JP4663249B2 - 鉄心用電磁鋼板 - Google Patents

Description

本発明は騒音を抑制した鉄心等の電気機器に用いる電磁鋼板に関する。

変圧器や回転機などの鉄心は、電磁鋼板を所定の形状に切り出して積層、または所定の巾にスリットし、渦巻状に巻くことで製造される。鉄心には、省エネルギーのための高効率化に加えて、低騒音に対する要求が大きい。特に変圧器等の大型の鉄心では、磁化に伴う磁歪による騒音が課題とされており、例えば特許文献１には素材の電磁鋼板の磁歪を低減する方法が開示されている。

また、鉄心の構造による騒音低減法として、特許文献２では、あらかじめ溝を形成した電磁鋼板を積層後、接着性の樹脂を流し込むことで騒音を低減した鉄心の製造法が提案されている。

特開平１１−８７１２２号公報 特開２００３−７７７４７号公報

本発明者らは、前記特許文献２に開示された技術について調査した結果、電磁鋼板の溝の形態によって騒音特性が大きく異なることを見出し、鉄損等の特性への影響を限定しつつ騒音を低減するための溝形状について検討し、最適な溝形状を持つ騒音抑制積層鉄心用電磁鋼板を提供するものである。

本発明は上記知見に基づきなされたもので、以下の構成からなる。
（１） 片面もしくは両面の面上に端部まで通じる溝を有する鋼板で、溝のない面同士が重ならないように積層した後、前記溝に樹脂を浸透させることによる鉄心の製造に用いる電磁鋼板において、前記溝間隔が２〜１５ｍｍであり、前記溝の形成角度が、鋼板の磁化方向に対して８５°以下であり、前記電磁鋼板を積層したときに溝を中心に形成される隙間の最大深さが５μｍ以上で鋼板の板厚の１５％以下であり、最大幅が溝間隔の０．０７０〜０．５０倍であることを特徴とする鉄心用電磁鋼板。

本発明の電磁鋼板を用いて鉄心を製造し、樹脂を含浸させることで、磁歪による騒音を低減させることができる。

以下に本発明について詳細に説明する。

本発明に用いる電磁鋼板は、公知の方向性電磁鋼板もしくは無方向性電磁鋼板の片面もしくは両面に、端部まで通じる溝を有するものである。これら電磁鋼板の板厚は一般に０．１５〜０．５０ｍｍである。この電磁鋼板を所定の形状に切り出し、もしくは打ち抜いて積層した後、端部に開口した上記溝を中心に形成される隙間に樹脂を浸透させて、鉄心を製造する。

本発明者らはこの隙間の大きさと、さらには溝の方向によって、製造される鉄心の騒音特性が変動することを見出した。以下にその条件について説明する。

図１に本発明の電磁鋼板の例を模式図で示す。図１において、（ａ）はプレス法により鋼板表面に溝を形成した例、同じく（ｂ）はエッチング法により溝を形成した例である。図２はこの鋼板を所定のサイズに切出し、重ね合わせる鋼板のうち一方に溝があるように重ね合わせた時の断面の模式図である。図２中の符号２が溝であり、本発明が対象とする鉄心は、鋼板を積層後にこの溝に樹脂を浸透させることを特徴とする。ここで、符号３が隙間の深さ、符号４が溝の間隔、符号５が隙間の最大幅である。

まず、隙間の深さ、すなわち鋼板板厚方向の隙間の大きさは５μｍ以上が必要である。隙間深さが５μｍより小さいと、樹脂の通過が困難になり、また樹脂の絶対量が少ないため騒音低減効果も十分ではない。上限は特に規定しないが、３０μｍを超えると、特に薄手の鋼板では磁気特性が低下するので好ましくない場合がある。より望ましい溝深さとしては、鋼板の板厚のおよそ５〜１５％の範囲である。

次に隙間の最大幅は、溝の間隔の０．０７０〜０．５０倍である。隙間の幅が溝の間隔の０．０７０倍より少ないと、樹脂による接着力、騒音抑止力が十分でない。一方、０．５０倍を超えると、凹み部が外力によってたわみ、樹脂がかえって浸透しにくくなったり、磁気特性に悪影響を及ぼしたりするので好ましくない。

溝と溝との間隔は、隙間の大きさとの関係から、２〜１５ｍｍが好ましい。２ｍｍ未満とすると溝の大きさも相対的に小さくせねばならず、樹脂の浸透が困難になり、また樹脂の絶対量が少ないため騒音低減効果も十分ではない。また１５ｍｍを超えると、樹脂の幅が相対的に小さくなり、接着力、騒音抑止力が十分でない。

電磁鋼板への溝の形成方法としては、周知の種々の溝形成方法を用いて良い。特に方向性電磁鋼板では、磁気特性を改善するための溝形成方法として、刃をロールやプレスなどにより当てる機械的な方法、レーザーやプラズマ等でけがく物理的な方法、レジストを線状に形成後、または絶縁被膜に機械的、物理的にけがいた後にエッチングする方法などが開示されているが、これらの技術を適用できる。または所定の形状に打ち抜く時や打ち抜き後に溝を形成させる方法を用いても良い。更に、溝を形成する段階としては、鋼板成品完成後でも良いし、鋼板成品製造過程の途中でも良い。

なお、機械的な方法や熱を用いる方法では、溝の周囲にまで変形が及ぶが、磁気特性への影響が小さい範囲では、このような変形を持たせることで、溝自体の大きさを小さくしつつ隙間を大きく形成させることができ、磁束密度や占積率の点で有利である。

この溝の形成角度は、鋼板の磁化方向に対して８５°以下とするのが好ましい。磁歪は磁化方向に平行な鉄心の伸縮であるため、溝の方向が磁化方向と平行に近くなるにつれて、樹脂による磁歪抑制効果は増す。ただし、この場合、方向性電磁鋼板においては溝による磁気特性改善効果はほとんど得られない。一方、溝の方向を磁化方向に対して８５°を越えてほぼ垂直にすると、樹脂による磁歪抑制効果は小さくなる。また、例えば３相鉄心のような構造の場合は、図３の（ｂ）、（ｃ）に示すように、磁化方向に対してほぼ垂直、もしくは平行とすると、鉄心の端面から図中Ｘの部位までの距離が非常に長くなり、樹脂が浸透するまでに長い時間を必要とするが、（ａ）に示すようにほぼ４５°とすることで、このような端面から遠い部位を減らすことができ、樹脂の浸透に要する作業時間を短縮することができる。

本発明の鋼板を用いて鉄心を製造する際には、積層後に樹脂を、前記隙間から浸透させる。樹脂の種類は特に限定しないが、液体でかつ粘度を低く調節できるものが必要であり、また乾燥速度が速すぎるものは好ましくない。乾燥後に接着性を有すると、鋼板同士を固着できるため、磁歪抑制上好ましい。例としてはアクリル樹脂エマルジョン、エポキシ系、水性樹脂などがあげられる。

これらの樹脂は鉄心の端面に刷毛、スプレー、滴下などの手段によって塗布される。または樹脂を張った槽に鉄心を含浸させても良い。塗布または含浸後は自然乾燥させる。樹脂によっては鉄心を高温にして乾燥させても良いし、また歪み取りをかねて焼鈍しても良い。

板厚０．３５ｍｍの方向性電磁鋼板に、表１に示す手段で溝を形成した後、３００ｍｍ×３００ｍｍ、積層厚５０ｍｍの３相トランスを製作し、水性樹脂を満たした槽に含浸し、取り出して自然乾燥して鉄心とし、これに導線を巻いてトランスとした。隙間の形状は、樹脂含浸後の鉄心の端面を研磨して転写し、寸法を確認した。騒音特性は５０Ｈｚ，１．５Ｔで励磁し、騒音測定器で測定した。

ここで、プレス法は、刃先角度３０°の刃を５ｍｍ間隔に平行に複数付けた刃物を用いて、表１に記載の深さになるプレス力でプレスした。また、けがき法は先端角度２０°の針を用いて、表１に記載の深さになる力で押圧しながら板面方向に動かしてけがいた。またエッチング法は、レーザで表１に記載の幅の被膜を照射した後、アルカリ溶液中で表１に記載の深さの溝になるまで電解した。いずれの方法の場合も、処理後に燐酸を主体とする絶縁被膜を塗布した。

表１に示すように、本願発明の条件によるトランスは、騒音特性を小さくすることができた。

本発明による鉄心用電磁鋼板の模式図で、（ａ）はプレス法で鋼板表面に溝を形成した例で、（ｂ）はエッチング法により溝を形成した例を示す図である。 （ａ）、（ｂ）は図１の鋼板を所定サイズに切出し、重ね合わせる鋼板のうち一方に溝があるように重ね合わせたときの断面の模式図である。 （ａ）は電磁鋼板に付与する溝方向を４５°とした例、（ｂ）は溝方向を磁化方向に垂直とした例、（ｃ）は溝方向を磁化方向に平行にした場合の３相鉄心の例を示す図である。

Claims (1)

1. 片面もしくは両面の面上に端部まで通じる溝を有する鋼板で、溝のない面同士が重ならないように積層した後、前記溝に樹脂を浸透させることによる鉄心の製造に用いる電磁鋼板において、前記溝間隔が２〜１５ｍｍであり、前記溝の形成角度が、鋼板の磁化方向に対して８５°以下であり、前記電磁鋼板を積層したときに溝を中心に形成される隙間の最大深さが５μｍ以上で鋼板の板厚の１５％以下であり、最大幅が溝間隔の０．０７０〜０．５０倍であることを特徴とする鉄心用電磁鋼板。

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