しかしながら丸編品は、もし、フットカバーを形成している繊維糸が1本でも切れると、ラン(伝染)が走り、ダメージをこうむり易いという欠点がある。また、丸編機は、円周状に編み針が並んでいるので、1つの丸編機で当該円周の直径を自由に変えることができず、得られるフットカバーのサイズが自由に変更できにくく、より小さなサイズのものを製造しようとすると、より小型の丸編機を用意しなければならないし、丸編み機では横に並列に複数個のフットカバーを同時に編むことができず生産性もよくないという問題がある。
ダブルラッシェル編みなどの経編品は、上記のような問題もなく、繊維糸が少々切れても、簡単にラン(伝染)が走ってダメージとなることが少なく、また、厚手のものから、薄手のものまで目的に応じて製造できる、ダブルラッシェル編み機の大きさにもよるが、通常、市販のダブルラッシェル編み機では、例えば、横に並列に20足分程度のフットカバーを同時に編むこともできるので、生産性もよく、経編品でフットカバーを形成できると好ましい。
しかし、ダブルラッシェル編みなどの経編品のフットカバーは、次のように製造されている。
図18にダブルラッシェル編みによる従来のフットカバーの製造工程を示した。即ち、ダブルラッシェル編みは筒状の編地を形成できるので、図18(a)に示したように、筒状の編地100を形成する。原理的には、フロント側の基布100aとバック側の基布100bを編みながら、これらの基布の両脇側101を同時にフロント側とバック側を連結する連結編みで連結してしまうことにより、一体の筒状の編地100が形成される。尚、編物が編機から排出される方向、これを編み方向と言う(糸の供給される方向である)は、矢印Sで示したように、ダブルラッシェル編みの場合には、筒状の編地の長手方向となる。
次に図18(b)に示したように、筒状の編地100を必要な長さに切断し、且つ四隅を少しカットして形状を整え、フロント側かバック側のいずれか一方の基布(この場合フロント側の基布とした)に履き口用開口部103のための切り目(スリット)をカッターにて形成する。
次に図18(c)に示したように、筒状物の、長手方向の2つの開口をミシンで縫合し(トウ部端部の縫合部104、ヒール部端部の縫合部105)、必要に応じて、開口部103の縁に沿って、ゴムテープなどのストレッチテープ106を縫着し、図18(d)に示したように、これを裏返してダブルラッシェル編みによるフットカバー107として使用している。完成品を着用した状態の側面から見た図を図19に示した。
しかし、かかるダブルラッシェル編みによるフットカバーは、丸編品の上記欠点は改良されるが、トウ先端とヒール後端に縫い目(縫合部104、105)があるため、フットカバーを着用して靴を履いた場合に肌が縫い目に当たったり擦れたりして着用感が低下すると言う問題がある。また、近年は、衣料品の価格競争が極めて激しくなり、製造コストを低減することが必要になるが、トウ先端とヒール後端を縫い合わせ、場合によって開口部のストレッチテープ105を縫製で取り付けるのは、人手によりいちいち縫製位置をずらすことなく縫製する必要があり、この縫製が大きなコストアップの原因になっている。
そこで、本発明は、フットカバーを形成している編み糸が部分的に切断されても、丸編み品の様に簡単にランが走らないし、一度に多くのものを編むことができると言う経て編の利点を有しながら、製造するのに余り人手がかからずに製造コストの低減がはかれ、かつ縫い目などによる着用感の低下がないダブルラッセル編みでシームレスに一体に形成されたフットカバーを提供することを目的とする。
前記目的を達成するため、本発明のフットカバーは、
(1)くるぶしより下の足部をカバーするフットカバーであって、前記フットカバーは、トウ部と、ヒール部と、足の側部を含むソール部と、上部に履き口用開口部がダブルラッシェル編みでシームレスに一体に形成されており、
ダブルラッシェル編みのフロント側基布とバック側基布の両脇側がフロント側とバック側を連結する連結編みで連結されて、フットカバー側部を連結し、前記トウ部端部とヒール部端部は、フロント側基布とバック側基布をフロント側とバック側並びに左右側を連結する連結編みでフロント側基布とバック側基布が連結して編まれてトウ部端部とヒール部端部を形成し、履き口用開口部は、フロント側基布又はバック側基布のいずれか一方側にほぼ編み方向に沿って設けられていることを特徴とするダブルラッシェル編みでシームレスに一体に形成されたフットカバーである。
(2)前記(1)項に記載のフットカバーにおいては、ダブルラッシェル編みが、非弾性糸と弾性糸とが編みこまれているダブルラッシェル編みからなることが好ましい。
(3)また、前記(1)項に記載のフットカバーにおいては、ダブルラッシェル編みが、非弾性糸と弾性糸とが編みこまれていて、前記非弾性糸がフロント側基布及びバック側基布に鎖編み組織で編みこまれていることが好ましい。
(4)また、前記(1)項に記載のフットカバーにおいては、履き口用開口部が、前記開口部近傍に沿って弾性糸が編みこまれていることが好ましい。
(5)また、前記(2)〜(3)項のいずれかに記載のフットカバーにおいては、履き口用開口部において、前記開口部近傍に沿って編みこまれている弾性糸が、より太い弾性糸からなることが好ましい。
(6)また、前記(1)〜(5)項のいずれかに記載のフットカバーにおいては、前記トウ部端部及びヒール部端部の少なくともいずれかの外側に、更に編み組織が異なり、目視で区別可能な領域を設けてなるフットカバーが好ましい。
(7)また、前記(6)項に記載のフットカバーにおいては、目視で区別可能な領域が、鎖編みで形成された領域であることが好ましい。
(8)また、前記(1)〜(7)項のいずれかに記載のフットカバーにおいては、履き口用開口部が、開口部長手方向に対しそれを横切る方向にその一部が、閉じられて編まれている開口部であることが好ましい。
(9)また、前記(1)〜(8)項のいずれかに記載のフットカバーにおいては、トウ部の形状が、足指に分かれて形成されている形状であることが好ましい。
(10)また、前記(1)〜(8)項のいずれかに記載のフットカバーにおいては、トウ部の形状が、親指部分とそれ以外の足指をまとめて収納する部分の2つの部分に分かれて形成されている形状であることが好ましい。
(11)また、前記(1)〜(10)項のいずれかに記載のフットカバーにおいては、ダブルラッシェル編みが、ジャカード制御機構を有するダブルラッシェル編み機を用いて編まれたダブルラッシェル編みであることが好ましい。
(1)本発明のフットカバーは、フットカバーを形成している編み糸が部分的に切断されても、簡単にランが走ることがなく、その製造に余り人手がかからずに製造コストの低減が計かれ、かつ縫い目などによる着用感の低下がなく、製造したいフットカバーのサイズが一つの編み機で自由に変更でき、一度に横に並列に複数個のフットカバーを同時に編むこともできて生産性のよいダブルラッセル編みでシームレスに一体に形成されたフットカバーを提供できる。
(2)前記(1)項に記載のフットカバーにおいて、ダブルラッシェル編みが、非弾性糸と弾性糸とが編みこまれているダブルラッシェル編みとする本発明の好ましい態様とすることにより、より伸縮性の優れたフットカバーを提供できる。
(3)また、前記(1)項に記載のフットカバーにおいて、ダブルラッシェル編みが、非弾性糸と弾性糸とが編みこまれていて、前記非弾性糸がフロント側基布及びバック側基布に鎖編み組織で編みこまれている本発明の好ましい態様とすることにより、フットカバーを構成している糸がフットカバー着用中に切れたとしても、ラン(伝染)が走ることをより一層確実に防止でき好ましい。
(4)また、前記(1)項に記載のフットカバーにおいて、履き口用開口部が、前記開口近傍に沿って弾性糸が編みこまれている本発明の好ましい態様とすることにより、開口部の伸縮パワーを付与して足にフィットさせる機能を、一体編みこみで、同時に付与することができ好ましい。
(5)また、前記(2)〜(3)項のいずれかに記載のフットカバーにおいて、履き口用開口部において、前記開口部近傍に沿って編みこまれている弾性糸が、より太い弾性糸からなる本発明の好ましい態様とすることにより、開口部の伸縮パワーを強化してタイトに足にフィットさせ、着用中のズレを防止する機能を、一体編みこみで、同時に付与することができ好ましい。
(6)また、前記(1)〜(5)項のいずれかに記載のフットカバーにおいて、前記トウ部端部及びヒール部端部の少なくともいずれかの外側に、更に編み組織が異なり、目視で区別可能な領域を設けてなる本発明の好ましい態様とすることにより、フットカバー複数個が連続して編まれている連続体から、フットカバー一個一個をカットして取り出す場合にカットすべき位置が目視できるようになり、作業効率が向上し好ましい。
(7)また、前記(6)項に記載のフットカバーにおいて、目視で区別可能な領域が、鎖編みで形成された領域である本発明の好ましい態様とすることにより、鎖編みは縦方向は連結されても、横方向は相互に連結されないので、スリットが縦方向に形成され、したがって、フットカバー複数個が連続して編まれている連続体から、フットカバー一個一個をカットして取り出す場合にカットすべき位置が一層目視しやすくなり、作業効率が向上し好ましい。
(8)また、前記(1)〜(7)項のいずれかに記載のフットカバーにおいて、履き口用開口部が、開口部長手方向に対しそれを横切る方向にその一部が、閉じられて編まれている開口部である本発明の好ましい態様とすることにより、フットカバーに染色などを行う場合に、染色工程などで、開口部近傍がカールしてしまうことを防止することができ好ましい。
(9)また、前記(1)〜(8)項のいずれかに記載のフットカバーにおいて、トウ部の形状が、足指に分かれて形成されている形状である本発明の好ましい態様とすることにより、着用した場合に足指の肌同士が直接接することがなく、足指間の蒸れが緩和され易くなり、水虫の発生しやすい環境をより低減するとともに、下駄や草履、これらと同様に親指と第二指との間に鼻緒を挟んで着用するタイプのサンダルなども履くことができ、好ましい。
(10)また、前記(1)〜(8)項のいずれかに記載のフットカバーにおいて、トウ部の形状が、親指部分とそれ以外の足指をまとめて収納する部分の2つの部分に分かれて形成されている形状である本発明の好ましい態様とすることにより、下駄や草履、これらと同様に親指と第二指との間に鼻緒を挟んで着用するタイプの鼻緒サンダルなども履くことができ、好ましい。
(11)また、前記(1)〜(10)項のいずれかに記載のフットカバーにおいて、ダブルラッシェル編みが、ジャカード制御機構を有するダブルラッシェル編み機を用いて編まれたダブルラッシェル編みである本発明の好ましい態様とすることにより、ジャカード制御機構を有することにより、必要な組織の切り替えが容易で、また、編み組織変化による模様の形成も容易にでき、本発明のシームレスで一体に編まれたフットカバーを容易に得る事ができ好ましい。
以下、本発明の理解を容易にするため具体的実施形態例を用いて、その図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、以下に取り上げる具体的実施形態例は、本発明の理解を容易にするために例示したものであり、本発明は、これらの具体的実施形態例のみに限定されるものではない。
図1〜図5に、本発明のフットカバーの一実施形態例を示した。図1は、本発明のフットカバーの一実施形態例の平面図(足の甲側から見た平面図)、図2は足底側から見た底面図、図3は図1のA−A´断面の端面図、図4は図1のB−B´断面の端面図、図5は本発明のフットカバーを着用した状態を示す側面図である。
1はトウ部、2はヒール部、3は足の側部、4はソール部(足底部)、5がダブルラッシェル編みの編地のフロント側基布9上に設けられた履き口用開口部(開口部5を設けるのはフロント側基布9上の代わりにバック側基布10上でもよい)、11はフロント側基布とバック側基布の脇側であり、この左右両方の脇側部分はそれぞれフロント側基布9とバック側基布10を連結する連結編みで連結されていて、図3の符号11で示した部分からも明らかな様に、筒状になるように連結されている。6と7はそれぞれトウ部端部、ヒール部端部であり、フロント側基布9とバック側基布10をフロント側とバック側並びに左右側を連結する連結編みでフロント側基布9とバック側基布10が連結して編まれて(図4の符号6、7で示した部分参照)トウ部端部6とヒール部端部7を形成している。かくして得られた本発明のフットカバーは、履き口用開口部5を左右に広げて着用する(図5参照)。図5において8は着用者の足部を含む下肢の一部を示している。
上記本発明のフットカバーの製造工程を図6、図7並びに採用する編み組織の説明図図12〜17を引用しながら説明する。
図6はジャカード制御機構を有するダブルラッセル編機で連続的にシームレスに一体に編まれて前記編機から排出されてきた状態の、フットカバーが形成されている連続体のフロント側から見た図、図7はその反対面側のバック側から見た図である。矢印Sの方向が編み方向である(編み方向は、編機から排出される方向であり、以下、矢印Sと平行な方向を縦方向と略称することがある。尚、この縦方向に対し横の方向を、横方向、又は、左右方向と略称することがある)。フロント側基布9とバック側基布10はダブルラッセル編の一つの態様として、これらの基布の左右両方の脇側11をフロント側とバック側を連結する連結編みで連結して編むことにより、図3で説明したように筒状とすることができる。図6、図7で示した例は、縦方向に直列で複数個のフットカバーが形成されている連続体を示しているが、別の態様である図10や図11で説明する態様の如く、縦方向一列のみならず、その左及び/又は右側に同様の又は別のフットカバーが並列して形成されている連続体を同時に形成して、2列以上の連続体としてもよく、通常、ダブルラッセル編機の幅は目的とするフットカバーの幅よりはるかに大きいので、2列以上の連続体で編む方が生産性が向上し好ましい。図6、図7では、理解を容易にするため縦方向に1列の直列体の連続体を示したが、現実の生産は、2列以上並列した連続体(編み機の大きさにもよるが、通常、20列位まで並列形成可能)に編まれる。
フロント側基布9とバック側基布10の主要部分は、縦方向と左右側(横方向)を結合できる、いわゆる編地が形成できる編み組織の経編であれば特に限定されず、例えば、最も単純には図12に示したような、デンビ組織で編まれる。デンビ組織に限定されず、上述したように編地が形成できる他の経編組織でもよく、例えば、ハーフ組織、メッシュ組織、アトラス組織など、支障のない限り他の組織としてもよく、必要なら、編み模様を付してもよい。一例を挙げると、例えば、夏季用のフットカバーとしては、メッシュの目の開きの大きめのメッシュ組織を採用するなどにより、通気性を向上させて蒸れを少なくするなど、季節や用途に応じて適宜の編み組織を採用することは任意である。
かくして、フロント側基布9とバック側基布10を編みながら、同時にこれらの基布の両方の脇側11をフロント側とバック側を連結する連結編みで連結して編むことにより、図3で説明したように筒状とする。
フロント側とバック側の両脇部を連結する連結編みの編み組織の一例を図14の(e)と(f)に示した。図14の(e)が左右の両脇側11のうち図6の左側の方の脇側11のフロント側とバック側の脇部を連結する連結編みの編み組織であり、図14の(f)が図6の右側の方の脇側11のフロント側とバック側の脇部を連結する連結編みの編み組織である。
図14においてFはフロント側の編目位置を示し、Bはバック側の編目位置を示している。図14の(e)、(f)に示したフロント側とバック側を連結する連結編みの編み組織は、表裏同じウェールに通っており(言い換えれば、図14の(a)、(b)のように左右方向に振れていない編み方)、したがって、フロント側とバック側を連結するだけなので、そのつなぎ目が目視では全くわからないようにフロント側基布9とバック側基布10をこれらの基布の両脇側11で連結し図3で説明したように筒状とすることができる。図15は、フロント側とバック側を連結している編み組織を、ちょうど基布の脇側11側から見たと仮定した場合の概念図である。
そして、フロント側基布9とバック側基布10を編み、次いで例えば、トウ部端部6やヒール部端部7の部分を編む場合には、フロント側基布9とバック側基布10をフロント側とバック側並びに左右側を連結する連結編みで連結し、トウ部端部6やヒール部端部7を形成する。フロント側とバック側並びに左右側を連結する連結編みの編み組織の一例を、図14の(g)及び(h)に示した。この組織図からわかるように、図14の(g)に示した糸は、下から順に説明すると、右側のフロント側、左側のバック側、次いで同フロント側、次に右側のフロント側、更に左側のバック側と言うように、フロント側とバック側並びに左右側を同時に連結する連結編みの編み組織となっている。図14の(h)についても図に示した通り、フロント側とバック側並びに左右側を同時に連結する連結編みの編み組織となっている。
トウ部端部6やヒール部端部7の連結編みの編み組織とする部分の縦方向(矢印S方向)の幅は、特に限定するものではないが、通常、3〜5mm程度である。複数個のフットカバー同士の間を連結している部分14の編み組織は、縦方向に複数個のフットカバー同士の間を連結できる編み組織であれば何ら限定されないが、例えば、フロント側基布9やバック側基布10の主要部を編む編み組織と同じ、例えばデンビ組織でもよい。
また、フロント側基布9又はバック側基布10のいずれかに、履き口用開口部5を形成するが、履き口用開口部5の形成は、フロント側基布9又はバック側基布10のいずれか一方側であればいずれの側に形成してもよく、本実施の形態では、フロント側基布9側に形成した例を示す。履き口用開口部5は、フロント側基布9の編み方向(矢印Sと平行方向)にほぼ沿って設けられ、具体的には、例えば図16の履き口用開口部近傍の編み組織の一例を示す組織図で示したように、通常の基布の部分は、縦方向と左右側(横方向)を結合できる、いわゆる編地が形成できる編み組織の経編、例えば、図12で説明したようにデンビ組織で編む(図16の符号9の部分参照)。そして、履き口用開口部5を形成したい部分は、履き口用開口部5の左右の縁を形成する少なくとも一方側の縁、図16では左側の縁を形成する糸を、開口部5をまたがって反対側の糸と結合しないような編み組織、図16では右側の糸と結合しないような編み組織で編めばよい。この場合は、符号25で示したように、履き口用開口部5の左側の縁を形成する糸を鎖編み25とした。そして、開口部5の末端を閉じて通常のフロント側基布9の編み組織とするには、この糸を、再度、デンビ組織にして編めばよい。このように、1本の糸を縦方向で部分的に編み組織を変えるのは、ジャカード機構を有するダブルラッシェル編機を用いれば、実現できる。例えば、ジャカード機構を有するダブルラッシェル編機の編み組織の指令を入力するコンピューターに、図16の符号26で示した位置のウェールを編む場合に、初めはデンビ組織(図14の(a)参照)とし、図16の符号27で示されるコースの位置で、鎖編み組織(図14の(i)参照)とし、符号28で示されるコースの位置で、再度、デンビ組織にするという指令を入力して編めばよい。尚、開口部長手方向に沿った開口部の縁(両側とも)やその近傍を編む場合に、編み糸として、弾性糸の太目の糸を使用すれば、従来例の図18(c)や(d)で説明した開口部のストレッチテープ105と同様に、開口部の伸縮パワーを強化してタイトに足にフィットさせ、着用中のズレを防止する機能を、一体編みこみで、同時に付与することができ好ましい。
尚、履き口用開口部5は、当初から必要な大きさ(長さ)に開口しておかない方がよい場合もある。例えば、フットカバーを得た後、染色などを行う場合には、染色工程で、開口部5近傍がカールしてしまうものがある。このような場合に、カールを防止するため、開口部長手方向(縦方向)に対しそれを横切る方向(左右側方向)にその一部が閉じられて編まれている態様とし、染色後に閉じ部の糸を切断することによってフットカバー最終製品とすることも好ましい。また、前記の部分的閉じ部を閉じたままで販売し、消費者が使用するときに、当該部分的閉じ部の糸を切断して着用してもらう(そのような説明書きを添付しておくなど)ということでもよい。
このように開口部長手方向に対しそれを横切る方向にその一部が、閉じられて編まれている開口部とする編み組織としては、部分的に開口部5をまたがって反対側の組織にも結合する組織とすればよい。
具体例として、例えば、図17にその一態様例の編み組織図を示した。図17は履き口用開口部近傍の編み組織の別の一例を示す組織図である。図16と同じ部分は同じ符号を付して、重複説明を省略している。即ち、部分的に、開口部を閉じるには、図17の符号29で示したように、ウェール26で開口部分は鎖編み25で編み、部分的に開口部を閉じるには、開口部をまたがって、この場合、左から右側にまたがるように、1針分振って、その部分をデンビと同様の組織29とすることにより、部分的に開口部5を閉じることができる。図17において5a〜5dは、部分的な開口部を示している。このように部分的に開口部の閉じ部を設ける場合は、特に限定するものではないが、およそ5mm〜2cmの間隔で閉じ部を設けると、染色工程などで開口部5の縁の近傍がカールするのを有効に防止でき好ましい。
次に、図6、図7に戻って説明する。かくして編まれた、縦方向に複数個のフットカバーが形成されている連続体をトウ部端部6並びにヒール部端部7の外側(外側とは縦方向の外側を意味する。左右方向の外側ではない)で、これらの外側ラインに沿ってカットすることにより、個々のフットカバーを得る。
本発明のフットカバーは以上に説明した態様でも十分である。しかし、実際には、トウ部端部6並びにヒール部端部7の位置が目視ではわかりにくい。図6、図7の図面上では、トウ部端部6やヒール部端部7を説明するために、ラインが記載されて、境界ラインがわかるように描かれているが、実際の編地上では、通常その位置が判別しにくい。そこで、好ましくは、トウ部端部6やヒール部端部7の外側の領域の少なくとも一部、特に限定するものではないが、例えば好ましくは縦方向の長さにして、5〜10mmm程度の領域をトウ部端部6やヒール部端部7と区別して目視できるような編み組織に変えて編むとよい。この場合には、例えば、カットライン表示部13が目視できるように、この部分を鎖編みにする。そうすると、鎖編みは縦方向は連結されても、横方向は相互に連結されないので、スリット13aが形成され、したがって、トウ部端部6やヒール部端部7の外側の境界が目視でも見当がつくようになる。尚、カットするには、必ずしもトウ部端部6やヒール部端部7の外側の縁に密接してカットする必要はなく、カットライン表示部13の適宜の位置でカットしてもよい。
このように、カットライン表示部13が目視できるように編み組織を変更して編むことにより、どこでカットしたらよいか容易に判別できるので生産性を向上させることができより好ましい。カットライン表示部13は、フロント側基布9又はバック側基布10のいずれか一方のみに形成してもよく、好ましくは、両方の基布に形成しておくとよい。
尚、場合によっては、トウ部端部6やヒール部端部7の外側全部(縦方向の複数個のフットカバー同士の間を連結している部分14の部分も含めて全部)を、目視できるような編み組織としてもよい。このようなトウ部端部6やヒール部端部7からカットライン表示部13への編み組織の変更は、前述したようにジャカード機構を有するダブルラッシェル編機を用いれば、実現できる。
尚、図14について、説明を補足する。図14において、Fはフロント側の編目位置を示し、Bはバック側の編目位置を示すものであるが、図14は本発明で用いる所定部位の編み組織を説明するためのダブルラッシェル編みのフロント側、バック側を同時に表示した編み組織図(但し、それぞれコース方向1本のみで代表させて示した編み組織図)である。
図14(a)は、フロント側基布9の主要部分を編むデンビ組織の場合の編み組織図であり、編目のループ部分は、フロント側Fのみであるから、フロント側のみを構成する編み組織であることがわかる。同様に、図14(b)は、バック側基布10の主要部分を編むデンビ組織の場合の編み組織図であり、編目のループ部分は、バック側Bのみであるから、バック側のみを構成する編み組織であることがわかる。図14(e)、(f)は既に説明したとおり、表裏同じウェールを通ってフロント側とバック側を連結する連結編みの編み組織であり、フロント側基布9とバック側基布10をこれらの基布の両脇側11で連結するのに好適な編み組織の一例である。図14(g)も既に説明したとおり、フロント側基布9とバック側基布10をフロント側とバック側並びに左右側を連結する編み組織であり、下から順に説明すると、右側のフロント側、左側のバック側、次いで同フロント側、次に右側のフロント側、更に左側のバック側と言うように、フロント側とバック側並びに左右側を同時に連結する連結編みの編み組織の一例であり、トウ部端部6やヒール部端部7の形成に好適な編み組織の一例である。尚、図14(h)も同様に、フロント側基布9とバック側基布10をフロント側とバック側並びに左右側を連結する編み組織である。また、図14(i)は、図16で説明した履き口用開口部5を形成したい部分の一方側の縁の編み組織の一例として挙げられた鎖編み組織である。履き口用開口部5が、フロント側に形成されているので、鎖編みの編目ループは、フロント側Fのみとなっている。
なお、説明が複雑になり、理解がしにくくなることを避けるため、上記では特に説明していなかったが、本実施の形態では、グランド糸として、フルセットですべてのフロント側の編目に更に図14(c)に示した鎖編み組織、すべてのバック側の編目に図14(d)に示した鎖編み組織の糸が同時に編みこまれている。
即ち、例えば、これらの編み組織の各糸を、筬への通糸状況で説明すると、例えば、日本マイヤー株式会社の販売するジャカード機構を有するダブルラッシェル編機“RDPJ6/2”を例に取ると、この編機はL1〜L6の6枚の筬を有している。L1〜L3がフロント側の筬、L4〜L6がバック側の筬である。L1とL6の2枚の筬は使用せずに、グランド筬L2(フロント側)とグランド筬L5(バック側)には、それぞれ図14(c)と図14(d)の組織とする糸がフルセットで通糸される。グランド筬とは、ジャカード機構の作用しない筬である。そしてジャカード筬L3(フロント側)には、図14(a)、14(f)が、ジャカード筬L4(バック側)には、図14(b)、14(e)が通糸されることになる。
ジャカード筬L3(フロント側)を例に挙げて説明すると、右脇部11を編むウェールに通糸される糸には、ジャカード機構により図14(f)の編み組織にされる。その他の編目は、図14(a)の如くデンビ組織で編まれるようジャカード制御機構を作用させずに編み、開口部5を形成する位置(図16の符号26で示されたウェールの符号27で示したコースから符号28で示したコースまでの間)をジャカード制御により鎖編み組織に変え、更にはトウ部端部6やヒール部端部7の領域は、ジャカード制御により図14(g)の編み組織に変える。さらにカットライン表示部13をトウ部端部6やヒール部端部7の領域から連続して編むには、トウ部端部6やヒール部端部7の領域に続いて、この糸をジャカード制御により鎖編み組織に変えて編むことになる。
同様に、ジャカード筬L4(バック側)を例に挙げて説明すると、左脇部11を編むウェールに通糸される糸には、ジャカード機構により図14(e)の編み組織にされる。その他の編目は、図14(b)の如くデンビ組織で編まれるようジャカード制御機構を作用させずに編み、トウ部端部6やヒール部端部7の領域は、ジャカード制御により図14(h)の編み組織に変える。さらにカットライン表示部13をトウ部端部6やヒール部端部7の領域から連続して編むには、トウ部端部6やヒール部端部7の領域に続いて、この糸をジャカード制御により鎖編み組織に変えて編むことになる。
本発明のフットカバーに使用される繊維としては、合成繊維(ナイロン6やナイロン66などのポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリウレタン繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(ポリエステル繊維の一種ではあるが、伸張回復率が通常の非弾性繊維に比べてきわめて大きい)、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、それらの組み合わせなど各種のものを用いることができる。
非弾性繊維糸単独で本発明のフットカバーを形成してもよいが、弾性繊維糸と非弾性繊維糸の両者を用いる組み合わせの方が、より伸縮性に優れているので好ましい。また、前述した、ポリトリメチレンテレフタレート繊維糸は、単独で用いても、伸張回復率が通常の非弾性繊維に比べてきわめて大きいので、弾性繊維と非弾性繊維の中間程度の弾性を付与する場合に好ましい繊維である。弾性繊維糸としてはポリウレタン繊維糸をナイロン繊維糸やポリエステル繊維糸でカバーした、いわゆるカバリングヤーンタイプの弾性繊維糸が好適に用いられる。非弾性繊維糸としては、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド繊維糸、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル繊維糸などの非弾性合成繊維糸(加工糸を含む)、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維糸、レーヨン、キュプラなどの再生繊維糸、アセテートなどの半合成繊維糸などが挙げられる。
弾性繊維と非弾性繊維の両者を用いる組み合わせの例としては、図14の(c)と(d)の組織を非弾性繊維とする組み合わせが好ましい。
尚、編目についてデンビ組織を例に挙げて説明すると、図13(a)がすべての編目が閉じ目20の場合、図13(b)がすべての編目が開き目21の場合、図13(c)が閉じ目20と開き目21が交互に表れる場合である。
本発明では、図14(a)や図14(b)などのフロント側基布9とバック側基布10の主要部分を構成する糸は、すべての編目が閉じ目の場合、すべての編目が開き目の場合、閉じ目と開き目が交互に表れる場合などいずれでもよい。特に、すべての編目が閉じ目の場合が好ましい。
用いる繊維の太さとしては、特に限定するものではないが、非弾性糸としては10デニール(11dtex)〜210デニール(231dtex)の範囲のものが好ましく用いられ(ポリトリメチレンテレフタレート繊維糸の場合もほぼ同様、尚天然繊維糸はこの太さに換算した番手)、弾性糸としては通常10デニール(11dtex)〜100デニール(110dtex)が好ましい。尚、開口部の縁(両側とも)やその近傍に、弾性糸の太目の糸を使用して編み込んで、開口部の伸縮パワーを強化してタイトに足にフィットさせる機能を付与する場合には、この部分に用いられる弾性糸としては、100デニール(110dtex)〜420デニール(462dtex)のものが好ましい。
次に、本発明のフットカバーの別の一実施形態として、トウ部の形状が、足指に分かれて形成されている形状のフットカバーについて、図8〜11を引用して説明する。形状の点を除いて、前記実施形態と同様の部分は、同様の符号を付して、重複説明を省略した。したがって、特に断らない限り、前記実施形態例で説明した、繊維糸、非弾性繊維糸と弾性繊維糸の組み合わせ、各部位の編み組織、などの説明はすべて本実施形態例にも同様に適用できる。従って、同様に適用できる事項の重複説明は省略している。
図8は、本発明の足指部分の付いたフットカバー(右足用)(左足用は、右足用のものと左右線対称形状となる。以下同様)の一実施形態例の平面図(足の甲側から見た平面図)、図9は図8に示したフットカバーの足底側から見た底面図(右足用)である。また、図10、11はその製造工程を説明するための説明図であり、図10はジャカード制御機構を有するダブルラッセル編機で連続的にシームレスに一体に編まれて前記編機から排出されてきた状態の、フットカバーが形成されている連続体のフロント側から見た図、図11はその反対面側のバック側から見た図である。矢印Sの方向が編み方向である。
図10、図11においては、左右の足用のフットカバーが横方向に並列で1組形成され、且つ、縦方向に複数組の左右のフットカバーが形成さている連続体を示したが、その左及び/又は右側に同様の左右の足用のフットカバーの組が並列に複数組形成されている連続体を同時に形成して、2組以上の列の連続体としてもよい。
そして、図1〜7で示した例に比べて、トウ部近傍の形成の仕方が、足指部分が形成されるため若干異なる。即ち、各足指部分の左右側の両脇部15は、フットカバー本体の両脇側11と同様に、フロント側とバック側を連結する連結編みで連結して編む(例えば、足指の脇部15のうち図の左側脇を編む場合には図14の(e)で、右側脇を編む場合には図14の(f)で示した編み組織で編む)ことにより、筒状とすると同時に、この編み組織は左右方向には振れていない編み方なので、隣接する足指部分の脇部15と離れて形成される(接続されていない)。そして各足指部分の先端部(トウ部端部6)の部分を編む場合には、フロント側基布9とバック側基布10をフロント側とバック側並びに左右側を連結する連結編み(例えば、図14の(g)や(h)に示した編み組織)で連結し、トウ部端部6を形成する。ヒール部端部7の部分もフロント側基布9とバック側基布10をフロント側とバック側並びに左右側を連結する連結編み(例えば、図14の(g)や(h)に示した編み組織)で編む点は先の実施の形態例と同様である。
尚、説明するまでもないが、例えば、図10や11において、左右の足用のフットカバーが横方向に並列で1組形成されるが、その左右の本体部分の境界になる図の中央部の脇部11は、先に説明したように、フロント側とバック側を連結する連結編みで連結して編む(例えば、図14の(e)や(f)で示した編み組織で編む)ので、この編み組織は左右方向には振れていない編み方なので、隣接する左右の足用の図の中央部の脇部11は、左右互いに離れて形成される(接続されていない)。このようにすると、左右の並列が完全に両者の縦方向中央ライン11で離れて2本ばらばらに編機から排出されるように思われるが、左右の組が離れないように、例えば、縦方向に複数個のフットカバー同士の間を連結している部分14の部分の編み組織を、左右方向にも連結が生じる編み組織、例えば、特に限定するものではないが図12に示したようなデンビ組織などとすれば、この部分で連結が保持され、連続体として編機から排出されることになるのである。そして、トウ部端部6やヒール部端部7の外側の縁に沿ってカットするか、カットライン表示部13がある場合にはその適宜の位置でカットして、個々のフットカバーを得る。この際、足指部分の脇部15の編み組織を延長して形成し、トウ部端部6の縦方向長さよりも若干長くして形成した部分15aを設けておくと、カットした場合に各足指部分の間がつながってカットされる恐れがなく好ましい。
図14に示された様な各編み組織の糸を通糸する筬については、前記の実施形態例で説明したものと同様である。但し、足指の左右の脇15やその延長部15aを形成する場合は、L3(フロント側)に通糸されている図14(a)、また、L4(バック側)に通糸されている図14(b)の組織で編まれている糸が、足指の左右の脇15やその延長部15aを形成する部分では、それぞれ図14(f)、図14(e)の組織にジャカード制御により変更されて編まれることになる点が、前記の実施形態例と異なるところである。
なお、この実施の形態では、トウ側の形状が、5本の各足指に分かれて形成されている形状のものを示したが、トウ側の形状が、親指部分とそれ以外の足指をまとめて収納する部分の2つの部分に分かれて形成されている形状(いわゆる日本の足袋のような形状)にするなど、適宜、任意の形状にすることもできる。