以下、図面により、本発明の実施例1に係る自動変速機の制御装置について説明すると、図1はその構成を示す機能ブロック図である。図1に示すように、本変速制御装置は、コントローラ1,タービン25すなわちタービンシャフト10の回転速度NT を検出する入力軸回転速度センサ(ピストン回転速度検出手段)12,出力軸28の回転速度NO を検出する出力軸回転速度センサ(車速センサ)13,ATF(自動変速機用オイル)の温度を検出する油温センサ14,図示しないエンジンのスロットル開度を検出するスロットルセンサ30,エンジンの吸気量を検出するエアフローセンサ31及びエンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ32の各種センサと、自動変速機70の油圧回路11とをそなえて構成され、コントローラ1により、上記各センサ12,13,14,30,31,32等からの検出信号に基づいて所望の目標変速段を決定するとともに、油圧回路11を介して目標変速段を達成するための変速制御を行なうようになっている。なお、図1においては、便宜上、左側(エンジンから遠い側)をフロント側、右側(エンジン側)をリア側とする。
自動変速機70の変速段は、自動変速機70内に設けられたプラネタリギヤユニット,複数の油圧クラッチ及び油圧ブレーキ等の摩擦締結要素の係合関係により決まる。例えば、図1においては、自動変速機70は4段変速の場合について示しており、摩擦締結要素として第1クラッチ15,第2クラッチ17,第3クラッチ19,第1ブレーキ22,第2ブレーキ23をそなえている。なお、この自動変速機70の詳細を図2に示す。また、各摩擦締結要素を示す符号は図2に示すものと対応している。
このコントローラ1による摩擦締結要素15,17,19,22,23の制御は、図1に示す油圧回路11を介して行なわれるようになっている。つまり、油圧回路11には、図示しない複数のソレノイドバルブがそなえられ、これらのソレノイドバルブを適宜駆動(デューティ制御)することによって、オイルポンプから送り出されるATFが摩擦締結要素15,17,19,22,23へ供給されるようになっている。コントローラ1では、スロットルセンサ30により検出されるスロットル開度と、出力軸回転速度センサ13により検出される出力軸28の回転速度NO に基づいて演算される車速とに基づき目標変速段を決定し、決定した目標変速段への変速に該当する摩擦締結要素15,17,19,22,23のソレノイドバルブに対して駆動信号(デューティ率信号)を出力するようになっているのである。なお、ATFは、図示しないレギュレータ弁により所定の油圧(ライン圧)に調圧されており、このライン圧に調圧されたATFが各摩擦締結要素15,17,19,22,23を作動させるべく油圧回路11へ供給されるようになっている。
また、コントローラ1内には、図1に示すように、補正量算出手段2,初期油圧設定手段9,第2油圧設定手段5及び通常変速時ピストン回転速度算出手段6,時間補正手段7,初期油圧基準値算出手段8が設けられ、また、初期油圧設定手段9には第1油圧設定手段4及び第2油圧設定手段5が設けられている。このうち、第1油圧設定手段4は締結されるクラッチに対して高圧の油圧を所定時間だけ供給してピストンの無効ストロークをなくす、いわゆるガタ詰めを実行する手段であり、第2油圧設定手段5は高圧の油圧指令よりも低圧の油圧指令を行うものである。また、時間補正手段7は第1油圧設定手段により高圧の油圧を供給(以下、全圧供給時間)を開始するタイミングを補正するものであり、詳細については後述する。
また、この自動変速機70に設けられた摩擦締結要素15,17,19,22,23のうち少なくとも第2クラッチ17は、背景技術の欄及び発明が解決しようとする課題の欄で図11及び図12を用いて説明したようなクラッチ機構35と同様に構成されている。
ところで、自動変速機70には運転モードを切り換える切換レバー(図示せず)が装着されており、運転者がこの切換レバーを操作することにより、パーキングレンジ、走行レンジ(例えば、1速段〜4速段)、ニュートラルレンジ及び後退レンジ等の変速レンジの選択を手動で行えるようになっている。また、この走行レンジには自動変速モードと手動変速モード(マニュアルシフトモード)の2つの変速モードがあり、自動変速モードが選択された場合には、後述するスロットル開度θTHと車速Vとに基づき予め設定された変速マップ3に従って自動的に変速が実施される(以下、通常変速又はスタンダード変速という)ようになっている。一方、マニュアルシフトモードが選択された場合には、変速段はこの変速マップ3にかかわらず、切換レバーにより選択された変速段に変速され、切換レバーが操作されない限り、その後その変速段に固定されるようになっている。
なお、変速マップ3としては、通常変速時に用いられる変速マップ〔図12(a)参照〕以外にも、通常変速以外の変速マップが設けられている。なお、これについては後述する。
そして、通常変速時、すなわち、図12(a)に示すような通常変速時用変速マップにより目標変速段が設定されるような変速時であって、且つ、切換レバーが走行レンジの自動変速モードに選択されて走行しているとき、前述したように車速センサ13で検出される車速V及びスロットルセンサ30で検出されるスロットル開度θTHに応じて上述の第1〜第3クラッチ15、17、19及び第1〜第2ブレーキ22、23等の摩擦締結要素が、各々に設定されたソレノイドバルブによって制御され、図3に示すような結合あるいは解放の組み合わせにより、自動的に各変速段が確立されるようになっている。なお、図3の○印が各クラッチあるいは各ブレーキの結合を示している。
そして、図3に示すように、例えば第1クラッチ15,第2ブレーキ23が結合され、第2クラッチ17,第3クラッチ19,第1ブレーキ22が解放されていると2速段が達成されるようになっている。また、2速段から3速段への変速は、結合していた第2ブレーキ23を解放するとともに、第2クラッチ17を結合することにより達成されるようになっている。これらの摩擦締結要素15,17,19,22,23の係合状態は、コントローラ1によって制御されるようになっており、これらの摩擦締結要素15,17,19,22,23の係合関係によって変速段が決まり、また、結合,解放のタイミングを適宜はかりながら変速制御を行なうようになっている。
変速時においては、各ソレノイドバルブに対しコントローラ1から駆動信号が出力されるようになっており、この駆動信号に基づき各ソレノイドバルブが所定のデューティ率で駆動されて、シフトフィーリングの良い最適な変速制御が実行されるようになっている。 以下、通常変速時におけるアップシフト変速制御を2速段から3速段へのアップシフトを例にとって図4〜図8および図11に基づいて説明する。なお、アップシフト時の結合側摩擦締結要素とは、図3から明らかなように、1速段から2速段への1−2アップシフトに関しては第2ブレーキ23を、2速段から3速段への2−3アップシフトに関しては第2クラッチ17を、3速段から4速段への3−4アップシフトに関しては第2ブレーキ23をそれぞれ指し、解放側摩擦締結要素とは、1−2アップシフトに関しては第1ブレーキ22を、2−3アップシフトに関しては第2ブレーキ23を、3−4アップシフトに関しては第1クラッチ15をそれぞれ指す。
ここで、図4〜図9は、いずれもパワーオンアップシフト時にコントローラ1が実行するアップシフト変速制御を示すフローチャート、図10はその制御タイミングを説明するタイムチャートであって、(a)はタービン25の回転速度NT を示す図、(b)は解放側のソレノイド(第2ブレーキ23を駆動するソレノイド)のデューティ率を示す図、(c)は結合側のソレノイド(第2クラッチ17を駆動するソレノイド)のデューティ率を示す図、(d)は第2ブレーキ23(解放側エレメント)及び第2クラッチ17(結合側エレメント)の油圧をそれぞれ示す図である。また、図18は前述のように、一般的な自動変速機の油圧クラッチ機構35を示す図であるが、第2クラッチ17は、油圧クラッチ機構35と同様の構成であるので、以下の本実施例の説明に流用する。
まず、図4に基づいて2速段から3速段へのパワーオンアップシフト時の主制御であるアップシフト制御ルーチンを説明すると、ステップS13において、摩擦締結要素の結合側のガタ詰め時間を算出するガタ詰め時間算出処理を実施する。このガタ詰め時間算出処理では、図5に示すサブルーチンが実行される。
図5では、先ず、図12に示す通常変速時変速マップとの回転数とのズレ(偏差)が有るかどうかを判断し、ズレが有ると判断したときは、ピストンストロークが完了する時間であるガタ詰め時間T'(特許請求の範囲に記載の第2時間に相当)の補正が必要と判断してステップ132へ進み、それ以外のときはステップ134に進む。尚、このズレが有るとは、通常変速時とは異なる運転点で変速判断がなされたことを表しており、例えば、シフトレバーがマニュアルモード側に設定され、このシフトレバー操作に基づいて変速判断がなされた状態を表す。
ステップ132では、ガタ詰め時間の補正量ΔtC(特許請求の範囲に記載の時間補正手段により設定される補正量に相当)を下記式より算出する。
ΔtC=γ(Nt2−Ntst2)/VaDA
ただし、
γ:定数
Nt:今回変速判断タービン回転数
Ntst:通常変速時における同一変速種及び同一スロットル開度での変速判断タービン回転数
VaDA:DA1圧でのピストンストローク速度
である。
ステップ133では、補正後のガタ詰め時間T'を下記式より算出する。
T'=tF+tC+ΔtC
尚、全圧供給時間tFとは、結合側の第2クラッチ17へDUTY100%の油圧を供給しガタ詰め操作を行う全圧供給時間(特許請求の範囲に記載の第1油圧設定手段により模擬的に高圧の油圧に設定する時間)であり、tCとは、全圧供給時間tF が経過し後述する油圧再供給が開始されるまで初期デューティ率DA1によって供給される低圧供給時間(特許請求の範囲に記載の第2油圧設定手段により設定され、全圧よりも低圧の油圧を供給する時間)である。この低圧供給時間tCは、具体的には、予め設定されているピストンストローク量を後述する初期デューティ率DA1によって推定されるピストンストローク速度で除した値である。一方、ステップ134では、補正が必要ないと判断してガタ詰め時間T'をT'=tF+tCにより算出する。
ステップS14において、摩擦締結要素の解放側のソレノイドバルブのデューティ率DR を制御する解放側制御を実施する。この解放側制御では、図6に示すサブルーチンが実行される。
図6では、先ず、2−3アップシフトが判断されてから、ガタ詰め時間T'が油圧解放時間tRよりも短いかどうかを判別する(ステップ140)。なお、この油圧解放時間tRは、デューティ率DRを100%から0%に切り換えてから、解放側摩擦締結要素のスリップが生じるまでの時間であり、その求め方については後述する。T'<tRのときはステップ141に進み、変速指令とともに、すなわちSS点からデューティ率DRを0%に設定する(ステップ143)。一方、T'≧tRのときはステップ142に進み、(T'-tR)時間経過するまではデューティ率DRを100%に設定し(ステップ144)、(T'-tR)時間経過したときはデューティ率DRを0%に設定する。言い換えると、結合側の第2クラッチ17へ油圧を供給しガタ詰め操作を行うガタ詰め時間T'よりも解放時間tRが長いときは、変速指令とともにデューティ率DRを0%に設定し、それ以外のときは、ガタ詰め時間T'と解放側の第2ブレーキ23からの油圧解放時間tR との差(ts=T' −tR )である解放タイミングを表す所定時間tSだけはデューティ率DRを100%として設定する。この所定時間tSは、油圧解放時間tR、全圧供給時間tF が学習により補正されることから、これらの補正に伴って変化する。
ステップ145の再結合制御では、一旦解放を開始した後、再び解放側の第2ブレーキ23に油圧を供給する油圧再供給を実施する。図7は再結合制御を表すフローチャートである。ステップ1451では、フラグf(BB)が1にセットされているかどうかを判別し、1にセットされているときはステップ1455に進み、それ以外のときはステップ1452に進む。ここで、フラグf(BB)は、油圧再供給が実施されたか否かを記憶するためのプログラム制御変数であり、油圧再供給が実施されたときに1に設定される。尚、1に設定されたフラグf(BB)は、このアップシフトが終了すると再び0にリセットされる。
ステップ1452では、タービン回転速度差(NT −NTI)が所定値よりも大きいかどうかを判別し、大きいときはステップ1453に進んでデューティ率DR を100%に設定し、更にステップ1454に進んでフラグf(BB)を1に設定する。フラグf(BB)が1に設定されると、次の制御周期においてステップ1451→ステップ1455へと進み、タービン回転速度差(NT-NTI)が所定値よりも小さいかどうかが判別され、小さいときはステップ1456に進んでデューティ率DR を0%に設定し、大きいときはステップ1457に進んでデューティ率DR を100%に設定する。よって、最終的にデューティ率DR は再び0%に戻されることになる。なお、上述の同期回転速度NTIは、自動変速機70の出力軸回転速度NO に変速前における変速段(ここでは2変段)のギヤ比を乗算して演算されるものである。
アップシフトにおいては、図10に示すように、解放側の第2ブレーキ23のソレノイド弁に供給されるデューティ率が0%にされて油圧が解放された後、解放側の第2ブレーキ23と結合側の第2クラッチ17とが共に係合されずタービン25が空転状態となり、エンジンの回転に呼応してこのタービン25が吹き上がることがある(図10中にYで示す)。
このようにタービン25が吹き上がると、結合側の第2クラッチ17が係合する際にショックを発生し、シフトフィーリングが悪化する。そこで、タービン25が吹き上がり、タービン回転速度NT が変速前の2速段でのタービン25の同期回転速度NTIを越えたことが確認されたら、第2ブレーキ23に100%のデューティ率の油圧を所定時間に亘り再び供給するようにしている。このように、再結合制御によりデューティ率DR が制御され、油圧再供給が実施されると、第2ブレーキ23が所定時間だけ再び係合し、図10に示すように、解放側の作動油圧が所定時間に亘り増加し、タービン25の吹き上がりが充分に抑制される。そして、タービン25の吹き上がり量が小さくなり、タービン回転速度差(NT −NTI)が所定値以下になると、最終的にデューティ率DR は再び0%に戻されることになる。
ステップ146では、ステップ145の再結合制御の実行により油圧再供給が実施されたか否かを、油圧再供給の実施完了後に値1が設定されるフラグf(BB)の値によって判別する。解放制御開始直後においてはタービン25の吹き上がりはなく、再結合制御による油圧再供給がすぐに実施されるようなことはないため、この場合には、フラグf(BB)の値は1ではなく(値0)、また判別結果はNo(否定)であり、次にステップ147に進むことになる。
ステップ147では、デューティ率DR を0%に設定して第2ブレーキ23から油圧の解放を行い、図4のステップS16に進む。ステップ140〜ステップ144の判別によりT'<tRと判定された場合、もしくは、所定時間tS(=T'−tR)が経過したと判定された直後においては、このステップ143の実行により油圧の解放が開始されることになる。油圧の解放が開始されると、図10に示すように100%に設定されていたデューティ率DR がコントローラ1からの指令を受けて0%となり、ソレノイドバルブが消勢されることになるが、このとき、作動油圧は同図に示す解放側の油圧線図のように減少し始める。
一方、ステップ146において、フラグf(BB)が値1で、上述の再結合制御において油圧再供給が実施されたと判定された場合には、第2ブレーキ23のソレノイドバルブに供給されるデューティ率DR は再結合制御に従うことになり、ここでは何もせずに図4のステップS16に進む。なお、値1に設定されたフラグF(BB)は、後述するように、この2−3アップシフトが終了すると再び値0にリセットされる。
図4のステップS16においては、結合側のデューティ率DC を制御する結合側制御が実行される。なお、この結合側制御では、具体的には図8に示すサブルーチンのフローチャートに基づいて制御が実施される。
すなわち、図8のステップ161では、図10に示すように、変速判断が行われると、ガタ詰め時間T'が油圧解放時間tRよりも短いかどうかを判別し、長いときはステップ163に進み、変速指令と同時に、すなわちSS時点からtF時間にわたりデューティ率DC が100%に設定される。一方、短いときはステップ162に進み、SS時点からtR-T'時間経過後、tF時間にわたりデューティ率DC が100%に設定される。
このガタ詰め操作は、第2クラッチ17の無効ストロークを解消するためのものであることから、その動作が最も速くなるようデューティ率DC は100%に設定され、第2クラッチ17には、ライン圧の作動油が供給される。これにより、結合側の油圧は、同図の油圧線図に示すように徐々に増加することになる。なお、このようなピストンの無効ストロークを解消するために、変速初期に一旦高圧の油圧指令を行なう(本実施形態ではデューティ率DC を一旦100%に設定する)ことをプリチャージという。
このプリチャージによる第2クラッチ17のガタ詰めは、所定の全圧供給時間tF だけ行なわれ(第1油圧設定手段4の機能)、全圧供給時間tF 経過後(時点IF)は、所定の初期デューティ率DA1まで低下させる(第2油圧設定手段5の機能)ようになっている。ただし、この時点IFでは、実際にはガタ詰めは完了しておらず、実際にガタ詰めが完了するのは、さらに時間tC 経過後である。このようにガタ詰め完了前にデューティ率を所定の初期デューティ率DA1まで低下させるのは、第2ブレーキ23の解放が完了する前に第2クラッチ17が結合するとインターロック状態になってしまい、ハンチングやショックの原因となるため、ある程度ガタが詰められた後は付与する油圧を落として急激な結合を防止するようにしているのである。
なお、この全圧供給時間tF は、学習によって補正されるものである。この学習補正については後述する。そして、全圧供給時間tF が経過したら、次に、ステップ164に進む。
このステップ164は、図11に示すサブルーチンのフローチャートに基づいて、全圧供給時間tF 経過後に第2クラッチ17のソレノイドバルブに出力するデューティ率DC を初期デューティ率DA1に設定するステップである。
この初期デューティ率DA1の設定の詳細については後述するが、通常変速時とは異なる運転点で変速するとき(通常の変速マップとは異なる変速マップで運転するとき)、初期デューティ率DA1を、通常変速時ピストン回転速度算出手段6で算出されたピストン40の回転速度(或いはタービン回転速度)と、入力軸回転速度センサ(ピストン回転速度検出手段)12で検出された前記ピストン40の回転速度(或いはタービン回転速度)とのそれぞれの2乗の差に基づいて補正するようになっている。
ステップ165では、結合側の第2クラッチ17に供給する油圧のデューティ率DC を初期デューティ率DA1とする。
そして、クラッチプレート50aとクラッチディスク50bとの係合が開始され、それ
らの回転速度差が低減され始めると、図10に示すように、タービン25の回転速度NT が2速段での同期回転速度NTIから3速段での同期回転速度NTJに向けて低下し始める。
ステップ166では、このように低下し始めたタービン回転速度NT と2速段での同期回転速度NTIとの偏差(NTI−NT )が所定値ΔNB (例えば、50rpm)以上になったか否かが判別される。判別結果がNo(否定)の場合、即ち、偏差(NTI−NT )が所定値ΔNB に満たない場合には、ステップS43に戻って初期デューティ率DA1の演算を行ない、ステップ165において、結合側の第2クラッチ17に供給するデューティ率DC を初期デューティ率DA1とする。
一方、ステップ166の判別結果がYes(肯定)の場合、即ち、偏差(NTI−NT )が所定値ΔNB 以上である場合には、次にステップ167に進む。なお、この偏差(NTI−NT )が所定値ΔNB に達した時点を図10に示すように便宜上SB時点とする。ステップ167以降はフィードバック制御を実施するための準備期間である。先ず、ステップ167では、図9のフローチャートにしたがってエンジンからタービン25に伝達されるタービントルクTT の演算を実施する。
以下、図9を用いてタービントルクTT の演算について簡単に説明すると、まずステップ1671において、現在のA/N(一吸気行程当たりの吸気量)を読み込む。このA/Nは、エアフローセンサ31からの入力情報に基づいて算出される。そして、次のステップ1672において、現在のタービン回転速度NT とエンジン回転速度NE とをそれぞれ入力軸回転速度センサ12とエンジン回転速度センサ32からの入力情報に基づいて読み込む。
ステップ1673では、ステップ1671で読み込んだ現在のA/NからエンジントルクTE を算出する。このエンジントルクTE は次式(1)で示すようにA/Nの関数で表される。
TE =f(A/N)・・・(1)
なお、ここでは、エンジントルクTE を求めるためにA/Nを用いるようにしたが、A/Nの代わりにスロットルセンサ30によって検出されるスロットル開度θTHとエンジン回転速度NE 等を用い、これらの値に基づいてエンジントルクTE を求めるようにしてもよい。
次のステップ1674では、ステップS92で読み込んだ現在のタービン回転速度NT とエンジン回転速度NE とからスリップ率eを次式(2)から算出する。
e=NT /NE ・・・(2)
そして、次のステップ1675において、このスリップ率eに基づき、次式(3)からエンジントルクTE とタービントルクTT とのトルク比tを算出する。
t=f(e) ・・・(3)
最後に、ステップ1676において、トルク比tとエンジントルクTE とに基づいて次式(4)からタービントルクTT を算出する。
TT =t×TE ・・・(4)
以上のようにしてタービントルクTT を求めたら、図8のステップ168に進む。
ステップ168では、フィードバック制御開始時の基準デューティ率DA2を設定する。この基準デューティ率DA2は、実験等により決定され、予め加算手段として機能するコントローラ1に記憶されたタービントルクTT と基準デューティ率DA2との関係を示すマップ(図示せず)に基づいて設定される。このマップにより基準デューティ率DA2が設定されたら、次にステップ169に進む。
ステップ169では、基準デューティ率DA2とデューティ率学習値DALとに基づき、開始供給油圧に係るフィードバック制御デューティ率DU1を次式(5)から算出する。
DU1=DA2+DAL・・・(5)
ここに、デューティ率学習値DALはフィードバック制御開始時における基準デューティ率DA2を適正値に補正する値であって、前回の変速制御終了時に学習される値である(図4のステップS22参照)。
次のステップ170以降は、フィードバック制御を実施するステップであり、先ず、ステップ170では、結合側のデューティ率DC をフィードバック制御デューティ率DU1に設定する。次のステップ171では、現在の車速Vを車速センサ13からの入力信号に基づいて算出する。
そして、ステップ172において、目標タービン速度変化率NT′(V)を求める。この目標タービン速度変化率NT′(V)は、車速Vの一次関数で表されるものであり、この目標タービン速度変化率NT′(V)と車速Vとの関係は、変速が所定の変速時間(例えば、0.7sec)で完了すべく実験等により設定され、予めコントローラ1にマップ(図示せず)として記憶されている。従って、ここでは、このマップから現在の車速Vに対応する目標タービン速度変化率NT′(V)を読み取る。アップシフト時においては、目標タービン速度変化率NT′(V)は負の値で示され、この値は車速Vが大きくなるほど負の方向に増加し(つまり減少し)、その変化勾配が大きくなる。
次のステップ173は、変速が終了に近づいたか否かを判別するステップであり、タービン回転速度NT と変速後の3速段での同期回転速度NTJとの差(NT −NTJ)が所定値ΔNC 以下であるか否かが判別される。そして、判別結果がNo(否定)の場合には、未だ変速は終了に近づいていないと判定でき、この場合には、次にステップS69に進み、Yes(肯定)の場合には、後述するステップ174以降に進む。
ステップ176では、現在のタービン速度変化率NT′をタービン速度NT の実測値に基づき算出する。この算出方法としては、所定の時間内におけるタービン速度NT の変化量から求める。そして、ステップ177において、その現在のタービン速度変化率NT′が、ステップ172において求めた目標タービン速度変化率NT′(V)の負側の所定の許容値X1 (例えば、3REV/S2 )の範囲以下であるか否かが判別される。
ステップ177の判別結果がYes(肯定)の場合、すなわち、現在のタービン速度変化率NT′が目標タービン速度変化率NT′(V)の所定の許容値X1 の範囲以下の場合には、第2クラッチ17に供給する作動油圧が高く係合が速すぎると判定でき、このときには、次のステップ178において、フィードバック制御デューティ率DU1を所定の修正値αだけ小さくする(DU1=DU1−α)。これにより、第2クラッチ17に供給される作動油圧が減少し、現在のタービン速度変化率NT′が目標タービン速度変化率NT′(V)に近づくことになる。
一方、ステップ177の判別結果がNo(否定)、つまり現在のタービン速度変化率NT′が目標タービン速度変化率NT′(V)の負側の所定の許容値X1 の範囲より大きい場合には、次にステップS74に進む。
ステップ179では、今度は、現在のタービン速度変化率NT′が目標タービン速度変
化率NT′(V)の正側の所定の許容値X1の(例えば、3REV/S2 )の範囲以上で
あるか否かが判別される。判別結果がYes(肯定)、つまり現在のタービン速度変化率
NT′が目標タービン速度変化率NT′(V)の所定の許容値X1 の範囲以上の場合には、第2クラッチ17に供給する作動油圧が低く係合が遅いと判定でき、次のステップ180において、フィードバック制御デューティ率DU1を所定の修正値αだけ大きくする(DU1=DU1+α)。
一方、ステップ179の判別結果がNo(否定)、つまり現在のタービン速度変化率NT′が目標タービン速度変化率NT′(V)の正側の所定の許容値X1 の範囲より小さい場合には、次にステップ181に進む。
ステップ181では、ステップ177とステップ179の双方の判別結果により、現在のタービン速度変化率NT′が、負側と正側の所定の許容値X1 の範囲内にあり、目標タービン速度変化率NT′(V)にほぼ等しい値と判定できることから、フィードバック制御デューティ率DU1を修正しない(DU1=DU1)。
ステップ178、ステップ180あるいはステップ181を実行したら、ステップ170に戻り、デューティ率DC に修正したフィードバック制御デューティ率DU1を再設定する。このDU1の再設定は、ステップ173での判別結果がNo(否定)である場合、つまりタービン回転速度NT と変速後の3速段での同期回転速度NTJとの差(NT −NTJ)が所定値ΔNC より大きい値である限り繰り返し実施され、これによりフィードバックが行われる。
フィードバック制御が進行し、ステップ173の判別結果がYes(肯定)となったら、変速が終了に近づいたと判定でき、この場合には、次にステップ174に進む。尚、このタービン回転速度NT と変速後の3速段でのタービン回転速度NTJとの差(NT −NTJ)が所定値ΔNC 以下となった時点を図10に示すようにFF時点とする。
ステップ174では、結合側のデューティ率DC を所定時間tH に亘りデューティ率DE とする。このデューティ率DE は、フィードバック制御終了時点のデューティ率DU1よりも所定値ΔDE だけ高いデューティ率である。このように、変速制御の終了間際において、フィードバック制御デューティ率DU1から所定値ΔDE だけ高くしたデューティ率DU2にすることにより、所定時間tH が経過したSF時点においてデューティ率DC を100%にしたときに発生するシフトショックを低減している。
この所定時間tH が経過し変速終了時点(SF時点)となったら、最後にステップ175においてデューティ率DC を100%にする。これにより、第2クラッチ17は完全に係合することになり、一連の2−3アップシフトは終了する。
結合側制御を実行したら、図4のアップシフト制御のルーチンに戻り、ステップS17を実行する。ステップS17では、タービン回転速度NT が3速段での同期回転速度NTJに到達したか否かにより、アップシフトが終了したか否かを判別する。
判別結果がNo(否定)、つまりアップシフトが未だ終了していない場合には解放側制御及び結合側制御を継続する。一方、判別結果がYes(肯定)でアップシフトが終了したと判定された場合には、次にステップS18に進む。
ステップS18〜ステップS22は各種の学習、つまり全圧供給時間tF 、油圧解放時間tR 及びデューティ率学習値DALの学習を行うステップであり、今回の制御周期で学習された全圧供給時間tF 、油圧解放時間tR 及びデューティ率学習値DALの補正値は、次回実施される同一シフトモードのアップシフト制御に反映される。また、これらの全圧供給時間tF ,油圧解放時間tR 及びデューティ率学習値DALの学習補正に関する説明については後述する。そして、このように各学習を終えたら、一連の2−3アップシフトを終了する。
次に、ステップ164における初期デューティ率DA1設定処理について説明する。この自動変速機70のコントローラ1に記憶された変速マップ3には、上述したように通常運転時に適用される変速マップ〔図12(a)参照〕以外にも種々の変速マップが備えられており、各センサからの情報に基づいて、変速マップを適宜切り替えることができるようになっている。具体的には、通常変速時とは異なる特性のマップとして図12(b)に示すような高油温時変速マップが設けられている。なお、以下では、通常変速時マップを用いた変速を通常変速といい、また、高油温時変速マップを用いた変速を高油温時変速という。
ここで、高油温時変速マップについて説明すると、高油温時変速マップは、油温センサ14等からの情報に基づいて、コントローラ1によりATFの温度が所定値以上の高油温状態であると判定されると、通常変速時マップに代えて適用されるマップであって、図12(b)に示すように、変速機7の油圧回路11を保護する目的で、通常変速時とは異なる運転点で変速が実行されるようになっている。なお、図12(b)に示す高油温マップでは2速段から3速段への2−3アップシフト線及び3速段から2速段への3−2ダウンシフト線についてしか示していないが、図12(a)に示す通常変速時マップと同様に、他の変速段のアップシフト線及びダウンシフト線についても設定されている。
そして、このような通常変速時マップ以外のマップに基づいて変速が実行される場合やマニュアルシフトモードにより変速が実行される場合(つまり、通常変速時とは異なる運転点で変速が実行される場合)には、コントローラ1に設けられた補正量算出手段2により、結合側摩擦締結要素(2−3アップシフトの場合は第2クラッチ17)の初期デューティ率DA1(即ち、初期油圧)が補正されるようになっている。
以下、初期デューティ率DA1の補正について、図12(b)に示す高油温マップにより2速段から3速段へのアップシフトされた場合を例にして具体的に説明する。まずコントローラ1では、変速指令があると通常変速か否かを判定する。この判定は、変速に適用されているマップが、通常変速時用のマップか否かという情報及びマニュアルシフトモードか否かという情報に基づいて行なわれる。
そして、通常変速時ではない(ここでは高油温時変速)と判定すると、補正量算出手段2では、スロットルセンサ30からスロットル開度θTH及び入力軸回転速度センサ12からの情報に基づいて、タービン回転速度NT を求める。
次に、通常変速時ピストン回転速度算出手段6により、現在の変速時と同じ条件で通常変速時用マップを適用した場合のタービン回転速度(ピストン回転速度)NST、つまり、通常変速時における同一の変速種(ここでは2速段から3速段へ変速を指す)、且つ同一スロットル関度でのタービン回転速度NSTを算出する。
この場合、通常変速時ピストン回転速度算出手段6では、通常変速マップを用いて同一のスロットル開度のときに変速が実行される車速VSTをまず求め、この車速VSTに対して変速前のギヤ比を乗算することにより、タービン回転速度NSTを求めることができる。 そして、補正量算出手段2では補正量DSCを下式(6)に基づき算出するようになっている。なお、下式(6)においてβは定数である。
DSC=β(NT 2−NST 2)・・・(6)
また、コントローラ1の初期油圧基準値算出手段8には、エンジン出力トルクと初期デューティ率のベース値DA0(初期油圧基準値)との関係を規定したマップ(図示せず)が設けられており、変速実行時のエンジンの運転状態から初期デューティ率のベース値DA0が読み出されるようになっている。なお、通常変速時には、このマップから読み出される初期デューティ率のベース値DA0が初期油圧設定手段9によりそのまま初期デューティ率DA1として設定されるようになっている。
さて、初期デューティ率のベース値DA0が読み出されたあとは、初期油圧設定手段9において、下式(7)により補正された初期デューティ率DA1が設定されるようになっている。
DA1=DA0+DSC・・・(7)
そして、このようにして初期デューティ率DA1が補正されると、コントローラ1の第2油圧設定手段5により、この初期デューティ率DA1が出力され、結合側クラッチにこの初期デューティ率DA1に対応する初期油圧が供給されるようになっている。
ここで、通常運転時よりも高い車速で変速が実行される場合には、NT 2−NST 2>0であるので、初期油圧(初期デューティ率DA1)が通常変速時よりも高圧側に補正されることになる。また、通常変速時より高い車速での変速時には、遠心油圧が大きくなることに起因してシールリング48a〜48cにおける摺動抵抗が通常変速時より大きくなり、ピストン40の摺動抵抗が大きくなるが、この摺動抵抗に対応して初期油圧が高圧側に補正されるので、ピストン40のストローク速度が通常変速時と同様なものとなり、結合が遅れてエンジンの回転が吹き上がるような事態を確実に回避することができる。
また、通常運転時よりも低い車速で変速が実行される場合には、NT 2−NST 2<0であるので、初期油圧(初期デューティ率DA1)が通常変速時よりも低圧側に補正される。また、通常変速時より低い車速での変速時には、シールリング48a〜48cの摺動抵抗が小さくピストン40の摺動抵抗が通常変速時より小さくなるが、この摺動抵抗に対応して初期油圧が低圧側に補正されるので、ピストン40のストローク速度が通常変速時よりも速くなり、その結果作動タイミングが早すぎてインターロックやインターロックに起因する変速ショックが生じるといった事態を確実に回避することができる。
本発明の一実施形態に係る自動変速機の制御装置は上述のように構成されているので、その要部の作用を図11のフローチャートを用いて説明すると以下のようになる。まず、ステップS101において、エアフローセンサ31により検出された吸気量情報に基づいてエンジン1行程当たりの吸気量(A/N)を求める。次に、ステップS102において、ステップS101で求めたA/Nからエンジン出力トルクTE を算出する。なお、このようなエンジン出力トルクTE は主にA/Nをパラメータした関数として予めコントローラ1内に記憶されている。
次に、ステップS104で、エンジン出力トルクTE に基づいて初期デューティ率のベース値DA0を求める。なお、コントローラ1内には、実験等により予め記憶されたエンジン出力トルクと初期デューティ率のベース値DA0との関係を示すマップ(図示せず)が設けられており、このマップから初期デューティ率のベース値DA0が設定される。
その後、ステップS106において、現在通常変速時であるか通常変速時以外の変速時であるか判定し、通常変速時であればステップS118において初期デューティ率DA1=DA0として初期デューティ率を設定しリターンする。
一方、通常変速時以外の変速時(ここでは高油温時変速)であれば、ステップS108でスロットル開度θTHを求めるとともに、ステップS110でタービンの回転速度NT (ピストン回転速度)を検出する。また、ステップS112において、通常変速時におけるスロットル開度θTHでのシフト線図上のタービンの回転速度NSTを算出する。
そして、ステップS114において、補正量DSCが式(6)により算出され、ステップS116で、初期デューティ率DA1=DA0+DSCとして設定される。
なお、ステップS40〜S44が初期油圧設定手段に相当し、ステップS101〜S104が初期油圧基準値算出手段に相当し、ステップS112が補正量に相当し、ステップS40が第1油圧設定手段に相当し、ステップS43,S44が第2油圧設定手段に相当する。したがって、本実施形態に係る自動変速機の制御装置によれば、自動変速機70が通常変速時とは異なる車速で変速する場合でも、適切なタイミングで締結動作を行うことができ、変速ショックやエンジン回転の吹き上がりを確実に防止することができる。
さらに、通常変速時の変速マップとは異なる変速マップに基づく変速やマニュアルモードによる運転者のシフト操作に基づく変速であっても、初期油圧を補正するので、通常変速時とは異なる変速に対応した初期油圧自体をデータとして保持することが不要になる。したがって、メモリ容量の節約や初期油圧のチューニングの容易化を図ることができる。また、変速機個体間のバラツキによるインターロックやエンジン回転の吹き上がりを防止することができる。つまり、高圧の油圧設定時(SS点〜IF点:デューティ率DC=100%)にはピストン40の動作は速いが、シールリング48a〜48cへの遠心油圧の影響度は変速機間でバラツキが考えられるため、高圧の油圧に設定するときの初期油圧基準値を補正すると、変速機によっては以下のような不都合が生じる可能性がある。
すなわち、初期油圧基準値の補正が過大であると、摩擦締結要素がトルク容量を持ってしまうとインターロックが発生しショックが生じ、また、初期油圧基準値の補正が過小であると、解放側の摩擦締結要素の解放に対して締結側の摩擦締結要素の締結が遅れてしまい、エンジン回転の吹き上がりが生じる。
これに対して、本実施形態においては、補正量算出手段2は、高圧の油圧設定後の低圧の油圧に設定するときの初期油圧基準値(初期デューティ率のベース値DA0)を補正しているので、変速機個体間のバラツキによるインターロックやエンジン回転の吹き上がりを防止することができる。
また、通常変速時よりも高い車速で前記所定の変速段へ変速する場合、すなわち通常変速時と同じスロットル開度かつ高い車速側で変速する場合の初期油圧基準値を通常変速時より高圧になるよう補正しているので、ピストン40の摺動抵抗の変化に応じた初期油圧を供給することにより、ピストン40を押す力が不足して第2クラッチ17の締結タイミングが遅れるような事態を回避して、エンジン回転の吹き上がりを防止することができる。
また、通常変速時よりも低い車速で所定の変速段へ変速する場合、すなわち通常変速時と同じスロットル開度かつ低い車連側で変速する場合は、初期油圧を通常変速時より低圧になるよう補正しているので、ピストン40の摺動抵抗の変化に応じた初期油圧を供給することにより、ピストンを押す力が過大となってクラッチ35の締結タイミングが早すぎるような事態を回避して、変速ショックを防止することができる。
次に、全圧供給時間tFについて説明する。先ず、図13のステップS50において、全圧供給時間tF の学習を実行しても良い条件が成立しているか否かを判別する。尚、通常変速時においては学習を許可するものの、通常変速時とは異なる運転点で所定の目標変速段へ変速するときは、学習を禁止するものとする。また、学習を実行するためには、作動油温TOIL 、車速V、スロットル弁開度θおよびエンジン負荷(一吸気行程当たりの吸気量A/N等によって表される)がそれぞれ所定の範囲内にあり、出力トルク等が安定している必要がある。判別結果がNo(否定)で学習条件が満たされていない場合には、出力トルク等が未だ安定していないと判定でき、全圧供給時間tF の学習を実行しない。一方、判別結果がYes(肯定)で学習条件成立の場合には、次にステップS52に進む。
ステップS52は、今回のアップシフト変速制御で油圧再供給が実施されたか否かを、前述したフラグf(BB)が値1であるか否かで判別するステップである。ここで、判別結果がYes(肯定)で再結合制御による油圧再供給が実施された場合には、後述するステップS60以降を実行することにより、全圧供給時間tF を油圧再供給が実行されなくなるように補正する一方、制御開始直後のように判別結果がNo(否定)となり今回のアップシフト変速制御で油圧再供給が実行されていなければ、次にステップS54以降を実行する。
ステップS54は、油圧再供給が実行されなかった回数をカウントする油圧再供給無カウンタINが、ゼロ(IN=0)であるか否かを判別するステップである。カウンタ値INがIN=0である場合とは、バッテリ電源を初めてオン状態(不揮発性RAMの記憶値を初期値にリセットした状態)にした制御開始直後の場合である。この初期状態のときに油圧再供給が実行されず、先のステップS52でNo(否定)と判定された場合のみ、該ステップS54の判別結果はYes(肯定)となる。通常制御開始直後には油圧再供給は実行されないことが多く、この場合には、ステップS54の判別結果はYes(肯定)となり、次にステップS70に進み、第2クラッチ17のピストンのガタ詰めピストンストロークの補正量ΔSCTに所定の補正値LTFB を設定する。この補正値LTFB は、油圧再供給が実行され易くなるように負の値に設定してある(ΔSCT=LTFB <0)。そして、ステップS79において、次式(A1)によって算出される全圧供給時間補正量ΔtF だけ、全圧供給時間tF を次式(A2)によって補正し、油圧再供給が実施されるようにする。この式において、Kはストローク補正量ΔSCTを補正時間に換算する比例定数である。
ΔtF =K×ΔSCT/(デューティ率100%)…(A1)
tF =(tF )n +ΔtF …(A2)
ここで、(tF )n は、前回2−3アップシフトにおいて学習されて今回のアップシフトで使用された全圧供給時間を示す。このステップS70での補正は、先のステップS52の判別結果がNo(否定)でフラグf(BB)が値1にならない限り、すなわち再結合制御による油圧再供給が少なくとも一回実行されるまで繰り返されることになる。
ステップS70の補正によって、一旦再結合制御が実行されると、次の制御周期で同ステップを実行したときには、その判別結果はYes(肯定)となりステップS60以降を実行することになる。ステップS60では、先ず、カウンタINを値1に設定する(IN=1)。このカウンタ値は、一旦値1に設定されるとバッテリ電源が外されることがない限り、再び値0にリセットされることはなく、再結合制御が実行される毎に値1にリセットされることになる。
ステップS62以降は、油圧再供給の実施を抑制するように第2クラッチ17のガタ詰めピストンストローク量SCTを学習補正するステップであり、ステップS62において、今回2−3アップシフトでのピストンストローク量(SCT)nを測定した今回の全圧供給時間(tF ) N と駆動デューティ率とに基づいて式(A3)により算出し、次に、ステップS64で、前回2−3アップシフトでのピストンストローク量(SCT)n-1 を前回使用した全圧供給時間(tF ) n-1 と駆動デューティ率とに基づいて式(A4)により同様に算出する。
(SCT)n =K×デューティ率×(tF ) N …(A3)
(SCT)n-1 =K×デューティ率×(tF ) n-1 …(A4)
ここに、Kは前述の式(A1)で用いた比例定数と同じ値が用いられる。そして、ステップS66で、これらの値の差を求めることによりストローク補正量ΔSCTn (ΔSCTn >0)を設定する。
ΔSCTn =(SCT)n-1 −(SCT)n …(A5)
ステップS68においては、この差ΔSCTn を次式(A6)に基づいてΔSCTを補正する。
ΔSCT=C1×ΔSCTn …(A6)
ここに、C1は補正定数(0<C1<1)であり、実験等により良好な結果が得られる値、例えば0.5に設定される。
次いで、前述したステップS79に進み、ストローク補正量ΔSCTn に対応する全圧供給時間補正量ΔtF を前式(A1、A2)により改めて算出し、全圧供給時間tF を補正する。ここで、測定した全圧供給時間(tF ) N および前回使用した全圧供給時間(tF ) n-1 を一旦ピストンストローク量(SCT)n および(SCT)n-1 に換算して補正量ΔSCTを求め、改めて全圧供給時間補正量ΔtF を求めるようにしたが、これはステップS68の補正後の全圧供給時間補正量ΔtFが必ずしも全圧供給時間tF の測定値の差だけによって求めた値ΔtF ' ((tF ) n-1 −(tF ) N )と一致しないことによるものである。
このようにして、全圧供給時間tF を補正することにより、次回アップシフト時には、油圧再供給が発生し難くなることを期待できる。そして、実際に次回2−3アップシフト時において、油圧再供給が発生せず、先のステップS52の判別結果がNo(否定)となりフラグf(BB)が値1でない場合には(f(BB)=0)、前述したステップS54に進む。今回は、前回ステップS60において油圧再供給無カウンタINを値1に設定しているため、ステップS54の判別結果はNo(否定)となり、次にステップS56に進む。
全圧供給時間tF 学習を終了したら、次に図4のステップS20において油圧解放時間tR 学習(他の学習手段)を実行する。この学習では、図14の油圧解放時間tR 学習サブルーチンを全圧供給時間tF 学習と同様にアップシフト毎に実行する。この学習は、解放側の第1ブレーキ22の油圧解放開始タイミングから油圧再供給実施タイミングまでの油圧解放時間tR を、全圧供給時間tF と照らしながら、補正しようというものである。これは、すなわち、SS発生時から油圧解放開始時点までの時間tc を補正することである。SSから油圧解放開始までの時間tc と油圧解放時間tR 、全圧供給時間tF との関係式は、tF >tR の場合には、次式(1) のようになる。
tc =tF −tR (tF >tR )…(1)
一方、tF ≦tR の場合には、第2ブレーキ23の油圧の解放をSSが発生したと同時に開始する必要があり、次式(2) により時間tc を値0に設定する。
tc =0 (tF ≦tR ) …(2)
この油圧解放時間tR の学習補正は、油圧再供給が実施された後、全圧供給時間tF の学習が進行して時間tF が適正値になるまでの間は、第2ブレーキ23からの油圧解放開始タイミングが最適な値となるように、前回2−3アップシフトにおいて学習補正され、今回アップシフトで使用された油圧解放時間(tR )n を用いて油圧解放時間tR を学習補正する。
その後、油圧再供給が実施されなくなれば、そのときの全圧供給時間tF および油圧解放時間tR が最適値であるということになるから、全圧供給時間tF の学習中止に合わせて油圧解放時間tR もその学習を一旦中止する。
さらに全圧供給時間tF の学習が再開されれば、油圧解放時間tR も学習を再開する。油圧解放時間tR の学習では、先ず、図14のステップS80において、通常変速時においては学習を許可してステップS81に進み、通常変速時とは異なる運転点で所定の目標変速段へ変速するときは、学習を禁止する。
次に、ステップS81において、今回アップシフト変速制御において油圧再供給が実施されたか否かをフラグf(BB)が値1であるか否かで判別する。油圧再供給が実施されていない場合には、ステップS81の判別結果はNo(否定)となり、次にステップS82に進む。一方、判別結果がYes(肯定)で油圧再供給が実施された場合には、全圧供給時間tF の補正学習を実行する必要があるが、油圧解放時間tR も学習を実行すべくステップS90に進む。これにより、油圧解放時間tR の補正学習を開始する。
ステップS90では、今回のアップシフト制御時の油圧解放時間を演算し、これを今回油圧解放時間tRCとして記憶する。今回油圧解放時間tRCの演算は、今回制御時の油圧解放時点から油圧再供給実施時点間の時間を読み出すことによって行うことができる。次にステップS92において、前回アップシフト時に使用した油圧解放時間(tR )n-1 を記憶装置から読み出し、ステップS94において、今回油圧解放時間tRCと前回油圧解放時間(tR )n-1 との差ΔtRCを求める(ΔtRC=tRC−(tR )n-1 )。そして、ステップS96において、この差ΔtRCから次式(4) に基づいて補正値ΔtR を求める。
ΔtR =C2×ΔtRC…(4)
ここに、C2は補正定数であり、実験等により良好な結果が得られる値、例えば0.5に設定される。このように設定された補正値ΔtR に基づいて、油圧解放時間tR は、ステップS88において補正される。ここでは、油圧解放時間tR は、今回使用された(tR )n と上述した補正値ΔtR とから次式(5) の通り演算される。
tR =(tR )n +ΔtR …(5)
尚、nが1、つまり今回初めてtR の学習が行われる場合には(tR )n-1 は(tR )0 となり、予め記憶装置に記憶された基準値が用いられる。全圧供給時間tF の学習が進み、油圧再供給が実施されることなく今回の2−3アップシフトが終了すると、フラグf(BB)は値1ではなくなり(f(BB)=0)、ステップS81の判別結果はNo(否定)となるため、次にステップS82を実行する。ステップS82は、全圧供給時間tF がゼロ(tF =0)であるか否かを判別するステップであるが、再結合制御による油圧再供給がなく、且つこの全圧供給時間tF がゼロとなるというような場合は通常は起こらないため、殆どの場合は、判別結果がNo(否定)となる。しかし、異常等の何らかの原因により第2クラッチ17が、ガタ詰め操作なしに結合を開始したときには、結合側と解放側の両方の摩擦係合要素が同時に結合された、所謂インタロック状態となることが考えられるため、これを防止すべくこのような判別ステップを設けるようにしている。
判別結果がYes(肯定)となるような場合には、次にステップS86に進む。ステップS86では、油圧解放時間tR の補正値ΔtR をある程度大きな所定の正の補正値XTR(例えば、24ms)に設定する。そして、ステップS88において、油圧解放時間tR を所定の補正値XTRだけ補正する。このようにすれば、解放側の油圧解放開始タイミングを早くすることができるため、第2クラッチ17のガタ詰め操作が実施されない場合でもインタロック状態とならず、変速ショックを防止できる。また、この間に、ガタ詰め操作が正常に実施されるようになり、全圧供給時間tF が発生することも期待できる。
ステップS82の判別結果がNo(否定)で全圧供給時間tF がゼロではない場合には、次にステップS84に進む。ステップS84は補正値ΔtR を設定するステップであるが、この場合には、ステップS81の判別結果がNo(否定)でありフラグf(BB)は値1ではないことから、全圧供給時間tF が安定していると判定でき、補正値ΔtR を値0に設定する。これにより、第2ブレーキ23からの油圧解放開始タイミングと第2クラッチ17の結合開始タイミングとの関係は良好に保持される。
最後に、図4のフローチャートに戻り、ステップS21において、再結合制御の実施毎に値1に設定されるフラグf(BB)を値0にリセットし(f(BB)=0)、一連の2−3アップシフト制御の実行を終了する。以上のように、全圧供給時間tF 学習ルーチンおよび油圧解放時間tR 学習ルーチンを、2−3アップシフト変速制御が実施される毎に実行するようにし、ガタ詰め時間tF を、再結合制御が実施されるか否かの微妙な値に安定させ、暫時これを保持し、所定の周期で今度は再結合制御を強制的に発生させるように全圧供給時間tF を僅かに変化させ、再び全圧供給時間tF の学習を行わせることにより、シフトショックの発生を少なくし、変速フィーリングを向上させることができる。
尚、上記実施例の全圧供給時間tF 学習においては、第2クラッチ17のガタ詰めピストンストローク量SCTは、全圧供給時間tF の測定値とデューティ率とに基づいて求めるようにしたが、ガタ詰めピストンストローク量SCTをセンサ等によって直接求めるようにしても良い。さらに、上記実施例では、アップシフト時の制御について説明したが、ダウンシフト時の制御に適用させても良い。
(実施例1の発明に係る要部について)
次に、本発明の要部について説明する。尚、課題が理解しやすいように、先ず遠心油圧の影響により摺動抵抗が増大して、ピストンストローク速度が遅くなる場合について説明する。図15は実施例1の結合側摩擦締結要素に供給される油圧を制御する結合側ソレノイドのデューティ率を表すタイムチャートである。実施例1では、通常変速時の変速とは異なる運転点で変速判断がなされた場合、遠心油圧の影響を考慮して、第2油圧設定手段5において設定されるデューティ率を補正している。具体的には、初期デューティ率DA1は、初期油圧基準値DA0とタービン回転速度差に応じた補正量DSCにより設定される。この補正により、ピストンストローク速度を通常変速時と同様のもとのしながら結合側のガタ詰めを完了させることで、エンジン側の吹け上がりを抑制するものである。
しかしながら、それでもなおエンジン回転数が吹け上がる虞があった。以下、その理由について説明する。本来、上述したように、第2油圧設定手段5において設定されるデューティ率の補正に加えて、第1油圧設定手段5において設定される全圧供給区間についても補正すれば、より結合側のガタ詰めを完了する確実性が向上する。しかしながら、この全圧供給区間を補正するには、デューティ率が100%に設定されているため、これ以上のデューティ率を設定することができない。よって、全圧供給時間を長くする以外に方法がない。このとき、個体バラツキ等で補正量が過大となった場合、デューティ率100%の状態でガタ詰めが完了すると大きなショックが発生する可能性がある。
また、ガタ詰め制御区間のピストンストローク遅れを上記第2油圧設定手段5によってのみ補正するようにすると、過剰な補正量を与える虞がある。そもそも、第2油圧設定手段5は低圧によって締結ショックを緩和する役割を果たしているにもかかわらず、第2油圧設定手段5による油圧が高まると、変速開始時のショックが悪化する虞がある。すなわち、ショックの発生を抑制しながら第2油圧設定手段5のみ補正することで係合の遅れを解消しようとしても限界があった。
そこで、実施例1では、結合側の全圧供給開始タイミングを、タービン回転速度の2乗の差に基づいて補正することで、全圧供給時間tFを変更することなく、エンジンの吹き上がりを抑制することとした。言い換えると、遠心油圧の影響により、通常変速時の学習補正により設定された全圧供給時間tFによってピストンをストロークさせた際、通常変速時よりもストローク量が不足している。この不足しているストローク量に必要なエネルギを、低圧供給期間において、補正されたデューティ率DA1によって確保可能な時間がΔtCとして設定されることとなる。
図16は実施例1のアップシフト変速時における全圧供給タイミングを補正した際のタイムチャートである。ここで、目標とするガタ詰め完了位置は、解放側において再結合制御の開始タイミング(すなわちスリップを開始するタイミング)と一致する位置である。図16中、実線が通常変速時の変化を表し、通常変速時にガタ詰め時間T' >油圧解放時間tRの関係にある例を示す。また、点線が通常変速時よりも高回転側での変速時の変化を表し、太い点線が通常変速時よりも低回転側での変速時の変化を表す。
上記図4のフローチャートにおいて説明したように、ステップS13においてガタ詰め時間算出処理が実行される。このガタ詰め時間算出処理は、上記図13のフローチャートにおいて説明したように、学習補正された全圧供給時間tFに基づいて算出される。
具体的には、上述したように、ステップ132に示す関係式に基づいてガタ詰め時間の補正量ΔtCを下記式より算出する。
ΔtC=γ(NT 2−NTst 2)/VaDA
ただし、
γ:定数
Nt:今回変速判断タービン回転数
Ntst:通常変速時における、同一変速種及び同一スロットル開度での変速判断タービン回転数
VaDA:DA1圧でのピストンストローク速度
である。
ここで、ガタ詰め時間補正量ΔtCは、ステップ164において補正されれば、通常変速時と同じピストンストローク速度を確保できると考えられる。そこで、ガタ詰め時間の補正量を算出する際には、全圧供給区間において確保しなければならないストローク量を目標ストローク量STtF *とし、全圧供給区間において全圧供給時間tFを変更することなく確保できるストローク量を実ストローク量STtFとすると、STtF=ξ×tF×DC(100%)によって表され、目標ストローク量STtF *と実ストローク量STtFとの偏差をデューティ率DA1によりストロークさせたときの時間が補正すべきガタ詰め補正時間ΔtCとなる。よって、上記定数γは、上記関係を満たすように、タービン回転速度の2乗の差に基づいて設定される。
ガタ詰め時間補正量ΔtCが算出されると、この値に基づいてガタ詰め時間T' が算出される。ガタ詰め時間T' は、デューティ率DA1(ステップ165における補正前)の通常変速時のストローク速度により算出される低圧供給時間tCと、前回の通常変速時に学習された全圧供給時間tFと、ガタ詰め時間補正量ΔtCの和によって表される。このガタ詰め時間T' によって、スリップ開始点(再結合制御開始点)よりもT' 前から全圧供給が開始される。
すなわち、図16の点線で示すように、解放側摩擦締結要素では、解放タイミングを表すtSがΔtC分だけ長く設定されることとなり、結合側摩擦締結要素では、低圧供給時間tCがガタ詰め時間補正量ΔtC分だけ長くなる。これにより、低圧供給時間を確保することで、全圧供給区間のストローク量不足を低圧供給区間の拡大により補うことができる。よって、全圧供給時間tFの長さを変えることなく、全圧供給時間不足によるストローク量不足を解消することが可能となり、製品バラツキや経時劣化によってストローク量が変化したとしても、締結ショックを発生することなくエンジンの吹け上がりを抑制することができる。
図17は、ピストンストローク量を表すタイムチャートである。図17中、(i)実線が通常変速時におけるガタ詰め時間T' とストローク量の関係を表し、(ii)太い点線は通常変速時から高回転側に回転数のズレの有る変速時において全く補正を行わなかった場合のガタ詰め時間T' とストローク量の関係を表し、(iii)一点鎖線は通常変速時から高回転側に回転数のズレの有る変速時において初期デューティ率DA1のみを補正した場合のガタ詰め時間T' とストローク量の関係を表し、(iv)点線は通常変速時から高回転側に回転数のズレの有る変速時において本実施例1の初期デューティ率DA1の補正に加えてガタ詰め時間補正量ΔtCにより補正した場合のガタ詰め時間T' とストローク量の関係を表す図である。
以下、それぞれの特性について(i)〜(iv)の符号を付して説明する。また、必要な全ストローク量をScと定義し、低圧供給区間によりストロークさせるストローク量をScmと定義する。また、上記(iv)については、他の例と比較しやすいように全圧供給開始タイミングを早いタイミング側にオフセットして表示しているが、全圧供給開始タイミングが他の例と同じ場合は、単に、ガタ詰め終了点が後ろにずれることを表す。
(i)通常変速時では、全圧供給区間において所定のストローク量(Sc-Scm)が確保され、その後、低圧供給区間においてストローク量Scmが確保されるため、ガタ詰めが適正に完了する。
(ii)太い点線に示す一切補正しなかった場合について説明する。全く補正がなされないと、通常変速時と異なる回転速度によって発生する遠心油圧によるストローク速度の低下を補償できない。よって、全圧供給区間におけるストローク量が不足(傾きが小さく(Sc-Scm)が確保できない)し、また、低圧供給区間におけるストローク量も不足(傾きが小さく(Scm)が確保できない)となる。よって、ガタ詰め時間T' 経過後、ガタ詰めが完了せず、エンジンの吹け上がりを招く虞がある。
(iii)一点鎖線に示す初期デューティ率DA1のみ補正した場合について説明すると、全圧供給区間におけるストローク量の不足については補正していないため、全圧供給区間におけるストローク量は上記(ii)と同じ位置となる。この位置から遠心油圧によるストローク速度の低下を補償すると、上記(i)と同じ傾きが得られ、低圧供給区間におけるストローク量の不足分は補償されるものの、全圧供給区間において不足しているストローク量が確保できず、ガタ詰め時間T' 経過後、ガタ詰めが適正に完了していない。
(iv)点線に示す本実施例1の初期デューティ率DA1の補正に加えてガタ詰め時間補正量ΔtCにより補正した場合について説明すると、全圧供給区間におけるストローク量の不足については補正していないため、(ii),(iii)と同様に不足しているものの、(ii),(iii)よりもΔtC手前で終了している。この時点から補正されたデューティ率DA1によりストロークさせると、上記(iii)と同じ傾きを得られると共に、全圧供給区間で不足していたストローク量を確保することができ、ガタ詰め時間T' 経過後、ガタ詰めを適正に完了することができる。
(遠心油圧の影響により摺動抵抗が低下し、ガタ詰め時間を短く補正する場合)
上述したように、通常変速時よりも高い回転数において変速判断がなされた場合には、遠心油圧の影響による摺動抵抗の増加を考慮して、ガタ詰め時間T' を長く補正する。これに対し、通常変速時よりも低い回転数において変速指令が出力された場合には、遠心油圧は低く通常変速時より摺動抵抗が低下していると考えられ、図16の太い点線で示すように、ガタ詰め時間T' はΔtCだけ短く補正されることとなる。通常変速時においては、T' >tRとなるように設定されており、解放側摩擦締結要素においては、SS点から解放タイミングを表す所定時間tS(=T' −tR)経過後にデューティ率DRを0%に設定している。ここで、ガタ詰め時間が短く補正されると、T' が小さくなり、T' <tRとなる場合が存在する。このときは、SS点において、まずデューティ率DRを0%に設定する(上述のステップ140→ステップ141に相当)。更に、解放側の締結容量が適正値まで下がるタイミングと、結合側の締結容量が適正値まで上昇するタイミングを揃える目的から、結合側の全圧供給タイミングを(tR-T' )だけ遅らせる(上述のステップ161→ステップ162に相当)。
これにより、解放側摩擦締結要素の解放時間tRが結合側摩擦締結要素のガタ詰め時間T' よりも長い場合であっても、再結合制御の開始タイミングを揃えることが可能となり、通常変速時よりも低回転領域において変速判断がなされたとしても、変速ショックを緩和することができる。
尚、上記補正処理は、通常変速時とは異なる運転点で所定の目標変速段へ変速するときに行われるものであり、図13のフローチャートに示す全圧供給時間学習制御処理や、図14のフローチャートに示す油圧解放時間学習制御処理において、学習を実行すべきではない。そこで、ステップS50の学習条件と、ステップS80の学習条件において、通常変速時とは異なる運転点での変速の場合は、学習制御を禁止することとした。これにより、特殊な変速による学習によって通常変速時の変速制御に影響が出ること回避することができる。
以上説明したように、実施例1の自動変速機の制御装置にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)所定の目標変速段への変速時に結合される結合側摩擦締結要素のピストンの回転速度を検出する入力軸回転速度センサ12(ピストン回転速度検出手段)と、自動変速機が変速マップに基づいて変速を行う通常変速時とは異なる運転点で前記所定の目標変速段へ変速するとき、通常時における同一の変速種、かつ、同一のスロットル開度またはこれに対応するパラメータ値でのピストン回転速度を算出する通常変速時ピストン回転速度算出手段6と、前記通常変速時とは異なる運転点で前記所定の目標変速段へ変速するときには、前記通常変速時ピストン回転速度算出手段6により算出された前記ピストンの回転速度と、入力軸回転速度センサ12により検出された前記ピストンの回転速度との2乗の差に基づいて、ガタ詰め時間T' (第2時間)を補正する時間補正手段7を設け、解放時間tR(第1時間)と補正されたガタ詰め時間T' (第2時間)とに基づいて、相互関係を決定することとした。
よって、変速マップに基づいて行われる通常変速時とは異なる運転点で変速が行われても、ピストンの回転数の2乗に基づいてガタ詰め時間T' が補正されるため、狙い通りのタイミングで解放側スリップと結合側のピストンストローク完了とが行われることになり、メモリ容量の増大やチューニングなどが煩雑になることなく、運転点変更に伴うピストンストローク速度の変化によるエンジンの吹き上がりや変速ショック(インターロック等を含む)を防止することができる。
(2)結合側摩擦締結要素に対して、初期油圧を結合開始時に所定の全圧供給時間tFだけ模擬的に高圧の油圧に設定してピストンのストロークを促進する第1油圧設定手段4と、tF時間の経過後、前記高圧の油圧よりも低圧の油圧に設定する第2油圧設定手段5とを有し、時間補正手段7は、第2油圧設定手段5におけるデューティ率DA1(通常変速時における低圧の油圧)でのピストンのストローク速度に基づいてガタ詰め時間T' (第2時間)を補正することとした。
言い換えると、遠心油圧の影響による摺動抵抗の変化により、通常変速時の全圧供給時間tFによってピストンをストロークさせた際、通常変速時よりもストローク量が不足している。この不足しているストローク量に必要なエネルギを、低圧供給区間において、補正されたデューティ率DA1によって確保可能な時間分をΔtCとして補正することとした。これにより、全圧供給時間tFの長さを変えることなく、全圧供給時間不足によるストローク量不足を解消することが可能となり、変速時間の増大を最小限に抑制しつつ、また、高油圧で締結することに夜締結ショックを発生することなく、エンジンの吹け上がりを抑制することができる。
(3)通常変速時とは異なる運転点で所定の目標変速段へ変速するときには、前記通常変速時ピストン回転速度算出手段により算出された前記ピストンの回転速度と、前記ピストン回転速度検出手段により検出された前記ピストンの回転速度との2乗に基づいて、前記定圧の油圧を前記通常変速時に対して補正する補正量算出手段2(油圧補正手段)を備え、該補正量算出手段2は、通常変速時よりも高い車速で所定の変速段へ変速する場合は、低圧の油圧である初期デューティ率DA1が通常変速時の油圧に対して高圧となるように補正し、通常変速時よりも低い車速で所定の変速段へ変速する場合は、低圧の油圧である初期デューティ率DA1が通常変速時の油圧に対して低圧となるよう補正することとした。
よって、摺動抵抗の変化に応じて初期デューティ率DA1を補正することにより、通常変速時と同様のピストンのストローク速度を確保することができ、変速時間が間延びすることなく適切なタイミングで解放及び締結の開始を行うことができる。また、低圧供給時間tCを算出する際に、通常変速時のピストンストローク速度を用いて算出することが可能となり、新たなデータを設定する必要が無く、データ容量の増加を抑制できる。
(4)時間補正手段7は、通常変速時よりも高い車速で前記所定の変速段へ変速するときは、ガタ詰め時間T' (第2時間)を通常変速時より長い時間となるように補正することとした。
よって、通常変速時よりも高車速で変速が行われてピストンの摺動抵抗が通常変速時よりも増大しても、ガタ詰め時間T' を長い時間となるように補正することで、適切なタイミングで解放及び締結の開始を行うことができ、エンジンの吹け上がりやインターロックを好適に防止することができる。
(5)時間補正手段7は、通常変速時よりも低い車速で前記所定の変速段へ変速するときは、ガタ詰め時間T' (第2時間)を通常変速時より短い時間となるように補正することとした。
よって、通常変速時よりも低車速で変速が行われてピストンの摺動抵抗が通常変速時より低下しても、ガタ詰め時間T' を短い時間となるように補正することで、適切なタイミングで解放及び締結の開始を行うことができ、エンジンの吹け上がりやインターロックを好適に防止することができる。
なお、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記の実施例においては、2−3アップシフト時に締結される摩擦締結要素(第2クラッチ17)は入力軸(タービンシャフト10)と一体に回転しているので、ピストンの回転速度として入力軸回転速度を用いているが、自動変速機70のトルクコンバータがロックアップ状態であればエンジン回転速度からピストンの回転速度を求めてもよく、また、締結される摩擦締結要素が入力軸以外の回転メンバに連結して一体回転するものであれば、該回転メンバの回転速度を検出又は算出し、ピストンの回転速度を求めるようにしても良い。
また、上述した実施例においては、通常変速以外の変速の一例として、通常変速時マップよりも高い車速で変速するような変速(高油温時変速マップを用いた変速)について説明したが、通常変速時マップよりも低い車速で変速するような変速に適用してもよく、また、マニュアルシフトによる変速時に本発明を適用してもよい。
また、上述した実施例ではプリチャージを実行する場合の変速に本発明を適用した場合について説明したが、このようなプリチャージを実行しないような自動変速機に本発明を適用してもよい。
また、上述した実施例では、図8(c)に示すIF点〜BS点のtC 時間に設定さ
れる低圧の油圧に設定される初期油圧基準値を補正しているが、SS点〜BS点までのtF +tC 時間に設定される初期油圧基準値に対して補正を施すようにしても良い。
また、上述した実施例では、エンジン出力をエアフローセンサ31で得られるA/Nから求めているが、例えばスロットル開度とエンジン回転速度とを用いてエンジン出力トルクを求めてもよいし、他のエンジン出力トルクと相関のあるパラメータから求めても良い。
また、上述した実施例では、初期デューティ率DA1は、タービン回転速度NT と2速段(変速前の変速段)での同期回転速度NTIとの偏差(NTI−NT )が所定値ΔNB 以上となるまで保持する例について説明したが、これに限定されるものではなく、初期デューティ率DA1を所定の勾配にて増圧するものでも良いし、所定時間だけ保持するようなものでもよい。
また、上述した実施例では、通常変速時の初期デューティ率のベース値DA0は、予めコントローラ1に記憶されたエンジン出力トルクTE と初期デューティ率のベース値DA0との関係を示すマップに基づいて設定される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば変速機入力トルクやスロットル開度などのパラメータに基づき算出又は設定されるようにしてもよい。
また、上述の実施例では、スロットル開度及び車速により決定される運転点に基づき目標変速段を決定するように構成されているが、スロットル開度の代わりに例えばアクセル開度を用いても良いし、車速の代わりに他のパラメータを用いても良い。また、通常変速時ピストン回転速度算出手段6は、自動変速機70が通常変速時とは異なる運転点で変速するとき、通常変速時における同一の変速種且つ同一のスロットル開度でのピストン回転速度を算出するようにしているが、スロットル開度に代えてアクセル開度を用いてもよい。