JP4624558B2 - GLP−1またはExendin−4による、非インスリン産生細胞のインスリン産生細胞への分化、およびその使用 - Google Patents
GLP−1またはExendin−4による、非インスリン産生細胞のインスリン産生細胞への分化、およびその使用 Download PDFInfo
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Description
合衆国政府は、本発明に対して特定の権利を有する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、非インスリン産生細胞を、グルカゴン様ペプチド−1(「GLP−1」)、exendin−4、または関連したペプチドと接触させることにより、非インスリン産生細胞から分化したインスリン産生細胞の集団に関する。本発明はまた、インスリン産生細胞を得るための方法、および真性糖尿病の処置における治療的用途に関する。
【0003】
(背景技術)
哺乳動物の膵臓は、2つの異なる型の腺組織(腸内へ消化酵素を分泌する外分泌細胞および血流内へホルモンを分泌する内分泌細胞)から構成される。内分泌細胞は、神経堤から発達すると伝統的に考えられていたのに対して、外分泌細胞は、内胚葉から発達すると考えられていた。より最近の研究は、これらの2つの細胞型が、管の上皮性内層に沿って位置する共通の内胚葉前駆体細胞に由来し得ることを示唆する(Teitelman,1996)。内分泌細胞は末端で分化されて、そして新しい内分泌細胞を作るために***しないことに注意すべきである。膵臓内胚葉前駆体細胞は、新しい膵臓内分泌細胞を産生すると考えられる唯一の細胞である。
【0004】
膵臓は管(これは腸へ外分泌酵素(アミラーゼおよびリパーゼ)を運搬する);腺房細胞(これは外分泌酵素を産生する);およびランゲルハンス島(これはインスリン、アミリン、およびグルカゴンを産生および分泌する内分泌細胞を含む)からなる。これらのホルモンは、著しく狭い範囲内で正常な血糖値を維持するのに役立つ。
【0005】
これらの島細胞の中には、インスリンを産生および分泌するβ細胞がある。このβ細胞によるインスリン産生および分泌は、血糖値によって制御される。血糖値が上昇すると、インスリン放出は増大する。インスリンは、標的組織によるグルコースの取りこみを促進し、従って貯蔵のために組織へグルコースをシャトリングすることによって高血糖を防ぐ。
【0006】
β細胞機能障害および付随するインスリン産生の低下は、真性糖尿病を生じ得る。1型糖尿病において、このβ細胞は、免疫系によって完全に破壊されて、インスリン産生細胞の欠損を生じる(Physician’s Guide to Insulin Dependent[Type I]Diabetes Mellitus:Diagnosis and Treatment,American Diabetes Association,1988)。2型糖尿病において、標的組織がグルコースの取りこみに対するインスリンの効果に抵抗性になると、このβ細胞は進行的に効率が低くなる。2型糖尿病は、進行性の疾患であり、そしてβ細胞機能は、現在利用可能ないかなる薬剤による継続処置にもかかわらず悪化し続ける(UK Prospective Study Group,1995)。従って、β細胞は、1型糖尿病を有する人々において存在せず、そして2型糖尿病を有する人々において機能に障害がある。
【0007】
β細胞機能障害は、現在いくつかの異なる方法で処置される。1型糖尿病または後期の2型糖尿病の処置において、インスリン代償療法が用いられる。たとえ連続注入または複数注射が、複雑な養生法で用いられても、インスリン治療は、命を救うが、正常血糖を回復しない。例えば、食後の血糖値は、インスリン代償療法の個人において引き続き過剰に高い。従って、インスリン代償療法は、毎日の複数の注射または連続注入により送達されなければならず、そしてこの効果は、高血糖、低血糖、代謝性アシドーシス、およびケトン症を避けるために、慎重にモニターされなくてはならない。
【0008】
β細胞の置換は、膵臓移植により達成され得る。(Scharpら、1991;Warnockら、1991)。しかし、このような移植は、適合するドナーを見付けること、収集された組織を移植するための外科的手法、および移植片の受入れを必要とする。1型糖尿病を有する人々における移植後に、継続免疫抑制治療が必要とされる。なぜなら、β細胞上の細胞表面抗原は、本来β細胞を破壊した同じプロセスによって認識されそして攻撃されるからである。しかし、免疫抑制薬物(例えば、シクロスポリンA)は、感染の可能性の増大を含む、多数の副作用を有する。従って、移植は、多数の合併症を生じ得る。
【0009】
2型糖尿病を有する人々は、一般にβ細胞からのインスリン産生および分泌を刺激する薬物で処置される。しかし、これらの薬物の主な不利益は、インスリン産生および分泌が、血糖値にかかわらず促進されることである。従って、食物摂取量は、低血糖または高血糖を避けるために、インスリン産生および分泌の促進に対して均衡が保たれなければならない。
【0010】
近年、いくつかの新規の薬剤が、2型糖尿病を処置するために利用可能になった。これらは、メトホルミン、アカルボースおよびtroglitazoneを含む(BresslerおよびJohnson,1997を参照のこと)。しかし、これらの新規の薬剤によって得られたヘモグロビンA1cの低下は、決して十分ではなかった(Ghazziら、1997)。このことは、これらが真性糖尿病の長期の制御を改善しないことを示唆する。
【0011】
つい最近、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)(通常は食物に応答して腸の神経内分泌細胞により分泌されるホルモン)は、2型糖尿病のための新たな処置として示唆された(Gutniakら、1992;Nauckら、J.Clin.Invest.,1993)。この処置は、長年にわたる2型糖尿病を有する被験体でもβ細胞によるインスリン放出を増加させる(Nauckら、Diabetologia,1993)。GLP−1処置は、インスリン治療を超える利点を有する。なぜなら、GLP−1は、血糖値が低下したときに遮断される、内因性インスリン分泌を刺激するからである。GLP−1は、インスリン放出および合成を増加させ、グルカゴン放出を阻害し、そして胃排出(gastric emptying)を低減させることにより、正常血糖を促進する(Nauckら、Diabetologia,1993;Elahiら,1994;Willsら,1996;Nathanら,1992;De Oreら,1997)。GLP−1はまた、ヘキソキナーゼメッセンジャーRNAレベルにおける増加を誘導する(Wangら.,Endocrinology 1995;Wangら.,1996)。GLP−1は、β細胞に対して強力なインスリン分泌効果を有すること(ThorensおよびWaeber,1993;Orskov,1992)およびインスリン分泌細胞株に24時間にわたり添加した場合、インスリン生合成およびプロインスリン遺伝子発現を増加させる(Druckerら.,1987;FehmannおよびHabener,1992)ことが公知である。RIN 1046−38細胞を使用する研究において、GLP−1での24時間処置は、GLP−1を1時間取り除き、そして細胞を数回洗浄した後ですらグルコース応答性を増大させた(Montrose−Rafizadehら,1994)。従って、GLP−1は、β細胞に対して長期間の効果を有することが公知であるインスリン放出薬剤であり、そしてインスリン分泌性薬剤である(すなわち、インスリン合成を増加させる薬剤)。GLP−1は、プログルカゴンの翻訳後修飾の産物である。GLP−1の配列ならびにその活性フラグメントGLP−1(7−37)およびGLP−1(7−36)アミドは、当該分野で公知である(Fehmannら,1995)。
【0012】
GLP−1レセプターは、腸および膵島に存在することが示された(同書)。このレセプターは、グルカゴン、セクレチン、および血管作用性腸ペプチドレセプターを含むGタンパク質連結レセプターのファミリーに属する。GLP−1のそのレセプターに対する結合の後に、ランゲルハンス島のβ細胞においてcAMPの上昇がみられる(Widmannら,1996)。このことは、このレセプターが、刺激Gタンパク質によりアデニルシクラーゼ系に共役することを示す。しかし、末梢組織(例えば、肝臓、脂肪および骨格筋)において、GLP−1でのcAMPの増加はみられなかった。このことは、GLP−1が末梢組織に対して異なる系を介して作用することを示唆する(ValverdeおよびVillanueva−Penacarrillo,1996)。
【0013】
Exendin−4は、ドクトカゲ(Gila Monster lizard)(Gokeら,1993)の唾液腺において生成されるペプチドである。Exendin−4のアミノ酸配列は、当該分野で公知である(Fehmannら,1995)。これは、非哺乳動物遺伝子の独特の産物であり、唾液腺においてのみ発現されるようである(ChenおよびDrucker,1997)が、Exendin−4は、GLP−1と52%のアミノ酸配列相同性を共有し、そして哺乳動物においてGLP−1レセプターと相互作用する(Gokeら,1993;Thorensら,1993)。インビトロでは、Exendin−4は、インスリン産生細胞によるインスリン分泌を促進し、そして等モル量で与えられた場合は、インスリン産生細胞からのインスリン放出を引き起こすに、GLP−1より強力であることを示した。
【0014】
GLP−1を用いるインビトロ研究は、1回のGLP−1のボーラス注射もしくは短期間の注入またはそれらの繰り返しおよびインスリン分泌効果の引き続く評価の使用に制限された。1つのこのような研究において、2時間にわたるGLP−1の注入を、GLP−1が筋肉のグルコース取り込みおよび肝臓からのグルコース放出を促進する能力について、1型糖尿病を有する患者において試験した(Gutniakら,1992)。インスリンの放出を増加させるためのGLP−1の治療的用途を、2型糖尿病について考えたが、1型糖尿病については考えなかった。なぜなら、1型糖尿病は、GLP−1の公知の標的細胞であるβ細胞が存在しないことが顕著であるからである。さらに、GLP−1は、糖尿病の処置における治療剤として制限されていることが公知である。なぜなら、ボーラス皮下注射によって与えられて(Ritzelら,1995)すら、短い生物学的半減期を有する(De Oreら,1997)からである。Exendin−4は、インビボ研究において以前は使用されていなかった。従って、これまでの研究は、GLP−1またはExendin−4のいずれかが、1型糖尿病を有する人々の膵臓機能に対して治療的効果があることも、β細胞以外に膵臓においてGLP−1またはExendin−4標的細胞が存在することも、全く示唆されていなかった。
【0015】
(発明の要旨)
本発明の目的は、非インスリン産生細胞と、GLP−1またはExendin−4、GLP−1またはExendin−4に実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択される増殖因子とを接触させる工程を包含するプロセスにより作製されるインスリン産生細胞の集団を提供することによって、先行技術の有する上記の問題を克服または低減することである。さらに、非インスリン産生細胞をインスリン産生細胞へと分化させる方法が提供され、この方法は、非インスリン産生細胞と、GLP−1またはExendin−4、GLP−1またはExendin−4に実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントとを接触させる工程を包含する。さらに、インスリン産生細胞の細胞集団を富化する方法が提供され、この方法は、細胞集団と、非インスリン産生細胞のインスリン産生細胞への分化を促進する増殖因子とを接触させる工程を包含する。
【0016】
1型糖尿病と診断された被験体において糖尿病を処置する方法もまた提供される。この方法は、少なくとも24時間にわたる連続注入によって、GLP−1またはExendin−4、GLP−1またはExendin−4に実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択される増殖因子を被験体に投与する工程を包含する。本発明はさらに、被験体における糖尿病を処置する方法を提供することにより先行技術を克服し、この方法は、以下を包含する:処置される被験体またはドナーから非インスリン産生細胞を得る工程;この非インスリン産生細胞と、上記の増殖因子とを接触させ、このことにより、非インスリン産生細胞のインスリン産生細胞への分化を促進する工程;および非インスリン産生細胞から分化するように促進されたインスリン産生細胞を、糖尿病被験体に投与する工程を包含する。
【0017】
(発明の詳細な説明)
特許請求の範囲において使用される場合、「a」は、1つ以上を意味し得る。
【0018】
本発明は、以下の工程を包含するプロセスにより作製される、インスリン産生細胞の集団を提供する:非インスリン産生細胞を、GLP−1またはExendin−4、実質的にこれらと相同であるアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択される増殖因子と接触させる工程。以前には、GLP−1レセプターを有すると考えられておらず、そしてインスリンを産生し得ると考えられていなかった非インスリン産生細胞(一次腺房細胞、腺房細胞株(例えば、AR42J)、および幹細胞を含む)は、GLP−1およびExendin4、実質的にこれらと相同であるアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントに対して、インスリン産生細胞へと分化することによって応答し得る。この効果は、インスリン産生細胞の数を増大することであり、これは、真性糖尿病の処置において望ましい効果である。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「インスリン産生細胞」とは、インスリンを、構成的様式または誘導性様式で、合成する(すなわち、インスリン遺伝子を転写し、プロインスリンmRNAを翻訳し、そしてこのプロインスリンmRNAをインスリンタンパク質へと修飾する)か、発現する(すなわち、インスリン遺伝子により保有される表現型特性を明らかにする)か、または分泌する(細胞外空間へとインスリンを放出する)、細胞を包含する。公知のインスリン産生細胞の例としては、β細胞が挙げられる。このβ細胞は、インビボで膵島に位置する。インスリンを分泌するために、インスリン産生細胞はまた、IDX−1を発現しなければならない。
【0020】
本発明により産生されたインスリン産生細胞の集団は、本発明の方法の使用を伴わずにインスリンを産生する細胞(例えば、β細胞)または他の細胞型を含み得る。本発明の組成物および方法の新規性は、インスリンを自然に産生する集団の細胞(例えば、β細胞)の存在によって否定されない。インスリン産生細胞の集団はまた、非インスリン産生細胞も含み得ることもまた、意図される。
【0021】
「非インスリン産生細胞」とは、構成的または誘導的にインスリンを自然に合成せず、発現せず、もしくは分泌しない、いかなる細胞をも意味する。従って、本明細書中にて使用される用語「非インスリン産生細胞」は、β細胞を除外する。本発明の方法において使用され得る非インスリン産生細胞の例は、アミラーゼ産生細胞、腺房細胞、管状(ductal)腺癌細胞株の細胞(例えば、CD18、CD11、およびCapan−I細胞(Busikら、1997;Schaffertら、1997を参照のこと)のような膵臓性非β細胞、ならびに幹細胞を含む。非膵臓性細胞(例えば、非膵臓性幹細胞および他の内分泌器官の細胞または外分泌器官の細胞(例えば、下垂体性細胞が挙げられる))もまた使用され得る。この非インスリン産生細胞は哺乳動物細胞であり得るか、またはさらにより具体的にはヒト細胞であり得る。哺乳動物の、膵臓性非島細胞、膵臓性アミラーゼ産生細胞、膵臓腺房細胞、および幹細胞を使用する本発明の方法の例を、本明細書中に提供する。幹細胞は、IDX−1、Beta 2/NeuroDおよびE47を生産するように促進された膵臓性幹細胞および非膵臓性幹細胞を包含し得る。膵臓性幹細胞は、島細胞および腺房細胞の両方を生じる管上皮前駆細胞を含む。
【0022】
非インスリン産生細胞は、インスリン産生細胞へと分化させるために、GLP−1レセプターまたは実質的にGLP−1レセプターと類似するレセプターを有さなければならない。好ましくは、この非インスリン産生細胞はまた、増殖因子との接触において、細胞内カルシウムの増加およびERK/MARK活性およびPKCの活性化を示し得る。
【0023】
本願にて使用される場合、「増殖因子」は、非インスリン産生細胞をインスリン産生細胞へと分化させ得る物質を意味する。好ましくは、この増殖因子は、インスリン産生性(insulinotropic)増殖因子の群のうちの1つであり、例えば、GLP−1、exendin−4、βセルリン、Hepatocyte Scatter Factor(HSF)、およびアクチビン−Aまたはそれらの組合わせが挙げられるが、βセルリンおよびアクチビンAの一緒の使用ならびにHSFおよびアクチビン−Aの一緒の使用は除外する。好ましくは、この増殖因子との接触において、10%よりも多くの非インスリン産生細胞がインスリン産生細胞に分化し、そして、より好ましくは、少なくとも、約20%、約30%、約40%、約50%またはそれ以上の非インスリン産生細胞が、インスリン産生細胞に分化する。従って、本方法に従ってインビトロにて生成されるインスリン産生細胞の集団は、11%程度の少なさおよび100%までのインスリン産生細胞を包含し得る。
【0024】
GLP−1またはexedin−4に「実質的に相同なアミノ酸配列」とは、非インスリン産生細胞からインスリン産生細胞を分化する能力に関して、機能的活性の消失をほとんど伴わずに、GLP−1またはexedin−4と比較した場合に、GLP−1またはexedin−4のアミノ酸配列において一個以上の付加的アミノ酸、アミノ酸の欠失、または置換を含む、ポリペプチドを意味する。例えば、その欠失は、ここに定義されている分化活性に必要不可欠でないアミノ酸から成り得、そして置換(一個または複数)は保存的であり得る(すなわち、塩基性、親水性または疎水性のアミノ酸が同じ性質をもつアミノ酸に代えて置換される)。従って、所望される場合、修飾および変化がGLP−1およびExedin−4のアミノ酸配列にてなされ得、そして類似した特徴を有するタンパク質がなお得られ得ることが、理解される。従って、生物学的な有用性または活性の消失をほとんど伴わず、そしておそらくそのような有用性または活性の増加を伴う種々の変化が、GLP−1のアミノ酸配列またはExedin−4のアミノ酸配列(または下線を引いた核酸配列)においてなされ得ることが意図される。本明細書にて使用される用語「フラグメント」とは、GLP−1、Exedin−4またはこれらに実質的に相同的なアミノ酸配列を有する増殖因子に関して、GLP−1、Exedin−4またはそれらに実質的に相同的なアミノ酸配列を有する増殖因子のいずれかの、少なくとも五個連続したのアミノ酸のポリペプチド配列を意味し、ここでそのポリペプチド配列は、本明細書にて記載されるようなGLP−1およびExedin−4の分化機能を有する。このフラグメントは、抗原性、GLP−1レセプターへの結合、DNA結合(転写因子の場合のように)、RNA結合(RNAの安定性または分解を調節する場合のように)を含み得るさらなる機能を有し得る。GLP−1の活性フラグメントとしては、例えば以下が挙げられる:GLP−1(7〜36)アミド
【0025】
【化1】
【0026】
GLP−1の他のフラグメントおよび改変された配列は当該分野にて既知である(米国特許No.5,614,492;米国特許No.5,545,618;欧州特許出願、公報No.EP0658568Al;WO93/25579)。exendin−4の類似したフラグメントおよび改変された配列が、容易に推定され得る。GLP−1(上付き文字の残基番号)およびexedin−4(括弧書きかつ上付き文字の残基番号)内の以下の残基がフラグメントに含まれるべきであることが予期される。なぜならこれらの残基は、高度に保存されており、そしてレセプター結合に重要であるためである:H7(1)、G10(4)、F12(6)、T13(7)、D15(9)。従って、さらなるフラグメントまたは改変された配列が、これら5個以外のGLP−1およびexendin−4のアミノ酸を除外または変更して容易に生成され得る。本明細書にて開示されている分化活性を評価するのは容易であるため、フラグメントが本発明の範囲内であることの決定は、慣用的である。
【0027】
本発明は、本明細書中に記載の方法によって作製されるインスリン分泌細胞の集団を提供する。IDX−1発現は、細胞からのインスリン分泌に必要とされるので、インスリン分泌細胞を作製するために使用され得る非インスリン産生細胞は、構成的にか、または増殖因子での刺激の際にか、あるいは非インスリン産生細胞の増殖因子での処理前、処理の間または処理後にIDX−1をコードする核酸を細胞にトランスフェクトすることによって、IDX−1を発現する細胞を含むべきである。
【0028】
本発明はまた、非インスリン産生細胞からインスリン産生細胞を分化させ得る増殖因子を提供する。このような増殖因子としては、GLP−1、Exendin−4、またはそれらに実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。分化は、非インスリン産生細胞の増殖因子との接触の際に、インビボまたはインビトロで生じ得る。この接触は、ボーラスによって1度であり得るか、連続注入によって1度であり得るか、またはボーラスまたは連続注入によって繰り返され得る。
【0029】
本発明はまた、非インスリン産生細胞からインスリン産生細胞を分化させる増殖因子のスクリーニング方法を提供する。より詳細には、このスクリーニング方法は、以下の工程を包含する:(1)スクリーニングされるべき増殖因子と非インスリン産生細胞とを接触させる工程、(2)インスリン産生細胞の特徴について、この非インスリン産生細胞を評価する工程、および(3)非インスリン産生細胞からインスリン産生細胞を分化させる増殖因子を同定する工程。インスリン産生細胞の好ましい特徴としては、インスリン遺伝子を転写する能力、インスリンmRNAを翻訳する能力、インスリンを放出または分泌する能力、インスリンを貯蔵する能力、グルコースレベルを感知する能力、および調節様式でインスリンを放出する能力が挙げられる。転写因子IDX−1、Beta2/NeuroDおよびE47の発現は、インスリンの産生に必要であると考えられるので、これらの因子はまた、本発明のインスリン産生細胞において、代表的に発現される。
【0030】
「接触させる」とは、生理学的に有効なレベルの物質に対する、細胞の細胞外表面の曝露の例を意味する。細胞は、例えば、増殖因子を培養培地に添加すること(連続注入によるか、ボーラス送達によるか、またはその培地を増殖因子を含む培地に変更することによる)によって、あるいはインビボで増殖因子を細胞内液体に添加すること(局所送達、全身性送達、静脈内注射、ボーラス送達、または連続注入による)によって、増殖因子に接触され得る。細胞または細胞の群との「接触」の継続時間は、その物質(この場合では、増殖因子)が、培地中または細胞を浴する細胞外液体中で生理学的に有効なレベルで存在する時間によって、決定される。GLP−1は、数分の短い半減期を有し、そしてExendin−4の半減期は、実質的により長く、数時間のオーダーである。従って、GLP−1のボーラスは、数分間の細胞との接触を有するが、Exendin−4のボーラスは、数時間細胞に接触する。
【0031】
本発明の方法における接触工程は、インビトロで行われ得る。例えば、移植プロトコルにおいて、当該分野で周知の標準的なプロトコル(Gromadaら、1998を参照のこと)に従って、エキソビボ方法が使用され得、その結果、非インスリン産生細胞は、ドナー(例えば、処置される被験体)から除去され、そして体外で維持される。体外で維持される間、細胞は、増殖因子と接触され得、そして細胞は、その後、当該分野で周知の方法を使用して、ドナー被験体またはドナー被験体とは異なる被験体内に、注入(例えば、受容可能なキャリア中で)または移植され得る。
【0032】
あるいは、本発明の接触工程は、インビボで行われ得る。GLP−1、Exendin−4または関連の増殖因子を投与するための方法が、本明細書中に提供される。GLP−1、Exendin−4または関連の増殖因子は全身的に投与され、これには、例えば、以下によるものが含まれる:ポンプ、静脈内ライン、またはボーラス注射(Gutniakら、1992;欧州特許出願公開番号0619322 A2;米国特許第5,614,492号;米国特許第5,545,618号)。ボーラス注射は、皮下経路、筋肉内経路または腹腔内経路を含み得る。
【0033】
非インスリン産生細胞は、GLP−1またはExendin−4、それらに実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、あるいはそれらのフラグメントとの約24時間の接触後に、インスリン産生細胞に分化し始める。最大数の細胞のインスリン産生細胞への分化は、通常は、約7日の接触後に生じた。興味深いことに、新しいインスリン産生細胞は、GLP−1またはExendin−4、そのフラグメントあるいは関連する増殖因子との接触が中断された後でさえ、インスリンを産生する能力を示し続ける。新しいインスリン産生細胞は、接触が中断された後少なくとも2週間まで、インスリンを産生する能力を示す。
【0034】
従って、この接触工程は、代表的に少なくとも24時間である。「少なくとも24時間」とは、24時間以上を意味する。詳細には、非インスリン産生細胞は、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60時間から、3、4、5、6、7日またはそれを越える日数の間、あるいは上記範囲内で数時間または数分の任意の特定の介入時間、増殖因子と接触され得る。好ましくは、非インスリン産生細胞は、7日間増殖因子と接触される。
【0035】
本発明のインビボまたはインビトロの方法およびプロセスにおいて使用されるべき、GLP−1、Exendin−4、それらの活性なフラグメントあるいは関連する増殖因子の用量は、好ましくは、連続投与について、約1pモル/kg/分〜約100nモル/kg/分、およびボーラス注射について、約1nモル/kg〜約40nモル/kgの範囲である。好ましくは、インビトロ方法におけるGLP−1の用量は、10pモル/kg/分〜約100nモル/kg/分、およびインビボ方法において、約0.003nモル/kg/分〜約48nモル/kg/分である。より好ましくは、インビトロ方法におけるGLP−1の用量は、約100ピコモル/kg/分〜約10ナノモル/kg/分、およびインビボ方法において、約0.03ナノモル/kg/分〜約4.8ナノモル/kg/分の範囲である。インビトロ方法におけるExendin−4の好ましい用量は、1pモル/kg/分〜約10nモル/kg/分、およびインビボにおいて、ボーラス注射について約1pモル/kg〜約400pモル/kgである。インビトロ方法におけるExendin−4のより好ましい用量は、約10pモル/kg/分〜約1nモル/kg/分、およびインビボにおいて、ボーラス注射について約10pモル/kg〜約40pモル/kgの範囲である。
【0036】
GLP−1またはExendin−4、それらに対して実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択される増殖因子と、非インスリン産生細胞とを接触させることを包含する、非インスリン産生細胞をインスリン産生細胞に分化させる方法が提供される。「非インスリン産生細胞をインスリン産生細胞に分化させること」により、影響を受けた細胞が、少なくとも、インスリンを産生する表現型特徴を有するような、非インスリン産生細胞の表現型の特徴における変化が意味される。影響を受けた細胞は、β細胞の表現型特徴の全てを有し得るか、あるいはβ細胞の表現型の特徴の全て未満を有し得る。影響を受けた細胞は、インスリンを産生し得るが、それ以外に非インスリン産生細胞の表現型の特徴を維持し得る。例えば、GLP−1またはExendin−4と接触された非インスリン産生細胞(例えば、膵アミラーゼ産生細胞(すなわち、膵臓の腺房細胞))、アミラーゼを発現し続け得るが(アミラーゼ産生細胞の典型)、代表的なアミラーゼ産生細胞とは異なり、インスリンもまた産生する。従って、完全な表現型の変化と単一の表現型の変化との間の連続性が可能である。実施例は、インスリン産生能が成熟した非インスリン産生細胞(例えば、腺房細部)に対して付与され得るという驚くべき結果を示す。非インスリン産生細胞の増殖の増加は、インスリン産生細胞への非インスリン産生細胞の分化に先行し得、そして「分化」は、インスリン産生の表現型への細胞の変化を伴う任意の増殖を除外することを意味しない。
【0037】
インスリンの分泌におけるIDX−1、Beta2/NeuroD、およびE27の重要性のために、本発明はまた、GLP−1、Exendin−4、または同様の増殖因子と非インスリン産生細胞とを接触させる前に、IDX−1、Beta2/NeuroD、および/またはE27をコードする核酸を、非インスリン産生細胞にトランスフェクトするさらなる工程を包含する、非インスリン産生細胞をインスリン産生細胞に分化させる方法を提供する。あるいは、さらなる工程は、GLP−1またはExendin−4、あるいは同様の増殖因子と既に接触された細胞に、IDX−1、Beta2/NeuroD、および/またはE27をコードする核酸をトランスフェクトすることを包含し得る。この接触された細胞がインビボである場合、トランスフェクションは、膵臓の分泌管中へのIDX−1についてのプラスミドDNAの逆行性の灌流によって達成され得る(Goldfineら、1997を参照のこと)。さらに、いくつかの場合、IDX−1、Beta2/NeuroD、およびE47の発現は、非IDX発現細胞(例えば、幹細胞を含む)に対する特定のタンパク質の適用から生じ得る。
【0038】
本発明は、インスリン産生細胞の細胞の集団を富化する方法を提供し、この方法は、非インスリン産生細胞のインスリン産生細胞への分化を促進する増殖因子と上記の細胞の集団とを接触させることを包含する。このプロセスにより産生された細胞の集団は、多数のインスリン産生細胞に拡大され、そして本明細書中に記載される処置方法に使用され得る。
【0039】
本発明はさらに、インスリンおよびアミラーゼの両方を産生する膵アミラーゼ産生細胞を促進する方法を提供し、この方法は、GLP−1またはExendin−4、それらに対して実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択される増殖因子と、膵アミラーゼ産生細胞とを接触させることを包含する。この方法の例は、実施例に提供される。
【0040】
本発明はさらに、I型糖尿病と診断された被検体において、糖尿病を処置する方法を提供し、この方法は、少なくとも24時間の持続性注入によって、GLP−1、それらに対して実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択される増殖因子を被検体に投与することを包含する。あるいは、増殖因子は、Exendin−4、それらに対して実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択され得る。Exendin−4は、GLP−1と比べてかなり長い半減期を有するので、これは、少なくとも1回ボーラスにより投与され得る。この処置方法は、I型糖尿病を患う被検体の糖尿病を処置するために効果的である。なぜなら、増殖因子は、本明細書中に詳細に記載されるように、被検体の非インスリン産生細胞がインスリン産生細胞に分化することを促進するからである。
【0041】
本発明の被検体は、個々のヒト、飼育動物、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタなど)、ペット(例えば、ネコおよびイヌ)を含み得る。
【0042】
「糖尿病」によって、膵臓によるインスリン分泌の不全または非存在により特徴付けられる代謝性疾患である真性糖尿病が意味される。本明細書中で使用される場合には、本明細書中の他の箇所で記されない限り、「糖尿病」は、1型、2型、3型、および4型の真性糖尿病を含む。
【0043】
本発明はまた、被検体における糖尿病を処置する方法を提供し、この方法は、処置されている被検体からまたはドナーから非インスリン産生細胞を得ること;非インスリン産生細胞を増殖因子とインビトロで接触させ、それによってインスリン産生細胞への非インスリン産生細胞の分化を促進すること;ならびに非インスリン産生細胞から分化するように促進されたインスリン産生細胞を、糖尿病の被検体に投与することを包含する。上記の非インスリン産生細胞がドナー由来である、糖尿病を処置する方法において、このドナーは、死体であり得る。本発明のさらなる実施態様としては、非インスリン産生細胞は、増殖因子との接触の前に、インビトロで増殖することを可能にされ得る。好ましくは、インスリン産生細胞への非インスリン産生細胞の分化の促進は、インスリン産生細胞への非インスリン産生細胞の約20%を超える分化を生じる。さらにより好ましくは、処理された細胞のうちの約25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、または90%よりも多くは、インスリン産生細胞に分化する。
【0044】
インスリン産生細胞への非インスリン産生細胞の分化により得られるインスリン産生細胞の表面抗原の変更は、インスリン産生細胞が免疫応答を引き起こす見込みを減少し得る。次いで、変更された表面抗原を有する細胞は、糖尿病の被検体に投与され得る。これらの細胞表面抗原は、非インスリン産生細胞がインスリン産生細胞へと分化する前、その間、または後に変更され得る。
【0045】
本発明はまた、内皮細胞を平滑筋細胞に分化させる方法を提供し、この方法は、GLP−1またはExendin−4、それらに対して実質的に相同なアミノ酸配列を有する増殖因子、およびそれらのフラグメントからなる群より選択される増殖因子と内皮細胞とを接触させることを包含する。
【0046】
本発明は、ここで、以下の実施例を参照して例示される。
【0047】
(実施例)
(実施例1)
培養されたインスリノーマ細胞中のGLP−1は、インスリン分泌、インスリン合成およびインスリンメッセンジャーRNAに陽性の影響を与えることが知られているために、GLP−1のウィスターラットの老化に対する効果を評価した。
【0048】
材料。GLP−1およびexendin[9−39](Ex)、GLP−1のペプチドレセプターアンタゴニストをBachem(King of Prussia,PA)から購入した。他に記載しない限り、化学試薬はSigma(St Louis,MO)から購入した。
【0049】
動物。NIAのWister colony(Baltimore、MD)からの3ヵ月齢(若齢)および22ヵ月齢(老齢)ウィスターラットを使用した。それらを、ラット用固形飼料で飼育し、自由に食餌させた。全てのラットは、NIAで保持される10の創始ファミリーの子孫である。
【0050】
プロトコル。老齢の動物が、GLP−1に応答することが可能であることを保証するために、本発明者らは、GLP−1の静脈内ボーラスを用いた急性の実験を行った。6匹の老齢(22ヶ月)および6匹の若齢(3ヶ月)のウィスターラットを一晩絶食させた。50mg/kgのペントバルビタールでの麻酔後、血液サンプリングのためにカテーテルを大腿動脈に配置し、GLP−1のボーラス(0.2nmol/kg)を伏在静脈内に、30秒に渡って投与した。血液(2、4、7および10分でとられた)をインスリン測定のために採取した。
【0051】
ラットに、肩甲骨間の領域に、48時間の間、Alzetミクロ浸透性ポンプ(Alza Corp.,Palo Alto,CA)を移植した。処理されるグループにおいて、GLP−1は、1.5pmol/kg-1.分-1の速度で送達され、そしてExは15pmol/kg-1.分-1の速度で送達された。GLP−1のインシュリン分泌効果を防ぐために、Exの10倍もの高い濃度が必要であることが示された(Wangら,J.Clin.Invest.,1995)。対照動物は、それらのポンプで、通常の生理食塩水を受け、そして同じ時間の長さの間、それらの注入を受ける。
【0052】
グルコース耐性試験のために、ポンプを36時間設置した後(対照およびGLP−1に対して、それぞれn=6である)、ラットを一晩断食させ、50mg/kgペントバルビタールで麻酔し、そしてポンプを除去し、総GLP−1を48時間の注入時間で与えた。カテーテルを、血液サンプリングのために、大腿動脈に配置し、そして血液を、GLP−1測定のために、採取した。ポンプを除去した後、腹腔内(ip)グルコース耐性試験(IPGTT,Ig/Kg BW)を、120分間実施した。グルコースおよびインスリンレベルを評価するために、血液サンプルを15、30、45、60および90分で得た。血液(200μl)を、グルコースおよびインスリン決定のためにEDTAを含むヘパリン化された管に吸い出した。
【0053】
インスリンの島細胞内含量のために、14匹のラットを使用した。上記に記載されるように、7匹をGLP−1で処理し、そして7匹を生理食塩水で処理した。48時間後、一晩の絶食後、動物を屠数し、ランゲルハンス島を、先に記載されるように採取した(Perfettiら,1995;Eganら,1991)。次いで、本発明者らは、個々の膵臓からランダムに採取された50の島内の島細胞内インスリン含量を測定した。採取された島を遠心分離し、いずれの残留媒質も除去し、ペレットを、氷冷した酸−エタノール(500μl)に懸濁し、そして均質化した。このホモジェネートの遠心分離(1400×g、4℃)後、上澄みを、細胞内インスリンの測定のために収集した。ペレットを、ギ酸に溶解し、そしてタンパク質含量を決定した。
【0054】
アッセイ。血漿グルコースをグルコースオキシダーゼ法によって測定した(Eganら、1991)。インスリンおよびGLP−1を、先に公開されたようにRIAによって測定した(Wangら、Endocrinology,1995;Nathanら、1992)。細胞タンパク質の量を、ウシγ−グロブリンを標準として使用するBradford法(Bio−Rad Richmond,CA)を使用して測定した。
【0055】
RNA単離および内分泌膵臓mRNAの定量。48時間のGLP−1または生理食塩水の注入に供されたラットの膵臓全体を、全RNAを抽出するために使用した。一晩の絶食後、動物を屠数し、膵臓を除去し、そして液体窒素中で、できるだけ急速に凍結させた。RNAを、グアニジニウムイソチオシアネート中での均質化、続いて、5.7M塩化セシウムクッション上の超遠心分離によって、抽出した(Glisinら,1974;Chigwinら,1979)。次いで、ポリ−A RNAを、オリゴ(dT)カラム(Biolabs INC,Beverly,MA)を使用するアフィニティークロマトグラフィーによって、全RNAから調製した。RNAを、260nMでの分光測光法分析によって定量化した。ポリ−A RNAを使用するスロット−ブロット分析を、グルコキナーゼのmRNAレベルの定量化のために使用し、これは、β細胞(Matschinsky,1990)、3つのヘキソキナーゼ、GLUT2、β細胞の主なグルコーストランスポーター(Mueckler,1990)およびインスリンの主要なグルコースセンサーである。4ミリグラムのポリ−A RNAを、50μl TE緩衝溶液(Tris−HCL 10mM、EDTA 1mM、pH7.4)、20μlの37%ホルムアルデヒド、および20μlの10xSSCに溶解した。サンプルを、60℃で15分間インキュベートし、次いで、1mlの氷冷10xSSC(1xSSC=0.15M NaCl+0.015クエン酸ナトリウムである)に溶解した。スロット−ブロットミニホルダーの各ウェルを、氷冷10xSSCで1回リンスし、次いで、ウェル当たり300μlのサンプルを膜上に3連で充填した。膜を通してサンプルを排出するために、減圧を適用し、続いて、氷冷10xSSCで3回ウェルを洗浄した。最終的に、RNAの架橋のために、膜を、減圧オーブン中、80℃で2時間焼いた。
【0056】
cDNAプローブ(Dr.S.J.Gidding,Washington University,St.Louis,MOからのラットインスリンII;Dr.M.A.Magnuson,Vanderbilt University,Nashville,TNからのラットグルコキナーゼ;Dr.M.J.Birnbaum,Harvard Medical School,Boston,MAからのラットGLUT2;およびDr.J.E.Wilson,Michigan State University,East Lancing,MIからのヘキソキナーゼI,II,III)とのハイブリダイゼーションを、先に記載されたように実施した(Wangら,Endocrinology,1995;Wangら,Mol.Cell.Endocrinol.,1996)。全てのcDNAプローブを、Sequenase(United States Biochemical,Cleveland,OH)を使用するランダムプライミング手順によって、[32P]dCTP(Amersham Life Science,Arlington Heights,IL)で標識した。mRNAのポリ−Aテールに相同であるオリゴヌクレオチド(5’GATGGATCCTGCAGAAGCTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT3’)、を、Applied Biosystem DNAシンセサイザーで合成しそして全細胞mRNAの定量のために使用した。ほぼ等しい量のRNAが、各サンプルに対して使用されたことを確かめるために、オリゴdT20とのハイブリダイゼーションを実施した。オリゴヌクレオチドプローブを、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を使用して、[32P]γATPで、末端標識した。オリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションを上記に記載のように実施し(Wangら,Endocrinology,1995;Wangら,Mol.Cell.Endocrinol.,1996)、そしてBetascope 603ブロットアナライザー(Betagen,Walthman,MA)を使用して定量した。
【0057】
ランゲルハンス島におけるRNAの単離およびmRNAの定量化。全膵臓に見出される変化を確認するために、RNAを上記のようにGLP−1で処理した動物のランゲルハンス島から単離した。島を単離し、そしてRNAを上記(Perfettiら、1995)のマイクロ方法(micromethod)を使用して抽出した。約5μgの総島RNAは、1個の膵臓に由来する。スロット−ブロットSlot−Blot分析を実施し、ヘキソキナーゼ、GLUT2、およびインスリンのmRNAレベルを定量化した。
【0058】
統計分析。このデータを平均±SEMとして表現した。IPGTTから得られたインスリンおよびグルコースのデータの重要性を、SAS(SAS Institute Inc.;Cary,NC)による分散の反復測定分析を使用して試験した。有意な相互作用が実証された場合(p<0.05)、単一時点での値を、片側スチューデントのt‐検定により比較した。他の全てのデータを不対のスチューデントのt‐検定を使用して分析した:p<0.05は、有意と判断した。
【0059】
急性iv GLP−1ボーラスに対する応答。高齢のおよび若齢の絶食した動物は、30秒にわたって送達された0.2nmol/kgのGLP−1のボーラスに対して十分等しく応答した。それらのインスリン応答は、重なり可能であった(図1)。ボーラス完了2分後において、インスリン応答は、若齢動物(373.3±43.7pmol/l)および高齢動物(347.7±25.7pmol/l)の両方で最大値であり、両方のグループにおいて、インスリンのレベルは、10分でベースラインまで戻った。
【0060】
グルコース耐性試験。高齢動物は、IPGTTの間、若齢動物と比較した場合、明らかなグルコース不耐性を有する(図2)。空腹時グルコース(空腹内グルコースの直前に取る)は、処置した動物とコントロール動物との間に違いがなかった。グルコース耐性試験の間、GLP−1で処置した動物における血液グルコースは、15分(9.04±0.92対11.61±0.23mmol/l)および30分(8.61±0.39対10.36±0.43mmol/l)の時点でのコントロール動物と比較した場合、十分に低かった(図2)。高齢動物はまた、若齢動物と比較した場合、もはやグルコース不耐性ではなかった。同じ時間でのインスリン応答を再検討する場合、15分でのインスリン応答は、コントロールと比較してGLP−1で処置した動物において、有意に良好であった(図3)。特に生理食塩水で処置したラットは、30分にピークのインスリンレベルを有し、一方GLP−1で処置した動物は、15分でピークに達した。この鋭いインスリン応答は、処置した動物において血液グルコースの低下の原因であった(図2)。一晩絶食したインスリンのレベルは、GPL−1で処置した動物において、より高いが、しかし大きな動物内(intranimal)変化のために、コントロール(192±47対134±45pmol/l)と有意に異ならなかった。22月齢のウィスターラットへのGLP−1の48時間の注入は、IPGTTへのインスリン応答を増強する。この現象は、GLP−1注入の完了後さえ観察され、このことは、GPL−1が、インスリン放出の調節に勝る長期間の変化を誘導し得ることを示す。インスリン応答曲線の主な変化は、グルコース充填後の初期のインスリン放出であり、GLP−1処置ラットにおいて、最大インシュリン分泌が、グルコース注入の30分後から唯一15分まで、コントロールで観測されるようにシフトすることにより誘導される。
【0061】
島内インスリン含量。老齢の動物から予想されるように、各々独立した膵臓の島間にインスリンの量の変化が存在する(図4)。しかし、処置された動物(p<0.01)の島に一貫してより多いインスリンが存在する。コントロールおよびGLP−1処置したラットのインスリンは、それぞれ、全膵臓のタンパク質1ug当たり5.31±1.19対19.68±3.62ngのインスリンを有した。
【0062】
GLP−1プラスマレベル。本発明者らは、安定状態のGLP−1レベルに達したことの保障、そしてペプチドが正確に注入されたことの確認の両方を行うためにGLP−1注入の開始6時間後の3匹の動物中のプラスマGPL−1を測定した。6時間でのプラスマGLP−1レベルは、106.7±17.6であり、一方48時間では125.0±41.4pmol/lであった。グルコース耐性試験の開始前は、プラスマGLP−1は、アッセイの検出レベル以下であった。コントロールウィスターラットにおける空腹時GLP−1レベルは、10〜20pmol/lであった。若齢動物と高齢動物との間のGLP−1の空腹時レベルにおいて、差異はなかった。従って、本発明のGLP−1の注入により、プラスマGLp−1レベルは空腹時レベルの約6倍まで上昇した。ウィスターラットにおける満腹レベル(Wangら、J.Clin.Invest.1995)およびヒトにおける満腹レベル(Gutniakら、1992)は、食事後約2倍になることが報告されているため、ポンプで達成されるプラスマレベルは、薬理学的であった。
【0063】
遺伝子発現に対するGLP−1の効果。本発明者らは、β細胞中のグルコース媒介インスリン放出およびインスリン代謝の初期段階に関与する、インスリンmRNAと他の因子のmRNAレベルとの存在比を測定した。結果を、デンシトメトリーにより定量化し、オリゴdTハイブリダイゼーションを使用して規格化し、若齢ラットを1の値として相対的な関係で表現した。図6は、6匹の若齢動物および12匹の高齢動物における全膵臓のインスリンmRNAのブロット、および図5に示される全動物による組み合わせた結果を示す。図7は、高齢動物の3個の単離した島RNA調製物のブロットを示す。
【0064】
インスリンmRNAのレベルは、高齢動物対若齢動物において約50%に増加した(図5、p<0.05、および図6)。GLP−1は、コントロールと比較して若齢動物と高齢動物の両方においてインスリンmRNAを増加させた(図5、p<0.01、および図6)。同様の結果が、単離した島調製物において見出され得る(図7)。この増加は、動物をEX、すなわち自分のレセプターに結合するGLP−1のインヒビターと同時に処置する場合、全体的に妨げられる。Ex単独で、またはGLP−1と共にExで処理した動物において、インスリンmRNAレベルがコントロール(p<0.01)より低かったという事実は、非常に興味深い。インスリンmRNAレベルは、Ex単独の存在下で平均60%下がった。
【0065】
高齢動物でのGLUT−2mRNAレベルは、若齢コントロールと比較して70%まで減少し、これにより、GLP−1処置(図5B、p<0.001)まで全体的に戻された。高齢動物において、GLP−1によるGLUT2mRNAレベルの増加は、両方の島(図7)および全膵臓調製物(図6)において見出され得る。若齢動物において、GLP−1は、GLUT2mRNAレベルに有意に影響を及ぼさなかった。このレベルは、Ex単独の存在下で50%まで下がった(図5B、p<0.05)が、ExおよびGLP−1で処置した動物においては下がらなかった(図5B)。
【0066】
若齢動物と高齢動物間でグルコキナーゼmRNAレベルの差異は存在しなかった(図5C)。GLP−1は、若齢動物においてグルコキナーゼレベルを有意に増加させた(図5、p<0.05)が、高齢動物においてさらに多く増加させた(図5C、p<0.001、図7)。同様の結果が、単離した島調製物での高齢動物において見出された(図7)。Exは、グルコキナーゼmRNAの増加に導くGLP−1を完全に阻止する。
【0067】
全調製物について、膵臓からの結果が、この島において示された。ヘキソキナーゼI、IIおよびIIImRNAレベルは、全膵臓および島において非常に低く、そしてGLP−1処置によって変化しないようであった。本発明者はまた、高齢ラット(n=6)へGLP−1(5d)を注入し、そして48時間注入と同じ結果を見出した。
【0068】
GLP−1を用いる続く連続注入により、膵臓は、コントロールの膵臓よりも驚くほどより大きくなった。処置した動物の膵臓は、コントロール動物の膵臓よりも26%重くなった。
【0069】
また驚くことに、インスリン分泌は、GLP−1の外因性源の除去後でさえ改善されたままであった。血液中でのGLP−1のインスリン分泌性作用の生物学的な半減期は、6〜8分であり(Elahiら、1994)、そしてGLP−1注入は、グルコース耐性試験を実施する前に少なくとも2時間で完了したので、少なくとも短期間での高GLP−1レベルの連続した存在は、老齢のウィスター動物においてグルコース耐性を改良する必要性がなかった。
【0070】
以前に示されたように、GLP−1は、インスリノーマ細胞において、インビボでのインスリン生合成およびインスリンmRNAレベルを増大する(Wangら、Endocrinology、1995)。GLP−1はまた、膵臓において、インスリンのmRNAレベルを正常に維持するために必要なようである。Exのみを与えられた動物において、Exは、GLP−1のインスリンmRNAに対する影響を阻害しただけでなく、インスリンmRNAの減少も引き起こした。Exは、GLP−1のレセプターと結合するGLP−1の競争的なインヒビターであり、GLP−1のインスリン分泌効果を阻害するには10倍高い濃度のExが必要であり(Wangら、J,Clin.Invest.1995)、従っておそらく、Exが、Exのみを受容する動物において、内因性GLP−1の結合を阻害する。これは、GLP−1がインスリンmRNAレベルを生理学的範囲に維持することに影響していることを意味する。
【0071】
2型糖尿病において、インスリンのβ細胞貯蓄は限界レベルより下に下がり、これはグルコース誘発インスリン応答の続く減少を引き起こすことが提案された(Hosokawaら、1996)。本発明者らのデータが示すように、GLP−1は、膵島内のインスリン含量を増加し得、そして単にボーラスによってよりむしろ、連続的に与えられた場合に、単純なインスリン分泌に対するその影響を越えるβ細胞機能に有利な変化もまた引き起こし得る。
【0072】
(実施例2)
exendin−4は、ドクトカゲの唾液腺で産生されるペプチドである。本実施例において、発明者らは、ウイスターラット(国立老化研究所(NIA)で飼育される)において、exendin−4は、いくつかの様式で、GLP−1よりはるかに効能が大きいインスリン分泌薬であることを報告する。本発明者らは、2型糖尿病の齧歯動物モデルおいて、exendin−4は糖尿病制御の持続した改良をもたらすことをさらに報告する。
【0073】
材料。exendin−4およびGLP−1を、Bachem(King of Prussia,PA)から購入した。他に記載がなければ、化学試薬はSigma(St Louis,MO)から得た。
【0074】
動物。NIA(Baltimore,MD)のウィスターコロニーからの4月齢のウィスターラットを、exendin−4およびGLP−1の効果の重要な実験のために使用した(実施例1を参照のこと)。これらのラットを標準的な実験用食に維持し、そして自由に食物を与えた。長期の実験のために、4週齢のレプチンレセプターを欠く糖尿病のマウス(C57BLKS/J−Leprdb/Leprdb)ならびにそれらの糖尿病でない同腹子を、Jackson Laboratories(Bar Harbor,Maine)から購入した。これらを、1ケージに2匹づつ入れ、そして任意に食物を与えた。同じマウスを研究の間、ケージに共に入れた。ウィスターラットを、針金のケージに入れたが、このマウスの床敷は紙製品「Carefresh」(Absorption Co.,Bellingham,WA)であった。
【0075】
プロトコル。ウィスターラットを一晩絶食させた。50mg/kgのペントバルビタールで麻酔した後、血液採取のために大腿動脈にカテーテルを入れた。exendin−4またはGLP−1のいずれかのボーラスを、12匹の動物に、30秒かけて伏在静脈(iv)に与え、一方、正常生理食塩水(NaCl)のボーラスを、他の6匹に与えた。注射の順を循環させた。血液(−5、0、2、5、15、30、60、120および180分で採取した)を、インスリン測定のために、EDTAおよびアプロチニンを含むヘパリン処理したチューブに吸い取った(実施例1を参照のこと)。動物を、少なくとも2日間、その設備に慣らした。
【0076】
その後、11匹の糖尿病の動物および10匹の糖尿病でない動物は、24nmol/kgのexendin−4を腹腔内に毎日(午前7〜9時)受け、一方、10匹の糖尿病の動物および10匹の糖尿病でない動物は、腹腔内にNaClを受けた。続いて、マウスにおいて、後眼窩洞から採取した全血のグルコースレベルを、Glucometer Elite(Bayer)を使用して測定した。このレジメを、12〜13週間続けた。8日目に、2匹の糖尿病でないマウス(ケージメイト)が、そして14日目に1匹の糖尿病マウスが、exendin−4を受けた直後に死んだ。動物を毎週計量した。このレジメの1週間後、インスリンおよびグルコースレベルを測定するために、再び血液サンプルを後眼窩洞から採取した。このレジメの終了時に、グルコースおよびインスリンレベルのために空腹時の血液サンプルを4グループから得、そして同日に、EDTAを含む全血をヘモグロビンA1c(Hb A1c)についてアッセイした。
【0077】
別のグループの14週齢の8匹の糖尿病のマウスにおいて、本発明者らは、その各グループの4匹に、5日間毎日、24nmol/kgのexendin−4およびNaClを腹腔内に与えた。
【0078】
cAMP測定。ランゲルハンス島をウィスターラットから収集し(Perfettiら、1995)、次いで25島のバッチを、37℃で1時間、140mM NaCl、5mM KCl、1mM NaPO4、1mM MgSO4、5mM グルコース、2mM CaCl2、20mM HEPES、緩衝液(pH 7.4)および0.1%ウシ血清アルブミンを含有する緩衝液中でインキュベートした。この後、これらを、GLP−1(1nM)またはexendin−4(1nM)の存在下、同じ緩衝液中で1時間インキュベートした。次いで、島のバッチのいくつかを氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、そして氷冷した0.6mM過塩素酸1mLで溶解した。他のバッチを37℃の緩衝液で3回洗浄してペプチドを除去し、さらに15分間放置し、その後、氷冷PBSで3回洗浄し、続いて過塩素酸で溶解した。次いで、この溶解物(950μl)をマイクロ遠心分離管に移し、cAMP[3H]アッセイキット(Amersham)を使用して、上記のように(実施例1を参照のこと)cAMPを測定した。細胞タンパク質を、基準としてウシy−グロブリンを使用するブラッドフォード法(Bio−Rad,Richmand,CA)を使用してアッセイした。
【0079】
アッセイ。血漿グルコースを、グルコースオキシダーゼ法によって測定した(Wangら、1997)。インスリンを、上記に記載のように、RIAによって測定した(実施例1を参照のこと)。Hb Alcを、溶血した血液由来のヘモグロビンサブタイプおよび変異体を分離するために、勾配溶出と組み合わせて、低圧陽イオン交換クロマトグラフィーを使用する、BIO−RAD(Herculas CA)DiaSTAT器機を使用して、アッセイした。これらの分離したヘモグロビン画分を、415nmでの光の吸収によってモニターした。
【0080】
統計的方法。全ての結果を、平均±SEMとして得る。T検定は、2つの平均の分散の同等性を見るF検定の結果に基づいた。これらの分散が、統計的に有意に異なる場合、t検定は、等しくない分散に基づいた。EC50の決定のために、基底の血漿インスリンレベルを、減算し、そして各濃度で残存する活性を、最大活性(過剰のペプチドによって達成される)の割合として表現した。次いで、これを、logit形式へ変換し(ここで、logit=ln(%活性/[100−%活性]))、そしてこの化合物のlog濃度の関数としてプロットした。
【0081】
WistarラットにおけるExendin−4の効果。Exendin−4は、静脈へ与えられた場合、GLP−1よりも数レベル強力なインスリン分泌剤であった。本発明者らのWistarラットにおける最大インスリン応答は、0.4nmol/kg GLP−1で見られる(De Oreら、1997)。この同一exendin−4濃度での最大インスリン応答は、約2倍である(図8)。インスリンレベルは、GLP−1を用いると10分までにベースラインへ戻るが、exendin−4を用いると、ベースラインより下へ実際に下がり、そして60分までにベースラインへ戻った。インスリン放出のためのEC50濃度は、GLP−1を用いた場合よりも、低く、そしてexendin−4によって分泌されるインスリンの最大量は、GLP−1を用いた場合よりも高い。EC50は、exendin−4対GLP−1(実施例1を参照)について、それぞれ、0.019(図9)対0.19nmol/kgであった。exendin−4を与えた動物は、この研究の期間、尿排出が明らかに増加し(本発明者らは、尿の容量を定量しなかった)、なぜならば、これらの動物は、循環する血液量を減少させる貧血にもかかわらず、この研究の間、頻繁に排尿し続けたからであり、一方GLP−1で処置された動物は、この研究の間、もしも有るならば、微量だけ排尿した。
【0082】
単離された島におけるcAMPレベルに対するexendin−4およびGLP−1の効果。exendin−4は、等モル濃度のGLP−1よりも、単離された島においいて、cAMPレベルをより増加させた。GLP−1は、濃度依存様式でcAMPを増加し、最大cAMP応答は1nMのときであった。exendin−4のこの濃度で、cAMPレベルは、GLP−1を用いた場合よりも、約3倍(図10)高かった。このことは、おそらく、exendin−4がGLP−1よりも高い最大インスリン放出を生じる理由を説明する。exendin−4またはGLP−1がGLP−1レセプター上に残存し得、従って緩衝溶液からのペプチド除去後もcAMPが増加し続けるかどうかを理解するための試みにおいて、本発明者らは、新鮮な緩衝液中での3回の洗浄によっていくつかの島からペプチドを除去し、次いで、15分後にcAMPを測定した。両方のペプチドを用いた場合、cAMPレベルは、少なくとも15分までにはベースラインへ戻った。
【0083】
マウスにおけるexendin−4を用いた慢性的処置の効果。exendin−4の生物学的活性(血糖を低下させるその能力によって測定した)は、糖尿病の動物の腹腔または皮下に与えた場合、本発明者が予想したよりもはるかに長かった。予備的実験において、本発明者らは、exendin−4で処置した糖尿病のマウスは、腹腔内(ip)注射および皮下(sc)注射後24時間、より低い血糖を有していたが、GLP−1注射では、血糖はベースラインへ戻るということを見出した。このことは、本発明者らを、exendin−4での長時間の実験を設計させた。マウスにおける毎日の皮下(ip)exendin−4レジメの開始で、空腹時血中グルコースは、非糖尿病マウスにおいては145±51mg/dl、そして糖尿病マウスにおいては232±38mg/dlであった。処置の1週間後、exendin−4で処置した非糖尿病マウスにおける空腹時グルコースレベルは、70±25mg/dlであり、NaClで処置した非糖尿病動物おける空腹時グルコースレベル(135±5mg/dl(p<0.05))よりも有意に低かった。これらの糖尿病の動物は、exendin−4への非常に有意な応答を有した。グルコースレベルは、NaClで処置した動物における238±51mg/dl(p<0.002)から、exendin−4で処置した動物における90±11mg/dlへ降下した(表1)。本発明者らは、NaClまたはexendin−4を受容した糖尿病の動物における空腹時インスリンレベルを測定した。これらのレベルは、exendin−4を受容した動物においての方がより高かった(p<0.002)。これらのデータに基づいて、本発明者らは、動物を毎日exendin−4で処置し続けた。床敷き(bedding)は、排尿が増加すると次第に暗く変化するペーパーベース製品であったので、exendin−4で処置した糖尿病の動物のケージは、NaClで処置した糖尿病の動物のケージよりも、交換後24時間、常に明らかに乾燥していたことは明らかであった(しかし、非糖尿病のケージがそうであったように完全に乾燥はしていなかった)(図11、処置後9週間で撮った写真)。本発明者らは、exendin−4で処置した糖尿病のマウスにおける減少した排尿が、より低い血中グルコースを原因とするより少ない浸透圧利尿に起因したと結論付けた。
【0084】
糖尿病の動物は、非糖尿病の動物よりも明らかに重い。9週間後、非糖尿病の動物の体重は、約28グラム(g)のプラトーに達し、一方、糖尿病の動物は、体重が増加し続けた。処置の13〜14週で、NaClで処置した動物は、体重が減少し始め(38.7g)、一方、exendin−4で処置した動物は、それらの体重を維持した(46.7g)。
【0085】
本発明者らは、Hb Alc決定のために、生理食塩水で処置した動物の全血およびexendin−4で処置した動物の全血をアッセイし、そして本発明者らは、一晩の絶食後の、グルコース濃度およびインスリン濃度について血漿を測定した(図12)。これら全てのパラメータは毎日のexendin−4での処置によって有意に変化したことが分かり得る。Hb Alcは、NaClで処置した糖尿病の動物において8.8%であったのに対して、exendin−4で処置した動物において4.7%であった(p<0.0001)。Hb Alcはまた、非糖尿病の動物においてより低かった(exendin−4で処置した非糖尿病の動物対NaClで処置した非糖尿病の動物において、それぞれ、3.5対3.1%(p=0.0002))。グルコースレベルは、exendin−4で処置した糖尿病の動物において、有意により低く(278.7±30.0対517±59mg/dl、p<0.005)、そしてインスリンレベルは有意により高かった(4,600±1,114対707.2±169.7pmol/l、p<0.02)(図13)。グルコースおよびインスリンにおける傾向は、顕著ではなかったが、exendin−4で処置された非糖尿病の動物における傾向と同一であった(図13)。
【0086】
それらの処置を始めたときに14週齢であった8匹の糖尿病のマウスにおいて、5日後、血糖は、NaClで処置した動物においては640±37mg/dlであり、そしてexendin−4で処置した動物において355±21mg/dlであった。これらのインスリンレベルは、exendin−4処置対NaCl処置において、それぞれ、6,904±705対1,072±54pmol/lであった。
【0087】
皮下および腹腔内exendin−4に続いて、糖尿病マウス中の血糖は、さらに良好な延長した生物学的応答(ここで、血糖は、iv exendin−4に対するインスリン応答から期待したよりも低く長いままであった(腹腔内投薬後、24時間まで))を有し、腹腔内注射のグルコース低下効果は、皮下よりも変動が低かった。これはおそらく、皮下技術のより大きな変動が原因であり、そして幾つかの場合において注射の間にペプチドの損失までも起こり得た。
【0088】
1週間、毎日、exendin−4(腹腔内)を腹腔内注射することに関する研究において、1日に1回のみの注射の結果としての空腹時血糖は、実際、糖尿病でない動物の血糖よりも低かった。これは、ケージが常により乾燥していたので、糖尿病の動物がexendin−4を受容した各朝にこれらのケージを見れば明らかでもあった。この効果はまた、exendin−4を受領した非糖尿病の動物においても見られた。
【0089】
平均血糖が640mg/dlであった糖尿病の動物にexendin−4を毎日、5日間与えた実験において、血糖を下げる顕著な影響もあり、そしてインスリンレベルは明らかに増加した。これは、おそらく、β細胞塊の増殖に起因する見込みはなく、そしてこのような顕著な高血糖の局面においてでさえ、糖尿病ラットのβ細胞が依然としてexendin−4に対して応答することを示唆する。
【0090】
exendin−4の12週間後でさえも、血糖はNaCl−処置動物における血糖よりも低かった。典型的な一次抗体は、14〜21日まで続けた腹腔内注射後に応答し、そして、exendin−4は、いずれの評価(rate)においても弱いハプテンである。従って処置の最初の数週間、exendin−4の生物学的効果は抗体によって中和されることが期待されない。この事に関連して、exendin−4の生物学的効果は、非常に低い濃度においてであり、従って、おそらく、ペプチドは、その特定の抗体に関する親和性よりも、GLP−1レセプターに関してより高い親和性を有し、その結果、抗体によって全体的に中和されなくてもよい。exendin−4が中和されない理由に関する他の可能性は、まだ同定されていないげっし歯類において産生されるexendin−4様ペプチドが存在すること、またはexendin−4型分子がげっ歯類において製作されることであり、これによってexendin−4耐性成熟動物を得る。
【0091】
本研究者らは、exendin−4を低濃度(1nmol/Kg)で、糖尿病マウスの腹腔内に1週間、与えた。これは、この実施例において報告される大量での効果と同程度に血糖を下げる点で効果的であった。
【0092】
マウスの挙動に対する、毎日の注射の有害作用は観察されなかった。本研究者等は、exendin−4の注射の最初の3〜4日間に、動物の体重が減少することを観察したのだが、それは第7日目までであり、NaCl処置動物と同程度まで戻った。本研究者等の長期研究において、週毎に重量を測ったので、その初期の減少を逃した。明らかに乾燥している敷き藁(bedding)を除いて、各朝処置される糖尿病動物において、本研究者らは、exendin−4の、これらの動物に対する、顕著な有害な効果を全く検出することができなかった。従って、本研究者らは、exendin−4がヒトにおける2型糖尿病に対する処置としてGLP−1よりも優れているかもしれないことを示唆する。
【0093】
(実施例3)
実施例1のプロトコルを使用して、GLP−1を連続的に注射することによって、1〜5日間、若年および老年のラットに投与し、対して、コントロールラットは比較として生理食塩水注射を受けた。対照的に、exendin−4を1日に1回、5日間、実施例2のプロトコルに従って、腹腔内に投与した。
【0094】
GLP−1で処置した膵臓における細胞の約20%は、5日間でPCNAに対してポジティブであった。同時点で、小島において細胞が増殖した。さらに、菅を裏打ちする増殖細胞が存在し、そしてさらに驚くべきことに、腺房組織において、ある領域は一般に、幹細胞が全くないと考えられる。また、驚くべきことに、多数のインスリン陽性細胞が、腺房組織の中でも小島の外側で発見された。ここでは、インスリン陽性細胞は期待されない。
【0095】
これらの結果は、GLP−1の連続注射、または少なくとも2日間のExendin−4の繰り返し腹腔内注射によって、インスリン陽性細胞の全体数が増加し、かつ、インスリンIDX−1陽性細胞への腺房細胞の分化が生じることを示す。これらの結果は、GLP−1およびexendin−4によって細胞の増殖が増加すること、特に、腺房組織におけるインスリン産生細胞の増殖の増加をさらに示唆する。
【0096】
GLP−1の連続注射によって、24時間より長期にわたって非インスリン産生細胞とGLP−1を接触させると、非インスリン産生細胞のインスリン産生細胞への分化が促進される。この効果は早くも1日目に観測され、そして早くも7日目に最大の効果であった。このような分化は驚くべきことであった。なぜなら、先行技術はβ細胞においてインスリン向性の結果(insulinotropic result)のみを示したからであった。さらに、本発明は驚くべきものであった。なぜなら、腺房細胞(これは、インスリンを産生し得ることは全く分かっていなかった)が促進されて、GLP−1との接触時にインスリンを分泌する。インスリン産生細胞の増加数は、処置を止めた後、少なくとも2週間の間、変化しないままである。インスリン産生細胞への分化は、ターミナルイベント(terminal event)であるので、さらに後の時点で、非インスリン産生細胞へ戻る脱分化(de−differentiation)は起こりそうもない。従って、この効果は、永久的である。
【0097】
Exendin−4は、本発明において、非インスリン産生細胞からインスリン産生細胞からインスリン産生細胞を分化する際に、GLP−1と同様の効果を有することを示す。驚くべきことに、Exendin−4は、GLP−1よりも長い半減期を有することが示される。インスリン産生細胞数の増加は、従って、2日間にわたるExendin−4の連続注射によってではなくて、毎日のボーラス注射によって達成され得る。注射の2日後、小島の外側にインスリン産生細胞が観測される。最大効果は7日間までに達成される。GLP−1に関して、この効果は少なくとも2週間、おそらくは、永久的に持続し、Exedin−4との接触後でさえ、停止する。
【0098】
GLP−1またはExendin−4に対して実質的に相同性であるアミノ酸配列およびそのフラグメントを有する増殖因子は、インビボおよびインビトロでの非インスリン産生細胞の分化に影響を及ぼす。さらに、幹細胞および腺房細胞を含む種々の非インスリン産生細胞が促進されて、インスリン産生細胞へと分化し得る。先行技術を凌ぐこれらの利点によって、糖尿病を処置するための方法が提供され、従って、インスリン産生細胞は、患者への成長因子の投与によって、またはインビトロで非インスリン産生細胞を接触させることによって数が増加する。
【0099】
(実施例4)
本研究の目的は、GLP−1および島ホルモン、グルカゴンおよびインスリンが腺房組織に影響を及ぼすかどうかを決定することであった。本発明者は、腺房組織のモデルとして、ラット膵臓外分泌腫瘍由来のAR42J細胞(Christophe,1994)を使用した。次いで本発明者は、GLP−1がすでにβ細胞内で作用することが公知である(Gokeら,1993;Holzら、1995;Yadaら、1993)、シグナル伝達系の幾つかの局面を調べた。
【0100】
材料。GLP−1、グルカゴン、exendin−4およびexendin9−39をBachem(Torrance CA)から得た。コレストキニン(Cholecytokinin)(CCK)、インスリン、ゲネスチン(genestein)およびバナジン酸塩をSigma Chemical Co(St.Louis,MO)から得た。ラット膵臓細胞株、AR42JをAmerican Type Culture Collection(Rockville,MD)から得た。抗チロシン抗体をUpstate Biotechnology,Inc(Lake Placid,NY)から購入した。
【0101】
細胞培養。AR42J細胞を、10%ウシ胎仔血清、100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび2mMグルタミンで補充したDulbeccoの修飾Eagle培地中で維持した。継代23−36からの細胞を本研究を通して使用した。細胞を、12ウェルクラスターディッシュ内で約105細胞/mlで慣用的にプレートし、37℃の、95%空気および5%CO2を含む加湿したインキュベーター内でインキュベートした。AR42J細胞がCCKに対して不十分に応答したため、本発明者は、これが濃度依存様式でCCK応答性を誘発することが公知であったため(Logsdonら、1987)、使用前に、慣用的に10nMデキサメタゾンと共に細胞を48時間インキュベートした。
【0102】
アミラーゼアッセイ。アミラーゼ分泌のために、細胞を2mlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で媒体なして洗浄した。次いで、インキュベーションを、15mM HEPES、0.2%ウシ胎仔血清アルブミン(BSA)および0.01%大豆トリプシンインヒビターを含むDMEM中で実施した。目的のホルモンおよび薬剤を50分間37℃で加えた。次いで、インキュベーション媒体をアミラーゼ定量のために即座に除去し、そしてこの細胞を再び2ml氷冷PBS中で洗浄した。130mMのTris−HCl、10mMのCaCl2、75mMのNaClおよび0.2%TritonX−100を含む溶解物緩衝液(pH8.0)を細胞に加え、次いでこの溶解物を全アミラーゼ活性のために収集した(Ceskaら、1969)。放出したアミラーゼを、細胞の全アミラーゼ活性のパーセンテージとして表した。
【0103】
cAMPの測定。細胞を12ウェルディッシュ内で増殖し、上記のようにホルモンおよび薬剤±IBMXで処理した。次いでそれらを氷冷PBS中で3回洗浄し、1mlの氷冷した0.6mM過塩素酸で溶解した。この溶解物(950μl)をミクロ遠心分離管に移し、5M K2CO3を使用してpHを7.0に調節した。104rpmでの5分間の遠心分離後、上清を真空乾燥し、次いで200μlのTris/EDTA緩衝液中で回復させた。0.15mMのNa2CO3(50μl)および0.15mMのZnSO4(50μl)の添加後、氷上で15分間インキュベーションし、塩沈降物を3.5×103rpmにおける15分間の遠心分離によって除去し、50μlの上清をcAMP[3H]アッセイキット(Amersham Corp.,Arlington Heights,IL)、(Steinerら、1972)を使用してアッセイした。細胞タンパク質を、標準としてウシγグロブリンを用いるBradford法(Bio−Rad,Richmond,CA)を使用して測定した(Bradford,1976)。
【0104】
細胞内カルシウム[Ca2+]Iの測定。AR42J細胞を、蛍光性Ca2+プローブであるindo−1アセトキシメチルエステル(indo−1/AM)で負荷した。この負荷溶液は、50μgのindo−1/AM(Molecular Probes Inc.)、30μlのジメチルスルホキシド(DMSO)および5μlの25%(w/w、DMSO中)Pluronic F−127(BASF Wyandott Corp.)から構成された。この混合物を、2.0mlのハンクス平衡塩類溶液中の細胞に添加し(indo−1の最終濃度25μM)、そして振盪プレート(shaking plate)上で1時間、穏やかに混合した。次いで、これらの細胞を400×gで60秒間遠心分離し、(mMで)137 NaCl;5 KCl;1.3 MgSO4;5 CaCl2;20 HEPES(pHをNaOHで7.4に調節する)からなる標準浴溶液(standard bathing solution)に再懸濁させ、そして使用前に少なくとも1時間、貯蔵した。indo−1による負荷および実験の両方を、室温(22〜24℃)で実施した。この細胞懸濁液を、倒立蛍光顕微鏡のステージ上のチャンバに置いた(Spurgeonら、1990)。発光場を、単一の細胞に制限した。indo−1を350±5nmで5msごとに励起させ、そして蛍光発光を410±5nmおよび490±5nmの波長帯域に分離した。自己蛍光について補正した、410:490の蛍光比(比F410/F490)を、当該分野において周知の方法論を使用して、[Ca2+]Iの指標として使用した(Spurgeonら、1990)。細胞の自己蛍光を、同じバッチからの多数のindo−1非負荷細胞において評価した。代表的な実験において、標準浴溶液を、細胞に近く接近して置かれたマイクロピペットから注入される試験溶液の1つと素早く(<200ms)交換した(Janczewskiら、1993;Konnerthら、1986)。慣用的に、これらの細胞を、試験溶液に240〜300秒間曝露した。その後、試験溶液を洗浄によって除去し、一方で[Ca2+]Iをさらに120〜180秒間モニタした。これらの試験溶液は、ホルモンを標準浴溶液に添加することによって、この実験の直前に調製した。
【0105】
GLP−1結合。AR42J細胞を、上述のようにプレートし、そして培養した。結合実験の開始時に、細胞を無血清DMEMと共に37℃で2時間インキュベートした。次いで、細胞を、(mMで)120 NaCl、1.2 MgSO4、13 酢酸ナトリウム、5 KCl、10 Tris、pH7.6を含有する結合緩衝液0.5mlで2回洗浄した。次いで、細胞を、2%BSA、500U/ml アプロチニン、10mMグルコース、ある範囲の濃度のGLP−1(0.03nM〜100nM)および30,000cpm 125I−GLP−1(2,000Ci/mmol、Peninsula、Belmont、CA)を補充した0.5mlの結合緩衝液と共に、4℃で一晩インキュベートした。本発明者らは、参照日から2週間以内の、新たに調製した125I−GLP−1のみを使用した。インキュベーションの終了時に、補充物を処分して、細胞を氷冷PBSで3回洗浄した。細胞を、0.5ml 0.5N NaOH/0.1%SDSで、30分間室温で溶解した。放射能を、溶解液中で、ICN Apecシリーズγ線計数器で測定した。特異的結合を、500nM GLP−1に存在する非特異的結合を全結合から減算することによって、決定した。この方法は、以前には、GLP−1レセプターを過剰発現するCHO細胞において、および3T3−L1脂肪細胞において、GLP−1結合を特徴付けるために、使用されてきた(Montrose−Rafizadehら、J.Biol.Chem.、1997;Montrose−Rafizadehら、J.Cell.Physiol.、1997)。
【0106】
GLP−1レセプターのRT−PCR。相補のDNAを、全細胞RNAから、マロネイマウス白血病ウイルス逆トランスクリプターゼ(Bethesda Research Laboratories、Gaithersburg、MD)およびランダムヘキサヌクレオチド(hexanucleotide)プライマー(Pharmacia LKB Biotechnology Inc.、Piscataway、NJ)を使用して、合成した。PCR増幅(30サイクル)を、第一鎖cDNAから、組換えTaq DNAポリメラーゼ(Amplitaq、Perkin−Elmer、Cetus)を使用して実施した(Saikiら、1997)。オリゴヌクレオチドプライマーは、膵臓GLP−1レセプター配列の5’末端および3’末端であった(Thorens、1992)(それぞれ、5'ACAGGTCTCTTCTGCAACC3'および5'AAGATGACTTCATGCGTGCC3')。次いで、PCR産物を1%アガロースゲルで分離し、そしてエチジウムブロミドを使用して可視化した。これらのPCR産物を、pBluescriptベクターにサブクローニングし、そして鎖終結技術およびSequenase2.0キット(United States Biochemicals、Cleveland、OH)を使用して、配列決定した。このPCR産物の特異性をまた、Bstxl制限酵素によって決定した。
【0107】
GLP−1レセプターの免疫沈降およびウェスタンブロット。AR42J細胞およびインスリノーマ細胞株(RIN 1046−38細胞)を、上述のように60mmディッシュで増殖させた。これらの細胞が80%コンフルエンスに達したら、これらの細胞を、115mM NaCl、5mM KCl、2.5mM CaCl2、1mM MgCl2、24mM NaHCO3、および25mM HEPESを含有するクレブス−リンガー緩衝液で2回洗浄し、そして液体窒素で凍結させた。この凍結した細胞を切屑して、20mM Tris−HCl:pH8.0、137mM NaCl、1%Triton X−100、0.5% デオキシコレート、0.1%SDS、0.2mM PMSF、10μg/ml ロイペプチン、20μg/ml アプロチニン、1mM Na−オルトバナジン酸塩、1mM ベンズアミジンを含有するRIPA緩衝液に溶解した。不溶性物質を、15,000×gで15分間4℃で遠心分離することにより除去し、そして免疫沈降およびウェスタンブロットのために上澄みを回収した。N末端に対する抗GLP−1−R抗体(Dr.Joel Habener、Massachusetts General Hospital、MAにより提供)を、1:250で、40μlのタンパク質Aおよびタンパク質Gと共に各チューブに添加した。免疫沈降を、4℃で一晩実施し、そして免疫複合体を、RIPA緩衝液で2回洗浄し、洗浄用緩衝液(25mM Hepes、0.1%Triton X−100、および1mM Na−オルトバナジン酸塩)でさらに2回洗浄し、次いで免疫複合体ペレットを、50μlのSDS−PAGEサンプル緩衝液で、70℃で10分間可溶化した。免疫沈降したタンパク質を、小型樹脂カラムで溶出し、そして4〜20%SDS−ポリアクリルアミドゲルに供した。このゲルをPVDF膜に電気移動(electrotransfer)させた後、ブロットをTBST緩衝液(20mM Tris−HCl[pH7.5]、137mM NaClおよび0.1%Tween20)中5%脱脂乳で、室温で1時間ブロックし、次いで1:1500でGLP−1−レセプターに対する抗体と共に室温で1時間インキュベートした。PVDF膜を、TBSTで3回洗浄し、そして西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体化抗ウサギ二次抗血清と共に、室温で1時間インキュベートした。TBST中での一連の洗浄の後、ブロットを、ECl化学発光検出システムを使用して現像した。オートラジオグラフを、Molecular Dynamicsレーザー濃度計のImage−QuantTMソフトウェア(第3.3版)を使用して、定量した。この実験において、インスリン産生細胞株RIN1046−38細胞を、GLP−1レセプターの存在のポジティブコントロールとして使用した。清澄な細胞溶解液のアリコート(20μl)を使用してタンパク質濃度を決定し、ブラッドフォード法(Bradford、1976)によって評価した。
【0108】
チロシンのリン酸化の研究。AR42J細胞を、115mM NaCl、5mM KCl、2.5mM CaCl2、1mM MgCl2、24mM NaHCO3、および25mM HEPESを含有するクレブス−リンガー平衡緩衝液(KRBB)中、37℃で2時間、前インキュベートした。次いで、培地を除去し、そして新しいKRBBを添加し、細胞を37℃のホットプレート上に5分間置いた。5分間にわたって様々な試薬(図24を参照のこと)を添加した後に、これらのディッシュを液体窒素に浸漬することによって、この反応を終結させた。凍結した細胞を切屑し、RIPA緩衝液に溶解した。不溶性物質を、15,000×gで15分間遠心分離することによって除去し、そして免疫沈降および免疫ブロット法のために、上澄みを回収した。清澄な溶解液からのホスホチロシン含有タンパク質を、モノクローナル抗ホスホチロシン抗体と共に免疫沈降させ、還元条件下4〜12%SDS−ポリアクリルアミドゲル中での電気泳動によって分離し、次いでPVDF膜に電気移動させ、そしてポリクローナル抗ホスホチロシン抗体によって免疫ブロット法を行った。これらのブロットを、ECL化学発光検出システム(Amersham)を使用して現像した。清澄な細胞溶解液中の全タンパク質含有量を、ブラッドフォード法を使用してアッセイした(Bradford、1976)。
【0109】
統計的分析。ここでは、適用可能な結果は、平均±SEMとして表現され、独立スチューデントt検定に供される。群内で、比較を、一元(one−way)分散分析(ANOVA)を使用して分析した。p<0.05を統計的に有意とみなした。
【0110】
アミラーゼ放出。CCKは、アミラーゼ放出の強力な刺激物であった。最大刺激は、10nMで見られた(図14)。グルカゴン(10nMまたは100nM)は、単独ではアミラーゼ放出に対して効果を有しないが、CCKと組み合わされた場合、グルカゴンはCCK誘発アミラーゼ放出を阻害したが、完全には無くさなかった(図15;n=20、p<0.01)。GLP−1およびインスリンは、単一でもCCKと組み合わせても、アミラーゼ放出に影響を与えなかった(図15)。本発明者らはまた、exendin−4(10pM〜10nMの濃度範囲)を、アミラーゼ放出に対する潜在的効果について調べ、GLP−1と同様、exendin−4はアミラーゼ放出に影響しないようであった。GLP−1およびグルカンは、AR42J細胞のcAMPレベルを上げると予期され得るので、本発明者らは、特異的cAMP効果を探すためにcAMPアナログである8−ブロモ−cAMP(8−Br−cAMP)のアミラーゼ放出に対する効果を観察した。単独で与えられる場合、8−Br−cAMPはアミラーゼ放出に効果を有しないようである一方で、8−Br−cAMPはCCK誘発アミラーゼ放出を減少させた(図16)。本発明者らはまた、タプシガーギンおよびリアノジン、リアノジンレセプター/ER Ca2+放出チャネルの特異的インヒビターおよびER Ca2+ポンプの特異的インヒビターをそれぞれ、単独でおよびCCKと組み合わせて使用し、アミラーゼ放出に対する細胞内カルシウムの上昇の役割を調べた。タプシガーギンおよびリアノジンの組み合わせはCCK誘発アミラーゼ放出を減少させたが、完全には阻害しなかった(図17;n=3、P<0.01)。NaF(腺房組織のアミラーゼ放出に対するCCKの効果を模倣する(Vajanaphanichら、1995))は、AR42J細胞においてと同様であった。チロシンキナーゼインヒビターであるゲネスタイン(Genestein)(300μM)は、CCK媒介アミラーゼ放出を、特にCCK処理の初期の時点において減少させたが、一方で、チロシンホスファターゼインヒビターであるバナジン酸塩は、基底アミラーゼ放出およびCCK媒介アミラーゼ放出を有意に増加させた(図18)。本発明者らは、膵臓のβ細胞をGLP−1で24時間処理した場合、グルコース媒介インスリン放出およびGLP−1媒介インスリン放出の増加があることを示した(Wangら、Endocrinology、1995)。従って、本発明者らは、GLP−1がアミラーゼ放出に対して有し得る任意の長期の効果を探した。GLP−1(10nM)およびインスリン(100nM)を用いた8、24、48または72時間のAR42J細胞のプレインキュベーションは、基底アミラーゼ放出もCCK(1nM)誘発アミラーゼ放出も増加させなかった。
【0111】
AR42J細胞におけるCCKに対する[Ca2+]I応答。この実験の条件下では、AR42J細胞の大部分(85%;n=35)が、1nM CCKに応答して[Ca2+]Iを一時的に増加させた。図6Aは、CCK誘発[Ca2+]Iトランジエント(transient)の代表的な例を示し、CCKへの暴露後5〜25秒後に始まり、次の5〜15秒でピークとなる。ピークインド−1(indo−1)蛍光比(IFR)から評価したピーク[Ca2+]Iは、静止IFRを2.5〜3.5倍超えた。[Ca2+]Iトランジエントの緩和は、ピークに続いてすぐに始まり、通常、初期の素早いフェーズ、引き続くプラトーフェーズおよびよりゆっくりとした最終フェーズからなっていた。[Ca2+]Iトランジエントの後、ベースライン[Ca2+]Iが静止[Ca2+]Iのレベルより下に減少し、CCKに対する暴露の前に測定された(図19A)。引き続く静止の間、ベースライン[Ca2+]Iは、漸進的な増加を示したが、通常、10分以内でコントロールレベルには完全には回復しなかった。静止[Ca2+]Iの完全な回復の前にCCKに対して繰り返される暴露によって誘発される[Ca2+]Iトランジエントは、先の[Ca2+]Iに対して30〜40%減少した。
【0112】
CCK誘発[Ca2+]Iトランジエントは、10μMリアノジンおよび500μMタプシガーギンで前処理された細胞中でほとんど完全に消滅した(図19B;N=7)。これらの結果は、腺房細胞において、ERがCCKによって誘発される[Ca2+]Iの変化の主要な源であるという考えを支持する(Muallemら、1988;Ochsら、1983)。この考えと一致して、名目上、CA2+の無い灌流溶液に添加されるCCKに対する暴露(図19)は、[Ca2+]Iトランジエントの上昇率または大きさに明らかには影響しなかった(n=5)。しかし、図19Cに示されるように、細胞外Ca2+の減少は、[Ca2+]Iトランジエントの期間を短くした。このことは、以前(Muallcmら、1998;Ochsら、1983)に示されるように、細胞外Ca2+がCCK誘発ER Ca2+放出によって開始される[Ca2+]Iトランジエントの遅延した成分の維持において役割を演じ得ることを示唆する。
【0113】
AR42J細胞のGLP−1に対する[Ca2+]I応答。GLP−1に対する暴露は、AR42J細胞の約50%(n=27)の[Ca2+]I応答を誘発した。GLP−1誘発トランジエント(図20A)は、かなりの変動性を示したが、通常、CCKに対する[Ca2+]I応答よりも遅い速度で発生し、そしてCCKに対する[Ca2+]I応答よりも小さな大きさ(静止IFRに対して1.5から2.5倍の増加)で得られた。さらに、GLP−1誘発[Ca2+]Iトランジエントが、CCKによって誘発される速度よりも遅い速度で緩和した(図20A対19Aおよび20B、C)。図20Bは、同じ細胞内のGLP−1に対する暴露の後10分未満で適用されるCCKの[Ca2+]Iに対する効果を示す。この種の実験において、CCK誘発トランジエントは、その特徴的配置を保持するが(図19Aに示されるように)、より小さな大きさに達した。後者の効果は、ベースラインIFRの減少、および/またはER Ca2+含有量の部分的枯渇によって示され、[Ca2+]I含有量の減少に少なくとも部分的に起因し得る(図19を参照のこと)。二回目のCCKへの暴露では、大きさはより小さくさえなった(図20C)。リアノジン(100μM)およびタプシガーギン(500μM)での前処理は、GLP−1に対する[Ca2+]I応答を実質的に消滅させた。まとめると、これらの結果は、CCKおよびGLP−1がCa2+の同じ細胞内プール(おそらくER)にアクセスしているが、多分異なるメカニズムでCa2+を放出することを示す。ヒーラモンスター由来の(Gila monster)GLP−1ホモログであるexendin−4は、[Ca2+]IのGLP−1と同じ効果を有したが、大きさが約1桁強力であった。GLP−1アンタゴニストであるexendin9−39(Gokeら、1993)は、GLP−1よりも10倍高い濃度で使用される場合、GLP−1誘発カルシウムトランジエントを阻害した。
【0114】
[Ca2+]IAR42J細胞に対するグルカゴンおよび8−ブロモ−cAMPの効果。グルカゴン(10nM)への暴露は、AR42J細胞の70%(n=12)の[Ca2+]I応答を誘発した。[Ca2+]Iトランジエントは、グルカゴンへの暴露のすぐあとに始まり、比較的ゆっくりした速度で発生し、静止IFRレベルの200〜250%でピークとなり、延長されたゆっくりした緩和を示した(図21A)。グルカゴンで処理したすぐ後でCCKによって誘発された(または同時に添加された両方の処理での)[Ca2+]Iトランジエントは、減少した上昇速度および非常に遅い緩和速度を示した(図21B)。同様に、cAMPの膜透過性形態である0.1μM 8−ブロモ−cAMPに対して短い(60〜300秒)暴露は、通常、CCK誘発[Ca2+]Iトランジエントの上昇速度に顕著には影響しないが、それらの緩和速度を顕著に遅くした(図21C)。CCK存在下でのジブチリルcAMPのアセトキシメチルエステルを用いる細胞内動員の減少は、以前に腺房細胞において示されている(Kimuraら、1996)。
【0115】
GLP−1結合。500μM非標識GLP−1の存在による合計の結合の置換によって決定される場合の、特異的な125I−GLP−1は、添加された放射能の合計のうちの0.64±0.16%(n=9、特異的な結合の量は、ゼロより有意に大きかった、p<0.01)であり、結合の合計のうちの27±3.2%(n=9)であった。低い特異的結合のために、全体のスキャッチャード分析を行わなかった。
【0116】
cAMPレベル。細胞内cAMPレベルは、AR42J細胞において、CCK(1nM)の存在下または非存在下で、GLP−1(0.1〜100nM)またはIBMX(100nM)での1時間処理、あるいはCCK(0.1〜100nM)のみでの1時間の処理では変わらなかった。IBMXは、cAMPレベルのわずかな増加を引き起こしたが、これは3つの実験において、非IBMX処理細胞と統計的に異ならなかった。グルカゴン(10nM)は、CCKの存在下および非存在下でcAMPレベルの2倍の増加を引き起こした(図22)。exendin−4(0.1〜10nM)は、cAMPレベルを変化させなかった。
【0117】
GLP−1レセプターのRT−PCR。GLP−1レセプターmRNAの存在は、RT−PCRを用いることによってAR42J細胞において検出された。図23は、公知の膵臓GLP−1レセプター配列(Thorens,1992)と同一のプライマーを用いて、推定された大きさのPCR産物(bp928;Eganら,1994を参照のこと)がAR42J細胞およびラット膵臓において検出され得るが、水コントロールのPCRにおいては検出されないことを示す。ゲノムDNA混入が全く存在しないことは、本発明者らのプライマーが1.8K塩基のPCRバンドを生じるイントロン配列に及ぶことから証明される。混入しているゲノムDNA PCRに対応するさらなるバンドは本発明者らのPCR反応において観察されなかった。このPCR反応物をクローニングし、部分的に配列決定し、そしてβ細胞GLP−1レセプターであると同定された。
【0118】
GLP−I発現のウェスタンブロット分析。GLP−1レセプターのN末端領域に対する抗体を用いて、特異的バンドが、ポジティブコントロール細胞であるRIN 1046−38細胞において、およびAR42J細胞において65kDaおよび45kDaで得られた。これらはそれぞれ、成熟GLP−1レセプターおよびコアグリコシル化GLP−1レセプターに対応することが示された(図24)。
【0119】
チロシンリン酸化研究。何の刺激も存在しない場合、いくつかのタンパク質が、CCKおよびNaFの存在下では増加したがGLP−1の存在下では増加しなかった基底レベルのリン酸化を示した(図25)。4つのタンパク質(46kDa、66kDa、120kDaおよび190kDa)は、CCKの存在下で最も明らかに影響を受け、これらのタンパク質のリン酸化レベルは少なくとも2倍増加した。ゲニステインは、図18において既に示したように、CCKによって誘導されるチロシンリン酸化を減少させ、そしてCCK媒介アミラーゼ放出を減少させた。
【0120】
AR42J細胞は、濃度依存様式でのアミラーゼ放出の誘導、および細胞内カルシウムの増加によって実証されるように、CCKに対して生理学的様式で応答する。CCKはまた、以前に示された(Lutzら,1993)ように、タンパク質チロシンリン酸化を誘導した。CCKは、SDSポリアクリルアミドゲルで分離した場合の見かけの分子量に基づいて190kDa、120kDa、66kDaおよび46kDaのチロシンリン基質(phosphosubstrate)のかなりの増加を誘導した。これらのリン酸化のうちの2つである120kDaおよび66kDaは、既に記載されている(同書)。ゲニステインによるチロシンリン酸化の阻害は、アミラーゼ放出を阻害し、そしてまたチロシンリン酸化事象を減少させた。このことは、AR42J細胞においては、腺房細胞においてのように、チロシンリン酸化が、調節されたアミラーゼ分泌に関与することを示唆する。インスリンは、それ自体のレセプターβサブユニットである可能性が最も高い97kDaでのリン酸化を誘導した。周知のGタンパク質のアクチベーターであるNaF(Rivardら,1995)は、腺房細胞においてアミラーゼ放出を増加させ、そしてチロシンキナーゼ活性を増加させる(同書)という点で、腺房細胞におけるCCKの効果を模倣することが以前に示されている。NaFは、AR42J細胞におけるチロシンリン酸化事象に対するCCKの効果を模倣し、それゆえ、CCKレセプターとチロシンリン酸化との間の変換器として機能するフッ化物感受性Gタンパク質が存在するという仮説(同書)に信頼性を与える。
【0121】
GLP−1は、AR42J細胞中で単独でまたはCCKとともに用いたとき、細胞内カルシウムを明らかに増加させたが、アミラーゼ放出を増加させないようであった。cAMPの増加は、GLP−1の存在下では実証されなかったが、グルカゴンを用いた場合は明らかであった。Malhotraら(1992)は、ラット腺房細胞を用いて、GLP−1に相同であるドクトカゲ(Gila monster)毒であるexendin−4が、CCK誘導性アミラーゼ放出を増強し、そして細胞cAMPを増加させたと述べたが、Malhotraら(1992)はGLP−1効果については考察しなかった。しかし、cAMPの増加は、10-8Mのexendin−4が用いられるまでは観察されず、その濃度では、exendin−4は、他のレセプターを介して相互作用してい得る(同書)。同様に、CCK誘導性アミラーゼ放出を増強することに対する効果(CCK単独によって放出される総アミラーゼの12%から、それに対してexendin−4およびCCKを一緒に用いる場合の16%)が10-8Mのexendin−4を用いて見られ、そしてCCKに1時間暴露した時間経過のうちの15分間の時点でのみ統計学的有意に達した(p<0.02)。この方法は、生じたとしてもGLP−1またはexendin−4のこのような非常に小さくかつ時間特異的な効果を捕らえるのに充分になほど感受性ではないかもしれず、そして再度、Malhotraらによって示された分泌に対する効果は、他のレセプターとの相互作用に起因し得る。膵臓のβ細胞では、exendin−4は、10-10M程度の低い濃度で、cAMPおよびインスリンの分泌を増加させる(Gokeら,1993)。あるいは、低いレセプター親和性に起因して、GLP−1を用いてのcAMPレベルの小さく急な変化は検出されていないかもしれない。
【0122】
AR42J細胞の応答は、末梢細胞(肝臓、脂肪および骨格筋)において見られる応答と類似する。この応答はどちらでも、cAMPレベルの上昇を示さない(Valderde And Villanueva−Penacarrillo,1996)。GLP−1は、β細胞におけるGタンパク質サブタイプとは異なるGタンパク質サブタイプまたは他のGタンパク質サブタイプのいずれかと共役し得るようである。CCKレセプターは、腺房細胞においてGiサブタイプならびにGqサブタイプと共役していることが示された(Schnefelら,1990)。AR42J細胞では、GLP−1は、少なくとも1つのGiサブタイプ、およびおそらく他のGタンパク質αサブユニットと共役し得る。3T3−L1脂肪細胞では、GLP−1が脂質合成およびグルコース取り込みを増加させており、このGLP−1レセプターがGiサブタイプに共役している可能性が最も高いこと(Montrose−Rafizadehら,J.Biol.Chem.,1997)およびGLP−1レセプターを過剰発現するCHO細胞では、このGLP−1レセプターが他のαサブユニットと共役していること(Montrose−Rafizadehら,Diabetes,1997)が示されている。
【0123】
CCKと同様に、GLP−1によって誘導される細胞内カルシウムの上昇は、小胞体に由来した。しかし、カルシウム勾配のパターンは、CCKを用いた場合と同じではなかった。このことは、CCKによるカルシウムの放出へのシグナル伝達が、グルカゴンおよびGLP−1によるものとはおそらく異なることを意味する。GLP−1は、チロシンリン酸化事象を増加させなかった。このことは、調節されたアミラーゼ放出についてのチロシンリン酸化の重要性を再度実証する。これはまた、細胞内カルシウムの上昇とは独立した経路が、アミラーゼの分泌に重要であることを実証する。これはさらに、タプシガーギンおよびリアノジンの存在下で得られた結果によって強調される。これらは、これらが減少させた細胞内カルシウムの上昇を全て防止したが、CK誘導性アミラーゼ放出を完全には防止しなかった。それゆえ、細胞内カルシウムの上昇が、CCK誘導性アミラーゼ放出の完全発現に必要であるが、それ自体の上昇は明らかに、AR42J細胞におけるアミラーゼ放出を誘導するためには充分ではない。
【0124】
任意の細胞型が、GTP結合タンパク質の多様なβサブユニットを含み得る(von Weizsackerら,1992)。このことは、活性化されるサブタイプ(すなわち、CCKもしくはGLP−1によるGq、グルカゴンもしくはGLP−1によるGs、またはCCKおよびGLP−1の両方によるGi)に依存して、異なるGβyサブユニットが放出され得ることを意味し得る。次いで、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化について既に記載されたように(Hawesら,1995)、特異的Gβyが、AR42J細胞において観察されるチロシンリン酸化事象のために必要とされ得る。これはまた、2つの異なるGβyサブユニットが1つのホルモンの作用によって放出されるならば、これらは種々の下流の事象に対して相加的なまたは拮抗的な効果を有し得るという可能性を生じる。
【0125】
GLP−1レセプターは、AR42J細胞に存在する。GLP−1およびexendin−4によるそれらの活性化は、おそらくERからの、細胞内カルシウムの増加を導く。しかし、それらの活性化は、アミラーゼ放出の増加を導かず、そしてCCK誘導性アミラーゼ放出は増強されない。
【0126】
(実施例5)
実施例4に議論されるように、GLP−1レセプターは、AR42J細胞上に存在し、そしてGLP−1によるAR42J細胞の急性処理は、細胞中の細胞内カルシウムを増大させる。さらに、以前の研究により、デキサメタゾンはAR42J細胞が腺房様細胞となることを促進した(Christophe、1994)が、βセルリンおよびアクチビンAはAR42J細胞の約10%をインスリン産生細胞に転換する(Mashimaら、J.Clin.Invest.1996)ことが示された。同様に、肝細胞増殖因子(HGF、肝細胞(heptocyte)錯乱因子(HSF)としても知られる)への曝露後、AR42J細胞の約3%がインスリンポジティブであった;それに対して、HGFおよびアクチビンAへの曝露は、約10%のインスリンポジティブ細胞を生じた(Mashimaら、Endocrinology、1996)。GLP−1またはexendin−4のいずれかに関しては上記研究のいずれについて何も述べられていない。さらに、GLP−1またはExendin−4のいずれも、アクチビンAおよびβセルリンによる組み合わせ処置あるいはHGFおよびアクチビンAによる組み合わせ処置よりもはるかに大多数で、AR42J細胞をインスリン産生細胞に変換し得る。GLP−1またはexendin−4による効果の機構は、ERK活性化の阻害がインスリンおよびグルカゴン産生を防止したので、最終工程としてERK/MAPK経路の活性化に関与し得る。
【0127】
材料。AR42J細胞は、ATCC(Rockville、MD)から得られた。GLP−1、exendin−4およびexendin−9−39(GLP−1レセプターアンタゴニスト)は、Bachem(Torrance、CA)からであった。抗インスリン抗体および抗グルカゴン抗体は、Linco(Charles、MO)からであった。抗ラットERK1/2抗体(ERK1−CT)およびミエリン塩基性タンパク質(MBP)は、Upstate Biotechnology Incorporated(Lake Placid、NY)から購入された。インスリンラジオイムノアッセイ試薬は、Peninsula Laboratories(Belmont、CA)からであった。タンパク質測定試薬は、Bio−Rad(Hercules、CA)から得られた。ペルオキシダーゼABCキットは、Vector Laboratories(Burlingame、CA)から得られた。TianTM One Tube RT−PCRシステムは、Boehringer Mannheim(Indianapolis、IN)から購入された。デオキシリボヌクレアーゼIは、Gibco BRL(Gaithersburg、MD)から得られた。ガラス製カバーガラスは、VWR Scientific(Baltimore、MD)からであった。タンパク質キナーゼC(PKC)インヒビター1−o−ヘキサデシル−2−o−メチル−rac−グリセロール(PKI)、およびMAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)インヒビター、PD98059は、Calbiochem(San Diego、CA)からであった。
【0128】
細胞培養。AR42J細胞を、10%胎児仔牛血清(FBS)、100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび2mMグルタミンで補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中に維持した。継代23〜35からの細胞を、この研究に使用した。細胞を、慣用的に、約105細胞/mlの濃度で、12ウェルのクラスターディッシュまたはカバーガラスにプレートし、そして95%空気および5%CO2、37℃で加湿インキュベーター中にてインキュベートした。
【0129】
免疫細胞化学分析。細胞を、ガラス製カバーガラス上で培養し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、血清を除去し、そしてPBS中の0.5%グルタルアルデヒドで固定した。細胞を、0.2%Triton X−100で5分間、透過させ、残りの手順を加湿チャンバ中、室温で行った。吸引を、各工程間の試薬を除去するために使用したが、標本の乾燥は避けた。十分な試薬を、各標本をカバーするために使用した(約1または2滴が通常、適切である)。カバーガラスを、PBS中の0.3%H2O2中で30分間、インキュベートし、内因性ペルオキシダーゼ活性をクエンチし、そしてPBS(3回)洗浄し、続いて、PBS中の2%ヤギ血清とともに30分間、インキュベートし、IgGの非特異的結合をブロックした。過剰の血清を、ブロッティングによって除去した。特異的1次ポリクローナル抗血清(抗インスリン 1:300;抗グルカゴン 1:300)を使用した。抗体を、1%ヤギ血清を含有するPBS中に希釈した。これを、カバーガラスに付与し、そして室温で1時間、インキュベートした。カバーガラスをPBSで3回洗浄し(各回5分間)、次いで、ビオチン標識した2次抗体とともに1時間インキュベートし、そしてPBSで3回洗浄した。PBS中のアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体を、30分間適用した。イムノペルオキシダーゼ標識を、Vectostain ABCキット(Vector Labs、Burlingame、CA)を用いて行った。PBS中の広範囲の洗浄を4〜5回(各5分間)した後、カバーガラスを、PBS中のジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(DAB)中で、0.01%過酸化水素とともに、3分間、インキュベートした。この反応を、カバーガラスをPBS中で洗浄することによって停止させ、そして光学顕微鏡で検査した。特異的染色を確かめるために、予め吸収された1次抗体とともにインキュベートしたサンプルを、ネガティブコントロールとして使用し、そしてインスリン産生細胞株RIN 1046−38細胞を、本発明者らの実験のためのポジティブコントロールとして使用した。アビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ(ABC)手順を、当該分野において公知の方法(Hsuら、1981)に従って行った。
【0130】
免疫反応性インスリンの測定。AR42J細胞を、12ウェルのクラスタープレート中で、既に述べたように培養した。細胞が60%集密に達したとき、これらをGLP−1で3日間、処理した。実験開始時に、培地のアリコートを、培地中のインスリン蓄積をアッセイするために、採取した。次いで、この細胞を、Krebのリンガーバランス緩衝液(KRBB)で2回、洗浄し、そして10mMグルコースを含有する同じ緩衝液において、さらに1時間、インキュベートした。この培地を回収し、そしてインスリンレベルをRIAによってアッセイするまで、−20℃に保った(実施例1;Wangら、Endocrinology、1995を参照のこと)。この細胞を、PBSで洗浄し、そして0.25%チプシン(typsin)および0.02%EDTAを用いて分離(detach)させた。細胞ペレットを回収し、そして標準物質としてウシ−グロブリンを使用するBradford法(Bradford、1976)によるタンパク質測定のために、ギ酸で溶解させた。
【0131】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)。総RNAを、処理されたAR42J細胞から、ChomczynskiおよびSacchi(1987)の方法によって単離した。総RNAサンプルを、20mM Tris−HCl(pH8.4)、2mM MgCl2および50mM KCl中のDNAseによって予め処理し、微量の汚染ゲノムDNAを除去した。RT−PCRを、50mM KCl、10mM Tris−HCl、3.5mM MgCl2、200μMの各dNTP、ラットインスリンIおよびIIに対する0.4μMの各センスおよびアンチセンスプライマー(インスリンセンスプライマー=5’TGCCCAGGCTTTTGTCAAACAGCACCTT3’;インスリンアンチセンスプライマー=5’CTCCAGTGCCAAGGTCTGAA3’)を含有する緩衝液(容量50μl)中で実施した。増幅を、変性温度94℃(1分間)、アニーリング温度60℃(45秒間)および伸長温度72℃(1分間)、25サイクルで行った。RIN 1046−38細胞由来のmRNAを、ポジティブコントロールとして使用した。グルカゴンRT−PCRの場合において、変性および伸長の温度は、アニーリング温度が65℃で1分間(グルカゴンセンスプライマー=5’GTGGCTGGATTGTTTGTAATGCTGCTG3’;アンチセンスプライマー=5’CGGTTCCTCTTGGTGTTCATCAAC3’)であることを除いては、インスリンに類似していた。RT−PCR手順を、2%アガロースゲル上の臭化エチジウム染色によって視覚化した。
【0132】
MAPキナーゼ活性。処理後、80%集密細胞の60mmディッシュを、溶解緩衝液(mMで示す):50 TRIS−HCl、PH8、150 NaCl、5 EDTA、1%NP−40、0.25% デオキシコール酸ナトリウム、1 NaF、10 ピロリン酸ナトリウム、0.1 PMSF、1 オルトバナジン酸ナトリウム、20μg/mlアプロチニン、および10μg/ml ロイペプチン中4℃で溶解した。この細胞溶解液を、16,000×g、4℃で20分間遠心分離により清澄化した。この清澄化した細胞溶解液を、4.5μgのERK1−CT抗体および40μlのパックされたプロテインG+プロテインAアガロース樹脂(Oncogene Research Product、Cambridge、MA)とともに回転しながら、4℃で一晩免疫沈降した。この免疫ペレットを、基質としてMBPを用いてMAPK活性についてアッセイした。MBP(18.6μg)を、20mM Hepes、PH7.4、10mM MgCl2、1mM DTT、20μM非標識ATPおよび40μCi(3,000Ci/mmol)[32P]−ATPを含む60μlの最終容量中10分間20℃でリン酸化した。この反応は、25μlの3×Laemmli試料緩衝液の添加、および70℃で10分間加熱することにより停止した。MAPK活性は、SDS−PAGEおよびオートラジオグラフィーにより評価した。このオートラジオグラムをデンシトメトリーにより定量化した。
【0133】
アミラーゼアッセイ。アミラーゼ測定のために、細胞を、2ml PBSで培地のないように洗浄した。次いで、インキュベーションを、15mM HEPES、0.2%BSAおよび0.01%大豆トリプシンインヒビターを含むDMEM中で実施した。CCK(1nM)を、37℃で50分間添加した。次いでこのインキュベーション培地を、アミラーゼ測定のために即座に取り出し、そしてこの細胞を再び2mlの氷冷PBS中で洗浄した。(mMで示す)130 Tris−HCl、10 CaCl2、75 NaCl、および0.2%TritonX−100(pH8.0)を含む溶解物緩衝液を細胞に添加し、次いで溶解物を総アミラーゼのために集めた(Ceskaら、1969)。放出されたアラーゼは、細胞中の総アミラーゼの百分率として表した。
【0134】
統計学。すべてのデータ値は、平均±SEMとして示され、そして処理された群間の差異は、1因子ANOVA分析により分析した。処理細胞と非処理細胞との間の差異は、Studentのt検定を用いて分析した。p<0.05は、有意な差異であると考えられた。
【0135】
インスリンおよびグルカゴンの発現に対するGLP−1の影響。GLP−1またはexendin−4処理の後、AR42J細胞は、インスリン含有細胞に変換する.抗インスリン抗体を用いると、強い免疫染色がAR42J細胞中に存在した。対照的に、GLP−1で処理されなかったAR42Jでは免疫染色が観察されなかった。過剰のインスリンおよびグルカゴンでの抗体の予備吸収は染色を防いだ(図26)。
【0136】
1nM GLP−1で、3日後に、約10%が、インスリン陽性細胞に転換した。10nM GLP−1または0.1nM exendin−4を3日間用いた場合、約25%のAR42J細胞が、インスリン陽性細胞に転換した。スライドのいくつかの領域で、隣接する細胞の全体のシートがインスリンについて陽性になった。24時間程度の早期にグルカゴン陽性細胞が時々出現した。48時間までに、すべての処理されたAR42J細胞の20%がグルカゴン陽性であり、約6%の細胞がインスリン陽性であった。72時間までにすべての処理された細胞の半分には十分の細胞がグルカゴンを含んでいた。グルカゴンを含んだ細胞の数は、その後減少したが、少なくとも7日間の間、なお約25%の細胞がインスリン陽性のままであった(図27)。培養培地中のデキサメタゾンの存在または不在は、GLP−1の存在下で「内分泌」細胞に転換した細胞の数にいかなる方法によっても影響しなかった。ERKをリン酸化および活性化するMEKの選択的インヒビターであるPD98059(50μM)、またはPKI(300μM)がGLP−1と同時に添加されたとき、細胞の転換は生じなかった。
【0137】
インスリン放出。1nM GLP−1でAR42J細胞を処理する3日の期間の後、インスリンは、ラジオイムノアッセイにより培養培地中で容易に検出された。3つの別の培養にわたって、5.1±0.4pgインスリン/μgタンパク質(平均±SD)が、60〜72時間の期間から細胞培養培地中に存在した。グルコースが、3日−GLP−1−処理および非処理細胞からインスリン分泌を誘導し得るか否かを調査するために、培地を除去し、そして細胞をグルコースを含まないKRBBで3回洗浄した。これに続いて、10mMグルコースを含むKRBBを1時間添加し、そしてこの細胞を37℃で維持した。インキュベーション緩衝液を集め、そしてインスリンを測定した。コントロール細胞からはインスリンはゼロであった。その一方、GLP−1の3日に先に見られた細胞の緩衝液中には0.65±0.15pgインスリン/μgタンパク質が存在した。インスリン分泌は、200μM PKIの存在下、またはPD98059(50μM)の存在下でわずかに検出された。
【0138】
RT−PCR分析。RT−PCR分析は、3日の間、GLP−1処理AR42J細胞において、187bpのラットインスリンIおよびII mRNAを示した。RIN細胞を陽性コントロールとして用いた。この実験では、RNAは、DNAseで前処理し、推定された長さをもつインスリンIおよびIIのmRNAフラグメントのみを増幅し、それ故、187bpに出現したバンドは、特異的なインスリンmRNA産物であった(図28A)。対照的に、陰性コントロール中または非−GLP−1−処理細胞中ではRT−PCR産物は検出されなかった。GLP−1−刺激AR42J細胞のノザンブロット分析は、かすかに陽性であり、そしてそれ故このバンドは乏しく走査された。236bpのグルカゴンmRNAは、48時間のGLP−1−処理AR42J細胞中で検出された(図28B)。
【0139】
MAPキナーゼ活性。ERK活性化はAR42J細胞中で容易に検出された。その活性は、GLP−1で顕著に増加し、アメリカドクトカゲ毒液ペプチドであるexendin−4は、これはGLP−1に対して52%相同であり、そしてインスリンの分泌促進物質であることが示された(Gokeら、1993)。exendin−4は、GLP−1に比べ約100倍より能力があった(図29Aおよび29B)。PKI(300μM)単独は、MAPK活性をコントロール細胞のそれより少なく減少させた。
【0140】
アミラーゼ変化。AR42Jをデキサメタゾンと72時間インキュベートすることは、非デキサメタゾン処理細胞(1.88U/l)と比較して、細胞においてアミラーゼ含量を6.6倍(12.57U/l)増加させた。GLP−1をデキサメタゾンと一緒に添加したとき、総アミラーゼ含量は、デキサメタゾンン処理単独に比べて減少した(7.76U/l)。CCK(1nM)に対する急性応答はまた、GLP−1で72時間前処理した細胞中で減少した(図30)。
【0141】
GLP−1は、膵臓内分泌細胞に、またはまさに少なくとも、内分泌形質を有する細胞に分化するようにAR42J細胞を誘導する。この所見と共に、同じパターンが、発生中の胎性膵臓で生じる(Guzら、1995)。グルカゴンが、検出された第一のホルモンである(Rallら、1973)。グルカゴンを含有する細胞は、種々の他のタイプの島内分泌細胞の前駆細胞であること、およびそれらは、順に、管上皮から生じたことが仮定される(Guzら、1995)。しかし、膵臓ホルモン産生細胞の形成および分化を調節する機構は、なお大部分は未決定である。GLP−1は、AR42J細胞において非常に早期にグルカゴン産生を開始させ、そしてこれは、次いで、インスリン産生へと密に続く。最終的に、「内分泌」AR42J細胞の大部分は、グルカゴン産生が弱まるのでインスリン産生細胞である。Exendin−4は、AR42J細胞におけるインスリン産生のための因子としてGLP−1よりずっと強力であった。いくつかのインスリン含有細胞を、10-11モル濃度程度の濃度のexendin−4の存在下で見られた。GLP−1(および/またはGLP−1様ペプチド、おそらくexendin−4に類似する)は、島のための胚における分化因子であり得る。このようなペプチドは、膵臓が原始腸管から形成するので、高濃度で局所的に存在することが予期される。
【0142】
グルカゴンは、細胞増殖の減少および巨大分子合成の変化に至るcAMPを増加し、β細胞表現型に達することにより、β細胞の分化のためのシグナルであると仮定されている。(Rallら、1973)。これはなお、AR42J細胞中に適用可能であり得る。グルカゴンが本発明者らの系で最初に見られたホルモンであるので、それは、インスリン産生のためのシグナルであり得る。原始腸管で産生されたGLP−1は、グルカゴン発現(および続くインスリン発現)のためのシグナルであり得、これは、内分泌細胞のさらなる形成および島様構造に至る。
【0143】
AR42J細胞ならびに他の細胞型における「内分泌」細胞分化への最終の共通経路は、ERK/MAPK経路を通ってであるようである。GLP−1またはExendin−4は、AR42J細胞においてほとんどまたは全くインスリン染色を生じず、そしてERK活性が阻害されるとき培地中にインスリンを生じない。GLP−1およびPKCインヒビターの存在下でほとんどまたは全くインスリンがないことが、観察される。GLP−1レセプターはGタンパク質結合性であり、AR42J細胞に存在し、そしてAR42J細胞中に細胞内カルシウムを上昇させることが知られているので(実施例4を参照のこと)、リガンド結合によるその活性化は、おそらく、PKC活性化、および未だ決定されていない下流の事象のような他の事象に至る(Nishizuka、1984;Zamponiら、1997)。PKCは、順に、MAPK経路を活性化する因子の1つであることが示されている(Offermannsら、1993;Siddhantiら、1995)。従って、GLP−1によるPKC活性化のブロッキングは、おそらく、MAPK活性の消失に至り、そして「内分泌」細胞表現型の発生を防止した。
【0144】
さらに、全ての細胞が、7日程度のインキュベーションを伴ってでさえ、GLP−1を有する「内分泌」細胞に変換するわけではない。処理されたAR42J細胞は、未処理AR42J細胞について記載されるように、外分泌特性および神経内分泌特性の両方を有する(Christophe、1994を参照のこと)。形態学的には、処理細胞の種々の集団は、同じではないようである。従って、細胞の亜集団は、未処理AR42J細胞に存在し得る。詳細には、これらの集団のいくつかは、GLP−1レセプターを有するかもしれず、そして他は有さないかもしれない。AR42J細胞の全集団から作製された細胞集団は、ウェスタンブロッティング、PCR分析、および部分配列決定によってGLP−1レセプターを有する。配列決定の際に、レセプターは、β細胞に見出され、そして既に十分に特徴付けられているものと同一である(実施例4を参照のこと)。さらに、AR42J細胞の少なくとも50%は、GLP−1に応答して細胞内カルシウムを増大させる。従って、GLP−1は、おそらく、細胞内カルシウムの増加、および今のところ他のこれまで未知の因子(これは、AR42J細胞に明確に存在し、そしてそれらが「内分泌」細胞になるように方向付ける)を必要とする一連の事象を活性化する。
【0145】
(実施例6)
1型糖尿病と診断された被験体は、GLP−1またはexendin−4での処置について選択され得る。Gutniakら、1992の処置方法は、GLP−1が肘前静脈中にカニューレによって少なくとも24時間投与されるように改変され得る。カニューレは、0.03〜4.80nmol/kg/分GLP−1の間でポンプ注入するインスリン注入システムに接続され得る。血中グルコースレベルが、当該分野で周知の方法を用いて、GLP−1の投与の間およびGLP−1投与の24時間の期間後、定期的にモニタリングされ得る。GLP−1注入の24時間後、被験体は、正常レベルに接近し、そしてインスリン療法の必要性を減少させた血中グルコースのレベルを示す。
【0146】
あるいは、1型糖尿病を有する被験体は、単回の皮下注射によって、または0.01nmol/kg〜0.4nmol/kgの毎日の繰り返し皮下注射によって、exendin−4で処置され得る。血中グルコースレベルは、exendin−4の投与後、定期的にモニタリングされ得る。インスリン置換療法の必要性が減少し、そして血中グルコースレベルは正常なレベルに近づく。
【0147】
前述の実施例は、本発明を例証することを意図するが、限定することは意図しない。それらは、用いられ得る発明の典型ではあるが、当業者に公知の他の手順は、代替的に使用され得る。
【0148】
上記のように、細胞をGLP−1またはExendin−4と接触させることにより、GLP−1またはExendin−4の両方、実質的に相同な配列、またはそれらのフラグメントがともに使用され得ることが理解される。
【0149】
本願を通して、種々の刊行物が言及されている。これらの刊行物の開示は、その全体が、本発明が属する技術分野の水準をより十分に記載するために、本明細書によって本願に参考として援用される。
【0150】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、3ヶ月齢および22ヶ月齢の動物における血漿インスリンレベルを示す。GLP−1(0.2nmol/kg)を、絶食させ、麻酔した動物の静脈内に与えた。
【図2】 図2は、22ヶ月齢の動物におけるグルコース負荷の間の血漿グルコースレベルを示す。GLP−1処置動物には、1.5pmol/kg/分で48時間にわたる皮下注入により与えた。コントロールには、生理食塩水を注入した。グルコース(1g/kg)をipにより与え、そして血糖を、示した時点で測定した。結果は、6匹の処置動物および6匹のコントロール動物の平均(±SEM)である。0〜30分からの分散の反復測定値分析は、p<0.05という値を示した。アスタリスクは、独立スチューデントt検定により決定されるように、*p<0.05、**p<0.01を示す。
【図3】 図3は、22ヶ月齢の動物におけるグルコース負荷の間の血漿グルコースレベルを示す。GLP−1処置動物には、1.5pmol/kg/分で48時間にわたる皮下注入により与えた。コントロールには、生理食塩水を注入した。グルコース(1g/kg)をipにより与え、そして血清インスリンを、示した時点で測定した。結果は、6匹の処置動物および6匹のコントロール動物の平均(±SEM)である。0〜30分からの分散の反復測定値分析は、p<0.05という値を示した。アスタリスクは、独立スチューデントt検定により決定されるように、p<0.01を示す。
【図4】 図4は、22ヶ月齢ラットでの生理食塩水(コントロール、7匹の動物)またはGLP−1(1.5pmol/kg/分、7匹の動物)の注入して48時間後の島インスリン含量の増加倍数を示す。独立スチューデントt検定により**p<0.01である。
【図5】 図5は、コントロール、GLP−1処理、Ex+GLP−1処理、およびEx処理した22ヶ月齢の動物由来の膵臓におけるインスリンmRNAレベルを示す。各サンプルは、個々の膵臓を表す(各処置群において4匹の動物を用いる)。
【図6】 図6は、コントロール、GLP−1処理、Ex+GLP−1処理、およびEx処理した22ヶ月齢の動物由来の膵臓におけるGLUT2 mRNAレベルを示す。個々の膵臓を表す(各処置群において4匹の動物を用いる)。
【図7】 図7は、コントロール、GLP−1処置した、Ex+GLP−1処置した、およびEx処置した22月齢動物由来の膵臓におけるグルコキナーゼmRNAを示す。各サンプルは、個々の膵臓を表し、各処置群中に4匹の動物を有する。
【図8】 図8は、100μl NaCl中のGLP−1(0.4nmol/kg)およびexendin−4(0.4nmol/kg)の静脈内(iv)ボーラス後の、絶食し麻酔されたラットにおける血漿のインスリン濃度を示す。NaCl(100μl)もまた、コントロール群に対してivで与えた。値を、平均±SEMとして表す(n=6/群)。
【図9】 図9は、示された濃度におけるexendin−4の静脈内ボーラスの2分後の、絶食し麻酔されたラットにおけるインスリン濃度を示す。値を、平均±SEMとして表す(n=6/exendin−4濃度)。
【図10】 図10は、ランゲルハンス島中の細胞内cAMPレベルに対する、GLP−1(1nM)およびexendin−4(1nM)の1時間の処理の効果を示す。4回の実験の平均±SEMを示し、各々を三連で行った。exendin−4は、GLP−1よりも、より有効であった(p<0.01)。ペプチドの存在下での時間後に緩衝液中でいくつかの島を洗浄し、次いで、約15分後にこの島を取り出した後、cAMPレベルがベースラインに戻ったことに留意すること。
【図11】 図11は、前回の床敷交換の24時間後、毎日、腹腔内にexendin−4(24nmol/kg)またはNaClを用いる処置の9週間後に得られた、糖尿病マウスを飼育する籠の写真を示す。糖尿病マウスを、1つの籠あたり2匹飼育した。床敷を、処置の最初の数週間後の糖尿病動物について、24時間毎に交換した。右の籠には、exendin−4で処置した動物を入れ、一方、左の籠には、NaClで処置した動物を入れだ。
【図12】 図12は、12〜13週間、毎日、腹腔内にexendin−4(24nmol/kg)または通常の生理食塩水のいずれかを与えられた、糖尿病マウスまたは非糖尿病マウスにおけるヘモグロビンAlcのレベルを示す。値を、平均±SEMとして表す(n=9〜10/群)。
【図13】 図13は、12〜13週間、毎日、腹腔内にexendin−4(24nmol/kg)または通常の生理食塩水のいずれかを与えられた、糖尿病マウスまたは非糖尿病マウスにおける、絶食時のグルコースまたはインスリン濃度を示す。値を、平均±SEMとして表す(n=9〜10/群)。
【図14】 図14は、AR42J細胞からのアミラーゼ放出のCCK濃度−応答曲線を示す。細胞を、50分間、示される濃度においてCCKで処理した。アミラーゼの値を、細胞のアミラーゼ活性全体に対する、培地中に放出されたアミラーゼの割合として表す。結果は、15回の実験の平均±SEMである。
【図15】 図15は、AR42J細胞からのアミラーゼ放出に対する、グルカゴン(10nM)、GLP−1(10nM)、およびインスリン(100nM)±CCK(1nM)の効果を示す。デキサメタゾン誘導AR42J細胞を、ホルモンの存在下で50分間インキュベートした。アミラーゼの値を、細胞のアミラーゼ活性全体に対する、培地中に放出されたアミラーゼの割合として表す。結果は、20回の実験の平均±SEM、*p<0.05、**p<0.01、処理対非処理、a=p<0.01である。
【図16】 図16は、AR42J細胞からのアミラーゼ放出に対する、8−ブロモ−cAMP(100nM)での50分の処理の効果を示す。アミラーゼの値を、細胞のアミラーゼ活性全体に対する、培地中に放出されたアミラーゼの割合として表す。結果は、3回の実験の平均±SEM、*p<0.05、処理対非処理である。
【図17】 図17は、AR42J細胞からのアミラーゼ放出に対する、CCKの存在下または非存在下におけるリアノジン(RY)およびタプシガーギン(TG)の効果を示す。アミラーゼの値を、細胞のアミラーゼ活性全体に対する、培地中に放出されたアミラーゼの割合として表す。RYおよびTGを添加し、30分後にCKKを添加し、次いでCCKを50分間添加した。結果は、3回の実験の平均±SEM、**p<0.01である。
【図18】 図18は、AR42J細胞からのCCK(1nM)媒介性アミラーゼ放出に対する、バナジン酸塩(1mM)(白三角)およびゲニステイン(genestein)(300μM)(黒丸)の作用の時間経過を示す。CCK処理(1nM)(白丸)細胞またはコントロール(非処理)(白四角)細胞由来のアミラーゼ放出もまた、示す。アミラーゼの値を、細胞のアミラーゼ活性全体に対する、培地中に放出されたアミラーゼの割合として表す。結果は、4回の実験の平均±SEM、*p<0.05、**p<0.01、バナジン酸塩またはゲニステインならびにCCK処理対CCK処理単独である。
【図19】 図19は、単一AR42J細胞中で細胞内に遊離した[Ca2+]iに対する、CCKの効果を示す。棒は、3つの異なる細胞中での10nM CCKに対する曝露の時間を示す。図19Aは、少なくとも85%の細胞において観察される代表的な[Ca2+]i応答を示す。図19Bは、CCKに対する[Ca2+]i応答が、10μM リアノジン(RY)および500nM タプシガーギン(TG)への60分の曝露後にほぼ完全に消滅したことを示す。図19Cは、[Ca2+]i一過性が、CCKへの曝露の間の細胞外Ca2+の減少によって短縮されることを示す。
【図20】 図20は、単一AR42J細胞における、[Ca2+]iおよびCCK誘導[Ca2+]iの一過性に対するGLP−1の効果を示す。同じ細胞を、A〜Cにおいて研究した。図20Aは、1nM GLP−1への曝露が、約50%のAR42J細胞において小さく、緩慢な、長期の[Ca2+]i一過性を誘導したことを示す。10nM CCKへの続く曝露の振幅における減少を、図20Bに示す。図20Cは、[Ca2+]i一過性の振幅が、10分未満のうちに適用されるCCKへの2回目の曝露に応答してさらに減少したことを示す。
【図21】 図21は、単一AR42J細胞における、[Ca2+]iに対するグルカゴンおよび8−ブロモ−cAMP(8BcAMP)の効果を示す。図21Aは、グルカゴン(10nM)が、約70%の細胞において小さく、緩慢な、長期の[Ca2+]i一過性を誘導したことを示す。図21Bは、10nM グルカゴンで3〜10分間処理した細胞において、10nM CCKによって誘導された引き続く[Ca2+]i一過性が、遅い速度上昇ならびに長期の緩和相を示したことを示す。図21Cは、100nM 8BcAMPへの短時間(1〜5分)の曝露が、CCK誘導[Ca2+]i一過性の緩和を弱くしたことを示す。
【図22】 図22は、AR42J細胞における細胞内cAMPレベルに対する、50分間のGLP−1(10nM)、グルカゴン(10nM)およびCCK(1nM)の処理±IBMX(100nM)の効果を示す。結果は、3回の実験の平均±SEM、*p<0.05である。
【図23】 図23は、AR42J細胞およびラット膵臓におけるGLP−1レセプターのRT−PCRを示す。cDNAを、ラット膵臓GLP−1レセプターの5’末端および3’末端におけるプライマーを使用して30サイクルの間増幅した。PCR産物を、1%アガロースゲル上で分離し、そして臭化エチジウムを使用して可視化した。左から右へ;レーン1、DNAマーカー;レーン2、ブランク;レーン3、AR42J細胞;レーン4、ラット膵臓;レーン5、水コントロール。レレーン3および4において、本発明者らは、GLP−1レセプターに対応する、予測された928bpのバンドを観察する。
【図24】 図24は、AR42J細胞(レーン1、2)およびRIN 1046−38細胞(レーン3、4)におけるGLP−1レセプター発現のウエスタンブロット分析を示す。細胞を可溶化し、そしてGLP−1レセプターを、GLP−1レセプターのアミノ末端に対する抗体での免疫沈降およびウエスタンブロッティング後に検出した。kDaでの分子量マーカーの位置は、右にある。65および46kDaのバンドは、それぞれ、成熟およびコアグリコシル化(core−glycosylated)GLP−1レセプターに対応することが示された(28)。
【図25】 図25は、種々の刺激に応答してのAR42J細胞におけるタンパク質のチロシンリン酸化を示す。示される(n=3)ように、未処理(コントロール)細胞および5分処理細胞由来の総細胞性タンパク質の例示的抗ホスホチロシンイムノブロット。CCKおよびフッ素化ナトリウム(NaF)によるチロシンリン酸化の増加である、46kDa、66kDa、120kDaおよび190kDaのバンドに注意のこと。GLP−1は、これらのタンパク質に対していかなる効果も有さなかった。インスリンは、リン酸化の増加である97kDaのバンドを生じた。このバンドは、インスリンレセプターβサブユニットに対応する。
【図26】 図26は、AR42J細胞の免疫細胞学を示す。AR42J細胞を、グルタルアルデヒドで固定し、そしてLinco由来の抗インスリン抗体または抗グルカゴン抗体とともに1:300希釈でインキュベートした。図26Aは、コントロールAR42J細胞、抗インスリン抗体を示す。図26Bは、GLP−1(10nM)処理細胞(48時間)、抗インスリン抗体を示す。図26Cは、GLP−1(10nM)処理AR42J細胞(72時間)、抗インスリン抗体を示す。図26Dは、RIN 1046−38インスリノーマ細胞、抗インスリン抗体を示す。図26Eは、コントロール細胞、抗グルカゴン抗体を示す。図26Fは、GLP−1(10nM)処理細胞(48時間)、抗グルカゴン抗体を示す。
【図27】 図27は、AR42J細胞におけるGLP−1(10nM)産生によるグルカゴンおよびインスリンの誘導に対する、時間の効果を示す。この実験のために、細胞を、本明細書中に記載のようにカバーガラス上にプレートした(全て同じ日)。次に、これらのカバーガラスを、示す日に抗インスリン抗体または抗グルカゴン抗体で染色した。ここで、これを異なる日に多数回(少なくとも5回)反復した。そしてインスリンおよびグルカゴンは既に存在している。
【図28】 図28は、RT−PCRを使用する、インスリンおよびグルカゴンのmRNAの発現を示す。図28Aは、187bpのインスリンmRNAを示す。図28Bは、236bpのグルカゴンmRNAを示す。GLP−1(1nM)処理は、3日間であった。
【図29】 図29は、1つの例示的実験から、AR42J細胞におけるプロテインキナーゼCインヒビターの存在下または非存在下での、GLP−1およびexendin−4の効果を示す。この実験を、3回反復した。図29Aは、オートラジオグラムであり、そして図29Bは、デンシトメトリーの読み(相対単位)を示す。細胞を、60mmディッシュ中に密度105/ウェルでプレートし、溶解させ、次いで、清澄化した溶解産物を、抗ERK抗体を用いて免疫沈降した。この免疫ペレットを、本明細書中に記載されるように、ERK活性について分析した。レーン1、コントロールAR42J細胞。レーン2、GLP−1(10nM)処理AR42J細胞(3日間)。レーン3、exendin−4(0.1nM)処理細胞(3日間)。レーン4、GLP−1(10nM)+exendin−4(0.1nM)処理細胞(3日間)。レーン5、GLP−1(10nM)+exendin−4+PKI(300μM)処理細胞(3日間)。レーン6、exendin−4(0.1)+PKI(300μM)処理細胞(3日間)。レーン7、GLP−1(10nM)+PKI(300μM)処理細胞(3日間)。exendin−4(0.1nM)は、ほぼGLP−1(10nM)と等価であることに注意のこと。
【図30】 図30は、デキサメタゾン処理AR42J細胞からのアミラーゼ放出に対する、GLP−1の用量依存性効果を示す。異なる濃度のGLP−1での3日間の処理後、AR42J細胞を洗浄し、そして1nM CCKを添加した。この細胞を、さらに50分間インキュベートし、そしてサンプルをアミラーゼアッセイ用に収集した。N=4、平均±SEM。
【配列表】
Claims (24)
- GLP−1に対するレセプターを有する非インスリン産生哺乳動物腺房細胞を、GLP−1と接触させる工程を包含するプロセスによって作製されるインスリン産生細胞の集団を含む組成物。
- 前記非インスリン産生細胞がインビトロで前記増殖因子と接触される、請求項1に記載の組成物。
- 前記非インスリン産生細胞が人体を除くインビボで前記増殖因子と接触される、請求項1に記載の組成物。
- 前記非インスリン産生哺乳動物腺房細胞が膵臓細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
- 前記非インスリン産生哺乳動物腺房細胞が膵臓腺房細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
- 前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の組成物。
- 前記非インスリン産生哺乳動物腺房細胞が少なくとも24時間、前記増殖因子と接触される、請求項1に記載の組成物。
- 前記非インスリン産生哺乳動物腺房細胞が少なくとも24時間、前記増殖因子と接触される、請求項2または3に記載の組成物。
- GLP−1に対するレセプターを有する非インスリン産生哺乳動物腺房細胞をインスリン産生細胞に分化させる方法であって、該非インスリン産生哺乳動物腺房細胞を、GLP−1と接触させる工程を包含する、方法。
- 前記非インスリン産生哺乳動物腺房細胞が少なくとも24時間、前記増殖因子と接触される、請求項9に記載の方法。
- 前記非インスリン産生哺乳動物腺房細胞がインビトロで前記増殖因子と接触される、請求項9に記載の方法。
- 前記非インスリン産生哺乳動物腺房細胞が人体を除くインビボで前記増殖因子と接触される、請求項9に記載の方法。
- インスリン産生細胞について細胞の集団を富化させる方法であって、GLP−1に対するレセプターを有する非インスリン産生哺乳動物腺房細胞をインスリン産生細胞に分化させる増殖因子と該細胞の集団を接触させる工程を含み、該増殖因子がGLP−1である、方法。
- 膵臓アミラーゼ産生哺乳動物腺房細胞を、インスリンとアミラーゼとの両方を産生するように促進する方法であって、GLP−1とGLP−1に対するレセプターを有する該膵臓アミラーゼ産生哺乳動物腺房細胞を接触させる工程を包含する、方法。
- I型糖尿病被験体において糖尿病を処置する医薬の製造におけるGLP−1の使用であって、該医薬が被験体に、少なくとも24時間、連続注入によって投与されるものである、使用。
- 前記増殖因子が、非インスリン産生哺乳動物腺房細胞をインスリン産生細胞に分化させる、請求項15に記載の使用。
- 糖尿病被験体に投与される医薬組成物であって、該処置される被験体から入手したGLP−1に対するレセプターを有する非インスリン産生哺乳動物腺房細胞をGLP−1と接触させて、それによって該非インスリン産生哺乳動物腺房細胞を、インスリン産生細胞に分化させる工程を包含する方法により得られるインスリン産生細胞を含む医薬組成物。
- 前記非インスリン産生細胞が膵臓細胞である、請求項17に記載の組成物。
- 糖尿病被験体に投与される医薬組成物であって、以下の工程: (a)該処置される被験体から入手したGLP−1に対するレセプターを有する非インスリン産生哺乳動物腺房細胞をGLP−1と接触させて、それによって該非インスリン産生哺乳動物腺房細胞を、インスリン産生細胞に分化させる工程;次いで、(b)工程(a)の該インスリン産生細胞の表面抗原を変化させて、それによって該インスリン産生細胞が免疫応答を引き起こす可能性を減少させる工程を包含する方法により得られる表面抗原が変化したインスリン産生細胞を含む医薬組成物。
- 前記非インスリン産生細胞が膵臓細胞である、請求項19に記載の組成物。
- 糖尿病被験体に投与される医薬組成物であって、以下の工程: (a)死体のドナーから非インスリン産生哺乳動物腺房細胞を入手する工程;次いで、(b)GLP−1に対するレセプターを有する該非インスリン産生哺乳動物腺房細胞をGLP−1と接触させて、それによって該非インスリン産生細胞を、インスリン産生細胞に分化させる工程を包含する方法により得られるインスリン産生細胞を含む医薬組成物。
- 前記非インスリン産生細胞が膵臓細胞である、請求項21に記載の組成物。
- 糖尿病被験体に投与される医薬組成物であって、以下の工程: (a)死体のドナーから非インスリン産生哺乳動物腺房細胞を入手する工程;(b)GLP−1に対するレセプターを有する該非インスリン産生哺乳動物腺房細胞をGLP−1と接触させて、それによって該非インスリン産生哺乳動物腺房細胞を、インスリン産生細胞に分化させる工程;次いで、(c)該インスリン産生細胞の表面抗原を変化させて、それによって該インスリン産生細胞が免疫応答を引き起こす可能性を減少させる工程を包含する方法により得られる表面抗原が変化したインスリン産生細胞を含む医薬組成物。
- 前記非インスリン産生細胞が膵臓細胞である、請求項23に記載の組成物。
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