JP4628077B2 - スケールブレーカー用ロール,その製造方法,及び焼入れ装置 - Google Patents

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Description

この発明は、熱延鋼板のスケールを除去する酸洗ライン等の化学的デスケールラインに前置され、鋼板の繰返し屈曲によりスケールに亀裂を生じさせることでデスケール能率を高めるためのスケールブレーカーにワークロールとして配設されるスケールブレーカー用ロールに関し、より詳しくは、スポーリングや疲労損壊の感受性の増大を伴わずに耐摩耗性を強化する技術に関する。
熱間圧延によって製造されたいわゆるホットコイルにはスケールと呼ばれる硬い酸化皮膜が形成されている。このスケールは、更に板厚を薄くするための冷間圧延などの後続工程に支障となるため、予め酸洗工程で除去される。
酸洗工程では、酸液による化学的な除去に先立ち、鋼板を機械的に繰返し屈曲させ、スケールにクラックを生じさせて除去効果を高めるためのスケールブレーキング処理が施されている。上記処理を行うための設備としては、バックアップロール付きのピンチローラ群を通板方向に上下千鳥に連ねたテンションレベラータイプのものが一般的であり、この設備にワークロールとして組み込まれるロールが本明細書で云うスケールブレーカー用ロールである。
スケールブレーカー用ロールには、高接触圧・高速下での転動接触やスケール粉の噛み込みに耐える高度の耐摩耗性に加えて耐スポーリング性が要求される(尚、スポーリングは表層部の剥れ落ち)。また、デスケール水がかかる使用環境に耐える一定の耐食性も要求される。ついては、1〜3%Cr鋳鋼ロールや5〜9%Cr鋼肉盛ロールが以前から使用されていたが、耐摩耗性,耐スポーリング性のいずれにおいても不足していた。
そこで、新たなスケールブレーカー用ロールとして、溶製冷間工具鋼系の熱処理硬化ロール(例えば特許文献1参照)や、溶製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール(例えば特許文献2参照)、粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール(例えば特許文献3参照)が提供され、耐スポーリング性を確保しつつ耐摩耗性の大幅向上がもたらされている。
因みに、上記のロールは、いずれも、Cr(クロム),Mo(モリブデン),V(バナジウム),W(タングステン)といった硬質炭化物形成元素を主成分として含有する高炭素高合金鋼材に熱処理(焼入れや焼戻し)を施して、表面から深さ5〜10mmまでに亘る表層部(すなわち表面から少なくとも深さ5mmまでに亘る表層部)の硬さを高位に確保したものであり、上記表層部の硬さが、溶製冷間工具鋼系の熱処理硬化ロール(特許文献1)及び溶製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール(特許文献2)ではHs85〜90(Hv750〜800)となっていて、いわばHv750超級であり、粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール(特許文献3)ではHs90〜95強(Hv800強〜950弱)となっていて、いわばHv800超級である。
この他、スケールブレーカー用ロールと似た使われ方のロールとして、冷延鋼板を繰返し屈曲変形させて平坦度を改善するレベラーラインのワークロールがある(例えば特許文献4参照)。このレベラー用ワークロールは、0.3〜1mmといった薄肉の鋼板を、軽度の塑性変形を生じる歪率で屈曲変形させる必要性から直径20〜60mmといった超細径であり、長さはスケールブレーカー用ロールと同等である。よって、スケールブレーカー用ロールよりも更に撓み変形が生じやすく、耐疲労折損性が特に重要となる。ところが、このレベラー用ワークロールに焼入れを施すと超細径ゆえに芯部も硬化状態(Hv500以上)となってしまう。ついては、上記特許文献の発明においては、ロール表層部に圧縮残留応力を具備させることで耐疲労折損性の確保が図られている。すなわち、スケールブレーカー用ロールと似てはいるものの、深さ方向の硬さ推移や焼入れ条件の工夫をはじめとして、相互の技術転用が適うケースは少ない。
特開昭64−28344号公報 特開昭64−40112号公報 特開平4−253514号公報 特開平10−298716号公報
ところで、上述したような高硬さには、鋼材基地の焼入れ硬化に加えて、分散状態で含まれる硬質炭化物の存在が大きく寄与しており、その結果、鋼材基地の靱性(延いては耐スポーリング性)を犠牲にせずに更なる硬質化(延いては耐摩耗性の向上)が実現できたものと考えられる。また、粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール(特許文献3)がHv800超級という特段の高硬さとなっている(延いては耐摩耗性も一段と向上している)のは、粉末冶金製という材質に由来する上記炭化物の緻密性と均一性により、Hv800超級の高硬さとしても靱性が損われなかったためとみられる。
しかしながら、スケールブレーカー用ロールについては、上記の粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール(特許文献3)を更に上回る耐摩耗性が求められている。これは、ロールの摩耗寿命が、自動車ボディー用途などにおける高張力鋼板採用の増大に伴う摩耗負荷の増大によって短くなる傾向にあり、その結果、経済的な観点からの通板速度の確保・向上が容易でなくなったからである。
ついては、耐摩耗性の更なる向上を要するものであり、先ずは、ロール表層部の硬さを上述した粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール(特許文献3)よりも更に高めることが考えられるが、そのロールにおけるHv800超級の表層部硬さは、耐スポーリング性との兼合いで得られた言わば上限値である。また、通板速度(延いてはロール回転速度)を更に上げたいというニーズも視野に入れると、細長い形状(たとえば、直径80〜100mm×長さ1600〜2400mm)ゆえに生じやすいロールの繰り返し撓み変形を考慮した耐疲労損壊性も確保しておくことが望ましく、この点からは、表層部硬さを寧ろ幾らか抑制して靱性を高目に確保することが望まれる。
一方、前記工具鋼系高炭素高合金鋼材の使用は耐摩耗性を高位に確保するための必須要件と見なされ、特に粉末冶金製のものによるのが、靱性,耐スポーリング性,耐疲労損壊性などの強度特性の損失を補うための好適要件と見られる。
そこで、粉末冶金製の工具鋼系高炭素高合金鋼材を素材とするスケールブレーカー用ロールという範疇内で、従来の高硬さ指向ロール(粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール/特許文献3)に勝る耐摩耗性を備えた製品を、該従来ロールの表層部硬さ(即ちHv800超級)を下回る表層部硬さを以て実現する技術の提供を課題とした。
本発明のスケールブレーカー用ロール(請求項1)は、このような課題を解決するために創案されたものであり、
硬質炭化物形成元素を主成分として含有する粉末冶金製の高炭素高合金鋼組成のロール状賦形体を素材とし、熱処理によって表面から少なくとも深さ5mmまでの表層部が高硬さの耐摩耗層となっているスケールブレーカー用ロールにおいて、
前記素材は、主成分元素としてC:1.7〜3.5mass%,Cr:10〜20mass%,Mo:0.5〜5mass%,V:1〜10mass%を含有し、前記耐摩耗層には、前記主成分元素で構成される硬質の炭化物が、断面見掛け粒径10μm以下の略球状微粒子の形で且つ10〜30断面見掛け面積%という高い占積率で分布していて、該耐摩耗層の硬さがHv700〜850の範囲にあり、また、該耐摩耗層の内側には、有効硬化状態の裏打領域と未硬化状態まで硬さが急落する硬さ急変部と未硬化状態の芯部領域とがこの順に連なっていて、該裏打領域の深さ方向の硬さ減少勾配は深さ増10mm当りのHv値減少が200ポイント台という緩勾配であり、且つ、該硬さ急変部は、ロール中心からロール半径の(1/√2)の距離に在る、半径方向に関するロール断面積2等分位置よりもロール中心側に位置しており、更には、該芯部領域の硬さがHv300以下である、
ことを特徴とする。
また、本発明のスケールブレーカー用ロール(請求項2)は、
粉末原料を焼結する工程を経て調製された高炭素高合金鋼組成のロール状賦形体を、焼入れを含む熱処理工程に供して得られた、表面から少なくとも深さ5mmまでの表層部が高硬さの耐摩耗層となっているスケールブレーカー用ロールにおいて、
前記ロール状賦形体は主成分元素としてC:1.7〜3.5mass%,Cr:10〜20mass%,Mo:0.5〜5mass%,V:1〜10mass%を含有する組成であって、前記焼入れのための加熱は、50〜200℃/sの昇温速度と焼入れ温度における5〜30sの温度保持という急速短時間加熱条件によっており、
前記耐摩耗層には、前記主成分元素で構成される硬質の炭化物が、断面見掛け粒径10μm以下の略球状微粒子の形で且つ10〜30断面見掛け面積%という高い占積率で分布していて、該耐摩耗層の硬さがHv700〜850の範囲にあり、また、該耐摩耗層の内側には、有効硬化状態の裏打領域と未硬化状態まで硬さが急落する硬さ急変部と未硬化状態の芯部領域とがこの順に連なっていて、該裏打領域内の深さ方向の硬さ減少勾配は深さ増10mm当りのHv値減少が200ポイント台という緩勾配であり、且つ、該硬さ急変部は、ロール中心からロール半径の(1/√2)の距離に在る、半径方向に関するロール断面積2等分位置よりもロール中心側に位置しており、更には、該芯部領域の硬さがHv300以下である、
ことを特徴とする。
さらに、本発明のスケールブレーカー用ロール(請求項3)は、上記の請求項1,2記載のスケールブレーカー用ロールであって更に、前記主成分元素のうちのCr分は、その4〜7割が基地金属相に含まれている、ことを特徴とする。
また、本発明のスケールブレーカー用ロールの製造方法(請求項4)は、
粉末原料を焼結する工程を経て調製された、硬質炭化物形成元素を主成分として含有する高炭素高合金鋼組成のロール状賦形体を、焼入れを含む熱処理工程に供して、表面から少なくとも深さ5mmまでの表層部を高硬さの耐摩耗層とした硬化ロールを得る、スケールブレーカー用ロールの製造方法において、
前記ロール状賦形体を、主成分元素としてC:1.7〜3.5mass%,Cr:10〜20mass%,Mo:0.5〜5mass%,V:1〜10mass%を含有する組成とした上で、前記焼入れを、誘導加熱によって50〜200℃/sの昇温速度で焼入れ温度に加熱し5〜30s温度保持してから5〜50℃/sの降温速度にて冷却させるという急速・短時間加熱−緩速冷却条件にて施すことにより、
前記硬化ロールとして、前記耐摩耗層に、前記主成分元素で構成される硬質の炭化物が、断面見掛け粒径10μm以下の略球状微粒子の形で且つ10〜30断面見掛け面積%という高い占積率で分布していて、該耐摩耗層の硬さがHv700〜850の範囲にあり、また、該耐摩耗層の内側には、有効硬化状態の裏打領域と未硬化状態まで硬さが急落する硬さ急変部と未硬化状態の芯部領域とがこの順に連なっていて、該裏打領域内の深さ方向の硬さ減少勾配は深さ増10mm当りのHv値減少が200ポイント台という緩勾配であり、且つ、該硬さ急変部が、ロール中心からロール半径の(1/√2)の距離に在る、半径方向に関するロール断面積2等分位置よりもロール中心側に位置しており、更には、該芯部領域の硬さがHv300以下であるロールを得る、
ことを特徴とする。
また、本発明の焼入れ装置(請求項5)は、上記の請求項4の製造方法における前記焼入れを行うための焼入れ装置であって、前記ロール状賦形体を、その軸線を鉛直方向に配向させた姿勢で支持するとともに軸心回転させるワーク支持回転装置と、前記ロール状賦形体の軸線方向の短区間を誘導加熱するための誘導コイルと該コイルによる加熱部を追随冷却するための少なくとも空冷ジャケットを配した冷却ゾーンとを有する加熱冷却ユニットと、前記ワーク支持回転装置と前記加熱冷却ユニットの少なくとも一方を鉛直方向走行させるようにしたワーク対加熱冷却ユニット相対走行機構と、を備えていることを特徴とする。
このような本発明のスケールブレーカー用ロール(請求項1)にあっては、先ず、略球状微粒子の硬質炭化物を高い断面占積率で分布させたことにより、Hv800超級の従来ロール(特許文献3)を,更にはHv750超級の従来ロール(特許文献1,2)をも下回るHv700超級の表層部硬さを以て、耐摩耗性がHv800超級ロールよりも更に高位に向上している。そのことを図面を引用して確認する。図2は、摩耗試験の結果を示し、(a)が比較表、(b)が対比グラフである。図3は摩耗試験の実施態様を示し、図4は、本発明の試験材の断面を示す図面代用写真であり、SEM(走査型電子顕微鏡)による2000倍ミクロ組織である。
図2において、資料番号A1のものは本発明の粉末冶金製ロール(高C−13Cr鋼)で摩耗量は4mgであり、資料番号B1のものは従来の粉末冶金製ロール(粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール/特許文献3)で摩耗量は19mgであり、資料番号B2のものは従来の溶製ロール(溶製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール/特許文献2)で摩耗量は75mgであり、資料番号B3のものは従来の溶製ロール(溶製冷間工具鋼系の熱処理硬化ロール/特許文献1)で摩耗量は31mgであり、資料番号B4のものは従来の鍛鋼ロール(1〜3%Cr)で摩耗量は195mgであった。
図2で明らかな本発明ロールの優れた耐摩耗性は、主として、請求項2記載の10〜30断面見掛け面積%という炭化物微粒子(硬質炭化物)の高い断面占積率(図4参照)によってもたらされるミクロな支柱機能によるところと推認される。
即ち、炭化物相は焼入れ後の基地金属相と比べても約3倍の硬さを有するから、ロール表面では先ず基地金属相の摩耗が始まって、炭化物相を凸部とし基地金属相を凹部とする緩い起伏が生じ、この状態で摩耗が進行して行く。そして、その際、炭化物相,基地金属相それぞれの寸法基準の摩耗速度V1,V2は等しいから、各相にかかる加重圧力(単位面積当り)を夫々P1,P2とし、V1=k1×P1、V2=k2×P2(k1,k2は定数)であるとすると、
k1×P1=k2×P2、即ち、P2=(k1/k2)×P1 ……………………(1)
となる。
また、各相の面積比率をS1:S2=A:(1−A)とすると、各相にかかる荷重の比率はF1:F2 = P1×A:P2×(1−A) = P1×A:(k1/k2)×P1×(1−A) = k2×A:k1×(1−A) …………………………………………(2)
となる。更に、F1+F2=F(トータル荷重) ……………………………………(3)
とおいて、これらの式を解くと、
(F1/F)≡θ1=k2×A/{k2×A+k1×(1−A)},
(F2/F)≡θ2=k1×(1−A)/{k2×A+k1×(1−A)}………(4)
となる。
ここで、仮にk2=3×k1(基地金属相は炭化物相と比べて3倍ほど摩耗しやすい)とすると、上記(4)式は、
θ1=3×A/(2×A+1), θ2=(1−A)/(2×A+1) …………(5)
となり、これにA={0.05, 0.1, 0.2, 0.3}を入れると、
θ1={0.136, 0.250, 0.429, 0.563}となる。
即ち、耐摩耗性の高い炭化物相には、その面積比率を上回る荷重が分配されるのである。これは、云い換えれば、前記炭化物相を凸部とする緩い起伏が、上記の炭化物相に偏倚した荷重分配が実現されるような形態で生じていることになる。そして、本発明ロールでは、10μm以下という極小の炭化物微粒子が、無数のミクロ支柱として機能し、摩耗要因となる荷重に対抗している、ということである。
この他、10μm以下という炭化物微粒子の粒度は、150メッシュよりも細かい研磨剤の粒度に類し(JIS R6001参照)、本発明ロールの処理対象であるホットコイルのスケールの厚さ(50〜100μm程度)よりも十分に小さい。そのため、仮に脱落した場合にもスケール粉中に埋もれた存在となり、脱落粒子起因の擦過による摩耗ないし疵入りにつながる恐れも小さい。
本発明のスケールブレーカー用ロール(請求項1)にあっては、さらに、最小加熱時間の焼入れ等によって深さ方向の硬さ推移が独特のパターンとなっており、それによって、耐疲労損壊性が向上している。そのことを図面を引用して確認する。図5は、ロール表面からロール中心に向かう硬さ推移曲線を対比表示した図であり、黒丸付き太線A1は本発明の粉末冶金製ロール(高C−13Cr鋼)であり、黒四角付き中線B1は従来の粉末冶金製ロール(粉末冶金製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール/特許文献3)であり、短破線B2は従来の溶製ロール(溶製高速度工具鋼系の熱処理硬化ロール/特許文献2)であり、細い長破線B3は従来の溶製ロール(溶製冷間工具鋼系の熱処理硬化ロール/特許文献1)である。
本発明ロールA1は、表面から少なくとも深さ5mmまでの(目安として深さ5〜10mmまでの)表層部をHv700超級の耐摩耗層としたものであるが、焼入硬化層はこれよりも深い領域に達しており、JIS G 0559によれば、C含量が0.53mass%以上の高炭素鋼については、Hv500の深さまでが有効硬化層であるとされる。
ここで、図5の硬さ推移曲線を見ると、本発明の粉末冶金製ロールA1(太線)では、深さ8mmまでがHv700以上の耐摩耗層となっており、また、その内側の深さ8mmから深さ17mmまでの領域がHv700〜500(即ち有効硬化状態の)裏打領域として連なり、更にその内側の深さ17mmから深さ20mmまでの領域が、Hv500から未硬化状態(焼入れ硬化の兆候も生じていない状態)と見なせるHv300以下のロール芯部(ロール中心とその近傍)まで硬さが急落する硬さ急変部が連なっており、硬さ急変部の更に内側の芯部領域は高靱性の未硬化状態に確保されている。よって、上記裏打領域および硬さ急変部における深さ方向の硬さ減少勾配は、夫々、
(700−500)Hv/(8−17)mm=Hv220ポイント減/10mm深さ増、
(500−300)Hv/(17−20)mm=Hv670ポイント減/10mm深さ増となっている。
因みに、従来の粉末冶金製ロールB1,溶製ロールB2,溶製ロールB3では、上記裏打領域における硬さ減少勾配は、Hv500までの範囲が裏打領域であると見なして、夫々
(800−500)Hv/(10−18)mm=Hv375ポイント減/10mm深さ増、(750−500)Hv/(8−13)mm=Hv500ポイント減/10mm深さ増、(750−500)Hv/(7.5−12.5)mm=Hv500ポイント減/10mm深さ増}となっており、また、この裏打領域が硬さ推移曲線全体の中の硬さ減少勾配最大部であり、云わば、硬さ急変部に準じた領域となっている。
さて、本発明の粉末冶金製ロールA1の上記硬さ推移パターンは、細長い形状ゆえに繰返し屈曲疲労の負荷が大きいスケールブレーカー用ロールにとって、耐疲労損壊性を高位に確保する観点から極めて好ましいパターンであると云える。
即ち、上記A1,B1,B2,B3のロールでは、いずれも80mmφ(半径40mm)の中実ロールであって、半径方向に関するロール断面積2等分位置は、ロール中心からロール半径rの(1/√2)の距離、ロールの表面からはロール半径rの1−(1/√2)の距離≒0.3r深さ≒12mm深さの位置にある。
そして、深さ方向の硬さ減少勾配といった、疲労損壊にとってプラスでない(硬さ減少勾配が大きい部位ほど応力集中しやすいと考えてよいであろう)特性は、特に上記ロール断面積2等分位置よりもロール表面側において極力小さいことが望まれるものである。何故なら、前記繰返し屈曲変形における変形量(延いては変形応力)はロール表面側ほど比例的に大であって、表面側ほど負荷される損壊エネルギーが大きく(ロール半径の2乗に比例)、ついては、硬さ勾配を上記断面積2等分位置よりもロール表面側においては極力小さくするという要請が生じるものであり、云い換えれば、断面積2等分位置よりもロール中心側の硬さ減少勾配は逆に高位となることを許容して上記要請が成立つのである。本発明の粉末冶金製ロールA1では、硬さ急変部が、前述の通りロール表面から17mmの位置の内側にあって、ロール表面から12mmの深さに位置する断面積2等分位置よりも十分奥寄りに位置しており、上記要請が満たされている。更には、20mm以深の芯部(即ち、ロールの1/2太さの領域)が高靱性の未硬化状態に確保されており、堅牢な躯幹部を構成している。
また、本発明のスケールブレーカー用ロール(請求項3)にあっては、基地金属相のCr分を高位にしたことにより、必要な耐食性が確保されている。そのことを図面を引用して確認する。図6は、浸漬腐食試験の結果を示し、(a)が試験条件、(b)が本発明ロール(高C−13Cr鋼)の図面代用写真、(c)が比較材(SKH51)の図面代用写真である。また、図7は、本発明ロールの試験材のCr分のEDX(エネルギー分散X線分光)分析結果を示す表である。
図7の分析結果に見られる通り、本発明ロールにあっては、C量が大であるにも拘わらず、基地金属相に全含量の4〜7割に亘る高含量を以てCr分が存在しており、これは、スケールブレーカー用ロールに必要とされる一定の耐食性を悠にもたらすものとなっている(図6参照)。
また、本発明のスケールブレーカー用ロールの製造方法(請求項4)によれば、スケールブレーカー用ロールに係る前記諸要請に応えることのできる上記ロール製品が得られて前記課題が解決される。すなわち、この請求項4の製造方法は、CrとCを極く高位に且つMoとVを高目に含有する粉末冶金製の工具鋼系鋼材を素材とし、炭化物を、高含量ではあるが極微粒形態で存在させている。そして、硬化に必要な最小限の加熱時間による焼入れを施すことで(図1(c)参照)、ロール表面に炭化物微粒子を極く高位の断面占積率を以て露呈させて、表層部硬さを抑制しつつ、高耐摩耗性を実現したものである。
本発明のスケールブレーカー用ロール10は(図1参照)、ロール表面からロール中心まで粉末冶金法にて一体成形したロール状賦形体11に焼入れを含む熱処理を施して製造される硬化ロールであり、鋼板を機械的に繰返し屈曲させるためにバックアップロール付きワークロールとして用いられる。その使用態様については特許文献1第1図や,特許文献2第1図,特許文献3図1等に開示され、ロール状賦形体11を一体成形する粉末冶金法については、一般の技術書で解説されているのに加えて、特許文献3にガスアトマイズ法と加圧成形と熱間押出との結合手法が開示されているので、以下、本発明に特徴的な事項を述べる。
粉末原料に焼結を行ってロール状賦形体11を形成する工程(粉末冶金法)については、粉末原料として、硬質炭化物形成元素を主成分として含有する高炭素高合金鋼組成のものが用いられる。上記ロール状賦形体11にはC:1.7〜3.5mass%,Cr:10〜20mass%,Mo:0.5〜5mass%,V:1〜10mass%が含有されている。Cは、金属炭化物を形成して耐摩耗性を向上させるととともに、焼入れ性の増加に寄与するが、上記組成の下で1.7%未満では炭化物が少なく特に基地中の炭素量が少なくなりすぎてHv700(Hs80強)以上の硬度が得られず、耐摩耗性が十分でない。一方、3.5%を超えると、脆いセメンタイト組織も現れ、また残留オーステナイト量も多くなるので、好ましくない。残留オーステナイトは、使用中の加工硬化や耐スポーリング性の低下を招くので、15%以下に抑えることが望まれる。
Crは、Cr炭化物を形成して耐摩耗性を向上させるばかりでなく、基地中に固溶して耐食性を向上させ、かつ焼入れ性を増加するのに寄与するが、上記組成の下で10%未満だと炭化物量が少なくて耐摩耗性が減少する。一方、20%を超えると、脆くなって靱性が低下し、耐スポーリング性の減少を招きやすいので、Crは10〜20%の範囲内が良い。また、特に腐食環境が厳しいライン等では、Crは15〜20%であることが望ましい。Moは、Mo炭化物を形成して焼入れ性を増して耐摩耗性を向上させ、また、加熱の際に結晶粒の成長を抑制するので、靱性を付与し、耐スポーリング性を向上させるものであるが、このMoが0.5%未満であれば、焼入れ硬さが低くなって耐摩耗性を減少させる。一方、Moが5%を超えると、加熱時の変態点を下げ、脱炭層が増大する傾向を示すので、Moは0.5〜5%の範囲内が良い。
Vは、V炭化物を形成して耐摩耗性を向上させるばかりでなく、基地中に固溶して結晶粒を微細にし、加熱時の結晶粒の粗大化を抑制することができるが、上記組成の下でVの量が1%より少ないと、炭化物量が少なくて耐摩耗性が減少する。一方、上記組成の下でVの量が10%より多くなると、V炭化物が多くなって基地中に固溶するCの量が低くなり、焼入れ硬さが低くなって耐摩耗性が減少するので、Vは1〜10%の範囲内が良い。また、特に使用環境の厳しいライン等では、Vは3〜10%であることが望ましい。
ロール状賦形体11は(図1(a),(b)参照)、スケールブレーカー用ロール10の要求仕様(直径80〜100mm×長さ1600〜2400mm程度)に僅かな仕上げ代を加えた寸法の円柱状の胴部を有する形状にされるが、焼結の際、両端の小径端部12,13も含めて一体形成されてもよく、円柱状の焼結体に補助的な熱間成形や切削加工を施して小径端部を設けるようにしても良い。即ち、溶湯の鋳造によらずに形成できるため、スケールブレーカー用ロール10の組成分布が偏析等を伴わずに全域で一様になる。上記特質は、熱処理後のスケールブレーカー用ロール10にも引き継がれる。
ロール状賦形体11に熱処理を施す工程では、高周波誘導加熱方式の焼入れ装置20を用いた焼入れに加えて、適宜な焼き戻し等が行われる。
焼入れ装置20は(図1(a),(b)参照)、昇降手段21と上端支持具22と誘導コイル23と空冷ジャケット24と回転手段25と下端支持具26とを要部として具えている。ロール状賦形体11の小径端部13を支承する下端支持具26と、それに対向して上からロール状賦形体11の小径端部12を挟持する上端支持具22は、ロール状賦形体11の軸線を鉛直方向に配向させた姿勢でロール状賦形体11を支持するワーク支持機構となっている。
このワーク支持機構には回転手段25が付設されていて、ロール状賦形体11を軸心回転させるワーク支持回転装置となっている。また、そのワーク支持機構には昇降手段21も付設されていて、ワーク支持回転装置を鉛直方向走行させるワーク対加熱冷却ユニット相対走行機構となっている。なお、ワーク対加熱冷却ユニット相対走行機構は、誘導コイル23と空冷ジャケット24とからなる加熱冷却ユニットを上下に移動させるようにしても良く、両者を同時に上下動させるようにしても良く、定速で或いは可変速で安定走行できるものであれば良い。
加熱冷却ユニットは、誘導コイル23も、空冷ジャケット24も、環状に形成されていて、ロール状賦形体11を遊挿しうるようになっている。誘導コイル23の配された加熱ゾーンと空冷ジャケット24の配された冷却ゾーンとの相対距離は固定されていても調整可能になっていても良いが、焼入れ時の相対走行中は誘導コイル23が先行し空冷ジャケット24が後に続いて追随するようになっている。誘導コイル23には図示しない高周波電源装置から出た給電ケーブルが接続されており、誘導コイル23は、高周波通電時にロール状賦形体11の軸線方向の短区間を誘導加熱するようになっている。空冷ジャケット24には図示しない送風源から延びてきたホースが連結されており、空冷ジャケット24は、空気を吹き付けてロール状賦形体11における誘導コイル23による加熱部を追随冷却するようになっている。空冷ジャケット24による強制空冷だけでは冷却能力が不足する場合、水冷等を併用するようにしても良い。
このような焼入れ装置20を用いてロール状賦形体11に対して誘導加熱による焼入れを施すとき、その焼入れ条件は(図1(c)参照)、先ず、次の範囲から選定される。即ち、ロール状賦形体11を50〜200℃/sの昇温速度で焼入れ温度に加熱してから5〜30s温度保持し更に5〜50℃/sの降温速度にて冷却させるよう、誘導コイル23の通電や,空冷ジャケット24の送風,ロール状賦形体11の走行などの制御条件が設定される。そして、その選定条件でロール状賦形体11に焼入れを施し、さらに、適宜な焼戻し等も施してから、断面について硬さと炭化物状態とCr分布割合とを確認する。
具体的には、硬度に関し(図5参照)、ロール表面から深さ20mm以上に及ぶ範囲について硬度測定を行ってロール表面からロール中心に向かう硬さ推移曲線を得、この硬さ推移曲線について、ロール表面側の耐摩耗層の確認と、それよりロール中心寄りの硬さ勾配の確認を行う。耐摩耗層については、表面から少なくとも深さ5mmまでに亘る表層部の硬さが熱処理によりHv700〜850(Hs80強〜90強)の範囲にあることを確認する。硬さ勾配については、硬さ急変部が前記断面積2等分位置よりもロール中心側に位置していることや、Hv700〜500間の勾配よりもHv500〜300間の勾配が急であることを確認する。ロール芯部(ロール中心とその近傍)がHv300以下の未硬化状態であることも確認する。
断面における炭化物状態については(図4参照)、耐摩耗層の断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で撮影して、その画像をコンピュータに取込み、更に画像解析を行って、炭化物の粒径,面積率,及び間隔を測定する。そして、硬質炭化物が断面見掛け粒径0.1〜10μmの略球状微粒子の形で分散していることと、硬質炭化物が10〜30断面見掛け面積%の高い占積率を以て分布していること、硬質炭化物同士の間隔が10μ以下になっていることを確認する。金属炭化物(硬質炭化物)は、高硬度であるため耐摩耗性の向上に寄与するが、粒径が0.1μmを下回ると耐摩耗性が減少し、粒径が10μmを超えると脆くなって靱性が低下する。また、硬質炭化物の占める面積率が10%に満たないと耐摩耗性が不足し、面積率が30%を超えると脆くなって靱性が低下し、耐スポーリング性が減少する。さらに、硬質炭化物同士の間隔が10μmを超えると耐摩耗性が減少する。特にロールにかかる摩耗負荷の厳しいライン等では硬質炭化物同士の間隔が5μm以下であることが望ましい。
Cr分布の割合については(図7参照)、例えばEDX(エネルギー分散X線分光)分析等を行って、基地金属相のCr量(A)と全体のCr量(B)とを測定し、それらの比を算出することで基地金属相のCr割合(A/B)を得、この割合値が0.4〜0.7になっていることを確認する。Cr全量に対する基地金属相のCr割合が4割を下回ると耐食性が減少するので、硬質炭化物形成元素のうちのCr分は、全体的に見て高含量なばかりか、基地金属相だけを見ても高含量になっていることが望ましい。一方、基地金属相のCr割合が7割を上回った状態では、炭化物の減少が同時に起っていて耐摩耗性の低下傾向が現われ、また、基地金属相の靱性低下が無視できなくなる。
このような硬さと炭化物状態とCr分布割合の確認を行って、それらが適正範囲から外れている場合は組成や焼入れ条件を修正して遣り直し、総て適正であることが確認できたら、組成や焼入れ条件を確定・固定する。そして、その条件で、必要本数のスケールブレーカー用ロール10を製造する。
組成の修正指針は上述したので、焼入れ条件の修正指針について述べると、耐摩耗層の硬さは、耐摩耗性と靱性や耐スポーリング性との兼ね合いからHv700〜850が好適な範囲になっているが、その深さが5mmを下回ると、「深さ−α」に比例してもたらされる摩耗寿命が十分高位に確保されず、本発明の実施に伴うコスト増に見合わないこととなる。一方、耐摩耗層の深さが10mmを超えると、スケールブレーキング時の曲げ応力や衝撃に対する靱性が不足するケースが生じ得るので、耐摩耗層の深さ具体的には硬度Hv700部位の深さは、5〜10mmの範囲内が望ましい。
また、焼入れ時の昇温速度が50℃/sを下回ると、炭化物の固溶量が大きくなるため、炭化物の粒径が小さくなるとともに炭化物の面積率も減少して、耐摩耗性が低下する。そして、昇温速度が大きくなるほど上記炭化物の存在形態が好転して耐摩耗性が向上するが、200℃/sを上回ると、上記効果が飽和する上、高周波電源装置の設備コストも法外に大きくなる。
さらに、焼入れ温度での保持時間が5sより短くなると、十分な硬さが得られない。一方、焼入れ温度での保持時間が30sより長くなると、炭化物の粒径が小さくなるとともに炭化物の面積率も減少して、耐摩耗性が低下する。
そして、上記の好適昇温,温度保持条件は、炭化物の存在形態を左右するα→γ変態点以上の温度にある、いわば有効加熱時間の好適化をもたらすこととなる。因みに、上記有効加熱時間は、10〜40sとすることが望ましい。
直径80mmのスケールブレーカー用ロール相当物を試作し(図1参照)、この試験材に、摩耗試験と(図2,図3参照)、断面画像解析と(図4参照)、硬度分布測定と(図5参照)、浸漬腐食試験と(図6参照)、Cr含量測定と(図7参照)を行った。
粉末原料は、真空溶解後ガスアトマイズ法で製造され、素材が高C−13Cr鋼である。これは、硬質炭化物形成元素としてC:2.3mass%,Cr:13mass%,Mo:1mass%,V:4mass%を含有しており、残りがFe(鉄)及び不可避不純物である。
焼入れは(図1(a),(b)参照)、上述した焼入れ装置20を用いて誘導加熱にて行った。そのときの焼入れ条件は(図1(c)参照)、昇温速度が100℃/s、焼入れ温度が1150℃、その保持時間が10s、降温速度が10℃/sというものであった。
焼戻しは、電気炉で実施し、焼戻し温度530℃、保持4時間の条件で、2回実施した。
摩耗試験は(図2,図3参照)、φ30×8tの円板状に切り出した試験材14について西原式摩耗試験を行った。具体的には(図3参照)、SUJ2の焼入れ焼戻し材からなる相手材30と試験材14とをすべり度30%で滑らせながら且つ1470Nの荷重をかけながら800rpmで回転させるのを、湿式環境下で20Hr継続した。
その試験の結果(図2参照)、本発明の粉末冶金製ロールA1は摩耗量が4mgしかなく、同条件で試験した従来品より優れている。具体的には、粉末冶金製ロールB1の19mgや,溶製ロールB2の75mg,溶製ロールB3の31mg,鍛鋼ロールB4の195mgに比べて、摩耗量が少なかった。
断面画像解析は(図4参照)、試験材のうち表面から1mm深さの断面部位をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影して、2000倍のミクロ組織の画像を得、これをコンピュータに取り込んで行った。それによると、硬質炭化物は、大部分が粒径1〜4μmの微粒子であり、基地金属中にほぼ一様な状態で分散しており、何れの形状も略球状になっていた。また、硬質炭化物の面積率は、断面見掛け面積%で20%という高い占積率になっている。
硬度分布測定は(図5参照)、表面から深さ24mmまで1mm間隔で行った。それによると、表面硬さはHv850で、硬さHv700は深さ約8mmの部位にあり、この深さまでが耐摩耗層となる。硬さHv500は深さ約17mmの部位にあり、硬さ急変部はそれより深い方にあり具体的には深さ約17〜20mmの範囲にある。硬さ勾配は、Hv700〜500間が概ね220Hv/10mmであり、Hv500〜300間が概ね670Hv/10mmであり、明らかにHv700〜500間の勾配よりHv500〜300間の勾配の方が急である。更には、ロールの1/2太さの芯部領域が未硬化と見なせるHv300以下となっている。このような硬さ推移曲線における硬さ急変部や勾配に関する特徴は、本発明の粉末冶金製ロールA1にだけ有り、従来の粉末冶金製ロールB1や,溶製ロールB2,B3には無い。
浸漬腐食試験は(図6参照)、溶存酸素量8ppmの水道水を25℃に保ち、それに168Hrに亘って浸漬することで行った(図6(a)参照)。本発明の粉末冶金製ロール(高C−13Cr鋼)の腐食状態(図6(b)参照)と、同時に浸漬したSKH51材の腐食状態(図6(c)参照)とを比較すると、差は歴然としており、本発明の粉末冶金製ロールが高い耐食性を示している。
Cr含量測定は(図7参照)、EDXによる定性分析および簡易定量分析で行った。析出物(硬質炭化物)や基地金属(マトリックス)について成分分析等を行って、そのうちのCr量を集計したところ、基地金属相のCr量(A)は6%、全体のCr量(B)は13%で、基地金属相のCr割合(A/B)は0.46であった。これは、Cr割合の適正範囲0.4〜0.7に入っている。
本発明の一実施形態について、焼入れ装置の構造と焼入れ条件とを示し、(a)がロール状賦形体をセットした焼入れ装置を正面視した要部模式図、(b)がその縦断面図、(c)が焼入れ時の温度スケジュールである。 摩耗試験の結果を示し、(a)が比較表、(b)が対比グラフである。 摩耗試験の実施態様を示し、(a)が模式図、(b)が試験条件である。 試験材の断面を示す図面代用写真である。 硬さ推移曲線を対比表示した図である。 浸漬腐食試験の結果を示し、(a)が試験条件、(b)が本発明ロール(高C−13Cr鋼)の図面代用写真、(c)が比較材(SKH51)の図面代用写真である。 試験材のCr分のEDX分析結果を示す表である。
符号の説明
10 スケールブレーカー用ロール(硬化ロール)
11 ロール状賦形体
12,13 小径端部
14 試験材
20 焼入れ装置
21 昇降手段(ワーク対加熱冷却ユニット相対走行機構)
22 上端支持具(ワーク支持機構、ワーク支持回転装置)
23 誘導コイル(短区間加熱ユニット、加熱冷却ユニット)
24 空冷ジャケット(冷却ゾーン冷却ユニット、加熱冷却ユニット)
25 回転手段(ワーク回転機構、ワーク支持回転装置)
26 下端支持具(ワーク支持機構、ワーク支持回転装置)
30 相手材

Claims (5)

  1. 硬質炭化物形成元素を主成分として含有する粉末冶金製の高炭素高合金鋼組成のロール状賦形体を素材とし、熱処理によって表面から少なくとも深さ5mmまでの表層部が高硬さの耐摩耗層となっているスケールブレーカー用ロールにおいて、
    前記素材は、主成分元素としてC:1.7〜3.5mass%,Cr:10〜20mass%,Mo:0.5〜5mass%,V:1〜10mass%を含有し、前記耐摩耗層には、前記主成分元素で構成される硬質の炭化物が、断面見掛け粒径10μm以下の略球状微粒子の形で且つ10〜30断面見掛け面積%という高い占積率で分布していて、該耐摩耗層の硬さがHv700〜850の範囲にあり、また、該耐摩耗層の内側には、有効硬化状態の裏打領域と未硬化状態まで硬さが急落する硬さ急変部と未硬化状態の芯部領域とがこの順に連なっていて、該裏打領域の深さ方向の硬さ減少勾配は深さ増10mm当りのHv値減少が200ポイント台という緩勾配であり、且つ、該硬さ急変部は、ロール中心からロール半径の(1/√2)の距離に在る、半径方向に関するロール断面積2等分位置よりもロール中心側に位置しており、更には、該芯部領域の硬さがHv300以下である、ことを特徴とするスケールブレーカー用ロール。
  2. 粉末原料を焼結する工程を経て調製された高炭素高合金鋼組成のロール状賦形体を、焼入れを含む熱処理工程に供して得られた、表面から少なくとも深さ5mmまでの表層部が高硬さの耐摩耗層となっているスケールブレーカー用ロールにおいて、
    前記ロール状賦形体は主成分元素としてC:1.7〜3.5mass%,Cr:10〜20mass%,Mo:0.5〜5mass%,V:1〜10mass%を含有する組成であって、前記焼入れのための加熱は、50〜200℃/sの昇温速度と焼入れ温度における5〜30sの温度保持という急速短時間加熱条件によっており、
    前記耐摩耗層には、前記主成分元素で構成される硬質の炭化物が、断面見掛け粒径10μm以下の略球状微粒子の形で且つ10〜30断面見掛け面積%という高い占積率で分布していて、該耐摩耗層の硬さがHv700〜850の範囲にあり、また、該耐摩耗層の内側には、有効硬化状態の裏打領域と未硬化状態まで硬さが急落する硬さ急変部と未硬化状態の芯部領域とがこの順に連なっていて、該裏打領域内の深さ方向の硬さ減少勾配は深さ増10mm当りのHv値減少が200ポイント台という緩勾配であり、且つ、該硬さ急変部は、ロール中心からロール半径の(1/√2)の距離に在る、半径方向に関するロール断面積2等分位置よりもロール中心側に位置しており、更には、該芯部領域の硬さがHv300以下である、ことを特徴とするスケールブレーカー用ロール。
  3. 前記主成分元素のうちのCr分は、その4〜7割が基地金属相に含まれている、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたスケールブレーカー用ロール。
  4. 粉末原料を焼結する工程を経て調製された、硬質炭化物形成元素を主成分として含有する高炭素高合金鋼組成のロール状賦形体を、焼入れを含む熱処理工程に供して、表面から少なくとも深さ5mmまでの表層部を高硬さの耐摩耗層とした硬化ロールを得る、スケールブレーカー用ロールの製造方法において、
    前記ロール状賦形体を、主成分元素としてC:1.7〜3.5mass%,Cr:10〜20mass%,Mo:0.5〜5mass%,V:1〜10mass%を含有する組成とした上で、前記焼入れを、誘導加熱によって50〜200℃/sの昇温速度で焼入れ温度に加熱し5〜30s温度保持してから5〜50℃/sの降温速度にて冷却させるという急速・短時間加熱−緩速冷却条件にて施すことにより、
    前記硬化ロールとして、前記耐摩耗層に、前記主成分元素で構成される硬質の炭化物が、断面見掛け粒径10μm以下の略球状微粒子の形で且つ10〜30断面見掛け面積%という高い占積率で分布していて、該耐摩耗層の硬さがHv700〜850の範囲にあり、また、該耐摩耗層の内側には、有効硬化状態の裏打領域と未硬化状態まで硬さが急落する硬さ急変部と未硬化状態の芯部領域とがこの順に連なっていて、該裏打領域内の深さ方向の硬さ減少勾配は深さ増10mm当りのHv値減少が200ポイント台という緩勾配であり、且つ、該硬さ急変部が、ロール中心からロール半径の(1/√2)の距離に在る、半径方向に関するロール断面積2等分位置よりもロール中心側に位置しており、更には、該芯部領域の硬さがHv300以下であるロールを得る、ことを特徴とするスケールブレーカー用ロールの製造方法。
  5. 請求項4の製造方法における前記焼入れを行うための焼入れ装置であって、前記ロール状賦形体を、その軸線を鉛直方向に配向させた姿勢で支持するとともに軸心回転させるワーク支持回転装置と、前記ロール状賦形体の軸線方向の短区間を誘導加熱するための誘導コイルと該コイルによる加熱部を追随冷却するための少なくとも空冷ジャケットを配した冷却ゾーンとを有する加熱冷却ユニットと、前記ワーク支持回転装置と前記加熱冷却ユニットの少なくとも一方を鉛直方向走行させるようにしたワーク対加熱冷却ユニット相対走行機構と、を備えたことを特徴とする焼入れ装置。
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