JP4609917B2 - 窒化アルミニウムガリウム層の製造方法、iii族窒化物半導体発光素子の製造方法およびiii族窒化物半導体発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化アルミニウムガリウム層の製造方法、III族窒化物半導体発光素子の製造方法およびIII族窒化物半導体発光素子に係り、特に窒化アルミニウムガリウム層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給することにより、p型の窒化アルミニウムガリウム層の特性を改良する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、短波長の光を発光する発光素子用の半導体材料として、III族窒化物半導体(III族窒化物半導体は、一般式AlxGayIn1-x-yN(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表わされるものとする。)が注目を集めている。一般にIII族窒化物半導体は、サファイア単結晶を始めとする種々の酸化物結晶やIII−V族化合物半導体結晶等を基板として、その上に有機金属化学気相反応法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)あるいは水素化物気相エピタキシー法(HVPE法)等によって積層される。
【0003】
III族窒化物半導体は、GaN、AlN、InN等の基本となる2元半導体の組み合わせにより構成されるが、その中でもGaNについて開発が盛んに行なわれている。また、GaNにInあるいはAlを混ぜた窒化インジウムガリウム(InGaNと略記する)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaNと略記する)の3元混晶の研究も進められている。
【0004】
これらのInGaNやAlGaN等の3元混晶を用いて、注入キャリアの閉じ込めに有効なダブルヘテロ構造の発光部を作製すれば、III族窒化物半導体を用いた発光素子の発光効率の向上が可能となり、高輝度の発光ダイオード(LED)や短波長のレーザダイオード(LD)を実現することが出来る。
【0005】
特にInGaNは、そのIn組成比を変化させることによりバンドギャップエネルギーをGaNの3.4eVからInNの2eVまで変えることが出来るので、可視の発光素子用の発光層として用いることが出来る。またAlGaNは、InGaNよりバンドギャップエネルギーが大きいため、ダブルヘテロ構造の発光部においてInGaNからなる発光層の両側に接して配置させるn型クラッド層およびp型クラッド層として用いることが出来る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、InGaNのようなInを含有するIII族窒化物半導体を発光層とするIII族窒化物半導体発光素子には、以下のような問題点があった。すなわち、比較的蒸気圧の高いInを含むIII族窒化物半導体からなる発光層の結晶品質を高めるためには、Inを含むIII族窒化物半導体は、GaNあるいはAlGaNの成長温度よりも低い温度で成長しなければならなかった。
【0007】
これに対し、結晶性が良く良好な導電性を示すp型のAlGaNからなるクラッド層を作製するためには、Inを含むIII族窒化物半導体より高い成長温度でAlGaNを成長させなければならない。従って、AlGaNクラッド層でInを含むIII族窒化物半導体からなる発光層を挟み込んだダブルへテロ構造の発光部を作製する場合には、発光層とその上に形成するAlGaNクラッド層とで成長温度を変える必要があった。
【0008】
しかし、発光層の成長とその上に形成するAlGaNクラッド層の成長との間で成長温度を上げると、発光層の成長後の昇温過程において、発光層から蒸気圧の高いInの蒸発が起こり、発光層の品質の劣化や発光層とクラッド層の界面の劣化につながり、ひいてはIII族窒化物半導体素子の特性の変化や劣化につながっていた。
【0009】
この問題を解決する為の方法として、p型クラッド層にInGaNを用い、Inを含む発光層と同程度の低温でp型クラッド層を成長させる方法が提案されている。(2001年春季応用物理学会講演予講集、415頁、31a−K−11)しかし、このような条件で成長されたp型InGaNからなるクラッド層はp型層として機能するだけの充分なキャリア濃度を得ることが難しかった。
【0010】
またp型クラッド層には、発光素子に電流注入した際にn側電極から流れ込む電子が、発光層内でホールと再結合することなくp側電極に流れていくことを防ぎ、電子を発光層に滞留させる効果も求められている。そのためには、発光層とp型クラッド層の間には充分なバンドギャップエネルギーの差が必要である。しかしp型のInGaNからなるクラッド層では、発光層との間に充分なバンドギャップエネルギーの差を確保することが難しく、結果として発光素子の発光効率の低下につながっていた。
【0011】
また、特開2001−97800号公報には、AlGaN成長時にInを導入することで、結晶性の良いAlGaNが得られることが示されている。しかし、上述の特許文献の発明は、得られたAlGaN結晶中にInが存在することによりクラックの発生しないAlGaN薄膜が得られるという効果を有するものであり、得られたAlGaN薄膜の結晶品質、特にそのp型導電性については記載されてない。
【0012】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、Inを含むIII族窒化物半導体からなる発光層上に、該発光層よりバンドギャップエネルギーが大きく、かつ結晶性が良く良好な導電性を示すp型の窒化アルミニウムガリウム(AlxGa1-xN:但し0≦x<1)からなるクラッド層を、発光層の結晶品質を劣化させることなく積層することが可能となるための条件を示し、発光効率に優れたIII族窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。また本発明は、結晶性が良く充分なキャリア濃度を有するp型の窒化アルミニウムガリウム(AlxGa1-xN:但し0≦x<1)層の成長条件を明らかにすることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、
(1)成長雰囲気中にアルミニウム原料、ガリウム原料、窒素原料およびp型不純物原料を供給し、基板上に、p型の窒化アルミニウムガリウム(AlxGa1-xN:但し0≦x<1)層を成長させる窒化アルミニウムガリウム層の製造方法において、窒化アルミニウムガリウム層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給することを特徴とする窒化アルミニウムガリウム層の製造方法。
(2)窒化アルミニウムガリウム層の成長を有機金属化学気相反応法(MOCVD法)で行うことを特徴とする上記(1)に記載の窒化アルミニウムガリウム層の製造方法。
(3)窒化アルミニウムガリウム層の成長温度が、800℃〜1100℃の範囲であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の窒化アルミニウムガリウム層の製造方法。
(4)インジウム原料の供給量が、アルミニウム原料とガリウム原料の供給量の和に対して、0.1%〜100%の範囲であることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の窒化アルミニウムガリウム層の製造方法。
(5)窒化アルミニウムガリウム層中のIn濃度が1015〜1019n/cm3の範囲であることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の窒化アルミニウムガリウム層の製造方法。
(6)p型不純物原料がMgを含むことを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の窒化アルミニウムガリウム層の製造方法。
である。
【0014】
また本発明は、
(7)基板上に、MOCVD法により、III族窒化物半導体からなるn型クラッド層、Inを含有するIII族窒化物半導体からなる発光層、窒化アルミニウムガリウム層からなるp型クラッド層を順次積層し、n型クラッド層、発光層、p型クラッド層でダブルヘテロ構造の発光部を形成するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、p型クラッド層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(8)発光層がInGaNからなり、p型クラッド層の成長温度を800℃〜1000℃の範囲とすることを特徴とする上記(7)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(9)p型クラッド層の成長中に供給するインジウム原料の供給量が、アルミニウム原料とガリウム原料の供給量の和に対して、0.1%〜100%の範囲であることを特徴とする上記(7)または(8)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(10)p型クラッド層中のインジウム濃度が1015〜1019n/cm3の範囲であることを特徴とする上記(7)ないし(9)のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(11)p型クラッド層に添加するp型不純物が、Mgであることを特徴とする上記(7)ないし(10)のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(12)p型クラッド層のキャリア濃度が1×1017〜1×1019n/cm3の範囲であることを特徴とする上記(7)ないし(11)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(13)上記(7)ないし(12)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法で作製したIII族窒化物半導体発光素子。
である。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明では、成長雰囲気中にアルミニウム原料、ガリウム原料、窒素原料およびp型不純物原料を供給し、基板上に、p型のAlGaN層を成長させる際に、AlGaN層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給する。これにより、結晶性が良く充分なキャリア濃度を有するp型AlGaN層の成長することが出来る。ここで本発明では、基板としてサファイア、シリコン(Si)、GaN、AlN、GaAs、SiC、ZrB2等を使用することが出来る。また、基板上にp型のAlGaN層を成長させる場合、基板とAlGaN層との間に他のIII族窒化物半導体層が積層されていても構わない。
【0016】
本発明では、AlGaN層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給することにより、In原子が結晶の成長表面でアンチサーファクタントとして機能し、結晶の成長表面におけるアルミニウム原料、ガリウム原料のマイグレーションが促進され、その結果、結晶性が良く良好な導電性を示すp型AlGaN層を成長することが出来ると考えられる。
【0017】
本発明のAlGaN層の成長方法としては、分子線エピタキシー法(MBE法)、有機金属化学気相反応法(MOCVD法)、ハイドライド気相成長法(HVPE法)などが挙げられる。このうちMOCVD法は、結晶成長の制御性に優れ、品質の良いAlGaN層を製造することが出来、また原料使用効率が優れているため、特に好ましい。
【0018】
AlGaN層の成長方法としてMOCVD法を用いる場合、アルミニウム原料、ガリウム原料、インジウム原料として、以下のような原料を使用することが出来る。ガリウム原料としては、トリメチルガリウム((CH3)3Ga:TMG)、トリエチルガリウム((C2H5)3Ga:TEG)などの一般式R1R2R3Ga(ここで、R1、R2、R3は低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルガリウムを使用することが出来る。また、アルミニウム原料としては、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al:TMA)、トリエチルアルミニウム((C2H5)3Al:TEA)などの一般式R1R2R3Al(ここで、R1、R2、R3は低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルアルミニウムを使用することが出来る。また、インジウム原料としては、トリメチルインジウム((CH3)3In:TMI)、トリエチルインジウム((C2H5)3In:TEI)などの一般式R1R2R3In(ここで、R1、R2、R3は低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルインジウムを使用することが出来る。またこれらは、単独であるいは混合して用いることが出来る。
【0019】
また窒素原料としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、t−ブチルアミン、エチレンジアミンなどを用いることが出来る。これらは単独でまたは混合して用いることが出来る。これらの原料のうち、アンモニアとヒドラジンは分子中に炭素原子を含まないため、III族窒化物半導体に対する炭素の汚染が少なく特に好適である。
【0020】
本発明のAlGaN層の成長温度は、800℃〜1100℃の範囲とするのが望ましい。成長温度が800℃より低いとAlGaN層の結晶性が悪化し十分なp型伝導性を示さなくなるという問題がある。また1100℃より高いとAlGaN層の昇華が始まり、成長速度が減少してしまうという問題がある。
【0021】
また本発明では、窒化アルミニウムガリウム層の成長中に成長雰囲気中に供給するインジウム原料の供給量が、アルミニウム原料とガリウム原料の供給量の和に対して、0.1%〜100%の範囲とするのが望ましい。インジウム原料、アルミニウム原料、ガリウム原料の供給量とは、単位時間当たりの原子数で表した原料の供給量(例えば、mol/min.で表す。)を言う。アルミニウム原料とガリウム原料の供給量の和に対するインジウム原料の供給量が、0.1%より小さいとアンチサーファクタントとしての十分な効果が得られないという問題がある。また、100%より大きいと結晶性が悪化するという問題がある。
【0022】
本発明のAlGaN層の成長方法にMOCVD法を用いる場合、成長圧力は50〜1000hPaとするのが、成長速度が大きく結晶性が優れたAlGaN層が得られるため望ましい。また、成長雰囲気ガスとしては水素や窒素を用いるのが望ましい。
【0023】
上記の条件でAlGaN層を成長する結果、本発明のAlGaN層中のIn濃度は、およそ1015〜1019n/cm3の範囲となる。AlGaN層中に含まれる濃度範囲がおよそ1015〜1019n/cm3のInは、AlGaN層の結晶特性に対して結晶性を良くするという影響を与えるため好ましい。
【0024】
本発明では、AlGaN層の成長雰囲気中に供給する不純物原料は、Mgを含むことが望ましい。Mgは、結晶中にドープされた原子のうちアクセプタとして機能する原子の割合が高いという利点がある。Mgを含む不純物原料としては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムやビスメチルシクロペンタジエニルマグネシウムなどを使用することが出来る。
【0025】
また、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法は、基板上に、MOCVD法により、III族窒化物半導体からなるn型クラッド層、Inを含有するIII族窒化物半導体からなる発光層、窒化アルミニウムガリウム層からなるp型クラッド層を順次積層し、n型クラッド層、発光層、p型クラッド層でダブルヘテロ構造の発光部を形成するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、p型クラッド層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給するものである。
【0026】
本発明では、Inを含有するIII族窒化物半導体からなる発光層の上に窒化アルミニウムガリウム層からなるp型クラッド層を積層する際、p型クラッド層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給する結果、p型クラッド層の成長温度を800℃〜1000℃の範囲にしても、結晶性が良く良好な導電性を示すp型のAlGaNからなるクラッド層が作製可能となる。このようにp型クラッド層の成長温度を1000℃以下とすることが出来るため、発光層の上にp型クラッド層を積層する際の発光層の結晶品質が劣化することがなくなり、発光効率に優れたIII族窒化物半導体発光素子が製造できる。
【0027】
AlGaNからなるp型クラッド層を成長する際に、成長雰囲気中にIn原料を供給すると、In原子により成長表面における原料のマイグレーションが促進され、その結果、成長温度を800℃〜1000℃の範囲として成長させたにも拘らず、結晶性が良く良好なp型の導電性を示すAlGaNからなるp型クラッド層を成長することが出来ると考えられる。また本発明の方法により成長したp型クラッド層は、成長後に特別な熱処理を施さなくても充分なキャリア濃度を得ることが出来る。
【0028】
MOCVD法により発光層の上にAlGaN層からなるp型クラッド層を成長するのに好適な条件は、前述のp型のAlGaN層の成長条件と同じである。
【0029】
図1に本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の積層構造の一例を示す。図1に示すIII族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板101の一主面上にGaNからなるn型クラッド層103、InGaNとGaNとを交互に積層した多重量子井戸(MQW)構造の発光層105、本発明の特徴であるAlGaNからなるp型クラッド層107、p型GaN層109が順次積層された構造となっている。
【0030】
上記のn型クラッド層103、発光層105、p型クラッド層107、p型GaN層109は、MOCVD法を用いてサファイア基板101上に積層した。上記の各層の膜厚、成長温度を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
このp型クラッド層107の成長中に、In原料の供給量がAl原料とガリウム原料の供給量の和に対しておよそ10%となるようにして、成長雰囲気中にIn原料を供給した。またSIMSによる分析の結果、成長後のp型クラッド層中のIn濃度は1018n/cm3程度であった。
【0033】
また、p型クラッド層107にドープするp型不純物としては、Mgを用いた。本発明では、p型不純物であるMg原料の添加量を制御することにより、p型クラッド層107のキャリア濃度を1×1017〜1×1019n/cm3の範囲で制御することができる。p型クラッド層107のキャリア濃度を1×1017〜1×1019n/cm3の範囲で制御できると、発光素子の発光効率が向上するという利点がある。
【0034】
成長中にインジウム原料を供給しないで成長した従来のp型AlGaN層では、成長温度によりそのキャリア濃度が変化していた。例えば成長温度が1100℃と高温の場合は、p−n接合を形成するために最も好ましいキャリア濃度である1×1018n/cm3以上のキャリア濃度が得られることが広く知られていた。しかし、1100℃のような高温でAlGaN層からなるp型クラッド層を成長させると、下地となるInを含むIII族窒化物半導体からなる発光層の結晶性を劣化させ、発光素子としての性能を低下させてしまうという問題が生じていた。
【0035】
本発明では、発光層105の上に成長させるp型クラッド層107を800℃〜1000℃の低温で成長させることにより、発光層105の結晶性の劣化を引き起こすことがなくなった。すなわち、p型クラッド層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を添加することにより、800℃〜1000℃の温度で成長させても、結晶性に優れ充分なキャリア濃度を有するp型クラッド層107を得ることが出来るようになった。
【0036】
図1に示した積層構造を有するIII族窒化物半導体発光素子の特性を、AlGaNからなるp型クラッド層107を、成長中にインジウム原料を供給しない従来の方法で1100℃で成長させた場合と、本発明の方法により1000℃で成長した場合とで比較した結果を表2に示す。表2には、p型クラッド層107の成長温度、キャリア濃度および発光層105の発光強度を示す。ここで発光層105の発光強度は、He−Cdレーザーを励起源としたフォトルミネセンス測定法により測定した。
【0037】
【表2】
【0038】
表2より、従来の方法による発光素子と本発明の方法による発光素子とでは、p型クラッド層は同等のキャリア濃度を示しているのに、発光層の発光強度は、従来の発光素子に比べて本発明の発光素子が10倍程度高くなっていることがわかる。
【0039】
このことは、従来の方法により高温でp型クラッド層を成長させた場合、Inを含有する発光層の結晶品質を悪化させ、発光素子の発光特性が劣化してしまうのに対し、本発明の方法により低温でp型クラッド層を成長させると、発光層の劣化が抑えられ、発光素子の発光特性が向上することを示している。また、表2から本発明のp型クラッド層が充分なキャリア濃度を有することも分かる。
【0040】
【実施例】
(実施例1)
本発明に係わるIII族窒化物半導体発光素子とその製造方法を、実施例をもとに説明する。なお本実施例1では、n型ドーパントとしてSiをドープするために、窒素で希釈したシラン(SiH4)を用いた。また、p型ドーパントとしてMgをドープするために、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム((C2H5)2Mg:Cp2Mg)を用いた。本実施例1に係るIII族窒化物半導体発光素子用エピタキシャルウェハの作製は、MOCVD法を用いて以下の手順で行った。
【0041】
基板として鏡面研磨したC面を有するサファイアを用いた。基板をMOCVD法による成長のための反応炉内に載置し、まず1150℃で水素ガスを流通して、基板と反応炉のサーマルクリーニングを行った。サーマルクリーニングの終了後、基板の温度を550℃にし、キャリアガスに水素を用いてTMGとアンモニアを反応炉内へ供給し、GaNからなるバッファ層を基板上に200Å形成した。
【0042】
次に基板の温度を1150℃に昇温させ、TMGとアンモニアとシランガスを反応炉内へ供給し、バッファ層上にSiをドープしたGaNからなるn型クラッド層を約3.0μm成長させた。次に、基板温度を800℃まで降温して、キャリアガスを窒素に切り換えた。そしてTEG、TMI、及びアンモニアを供給して、In0.1Ga0.9Nからなる井戸層とGaNからなる障壁層を交互に5ペア積層させたMQW構造の発光層をn型クラッド層上に形成した。InGaN井戸層の厚さは2nm、GaN障壁層の厚さは8nmとした。
【0043】
その後、基板温度を1000℃まで昇温して、キャリアガスを水素に切り換えた。そしてTMG、TMA、Cp2Mg、及びアンモニアを供給して、発光層上にAl0.1Ga0.9Nからなるp型クラッド層を、50nmの厚さで形成した。このp型クラッド層の成長中に、成長雰囲気中にIn原料としてTMIを供給した。TMGおよびTMAの供給量はそれぞれ5.3×10-5mol/min.と1.0×10-5mol/min.であり、またTMIの供給量は8.0×10-6mol/min.としたので、TMGとTMAの供給量の和に対するTMIの供給量は約13%となった。形成されたp型クラッド層中のIn濃度は1018n/cm3程度であった。またp型クラッド層のキャリア濃度は1×1018n/cm3であった。
【0044】
その後、TMAの供給を止めて、p型クラッド層上にGaNからなるp型コンタクト層を0.1μm形成した。このp型コンタクト層の成長中にも、成長雰囲気中にIn原料としてTMIを供給した。このp型コンタクト層中のIn原子濃度は1018n/cm3程度であった。またp型コンタクト層のキャリア濃度は1×1018n/cm3であった。p型コンタクト層の成長後、反応炉内に流通するガスを窒素とアンモニアのみにし、室温まで基板の温度を下げた。
【0045】
以上の手順により、III族窒化物半導体発光素子用エピタキシャルウェハを作製した。このウェハを反応炉から取り出した後、公知の手段により電極を形成し個々の素子に分離して、図2に示す断面構造を有するLEDを作製した。図2で201はサファイヤ基板、203はGaNからなるn型クラッド層、205はInGaN井戸層とGaN障壁層とからなるMQW構造の発光層、207はAlGaNからなるp型クラッド層、209はGaNからなるp型コンタクト層、211はn型電極、213はp型電極である。このLEDに順方向に電流を流したところ、発光波長400nmの明瞭な青色発光を示した。順方向電流が20mAの際のLEDの発光強度は2.0mWであった。
【0046】
(比較例1)
p型クラッド層とp型コンタクト層を1050℃で成長させたことを除いて、実施例1と同様の手順によりLEDを作製した。作製したLEDについて実施例1と同様の評価を行なったところ、発光強度が1.0mW以下であった。
【0047】
(比較例2)
p型クラッド層とp型コンタクト層をそれぞれIn原料を添加しないで1000℃で成長させたことを除いて、実施例1と同様の手順によりLEDを作製した。作製したLEDについて実施例1と同様の評価を行なったところ、p型クラッド層とp型コンタクト層はp型の電気特性を示さず、またLEDの発光強度は0.5mW以下であった。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、窒化アルミニウムガリウム層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給することにより、結晶性が良く充分なキャリア濃度を有するp型AlGaN層の成長することが出来る。
【0049】
また本発明によれば、半導体発光素子として利用するのに充分なp型のキャリア濃度を有するAlGaNからなるクラッド層を、800℃〜1000℃の温度で成長することが出来る。そのため、Inを含むIII族窒化物半導体からなる発光層の結晶品質や発光特性を劣化させることが無くなる結果、本発明のIII族窒化物半導体発光素子は、従来の発光素子に比較して発光効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子の積層構造を示す図
【図2】本発明の実施例1に係るLEDの断面構造を示す図
【符号の説明】
101 サファイア基板
103 n型クラッド層
105 発光層
107 p型クラッド層
109 p型GaN層
201 サファイア基板
203 n型クラッド層
205 発光層
207 p型クラッド層
209 p型コンタクト層
211 n型電極
213 p型電極
Claims (5)
- 基板上に、MOCVD法により、III族窒化物半導体からなるn型クラッド層、InGaN層を含む発光層、窒化アルミニウムガリウム層からなるp型クラッド層を順次積層し、n型クラッド層、発光層、p型クラッド層でダブルヘテロ構造の発光部を形成するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、n型クラッド層、発光層、p型クラッド層を接合して設け、p型クラッド層の成長中に成長雰囲気中にインジウム原料を供給し、p型クラッド層の成長温度を800℃〜1000℃の範囲とし、p型クラッド層をn型クラッド層よりも低い温度で成長させることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
- p型クラッド層の成長中に供給するインジウム原料の供給量が、アルミニウム原料とガリウム原料の供給量の和に対して、0.1%〜100%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
- p型クラッド層中のインジウム濃度が1015〜1019n/cm3の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
- p型クラッド層に添加するp型不純物が、Mgであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
- p型クラッド層のキャリア濃度が1×1017〜1×1019n/cm3の範囲であることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
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