JP4608767B2 - 容器用ポリエステルフィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、容器用ポリエステルフィルムに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、鋼板やアルミニウム板などの金属板にラミネートした後に成形加工を施しても金属板との密着性が良好であり、2ピース金属缶、特に食品用金属缶への成形加工が容易で、さらには味特性、内容物取出性に優れた容器用ポリエステルフィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属缶の缶内面および外面は腐食防止を目的として、エポキシ系あるいはフェノール系などの各種熱硬化性樹脂を溶剤に溶解または分散させたものを塗布し、金属表面を被覆することが広く行われていた。しかしながら、このような熱硬化性樹脂による被覆方法は、塗料の乾燥に長時間を要し、生産性が低下したり、多量の有機溶剤による環境汚染など好ましくない問題がある。
【0003】
これらの問題を解決する方法としては、金属缶の材料である鋼板、アルミニウム板あるいは該金属板にメッキなど各種の表面処理を施した金属板に、フィルムをラミネートする方法がある。そして、フィルムのラミネート金属板を絞り成形やしごき成形加工して金属缶を製造する場合、フィルムには次のような特性が要求される。
(1) 金属板へのラミネート性に優れていること。
(2) 金属板との密着性に優れていること。
(3) 成形性に優れ、成形後にピンホールなどの欠陥を生じないこと。
(4) 金属缶に対する衝撃によって、ポリエステルフィルムが剥離したり、クラック、ピンホールが発生したりしないこと。
(5) 缶の内容物の香り成分がフィルムに吸着したり、フィルムからの溶出物によって内容物の風味がそこなわれないこと(以下、味特性と記載する)。
(6) 内容物が缶内面のフィルムと密着せず、内容物の取り出しが容易であること(以下、内容物取出性と記載する)。
【0004】
これらの要求を解決するために多くの提案がなされている。例えば、特公昭64−22530号公報には、特定の密度と面配向係数を有するポリエステルフィルムが開示され、また例えば、特開平2−57339号公報には、特定の結晶性を有する共重合ポリエステルフィルムなどが開示されている。しかしながら、これらの提案は、上述のような多岐にわたる要求特性を必ずしも総合的に満足できるものではなく、特に優れたラミネート性、味特性および内容物取出性が要求される用途での成形性を両立することは困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解消することにあり、ラミネート性、成形加工性、味特性および内容物取出性に優れた2ピース食品用金属缶に好適な容器用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、少なくとも片面の100〜50nmの高さを有する突起の突起密度が100,000個/mm2以上であり、かつ面配向係数が0.10〜0.15であり、表面自由エネルギーが43mN/m以下である容器用ポリエステルフィルム、によって達成することができる。
【0007】
また、本発明の容器用ポリエステルフィルムにおいては、粒子の最小長さdに対する最大長さDの比D/dで表される異形度が1.1以上である粒子を0.01〜3重量%含有すること、および融点が246℃〜280℃であることが好ましい態様として含まれている。
【0008】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、特に好適には金属板にラミネートして使用される。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の容器用ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、主鎖中の主要な結合をエステル結合とする高分子の総称であって、通常ジカルボン酸成分とグリコール成分を重縮合反応させることによって得ることができる。
【0010】
ここでジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホンジカルボン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などを挙げることができる。
【0011】
また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0012】
また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、ポリエステルにトリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパンなどの多官能化合物を共重合してもよい。
【0013】
また、ポリエステルの固有粘度は0.5〜1.5であることが好ましく、特に耐熱性、耐経時性が要求される用途では、固有粘度が0.6〜1.5であることが好ましい。
【0014】
本発明におけるポリエステルは、好ましくはジエチレングリコール成分量が0.01〜3.5重量%、さらに好ましくは0.01〜2.5重量%、特に好ましくは0.01〜2.0重量%であることが、製缶工程での熱処理、製缶後のレトルト処理などの多くの履歴を受けても優れた味特性を維持する上で望ましい。このことは、200℃以上での耐酸化分解性が向上するためであると考えられ、さらに公知の酸化防止剤を0.0001〜1重量%添加してもよい。また、味特性を損ねない範囲でジエチレングリコールをポリエステル製造時に添加してもよい。
【0015】
本発明のポリエステルでは、粒子との相溶性を向上させる点から、ポリエステル中のカルボキシ末端基量が30〜55mmol/kgであることが好ましく、より好ましくは35〜50mmol/kg、特に好ましくは40〜48mmol/kgである。
【0016】
また、味特性を良好にする上で、フィルム中のアセトアルデヒドの含有量を好ましくは25ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下とすることが望ましい。アセトアルデヒドの含有量が25ppmを超えると味特性に劣る。
【0017】
かかるフィルム中のアセトアルデヒド含有量を25ppm以下にする方法は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルを重縮合反応などで製造する際の熱分解により生じるアセトアルデヒドを除去するため、ポリエステルを減圧下もしくは不活性ガス雰囲気で融点以下の温度で熱処理する方法、好ましくはポリエステルを減圧下あるいは不活性ガス雰囲気下で155℃以上融点以下の温度で固相重合する方法、ベント式押出機を使用して溶融押出する方法、ポリエステルを溶融押出する際に押出温度を融点+30℃以内、好ましくは融点+25℃以内で短時間、好ましくは平均滞留時間1時間以内で押し出す方法などを用いることができる。
【0018】
本発明のポリエステルを製造するに際しては、従来公知の反応触媒、着色防止剤を使用することができ、反応触媒としては、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物などを、着色防止剤としてはリン化合物などを使用することができるが、特にこれらに限定されるものではない。内容物取出性の観点からは、アルカリ金属化合物および/もしくはアルカリ土類金属化合物を反応触媒に用いることが好ましい。
【0019】
通常、ポリエステルの製造が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物および/またはチタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例にすると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加する方法や、あるいは特公昭54−22234号公報に記載されているように、ポリエステルの出発原料であるグリコール成分中にゲルマニウム化合物を溶解させて添加する方法を使用することができる。
【0020】
かかるゲルマニウム化合物としては、例えば、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム水和物あるいはゲルマニウムテトラメトキシド、ゲルマニウムエチレングリコキシドなどのゲルマニウムアルコキシド化合物、ゲルマニウムフェノキシド化合物、リン酸ゲルマニウム、亜リン酸ゲルマニウムなどのリン酸含有ゲルマニウム化合物、酢酸ゲルマニウムなどを使用することができる。なかでも二酸化ゲルマニウムが好ましく用いられ、特に非晶質の二酸化ゲルマニウムが特に好ましく用いられる。
【0021】
また、アンチモン化合物としては特に限定されないが、例えば、三酸化アンチモンなどの酸化物、酢酸アンチモンなどが使用される。また、さらにチタン化合物としては、特に限定されないが、チタンテトラエトキシド、チタンテトラブトキシドなどのチタンテトラアルコキシドが好ましく用いられる。
【0022】
以上のようにして、本発明のポリエステルは製造されるが、ここで具体的な例で説明する。例えば、ポリエチレンテレフタレートを製造するに際して、触媒として二酸化ゲルマニウムを添加する場合には、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分をエステル交換またはエステル化反応させ、次に二酸化ゲルマニウム、リン化合物を添加し、引き続き高温、減圧下で一定のジエチレングリコール含有量になるまで重縮合させ、ゲルマニウム元素含有重合体を得る方法が好ましく採用される。さらに好ましい方法としては、得た重合体をその融点以下の温度において減圧下または不活性ガス雰囲気下で固相重合反応し、アセトアルデヒドの含有量を減少させ、所定の固有粘度、カルボキシ末端基を得る方法などが用いられる。
【0023】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、内容物取出性の観点から、少なくとも片面の100〜50nmの高さを有する突起の突起密度が100,000個/mm2以上であることが必要である。さらに好ましくは150,000〜50,000,000個/mm2であり、200,000〜50,000,000個/mm2であるとより好ましい。また、突起の高さとしては80〜50nmの高さの突起の突起密度が100,000個/mm2以上であるとより好ましい。
【0024】
ここで、突起密度は、原子間力顕微鏡(AFM)にて、5μm四方を観察した結果を基に算出したものである。100〜50nmの高さを有する突起の突起密度が100,000個/mm2未満では、内容物が缶側面および底面のフィルムと密着してしまう。100〜50nmの高さを有する突起の突起密度を100,000個/mm2以上とする方法としては、他の特性を悪化させない範囲において特に限定されるものではないが、以下に述べるフィルム中の粒子種、粒子濃度および粒子径を調節する方法、突起を形成しやすくするためにフィルムの少なくとも片面に粒子含有濃度が高い層を配置して積層フィルムとする方法、もしくは粒子を含んだ塗剤を製膜中もしくは製膜後にコーティングする方法などが好ましく選択される。
【0025】
本発明において、ラミネート性、成形性、および耐衝撃性の観点から、フィルムの面配向係数(fn)が0.01〜0.15の範囲内であることが必要である。面配向係数がかかる範囲より小さいと耐衝撃性が悪化し、かかる範囲より大きいとラミネート性が悪化し、さらに成形加工性をも悪化させる。耐衝撃性および成形加工性の点からは面配向係数が0.120〜0.145の範囲内であるとさらに好ましく、特に好ましくは0.127〜0.145である。
【0026】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、ラミネート性、成形性、および耐衝撃性の観点から、フィルム長手方向の屈折率(nX)と幅方向の屈折率(nY)の差(複屈折:Δn=nX−nY)が−0.001〜−0.050の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、Δnが−0.010〜−0.045の範囲である。
【0027】
フィルムのfnとΔnを上記した範囲内とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、フィルムの長手方向および/または幅方向の延伸倍率、延伸温度および/または延伸速度の調整、さらには熱処理温度および/または熱処理時間の調整などの方法により達成することができる。
【0028】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、内容物取出性の観点から、少なくとも片面の表面自由エネルギーが43mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは20〜40mN/mであり、25〜38mN/mであると特に好ましい。表面自由エネルギーを43mN/m以下とする方法は、特に限定されるものではないが、他の特性を悪化させない範囲においてワックスやシリコーン化合物を添加することが好ましく、特にワックスを添加することが好ましい。ここで、ワックスとしては、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ステアリル酸ステアレートなどを挙げることができ、中でもカルナウバワックスが好ましく用いられる。その添加量は0.001〜2重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜1重量%であり、0.4〜1重量%であると一層好ましい。ワックスやシリコーン化合物を添加する方法としては、ポリエステルの重合途中に添加する方法や、二軸の溶融押出機において混練することで、混合する方法などが好ましく用いられる。
【0029】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、味特性、耐熱性、およびラミネート性の点から、融点(Tm)が246〜280℃であることが好ましい。融点が246℃未満では、味特性、耐熱性が悪化する場合があり、また、280℃より高いとラミネート性、成形性が悪化する場合がある。また味特性、ラミネート性の観点からより好ましくはTmが246〜275℃であり、特に好ましくは246〜270℃である。
【0030】
本発明の容器用ポリエステルフィルムにおいては、取り扱い性、加工性ならびに内容物取出性を向上させるために、平均粒子径0.01〜10μmの公知の内部粒子、無機粒子および/または有機粒子を0.01〜3重量%含有することが好ましい。粒子濃度が0.05〜3重量%であるとさらに好ましく、0.1〜3重量%であるとより好ましく、0.3〜3重量%であるとより一層好ましい。内部粒子の析出方法としては公知の技術を用いることができるが、例えば、特開昭48−61556号公報、特開昭51−12860号公報、特開昭53−41355号公報、および特開昭54−90397号公報などに記載の技術を採用することができる。さらに、特公昭55−20496号公報や特開昭59−204617号公報などに記載の他の粒子を併用することもできる。なお、10μmを超える平均粒子径を有する粒子を使用すると、フィルムに欠陥が生じることがあるので注意を要する。
【0031】
かかる無機粒子としては、例えば、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミ、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミ、マイカ、カオリン、クレーなど、有機粒子としてはスチレン、シリコーン、アクリル酸類、メタクリル酸類、ポリエステル類、ジビニル化合物などを構成成分とする粒子を使用することができる。なかでも、湿式および乾式シリカ、アルミナなどの無機粒子およびスチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、ポリエステル、ジビニルベンゼンなどを構成成分とする粒子を使用することが好ましい。さらに、これらの内部粒子、無機粒子および有機粒子は二種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、成形加工時の耐摩耗性および内容物取出性の点から含有する粒子の異形度(粒子の最小長さdに対する最大長さDの比D/d)が1.1以上であることが好ましい。D/dが1.1未満であると成形加工時にフィルムからの粒子の欠落が生じフィルム表面および/または加工機器に削れ傷が生じることがある。また、さらに耐摩耗性および内容物取出性を向上させるためにD/dが2.0〜20であればさらに好ましい。
【0033】
本発明の容器用ポリエステルフィルムの厚みは、金属板へのラミネート性、成形性と耐衝撃性などの観点から、5〜50μmであることが望ましく、さらに好ましくは8〜30μmである。8〜25μmであるとラミネート性に優れるのでより好ましい。
【0034】
本発明の容器用ポリエステルフィルムはフィルム構成としては、単層であってもA/Bの2層、A/B/AあるいはA/B/Cの3層、さらには3層より多層の積層構成であってもよく、積層の場合、その積層厚み比も任意に設定することができる。積層の中でも好ましくはA/Bの2層であり、ここで非鋼板面となるA層表面の突起密度を制御することで優れた内容物取出性を発現することができる。また、A層表面の表面自由エネルギーを43mN/m以下にするとさらに好ましい。また、鋼板面となるB層表面は鋼板との密着性の点から表面自由エネルギーが45mN/m以上であることが好ましい。積層フィルムを得る方法としては、A層に用いるポリエステルとB層に用いるポリエステルを各々別の押出機に供給して、口金上部に設置したフィードブロック内にて積層して一挙にシートを得る共押出法や、予めA層もしくはB層のみからなるフィルムを製膜し、その上に残る層に用いるポリエステルを押出ラミネートする方法などを好ましく用いることができる。生産性の点からは共押出法が好ましく、口金から押し出す際に冷却ドラムに接しない側の層をワックスなどを添加した、低表面自由エネルギー層とすることが好ましい。これは通常冷却ドラムは鏡面加工された金属ドラムであるため、キャストの際に高表面自由エネルギーである金属の影響で、ワックスのポリエステル中への潜り込みが発生し、目標とする低エネルギー表面を得るためにより多量のワックスを添加する必要が出てくるためである。
【0035】
本発明における容器用ポリエステルフィルムの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルを必要に応じて乾燥した後、公知の溶融押出機に供給、溶融しスリット状のダイからシート状に押出し、特に限定されないが、例えば、ワイヤー状電極もしくはテープ状電極を使用して静電印加する方法、キャスティングドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けたキャスト法、キャスティングドラム温度をポリエステルのガラス転移点〜(ガラス転移点−20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくはこれらの方法を複数組み合わせた方法によりシート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ冷却固化し未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、生産性平面性の観点から静電印加する方法が好ましく使用され、特にテープ状電極を使用する方法が好ましく用いられる。かかる未延伸フィルムを用いて長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行なう。
【0036】
かかる延伸方法において、採用される延伸倍率としては、それぞれの方向に好ましくは1.6〜4.2倍、さらに好ましくは1.7〜4.0倍である。また、延伸速度は1,000〜200,000%/分であることが望ましく、延伸温度はポリエステルのガラス転移点〜(ガラス転移点+100℃)の温度範囲であれば任意の温度とすることができるが、好ましくは、80〜170℃、特に好ましくは長手方向の延伸温度を90〜150℃、幅方向の延伸温度を80〜150℃とするのがよい。また、延伸は各方向に対して複数回行なってもよい。
【0037】
さらに二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行なうが、この熱処理はオーブン中、加熱されたロール上など従来公知の任意の方法により行なうことができる。熱処理温度は120℃以上ポリエステルの融点以下の任意の温度とすることができるが、成形加工性、耐衝撃性の点から120〜230℃の熱処理温度であることが好ましい。かかる温度より低温であれば、耐衝撃性が悪化し、高温であれば成形加工性が悪化することがある。成形後の耐衝撃性の点からは150〜220℃であればさらに好ましく、170〜210℃の範囲であればより一層好ましい。また、熱処理時間は他の特性を悪化させない範囲において任意とすることができるが、通常1〜60秒間行うのが好ましい。さらに、熱処理はフィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させて行なってもよい。
【0038】
さらに、本発明のフィルム表面にコロナ放電処理などの表面処理を施すことにより接着性をさらに向上させてもよい。その際、E値としては好ましくは5〜50W・分/m2、さらに好ましくは10〜45W・分/m2を採用することができる。ここでE値とは、コロナ放電処理強度であり、印加電圧(Vp、単位:V)、印加電流(Ip、単位:A)、処理速度(S、単位:m/分)、処理幅(Wt、単位:m)の関数であり、E=Vp×Ip/S×Wtで表される。
【0039】
本発明のフィルムには各種コーティングを施してもよく、その塗布化合物、方法、厚みは本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されない。
【0040】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、容器用途に用いられるものであり、その用途は容器用途であれば特に限定されないが、アルミ蒸着用途、金属酸化物蒸着用途、ポリエステルシーラント用途、ポリエステルラミネート積層体による容器などが挙げられる。中でも折り曲げ成形、絞り成形、しごき成形などの成形加工により容器に成形される用途であることが好ましく、さらには基材とのラミネート後に成形加工される用途であることが好ましい。ラミネート基材としては金属、紙、プラスチックから選択される基材であることが望ましく、金属、紙、プラスチックとの界面には特性を大きく損ねない範囲で接着剤などが用いられていても良いが、接着剤を介さずに熱により直接ポリエステルフィルムを接着させることが好ましい。金属−ポリエステルフィルム、紙−ポリエステルフィルムおよびプラスチック−ポリエステルフィルムから形成される食品用容器は、味を変化させる要因となる基材と内容物がポリエステルフィルムによって直接接触することがなく、味特性の点で好ましい。その場合、特にラミネート基材が金属であることが、バリア性、十分な加熱を施せるという点で好ましく、内容物の保護性が一段と向上するので好ましい。金属板としては特に限定されないが、成形の点で鉄やアルミニウムなどを素材とする金属板が好ましい。さらに、鉄を素材とする金属板の場合その表面に接着性や耐腐食性を改良する無機酸化物被膜層、例えば、クロム酸処理、リン酸処理、クロム酸/リン酸処理、電解クロム酸処理、クロメート処理、クロムクロメート処理などで代表される化成処理被膜層を設けてもよい。特に金属クロム換算値でクロムとして6.5〜150mg/m2のクロム水和酸化物が好ましく、さらに展延性金属メッキ層、例えば、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミニウム、砲金、真鍮などを設けてもよい。スズメッキの場合0.5〜15mg/m2、ニッケルまたはアルミニウムの場合1.8〜20mg/m2のメッキ量を有するものが好ましい。
【0041】
本発明の容器用ポリエステルフィルムは、絞り成形やしごき成形によって製造する2ピースからなる金属缶の内面被膜用に好適に使用することができる。また、ツーピース缶の蓋部分、あるいはスリーピース缶の胴、蓋、底の被膜用としても良好な金属接着性、成形性を有するため好ましく使用することができる。特に熱などにより硬化する内容物を保存する食品用金属缶の缶内面被覆用において、内容物が缶壁、缶底に密着することなく容易に取り出すことができるため、食品用金属缶に特に好ましく使用することができる。
【0042】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価した。
【0043】
(1)ポリエステルの固有粘度
ポリエステルをオルソクロロフェノールに溶解し、25℃において測定した。
【0044】
(2)フィルムの融点
フィルム約10mgを示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製 DSC220CU)にて、10℃/分の昇温速度で測定し、融解に伴う吸熱ピークのピーク位置から融点を求めた。なお、装置の校正にはインジウム、スズ、鉛を用いた。 (3)フィルム厚み
フィルムの厚みは、ダイヤルゲージにて任意の10ヶ所を測定し、その平均値を求めた。
【0045】
(4)面配向係数、複屈折
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてジヨードメタンを用い、アッベ屈折計にて長手方向、幅方向厚み方向の屈折率(それぞれnX,nY,nZ)を求めた。面配向係数fnは、fn=(nX+nY)/2−nZを、また複屈折Δnは、Δn=nX−nYを計算して求めた。なお、測定は27±2℃の条件で任意の10ヶ所について行ない、その平均値を求めた。
【0046】
(5)粒子の異形度
フィルムの長手方向の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察し、個々の粒子あるいは一次粒子径より小さい間隔で凝集体(集合体)を形成したものを一つの粒子と見なし、フィルム中に存在する各粒子の最大長さDと最小長さdを求めた。そして、最大長さDと最小長さのdの比(D/d)を粒子の異形度とした。Dおよびdについては、少なくとも50個以上の粒子について測定を行ない、その平均値を求めた。
【0047】
(6)突起密度
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて以下の条件で測定した。測定は任意の異なる場所にて5回行ない、得られた画像に高さのしきい値を100〜50nmまで10nm間隔で、突起高さがしきい値以上の突起個数をカウントし、高さ100〜90、90〜80、80〜70、70〜60、60〜50nmの突起個数を各々求めた。その平均個数と観察面積より各々の突起高さ範囲での突起密度を求め、合計することで100〜50nmおよび80〜50nmの高さを有する突起の突起密度を算出した。
装置:NanoScope III AFM(Digital Instruments 社製)
カンチレバー:シリコン単結晶
走査モード :タッピングモード
走査範囲 :5μm×5μm
走査速度 :1.0Hz。
【0048】
(7)表面自由エネルギー
公知の方法により、測定液としては、水、エチレングリコール、ホルムアミドおよびジヨードメタンの4種類を使用し、接触角計(協和界面科学(株)製CA−D型)を用いて各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求めた。それぞれの液体について5回測定し、その平均接触角(θ)と測定液(j)の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し、4つの式からなる連立方程式をγL、γ+、γ-について解いた。
(γLγj L)1/2+2(γ+γj -)1/2+2(γj +γ-)1/2
=(1+cosθ)[γj L+2(γj +γj -)1/2]/2
ただし、γ=γL+2(γ+γ-)1/2
γj=γj L+2(γj +γj -)1/2
ここで、γ、γL、γ+、γ-は、それぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを、また、γj、γj L、γj +、γj -は、ぞれぞれ用いた測定液の表面自由エネルギー、長距離間力項、ルイス酸パラメーター、ルイス塩基パラメーターを示す。また、ここで用いた各液体の表面張力は、Oss("fundamentals of Adhesion", L. H. Lee(Ed.), p153, Plenum ess, New York (1991).)によって提案された表1の値を使用した。
【0049】
【表1】
(8)加工性
フィルムの融点+28℃に加熱したTFS鋼板(厚さ0.22mm)に65m/分でラミネート後、45℃の水槽で急冷した。該ラミネート鋼板をリダクション率18%で成形し缶を得た。得られた缶の様子を10缶観察し下記のように判定した。
A級:フィルムに白化、亀裂、重なり皺がない。
B級:フィルムに重なり皺や少しの白化が見られるが、亀裂はない。
C級:フィルムに白化、亀裂、重なり皺が見られる。
【0050】
(9)味特性
フィルムを長さ500mm、幅10mmの短冊状に切断し、ステンレス製密閉容器(容量0.5dm3)に水300g、フィルム0.5gを入れ、130℃30分間の加圧蒸気処理を行なった。処理後5℃まで一旦冷却し、その後常温にてフィルムからの溶出成分による濁度測定を濁度計(安井器械製 高感度濁度・色度計 TUB801)にて行ない、以下の基準で評価を行なった。なお、濁度の測定にあたっては、予め水質試験用濁度標準液(和光純薬(株)製)にて検量線を作成して行なった。
A級:0.10未満
B級:0.15〜0.10
C級:0.15以上。
【0051】
(10)内容物取出性
牛挽肉と全卵を重量比1:4で混合し、ビーカー(容量1dm3)に加えた。そこにスライドガラス(長さ76mm、幅26mm、厚み1〜1.2mm)にフィルムを巻き付けてポリエステルテープで固定したサンプルを突き刺した。これを120℃40分間の加圧蒸気処理を行ない、挽肉と卵の混合物を固化させた。
室温まで冷却後フィルムをスライドガラスごと混合物から分離する際のフィルム表面への混合物の付着度合いを以下の基準で評価した。
A級:フィルム全面に混合物の付着が見られない。
B級:混合物の付着が一部で見られた。
C級:フィルム全面に混合物の付着が見られた。
【0052】
(実施例1〜5、比較例5)実施例1では、表2に示したとおり、平均粒径0.6μmの凝集シリカを0.5重量%含有させ、かつステアリル系ワックス化合物を0.3重量%添加したポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)を使用した。このPETを、180℃で3時間真空乾燥して単軸押出機に供給し、通常の口金から吐出後、静電印加しながら鏡面冷却ドラムにて冷却固化して未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを温度105℃にて長手方向に3.1倍延伸、40℃に冷却後、温度125℃で幅方向に3.0倍延伸した後、190℃にてリラックス5%、5秒間熱処理し、2軸延伸された厚さ15μmの二軸延伸フイルムを得た。このフィルムの特性は、表3に示すとおりであり、表4に示すように優れた特性を示した。実施例2では、実施例1のワックス化合物を含有させない以外は同じPETを使用し、延伸条件を表2のように変更してフィルムを得た。また、比較例5では、平均粒径0.5μmの凝集シリカを0.4重量%含有した2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル10モル%共重合PETを使用して、実施例1と同様に表2に示した製膜条件にて二軸延伸フィルムを得た。これらのフィルム物性は表3に示したとおりであり、表4に示したように実施例2のフィルムは優れた特性を示した。
【0053】
実施例4では、平均粒径0.6μmの凝集シリカ粒子を0.4重量%含有させ、かつカルナウバワックスを0.5重量%添加したPETを使用した。このPETを160℃で5時間真空乾燥した後、押出機に供給し口金から溶融押出し、静電印加を行ないながら鏡面冷却ドラム上にキャストして未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを温度110℃にて長手方向に3.2倍延伸し、30℃に冷却後、温度115℃で幅方向に2.9倍延伸した後、190℃にてリラックス3%、7秒間の熱処理を施し、2軸に延伸された厚さ15μmのフィルムを得た。このフィルムの特性は表3に示すとおりであり、表4に示すように優れた特性を示した。
【0054】
実施例5では、鋼板にラミネートする際に鋼板側となる層にポリエステルとして、平均粒径0.6μmの凝集シリカを0.07重量%含有させたPETを使用し、非鋼板側面にとなる層に平均粒径0.4μmの凝集シリカを0.2重量%含有させ、かつカルナウバワックスを0.8重量%添加したPETを使用した。これらのPETを各々150℃で5時間真空乾燥した後、別々の押出機に供給し、口金上部に設置したフィードブロック内にて積層し、ワックス含有層が非ドラム面側となるように静電印加を行いながらキャストを行ない、未延伸積層フィルムを得た。このフィルムを表2に記載の条件で実施例4と同様に延伸し、二軸延伸フィルムを得た。このフィルムの物性は表3に示した通りとおりであり、表4のとおり優れた特性を示した。
【0055】
(比較例1〜4)
比較例1では、平均粒径1.2μmの凝集シリカを0.4重量%含有させたPETを使用し、比較例2では、平均粒径1.0μmの球状シリカを0.1重量%含有させたイソフタル酸11.5モル%共重合PETを使用し、また比較例3では平均粒径0.6μmの凝集シリカを0.05重量%含有させた2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル10モル%共重合PETを使用して、実施例1と同様に二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルム物性は表3に示したとおりであり、突起密度の小さいこれら比較例1〜3のフィルム特性は、表4に示したように劣るものであった。
【0056】
比較例4では、平均粒径1.0μmの凝集シリカを0.1重量%含有させ、かつカルナウバワックス0.3重量%添加したイソフタル酸7モル%共重合PETを使用した。このポリエステルを使用して、実施例1と同様に表2に記載の条件で二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの物性は表3のとおりであり、その特性は表4に示したように劣るものであった。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
なお、上記表中の略号は、以下のとおりである。
PET:ポリエチレンテレフタレート
PET/N10:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル10モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
PET/I11.5:イソフタル酸11.5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
IV:ポリエステルの固有粘度
Tm:融点
nX:フィルム長手方向の屈折率
nY:フィルム幅方向の屈折率
nZ:フィルム厚み方向の屈折率
fn:面配向係数
Δn:複屈折
D/d:粒子の異形度
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリエステルフィルムの表面形態および配向を制御することで、成形加工性のみならず、優れた内容物取出性を両立せしめた容器用ポリエステルフィルムを得ることができる。この容器用ポリエステルフィルムは、特に2ピース食品用金属缶に好適である。
Claims (5)
- 少なくとも片面の100〜50nmの高さを有する突起の突起密度が100,000個/mm2以上であり、かつ面配向係数が0.10〜0.15であり、表面自由エネルギーが43mN/m以下である容器用ポリエステルフィルム。
- 粒子の最小長さdに対する最大長さDの比D/dで表される異形度が1.1以上である粒子を0.01〜3重量%含有する請求項1に記載の容器用ポリエステルフィルム。
- 融点が246℃〜280℃である請求項1または2に記載の容器用ポリエステルフィルム。
- 金属板にラミネートして使用される請求項1〜3のいずれかに記載の容器用ポリエステルフィルム。
- 食品容器用として用いる請求項1〜4のいずれかに記載の容器用ポリエステルフィルム。
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