JP4581066B2 - 超微細フェライト鋼とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、高強度超微細フェライト鋼とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、特別な添加元素を必要とせず、高強度および高靭性に加えて均一伸びも高められた、強度−延性バランスに優れた高強度超微細フェライト鋼とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
鋼の結晶粒径を微細化すると強度が上昇するとともに靭性が向上することから、従来より、鋼の結晶粒径を2μm未満に超微細化することが行われている。しかし、例えば、図1(木村勇次、高木節雄,塑性と加工, Vol.41,No.468 (2000), p.15)に示したように、鋼の結晶粒径を微細化すると均一伸びが顕著に低下することも知られており、この点が超微細フェライト鋼の弱点であった。そのため、近年では、超微細フェライト鋼の均一伸び特性を改善する方法が提案されてきている。
【0003】
例えば、特開平11−92855では、フェライト母相にパーライトを含有させた複相組織とすることにより、超微細鋼の均一伸びを改善する方法が提案されている。また、特願2000−54974では、微細な粒状炭化物を分散させて超微細鋼の均一伸びを増加させる方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、共に第2相を利用して鋼材の加工硬化率を上昇させる方法であり、理想的な第2相の分散状態を得るために圧延等の製造条件が狭い範囲に限定されてしまったり、必要量の炭化物を得るために炭素含有量を増やさなければならず溶接性が損なわれてしまうなど、実用化に際して障害となる問題があった。しかも、これらの方法によると、引っ張り強度が700MPa以上の超微細粒鋼における均一伸びは10%未満しか得られていなかった。
【0005】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、高強度および高靭性に加えて均一伸びも高められ、強度−延性バランスに優れた高強度超微細フェライト鋼とその製造方法を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。
【0007】
すなわち、まず第1には、この出願の発明は、高強度超微細フェライト鋼の製造方法に関し、低合金鋼の成分組成を有し、平均粒径が2μm未満である超微細フェライト粒組織の面積率が70%以上である高強度超微細フェライト鋼の製造方法であって、高強度超微細フェライト鋼の製造方法であって、
成分組成が、質量%で、C:0.02〜0.20%,Si:0.01〜1.0%,Mn:0.2〜2.0%,P:0.050%以下,S:0.010%以下,Al:0.001〜0.10%,Nb:0.060%以下,Ti:0.020%以下で、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ組織は、フェライト,マルテンサイト,ベイナイトおよびパーライトの合計が体積率で70%以上である低合金鋼素材に、350℃〜(A c1 −40)℃の温度範囲での累積加工量を下記の式(1)で示される相当塑性歪εeqで0.7以上とするフェライト温度領域での温間強加工を施し、
【0010】
【数3】
【0011】
(ただし、式中のεx,i,εy,i,εz,iはi番目の加工パスにおけるそれぞれx,y,z成分の塑性歪(真歪)を示す。)
温間強加工後直ちにあるいは350℃未満に冷却した後に350℃〜(A c1 −40)℃の温度範囲にまで加熱し、
(Tf−100)℃〜(Tf+100)℃(ただし、Tfは温間強加工における最終加工温度(℃)を示す。)の温度範囲で、処理温度および処理時間を下記の式(2)で示されるパラメーターAが5000以上7000以下となるように制御する焼鈍処理を施すことを特徴としている。
【0012】
【数4】
【0013】
第2には、この出願の発明は、上記第1の特徴において、低合金鋼は、その成分組成に、質量%で、Cu:0.4%以下,Cr:0.4%以下,Ni:1%以下,Mo:0.2%以下,B:0.003%以下のうち1種または2種以上を含有することを特徴としている。
【0014】
第3には、この出願の発明は、高強度超微細フェライト鋼に関し、上記第1または第2の特徴を有するに記載の高強度超微細フェライト鋼の製造方法により得られることを特徴としている。
【0015】
第4には、この出願の発明は、上記第3の特徴において、引っ張り強度が700MPa以上で、均一伸びが10%以上であることを特徴としている。
【0016】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0017】
この出願の発明者らは、超微細フェライト組織自体の延性に及ぼすフェライト粒内下部組織の影響に着目して研究を行った結果、以下のような知見を得た。
【0018】
まず、平均粒径が2μm未満の超微細フェライト粒を得るためにはいくつかの方法が提案されているが、その中で、▲1▼強加工を利用して得た平均粒径が2μm未満の超微細フェライト粒は、その粒内に転位や歪が残存していること、▲2▼超微細フェライト粒内の転位や歪は、再結晶温度以下の低温焼鈍により減少し、それに伴って均一伸びが増加すること、▲3▼温間強加工による回復あるいは再結晶によって得た超微細フェライト粒は、比較的熱安定性が高く、焼鈍を施しても粒成長しにくいこと、また、結晶粒径分布が比較的均一なため、焼鈍中に一部の粒が急速に成長する異常粒成長を起こしにくく、強度の低下が少ないこと、▲4▼焼鈍の最適温度範囲は、超微細フェライト粒を得るための温間強加工の温度に依存することである。
【0019】
以上の知見から、この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼の製造方法では、低合金鋼素材に350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲のフェライト温度領域で温間強加工を施し、回復あるいは再結晶を誘起させて平均粒径2μm未満の超微細フェライト粒組織を主体とする超微細フェライト鋼を得る。次いで、この超微細フェライト鋼を温間強加工後直ちにあるいは350℃未満に冷却した後に350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲にまで加熱し、徐冷あるいは等温保持する焼鈍処理を施す。
【0020】
すなわち、1)温間強加工によって超微細フェライト粒を生成させた後、2)適当な温度範囲での焼鈍処理によりフェライト粒内下部組織を制御することによって、高強度超微細フェライト鋼の均一伸びを増加させるものである。
【0021】
出発材料としての鋼素材は、低合金鋼であれば、特別な合金成分は必要としない。なお、ここでいう低合金とは、炭素以外の元素がおよそ5質量%以下の範囲で加えられたもの、より好適には、炭素が0.2質量%以下の低炭素鋼にSi,Mn,Al,Ti等の元素を2質量%以下の範囲で加えたものとすることができる。結晶粒微細化の観点からは、できるだけ微細な組織を出発材料の組織とすることが望ましい。このような素材としては、例えば、一般に使用されている溶接構造用低合金鋼等を対象とすることができる。具体的には、低合金鋼の成分組成は、質量%で、C:0.02〜0.20%,Si:0.01〜1.0%,Mn:0.2〜2.0%,P:0.050%以下,S:0.010%以下,Al:0.001〜0.10%,Nb:0.060%以下,Ti:0.020%以下で、残部がFeおよび不可避不純物からなる。
【0022】
この出願の発明においては、低合金鋼をフェライト温度域で温間強加工することで回復あるいは再結晶を誘起させて、平均粒径2μm未満で上記のように焼鈍処理に対して安定な超微細フェライト組織を得るようにしている。この組織は、概ね70%以上がフェライトから構成されていることが好ましい。
【0023】
焼鈍処理は、350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲に限定される。温間強加工温度が焼鈍処理温度よりも高い場合には、温間強加工後に350℃未満に冷却する必要がある。焼鈍処理温度が350℃未満になってしまうと、フェライト粒内の転移や歪が十分に除去できず、均一伸び特性を向上させることができない。また焼鈍処理温度が(Ac1−40)℃を超える場合は、フェライト粒成長が著しくなるため、2μm未満の超微細フェライト粒組織を維持することが困難になり、得られる高強度超微細フェライト鋼の強度が顕著に低下してしまう。350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲内であれば、等温保持してもよいし、空冷未満の冷却速度で冷却してもよい。
【0024】
これによって、高強度および高靭性に加えて均一伸びが増加された、強度−延性バランスに優れた高強度超微細フェライト鋼を製造することができる。
【0025】
この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼の製造方法では、低合金鋼素材には、その成分組成に、さらに質量%で、Cu:0.4%以下,Cr:0.4%以下,Ni:1%以下,Mo:0.2%以下,B:0.003%以下のうち1種または2種以上を含有するものを用いることができる。Cr,Ni等の元素は、高価であるため、必ずしも添加する必要はないが、必要に応じて、Cu,Cr,Ni,MoおよびB等のうち1種または2種以上の元素を添加することで、より加工硬化率の高い高強度超微細フェライト鋼を得ることができる。
【0026】
低合金鋼素材に第2相を分散させることは、フェライト粒成長を抑制するためにも有効である。第2相としては、たとえば、酸化物、セメンタイト、Nb,V,Ti等の窒化物、パーライト、マルテンサイト、ベイナイト等の中から適宜選択することができる。
【0027】
この場合、好適には、組織が、bcc相、すなわち、フェライト,マルテンサイト,ベイナイトおよびパーライトのいずれかの単一組織あるいはこれらの混合組織の体積率の合計が60%以上、さらには、これらの組織の体積率の合計が70%以上であることが望ましい。こうすることによって、温間強加工により平均粒径2μm未満の超微細フェライト粒組織を主体とする超微細フェライト鋼が得られやすくなる。
【0028】
また、このような組織の低合金鋼素材を用いる場合には、最終加工温度を350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲とする多様な温間強加工を施すことができる。具体的には、低合金鋼を室温から350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲に加熱して強加工を施す以外に、例えば、一旦、Ac1点以上の温度に加熱してから未加工のままあるいは加工熱処理を施した後に、350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲に冷却して強加工を施すことで、超微細フェライト鋼の組織微細化を容易にすることができ、この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼の特性向上にも有益である。
【0029】
この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼の製造方法では、上記超微細フェライト鋼を350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲での累積加工量が次式(1)
【0030】
【数5】
【0031】
(ただし、式中のεx,i,εy,i,εz,iはi番目の加工パスにおけるそれぞれx,y,z成分の塑性歪(真歪)を示す。)で示される相当塑性歪εeqで0.7以上となるような温間強加工を施すことで得るようにしている。このような温間強加工によっても、温間強加工時の回復あるいは再結晶を誘起して2μm未満の超微細フェライト粒を得ることを容易とすることができる。
【0032】
この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼の製造方法では、上記焼鈍処理を(Tf−100)℃〜(Tf+100)℃の温度範囲で行う。
【0033】
加工温度によって、得られる超微細フェライト粒内の転位密度,残留歪量,焼鈍中の結晶粒成長挙動が異なるため、焼鈍処理の温度範囲を(Tf−100)℃〜(Tf+100)℃、すなわち温間強加工の最終加工温度に近い温度とすることにより、粒成長を最小限に抑えながら、効果的にフェライト粒内下部組織を制御することができる。これによって、フェライト粒内下部組織を制御することができ、最も優れた強度−均一伸びバランスを有する高強度超微細フェライト鋼を得ることができる。
【0034】
そして、この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼の製造方法では、焼鈍処理の処理温度および処理時間を次式(2)
【0035】
【数6】
【0036】
で示されるパラメーターAが5000以上7000以下となるように制御する。
【0037】
焼鈍処理の時間および温度は、適切な範囲に制限する必要がある。焼鈍処理時間が短すぎる場合や焼鈍処理温度が低すぎる場合は、フェライト粒内下部組織の制御が不十分となり、得られる高強度超微細フェライト鋼の均一伸びはほとんど増加しない。また、焼鈍処理時間が長すぎる場合や焼鈍処理温度が高すぎる場合には、フェライト粒成長により組織が粗大化して強度が低下してしまい、高強度超微細フェライト鋼の強度−均一伸びバランスは低下してしまう。式(2)で表されるパラメーターAを用い、パラメーターAを5000以上7000以下とするような焼鈍処理の時間と温度を選択することによって、高強度超微細フェライト鋼の強度−均一伸びバランスを簡便に実現することができる。
【0038】
この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼は、上記の通りの高強度超微細フェライト鋼の製造方法により得られるものである。この出願の発明の高強度超微細フェライト鋼は、高強度、高靭性であることに加え、均一伸びが増加されている。また、高価な添加元素を必要としないため安価であり、炭素含有量が少ないため溶接性に優れている。これにより、溶接構造用低合金鋼等として有用な、強度−均一伸びバランスに優れた高強度超微細フェライト鋼が実現する。
【0039】
具体的には、高強度超微細フェライト鋼は、その成分組成に応じた最適な条件で処理することにより、例えば、引っ張り強度が700MPa以上で均一伸びが10%以上の、さらには引っ張り強度が約800MPaで均一伸びが約10%のものとして得られる。
【0040】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0041】
【実施例】
表1に示した化学組成で表2に示した組織を有する鋼A〜Sを用い、溝ロール圧延による温間強加工を施すことにより、平均粒径が2μm以下の超微細フェライト組織がおおよそ70%以上の鋼材とした。温間強加工直後にこの鋼材を水冷し、再加熱する焼鈍処理を行った。なお、表2に、温間強加工における350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲での累積塑性歪εeq、最終加工温度と得られた超微細フェライト粒の平均粒径、および、焼鈍処理における処理温度、処理時間とパラメーターAの値を記した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
上記処理によって得られた鋼材の引張試験を行った。その結果、引張強さ(TS),降伏強さ(LYS),均一伸び(U.EI)および全伸びを表3に、引張強さと均一伸びのバランスを図2に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
鋼材A〜Hは、この出願の発明の方法で製造された高強度超微細フェライト鋼であり、表3より、引張強度および均一延びが高いことがわかる。特に鋼材Dについては、引張強度が812MPaと高くても、均一伸びが10.8%と大きいことが確認された。
【0047】
一方、この出願の発明以外の方法で製造された鋼材I〜Sは、引っ張り強度及び降伏強度は高いが均一伸びが著しく低いものであったり、均一伸びは高いが引っ張り強度及び降伏強度が低いものであった。また、引っ張り強度に比べて降伏強度が高く、降伏比が高いことがわかった。
【0048】
図2からは、この出願の発明例の高強度超微細フェライト鋼が、比較例の鋼材と比較して、引張強さ−均一伸びバランスが大きく向上されていることが確認された。
【0049】
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0050】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、特別な添加元素を必要とせず、高強度および高靭性に加えて均一伸びも高めることができる、強度−延性バランスに優れた高強度超微細フェライト鋼とその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】工業用純鉄の粒径と応力−歪特性との関係を例示した図である。
【図2】実施例において得た鋼材の、強度−均一伸びバランスを示した図である。
Claims (4)
- 低合金鋼の成分組成を有し、平均粒径が2μm未満である超微細フェライト粒組織の面積率が70%以上である高強度超微細フェライト鋼の製造方法であって、
成分組成が、質量%で、C:0.02〜0.20%,Si:0.01〜1.0%,Mn:0.2〜2.0%,P:0.050%以下,S:0.010%以下,Al:0.001〜0.10%,Nb:0.060%以下,Ti:0.020%以下で、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ組織は、フェライト,マルテンサイト,ベイナイトおよびパーライトの合計が体積率で70%以上である低合金鋼素材に、350℃〜(A c1 −40)℃の温度範囲での累積加工量を下記の式(1)で示される相当塑性歪εeqで0.7以上とするフェライト温度領域での温間強加工を施し、
温間強加工後直ちにあるいは350℃未満に冷却した後に350℃〜(Ac1−40)℃の温度範囲にまで加熱し、
(Tf−100)℃〜(Tf+100)℃(ただし、Tfは温間強加工における最終加工温度(℃)を示す。)の温度範囲で、処理温度および処理時間を下記の式(2)で示されるパラメーターAが5000以上7000以下となるように制御する焼鈍処理を施すことを特徴とする高強度超微細フェライト鋼の製造方法。
- 低合金鋼は、その成分組成に、質量%で、Cu:0.4%以下,Cr:0.4%以下,Ni:1%以下,Mo:0.2%以下,B:0.003%以下のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度超微細フェライト鋼の製造方法。
- 請求項1または2に記載の高強度超微細フェライト鋼の製造方法により得られることを特徴とする高強度超微細フェライト鋼。
- 引っ張り強度が700MPa以上で、均一伸びが10%以上であることを特徴とする請求項3に記載の高強度超微細フェライト鋼。
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JPH09279233A (ja) * | 1996-04-10 | 1997-10-28 | Nippon Steel Corp | 靱性に優れた高張力鋼の製造方法 |
JP2000096143A (ja) * | 1998-09-22 | 2000-04-04 | Kawasaki Steel Corp | 鋼管の製造方法 |
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- 2000-08-31 JP JP2000264361A patent/JP4581066B2/ja not_active Expired - Lifetime
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