる各車輪の目標スリップ率が決定される。
次に、上述の横転防止制御のみを実行する際に各車輪に付与すべきブレーキ力を決定するために必要となる各車輪の目標スリップ率の算出について説明すると、CPU61は図7に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ700から処理を開始し、ステップ705に進んで、横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの絶対値|Gy|が前記横転防止制御開始基準値Gyth以上であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ795に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、横転防止制御は実行されない(OS−US抑制制御は実行され得る)。
いま、実横加速度Gyの絶対値|Gy|が横転防止制御開始基準値Gyth以上であるものとして説明を続けると、CPU61はステップ705にて「Yes」と判定してステップ710に進み、横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの絶対値|Gy|と、図3(a)〜図3(c)に示した各グラフに相当するステップ710内に記載したテーブルとに基づいて、横転防止制御により車両に発生させるべき内側前輪制動力の大きさに応じた制御量Gfi、内側後輪制動力の大きさに応じた制御量Gri、及び外側車輪制動力の大きさに応じた制御量Gfoをそれぞれ算出する。
ステップ710内に記載したテーブルに示すように、制御量Gfiは、実横加速度の絶対値|Gy|が第1基準値Gy1から第2基準値Gy2までの間にある場合、実横加速度の絶対値|Gy|の増加に従って「0」から或る値まで所定の勾配をもって増加するとともに、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2から第3基準値Gy3までの間にある場合、実横加速度の絶対値|Gy|の増加に従って前記或る値から「0」まで所定の勾配をもって減少するように設定される。制御量Griは、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2から増加するに従い、「0」から上限値G2に到達するまで所定の勾配をもって増加するとともに、上限値G2に到達した後は実横加速度の絶対値|Gy|が増加しても上限値G2で一定になるように設定される。制御量Gfoは、実横加速度の絶対値|Gy|が第3基準値Gy3から増加するに従い、「0」から上限値G3に到達するまで所定の勾配をもって増加するとともに、上限値G3に到達した後は実横加速度の絶対値|Gy|が増加しても上限値G3で一定になるように設定される。
次に、CPU61はステップ715に進み、旋回方向表示フラグLの値が「1」であるか否かを判定するとともに、同ステップ715にて「Yes」と判定する場合(即ち、車両が同車両上方から見て反時計周りの方向へ旋回している場合)、ステップ720に進んで、左前輪FLの目標スリップ率Stflを前記係数Kfにステップ710にて計算された制御量Gfiを乗じた値に設定し、右前輪FRの目標スリップ率Stfrを前記係数Kfにステップ710にて計算された制御量Gfoを乗じた値に設定するとともに、左後輪RLの目標スリップ率Strlを係数Krに制御量Griを乗じた値に設定し、残りの車輪RRの目標スリップ率Strrを「0」に設定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が同車両上方から見て反時計周りの方向へ旋回している場合において、旋回方向内側の前輪に対応する左前輪FLに内側前輪制動力に対応する目標スリップ率が設定され、旋回方向内側の後輪に対応する左後輪RLに内側後輪制動力に対応する目標スリップ率が設定されるとともに、旋回方向外側の前輪に対応する右前輪FRに外側車輪制動力に対応する目標スリップ率が設定される。
一方、ステップ715の判定において旋回方向表示フラグLが「0」であるとき、CPU61はステップ715にて「No」と判定してステップ725に進んで、左前輪FLの目標スリップ率Stflを前記係数Kfにステップ710にて計算された制御量Gfoを乗じた値に設定し、右前輪FRの目標スリップ率Stfrを前記係数Kfにステップ710にて計算された制御量Gfiを乗じた値に設定するとともに、右後輪RRの目標スリップ率Strrを前記係数Krに制御量Griを乗じた値に設定し、残りの車輪RLの目標スリップ率Strrを「0」に設定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、車両が同車両上方から見て時計周りの方向へ旋回している場合において、旋回方向内側の前輪に対応する右前輪FRに内側前輪制動力に対応する目標スリップ率が設定され、旋回方向内側の後輪に対応する右後輪RRに内側後輪制動力に対応する目標スリップ率が設定されるとともに、旋回方向外側の前輪に対応する左前輪FLに外側車輪制動力に対応する目標スリップ率が設定される。以上のようにして、横転防止制御のみを実行する際に各車輪に付与すべきブレーキ力を決定するために必要となる各車輪の目標スリップ率が決定される。
次に、車両の制御モードの設定について説明すると、CPU61は図8に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、現時点においてアンチスキッド制御が必要であるか否かを判定する。アンチスキッド制御は、ブレーキペダルBPが操作されている状態において特定の車輪がロックしている場合に、同特定の車輪のブレーキ力を減少させる制御である。アンチスキッド制御の詳細については周知であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
具体的には、CPU61はステップ805において、ブレーキスイッチ55によりブレーキペダルBPが操作されていることが示されている場合であって、且つ図4のステップ415にて算出した特定の車輪の実際のスリップ率Sa**の値が正の所定値以上となっている場合に、アンチスキッド制御が必要であると判定する。
ステップ805の判定にてアンチスキッド制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ810に進んで、旋回時安定性制御とアンチスキッド制御とを重畳して実行する制御モードを設定するため変数Modeに「1」を設定し、続くステップ850に進む。
一方、ステップ805の判定にてアンチスキッド制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ815に進んで、現時点において前後制動力配分制御が必要であるか否かを判定する。前後制動力配分制御は、ブレーキペダルBPが操作されている状態において車両の前後方向の減速度の大きさに応じて前輪のブレーキ力に対する後輪のブレーキ力の比率(配分)を減少させる制御である。前後制動力配分制御の詳細については周知であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
具体的には、CPU61はステップ815において、ブレーキスイッチ55によりブレーキペダルBPが操作されていることが示されている場合であって、且つ図4のステップ420にて算出した推定車体加速度DVsoの値が負の値であり同推定車体加速度DVsoの絶対値が所定値以上となっている場合に、前後制動力配分制御が必要であると判定する。
ステップ815の判定にて前後制動力配分制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ820に進んで、旋回時安定性制御と前後制動力配分制御とを重畳して実行する制御モードを設定するため変数Modeに「2」を設定し、続くステップ850に進む。
ステップ815の判定にて前後制動力配分制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ825に進んで、現時点においてトラクション制御が必要であるか否かを判定する。トラクション制御は、ブレーキペダルBPが操作されていない状態において特定の車輪がエンジン31の駆動力が発生している方向にスピンしている場合に、同特定の車輪のブレーキ力を増大させる制御又はエンジン31の駆動力を減少させる制御である。トラクション制御の詳細については周知であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
具体的には、CPU61はステップ825において、ブレーキスイッチ55によりブレーキペダルBPが操作されていないことが示されている場合であって、且つ図4のステップ415にて算出した特定の車輪の実際のスリップ率Sa**の値が負の値であり同実際のスリップ率Sa**の絶対値が所定値以上となっている場合に、トラクション制御が必要であると判定する。
ステップ825の判定にてトラクション制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ830に進んで、旋回時安定性制御とトラクション制御とを重畳して実行する制御モードを設定するため変数Modeに「3」を設定し、続くステップ850に進む。
ステップ825の判定にてトラクション制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ835に進んで、現時点において上記旋回時安定性制御が必要であるか否かを判定する。具体的には、CPU61はステップ835において、横加速度センサ54が検出する実横加速度Gyの絶対値が横転防止制御開始基準値Gyth未満であって、且つ前記図5のステップ510にて算出した横加速度偏差ΔGyの絶対値が前記値ΔGy1以上となっている場合(即ち、OS−US抑制制御が実行される場合)、並びに、実横加速度Gyの絶対値が同横転防止制御開始基準値Gyth以上となっている場合(即ち、横転防止制御が実行される場合)、図6又は図7にて設定された目標スリップ率St**の値が「0」でない特定の車輪が存在するから旋回時安定性制御が必要であると判定する。
ステップ835の判定にて旋回時安定性制御が必要であると判定したとき、CPU61はステップ840に進んで、旋回時安定性制御(実際には、OS−US抑制制御、又は横転防止制御の何れか一方)のみを実行する制御モードを設定するため変数Modeに「4」を設定し、続くステップ850に進む。一方、ステップ835の判定にて旋回時安定性制御が必要でないと判定したとき、CPU61はステップ845に進んで、車両の運動制御を実行しない非制御モードを設定するため変数Modeに「0」を設定し、続くステップ850に進む。この場合、制御すべき特定の車輪は存在しない。
CPU61はステップ850に進むと、制御対象車輪に対応するフラグCONT**に「1」を設定するとともに、制御対象車輪でない非制御対象車輪に対応するフラグCONT**に「0」を設定する。なお、このステップ850における制御対象車輪は、図2に示した対応する増圧弁PU**及び減圧弁PD**の少なくとも一方を制御する必要がある車輪である。
従って、例えば、ブレーキペダルBPが操作されていない状態であって上述した図6のステップ640に進む場合等、右前輪FRのホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧のみを増圧する必要がある場合、図2に示した制御弁SA1,切換弁STR及び増圧弁PUflを共に第2の位置に切換るとともに増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWfl内のブレーキ液圧をその時点での液圧に保持した状態で高圧発生部41が発生する高圧を利用してホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧のみを増圧することになる。従って、この場合における制御対象車輪には、右前輪FRのみならず左前輪FLが含まれる。そして、CPU61はステップ850を実行した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。このようにして、制御モードが特定されるとともに、制御対象車輪が特定される。
次に、各車輪に付与すべきブレーキ力の制御について説明すると、CPU61は図9に示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進んで、変数Modeが「0」でないか否かを判定し、変数Modeが「0」であればステップ905にて「No」と判定してステップ910に進み、各車輪に対してブレーキ制御を実行する必要がないのでブレーキ液圧制御装置40における総ての電磁弁をOFF(非励磁状態)にした後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、ドライバーによるブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧がホイールシリンダW**に供給される。
一方、ステップ905の判定において変数Modeが「0」でない場合、CPU61はステップ905にて「Yes」と判定してステップ915に進み変数Modeが「4」であるか否かを判定する。そして、変数Modeが「4」でない場合(即ち、旋回時安定性制御以外のアンチスキッド制御等が必要である場合)、CPU61はステップ915にて「No」と判定してステップ920に進み、図8のステップ850にてフラグCONT**の値が「1」に設定された制御対象車輪に対して図6又は図7にて既に設定した旋回時安定性制御のみを実行する際に必要となる各車輪の目標スリップ率St**の値を補正した後ステップ925に進む。これにより、旋回時安定性制御に重畳される変数Modeの値に対応する制御を実行する際に必要となる各車輪の目標スリップ率分だけ図6又は図7にて既に設定した各車輪の目標スリップ率St**の値が制御対象車輪毎に補正される。
ステップ915の判定において変数Modeが「4」である場合、CPU61はステップ915にて「Yes」と判定し、図6又は図7にて既に設定した各車輪の目標スリップ率St**を補正する必要がないので直接ステップ925に進む。CPU61はステップ925に進むと、図8のステップ850にてフラグCONT**の値が「1」に設定された制御対象車輪に対して、目標スリップ率St**の値と、図4のステップ415にて算出した実際のスリップ率Sa**の値と、ステップ925内に記載の式とに基づいて制御対象車輪毎にスリップ率偏差ΔSt**を算出する。
次いで、CPU61はステップ930に進み、上記制御対象車輪に対して同制御対象車輪毎に液圧制御モードを設定する。具体的には、CPU61はステップ925にて算出した制御対象車輪毎のスリップ率偏差ΔSt**の値と、ステップ930内に記載のテーブルとに基づいて、制御対象車輪毎に、スリップ率偏差ΔSt**の値が所定の正の基準値を超えるときは液圧制御モードを「増圧」に設定し、スリップ率偏差ΔSt**の値が所定の負の基準値以上であって前記所定の正の基準値以下であるときは液圧制御モードを「保持」に設定し、スリップ率偏差ΔSt**の値が前記所定の負の基準値を下回るときは液圧制御モードを「減圧」に設定する。
次に、CPU61はステップ935に進み、ステップ930にて設定した制御対象車輪毎の液圧制御モードに基づいて、図2に示した制御弁SA1,SA2、切換弁STRを制御するとともに制御対象車輪毎に同液圧制御モードに応じて増圧弁PU**及び減圧弁PD**を制御する。
具体的には、CPU61は液圧制御モードが「増圧」となっている車輪に対しては対応する増圧弁PU**及び減圧弁PD**を共に第1の位置(非励磁状態における位置)に制御し、液圧制御モードが「保持」となっている車輪に対しては対応する増圧弁PU**を第2の位置(励磁状態における位置)に制御するとともに対応する減圧弁PD**を第1の位置に制御し、液圧制御モードが「減圧」となっている車輪に対しては対応する増圧弁PU**及び減圧弁PD**を共に第2の位置(励磁状態における位置)に制御する。
これにより、液圧制御モードが「増圧」となっている制御対象車輪のホイールシリンダW**内のブレーキ液圧は増大し、また、液圧制御モードが「減圧」となっている制御対象車輪のホイールシリンダW**内のブレーキ液圧は減少することで、各制御車輪の実際のスリップ率Sa**が目標スリップ率St**に近づくようにそれぞれ制御され、この結果、図8に設定した制御モードに対応する制御が達成される。
なお、図8のルーチンの実行により設定された制御モードがトラクション制御を実行する制御モード(変数Mode=3)又は旋回時安定性制御のみを実行する制御モード(変数Mode=4)であるときには、エンジン31の駆動力を減少させるため、CPU61は必要に応じて、スロットル弁THの開度がアクセルペダルAPの操作量Accpに応じた開度よりも所定量だけ小さい開度になるようにスロットル弁アクチュエータ32を制御する。そして、CPU61はステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上、説明したように、本発明による車両の運動制御装置によれば、上記横転防止制御において、実横加速度Gyの絶対値|Gy|が第1基準値Gy1以上になった場合において、実横加速度の絶対値|Gy|が第1基準値Gy1以上第2基準値Gy2以下である比較的早期の段階では旋回方向内側の前輪にのみ実横加速度の絶対値|Gy|に応じた内側前輪制動力が発生せしめられる。この内側前輪制動力により、車体における旋回方向内側の前側部に上述した車高低減力が発生せしめられるから車体に発生するロール角の増大が抑制される。加えて、この内側前輪制動力は、減速状態において荷重が増大する前輪に働く制動力であるから、この内側前輪制動力の付与により、車両に旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが効果的に発生し得、この結果、旋回トレース性能が良好に維持され得る。更には、駆動状態において内側前輪制動力が付与される場合、係るディファレンシャルギヤ35の作用によっても旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが更に一層効果的に発生し得、この結果、旋回トレース性能が更に一層良好に維持され得る。
また、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2以上第3基準値Gy3以下である段階では内側前輪制動力に加えて、旋回方向内側の後輪に実横加速度の絶対値|Gy|に応じた内側後輪制動力が実横加速度の絶対値|Gy|に応じて発生せしめられる。この内側後輪制動力の付与により、車体における旋回方向内側の後側部に前記車高低減力が発生せしめられるから車体に発生するロール角の増大が抑制される。また、この内側後輪制動力の付与により、車両に旋回方向と同一方向のヨーイングモーメントが発生するから旋回トレース性能も良好に維持され得る。
加えて、実横加速度の絶対値|Gy|が第3基準値Gy3以上である段階になると、内側後輪制動力に加えて、旋回方向外側の前輪に実横加速度の絶対値|Gy|に応じた外側車輪制動力が発生せしめられる。この外側車輪制動力により、車両に対して旋回方向と反対方向のヨーイングモーメントが強制的に発生せしめられ、この結果、実横加速度の絶対値|Gy|が小さくなって車体に発生するロール角の増大が抑制される。
また、実横加速度Gyの絶対値|Gy|が第1基準値Gy1以上になった場合において、先ず、旋回方向内側の前輪にのみ(即ち、1輪にのみ)内側前輪制動力が発生せしめられる。従って、この段階において運転者が感じる減速感は比較的小さくなる。この結果、第1基準値Gy1を小さい値に設定することで、実横加速度Gyの絶対値|Gy|が小さい(従って、ロール角が小さい)早期の段階から運転防止制御を介入させることができる。
また、上記のように、実横加速度Gyの絶対値|Gy|が増大する過程において、内側前輪制動力、及び内側後輪制動力が付与された後に外側車輪制動力が付与されることになる。従って、車体における旋回方向内側の高さの増大が抑制されている状態で外側車輪制動力が付与されるから、より一層確実に過大なロール角が発生することが防止される。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、車両の各車輪に付与されるブレーキ力を制御するための制御目標として各車輪のスリップ率を使用しているが、例えば、各車輪のホイールシリンダW**内のブレーキ液圧等、各車輪に付与されるブレーキ力に応じて変化する物理量であればどのような物理量を制御目標としてもよい。
また、上記実施形態においては、内側前輪制動力を、実横加速度の絶対値|Gy|が第1基準値Gy1から第2基準値Gy2までの間にある場合には実横加速度の絶対値|Gy|の増加に従って「0」から或る値まで所定の勾配をもって増加するとともに、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2から第3基準値Gy3までの間にある場合、実横加速度の絶対値|Gy|の増加に従って前記或る値から「0」まで所定の勾配をもって減少するように設定しているが、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2以上である場合において、実横加速度の絶対値|Gy|の増加に対する内側前輪制動力の減少勾配を変更してもよい。具体的には、内側前輪制動力が減少しながら「0」に達する時点に対応する実横加速度の絶対値|Gy|を第3基準値Gy3と異なる値としてもよい。また、実横加速度の絶対値|Gy|が第2基準値Gy2以上である場合において、実横加速度の絶対値|Gy|の増加に従って内側前輪制動力を前記或る値から更に増加させてもよい。
また、上記実施形態においては、図6のステップ610にて算出される制御量Gouの上限値G1と図7のステップ710にて算出される制御量Gfoの上限値G3とを互いに異ならせているが、制御量Gouの上限値G1と制御量Gfoの上限値G3とを同一の値としてもよい。
また、上記実施形態においては、外側車輪制動力として旋回方向外側の前輪にのみ制動力が付与されるように構成されているが、外側車輪制動力として旋回方向外側の前後輪に制動力が付与されるように構成してもよい。
また、上記実施形態においては、図7のステップ710に示すように、横加速度センサ54の出力値が示す過大ロール角発生傾向指標値としての実横加速度Gyの絶対値|Gy|に応じて横転防止制御時における制御量Gfi,Gri,Gfoを決定しているが、過大ロール角発生傾向指標値としての車両に発生するロール角θrollの絶対値に応じて横転防止制御時における制御量Gfi,Gri,Gfoを決定するように構成してもよい。
この場合の具体的な処理を述べると、CPU61は図10に示したロール角θrollを算出するためのルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行する。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ1000から処理を開始し、ステップ1005に進んで、車高センサ56fl,56fr,56rl及び56rrにより得られる車輪部の車高Hfl,Hfr,Hrl,Hrrの各値と、ステップ1005内に記載の式とに基づいて車体左側部と車体右側部との車高差ΔHを算出する。
ここで、車高差ΔHは、車体左前部と車体右前部との車高差と、車体左後部と車体右後部との車高差の平均値である。また、車高差ΔHは、車体左側部の車高が車体右側部の車高より高いとき、即ち車両が(車両上方から見て)反時計周りの方向へ旋回しているときに正の値となり、車体左側部の車高が車体右側部の車高より低いとき、即ち車両が(車両上方から見て)時計周りの方向へ旋回しているときに負の値となるように設定される。
次に、CPU61はステップ1010に進んで、ステップ1005にて算出した車高差ΔHの値と、左右輪(例えば、左右後輪RL,RR)の各タイヤ踏面の路面との接触面の中心間の車体左右方向の距離であるホイールトレッドTの値と、ステップ1010内に記載の式とに基づいて車体のロール角θrollを算出した後、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。ここで、ステップ1010内に記載の式から明らかなように、ロール角θrollの符号は車高差ΔHの符号と同一となるので、ロール角θrollは、車両が(車両上方から見て)反時計周りの方向へ旋回しているときに正の値となり、車両が(車両上方から見て)時計周りの方向へ旋回しているときに負の値となるように設定される。
そして、CPU61は、図7のステップ710内に記載のテーブルの横軸を実横加速度Gyの絶対値|Gy|の代わりに図10のステップ1010にて算出したロール角θrollの絶対値とし、第1、第2、第3基準値Gy1,Gy2,Gy3をそれらに対応する第1、第2、第3基準値θroll1,θroll2,θroll3にそれぞれ代えて制御量Gfi,Gri,Gfoを算出する。このようにして、横転防止制御時における制御量Gfi,Gri,Gfo(従って、内側前輪制動力、内側後輪制動力、及び外側車輪制動力)が車両に発生するロール角θrollの絶対値に応じて変更される。また、前記計算したロール角θrollを時間微分した値であるロール角速度θ’rollを過大ロール角発生傾向指標値として使用し、同ロール角速度θ’rollの絶対値に応じて図7のステップ710にて算出される横転防止制御時における制御量Gfi,Gri,Gfoを決定するように構成してもよい。
また、図7のステップ710にて算出される制御量Gfi,Gri,Gfoを過大ロール角発生傾向指標値としての車両に発生する図示しないヨーレイトセンサが検出する実際のヨーレイトの絶対値に応じて変更するように構成してもよい。また、図7のステップ710にて算出される制御量Gfi,Gri,Gfoを過大ロール角発生傾向指標値としてのステアリング角度センサ52が取得するステアリング角度θs(ステアリング操作量)の絶対値に応じて変更するように構成してもよい。また、図7のステップ710にて算出される制御量Gfi,Gri,Gfoを、過大ロール角発生傾向指標値としてのステアリング21の回転速度(ステアリングの操作速度)の絶対値に応じて変更するように構成してもよい。この場合、ステアリング回転速度θ’sは下記(4)式にて算出される。
θ’s=(θs-θs1)/Δt ・・・(4)
上記(4)式において、θs1は前回、図5のステップ505の処理の実行時にステアリング角度センサ52により取得した前回のステアリング角度であり、Δtは各ルーチンの演算周期である上記所定時間である。
また、「過大ロール角発生傾向指標値」は、実横加速度Gyの絶対値、実際のヨーレイトの絶対値、ロール角θrollの絶対値、ロール角速度θ’rollの絶対値、ステアリング角度θsの絶対値、及びステアリング回転速度θ’sの絶対値に対応する所定の係数をそれぞれ乗算した値(重み付けした値)の総和であってもよい。また、これらの絶対値のうちで、前記横転防止制御開始基準値Gythに対応する基準値を超えた値となっているもの(前記対応する基準値を超えた値となっているものが複数存在する場合、同対応する基準値からの偏差の程度が最も大きいもの)を「過大ロール角発生傾向指標値」として採用してもよい。
10…車両の運動制御装置、20…前輪転舵機構部、30…駆動力伝達機構部、40…ブレーキ液圧制御装置、50…センサ部、51**…車輪速度センサ、52・・・ステアリング角度センサ、54・・・横加速度センサ、60…電子制御装置、61…CPU