まず、図2を参照しながら、本実施形態におけるインクジェットヘッドについて説明する。
本実施形態におけるインクジェットヘッドは、液体が充填された加圧液室(118)に圧力発生手段(112)により圧力変化を生じさせ、加圧液室(118)に通じたノズル(119)から該液体を吐出させて記録媒体上に付着させるインクジェットヘッドであって、ノズル(119)が形成されるノズルプレート(114)表面にカーボンナノチューブ(130)が突出した撥水層が形成されてなることを特徴とするものである。このように、ノズルプレート(114)表面にカーボンナノチューブ(130)を突出させることにより、十分な撥水性を持たせることが可能となり、また、カーボンナノチューブ(130)の機械的強度が高く、低摩擦係数の特徴によって、ワイピングによる特性劣化も見られず、長期間にわたって高い印字品質を維持しうる高い耐久性の撥水層を持つインクジェットヘッドを得ることが可能となる。
以下、添付図面を参照しながら、本実施形態におけるインクジェット記録装置について説明する。
まず、本発明の特徴となるカーボンナノチューブについて説明する。
カーボンナノチューブは、C−Cの結合がSP2混成軌道からなるグラフェンシートからなり、そのグラフェンシートが筒状に丸まった形を構築しており、表面は非常に安定となる。このため、撥水、撥油性を示し、かつ、ノズルプレート表面にランダムに多数突出していることで、自然界のはすの葉に見られるような、突起状の絨毛と撥水性の相乗効果で、高い撥水作用が生じる現象と同様の効果が得られることが期待されている。
このような表面の粗さによる見かけの接触角の変化は、Wenzelの式(式1)で説明することが可能である。
r・cosθ=cosθ'・・・(式1)(なお、r:真の表面積/見かけの表面積、θ:真の水の接触角、θ':見かけの水の接触角)
つまり、疎水性表面のように、真の水の接触角θが90°以上の場合には、表面の粗さが粗くなり、真の表面積が大きくなればなるほど、見かけの水の接触角θ'は、真の接触角θより大きくなり、撥水性が向上することになる。逆に、親水性表面(真の水の接触角θ<90°)では、表面粗さが大きくなるに従い、見かけの水の接触角θ'は、真の接触角θより小さくなり、よりぬれやすくなる。
一方、表面の粗さ変化に伴い凹部に空気層がトラップされる場合があり、このような効果によって撥水性が向上する場合もある。このときの見かけの接触角θ'は、Cassieの式(式2)で説明することが可能である。
cosθ'=Q1cosθ1 +Q2cosθ2・・・(式2)(なお、Q1:成分1が表面を占める割合、Q2:成分2が表面を占める割合、θ1:成分1の真の接触角、θ2:成分2の真の接触角)
ここで、凹部に空気層がトラップされる場合は、成分2を空気とし、θ2=180°とすることにより、接触角が大きくなり、撥水性が向上することになる。なお、カーボンナノチューブを多数表面に突出させた本実施形態では、このような空気の効果も加味される可能性もある。以下、添付図面を参照しながら、カーボンナノチューブをインクジェットヘッドのノズル表面の撥水性処理に適用した場合について説明する。
(第1の実施形態)
まず、図1〜図4を参照しながら、本実施形態におけるインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドの構成について説明する。なお、図1〜図4は、インクジェットヘッドの構成を示す図であり、図1は、静電型インクジェットヘッドの上面図を示し、図2は、図1に示すインクジェットヘッドのA−A'断面図を示し、図3は、図1に示すインクジェットヘッドのB−B’断面図を示し、図4は、図1に示すインクジェットヘッドの、C−C'断面図を示すものである。
静電型インクジェットヘッドは、図2、図4に示すように、主に、液室基板(111)である面方位(110)単結晶シリコン基板と、カーボンナノチューブが表面に突出したノズルプレート(114)と、電極基板(101)と、の3つの部分から構成されている。
(液室基板(111)の構成)
液室基板(111)である単結晶シリコン基板には、加圧液室(118)と、個々のノズル(119)に対応して静電引力によって駆動するシリコン振動板(112)と、液を供給するための共通液室(116)と、が形成されている。さらに、加圧液室(118)と、共通液室(116)と、は、流体抵抗を形成した液流路(117)によって連通されている。また、シリコン振動板(112)は、加圧液室(118)と、共通液室(116)と、の一部を形成している。
なお、上記のシリコン振動板(112)と、加圧液室(118)と、共通液室(116)と、液流路(117)と、は、液室基板(111)である面方位(110)単結晶シリコン基板を公知技術である異方性エッチングにより形成したものである。
さらに、液室基板(111)表面と、シリコン振動板(112)表面と、加圧液室(118)内壁と、共通液室(116)内壁と、液流路(117)表面と、には、インクに対して耐腐食性を有する耐腐食性薄膜が形成されている。
耐腐食性薄膜としては、有機樹脂膜であるポリイミド、ポリベンゾオキサゾールが適用され、厚さ100nm〜50μm、望ましくは、1μm〜10μm前面にわたり成膜されることになる。本実施形態におけるインクジェットヘッドは、図2、図4に示すように、耐腐食性薄膜(125)を介して、ノズルプレート(114)と、液室基板(111)である単結晶シリコン基板と、が接合している。なお、膜厚が著しく薄い場合には、シリコン振動板(112)上に存在するごみ等が原因になり、ピンホールを生じることになり、また、膜厚が著しく厚い場合には、シリコン振動板(112)の剛性が高くなり、インクの噴射特性が変化することになり、これらの特性を鑑みて最適な膜厚範囲が決定されることになる。
(ノズルプレート(114)の構成)
ノズルプレート(114)は、加圧液室(118)に対応して連通したノズル(119)と、インク供給口(115)と、が形成されている。
ノズルプレート(114)の材質としては、ガラス板、金属板、シリコン板、樹脂等が挙げられる。なお、図2に示す(120)は、ノズルの配置方向によって決定する液の吐出方向を示している。
ノズルプレート(114)には、インク滴を飛翔させるための微細孔である多数のノズル(119)が形成されている。ここでは、ノズルプレート(114)の材質として、単結晶シリコン基板を用い、ノズル径は、インク滴吐出側の直径で35μm以下に形成し、かつ、ノズル(119)は、加圧液室(118)の中心近傍に対応する位置に配置した。さらに、ノズルプレート(114)上には、ノズルプレート(114)の表面に突出した多数のカーボンナノチューブ(130)と、ノズルプレート(114)の表面に突出したカーボンナノチューブ(130)を保持するカーボンナノチューブ保持層(131)と、が形成されている。図2、図4に示すように、ノズルプレート(114)表面に、多数のカーボンナノチューブ(130)を突出させることで、十分な撥水性を持たせることが可能となる。
なお、ノズルプレート(114)に形成するカーボンナノチューブ(130)としては、その直径が0.3〜100nm以下であることが好ましく、その長さが、0.1μm〜100μm以下であることが好ましい。また、カーボンナノチューブ(130)としては、多層カーボンナノチューブでも、単層カーボンナノチューブでもよく、また、それらナノチューブが束になったバンドル状のものでも適用することは可能である。
また、ノズルプレート(114)表面に形成するカーボンナノチューブ(130)の突出密度、及び、突出長さは、表面の撥水性を構築するように適宜設定されることになる。このように、撥水作用を促進する微細な構造体に、カーボンナノチューブ(130)を用いたものは、フォトリソグラフィとエッチングとによる微細加工技術のものにくらべて、より低コストで形成することが可能となる。
なお、カーボンナノチューブ保持層(131)に適用される材質としては、インクに腐食されず、カーボンナノチューブ(130)を保持できるものであれば特に限定せず、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系などの各種接着剤や、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの各種樹脂や、フッ素化エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、フッ素化ポリアミド樹脂、フッ素化ポリウレタン樹脂などの各種フッ素化樹脂などにカーボンナノチューブを分散させたもの、または、金属微粒子と樹脂微粒子とにカーボンナノチューブを分散させたものが適用可能である。
次に、図5を参照しながら、ノズルプレート(114)表面に多数のカーボンナノチューブ(130)を突出させる方法について説明する。
図5に示すように、KOH水溶液にて異方性エッチングにより、ノズル(119)と、インク供給口(図示せず)と、を形成した単結晶シリコン基板上に、平均の直径が10nm、平均長さ4μm、先端は、開環していないアーク放電法によって作成された多層カーボンナノチューブをポリイミド樹脂に対して10重量%の濃度となるように、ポリイミド塗布液中に分散させる。このカーボンナノチューブが分散されたポリイミド塗布液を、単結晶シリコン基板上に塗布し、350℃で熱硬化させ、膜厚10μmのポリイミドにカーボンナノチューブが分散されたマトリクスを形成する。この熱硬化したポリイミド樹脂とカーボンナノチューブとのマトリクスをカーボンナノチューブ保持層(131)とする。次に、このカーボンナノチューブ保持層(131)の表面を、シリカ研磨液(粒径0.3μm)と、発泡ウレタンの研磨パッドと、を用いて研磨を行う。
カーボンナノチューブ(130)は、機械的、化学的に安定であり、研磨によりポリイミド樹脂のみが除去され、多数の多層カーボンナノチューブ(130)が、カーボンナノチューブ保持層(131)であるポリイミド樹脂に対してカーボンナノチューブが分散されたマトリクスを介して、ノズルプレート(114)表面に突出させることになる。
なお、本実施形態では、カーボンナノチューブ(130)をポリイミド樹脂に分散させているため、研磨により突出したカーボンナノチューブ(130)の突出長さや方向は、ランダムとなっているが、多数のカーボンナノチューブ(130)が、ノズルプレート(114)から突出しているため、平均化された撥水性を期待することが可能となる。
ここで、図6を参照しながら、研磨を用いたカーボンナノチューブ(130)の突出方法について詳細に説明する。
1次研磨ステーション(341)では、シリカ微粒子を含むスラリーを用いて1次研磨を行うことになる。なお、ノズルプレートは、研磨ヘッド(342)に、研磨面が研磨パッドに対向するように固定される。研磨パッドとして、定盤上に発泡ポリウレタンパッドIC−1000(ロデール製)を張り合わせ、研磨液供給ノズル(343)より、シリカ研磨液を供給しながら、定盤およびノズルプレートが保持された研磨ヘッド(342)がそれぞれ回転し、研磨が行われることになる。定盤の回転数、研磨ヘッドの回転数、研磨ヘッドの押し付け圧力などにより研磨速度を制御することが可能となる。
なお、本実施形態では、スラリーとしてシリカ微粒子を含む研磨液を用いたが、アルミナ(Al2O3)や、酸化セリウム(CeO2)、酸化マンガン(MnO2)等の研磨粒子を適用することも可能である。
次に、ノズルプレートが保持された研磨ヘッドは、2次研磨ステーション(344)に移動する。ここでは、シリカ微粒子を含まない純水が研磨液供給ノズル(345)より供給され、研磨パッドとして発泡ポリウレタンパッドSupreme RN−H(ロデール製)を張り合わせた定盤と研磨ヘッド(342)とがそれぞれ回転し、2次研磨が行われることになる。研磨粒子を用いた1次研磨に引き続き、研磨粒子のない2次研磨を行うことで、研磨粒子がノズルプレート表面に残留することがなく、撥水性の低下を生じさせないことになる。
研磨量は、研磨粒子を用いる1次研磨において、制御することができ、2次研磨では、研磨速度が小さくなる。ここでは、カーボンナノチューブを十分表面に突出させるため、2次研磨後の研磨量として、5μmとなるように研磨時間を設定する。
研磨によってカーボンナノチューブをノズルプレート表面に突出させることにより、マトリクス表面の変質がなく、かつ、カーボンナノチューブ表面にも欠陥を発生することがないため、より撥水性が高く、より長期間にわたって高い印字品質を維持することが可能な高い耐久性の撥水層を形成することが可能となる。
次に、洗浄ステーション(346)において、被研磨材料であるノズルプレートに純水を供給しながら、回転駆動するポリプロピレンブラシにより、ブラシスクラブを行うことになる。このブラシスクラブは、研磨面に直接ブラシが接触して研磨面を傷つけることなく、研磨面の微粒子を除去することが可能となる。したがって、研磨粒子の残留による撥水性の低下を防止することが可能となる。
この図6に示す突出方法を用いて、カーボンナノチューブ保持層(131)を形成することで、より強固に表面に突出したカーボンナノチューブ(130)をノズルプレート(114)に固定することが可能となる。また、カーボンナノチューブ保持層(131)に、カーボンナノチューブが含まれている場合には、その機械的強度も更に増すことになり、ノズルプレート(114)の表面に突出したカーボンナノチューブ(130)の低摩擦係数により、ノズルプレート(114)の表面に突出したカーボンナノチューブ(130)と、カーボンナノチューブ保持層(131)と、の全体で撥水層を形成し、耐磨耗性のある撥水層を構成することになる。
(電極基板(101)の構成)
次に、電極基板(101)について説明する。
本実施形態では、電極基板(101)として、面方位(100)p型単結晶シリコン基板を適用する。なお、電極基板(101)としては、n型単結晶シリコン基板を適用することも可能である。また、プロセスに応じて(110)単結晶シリコン基板や(111)単結晶シリコン基板を適用することも可能である。また、ガラスやセラミックス等の基板を適用することも可能である。
電極基板(101)には、図2から図4に示すように、静電型インクジェットヘッドを駆動するための駆動電極(121)と、絶縁層及びギャップスペーサとしての酸化シリコン(102)と、シリコン振動板(112)と、が形成されており、駆動電極(121)には、ギャップ(104)と、駆動電圧を印加するための駆動電圧印加部(108)と、が形成されている。なお、駆動電極(121)としては、導体であれば特に限定するものではないが、リンやボロン不純物を多量に含有する多結晶シリコンや高融点金属等が望ましい。
この駆動電極(121)は、絶縁層としての酸化シリコン(102)によって、電極基板(101)と絶縁されている。酸化シリコン(102)をギャップスペーサとし、シリコン振動板(112)と対抗した駆動電極(121)に、電圧を印加することで静電引力を発生させることになる。駆動電圧印加部(108)は、駆動電極(121)に外部から電圧を印加するためのもので、ワイヤーボンディング等の実装を行うためのパッド部である。
本実施形態におけるインクジェットヘッドでは、静電力により、シリコン振動板(112)を振動させて、加圧液室(118)内部の圧力を上昇させ、その圧力上昇により、インク滴をノズル(119)より、液吐出方向(120)に吐出させることになる。
なお、インク滴を吐出後、新たなインクは、インク供給口(115)により外部に連通する共通液室(116)から流体抵抗を形成した液流路(117)を介して、加圧液室(118)に補充されることになる。吐出されるインク量は、シリコン振動板(112)の変位量により制御されることになる。
このように、本実施形態におけるインクジェットヘッドは、図2、図4に示すように、カーボンナノチューブがポリイミド樹脂に分散されたマトリクスをカーボンナノチューブ保持層(131)として、ノズルプレート(114)表面に多数のカーボンナノチューブ(130)が突出したノズルプレート(114)と、液室基板(111)と、電極基板(101)と、を張り合わせることで、ノズル(119)表面にカーボンナノチューブ(130)が突出したインクジェットヘッドを形成することになる。
このようなインクジェットヘッドは、十分な撥水性を示し、良好な印字品質を得ることが可能となる。また、カーボンナノチューブ保持層(131)を持つことによって、ワイピングによる撥水性の低下も見られず、より長期間にわたって高い印字品質を維持することが可能となる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いてノズルプレート表面にカーボンナノチューブを形成する方法について説明する。なお、ノズルプレート以外の構成は第1の実施形態と同様な構成なので、カーボンナノチューブが表面に突出したノズルプレートのみについて、以下に説明する。
図7に示すように、単結晶シリコン基板からなるノズルプレート(214)を第1の実施形態と同様の方法で、KOH水溶液にて異方性エッチング法により、ノズル(219)と、インク供給口(図示しない)と、を形成した後に、スパッタ法にて、カーボンナノチューブ(230)を突出させる面に鉄Feを、約6nmの厚さに成膜する。次に、単結晶シリコン基板を、石英チューブ内に設置し、Heガスを流しながら、700℃まで加熱し、Fe薄膜をカーボンナノチューブの触媒となるように凝集させ、原料ガスであるアセチレン(C2H2)、Heガスを流しながら、多層カーボンナノチューブ(230)を形成する。このとき、平均的な多層カーボンナノチューブ(230)の直径は、50nm程度とやや太く、長さ5μm程度のものが非常に密集した形で、基板に垂直方向にそろって、ノズルプレート(214)上に形成されることになる。
このようなCVD(Chemical Vapor Deposition)法によるカーボンナノチューブは、通常の樹脂などのマトリクスに分散させる方法に比べて、密集したカーボンナノチューブを得ることが可能となる。また、その長さも制御が可能で、その均一性も高くなる。また、その突出方向も基板に垂直方向に制御することが可能となる。なお、第2の実施形態では、鉄触媒をスパッタにより成膜し、熱CVDによるカーボンナノチューブを用いたが、[吾郷氏et,at,all 「New Route to Synthesize Multiwall Carbon Nanotubes:Vapor−phase Reaction using Collodial Solution of Metal Nanoparticles」,第19回フラーレン総合シンポジウム要旨集p.26]に報告されているように、カーボンナノチューブの触媒として、逆ミセル法を用いて、トルエン中にCoCl2水溶液のミセルを形成し、NaBH4によって還元し、触媒となるコバルト微粒子を形成し、アセチレンガスにて多層カーボンナノチューブを作成することも可能である。このようなミセルを用いる場合には、基板上に生成するミセルの密度を制御することにより、カーボンナノチューブの密度を制御することが可能となる。
このように、第2の実施形態におけるインクジェットヘッドは、ノズルプレート(214)表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)により、多層カーボンナノチューブ(230)を形成したノズルプレート(214)と、第1の実施形態と同様の方法で形成した図2、図4に示す液室基板(111)と、電極基板(101)と、を張り合わせることで、ノズルプレート表面にカーボンナノチューブが突出したインクジェットヘッドを形成することが可能となる。この第2の実施形態におけるインクジェットヘッドは、十分な撥水性を示し、良好な印字品質を得ることが可能となる。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態は、カーボンナノチューブをノズルプレート表面に突出させる方法として、アッシングを用いた例について説明する。なお、ノズルプレート以外の構成は、第1の実施形態と同様な構成なので、カーボンナノチューブが表面に突出したノズルプレートのみについて、以下に説明する。
第1の実施形態と同様に、単結晶シリコン基板上に、平均の直径が10nm、平均長さ4μm、先端は開環していない多層カーボンナノチューブをポリイミド樹脂に対して10重量%の濃度となるように、ポリイミド塗布液中に分散させることになる。このカーボンナノチューブが分散されたポリイミド塗布液を、単結晶シリコン基板上に塗布し、350℃で熱硬化させ、膜厚10μmのポリイミドにカーボンナノチューブが分散されたマトリクスを形成する。この熱硬化したポリイミド樹脂とカーボンナノチューブのマトリクスをカーボンナノチューブ保持層(131)とする。
次に、バレル型のプラズマアッシング装置にて、O2ガスを流しながら、圧力0.133Paで、400Wのパワーを投入し、アッシングを行う。なお、カーボンナノチューブは、機械的、化学的に安定で、アッシングによりポリイミド樹脂の方がカーボンナノチューブよりもアッシング速度が大きいため、ポリイミド樹脂が除去され、多数の多層カーボンナノチューブ(130)が、カーボンナノチューブ保持層(131)であるポリイミドにカーボンナノチューブが分散されたマトリクスを介して、ノズルプレート(114)表面に突出させることが可能となる。アッシング膜厚としては、ポリイミド−カーボンナノチューブマトリクス5μm膜厚とした。なお、アッシングによりカーボンナノチューブ先端が開環したものもある。ここでは、第1の実施形態と同様に、樹脂にカーボンナノチューブを分散させているため、カーボンナノチューブの突出量や方向はランダムとなる。
この上述した方法にて、カーボンナノチューブ保持層(131)を形成することで、より強固に表面に突出したカーボンナノチューブ(130)をノズルプレート(114)に固定することが可能となる。また、カーボンナノチューブ保持層(131)にカーボンナノチューブが含まれている場合は、機械的強度も更に増すことになり、ノズルプレート(114)表面に突出したカーボンナノチューブ(130)の低摩擦係数により、ノズルプレート(114)表面に突出したカーボンナノチューブ(130)と、カーボンナノチューブ保持層(131)と、の全体で撥水層を形成し、耐磨耗性のある撥水層を構成することになる。
このように、第3の実施形態は、ノズルプレート(114)表面にアッシングにより、多層カーボンナノチューブ(130)を形成したノズルプレート(114)と、図2、図4に示す第1の実施形態と同様の方法で形成した液室基板(111)と、電極基板(101)と、を張り合わせることで、ノズルプレート(114)表面にカーボンナノチューブ(130)が突出したインクジェットヘッドを形成することになる。このような、インクジェットヘッドは、十分な撥水性を示し、良好な印字品質を得ることが可能となる。また、カーボンナノチューブ保持層(131)を持つことにより、ワイピングによる撥水性の低下も見られず、より長期間にわたって高い印字品質を維持することが可能となる。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態は、カーボンナノチューブ(130)をノズルプレート(114)表面に突出させる方法として、研磨を用い、カーボンナノチューブ保持層(131)として、ニッケル−PTFE−カーボンナノチューブ分散マトリクスを用いた場合について説明する。なお、ノズルプレート以外の構成は、第1の実施形態と同様な構成なため、カーボンナノチューブ(130)が表面に突出したノズルプレート(114)のみについて、以下に説明する。
まず、ノズルプレート(114)として、ニッケルを用い、プレス加工で穴あけを行う。ノズルプレート(114)を金属とすることで、メッキ法を用いることが可能となる。電解ニッケルメッキ液中にPTFE微粒子を分散させた電解共析メッキ(メタフロン(上村工業製)など)にカーボンナノチューブを分散させたもの、または、無電解ニッケルメッキ液中にPTFE微粒子を分散させた無電解共析メッキ(ニムフロン(上村工業製)など)にカーボンナノチューブを分散させたものを用い、共析メッキすることで、ニッケルプレート表面に、ニッケル−PTFE−カーボンナノチューブのマトリクスを形成することになる。
第4の実施形態では、無電解メッキを用い、分散させたカーボンナノチューブは、第1の実施形態と同様の多層カーボンナノチューブとし、ニッケル−PTFE−カーボンナノチューブのマトリクスを形成することになる。このとき、特開2001−38912号公報に開示されているように、インク液室側をレジストフィルム等でマスクすることが望ましい。
次に、第1の実施形態と同様に、アルミナ研磨粒子を用い、発泡ポリウレタンバッドを用い、1次研磨を行い、さらに、純水のみの2次研磨を行い、ニッケル−PTFE−カーボンナノチューブのマトリクスの表面にカーボンナノチューブを突出させる。この共析メッキにより、ニッケル−PTFE−カーボンナノチューブマトリクスを共析メッキで形成するため、表面に突出したカーボンナノチューブの突出量、及び、方向性はランダムとなる。なお、スラリーには、ケミカルメカニカルポリッシングするため、H2O2などの酸化剤を添加することも可能である。このとき、ニッケル−PTFE−カーボンナノチューブのマトリクスは、カーボンナノチューブ保持層となる。
また、カーボンナノチューブ保持層にカーボンナノチューブが含まれている場合は、その機械的強度も更に増し、ノズルプレート表面に突出したカーボンナノチューブの低摩擦係数により、そのノズルプレート表面に突出したカーボンナノチューブと、カーボンナノチューブ保持層と、の全体で撥水層を形成し、耐磨耗性のある撥水層を構成することになる。これにより、通常の共析メッキによる撥水層に比べて、より耐磨耗性のある撥水層を構成することになる。
このように、第4の実施形態は、ノズルプレート(114)表面に研磨を用いて多層カーボンナノチューブ(130)を形成したものと、図2、図4に示すように第1の実施形態と同様の方法で形成した液室基板(111)と、電極基板(101)と、を張り合わせることで、ノズルプレート(114)表面にカーボンナノチューブ(130)が突出したインクジェットヘッドを形成することになる。このような、インクジェットヘッドは、十分な撥水性を示し、良好な印字品質を得ることが可能となる。また、ワイピングによる撥水性の低下も見られず、より長期間にわたって高い印字品質を維持することが可能となる。
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。
上述した第1の実施形態から第4の実施形態におけるインクジェットヘッドは、ノズルプレート表面にカーボンナノチューブが突出した撥水層が形成されたインクジェットヘッドを形成することとしたが、第5の実施形態は、フッ素系樹脂の特徴をあわせもつことでカーボンナノチューブ単体より撥水性が高く、また、基材をカーボンナノチューブとすることでフッ素系樹脂の磨耗性を改善した撥水層が形成されたインクジェットヘッドを形成することを特徴とするものである。以下、図1、図8〜図11を参照しながら、第5の実施形態におけるインクジェットヘッドについて説明する。
まず、図8を参照しながら、第5の実施形態におけるインクジェットヘッドについて説明する。
第5の実施形態におけるインクジェットヘッドは、液体が充填された加圧液室(118)に圧力発生手段(112)により圧力変化を生じさせ、加圧液室(118)に通じたノズル(119)から該液体を吐出させて記録媒体上に付着させるインクジェットヘッドであって、ノズル(119)が形成されるノズルプレート(114)表面に、フッ素系樹脂がコートされたカーボンナノチューブ(133)が突出した撥水層が形成されてなることを特徴とするものである。
このように、ノズルプレート(114)表面に、フッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)を突出させることにより、カーボンナノチューブ単体より高い撥水性を持たせることが可能となる。また、カーボンナノチューブの表面にフッ素系樹脂をコートすることで、樹脂や金属表面にフッ素系樹脂をコートするのに対して、カーボンナノチューブの機械的強度が高く、しなやかな特性によって、フッ素系樹脂に特有な耐磨耗性を改善することが可能となり、ワイピングによる特性劣化も見られず、長期間にわたって高い印字品質を維持しうる高い耐久性の撥水層をもつインクジェットヘッドを提供することが可能となる。例えば、カーボンナノチューブの表面に数nm〜数100nm程度のフッ素系樹脂をコートすることで、フッ素系高分子の小さな分極率によって、表面自由エネルギーが小さくなり、撥水性、撥油性をもち、突起状の絨毛とあいまってより高い撥水性、撥油性を発現することが可能となる。
なお、フッ素系樹脂、特に、Poly Tetra Fluoro Ethylene(PTFE)を微細なカーボンナノチューブ上に成膜するには、Cat−CVD法が挙げられる。
Cat−CVD法は、Hot Filament Chemical Vapor Deposition(HFCVD)法とも呼ばれており、原料ガスを熱触媒体によって加熱活性化し、吸着再脱離の後、成膜したい基板等に吸着することで成膜するものである。このCat−CVD法は、比較的簡単な装置構成で、微細な構造上にも均一に成膜することができ、プラズマを使わず基板温度が比較的低温で成膜できる手法である。
次に、フッ素系樹脂がコートされたカーボンナノチューブをインクジェットヘッドのノズル表面の撥水性処理に適用した場合について説明する。
まず、図1、図8〜図11を参照しながら、第5の実施形態におけるインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドの構成について説明する。なお、図1、図8〜図11は、インクジェットヘッドの構成を示す図であり、図1は、静電型インクジェットヘッドの上面図を示し、図8は、図1に示すインクジェットヘッドのA−A'断面図を示し、図9は、図1に示すインクジェットヘッドのB−B'断面図を示し、図10は、図1に示すインクジェットヘッドの、C−C'断面図を示し、図11は、ノズルプレート(114)の断面図を示すものである。
静電型インクジェットヘッドは、図8、図10に示すように、主に、液室基板(111)である面方位(110)単結晶シリコン基板と、フッ素系樹脂がコートされたカーボンナノチューブが表面に突出したノズルプレート(114)と、電極基板(101)と、の3つの部分から構成されている。
(液室基板(111)の構成)
液室基板(111)である単結晶シリコン基板には、加圧液室(118)と、個々のノズル(119)に対応して静電引力によって駆動するシリコン振動板(112)と、液を供給するための共通液室(116)と、が形成されている。さらに、加圧液室(118)と、共通液室(116)と、は、流体抵抗を形成した液流路(117)によって連通されている。また、シリコン振動板(112)は、加圧液室(118)と、共通液室(116)と、の一部を形成している。
なお、上記のシリコン振動板(112)と、加圧液室(118)と、共通液室(116)と、液流路(117)と、は、液室基板(111)である面方位(110)単結晶シリコン基板を用いて公知技術である異方性エッチングにより形成したものである。
さらに、液室基板(111)表面と、シリコン振動板(112)表面と、加圧液室(118)内壁と、共通液室(116)内壁と、液流路(117)表面と、には、インクに対して耐腐食性を有する耐腐食性薄膜が形成されている。
耐腐食性薄膜としては、有機樹脂膜であるポリイミド、ポリベンゾオキサゾールが適用され、厚さ100nm〜50μm、望ましくは、1μm〜10μm前面にわたり成膜されることになる。本実施形態におけるインクジェットヘッドは、図8、図10に示すように、耐腐食性薄膜(125)を介して、ノズルプレート(114)と、液室基板(111)である単結晶シリコン基板と、が接合している。なお、膜厚が著しく薄い場合には、シリコン振動板(112)上に存在するごみ等が原因になり、ピンホールを生じることになり、また、膜厚が著しく厚い場合には、シリコン振動板(112)の剛性が高くなり、インクの噴射特性が変化することになり、これらの特性を鑑みて最適な膜厚範囲が決定されることになる。
(ノズルプレート(114)の構成)
ノズルプレート(114)は、加圧液室(118)に対応して連通したノズル(119)と、インク供給口(115)と、が形成されている。
ノズルプレート(114)の材質としては、ガラス板、金属板、シリコン板、樹脂等が挙げられる。なお、図8に示す(120)は、ノズルの配置方向によって決定する液の吐出方向を示している。
ノズルプレート(114)には、インク滴を飛翔させるための微細孔である多数のノズル(119)が形成されている。ここでは、ノズルプレート(114)の材質として、単結晶シリコン基板を用い、ノズル径は、インク滴吐出側の直径で35μm以下に形成し、かつ、ノズル(119)は、加圧液室(118)の中心近傍に対応する位置に配置した。ここで、図11を参照しながらノズルプレート(114)の構成について説明する。
ノズルプレート(114)上には、ノズルプレート(114)の表面に突出した、多数のフッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)と、ノズルプレート(114)の表面に突出した、多数のフッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)を保持するカーボンナノチューブ保持層(131)と、が形成されている。フッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)は、カーボンナノチューブ(130)と、その表面を覆っているフッ素系樹脂(132)とから形成されている。
第5の実施形態におけるインクジェットヘッドは、図8、図10、図11に示すように、ノズルプレート(114)表面に、多数のフッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)を突出させることで、フッ素系樹脂の小さな表面自由エネルギーを利用して、カーボンナノチューブ単体より高い撥水性を持たせることができ、カーボンナノチューブの機械的強度が高く、しなやかな特性により、フッ素系樹脂に特有な耐磨耗性を改善することが可能となる。
なお、カーボンナノチューブ(130)としては、その直径が0.3〜100nm以下であることが好ましく、その長さが、0.1μm〜100μm以下であることが好ましい。また、カーボンナノチューブ(130)としては、多層カーボンナノチューブでも、単層カーボンナノチューブでもよく、また、それらナノチューブが束になったバンドル状のものでも適用することは可能である。
また、ノズルプレート(114)表面に形成するフッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)の突出密度、及び、突出長さは、表面の撥水性を構築するように適宜設定されることになる。このように、撥水作用を促進する微細な構造体に、フッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)を用いたものは、フォトリソグラフィとエッチングとによる微細加工技術によるものにくらべて、より低コストで形成することが可能となる。
また、カーボンナノチューブ(130)の表面をコートしているフッ素系樹脂(132)の膜厚は、1nm〜500nm程度の範囲であれば表面自由エネルギーが小さく撥水性を発揮することが可能となる。
なお、カーボンナノチューブ保持層(131)に適用される材質としては、インクに腐食されず、カーボンナノチューブ(130)を保持できるものであれば特に限定せず、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系などの各種接着剤や、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの各種樹脂や、フッ素化エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、フッ素化ポリアミド樹脂、フッ素化ポリウレタン樹脂などの各種フッ素化樹脂などにカーボンナノチューブを分散させたもの、または、金属微粒子と樹脂微粒子とにカーボンナノチューブを分散させたものが適用可能である。
次に、ノズルプレート(114)の表面に突出した、多数のフッ素系樹脂をコートしたカーボンナノチューブ(133)を形成する方法について説明する。
図11に示すように、KOH水溶液にて異方性エッチングにより、ノズル(119)と、インク供給口(図示せず)と、を形成した単結晶シリコン基板上に、平均の直径が10nm、平均長さ4μm、先端は、開環していないアーク放電法によって作成された多層カーボンナノチューブをポリイミド樹脂に対して10重量%の濃度となるように、ポリイミド塗布液中に分散させる。このカーボンナノチューブが分散されたポリイミド塗布液を、単結晶シリコン基板上に塗布し、350℃で熱硬化させ、膜厚10μmのポリイミドにカーボンナノチューブが分散されたマトリクスを形成する。この熱硬化したポリイミド樹脂とカーボンナノチューブとのマトリクスをカーボンナノチューブ保持層(131)とする。次に、このカーボンナノチューブ保持層(131)表面を、シリカ研磨液(粒径0.3μm)と、発泡ウレタンの研磨パッドと、を用いて研磨を行う。
カーボンナノチューブ(130)は、機械的、化学的に安定であり、研磨によりポリイミド樹脂のみが除去され、多数の多層カーボンナノチューブ(130)が、カーボンナノチューブ保持層(131)であるポリイミド樹脂に対してカーボンナノチューブが分散されたマトリクスを介して、ノズルプレート(114)表面に突出させることになる。
なお、第5の実施形態では、カーボンナノチューブ(130)をポリイミド樹脂に分散させているため、研磨により突出したカーボンナノチューブ(130)の突出長さや方向は、ランダムとなっているが、多数のカーボンナノチューブ(130)が、ノズルプレート(114)から突出していることになる。
ここで、図6を参照しながら、研磨を用いたカーボンナノチューブ(130)の突出方法について詳細に説明する。
1次研磨ステーション(341)では、シリカ微粒子を含むスラリーを用いて1次研磨を行うことになる。なお、ノズルプレートは、研磨ヘッド(342)に、研磨面が研磨パッドに対向するように固定される。研磨パッドとして、定盤上に発泡ポリウレタンパッドIC−1000(ロデール製)を張り合わせ、研磨液供給ノズル(343)より、シリカ研磨液を供給しながら、定盤およびノズルプレートが保持された研磨ヘッド(342)がそれぞれ回転し、研磨が行われることになる。定盤の回転数、研磨ヘッドの回転数、研磨ヘッドの押し付け圧力などにより研磨速度を制御することは可能である。
なお、第5の実施形態では、スラリーとしてシリカ微粒子を含む研磨液を用いたが、アルミナ(Al2O3)や、酸化セリウム(CeO2)、酸化マンガン(MnO2)等の研磨粒子を適用することも可能である。
次に、ノズルプレートが保持された研磨ヘッドは、2次研磨ステーション(344)に移動する。ここでは、シリカ微粒子を含まない純水が研磨液供給ノズル(345)より供給され、研磨パッドとして発泡ポリウレタンパッドSupreme RN−H(ロデール製)を張り合わせた定盤と研磨ヘッド(342)とがそれぞれ回転し、2次研磨が行われることになる。研磨粒子を用いた1次研磨に引き続き、研磨粒子のない2次研磨を行うことで、研磨粒子がノズルプレート表面に残留することがなく、カーボンナノチューブ表面にフッ素系樹脂が均一に形成でき、良好な撥水性を発現することが可能となる。
研磨量は、研磨粒子を用いる1次研磨において制御することができ、2次研磨では、研磨速度は小さくなる。ここでは、カーボンナノチューブを十分表面に突出させるため、2次研磨後の研磨量として、5μmとなるように研磨時間を設定する。
研磨によってカーボンナノチューブをノズルプレート表面に突出させることにより、マトリクス表面の変質がなく、かつ、カーボンナノチューブ表面にも欠陥を発生することがなく、良好なフッ素系樹脂を形成できる下地を提供でき、良好な撥水性を発現することが可能となる。
次に、洗浄ステーション(346)において、被研磨材料であるノズルプレートに純水を供給しながら、回転駆動するポリプロピレンブラシにより、ブラシスクラブを行うことになる。このブラシスクラブは、研磨面に直接ブラシが接触して研磨面を傷つけることなく、研磨面の微粒子を除去することが可能となる。したがって、カーボンナノチューブ表面にフッ素系樹脂が均一に形成でき、良好な撥水性を発現できる。
次に、図12を参照しながら、フッ素系樹脂(132)をカーボンナノチューブ(130)の表面にコートするCat−CVD法について詳細に説明する。
Cat−CVD法は、Hot Filament Chemical VaporDeposition(HFCVD)法とも呼ばれ、原料ガスを熱触媒体によって加熱活性化し、吸着再脱離の後、成膜したい基板等に吸着することにより成膜するものである。
Cat−CVD法は、アモルファスシリコンやシリコン窒化膜などの無機膜を、プラズマを使わず基板温度が比較的低温で成膜できる手法として、半導体ばかりでなく、樹脂のガスバリア成膜法としても注目されている。さらに、PTFEなど樹脂膜の成膜が行われている。
真空チャンバー内に設置された被成膜用基板(455)であるノズルプレートは、基板温度制御を兼ねた基板ホルダ(456)に、カーボンナノチューブ(130)が突出し、フッ素系樹脂をコートする面をシャワーヘッド(452)に対向するように保持される。
アルゴンをキャリアガスとして、Hexa Fluoro Propylene Oxide(HFPO)を原料ガス導入経路(451)をへて、シャワーヘッド(452)から供給し、熱触媒体加熱用電源(454)によって500℃に加熱したステンレスワイヤなどの熱触媒体(453)により活性化する。
熱触媒体(453)は、これに電流を流してジュール発熱で加熱、高温化させて、熱触媒体として機能させるために、少なくともその表面が金属材料からなることが望ましい。
なお、ここではステンレスワイヤを用いたが、アモルファスシリコンやシリコン窒化膜の成膜においてよく用いられているタングステン(W)やTa,Re,Os,Ir,Nb,Mo,Ru,Ptなどの高融点金属材料やそれらの合金を用いることも可能である。
アモルファスシリコンやシリコン窒化膜の成膜においては、反応ガスの脱離を促進するため1000℃以上の高温を必要とするが、フッ素系樹脂の成膜においては500℃程度の比較的低温で反応ガスの脱離が生じるため、熱触媒体(453)の選択肢は広くなる。
また、不純物が問題になる場合には、成膜前に使用温度以上で予備加熱することが不純物低減に効果的である。熱触媒体(453)の形状としては、ここでは簡便に用いることができるワイヤ形状としたが、これに限定するものではなく、板状やメッシュなども用いることができる。また、熱触媒体加熱用電源(454)は、直流電源でも低周波数の交流電源でも用いることが可能である。
温度制御用電源(457)によって、基板温度制御を兼ねた基板ホルダ(456)により、被成膜用基板(455)であるノズルプレートを冷却しながら、PTFE成膜が進行する。この場合、基板温度は室温以下から300℃程度の範囲で制御できるため、Siのような無機材料に限らず、有機材料上にも良好なPTFE膜を低温で成膜することができる。
本実施形態におけるインクジェットヘッドは、以下に示す化学式(1)のような分解と重合により、カーボンナノチューブ(130)およびそれらを保持する樹脂マトリクスであるカーボンナノチューブ保持層(131)表面に、フッ素系樹脂(132)であるPTFEを50nmの厚さでコートすることが可能となる。これにより、ノズルプレート表面に、フッ素系樹脂でコートしたカーボンナノチューブ(133)を形成することが可能となる。
なお、Cat−CVDの場合には、PECVDなどのように基板ホルダ(456)が電極を兼ねるなどの電気的な制約がないため、静電チャックなどの機能を設け、基板との密着性を高めてより精密な温度制御が可能となる。
反応に寄与しなかったガスや中間体は、ガス排出口(458)を経て、ガス排気用真空ポンプ(459)により、図示しない除外装置により無害化されることになる。ここでは、原料ガスとして、HFPOを用いたが、Tetra Fluoro Ethylene(TFE) C2F4でもよい。さらに膜厚も成膜時間やガス流量などを制御することで適宜設定することが可能である。
また、過硫酸アンモニウム(NH4)2S2O8や過硫酸カリウムK2S2O8などの過硫酸塩や、dimethyl sulfone CH3SO2CH3、Sulfolane C4H8SO2、perfluorobutane−1−sulfonyl Fluride(PFBSF) CF3(CF2)3SO2F、 Perfluorooctane−1−sulfonyl Fluride(PFOSF) CF3(CF2)7SO2Fなどのラジカル開始剤を添加することで、成膜速度を大きくすることが可能となる。
このようにカーボンナノチューブ(130)を突出させた後に、フッ素系樹脂(132)をコートすることで、カーボンナノチューブ(130)ばかりでなくその下地であるカーボンナノチューブ保持層(131)やノズルプレート(141)もフッ素系樹脂でコートすることが可能となり、撥水性を持たせることが可能となる。
(電極基板(101)の構成)
次に、電極基板(101)について説明する。
本実施形態では、電極基板(101)として、面方位(100)p型単結晶シリコン基板を適用する。なお、電極基板(101)としては、n型単結晶シリコン基板を適用することも可能である。また、プロセスに応じて(110)単結晶シリコン基板や(111)単結晶シリコン基板を適用することも可能である。また、ガラスやセラミックス等の基板を適用することも可能である。
電極基板(101)には、図8〜図10に示すように、静電型インクジェットヘッドを駆動するための駆動電極(121)と、絶縁層及びギャップスペーサとしての酸化シリコン(102)と、シリコン振動板(112)と、が形成されており、駆動電極(121)には、ギャップ(104)と、駆動電圧を印加するための駆動電圧印加部(108)と、が形成されている。なお、駆動電極(121)としては、導体であれば特に限定するものではないが、リンやボロン不純物を多量に含有する多結晶シリコンや高融点金属等が望ましい。
この駆動電極(121)は、絶縁層としての酸化シリコン(102)によって、電極基板(101)と絶縁されている。酸化シリコン(102)をギャップスペーサとし、シリコン振動板(112)と対抗した駆動電極(121)に、電圧を印加することで静電引力を発生させることになる。駆動電圧印加部(108)は、駆動電極(121)に外部から電圧を印加するためのもので、ワイヤーボンディング等の実装を行うためのパッド部である。
本実施形態におけるインクジェットヘッドでは、静電力により、シリコン振動板(112)を振動させて、加圧液室(118)内部の圧力を上昇させ、その圧力上昇により、インク滴をノズル(119)より、液吐出方向(120)に吐出させることになる。
なお、インク滴を吐出後、新たなインクは、インク供給口(115)により外部に連通する共通液室(116)から流体抵抗を形成した液流路(117)を介して、加圧液室(118)に補充されることになる。吐出されるインク量は、シリコン振動板(112)の変位量により制御されることになる。
このように、本実施形態におけるインクジェットヘッドは、図8、図10に示すように、カーボンナノチューブがポリイミド樹脂に分散されたマトリクスをカーボンナノチューブ保持層(131)として、ノズルプレート(114)表面に、フッ素系樹脂がコートされた多数のカーボンナノチューブ(133)が突出したノズルプレート(114)と、液室基板(111)と、電極基板(101)と、を張り合わせることで、ノズル(119)表面に、フッ素系樹脂であるPTFEをコートしたカーボンナノチューブ(133)が多数突出したインクジェットヘッドを形成することになる。
表面をフッ素系樹脂でコートしたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ単体より高い撥水性となるため、このようなインクジェットヘッドは、高い撥水性を示し、良好な印字品質を得ることが可能となる。また、カーボンナノチューブの表面にフッ素系樹脂をコートすることで、樹脂や金属表面にフッ素系樹脂をコートするのに対して、カーボンナノチューブの機械的強度が高く、しなやかな特性によって、フッ素系樹脂に特有な耐磨耗性が改善され、ワイピングによる撥水性の低下も見られず、より長期間にわたって高い印字品質を維持することが可能となる。
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。
第6の実施形態は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いてノズルプレート表面にカーボンナノチューブを形成する方法について説明する。なお、ノズルプレート以外の構成は第5の実施形態と同様な構成なので、フッ素系樹脂でコートされたカーボンナノチューブが表面に突出したノズルプレートのみについて、以下に説明する。
図13に示すように、単結晶シリコン基板からなるノズルプレート(214)を第5の実施形態と同様の方法で、KOH水溶液にて異方性エッチング法により、ノズル(219)と、インク供給口(図示しない)と、を形成した後に、スパッタ法にて、カーボンナノチューブ(230)を突出させる面に鉄Feを、約6nmの厚さに成膜することになる。次に、単結晶シリコン基板を、石英チューブ内に設置し、Heガスを流しながら、700℃まで加熱し、Fe薄膜をカーボンナノチューブの触媒となるように凝集させ、原料ガスであるアセチレン(C2H2)、Heガスを流しながら、多層カーボンナノチューブ(230)を形成する。このとき、平均的な多層カーボンナノチューブ(230)の直径は、50nm程度とやや太く、長さ5μm程度のものが非常に密集した形で、基板に垂直方向にそろって、ノズルプレート(214)上に形成されることになる。
このようなCVD(Chemical Vapor Deposition)法によるカーボンナノチューブは、通常の樹脂などのマトリクスに分散させる方法に比べて、密集したカーボンナノチューブを得ることが可能となる。また、その長さも制御が可能で、その均一性も高くなる。また、その突出方向も基板に垂直方向に制御することが可能となる。なお、第6の実施形態では、鉄触媒をスパッタにより成膜し、熱CVDによるカーボンナノチューブを用いたが、[吾郷氏et,at,all 「New Route to Synthesize Multiwall Carbon Nanotubes:Vapor−phase Reaction using Collodial Solution of Metal Nanoparticles」,第19回フラーレン総合シンポジウム要旨集p.26]に報告されているように、カーボンナノチューブの触媒として、逆ミセル法を用いて、トルエン中にCoCl2水溶液のミセルを形成し、NaBH4によって還元し、触媒となるコバルト微粒子を形成し、アセチレンガスにて多層カーボンナノチューブをノズルプレート上に垂直に作成することも可能である。このようなミセルを用いる場合には、基板上に生成するミセルの密度を制御することにより、カーボンナノチューブの密度を制御することが可能となる。また、単結晶シリコン基板からなるノズルプレートを酸化したのち、Ni成膜後熱処理し、触媒粒子を形成、アセチレンとアンモニアガスを原料にDCプラズマを用いたPECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)によって、多層カーボンナノチューブをノズルプレート上に多数垂直に形成する方法など、PECVDを用いてより低温で作成することも可能である。
また、このようなCVDによって作成した表面には、カーボンナノチューブ以外に発生した炭素生成物が付着している場合があるため、成膜後、酸素O2プラズマ処理によって、カーボンナノチューブと炭素生成物のエッチング速度が異なることを利用して、表面をクリーニングすることにより、カーボンナノチューブ表面に形成するフッ素系樹脂を均一に形成することができ、より良好な撥水性を発現できる。
次に、第5の実施形態と同様なCat−CVD装置を用いて、フッ素系樹脂をカーボンナノチューブ(230)の表面にコートする。真空チャンバー内に設置されたノズルプレートは、基板温度制御をかねた基板ホルダ(456)に、カーボンナノチューブ(230)を形成した面をシャワーヘッド(452)に対向するように保持される。
アルゴンをキャリアガスとして、Tetra Fluoro Ethylene(TFE)C2F4を原料ガス導入経路(451)をへて、シャワーヘッド(452)から供給し、熱触媒体加熱用電源(454)によって500℃に加熱したタングステンワイヤなどの熱触媒体(453)によって活性化する。
過硫酸アンモニウム(NH4)2S2O8をラジカル開始剤として添加している。温度制御用電源(457)によって、基板温度制御を兼ねた基板ホルダ(456)により、被成膜用基板(455)であるノズルプレートを冷却しながらPTFE成膜が進行する。カーボンナノチューブ(230)表面やノズルプレート表面にPTFEを50nmの厚さでコートした。
なお、本実施形態では、原料ガスとして、TFEを用いることとしたが、Hexa Fluoro Propylene Oxide(HFPO)を適用することも可能である。また、タングステンワイヤ(W)を用いたが、Ta,Re,Os,Ir,Nb,Mo,Ru,Ptなどの高融点金属材料やそれらの合金、ステンレスなども適用可能である。
熱触媒体(453)の形状としては、簡便に用いることができるワイヤ形状としたが、これに限定するものではなく、板状やメッシュなども適用することが可能である。また、基板温度は室温以下から300℃程度の範囲で制御できるため、ここで用いたSiのような無機材料に限らず、有機材料上にも良好なPTFE膜を低温で成膜することができ、材料による制約が少ない成膜手法である。
このように、第6の実施形態におけるインクジェットヘッドは、ノズルプレート(214)表面にCVD法により多層カーボンナノチューブ(230)を形成した後に、Cat−CVD法にて、多層カーボンナノチューブ表面にフッ素系樹脂(232)であるPTFEをコートしたノズルプレート(214)と、第5の実施形態と同様の方法で形成した図8、図10に示す液室基板(111)と、電極基板(101)と、を張り合わせることで、ノズルプレート表面にフッ素系樹脂であるPTFEをコートしたカーボンナノチューブ(233)が多数突出したインクジェットヘッドを形成することが可能となる。この第6の実施形態におけるインクジェットヘッドは、十分な撥水性を示し、良好な印字品質を得ることが可能となる。
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態について説明する。
第7の実施形態は、上述した第1の実施形態から第6の実施形態におけるインクジェットヘッドをインクジェット記録装置に搭載したことを特徴とするものである。以下、図14、図15を参照しながら、本実施形態におけるインクジェット記録装置について説明する。なお、図14は、本実施形態におけるインクジェット記録装置(以下単にプリンタと略す)の要部構成の斜視図であり、図15は、図14に示すインクジェット記録装置の側面図である。
本実施形態におけるインクジェット記録装置は、インクジェット記録装置本体(1)の内部に、主走査方向に移動可能なキャリッジ(13)、該キャリッジ(13)に搭載したインクジェットヘッドからなる印刷ヘッド(14)、該印刷ヘッド(14)にインクを供給するサブタンク(15)等で構成される印字機構部(2)が収納されている。また、インクジェット記録装置本体(1)の下部には、前方側から多数枚の用紙(3)を積載可能な給紙カセット(4)(あるいは、給紙トレイでも適用可能)を抜き差し自在に装着することができるように、また、用紙(3)を手差しで給紙するための手差しトレイ(5)を開倒することができるように、構成されている。これにより、本実施形態におけるインクジェット記録装置は、給紙カセット(4)、あるいは、手差しトレイ(5)から給送される用紙(3)を取り込み、印字機構部(2)により所要の画像を印字した後、後面側に装着された排紙トレイ(6)に排紙することになる。
印字機構部(2)は、主ガイドロッド(11)と、従ガイドロッド(12)と、でキャリッジ(13)を主走査方向(図14では、紙面垂直方向)に摺動自在に保持するように構成されている。なお、キャリッジ(13)には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するためのインクジェットヘッドからなる印刷ヘッド(14)が装着されている。印字ヘッド(14)は、複数のインク吐出口を、主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けてキャリッジ(13)に装着されることになる。また、キャリッジ(13)には、印刷ヘッド(14)に各色のインクを供給するためのサブタンク(15)が装着されている。
サブタンク(15)は、上方に大気と連通する大気口を有し、また、下方にインクジェットヘッドにインクを供給する供給口を有し、また、内部にインク残量を検知するセンサと、インクが充填された多孔質体と、を有して構成されている。そして、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドに供給されるインクをわずかな負圧に維持することになる。なお、サブタンク(15)の容量は、プリンタの高速化に伴うキャリッジ(13)の軽量化のため、必要最小限の大きさとなっている。したがって、サブタンク(15)の中のインクが少なくなると、インクを補給しなければならないことになる。
なお、本実施形態では、印刷ヘッド(14)は、上述した第1の実施形態から第6の実施形態における静電型のアクチュエータをインクジェットヘッドとして用いることになる。
ここで、図14に示すように、キャリッジ(13)は、後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド(11)に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド(12)に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ(13)を主走査方向に移動走査するために、主走査モータ(17)で回転駆動される駆動プーリ(18)と従動プーリ(19)との間にタイミングベルト(20)を張装し、このタイミングベルト(20)をキャリッジ(13)に固定し、主走査モータ(17)の正逆回転によりキャリッジ(13)を往復駆動することになる。
一方、給紙カセット(4)にセットした用紙(3)を印刷ヘッド(14)の下方側に搬送するために、給紙カセット(4)から用紙(3)を分離給装する給紙ローラ(21)及びフリクションパッド(22)と、用紙(3)を案内するガイド部材(23)と、給紙された用紙(3)を反転させて搬送する搬送ローラ(24)と、この搬送ローラ(24)の周面に押し付けられる搬送コロ(25)と、搬送ローラ(24)からの用紙(3)の送り出し角度を規定する先端コロ(26)と、が設けられている。搬送ローラ(24)は、副走査モータ(27)によりギヤ列を介して回転駆動されることになる。
また、キャリッジ(13)の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ(24)から送り出された用紙(3)を印刷ヘッド(14)の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材(29)が設けられている。また、印写受け部材(29)の用紙搬送方向下流側には、用紙(3)を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ(31)、拍車(32)が設けられている。さらに、用紙(3)を排紙トレイ(6)に送り出す排紙ローラ(33)、拍車(34)と、排紙経路を形成するガイド部材(35、36)と、が配設されている。
なお、用紙(3)に像を記録する際は、キャリッジ(13)を移動させながら印字信号に応じて印刷ヘッド(14)を駆動することで、停止している用紙(3)にインクを吐出して1行分を往路で記録し、用紙(3)を所定量搬送した後、次の行の記録を復路で行うことになる(双方向印刷)。
そして、記録終了信号、または、用紙(3)の後端が記録領域に到達した信号を受信することで、記録動作を終了させ、用紙(3)を排紙する。なお、用紙(3)への記録は、往復路のいずれか一方向で行うことも可能である(片方向印刷)。
また、キャリッジ(13)の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、印刷ヘッド(14)の吐出不良の回復、サブタンク(15)にインクを供給するメインのインクタンク等で構成される回復装置(37)が配置されている。回復装置(37)は、キャッピング手段と、吸引手段と、クリーニング手段と、インク補給手段と、を有して構成されている。
キャリッジ(13)は、印字待機中はこの回復装置(37)側に移動され、キャッピング手段により印刷ヘッド(14)をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止することになる。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持することになる。
また、吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段により印刷ヘッド(14)の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクと共に気泡等を吸い出し、クリーニング手段により吐出口面に付着したインクやゴミ等が除去され、吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、インクジェット記録装置本体下部に設置された廃インク溜(図示せず)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
また、サブタンク(15)内にインクが無くなった場合には、インクの補給はキャリッジ(13)が所定の位置に来た時に、回復装置(37)により行われる。イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色別のインクタンクを備えた回復装置(37)は、Y、M、C、Kの各色毎のサブタンク(15)と、チューブ等を介して直結されており、常に、一定の水圧がかけられている。また、回復装置(37)には、インク供給ノズルとバルブとが備え付けられており、インク供給の必要が生じた際に、バルブが開いてインク供給ノズルよりインクが流れ出るように構成されており、サブタンク(15)へのインクの供給が可能となる。
このように、第1の実施形態から第6の実施形態のインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置を用いて印字処理を行うことで、高精細な印字処理を行うことが可能なばかりでなく、長期間にわたり安定した印字処理を行うことが可能となる。
なお、上述する実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。例えば、上記の第1の実施形態〜第6の実施形態におけるインクジェットヘッドは、駆動力として、静電力を駆動力とする静電型インクジェットヘッドを例として説明したが、本発明にかかるインクジェットヘッドは、静電駆動方式に限定されるものではなく、圧電素子による圧電効果を利用した圧電型インクジェットヘッドや、インクの熱膨張を駆動力としたサーマル型やバブル型インクジェットヘッドにも適用することは可能である。