本発明者らは種々の検証実験を行なうことによって、上述のように、真空断熱材の外包材の熱溶着部が炭化水素を含む材質によって形成される場合には、熱溶着部が熱溶着される際に、真空断熱材の断熱性能に悪影響が及ぼされることを見出した。以下に、本発明者らが行なった検証実験について説明する。
(検証実験1)
外包材の内部の炭化水素ガスの量が増えることによって真空断熱材の断熱性能が低下することを検証するために、外包材の熱溶着を複数回行ったときの真空断熱材の断熱性能の変化を測定した。
図1は、検証実験1に用いられる真空断熱材の初期の状態を示す正面図(A)と、真空断熱材を図1の(A)にB−B線で示す方向から見たときの断面図(B)と、2回目の熱溶着を行なったときの状態を示す正面図(C)と、3回目の熱溶着を行なったときの状態を示す正面図(D)である。
図1の(A)と(B)に示すように、検証実験1に用いられた真空断熱材2においては、袋状に形成されたガスバリヤ性の外包材20の内部に芯材10が収容され、減圧状態で熱溶着部30と熱溶着部31で外包材20どうしが熱溶着されて密封されている。
外包材20としては、最外層21にナイロンを用い、中間層22にアルミニウム蒸着PET樹脂とアルミニウム箔の2層を用い、最内層23に2種類のポリエチレン樹脂を用いた。
芯材10は、複数の不織布11が積層されて構成されている。それぞれの不織布11は、無機繊維の一例であるガラス繊維と、少量の有機バインダーを用いて、抄紙法によって作製されている。具体的には、芯材10は、次のようにして作製された。
平均繊維径10μm、平均繊維長10mmであるガラスチョップドストランド(オーウェンス・コーニング社(Owens Corning Corporation)製)をその濃度が0.5質量%となるように水中に投入し、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199(花王株式会社製)をガラスチョップドストランド100質量部に対して1質量部となるように添加して、攪拌することにより、ガラスチョップドストランドスラリーを作製した。
得られたガラスチョップドストランドスラリーを用いて湿式抄紙法にて抄造し、ウエブを作製した。得られたウエブに対して、アクリルエマルジョン(大日本インキ化学工業株式会社製 GM−4)をその固形分濃度が3.0質量%となるように水で希釈した液を含浸させ、ウエブ水分質量がガラス繊維質量に対して0.7質量%となるように水分を吸引して調整した。その後、ウエブを乾燥させることによって、芯材10に用いられる不織布11を作製した。得られた芯材10に用いられる不織布11は、米坪が100g/m2であった。不織布11を複数枚積層して、芯材10を形成した。芯材10の大きさは、長辺が435mm、短辺が400mm、厚みが9mmであった。
外包材20は、次のようにして密封された。まず、外包材20の3辺を、熱溶着部30において熱溶着した後、内部に芯材10を充填した。次に、芯材10を充填された外包材20の熱溶着部31を真空チャンバー内において、減圧状態下で熱溶着した。このようにして、芯材10が外包材20内に密封されて、真空断熱材2が作製された。熱溶着部31は、真空チャンバー内に設置されたピラニゲージ指示値が0.009Torrに到達したときに、170〜220℃の温度で熱溶着された。このようにして作製された真空断熱材2の熱伝導率を測定した。
次に、熱溶着部31の内側の熱溶着部32において熱溶着を行い、同様に熱伝導率を測定した。その後、熱溶着部32の内側の熱溶着部33において、さらに熱溶着を行い、熱伝導率を測定した。熱溶着部32,33の熱溶着は、熱溶着部31と同様に170〜220℃の温度で行なわれた。
なお、熱伝導率の測定は、外包材20の最内層23のポリエチレン樹脂として、HDPE(高密度ポリエチレン)を熱溶着層として用いた外包材を備える真空断熱材と、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)を熱溶着層として用いた外包材を備える真空断熱材の2種類について、行なった。熱伝導率は、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製 HC−074/600)を用いて測定した。測定時の真空断熱材の平均温度は24℃であった。
図2は、熱溶着の回数による真空断熱材の熱伝導率の変化を示す図である。
図2に示すように、図1に示す外包材20の最内層23のポリエチレン樹脂としてHDPEを用いた真空断熱材2では、真空断熱材の作成時、すなわち、熱溶着部31で熱溶着されたときの熱伝導率は、1.5であった。熱溶着部32にも熱溶着を行なうことによって、熱伝導率は1.7に上昇し、断熱性能が低下した。熱溶着部33にも熱溶着を行なうと、熱伝導率は1.7のままであった。
一方、外包材20の最内層23のポリエチレン樹脂としてLLDPEを用いた真空断熱材では、真空断熱材2の作成時、すなわち、熱溶着部31で熱溶着されたときの熱伝導率は、1.2であった。熱溶着部32にも熱溶着を行なうことによって、熱伝導率は1.3に上昇し、断熱性能が低下した。熱溶着部33にも熱溶着を行なうと、熱伝導率は1.3のままであった。
熱溶着部31において熱溶着を行なった後、さらに、熱溶着部31の内側の熱溶着部32、熱溶着部33の熱溶着を行なうことによって、外包材20のポリエチレン樹脂が熱分解されて発生した炭化水素ガスが外包材20の内部に拡散したと考えられる。最も外側の熱溶着部31が熱溶着されて外包材20が密封されているので、炭化水素ガスは外包材20の内部に閉じ込められる。そのため、真空断熱材2の真空度が低下して、熱伝導率が低下したと考えられる。
(検証実験2)
熱溶着部の熱溶着時に発生する炭化水素ガスによって真空断熱材の断熱性能が低下することをさらに検証するために、外包材の熱溶着の長さを変化させたときの真空断熱材の断熱性能の変化を測定した。
真空断熱材としては、上述の検証実験1に用いた、図1の(A)と(B)に示す真空断熱材2を用いた。外包材20の最内層23のポリエチレン樹脂としてHDPEが用いられているものを用いた。
検証実験2では、図1の(A)に示す真空断熱材2の熱溶着部31の全長を、一旦、熱溶着した。このときの真空断熱材2の熱伝導率を測定した。その後、熱溶着部31の全長の1/5を開いて真空断熱材2の内部を大気圧に戻した。次に、熱溶着部31において開かれた1/5の部分を再び、減圧状態下で熱溶着した。このときの真空断熱材2の熱伝導率を測定した。このようにして外包材20どうしが熱溶着されて密封された真空断熱材について、検証実験1と同様にして熱伝導率を測定した。熱溶着部31の全長は、470mmであった。
この2つの真空断熱材2の熱伝導率を測定することによって、熱溶着部31の全長の1/5の長さだけを熱溶着したときに発生する炭化水素ガスの影響を、熱溶着部31の全長を熱溶着したときに発生する炭化水素ガスの影響と比較して調べることができる。
図3は、熱溶着部の長さによる真空断熱材の熱伝導率の変化を示す図である。
図3に示すように、熱溶着部31の全長で一旦熱溶着されたときの熱伝導率は、1.5であった。一方、熱溶着部31の全長の1/5を開放後、再び熱溶着されたときの熱伝導率は、1.3であった。
以上の検証実験1と検証実験2の結果から、炭化水素を含む材質によって形成される熱溶着部を熱溶着して外包材を密封するとき、真空断熱材の熱伝導率は、熱溶着の回数が多ければ大きくなり、また、最終的に外包材が密封されるときに熱溶着される熱溶着部の長さが長ければ大きくなることがわかった。
このことから、炭化水素を含む材質によって形成される熱溶着部を熱溶着するときに発生する炭化水素ガスが外包材の内部に拡散することによって、外包材の内部の真空度が低くなり、真空断熱材の断熱性が低下するものと考えられる。
そこで、外包材の内部に、炭化水素ガスを吸着する吸着材を収容し、外包材の内部に拡散する炭化水素ガスを吸着材に吸着させる。炭化水素ガスを吸着材に吸着させることによって、炭化水素ガスによって真空度が低下することを防ぐことができる。
以上のように、本発明者らは、真空断熱材の外包材の熱溶着部が炭化水素を含む材質によって形成される場合には、外包材の内部に、炭化水素ガスを吸着する吸着材が収容されることによって、優れた断熱性能を有する真空断熱材を得ることができることを見出した。この知見に基づいて、本発明に従った真空断熱材は、次のような特徴を備えている。
この発明に従った真空断熱材は、外包材と、外包材の内部に収容される芯材と、外包材の内部に収容される吸着材とを備える。外包材は、外包材同士が互いに接触して熱溶着される熱溶着部を有する。熱溶着部は炭化水素を含む材質によって形成される。吸着材は炭化水素ガスを吸着する吸着材である。
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図4は、この発明の第1実施の形態として、真空断熱材の構成を模式的に示す断面図である。図4の(A)は、外包材の内部を減圧する前の状態、図4の(B)は、外包材の内部が減圧されている場合の状態を示す図である。
図4に示すように、真空断熱材1においては、直方体形状の袋状に形成されたガスバリヤ性の外包材200の内部に芯材100と吸着材400が収容されている。芯材100と吸着材400を外包材200に充填する前に、外包材200は、4辺のうち3辺において熱溶着されている。残りの1辺の熱溶着部300は、後述するように芯材100と吸着材400の充填後に減圧状態で熱溶着される。吸着材400は、減圧状態にされてから熱溶着される熱溶着部300の近傍に配置されている。吸着材400は、外包材200の内部の他の位置に配置されてもよい。
図4の(A)に示すように、芯材100は、複数の不織布110が積層されて構成されている。それぞれの不織布110は、無機繊維の一例であるガラス繊維と、少量の有機バインダーを用いて、抄紙法によって作製されている。バインダーについては無機バインダーを使用することも可能であるが、無機バインダーを用いると、繊維集合体、すなわち、不織布110の折り曲げの柔軟性が劣ること、また製品として使用する場合のコストが有機バインダーを用いる場合に比べ高価となるため、有機バインダーを使用することが好ましい。また、バインダーの量は、極力、大きくならないように抑える。
吸着材400としては、例えば、過マンガン酸カリウムを活性アルミナやゼオライトなどの多孔質の基材に担持したもの、あるいは、臭素を活性炭などの多孔質の部材に添着したものが用いられる。吸着材400は、炭化水素ガスを吸着するものであればよく、これらに限られるものではない。
具体的な外包材200の構成の例としては、最外層210をポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂とし、中間層220にはアルミニウム蒸着層を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂を用い、最内層230に高密度ポリエチレン樹脂や、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂のような低密度ポリエチレン樹脂を用いるガスバリヤフィルムや、最外層210にナイロンを用い、中間層220にアルミニウム蒸着PET樹脂とアルミニウム箔の2層を用い、最内層230に高密度ポリエチレン樹脂や、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂などの低密度ポリエチレン樹脂を用いるガスバリヤフィルム等が挙げられる。熱溶着部300は、最内層230の一部に形成される。
また、真空断熱材1の初期断熱性能及び経時断熱性能を保持するために、真空断熱材1内に、吸着材400の他に、ガス吸着材、水分吸着材等の吸着材を使用することが好ましい。
芯材100と吸着材400を外包材200内に充填した後、真空チャンバー内に収容する。外包材200の内部が所定の真空度まで減圧されると、熱溶着部300において外包材200どうしを熱溶着する。熱溶着の温度は、シール強度を保持するための熱溶着温度として、170〜220℃であることが好ましい。熱溶着の方法としては、真鍮や銅製の熱板の中に埋め込まれたニクロム線により熱板を発熱伝導させて熱溶着部300を過熱溶着させてシールを行なう熱板シール方式や、発熱体であるニクロム線(リボンヒーター)によって直接、熱溶着部300を加熱溶着させてシールを行なうインパルス溶着方式がある。熱溶着部300は、どちらの方法によって溶着されてもよい。また、他の方法によって溶着されてもよい。熱溶着部300が熱溶着されると、外包材200が密封される。
図4の(B)に示すように、外包材200の内部が減圧されると、外包材200の外部の大気圧によって芯材100が圧縮されて、芯材100を構成する不織布110同士が押し付けられるように接触する。外包材200の内部を減圧した状態での芯材100の密度は、100〜400kg/m3の範囲内に含まれる。
以上のように不織布110を構成し、不織布110を積層して芯材100を構成し、芯材100と吸着材400を外包材200の内部に配置して減圧して密封して、真空断熱材1を構成する。
図5は、この発明の一つの実施の形態として、芯材と外包材の配置(A)と、外包材の内部を減圧したときの真空断熱材の内部の様子(B)を模式的に示す斜視図である。各不織布、芯材、外包材は、それぞれ、一部のみが示されている。
図5の(A)に示すように、不織布110を複数枚積層して、芯材100を形成する。芯材100は、外包材200に覆われている。外包材200はガスバリヤ性で、袋状に形成されており、芯材100の全体を覆う。
図5の(B)に示すように、袋状の外包材200の内部を減圧すると、芯材100が圧縮される。芯材100が圧縮されると、不織布110同士が互いに押し付けられるようにして接触する。
芯材100の不織布110としては、連続フィラメント法によって製造されたガラス繊維によって形成されるものや、グラスウールによって形成されるものを用いることができる。
本発明者らは、上述のようにして構成される真空断熱材の断熱性能を向上させるために、鋭意検討を行った結果、特定条件の無機繊維を含むように構成される不織布を芯材として使用することによって、真空断熱材の断熱性能が著しく向上することを見出した。
そこで、この実施の形態においては、図4に示すように本発明の真空断熱材1に用いられる芯材100を構成する不織布110が、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維を少なくとも含むように構成される。
無機繊維としてはガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール繊維等が挙げられるが、本発明の芯材を構成するために必要な細径の繊維が大量生産により比較的低価格で流通している点、素材自体の熱伝導率が小さい点から、無機繊維としてガラス繊維を使用するのが好ましい。
本発明の好ましい一つの実施の形態では、一定の長さに切断したガラス繊維を用いて、湿式抄紙法によって製造した不織布を真空断熱材の芯材として使用する。ここで、一定の長さに切断したガラス繊維とは、連続フィラメント法によって溶融ガラスを多数のノズルから引き出すことによって成形された、太さが均一な糸状の連続フィラメントであるガラス繊維を数百〜数千本束ねて巻き取ってストランドとし、このストランドをギロチンカッター等により所定の長さに定寸切断したものをいう。このようにしてガラス繊維のストランドを定寸切断したものを、ガラスチョップドストランドという。
このようにして得られたガラス繊維は、連続フィラメントを一定の寸法で切断して所定の長さにしたものであるので、真直度が極めて高く、剛性が高い繊維であって、ほぼ均一な繊維径を有し、ほぼ円形の断面を有する。すなわち、連続フィラメント法によれば、繊維径のばらつきが極めて小さい多数本の繊維を大量生産することができる。また、連続フィラメント法によって製造された無機繊維は、各繊維の真直度が極めて高い。このため、連続フィラメント法によって製造された多数本の無機繊維をほぼ一定の長さに切断することによって、繊維径のばらつきが極めて小さい、ほぼ同じ長さの多数本の無機繊維を、真直度が極めて高い状態で得ることができる。
このため、このガラス繊維を用いて湿式抄紙法によって不織布を製造した場合、繊維が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するが、不織布の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列された不織布を得ることができる。
図6は、本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布を構成するガラス繊維の分布状態を模式的に示す平面図である。図6では、2層のガラス繊維層からなる不織布が示されている。図7は本発明の一つの実施の形態として真空断熱材の芯材に用いられる不織布を構成するガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す平面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)、図8は同様の分布状態を示す断面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
図6に示すように、上層を形成する複数のガラス繊維111と下層を形成するガラス繊維112は、不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列している。また、図7と図8に示すように、各繊維の真直度が極めて高いことがわかる。また、大半の繊維が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するが、不織布の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列していることがわかる。
このように本発明の芯材を構成する不織布110は、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維の一例であるガラス繊維を少なくとも含むので、このような複数のガラス繊維を用いて、不織布110を形成する際に各ガラス繊維を不織布110の表面に対して平行な方向に配列させようとすると、大半のガラス繊維111、112が不織布の表面とほぼ平行な方向に延在するように複数のガラス繊維を容易に整列させることができる。このとき、大半の複数のガラス繊維111、112は、不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列する。これにより、芯材を構成する複数のガラス繊維の間を充填するようなガラス繊維の存在を極力なくすことができ、また複数のガラス繊維の間に絡みつくようなガラス繊維の存在を極力なくすことができるので、ガラス繊維間に熱伝導が発生するのを防止することができる。このため、芯材の厚み方向に沿って熱伝導が生じるのを防止することによって、芯材の熱伝導率を低下させることができ、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する真空断熱材用芯材とその芯材を備えた真空断熱材を得ることができる。
ガラス繊維の組成としては特に限定せず、Cガラス、Dガラス、Eガラス等が使用できるが、入手の容易さからEガラス(アルミノホウケイ酸ガラス)を採用するのが好ましい。
上述したように、この実施形態の芯材として不織布110を形成する無機繊維は、連続フィラメントを定寸切断して所定の長さとしたガラス繊維であり、真直度が極めて高く、かつ、ほぼ円形の断面を有している。このため、ランダムな方向を向いて分散した複数のガラス繊維が平行に整列して並ばない限り、ガラス繊維同士は点で接触するので、ガラス繊維間の熱伝導が著しく抑制される。
ガラス繊維の代わりに他の素材を用いることも考えられるが、一般に、アルミナ繊維を使用したアルミナチョップドストランド等の無機繊維材は、ガラス繊維よりも高価であり、かつ熱伝導率が高いために好ましくない。
また、有機材料は、一般に無機材料よりも熱伝導率は低いが、剛性を有しない。このため、有機繊維材は、繊維が交差する箇所で外圧によって繊維が変形し、繊維同士の面接触や真空空間比率の減少を引き起こす。その結果、有機繊維を芯材に用いた真空断熱材は、熱伝導率が高くなるので、好ましくない。
芯材100の製造方法としては、まず、連続フィラメント法によって製造された複数の無機繊維の一例であるガラス繊維を少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布110を製造する。これにより、製造された不織布110の表面とほぼ平行な方向に、複数のガラス繊維のうち大半のガラス繊維111、112を延在させる。さらに、複数の不織布110を積層する。
また、本発明の真空断熱材1の製造方法の一つの実施の形態では、まず、連続フィラメント法によって製造された複数のガラス繊維を少なくとも用いて、湿式抄紙法によって不織布110を製造する。これにより、製造された不織布110の表面とほぼ平行な方向に、複数のガラス繊維のうち大半のガラス繊維111、112を延在させる。さらに、複数の不織布110を積層する。その後、積層された複数の不織布110を外包材200の内部に収容し、外包材200の内部を減圧状態に保つ。
真空断熱材1の製造方法の一つの実施の形態では、連続フィラメント法によって製造された複数のガラス繊維を少なくとも用いる。このような複数のガラス繊維を用いて、湿式抄紙法によって不織布110を製造する際に各ガラス繊維を不織布110の表面に対して平行な方向に配列させようとすると、大半のガラス繊維111、112が不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するように複数のガラス繊維を容易に整列させることができる。このとき、大半の複数のガラス繊維111、112は、不織布110の表面とほぼ平行な方向に延在するが、互いに密着して平行な方向には整列せず、不織布110の表面を形成する平面内でランダムな方向を向いて分散するように整列する。これにより、芯材100を構成するために複数の不織布110を積層しても、複数のガラス繊維の間を充填するようなガラス繊維の存在を極力なくすことができ、また複数のガラス繊維の間に絡みつくようなガラス繊維の存在を極力なくすことができるので、ガラス繊維間に熱伝導が発生するのを防止することができる。そして、積層された複数の不織布110を外包材200の内部に収容し、外包材200の内部を減圧状態に保つことにより、真空断熱材1を製造することができる。このようにして、芯材100の厚み方向に沿って熱伝導が生じるのを防止することによって、芯材100の熱伝導率を低下させることができ、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能となり、優れた断熱性能を有する芯材100とその芯材100を備えた真空断熱材1を得ることができる。
本発明に用いられるガラス繊維からなる不織布110は、湿式抄紙法によって製造される。湿式抄紙法では、適切な分散剤を添加することによって、ガラス繊維を一定の長さに切断したガラスチョップドストランドがモノフィラメント化して層状に分散配置され、結束の非常に少ないガラス繊維からなる不織布110を得ることができる。このため、平行して並んだガラス繊維の数が非常に少なく、大半のガラス繊維111、112は隣り合う繊維の間では点で接触する。このようにして、厚み方向において、高い圧縮強度を有しながら熱伝導率が極めて低い不織布110を製造することができるので、このような不織布110は真空断熱材1の芯材100として好適である。
真空断熱材1の製造方法で採用される湿式抄紙法による不織布110の抄造は、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜ワイヤー型抄紙機等、既知の抄紙機を用いることによって可能である。
通常、ガラス繊維からなる不織布は、耐熱性を有する断熱材、耐火性を有する断熱材、または、電気絶縁体として用いられる。このため、不織布には引き裂きや突き破りなどに耐える布強度が求められ、繊維同士の絡み合いが必要とされることが多い。このような用途に使用されるガラス繊維からなる不織布は、長網抄紙機、短網抄紙機を使用した抄紙法によって製造されることが多い。
これに対して、真空断熱材1に用いられるガラス繊維からなる不織布110は、芯材100として外包材200内に収容されるので、布としての強度はさほど要求されない。また、繊維方向が揃いやすい抄紙法は、繊維同士の接触面積を増加させるので、本発明に用いられるガラス繊維からなる不織布110を製造するには好ましくない。一方、厚み方向の断熱性能を高めるためには、繊維同士の絡み合いは少ない方が望ましい。
そのため、真空断熱材1に用いられるガラス繊維からなる不織布110を抄造する抄紙機としては、低いインレット濃度で抄紙することができる傾斜ワイヤー型抄紙機が適しているが、これに限定されるものではない。
真空断熱材1に用いられる無機繊維の一例であるガラスチョップドストランドは、繊維径3〜15μm、繊維長3〜15mmのガラス繊維の構成比率が99%以上であることが好ましい。
繊維径が3μm未満または繊維長が3mm未満のガラスチョップドストランドは、以下に述べるように、真空断熱材1の芯材100を構成する不織布110に使用するのには適さないと予測される。
繊維径が3μm未満のガラス繊維は、繊維の剛性が低いため、湿式抄紙法によって不織布を製造する際に、繊維が湾曲して、繊維同士の絡み合いが発生し、繊維同士の接触面積が増加する。これにより、熱伝導が大きくなり、芯材の断熱性能を劣化させることから、繊維径が3μm未満のガラス繊維は好ましくない。
繊維長が3mm未満のガラス繊維は、湿式抄紙法によって不織布を製造する際に、既に分散している下層に位置する繊維の上に上層に位置する繊維を分散させたとき、上層の繊維が下層の繊維を橋渡しすることができず、上層の繊維が下層の繊維の上で一点で支持される可能性が高くなり、たとえば、上層の繊維の一端が下層に垂下して、他方が厚み方向に突出するような形態で位置づけられることが予想される。このように、ある繊維が複数の繊維の間で厚み方向に橋渡しをするような形態になった場合、繊維の長さ方向への熱伝導が発生し、繊維同士の接触面積が増加する。これにより、熱伝導が大きくなり、芯材の断熱性能を劣化させることから、繊維長が3mm未満のガラス繊維は好ましくない。
繊維径が15μm以上のガラス繊維を用いて、不織布を構成し、複数の不織布を積層して芯材を形成すると、芯材の厚み方向の繊維層の数が減少し、厚み方向の熱伝達経路が短くなり、かつ、不織布の形成時に空孔径が大きくなる。これにより、気体の熱伝導率による影響を受け、芯材の断熱性能を低下させることから、繊維径が15μm以上のガラス繊維は好ましくない。
繊維長が15mm以上のガラス繊維を用いると、繊維径に対して繊維長が大きくなることから、繊維の剛性が低下して撓みやすくなり、繊維同士の絡み合いが発生し、繊維同士の接触面積が増加する。これにより、熱伝導が大きくなり、芯材の断熱性能を劣化させることから、繊維長が15mm以上のガラス繊維は好ましくない。
本発明の真空断熱材の芯材として用いられるガラス繊維からなる不織布には、繊維同士の結合力が存在しない。このため、不織布の製造工程におけるガラス繊維の脱落を防止するとともに、後工程の加工工程における型くずれを防止するために、抄紙工程において有機バインダーを使用する必要がある。しかし、不織布は最終的に真空断熱材の芯材として外包材に内包されるため、有機バインダーの使用量は最低限にとどめる必要がある。ガラス繊維からなる不織布におけるバインダー含有量は15質量%以下であるのが好ましい。
有機バインダーとしては、樹脂エマルジョン、樹脂水溶液等の液状バインダーをスプレーなどにより噴霧し、ガラス繊維に添加することが一般的である。
本発明の真空断熱材の芯材として用いられるガラス繊維からなる不織布の米坪は30〜600g/m2であることが好ましい。不織布の米坪が30g/m2未満では、不織布内に存在する空隙の径が大きくなることによって気体の熱伝導率の影響が大きくなる。これにより、芯材の断熱性能が低下し、また、芯材の強度が弱くなるため、不織布の米坪が30g/m2未満では好ましくない。一方、不織布の米坪が600g/m2を超えると、ガラス繊維から不織布を製造する際の乾燥効率が低下し、生産性が低下するので、好ましくない。
ここで、米坪とは、一般に、紙の厚みの計量単位であって、平方メートルあたりの紙の質量を表し、メートル坪量ともいう。ここでは、湿式抄紙法で製造したガラス繊維からなる不織布の厚みを計量する単位として米坪を使用している。
ところで、たとえば、特開2006−17169号公報(特許文献3)には、真空断熱材の芯材を構成するグラスウール等の無機繊維の平均径は1〜5μmであることが好ましいと記載されている。そして、その無機繊維の平均径が5μmを超えると、最終的に得られる真空断熱材自体の断熱性能が低下すると記載されている。確かに真空断熱材の断熱性能は、芯材を構成する無機繊維の径が小さい方が高まる。一方、細い無機繊維は、価格が高く、また、湿式抄紙法によって不織布を製造する際には脱水効率を低下させ、生産性を低下させるという欠点を有する。これに対して、無機繊維の繊維径、繊維長などの繊維パラメータおよび繊維間の接着状況について、断熱性能を向上させるための最適条件を選定することによって、無機繊維の一例として、比較的繊維径の大きいガラスチョップドストランドを使用しても、従来の真空断熱材よりもはるかに高い断熱性能が得られる真空断熱材を実現することができる。
また、繊維径が6μmより細いガラスチョップドストランドを使用しても、最終的に得られる真空断熱材の断熱性能の向上幅は、繊維径が10μmのガラスチョップドストランドを使用した場合に比べて、ほとんど無視可能な程度である。従って、生産性・価格・性能の面を考慮するならば、好適なガラスチョップドストランドの繊維径は6〜15μmである。この範囲のガラス繊維を使用した場合には、従来の真空断熱材よりも高い断熱性能を有する真空断熱材を、適切な製造コストで得ることができる。
本発明の真空断熱材は、上述した特徴を備えた芯材を用いて、既知の方法にて製造することができる。代表的な方法として、図4に示される真空断熱材1の構成において、袋状に形成されたガスバリヤ性の外包材200の内部に芯材100と吸着材400を収容する。芯材100を減圧状態で格納する外包材200としては、高いガスバリヤ性を有するとともに、熱融着層、キズ等に対する保護層を有し、長期にわたり外包材200内を減圧状態に保つことが可能なものを使用する。また、このような特性を持つフィルムを複数枚積層して、外包材200としてもよい。
上記の真空密封前に芯材の有機バインダーを除去または低減することにより、さらに断熱性能を向上させることができる。バインダーにアクリル樹脂等の熱硬化性樹脂バインダーを使用した場合は、熱分解による方法を用いることによってバインダーを除去することができる。
すなわち、芯材を外包材に封入する前に、バインダーの熱分解温度より高く、かつガラス繊維の融点より低い温度で処理することにより、バインダーのみを熱分解により除去することができる。また、バインダーにPVA等の水溶性樹脂バインダーを用いた場合は、上記の方法のほかに、温水等で洗浄することによりバインダーを除去または低減することができる。
以上のように、この発明に従った真空断熱材1は、外包材200と、外包材200の内部に収容される芯材100と、外包材200の内部に収容される吸着材400とを備える。外包材200は、外包材200同士が互いに接触して熱溶着される熱溶着部300を有する。熱溶着部300は炭化水素を含む材質によって形成される。吸着材400は炭化水素ガスを吸着する吸着材400である。
真空断熱材1の外包材200の熱溶着部300が炭化水素を含む材質によって形成される場合には、熱溶着部300の熱溶着時に炭化水素ガスが発生する。真空断熱材1は、外包材200の熱溶着部300が熱溶着されて密封されるので、熱溶着時に熱溶着部300から発生する炭化水素ガスは真空断熱材1の外部に拡散するだけでなく、真空断熱材1の外包材200の内部にも拡散する。真空断熱材1の外包材200の内部に拡散した炭化水素ガスは、そのまま外包材200の内部に密封される。
真空断熱材1は減圧状態下で、外包材200の熱溶着部300が熱溶着されて密封されるので、外包材200の内部に炭化水素ガスが拡散した状態で密封されると、外包材200の内部の真空度が低くなる。外包材200の内部の真空度が低くなることによって、真空断熱材1の断熱性が低下する。
そこで、外包材200の内部に、炭化水素ガスを吸着する吸着材400を収容し、外包材200の内部に拡散する炭化水素ガスを吸着材400に吸着させる。炭化水素ガスを吸着材400に吸着させることによって、炭化水素ガスによって真空度が低下することを防ぐことができる。
このようにすることにより、従来の断熱性能の改善限界を超えることが可能で、優れた断熱性能を有する真空断熱材1を提供することができる。
(第2実施形態)
図9は、この発明の第2実施形態として、冷蔵庫の全体を示す側断面図(A)と、冷蔵庫の外装を示す正面図(B)である。
図9の(A)に示すように、冷蔵庫3は、外箱301と、内箱302と、扉303と、仕切板304と、圧縮機305が配置される機械室306と、冷却部307と、真空断熱材320を備える。外箱301と内箱302は、冷蔵庫3の外装308を形成する。外装308は、一面が開口した略直方体形状に形成されている。外装308の開口部は、扉303によって開閉される。外装308の内部は、仕切板304によって複数の室に区切られる。この実施形態においては、外装308の内部は、例えば、冷蔵室311、製氷室312、貯氷室313、冷凍室314、野菜室315に区切られている。
外箱301と内箱302との間には、真空断熱材320が配置される。また、扉303の内部にも、真空断熱材320が配置されている。図9に示す真空断熱材320のうちの少なくとも一部は、第1実施形態の真空断熱材によって形成されている。
従来の冷蔵庫では、断熱材として硬質発泡ウレタンが用いられているものがある。このような従来の冷蔵庫では、内箱と外箱により形成された空間に発泡ウレタンの材料を注入し、化学反応によって発泡させることにより断熱材を充填している。
従来の冷蔵庫において、断熱材として硬質発泡ウレタンが用いられていた部分の少なくとも一部を、断熱性能のよい第1実施形態の真空断熱材に置き換えることによって、断熱効果に比例して、断熱材の厚みを薄くすることができる。断熱材の厚みを薄くすることができれば、冷蔵庫を大きくすることなく、内容積を拡大することができる。また、省エネルギーを図ることができる。さらに、硬質発泡ウレタンの使用量を少なくすることができるので、冷蔵庫の廃棄時のリサイクルも容易になる。
図9に示す真空断熱材320の配置位置は一例である。真空断熱材320は、他の位置に配置されてもよい。
以上のように、この発明に従った冷蔵庫3は、外箱301と、外箱301の内側に配置される内箱302と、外箱301と内箱302との間に配置される真空断熱材320とを備え、真空断熱材320は、第1実施形態の真空断熱材を含む。
冷蔵庫3では、内箱302の内部に収容された食品を冷却する。そのため、冷蔵庫3では、内箱302の内部の温度を外箱301の外部よりも低温に保ったり、内箱302の内部を効率よく冷却したりする必要がある。そのため、外箱301と内箱302の間に真空断熱材320が配置される。外箱301と内箱302の間に配置される真空断熱材320の断熱性能が優れていれば、内箱302の内部を外箱301の外部よりも低温にしたり、高温にしたりするために必要なエネルギーを低減することができるので、省エネルギーになる。
そこで、外箱301と内箱302との間に配置される真空断熱材320が第1実施形態の真空断熱材を含むことにより、断熱性能及び省エネルギーに優れた冷蔵庫3を提供することができる。
(第3実施形態)
図10は、この発明の第3実施形態として、給湯器の全体を示す側断面図である。
図10に示すように、給湯器(ポット)4の蓋体410の内部と、貯湯容器422と外容器421との間に真空断熱材430が配置されている。真空断熱材430は、第1実施形態の真空断熱材である。蓋体410の上面411を形成する部材と外容器421は外箱の一例であり、蓋体410の下面412を形成する部材と貯湯容器422は内箱の一例である。また、真空断熱材430の配置位置は一例であり、真空断熱材430は他の位置に配置されてもよい。
この給湯器4では、貯湯容器422の内部に水が貯められ、この水が抵抗発熱式ヒータ440等で温められる。また、貯湯容器422の内部に貯められた水を保温することができる。
このように、抵抗発熱式ヒータ440などで水を温めるための貯湯容器422の外側に第1実施形態の真空断熱材を使用することにより、断熱材の厚みを従来よりも薄くすることができるので、給湯器4の内容積の拡大を可能にしつつ、省スペースになる。また、給湯器4の保温性能を向上させつつ、省エネルギーを図ることができる。また、例えば断熱材として発泡ウレタンを用いる場合と比較して、断熱材のリサイクルが容易になる。
(実施形態4)
図11は、この発明の第4実施形態として、炊飯器の全体を示す正面斜視図(A)と、背面斜視図(B)と、炊飯器の内部に収容される部材を示す図(C)である。
図11に示すように、炊飯器5は、筐体501と、筐体501の上部の開口部を開閉するための上蓋502とから構成されている。筐体501の内部には、図11の(C)に示すように、内釜504と、内釜504の底部に配置されるヒータ505と、内釜504とヒータ505を覆う外釜503とが配置される。炊飯器5の上蓋502の内部と、外釜503と筐体501の間に真空断熱材510が配置されている。真空断熱材510は、外釜503の外周面を覆うように、外釜503の外周面に巻かれるようにして配置されている。真空断熱材510は、第1実施形態の真空断熱材である。
筐体501は外箱の一例であり、外釜503は内箱の一例である。また、上蓋502の上面は外箱の一例であり、上蓋502の下面は内箱の一例である。また、真空断熱材510の配置位置は一例であり、真空断熱材510は他の位置に配置されてもよい。
米の炊飯部である内釜504を収納する外釜503の外周に真空断熱材510を配置することにより、従来の断熱材と同等の断熱性能を得ながら、従来のよりも断熱材の厚みを薄くすることができる。このようにして、省スペース、省エネルギーを達成することが可能であって、大容量の炊飯器5を得ることができる。
また、外釜503の外周に真空断熱材510を配置することにより、内釜504の温度は、ヒータ505の配置されている底部から高さ方向に沿って等温分布になるので、内釜504内において均等に対流を発生させることができる。
(第5実施形態)
図12は、この発明の第5実施形態として、洗濯乾燥機の全体を示す斜視図である。
図12に示すように、洗濯乾燥機6は、外装601と、外装601の開口部を開閉するための蓋602と、外装601の内部に収容される洗濯乾燥槽収納部603と、洗濯乾燥槽収納部603の内部に収容される洗濯乾燥槽(図示しない)とを備える。外装601と洗濯乾燥槽収納部603との間には真空断熱材610が配置されている。真空断熱材610は、第1実施形態の真空断熱材である。洗濯乾燥機6は、乾燥機能付き洗濯機である。真空断熱材610の配置位置は一例であり、真空断熱材610は他の位置に配置されてもよい。
洗濯乾燥槽は、洗濯乾燥槽収納部603の内部において、回転可能であるように支持されている。使用者は、洗濯乾燥槽の内部に衣類などの被対象物を入れて、蓋602上に配置される操作部を操作することによって、被対象物の洗濯や乾燥を行う。被対象物の洗濯時には、洗濯乾燥槽の内部に水が貯められ、洗剤が投入されて、洗濯乾燥槽が回転されることによって被乾燥物が洗浄される。被対象物の乾燥時には、洗濯乾燥槽の内部に温風を循環供給することによって、被対象物を乾燥させる。
洗濯乾燥槽収納部603の外周面に真空断熱材610を巻きつけることによって、洗濯乾燥槽内に循環させる温風の温度を下がりにくくすることができるので、効率よく乾燥することができる。
本発明の真空断熱材の効果の一つとして、優れた断熱性能を得られるという効果がある。外包材、芯材、吸着材の種類を変えて作製した真空断熱材の熱伝導率を測定し、断熱性能を比較した。
この実施例に用いられた真空断熱材においては、第1実施形態の真空断熱材と同様に、袋状に形成されたガスバリヤ性の外包材の内部に芯材と吸着材が収容された。略直方体形状の外包材の3辺を、熱溶着部において熱溶着した後、内部に芯材と吸着材を充填した。芯材と吸着材を充填された外包材の熱溶着部を真空チャンバー内において、減圧状態下で熱溶着した。このようにして、芯材が外包材内に密封されて、真空断熱材が作製された。熱溶着部は、真空チャンバー内に設置されたピラニゲージ指示値が0.009Torrに到達したときに、170〜220℃の温度で熱溶着された。
外包材としては、最外層にナイロンを用い、中間層にアルミニウム蒸着PET樹脂とアルミニウム箔の2層を用い、最内層にポリエチレン樹脂を用いるガスバリヤフィルムを用いた。外包材の最内層としては、LLDPE、または、HDPEを用いた。
芯材は、複数の不織布が積層されて構成されている。芯材としては、湿式抄紙芯材、または、グラスウール芯材を用いた。具体的には、湿式抄紙芯材とグラスウール芯材は、それぞれ、次のようにして作製された。
(1)湿式抄紙芯材
湿式抄紙芯材においては、それぞれの不織布は、無機繊維の一例であるガラス繊維と、少量の有機バインダーを用いて、抄紙法によって作製されている。
平均繊維径10μm、平均繊維長10mmであるガラスチョップドストランド(オーウェンス・コーニング社(Owens Corning Corporation)製)をその濃度が0.5質量%となるように水中に投入し、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199(花王株式会社製)をガラスチョップドストランド100質量部に対して1質量部となるように添加して、攪拌することにより、ガラスチョップドストランドスラリーを作製した。
得られたガラスチョップドストランドスラリーを用いて湿式抄紙法にて抄造し、ウエブを作製した。得られたウエブに対して、アクリルエマルジョン(大日本インキ化学工業株式会社製 GM−4)をその固形分濃度が3.0質量%となるように水で希釈した液を含浸させ、ウエブ水分質量がガラス繊維質量に対して0.7質量%となるように水分を吸引して調整した。その後、ウエブを乾燥させることによって、湿式抄紙芯材に用いられる不織布を作製した。得られた湿式抄紙芯材に用いられる不織布は、米坪が100g/m2であった。不織布を複数枚積層して、湿式抄紙芯材を形成した。湿式抄紙芯材の大きさは、長辺が435mm、短辺が400mm、厚みが9mmであった。
(2)グラスウール芯材
ガラス繊維の集合体として平均繊維径3.5μmのグラスウールを積層し、熱プレスすることによって所定の密度に成形を行い、ボード状にして芯材を作製した。グラスウール芯材の大きさは、長辺が435mm、短辺が400mm、厚みが8mmであった。
図13は、従来から真空断熱材の芯材として用いられてきたグラスウールにおけるガラス繊維の分布状態を模式的に示す平面図である。図14は従来から真空断熱材の芯材として用いられてきたグラスウールにおけるガラス繊維の圧縮される前の分布状態を示す平面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)、図15は同様の分布状態を示す断面の電子顕微鏡写真(倍率100倍)である。
図13に示すように、グラスウール800においては、種々の繊維長の多数本のガラス繊維810が様々な方向に延びてランダムに分布していることがわかる。また、図14と図15に示すように、火炎法または遠心法によって製造されたグラスウールにおいては、主体となる繊維に対して、繊維長が1mm以下の短い繊維や、繊維径が1μm以下の微細な繊維が混入された状態である。このような短い繊維や微細な繊維は、主体となる繊維の間を充填したり、主体となる繊維の間に絡みついたりして、繊維間に熱伝導が発生し、芯材の厚み方向に沿って熱伝導を引き起こすことによって、断熱性能を低下させているものと考えられる。また、このようなグラスウールにおいては、主体となる繊維も、折れ曲がったり、捩れたりした多数の繊維を含むことがわかる。
吸着材としては、次の3種類を単独で、または、組み合わせて用いた。
(1)酸化カルシウム(CaO)、10g
(2)炭化水素ガス吸着材Aとして、アルミナと過マンガン酸カリウムを主要成分とするPurafil Select(株式会社ジェイエムエス製)、2.5g
(3)炭化水素ガス吸着材Bとして、サエスゲッター(Saes getters社製 SG-CONBO3)、10g。炭化水素ガス吸着材Bは、酸化カルシウム(50〜100%)、酸化コバルト(10〜25%)、バリウム(2.5%以下)、リチウム(2.5%以下)を含む。
炭化水素ガス吸着材Aの過マンガン酸カリウムは、炭化水素ガスであるエチレンを吸着する。また、炭化水素ガス吸着材Bの酸化コバルトは、炭化水素ガスを吸着する。一方、酸化カルシウムは、炭化水素ガスを吸着せず、水を吸着する。
以上の外包材と、芯材と、吸着材を、次の(1)〜(8)のように組み合わせて、8種類の真空断熱材を作製した。
(1)最内層がLLDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた。吸着材としては酸化カルシウム(CaO)を用いた。
(2)最内層がLLDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた。吸着材としては酸化カルシウム(CaO)と、炭化水素ガス吸着材Aとを用いた。
(3)最内層がLLDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた。吸着材としては、炭化水素ガス吸着材Bを用いた。
(4)最内層がHDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた。吸着材としては酸化カルシウム(CaO)を用いた。
(5)最内層がHDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた。吸着材としては酸化カルシウム(CaO)と炭化水素ガス吸着材Aとを用いた。
(6)最内層がHDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた。吸着材としては炭化水素ガス吸着材Bを用いた。
(7)最内層がHDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、グラスウール芯材を用いた。吸着材としては酸化カルシウム(CaO)を用いた。
(8)最内層がHDPEによって形成された外包材を用いた。芯材としては、グラスウール芯材を用いた。吸着材としては酸化カルシウム(CaO)と炭化水素ガス吸着材Aとを用いた。
(1)〜(8)の8種類の真空断熱材の熱伝導率を測定した。熱伝導率は、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製 HC−074/600)を用いて測定した。測定時の真空断熱材の平均温度は24℃であった。
得られた熱伝導率を表1に示す。
表1に示すように、最内層がLLDPEによって形成された外包材を用い、芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた真空断熱材(1)〜(3)を比較すると、吸着材として酸化カルシウム(CaO)を用いた(1)と比べて、酸化カルシウムと炭化水素ガス吸着材Aを用いた(2)と、炭化水素ガス吸着材Bを用いた(3)の熱伝導率が低くなっていた。
また、最内層がHDPEによって形成された外包材を用い、芯材としては、湿式抄紙芯材を用いた真空断熱材(4)〜(6)を比較すると、吸着材として酸化カルシウム(CaO)を用いた(4)と比べて、酸化カルシウムと炭化水素ガス吸着材Aを用いた(5)と、炭化水素ガス吸着材Bを用いた(6)の熱伝導率が低くなっていた。
また、最内層がHDPEによって形成された外包材を用い、芯材としては、グラスウール芯材を用いた真空断熱材(7)と(8)を比較すると、吸着材として酸化カルシウム(CaO)を用いた(7)と比べて、酸化カルシウムと炭化水素ガス吸着材Aを用いた(8)の熱伝導率が低くなっていた。
このように、炭化水素ガスを吸着する炭化水素ガス吸着材Aと炭化水素ガス吸着材Bを備える真空断熱材(2)(3)(5)(6)(8)は、炭化水素ガスを吸着する吸着材を備えない真空断熱材(1)(4)(7)に比べて小さい熱伝導率を示し、従来の断熱性能の改善限界を超える優れた断熱性能を有することがわかる。
したがって、本発明による真空断熱材を使用することによって、断熱性能及び省エネルギーに優れた冷蔵庫等の機器を提供することが可能になる。
なお、最内層がHDPEによって形成された外包材を用い、吸着材として酸化カルシウムと炭化水素ガス吸着材Aを用いた(5)と(8)とを比較すると、芯材としてグラスウール芯材を用いた(8)と比べて、湿式抄紙芯材を用いた(5)の熱伝導率が低くなっていた。このように、第1実施形態の真空断熱材の芯材のような湿式抄紙芯材を用いることによって、より断熱性能を高めることができる。
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。