JP4677532B2 - ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法 - Google Patents

ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリフェニレンサルファイド(以下、PPSという)繊維の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、極めて良好な繊維表面状態を有すると共に、バラツキが非常に少ない安定した引張強度・伸度および結節強度・伸度を有するばかりか、加工工程において糸切れや糸割れなどの不具合を生じることが少なく、抄紙ドライヤーカンバスや各種フィルターなどの工業用織物用原糸、さらには電気絶縁材用途、ブラシ用毛材などに好適に利用し得るPPS繊維を効率的に製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PPSは、耐熱性、耐薬品性および難燃性などに優れているため、これら特性を必要とする各種工業用部品、工業用織物や各種フィルターに用いる繊維、電気絶縁部品およびフィルムなどさまざまな用途に利用されている。
【0003】
しかしながら、PPSからなる繊維は、ポリエステル繊維やポリアミド繊維に比較して、引張強度や結節強度、さらには屈曲特性などの物理的特性が不十分であるという問題を抱えており、これらの物理的特性を向上させるため、これまでにも種々の提案がなされてきている。
【0004】
例えば、特開昭64−3961号公報には、PPS未延伸糸を自然延伸比以上の倍率で1段延伸し、その後150〜260℃以上で、かつ1段目の延伸温度以上で定長熱処理するか、同様の温度域で全延伸倍率が1段目の延伸倍率の1〜2倍になるように2段延伸することにより、PPS繊維の機械的特性や耐熱性、耐薬品性が向上することが記載されている。
【0005】
また、特開平1−229809号公報および特開平1−239109号公報には、PPSを溶融紡糸し、加熱体を用い1段延伸を行い、次いで100〜140℃の加熱体を用い熱セットした後、さらに表面温度150℃以上融点以下の加熱体で熱セットを行なうことにより、毛羽立ち、単糸切れが極めて少ないPPS繊維を得る方法が開示されている。
【0006】
さらに、特開平4−222217号公報には、PPSを溶融紡糸し得た未延伸糸を80〜260℃で2〜7倍に延伸した後、285〜385℃の乾熱雰囲気中で引き取り比0.8〜1.35倍で0.1〜30秒間熱処理することにより、引張強度が3.5g/d以上、結節強度が2.5g/d以上であり、屈曲摩耗や屈曲疲労特性を改善したPPS繊維が得られることが開示されている。
【0007】
本発明者らも、メルトフローレートが200g/10分以下の直鎖状PPSを溶融紡糸し、60℃以上の温水中で冷却し得た未延伸モノフィラメントを、引き続き一時延伸倍率/全延伸倍率の比が0.88以下の一時延伸した後、全延伸倍率が4倍以上になるように多段延伸し、次いで、200〜280℃の空気浴中で弛緩熱処理することにより、引張強度と結節強度が均衡して優れたPPSモノフィラメントを製造する方法(特開昭62−299513号公報)、およびメルトフローレートが20〜120g/10分のPPSを紡糸延伸してなるPPSモノフィラメントであり、フリー状態で測定した200℃の乾熱収縮率Sd200と、同じく140℃で測定した乾熱収縮率Sd140との差の絶対値ΔSdが3.0%以下、Sd200が15〜32%であり、3.5g/d以上の特性を有する抄紙スパイラルカンバスなどに適した性能を有するPPSモノフィラメントおよびその製造方法(特開平5−195318号公報)などを提案してきた。
【0008】
しかしながら、これら従来技術は、繊維の引張強度や結節強度の向上、屈曲耐久性の向上、繊維の収縮特性や強伸度特性を制御することによる各種産業用資材用途への展開などを図る上では、いずれも優れた技術ではあるものの、得られたPPS繊維を実際に用いて加工を行なう工程においては、依然としてPPS繊維の工程通過性に問題を抱えており、こうした加工上での工程通過性の改善が望まれているのが現状であった。
【0009】
すなわち、PPS繊維やPPSモノフィラメントは、優れた耐熱性、耐蒸熱性および耐薬品性を有することから、抄紙ドライヤーキャンバスやフィルターなどに代表される工業用織物や電気絶縁材などの用途に好ましく用いられているが、これらPPS繊維を用いた工業用織物は、製織される織機上において、経糸や緯糸の糸切れ、およびこれら製織された織物の経糸と緯糸のナックル部分などでの繊維の糸割れなどの不具合が発生するという問題があり、こうした加工工程における問題を発生しないPPS繊維の実現が仕切りに望まれていたのである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような状況に鑑み、従来技術における問題を解決すべく検討した結果達成されたものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、極めて良好な繊維表面状態を有すると共に、バラツキが非常に少ない安定した引張強度・伸度および結節強度・伸度を有するばかりか、加工工程において糸切れや糸割れなどの不具合を生じることが少なく、抄紙ドライヤーカンバスや各種フィルターなどの工業用織物用原糸、さらには電気絶縁材用途、ブラシ用毛材などに好適に利用し得るPPS繊維を効率的に製造する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、工業用織物をはじめとする各種産業用資材に用いられてきたPPS繊維やPPSモノフィラメントの加工工程における糸切れ、糸割れなどの問題は、単に繊維の強伸度特性や収縮特性のバランスのみによるものではなく、PPS繊維の繊維表面の状態に大きく支配されていること、およびPPS繊維の表面状態を改質し、PPS繊維表面に存在する凹凸状の変形部を減少させ極めて平滑にすることが、各種産業用資材の製造工程におけるトラブルを解消して、これら用途に非常に好適に利用され得るPPS繊維とすることにとって重要であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、実質的にポリフェニレンサルファイドからなる繊維であって、電子的糸条検査ボードを用いて測定した繊維のプロフィールから読み取った繊維表面状態において、繊維軸に直行して凹状に変形した陥没部のうち、任意の陥没部の最陥没点を中心として繊維軸方向にそれぞれ左右1cm以内に存在する繊維表面に凸状に変形した突出部のなかでも、測定方向に対し陥没部の前方に存在する最も大きく突出した最大突出部の頂点xと、測定方向に対し陥没部の後方に存在する最も大きく突出した最大突出部の頂点yを結んだ線分Pから、前記任意の陥没部の最陥没部に向けて降ろした垂線Dの長さをD1とした時、この長さD1と前記線分Pの長さP1とが、式D1/P1>0.05の関係を満たす陥没部の数が、繊維長1m中に90個以下とすることができる。
【0014】
ただし、繊維の表面状態の測定は、Lawson−Hemphill社製、“電子的糸条検査ボード−エンタングルメントテスタ用 LH−482”を使用して、次の条件で行うものとする。
【0015】
繊維試料を約50m/分の速度で走行させ、Profile−Modeにて繊維の外観形状・表面状態(プロフィール)を測定する。次いで、この測定結果の中から、任意の点1m分の測定部の結果を0〜10cm、10〜20cm、20〜30cm…90〜100cmとそれぞれ10cmごとに拡大した結果をA4サイズ用紙にプリントアウトする。この結果から繊維の陥没部の大きさを計測する。なお、任意の陥没部の大きさの測定に関しては、図1(b)に記載の各記号部分を測定したものである。
【0016】
また、繊維1m中の陥没部の個数の計数は、上記でプリントアウトした繊維表面状態の測定結果から、繊維軸に直行して凹状に変形した陥没部を計数し、計数に当たっては、10cmごとにA4サイズ用紙にプリントアウトした測定結果プロフィールの上側に記録された陥没部をそれぞれ計数し、この個数を合計したものである。
【0017】
なお、図1(b)は電子的糸条検査ボードを用いて測定したPPS繊維1mの表面状態の測定結果を10cm毎に拡大してプリントアウトしたプロフィール結果の一例から、繊維長1mの結果を抜粋して示したものである。
【0018】
本発明の製造方法によって得られるPPS繊維においては、上記式D1/P1>0.09の関係を満たす陥没部の数が、繊維長1m中に60個以下であることがより好ましい。
【0019】
さらに、本発明のPPS繊維の製造方法においては、PPS繊維を構成するPPSについては、そのメルトフローレートが20〜250g/10分であることが好ましく、また本発明の製造方法によって得られるPPS繊維の繊度としては、0.5〜200000dtexの範囲であることが、産業用資材用途のPPS繊維としてはより好ましい効果を発現する。
【0020】
また、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維がモノフィラメントの形態をとる場合には、抄紙ドライヤーカンバスやフィルターなどの工業用織物用途に利用し得るPPS繊維としては一層好ましい結果をもたらすことに繋がる。
【0021】
さらにまた、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、繊維30カ所の引張破断伸度測定を行ったとき、そのPPS繊維30カ所の引張破断伸度のcv値が8以下であることが好ましく、この場合には産業用資材用途に好適に利用し得るPPS繊維とすることができる。
【0022】
すなわち、本発明のPPS繊維の製造方法は、PPSを溶融押出紡糸し冷却するまでの工程において、口金ノズルから押出す溶融ポリマの温度を286℃〜330℃に調節すると共に、この溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップを3〜100cmとし、さらに前記口金ノズルから押出した溶融ポリマを冷却槽に導いて冷却固化させる冷却工程において、前記冷却槽に満たした冷却溶媒を、この冷却槽に導いた半固化状態のポリマに向けて、送液速度0.5〜12.0cm/秒の条件で連続的に送液しつつ冷却することを特徴とする。
【0023】
また、本発明のPPS繊維の製造方法においては、冷却工程で用いる冷却溶媒として水を用いることが好ましく、さらには水温が50℃から95℃の温水を用いることが最も好ましく、この場合には安定して本発明のPPS繊維を製造することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0025】
本発明の製造方法によって得られるPPS繊維を構成するPPSは,ポリマの繰り返し単位がp−フェニレンサルファイド単位やm−フェニレンサルファイド単位からなるフェニレンサルファイド単位を含有するポリマを意味するが、これらの中でも、ポリマの繰り返し単位の90%以上がp−フェニレンサルファイド単位からなるポリマが好ましく用いられる。
【0026】
本発明で特に好ましく用いることのできるPPSポリマの製造方法としては、p−ジクロルベンゼンに硫化ナトリウムを重縮合させて得る方法が挙げられるが、p−ジクロルベンゼンを分岐成分として共重縮合させたポリマであってもよい。
【0027】
さらに、本発明で用いるPPSは、ASTM D1238−86に準拠し、316℃、オリフィス径2.095mm、オリフィス長さ8.00mm、荷重5kgで測定した10分当たりの流出ポリマ量で示されるメルトフローレート(以下、MFRという)が、20から250g/10分のものが好ましく用いられ、さらには、MFR70〜120g/10分のものが、PPS繊維の強伸度バランス、耐摩耗性、製糸安定性および表面平滑性の観点から最も好ましく用いることができる。
【0028】
なお、市販品のなかで利用できるPPSポリマとしては、例えば、東レ(株)製PPSのE1880、E2080、M2088、E2280、E2480、E2481およびM2488などを挙げることができる。
【0029】
PPSポリマは、通常粉末で得られるものであるが、溶融紡糸に供する前に、エクストルダーなどで粉末PPSを融点以上の温度に加熱し、溶融・混練した後、必要に応じフィルター類で異物を濾過除去し、ガット状に押出して冷却、その後カッティングするなどの方法でペレット状に加工して用いることができる。そして、PPS粉体あるいはPPSペレットは、概ね100〜180℃で5〜24時間程度、減圧真空下で乾燥して用いることが好ましい。
【0030】
また、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、その所望特性を疎外しない範囲で、酸化チタン、酸化ケイ素、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸などの各種無機粒子や架橋高分子粒子などのほか、従来公知の抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、フッ素樹脂、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリオレフィン類およびポリスチレン類などが添加されたものであってもよい。
【0031】
本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、電子的糸条検査ボードを用い測定した、PPS繊維のプロフィールから読み取った繊維表面状態において、繊維軸に直行して凹状に変形した任意の陥没部(以下、単に陥没部という)のうちで、その陥没部の最陥没点を中心として繊維軸方向にそれぞれ左右1cm以内に存在する繊維表面に凸状に変形した突出部(以下、単に突出部という)のなかでも、測定方向に対し陥没部の手前に存在する最も大きく突出した最大突出部の頂点xと、測定方向に対し陥没部の後方に存在する最も大きく突出した最大突出部の頂点yを結んだ線分Pから、その最陥没部に向けて降ろした垂線Dの長さをD1とした時、この長さD1と前記線分Pの長さP1とが、式D1/P1>0.05の関係を満たす陥没部の数が、繊維長1m中に90個以下とすることができる。
【0032】
なおここで、PPS繊維の表面状態の測定は、Lawson−Hemphill社製、“電子的糸条検査ボード−エンタングルメントテスタ用 LH−482”を用い、以下の条件で測定を行ったものである。
【0033】
すなわち、繊維試料を約50m/分の速度で走行させ、Profile−Modeにて繊維の外観形状・表面状態(プロフィール)を測定する。次いで、この測定結果の中から、任意の点1m分の測定部の結果を0〜10cm、10〜20cm、20〜30cm…90〜100cmとそれぞれ10cmごとに拡大した結果をA4サイズ用紙にプリントアウトする。この結果から繊維の陥没部の大きさを計測する。
【0034】
また、繊維1m中の陥没部の個数の計数は、上記でプリントアウトした繊維表面状態の測定結果から、繊維軸に直行して凹状に変形した陥没部を計数し、計数に当たっては、10cmごとにA4サイズ用紙にプリントアウトした測定結果チャートの上側に記録された陥没部をそれぞれ計数し、この個数を合計したものである。
【0035】
ここで、上記の式D1/P1は、陥没変形部の大きさやその深さを示す指数であるが、D1/P1の値が大きいほどその繊維上に存在する陥没変形部が大きいことを示す。
【0036】
したがって、式D1/P1で表される指数が大きい場合、つまり陥没部が大きい場合には、これがPPS繊維の欠点となり、PPS繊維の強伸度バラツキを大きくする一つの要因となるばかりか、これを用い製造される産業用資材の加工工程における工程トラブルを引き起こす原因となるため、D1/P1>0.05であり、かつその陥没部の数が、繊維長1m中に90個以下であることが重要な要件である。
【0037】
すなわち、上記の要件を満たす場合には、PPS繊維の表面は非常に平滑な状態であり、PPS繊維の強伸度特性のバラツキも少なく、PPS繊維を利用する産業用資材の加工工程におけるトラブルの発生もなく非常に好適に利用できるPPS繊維となすことができる。
【0038】
しかるに、上記式D1/P1で表される繊維上に存在する陥没部は本来、繊維上に存在しないことが最も望ましいが、D1/P1<0.05であれば、PPS繊維の強伸度特性に与える影響や、産業用資材の加工工程でのトラブルの原因となることもないため、0.05未満であれば問題がない。
【0039】
なお、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、電子的糸条検査ボードを用い測定した、繊維のプロフィールから読み取った繊維表面の状態において、陥没部が繊維軸に直行する方向にいずれか一方の繊維表面に凹状に陥没するのみならず、この陥没部と相対する他方の繊維表面が凸状に変形した突出部を有することになる場合があるが、このように単に繊維表面の片側のみが陥没するように変形するのではなく、この陥没部と相対する繊維表面が押し出されるように突出するよう変形したPPS繊維であった場合であっても、その繊維表面のうちいずれか一方に存在する陥没部が本発明の範囲内であれば、産業用資材用途に利用するPPS繊維として好適に利用できる。
【0040】
なお、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維においては、上記P1とD1とが、式D1/P1>0.09の関係を満たす陥没部の数が、繊維長1m中に60個以下であることがさらに好ましく、この場合にはより優れた結果の発現に繋がる。
【0041】
すなわち、PPS繊維上に存在する陥没部が式D1/P1>0.09を満たす場合、その陥没部は、繊維軸に直行し非常に深く、また、大きく変形していることを示すものである。こうした大きな陥没部は、特にPPS繊維の強伸度特性のバラツキや、PPS繊維を用いた産業用資材の加工工程での工程通過性を左右する大きな特性であり、本発明のPPS繊維は、その表面状態が平滑で欠点が少ない特徴を有するため、引張破断強伸度測定を行ったとき、その引張強伸度のバラツキが極めて少なくなる効果をもたらし、PPS繊維の表面状態が極めて良好であることと合わせ、PPS繊維を利用した産業用資材への安定した加工性を実現するのである。
【0042】
そして、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、繊度が0.5〜200000dtex、さらに30〜95000dtex、より好ましくは100〜45000dtexの範囲にある場合に、産業用資材用途のPPS繊維として極めて好適に利用され得る。
【0043】
また、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、モノフィラメントの形態をとる場合に、抄紙ドライヤーカンバス、工業用フィルター、電気絶縁材およびブラシ用毛材などの産業用資材に用いられるPPS繊維として極めて好ましい効果を発現する。
【0044】
なお、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維の繊維軸方向に垂直な断面の形状は、円、楕円、扁平、半月形、三角形、正方形、またそれ以上の多角形、多葉形状、中空および繭型などあらゆる形状を有していてもよい。
【0045】
かくしてなる、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、極めて平滑な表面状態を有し、さらには安定した強伸度特性を兼ね備えるものである。特に、その強伸度特性のうち、PPS繊維30カ所の引張破断伸度測定を行ったとき、そのPPS繊維30カ所の引張破断伸度のバラツキを示す標準偏差σを30カ所の引張破断伸度測定結果の平均値で除して求められるcv値が8以下である場合には、PPS繊維を利用した各種産業用資材に加工される工程で、従来から大きな問題とされていた加工工程での糸切れ、また加工された産業用資材中でのPPS繊維の糸割れなどの発生を極端に軽減し、産業用資材用途に極めて良好に利用されるPPS繊維と成すことができるのである。
【0046】
次に、本発明のPPS繊維の製造方法について説明する。
【0047】
PPS繊維を製造するに際しては、通常はエクストルダーなどの紡糸機を使用して、PPSポリマをその融点より20〜80℃以上高い温度で溶融し、溶融したPPSポリマを紡糸機の先端部に取り付けられたノズルから押出し、さらに押出されたPPS溶融ポリマを、空気、各種不活性ガス、ポリエチレングリコール、水、グリセリン、シリコーンワックスおよびアルコールなどの冷却媒体中で、ガラス転移温度以下、具体的にはガラス転移温度〜(ガラス転移温度−70℃)の範囲の温度で冷却固化させる。
【0048】
そして、冷却固化して得られたPPS未延伸糸を、一旦ロールに巻き取った後に延伸するか、またはロールに巻き取ることなく連続して延伸することにより配向させる。なお、PPS未延伸糸の延伸は、1段、または2段以上の多段延伸のいずれの方法を採用することもでき、その延伸倍率としては2〜8倍、好ましくは4〜6倍の範囲が採用される。さらには、延伸後のPPS繊維については、収縮率の調整や破断強伸度などを調整する目的で、延伸工程を通過した後引き続いて100〜280℃程度の温度雰囲気下で0.8〜1.0倍の熱セットを行なうことが望ましい。
【0049】
本発明のPPS繊維の製造方法おいては、ポリフェニレンサルファイドを溶融押出紡糸し冷却するまでの工程において、口金ノズルから押出す溶融ポリマの温度を286℃〜330℃に調節すると共に、この溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップを3〜100cmとし、さらに前記口金ノズルから押出した溶融ポリマを冷却槽に導いて冷却固化させる冷却工程において、前記冷却槽に満たした冷却溶媒を、この冷却槽に導いた半固化状態のポリマに向けて、送液速度0.5〜12.0cm/秒の条件で連続的に送液しつつ冷却することが重要な要件であり、これにより目的とする表面状態の優れたPPS繊維を得ることができる。
【0050】
すなわち、本発明のPPS繊維の製造方法における第1の特徴は、口金ノズルから押出す溶融ポリマの温度を286℃〜330℃に調節することにある。従来の一般的なPPS繊維の製造方法においては、エクストルダーなどの紡糸機における溶融温度を、PPSポリマの融点より20〜80℃以上高い温度、具体的にはおよそ300〜350℃前後の非常に高い温度で行なっていた。
【0051】
しかし、極めて平滑な表面状態を有するPPS繊維となすためには、口金ノズルから押出す溶融ポリマの温度はできる限り低い温度に調節することが重要であり、本発明においては、上記286℃〜330℃の温度範囲であれば、表面性を良好にしたPPS繊維の製造を可能とするが、好ましくは287℃〜320℃、さらに好ましくは289℃〜315℃、より好ましくは290〜305℃の範囲に調節することが望ましい。
【0052】
次いで、溶融されたPPSポリマは、ノズルから押出し、冷却溶媒を満たした冷却槽に導かれが、その押出された直後の溶融ポリマは、依然として200℃以上の高温状態のままであり、こうした非常に高い温度のPPS溶融ポリマは、冷却槽内の冷却溶媒との界面で、冷却溶媒の沸騰や揮発などにより気泡を多量に生じさせてしまう。
【0053】
そして、ここで発生した気泡は、まだ十分に固化していない半溶融状態のPPSポリマの表面に付着、あるいは冷却槽内を通過する半固化状態のPPSポリマに沿って移動し、さらにはPPS溶融ポリマが冷却槽に進入した直後、その冷却溶媒の表層部で突沸(ポリマが冷却槽に進入した直後に、冷却溶媒の表層部とポリマとの界面で気泡が爆発状に弾ける状態をいう)することなどに起因して、あたかも痘痕状の凹凸が生じてしまい、この状態のまま完全に冷却固化されたPPS未延伸糸は、その表面状態が非常に荒れた状態となり、この未延伸糸を延伸して得られるPPS繊維も同様に、表面状態が非常に悪く、実用上問題が生じることが頻繁に見られた。
【0054】
そこで、本発明のPPS繊維の製造方法における第2の特徴は、PPSポリマを溶融押出紡糸し、冷却するまで工程において、口金ノズルから押出された溶融ポリマが冷却溶媒を満たした冷却槽に至るまでのエアーギャップを3〜100cmの範囲にすることである。
【0055】
ここで、冷却槽に至るまでのエアーギャップは、上記の範囲であれば特に問題ないが、冷却槽内でのPPS未延伸糸の走行状態の安定性や縦方向の線径バラツキを小さくするために、好ましくは5〜50cm、さらに好ましくは8〜30cmであることが望ましい。
【0056】
ここで、例え口金ノズルから押出す溶融ポリマの温度を287℃〜330℃に調節したとしても、エアーギャップが上記の範囲以下ではノズルから押出された溶融ポリマの冷却が不十分となり、溶融ポリマが冷却槽内に進入する以前に十分冷却されず高温状態のため、溶融ポリマと冷却溶媒との界面で、沸騰や揮発などによる気泡が多量に生じ、半固化状態のPPS未延伸糸がこれら気泡の発生によりダメージを受け、凹凸状の変形を生じるため好ましくない。逆にエアーギャップが上記の範囲を越えると、ノズルから押出された溶融ポリマは十分に冷却されるものの、ロールによる未延伸糸の引取りバランスが崩れやすく、安定した製糸性が得られないばかりか、その長すぎるエアーギャップに起因して、空気の流れなどの外部からの影響を受けやすくなり、その結果、線径不良などを招く結果に繋がるため好ましくない。
【0057】
また、本発明のPPS繊維の製造方法における第3の特徴は、口金ノズルから押出した溶融ポリマを冷却槽に導いて冷却固化させる冷却工程において、前記冷却槽に満たした冷却溶媒を、この冷却槽に導いた半固化状態のポリマに向けて、送液速度0.5〜12.0cm/秒の条件で連続的に送液しつつ冷却することである。
【0058】
すなわち、上述したように、PPS溶融ポリマのを冷却は、PPSのガラス転移温度〜(ガラス転移温度−70℃)の範囲の温度の冷却媒体中でPPSポリマを冷却固化させることにより行なうが、この場合にPPS繊維の線径バラツキや繊度斑を抑制するという観点からは、できるだけPPSのガラス転移温度に近い高い温度の冷却媒体を用いて冷却を行うことが有利な傾向になる。このため、冷却媒体に液体を使用する場合には、物質によっては非常に沸点に近いような高い温度での冷却温度を採用する必要が生じてくることになる。
【0059】
ではここで、冷却液の沸点付近の非常に高い温度の冷却液温度を採用した場合には、高温の冷却液よりもさらに高い温度のPPSポリマが冷却液を満たした冷却槽内に導かれてくる。その結果、このPPS溶融ポリマの温度の影響により、この溶融ポリマ付近に存在する冷却液はさらに温度が上昇し、ついには液体の沸点に到達して、冷却液とPPSポリマとの界面に気泡が発生してしまう。すると、この気泡はまだ十分に固化していない半溶融状態のPPSポリマの表面に付着するか、あるいは冷却槽内を通過するPPSポリマに沿って移動するような状況が起こるため、この影響によって半固化状態のPPS未延伸ポリマの表面が陥没してしまうことになる。
【0060】
また、こればかりではなく、上述した気泡の発生の状態がひどくなってきた場合には、PPS溶融ポリマが冷却槽に進入した直後に冷却液の表層部で突沸現象が起こり、半固化状態のPPS未延伸ポリマの表面に非常に大きな陥没部を生じさせる原因となってしまう。
【0061】
しかるに、本発明の製造方法によれば、冷却槽内に満たした冷却液を半固化状態のPPSポリマに向けて送液することで、冷却液とPPSポリマ界面で発生した気泡が半溶融状態のPPSポリマの表面に付着することを防止し、さらには上記突沸現象をも防止することが可能となり、この結果、繊維表面の陥没を抑制することに繋がるのである。
【0062】
さらに、本発明における上記冷却液の送液は、ポリマが進入する近傍へ冷却液を送液して冷却液に動きを与えることにより、冷却液の温度が局部的に上昇するのを防止すると共に、ノズルから押出された溶融ポリマが冷却槽に進入した際に、そのポリマが進入した近傍に存在する冷却液が局部的に加熱され、沸点以上へ上昇してしまうことを防止することをも目的の1つとするものである。
【0063】
なお、本発明においては、冷却溶媒の送液速度も重要であり、単に溶融ポリマが冷却槽に進入した際に送液すればよいのではなく、上記の送液速度範囲に規制することが重要である。ここで、冷却溶媒の送液速度は0.5〜12.0cm/秒の範囲であれば問題はないが、好ましくは1〜8cm/秒、さらに好ましくは3〜6cm/秒である場合に、特に好適な効果の発現を期待することができる。
【0064】
すなわち、冷却溶媒の送液速度が上記の範囲以下の場合には、送液による効果が小さく、PPS繊維の表面性改善効果が不十分となり、また、逆に上記の範囲を越える場合には、未延伸糸同士の接触による糸切れを誘発する原因となり、安定した製糸性を欠く結果をもたらすため好ましくない。
【0065】
ここで、冷却に用いる冷却溶媒としては特に制限はなく、例えばポリエチレングリコール、水、グリセリン、シリコーンワックスおよびアルコールなどが挙げられるが、製造コストの低減や、系外への冷却溶媒の流出など環境面への悪影響を考慮した場合には、水を用いるのが好ましく、ここで用いる水としては50〜95℃、さらには70〜90℃の温水を用いることが、特に好ましい結果の発現に繋がる。
【0066】
また、本発明において、冷却槽に満たした冷却液を、この冷却槽に導いた半固化状態のポリマに向けて連続的に送液する方法としては、前記冷却液を冷却槽外部に設置した循環ポンプなどにより冷却槽内から汲み上げ、汲み上げた冷却液を配管などを用いて、口金ノズルから押出した溶融ポリマを冷却液中へ導く冷却槽の近傍へ移送する方法が好適である。なお、この配管の途中にオリフィスやバルブなどを設け、冷却液の移送中に送液速度が本発明の範囲内に調節することが望ましい。
【0067】
次いで、移送した前記冷却液を溶融ポリマへ送液する方法としては、例えば、溶融ポリマが冷却液中へ導かれる近傍に円形状の送液ノズルを設置し、この円形状の送液ノズルの外周方向から内周方向へ向けて、前記の方法により移送した冷却液を送液する方法が挙げられる。また、溶融ポリマがローラーにより引き取られる方向または反引き取り方向からの送液が可能となるように、溶融ポリマが前記冷却槽に導かれる近傍の溶融ポリマの引き取り方向の後方側、または前方側に送液ノズルを設置して送液する方法も採用することができる。ここで用いられる送液ノズルの形状については、直線、円弧、半円状およびコの字型などあらゆる形状の送液ノズルが利用できる。また、これら送液ノズルの送液孔のサイズには特に制限はないが、前記溶融ポリマに送液する冷却液が層流となるように配慮することが重要である。
【0068】
さらに、これらの送液ノズルを前記冷却液を満たした冷却槽に設置する位置としては、前記冷却槽に満たした冷却液の表層〜30cm程度の深さとすることが、それによる効果を特に顕著にすることに繋がる。
などが挙げられる。
【0069】
また、本発明のPPS繊維の製造方法においては、口金ノズルから押出した溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップを3〜100cmとするが、口金ノズルから溶融押し出しされた溶融ポリマが冷却行程に至るまでのエアーギャップ間に口金直下から伸長する筒状体を設置してもよく、さらに、この筒状体に窒素ガスを流入させる場合には、さらに安定して高品質、つまり表面状態が非常に平滑であり、繊度斑が少なく、バラツキの極めて少ない強伸度特性を具備するPPS繊維となすことができる。
【0070】
すなわち、口金直下に筒状体を設けることにより、エアーギャップを長くとった場合でも、空気の流れなどによる外乱を受けることがなく、繊度斑が非常に少なく、かつ繊維の真円度のきわめて優れたPPS繊維とすることができる。さらに、この筒状体に窒素ガスを流入する場合には、口金直下の雰囲気が窒素ガスによりシールされた状態が形成され、これにより紡糸口金に設けられた口金孔の周辺部に付着する汚れ物(いわゆる口金汚れ)が顕著に抑制され、安定して長時間のPPS繊維の製造が可能となるなど、非常に好ましい結果の発現に繋がる。
【0071】
かくして本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、極めて良好な繊維表面状態を有する上に、バラツキの非常に少ない安定した引張強伸度や結節強伸度特性を備えることから、抄紙ドライヤーカンバスや各種フィルターなどの工業用織物用原糸、さらには電気絶縁材用途、ブラシ用毛材などに利用することができ、特にPPS繊維がモノフィラメントの形態をとる場合においては、表面状態が極めて良好であり、さらに強伸度特性にバラツキが少ないため、産業用資材用途に利用する際に、従来から問題とされていた加工工程でのPPS繊維の切断や、産業用資材に加工後のPPS繊維の糸割れなどの諸問題が改善されるなど、極めて優れた効果を発揮するものである。
【0072】
【実施例】
以下、本発明のPPS繊維の製造方法について実施例に関しさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
なお、上記および下記に記載の本発明におけるPPS繊維の物性などは以下の方法により測定した値である。
[PPS繊維の表面状態の測定]:Lawson−Hemphill社製、電子的糸検査ボード−エンタングルメントテスタ用 LH482を使用し、PPS繊維試料を約50m/分の速度で走行させ、Profile−ModeにてPPS繊維の外観形状・表面状態(プロフィール)を測定した。
[陥没部の計測]:上記で測定したPPS繊維の表面状態の測定結果の中から、任意の点1m分の測定部の結果を取り出し、これを各々0〜10cm、10〜20cm、20〜30cm…90〜100cmとそれぞれ10cmごとに拡大した結果をA4サイズ用紙にプリントアウトし、このプロフィール結果からPPS繊維の陥没部の大きさの計測を行った。
[陥没部の個数の計数]:PPS繊維1m中の陥没部の個数の計数にあたっては、上記でプリントアウトした繊維表面状態のプロフィール測定結果から、繊維軸に直行して凹状に変形した陥没部を計数した。なお、計数した陥没部は、10cmごとにA4サイズ用紙にプリントアウトした測定結果プロフィールの上側に記録された陥没部をそれぞれ計数し、この個数を合計したものである。
[繊度(dtex)]:長さ50cmにカットしたPPS繊維4本を、メトラー・トレド(株)製メトラー分析用上皿天びん(AE240)を用いて重量測定を行い、このPPS繊維の重量から繊度(dtex)を算出した。
[引張強力(N)、引張伸度(%)および引張強力・伸度の標準偏差(σ)]:JIS L1013 7.5項に準じて行った。すなわち、PPS繊維30mを綛状に取り、これを20℃、65%RHの温湿度調整室内で24時間以上エージングする。このサンプルを長さ約50cmにカットし、この中から任意に30本を取りだし同条件の温湿度調整室内で、(株)オリエンテック製“テンシロン”UTM−4−100型引張試験機を用い、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で引張強力(N)および引張伸度(%)を測定し、その平均値を引張強力・伸度とした。また、これら引張強力および引張伸度の測定結果30点から、各々の測定値のバラツキを示す標準偏差(σ)を算出した。
[引張破断強力・引張破断伸度cv値]:上記で求めたPPS繊維30カ所の引張破断強力・引張破断伸度の標準偏差σとPPS繊維30カ所の引張破断強力・引張破断伸度測定結果の平均値から次式により算出した。
【0074】
Figure 0004677532
[溶融ポリマ温度(℃)]:
(株)日本製鋼所製 P50−25A型押出機(スクリュー外径50mmφ)を用いてPPSポリマを溶融し、この押出機のダイ部に取り付けた熱電対により測定した。
[製糸性]:
12時間以上の連続製糸を行い、次の3基準で判定した。
【0075】
○(良好)…冷却および延伸工程での糸切れなどが皆無であり、何ら問題なく製糸ができた。
【0076】
△(やや不良)…冷却工程における不具合で、12時間以内に1回の未延伸糸の糸切れが発生した。
【0077】
×(不良)…冷却工程における不具合で、12時間以内に2回以上の未延伸糸の糸切れが発生した。または、延伸工程で12時間以内に2回以上の糸切れが発生した。
[実施例1]
PPS原料として、東レ製E2080を準備し、これを150℃で15時間、真空条件下で乾燥を行った。このPPS原料を(株)日本製鋼所製50mmφエクストルダー型紡糸機(P50−25A)へ供給し、紡糸温度330℃にて溶融混練し、その後、口金ノズルへ原料ポリマを移送する課程で徐々に紡糸温度を下げ、ポリマ温度が296±2℃となるようにコントロールさせた。ポリマ温度をコントロール後、円形紡糸口金ノズル(口金孔径:3.0mmφ×8ホール)から溶融ポリマを押し出した。押し出した溶融ポリマは、続いて12cmのエアーギャップを通過させた後、80℃の温水を満たした冷却槽へ導き冷却固化させた。なお、この冷却固化させる課程で、この冷却槽に満たした冷却溶媒である80℃の温水を、送液速度5cm/秒でPPS溶融ポリマへ送液し、表面改質PPS未延伸糸を得た。
【0078】
引き続き、上記PPS未延伸糸をゲージ圧0.98KPaの加圧飽和水蒸気雰囲気下で3.80倍に一次延伸を行い、次いで、150℃の熱風雰囲気下で1.15倍で二次延伸を行った。延伸工程を通過させたPPS延伸糸は、続いて180℃の熱風雰囲気下で0.97倍の弛緩熱処理を行い、6770dtex(直径0.80mm)のPPSモノフィラメントを得た。
【0079】
得られたPPSモノフィラメントの繊維表面に存在する陥没部のサイズ(D1/P1)と個数、引張強力および引張伸度の測定結果、強伸度特性のバラツキ程度(cv)および製糸性の結果を表1に示す。また、電子的糸条検査ボードを用い測定した、PPS繊維10cmのプロフィール結果を図2に示す。
[実施例2,3、比較例3,4]
実施例1と同様な製糸条件により、口金ノズルから冷却槽へ至るエアーギャップ距離を変更して得たPPSモノフィラメントの繊維表面に存在する陥没部のサイズ(D1/P1)と個数、引張強力および引張伸度の測定結果、強伸度特性のバラツキ程度(cv)および製糸性の結果を表1および表2に示す。
【0080】
【表1】
Figure 0004677532
【0081】
【表2】
Figure 0004677532
表1の結果から明らかなよう、エアーギャップが本発明内の実施例2および3のPPS繊維は、非常に良好な繊維表面状態ならびに極めてバラツキの少ない強伸度特性を有していることがわかる。一方、本発明で規定された範囲外のエアーギャップを採用して得られたPPS繊維は、表2の結果から明らかなよう、エアーギャップが長すぎた比較例3では、その長すぎるエアーギャップのために、口金ノズルから押し出した溶融ポリマをローラーで引き取る際、安定した未延伸糸の引き取りが困難となり、冷却工程で糸の蛇行が発生して、糸切れが多発する結果を招き、製糸性が不十分であった。また、エアーギャップが短すぎた比較例4では、エアーギャップ間での溶融ポリマの冷却が不十分となった結果、冷却工程で冷却溶媒を送液しても十分なPPS繊維の表面改善効果が見られず、D1/P1>0.05で示される陥没部が本発明の規定範囲外となり、その結果、引張強伸度特性のバラツキも大きくなるなど、好ましくない結果を招いてしまった。
[実施例4、実施例8,9、比較例1,2]
実施例4は、実施例1と同様な製糸条件で、冷却溶媒を水からポリエチレングリコールへ変更したが、表1に示すよう優れた表面性と強伸度特性、製糸性を示すものであった。
【0082】
また、実施例1に準じ、送液速度を変更した実施例8,9および比較例1,2では、変更範囲が本発明の規定範囲内である実施例8,9で得られたPPS繊維は、表1の結果からもわかるように、良好な表面性、強伸度特性、製糸性を示す。
【0083】
一方、表2に示したように、本発明の規定範囲外の比較例1,2において、送液をしなかった比較例1は、製糸性には問題がないものの、陥没部サイズ・個数が本発明の規定範囲外となってしまった。また、送液速度が本発明の規定範囲より速すぎる比較例2は、PPS繊維の表面性、強伸度特性は良好であるものの、送液速度が速すぎるため、冷却工程で溶融ポリマ同士が接触し、冷却工程での糸切れが多発する結果となってしまった。
【0084】
なお、比較例1のPPS繊維の電子的糸条検査ボードを用い測定した、PPS繊維10cmのプロフィール結果を図3に示す。
[実施例5,6、比較例5]
実施例1と同様な製糸条件でPPS原料ポリマのMFRを変更した結果、MFRの高すぎるPPS原料を用いた比較例5では、表2に示したように、本発明の規定範囲内ではあるもののPPS繊維の表面性が悪化傾向となり、またそればかりか、溶融ポリマの粘性の低さのため、ロールによる引き取りが安定せず、冷却工程での糸切れが発生する結果を招いてしまった。また、PPS原料ポリマのMFRが本発明の規定範囲内にある実施例5および6の場合は、表1に示したように、PPS繊維の表面性、強伸度特性、製糸性とも良好な結果が得られた。
[実施例5、比較例6,7]
エクストルダー紡糸機における溶融ポリマ温度を変更した際に、本発明の規定範囲より温度が高すぎる比較例6では、表2に示したように、PPS繊維の表面性が不十分であった。一方、低すぎる比較例7では、282℃と溶融ポリマ温度を低くしすぎたため、冷却工程を経たPPS未延伸糸が白濁する状況となってしまった。さらに、この白濁したPPS未延伸糸を引き続き連続して延伸したが、延伸切れが多発する結果となり、紡糸不能の状況となってしまった。
[比較例8,9]
冷却溶媒温度を本発明の範囲外とした結果、冷却温度が低すぎた比較例8では、冷却工程で未延伸糸の蛇行が大きくなり、安定した引き取りが不可能な状況となり製糸不能であった。また、高すぎた比較例9では、冷却槽液面で溶融ポリマと冷却溶媒である水との突沸現象が発生してしまい、表2に示したように、表面性の改善が図れない結果を招き好ましくないものであった。
[実施例10]
実施例1と同様なPPS原料ポリマ、紡糸機を用い、繊度を変更した実施例10は、表1の結果から明らかなように、優れた特性を有するものであった。
【0085】
表1の結果から明らかなよう、本発明によるPPS繊維は、極めて優れた表面平滑性を有し、またこの優れた表面平滑性によってバラツキの少ない安定した強伸度特性を兼ね備えるものであった。
【0086】
一方、表2の結果から明らかなよう、本発明の条件を満たさないPPS繊維では、PPS繊維の表面性が優れていても、安定した製糸性が得られない、また、表面平滑性が不十分であるため、強伸度特性のバラツキが大きくなるなど産業用資材用途のPPS繊維としてはいずれも不十分なものであった。
[実施例11]
産業用資材用途の例として、実施例1で得たPPS繊維を経糸および緯糸に用いた、二重織りの抄紙ドライヤーキャンバスを作製した。得られたドライヤーキャンバス中には、経糸および緯糸とも糸割れもなく非常に良好なものであった。また、製織工程における糸切れも皆無であり、優れた工程通過性をも持ち合わせるものであった。
[比較例10]
実施例11と同様に、比較例1で得たPPS繊維を経糸および緯糸に用いた、二重織りの抄紙ドライヤーキャンバスを作製した。このドライヤーキャンバスを確認したところ、経糸が緯糸と重なった稜部の経糸の糸割れが、ドライヤーキャンバス100m2 中あたり13カ所存在した。また、製織工程でも、製織時に緯糸切れが2回発生するなど、工程通過性にも問題が残る結果であった。
【0087】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のPPS繊維の製造方法によれば、極めて表面平滑性に優れ、また強伸度特性バラツキの少ないPPS繊維を効率的に製造することが可能となるものである。したがって、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維は、極めて優れた表面平滑性を有することで、非常に安定した強伸度特性を具現し、これら卓越した表面性および強伸度特性を兼ね備えることで、従来からのPPS繊維で問題とされていた、産業用資材用途への加工工程における工程通過性を改善し、さらには加工製品に散見されたPPS繊維の糸割れの改善をももたらすなど、優れた効果を発揮するものである。
【0088】
さらに、本発明の製造方法によって得られるPPS繊維がモノフィラメントの形態をとる場合は、抄紙ドライヤーキャンバスなどに代表されるPPS繊維を利用した工業用織物用原糸として特に産業上の利用価値を高める結果をもたらすものである。
【0089】
また、本発明のPPS繊維の製造方法によれば、極めて表面平滑性に優れ、また強伸度特性バラツキの少ないPPS繊維を効率的に製造することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、電子的糸条検査ボードを用いて測定したPPS繊維1mの表面状態の結果をそれぞれ10cm毎に拡大してプリントアウトした結果のうち、繊維長約6cmを抜粋したチャート結果(a)およびそのプロフィール結果(b)の一例である。
【図2】図2は、実施例1で得られたPPS繊維について、電子的糸条検査ボードを用い測定した繊維10cmを示すチャート結果およびプロフィール結果である。
【図3】図3は、比較例1で得られたPPS繊維について、電子的糸条検査ボードを用い測定した繊維10cmを示すチャート結果およびプロフィール結果である。

Claims (3)

  1. ポリフェニレンサルファイドを溶融押出紡糸し冷却するまでの工程において、口金ノズルから押出す溶融ポリマの温度を286℃〜330℃に調節すると共に、この溶融ポリマが冷却槽に入るまでに通過するエアーギャップを3〜100cmとし、さらに前記口金ノズルから押出した溶融ポリマを冷却槽に導いて冷却固化させる冷却工程において、前記冷却槽に満たした冷却溶媒を、この冷却槽に導いた半固化状態のポリマに向けて、送液速度0.5〜12.0cm/秒の条件で連続的に送液しつつ冷却することを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
  2. 前記冷却工程において使用する冷却溶媒が水であることを特徴とする請求項に記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
  3. 前記冷却工程において使用する冷却溶媒が、50℃から95℃の温水であることを特徴とする請求項に記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
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