以下に、本発明の実施態様について、図を引用しながら詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
[原料]
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、このセルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素がアシル基により置換された割合、つまりアシル置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、式(I)〜(III)において、AおよびBは、ともに、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わす。そして、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。なお、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いられるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではなく、溶液製膜によりフイルムとすることができる公知のポリマーであればよい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位の水酸基がエステル化されている割合を意味する。例えば2位の水酸基が100%エステル化されて場合の置換度は1である。したがって、2,3,6位のすべての水酸基がエステル化されている場合には、置換度は3となる。
ここで、グルコース単位において、2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)をDS2、3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)をDS3、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)をDS6とする。全アシル置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。
セルロースアシレートにおけるアシル基は1種類でもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。ここで、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとする。DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上、特に好ましくは0.85以上である。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性により優れた溶液、つまりドープを作製することができる。特に、溶媒として非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートは優れた溶解性を示すとともに、得られるドープは低粘度で濾過性がよい。
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでもよいが、リンター綿から得られたものがより好ましい。
セルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味する。
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のものが好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点からは、ジクロロメタンに炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有率は、溶媒全体に対して2〜25質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられ、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物がより好ましい。
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合してもよい。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
なお、セルロースアシレートの詳細は、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載は、本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
[ドープ製造方法]
図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ製造ライン10には、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどを混合するための混合タンク12と、TACを供給するためのホッパ13と、添加剤を貯留するための添加剤タンク14とが備えられてある。さらに、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置15と、調製されたドープ27の温度を調整する温調機16と、濾過装置17と、調製されたドープ27を濃縮するフラッシュ装置30と、濾過装置31も備えられてある。また、溶媒を回収するための回収装置32と、回収された溶媒を再生するための再生装置33とが備えられる。このドープ製造ライン10は、ストックタンク41を介してフイルム製造ライン40と接続される。
ドープ製造ライン10を用い、以下の方法でドープ27を製造する。バルブ18を開き、溶媒タンク11から溶媒を混合タンク12に送り込む。次に、適量のTACをホッパ13から混合タンク12に送り込む。また、必要量の添加剤溶液を、バルブ19の開閉操作により、添加剤タンク14から混合タンク12に送り込む。
添加剤を送り込む方法は、上記のように溶液として送り込む方法に限定されない。例えば、添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で混合タンク12に送り込んでもよいし、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク12に送り込んでもよい。また、添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク14の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておく方法、あるいは、複数の添加剤タンクをドープ製造ライン10に配してそれぞれ独立した配管を混合タンク12との間に設け、各添加剤タンクに添加剤が溶解している溶液を入れておく方法等がある。
上記の説明では、混合タンク12に入れる順序が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、これに限定されるものではない。例えば、TACを計量しながら混合タンク12に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも混合タンク12にこれを送り込む必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合されてもよい。
混合タンク12には、図1に示すようにその外面を包み込むジャケット20と、モータ21により回転する第1攪拌機22とが備えられている。ただし、図1に示すように、混合タンク12には、モータ23により回転する第2攪拌機24が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌機22は、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機24は、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機であることが好ましい。混合タンク12は、ジャケット20の内部に伝熱媒体を流すことで温度調整されている。その温度範囲は−10〜55℃であることが好ましい。第1攪拌機22および第2攪拌機24を適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液25を得る。
膨潤液25を、ポンプ26により加熱装置15に送り込む。加熱装置15は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液25を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置15を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液25中の固形分を溶解させてドープ27を得ることができる。以下、この方法を加熱溶解法と称する。膨潤液25の温度は、50〜120℃であることが好ましい。膨潤液25を−100〜−30℃の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。このような加熱溶解法および冷却溶解法を適宜選択して行うことで、TACを溶媒に充分溶解させることができる。ドープ27を温調機16により略室温とした後に、濾過装置17により濾過してドープ27中に含まれる不純物を取り除く。濾過装置17に使用される濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/hr以上であることが好ましい。濾過後のドープ27は、バルブ28を介してフイルム製造ライン40中のストックタンク41に送り、ここで貯留する。
上記のように、膨潤液25を調製してからドープ27を作製する方法は、TACの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなるので、製造コストの点で問題となるおそれがある。したがって、このような方法によりドープ27を製造する場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープ27を調製してから、濃縮工程を行うことで目的の濃度のドープ27を調整することが好ましい。この場合には、濾過装置17で濾過されたドープ27を、バルブ28を介してフラッシュ装置30に送り、このフラッシュ装置30内でドープ27中の溶媒の一部を蒸発させるようにする。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮されて液体となり回収装置32により回収される。回収された溶媒は、再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
また、濃縮されたドープ27は、ポンプ34によりフラッシュ装置30から抜き出される。このとき、ドープ27に発生した気泡を抜くために、泡抜き処理を行うことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の種々の方法を適用することができる。例えば、超音波照射法が挙げられる。続いて、ドープ27は、濾過装置31に送り込まれて濾過される。これによりドープ27から異物が除去される。濾過の際のドープ27の温度は、0〜200℃であることが好ましい。濾過したドープ27は、ストックタンク41に送られて貯蔵される。ストックタンク41には、モータ60により回転する攪拌機61が取り付けられており、攪拌機61を回転することで、ドープ27を常時攪拌している。
以上の方法により、ドープ27を製造することができる。このとき、ドープ27中のTAC濃度は、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜30質量%であり、特に好ましくは17〜25質量%の範囲である。また、添加剤(主に可塑剤)の質量割合は、ドープ27中の固形分全体の質量を100とした場合に、1〜20の範囲となるようにすることが好ましい。
なお、TACフイルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法および添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されている。これらの記載は、本発明に適用することができる。
[溶液製膜方法]
上述の方法により製造したドープ27を用いてフイルムを製造する方法について説明する。図2はフイルム製造ライン40を示す概略図である。ただし、本発明は、図2に示す形態に限定されるものではない。ストックタンク41を介してドープ製造ラインに接続するフイルム製造ライン40には、濾過装置42と、流延ダイ43と、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46とテンタ式乾燥機47などが備えられている。さらに耳切装置50、乾燥室51、冷却室52および巻取室53などが配されている。また、ストックタンク41は、ポンプ62および濾過装置42を介して流延ダイ43と接続している。
流延ダイ43の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1 )以下であることが好ましい。電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものや、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものも、この流延ダイ43の材質として用いることができる。なお、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ43を作製することが好ましい。これにより、流延ダイ43内をドープ27が一様に流れ、後述する流延膜69にスジなどが生じるのを防止することができる。流延ダイ43の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ43のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ43のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ43内部における剪断速度が1〜5000(1/秒)となるように調整されていることが好ましい。
流延ダイ43の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフイルムの幅の1.1〜2.0倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ43に温調機を取り付けることが好ましく、流延ダイ43にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ43の幅方向に所定の間隔で設けて、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ43に備えられていることがより好ましい。前記ヒートボルトは、予め設定されるプログラムにより、ポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)62の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。厚み計(図示しない)のプロファイルに基づく調整プログラムによって、フィードバック制御を行っても良い。前記厚み計としては、例えば、赤外線厚み計などが挙げられるが、特に限定されるものではない。流延エッジ部除く製品フイルムの幅方向の任意の2点の厚み差は、1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。なお、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
流延ダイ43のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができるとともに、低気孔率であり、脆くなく耐腐食性に優れ、かつ流延ダイ43と密着性がよい一方で、ドープとの密着性が悪いものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 O3 ,TiN,Cr2 O3 などが挙げられるが、なかでも、WCであることが好ましい。このWCコーティングは、溶射法で行うことができる。
流延ダイ43のスリット端に流出するドープ27が局所的に乾燥固化することを防止するために、溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。この場合には、ドープ27を可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)を流延ビードの両端部、ダイスリット端部および外気が形成する三相接触線の周辺部付近に供給することが好ましい。端部の片側それぞれに0.1〜1.0mL/分で供給すると、流延膜中への異物混合を防止することができるので好ましい。なお、この液を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
流延ダイ43の下方には、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46が設けられている。回転ローラ44,45は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド46は無端で走行する。流延バンド46は、その移動速度、すなわち流延速度が10〜200m/分で移動できるものであることが好ましい。また、流延バンド46の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ44,45に伝熱媒体循環装置63が取り付けられていることが好ましい。流延バンド46は、その表面温度が−20〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いられている回転ローラ44,45内には伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ44,45の温度を所定の値に保持されるものとなっている。
流延バンド46の幅は特に限定されるものではないが、ドープ27の流延幅の1.1〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましく、その長さは20〜200mであり、厚みは0.5〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンド46は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド46の全体の厚みムラは、0.5%以下のものを用いることが好ましい。
なお、回転ローラ44,45を直接支持体として用いることもできる。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましく、回転ローラ44,45の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、回転ローラの表面にクロムメッキ処理などを行い、十分な硬度と耐久性を持たせるようにする。なお、支持体(流延バンド46や回転ローラ44,45)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、表面欠陥として30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールが1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールが2個/m2 以下であることが好ましい。
流延ダイ43、流延バンド46などは流延室64に収められている。流延室64には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備65と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)66とが設けられている。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置67が流延室64の外部に設けられている。また、流延ダイ43から流延バンド46にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ68が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
流延バンド46の周面近くに送風ダクト70を設ける。これにより、流延バンド46の上に形成された流延膜69を乾燥する。なお、送風ダクト70の詳細は後で説明する。また、流延室64の内部には、流延バンド46から剥ぎ取られた流延膜69、つまり湿潤フイルム74を支持するローラ75を備える。
渡り部80には、送風機81が備えられ、テンタ式乾燥機47の下流の耳切装置50には、切り取られたフイルム82の側端部(耳)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ90が接続されている。
乾燥室51には、多数のローラ91が備えられており、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置92が取り付けられている。図2においては、乾燥室51の下流に冷却室52が設けられているが、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けてもよい。また、冷却室52の下流には、フイルム82の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)となるように調整するための強制除電装置(除電バー)93が設けられている。図2においては、強制除電装置93は、冷却室52の下流側とされている例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。さらに、本実施形態においては、フイルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ94が強制除電装置93の下流に適宜設けられる。巻取室53の内部には、フイルム82を巻き取るための巻取ローラ95と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ96とが備えられている。
図3に示すように、形成直後の流延膜69の近傍、つまり、流延ダイ43のすぐ下流側であって流延バンド46の流延膜69が形成される面側の近傍には、乾燥風を送り出して流延膜69の溶媒を揮発させるための送風ダクト70を設けている。この送風ダクト70には、風量、風温、湿度などの各送風条件を独立して制御するための送風コントローラ(図示せず)と、この送風コントローラにより条件制御された風を送風ダクト70に送り込むための送風部(図示しない)とが備えられている。送風ダクト70のダクト本体71には、流延膜69の全幅に渡る送風口71aと、この送風口71aを流延バンド46の幅方向で複数のエリアに仕切るための複数の整流フィン100とを有する。この整流フィン100は、送風口71aから乾燥風を、より整流して流延バンド46に対して平行に送り出す第1の整流部材として用いられる。これにより、流延膜69上に凹凸ムラが生じることを抑制することができる。ダクト本体71は、さらに、送風による同伴風を抑制するための防風部材として防風板101を有する。
図4は、ダクト本体71の概略図である。略箱形のダクト本体71は、その両側部材71bが流延膜69の両側縁上方となるように、かつ流延バンド46に対して垂直になるように、備えられている。そして、下部材71cと上部材71dとの各内面には、流延バンド46の走行方向に延びた溝70eが多数形成されており、この溝70eと溝70eとの間に薄板状の整流フィン100がはめ込まれ、整流フィン100は流延バンド46に対し垂直に設けられている。
両端部材71bには、防風部材としての防風板101が備えられている。この防風板101から流延膜69の非流延バンド46面側までの距離C1(mm)が、1〜30mmであることが好ましい。より好ましくは、3〜27mmであり、特に好ましくは、5〜25mmである。これにより、送風口71aからの乾燥風に伴って発生する同伴風を抑制することができるので、凹凸ムラを発生させずに流延膜69を乾燥することができる。C1が1mm未満の場合には、流延膜69とダクト本体71とが非常に近いので、送風口71aから送り出される乾燥風が流延膜69に強く当たってしまい、凹凸ムラが多量に発生してしまう。一方で、C1が30mmよりも大きい場合には、却ってダクト本体71と流延膜69とが遠すぎるので、同伴風を抑制することができずに風の流れに乱れが生じてしまうことがあり、流延膜69の表面に凹凸ムラが生じることがある。防風板101には、上下移動させることができるシフト機構(図示しない)が備えられている。これにより、防風板101の上下方向の位置を調整して任意に定めることができる。なお、防風板101の下端から支持体(本実施形態では流延バンド46)までの距離をCA、流延膜69の厚みをCBとしたときに、上記C1は、CA−CBで求められる長さである。
ダクト本体71と流延膜69との距離C2(mm)は、1〜300mmであることが好ましい。より好ましくは2〜50mmであり、特に好ましくは5〜200mmである。これにより、送風口71aから送り出す乾燥風が送風ダクト70の下部に滞留することなく、かつ整流フィン100や防風板101の機能を十分に発揮させて、流延膜69に平行な乾燥風を送り出すことができる。C2が300mmよりも大きい場合には、流延膜69とダクト本体71とが遠すぎるので、乾燥風の風速を上げる必要があり好ましくない。一方で、C2が1mm未満の場合には、上述したC1の範囲を満たすことができない。また、送風口71aからの乾燥風が、流延膜69に強く当たってしまうために、流延膜69表面に多量の斜めムラが発生してしまうなどの問題が生じることがある。
整流フィン100をはめ込む溝70eを変更することにより、各整流フィン100の間隔C3(mm)を調整することができる。この間隔C3は、30〜80mmであることが好ましく、より好ましくは35〜75mmであり、特に好ましくは40〜70mmである。これにより、送風口71aから、より整流して乾燥風を送り出すことができる。C3が80mmよりも大きい場合には、送風口71aの内部が区画されて形成されたエリア数が少ないので整流効果が劣る。一方で、C3が30mm未満の場合には、C3が30mm程度である場合と比べても、整流効果にほとんど変化がない。また、非常に多くの整流フィン100を必要とするので、手間と設備コストとが増えるだけである。
また、防風板101の下端は、ダクト本体71の下部材71cよりも下方に延長されていることが好ましい。流延膜69に向かって突き出ている防風板101の長さL1(mm)は、10〜35mmであることが好ましい。より好ましくは、8〜33mmであり、特に好ましくは6〜30mmである。これにより、同伴風を抑制するという防風板101の作用を効果的に発現させることができる。L1が35mmよりも大きい場合には、下部材71cと防風板101とで囲まれた領域に風が滞留してしまうことがあり、乾燥風の流れを乱す恐れがあるので好ましくない。一方で、L1が10mm未満の場合には、下方に突き出ている防風板101の長さが短すぎるので、防風板101による防風効果を得ることができないことがある。
送風口71aから、流延膜69の全幅で乾燥風が流れるように送風される。そのため、流延バンド46の幅方向におけるダクト本体71の幅W1(m)は、流延膜69の幅W2(m)と同等の値にされることが好ましい。なお、W1,W2の値は特に限定されず、適宜設定することができる。
形成した直後の流延膜69に、送風口71から乾燥風を送り出す。この「形成直後」とは、流延膜69の残留溶媒量が300重量%以上のときを意味する。このように、流延膜69の残留溶媒量が多いうちに、つまり流延膜69の乾燥がほとんど進行していないうちに整流した乾燥風を送り出すと、凹凸ムラの発生をより抑制することができる。流延膜69の残留溶媒量が300%未満の場合では、すでに流延膜69の一部は乾燥して、その表面に凹凸ムラが生じていることがある。そのため、このような状態で乾燥を進行させると、フイルム製品としたときに凹凸ムラが残存してしまうので好ましくない。なお、上記残留溶媒量は、乾量基準でのものであり、サンプリング時におけるフイルム重量をx、そのサンプリングフイルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。
なお、整流フィン100および防風板101の材質は特に限定されない。例えば、プラスチック板でもよいし、ステンレスなどで作られた金属板でもよい。本実施形態では、複数の整流フィン100により送風口71aの内部を区画した送風ダクト70を示したが、送風口として機能することができる複数の領域を有する形態であれば、本発明に適用することができる。例えば、複数の送風口の機能を有する筐体を組み合わせて一体化したものを送風ダクトとして使用してもよい。
本実施形態においては、1機の送風ダクト70を、流延ダイ43のすぐ下流側に配したが、配置場所および配置数などは、流延膜69の残留溶媒量が300重量%以上の範囲のエリアであれば特に限定されるものではない。例えば、流延バンド46の走行路に沿って直列に複数並べられてもよい。このように複数の送風ダクト70を配すると、流延膜69の溶媒の揮発をより促進するとともに凹凸ムラを防いで流延膜69を乾燥することができる。
次に、上述したフイルム製造ライン40を用いてフイルム82を製造する方法の一例を以下に説明する。ただし、本発明は、ここに示す形態に限定されるものではない。
ドープ27は、攪拌機61の回転により常に均一化されている。ドープ27には、この攪拌の際にも可塑剤,紫外線吸収剤などの添加剤を混合させることもできる。ドープ27を、ポンプ62により濾過装置42に送り込んでから濾過した後に、流延ダイ43から流延バンド46上に流延する。回転ローラ44,45の駆動は、流延バンド46に生じるテンションが104 〜105 N/mとなるように調整されることが好ましい。また、流延バンド46と回転ローラ44,45との相対速度差は、0.01m/分以下となるように調整する。
流延バンド46の速度変動は0.5%以下とし、流延バンド46が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を制御するために流延バンド46の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づき、流延バンド46の位置制御機(図示しない)でフィードバック制御を行い、流延バンド46の位置調整を行うことがより好ましい。流延ダイ43直下の流延バンド46は、回転ローラ55の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。また、流延室64の温度は、温調設備65により−10〜57℃とされていることが好ましい。なお、流延室64の内部で蒸発した溶媒は回収装置67により回収された後に、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
流延ダイ43から流延バンド46にかけては流延ビードが形成され、流延バンド46上には流延膜69が形成される。流延時のドープ27の温度は、−10〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、この流延ビードの背面が減圧チャンバ68により所望の圧力値に制御されることが好ましい。ビード背面は、前面よりも−2000〜−10Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ68にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。減圧チャンバ68の温度は特に限定されるものではないが、用いられている有機溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。なお、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ43のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。このエッジ吸引風量は、1〜100L/分の範囲であることが好ましい。流延バンド46の走行とともに移動する流延膜69に、送風ダクト70により乾燥風をあてて溶媒の蒸発を促進させる。
流延膜69が自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フイルム74として流延バンド46から剥ぎ取ってから、ローラ75で支持する。剥ぎ取り時の残留溶媒量は、固形分基準で20〜250質量%であることが好ましい。次に、多数のローラが設けられている渡り部80に送り込み、前記ローラで支持しながら搬送した後で、テンタ式乾燥機47に送り込む。渡り部80では、送風機81から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フイルム74の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部80では、下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより、湿潤フイルム74にドローテンションを付与させることもできる。
湿潤フイルム74をテンタ式乾燥機47に送り込む。テンタ式乾燥機47内では、湿潤フイルム74の両端部をクリップで把持して、搬送する間に乾燥する。このとき、テンタ式乾燥機47の内部を温度ゾーンに区画して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。また、テンタ式乾燥機47を用いて湿潤フイルム74を幅方向に延伸させることもできる。このように、渡り部80および/またはテンタ式乾燥機47において、湿潤フイルム74の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5〜300%延伸することが好ましい。
湿潤フイルム74をテンタ式乾燥機47で所定の残留溶媒量まで乾燥した後、フイルム82として下流側に送り出す。このとき、フイルム82の両側端部は、耳切装置50によりその両縁が切断される。切断された側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ90に送られて、粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用することができるので、製造コストの点において有効である。なお、このフイルム82の両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程からフイルム82を巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
両側端部を切断除去したフイルム82を、乾燥室51に送りこんで、さらに乾燥する。乾燥室51内の温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃の範囲であることが好ましい。乾燥室51においては、フイルム82は、ローラ91に巻き掛けながら搬送する。ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置92により吸着回収される。このように溶媒成分が除去された空気は、乾燥室51の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室51は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置50と乾燥室51との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフイルム82を予備乾燥すると、乾燥室51においてフイルム82の温度が急激に上昇することを防止することができるので、フイルム82の形状変化の発生をより抑制することができる。
フイルム82を、冷却室52で略室温まで冷却する。なお、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けてよく、この調湿室でフイルム82に対して、所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フイルム82のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制することができる。
また、強制除電装置(除電バー)93により、フイルム82が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)とする。図2では冷却室52の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ94を設けて、フイルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が1〜200μmであることが好ましい。
最後に、フイルム82を巻取室53内の巻取ローラ95で巻き取る。このとき、プレスローラ96で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取るフイルム82は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム82の幅が600mm以上であることが好ましく、1400〜1800mmであることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フイルム82の厚みが15〜100μmの薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
本実施例においては、防風板101として1枚板を使用した形態を示したが、上述したC1〜C3を満たすようにして配されるものであれば、その形状は特に限定されない。防風板101の他の例としては、図5のような、下端がL字とされた防風板112(L字型)を挙げることができる。このL字型防風板112は、複数の2枚の板を組み合わせて形成したものでもよいし、1枚の板で形成したものでもよい。このようなL字型の防風板112を送風ダクト70の両側部材71bに設置すると、流延バンド46と平行に突き出た突出部112aにより、流れている風の圧力損失を上げることができるので、送風口71aからの送風に伴って発生する同伴風を抑制することができる。以下、このL字型の防風板112を備えた送風ダクト70をL字型と称する。なお、図4と同じ部材は同符号を付し、説明を省略する。また、図の煩雑さを避けるために、溝70eは省略する。
流延バンド46と平行方向に突き出ている防風板112の長さL2(mm)は、2〜20mmであることが好ましい。より好ましくは5〜19mmであり、特に好ましくは10〜18mmである。ただし、L2が20mmよりも大きい場合には、圧力損失が大きくなりすぎてしまい、かえって送風口71aからの乾燥風の流れを乱してしまう。一方で、L2が2mm未満の場合には、流延バンド46と平行に突き出る防風板の長さが短すぎるために、圧力損失を上げることができないので、同伴風を抑制することができない。なお、防風板112には、シフト機構が備えられており、これにより両側部材71b上で上下移動させることができる。
また、図6に示すように、送風口70の下部材71cに整流部材(第2の整流部材)122bを設置することでも、優れた整流効果を得ることができる。このような形態の送風ダクト70を下部設置型と称する。なお、図の煩雑さを避けるために、送風口71aの内部の溝70eおよび整流フィン100の図示を略す。
送風ダクト70は、その両側部材71bに、それぞれ一枚型の防風板122aを設置し、その下部材71cに複数の整流部材122bを設置する。このように、下部材71cに複数の整流部材122bを設置すると、下部材71cと流延バンド46との間に流れる風を整流することができる。整流部材122bとしては、送風口71aに設置する際に使用している整流フィンを用いればよい。以下、このような整流部材122bを取り付けた送風ダクト70を下部材設置型と称する。
整流部材122bは、形状および材質などは特に限定されない。ただし、整流部材122bの高さH1(mm)は、10〜20mmであることが好ましい。より好ましくは、11〜19mmであり、特に好ましくは12〜18mmである。H1が大きすぎると、特に20mmよりも大きい場合には、流延膜69表面の風の流れを阻害してしまうおそれがある。一方で、H1が10mm未満の場合には、第2防風板122bの高さが低すぎるので、整流効果に劣る。
また、整流部材122bには、シフト機構(図示しない)が備えられており、これにより自由に前後移動させて、整流部材122bの位置を任意に調整することができる。このとき、送風口71aの前面から突き出ている長さL2(mm)は、10〜100mmとなるように調整することが好ましい。より好ましくは15〜95mmであり、特に好ましくは20〜90mmである。これにより、整流部材122bによる優れた整流効果を得ることができる。なお、整流部材122bの奥行きの長さは、L3を満たすように配することができる長さであれば、特に限定されない。
整流部材122bは、送風ダクト70の下部材71cにおいて間隔C4が50〜400mmとなるように配置することが好ましい。より好ましくは、55〜395mmであり、特に好ましくは60〜390mmである。これにより、下部材71c近傍での整流効果をより大きくすることができる。間隔C4が400mmよりも大きい場合には、下部材71cに設ける整流部材122bの数が少なすぎるので、整流効果が劣る。一方で、間隔C4が50mm未満の場合には、C4が50mm程度の場合と比べても整流効果は向上しない。また、使用する整流部材122bの枚数が多量になるので、設備コストが増大してしまうので好ましくない。この整流部材122bの本数は、下部材71cの長さに応じて、上記の間隔C4を適宜選択した値により決定されればよく、特に限定はされない。
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープ27を流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
流延ダイ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記載されている。これらの記載は、本発明に適用することができる。
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能およびそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらの記載は、本発明に適用することができる。
[表面処理]
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。さらに、このセルロースアシレートフイルムをベースフイルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層,硬化樹脂層,反射防止層,易接着層,防眩層および光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m2 含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m2 含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m2 含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m2 含有することが好ましい。
セルロースアシレートフイルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、特開2005−104148号の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらの記載は、本発明に適用することができる。
(用途)
セルロースアシレートフイルムは、特に偏光板保護フイルムとして有用である。セルロースアシレートフイルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすればよい。特開2005−104148号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型,その他の例が詳しく記載されている。この記載は、本発明に適用することができる。また、同出願には光学的異方性層や、反射防止,防眩機能を付与したセルロースアシレートフイルムについての記載もある。さらには、適度な光学性能を付与して二軸性セルロースアシレートフイルムとした光学補償フイルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フイルムと兼用して使用することもできる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。これらの記載は、本発明に適用することができる。
また、本発明により光学特性に優れるセルローストリアセテートフイルム(TACフイルム)を得ることができる。このTACフイルムは、偏光板保護フイルムや写真感光材料のベースフイルムとして使用することができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フイルムとしても使用することができる。特に、偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。なお、前記偏光板保護膜用フイルムを用いて偏光板を構成してもよい。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、製造方法および製造条件などに関しては、実施例1においてのみ詳細に説明する。
次に、本発明の実施例を説明する。フイルム製造に使用したドープの調製に際しての配合を下記に示す。
[組成]
セルローストリアセテート(置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 320質量部
メタノール(第2溶媒) 83質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8質量部
UV剤a:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾ
トリアゾール 0.7質量部
UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−
クロルベンゾトリアゾール 0.3質量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチ
ルエステル混合物) 0.006質量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05質量部
[セルローストリアセテート]
ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また、6位のアシル置換度は0.91であり、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8質量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。なお、このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
図1に示すドープ製造ライン10を用いてドープ27を調製した。攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製混合タンク12で前記複数の溶媒を混合してよく攪拌し、混合溶媒とした。なお、溶媒の各原料としては、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。次に、TACのフレーク状粉体をホッパ13から徐々に添加した。TAC粉末は、混合タンク12に投入して、最初は5m/秒の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌機24および中心軸にアンカー翼を有する攪拌機22を周速1m/秒で攪拌する条件下で30分間分散した。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。さらに、あらかじめ調製しておいた添加剤溶液を、添加剤タンク14からバルブ19で送液量を調整しながら、全体が2000kgとなるように混合タンク12に送り込んだ。添加剤溶液の分散を終了した後に、高速攪拌は停止した。そして、攪拌機22のアンカー翼の周速を0.5m/秒としてさらに100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させて膨潤液25を得た。膨潤終了までは窒素ガスにより混合タンク12内を0.12MPaになるように加圧した。このとき、混合タンク12の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり、防爆上で問題のない状態を保った。また、膨潤液25中の水分量は0.3質量%であった。
膨潤液25を混合タンク12からポンプ26を用いてジャケット付配管15に送液した。加熱装置15としてジャケット付き配管を用いて、膨潤液25を50℃まで加熱してから、さらに、2MPaの加圧下で90℃まで加熱して完全に溶解させた。このとき、加熱時間は15分であった。次に、この溶解液を温調機16により36℃まで温度を下げてから、公称孔径8μmのフィルタを有する濾過装置17を通過させてドープ(以下、濃縮前ドープと称する)を得た。濾過装置17における1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタや配管などは、ハステロイ(商品名)合金製でのものを使用した。
この濃縮前ドープを、80℃で常圧としたフラッシュ装置30内でフラッシュ蒸発させてドープ27とした。また、蒸発した溶媒を凝縮器で回収した。フラッシュ後のドープ27の固形分濃度は、21.8質量%となった。凝縮された溶媒は回収装置32で回収してから、再生装置33で再生した後に溶媒タンク11に送液してドープ調製用溶媒として再利用した。回収装置32および再生装置33では、蒸留や脱水を行った。フラッシュ装置30のフラッシュタンクには、攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、その攪拌機により周速0.5m/秒でフラッシュされたドープを攪拌して脱泡を行った。このフラッシュタンク内のドープ27の温度は25℃であり、タンク内におけるドープの平均滞留時間は50分であった。なお、このドープ27を採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(秒−1)で450Pa・sであった。
次に、ドープ27に弱い超音波を照射して泡抜きを行ってから、ポンプ34を用いて1.5MPaに加圧した状態で、濾過装置31を通過した。濾過装置31では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させてから、公称孔径10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。このとき、それぞれの1次側圧力は1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後、温度を36℃に調整したドープ27を、2000Lのステンレス製ストックタンク41内に送液して貯留した。ストックタンク41内では、中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機61により、周速0.3m/秒で常時攪拌を行った。
図2に示すフイルム製造ライン40を用いてフイルム82を製造した。ストックタンク41から、1次側を増圧する機能を有する高精度のギアポンプ62を用いて、ドープ27を濾過装置42へ送った。このとき、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモータによりギアポンプ62の上流側に対するフィードバック制御を行った。なお、ギアポンプ62は、容積効率99.2%であり、吐出量の変動率が0.5%以下の性能を有するものを用いた。吐出圧力は1.5MPaであった。ドープ27を濾過装置42に通過させた後で、ドープ27を流延ダイ43に送液した。
流延ダイ43の吐出口から、幅が1.8mであり、乾燥したフイルムの膜厚が80μmとなるように流量を調整しながら、かつドープ27の流延幅を1700mmとしてドープ27を流延した。このとき、流延速度は20m/分とした。また、流延ダイ43にジャケット(図示しない)を取り付けて、その内部に伝熱媒体を供給して、ドープ27の温度を36℃に調整した。製膜中、流延ダイ43とドープ27が通過する配管は、すべて36℃に保温した。なお、流延ダイ43は、コートハンガータイプのダイであり、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは、あらかじめ設定したプログラムによりギアポンプ62の送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フイルム製造ライン40に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものを用いた。端部20mmを除いたフイルムは、50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下であり、全体厚みが±1.5%以下になるように調整した。
流延ダイ43の1次側に、減圧チャンバ68を設置した。この減圧チャンバ68の減圧度は、流延速度に応じながら、流延ビードの前後で1〜5000Paの圧力差が生じるように調整した。また、流延ビードの長さが20〜50mmとなるように流延ビードの両面側の圧力差を設定した。減圧チャンバ68は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものを用いた。流延ダイ43吐出口におけるビードの前面部および背面部には、ラビリンスパッキン(図示しない)を設け、その吐出口の両端には開口部を設けた。さらに、流延ダイ43には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)を取り付けた。
流延ダイ43の材質は、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の析出硬化型のステンレス鋼を用いた。流延ダイ43の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。流延ダイ43のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイト)コーティングを行って硬化膜を設けた。また、接液面の角部分については、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されているものを用いた。
流延ダイ43の吐出口には、流延するドープ27が局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープ27を可溶化する溶媒として、ジクロロメタンが86.5質量部,アセトンが13質量部,1−ブタノールが0.5質量部を混合した混合溶媒Aを作製して、流延ビードの両側端部と吐出口との界面部に対し、それぞれ0.5ml/分ずつ供給した。このとき、混合溶媒Aを供給するポンプの脈動率を5%以下とした。また、減圧チャンバ68により、流延ビード背面側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。減圧チャンバ68は、ジャケット(図示しない)が取り付けられたものを使用して、そのジャケット内に35℃に調整された伝熱媒体を供給して温度を調整した。なお、前記エッジ吸引装置は、1〜100L/分の範囲となるようにエッジ吸引風量を調整することができるものであり、本実施例では、これを30〜40L/分の範囲となるように調整した。
風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室64内に設置した流延バンド46の上に、流延ダイ43からドープ27を流延した。流延バンド46は、幅2.1mで長さが70mであり、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨したSUS316製のエンドレスバンドを使用した。流延バンド46の全体の厚みムラは0.5%以下であった。2個の回転ローラ44,45により流延バンド46を駆動させた。このとき、流延バンド46の搬送方向における張力は1.5×105 N/m2 とし、流延バンド46と回転ローラ44,45との相対速度差が0.01m/分以下であり、流延バンド46の速度変動を0.5%以下となるように調整した。また、流延バンド46の両端位置を検出して、1回転の幅方向の蛇行が1.5mm以下になるように制御した。流延ダイ43の直下におけるダイリップ先端と流延バンド46との上下方向の位置変動は200μm以下にした。
回転ローラ44,45は、流延バンド46の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。回転ローラ44には、乾燥のために40℃の伝熱媒体を流した。一方で、回転ローラ45には、5℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド46中央部の表面温度は15℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド46には、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2 以下、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下である表面欠陥のないエンドレスバンドを使用した。また、流延室64の温度は、温調設備65により35℃に保った。流延バンド46上の流延膜69に対して、最初に、流延膜69に対して平行に流れる乾燥風を送って乾燥した。この乾燥風からの流延膜69への総括伝熱係数は24kcal/(m2 ・時・℃)であった。
流延バンド46上部の上流側に送風機として送風ダクト70を設けた(図3参照)。このとき、送風ダクト70として、図4に示すように、送風口71aの内部に、材質がステンレス製の整流フィン100を間隔C3が50mmとなるように設け、さらに、送風ダクト70の両側部材71bに一枚型の防風板101を設置した。このとき、C1(mm)が5mmとなるようにして設置した。また、送風口71aから、135℃の乾燥風を送り出して流延膜69を乾燥した。なお、流延バンド43上での乾燥雰囲気における酸素濃度を、空気を窒素ガスで置換することで5vol%に保持した。流延室64内の溶媒は、凝縮器(コンデンサ)66の出口温度を−10℃に設定して凝縮回収した。
流延膜69中の残留溶媒量が、50重量%になった時点で、流延バンド46から湿潤フイルム74として剥ぎ取ってからローラ75で支持した。また、剥取張力を1×102 N/m2 とし、剥取不良を抑制するために流延バンド46の速度に対して、剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1〜110%の範囲で調整した。剥ぎ取った湿潤フイルム74の表面温度は15℃であった。乾燥により発生した溶媒ガスは、−10℃に調整した凝縮器66で凝縮液化してから回収装置67で回収して、水分量が0.5%以下となるよう溶媒を除去した。この溶媒を除去した乾燥風は、再度加熱して乾燥風として再利用した。湿潤フイルム74を渡り部80のローラを介して搬送し、テンタ式乾燥機47に送った。渡り部80では、湿潤フイルム74の長手方向に対して約30Nの張力を付与して搬送する間に、送風機81から40℃の乾燥風を湿潤フイルム74に送風して乾燥した。
テンタ式乾燥機47では、湿潤フイルム74の両側端部をクリップで把持した状態で、幅方向に延伸しながら搬送した。このクリップの搬送はチェーンで行うとともに、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。テンタ式乾燥機47は、その内部を3ゾーンに分けて、各ゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃,110℃,120℃とした。乾燥風のガス組成は、−10℃における飽和ガス濃度とした。テンタ式乾燥機47の出口では、フイルム82内の残留溶媒量が、7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整して乾燥した。なお、延伸前の湿潤フイルム74の幅を100%としたとき、延伸後の幅が103%となるように延伸した。ローラ75からテンタ式乾燥機47の入口に至るまでの延伸率(テンタ駆動ドロー)は102%とした。
テンタ式乾燥機47の内部での延伸率は、クリップによる噛み込み開始位置から10mm以上離れた位置の任意の2点における各実質延伸率の差異が10%以下であり、20mm離れた任意の2点の延伸率の差は5%以下であった。また、テンタ式乾燥機47の入口から出口までの長さに対する、クリップ挟持開始位置から挟持解除位置までの長さの割合は90%とした。テンタ式乾燥機47内で蒸発した溶媒は、凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度を−8℃に設定することで、−10℃の温度で凝縮液化して回収した。この凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5質量%以下になるように調整してから再使用した。そして、テンタ式乾燥機47からフイルム82として送り出した。
テンタ式乾燥機47の出口から30秒以内に、耳切装置50としてNT型カッターを用いて、フイルム82の両側50mmの耳をカットした。このとき、カットした耳は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ90に風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕し、このチップを再度ドープ調製用原料として利用した。なお、テンタ式乾燥機47の空気を窒素ガスで置換して、乾燥雰囲気における酸素濃度を5vol%に保持した。また、後述する乾燥室51で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフイルム82を予備加熱した。
フイルム82を乾燥室51で高温乾燥した。乾燥室51を4つに区画して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から送り出した。フイルム82のローラ91による搬送張力を100N/mとして、最終的に残留溶媒量が0.3質量%になるまで約10分間乾燥した。このとき、ローラ91のラップ角度(フイルムの巻き掛け中心角)は、90度および180度とした(図2では誇張して示している)。ローラ91の材質は、アルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。また、ローラ91の表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ91の回転によるフイルム位置の振れは、全て50μm以下であった。なお、テンション100N/mでのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置92を用いて吸着回収除去した。ここに使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量を0.3質量%以下に調整して、ドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には、溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち、凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りのものの大部分は吸着回収により回収した。
乾燥したフイルム82を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室51と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を送り出した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を送り出した。さらに、フイルム82のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフイルム82を搬送した。第2調湿室では、フイルム82に直接90℃,湿度70%の空気を送り出した。
調湿後のフイルム82は、冷却室52で30℃以下に冷却した後に、耳切装置(図示しない)で再度両端の耳切りを行った。また、強制除電装置(除電バー)93を設置して、搬送中のフイルム82の帯電圧を、常時−3〜+3kVの範囲となるようにした。さらに、フイルム82の両端にナーリング付与ローラ94でナーリングの付与を行った。ナーリングは、フイルム82の片側からエンボス加工を行うことで付与した。このとき、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフイルム81の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を設定した。
最後に、フイルム82を巻取室53に搬送した。巻取室53は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室53の内部には、イオン風除電装置(図示しない)を設置して、フイルム82の帯電圧が−1.5〜+1.5kVとなるようにした。このようにして得られたフイルム(厚さ80μm)82は、その幅が1475mmであり、巻取り全長は3940mであった。巻取ローラ95の径は169mmのものを用いた。巻き始めの張力は300N/mであり、巻き終わりの張力が200N/mとなるようにした。また、巻き取りの際の巻きズレの変動幅(オシレート幅と称することもある)を±5mmとして、巻取ローラ95に対する巻きズレ周期を400mとした。巻取ローラ95に対するプレスローラ96の押し圧は、50N/mに設定した。巻き取り時のフイルム82の温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶媒量は0.3質量%であった。