以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
<実施例1>
先ず、本発明の第1の実施例について図1〜図15に基づいて説明する。図1は、本発明にかかる内燃機関の点火制御システムの概略構成を示す図である。
図1に示す内燃機関1は、複数の気筒2を有する4ストロークサイクルの火花点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)である。内燃機関1の気筒2は、吸気ポート3を介して吸気通路30に接続されるとともに、排気ポート4を介して排気通路40に接続されている。
吸気ポート3には、気筒2内へ向かって燃料を噴射する燃料噴射弁5が設けられている。吸気通路30には、該吸気通路30内を流通する空気量を制御するスロットル弁6が設けられている。スロットル弁6より下流の吸気通路30には、該吸気通路30内の圧力(吸気圧)を測定する吸気圧センサ7が設けられている。スロットル弁6より上流の吸気通路30には、該吸気通路30を流れる空気量を測定するエアフローメータ8が設けられている。
一方、排気通路40には、排気浄化装置9が配置されている。排気浄化装置9は、三元触媒や吸蔵還元型NOx触媒等を具備し、所定の活性温度域にある時に排気を浄化する。
また、内燃機関1には、気筒2内に臨む吸気ポート3の開口端を開閉する吸気弁10と、気筒2内に臨む排気ポート4の開口端を開閉する排気弁11が設けられている。これら吸気弁10と排気弁11は、吸気側カムシャフト12と排気側カムシャフト13によりそれぞれ開閉駆動される。
気筒2の上部には、該気筒2内の混合気に点火する点火プラグ14が配置されている。また、気筒2内にはピストン15が摺動自在に挿入されている。ピストン15はコネクティングロッド16を介してクランクシャフト17と接続されている。
クランクシャフト17の近傍には、該クランクシャフト17の回転角度を検出するクランクポジションセンサ18が配置されている。更に、内燃機関1には、該内燃機関1を循環する冷却水の温度を測定する水温センサ19が取り付けられている。
このように構成された内燃機関1には、ECU20が併設されている。ECU20は、CPU、ROM、RAM等を備えた電子制御ユニットである。このECU20は、前述した吸気圧センサ7、エアフローメータ8、クランクポジションセンサ18、及び水温センサ19等の各種センサと電気的に接続され、各種センサの測定値を入力可能になっている。
ECU20は、前記した各種センサの測定値に基づいて燃料噴射弁5、スロットル弁6、及び点火プラグ14を電気的に制御する。例えば、ECU20は、気筒2内の壁面に付着する燃料を減少させる付着燃料低減制御を行う。
以下、本実施例における付着燃料低減制御について述べる。
内燃機関1が冷間状態にある場合のように筒内温度が低い時は、燃料が気筒内の壁面に付着し易い。気筒内の壁面に付着した燃料(付着燃料)の大部分は、燃焼に供されることなく未燃のまま気筒内から排出される。その際、排気浄化装置9が活性温度域まで昇温していなければ、前記した未燃燃料が浄化されずに大気中へ放出されることになる。
特に、内燃機関1が極低温下で始動された場合等は、内燃機関1の始動から排気浄化装置9が活性するまでの期間が長くなるとともに付着燃料量が増加するため、大気中へ放出される未燃燃料の量が過多となる虞がある。
これに対し、付着燃料低減制御では、ECU20は、付着燃料量が多くなる時に、点火プラグ14の作動タイミング(点火時期)をMBTより進角させることにより、付着燃料量を減少させ、以て気筒2内から排出される未燃燃料量を減少させるようにした。
本願発明者の鋭意の実験及び検証によれば、点火時期がMBTより進角された場合は、図2に示されるように、その進角量が増加するほど気筒2内から排出される未燃燃料(HC)の量が少なくなることが解明された。
このメカニズムについては明確に解明されていないが、凡そ以下のようなメカニズムによると考えられる。
図3は、点火時期がMBTより前に進角(以下、「過進角」と称する)された場合(図
3中のST1)と、点火時期がMBTに設定された場合(図3中のST2)と、点火時期が圧縮上死点(TDC)に設定された場合(図3中のST3)との各々において気筒2内の状態を計測した結果を示す図である。図3中の実線は点火時期が過進角された場合、破線は点火時期がMBTに設定された場合、一点破線は点火時期が圧縮上死点(TDC)に設定された場合を各々示している。
図3において、点火時期が過進角された場合は、点火時期がMBTに設定された場合及び点火時期が圧縮上死点(TDC)に設定された場合に比べ、圧縮上死点前に燃焼される混合気の量が多くなる。このため、混合気の燃焼により発生する熱エネルギのピーク(図3中の熱発生率、発生熱量、及び燃焼質量割合を参照)が圧縮上死点前へシフトする。
よって、混合気の燃焼による昇温・昇圧効果と、ピストンの上昇動作(下死点から上死点へ向かう動作)による圧縮効果との相乗効果により、圧縮行程から膨張行程までの期間における筒内圧及び筒内温度のピーク値が大幅に上昇する。その結果、気筒内の壁面に付着した燃料が気化し、および/または燃料が気筒内の壁面に付着する前に気化して燃焼に供されると考えられる。
そこで、ECU20は、付着燃料量を取得し、取得された付着燃料量が所定量以上である時に点火時期を過進角させるようにした。
尚、付着燃料量の取得方法としては、光学的に液膜の厚さを計測するセンサを気筒2内に配置して実測する方法、導電率を計測するセンサを気筒2内に配置し該センサの計測値を付着燃料量に換算する方法、若しくは内燃機関1の運転条件(以下、「機関運転条件」と略称する)から付着燃料量を推定する方法等を例示することができる。
機関運転条件から付着燃料量を推定する場合は、ECU20は、水温センサ19の測定値(冷却水温度thw)と、吸気圧センサ7の測定値(吸気圧pm)と、内燃機関1の始動時から現時点までの積算吸入空気量(ΣGa)と、内燃機関1の始動時から現時点までの積算燃料噴射量(ΣQinj)と、燃料噴射量(Qinj)と、混合気の空燃比(A/F)との少なくとも一つをパラメータとして付着燃料量を推定するようにしてもよい。
例えば、内燃機関1の始動時(以下、「機関始動時」と略称する)においては、冷却水温度thwが気筒2内の壁面温度と略同等であると考えることができる。そして、付着燃料量は、気筒2内の壁面温度が低くなるほど多くなる。よって、ECU20は、機関始動時の冷却水温度thwと図4に示すマップとから付着燃料量を推定することができる。
尚、機関始動時の気筒2内の壁面温度は大気の温度と略等しくなるため、内燃機関1が吸気温度センサを備えている場合には機関始動時の冷却水温度thwの代わりに吸気温度センサの測定値が利用されてもよい。
ところで、内燃機関1の始動後は、運転時間の経過とともに気筒2内の壁面温度が上昇する。その際の温度上昇量は、気筒2内で燃焼に供された燃料の積算量ΣQinj、言い換えれば気筒2内で燃焼に供された空気の積算量ΣGaに相関する。よって、ECU20は、機関始動時から現時点までの積算吸入空気量ΣGa(又は積算燃料噴射量ΣQinj)と図5に示すマップとから付着燃料量を推定することもできる。
また、付着燃料量は、筒内圧が低くなるほど(言い換えれば、気筒2内の負圧度合いが高くなるほど)少なくなる。筒内圧は、スロットル弁6より下流の吸気圧pm(例えば、吸気行程時の吸気圧pm)と相関する。よって、ECU20は、吸気圧pmと図6に示すマップとから付着燃料量を推定することもできる。
また、付着燃料量は、燃料噴射弁5から噴射される燃料量(燃料噴射量Qinj)が多くなるほど多くなる傾向もある。このため、ECU20は、燃料噴射弁5から噴射される燃料量Qinjと図7に示すマップとから付着燃料量を推定することもできる。
更に、付着燃料量は、混合気の空燃比A/Fが低くなるほど多くなる傾向もある。このため、ECU20は、混合気の空燃比A/Fと図8に示すマップとから付着燃料量を推定してもよい。
尚、ECU20は、図4〜図8のマップを可能な限り組み合わせることにより、付着燃料量の推定精度を高めることもできる。但し、混合気の空燃比A/Fは、燃料噴射量Qinjと相関するため、機関始動時の冷却水温度thw、吸気圧pm、積算吸入空気量ΣGa、及び燃料噴射量Qinjから付着燃料量Dpfuelが演算されてもよい。
上記した種々の方法により付着燃料量が取得されると、ECU20は、付着燃料が所定量以上であるか否かを判別する。前記した所定量は、内燃機関1の全気筒2から排出される未燃燃料の総量が規制量を下回るように定められてもよい。
ECU20は、付着燃料量が所定量以上であると判定した場合には、点火プラグ14の点火時期をMBTより前へ過進角させる。その際の進角量(例えば、MBTからの進角量)は、気筒2内における混合気の燃焼終了時期が圧縮上死点近傍となるように定められることが好ましい。
本願発明者の実験及び検証により、点火時期がMBTに対して進角されるほど気筒2内から排出される未燃燃料量が減少することがわかっている。但し、点火時期がMBTから過剰に進角されると、以下のような背反が生じる。
(1)点火時期がMBTに対して過剰に進角されると、ピストン15の上昇動作による昇温・昇圧効果が十分に得られる前に混合気の燃焼が始まるため、燃焼が緩慢となって熱損失が大きくなる。
(2)点火時期がMBTに対して過剰に進角されると、混合気の燃焼によって発生する熱エネルギがピストン15の上昇動作を妨げるため、内燃機関1のトルクが著しく低下し、ドライバビリティの低下や燃費の悪化を誘発する。
(3)点火時期がMBTに対して過剰に進角されると、ピストン15とピストンリングとシリンダボア壁面との間の隙間(クレビスボリューム)に入り込む燃料が増加する。クレビスボリュームに入り込んだ燃料は、燃焼に供されることなく気筒2内から排出され易い。このため、点火時期がMBTに対して過剰に進角されると、気筒2内から排出される未燃燃料量が却って増加する可能性がある。
これに対し、混合気の燃焼終了時期が圧縮上死点近傍となるように点火時期の進角量が定められると、上記した背反の過剰な増大を抑制し得る範囲内で、筒内圧及び筒内温度のピークを可及的に高めることができる。その結果、気筒2内から排出される未燃燃料が最小限に抑えられる。
ところで、混合気の燃焼終了時期を圧縮上死点近傍に同期させるためには、混合気の燃焼時間、言い換えれば混合気の燃焼速度を把握する必要がある。混合気の燃焼速度は、筒内温度、気筒2内に充填されたガス量(以下、「筒内ガス量」と略称する)、混合気の空燃比A/F等の影響を受ける。また、混合気の燃焼終了時期(クランク角度)は、燃焼速
度が一定であっても機関回転数Neが高くなるほど遅くなるとともに、機関回転数Neが低くなるほど早くなる。
そこで、ECU20は、筒内温度、筒内ガス量、空燃比A/F、及び機関回転数Neに基づいて点火時期の進角量を決定するようにしてもよい。尚、内燃機関1の始動直後(すなわち、暖機運転時)は、冷却水温度thwに適した空燃比A/Fとなるように燃料噴射量が制御されるため、空燃比A/Fは冷却水温度thwに相関するといえる。また、筒内温度も冷却水温度thwと相関する。
よって、ECU20は、筒内温度、筒内ガス量、及び機関回転数Neに基づいて点火時期の進角量を定めるようにしてもよい。例えば、ECU20は、図9〜図11に示すようなマップに基づいて点火時期の進角量を決定してもよい。
図9は、点火時期の進角量と冷却水温度thwとの関係を示すマップである。図9のマップにおいて、点火時期の進角量は、冷却水温度thwが低くなるほど多くされるとともに、冷却水温度thwが高くなるほど少なくされる。
図10は、点火時期の進角量と筒内ガス量との関係を示すマップである。尚、図10の例では、筒内ガス量の代わりに内燃機関1の負荷率KLが用いられている。図10のマップにおいて、点火時期の進角量は、負荷率KLが低くなるほど(筒内ガス量が少なくなるほど)多くされるとともに、負荷率KLが高くなるほど(筒内ガス量が多くなるほど)少なくされる。
図11は、点火時期の進角量と機関回転数Neとの関係を示す図である。図11のマップにおいて、点火時期の進角量は、機関回転数Neが低くなるほど少なくされるとともに、機関回転数Neが高くなるほど多くされる。
上記した図9〜図11に示したようなマップに基づいて点火時期の進角量が決定されると、混合気の燃焼終了時期は内燃機関1の運転状態にかかわらず圧縮上死点近傍となる。その結果、熱損失の増加、トルクの低下、或いは燃費の悪化等を最小限に抑えつつ気筒2内から排出される未燃燃料量を最少にすることが可能となる。
次に、本実施例における付着燃料低減制御の実行手順について図12及び図13に沿って説明する。図12は点火時期の過進角を実行すべきか否かを判定するための過進角実行判定ルーチンを示すフローチャートであり、図13は点火時期の過進角を行う際の進角量(点火時期)を決定するための進角量決定ルーチンを示すフローチャートである。
図12及び図13のルーチンは、予めECU20のROMに記憶されたルーチンであり、ECU20によって周期的に実行される。また、ECU20が図12及び図13のルーチンを実行することにより、本発明にかかる取得手段、過進角手段、及び制御手段が実現される。
先ず、過進角実行判定ルーチンでは、ECU20は、S101において内燃機関1の始動時であるか否か、例えば図示しないイグニッションスイッチがオンにされたか否か、或いはスタータスイッチがオンにされたか否かを判別する。
S101において肯定判定された場合は、ECU20は、S102において水温センサ19の測定値を読み込み、該測定値を機関始動時の冷却水温度thwとしてRAMに記憶させる。尚、前記S101において否定判定された場合は、前記S102の処理をスキップしてS103へ進む。
S103では、ECU20は、吸気圧センサ7の測定値を読み込み、該測定値を筒内圧としてRAMに記憶させる。
S104では、内燃機関1の始動時から現時点までの積算吸入空気量ΣGaを演算し、演算結果をRAMに記憶させる。尚、S104では、積算吸入空気量ΣGaの代わりに、内燃機関1の始動時から現時点までの積算燃料噴射量ΣQinjが用いられてもよい。
S105では、燃料噴射量Qinjを読み込む。その際の燃料噴射量Qinjは、これから燃料噴射が行われる気筒2の燃料噴射量であってもよく、若しくは既に燃料噴射後であって且つ点火実行前の気筒2の燃料噴射量であってもよい。
S106では、ECU20は、前記S102〜S105で求められた各種の値と、前述した図4〜図7のマップとを用いて付着燃料量Dpfuelを算出する。
S107では、前記S106で算出された付着燃料量Dpfuelが所定量以上であるか否かを判別する。
S107において肯定判定された場合は、ECU20は、S108へ進み、過進角実行フラグに“1”をセットする。過進角実行フラグは、予めRAM等に設定された記憶領域である。
一方、S107において否定判定された場合は、ECU20は、S109へ進み、過進角実行フラグに“0”をリセットする。
次に、図13の進角量決定ルーチンでは、ECU20は、先ずS201において過進角実行フラグに“1”がセットされているか否かを判別する。前記S201において否定判定された場合は、ECU20は、本ルーチンの実行を終了する。一方、前記S201において肯定判定された場合は、ECU20は、S202へ進む。
S202では、ECU20は、水温センサ19の測定値(冷却水温度)thwを読み込む。S203では、ECU20は、内燃機関1の負荷率KLを演算する。S204では、ECU20は、機関回転数Neを取得する。
S205では、ECU20は、前記S202〜S204で求められた各種の値と、前述した図9〜図11のマップとを用いて、混合気の燃焼終了時期が圧縮上死点近傍となる進角量△Saを演算する。
S206では、ECU20は、前記S205で求められた進角量△Saに基づいて各気筒2の点火時期Itを決定する。
以上述べたように点火時期Itが決定されると、各気筒2における混合気の燃料終了時期が圧縮上死点近傍となる。これにより、筒内圧及び筒内温度のピーク値は、前述した背反が許容範囲に収まる範囲内で最も高くなる。その結果、気筒2内から排出される未燃燃料が好適に減少され、大気中へ放出される未燃燃料量も減少する。
尚、本実施例では、混合気の燃焼速度や機関回転数Neを考慮して過進角時の点火時期Itが決定される例について述べたが、以下のような簡略な方法により過進角時の点火時期Itが決定されるようにしてもよい。
MBTは、図14に示すように、混合気が燃焼した際の熱発生率が圧縮上死点近傍でピークとなるように決定される。また、熱発生率の波形は、ピークを基準に略対称となる。
よって、ECU20は、圧縮行程上死点(TDC)とMBTとのクランク角度差(図14中の△It)を求め、圧縮上死点(TDC)から前記クランク角度差△Itの2倍のクランク角(=△It*2)が進角された時期(TDC−△It*2)を点火時期Itとしてもよい(図15を参照)。このような方法によれば、ECU20の演算負荷を低く抑えつつ混合気の燃焼終了時期を略圧縮上死点近傍にすることができる。
また、点火時期の過進角は、内燃機関1の負荷が所定負荷より高い時(例えば、加速運転時)には禁止されるようにしてもよい。これは、内燃機関1の負荷が所定負荷より高い時に点火時期の過進角が行われると、内燃機関1が運転者の要求通りのトルクを発生できず、運転者に違和感を与える可能性があるからである。
<実施例2>
次に、本発明にかかる内燃機関の点火制御システムの第2の実施例について図16に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
本実施例では、気筒2内で燃焼に供される混合気の空燃比A/Fがリーンである時は、点火時期の過進角が禁止される例について述べる。
気筒2内で燃焼に供される混合気の空燃比がリーンである時は、気筒2内から排出される未燃燃料量が少なくなる上、排気中の未燃燃料と酸素が排気浄化装置9で反応して該排気浄化装置9を活性温度域まで早期に昇温させることができる。また、点火時期の過進角が行われた場合は、混合気の燃焼が通常よりも早期に行われるため、排気温度が低くなり易い。
よって、混合気の空燃比A/Fがリーンである時に点火時期の過進角が禁止されると、排気温度の低下が抑えられるため、排気浄化装置9における未燃燃料と酸素との反応が促進される。その結果、排気浄化装置9が早期に活性するようになる。
以下、本実施例における付着燃料低減制御の実行手順について図16に沿って説明する。図16は過進角実行判定ルーチンを示すフローチャートである。図16のフローチャートにおいて、前述した第1の実施例の過進角実行判定ルーチン(図12を参照)と同様の処理には同一の符号が付されている。
ECU20は、S105の実行後にS1101へ進み、空燃比A/Fを取得する。この空燃比A/Fは、エアフローメータ8の測定値と燃料噴射量Qinjとから演算されてもよく、若しくは排気通路40に取り付けられた空燃比センサ(図示せず)の測定値であってもよい。
続いて、ECU20は、S1102へ進み、前記S1101で取得された空燃比A/Fがリーンであるか否かを判別する。S1102において否定判定された場合は、ECU20は、S106以降の処理を実行する。一方、S1102において肯定判定された場合は、S109へ進み、過進角実行フラグに“0”をリセットして過進角の実行を禁止する。
以上述べた実施例によれば、排気浄化装置9を早期に活性させることができるため、排気浄化装置9の浄化能力を利用して排気エミッションの低減を図ることが可能となる。
<実施例3>
次に、本発明にかかる内燃機関の点火制御システムの第3の実施例について説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
本実施例では、点火時期の過進角が行われる時の燃料噴射タイミングを最適化する例について述べる。
内燃機関1の始動時や暖機運転時は、燃料噴射タイミングが各気筒2の吸気行程と非同期なタイミング(吸気非同期噴射)に設定される場合がある。その場合、気筒2内の壁面に加え、吸気ポート3内の壁面にも多くの燃料が付着し易い。吸気ポート3内の壁面に付着した燃料は、吸排気弁10,11のバルブオーバーラップ期間に未燃のまま排気通路40へ流れる可能性がある。
これに対し、燃料噴射タイミングが各気筒2の吸気行程と同期したタイミング(吸気同期噴射)に設定されると、吸気ポート3内の壁面に付着する燃料量を減少させることができる。尚、吸気ポート3内の壁面に付着する燃料量が減少すると、気筒2内の壁面に付着する燃料量が増加する可能性がある。しかしながら、気筒2内の壁面に付着した燃料は、点火時期の過進角により低減される。
従って、点火時期の過進角が行われる時に、燃料噴射タイミングが吸気非同期噴射から吸気同期噴射へ切り換えられると、気筒2内の壁面に付着する燃料量に加え、吸気ポート3内の壁面に付着する燃料量も減少させることが可能となる。その結果、内燃機関1の気筒2内から排出される未燃燃料量を一層低減させることが可能となる。
尚、吸気非同期噴射から吸気同期噴射への切り換えタイミングは、点火時期の過進角が開始される時であってもよいが、点火時期の過進角が開始されてから所定期間後(例えば、1〜2サイクル後)であることが望ましい。
吸気同期噴射が行われる時は、吸気ポート3内の壁面に付着する燃料が減少する代わりに、気筒2内の壁面に付着する燃料が増加し易い。これに対し、点火時期の過進角が開始された直後は筒内温度(気筒2内の壁面温度や雰囲気温度)が低くなる。このため、気筒2内の壁面に付着する燃料量が増加すると、全ての付着燃料を気化及び燃焼させることが難しくなる。
そこで、点火時期の過進角が開始されてから所定期間後に燃料噴射タイミングの切り換えが行われれば、燃料噴射タイミング切換時の筒内温度が高くなっているため、吸気ポート3の壁面に付着する分の燃料が気筒2内へ流入しても、略全ての燃料を気化及び燃焼させることが可能となる。
<実施例4>
次に、本発明にかかる内燃機関の点火制御システムの第4の実施例について図17〜図20に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
本実施例では、点火時期の過進角を開始及び終了する時に、点火時期を徐変する例について述べる。
点火時期の過進角が開始される時に、点火時期が急速に変化すると、燃焼変動やトルク変動を生じる可能性がある。このため、ECU20は、過進角の開始時及び終了時は、点
火時期を徐々に変更するようにした。
例えば、ECU20は、点火時期の過進角を開始する時は、図17に示すように、過進角の開始前の点火時期(図17中の通常時点火時期)から過進角の開始後の点火時期(図17中の過進角時点火時期)まで、複数回に分けて点火時期を進角させる。
その際、1回当たりの進角量は、予め規定された固定量であってもよく、通常時点火時期と過進角時点火時期との差に応じて変更される可変値(例えば、差が大きくなるほど多くされる値)であってもよい。
また、ECU20は、点火時期の過進角を終了する時は、過進角の開始時と同様に、複数回に分けて点火時期を遅角させればよい(図18を参照)。
以上述べたように、点火時期の過進角が開始又は終了される時に、点火時期が徐々に変更されると、燃焼変動やトルク変動の発生を抑制することが可能となる。
尚、図19に示すように、通常時点火時期と同等のトルクを発生し得る点火時期St1がMBTより前に存在する場合は、ECU20は、過進角を開始する時に点火時期を通常時点火時期から前記点火時期St1へ1回で変更し、その後は前記点火時期St1から過進角時点火時期まで複数回に分けて徐変させるようにしてもよい。
このような方法によれば、点火時期が通常時点火時期から過進角時点火時期へ移行するまでの所要時間を短縮することができる。更に、点火時期の過進角が終了される場合も同様の方法によって点火時期の切り換えが行われれば、点火時期が過進角時点火時期から通常時点火時期へ早期に復帰することができる。
また、ECU20は、点火時期を通常時点火時期から過進角時点火時期へ1回で変更するとともに、吸入空気量の調整によりトルク変動を抑制するようにしてもよい。
例えば、ECU20は、図20に示すように、点火時期が過進角時点火時期へ変更された時に、現時点(点火時期が通常時点火時期に設定されている時)と同等のトルクを得るために必要な吸入空気量Ga2を特定する。次いで、ECU20は、点火時期を通常時点火時期から過進角時点火時期へ1回で変更すると同時に、吸入空気量が前記吸入空気量Ga2となるようにスロットル弁6を制御する。
このような方法によれば、点火時期を通常時点火時期から過進角時点火時期へ早期に変更することができるとともに、その際のトルク変動を抑制することができる。更に、点火時期の過進角が終了される場合も同様の方法によって点火時期の切り換え及び吸入空気量の調整が行われれば、トルク変動を抑えつつ、点火時期を過進角時点火時期から通常時点火時期へ早期に復帰させることができる。
<実施例5>
次に、本発明にかかる内燃機関の点火制御システムの第5の実施例について図21〜図23に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
本実施例では、筒内圧のピークが圧縮上死点以降となるように過進角時の点火時期を制限する例について述べる。
点火時期の過進角が行われた場合は、圧縮行程時のピストン15上昇途中に混合気が燃
焼する。このため、混合気の燃焼圧によりピストン15の上昇動作が妨げられ、内燃機関1のトルクが少なからず低下する。
その際、筒内圧のピークが圧縮上死点より前になると、膨張行程時にピストン15が受ける圧力の総和(以下、「第1の総圧力」と称する)は、圧縮行程時にピストン15が受ける圧力の総和(以下、「第2の総圧力」と称する)と同等以下になる可能性がある。
ところで、内燃機関1の可動部にはフリクションが作用する。よって、内燃機関1が正のトルクを発生するためには、前記第1の総圧力が前記第2の総圧力と上記のフリクションとの総和を上回る必要がある。しかしながら、第1の総圧力が第2の総圧力と同等以下になると、内燃機関1が上記のフリクションに打ち勝つことができなくなるため、該内燃機関1が正のトルクを発生できなくなる場合がある。
図21は、筒内圧のピークが圧縮上死点となるように点火時期が設定された場合の筒内圧を測定した結果を示す図である。
図21において、第1の総圧力(図21中の領域Aの面積に相当)は、第2の総圧力(図21中の領域Bの面積に相当)に比して燃焼ガスの熱膨張分だけ大きくなるとともに、その差(第1の総圧力から第2の総圧力を減算した値)は内燃機関1のフリクションより十分に大きくなる。
そこで、本実施例の付着燃料低減制御では、ECU20は、筒内圧のピークが圧縮上死点となる点火時期を上限値(以下、「トルク限界点火時期」と称する)として定め、過進角時点火時期を前記トルク限界点火時期以降に制限する。
具体的には、ECU20は、前述した第1の実施例で述べた進角量決定ルーチン(図13を参照)により求められた点火時期(以下、「基準点火時期」と称する)と前記トルク限界点火時期とを比較する。
基準点火時期がトルク限界点火時期より遅い(遅角側)場合は、ECU20は、基準点火時期を過進角時点火時期として過進角を行う。一方、基準点火時期がトルク限界点火時期より早い(進角側)場合は、ECU20は、トルク限界点火時期を過進角時点火時期として過進角を行う。
尚、前記したトルク限界点火時期は、予め実験的に求められていてもよいが、筒内圧センサを用いて特定されるようにしてもよい。
筒内圧センサを用いてトルク限界点火時期が特定される場合は、ECU20は、先ず過進角時点火時期を一旦基準点火時期に設定し、その際の筒内圧センサの測定値から筒内圧がピークとなるタイミング(クランク角)を求める。続いて、ECU20は、筒内圧のピークタイミングが圧縮上死点以降であれば基準点火時期による過進角を継続し、該タイミングが圧縮上死点より前であれば過進角時点火時期を基準点火時期より遅角させるようにしてもよい。
以下、本実施例における付着燃料低減制御の実行手順について図22に沿って説明する。図22は進角量決定ルーチンを示すフローチャートである。図22のフローチャートにおいて、前述した第1の実施例の進角量決定ルーチン(図13を参照)と同様の処理には同一の符号が付されている。
進角量決定ルーチンにおいて、ECU20は、S206において点火時期(基準点火時
期)Itが決定されると、S2201へ進み、前記点火時期(基準点火時期)Itを過進角時点火時期として過進角を開始する。
S2202では、ECU20は、筒内圧センサの測定値に基づいて筒内圧がピークとなるタイミング(ピークタイミング)を特定する。
S2203では、ECU20は、前記S2202で特定されたピークタイミングが圧縮上死点(TDC)以降であるか否かを判別する。前記S2203において肯定判定された場合は、ECU20は、前記点火時期(基準点火時期)Itを過進角時点火時期として過進角を継続する。
一方、前記S2203において否定判定された場合は、ECU20は、S2204へ進む。S2204では、ECU20は、過進角時点火時期を遅角補正する。その際の補正量は、予め定められた固定値であってもよく、或いは筒内圧のピークタイミングと圧縮上死点TDCとの差に基づいて変更される可変値(例えば、前記差が大きくなるほど多くされる値)であってもよい。
ECU20は、前記S2204の処理を実行し終えると、前記S2202以降の処理を再度実行する。すなわち、ECU20は、前記S2203において肯定判定されるまで、過進角時点火時期の遅角補正を繰り返し行うことになる。
以上述べた実施例によれば、内燃機関1に必要最低限のトルクを発生させつつ、気筒2内から排出される未燃燃料量を減少させることが可能となる。
尚、本実施例では、内燃機関1の発生トルクのみを考慮して過進角時の点火時期を制限する例について述べたが、これに限られるものではなく、例えば燃焼変動やトルク変動をも考慮して過進角時の点火時期が制限されるようにしてもよい。
例えば、ECU20は、図23に示すような燃焼変動の大きさと点火時期との関係に基づいて、燃焼変動が許容限界値以下となる点火時期の範囲のうち最も早い点火時期(以下、「変動限界点火時期」と称する)を求める。そして、ECU20は、基準点火時期とトルク限界点火時期と変動限界点火時期とを比較し、それらの点火時期のうち最も遅い(遅角側)点火時期を過進角時点火時期として定めるようにしてもよい。
また、ECU20は、筒内圧センサの測定値から燃焼変動率を演算し、その演算結果が所定の閾値以下となるように過進角時点火時期を補正してもよい。この場合、ECU20は、図24に示すような進角量決定ルーチンに従って過進角時点火時期を決定することができる。
図24の進角量決定ルーチンにおいて、ECU20は、S2202において筒内圧のピークタイミングを取得すると、S2301へ進む。S2301では、ECU20は、筒内圧センサの測定値から燃焼変動率を演算する。
続いて、ECU20は、S2203において、前記S2202で取得された筒内圧のピークタイミングが圧縮上死点以降であるか否かを判別する。S2203において肯定判定された場合は、ECU20は、S2302へ進み、前記S2301で算出された燃焼変動率が閾値以下であるか否かを判別する。
前記S2302において肯定判定された場合は、ECU20は、過進角時点火時期を補正せずに過進角を継続する。一方、前記S2203又は前記S2302において否定判定
された場合は、ECU20は、S2204において過進角時点火時期の遅角補正を行った後に、前記S2202以降の処理を再度実行する。
このようにして過進角時点火時期が定められると、燃焼変動やトルクの過剰な低下を抑制しつつ、気筒2内から排出される未燃燃料量を低減させることが可能となる。
<実施例6>
次に、本発明にかかる内燃機関の点火制御システムの第6の実施例について図25〜図28に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
本実施例では、点火時期の過進角が行われる時に、気筒2内の壁面に付着する燃料量(付着燃料量Dpfuel)に応じて点火時期の進角量を可変とする例について述べる。
点火時期の過進角が行われた場合は、混合気が燃焼した際に発生する熱エネルギのピーク(言い換えれば、熱発生率のピーク)が圧縮上死点より前にシフトするため、内燃機関1のトルク低下や燃費の悪化が少なからず生じる。
上記したような背反は、点火時期の進角量が多くなるほど顕著となる。よって、付着燃料量Dpfuelが少ない時には、点火時期の進角量も少なくすることにより、トルク低下や燃費の悪化を最小限に抑えることが好ましい。
そこで、本実施例の付着燃料低減制御では、ECU20は、付着燃料量Dpfuelが多くなるほど点火時期の進角量を多くするとともに、付着燃料量Dpfuelが少なくなるほど点火時期の進角量を少なくするようにした。
以下、本実施例における付着燃料低減制御の実行手順について図25に沿って説明する。図25は、本実施例における進角量決定ルーチンを示すフローチャートである。図25のフローチャートにおいて、前述した第1の実施例の進角量決定ルーチン(図13を参照)と同様の処理には同一の符号が付されている。
図25の進角量決定ルーチンにおいて、ECU20は、S201において過進角実行フラグに“1”がセットされていると判定した場合に、S2401へ進む。S2401では、ECU20は、前述した第1の実施例の過進角実行判定ルーチン(図12を参照)で算出された付着燃料量Dpfuelを読み込む。
S2402では、ECU20は、前記付着燃料量Dpfuelに基づいて過進角時の点火時期It1を決定する。その際、図26に示すようなマップに基づいて過進角時の点火時期It1が決定されるようにしてもよい。図26に示すマップは、各点火時期において除去(気化及び燃焼)可能な付着燃料量を定めたマップであり、予め実験的に求められている。
このようにして過進角時の点火時期It1が決定されると、点火時期の進角量が必要最小限に抑えられるため、トルクの低下や燃費の悪化を最小限に抑制しつつ気筒2内から排出される未燃燃料量を減少させることが可能となる。
尚、本実施例の付着燃料低減制御は、前述した第2〜第4の実施例の付着燃料低減制御の少なくとも一つと組み合わせることができる。例えば、気筒2内で燃焼に供される混合気がリーンである時は、点火時期の過進角が禁止されるようにしてもよい。また、点火時期の過進角が行われる時に、燃料噴射タイミングが吸気同期噴射にされてもよい。更に、
点火時期の過進角を開始及び終了する時に、点火時期が徐々に変更されるようにしてもよい。
本実施例の付着燃料低減制御において、前述した第5の実施例で述べたように過進角時の点火時期が制限されてもよい。すなわち、過進角時の点火時期は、所定の時期以降に制限されるようにしてもよい。
例えば、図27に示すように、付着燃料量Dpfuelが第1所定量未満である時は点火時期がMBTに固定され、付着燃料量Dpfuelが第1所定量以上且つ第2所定量未満である時は点火時期が付着燃料量Dpfuelに応じて進角され、更に付着燃料量Dpfuelが第2所定量を超えた場合は点火時期が所定時期に固定されるようにしてもよい。
前記した第1所定量は、前述した第1の実施例で述べた所定量と同量であってもよく、或いは前記所定量より少ない量であってもよい。前記した第2所定量は、前述した図26のマップにおいて点火時期が前記所定時期に設定された場合に除去可能な付着燃料量に相当する。
また、前記した所定時期は、(1)基準点火時期と、(2)トルク限界点火時期と、(3)変動限界点火時期とのうちの一つであってもよく、或いは(1)〜(3)の少なくとも2つの点火時期のうち最も遅い点火時期であってもよい。
このように過進角時の点火時期が制限される場合には、ECU20は、図28に示すような進角量決定ルーチンに従って、過進角時の点火時期を決定するようにしてもよい。
図28の進角量決定ルーチンにおいて、ECU20は、S201において過進角実行フラグに“1”がセットされていると判定した場合は、S2401へ進み、付着燃料量Dpfuelの読み込みを行う。
続いて、ECU20は、S2501へ進み、付着燃料量Dpfuelが第1所定量以上であるか否かを判別する。S2501において否定判定された場合(Dpfuel<第1所定量)は、ECU20は、S2505へ進み、点火時期をMBTに設定する。
一方、前記S2501において肯定判定された場合(Dpfuel≧第1所定量)は、ECU20は、S2502へ進む。S2502では、ECU20は、付着燃料量Dpfuelが第2所定量以下であるか否かを判別する。
前記S2502において肯定判定された場合(Dpfule≦第2所定量)は、ECU20は、S2503へ進み、付着燃料量Dpfuelと前述した図26のマップとに基づいて点火時期を決定する。
この場合、点火時期の進角量は付着燃料量に応じた進角量になるため、トルクの低下や燃費の悪化を最小限に抑えることが可能となる。
また、前記S2502において否定判定された場合(Dpfule>第2所定量)は、ECU20は、S2504へ進み、点火時期を所定時期に固定する。すなわち、ECU20は、(1)基準点火時期と、(2)トルク限界点火時期と、(3)変動限界点火時期とのうちの一つ、或いは(1)〜(3)の少なくとも2つの点火時期のうち最も遅い点火時期を過進角時の点火時期とする。
この場合、点火時期の過剰な進角が防止されるため、トルクの過剰な低下や燃焼変動の過剰な低下を防止することが可能となる。
<実施例7>
次に、本発明にかかる内燃機関の点火制御システムの第7の実施例について図29に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
本実施例では、内燃機関1の始動完了後に点火時期の過進角が行われる例について述べる。
点火時期の過進角が行われた場合は、混合気の燃焼圧によりピストン15の上昇動作が妨げられる。このため、内燃機関1の始動完了前に点火時期の過進角が行われると、ピストン15の上昇動作を妨げる燃焼圧(以下、「負のトルク」と称する)により、始動装置(例えば、スタータモータやモータジェネレータ等)の作動が妨げられる可能性がある。
上記したように始動装置の作動が妨げられると、内燃機関1を速やかに始動させることが困難となる上、始動不能に陥る可能性もある。
これに対し、内燃機関1の始動完了後に点火時期の過進角が行われれば、上記したような問題の発生を防止することができる。
尚、ここでいう「始動完了」の条件は、完爆の発生であってもよいが、点火時期の進角量が少ない場合は初爆の発生であってもよい。
以下、本実施例における付着燃料低減制御の実行手順について図29に沿って説明する。図29は、本実施例における過進角実行判定ルーチンを示すフローチャートである。図29のフローチャートにおいて、前述した第1の実施例の過進角実行判定ルーチン(図12を参照)と同様の処理には同一の符号が付されている。
ECU20は、S102の実行後にS1201へ進み、内燃機関1の始動が完了したか否かを判別する。この判別方法としては、クランクポジションセンサ18の出力信号に基づいて算出される機関回転数Neが所定回転数以上であることを条件に内燃機関1の始動が完了したと判定する方法を例示することができる。
前記S1201において肯定判定された場合は、ECU20はS103以降の処理を実行する。この場合、付着燃料量Dpfuelが所定量以上であることを条件に点火時期の過進角が行われることになる。
一方、前記S1201において否定判定された場合は、ECU20は、S109へ進み、過進角実行フラグに“0”をリセットする。この場合、付着燃料量Dpfuelにかかわらず、点火時期の過進角が禁止される。
以上述べた実施例によれば、内燃機関1の始動完了前に点火時期の過進角が行われることがなくなるため、点火時期の過進角に起因した始動性の低下が防止される。
尚、本実施例の付着燃料低減制御は、前述した第2〜第6の実施例の付着量低減制御と可能な限り組み合わせることができる。その場合は、点火時期の過進角による種々の背反を最小限に抑えつつ、気筒2内から排出される未燃燃料量を効率的に減少させることが可能になる。