以下、本発明を好ましい実施形態を挙げて、図面に基づき詳細に説明する。
[加熱装置および定着装置]
<第1の実施形態>
図1は、本発明の例示的一態様である第1の実施形態の定着装置10の模式断面図である。本実施形態の定着装置には、本発明の加熱装置が含まれ、それには図1に示されるように、漏洩電磁場遮蔽部材6が装着されている。
本実施形態の定着装置は、ウォームアップタイムの短縮化、および被記録材の剥離性能の確保を目的とし、トナー像を定着するための定着部材としては、熱容量の小さい柔軟(フレキシブル)なベルト状の部材を使用し、このベルト状部材の内部には、熱を奪う部材を極力配設しないように構成されている。すなわち、無端状のベルト部材(加熱定着ベルト)は、その内側に駆動ロール等の張架部材を設けずに、無張架で配置され、加圧部材に対向して配置されて定着ニップ部を形成するパッド部材(押圧部材)のみしか、基本的には設けない構成を採用している。また、加熱対象となるベルト状部材を直接加熱できるように、ベルト状部材内部に発熱層を設け、励磁コイルにより生成される変動磁界によってこの発熱層を誘導加熱させる方式を用いている。
具体的には、図1に示されるように、発熱層を有する薄肉中空円筒状の加熱定着ベルト20と、この加熱定着ベルト20の図中下部外周面と圧接するように配設された加圧ロール23とを備え、この加圧ロール23と対向している加熱定着ベルト20の内側には、その内周面と当接する弾性部材24が、支持部材22により支持されて配設されていると共に、加圧ロール23との対向面と反対側(図中上部)の加熱定着ベルト20の内部には、加熱定着ベルト20の内周面と非接触で、この内周面の一部と対向するように励磁コイル1Aが設けられている。さらに、励磁コイル1Aと対向している加熱定着ベルト20の外部には、加熱定着ベルト20の外周面と非接触で、この外周面の一部と対向するようにフェライト製の磁路形成部材41が配設されている。
このように構成された定着装置10においては、加圧ロール23と、弾性部材24とで加熱定着ベルト20を挟持した状態に保持してニップ部1Yが形成され、このニップ部1Yに未定着トナー像25が転写された被記録材27を挿通させることにより、熱および圧力で未定着トナー像25が被記録材27上に定着され、定着画像が形成されるようになっている。そして、発熱層を有する薄肉の加熱定着ベルト20を、励磁コイル1Aにより生成される変動磁界によって電磁誘導加熱することにより、未定着トナー像を定着する際の加熱が行われるように構成されている。
次に、定着装置10の構成部材の詳細について、以下に説明する。
まず、加熱定着部材としての加熱定着ベルト(加熱回転体)20は、発熱層を有する無端状のベルトとして形成されている。詳細には、図2に示されるように、その内周面側から、耐熱性の高いシート状部材からなる基材層20aと、この基材層20aの外周面側に積層された単一の発熱層である発熱層20bと、最も上層となる離型層20cの少なくとも3層を備え、直径φ30mmの無端状ベルトとして形成されている。
なお、図3に示されるように、発熱層20bと離型層20cとの間に、例えば、ゴム硬度35°(JIS−A)のシリコーンゴムからなる弾性層20dをさらに設けてもよい。また、本実施形態においては、図示しないが無端状の加熱定着ベルト20の両端部をエッジガイドに突き当てることにより、この加熱定着ベルト20の蛇行を規制して使用するように構成されている。
加熱定着ベルト20の基材層20aは、例えば、厚さ10〜100μm、さらに好ましくは厚さ50〜100μm(例えば、75μm)の耐熱性の高いシートであり、例えばポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアミド等の耐熱性の高い合成樹脂から形成することができる。
また、発熱層20bは、励磁コイル1Aによって生成される磁界の電磁誘導作用により、誘導発熱する導電層であり、銅を2〜15μm程度の厚みで形成したものが用いられる。均一な層をめっきや蒸着などで形成しようとすれば、2μ未満であると製造上の歩留りの悪さや膜厚精度の確保、品質管理やコスト面で問題が発生する場合がある。また15μmを超えると、熱容量が大きくなり、10秒以下のウォームアップ達成に影響を及ぼし、発熱層の可撓性が低下することから、定着装置の剥離性能を得るために撓めることが困難となる場合があるため15μm以下とすることが望ましい。
さらに15μmを超える厚さになると、周波数20k〜100kHzにおける誘導加熱性能が低下する。このことは、表皮深さより十分に薄い厚さの金属層には層全体に渦電流が流れるが、厚さの増加により抵抗値が低くなるため、渦電流によるジュール発熱損が得にくくなることに起因する。つまり、ジュール発熱は渦電流の2乗値と渦電流が流れる主経路の抵抗値の乗算により決定されるため、抵抗値が低すぎれば、いくら大きな渦電流が流れても発熱しない状態に至るためである。
本実施形態では、図2、図3には図示していないが、銅層である発熱層20bの表面離型層側に、厚さがおよそ0.1〜5μm程度のニッケル層を設けた加熱定着ベルトでも実施した。ニッケル層は、加熱定着ベルトの強度の向上のために設けたもので、電磁誘導作用による発熱に寄与する層となるが、電磁誘導特性への影響が小さくなる(誘導状態におけるインダクタンスやレジスタンスの変化がおよそ10%以下となる)厚さで設けている。実際の一例として、10μmの銅層に5μmのニッケル層を設けた2つの発熱に寄与する層を有する加熱定着ベルトと単一の銅層10μmを有する加熱定着ベルトの電磁誘導特性を比較したところ、電磁誘導状態におけるインダクタンス、レジスタンスの変化は5%以下で、単一の銅層との差は非常に小さい。このような層を設けても、主に発熱する層は発熱層20bの銅層となるため、本発明の実施の上でほとんど問題は生じない。
一般に、ウォームアップタイムを限りなく0に近づけて、10秒以下に短縮するためには、電磁誘導加熱される発熱層(金属)の熱容量を小さくすることが最も重要である。そのためには発熱に寄与する金属の層はトータルで30μm以下、望ましくは2〜20μmの範囲内であれば実現可能である。また、主に発熱する層が1層ある場合、その層は製造性(歩留りや層形成の均一性)やコストを考慮すると10μm前後が好適である。
例えば、発熱に寄与する層(金属層)は、製造上の理由または強度補強の理由などから複数存在することがある。電磁誘導作用により発熱する層はコストの観点から1つであることが望ましいが、上記理由等により発熱に寄与する層が複数存在する場合には各層のトータル厚さで30μm以下とすることが望ましい。本発明では、発熱に寄与する層が複数存在しても、全発熱量の5割以上の電磁誘導発熱量が得られる層を主に発熱する層として、単に「発熱層」と呼び、発熱に寄与するすべての層を総称して単に「発熱に寄与する層」と呼称する。
発熱層を10μm程度に薄くした導体、すなわち金属または金属混合物を汎用性が高く低コストの高周波電源(例えば、電磁調理器等で用いられている準E級並列共振回路電源)で誘導加熱するためには、非磁性金属を用いる必要がある。磁性金属は固有抵抗値が高いため、これを薄膜化してゆくと誘導渦電流が流れにくくなり加熱が困難になる。誘導渦電流が流れにくい発熱層を誘導加熱しようとすれば、コイルに高電圧を印加しなくてはならず電源の高電圧化等の問題が生じるため実際に適応することが困難となる。すべての金属に交番電磁界を作用させれば電磁誘導による渦電流は流れるが、ジュール発熱による加熱装置を設計するためには、発熱しやすい条件を与えること重要である。これに対して、特にアルミニウムや銅、銀などに代表される非磁性金属は固有抵抗値が低く、表皮深さより十分に薄くすることで誘導加熱に好適となる、具体的には例えば10μm程度に薄膜化することで加熱しやすくなる。
例えば単一の発熱層として、非磁性金属の銅を例にとると、周波数が20k〜100kHzの周波数帯において、電磁界が銅層に浸入する表皮深さδは、下記(式1)により、μ=1,ρ=1.67×10-8Ωmで、200〜500μmとなり、発熱層の厚さは十分に表皮深さδより小さい。
しかし、アルミや銅、銀などに代表される低固有抵抗値を有する非磁性金属は、発熱層が表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合、交番磁界発生手段である励磁コイルから発生する磁界と誘導渦電流による反作用磁界は、発熱層を挟んで励磁コイルと反対側から漏れ出る。表1に磁路形成部材であるフェライトがある場合とない場合の磁束密度の違いを示すが、磁路形成部材がない場合には強磁界が発熱層周辺から発生していることがわかる。この磁界は、コイルによる磁界と発熱層に流れる渦電流による磁界によるもので、発熱層から漏れ出ている。
そこで、本実施形態の定着装置に使用される本発明の加熱装置は、導電性の発熱層20bを含み、発熱層20bの厚さがその表皮深さよりも薄い加熱定着ベルト20を被加熱部材とし、この被加熱部材の発熱層20bの厚さ方向に沿って変動磁界を発生させて発熱層20bを電磁誘導加熱するための励磁コイル1Aを有し、発熱層20bを含む加熱定着ベルト20を、励磁コイル1Aと磁路形成部材41とで挟んで対向させた構成としている。当該構成とすることで、励磁コイル1A−発熱層20b−磁路形成部材41で磁束路が形成できるため安定した誘導加熱状態を実現することができる。これにより、表皮深さより十分に薄い非磁性金属であっても安全で安定した誘導加熱状態を得ることが可能な加熱装置を提供することができる。
ここで、銅層(発熱層)の厚さと印加周波数との関係について、図4を参照してさらに説明する。図4は、周波数に対する力率相当量の変化を示した図であり、銅層厚さ2μ〜15μmにおける発熱のし易さを示す特性図である。
図4において、20k〜100kHzの周波数帯にわたって、力率相当量である発熱のファクターが0.5に達していれば安定した加熱が可能な状態であるが、図に示されるように、厚さが2μmの場合にはおよそ60kHz〜100kHzで、15μmではおよそ30kHz以下が適正であることがわかる。
従って、コイルに印加する電流の周波数は、20kHz〜100kHzであることが望ましい。20kHz未満では、発振ノイズ音が人の可聴領域内に入るために採用できず、また、100kHzを超えると、コイルに電流を印加する誘導加熱電源のスイッチングロスが大きくなり、周辺機器に影響を及ぼす放射ノイズが大きくなると共に、コイルの表皮抵抗が増大し、これらによる損失が顕在化するためである。
また、本実施形態では、パッド部材と加圧ロールとで形成されるニップ部の内部で、加熱定着ベルト20が当該ニップ部の形状に倣う必要がある。このため、フレキシブルなベルトである必要があり、発熱層20bは、可能な限り薄層にすることが好ましい。そこで、本実施形態においては、発熱層20bとして、導電率の高い銅を、発熱効率が高くなるように10μm程度の極薄い厚さで、上述のポリイミドからなる基材層20a外周面にめっきしたものが用いられている。
さらに、離型層20cは、被記録材27表面に転写された未定着トナー像25と、直接接する層であるため、離型性の良い材料を使用することが望ましい。この離型層20cを構成する材料としては、例えば、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーン共重合体、またはこれらの複合層等が挙げられる。この離型層20cは、これらの材料のうちから適宜選択されたものを、1〜50μmの厚さでベルトの最上層として設けたものである。また、離型層20cの厚さは、薄すぎると、耐磨耗性の面で耐久性が悪く、加熱定着ベルト20の寿命が短くなってしまい、逆に、厚すぎると、ベルトの熱容量が大きくなり、ウォームアップタイムが長くなってしまう。
本実施形態においては、耐磨耗性と、ベルトの熱容量のバランスを考慮して、加熱定着ベルト20の離型層20cとして、厚さ20μmのテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)が使用されている。
また、上記の如く構成された加熱定着ベルト20の内部には、例えば、シリコーンゴム等から形成されたパッド(押圧部材)としての弾性部材24が設けられている。本実施形態では、弾性部材24として、ゴム硬度がJIS−Aで35°のシリコーンゴムを、ステンレス(SUS)や鉄等の金属や、耐熱性の高い合成樹脂等からなる剛性を持つ支持部材22に積層したものが用いられている。
このシリコーンゴムからなる弾性部材24は、例えば、均一な厚さのものが使用される。また、支持部材22は、図示しない定着装置のフレームに固定した状態で配置されているが、弾性部材24が所定の押圧力で加圧ロール23の表面に圧接するように、図示しないスプリング等の付勢手段によって、加圧ロール23の表面に向けて押圧してもよい。
なお、本実施形態においては、加圧ロール23として、直径φ26mmの中実の鉄製ロールの表面に、離型層として、厚さ30μmのテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)を被覆したものが使用されている。そして、この加圧ロール23は、図示しない加圧手段により、加熱定着ベルト20を介して弾性部材24に押圧された状態で、図示しない駆動手段によって回転駆動されている。
また、加圧ロール23には、熱伝導性の良いアルミニウムやステンレス等の金属からなる不図示の金属ロールが、接離可能なように設けられてもよい。この金属ロールは、定着装置に通電が開始された朝一番などで、加熱定着ベルト20や加圧ロール23の温度が室温状態に冷えているときには、加圧ロール23から離れた位置に停止している。そして、上記定着装置において、例えば、小サイズ用紙を連続して定着処理した場合など、当該定着装置が使用されるに伴って、加熱定着ベルト20や加圧ロール23に、軸方向に沿った温度差が生じたときには、上記金属ロールを加圧ロール23と当接させるように構成してもよい。
また、被加熱部材である加熱定着ベルト20は、加圧ロール23の回転に従動して、所定の方向に循環移動するものである。そこで、本実施形態では、加熱定着ベルト20と弾性部材24との間に、摺動性を良好とするため、耐摩擦性が強く、摺動性の良いシート材、例えばテフロン(登録商標)樹脂を含浸させたガラス繊維シート(中興化成工業:FGF400−4等)を介在させ、さらに潤滑剤として、シリコンオイルなどの離型剤を、加熱定着ベルト20の内面に塗布することで、摺動性を向上させるように構成されている。このようにすることで、実際の加熱時において、加圧ロール23の空回転時の駆動トルクを、約6kg・cmから約3kg・cmにまで低減することができる。従って、加熱定着ベルト20は、加圧ロール23と滑ることなく従動し、加圧ロール23の回転速度と等しい速度で従動回転する。
本実施形態の定着装置で使用する加熱定着ベルトの加熱原理を説明するための説明図を図5に示す。図5において、加熱定着ベルトの内周面は、上方を向いている。
図5に示されるように、励磁コイル1Aは、強磁性体からなる芯材を有する線状部材を巻回させて薄肉円筒状の加熱定着ベルト20の内周面に倣うように形成され、加熱定着ベルト20の回転方向(周方向)と直交する方向を長手方向としてコイル支持部材18により支持されている。そして、被加熱部材である加熱定着ベルト20の表面と0.5mm〜3mm程度のギャップを保持して、加熱定着ベルト20の表面と対向するように設置されている。
ここで、励磁コイル1Aとしては、例えば、相互に絶縁された直径φ0.16mmの銅線材を90本束ねたリッツ線を直線状に、所定の本数だけ並列的に配置したものが用いられる。リッツ線の巻き方は、1つの巻き方に限定されるものではなく、例えば、渦巻き状に巻いてもよく、励磁コイル1Aに流す交流電流により生じる変動磁界Hが発熱層20bに対して図示したように作用すればよい。また、コイル支持部材18としては、耐熱性のある非磁性材料を用いるのが望ましく、例えば、セラミックス、耐熱ガラス、ポリカーボネート、LCP、ポリイミド、PPS等の耐熱性樹脂が用いられる。
この励磁コイル1Aに、励磁回路30を通じて所定の周波数の交流電流が印加されることにより、励磁コイル1Aの周囲には変動磁界Hが発生し、この変動磁界Hが、加熱定着ベルト20の発熱層20bを横切るときに、電磁誘導作用によって、この磁界Hの変化を妨げるように、加熱定着ベルト20の発熱層20bに渦電流Bが生じる。この渦電流Bが加熱定着ベルト20の発熱層20bを流れることにより、当該発熱層20bの抵抗に比例した電力(W=I2R)でジュール熱が発生し、被加熱部材(加熱回転体)である加熱定着ベルト20が加熱される。
励磁コイル1Aに印加される交流電流の周波数は、例えば、20〜50kHzに設定されるが、本実施形態では、交流電流の周波数が30kHzに設定されている。また、本実施形態においては、励磁回路30として、低コストの並列共振型の励磁回路電源を用いた場合でも極めて良好に電磁誘導加熱が可能であることが確認されている。このような並列共振型の高周波電源は電磁調理器などで実績があり、電磁誘導加熱用の電源としては安価に構成でき、実用性と汎用性が高いものである。
また、磁路形成部材41としては、鉄、コバルト、ニッケル、フェライト等の磁性材料を用いることができるが、最も望ましいのはソフトフェライトである。ソフトフェライトは強磁性を有しており、透磁率が高く、電気抵抗値が非常に高いため、電磁誘導作用による渦電流Bが流れにくい。また交番磁界によるヒステリシス損も小さく、発熱層20bの励磁コイル1Aと反対側の磁路を形成するには最も適している。この磁路形成部材41は、励磁コイル1Aにより生成された磁界および渦電流による反作用磁界の磁束密度が高い周辺の磁束を集めて、磁路を形成するものであり、効率の良い加熱を可能とすると同時に、磁束が定着装置10の外部に漏れて、周辺部材が不本意に加熱されるのを防止するためのものである。
磁路形成部材41の周方向両端部41eは、励磁コイル1Aの周方向両端部1Ae間と対向している領域を超えて、さらに、周方向に延在しているようになっている。すなわち、加熱定着ベルト20の移動方向前後(周方向)において、磁路形成部材41の両端部41eは、相対向する励磁コイル1Aの両端部1Aeを越えてそれぞれ延在している。
図6に、励磁コイル1Aの両端部と、相対向する磁路形成部材の両端部との好適な位置関係を説明するための模式説明図を示す。
図6に模式的に示されるように、磁路形成部材41の幅m2と、励磁コイル1Aのコイル幅m1との関係は、m2>m1となるように設定されている。これは、m2がm1よりも短いと、磁路形成が十分に行われず、効率低下や周辺部材への誘導を引き起こす虞が生じるためである(勿論、本発明では漏洩電磁場遮蔽部材が配置されているため、後者の問題は生じない。)。下記表2に、m1<m2とm1>m2の場合における加熱領域周辺の磁束密度の測定結果を示す。下記表2に示されるように、m1<m2であると漏れ磁束が少なくて、良好な遮蔽効果を得られることがわかる。
このように磁路形成部材41の両端部41eが、励磁コイル1Aに対向している領域を越えて、さらに加熱定着ベルト20の周方向に延在しているので、磁路形成部材41の幅が、励磁コイル1Aの幅(加熱幅)よりも大きくなり、発熱層20bが表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合に、発熱層20bを挟んで励磁コイル1Aと反対側から漏れ出る反作用磁界による磁束漏れをより効果的に防止し、漏洩の少ない磁束路を形成し、遮蔽効果を向上させることができる。
本実施形態では、漏洩電磁場による人体への暴露を十分に少なくするため、励磁コイル1Aから生じる電磁場を囲い込むように、本発明に特徴的な漏洩電磁場遮蔽部材6が配されている。漏洩電磁場遮蔽部材6は、好ましくは金属の連続体である。連続体であれば、電磁界が進入できる深さ以上にそれを突き抜けることができない。電磁界が進入できる深さは上記(式1)で示した数式で表されるので、部材の厚さを上記(式1)の表皮深さδ以上にすれば電磁界が漏れることはない(ほとんど0に近い)。
この漏洩電磁場遮蔽部材6により、漏洩した電磁場を吸収(誘導)させる。ただし、金属材料に誘導させることになるので、金属内には渦電流が発生することになるが、抵抗の十分小さい材料であれば損失も少なく問題のないレベルにすることが可能である。
漏洩電磁場遮蔽部材6に用いる金属材料としては、非磁性体でなければならない。磁性体なら高抵抗である必要があり高抵抗なら発熱してしまう危険性はないが、電磁界を変えてしまうため設計が敏感になる。漏洩電磁場遮蔽部材6に用いる金属材料として、磁性体であるソフトフェライトも特性上は適切ということができるが、連続体で作ることが困難であり、また重量が嵩み、さらに高コスト化するなどの問題があるため、磁性体を選択することは事実上難しい。
したがって、本発明において漏洩電磁場遮蔽部材に用いる非磁性金属としては、固有抵抗の小さい、銀や銅、アルミニウム、あるいはこれらを多く含む合金が好適である。特に、低コストで低比重化を実現できるアルミニウムは最適で、漏洩電磁場遮蔽部材に適切な材料として望ましいといえる。本実施形態においても、漏洩電磁場遮蔽部材6の材料としてアルミニウムを用いている。
本発明において、漏洩電磁場遮蔽部材の板厚としては、500μm以上2mm以下であることが好ましく、800μm以上1.8mm以下であることがより好ましく、1mmできれば1.5mmという板厚を選択すると市販品が活用できるので低コスト化できる。板厚が500μm未満であると、漏洩電磁場の遮蔽効率が劣る場合があり、一方板厚が2mmを越えると、材料が無駄なばかりでなく、装置全体の重量が大きくなり、かつ大型化してしまうため、好ましくない。
本実施形態に用いた漏洩電磁場遮蔽部材6の斜視図を図7に、平面図を図8に、それぞれ示す。図7および図8に示されるように漏洩電磁場遮蔽部材6は、直方体形状の一面が開口して断面形状が大略コの字型をした部材であり、向かい合う面双方の長手方向中央部が外方向(図面上左右方向)に張り出した形状をしている。なお、当該張り出した部位を張出部6aと称する。
張出部6aは、張り出しの無い部位(長手方向両端部)に比して、励磁コイル1Aからの距離が離れた状態となる。漏洩電磁場遮蔽部材6は、励磁コイル1Aにより形成される電磁場の軌跡に影響を与えるため、当該電磁場により発熱層20bに生ずる誘導電流にも影響を与える。したがって、漏洩電磁場遮蔽部材6を適切な形状とすることで、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布を略一定とすることができることを見出したのが、本発明の要旨である。
本実施形態の場合、張出部6aを適切に設けることで、漏洩電磁場遮蔽部材6と励磁コイル1Aとの距離が、励磁コイル1Aの端部よりも中央部の方が離れた状態になっている。このような形状に漏洩電磁場遮蔽部材6を形成することで、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布を略一定とすることができる。
かかる本発明の作用・効果の検証については、第4の実施形態の項に譲ることとする。
以上、本発明の定着装置の例示的一態様である第1の実施形態について説明してきたが、本発明において、加熱定着ベルト20に対する励磁コイル1Aと磁路形成部材41との配置関係は、本実施形態のものに限定されるものではない。図9に、本実施形態の変形例の定着装置10'の模式断面図を示す。本変形例は、励磁コイルと磁路形成部材との配置関係が第1の実施形態と異なるのみであり、漏洩電磁場遮蔽部材6を含む他の部材の構成は第1の実施形態と同様である。そのため、図9においては、第1の実施形態と同一の機能の部材には図1と同一の符号を付している。
本変形例の定着装置10'は、磁路形成部材41'が加熱定着ベルト20の内周面側に配置され、励磁コイル1A'が加熱定着ベルト20の外周面側に配置されたものである。すなわち、第1の実施形態の定着装置10とは、励磁コイルと磁路形成部材との配置関係を、加熱定着ベルト20を基準にして逆にした(入れ替えた)ものである。このように構成した場合でも、第1の実施形態と同様の効果が得られ、併せて、励磁コイル1A'の放熱性を向上させることができる。
<第2の実施形態>
図10は、本発明の例示的一態様である第2の実施形態の定着装置50の模式断面図である。本実施形態の定着装置においては、加熱装置に相当する構成が第1の実施形態と異なるのみであり、その他の構成は第1の実施形態の定着装置と同様である。したがって、図10においては、第1の実施形態と同一の機能を示す部材には図1と同一の符号を付して、その詳細な説明は一部省略している。すなわち、以下の説明において触れていない部分については、第1の実施形態と同様の構成である。
本実施形態の定着装置には、本発明の加熱装置が含まれ、それには図10に示されるように、漏洩電磁場遮蔽部材16が装着されている。また、本実施形態では、加熱定着ベルト(加熱回転体)20を挟んで励磁コイル11Aと対向配置されている第一磁路形成部材(磁路形成部材)57のほか、その第一磁路形成部材57と、励磁コイル11Aおよび加熱定着ベルト20を挟んで対向配置された第二磁路形成部材(第2の磁路形成部材)55が備えられている。
第2の実施形態の定着装置50は、第1の実施形態に比べて、励磁コイル11Aで発生する磁束をさらに効率良く収集し、その加熱効率を上昇させることを目的としたものである。
具体的には、図10に示されるように、発熱層を有する薄肉中空円筒状の加熱定着ベルト20と、この加熱定着ベルト20の図中下部外周面と圧接するように配設された加圧ロール23とを備え、加熱定着ベルト20の中心部には、支持部材22が配設されている。
そして、この支持部材22は、加圧ロール23と対向している加熱定着ベルト20の内周面(加熱定着ベルト20の内周の図中下部)と当接してニップ部を形成する弾性部材24を支持すると共に、その反対側(加熱定着ベルト20の内周の図中上部)において、加熱定着ベルト20の内周面の曲面形状に倣うように形成された略半円筒形でフェライト製の第二磁路形成部材55を支持する。
さらに、この第二磁路形成部材55の図中上部には、例えば、中空の渦巻き状に形成された励磁コイル11Aを介して、加熱定着ベルト20の内周面の曲面形状に倣うように形成された略半円筒形のコイル支持部材28が、加熱定着ベルト20の内周面と非接触で、この内周面の一部と対向するように配置されている。このコイル支持部材28は、その中央部の第二磁路形成部材55と対向する側に、突起部28Aを有し、この突起部28Aに励磁コイル11Aの中空部を配置することにより、励磁コイル11Aを第二磁路形成部材55との間で挟み込み、この励磁コイル11Aを保持するようになっている。
また、励磁コイル11Aと対向している加熱定着ベルト20の外部には、加熱定着ベルト20の外周面と非接触で、この外周面の一部と対向するように配設された第一磁路形成部材57が設けられている。
このように構成した定着装置50の場合には、励磁コイル11Aおよび加熱定着ベルト20を挟んで、加熱定着ベルト20の内側に配置されている第二磁路形成部材55と、励磁コイル11Aの外側に配置されている第一磁路形成部材57との2つの磁路形成部材を具備するので、励磁コイル11Aから漏れ出る磁束をより効果的に収集し、遮蔽することができる。
また、加熱定着ベルト20の外側に配置された第一磁路形成部材57の周方向両端部57eは、励磁コイル11Aに対向している領域を越えて、さらにその周方向に延在するように形成されている。
この場合、加熱定着ベルト20の外側に配置された第一磁路形成部材57の周方向両端部57eが、対向している励磁コイル11Aの両端部11Aeを越えてそれぞれその周方向に延在しているので、第1の実施形態と同様に、発熱層20bが表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合に、発熱層20bを挟んで励磁コイル11Aと反対側から漏れ出る反作用磁界による磁束漏れをより効果的に防止し、遮蔽効果を向上させることができる。
また、このように第一磁路形成部材57と第二磁路形成部材55とを励磁コイル11Aおよび加熱定着ベルト20を挟んで対向配置することにより、励磁コイル11Aに交流電流を印加する高周波電源の周波数を下げたり、励磁コイル11Aの巻き数を減少させたりすることが可能となり、さらに、電源の小型化、励磁コイル11Aの小型化を通じて、コストダウンを実現することができる。
本実施形態に用いた漏洩電磁場遮蔽部材16の斜視図を図11に、平面図を図12に、それぞれ示す。図11および図12に示されるように漏洩電磁場遮蔽部材16は、直方体形状の一面が開口して断面形状が大略コの字型をした部材であり、開口部に対向する面の長手方向中央部が外方向(図面上上方向)に張り出した形状をしている。なお、当該張り出した部位を張出部16aと称する。
張出部16aは、張り出しの無い部位(長手方向両端部)に比して、励磁コイル11Aからの距離が離れた状態となる。すなわち、張出部16aを適切に設けることで、漏洩電磁場遮蔽部材16と励磁コイル11Aとの距離が、励磁コイル11Aの端部よりも中央部の方が離れた状態になっている。このような形状に漏洩電磁場遮蔽部材16を形成することで、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布を略一定とすることができる。
かかる本発明の作用・効果の検証については、第4の実施形態の項に譲ることとする。
なお、本実施形態においては、第一磁路形成部材57および第二磁路形成部材55の2つの構成部材で磁路形成部材を形成しているが、磁路形成部材は、励磁コイル11Aおよび加熱定着ベルト20を挟んで対向している部分を有すればよく、コイル11Aが作る磁界と発熱層20bが作る磁界の磁路を挟み込むように配置すればよい。
本実施形態において、遮蔽効果を向上させるために、励磁コイル11A側に配置された第二磁路形成部材55の周方向両端部55eは、励磁コイル11Aに対向している領域を越えて、さらにその周方向に延在するように形成されている。
以上、本発明の定着装置の例示的一態様である第2の実施形態について説明してきたが、本発明において、加熱定着ベルト20に対する励磁コイル11Aの配置関係は、本実施形態のものに限定されるものではない。図13に、本実施形態の変形例の定着装置50'の模式断面図を示す。本変形例は、励磁コイルおよび磁路形成部材の配置関係が第2の実施形態と異なるのみであり、漏洩電磁場遮蔽部材16を含む他の部材の構成は第2の実施形態と同様である。そのため、図13においては、第2の実施形態と同一の機能の部材には図9と同一の符号を付している。
本変形例の定着装置50'は、励磁コイル11A'およびコイル支持部材28'が加熱定着ベルト20の外周面側に配置され、磁路形成部材はそのまま励磁コイル11A'および加熱定着ベルト20を挟んで対向配置されている。このように構成した場合でも、第2の実施形態と同様の効果が得られ、併せて、励磁コイル11A'の放熱性を向上させることができる。
なお、本発明においては、加熱回転体を挟んで励磁コイルの反対側で対向配置されるのが「磁路形成部材」で、その磁路形成部材に対向し、前記励磁コイルおよび前記加熱回転体を挟んで配置されるのが「第2の磁路形成部材」と概念分けしている。そのため、図13における相対向する磁路形成部材について、図9の符号番号と入れ替えて、加熱定着ベルト20の内周面側に配置されるものを第一磁路形成部材(磁路形成部材)57'と、外周面側に配置されるものを第二磁路形成部材(第2の磁路形成部材)55'としている。
<第3の実施形態>
図14は、本発明の例示的一態様である第3の実施形態の定着装置70の模式断面図である。本実施形態の定着装置においては、加熱装置に相当する構成が第1の実施形態と異なるのみであり、その他の構成は第2の実施形態の定着装置と同様である。したがって、図14においては、第1ないし第2の実施形態と同一の機能を示す部材には図1ないし図10と同一の符号を付して、その詳細な説明は一部省略している。すなわち、以下の説明において触れていない部分については、第1ないし第2の実施形態と同様の構成である。
本実施形態の定着装置には、本発明の加熱装置が含まれ、それには図14に示されるように、漏洩電磁場遮蔽部材26が装着されている。
本実施形態の定着装置は、第2の実施形態の定着装置をより安価に構成し、コスト低減を考慮した実用性の高い加熱装置およびこれを用いた定着装置を提供することを目的としたものである。本実施形態の定着装置70は、第2の実施形態の定着装置50と磁路形成部材の形態が異なっており、本実施形態においては、磁路形成部材の使用量をより少なくすることで、より安価でかつ軽量な加熱装置およびこれを用いた定着装置を提供している。
本実施形態の定着装置は、図14に示されるように、発熱層を有する薄肉中空円筒状の加熱定着ベルト20と、この加熱定着ベルト20の図中下部外周面と圧接するように配設された加圧ロール23とを備え、加熱定着ベルト20の中心部には、支持部材22が配設されている。
そして、この支持部材22は、加圧ロール23と対向している加熱定着ベルト20の内周面(加熱定着ベルト20の内周の図中下部)と当接してニップ部を形成する弾性部材24を支持すると共に、その反対側(加熱定着ベルト20の内周の図中上部)において、加熱定着ベルト20の内周面の曲面形状に倣うように形成された略半円筒形でフェライト製の第一磁路形成部材(磁路形成部材)77を支持する。
また、第一磁路形成部材77と対向している加熱定着ベルト20の外部には、加熱定着ベルト20の外周面の曲面形状に倣うように略半円筒形に形成され、中空の渦巻き状に形成された励磁コイル21Aを保持するコイル支持部材38が、加熱定着ベルト20の外周面と非接触で設けられている。さらにこの励磁コイル21Aを保持するコイル支持部材38を取り囲むようにして、第一磁路形成部材77と、励磁コイル21Aおよび加熱定着ベルト20を挟んで対向配置された第二磁路形成部材(第2の磁路形成部材)75が備えられている。
図15(a)は、本実施形態に係る定着装置70における加熱定着ベルト20の図中上部に位置する、加熱装置に相当する部位(漏洩電磁場遮蔽部材26を除く)のみを抜き出した側面図であり、当該図におけるH−H'線に沿った断面とその延長にある全構成部材を図示した断面図が、図14に相当する。また、図15(b)は、図15(a)における励磁コイル21Aのみを抜き出した平面図である。
本実施形態においては、磁路形成部材以外の構成はほぼ第2の実施形態と共通しているためその説明は省略し、以下に磁路形成部材およびその周辺構成部材を中心に説明する。
励磁コイル21Aは、相互に絶縁された直径φ0.16mmの絶縁被覆された素線(銅線材)を90本束ねたリッツ線を中空の渦巻き状に11ターン巻いてプレス成型してコイリングされたものである。この励磁コイル21Aの中空部1Acがコイル支持部材38の凸部38Aに配置され、コイル支持部材38の表面の曲面形状に倣って、湾曲した形状が保持されている。
また、励磁コイル21Aの図中上面には、励磁コイル21Aの湾曲形状に略沿った形で、励磁コイル21Aを覆うように第二磁路形成部材75が配置されており、これらの第二磁路形成部材75、励磁コイル21Aおよびコイル支持部材38は、周回移動する加熱定着ベルト20の外周面と非接触で、この外周面に対向して配置されている。
また、加熱定着ベルト20の内側には第一磁路形成部材77が、加熱定着ベルト20の内周面に略沿って、この内周面と非接触で対向配置されており、この第一磁路形成部材77と第二磁路形成部材75とが、励磁コイル21Aおよび加熱定着ベルト20を挟んで対向した構成になっている。
さらに、第一磁路形成部材77は、非磁性絶縁部材または非磁性金属部材(樹脂またはアルミ・銅など)の支持部材22により支持されており、この支持部材22は、併せて定着ニップを形成する弾性部材24からの荷重を受けてこれをも支持している。
ここで、支持部材22は、定着ニップの加圧荷重を支持するため、剛性が高く、耐熱性、耐クリープ性の高い部材であることが必要であり、樹脂材料では形成が困難なため金属部材で形成されることが望ましい。本実施形態においては、コストや製造の容易性、剛性を考慮してアルミニウムが使用されている。金属部材として非磁性金属である、アルミや銅などを使用する理由として、支持部材22は、励磁コイル21A及び加熱定着ベルト20内の発熱層20bの渦電流(図5における渦電流B)が作る磁界が作用しやすい位置にあり、磁性金属であると、この磁界の作用により発熱してしまうため、表皮深さの大きい非磁性金属を採用することにより渦電流損を極めて小さくすることができる。
ここで、励磁コイル21A側に配置されている第二磁路形成部材75は、図14および図15に示されるように、励磁コイル21Aを覆うような連続体で構成されている。これに対して、加熱定着ベルト20の内周側に配置されている第一磁路形成部材77は複数の小片弓形部材77Aに分割され、加熱定着ベルト20の回転方向と略直交する方向(加熱定着ベルト20の回転軸方向)に16mmの間隔をあけて13個配置されている。
第一磁路形成部材77の小片弓形部材77Aは、厚さ3mmでゆるやかな曲率を有した弓形の形状をしており、励磁コイル21Aの長手方向(加熱定着ベルト20の回転軸方向)に沿った幅は10mmである。この小片弓形部材77Aは、支持部材22上に載置され、加熱定着ベルト20の内周面と非接触で、この内周面に略沿って、励磁コイル21Aの対向面に対応するように配置されている。このように配置された第一磁路形成部材77により、例えば、図15のH−H'断面における磁路は、図16の破線で示されるように形成される。ここで、図16は、本実施形態の定着装置における励磁コイル21Aにより生ずる磁路を表す励磁コイル21A周辺の模式断面図である。
なお、第一磁路形成部材77の小片弓形部材77Aを間隔を空けて配置したのは、加熱定着ベルト20の回転軸方向に均等に磁束を作用させて磁路を形成するためである。第一磁路形成部材77を構成する第一磁路形成部材77の使用量は、より少ない個数で周辺金属部材への電磁誘導を防止できるように適宜設計すればよい。
以下に、この第一磁路形成部材77における第一磁路形成部材77の使用量について、図17を参照して検討する。図17は、第一磁路形成部材77における、第一磁路形成部材77の使用量に対する支持部材22への誘導度を示すグラフである。支持部材22はアルミニウム製であり、図17のグラフでいう支持部材22の金属への誘導度とは、小さいほど励磁コイル21Aの電磁誘導作用を受け、誘導度が1であれば電磁誘導作用の影響をほとんど受けていないということを示す特性である。
また、第一磁路形成部材の使用量とは、励磁コイル21Aのコイル全長に対する、それと同方向の小片弓形部材77Aの長さの合計の割合のことを言い、例えば使用量100%の場合、励磁コイル21Aのコイル長に対して支持部材22の表面をコイル長と同じ長さ分だけ小片弓形部材77Aにより覆った状態を示している。
本実施形態の場合には、コイル長は350mmで、第一磁路形成部材77の小片弓形部材77Aは幅10mmのものを合計13個使用しているので、第一磁路形成部材77の使用量は、10×13mm/350mm×100≒37%となっている。
図中の点線の誘導度(0.9)以下の場合には、支持部材22への誘導作用により、無効電力が増えて電源の効率低下を招く可能性のある領域であり、第一磁路形成部材77の使用量が30%以上であれば、これを超え、問題ないことがわかる。また、使用量が30%以上であれば、漏洩磁界も小さく、支持部材22以外の金属製の構成部材への誘導もほとんど無くすことができる。
従って、このように第一磁路形成部材77の使用量を減らした第3の実施形態においても、安定した加熱状態を得ることができる加熱装置およびこれを用いた定着装置を提供することができる。
さらに、本実施形態においては、少なくとも加熱定着ベルト20側に配置されている第一磁路形成部材77は、複数個の小片弓形部材77Aを、加熱定着ベルト20の回転軸方向に亘って互いに間隙を設けて配置された小片部材群により形成されているので、個々の小片弓形部材77Aを小さくでき、これにより、個々の小片弓形部材77Aの型成形が容易となり、その寸法精度が出し易くなる。また、高価な磁路形成部材であるフェライトの使用量が削減でき、軽量化およびコストダウンが可能な加熱装置およびこれを用いた定着装置を提供することができる。
なお、第2の実施形態と同様に、加熱定着ベルト20の内周側に配置された第一磁路形成部材77の周方向両端部77eを、励磁コイル21Aに対向している領域を越えてさらにその周方向に延在するように形成することにより、発熱層20bが表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合に、発熱層20bを挟んで励磁コイル21Aと反対側から漏れ出る反作用磁界による磁束漏れをより効果的に防止し、遮蔽効果を向上させることができる。
さらに、励磁コイル21Aは、加熱定着ベルト20の内側に配置してもよいし、加熱定着ベルト20の外側に配置された第一磁路形成部材77を小片弓形部材群で構成して、加熱定着ベルト20の内側に配置された第二磁路形成部材75を連続体で構成してもよい。
本実施形態に用いた漏洩電磁場遮蔽部材26の斜視図を図18に、平面図を図19に、それぞれ示す。図18および図19に示されるように漏洩電磁場遮蔽部材26は、直方体形状の一面が開口して断面形状が大略コの字型をした部材であり、向かい合う面双方の長手方向中央部が外方向(図面上左右方向)に張り出した形状をしている。なお、当該張り出した部位を張出部26aと称する。
張出部26aは、張り出しの無い部位(長手方向両端部)に比して、励磁コイル21Aからの距離が離れた状態となる。すなわち、張出部26aを適切に設けることで、漏洩電磁場遮蔽部材26と励磁コイル21Aとの距離が、励磁コイル21Aの端部よりも中央部の方が離れた状態になっている。このような形状に漏洩電磁場遮蔽部材26を形成することで、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布を略一定とすることができる。
かかる本発明の作用・効果の検証については、第4の実施形態の項に譲ることとする。
<第4の実施形態>
図20は、本発明の例示的一態様である第4の実施形態の定着装置90の模式断面図である。本実施形態の定着装置は、その全体構成が第3の実施形態の定着装置と近似しており、断面図にすると略同一となる。したがって、図20においては、第1ないし第3の実施形態と同一の機能を示す部材には図1ないし図14と同一の符号を付して、その詳細な説明は一部省略している。すなわち、以下の説明において触れていない部分については、第1ないし第3の実施形態と同様の構成である。
本実施形態は、第3の実施形態の定着装置を、さらに安価に構成し、コスト低減を考慮した実用性の高い加熱装置およびこれを用いた定着装置を提供することを目的としたものである。本実施形態に係る定着装置は、第3の実施形態で示した定着装置70の構成と磁路形成部材の形態が異なり、本実施形態においては、磁路形成部材の使用量をより少なくすることで、より安価でかつ軽量な加熱装置およびこれを用いた定着装置を提供している。
図21は、本実施形態に係る定着装置90における加熱定着ベルト20の図中上部に位置する、加熱装置に相当する部位(漏洩電磁場遮蔽部材26を除く)のみを抜き出した側面図であり、図15(a)と同様の箇所を同様の向きから眺めた図である。また、図22は図21のJ−J'断面図であり、図23は図21のK−K'断面図である。また、図24(a)は、本実施形態における磁路形成部材の配置関係を示す後述の「千鳥配置」なる呼称の意味を視覚的に説明するために、磁路形成部材群の位置関係を模式的に示す側面図である。また、図24(b)は、図24(a)における励磁コイル21Aのみを抜き出した平面図である。
本実施形態においては、磁路形成部材以外の構成はほぼ第三の実施形態と共通しているためその説明は省略し、以下に磁路形成部材及びその周辺構成部材を中心に説明する。
図20に示されるように、本実施形態においては、互いに対向するように配置された第一磁路形成部材(磁路形成部材)97および第二磁路形成部材(第2の磁路形成部材)95は、それぞれ複数の小片弓形部材97Aおよび95Aに分割され、加熱定着ベルト20の回転軸方向に16mmの間隔をあけて、励磁コイル21A側に配置された第二磁路形成部材95については14個、加熱定着ベルトの内周面側に配置された第一磁路形成部材97については13個それぞれ配置されている。
第一磁路形成部材97と第二磁路形成部材95との互いの位置関係は、図21および図24(a)に示されるように、いわゆる「千鳥配置」となっており、対向する互いの小片弓形部材95A,97Aの間隙97As,95Asが、加熱定着ベルト20に対して非対称で、第一磁路形成部材97を形成している小片弓形部材97Aの間隙97Asを、第二磁路形成部材95を形成している小片弓形部材95Aが略補間するような位置関係で配置されている。言い換えれば、小片弓形部材95Aおよび小片弓形部材97Aのそれぞれは、互いに、対向する相手側の第一磁路形成部材97および第二磁路形成部材95における各小片弓形部材97Aおよび95Aの間隙97Asおよび95Asに対応するように配置されている。
さらに具体的には、図24(a)に示されるように、小片弓形部材95Aおよび小片弓形部材97Aのそれぞれの中心位置95Ac,97Acが、対向する相手側の第一磁路形成部材97および第二磁路形成部材95における各小片弓形部材97Aおよび95Aの間隙97As,95Asの中心と略一致するように配置されている。
このように第一磁路形成部材97および第二磁路形成部材95を複数の小片弓形部材97Aおよび95Aに分割して、互いに間隙を設けて配置した場合には、磁界の漏洩による周囲部材への電磁誘導の影響が考えられる。
そこで、小片弓形部材95A,97Aの個数を変えて間隙を設けて配置した場合の周囲部材への電磁誘導の影響についての検証結果を以下に説明する。
まず、励磁コイル21A側に配置された第二磁路形成部材95の小片弓形部材97Aの個数による特性変化について、図25および図26を参照して説明する。
図25および図26は、励磁コイル21Aに一定の交流電流を与えた場合に、励磁コイル21Aから5〜10mmの距離に励磁コイル21Aと同等の大きさの金属部材を近づけたときの、電磁誘導状態におけるインダクタンス値やレジスタンス値、電流と電圧との位相差等の変化情報から、周囲金属部材への電磁誘導の影響度を調査した結果を示すものである。正しくは、図25は、コイル長を覆う割合に対する、周囲金属への誘導度を示す代表的特性として、磁路形成部材の使用量に対する、金属部材を近づけたときの誘導状態のインダクタンス値の変化を示すグラフであり、図26は、レジスタンス値の変化を示すグラフである。
例えば本実施形態では、コイル長350mmに対して、第二磁路形成部材95については幅10mmの小片弓形部材95Aを14個、間隙を与えて励磁コイル21Aをカバーしているので、10mm×14個/350mm=40%の磁路形成部材使用量(図中では、横軸のshare area 40%に相当)ということになる。
なお、励磁コイル21Aに近づけた金属はアルミニウムと鉄である。これらの金属部材を近づけたとき、図25および図26に示されるように、少なくとも磁路形成部材を40%以上使用していれば、励磁コイル21Aに印加する交流周波数成分における電磁界の周囲への影響は無視できるレベルであることがわかる。
次に、第二磁路形成部材95の使用量を40%とし、同じように第一磁路形成部材97の周囲部材への電磁誘導の影響度を調査した結果を図27に示す。第一磁路形成部材97の周囲部材への電磁誘導の影響度は、これを保持する支持部材22をアルミニウムや鉄などの金属とし、励磁コイル21Aの磁界や発熱層20bの渦電流Bが作る磁界H(図5を参照)の支持部材22金属への作用を調査した。
図27のグラフでいう支持部材22金属への誘導度とは、小さいほど電磁誘導作用を受け、誘導度が1であれば電磁誘導作用の影響をほとんど受けないということを示す特性である。これは図25および図26で示した代表的特性とほぼ同じで、金属部材を近づけたときの誘導状態のインダクタンス値とレジスタンス値の変化の割合を示している。誘導度は、既述の通り0.9以上であれば誘導に対する影響は無視できるレベルである。
図27に示されるよう、第一磁路形成部材97は35%前後の使用量であれば、誘導度が0.9以上となり、周囲部材への電磁誘導の影響を非常に少なくできることがわかった。
上述の検証結果より、第一磁路形成部材97と第二磁路形成部材95とを適切な使用量でそれぞれ間隙を与えて配置すればよいことがわかるが、さらに、加熱定着ベルト20の回転軸方向の発熱分布をも考慮する必要がある。例えば、第一磁路形成部材97と第二磁路形成部材95とが加熱定着ベルト20の回転軸方向に対して同じ位置関係に(小片弓形部材95Aおよび97Aのそれぞれが互いに対向するように)配置される場合には、第一磁路形成部材97および第二磁路形成部材95を加熱定着ベルトに対して正射影した部分(小片弓形部材97Aおよび95Aのそれぞれが互いに対向する部分)に磁束が集中し、この部分が過剰に加熱されて、温度差(シマシマ状の温度ムラ)が生じてしまう。このような加熱装置を定着装置に適用した場合に、上記温度差が生じれば定着するトナー像の発色むらなどの問題が起こり望ましくない。
そこで、図24に示すように、小片弓形部材97Aおよび95Aの配置関係を、加熱定着ベルト20の回転軸方向に対して同じ位置関係にならないように配置し、特に図に示すようにお互いの間隙97Asおよび95Asを補完するように配置した、いわゆる「千鳥配置」にすることが望ましい。図24に示すように第一磁路形成部材97および第二磁路形成部材95を千鳥配置にした場合には、コイルの磁界が均等に加熱定着ベルト20の発熱層20bに作用し、加熱定着ベルト20の温度差を小さくすることができ、これにより、定着画像の発色むらなどの問題を引き起こすことなく、安定して加熱することが可能となる。
また、第一磁路形成部材97および第二磁路形成部材95における小片弓形部材97Aおよび95Aが、お互いの間隙95Asおよび97Asを補完するように配置されていれば、例えば図28に示す模式図のように、お互いの位置が一部重なるように配置されていてもよい。ここで、図28は、図21に示される対向する磁路形成部材について、その一方(第一磁路形成部材97)の小片弓形部材(97A)の使用量を増やして配置した例を示す模式側面図である。図28は、第一磁路形成部材97を形成する小片弓形部材97Aの使用量を、本実施形態のかかる図21に示される場合よりも増やして配置した例であるが、第二磁路形成部材95を形成する小片弓形部材95Aの使用量を増やして配置してもよい。
このように、磁路形成部材を第一磁路形成部材97Aおよび第二磁路形成部材95Aのように小片に分けて間隙を設けて配置した場合には、上述のようにお互いの位置関係を考慮することで適切な磁路が形成され、磁束の集中による温度ムラの発生が防止されると共に、高価でかつ重量物である磁路形成部材の使用量が減少でき、その効果的な使用が可能となる加熱装置およびこれを適用した定着装置を提供することができる。
また、図23に示されるように、加熱定着ベルト20の内周側に配置された第一磁路形成部材97の周方向両端部97eを、励磁コイル21Aに対向している領域を越えて、さらにその周方向に延在するように形成することにより、第2ないし第3の実施形態と同様に、発熱層20bが表皮深さδより薄い金属を誘導加熱する場合に、発熱層20bを挟んで励磁コイル21Aと反対側から漏れ出る反作用磁界による磁束漏れをより効果的に防止し、遮蔽効果を向上させることができる。
本実施形態に用いた漏洩電磁場遮蔽部材26は、第3の実施形態で用いたものと同一であり、図18および図19に示される通りである。そのため、第3の実施形態と同様、本実施形態においても漏洩電磁場遮蔽部材26を適切な形状に形成することで、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布を略一定とすることができるという、本発明に特有の卓越した作用並びに効果が奏される。
特に本実施形態では、励磁コイル21Aの外側に配される第二磁路形成部材95が、連続体状ではなく、小片弓形部材95Aが一定間隔を開けて断続的に配された状態なので、隙間が存在し、少ないながらも電磁場が外部に漏洩する。今漏洩電磁場は、先の検証でも明らかな通り、加熱装置としての特性に影響を与えるものではなく、また、他の金属部材に影響を与えるものでは無い程度ではあるが、人体への電磁場の影響が叫ばれている昨今では、その漏洩は極力低減することが望まれる。
漏洩電磁場を低減させるには、一般に漏洩電磁場遮蔽部材を設けることが行われているが、本実施形態においても漏洩電磁場遮蔽部材26により漏洩電磁場を効果的に遮蔽している。しかも、当該漏洩電磁場遮蔽部材26は、本発明に特徴的なものであり、漏洩電磁場遮蔽効果に加えて、加熱回転体たる加熱定着ベルト20の軸方向の温度分布を均一化するという卓越した効果が奏される。
(本発明の作用・効果についての検証)
かかる本発明の作用・効果について検証する。
まず、本実施形態の定着装置において、漏洩電磁場遮蔽部材26を取り外した状態で、1分間定着装置を稼動させた上で、加熱定着ベルト20の回転軸方向の温度分布を測定した。結果を図29にグラフにて示す。図29のグラフからわかるように、漏洩電磁場遮蔽部材26の取り付けられていない状態の定着装置では、最大用紙幅の全域にわたってフラットな発熱温度であり、理想的な温度分布と言える。
しかし、従来の漏洩電磁場遮蔽部材をそのまま取り付けると、励磁コイル21Aから生ずる電磁場に影響を与えることから、この温度分布が崩れることが、本発明者らの研究の結果わかった。本実施形態の定着装置において、漏洩電磁場遮蔽部材26に代えて、長手方向に何ら張り出しの無いストレート状の従来例の漏洩電磁場遮蔽部材を用いて上記同様の試験を行った結果を図31にグラフにて示す。なお、比較に用いた従来例の漏洩電磁場遮蔽部材(26’)は、図30に斜視図にて示される形状のものである。
図31のグラフからわかるように、従来例の漏洩電磁場遮蔽部材26’を取り付けた場合、加熱定着ベルト20の回転軸方向の端部で温度上昇が起こり、温度分布の均一性が損なわれている。この状態のまま定着装置の可動を続けると、被記録材のニップ部への挿通時の先端辺における、両端部が過加熱により定着不良を起こしたり、中央部が熱不足により未定着状態になったり等の虞がある。
次に、本発明に特徴的な形状の漏洩電磁場遮蔽部材26を取り付けた第4の実施形態の定着装置についても上記同様の試験を行った。結果を図32にグラフにて示す。図32のグラフからわかるように、予め加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布が略一定になるように、励磁コイル21Aとの距離が調整されている漏洩電磁場遮蔽部材26を用いることで、最大用紙幅の全域にわたってフラットな発熱温度であり、理想的な温度分布となっている。
以上説明してきた本発明の加熱装置を適用した定着装置のいずれの実施形態においても、次のように、ウォームアップタイムを10秒以下、すなわち殆どゼロと同等にすることができると共に、良好な定着性を得ることができ、しかも剥離不良が生じるのを確実に防止することが可能となっている。
すなわち、これらの実施形態に係る定着装置では、例えば、第1の実施形態の定着装置の場合、加圧ロール23が140mm/sのプロセススピード(回転速度)で、駆動源により回転駆動される。また、加熱定着ベルト20は、加圧ロール23に圧接しており、当該加圧ロール23のプロセススピードと等しい140mm/sの速度で従動回転するようになっている。
そして、上記各実施形態の定着装置では、図示しない転写装置により、未定着トナー像25が転写された被記録材27が、加熱定着ベルト20と加圧ロール23との間に形成されたニップ部1Yを通過し、当該ニップ部1Y内を被記録材27が通過する間に、加熱定着ベルト20と加圧ロール23とによって加熱および加圧されることにより、未定着トナー像25が被記録材表面に定着されるようになっている。
その際、上記各実施形態の定着装置では、加熱定着ベルト20の温度が、励磁コイル1A,11A,21Aに流す高周波電流の周波数などにより、定着動作時は、ニップ部1Yの入口において、160℃〜200℃程度に制御される。
このような定着装置では、画像形成信号が入力されると同時に、加圧ロール23が回転を開始すると共に、励磁コイル1A,11A,21Aに高周波電流が通電される。第1の実施形態の定着装置では、励磁コイル1Aには、例えば、有効電力として1000Wの電力が投入されると、加熱定着ベルト20の温度は、誘導加熱作用によって、室温から約8秒以下で定着可能温度に達する。すなわち、被記録材27が給紙トレイ(不図示)から、定着装置10まで移動するのに要する時間内にウォームアップが完了してしまうことになる。従って、第1の実施形態の定着装置においては、ユーザーを待たせること無く、定着処理が可能となる。これは、第2〜第4の実施形態の定着装置においても同様である。
また、一般に定着装置のニップ部に、60g/m2程度の薄紙に、カラーのベタ画像などトナーが多量に転写された被記録材が進入した場合には、トナーと加熱定着ベルト表面の離型層との間で、引き付け合う力が強くなり、加熱定着ベルトの表面から被記録材を剥離するのが難しくなるのが通常である。しかし、上記各実施形態の定着装置においては、加熱定着ベルト20の形状がニップ部1Yの外では凸形状であるのに対して、ニップ部1Yの内部では凹形状となるように形成されている。
すなわち、ニップ部1Yの内部では被記録材27の方向は、加圧ロール23側に巻き付く方向であり、かつ、ニップ部1Yの出口部では、加熱定着ベルト20の方向が凹形状から凸形状に急激に変化するため、被記録材27は、当該被記録材自体のコシ(剛性)により、加熱定着ベルト20の急激な形状の変化についていくことができず、加熱定着ベルト20から自然に剥離される。これにより、被記録材27の剥離不良の問題が生じるのを確実に防止することができる。
なお、以上の実施形態における加熱定着ベルト20は、薄肉円筒状に形成されたものであったが、当然にベルト形状は、円筒状に限定されるものではなく、例えば、複数のローラ間に亘ってベルトを張架して加熱定着ベルトを形成してもよい。
[加熱装置の製造方法]
本発明の加熱装置の製造方法は、上記の如き本発明の加熱装置を製造する方法である。図1および図2を参照して、上記第1の実施形態の定着装置に含まれる加熱装置を例に挙げれば、本発明の加熱装置の製造方法は、
少なくとも電磁誘導作用により発熱する発熱層20bを有する、無端状の加熱定着ロール(加熱回転体)20を加熱するための加熱装置の製造方法であって、
(A)加熱定着ベルト20を誘導加熱するための励磁コイル1Aを、加熱定着ベルト20の内周面(本発明においては、外周面でも構わない。)の一部に沿うように配置し、
(B)非磁性金属からなり、励磁コイル1A周辺から漏れ出る電磁場を遮蔽するための下記形状の漏洩電磁場遮蔽部材6を、励磁コイル1Aから生じる電磁場を囲い込むように配置することを特徴とする。
・漏洩電磁場遮蔽部材6の形状:加熱定着ベルト20の回転軸方向(図1における奥行方向)の位置により、漏洩電磁場遮蔽部材6と励磁コイル1Aとの距離が、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布が略一定になるように調整された形状。
また、本発明の加熱装置の製造方法においては、
加熱定着ベルト20の発熱層20bの厚さをその表皮深さよりも薄くして、励磁コイル1Aを、発熱層20bの厚さ方向に沿って変動磁界を発生させるべく、加熱定着ベルト20の表面と非接触で、かつ該表面に沿って線材を巻回させて形成されてなるものとした上で、
(C)加熱定着ベルト20を挟んで励磁コイル1Aの反対側で対向し、かつ加熱定着ベルト20の表面と非接触に、励磁コイル1Aと発熱層20bに流れる渦電流により生成された変動磁界の磁路を形成してその磁場を遮蔽する、下記形状に形成された磁路形成部材41を配設する工程をさらに含んでも構わない。
・磁路形成部材41の形状:磁路形成部材41における励磁コイル1Aとの対向面が加熱定着ベルト20の外周面形状(励磁コイルを外周面側に配置した場合には、内周面形状)に倣うように形成されてなる形状。
上記(A)、(B)および(C)の各工程は、特にその順番は問われることなく、作業性等を勘案して適宜選択すればよい。また、その他の工程を含んでも勿論構わない。他の工程としては、例えば、第2〜第4の実施形態で挙げられた第2磁路形成部材(第2の磁路形成部材)55,75,95を配設する工程等が挙げられる。
漏洩電磁場遮蔽部材6の形状を予め、加熱定着ロール(加熱回転体)20の回転軸方向(図1における奥行方向)の位置により、漏洩電磁場遮蔽部材6と励磁コイル1Aとの距離が、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布が略一定になるように調整しておくことで、加熱定着ベルト20の軸方向で温度分布が均一な加熱装置を製造することができる。
具体的に設計する漏洩電磁場遮蔽部材の形状は、本発明においては、図7および図8に示される漏洩電磁場遮蔽部材6に限定されない。例えば、上記の第1〜第4の実施形態ないしその変形例で例示した形状のもの(前記漏洩電磁場遮蔽部材と前記励磁コイルとの距離が、前記励磁コイルの端部よりも中央部の方が離れている形状)が挙げられるが、これらにも限定されるものではなく、使用する励磁コイルの特性や部材の配置等各種条件によっては、端部と中央部の関係が逆になっても構わないし、前記加熱回転体の回転軸方向の中央部を中心として、必ずしも左右対称にならなくても構わない。その都度、温度分布が略一定になるように適宜漏洩電磁場遮蔽部材の形状を調整する点が、本発明において肝心である。
第4の実施形態の定着装置から、励磁コイル21Aの幅方向(加熱定着ベルト20の回転軸方向)の長さ(励磁コイル長L1)をより短くした励磁コイル(励磁コイル長L2)に付け替え、かつ漏洩電磁場遮蔽部材26を取り外した定着装置について、第4の実施形態で説明した「本発明の作用・効果についての検証」と同様の検証試験を行った。結果は、図33のグラフに示す通りである。図33のグラフからわかるように、加熱定着ベルト20の軸方向両端部において十分な発熱温度が得られず、有効発熱幅が最大用紙幅に達していない。
このような状態の定着装置に対して漏洩電磁場遮蔽部材を配設するに際し、本発明の製造方法では、加熱定着ベルト20の回転軸方向の位置により、当該漏洩電磁場遮蔽部材と励磁コイル21Aとの距離が、加熱定着ベルト20の回転軸方向における温度分布が略一定になるように、予め調整して設計する。結果、長手方向に何ら張り出しの無いストレート状の図30に示される漏洩電磁場遮蔽部材26’を選択することも考えられる。この場合も勿論、使用する励磁コイルの特性や部材の配置等各種条件に応じて漏洩電磁場遮蔽部材の形状を調整したのであり、本発明の製造方法の概念に含まれるものである。
実際に、第4の実施形態の定着装置から、励磁コイル21Aの幅方向(加熱定着ベルト20の回転軸方向)の長さ(励磁コイル長L1)をより短くした励磁コイル(励磁コイル長L2)に付け替え、かつ漏洩電磁場遮蔽部材26を漏洩電磁場遮蔽部材26'に付け替えた定着装置について、上記と同様の検証試験を行った。結果は、図34のグラフに示す通りである。図34のグラフからわかるように、加熱定着ベルト20の軸方向両端部において不足していた発熱温度が増加し、最大用紙幅の全域にわたってフラットな発熱温度であり、理想的な温度分布となっている。
本発明の製造方法においては、本発明に特徴的な(B)漏洩電磁場遮蔽部材の形状調整の工程以外の(A)および(C)の工程や、その他諸々の工程については、従来公知の技術に則して、あらゆる製造方法を採用することができ、本発明においては何ら制限されるものではない。
[画像形成装置]
以下に、本発明の加熱装置が適用される本発明の画像記録装置の例示的一態様としての実施形態について、図35を参照して説明する。図35は、本発明の画像記録装置の例示的一態様である画像記録装置100の概略構成図である。
図35に示されるように、この画像記録装置100は、例えば、矢印F方向に回転する感光体ドラム121と、この感光体ドラム121を予め帯電するコロトロン等の帯電器122と、各色成分画像情報に基づいて感光体ドラム121表面に各色成分に対応した静電潜像を書き込む不図示のレーザ走査装置(ROS)などの画像書込装置(本例では同装置からのビームに符号を付す)123と、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色に対応した現像器241〜244が回転ホルダ245に搭載されたロータリー型現像装置124とを備え、感光体ドラム121表面にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色成分毎の静電潜像を形成し、ロータリー型現像装置124における各現像器241〜244の対応する色トナーにて各静電潜像を可視像化した後、中間転写ベルト130に順次一次転写し、中間転写ベルト130外周面の各色成分トナー像の重ね転写像を被記録材P表面に二次転写し、定着装置160にて定着するようにしたものである。
ここで、被記録材Pは、被記録材トレイ150からフィードロール151にて所定の搬送経路へ向けて搬送され、搬送経路中のレジストレーションロール(レジストロール)152で一旦位置決め停止された後に、所定のタイミングで二次転写位置140へと搬送され、ここで、中間転写ベルト130外周面に形成された転写像(未定着トナー像)が被記録材P表面に二次転写される。
二次転写後に、被記録材Pは搬送ベルト153へと導かれ、この搬送ベルト153にて定着装置160へと搬送されるようになっている。なお、二次転写工程が終了した時点では、感光体ドラム121表面の残留トナーはドラムクリーナ125にて清掃され、中間転写ベルト130外周面の残留トナーはベルトクリーナ141にて清掃される。
このように構成された画像記録装置100において、本実施形態では、定着装置160として、本発明の加熱装置を含む本発明の定着装置を用いる。本発明の加熱装置ないし定着装置を用いることで、被記録材Pの搬送方向に対して垂直方向の温度が、定着装置のニップ部において略均一となリ、安定して高画質の定着画像を得ることができる。また、ウォームアップタイムが短く、かつ、安定して加熱定着が可能な画像記録装置を提供することができる。
なお、本発明が適用可能な画像記録装置は、上述のロータリー型に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で種々の画像記録装置に適用可能である。例えば、いわゆるタンデム型の画像記録装置に適用しても同様の作用効果を得ることができる。
以上説明してきたように、本発明の加熱装置を定着装置に備えることにより、ウォームアップタイムを10秒以下にすることが可能な省エネルギーの定着装置を設計することが可能となる。また、低コスト化を実現できる実用性の高い加熱装置の設計も可能とする。このような加熱装置ないし定着装置を備えることにより、搬送方向と垂直方向での定着温度のばらつきが解消され、安定性や安全性に優れ、ウォームアップタイムの極めて短い画像記録装置を提供することができる。
また、本発明の加熱装置の製造方法によれば、据え付けることが必然である場合が多い漏洩電磁場遮蔽部材の形状を適切に調整・設計するだけで、被加熱対象物たる加熱回転体の回転軸方向の加熱温度分布を略均一なものとすることができる。
1A,11A,21A:励磁コイル、 6,16,26:漏洩電磁場遮蔽部材、 10,50,70,90,160:定着装置、 18,28,38:コイル支持部材、 20:加熱定着ベルト(加熱回転体)、 22:支持部材、 23:加圧ロール、 24:弾性部材、 25:未定着トナー像、 27:被記録材、 30:励磁回路、 41:磁路形成部材、 55,75,95:第二磁路形成部材(第2の磁路形成部材)、 57,77,97:第一磁路形成部材(磁路形成部材)、 100:画像記録装置、 121:感光体ドラム、 122:帯電器、 124:ロータリー型現像装置、 125:ドラムクリーナ、 130:中間転写ベルト、 140:二次転写位置、 141:ベルトクリーナ、 150:被記録材トレイ、 151:フィードロール、 153:搬送ベルト、 241:現像器、 245:回転ホルダ、 300:定着ロール、 310:コイル、 320:加圧ロール