JP4627813B2 - テアニン含有組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、テアニンを含有する組成物がα波を出現、持続させる増強効果、また、学習効率向上効果を持ち、その機能を食品、清涼飲料、乾燥品、嗜好品および医薬品へ応用することを目的とする組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
脳から出る微弱な電気を記録した脳波は、周波数範囲によってδ波、θ波、α波、β波に分けられる。その中でもα波は心が落ち着き、ゆったりした気分の時に現れるため、リラックスの指標として挙げられる。α波はスロー、ミッド、ファストに分けられ、スローは休息する方向に集中し、意識が低下して、ぼうっとしている時、ミッドは緊張のないリラックスした状態で集中しており、頭がさえている時、ファストは緊張した意識集中状態で、あまりゆとりのない時に出る脳波であるため、リラックス状態をはかるための有効な手段として注目されている。
従来、このようなα波を出現させる物質としては、アプル香が知られている(G.E.Schwartz et al:Psycholology 16,281,1988 )が、食品等への応用においては、食品イメージと香りの相性、また、香り自体の好き嫌いがあり、使用範囲が制限されてしまうのが現状である。また、α波発生増強法としては胸式呼吸に比べ、腹式呼吸では2倍以上のα波が発生するという呼吸制御によるα波増強の可能性が認められている(八木寛・作田利明:電子通信学会技術研究報告 Vol.86,No.55,p1-8,1986)他、音楽や映像による方法も認められている。しかしながら、これらによってα波が現れる心の状態をつくりだすにはある種の訓練や機器、時間、経費、場所が必要となり、容易にα波を増強させることはできない。また、学習能力を向上させる成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)が広く用いられており、またシアル酸を含有したスフィンゴ糖脂質の1つであるガングリオシドは学習能力の向上効果と深い関わりがあると推察されている(S.E.Karpiak,F.Vilim and Mahadik:Dev.Neurosci.,6,p127-135,1984)。
しかしながら、これらの学習能力を向上させる成分は独特の風味を有するため、食品等への応用範囲が制限され、また天然物に少量しか含まれていないため有効成分の分離・精製が煩雑であり高コストであること等の問題点を有している。
【0003】
また、従来テアニンは玉露の旨味成分として知られ、茶をはじめとする食品の香味および調味成分として重要でありその需要が高まりつつある。また一方では、テアニンを含めたγ−グルタミル誘導体は、動・植物体における生理活性物質として作用することが知られている。
例えば、テアニンはカフェインの中枢興奮作用を抑制する物質であると考えられ(Chem.Pharm.Bull., 19(7) 1301-1307(1971),同19(6) 1257-1261(1971),同34(7) 3053-3057(1986),薬学雑誌 95(7) 892-895(1975), Agric.Biol.Chem., 51,3281-3286(1987), 同52, 3173-3174(1988))、その生理活性物質としての有用性が期待されている。
さらに、テアニンの応用として、従来、アセトアルデヒド毒性の抑制剤(特開平6−40901号)が開示されている。また、動物実験によるテアニンの抗ストレス剤(特開平6−100442号)が開示されている。本来、抗ストレス剤にはストレスの緩解目的、抗てんかん作用、睡眠導入の目的にベンゾジアゼピン系やチエノジアゼピン系の薬物が用いられているが、多くの場合、副作用が危惧されるため、安全であるとは言い難い。
このようにテアニンは、甘味に関係するアミノ酸であると同時に、脳に関係する生理効果が調べられているが、脳波への影響については全く明らかではない。
現在までには音楽による脳波への影響や香りによる脳波への影響等、聴覚、嗅覚、視覚等の感覚の脳波への影響は認められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、簡単な摂取によって容易に精神的リラックスと深く係わっているα波を発生させ、持続させ、学習効率を向上させる物質を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このようなα波出現および持続に効果のある、また、学習効率向上に効果のある物質の検討を行ったところ、緑茶に多く含まれているアミノ酸の一種、テアニンがこのような効果を持つことを見いだし、本発明を完成した。テアニンのα波出現増強効果、学習効率向上効果についてはこれまで知られておらず、本発明者らが初めて見いだした新規効果である。以下、本発明について詳述する。
【0006】
本発明に用いられるテアニンは、茶の葉に含まれているグルタミン酸誘導体で、茶の旨味の主成分である。その含有量は、他のアミノ酸よりも高く、乾燥茶葉100g中に玉露(上)では2466.1mg、玉露(並)では2007.7mg、煎茶(上)では1496.6mg、煎茶(並)では652.5mg、番茶では416.7mg、ほうじ茶では21.7mgと報告されている(茶研報 No.40, 65, 1973)。また、呈味を用途とする食品添加物として使用されており、その添加量には制限はない。
本発明に用いられるテアニンの製造法としては、有機合成法(Chem.Pharm.Bull., 19(7) 1301-1307(1971))、発酵法(特開平5−68578号、特開平5−328986号)、植物細胞培養法(特開平5−123166)等があり、いずれの方法でも良い。
また、このような方法により得られたテアニンはL−体、D−体、DL−体いずれも使用可能であるが、中でもL−体は天然物由来であるため、含まれる不純物も食品として摂取でき、高度精製の必要がないため、本発明においてはL−体が好ましい。
【0007】
本発明におけるα波出現増強とは、被験者に電極を装着し脳波計を用いて脳波を測定した時、α波の出現時間の累計が平常時に比べ、10%以上増加し、且つ、摂取後60分まで10分毎のα波の出現時間が減少せず、持続するものである。測定例としては、例えば被験者は外部から遮断された閉鎖環境室にて椅子座位で脳波計 NEC SYNAFIT 1000を用いて単極導出法で測定する方法があげられるが、本発明の測定方法の範囲はこれに限定されるものではなく、国際標準法の単極導出法や双極導出法等脳波測定に関する公知の方法であればよい。
また、学習効率向上には、脳の高度な働きが必要であるが、人間が暗算など作業に集中している時にはα波が出ていることが報告されており(河野貴美子他:FRAGRANCE JOURNAL 研究報告,p111-118,1994-2)、緊張を伴わない集中状態の形成や自律機能の安定化、また、こだわりにとらわれない素直な見方・考え方を可能にし、潜在能力発揮の鋭敏化、精神の感覚の鋭敏化をすることにより、集中力や思考力、判断力、記憶力をあげることである。
【0008】
本発明のα波出現増強組成物の有効成分であるテアニンは、そのまま使用してもよいが、食品、乾燥品、嗜好品に添加する製剤、清涼飲料やミネラルウォーター、嗜好飲料、アルコール飲料、ドリンク剤に添加する可溶性製剤としても使用可能である。また、医薬品としてもカプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤、注射剤、点滴剤等に製剤することができる。L−テアニンはマウスを用いた急性毒性試験において2g/kg経口投与で死亡例はなく、一般症状及び体重等に異常は認められず、非常に弱毒または無害の物質であるため、保健的効果のある食品素材および飲料素材としての発展が望める。また、他の成分(精油、アミノ酸、ビタミン等)とも併せて使用できる。
【0009】
本発明のテアニン含有組成物をα波出現増強組成物として用いるには、テアニンとして体重1kg当たり0.3mg(以下0.3mg/kgの如く表示する)以上を投与すれば充分な効果を得ることができる。また、学習効率向上組成物として用いるには、0.3mg/kg以上を投与すれば充分な効果を得ることができるが、投与量を増加させると効果はより一層増強する。テアニンの投与量に特に上限は存在しないが、テアニンの特有の呈味と経済性を考慮すると一般的に300mg/kg程度を越えないことが好ましい。従って、本発明のテアニン含有組成物がその効果を充分に発揮するためには、テアニンを1回服用当たり0.3mg/kg〜300mg/kg含有することが好ましい。さらに望ましくは0.3mg/kg〜30mg/kg含有することが好ましい。また、0.3〜3mg/kgとすることは最も好ましい。
次に実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【0010】
【実施例】
実施例1
0.3Mグルタミン及び1.5Mエチルアミンをホウ酸緩衝液(Na2B4O7 −NaOH、pH11)中、0.3U/mlグルタミナーゼにて30℃、22時間反応させた。反応液1より225mmolのテアニンを得た。なお、副生成物のグルタミン酸は20mmolであった。なお、反応液からの精製は、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィーにかけ、これをエタノール処理することにより行った。
テアニンの確認はこの単離物質をアミノ酸アナライザー、ペーパークロマトグラフィーにかけると、標準物質と同じ挙動を示すことにより行った。塩酸またはグルタミナーゼで加水分解処理を行なうと、1:1の割合で、グルタミン酸とエチルアミンを生じた。このように、単離物質がグルタミナーゼによって加水分解されたことから、エチルアミンがグルタミン酸のγ位に結合していたことが示される。また、加水分解で生じたグルタミン酸がL型であることも、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GluDH)により確認され、得られた化合物がL−テアニンであることを確認した。
【0011】
実施例2
茶(Camellia sinensis L.)葉を熱水で抽出後、カチオン交換樹脂(室町化学工業(株)製 Dowex HCR W-2)に通し、1N NaOHにより溶出した。溶出画分を活性炭(二村化学工業(株)製 太閤活性炭 SG)に通し、15%EtOHによる溶出画分をRO膜(日東電工(株)製 NTR 729 HF)を用いて濃縮し、カラムクロマトグラフィーにて精製し、更に再結晶を行い、テアニンを製造した。
試験例1
実施例1で得られた本発明品であるテアニン含有組成物のα波の出現と持続効果を調べるため、人にテアニン含有組成物を摂取させた。試験には実施例1で得られたテアニン含有組成物200mgをミネラルウォーター100mlに溶解したテアニン含有組成物水(以下テアニン含有組成物水と称す)を供した(約3mg/kgに相当する)。まず、被験者は外部から遮断された25℃、40ルクスの閉鎖環境室にて椅子座位で脳波を測定した。脳波測定には脳波計 NEC SYNAFIT 1000を用いた。測定は被験者6名に対して行い、被験者の両耳たぶ(電位零と考えられる点)に基準電極を置き、頭部12ヶ所に探査電極(脳波をとらえるために頭の表面に置かれた電極)を装着し、単極導出法で行った。測定時間はテアニン含有組成物水または水を100ml摂飲後1時間とした。
【0012】
水、テアニン含有組成物水摂飲後のα波を脳波形より読み取り、10分毎のα波の出現時間と出現回数を算出した。
結果を図1、図2に示す。
図1、図2より明らかなようにテアニン含有組成物水を摂飲した時の方が対照の水を摂飲した時よりα波の出現時間が増加しており、摂取後40分以降も水摂飲ではα波の出現時間が減少するのに対して、テアニン含有組成物水摂飲では持続効果を発揮し、α波の出現を増強させる効果を発揮した。
試験例2
実施例1および実施例2で得られた本発明品であるテアニン含有組成物を60mg、300mg、1200mgミネラルウォーター100mlに溶解したテアニン含有組成物水(それぞれ約1mg/kg、5mg/kg、200mg/kgに相当する)を男女合計7名にそれぞれ摂飲させ、呈味の有無について官能試験を行った。
結果を表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
表1より明らかなようにテアニン含有組成物を300mg以上含有すると呈味を感じる人がいるが、60mgでは感じず、風味には影響が生じなかった。
このことより呈味を感じない上限を調べた結果、200mgまでは風味に影響が生じなかった。
試験例3
実施例1および実施例2で得られた本発明品であるテアニン含有組成物の学習効率向上効果を調べるため、ラットを用いて実験を行った。まず、5週令のラットにサンプルを飼料中に規定量添加した。ラットへのサンプルの投与は、1週間行った。試験区として本発明品であるテアニン含有組成物1mg/kg、10mg/kg、200mg/kg(人間の代謝に換算すると、それぞれ約 0.3mg/kg、2.5mg /kg、50mg/kgに相当する)を含有するテアニン含有組成物水、生理食塩水で実験を行った。投与後から1週間、毎日図3に示す迷路を走らせ、スタートからゴールまでの到達時間の平均から各サンプルの学習効率向上効果を測定した。
結果を図4に示す。
図4より明らかなようにテアニン含有組成物は生理食塩水以上にゴールまでの到達時間は短縮されており、学習効率の向上に優れた効果を発揮した。
【0015】
本発明の実施態様をあげれば以下の通りである。
(1)テアニンを含有することを特徴とするα波出現増強組成物。
(2)テアニンがL−テアニンであるα波出現増強組成物。
(3)テアニンがD−テアニンであるα波出現増強組成物。
(4)テアニンがDL−テアニンであるα波出現増強組成物。
(5)テアニンをグルタミンとエチルアミンの混合物にグルタミナーゼを作用させることにより製造することを特徴とする前記(1)〜(4)記載のα波出現増強組成物。
(6)テアニンが茶由来であることを特徴とする前記(1)〜(2)記載のα波出現増強組成物。
(7)テアニンを含有することを特徴とする学習効率向上組成物。
(8)テアニンがL−テアニンである学習効率向上組成物。
(9)テアニンがD−テアニンである学習効率向上組成物。
(10)テアニンがDL−テアニンである学習効率向上組成物。
(11)テアニンをグルタミンとエチルアミンの混合物にグルタミナーゼを作用させることにより製造することを特徴とする前記(7)〜(10)記載の学習効率向上組成物。
(12)L−テアニンが茶由来であることを特徴とする前記(7)〜(8)記載の学習効率向上組成物。
【0016】
【発明の効果】
以上のように本発明品であるテアニン含有組成物は容易にα波の出現と持続を増強することができ、また、学習効率を向上させることができる。本発明品を用いることは味、香り等において食品、医薬品等に応用範囲が広く、効果、安全性の点をも考え併せて極めて有益である。
【0017】
【図面の簡単な説明】
【図1】α波の出現回数に及ぼすテアニンの効果を示し、左脳と右脳のα波の合計値を示した図である。
【図2】α波の出現時間に及ぼすテアニンの効果を示し、左脳と右脳のα波の合計値を示した図である。
【図3】迷路の平面図である。
【図4】ゴールまでの到達時間の図である。
Claims (2)
- テアニンを含有することを特徴とする、α波の出現時間の累計を平常時に比べ10%以上増加させるための、α波出現増強剤。
- テアニンを含有することを特徴とする、学習効率向上剤。(脳代謝又は脳機能の障害及びこれらに起因する症状、並びに神経障害の治療・改善・予防作用を除く。)
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